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特開2024-136517偏向電磁石装置及び荷電粒子ビーム照射装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136517
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】偏向電磁石装置及び荷電粒子ビーム照射装置
(51)【国際特許分類】
   G21K 1/093 20060101AFI20240927BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20240927BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G21K1/093 D
G21K5/04 A
A61N5/10 H
A61N5/10 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047655
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】518119249
【氏名又は名称】株式会社ビードットメディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100141025
【弁理士】
【氏名又は名称】阿久津 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100221327
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 亮
(72)【発明者】
【氏名】石澤 峻路
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AA01
4C082AC05
4C082AG11
4C082AG13
(57)【要約】
【課題】荷電粒子ビーム照射装置において、従来よりも組み立て性を向上する技術を提供すること
【解決手段】偏向電磁石装置は、第1の方向に沿って進む荷電粒子ビームを偏向させる偏向電磁石と、荷電粒子ビームの通過領域を真空状態に維持する真空ダクトと、を備える。偏向電磁石は磁極を含む。磁極は、第1の方向において荷電粒子ビームの進行方向の下流側に向かうに従って、荷電粒子ビームの偏向角が拡がる第2の方向に拡がる部分を含むように形成される。真空ダクトは、第1の方向及び第2の方向に交差する第3の方向から見て、磁極と重複する部分を含み、真空ダクトは、第1の方向の上流側において偏向電磁石に固定される第1の固定部と、第1の方向の下流側において偏向電磁石に固定される第2の固定部と、を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏向電磁石装置であって、
第1の方向に沿って進む荷電粒子ビームを偏向させる偏向電磁石と、
荷電粒子ビームの通過領域を真空状態に維持する真空ダクトと、
を備え、
前記偏向電磁石は磁極を含み、
前記真空ダクトは、前記第1の方向及び荷電粒子ビームの偏向角が拡がる第2の方向に交差する第3の方向から見て、前記磁極と重複する部分を含み、
前記真空ダクトは、
前記第1の方向の上流側において前記偏向電磁石に固定される第1の固定部と、
前記第1の方向の下流側において前記偏向電磁石に固定される第2の固定部と、
を含む、
偏向電磁石装置。
【請求項2】
請求項1に記載の偏向電磁石装置であって、
前記真空ダクトは、前記偏向電磁石によって偏向された荷電粒子ビームが前記真空ダクト内を通過できるように、前記下流側に進むに従って拡大する拡大部を含む、
偏向電磁石装置。
【請求項3】
請求項1に記載の偏向電磁石装置であって、
前記偏向電磁石は、
前記第1の固定部が固定される第1のダクト固定部と、
前記第2の固定部が固定される第2のダクト固定部とを含み、
前記第1のダクト固定部は、前記偏向電磁石の、前記第1の方向の上流側を向く第1の面に設けられ、
前記第2のダクト固定部は、前記偏向電磁石の、前記第1の方向の下流側を向く第2の面に設けられる、
偏向電磁石装置。
【請求項4】
請求項3に記載の偏向電磁石であって、
前記真空ダクトは、荷電粒子ビームが入射される入口と、荷電粒子ビームが出射される出口とを含み、
前記入口は、前記第1の面よりも前記上流側に配置され、
前記出口は、前記第2の面よりも前記下流側に配置される、
偏向電磁石装置。
【請求項5】
請求項1に記載の偏向電磁石装置であって、
前記偏向電磁石は、
線材が前記磁極に巻かれて構成されるコイルと、
前記線材の、前記磁極へと引き入れられる部分及び前記磁極から引き出される部分で構成される配線部と、
を含み、
前記配線部は、前記第1の方向において前記磁極よりも荷電粒子ビームの進行方向の上流側を通過する、
偏向電磁石装置。
【請求項6】
請求項5に記載の偏向電磁石装置であって、
前記配線部は、前記磁極の前記下流側から下方に延び、前記磁極の下方を通過して前記磁極よりも前記上流側へと延びる、
偏向電磁石装置。
【請求項7】
請求項1に記載の偏向電磁石装置であって、
前記偏向電磁石を、前記第3の方向に延びる仮想軸線周りに回動可能に支持する架台をさらに備える、
偏向電磁石装置。
【請求項8】
請求項7に記載の偏向電磁石装置であって、
前記架台は、
前記偏向電磁石を、前記第3の方向に延びる第1の仮想軸線周りに回動可能に支持する第1の回動支持部と、
前記偏向電磁石を、前記第3の方向に延びる第2の仮想軸線周りに回動可能に支持する第2の回動支持部と、
を含む、
偏向電磁石装置。
【請求項9】
請求項1に記載の偏向電磁石装置であって、
前記磁極は、前記第1の方向において荷電粒子ビームの進行方向の下流側に向かうに従って、前記第2の方向に拡がる部分を含むように形成される、
偏向電磁石装置。
【請求項10】
荷電粒子ビーム照射装置であって、
請求項1から9までのいずれか一項に記載の偏向電磁石装置を含む荷電粒子ビーム輸送系と、
前記偏向電磁石装置の前記偏向電磁石によって偏向された荷電粒子ビームをさらに偏向させる第2の偏向電磁石と、
前記第2の偏向電磁石により偏向された荷電粒子ビームをアイソセンターに照射する照射ノズルと、
を備える、
荷電粒子ビーム照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏向電磁石装置及び荷電粒子ビーム照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高エネルギーに加速された荷電粒子ビームを癌などの悪性腫瘍に照射し、悪性腫瘍を治療する粒子線治療が行われている。荷電粒子ビームを物体に照射すると、物体内の荷電粒子ビームの経路に沿って物体にエネルギー(線量)が付与される。物体内部の限られた領域(標的)に集中して線量を付与する場合、荷電粒子ビームが標的に重なるように、荷電粒子ビームを様々な方向から照射することで線量の集中性を高めることが行われる。
【0003】
粒子線治療の分野において、正常な組織の被ばくを抑えつつ、体内の標的に多くの線量を付与するために、複数の方向から荷電粒子ビームを照射する方法が一般的である。特許文献1には、このような照射装置の一例として、振分電磁石(偏向電磁石)及び偏向電磁石により荷電粒子ビームの照射方向を制御するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来技術の照射装置においては、荷電粒子ビームの移動経路が例えば真空ダクトにより形成されている。当該照射装置やその構成要素である偏向電磁石においては、荷電粒子ビームの移動経路を構成する部材も含めた組み立て性の向上が望まれる。
【0006】
本発明は、荷電粒子ビーム照射装置において、従来よりも組み立て性を向上する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明には以下の態様が含まれる。
[態様1]
偏向電磁石装置であって、
第1の方向に沿って進む荷電粒子ビームを偏向させる偏向電磁石と、
荷電粒子ビームの通過領域を真空状態に維持する真空ダクトと、
を備え、
前記偏向電磁石は磁極を含み、
前記真空ダクトは、前記第1の方向及び荷電粒子ビームの偏向角が拡がる第2の方向に交差する第3の方向から見て、前記磁極と重複する部分を含み、
前記真空ダクトは、
前記第1の方向の上流側において前記偏向電磁石に固定される第1の固定部と、
前記第1の方向の下流側において前記偏向電磁石に固定される第2の固定部と、
を含む、
偏向電磁石装置。
[態様2]
態様1に記載の偏向電磁石装置であって、
前記真空ダクトは、前記偏向電磁石によって偏向された荷電粒子ビームが前記真空ダクト内を通過できるように、前記下流側に進むに従って拡大する拡大部を含む、
偏向電磁石装置。
[態様3]
態様1に記載の偏向電磁石装置であって、
前記偏向電磁石は、
前記第1の固定部が固定される第1のダクト固定部と、
前記第2の固定部が固定される第2のダクト固定部とを含み、
前記第1のダクト固定部は、前記偏向電磁石の、前記第1の方向の上流側を向く第1の面に設けられ、
前記第2のダクト固定部は、前記偏向電磁石の、前記第1の方向の下流側を向く第2の面に設けられる、
偏向電磁石装置。
[態様4]
態様3に記載の偏向電磁石であって、
前記真空ダクトは、荷電粒子ビームが入射される入口と、荷電粒子ビームが出射される出口とを含み、
前記入口は、前記第1の面よりも前記上流側に配置され、
前記出口は、前記第2の面よりも前記下流側に配置される、
偏向電磁石装置。
[態様5]
態様1に記載の偏向電磁石装置であって、
前記偏向電磁石は、
線材が前記磁極に巻かれて構成されるコイルと、
前記線材の、前記磁極へと引き入れられる部分及び前記磁極から引き出される部分で構成される配線部と、
を含み、
前記配線部は、前記第1の方向において前記磁極よりも荷電粒子ビームの進行方向の上流側を通過する、
偏向電磁石装置。
[態様6]
態様5に記載の偏向電磁石装置であって、
前記配線部は、前記磁極の前記下流側から下方に延び、前記磁極の下方を通過して前記磁極よりも前記上流側へと延びる、
偏向電磁石装置。
[態様7]
態様1に記載の偏向電磁石装置であって、
前記偏向電磁石を、前記第3の方向に延びる仮想軸線周りに回動可能に支持する架台をさらに備える、
偏向電磁石装置。
[態様8]
態様7に記載の偏向電磁石装置であって、
前記架台は、
前記偏向電磁石を、前記第3の方向に延びる第1の仮想軸線周りに回動可能に支持する第1の回動支持部と、
前記偏向電磁石を、前記第3の方向に延びる第2の仮想軸線周りに回動可能に支持する第2の回動支持部と、
を含む、
偏向電磁石装置。
[態様9]
態様1に記載の偏向電磁石装置であって、
前記磁極は、前記第1の方向において荷電粒子ビームの進行方向の下流側に向かうに従って、前記第2の方向に拡がる部分を含むように形成される、
偏向電磁石装置。
[態様10]
荷電粒子ビーム照射装置であって、
態様1から9までのいずれか一項に記載の偏向電磁石装置を含む荷電粒子ビーム輸送系と、
前記偏向電磁石装置の前記偏向電磁石によって偏向された荷電粒子ビームをさらに偏向させる第2の偏向電磁石と、
前記第2の偏向電磁石により偏向された荷電粒子ビームをアイソセンターに照射する照射ノズルと、
を備える、
荷電粒子ビーム照射装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、荷電粒子ビーム照射装置において、従来よりも組み立て性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置の概略構成図
図2】(a)は一実施形態に係る偏向電磁石の概略構成図、(b)は(a)のA-A線断面図
図3】偏向電磁石装置の概要を示す斜視図
図4図3の偏向電磁石装置の側面図
図5図4のB-B線断面図
図6】架台の概要を示す斜視図
図7】偏向電磁石装置の概要を示す斜視図
図8】(a)及び(b)は回動支持部による偏向電磁石の位置調整の説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
<荷電粒子ビーム照射装置10>
図1は、本実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置10の概略構成図である。荷電粒子ビーム照射装置10は、加速器20と、荷電粒子ビーム輸送系30と、偏向電磁石40と、照射ノズル51とを備える。照射ノズル51は、患者を載せる治療台が備わった治療室50内に配置されている。
【0011】
加速器20は、荷電粒子ビームを生成する装置であり、例えばシンクロトロン、サイクロトロン、又は線形加速器である。加速器20で生成された荷電粒子ビームは、荷電粒子ビーム輸送系30を通じて偏向電磁石40に導かれる。
【0012】
荷電粒子ビーム輸送系30には、1つ又は複数の荷電粒子ビーム調整手段31、真空ダクト32、偏向電磁石装置100などが含まれる。偏向電磁石装置100については詳しくは後述する。加速器20、荷電粒子ビーム調整手段31、及び偏向電磁石装置100の偏向電磁石110は、真空ダクト32で接続されている。偏向電磁石装置100及び偏向電磁石40は、偏向電磁石110の真空ダクト120(図3等参照)を介して接続されている。
【0013】
荷電粒子ビームは、上流側の加速器20で生成され、減衰を避ける(又は低減する)ために真空ダクト32、120内を進み、荷電粒子ビーム調整手段31による調整を受けながら下流側の偏向電磁石110に導かれる。
【0014】
荷電粒子ビーム調整手段31としては、荷電粒子ビームのビーム形状及び/又は線量を調整するためのビームスリット、荷電粒子ビームの進行方向を調整するための電磁石、荷電粒子ビームのビーム形状を調整するための四極電磁石、並びに、荷電粒子ビームのビーム位置を微調整するためのステアリング電磁石などを、仕様に応じて適宜用いる。
【0015】
荷電粒子ビームの偏向電磁石110から患部(アイソセンターO)までの経路は、後述する照射角θに応じて異なる。このことから、荷電粒子ビームが受ける光学的要素も照射角θに応じて変わり、アイソセンターOでの荷電粒子ビームのビーム形状が照射角θに応じて変わることがある。これに対しては、例えば、偏向電磁石110及び偏向電磁石40よりも上流側に設けられた荷電粒子ビーム調整手段31を照射角θごとに制御し、アイソセンターOにおける荷電粒子ビームのビーム形状が適切になるように調整するようにしてもよい。
【0016】
偏向電磁石110は、荷電粒子ビームの偏向角φ(図2(a)等参照)を連続的に偏向し、偏向電磁石40へ荷電粒子ビームを出射するよう構成されている。また、偏向電磁石40は、患部(アイソセンターO)へ向かう荷電粒子ビームの照射角θを連続的に変えるよう構成されている。すなわち、荷電粒子ビーム照射装置10には2つの偏向電磁石が設けられている。そして、偏向電磁石110が入射してきた荷電粒子ビームを偏向してその進行方向を振り分け、偏向電磁石40が偏向電磁石110によって振り分けられた荷電粒子ビームをアイソセンターOへと収束させる。このため、偏向電磁石110は振分電磁石とも呼ばれることがあり、偏向電磁石40は収束電磁石とも呼ばれることがある。ここで、本願と同じ出願人による先行特許出願(特願2018-073303号)の全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれるものとするが、偏向電磁石110及び偏向電磁石40の例について以下に簡単に説明する。
【0017】
図2(a)は、偏向電磁石40の概略構成図である。また、図2(b)は、図2(a)のA-A線断面図である。以降の図において、荷電粒子ビームの偏向される前の進行方向をX軸方向(第1の方向の一例)、偏向電磁石40が生成する磁場の方向をZ軸方向(第3の方向の一例)、X軸方向及びZ軸方向に直交する方向をY軸方向(第2の方向の一例)とする。偏向電磁石110は、XY面において、X軸方向に沿って偏向電磁石110へと入射した荷電粒子ビームを、X軸方向に対する偏向角が偏向角φとなるように偏向して偏向電磁石40に入射させる。偏向電磁石40は、XY面において、X軸方向に対する偏向角φの広い範囲から入射する荷電粒子ビームを、アイソセンターOに収束させるよう構成されている。なお、図2(a)においては、偏向電磁石110及び照射ノズル51は省略し、説明を簡単にするために、アイソセンターOをXYZ空間の原点とし、上流側(偏向電磁石110側)をX軸方向の正の方向(X軸方向+側)としている。
【0018】
偏向電磁石40は、1組以上のコイル対を備え、該コイル対は、荷電粒子ビームの進行方向(図中X軸方向-側)と荷電粒子ビームの偏向角φの広がり方向(図中Y軸方向)に直交する方向(図中Z軸方向)を向いた一様な磁場を生成し(有効磁場領域41a、41b)、荷電粒子ビームの経路を挟むように配置されている。偏向電磁石40の1組のコイル対が生成する有効磁場領域は、図2(a)に示すようにXY平面において三日月様の形状を有する。なお、荷電粒子ビームが通過する、対向するコイル対間の隙間は(Z軸方向の距離)、XY面における荷電粒子ビームが広がる範囲に比べて十分に小さいため、ここでは荷電粒子ビームのZ軸方向の広がりについては考慮しない。
【0019】
図2(b)に示すように、偏向電磁石40は、例えば少なくとも二組のコイル対44a、44bを備える。コイル対44a、44bの内部にはそれぞれ磁極対45a、45bが組み込まれ、磁極対45a、45bにはヨーク46が接続されている。偏向電磁石40には不図示の電源装置が接続されており、電源装置からコイル対44a、44bに電流(励磁電流)が供給されることで、偏向電磁石40が励磁し、有効磁場領域41a、41b(総称して有効磁場領域41ともいう。)が形成される。
【0020】
なお、有効磁場領域41aの範囲と有効磁場領域41bの範囲は、異なっていてもよい(非対称でもよい)。例えば、プラス(Y軸方向+側)の偏向角φの範囲とマイナス(Y軸方向-側)の偏向角φの範囲が非対称であれば、それに応じて有効磁場領域41a、41bも非対称に形成することで、使用されない有効磁場領域を削減できる。
【0021】
偏向電磁石110により偏向され、偏向電磁石40に入射する荷電粒子ビームの偏向角φの範囲は、プラスの最大偏向角(φ=φmax)からマイナスの最大偏向角(φ=-φmax)の範囲である。プラスの最大偏向角φmaxは、例えば10度以上90度未満の角度である。マイナスの最大偏向角-φmaxは、例えば-90度超-10度以下の角度である。偏向角φ及び照射角θは、XY面における、X軸方向に対する荷電粒子ビームの経路の角度である。
【0022】
プラスの偏向角範囲(φ=0超~φmax)で入射した荷電粒子ビームは、第1のコイル対44aの有効磁場領域41aにより偏向され、照射ノズル51を通りアイソセンターOに照射される。マイナスの偏向角範囲(φ=0未満~-φmax)で入射した荷電粒子ビームは、第2のコイル対44bの有効磁場領域41bにより偏向され、照射ノズル51を通りアイソセンターOに照射される。有効磁場領域41aと有効磁場領域41bの磁場の向きは互いに反対の方向である。なお、偏向電磁石110から偏向角φ=0で偏向電磁石40に入射する荷電粒子ビームは、有効磁場領域41a、41bのいずれか又は両領域41a、41bの間を通過し、照射ノズル51を通じてアイソセンターOに収束する。
【0023】
<偏向電磁石装置100>
図3は、偏向電磁石装置100の概要を示す斜視図であって、偏向電磁石110及び真空ダクト120を示す図である。また、図4図3の偏向電磁石装置100の側面図、図5図4のB-B線断面図である。
【0024】
偏向電磁石装置100は、入射してきた荷電粒子ビームを偏向してビームの進行方向を振り分けるための装置である。偏向電磁石装置100は、偏向電磁石110と、真空ダクト120とを含む。
【0025】
<<偏向電磁石110>>
偏向電磁石110は、X軸方向に沿って進む荷電粒子ビームを偏向させる。さらにいえば、偏向電磁石110は、X軸方向-側に沿って進む荷電粒子ビームを、所定の偏向角φで振り分ける。偏向電磁石110は、一対の磁極111と、一対のヨーク112と、一対のコイル113aと、配線部113bと、引出部113cと、線材支持部114と、側板115a~115hと、吊り下げ部116と、装着部117a、117bと、ダクト固定部119a、119bと、を含む。
【0026】
一対の磁極111は、Z軸方向に離間して対向して設けられている。一対の磁極111の間には、真空ダクト120が配置されている。すなわち、一対の偏向電磁石110の間に荷電粒子ビームの移動経路が設けられる。一対の磁極111には、一対のヨーク112がそれぞれ接続されている。一対のヨーク112は、一対の磁極111を囲むように設けられ、互いに接合することで磁束が通過する経路を定める。磁極111にはコイル113aが巻かれている。不図示の電源装置からコイル113aに電流(励磁電流)が供給されることで、偏向電磁石110が励磁する。これにより、一対の磁極111の間の空間に有効磁場領域が形成される。
【0027】
本実施形態では、磁極111は、荷電粒子ビームの進行方向(X軸方向-側)に向かうに従って、偏向角φが拡がる方向(Y軸方向)に拡がる部分を含む。このような形状により、荷電粒子ビームに対して偏向させるための力を付与しつつ、磁極111を小型化・軽量化することができる。また、荷電粒子ビームの進行方向(X軸方向-側)の下流側に行くほど有効磁場領域がY軸方向に拡がるので、荷電粒子ビームが通過しない有効磁場領域を削減することができる。
【0028】
また、本実施形態では、磁極111の形状に対応して、偏向電磁石110自体の形状も、X軸方向-側に向かうに従ってY軸方向に拡がるように構成されている。これにより、偏向電磁石110のさらなる小型化・軽量化を図ることができる。偏向電磁石装置100やこれを含む荷電粒子ビーム照射装置10は、医療施設等、設置スペースに制約のある場所に配置されることがある。本実施形態によれば、より小さい設置スペースに対しても、装置を設置することが可能となる。
【0029】
また例えば、磁極111は、Z軸方向に見た場合(偏向電磁石110を側面視で見た場合)に、荷電粒子ビームのプラス側の最大偏向角(φ=φmax)における軌跡及びマイナス側の最大偏向角(φ=-φmax)における軌跡と重複するように設けられてもよい。また例えば、X軸方向において荷電粒子ビームが磁極111と重なっている区間において、偏向された荷電粒子ビームが磁極111による有効磁場領域を通過し続けられるように、磁極111の形状が設定されてもよい。
【0030】
また、本実施形態では、磁極111のY軸方向に拡がる部分はZ軸方向から見て直線状に形成されているが、当該部分の形状は限定されず、例えば曲線状、Z軸方向から見て段差状であってもよい。また、磁極111の形状及び/又は偏向電磁石110全体の形状は、Z軸方向から見て扇型、台形又は等脚台形の形状を有していてもよい。
【0031】
コイル113aは、コイル線材113が磁極111に巻かれることによって形成される。コイル線材113は例えばホローコンダクタであってもよい。配線部113bは、コイル線材113のうちコイル113aを形成しない部分である。また、引出部113cはコイル113aから配線部113bが引き出されている部分である。
【0032】
本実施形態では、コイル線材113の配線部113bは、荷電粒子ビーム進行方向の上流側から磁極111へと引き入れられ、磁極111から同上流側へと引き出される。詳細には、引出部113cは磁極111の下流側(X軸方向-側)に設けられているが、配線部113bは引出部113cから下方(Y軸方向-側)に延び、磁極111の下方(-Y側)を通って上流側(X軸方向+側)へと引き出されている。本実施形態では、磁極111の下流側に向かうほどY軸方向に拡がる形状により磁極111の上流側にスペースが生じているため、配線部113bを上流側に引き出すことにより、この上流側のスペースを有効に活用することができる。例えば、この上流側のスペースに、コイル113aに電流を供給する電源装置等の構成部品を配置することができる。このように、装置全体としての小型化を図ることができる。
【0033】
線材支持部114は、コイル線材113の配線部113bを支持する。本実施形態では、線材支持部114は、コイル線材113の配線部113bが上流側へと引き出されるように、配線部113bを支持する。
【0034】
側板115a~115hは、磁極111の少なくとも一部を覆う部材である。側板115~115hの形状については特に限定されない。本実施形態では、一対のヨーク112の各面に側板115a~115hが適宜設けられている。しかしながら、ヨーク112には側板が設けられない面があってもよい。また、本実施形態では、側板115cに吊り下げ部116が設けられ、側板115eに装着部117a、117bが設けられ、側板115fに装着部117a、117bが設けられ、側板115aにダクト固定部119aが設けられ、側板115bにダクト固定部119bが設けられている。ここで、ダクト固定部119aが設けられる側板115aは、偏向電磁石110の、荷電粒子ビームの進行方向上流側(-X側)を向く面(第1の面の一例)を構成する。また、ダクト固定部119bが設けられる側板115bは、偏向電磁石110の電粒子ビームの進行方向下流側(+X側)を向く面(第2の面の一例)を構成する。
【0035】
吊り下げ部116は、偏向電磁石110を搬送する際に磁極111を吊り下げるために設けられる。吊り下げ部116としては公知のものを適宜用いることができるが、例えばアイボルトを取付可能なボルト穴であってもよいし、フックやロープ等を引っ掛けることのできる形状を有していてもよい。
【0036】
本実施形態では、吊り下げ部116は、偏向電磁石110の上面に設けられている。さらにいえば、吊り下げ部116が設けられる上面が、平面(ZX平面)、より詳細には水平面に形成されている。これにより、吊り下げ部116による偏向電磁石110の移動や設置を容易に行うことができる。
【0037】
装着部117a、117bは、架台130に対して偏向電磁石110を装着するために設けられる。ダクト固定部119a、119bは真空ダクト120を偏向電磁石110に対して固定するために設けられる。
【0038】
<<真空ダクト120>>
真空ダクト120は、荷電粒子ビームの通過領域を真空状態に維持するためのダクトである。なお、本明細書において「真空」とは、大気圧より低い圧力の気体で満たされた状態、換言すれば減圧状態をいう。真空ダクト120は、入口121と、出口122と、拡大部123と、入口側固定部124と、出口側固定部125と、を含む。真空ダクト120は、上流側の入口121において荷電粒子ビーム輸送系30の真空ダクト32と接続する。また、真空ダクト120は、下流側の出口122において、例えば偏向電磁石40を収容するクライオスタット(不図示)に接続する。真空ダクト120は、偏向電磁石40が荷電粒子ビームを偏向できるように、荷電粒子ビームを偏向電磁石40へと導ければよい。すなわち、真空ダクト120の具体的な接続構造は適宜設定可能である。
【0039】
また、本実施形態では、真空ダクト120は、Z軸方向から見て(図4を正面から見て)磁極111と重複する部分を含んでいる。これにより、偏向電磁石110及び真空ダクト120を特に荷電粒子ビームの進行方向(X軸方向)にコンパクトに配置することができ、装置の小型軽量化を図ることができる。
【0040】
さらにいえば、本実施形態では、荷電粒子ビームの進行方向において、 入口121が偏向電磁石110のX軸方向+側の端部よりもX軸方向+側に配置され、出口122が同-X側の端部よりも-X側に配置される。すなわち、X軸方向において、偏向電磁石110の全体が真空ダクト120の幅内に収まっている。これにより、偏向電磁石110及び真空ダクト120を荷電粒子ビームの進行方向(X軸方向)によりコンパクトに配置することができ、装置の小型軽量化を図ることができる。
【0041】
また、本実施形態では、出口122は、偏向電磁石110のX軸方向-X側の端部、具体的にはコイル113aのX軸方向-X側の端部、よりも-X側に配置される。これにより、出口122が偏向電磁石110のX軸方向-X側の端部よりも-X側に配置されない場合と比べて、出口側固定部125の形状を制限なく設定することができる。一例として、本実施形態のように出口122の縁部分から単にZ軸方向に沿って延びるように出口側固定部125を形成することができる。このため、出口側固定部125の形状を複雑化させることなく、出口122側において真空ダクト120を偏向電磁石110に固定することができる。同様に、本実施形態では、入口121が偏向電磁石110のX軸方向+側の端部、具体的にはコイル113aのX軸方向+側の端部よりもX軸方向+側に配置される。これにより、入口121が偏向電磁石110のX軸方向+X側の端部よりも+X側に配置されない場合と比べて、入口側固定部124の形状、構造を制限なく設定することができる。
【0042】
入口側固定部124は、入口121側において、偏向電磁石110のダクト固定部119aに固定される。また、出口側固定部125は、出口122側において、偏向電磁石110のダクト固定部119bに固定される。なお、これらの固定構造については、ボルト締結等の公知の技術を適宜用いることができる。
【0043】
すなわち、本実施形態では、真空ダクト120は、荷電粒子ビームの進行方向の上流側及び下流側において偏向電磁石110に固定される。これにより、偏向電磁石110に真空ダクト120を組み付けた状態でこれらの輸送等が容易になる。すなわち、偏向電磁石110及び真空ダクト120を一つのコンポーネントとして取り扱うことが容易になる。また、偏向電磁石110及び真空ダクト120を予め組み立てた状態で、これらを荷電粒子ビーム輸送系30の真空ダクト32及び偏向電磁石40に対して接続することができるので、荷電粒子ビーム照射装置10全体としての組み立て性の向上も図ることができる。
【0044】
とりわけ、治療施設等に荷電粒子ビーム照射装置10を導入する場合、装置の設置作業をより短期間で行うことが望まれる。荷電粒子ビーム照射装置10は大型の装置であるため、荷電粒子ビーム照射装置10を稼働できる状態とするためには、治療施設内での組み立て、設置作業等が必要となる。しかし、治療施設では、作業スペースや作業設備の不足により、工場等の生産拠点と比較して組み立て、設置作業の効率が相対的に低いことが考えられる。本実施形態では、入口側固定部124、出口側固定部125により偏向電磁石110に対して真空ダクト120を固定可能である。このため、工場等の生産拠点で偏向電磁石110及び真空ダクト120を組み立てた上で、これらを一体的に治療施設等へと輸送することができる。これにより、作業効率が相対的に低い治療施設での作業工数を減らすことができるので、全体としての組み立て作業の効率を向上することができる。また、偏向電磁石110及び真空ダクト120を一つのコンポーネントとして輸送できるので、荷電粒子ビーム照射装置10の導入時に輸送する物の数を減らすことができ、輸送効率の向上や輸送コストの削減を図ることができる。
【0045】
拡大部123は、荷電粒子ビームの進行方向に向かうに従って、振り分け方向に拡がる部分である。拡大部123は、偏向電磁石110によって偏向された荷電粒子ビームが真空ダクト120を通過できるように形成される。拡大部123が、荷電粒子ビームの通過範囲に対応して形成されることにより、真空ダクト120の小型軽量化を図ることができる。また、本実施形態では、拡大部123の形状は、磁極111の形状に対応するように設定されている。
【0046】
また、拡大部123により、真空ダクト120は全体として扇型の形状を有している。XY面における真空ダクト120を扇型状とすることで、所定の偏向角φで偏向された荷電粒子ビームであっても真空ダクト内を通過でき、矩形状のものと比べて小型化でき、設置スペースを低減できる。
【0047】
<<架台130>>
図6は、架台130の概要を示す斜視図である。図7は、偏向電磁石装置100の概要を示す斜視図であって、偏向電磁石110が架台130に支持された状態を示す図である。
【0048】
架台130は、偏向電磁石110のZ軸方向を向く側面を挟んで回動可能に支持する。これにより、偏向電磁石110のピッチ方向の位置調整を容易に行うことができる。特に、荷電粒子ビーム照射装置10に用いられる偏向電磁石装置100は比較的大型で重量が大きく、位置の微調整に手間がかかる場合がある。本実施形態では、位置の微調整の容易に行えることで、装置の組み立て性をより向上することができる。本実施形態では、架台130は、ベース部131と、回動支持部132a、132bと、を含む。なお、回動支持部の数は適宜変更可能であり、1つ又は3つ以上でもよい。
【0049】
ベース部131は、一対の支柱131a及び一対の支柱131bを含む。一対の支柱131aの上部には回動支持部132aが設けられ一対の支柱131bの上部には、回動支持部132bが設けられる。
【0050】
回動支持部132aは、偏向電磁石110の装着部117aを回動可能に支持する。また、回動支持部132bは、偏向電磁石110の装着部117bを回動可能に支持する。回動支持部132a及び回動支持部132bはそれぞれ、偏向電磁石110の両側面(XY面)を挟持して偏向電磁石110を回動可能に支持する。回動支持部132aによって、第1の仮想軸線VL1周りに偏向電磁石110を回動可能に支持することができる。また、回動支持部132bによって、第2の仮想軸線VL2周りに偏向電磁石110を回動可能に支持することができる。すなわち、本実施形態では、偏向電磁石110を2つの仮想軸周りに回動可能に支持することができる。
【0051】
図4を併せて参照する。本実施形態では、装着部117bが偏向電磁石装置100の重心Gよりも上方(Y軸方向+側)に設けられている。このため、偏向電磁石110が回動支持部132bによって第2の仮想軸線VL2周りに回動可能に支持された場合に、偏向電磁石装置100が吊り下げられる状態になるため、偏向電磁石装置100の安定性が増す。また、装着部117bは、荷電粒子ビームの進行方向(X軸方向)において下流側(-側)に偏って配置されている。本実施形態では、偏向電磁石装置100は下流側(-側)に向かうに従ってY軸方向の幅が拡がるように形成されているので、重心Gが下流側(-側)に寄って位置することになる。よって、装着部117bを下流側(-側)に偏って配置することで、第2の仮想軸線VL2が重心Gに近づきやすくなり、第2の仮想軸線VL2周りに回動可能に偏向電磁石装置100を支持した場合の安定性が増すことになる。例えば、装着部117bは、偏向電磁石装置100の、X軸方向-側の2分の1の領域、或いは3分の1の領域に設けられてもよい。
【0052】
また、本実施形態では、装着部117aが重心GよりもX軸方向+側に設けられ、装着部117bが重心GよりもX軸方向-側に設けられる。すなわち、X軸方向において装着部117a、117bが重心Gを挟むように設けられる。このため、装着部117a、117bがそれぞれ回動支持部132a、132bに支持された際の安定性の向上を図ることができる。さらに、本実施形態では、装着部117aが重心GよりもY軸方向-側に設けられ、装着部117bが重心GよりもY軸方向+側に設けられる。これにより、第1の仮想軸線VL1及び第2の仮想軸線VL2間の距離が拡がるので、装着部117a、117bがそれぞれ回動支持部132a、132bに指示された際の安定性の向上を図ることができる。
【0053】
また、本実施形態では、回動支持部132a及び回動支持部132bは、偏向電磁石110の支持構造としてトラニオン構造を採用している。しかしながら、支持構造については公知の技術を適宜採用可能である。また、本実施形態では、回動支持部132a、132bに設けられた凸状の部分と装着部117a、117bに設けられた凹状の部分とが回動可能に設けられているが、これらの凹凸の関係は逆でもよい。
【0054】
また、架台130は、回動支持部132a、132bの位置を調整するための調整部133を含む。調整部133は、各支柱131a、131bのそれぞれに設けられるY軸方向調整機構133a及びXZ方向調整機構133bを含む。Y軸方向調整機構133aは、回動支持部132a、132bのY軸方向(鉛直方向)の位置を調整可能である。XZ方向調整機構133bは、回動支持部132a、132bXZ方向(水平方向)。Y軸方向調整機構133a及びXZ方向調整機構133bの構造についてはボールねじ機構等の公知のものを適宜用いることができる。また、ここではY軸方向調整機構133a及びXZ方向調整機構133bが別々に設けられているが、これらが一体的に設けられてもよいし、X軸方向の調整機構とZ軸方向の調整機構とが別々に設けられてもよい。
【0055】
回動支持部132a、132bは、調整部133によって各支柱131a、131bに対して所定の範囲でXYZ方向に変位可能であるとともに、変位可能な範囲内の任意の位置で位置決め可能(固定可能)に設けられている。偏向電磁石110の位置調整を行う場合には、回動支持部132a、132bの一方の位置を固定し、固定した回動支持部の回動軸周りに偏向電磁石110を移動させて微調整を行う。そして、偏向電磁石110の位置が決まったら、その位置で他方の回動支持部を装着部と係合する位置で固定する。また、本実施形態では、Y軸方向調整機構133aによって回動支持部132a、132bの高さを微調整できることにより、偏向電磁石110のロール方向の調整が容易になる。
【0056】
図8(a)、8(b)は、回動支持部132a、132bによる偏向電磁石110の位置調整の説明図である。
【0057】
図8(a)は、偏向電磁石110を第1の仮想軸線VL1周りに回動させて位置調整をする例を示している。調整中は、回動支持部132aにより装着部117aが回動可能に支持されている一方で、装着部117bは回動支持部132bにより支持されていない。すなわち、装着部117bと回動支持部132bとは相対移動可能な状態となっている。例えば、作業者は、出口122がX軸方向よりも下方を向く偏向電磁石110(破線参照)を、出口122がX軸方向を向くように第1の仮想軸線VL1周りに回転させる(実線参照)。そして、位置調整後に回動支持部132bにより装着部117bを支持することによって、偏向電磁石110の位置を確定することができる。
【0058】
一方、図8(b)は、偏向電磁石110を第2の仮想軸線VL2周りに回動させて位置調整をする例を示している。調整中は、回動支持部132bにより装着部117bが回動可能に支持されている一方で、装着部117aは回動支持部132aにより支持されていない。すなわち、装着部117aと回動支持部132aとは相対移動可能な状態となっている。例えば、作業者は、出口122がX軸方向よりも下方を向く偏向電磁石110(破線参照)を、出口122がX軸方向を向くように第2の仮想軸線VL2周りに回転させる(実線参照)。そして、位置調整後に回動支持部132aにより装着部117aを支持することによって、偏向電磁石110の位置を確定することができる。
【0059】
ここで、図8(a)に示す位置調整後の偏向電磁石110の位置と図8(b)に示す位置調整後の偏向電磁石110の位置とを比較すると、位置調整前(破線参照)の偏向電磁石110の位置に対する相対位置が異なっていることが分かる。よって、例えば、偏向電磁石110を架台130に対して仮組みした後に、仮組み時点での偏向電磁石110の位置と所望の位置との位置関係に応じて第1の仮想軸線VL1と第2の仮想軸線VL2のどちらの軸線周りに位置調整を行うかを選択することで、調整後の位置を所望の位置により近づけることができる。これにより、特に偏向電磁石110のピッチ方向の微調整を容易に行うことができ。なお、位置調整時に、第1の仮想軸線VL1周りの調整と、第2の仮想軸線VL2周りの調整の両方を行うことも可能である。
【0060】
上記で説明される寸法、材料、形状、構成要素の相対的な位置等は、本発明が適用される装置の構造又は様々な条件に応じて変更される。説明に用いた特定の用語及び実施形態に限定されることは意図しておらず、当業者であれば、他の同等の構成要素を使用することができ、上記実施形態は、本発明の趣旨又は範囲から逸脱しない限り、他の変形及び変更も可能である。また、本発明の一つの実施形態に関連して説明した特徴を、たとえ明確に前述していなくても、他の形態とともに用いることも可能である。
【符号の説明】
【0061】
10:荷電粒子ビーム照射装置
100:偏向電磁石装置
110:偏向電磁石
111:磁極
120:真空ダクト
124:入口側固定部
125:出口側固定部
130:架台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8