(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136510
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】シラン化合物重合体、熱硬化性組成物、半導体素子固定用組成物、及び硬化物
(51)【国際特許分類】
C08G 77/14 20060101AFI20240927BHJP
C08L 83/06 20060101ALI20240927BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08G77/14
C08L83/06
C08K5/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047646
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(74)【代理人】
【識別番号】100201949
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 久美
(74)【代理人】
【識別番号】100227097
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 幸治
(72)【発明者】
【氏名】森 瑶子
(72)【発明者】
【氏名】森岡 孝至
【テーマコード(参考)】
4J002
4J246
【Fターム(参考)】
4J002CP031
4J002CP051
4J002EX006
4J002EX056
4J002EX076
4J002GJ01
4J002GQ05
4J002HA01
4J002HA02
4J002HA08
4J246AA03
4J246BA12X
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4J246FE02
4J246FE22
4J246GA01
4J246GA04
4J246GB02
4J246HA29
4J246HA32
(57)【要約】 (修正有)
【課題】熱硬化性を有し、かつ、室温で液体のシラン化合物重合体であって、高温時の接着強度に優れる硬化物になる熱硬化性組成物の硬化性成分として好適に用いられるシラン化合物重合体、このシラン化合物重合体を含有する熱硬化性組成物、この熱硬化性組成物からなる半導体素子固定用組成物、及び前記熱硬化性組成物の硬化物を提供する。
【解決手段】トリアルコキシシランの加水分解縮合物であって、以下の要件1~3を充足するシラン化合物重合体、このシラン化合物重合体を含有する熱硬化性組成物、この熱硬化性組成物からなる半導体素子固定用組成物、及び前記熱硬化性組成物の硬化物。
〔要件1〕T3サイトの量が、T1~T3サイトの合計量に対して47mol%未満である。
〔要件2〕シラン化合物重合体が、25℃において液体である。
〔要件3〕シラン化合物重合体が、熱硬化性を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(a-1)
【化1】
〔R
1は、無置換の炭素数1~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基を表す。〕
で表される繰り返し単位を有するシラン化合物重合体であって、以下の要件1~3を充足するシラン化合物重合体。
〔要件1〕
下記式(a-2)で表されるTサイト(T3サイト)の量が、T3サイト、下記式(a-3)で表されるTサイト(T2サイト)、及び下記式(a-4)で表されるTサイト(T1サイト)の合計量に対して47mol%未満である。
【化2】
〔Xは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。*は別の繰り返し単位との結合手であり、別の繰り返し単位のケイ素原子と直接結合している。〕
〔要件2〕
シラン化合物重合体が、25℃において液体である。
〔要件3〕
シラン化合物重合体が、熱硬化性を有する。
【請求項2】
下記式(a-5)
【化3】
〔Meは、メチル基を表す。〕
で表される繰り返し単位の量が、前記式(a-1)で表される繰り返し単位全量に対して70~100モル%である、請求項1に記載のシラン化合物重合体。
【請求項3】
前記シラン化合物重合体中の、前記式(a-1)で表される繰り返し単位の量が、シラン化合物重合体の全繰り返し単位中80~100モル%である、請求項1に記載のシラン化合物重合体。
【請求項4】
25℃における粘度が15,000Pa・s以下である、請求項1に記載のシラン化合物重合体。
【請求項5】
質量平均分子量(Mw)が500~20,000である、請求項1に記載のシラン化合物重合体。
【請求項6】
シラン化合物重合体が、アルコキシシラン化合物を加水分解重縮合させることで得られるものである、請求項1に記載のシラン化合物重合体。
【請求項7】
シラン化合物重合体のアルコキシ基残存率が25%以下である、請求項6に記載のシラン化合物重合体。
【請求項8】
下記の(A)成分、及び(B)成分を含有する熱硬化性組成物。
(A)成分:請求項1に記載のシラン化合物重合体
(B)成分:シランカップリング剤
【請求項9】
前記(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して0.1~90質量部である、請求項8に記載の熱硬化性組成物。
【請求項10】
溶媒を含有する、又は含有しない熱硬化性組成物であって、溶媒の含有量が熱硬化性組成物全量に対して、40質量%以下である、請求項8に記載の熱硬化性組成物。
【請求項11】
請求項8に記載の熱硬化性組成物からなる半導体素子固定用組成物。
【請求項12】
請求項8に記載の熱硬化性組成物が硬化してなる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン化合物重合体、熱硬化性組成物、半導体素子固定用組成物、及び硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硬化性組成物は用途に応じて様々な改良がなされ、光学部品や成形体の原料、接着剤、コーティング剤等として産業上広く利用されてきている。
また、近年、耐熱性、透明性等に優れた硬化物が形成されることから、ポリシルセスキオキサン化合物を含有する硬化性組成物が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1~3には、ポリシルセスキオキサン化合物を含有する硬化性組成物や、硬化性組成物を封止材料として利用することが記載されている。
【0004】
ところで、硬化性組成物の硬化性成分が、室温で固体のポリシルセスキオキサン化合物である場合、硬化性組成物の塗布性を向上させるために、通常、硬化性組成物に溶媒が添加される。
しかしながら、近年、環境負荷の低減等の観点から、硬化性組成物中の溶媒の低減化や無溶媒化が望まれている。このため、室温で液体のポリシルセスキオキサン化合物を合成すべく、これまでに種々の検討が行われてきた。
【0005】
例えば、特許文献4には、室温で液体のポリシルセスキオキサン等を含有する縮合反応型シリコーン組成物が記載されている。
特許文献4の製造例1、2においては、メチルトリメトキシシランを単量体として用いて、室温で液体のポリシルセスキオキサンを製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-359933号公報
【特許文献2】特開2005-263869号公報
【特許文献3】特開2006-328231号公報
【特許文献4】WO2017/122762号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、特許文献4には室温で液体のシラン化合物重合体が記載されている。
また、本発明者らの検討の結果、シラン化合物重合体を合成する際に反応系内に添加する水の量を調節することで、熱硬化性を有し、かつ、室温で液体のシラン化合物重合体が得られることが分かった。
【0008】
本発明のシラン化合物重合体は、このシラン化合物重合体を改良したものである。
すなわち、本発明は、熱硬化性を有し、かつ、室温で液体のシラン化合物重合体であって、高温時の接着強度に優れる硬化物になる熱硬化性組成物の硬化性成分として好適に用いられるシラン化合物重合体、このシラン化合物重合体を含有する熱硬化性組成物、この熱硬化性組成物からなる半導体素子固定用組成物、及び前記熱硬化性組成物の硬化物を提供することを目的とする。
なお、本発明において、「室温で液体」とは、25℃において流動性を有するものをいう。
また、「熱硬化性」とは、硬化触媒が存在しなくても、加熱のみで硬化する性質をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、熱硬化性を有し、かつ、室温で液体のシラン化合物重合体について鋭意検討を重ねた。
その結果、T3サイト(3つの酸素原子のいずれも隣のケイ素原子と結合している構造のTサイト)の含有割合が多すぎないシラン化合物重合体を硬化性成分として用いることで、高温時の接着強度に優れる硬化物になる熱硬化性組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明によれば、下記〔1〕~〔7〕のシラン化合物重合体、〔8〕~〔10〕の熱硬化性組成物、〔11〕の半導体素子固定用組成物、及び〔12〕の硬化物が提供される。
【0011】
〔1〕下記式(a-1)
【0012】
【0013】
〔R1は、無置換の炭素数1~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基を表す。〕
で表される繰り返し単位を有するシラン化合物重合体であって、以下の要件1~3を充足するシラン化合物重合体。
〔要件1〕
下記式(a-2)で表されるTサイト(T3サイト)の量が、T3サイト、下記式(a-3)で表されるTサイト(T2サイト)、及び下記式(a-4)で表されるTサイト(T1サイト)の合計量に対して47mol%未満である。
【0014】
【0015】
〔Xは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。*は別の繰り返し単位との結合手であり、別の繰り返し単位のケイ素原子と直接結合している。〕
〔要件2〕
シラン化合物重合体が、25℃において液体である。
〔要件3〕
シラン化合物重合体が、熱硬化性を有する。
〔2〕下記式(a-5)
【0016】
【0017】
〔Meは、メチル基を表す。〕
で表される繰り返し単位の量が、前記式(a-1)で表される繰り返し単位全量に対して70~100モル%である、〔1〕に記載のシラン化合物重合体。
〔3〕前記シラン化合物重合体中の、前記式(a-1)で表される繰り返し単位の量が、シラン化合物重合体の全繰り返し単位中80~100モル%である、〔1〕又は〔2〕に記載のシラン化合物重合体。
〔4〕25℃における粘度が15,000Pa・s以下である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のシラン化合物重合体。
〔5〕質量平均分子量(Mw)が500~20,000である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のシラン化合物重合体。
〔6〕シラン化合物重合体が、アルコキシシラン化合物を加水分解重縮合させることで得られるものである、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のシラン化合物重合体。
〔7〕シラン化合物重合体のアルコキシ基残存率が25%以下である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のシラン化合物重合体。
〔8〕下記の(A)成分、及び(B)成分を含有する熱硬化性組成物。
(A)成分:〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のシラン化合物重合体
(B)成分:シランカップリング剤
〔9〕前記(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して0.1~90質量部である、〔8〕に記載の熱硬化性組成物。
〔10〕溶媒を含有する、又は含有しない熱硬化性組成物であって、溶媒の含有量が熱硬化性組成物全量に対して、40質量%以下である、〔8〕又は〔9〕に記載の熱硬化性組成物。
〔11〕前記〔8〕~〔10〕のいずれかに記載の熱硬化性組成物からなる半導体素子固定用組成物。
〔12〕前記〔8〕~〔10〕のいずれかに記載の熱硬化性組成物が硬化してなる硬化物。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱硬化性を有し、かつ、室温で液体のシラン化合物重合体であって、高温時の接着強度に優れる硬化物になる熱硬化性組成物の硬化性成分として好適に用いられるシラン化合物重合体、このシラン化合物重合体を含有する熱硬化性組成物、この熱硬化性組成物からなる半導体素子固定用組成物、及び前記熱硬化性組成物の硬化物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
【0020】
以下、本発明を、1)シラン化合物重合体、2)熱硬化性組成物及び半導体素子固定用組成物、並びに、3)硬化物、に項分けして詳細に説明する。
【0021】
1)シラン化合物重合体
本発明のシラン化合物重合体は、上記式(a-1)で表される繰り返し単位を有するシラン化合物重合体であって、上記要件1~3を充足するシラン化合物重合体である。
【0022】
〔シラン化合物重合体を構成する繰り返し単位〕
本発明のシラン化合物重合体は、下記式(a-1)で表される繰り返し単位を有するものである。
【0023】
【0024】
式(a-1)中、R1は、無置換の炭素数1~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基を表す。
【0025】
R1で表される「無置換の炭素数1~10のアルキル基」の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。
「無置換の炭素数1~10のアルキル基」としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0026】
R1で表される「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。なお、この炭素数は、置換基を除いた部分(アルキル基の部分)の炭素数を意味するものである。したがって、R1が「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」である場合、R1の炭素数は10を超える場合もあり得る。
「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」のアルキル基としては、「無置換の炭素数1~10のアルキル基」として示したものと同様のものが挙げられる。
【0027】
「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」の置換基の原子数(ただし水素原子の数を除く)は、通常1~30、好ましくは1~20である。
「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;フェニル基等のアリール基;等が挙げられる。
【0028】
R1で表される「無置換の炭素数6~12のアリール基」の炭素数は6が好ましい。
「無置換の炭素数6~12のアリール基」としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。
【0029】
R1で表される「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」の炭素数は6が好ましい。なお、この炭素数は、置換基を除いた部分(アリール基の部分)の炭素数を意味するものである。したがって、R1が「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」である場合、R1の炭素数は12を超える場合もあり得る。
「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」のアリール基としては、「無置換の炭素数6~12のアリール基」として示したものと同様のものが挙げられる。
【0030】
「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」の置換基の原子数(ただし水素原子の数を除く)は、通常1~30、好ましくは1~20である。
「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」の置換基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基等のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。
【0031】
これらの中でも、R1としては、無置換の炭素数1~10のアルキル基、又は無置換の炭素数6~12のアリール基が好ましい。
【0032】
本発明のシラン化合物重合体は、下記式(a-5)
【0033】
【0034】
〔Meは、メチル基を表す。〕
で表される繰り返し単位を有するものが好ましい。式(a-5)で表される繰り返し単位を有するシラン化合物重合体を含有する熱硬化性組成物は、良好な硬化性を有し、かつ、その硬化物はクラックの抑制と高い接着強度が両立する傾向がある。
【0035】
上記の理由により、式(a-5)で表される繰り返し単位の量は、前記式(a-1)で表される繰り返し単位全量に対して、好ましくは70~100モル%、より好ましくは80~100モル%、さらに好ましくは90~100モル%、特に好ましくは95~100モル%である。
【0036】
本発明のシラン化合物重合体中の、前記式(a-1)で表される繰り返し単位の量は、シラン化合物重合体の繰り返し単位全量に対して、好ましくは80~100モル%、より好ましくは85~100モル%、さらに好ましくは90~100モル%である。
前記式(a-1)で表される繰り返し単位の量が、シラン化合物重合体の繰り返し単位全量に対して80モル%以上のシラン化合物重合体は、室温で液体であって、かつ、熱硬化性を有する傾向がある。
【0037】
本発明のシラン化合物重合体が前記式(a-1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を有するとき、前記式(a-1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位としては、トリメチルメトキシシラン等の1官能シラン化合物に由来する繰り返し単位、ジメチルジメトキシシラン等の2官能シラン化合物に由来する繰り返し単位、3官能シラン化合物に由来する繰り返し単位(ただし、前記式(1)で表される繰り返し単位を除く)、テトラメトキシシラン等の4官能シラン化合物に由来する繰り返し単位等が挙げられる。
【0038】
式(a-1)で表される繰り返し単位は、下記式(a-6)で示されるものである。
【0039】
【0040】
式(a-6)中、R1は前記と同じ意味を表す。O1/2は、酸素原子が隣の繰り返し単位と共有されていることを表す。
【0041】
式(a-6)で示されるように、本発明のシラン化合物重合体は、一般にTサイトと総称される、ケイ素原子に酸素原子が3つ結合し、それ以外の基(R1で表される基)が1つ結合してなる部分構造を有する。
本発明のシラン化合物重合体に含まれるTサイトとしては、下記式(a-2)で示されるT3サイト、下記式(a-3)で示されるT2サイト、下記式(a-4)で示されるT1サイトが挙げられる。
【0042】
【0043】
式(a-2)~(a-4)中、R1は前記と同じ意味を表す。Xは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。Xのアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。*は別の繰り返し単位との結合手であり、別の繰り返し単位のケイ素原子と直接結合している。
【0044】
本発明のシラン化合物重合体は、上記要件1を充足する。
すなわち、T3サイトの量が、T3サイト、T2サイト、及びT1サイトの合計量に対して47mol%未満である。
T3サイトは、重縮合反応に寄与する基(-OXで表される基)を含まない。したがって、T3サイトの量がTサイト全量中47mol%未満であり、T3サイトの含有割合が多すぎない本発明のシラン化合物重合体は、熱硬化性を十分有している。このようなシラン化合物重合体を硬化性成分として含む熱硬化性組成物の硬化物は、高温時の接着強度に優れる。
【0045】
上記の理由により、本発明のシラン化合物重合体に含まれるT3サイトの量は、Tサイト全量中47mol%未満であり、45mol%以下が好ましく、42mol%以下がより好ましく、39mol%以下がよりさらに好ましい。
本発明のシラン化合物重合体に含まれるT3サイトの量の下限値は特にないが、Tサイト全量中20mol%以上が好ましく、25mol%以上がより好ましく、30mol%以上がよりさらに好ましい。
【0046】
T1サイト、T2サイト、T3サイトの含有割合は、常法に従って、本発明のシラン化合物重合体の溶液状態での29Si-NMRを測定することにより求めることができる。
【0047】
なお、本発明のシラン化合物重合体は、アセトン等のケトン系溶媒;ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルスルホキシド等の含硫黄系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;クロロホルム等の含ハロゲン系溶媒;及びこれらの2種以上からなる混合溶媒;等の各種有機溶媒に可溶であるため、これらの溶媒を用いて、シラン化合物重合体の溶液状態でのNMRを測定することができる。
【0048】
〔シラン化合物重合体の物性〕
本発明のシラン化合物重合体は、上記要件2を充足する。
すなわち、本発明のシラン化合物重合体は、25℃において液体である。
本発明のシラン化合物重合体は25℃において液体であるため、本発明のシラン化合物重合体は、溶媒を含有しない又は溶媒の含有量が少ない熱硬化性組成物の硬化性成分として適している。
【0049】
本発明のシラン化合物重合体の25℃における粘度は、好ましくは15,000Pa・s以下、より好ましくは4,000Pa・s以下、さらに好ましくは1,000Pa・s以下、よりさらに好ましくは500Pa・s以下、よりさらに好ましくは300Pa・s以下である。
本発明のシラン化合物重合体の25℃における粘度が15,000Pa・s以下であることで、塗布性により優れる熱硬化性組成物が得られ易くなる。
【0050】
本発明のシラン化合物重合体の25℃における粘度の下限値は特にないが、通常0.3Pa・s以上である。
したがって、本発明のシラン化合物重合体の25℃における粘度は0.3~15,000Pa・sが好ましい。
【0051】
本明細書において、シラン化合物重合体の「25℃における粘度」とは、コーン半径(円錐底面の半径)12.5mm、コーン角度0.5度のコーンプレートを用いた、せん断速度2.2s-1に対する粘度をいう。ただし、この測定で50Pa・sを超える場合、「25℃における粘度」とは、半径12.5mmのパラレルプレートを用いた、角周波数2.0rad/sに対する粘度をいう。
【0052】
本発明のシラン化合物重合体は、上記要件3を充足する。
すなわち、本発明のシラン化合物重合体は、硬化触媒が存在しなくても、加熱のみで十分硬化する。したがって、本発明のシラン化合物重合体は、硬化触媒を含まない熱硬化性組成物の硬化性成分として適している。
【0053】
本発明のシラン化合物重合体の質量平均分子量(Mw)は、好ましくは500~20,000、より好ましくは600~8,000、さらに好ましくは700~5,000である。
本発明のシラン化合物重合体の分子量分布(Mw/Mn)は特に限定されないが、通常1.00~10.00、好ましくは1.10~6.00、より好ましくは1.15~4.00である。
質量平均分子量や分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲内にあるシラン化合物重合体は、熱硬化性組成物の硬化性成分として好適に用いられる。
質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、例えば、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として求めることができる。
【0054】
本発明のシラン化合物重合体が共重合体である場合、本発明のシラン化合物重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体等のいずれであってもよいが、製造容易性等の観点からは、ランダム共重合体が好ましい。
また、本発明のシラン化合物重合体の構造は、ラダー型構造、ダブルデッカー型構造、籠型構造、部分開裂籠型構造、環状型構造、ランダム型構造のいずれの構造であってもよい。
【0055】
後述するように、本発明のシラン化合物重合体は、アルコキシシラン化合物を加水分解重縮合させることで効率よく製造することができる。以下において、本発明のシラン化合物重合体の中で、アルコキシシラン化合物を加水分解重縮合させることで得られるものを、「シラン化合物重合体(A-i)」と記載することがある。
【0056】
シラン化合物重合体(A-i)のアルコキシ基残存率は、25%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がよりさらに好ましい。
シラン化合物重合体(A-i)のアルコキシ基残存率は、単量体として用いたアルコキシシラン化合物に含まれていたアルコキシ基が、シラン化合物重合体(A-i)にどの程度残存しているかを表すものである。
アルコキシ基残存率が25%以下のシラン化合物重合体(A-i)は、アルコキシシラン化合物の加水分解反応が十分に進行したものであり、Si-O-Si結合やSi-OH結合を多く含んでいる。このようなシラン化合物重合体(A-i)は比較的大きな分子であり、かつ、反応性を有するものであるため、熱硬化性組成物の硬化性成分として適している。
【0057】
また、シラン化合物重合体(A-i)が室温で液体になり易いことから、シラン化合物重合体(A-i)のアルコキシ基残存率は、2.5%以上が好ましく、3.5%以上がより好ましく、4.5%以上がよりさらに好ましい。
したがって、シラン化合物重合体(A-i)のアルコキシ基残存率は、2.5~25%が好ましい。
【0058】
アルコキシ基残存率は、シラン化合物重合体(A-i)の1H-NMRを測定することで算出することができる。例えば、メチルトリエトキシシランを用いてシラン化合物重合体(A-i)を合成した場合、シラン化合物重合体(A-i)の1H-NMRを測定し、メチル基とエトキシ基の割合をピークの面積比に基づいて求めることで、シラン化合物重合体(A-i)のアルコキシ基残存率を算出することができる。
【0059】
〔シラン化合物重合体の製造方法〕
本発明のシラン化合物重合体の製造方法は特に限定されない。
例えば、3官能アルコキシシラン化合物を水、及び酸触媒の存在下で加水分解重縮合させる工程(工程PO)と、工程POで得られたシラン化合物重合体を精製する工程(工程PU)を行うことで、本発明のシラン化合物重合体を製造することができる。
【0060】
工程POは、3官能アルコキシシラン化合物を水、及び酸触媒の存在下で加水分解重縮合させる工程である。
【0061】
単量体として用いられる3官能アルコキシシラン化合物としては、下記式(a-7)で表される化合物が挙げられる。
【0062】
【0063】
式(a-7)中、R1は前記と同じ意味を表す。ORは、アルコキシ基を表す。ORは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0064】
ORで表されるアルコキシ基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。
ORで表されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。
【0065】
本発明のシラン化合物重合体を製造する際は、メチルトリアルコキシシランを単量体として用いることが好ましい。
メチルトリアルコキシシランを単量体として用いて得られるシラン化合物重合体を含有する熱硬化性組成物は、良好な硬化性を有し、かつ、その硬化物はクラックの抑制と高い接着強度が両立する傾向がある。
【0066】
メチルトリアルコキシシランの量は、3官能アルコキシシラン化合物の全量に対して、通常70~100モル%、好ましくは80~100モル%、より好ましくは90~100モル%、さらに好ましくは95~100モル%である。
【0067】
式(a-7)で表される3官能アルコキシシラン化合物の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリプロポキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン化合物類;
3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリプロポキシシラン等の置換アルキルトリアルコキシシラン化合物類;
フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン等のアリールトリアルコキシシラン化合物類;
4-メトキシフェニルトリメトキシシラン、4-メトキシフェニルトリエトキシシラン、4-メトキシフェニルトリプロポキシシラン等の置換アリールトリアルコキシシラン化合物類;等が挙げられる。
これらの3官能アルコキシシラン化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
工程POにおいては、3官能アルコキシシラン化合物に加えて、トリメチルメトキシシラン等の1官能アルコキシシラン化合物、ジメチルジメトキシシラン等の2官能アルコキシシラン化合物、テトラメトキシシラン等の4官能アルコキシシラン化合物を単量体として使用してもよい。
【0069】
3官能アルコキシシラン化合物の量は、アルコキシシラン化合物全量中、好ましくは80~100モル%、より好ましくは85~100モル%、さらに好ましくは90~100モル%である。
3官能アルコキシシラン化合物の量が、アルコキシシラン化合物全量中80モル%以上であることで、室温で液体であって、かつ、熱硬化性を有するシラン化合物重合体が得られ易くなる。
【0070】
工程POにおいて反応系内に添加する水の量は、下記式(F1)で導かれる水とアルコキシ基のモル比Mが、0.46~0.86となる量が好ましく、0.48~0.80となる量がより好ましく、0.50~0.70となる量がさらに好ましい。
【0071】
【0072】
式(F1)中、MH2Oは、反応系内に添加する水の物質量(モル数)であり、MORは、アルコキシシラン化合物中のアルコキシ基の総数(総モル数)である。
例えば、メチルトリアルコキシシラン1モルに対して、水を1モル添加した場合、モル比Mの値は、1/3(約0.33)である。
【0073】
モル比Mが0.46~0.86であることで、アルコキシ基を適量含み、室温で液体であって、かつ、熱硬化性を有するシラン化合物重合体が得られ易くなる。
【0074】
工程(PO)において用いられる酸触媒としては、リン酸、塩酸、ホウ酸、硫酸、硝酸等の無機酸;クエン酸、酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸;等が挙げられる。これらの中でも、リン酸、塩酸、ホウ酸、硫酸、クエン酸、酢酸、及びメタンスルホン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0075】
酸触媒の使用量は、アルコキシシラン化合物の総量に対して、通常0.05~10モル%、好ましくは0.1~5モル%である。
酸触媒の使用量を少なくすることで、要件1を満たすシラン化合物重合体が得られ易くなる。
【0076】
工程POは、例えば、反応容器に、アルコキシシラン化合物、水、及び、酸触媒を入れ、得られた混合物を撹拌することにより行うことができる。また、反応容器内には、これらの成分の他に有機溶媒が存在していてもよい。
有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、s-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコール類;等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
工程POにおいて有機溶媒を使用する場合、アルコキシシラン化合物に対して、体積基準で、好ましくは0.05~3倍、より好ましくは0.1~1.5倍の有機溶媒が用いられる。
【0077】
工程POの反応条件は特に限定されない。
工程POの反応温度は、通常0~85℃、好ましくは15~75℃である。
工程POの反応時間は、通常30分から50時間、好ましくは1~24時間である。
工程POの反応温度を低くしたり、反応時間を短くしたりすることにより、要件1を満たすシラン化合物重合体が得られ易くなる。
【0078】
工程POは、開始から終了まで一定の条件で行うものであってもよいし(すなわち、1つのステップを有するものであってもよいし)、反応条件が異なる複数のステップを有するものであってもよい。
目的の分子量を有するシラン化合物重合体を効率よく製造し得ることから、工程POは、水、及び酸触媒の存在下で、アルコキシシラン化合物の加水分解を進行させるステップ(ステップPO-I)と、シラン化合物重合体の分子量を調整するステップ(ステップPO-II)を含むものが好ましい。
【0079】
ステップPO-Iは、水、及び酸触媒の存在下で、アルコキシシラン化合物の加水分解を進行させるステップである。
ステップPO-Iは、例えば、反応容器に、アルコキシシラン化合物、水、及び、酸触媒を入れ、得られた混合物を撹拌することにより行うことができる。また、反応容器内には、これらの成分の他に有機溶媒が存在していてもよい。
有機溶媒としては、工程POの有機溶媒として先に例示したものが挙げられる。
ステップPO-Iにおいて有機溶媒を使用する場合、アルコキシシラン化合物に対して、体積基準で、好ましくは0.05~1倍、より好ましくは0.1~0.5倍の有機溶媒が用いられる。
【0080】
ステップPO-Iの反応条件は特に限定されない。
ステップPO-Iの反応温度は、通常0~50℃、好ましくは15~35℃である。
ステップPO-Iの反応時間は、通常10分から2時間、好ましくは15~90分である。
【0081】
アルコキシシラン化合物の加水分解用に添加した水は、ステップPO-Iの終了時において十分に消費されていることが好ましい。単量体としてメチルトリエトキシシランを使用する場合は、水の消費量は、反応生成物について1H-NMRを測定し、「Si-Me」の量と「Si-OEt」の量とを対比することにより推測することができる。
なお、ステップPO-Iにおいては、アルコキシシラン化合物の加水分解反応だけでなく、重縮合反応が進行していてもよい。
【0082】
ステップPO-IIは、シラン化合物重合体の分子量を調整するステップである。
すなわち、ステップPO-IIは、目的の分子量を有するシラン化合物重合体を生成させるために、ステップPO-Iの反応生成物の重縮合反応を進行させるステップである。
【0083】
シラン化合物重合体の分子量を調整するために、必要に応じて、ステップPO-IIを行う際に、反応系内に塩基を添加することが好ましい。
ステップPO-IIを行う際に反応系内に塩基を添加する場合、その添加量は、アルコキシシラン化合物の総量に対して、通常0.05~10モル%、好ましくは0.1~5モル%である。
【0084】
塩基としては、アンモニア水;トリメチルアミン、トリエチルアミン、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ピリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、アニリン、ピコリン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、イミダゾール等の有機塩基;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等の有機水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド等の金属アルコキシド;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の金属炭酸水素塩;等が挙げられる。
【0085】
ステップPO-IIの反応条件は特に限定されない。
ステップPO-IIの反応温度は、通常20~85℃、好ましくは24~70℃である。
ステップPO-IIの反応時間は、通常20分から48時間、好ましくは1~24時間である。
【0086】
塩基を比較的少なめに添加したり、ステップPO-IIを比較的低い温度で行ったり、ステップPO-IIの反応時間を短くしたりすることにより、要件1を満たすシラン化合物重合体が得られ易くなる。
【0087】
ステップPO-IIは、撹拌しながら行うことが好ましい。
すなわち、上記のように水とアルコキシ基のモル比Mが0.46~0.86の範囲になる条件で反応を行う場合、添加した水が加水分解によって完全に消費された場合であっても、ステップPO-Iの反応生成物にはアルコキシ基が残存している。
このように、ステップPO-Iの反応生成物には、反応性に優れる(Si-OH)と反応性に劣る(Si-OR)が混在しているため、この反応生成物の重縮合反応を効率よく行い、目的の分子量のシラン化合物重合体を得るためには、反応系内を撹拌することが好ましい。
【0088】
ステップPO-IIは有機溶媒存在下で行うことが好ましい。ステップPO-IIを有機溶媒存在下で行うことで、反応系内を十分に撹拌することができ、ステップPO-Iの反応生成物の重縮合反応を十分に進行させることができる。
また、ステップPO-Iの反応生成物の重縮合反応を希釈条件下で行うことができるため、分子量の調整を再現性よく行うことができる。
【0089】
有機溶媒としては、工程POにおける有機溶媒として先に例示したものが挙げられる。
したがって、ステップPO-Iを有機溶媒の存在下で行った場合、その有機溶媒をそのまま利用してステップPO-IIを行うことができる。
一方、ステップPO-Iを有機溶媒が存在しない状態で行った場合、ステップPO-Iで得られた反応混合物に有機溶媒を加えることで、ステップPO-IIを有機溶媒存在下で行うことができる。
ステップPO-IIにおいて有機溶媒を使用する場合、ステップPO-Iにおいて用いたアルコキシシラン化合物に対して、体積基準で、好ましくは0.05~3倍、より好ましくは0.1~1.5倍の有機溶媒が用いられる。
【0090】
ステップPO-IIは開放系で行うことが好ましい。ステップPO-IIを開放系で行うことで、工程POにおける生成物である水やアルコールが反応系外に放出され易くなるため、水やアルコールにより重縮合反応が阻害されるのを回避することができる。また、ステップPO-IIを有機溶媒の存在下で行う場合、過度な加圧状態になることを抑制し得るため、重縮合反応を安全に進行させることができる。
開放系とは、反応系と、その周囲の系が完全に遮断されておらず、互いに分子の移動が可能な状態にある系をいう。
【0091】
〔工程PU〕
工程PUは、得られたシラン化合物重合体を精製する工程である。
工程PUを行うことで、高純度のシラン化合物重合体を得ることができる。そのようなシラン化合物重合体は、半導体素子固定用組成物等の熱硬化性組成物の硬化性成分としてより適している。
【0092】
工程PUとしては、溶媒抽出法による精製工程が挙げられる。
溶媒抽出法による精製工程としては、例えば、以下のステップを有するものが挙げられる。
(ステップPU-I)工程POで得られた反応混合物に、必要に応じて水非混和性の有機溶媒や水を加え、これを撹拌した後、静置して、有機相と水相に分離させるステップ
(ステップPU-II)ステップPU-Iで生じた有機相を分取し、必要に応じて有機相を水で洗浄するステップ
(ステップPU-III)ステップPU-IIで分取した有機相を乾燥させるステップ
(ステップPU-IV)ステップPU-IIIで乾燥させた有機相から溶媒を除去するステップ
【0093】
ステップPU-Iにおいては、工程POで得られた反応混合物が有機相と水相に分離するように、必要に応じて、前記反応混合物に、水非混和性の有機溶媒や水等の溶媒を加える。加える溶媒の量や、有機溶媒の種類は工程POで得られた反応混合物が有機相と水相に分離する限り、特に限定されない。
【0094】
シラン化合物重合体は、通常、有機相に含まれる。したがって、ステップPU-IIにおいては、ステップPU-Iで生じた有機相を分取する。この後、常法に従って、有機相を水で洗浄してもよい。
【0095】
ステップPU-IIIにおいては、硫酸マグネシウムの添加等、常法に従って、有機相を乾燥させる。
【0096】
ステップPU-IVにおいては、有機相から溶媒を除去する。溶媒の除去は、エバポレーターによる濃縮処理や、真空乾燥処理等、常法に従って行うことができる。
【0097】
2)熱硬化性組成物及び半導体素子固定用組成物
本発明の熱硬化性組成物は、下記の(A)成分、及び(B)成分を含有する。
(A)成分:本発明のシラン化合物重合体
(B)成分:シランカップリング剤
【0098】
[(A)成分:本発明のシラン化合物重合体]
本発明の熱硬化性組成物を構成する(A)成分は、本発明のシラン化合物重合体である。
本発明の熱硬化性組成物に含まれる(A)成分の含有量は、熱硬化性組成物を構成する成分(ただし溶媒を除く)全量に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。上限は特にないが、通常95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下である。
したがって、(A)成分の含有量は、熱硬化性組成物を構成する成分(ただし溶媒を除く)全量に対して、50~95質量%が好ましい。
(A)成分の含有量が上記範囲内の熱硬化性組成物は塗布性に優れる。さらに、その硬化物は高温時の接着強度により優れる傾向がある。
【0099】
[(B)成分:シランカップリング剤]
本発明の熱硬化性組成物を構成する(B)成分は、シランカップリング剤である。
シランカップリング剤を含有する熱硬化性組成物の硬化物は、常温時や高温時における接着強度により優れる傾向がある。
【0100】
シランカップリング剤とは、ケイ素原子と、官能基と、前記ケイ素原子に結合した加水分解性基とを有するシラン化合物をいう。
官能基とは、他の化合物(主に有機物)に対する反応性を有する基をいい、例えば、ビニル基、アリル基、エポキシ基、アミノ基、置換アミノ基、アクリル基、メタクリル基、メルカプト基、イソシアネート基、イソシアヌレート構造を有する基、ウレア構造を有する基、酸無水物構造を有する基等が挙げられる。
(B)成分は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0101】
本発明の熱硬化性組成物に含まれる(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1~90質量部が好ましく、0.3~60質量部がより好ましく、1~50質量部がさらに好ましく、3~40質量部が特に好ましい。
(B)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して0.1質量部以上の熱硬化性組成物の硬化物は、常温時や高温時における接着強度により優れる傾向がある。
(B)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して90質量部以下の熱硬化性組成物の硬化物は、クラックが生じ難い。
【0102】
シランカップリング剤としては、分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤、及び、分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0103】
分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤としては、例えば、下記式(b-1)で表されるトリアルコキシシラン化合物、式(b-2)で表されるジアルコキシアルキルシラン化合物又はジアルコキシアリールシラン化合物等が挙げられる。
【0104】
【0105】
上記式中、Raは、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基を表す。複数のRa同士は同一であっても相異なっていてもよい。
Rbは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基等の炭素数1~6のアルキル基;又は、フェニル基、4-クロロフェニル基、4-メチルフェニル基、1-ナフチル基等の、置換基を有する、又は置換基を有さないアリール基;を表す。
【0106】
Rcは、窒素原子を有する、炭素数1~10の有機基を表す。また、Rcは、更に他のケイ素原子を含む基と結合していてもよい。
Rcの炭素数1~10の有機基の具体例としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピル基、3-アミノプロピル基、N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)アミノプロピル基、3-ウレイドプロピル基、N-フェニル-アミノプロピル基等が挙げられる。
【0107】
上記式(b-1)又は(b-2)で表される化合物のうち、Rcが、他のケイ素原子を含む基と結合した有機基である場合の化合物としては、イソシアヌレート骨格を介して他のケイ素原子と結合してなるイソシアヌレート系シランカップリング剤や、ウレア骨格を介して他のケイ素原子と結合してなるウレア系シランカップリング剤が挙げられる。
【0108】
これらの中でも、分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤としては、接着強度により優れる硬化物が得られ易いことから、イソシアヌレート系シランカップリング剤、及びウレア系シランカップリング剤が好ましく、更に、分子内に、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するものが好ましい。
ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するとは、同一のケイ素原子に結合したアルコキシ基と、異なるケイ素原子に結合したアルコキシ基との総合計数が4以上という意味である。
【0109】
ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するイソシアヌレート系シランカップリング剤としては、下記式(b-3)で表される化合物が挙げられる。ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するウレア系シランカップリング剤としては、下記式(b-4)で表される化合物が挙げられる。
【0110】
【0111】
式中、Raは上記と同じ意味を表す。t1~t5はそれぞれ独立して、1~10の整数を表し、1~6の整数であるのが好ましく、3であるのが特に好ましい。
【0112】
これらの中でも、分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤としては、1,3,5-N-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5-N-トリス(3-トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート(以下、「イソシアヌレート化合物」という。)、N,N’-ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ウレア、N,N’-ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ウレア(以下、「ウレア化合物」という。)、及び、上記イソシアヌレート化合物とウレア化合物との組み合わせを用いるのが好ましい。
【0113】
本発明の熱硬化性組成物が分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、その量は、上記(A)成分100質量部に対して60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましい。
分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤の含有量の下限値は特にないが、(A)成分100質量部に対して好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上である。
したがって、分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1~60質量部が好ましい。
【0114】
分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤は、一つの分子中に、酸無水物構造を有する基と、加水分解性基の両者を併せ持つ有機ケイ素化合物である。具体的には下記式(b-5)で表される化合物が挙げられる。
【0115】
【0116】
式中、Qは酸無水物構造を有する基を表し、Rdは炭素数1~6のアルキル基、又は、置換基を有する、若しくは置換基を有さないフェニル基を表し、Reは炭素数1~6のアルコキシ基又はハロゲン原子を表し、i、kは1~3の整数を表し、jは0~2の整数を表し、i+j+k=4である。jが2であるとき、Rd同士は同一であっても相異なっていてもよい。kが2又は3のとき、複数のRe同士は同一であっても相異なっていてもよい。iが2又は3のとき、複数のQ同士は同一であっても相異なっていてもよい。
Qとしては、下記式
【0117】
【0118】
(式中、hは0~10の整数を表す。)で表される基等が挙げられ、(Q1)で表される基が特に好ましい。
【0119】
分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤としては、2-(トリメトキシシリル)エチル無水コハク酸、2-(トリエトキシシリル)エチル無水コハク酸、3-(トリメトキシシリル)プロピル無水コハク酸、3-(トリエトキシシリル)プロピル無水コハク酸等の、トリ(炭素数1~6)アルコキシシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;
2-(ジメトキシメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、ジ(炭素数1~6)アルコキシメチルシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;
2-(メトキシジメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、(炭素数1~6)アルコキシジメチルシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;
【0120】
2-(トリクロロシリル)エチル無水コハク酸、2-(トリブロモシリル)エチル無水コハク酸等の、トリハロゲノシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;
2-(ジクロロメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、ジハロゲノメチルシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;
2-(クロロジメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、ハロゲノジメチルシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;等が挙げられる。
【0121】
これらの中でも、分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤としては、トリ(炭素数1~6)アルコキシシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸が好ましく、3-(トリメトキシシリル)プロピル無水コハク酸又は3-(トリエトキシシリル)プロピル無水コハク酸が特に好ましい。
【0122】
本発明の熱硬化性組成物が分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、その量は、上記(A)成分100質量部に対して30質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤の含有量の下限値は特にないが、(A)成分100質量部に対して好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上である。
したがって、分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1~30質量部が好ましい。
【0123】
[(C)成分:微粒子]
本発明の熱硬化性組成物は、微粒子を含有してもよい。
微粒子を含有することで、熱硬化性組成物のチキソ性が改善されたり、熱硬化性組成物の硬化物におけるクラックの発生が抑制されたりする場合がある。
【0124】
熱硬化性組成物のチキソ性の改善を目的とする場合、微粒子としてはシリコーン修飾粒子(以下「粒子(C-i)」と記載することがある。)が好ましく用いられる。
粒子(C-i)としては、表面に水酸基等の反応性基を有する粒子(コア粒子)と、シリコーンオイルとを接触させて得られる粒子が挙げられる。
【0125】
コア粒子としては、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化ケイ素粒子、酸化チタニウム粒子等の無機酸化物粒子が挙げられる。これらの無機酸化物粒子の中でも、入手が容易であることから酸化ケイ素粒子が好ましい。したがって、粒子(C-i)としては、シリコーン修飾シリカ粒子が好ましい。
【0126】
コア粒子として用いられる無機酸化物粒子は、例えばフュームド法により合成することができる。
フュームド法は公知の製法であり、例えば、四塩化ケイ素等のケイ素化合物や金属ケイ素を酸素-水素火炎中に導入して加水分解反応させる工程等を行い、フュームドシリカを合成することができる。
【0127】
粒子(C-i)を製造する際に用いられるシリコーンオイルとしては、反応性シリコーンオイルや非反応性シリコーンオイルが挙げられる。
【0128】
反応性シリコーンオイルとしては、シロキサン結合で構成された主鎖の末端や側鎖に、反応性基を有するシリコーンオイルが挙げられる。
反応性シリコーンオイルに含まれるシロキサン結合で構成された主鎖としては、ポリ(ジメチルシロキサン)鎖が挙げられる。
反応性シリコーンオイルに含まれる反応性基としては、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0129】
非反応性シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等が挙げられる。
【0130】
粒子(C-i)の製造方法は特に限定されない。例えば、コア粒子粉末とシリコーンオイルを混合し、得られた混合物を加熱することで粒子(C-i)を得ることができる。
加熱条件は特に限定されないが、例えば、80~380℃で5~80分である。
【0131】
粒子(C-i)の平均粒子径は、好ましくは1~40nm、より好ましくは5~30nm、さらに好ましくは9~20nmである。
上記範囲内の平均粒子径を有する粒子(C-i)を用いることで、チキソ性により優れる熱硬化性組成物が得られ易くなる。
粒子(C-i)の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて粒子(C-i)を観察し、任意に選んだ複数の粒子(例えば1000個の粒子)の粒子径の平均値を算出することにより求めることができる。
【0132】
本発明の熱硬化性組成物が粒子(C-i)を含有する場合、その含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1~50質量部が好ましい。
粒子(C-i)の含有量が(A)成分100質量部に対して0.1質量部以上であることでチキソ性向上効果が十分に発現する。同様の理由により、(A)成分100質量部に対して0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上がさらに好ましい。
粒子(C-i)の含有量が(A)成分100質量部に対して50質量部以下であることで、熱硬化性組成物が高粘度になり過ぎず、優れた塗布性を有する。同様の理由により、(A)成分100質量部に対して40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
【0133】
熱硬化性組成物の硬化物におけるクラックの発生の抑制を目的とする場合、微粒子としては、平均一次粒子径が0.04μm超8μm以下の粒子(以下「粒子(C-ii)」と記載することがある。)が好ましく用いられる。
粒子(C-ii)の平均一次粒子径は、より好ましくは0.06~7μm、さらに好ましくは0.3~6μm、特に好ましくは0.5~4μmである。
粒子(C-ii)の平均一次粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(例えば、株式会社堀場製作所製、製品名「LA-920」)等を用いて、レーザー散乱法による粒度分布の測定を行うことにより求められる。
【0134】
粒子(C-ii)の形状は、球状、鎖状、針状、板状、片状、棒状、繊維状等のいずれであってもよいが、球状が好ましい。ここで、球状とは、真球状の他、回転楕円体、卵形、金平糖状、まゆ状等球体に近似できる多面体形状を含む略球状を意味する。
【0135】
粒子(C-ii)の構成成分としては、特に制限はなく、無機酸化物;金属;金属炭酸塩;金属硫酸塩;金属水酸化物;金属珪酸塩;鉱物;ケイ素含有重合体;等が挙げられる。
【0136】
無機酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタニウム、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化銅、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化亜鉛、及びこれらの複合酸化物等が挙げられる。
【0137】
金属とは、周期表における、1族(Hを除く)、2~11族、12族(Hgを除く)、13族(Bを除く)、14族(C及びSiを除く)、15族(N、P、As及びSbを除く)、又は16族(O、S、Se、Te及びPoを除く)に属する元素をいう。
【0138】
金属炭酸塩としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
金属硫酸塩としては、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
金属珪酸塩としては、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム等が挙げられる。
鉱物としては、スメクタイト、ベントナイト等が挙げられる。
ケイ素含有重合体としては、シリコーン、ポリシルセスキオキサン等が挙げられる。
【0139】
粒子(C-ii)は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、透明性に優れる硬化物が得られ易いことから、粒子(C-ii)の構成成分としてはケイ素含有重合体が好ましく、ポリシルセスキオキサンがより好ましい。
【0140】
本発明の熱硬化性組成物が粒子(C-ii)を含有する場合、粒子(C-ii)の含有量は、(A)成分100質量部に対して40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。粒子(C-ii)の含有量が(A)成分100質量部に対して40質量部以下であることで、十分な接着強度を有する硬化物になる熱硬化性組成物が得られ易くなる。
粒子(C-ii)の含有量の下限値は特にないが、(A)成分100質量部に対して好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上である。
したがって、粒子(C-ii)の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1~40質量部が好ましい。
【0141】
[溶媒]
本発明の熱硬化性組成物は、溶媒を含有してもよい。
ただし、本発明の熱硬化性組成物は溶媒を含有しなくても塗布性に優れるものであるため、環境負荷等を考慮すると、溶媒を含まないことが好ましい。
溶媒の含有量は、熱硬化性組成物全量に対して40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、0質量%が特に好ましい。
【0142】
[その他の成分]
本発明の熱硬化性組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記のもの以外の成分を含有してもよい。
上記のもの以外の成分としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤が挙げられる。
これらの添加剤の含有量は、目的に合わせて適宜決定することができる。
【0143】
[熱硬化性組成物]
本発明の熱硬化性組成物は、例えば、上記(A)成分と(B)成分、及び、所望によりこれら以外の成分を所定割合で混合し、脱泡することにより調製することができる。
混合方法、脱泡方法は特に限定されず、公知の方法を使用することができる。
【0144】
本発明の熱硬化性組成物の、温度が25℃、せん断速度が2s-1のときの粘度は、20~100Pa・sが好ましく、20~45Pa・sがより好ましい。
本発明の熱硬化性組成物の、温度が25℃、せん断速度が200s-1のときの粘度は、3~30Pa・sが好ましく、3~12Pa・sがより好ましい。
本発明の熱硬化性組成物のチキソ指数は、3以上が好ましく、4以上がより好ましい。
本発明の熱硬化性組成物の粘度やチキソ指数は、実施例に記載の方法に従って求めることができる。
【0145】
後述するように、本発明の熱硬化性組成物の硬化物は、接着強度(特に高温時の接着強度)に優れる。
このため、本発明の熱硬化性組成物は半導体素子固定用組成物として好適に用いられる。
半導体素子固定用組成物としては、半導体素子固定用接着剤や半導体素子固定用封止剤が挙げられる。
半導体素子としては、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)等の発光素子;フォトダイオード、太陽電池、CMOSイメージセンサー等の受光素子;複合光素子;集積回路;大規模集積回路;等が挙げられる。
【0146】
本発明の熱硬化性組成物を半導体素子固定用組成物として使用する際は、通常、本発明の熱硬化性組成物を加熱硬化させる。
本発明の熱硬化性組成物を加熱硬化させる際の加熱温度は、通常100~200℃である。加熱時間は、通常10分から20時間、好ましくは30分から10時間である。
【0147】
〔半導体素子固定用接着剤〕
本発明の熱硬化性組成物を半導体素子固定用接着剤として使用するときは、通常、接着対象の材料(半導体素子と基板等)の一方又は両方の接着面に本発明の熱硬化性組成物を所定量塗布し、圧着した後、加熱硬化させる。この作業により、接着対象の材料同士を強固に接着することができる。
【0148】
基板を構成する材料としては、ソーダライムガラス、耐熱性硬質ガラス等のガラス類;セラミックス;サファイア;鉄、銅、アルミニウム、金、銀、白金、クロム、チタン及びこれらの金属の合金、ステンレス(SUS302、SUS304、SUS304L、SUS309等)等の金属類;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、アクリル樹脂、ノルボルネン系樹脂、シクロオレフィン樹脂、ガラスエポキシ樹脂等の合成樹脂;等が挙げられる。
【0149】
〔半導体素子固定用封止剤〕
本発明の熱硬化性組成物を半導体素子固定用封止剤として使用するときは、通常、本発明の熱硬化性組成物を所望の形状に成形して、半導体素子を内包した成形体を得た後、このものを加熱硬化させる。この作業により、半導体素子を内包した半導体素子封止体が得られる。
本発明の熱硬化性組成物を所望の形状に成形する方法としては、特に限定されるものではなく、通常のトランスファー成形法や、注型法等の公知のモールド法を採用できる。
【0150】
3)硬化物
本発明の硬化物は、本発明の熱硬化性組成物が硬化してなるものである。
本発明の熱硬化性組成物を硬化させる方法としては加熱硬化が挙げられる。
本発明の熱硬化性組成物を加熱硬化させる際の加熱温度は、通常100~200℃である。加熱時間は、通常10分から20時間、好ましくは30分から10時間である。
【0151】
本発明の硬化物は、本発明のシラン化合物重合体を含有する熱硬化性組成物が硬化してなるものであるため、接着強度に優れる。
例えば、実施例のダイシェア強度測定を行ったときに、本発明の硬化物は、23℃において80N/4mm2以上であることが好ましく、100N/4mm2以上であることがより好ましい。また、100℃において、30N/4mm2以上であることが好ましく、50N/4mm2以上であることがより好ましく、60N/4mm2以上であることがさらに好ましい。
本明細書において、「4mm2」とは、「2mm square」、すなわち、2mm×2mm(1辺が2mmの正方形)を意味する。
【実施例0152】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0153】
〔実施例1〕
300mlのナス型フラスコに、メチルトリエトキシシラン23.71g(133mmol)を仕込んだ後、これを撹拌しながら、蒸留水4.782gに35質量%塩酸0.014g(HCl:0.133mmol、メチルトリエトキシシランに対して0.1mol%)を溶解した水溶液(H2O:266mmol)を加え、全容を24℃にて1時間撹拌した。系を70℃へ昇温し、そこへ酢酸プロピル15.3gと28%アンモニア水溶液0.020g(NH3:0.333mmol、メチルトリエトキシシランに対して0.25mol%)を加え、全容を70℃で4時間撹拌した。
反応液を室温(25℃)まで放冷した後、そこに、酢酸プロピル100g及び水200gを加えて分液処理を行い、反応生成物を含む有機相を分取した。この有機相に硫酸マグネシウムを加えて乾燥処理を行った。硫酸マグネシウムを濾別除去した後、有機相をエバポレーターで濃縮し、次いで、得られた濃縮物を真空乾燥することにより、シラン化合物重合体を得た。
【0154】
〔実施例2、比較例1〕
第1表に記載の条件に変更したことを除き、実施例1と同様にしてシラン化合物重合体を得た。
【0155】
【0156】
実施例1、2及び比較例1で得られたシラン化合物重合体について、それぞれ以下の測定を行った。結果を第2表に示す。
【0157】
〔粘度測定〕
実施例1においては、レオメーター(装置名「MCR301」、Anton Paar社製)にて、コーン半径が12.5mm、コーン角度が0.5°のコーンプレートを用い、25℃で2.2s-1の粘度を測定した。
実施例2および比較例1においては、半径が12.5mmのパラレルプレートを用い、25℃で2.0rad/sの粘度を測定した。
【0158】
〔平均分子量測定〕
シラン化合物重合体の質量平均分子量(Mw)は、以下の装置及び条件にて測定した。
装置名:東ソー株式会社製 HLC-8220GPC
カラム:「TSK guard column SuperH-H」「TSK gel SuperHM-H」「TSK gel SuperHM-H」「TSK gel SuperH2000」を順次連結したもの
溶媒:テトラヒドロフラン
標準物質:ポリスチレン
注入量:20μl
測定温度:40℃
流速:0.6ml/分
検出器:示差屈折計
【0159】
〔1H-NMR測定〕
装置名:ブルカー・バイオスピン社製 AV-500
1H-NMR共鳴周波数:500MHz
プローブ:5mmφ溶液プローブ
測定温度:室温(25℃)
繰り返し時間:1s
積算回数:16回
【0160】
〈1H-NMR試料作製方法〉
シラン化合物重合体濃度:3%
測定溶媒:アセトン-d6
内部標準:TMS
【0161】
〔アルコキシ基残存率〕
1H-NMR測定結果に基づき、メチル基に対するアルコキシ基の割合を求め、シラン化合物重合体のアルコキシ基残存率を算出した。
【0162】
〔29Si-NMR測定〕
装置名:ブルカー・バイオスピン社製 AV-500
29Si-NMR共鳴周波数:99.352MHz
プローブ:5mmφ溶液プローブ
測定温度:室温(25℃)
試料回転数:20kHz
測定法:インバースゲートデカップリング法
29Si フリップ角:90°
29Si 90°パルス幅:8.0μs
繰り返し時間:5s
積算回数:9200回
観測幅:30kHz
【0163】
〈29Si-NMR試料作製方法〉
緩和時間短縮のため、緩和試薬としてFe(acac)3を添加し測定した。
シラン化合物重合体濃度:15%
Fe(acac)3濃度:0.6%
測定溶媒:アセトン
内部標準:TMS
【0164】
〈波形処理解析〉
フーリエ変換後のスペクトルの各ピークについて、ピークトップの位置によりケミカルシフトを求め、以下の範囲で各ピークの積分を行った。
T1サイト:-52.0~-45.0ppm
T2サイト:-60.7~-52.0ppm
T3サイト:-71.5~-60.7ppm
得られた値をもとに、T1サイト、T2サイト、T3サイトの割合を算出した。
【0165】
【0166】
熱硬化性組成物の調製に用いた化合物を以下に示す。
(シラン化合物重合体)
PSQ(A1):実施例1で得られたシラン化合物重合体
PSQ(A2):実施例2で得られたシラン化合物重合体
PSQ(A3):比較例1で得られたシラン化合物重合体
【0167】
(粒子)
粒子(B1):(日本アエロジル株式会社製、製品名「AEROSIL RY200」、シリカ粒子に対してポリジメチルシロキサンで表面修飾処理してなる粒子、平均一次粒子径:12nm)
粒子(B2):(日興リカ株式会社製、製品名「MSP-SN08」、ポリメチルシルセスキオキサン粒子、平均一次粒子径:0.8μm)
【0168】
(シランカップリング剤)
SCA(C1):1,3,5-N-トリス〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕イソシアヌレート
SCA(C2):3-(トリメトキシシリル)プロピルコハク酸無水物
【0169】
〔実施例3〕
PSQ(A1)100質量部に、粒子(B1)5質量部、及び粒子(B2)5質量部を加え、全容を撹拌した。三本ロールミルによる分散処理後、シランカップリング剤(C1)30質量部、シランカップリング剤(C2)3質量部を加え、全容を十分に混合、脱泡することにより、熱硬化性組成物を得た。
【0170】
〔実施例4、5、比較例2〕
第3表に記載の組成に変更したことを除き、実施例3と同様にして熱硬化性組成物をそれぞれ得た。
【0171】
実施例3~5、比較例2で得られた熱硬化性組成物について、それぞれ以下の測定を行った。結果を第3表に示す。
【0172】
[粘度評価]
レオメーター(Anton Paar社製、MCR301)にて、半径12.5mm、コーン角度0.5°のコーンプレートを用い、25℃で、せん断速度が2s-1と、せん断速度が200s-1の粘度をそれぞれ測定した。得られた測定値からチキソ指数(せん断速度が2s-1の粘度/せん断速度が200s-1の粘度)を求めた。
【0173】
[ダイシェア強度試験]
4mm2(2mm×2mm)のシリコンチップのミラー面に、熱硬化性組成物を、それぞれ、厚さが約2μmになるよう塗布し、塗布面を被着体(銀メッキ銅板)の上に載せ圧着した。その後、170℃で2時間加熱処理して硬化して試験片付被着体を得た。この試験片付被着体を、予め所定温度(23℃、100℃)に加熱したボンドテスター(デイジ社製、シリーズ4000)の測定ステージ上に30秒間放置し、被着体から100μmの高さの位置より、スピード200μm/sで接着面に対し水平方法(せん断方向)に応力をかけ、23℃及び100℃における、試験片と被着体との接着強度(N/4mm2)を測定した。
【0174】
【0175】
第3表から以下のことが分かる。
実施例3~5で得られた熱硬化性組成物は、本願発明のシラン化合物重合体を硬化性成分として含有する。これらの熱硬化性組成物の硬化物は、高温時の接着強度に優れる。
一方、比較例2で得られた熱硬化性組成物は、T3サイトを多く含むシラン化合物重合体を硬化性成分として含有する。この熱硬化性組成物の硬化物は、高温時の接着強度に劣る。
比較例2においても、23℃では十分な接着強度を示している。したがって、23℃における接着強度を向上させるには、分子鎖の絡み合い等の分子間の相互作用でも十分であると考えられる。
しかしながら、この方法では100℃の接着強度を向上させることはできていない。
したがって、100℃における接着強度を向上させるためには、T3サイトをあまり含まないシラン化合物重合体を使用して、硬化反応中に巨大分子化させることが重要であると考えられる。