(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136535
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ガスセンサ素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20240927BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240927BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01N27/409 100
G01N27/416 331
G01N27/419 327C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047679
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】山田 明里
(72)【発明者】
【氏名】神 有輝
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004ZA04
(57)【要約】
【課題】素子基体の内部空間に設けられる拡散律速部に係る工夫と両立可能な方法によって、測定空間における脈動の、前記内部空間における被測定ガスの圧力への影響を抑制する。
【解決手段】本発明の一側面に係るガスセンサ素子は、素子基体のガス導入口が開口している面に接して、少なくとも前記ガス導入口を覆う導入口保護層を備え、前記導入口保護層の厚みは、100μm以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に開口したガス導入口から被測定ガスが内部空間へと導入される素子基体と、
前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面に接して、少なくとも前記ガス導入口を覆う導入口保護層と、
前記導入口保護層と、前記素子基体の、少なくとも前記ガス導入口が開口している面以外の面と、に接して、前記素子基体の、前記ガス導入口が開口している側の所定範囲を覆う周囲保護層と、
を備え、
前記導入口保護層および前記周囲保護層は、それぞれ、多孔質体からなり、
前記導入口保護層の気孔率よりも、前記周囲保護層の気孔率の方が高く、
前記導入口保護層の厚みは、100μm以上である、
ガスセンサ素子。
【請求項2】
前記周囲保護層の厚みは、前記導入口保護層の厚み以上である、
請求項1に記載のガスセンサ素子。
【請求項3】
前記導入口保護層および前記周囲保護層よりも外側に配置され、少なくとも前記周囲保護層に接する外側保護層をさらに備え、
前記導入口保護層の気孔率は、前記外側保護層の気孔率以上である、
請求項1または2に記載のガスセンサ素子。
【請求項4】
前記導入口保護層の気孔率は、10%以上である、
請求項1または2に記載のガスセンサ素子。
【請求項5】
前記導入口保護層の気孔率は、45%以下である、
請求項1または2に記載のガスセンサ素子。
【請求項6】
前記導入口保護層の厚みは、900μm以下である、
請求項1または2に記載のガスセンサ素子。
【請求項7】
前記周囲保護層の気孔率は、35%以上である、
請求項1または2に記載のガスセンサ素子。
【請求項8】
前記周囲保護層の気孔率は、70%以下である、
請求項1または2に記載のガスセンサ素子。
【請求項9】
前記周囲保護層の厚みは、200μm以上である、
請求項1または2に記載のガスセンサ素子。
【請求項10】
前記周囲保護層の厚みは、900μm以下である、
請求項1または2に記載のガスセンサ素子。
【請求項11】
前記外側保護層の気孔率は、10%以上である、
請求項3に記載のガスセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガス等の被測定ガスにおける酸素やNOxなどの特定ガスの濃度を検出するガスセンサ素子について、表面に開口したガス導入口から被測定ガスが内部空間へと導入される素子基体を備えるガスセンサ素子が知られている。
【0003】
ここで、上述のガスセンサ素子を備えるガスセンサが配置される排気管などの測定空間における被測定ガスの圧力の急激な変動に合わせて、素子基体の内部空間へと導入される被測定ガスの圧力までもが急激に変動してしまうと、以下の問題が発生する。すなわち、ガスセンサ素子のセンサ出力(センサ信号)が、素子基体の内部空間における被測定ガスの圧力変動に影響を受けて変動してしまい、ガスセンサが特定ガスの濃度を精緻に測定できなくなる可能性がある。なお、ガスセンサが配置される排気管などの測定空間における被測定ガスの圧力の変動は「脈動」とも呼ばれる。上述のとおり、排気管などの測定空間における脈動によって、素子基体の内部空間における被測定ガスの圧力が変動すると、特定ガスの濃度の精緻な測定が困難となり得るため、係る脈動の影響を抑制するための様々な試みがなされている。例えば、下掲の特許文献1には、以下の構成を備えることで、被測定ガス中に発生する排気圧の脈動の影響を回避して、測定電極(検出電極)での測定精度の向上を実現するガスセンサが開示されている。すなわち、ガス導入口と、係るガス導入口を介して取り込まれた被測定ガスが導入される内部空所との間に、ガスセンサ素子の長辺方向に並ぶ2つの拡散律速部を形成し、各拡散律速部の開口のサイズを調整したガスセンサ素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件発明者らは、表面に開口したガス導入口から被測定ガスが内部空間へと導入される素子基体を備えるガスセンサ素子について、脈動の、素子基体の内部空間における被測定ガスの圧力への影響を抑制する方法をさらに検討した。特に、本件発明者らは、素子基体の内部空間に設けられる拡散律速部に係る工夫と両立可能な方法によって、脈動の、前記内部空間における被測定ガスの圧力への影響を抑制する方法をさらに検討した。その結果、本件発明者らは、少なくともガス導入口を覆う保護層を、素子基体の表面に設けることによっても、前記脈動の、前記内部空間における被測定ガスの圧力への影響を抑制できることを確認した。
【0006】
本発明は、一側面では、このような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、素子基体の内部空間に設けられる拡散律速部に係る工夫と両立可能な方法によって、測定空間における脈動の、前記内部空間における被測定ガスの圧力への影響を抑制したガスセンサ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0008】
第1の観点に係るガスセンサ素子は、表面に開口したガス導入口から被測定ガスが内部空間へと導入される素子基体と、前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面に接して、少なくとも前記ガス導入口を覆う導入口保護層と、前記導入口保護層と、前記素子基体の、少なくとも前記ガス導入口が開口している面以外の面と、に接して、前記素子基体の、前記ガス導入口が開口している側の所定範囲を覆う周囲保護層と、を備え、前記導入口保護層および前記周囲保護層は、それぞれ、多孔質体からなり、前記導入口保護層の気孔率よりも、前記周囲保護層の気孔率の方が高く、前記導入口保護層の厚みは、100μm以上である。
【0009】
当該構成では、前記ガスセンサ素子は、前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面に接して、少なくとも前記ガス導入口を覆う前記導入口保護層と、前記周囲保護層と、を備える。そして、前記ガスセンサ素子において、前記導入口保護層および前記周囲保護層は、それぞれ、多孔質体からなり、前記導入口保護層の気孔率よりも、前記周囲保護層の気孔率の方が高く、前記導入口保護層の厚みは、100μm以上である。
【0010】
本件発明者らは、前記内部空間内での工夫と両立可能な方法によって、測定空間における脈動の、前記内部空間における被測定ガスの圧力への影響を抑制する方法を検討した。その結果、本件発明者らは、少なくとも前記ガス導入口を覆う保護層を、素子基体の表面に設けることによっても、前記脈動の、前記内部空間における被測定ガスの圧力への影響を抑制できることを確認した。そして、本件発明者らは、前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面に接して、少なくとも前記ガス導入口を覆う前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制できることを確認した。したがって、前記ガスセンサ素子は、前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制することができ、特に、前記内部空間内での工夫と両立可能な前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制することができるとの効果を奏する。
【0011】
また、ガスセンサが水に濡れてしまうと、被水割れ、起動時間の増大などの様々な問題が生じることが知られている。そこで、前記ガスセンサ素子は、例えば、前記素子基体の、被水の可能性がある表面を、前記導入口保護層と前記周囲保護層とによって覆うことで、前記ガスセンサ素子の被水を抑制し、つまり、耐被水性を高めている。したがって、前記ガスセンサ素子は、前記導入口保護層と、前記ガス導入口が開口している側の所定範囲(例えば、被水の可能性がある範囲)を覆う前記周囲保護層とによって、良好な耐被水性を実現するとの効果を奏する。
【0012】
本件発明者らは、さらに検討を重ね、前記導入口保護層の気孔率を前記周囲保護層の気孔率以上とすると、以下の問題が生じることを見出した。すなわち、前記導入口保護層の気孔率を前記周囲保護層の気孔率以上とすると、前記導入口保護層によって前記脈動の影響を十分に抑制することができなくなるとの問題が生じることを、本件発明者らは確認した。そこで、前記ガスセンサ素子は、前記導入口保護層の気孔率を前記周囲保護層の気孔率よりも低くすることで、前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を確実に抑制する。したがって、前記ガスセンサ素子は、前記周囲保護層よりも気孔率の低い前記導入口保護層によって前記脈動の影響を確実に抑制でき、特に、前記内部空間内での工夫と両立可能な前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制することができるとの効果を奏する。
【0013】
また、本件発明者らは、前記導入口保護層の厚みを100μm未満とすると、前記導入口保護層による、前記脈動の影響の抑制効果が、十分に発揮されないことを確認した。そこで、前記ガスセンサ素子は、前記導入口保護層の厚みを100μm以上とすることで、前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を確実に抑制する。したがって、前記ガスセンサ素子は、厚みが100μm以上である前記導入口保護層によって前記脈動の影響を確実に抑制でき、特に、前記内部空間内での工夫と両立可能な前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制することができるとの効果を奏する。
【0014】
第2の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1の観点に係るガスセンサ素子において、前記周囲保護層の厚みは、前記導入口保護層の厚み以上であってもよい。当該構成では、前記ガスセンサ素子において、前記周囲保護層の厚みは、前記導入口保護層の厚み以上である。前述のとおり、前記導入口保護層の厚みは100μm以上であり、前記導入口保護層によって、測定空間における前記脈動の、前記内部空間における被測定ガスの圧力への影響を抑制する。本件発明者らは、実験により、前記周囲保護層の厚みを前記導入口保護層の厚みよりも小さくすると、前記ガスセンサ素子の耐被水性が悪化することを確認した。前記周囲保護層の厚みを前記導入口保護層の厚みよりも小さくすると、前記導入口保護層の少なくとも一部が、前記周囲保護層の外側に露出することになり、前記周囲保護層および前記導入口保護層の少なくとも一方が破損しやすくなり、上述の耐被水性が悪化する。そこで、前記ガスセンサ素子は、前記周囲保護層の厚みを前記導入口保護層の厚み以上とすることで、前記ガスセンサ素子の耐被水性を維持、向上させる。したがって、前記ガスセンサ素子は、前記導入口保護層の厚み以上の厚みを有する前記周囲保護層によって、良好な耐被水性を実現するとの効果を奏する。
【0015】
第3の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1または第2の観点に係るガスセンサ素子において、前記導入口保護層および前記周囲保護層よりも外側に配置され、少なくとも前記周囲保護層に接する外側保護層をさらに備えていてもよく、前記導入口保護層の気孔率は、前記外側保護層の気孔率以上であってもよい。
【0016】
当該構成では、前記ガスセンサ素子は、前記導入口保護層および前記周囲保護層よりも外側に配置され、少なくとも前記周囲保護層に接する前記外側保護層をさらに備え、前記導入口保護層の気孔率は、前記外側保護層の気孔率以上である。
【0017】
前記ガスセンサ素子は、前記導入口保護層および前記周囲保護層よりも外側に配置される前記外側保護層によって、前記外側保護層を備えない場合よりもさらに、耐被水性を向上させることができるとの効果を奏する。
【0018】
また、前記導入口保護層の気孔率を前記外側保護層の気孔率よりも小さくすると、前記導入口保護層によって被測定ガスの前記内部空間への導入が過剰に制約され、結果として、前記ガスセンサ素子の応答性、測定精度等が悪化する。そこで、前記ガスセンサ素子は、前記導入口保護層の気孔率を前記外側保護層の気孔率以上とすることで、前記ガスセンサ素子の応答性、測定精度等の悪化を回避する。
【0019】
したがって、前記ガスセンサ素子は、前記ガスセンサ素子の応答性等を悪化させることなく、前記内部空間内での工夫と両立可能な、前記外側保護層以上の気孔率を有する前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制することができるとの効果を奏する。
【0020】
第4の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1から上記第3の何れかの観点に係るガスセンサ素子において、前記導入口保護層の気孔率は、10%以上であってもよい。当該構成では、前記導入口保護層の気孔率は、10%以上である。前記導入口保護層の気孔率を10%未満とすると、前記導入口保護層によって被測定ガスの前記内部空間への導入が制約され、つまり、前記内部空間へと導入される被測定ガスのガス流量が小さくなって、前記ガスセンサ素子の応答性、測定精度等が悪化する。そこで、前記ガスセンサ素子は、前記導入口保護層の気孔率を10%以上とすることで、前記ガスセンサ素子の応答性、測定精度等の悪化を回避する。したがって、前記ガスセンサ素子は、前記ガスセンサ素子の応答性等を悪化させることなく、前記内部空間内での工夫と両立可能な、10%以上の気孔率を有する前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制することができるとの効果を奏する。
【0021】
第5の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1から上記第4の何れかの観点に係るガスセンサ素子において、前記導入口保護層の気孔率は、45%以下であってもよい。当該構成では、前記導入口保護層の気孔率は、45%以下である。前記導入口保護層の気孔率を45%より大きくすると、前記導入口保護層によって前記脈動の影響を十分に抑制することができなくなるとの問題が生じることを、本件発明者らは確認した。そこで、前記ガスセンサ素子は、前記導入口保護層の気孔率を45%以下とすることで、前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を確実に抑制する。したがって、前記ガスセンサ素子は、45%以下の気孔率を有する前記導入口保護層によって前記脈動の影響を確実に抑制でき、特に、前記内部空間内での工夫と両立可能な前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制することができるとの効果を奏する。
【0022】
第6の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1から上記第5の何れかの観点に係るガスセンサ素子において、前記導入口保護層の厚みは、900μm以下であってもよい。当該構成では、前記導入口保護層の厚みは、900μm以下である。前記導入口保護層の厚みを900μmよりも大きくすると、前記導入口保護層によって被測定ガスの前記内部空間への導入が過剰に制約され、結果として、前記ガスセンサ素子の応答性、測定精度等が悪化する。そこで、前記ガスセンサ素子は、前記導入口保護層の厚みを900μm以下とすることで、前記ガスセンサ素子の応答性、測定精度等の悪化を回避する。したがって、前記ガスセンサ素子は、前記ガスセンサ素子の応答性等を悪化させることなく、前記内部空間内での工夫と両立可能な前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制することができるとの効果を奏する。
【0023】
第7の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1から上記第6の何れかの観点に係るガスセンサ素子において、前記周囲保護層の気孔率は、35%以上であってもよい。当該構成では、前記周囲保護層の気孔率は、35%以上である。上述のとおり、前記周囲保護層の気孔率の方が、前記導入口保護層の気孔率よりも高い。本件発明者らは、前記周囲保護層の気孔率を35%未満とすると、前記ガスセンサ素子の耐被水性が悪化することを確認した。そこで、前記ガスセンサ素子は、前記周囲保護層の気孔率を35%以上とすることで、前記ガスセンサ素子の耐被水性の悪化を回避する。したがって、前記ガスセンサ素子は、耐被水性を悪化させることなく、前記内部空間内での工夫と両立可能な前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制することができるとの効果を奏する。
【0024】
第8の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1から上記第7の何れかの観点に係るガスセンサ素子において、前記周囲保護層の気孔率は、70%以下であってもよい。当該構成では、前記周囲保護層の気孔率は、70%以下である。本件発明者らは、前記周囲保護層の気孔率を70%よりも大きくすると、前記周囲保護層が、耐被水性の向上との効果を十分に発揮することができなくなることを確認した。そこで、前記ガスセンサ素子は、前記周囲保護層の気孔率を70%以下とすることで、前記周囲保護層によって、前記ガスセンサ素子の耐被水性を確実に向上させる。したがって、前記ガスセンサ素子は、耐被水性を確実に向上させつつ、前記内部空間内での工夫と両立可能な前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制することができるとの効果を奏する。
【0025】
第9の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1から上記第8の何れかの観点に係るガスセンサ素子において、前記周囲保護層の厚みは、200μm以上であってもよい。当該構成では、前記周囲保護層の厚みは、200μm以上である。前記周囲保護層の厚みを200μm未満とすると、前記周囲保護層は、耐被水性の向上との効果を十分に発揮することができなくなる。そこで、前記ガスセンサ素子は、前記周囲保護層の厚みを200μm以上とすることで、前記周囲保護層によって、前記ガスセンサ素子の耐被水性を確実に向上させる。したがって、前記ガスセンサ素子は、耐被水性を確実に向上させつつ、前記内部空間内での工夫と両立可能な前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制することができるとの効果を奏する。
【0026】
第10の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1から上記第9の何れかの観点に係るガスセンサ素子において、前記周囲保護層の厚みは、900μm以下であってもよい。当該構成では、前記周囲保護層の厚みは、900μm以下である。前記周囲保護層の厚みを900μmよりも大きくすると、前記周囲保護層によって被測定ガスの前記内部空間への導入が制約され、前記ガスセンサ素子の応答性、測定精度等の悪化が発生し得る。そこで、前記ガスセンサ素子は、前記周囲保護層の厚みを900μm以下とすることで、前記ガスセンサ素子の応答性、測定精度の悪化等を回避する。したがって、前記ガスセンサ素子は、前記ガスセンサ素子の応答性等を悪化させることなく、前記内部空間内での工夫と両立可能な前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制することができるとの効果を奏する。
【0027】
第11の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1から上記第10の何れかの観点に係るガスセンサ素子において、前記外側保護層の気孔率は、10%以上であってもよい。当該構成では、前記外側保護層の気孔率は、10%以上である。上述のとおり、前記外側保護層は、前記導入口保護層および前記周囲保護層よりも外側に配置され、また、前記外側保護層の気孔率は、前記導入口保護層の気孔率以下である。そして、前記外側保護層の気孔率を10%未満とすると、前記外側保護層によって被測定ガスの前記内部空間への導入が制約され、前記ガスセンサ素子の応答性、測定精度等の悪化が発生し得る。そこで、前記ガスセンサ素子は、前記外側保護層の気孔率を10%以上とすることで、前記ガスセンサ素子の応答性、測定精度の悪化等を回避する。したがって、前記ガスセンサ素子は、前記ガスセンサ素子の応答性等を悪化させることなく、前記内部空間内での工夫と両立可能な前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制することができるとの効果を奏する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、素子基体の内部空間に設けられる拡散律速部に係る工夫と両立可能な方法によって、測定空間における脈動の、前記内部空間における被測定ガスの圧力への影響を抑制したガスセンサ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、実施の形態に係るガスセンサ素子の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、
図1のガスセンサ素子の備える素子基体の主要な構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
【
図3】
図3は、変形例1に係るガスセンサ素子の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
【
図4】
図4は、変形例2に係るガスセンサ素子の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
【
図5】
図5は、変形例3に係るガスセンサ素子の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
【
図6】
図6は、変形例4に係るガスセンサ素子の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0031】
本件発明者らは、表面に開口したガス導入口から被測定ガスが内部空間へと導入される素子基体を備えるガスセンサ素子について、測定空間における脈動の、前記内部空間における被測定ガスの圧力への影響を抑制する方法を検討した。特に、本件発明者らは、前記内部空間における工夫、具体的には、前記内部空間に拡散律速部を設けることで前記脈動の影響を抑制するとの工夫と両立可能な方法によって、前記脈動の影響を抑制する方法を検討した。
【0032】
その結果、本件発明者らは、少なくとも前記ガス導入口を覆う保護層を、前記素子基体の表面に設けることによっても、前記脈動の影響を抑制できることを確認した。すなわち、本件発明者らは、前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面に接して、少なくとも前記ガス導入口を覆う前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制できることを確認した。
【0033】
そこで、本発明の一態様に係るガスセンサ素子は、前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面に接して、少なくとも前記ガス導入口を覆う前記導入口保護層を備える。係る構成により、本発明の一態様に係るガスセンサ素子は、前記ガスセンサ素子は、前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制することができ、特に、前記内部空間内での工夫と両立可能な前記導入口保護層によって、前記脈動の影響を抑制することができる。以下では先ず、
図1を用いて、本発明の一態様に係るガスセンサ素子として、ガスセンサ素子101について説明する。
【0034】
[構成例]
図1は、本実施形態に係るガスセンサ素子101の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。ガスセンサ素子101は、例えば、長手方向(軸方向)に沿って延びる細長な長尺の板状体形状を呈し、また、例えば、直方体状に形成される。
図1に例示するガスセンサ素子101は、長手方向それぞれの端部として先端部および後端部を有しており、以下の説明においては、先端部を
図1の左側の端部(つまり、前側の端部)とし、後端部を
図1の右側の端部(つまり、後側の端部)とする。しかしながら、ガスセンサ素子101の形状は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。なお、以下の説明においては、
図1の紙面奥側をガスセンサ素子101の右側とし、紙面手前側をガスセンサ素子101の左側とする。また、
図1の紙面上側をガスセンサ素子101の上側とし、紙面下側をガスセンサ素子101の下側とする。
【0035】
図1に例示するように、ガスセンサ素子101は、素子基体100と、導入口保護層200と、周囲保護層300と、を備える。素子基体100の表面には、ガス導入口10が開口しており、係るガス導入口10から、被測定ガスが、素子基体100の内部空間である被測定ガス流通部7へと導入される。
図1に示す例では、素子基体100の前側(先端側)の表面にガス導入口10が開口している。以下の説明においては、素子基体100の前側(先端側)の表面を、素子基体100の「先端面」と称することがある。
【0036】
図1に示す例では、素子基体100の被測定ガス流通部7には、ガス導入口10から被測定ガス流通部7へと導入された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する拡散律速部11、13、16、18が設けられている。また、素子基体100の厚み方向(紙面上下方向)において、素子基体100の上側の面(上面)には外側ポンプ電極23が配設されており、素子基体100の下側の面(下面)に近い位置には、ヒータ70が配置されている。ヒータ70は、ヒータエレメント72に給電することによりヒータエレメント72を発熱させ、素子基体100を加熱して保温する。素子基体100の詳細については、
図2を用いて後述する。
【0037】
導入口保護層200は、素子基体100のガス導入口10が開口している面に接して、少なくともガス導入口10を覆う。
図1に示す例では、導入口保護層200は、ガス導入口10が開口している素子基体100の先端面の全体に接して、ガス導入口10を覆っている。
【0038】
周囲保護層300は、導入口保護層200と、素子基体100の、少なくともガス導入口10が開口している面以外の面と、に接して、素子基体100の、ガス導入口10が開口している側の所定範囲を覆う。
図1に示す例では、周囲保護層300は、導入口保護層200と、素子基体100の上面および下面とに接している。図には示されていないが、周囲保護層300は、さらに、素子基体100の先端側の側面(左面および右面)に接していてもよい。
図1に例示する周囲保護層300は、導入口保護層200と、少なくとも素子基体100の上面および下面とに接して、素子基体100の先端側の所定範囲を覆っている。
【0039】
導入口保護層200および周囲保護層300は、それぞれ、多孔質体からなり、導入口保護層200の気孔率よりも、周囲保護層300の気孔率の方が高い。導入口保護層200の厚みTh1は、100μm以上である。
【0040】
図1に例示するように、導入口保護層200は、被測定ガス流通部7に設けられた拡散律速部11、13、16、18から独立して、ガス導入口10を覆っている。そのため、ガスセンサ素子101は、被測定ガス流通部7に配置される1つ以上の拡散律速部(例えば、拡散律速部11、13、16、18)と両立可能な導入口保護層200によって、測定空間における脈動の、被測定ガス流通部7における被測定ガスの圧力への影響を抑制することができる。すなわち、ガスセンサ素子101は、被測定ガス流通部7での工夫と両立可能な導入口保護層200によって、上述の脈動の影響を抑制することができる。
【0041】
ガスセンサ素子101において、周囲保護層300の厚みTh2は、導入口保護層200の厚みTh1以上であってもよい。
図1に例示するガスセンサ素子101において、導入口保護層200の厚みTh1と、周囲保護層300の厚みTh2とは等しい。
【0042】
前述のとおり、導入口保護層200の厚みTh1は100μm以上であり、ガスセンサ素子101は、導入口保護層200によって、測定空間における脈動の、被測定ガス流通部7における被測定ガスの圧力への影響を抑制する。本件発明者らは、実験により、周囲保護層300の厚みを導入口保護層200の厚みよりも小さくすると、ガスセンサ素子101の耐被水性が悪化することを確認した。周囲保護層300の厚みを導入口保護層200の厚みよりも小さくすると、導入口保護層200の少なくとも一部が、周囲保護層300の外側に露出することになり、周囲保護層300および導入口保護層200の少なくとも一方が破損しやすくなり、上述の耐被水性が悪化する。そこで、ガスセンサ素子101は、周囲保護層300の厚みを導入口保護層200の厚み以上とすることで、ガスセンサ素子101の耐被水性を維持、向上させる。したがって、ガスセンサ素子101は、導入口保護層200の厚み以上の厚みを有する周囲保護層300によって、良好な耐被水性を実現する。
【0043】
ガスセンサ素子101は、導入口保護層200および周囲保護層300よりも外側に配置され、少なくとも周囲保護層300に接する外側保護層400をさらに備えてもよい。
図1に例示するガスセンサ素子101は、導入口保護層200および周囲保護層300よりも外側に配置され、導入口保護層200および周囲保護層300に接する外側保護層400を備える。外側保護層400は、例えば、多孔質体からなる。導入口保護層200の気孔率は、外側保護層400の気孔率以上とするのが望ましい。
【0044】
ガスセンサ素子101は、導入口保護層200および周囲保護層300よりも外側に配置される外側保護層400によって、外側保護層400を備えない場合よりもさらに、耐被水性を向上させることができる。
【0045】
また、導入口保護層200の気孔率を外側保護層400の気孔率よりも小さくすると、導入口保護層200によって被測定ガスの被測定ガス流通部7への導入が過剰に制約され、結果として、ガスセンサ素子101の応答性、測定精度等が悪化する。そこで、ガスセンサ素子101は、導入口保護層200の気孔率を外側保護層400の気孔率以上とすることで、ガスセンサ素子101の応答性、測定精度等の悪化を回避する。
【0046】
したがって、ガスセンサ素子101は、ガスセンサ素子101の応答性等を悪化させることなく、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な、外側保護層400以上の気孔率を有する導入口保護層200によって、脈動の影響を抑制することができる。
【0047】
ガスセンサ素子101において、導入口保護層200の気孔率は、10%以上であってもよい。導入口保護層200の気孔率を10%未満とすると、導入口保護層200によって被測定ガスの被測定ガス流通部7への導入が過剰に制約され、つまり、被測定ガス流通部7へと導入される被測定ガスのガス流量が小さくなって、ガスセンサ素子101の応答性、測定精度等が悪化する。そこで、ガスセンサ素子101は、導入口保護層200の気孔率を10%以上とすることで、ガスセンサ素子101の応答性、測定精度等の悪化を回避する。したがって、ガスセンサ素子101は、ガスセンサ素子101の応答性等を悪化させることなく、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な、10%以上の気孔率を有する導入口保護層200によって、脈動の影響を抑制することができる。
【0048】
ガスセンサ素子101において、導入口保護層200の気孔率は、45%以下であってもよい。導入口保護層200の気孔率を45%より大きくすると、導入口保護層200によって脈動の影響を十分に抑制することができなくなるとの問題が生じることを、本件発明者らは確認した。そこで、ガスセンサ素子101は、導入口保護層200の気孔率を45%以下とすることで、導入口保護層200によって、脈動の影響を確実に抑制する。したがって、ガスセンサ素子101は、45%以下の気孔率を有する導入口保護層200によって脈動の影響を確実に抑制でき、特に、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層200によって、脈動の影響を抑制することができる。
【0049】
ガスセンサ素子101において、導入口保護層200の厚みTh1は、900μm以下であってもよい。導入口保護層200の厚みTh1を900μmよりも大きくすると、導入口保護層200によって被測定ガスの被測定ガス流通部7への導入が過剰に制約され、結果として、ガスセンサ素子101の応答性、測定精度等が悪化する。そこで、ガスセンサ素子101は、導入口保護層200の厚みTh1を900μm以下とすることで、ガスセンサ素子101の応答性、測定精度等の悪化を回避する。したがって、ガスセンサ素子101は、ガスセンサ素子101の応答性等を悪化させることなく、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層200によって、脈動の影響を抑制することができる。
【0050】
ガスセンサ素子101において、周囲保護層300の気孔率は、35%以上であってもよい。上述のとおり、周囲保護層300の気孔率の方が、導入口保護層200の気孔率よりも高い。本件発明者らは、周囲保護層300の気孔率を35%未満とすると、ガスセンサ素子101の耐被水性が悪化することを確認した。そこで、ガスセンサ素子101は、周囲保護層300の気孔率を35%以上とすることで、ガスセンサ素子101の耐被水性の悪化を回避する。したがって、ガスセンサ素子101は、耐被水性を悪化させることなく、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層200によって、脈動の影響を抑制することができる。
【0051】
ガスセンサ素子101において、周囲保護層300の気孔率は、70%以下であってもよい。本件発明者らは、周囲保護層300の気孔率を70%よりも大きくすると、周囲保護層300が、耐被水性の向上との効果を十分に発揮することができなくなることを確認した。そこで、ガスセンサ素子101は、周囲保護層300の気孔率を70%以下とすることで、周囲保護層300によって、ガスセンサ素子101の耐被水性を確実に向上させる。したがって、ガスセンサ素子101は、耐被水性を確実に向上させつつ、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層200によって、脈動の影響を抑制することができる。
【0052】
ガスセンサ素子101において、周囲保護層300の厚みTh2は、200μm以上であってもよい。周囲保護層300の厚みTh2を200μm未満とすると、周囲保護層300は、ガスセンサ素子101の被水性の向上との効果を十分に発揮することができなくなる。そこで、ガスセンサ素子101は、周囲保護層300の厚みTh2を200μm以上とすることで、周囲保護層300によって、ガスセンサ素子101の耐被水性を確実に向上させる。したがって、ガスセンサ素子101は、耐被水性を確実に向上させつつ、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層200によって、脈動の影響を抑制することができる。
【0053】
ガスセンサ素子101において、周囲保護層300の厚みTh2は、900μm以下であってもよい。周囲保護層300の厚みTh2を900μmよりも大きくすると、周囲保護層300によって被測定ガスの被測定ガス流通部7への導入が制約され、ガスセンサ素子101の応答性、測定精度等の悪化が発生し得る。そこで、ガスセンサ素子101は、周囲保護層300の厚みTh2を900μm以下とすることで、ガスセンサ素子101の応答性、測定精度の悪化等を回避する。したがって、ガスセンサ素子101は、ガスセンサ素子101の応答性等を悪化させることなく、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層200によって、脈動の影響を抑制することができる。
【0054】
ガスセンサ素子101において、外側保護層400の気孔率は、10%以上であってもよい。上述のとおり、外側保護層400は、導入口保護層200および周囲保護層300よりも外側に配置され、また、外側保護層400の気孔率は、導入口保護層200の気孔率以下である。そして、外側保護層400の気孔率を10%未満とすると、外側保護層400によって被測定ガスの被測定ガス流通部7への導入が過剰に制約され、つまり、被測定ガス流通部7へと導入される被測定ガスのガス流量が小さくなって、ガスセンサ素子101の応答性、測定精度等が悪化する。そこで、ガスセンサ素子101は、外側保護層400の気孔率を10%以上とすることで、ガスセンサ素子101の応答性、測定精度等の悪化を回避する。したがって、ガスセンサ素子101は、ガスセンサ素子101の応答性等を悪化させることなく、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層200によって、脈動の影響を抑制することができる。
【0055】
上述のとおり、導入口保護層200の気孔率は、外側保護層400の気孔率以上とするのが望ましく、つまり、外側保護層400の気孔率は、導入口保護層200の気孔率以下とするのが望ましい。また、導入口保護層200の気孔率は、10%以上、45%以下とするのが望ましい。したがって、外側保護層400の気孔率は、10%以上、45%以下とするのが望ましい。外側保護層400の気孔率を45%よりも大きくすると、外側保護層400は、耐被水性の向上との効果を十分に発揮することができなくなる。そこで、ガスセンサ素子101は、外側保護層の気孔率を45%以下とすることで、外側保護層400によって、耐被水性を確実に向上させる。さらに、外側保護層400の厚みTh3は、100μm以上、400μm以下とするのが望ましい。外側保護層400の厚みを、100以上、400以下とすることにより、ガスセンサ素子101は、耐被水性を向上させつつ、応答性、測定精度の悪化等を回避することができる。
【0056】
以上に
図1を用いて概要を説明したガスセンサ素子101について、次に、ガスセンサ素子101の備える素子基体100の構成の一例を、
図2を用いて説明する。
【0057】
<素子基体>
図2は、ガスセンサ素子101の備える素子基体100の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。素子基体100は、例えば、長手方向(軸方向)に沿って延びる細長な長尺の板状体形状を呈し、また、例えば、直方体状に形成される。
図2に例示する素子基体100は、長手方向それぞれの端部として先端部および後端部を有しており、以下の説明においては、先端部を
図2の左側の端部(つまり、前側の端部)とし、後端部を
図2の右側の端部(つまり、後側の端部)とする。しかしながら、素子基体100の形状は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。なお、以下の説明においては、
図2の紙面奥側を素子基体100の右側とし、紙面手前側を素子基体100の左側とする。
【0058】
素子基体100は、第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、第1固体電解質層4、スペーサ層5、および、第2固体電解質層6を下側から順に積層することで構成される積層体である。各層1-6は、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性を有する固体電解質層により構成される。各層1-6を形成する固体電解質は、緻密質なものであってよい。緻密質は、気孔率が5%以下であることを指す。
【0059】
素子基体100は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに、所定の加工、配線パターンの印刷等の工程を実行した後にそれらを積層し、更に、焼成して一体化させることで製造される。一例として、素子基体100は、複数のセラミックス層の積層体である。本実施形態では、第2固体電解質層6の上面が、素子基体100の上面を構成し、第1基板層1の下面が、素子基体100の下面を構成し、各層1~6の各側面が、素子基体100の各側面を構成する。
【0060】
本実施形態では、素子基体100の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面および第1固体電解質層4の上面の間には、被測定ガスを外部の空間から受け入れるように構成される内部空間が設けられる。本実施形態に係る内部空間は、ガス導入口10、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13、第1内部空所15、第3拡散律速部16、第2内部空所17、第4拡散律速部18、および、第3内部空所19が、この順に連通する態様にて隣接形成されるように構成される。すなわち、本実施形態に係る内部空間は、3室構造(第1内部空所15、第2内部空所17、および、第3内部空所19)を有する。
【0061】
一例では、この内部空間は、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられる。内部空間の上部は、第2固体電解質層6の下面で区画される。内部空間の下部は、第1固体電解質層4の上面で区画される。内部空間の側部は、スペーサ層5の側面で区画される。
【0062】
第1拡散律速部11は、1以上の横長の(図面に垂直な方向に開口が長辺方向を有する)スリットとして設けられる。例えば、第1拡散律速部11は、スペーサ層5のくり抜かれたスペースを架橋する第一架橋部と層6との間、および、係る第一架橋部と層4との間のスリットとして設けられる。また、第2拡散律速部13、第3拡散律速部16、および、第4拡散律速部18のそれぞれは、図面に垂直な方向に延びる長さが、第1内部空所15、第2内部空所17、および、第3内部空所19のそれぞれよりも短い孔として設けられる。第2拡散律速部13は、スペーサ層5のくり抜かれたスペースを架橋する第二架橋部と層6との間、および、係る第二架橋部と層4との間のスリットとして設けられてもよい。第3拡散律速部16は、スペーサ層5のくり抜かれたスペースを架橋する第三架橋部と層6との間、および、係る第三架橋部と層4との間のスリットとして設けられてもよい。第4拡散律速部18は、スペーサ層5のくり抜かれたスペースを架橋する第四架橋部と層6との間のスリットとして設けられてもよい。
【0063】
図2に例示するように、第2拡散律速部13および第3拡散律速部16は、何れも、第1拡散律速部11と同様に、2本の横長(図面に垂直な方向に開口が長辺方向を有する)のスリットとして設けられてもよい。これに対して、第4拡散律速部18は、第2固体電解質層6の下面との隙間として形成された1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられている。ただし、第4拡散律速部18は、第1拡散律速部11と同様に、2本の横長(図面に垂直な方向に開口が長辺方向を有する)のスリットとして設けられてもよい。第2拡散律速部13、第3拡散律速部16、および第4拡散律速部18のそれぞれについては、後ほど詳細に説明する。ガス導入口10から第3内部空所19に至る部位(内部空間)を被測定ガス流通部7と称する。
【0064】
被測定ガス流通部7よりも先端側(素子基体100の前側)から遠い位置には、第3基板層3の上面およびスペーサ層5の下面の間であって、第1固体電解質層4の側面で側部を区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられる。基準ガス導入空間43には、例えば、大気等の基準ガスが導入される。ただし、素子基体100の構成は、このような例に限定されなくてよい。他の一例として、第1固体電解質層4は、素子基体100の後端まで延びるように構成されてよく、基準ガス導入空間43は省略されてよい。この場合、大気導入層48が、素子基体100の後端まで延びるように構成されてよい。
【0065】
基準ガス導入空間43に隣接する第3基板層3の上面の一部には、大気導入層48が設けられる。大気導入層48は、多孔質アルミナから成り、基準ガス導入空間43を介して基準ガスが導入されるように構成される。加えて、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0066】
基準電極42は、第3基板層3の上面および第1固体電解質層4の間に挟まれるように形成され、その周囲には、上記基準ガス導入空間43に接続する大気導入層48が設けられている。基準電極42は、第1内部空所15内および第2内部空所17内の酸素濃度(酸素分圧)の測定に使用される。詳細は後述する。
【0067】
ガス導入口10は、被測定ガス流通部7において、外部空間に対して開口してなる部位である。素子基体100は、当該ガス導入口10を通じて外部空間から内部に被測定ガスを取り込むように構成される。本実施形態では、
図2に例示されるとおり、ガス導入口10は、素子基体100の先端面(前面)に配置される。つまり、被測定ガス流通部7は、素子基体100の先端面において開口を有するように構成される。ただし、被測定ガス流通部7が、素子基体100の先端面において開口を有するように構成されること、つまり、ガス導入口10を素子基体100の先端面に配置することは、必須ではない。素子基体100は、外部空間から被測定ガス流通部7の内部に被測定ガスを取り込むことができればよく、ガス導入口10を、例えば、素子基体100の右面に配置したり、左面に配置したりしてもよい。
【0068】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。第1拡散律速部11は、素子基体100の内部空間(被測定ガス流通部7)の入口側に、すなわち、ガス導入口10の側に、設けられたスリットである。
【0069】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0070】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所15に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0071】
被測定ガスは、ガスセンサ素子101(素子基体100)の外部空間(例えば、測定空間)から第1内部空所15内まで導入されるにあたり、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によって、ガス導入口10から素子基体100内部に急激に取り込まれる場合がある。この場合であっても、当該構成では、取り込まれる被測定ガスは、直接第1内部空所15へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所15へ導入される。これにより、第1内部空所15へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0072】
第1内部空所15は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0073】
主ポンプセル21は、内側ポンプ電極22、外側ポンプ電極23、および、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6によって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。内側ポンプ電極22は、第1内部空所15に隣接する(面する)第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられる天井電極部22aを有する。外側ポンプ電極23は、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aに対応する領域に外部空間に隣接する態様にて設けられる。
【0074】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所15を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所15の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成される。そして、それら天井電極部22aおよび底部電極部22bに接続するように、側部電極部(図示省略)が、第1内部空所15の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されている。つまり、内側ポンプ電極22は、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態の構造で配設されている。
【0075】
内側ポンプ電極22および外側ポンプ電極23は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtおよびZrO2により構成されるサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0076】
ガスセンサ素子101(素子基体100)は、主ポンプセル21において、内側ポンプ電極22および外側ポンプ電極23の間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22および外側ポンプ電極23の間に正方向又は負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所15内の酸素を外部空間に汲み出し、または、外部空間の酸素を第1内部空所15に汲み入れ可能に構成される。
【0077】
また、第1内部空所15における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、第3基板層3、および、基準電極42により、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。
【0078】
ガスセンサ素子101(素子基体100)は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所15内の酸素濃度(酸素分圧)を特定可能に構成される。更に、起電力V0が一定となるようにVp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所15内の酸素濃度を所定の一定値に保つことができる。
【0079】
第3拡散律速部16は、第1内部空所15で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所17に導く部位である。
【0080】
第2内部空所17は、第3拡散律速部16を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧をさらに調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、補助ポンプセル50が作動することによって調整される。
【0081】
補助ポンプセル50は、補助ポンプ電極51、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、素子基体100の外側の適当な電極であれば足りる)、および、第2固体電解質層6により構成される補助的な電気化学的ポンプセルである。補助ポンプ電極51は、第2内部空所17に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する。
【0082】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所15内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態の構造で、第2内部空所17内に配設されている。つまり、第2内部空所17の天井面を与える第2固体電解質層6の下面に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所17の底面を与える第1固体電解質層4の上面には、底部電極部51bが形成される。そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所17の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成される。これにより、補助ポンプ電極51は、トンネル形態の構造を有している。
【0083】
なお、補助ポンプ電極51も、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中の窒素酸化物成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0084】
ガスセンサ素子101(素子基体100)は、補助ポンプセル50において、補助ポンプ電極51および外側ポンプ電極23の間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所17内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、または、外部空間から第2内部空所17内に汲み入れ可能に構成される。
【0085】
また、第2内部空所17内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51、基準電極42、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、および、第3基板層3により、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。
【0086】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより、第2内部空所17内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0087】
また、これと共に、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部16から第2内部空所17内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所17内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0088】
第4拡散律速部18は、第2内部空所17で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所19に導く部位である。
【0089】
第3内部空所19は、第4拡散律速部18を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度は、測定用ポンプセル41の動作により測定される。本実施形態では、第1内部空所15において酸素濃度(酸素分圧)が予め調整された後、第2内部空所17において、第3拡散律速部16を通じて導入された被測定ガスに対して、補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が更に行われる。これにより、第2内部空所17から第3内部空所19に導入される被測定ガスの酸素濃度を高精度に一定に保つことができる。そのため、本実施形態に係るガスセンサ素子101は、精度の高いNOx濃度の測定が可能となる。
【0090】
測定用ポンプセル41は、第3内部空所19内において、被測定ガス中の窒素酸化物濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、測定電極44、外側ポンプ電極23、第2固体電解質層6、スペーサ層5、および、第1固体電解質層4により構成される電気化学的ポンプセルである。
図2の例では、測定電極44は、第3内部空所19に隣接する(面する)第1固体電解質層4の上面に設けられる。
【0091】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第3内部空所19内の雰囲気中に存在するNO
xを還元するNO
x還元触媒としても機能する。
図2の例では、測定電極44は、第3内部空所19内で露出している。他の一例では、測定電極44は、拡散律速部により被覆されていてもよい。該拡散律速部は、アルミナ(Al
2O
3)を主成分とする多孔体の膜により構成されてもよい。該拡散律速部は、測定電極44に流入するNO
xの量を制限する役割を担うと共に、測定電極44の保護膜としても作用する。
【0092】
ガスセンサ素子101は、測定用ポンプセル41において、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出可能に構成される。
【0093】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、第3基板層3、測定電極44、および、基準電極42により、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される電圧(起電力)V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0094】
第3内部空所19内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)、酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される制御電圧V2が一定となるように可変電源の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0095】
また、測定電極44、第1固体電解質層4、第3基板層3、および、基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすることで、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができる。これにより、被測定ガス中の窒素酸化物成分の濃度を求めることも可能である。
【0096】
また、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、第3基板層3、外側ポンプ電極23、および、基準電極42から電気化学的なセンサセル83が構成されている。ガスセンサ素子101は、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能に構成されている。
【0097】
以上の構成を有する素子基体100(ガスセンサ素子101)において、主ポンプセル21および補助ポンプセル50を作動させることにより、酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスを測定用ポンプセル41に与えることができる。したがって、ガスセンサ素子101は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることで流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中の窒素酸化物濃度を特定可能に構成されている。
【0098】
さらに、ガスセンサ素子101(素子基体100)は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、素子基体100を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ70を備えている。ヒータ70は、ヒータ電極71と、ヒータエレメント72と、ヒータリード(不図示)と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、ヒータ抵抗検出リード(不図示)とを、主として備えている。また、
図2の例では、ヒータ70は、さらに、圧力放散孔75を備えている。
【0099】
ヒータ70は、ヒータ電極71を除いて、ガスセンサ素子101の基体部(素子基体100)に埋設されてなる。本実施形態では、ヒータ70は、素子基体100の厚み方向(鉛直方向/積層方向)において、素子基体100の上面よりも素子基体100の下面に近い位置に配置されている。ただし、ヒータ70の配置は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0100】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面(素子基体100の下面)に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータ電極71を外部電源と接続することにより、外部からヒータ70へ給電することができるようになっている。
【0101】
ヒータエレメント72は、第2基板層2および第3基板層3に上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体であり、つまり、第2基板層2と第3基板層3との間に設けられた抵抗発熱体である。ヒータエレメント72は、素子基体100の外部に備わるヒータ電源(不図示)から、通電経路であるヒータ電極71、スルーホール73、および、ヒータリードを通じて給電されることにより、発熱し、素子基体100を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。ヒータエレメント72は、Ptにて、あるいはPtを主成分として、形成されてなる。ヒータエレメント72は、素子基体100の被測定ガス流通部7が備わる側の所定範囲に、素子厚み方向において被測定ガス流通部7と対向するように埋設されている。ヒータエレメント72は、例えば、10μm~20μm程度の厚みを有するように設けられる。
【0102】
ヒータエレメント72の両端に接続された1対のヒータリードは、略同一の形状を有するように、つまりは、両者の抵抗値が同じであるように、設けられる。係る1対のヒータリードはそれぞれ、対応するスルーホール73を介して、異なるヒータ電極71と接続されている。
【0103】
さらに、ヒータエレメント72と一方のヒータリードとの接続部から引き出される態様にて、ヒータ抵抗検出リードが設けられている。なお、ヒータ抵抗検出リードの抵抗値は無視できるものとする。ヒータ抵抗検出リードは、対応するスルーホール73を介して、ヒータ電極71と接続されている。
【0104】
また、ヒータエレメント72は、素子基体100全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。すなわち、ガスセンサ素子101においては、ヒータ電極71を通じてヒータエレメント72に電流を流すことにより、ヒータエレメント72を発熱させることで、素子基体100の各部を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。具体的には、素子基体100は、被測定ガス流通部7付近の固体電解質および電極の温度が、例えば、700℃~900℃程度(または、750℃~950℃)になるように加熱される。係る加熱によって、ガスセンサ素子101において素子基体100を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。なお、ガスセンサ素子101を備えるガスセンサが使用される際の(ガスセンサ素子101が駆動される際の)ヒータエレメント72による加熱温度を、センサ素子駆動温度と称することがある。
【0105】
ヒータエレメント72による発熱の程度は、ヒータエレメント72の抵抗値の大きさ(ヒータ抵抗)によって把握される。ヒータ抵抗検出リードは、係るヒータ抵抗の測定のために、設けられてなる。
【0106】
ヒータ絶縁層74は、ヒータエレメント72を覆う態様にて形成されてなる絶縁層であり、例えば、ヒータエレメント72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータエレメント72との間の電気的絶縁性、並びに、第3基板層3とヒータエレメント72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。ヒータ絶縁層74は、70μm~110μm程度の厚みにて、素子基体100の先端面および側面から200μm~700μm程度離隔させた位置に設けられる。ただし、ヒータ絶縁層74の厚みは一定である必要はなく、ヒータエレメント72が存在する箇所としない箇所とで異なっていてもよい。
【0107】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。ただし、圧力放散孔75を設けることは必須ではなく、圧力放散孔75を設けなくてもよい。
【0108】
<素子基体の先端面のうち、導入口保護層が接する部分の面積についての考察>
これまで、ガス導入口10を覆う導入口保護層が、ガス導入口10が開口している素子基体100の面(例えば、先端面)の全体に接する例を説明した。しかしながら、ガスセンサ素子101において、ガス導入口10を覆う導入口保護層が、ガス導入口10が開口している素子基体100の面の全体に接することは必須ではない。ガスセンサ素子101において、ガス導入口10を覆う導入口保護層200は、ガス導入口10が開口している素子基体100の面に接していればよく、ガス導入口10が開口している素子基体100の面の、全体ではなく一部のみに接していてもよい。以下、
図3を用いて、少なくともガス導入口10を覆って、ガス導入口10が開口している素子基体100の面の一部のみに接する導入口保護層200Aの例を説明する。
【0109】
図3は、変形例1に係るガスセンサ素子101Aの構成の一例を概略的に示す断面模式図である。ガスセンサ素子101Aは、ガスセンサ素子101と同様に、例えば、長手方向(軸方向)に沿って延びる細長な長尺の板状体形状を呈し、また、例えば、直方体状に形成される。
図3に例示するガスセンサ素子101Aは、長手方向それぞれの端部として先端部および後端部を有しており、以下の説明においては、先端部を
図3の左側の端部(つまり、前側の端部)とし、後端部を
図3の右側の端部(つまり、後側の端部)とする。しかしながら、ガスセンサ素子101Aの形状は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。なお、以下の説明においては、
図3の紙面奥側をガスセンサ素子101Aの右側とし、紙面手前側をガスセンサ素子101Aの左側とする。また、
図3の紙面上側をガスセンサ素子101Aの上側とし、紙面下側をガスセンサ素子101Aの下側とする。
【0110】
図3に例示するように、ガスセンサ素子101Aは、素子基体100と、導入口保護層200Aと、周囲保護層300Aと、を備える。ガスセンサ素子101Aが備える素子基体100は、ガスセンサ素子101が備える素子基体100と同様であるため、詳細は略記する。
【0111】
導入口保護層200Aは、素子基体100のガス導入口10が開口している面に接して、少なくともガス導入口10を覆う。
図3に示す例では、導入口保護層200Aは、ガス導入口10が開口している素子基体100の先端面の、全体ではなく一部のみに接して、ガス導入口10を覆っている。特に、
図3に示す例において、導入口保護層200Aは、素子基体100の先端面の、ガス導入口10の周囲の領域(ガス導入口10の縁)にのみ接している。
【0112】
周囲保護層300Aは、導入口保護層200Aと、素子基体100の、少なくともガス導入口10が開口している面以外の面と、に接して、素子基体100の、ガス導入口10が開口している側の所定範囲を覆う。
図3に示す例では、周囲保護層300Aは、導入口保護層200Aと、素子基体100の、上面と、下面と、ガス導入口10が開口している先端面とに接している。図には示されていないが、周囲保護層300Aは、さらに、素子基体100の先端側の側面(左面および右面)に接していてもよい。
図3に例示する周囲保護層300Aは、導入口保護層200と、少なくとも、素子基体100の、上面と、下面と、先端面とに接して、素子基体100の先端側の所定範囲を覆っている。
【0113】
導入口保護層200Aおよび周囲保護層300Aは、それぞれ、多孔質体からなり、導入口保護層200Aの気孔率よりも、周囲保護層300Aの気孔率の方が高い。導入口保護層200Aの厚みTh1は、100μm以上である。
【0114】
図3に例示するように、導入口保護層200Aは、被測定ガス流通部7に設けられた拡散律速部11、13、16、18から独立して、ガス導入口10を覆っている。そのため、ガスセンサ素子101Aは、被測定ガス流通部7に配置される1つ以上の拡散律速部(例えば、拡散律速部11、13、16、18)と両立可能な導入口保護層200Aによって、測定空間における脈動の、被測定ガス流通部7における被測定ガスの圧力への影響を抑制することができる。すなわち、ガスセンサ素子101Aは、被測定ガス流通部7での工夫と両立可能な導入口保護層200Aによって、上述の脈動の影響を抑制することができる。
【0115】
ガスセンサ素子101Aにおいて、周囲保護層300Aの厚みTh2は、導入口保護層200Aの厚みTh1以上であってもよい。
図3に例示するガスセンサ素子101Aにおいて、導入口保護層200Aの厚みTh1は、周囲保護層300Aの厚みTh2よりも小さい(薄い)。つまり、周囲保護層300Aの厚みは、導入口保護層200Aの厚みよりも大きい(厚い)。ガスセンサ素子101Aは、周囲保護層300Aの厚みを導入口保護層200Aの厚み以上とすることで、ガスセンサ素子101Aの耐被水性を維持、向上させる。したがって、ガスセンサ素子101Aは、導入口保護層200Aの厚み以上の厚みを有する周囲保護層300Aによって、良好な耐被水性を実現する。
【0116】
ガスセンサ素子101Aは、導入口保護層200Aおよび周囲保護層300Aよりも外側に配置され、少なくとも周囲保護層300Aに接する外側保護層400Aをさらに備えてもよい。
図3に例示するガスセンサ素子101Aは、導入口保護層200Aおよび周囲保護層300Aよりも外側に配置され、周囲保護層300Aのみに接する外側保護層400Aを備える。外側保護層400Aは、外側保護層400と同様に、例えば、多孔質体からなる。導入口保護層200Aの気孔率は、外側保護層400Aの気孔率以上とするのが望ましい。ガスセンサ素子101Aは、導入口保護層200Aおよび周囲保護層300Aよりも外側に配置される外側保護層400Aによって、外側保護層400Aを備えない場合よりもさらに、耐被水性を向上させることができる。また、ガスセンサ素子101Aは、導入口保護層200Aの気孔率を外側保護層400Aの気孔率以上とすることで、ガスセンサ素子101Aの応答性、測定精度等の悪化を回避する。したがって、ガスセンサ素子101Aは、ガスセンサ素子101Aの応答性等を悪化させることなく、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な、外側保護層400A以上の気孔率を有する導入口保護層200Aによって、脈動の影響を抑制することができる。
【0117】
ガスセンサ素子101Aにおいて、導入口保護層200Aの気孔率は、10%以上であってもよい。ガスセンサ素子101Aは、導入口保護層200Aの気孔率を10%以上とすることで、ガスセンサ素子101Aの応答性、測定精度等の悪化を回避する。したがって、ガスセンサ素子101Aは、ガスセンサ素子101Aの応答性等を悪化させることなく、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な、10%以上の気孔率を有する導入口保護層200Aによって、脈動の影響を抑制することができる。
【0118】
ガスセンサ素子101Aにおいて、導入口保護層200Aの気孔率は、45%以下であってもよい。ガスセンサ素子101Aは、導入口保護層200Aの気孔率を45%以下とすることで、導入口保護層200Aによって、脈動の影響を確実に抑制する。したがって、ガスセンサ素子101Aは、45%以下の気孔率を有する導入口保護層200Aによって脈動の影響を確実に抑制でき、特に、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層200Aによって、脈動の影響を抑制することができる。
【0119】
ガスセンサ素子101Aにおいて、導入口保護層200Aの厚みTh1は、900μm以下であってもよい。ガスセンサ素子101Aは、導入口保護層200Aの厚みTh1を900μm以下とすることで、ガスセンサ素子101Aの応答性、測定精度等の悪化を回避する。したがって、ガスセンサ素子101Aは、ガスセンサ素子101Aの応答性等を悪化させることなく、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層200Aによって、脈動の影響を抑制することができる。
【0120】
ガスセンサ素子101Aにおいて、周囲保護層300Aの気孔率は、35%以上であってもよい。ガスセンサ素子101Aは、周囲保護層300Aの気孔率を35%以上とすることで、ガスセンサ素子101Aの耐被水性の悪化を回避する。したがって、ガスセンサ素子101Aは、耐被水性を悪化させることなく、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層200Aによって、脈動の影響を抑制することができる。
【0121】
ガスセンサ素子101Aにおいて、周囲保護層300Aの気孔率は、70%以下であってもよい。ガスセンサ素子101Aは、周囲保護層300Aの気孔率を70%以下とすることで、周囲保護層300Aによって、ガスセンサ素子101Aの耐被水性を確実に向上させる。したがって、ガスセンサ素子101Aは、耐被水性を確実に向上させつつ、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層200Aによって、脈動の影響を抑制することができる。
【0122】
ガスセンサ素子101Aにおいて、周囲保護層300Aの厚みTh2は、200μm以上であってもよい。ガスセンサ素子101Aは、周囲保護層300Aの厚みTh2を200μm以上とすることで、周囲保護層300Aによって、ガスセンサ素子101Aの耐被水性を確実に向上させる。したがって、ガスセンサ素子101Aは、耐被水性を確実に向上させつつ、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層200Aによって、脈動の影響を抑制することができる。
【0123】
ガスセンサ素子101Aにおいて、周囲保護層300Aの厚みTh2は、900μm以下であってもよい。ガスセンサ素子101Aは、周囲保護層300Aの厚みTh2を900μm以下とすることで、ガスセンサ素子101Aの応答性、測定精度の悪化等を回避する。したがって、ガスセンサ素子101Aは、ガスセンサ素子101Aの応答性等を悪化させることなく、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層200Aによって、脈動の影響を抑制することができる。
【0124】
ガスセンサ素子101Aにおいて、外側保護層400Aの気孔率は、10%以上であってもよい。ガスセンサ素子101Aは、外側保護層400Aの気孔率を10%以上とすることで、ガスセンサ素子101Aの応答性、測定精度等の悪化を回避する。したがって、ガスセンサ素子101Aは、ガスセンサ素子101Aの応答性等を悪化させることなく、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層200Aによって、脈動の影響を抑制することができる。
【0125】
外側保護層400と同様に、外側保護層400Aの気孔率は、10%以上、45%以下とするのが望ましい。また、外側保護層400Aの厚みTh3は、100μm以上、400μm以下とするのが望ましい。
【0126】
<導入口保護層と周囲保護層との厚みについての考察>
図3には、少なくともガス導入口10を覆って、ガス導入口10が開口している素子基体100の面(例えば、先端面)の一部のみに接し、その厚みTh1が、周囲保護層の厚みTh2よりも小さい導入口保護層200Aの例を説明した。しかしながら、ガスセンサ素子101において、少なくともガス導入口10を覆って、ガス導入口10が開口している素子基体100の面の一部のみに接する導入口保護層の厚みTh1は、周囲保護層の厚みTh2と等しくてもよい。以下、
図4を用いて、少なくともガス導入口10を覆って、ガス導入口10が開口している素子基体100の面の一部のみに接し、その厚みTh1が、周囲保護層の厚みTh2に等しい導入口保護層200Bの例を説明する。
【0127】
図4は、変形例2に係るガスセンサ素子101Bの構成の一例を概略的に示す断面模式図である。ガスセンサ素子101Bは、ガスセンサ素子101と同様に、例えば、長手方向(軸方向)に沿って延びる細長な長尺の板状体形状を呈し、また、例えば、直方体状に形成される。
図4に例示するガスセンサ素子101Bは、長手方向それぞれの端部として先端部および後端部を有しており、以下の説明においては、先端部を
図4の左側の端部(つまり、前側の端部)とし、後端部を
図4の右側の端部(つまり、後側の端部)とする。しかしながら、ガスセンサ素子101Bの形状は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。なお、以下の説明においては、
図4の紙面奥側をガスセンサ素子101Bの右側とし、紙面手前側をガスセンサ素子101Bの左側とする。また、
図4の紙面上側をガスセンサ素子101Bの上側とし、紙面下側をガスセンサ素子101Bの下側とする。
【0128】
図4に例示するように、ガスセンサ素子101Bは、素子基体100と、導入口保護層200Bと、周囲保護層300Bと、を備える。ガスセンサ素子101Bは、導入口保護層200Bおよび周囲保護層300Bよりも外側に配置され、少なくとも周囲保護層300Bに接する外側保護層400Bをさらに備えてもよい。
図4に例示するガスセンサ素子101Bは、素子基体100と、導入口保護層200Bと、周囲保護層300Bと、外側保護層400Bとを備える。外側保護層400Bは、
図4に例示するように、導入口保護層200Bに接していてもよい。ガスセンサ素子101Bが備える素子基体100は、ガスセンサ素子101が備える素子基体100と同様であるため、詳細は略記する。
【0129】
導入口保護層200Bは、素子基体100のガス導入口10が開口している面に接して、少なくともガス導入口10を覆う。
図4に示す例では、導入口保護層200Bは、ガス導入口10が開口している素子基体100の先端面の、全体ではなく一部のみに接して、ガス導入口10を覆っている。特に、
図4に示す例において、導入口保護層200Bは、素子基体100の先端面の、ガス導入口10の周囲の領域(ガス導入口10の縁)にのみ接している。導入口保護層200Bは、多孔質体からなる。ガスセンサ素子101Bにおいて、導入口保護層200Bの厚みTh1は、導入口保護層200、導入口保護層200Aと同様に、100μm以上である。
【0130】
導入口保護層200Bの気孔率は、導入口保護層200、導入口保護層200Aと同様に、45%以下であってもよい。導入口保護層200Bの気孔率は、導入口保護層200、導入口保護層200Aと同様に、10%以上であってもよい。導入口保護層200Bの厚みTh1は、導入口保護層200、導入口保護層200Aと同様に、900μm以下であってもよい。
【0131】
図4に例示するように、導入口保護層200Bは、被測定ガス流通部7に設けられた拡散律速部11、13、16、18から独立して、ガス導入口10を覆っている。そのため、ガスセンサ素子101Bは、被測定ガス流通部7に配置される1つ以上の拡散律速部(例えば、拡散律速部11、13、16、18)と両立可能な導入口保護層200Bによって、測定空間における脈動の、被測定ガス流通部7における被測定ガスの圧力への影響を抑制することができる。すなわち、ガスセンサ素子101Bは、被測定ガス流通部7での工夫と両立可能な導入口保護層200Bによって、上述の脈動の影響を抑制することができる。
【0132】
周囲保護層300Bは、導入口保護層200Bと、素子基体100の、少なくともガス導入口10が開口している面以外の面と、に接して、素子基体100の、ガス導入口10が開口している側の所定範囲を覆う。
図4に示す例では、周囲保護層300Bは、導入口保護層200Bと、素子基体100の、上面と、下面と、ガス導入口10が開口している先端面とに接している。図には示されていないが、周囲保護層300Bは、さらに、素子基体100の先端側の側面(左面および右面)に接していてもよい。
図4に例示する周囲保護層300Bは、導入口保護層200と、少なくとも、素子基体100の、上面と、下面と、先端面とに接して、素子基体100の先端側の所定範囲を覆っている。周囲保護層300Bは、多孔質体からなる。導入口保護層200Bの気孔率よりも、周囲保護層300Bの気孔率の方が高い。
【0133】
周囲保護層300Bの厚みTh2は、周囲保護層300、周囲保護層300Aと同様に、「素子基体100のガス導入口10が開口している面(例えば、先端面)に接して、少なくともガス導入口10を覆う」導入口保護層の厚み以上であってもよい。周囲保護層300Bの厚みTh2は、導入口保護層200Bの厚みTh1以上であってもよい。
図4に例示するガスセンサ素子101Bにおいて、導入口保護層200Bの厚みTh1と、周囲保護層300Bの厚みTh2とは等しい。
【0134】
周囲保護層300Bの気孔率は、周囲保護層300、周囲保護層300Aと同様に、35%以上であってもよい。周囲保護層300Bの気孔率は、周囲保護層300、周囲保護層300Aと同様に、70%以下であってもよい。周囲保護層300Bの厚みTh2は、周囲保護層300、周囲保護層300Aと同様に、200μm以上であってもよい。周囲保護層300Bの厚みTh2は、周囲保護層300、周囲保護層300Aと同様に、900μm以下であってもよい。
【0135】
外側保護層400Bは、外側保護層400、外側保護層400Aと同様に、例えば、多孔質体からなる。導入口保護層200Bの気孔率は、外側保護層400Bの気孔率以上とするのが望ましく、つまり、外側保護層400Bの気孔率は、導入口保護層200Bの気孔率以下とするのが望ましい。外側保護層400Bの気孔率は、外側保護層400、外側保護層400Aと同様に、10%以上であってもよい。特に、外側保護層400Bの気孔率は、外側保護層400、外側保護層400Aと同様に、10%以上、45%以下とするのが望ましい。また、外側保護層400Bの厚みTh3は、100μm以上、400μm以下とするのが望ましい。
【0136】
<導入口保護層の先端側の面と後端側の面との大きさについての考察>
これまで、ガス導入口10を覆う導入口保護層について、先端側の面(
図1、3、4において紙面左側の面)と、後端側の面(
図1、3、4において紙面右側の面)とが、同様のサイズを有する例を説明した。しかしながら、ガスセンサ素子101において、ガス導入口10が開口している素子基体100の面に接して、少なくともガス導入口10を覆う導入口保護層について、先端側の面と後端側の面とは、サイズが異なっていてもよい。すなわち、ガス導入口10が開口している素子基体100の面に接して、少なくともガス導入口10を覆う導入口保護層について、係る導入口保護層の先端面のサイズと、後端面のサイズとは異なっていてもよい。以下、
図5を用いて、ガス導入口10が開口している素子基体100の面に接し、少なくともガス導入口10を覆い、素子基体100に接する面(例、後端面)と、その面に対向する面(例、先端面)とでサイズの異なる導入口保護層200Cの例を説明する。
【0137】
図5は、変形例3に係るガスセンサ素子101Cの構成の一例を概略的に示す断面模式図である。ガスセンサ素子101Cは、ガスセンサ素子101と同様に、例えば、長手方向(軸方向)に沿って延びる細長な長尺の板状体形状を呈し、また、例えば、直方体状に形成される。
図5に例示するガスセンサ素子101Cは、長手方向それぞれの端部として先端部および後端部を有しており、以下の説明においては、先端部を
図5の左側の端部(つまり、前側の端部)とし、後端部を
図5の右側の端部(つまり、後側の端部)とする。しかしながら、ガスセンサ素子101Cの形状は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。なお、以下の説明においては、
図5の紙面奥側をガスセンサ素子101Cの右側とし、紙面手前側をガスセンサ素子101Cの左側とする。また、
図5の紙面上側をガスセンサ素子101Cの上側とし、紙面下側をガスセンサ素子101Cの下側とする。
【0138】
図5に例示するように、ガスセンサ素子101Cは、素子基体100と、導入口保護層200Cと、周囲保護層300Cと、を備える。ガスセンサ素子101Cは、導入口保護層200Cおよび周囲保護層300Cよりも外側に配置され、少なくとも周囲保護層300Cに接する外側保護層400Cをさらに備えてもよい。
図5に例示するガスセンサ素子101Cは、素子基体100と、導入口保護層200Cと、周囲保護層300Cと、外側保護層400Cとを備える。外側保護層400Cは、
図5に例示するように、導入口保護層200Cに接していてもよい。ガスセンサ素子101Cが備える素子基体100は、ガスセンサ素子101が備える素子基体100と同様であるため、詳細は略記する。
【0139】
導入口保護層200Cは、素子基体100のガス導入口10が開口している面に接して、少なくともガス導入口10を覆う。
図5に示す例では、導入口保護層200Cは、ガス導入口10が開口している素子基体100の先端面の全体に接して、ガス導入口10を覆っている。導入口保護層200Cは、多孔質体からなる。ガスセンサ素子101Cにおいて、導入口保護層200Cの厚みTh1は、導入口保護層200、200A、200Bと同様に、100μm以上である。
【0140】
導入口保護層200Cの気孔率は、導入口保護層200、200A、200Bと同様に、45%以下であってもよい。導入口保護層200Cの気孔率は、導入口保護層200、200A、200Bと同様に、10%以上であってもよい。導入口保護層200Cの厚みTh1は、導入口保護層200、200A、200Bと同様に、900μm以下であってもよい。
【0141】
導入口保護層200Cにおいて、「ガス導入口10が開口している素子基体100の面(例えば、素子基体100の先端面)」に接する面のサイズと、係る面に対向する面のサイズとは異なる。例えば、「ガス導入口10が開口している素子基体100の先端面」に接する、導入口保護層200Cの後端側の面(後端面)のサイズと、導入口保護層200Cの先端側の面(先端面)のサイズとは、異なる。導入口保護層200Cの後端面は、導入口保護層200Cの先端面よりも小さくてもよい。
図4に示す例において、素子基体100の長手方向の軸(軸線、図の左右方向に沿う線)に平行でかつ軸に接する断面において、導入口保護層200Cの後端面の上下方向(素子基体100の厚み方向、積層方向)の長さは、先端面の上下方向の長さよりも短い。
【0142】
図5には、「ガス導入口10が開口している素子基体100の面」に接する面のサイズと、係る面に対向する面のサイズとが異なる導入口保護層200Cとして、先端面が後端面よりも大きな導入口保護層200Cの例を示した。しかしながら、導入口保護層200Cにおいて、先端面は後端面よりも小さくてもよい。例えば、素子基体100の長手方向の軸に平行でかつ軸に接する断面において、導入口保護層200Cの後端面の上下方向の長さは、先端面の上下方向の長さよりも、長くてもよい。
【0143】
図5に例示するように、導入口保護層200Cは、被測定ガス流通部7に設けられた拡散律速部11、13、16、18から独立して、ガス導入口10を覆っている。そのため、ガスセンサ素子101Cは、被測定ガス流通部7に配置される1つ以上の拡散律速部(例えば、拡散律速部11、13、16、18)と両立可能な導入口保護層200Cによって、測定空間における脈動の、被測定ガス流通部7における被測定ガスの圧力への影響を抑制することができる。すなわち、ガスセンサ素子101Cは、被測定ガス流通部7での工夫と両立可能な導入口保護層200Cによって、上述の脈動の影響を抑制することができる。
【0144】
周囲保護層300Cは、導入口保護層200Cと、素子基体100の、少なくともガス導入口10が開口している面以外の面と、に接して、素子基体100の、ガス導入口10が開口している側の所定範囲を覆う。
図5に示す例では、周囲保護層300Cは、導入口保護層200Cと、素子基体100の上面および下面とに接している。図には示されていないが、周囲保護層300Cは、さらに、素子基体100の先端側の側面(左面および右面)に接していてもよい。
図5に例示する周囲保護層300Cは、導入口保護層200と、少なくとも、素子基体100の上面および下面とに接して、素子基体100の先端側の所定範囲を覆っている。周囲保護層300Cは、多孔質体からなる。導入口保護層200Cの気孔率よりも、周囲保護層300Cの気孔率の方が高い。
【0145】
周囲保護層300Cの厚みTh2は、周囲保護層300、300A、300Bと同様に、「素子基体100のガス導入口10が開口している面(例えば、先端面)に接して、少なくともガス導入口10を覆う」導入口保護層の厚み以上であってもよい。周囲保護層300Cの厚みTh2は、導入口保護層200Cの厚みTh1以上であってもよい。
図5に例示するガスセンサ素子101Cにおいて、導入口保護層200Cの厚みTh1と、周囲保護層300Cの厚みTh2とは等しい。
【0146】
周囲保護層300Cの気孔率は、周囲保護層300、300A、300Bと同様に、35%以上であってもよい。周囲保護層300Cの気孔率は、周囲保護層300、300A、300Bと同様に、70%以下であってもよい。周囲保護層300Cの厚みTh2は、周囲保護層300、300A、300Bと同様に、200μm以上であってもよい。周囲保護層300Cの厚みTh2は、周囲保護層300、300A、300Bと同様に、900μm以下であってもよい。
【0147】
外側保護層400Cは、外側保護層400、400A、400Bと同様に、例えば、多孔質体からなる。導入口保護層200Cの気孔率は、外側保護層400Cの気孔率以上とするのが望ましく、つまり、外側保護層400Cの気孔率は、導入口保護層200Cの気孔率以下とするのが望ましい。外側保護層400Cの気孔率は、外側保護層400、400A、400Bと同様に、10%以上であってもよい。特に、外側保護層400Cの気孔率は、外側保護層400、400A、400Bと同様に、10%以上、45%以下とするのが望ましい。また、外側保護層400Cの厚みTh3は、100μm以上、400μm以下とするのが望ましい。
【0148】
<導入口保護層の後端面の大きさと素子基体の先端面の大きさとに係る考察>
これまで、ガス導入口10を覆う導入口保護層について、「ガス導入口10が開口している素子基体100の面」に接する面のサイズが、ガス導入口10が開口している素子基体100の面のサイズ以下である例を説明した。例えば、
図1、3、4、5において、ガス導入口10を覆う導入口保護層200、200A~200Cの後端側の面(各図において紙面右側の面)のサイズは、ガス導入口10が開口している素子基体100の面(例えば、先端面)のサイズ以下である。しかしながら、ガス導入口10が開口している素子基体100の面に接して、少なくともガス導入口10を覆う導入口保護層において、素子基体100に接する面は、係る「ガス導入口10が開口している素子基体100の面」よりも大きくてもよい。以下、
図6を用いて、ガス導入口10が開口している素子基体100の面に接して、少なくともガス導入口10を覆い、素子基体100に接する面が、「ガス導入口10が開口している素子基体100の面」よりも大きな導入口保護層200Dの例を説明する。
【0149】
図6は、変形例4に係るガスセンサ素子101Dの構成の一例を概略的に示す断面模式図である。ガスセンサ素子101Dは、ガスセンサ素子101と同様に、例えば、長手方向(軸方向)に沿って延びる細長な長尺の板状体形状を呈し、また、例えば、直方体状に形成される。
図6に例示するガスセンサ素子101Dは、長手方向それぞれの端部として先端部および後端部を有しており、以下の説明においては、先端部を
図6の左側の端部(つまり、前側の端部)とし、後端部を
図6の右側の端部(つまり、後側の端部)とする。しかしながら、ガスセンサ素子101Dの形状は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。なお、以下の説明においては、
図6の紙面奥側をガスセンサ素子101Dの右側とし、紙面手前側をガスセンサ素子101Dの左側とする。また、
図6の紙面上側をガスセンサ素子101Dの上側とし、紙面下側をガスセンサ素子101Dの下側とする。
【0150】
図6に例示するように、ガスセンサ素子101Dは、素子基体100と、導入口保護層200Dと、周囲保護層300Dと、を備える。ガスセンサ素子101Dは、導入口保護層200Dおよび周囲保護層300Dよりも外側に配置され、少なくとも周囲保護層300Dに接する外側保護層400Dをさらに備えてもよい。
図6に例示するガスセンサ素子101Dは、素子基体100と、導入口保護層200Dと、周囲保護層300Dと、外側保護層400Dとを備える。外側保護層400Dは、
図6に例示するように、導入口保護層200Dに接していてもよい。ガスセンサ素子101Dが備える素子基体100は、ガスセンサ素子101が備える素子基体100と同様であるため、詳細は略記する。
【0151】
導入口保護層200Dは、素子基体100のガス導入口10が開口している面に接して、少なくともガス導入口10を覆う。
図6に示す例では、導入口保護層200Dは、ガス導入口10が開口している素子基体100の先端面の全体に接して、ガス導入口10を覆っている。導入口保護層200Dは、多孔質体からなる。
【0152】
導入口保護層200Dの、「ガス導入口10が開口している素子基体100の面(例えば、素子基体100の先端面)」に接する面のサイズは、係る「ガス導入口10が開口している素子基体100の面」のサイズよりも大きい。例えば、「ガス導入口10が開口している素子基体100の先端面」に接する、導入口保護層200Cの後端側の面(後端面)のサイズは、「ガス導入口10が開口している素子基体100の先端面」のサイズよりも大きい。
図4に示す例において、素子基体100の長手方向の軸(軸線、図の左右方向に沿う線)に平行でかつ軸に接する断面において、導入口保護層200Cの後端面の上下方向の長さは、素子基体100の先端面の上下方向の長さよりも長い。
【0153】
ガスセンサ素子101Dにおいて、導入口保護層200Dの厚みTh1は、導入口保護層200、200A~200Cと同様に、100μm以上である。導入口保護層200Dの気孔率は、導入口保護層200、200A~200Cと同様に、45%以下であってもよい。導入口保護層200Dの気孔率は、導入口保護層200、200A~200Cと同様に、10%以上であってもよい。導入口保護層200Dの厚みTh1は、導入口保護層200、200A~200Cと同様に、900μm以下であってもよい。
【0154】
図6に例示するように、導入口保護層200Dは、被測定ガス流通部7に設けられた拡散律速部11、13、16、18から独立して、ガス導入口10を覆っている。そのため、ガスセンサ素子101Dは、被測定ガス流通部7に配置される1つ以上の拡散律速部(例えば、拡散律速部11、13、16、18)と両立可能な導入口保護層200Dによって、測定空間における脈動の、被測定ガス流通部7における被測定ガスの圧力への影響を抑制することができる。すなわち、ガスセンサ素子101Dは、被測定ガス流通部7での工夫と両立可能な導入口保護層200Dによって、上述の脈動の影響を抑制することができる。
【0155】
周囲保護層300Dは、導入口保護層200Dと、素子基体100の、少なくともガス導入口10が開口している面以外の面と、に接して、素子基体100の、ガス導入口10が開口している側の所定範囲を覆う。
図6に示す例では、周囲保護層300Dは、導入口保護層200Dと、素子基体100の上面および下面とに接している。図には示されていないが、周囲保護層300Dは、さらに、素子基体100の先端側の側面(左面および右面)に接していてもよい。
図6に例示する周囲保護層300Dは、導入口保護層200と、少なくとも、素子基体100の上面および下面とに接して、素子基体100の先端側の所定範囲を覆っている。周囲保護層300Dは、多孔質体からなる。導入口保護層200Dの気孔率よりも、周囲保護層300Dの気孔率の方が高い。
【0156】
周囲保護層300Dの厚みTh2は、周囲保護層300、300A~300Cと同様に、「素子基体100のガス導入口10が開口している面(例えば、先端面)に接して、少なくともガス導入口10を覆う」導入口保護層の厚み以上であってもよい。周囲保護層300Dの厚みTh2は、導入口保護層200Dの厚みTh1以上であってもよい。
図6に例示するガスセンサ素子101Dにおいて、導入口保護層200Dの厚みTh1と、周囲保護層300Dの厚みTh2とは等しい。
【0157】
周囲保護層300Dの気孔率は、周囲保護層300、300A~300Cと同様に、35%以上であってもよい。周囲保護層300Dの気孔率は、周囲保護層300、300A~300Cと同様に、70%以下であってもよい。周囲保護層300Dの厚みTh2は、周囲保護層300、300A~300Cと同様に、200μm以上であってもよい。周囲保護層300Dの厚みTh2は、周囲保護層300、300A~300Cと同様に、900μm以下であってもよい。
【0158】
外側保護層400Dは、外側保護層400、400A~400Cと同様に、例えば、多孔質体からなる。導入口保護層200Dの気孔率は、外側保護層400Dの気孔率以上とするのが望ましく、つまり、外側保護層400Dの気孔率は、導入口保護層200Dの気孔率以下とするのが望ましい。外側保護層400Dの気孔率は、外側保護層400、400A~400Cと同様に、10%以上であってもよい。特に、外側保護層400Dの気孔率は、外側保護層400、400A~400Cと同様に、10%以上、45%以下とするのが望ましい。また、外側保護層400Dの厚みTh3は、100μm以上、400μm以下とするのが望ましい。
【0159】
[特徴]
以上のとおり、本発明の一態様に係るガスセンサ素子(ガスセンサ素子101、101A~101D)は、表面に開口したガス導入口10から被測定ガスが被測定ガス流通部7(内部空間)へと導入される素子基体100を備える。本発明の一態様に係るガスセンサ素子は、素子基体100のガス導入口10が開口している面(例えば、素子基体100の先端面)に接して、少なくともガス導入口10を覆う導入口保護層(導入口保護層200、200A~200D)を備える。本発明の一態様に係るガスセンサ素子は、上述の導入口保護層と、少なくとも、素子基体100の「ガス導入口10が開口している面」以外の面(例えば、素子基体100の上面、下面等)と、に接して、素子基体100の、ガス導入口10が開口している側の所定範囲を覆う周囲保護層(周囲保護層300、300A~300D)を備える。係る周囲保護層は、素子基体100の、ガス導入口10が開口している面に接してもよいし、ガス導入口10が開口している面に接していなくてもよい。
【0160】
本発明の一態様に係るガスセンサ素子において、上述の導入口保護層および周囲保護層は、それぞれ、多孔質体からなり、導入口保護層の気孔率よりも、周囲保護層の気孔率の方が高く、導入口保護層の厚みは、100μm以上である。
【0161】
本件発明者らは、被測定ガス流通部7における工夫(具体的には、被測定ガス流通部7に設けられる拡散律速部)と両立可能な方法によって、測定空間における脈動の、被測定ガス流通部7における被測定ガスの圧力への影響を抑制する方法を検討した。その結果、本件発明者らは、少なくともガス導入口10を覆う保護層を、素子基体100の表面に設けることによっても、脈動の、被測定ガス流通部7における被測定ガスの圧力への影響を抑制できることを確認した。そして、本件発明者らは、素子基体100のガス導入口10が開口している面に接して、少なくともガス導入口10を覆う導入口保護層によって、脈動の影響を抑制できることを確認した。したがって、本発明の一態様に係るガスセンサ素子は、係る導入口保護層によって、脈動の影響を抑制することができ、特に、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な上述の導入口保護層によって、脈動の影響を抑制することができるとの効果を奏する。
【0162】
また、ガスセンサ(特に、素子基体100)が水に濡れてしまうと、被水割れ、起動時間の増大などの様々な問題が生じることが知られている。そこで、本発明の一態様に係るガスセンサ素子は、例えば、素子基体100の、被水の可能性がある表面を、上述の導入口保護層と周囲保護層とによって覆うことで、素子基体100の被水を抑制し、つまり、耐被水性を高めている。したがって、本発明の一態様に係るガスセンサ素子は、導入口保護層と、ガス導入口10が開口している側の所定範囲(例えば、被水の可能性がある範囲)を覆う周囲保護層とによって、良好な耐被水性を実現するとの効果を奏する。
【0163】
本件発明者らは、さらに検討を重ね、上述の導入口保護層の気孔率を周囲保護層の気孔率以上とすると、以下の問題が生じることを見出した。すなわち、導入口保護層の気孔率を周囲保護層の気孔率以上とすると、導入口保護層によって脈動の影響を十分に抑制することができなくなるとの問題が生じることを、本件発明者らは確認した。そこで、本発明の一態様に係るガスセンサ素子は、導入口保護層の気孔率を周囲保護層の気孔率よりも低くすることで、導入口保護層によって、脈動の影響を確実に抑制する。したがって、本発明の一態様に係るガスセンサ素子は、周囲保護層よりも気孔率の低い導入口保護層によって脈動の影響を確実に抑制でき、特に、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層によって、脈動の影響を抑制することができるとの効果を奏する。
【0164】
また、本件発明者らは、上述の導入口保護層の厚みを100μm未満とすると、導入口保護層による、脈動の影響の抑制効果が、十分に発揮されないことを確認した。そこで、本発明の一態様に係るガスセンサ素子は、導入口保護層の厚みを100μm以上とすることで、導入口保護層によって、脈動の影響を確実に抑制する。したがって、本発明の一態様に係るガスセンサ素子は、厚みが100μm以上である上述の導入口保護層によって脈動の影響を確実に抑制でき、特に、被測定ガス流通部7における工夫と両立可能な導入口保護層によって、脈動の影響を抑制することができるとの効果を奏する。
【0165】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、前述までの実施形態の説明は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。上記実施形態には、種々の改良および変形が行われてよい。上記実施形態の各構成要素に関して、適宜、構成要素の省略、置換および追加が行われてもよい。また、上記実施形態の各構成要素の形状および寸法は、実施の形態に応じて適宜変更されてよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0166】
(素子基体の構成について)
これまで、本発明の一態様に係るガスセンサ素子が、
図2に例示する素子基体100を備える例を説明してきた。しかしながら、本発明の一態様に係るガスセンサ素子にとって、
図2に例示する素子基体100を備えることは必須ではない。本発明の一態様に係るガスセンサ素子は、「表面に開口したガス導入口から被測定ガスが内部空間へと導入される素子基体」を備えていればよく、係る素子基体は、
図2に例示する構成を備えていなくてもよい。
【0167】
[実施例]
本発明の効果を検証するため、以下の基準素子1、および、実施例1~23に係るガスセンサ素子を作製した。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0168】
【0169】
【0170】
表1および表2は、基準素子1、および、実施例1~23のそれぞれに係るガスセンサ素子を備えるガスセンサに対する試験(動圧測定試験)の結果等を示す。具体的には、表1は、基準素子1、および、外側保護層400を備えない実施例1~13のそれぞれに係るガスセンサ素子を備えるガスセンサの動圧依存性および耐被水性等を示す。表2は、基準素子1、および、外側保護層400を備える実施例14~23のそれぞれに係るガスセンサ素子を備えるガスセンサの動圧依存性および耐被水性を示す。
【0171】
表1および表2において、基準素子1は共通である。基準素子1は、「素子基体のガス導入口が開口している面に接して、少なくとも係るガス導入口を覆う」導入口保護層を備えないガスセンサ素子であり、例えば、従来のガスセンサ素子である。基準素子1は、「素子基体の、少なくともガス導入口が開口している面以外の面に接して、係る素子基体の、ガス導入口が開口している側の所定範囲を覆う」周囲保護層を備える。基準素子1は、「周囲保護層よりも外側に配置され、少なくとも周囲保護層に接する」外側保護層を備えない。基準素子1において、周囲保護層の気孔率[%]は60であり、周囲保護層の厚み[μm]は500である。以下の説明において、気孔率および厚みの単位は記載を省略する。
【0172】
実施例1~23は、それぞれ、「素子基体のガス導入口が開口している面に接して、少なくとも係るガス導入口を覆う」導入口保護層を備えるガスセンサ素子である。また、実施例1~23は、それぞれ、基準素子1と同様に、周囲保護層を備える。ただし、表1の実施例1~13は何れも、「導入口保護層および周囲保護層よりも外側に配置され、少なくとも周囲保護層に接する」外側保護層を備えないのに対して、表2の実施例14~23は、それぞれ、係る外側保護層を備える。
【0173】
実施例1~8、10、11、13~21、23は、何れも、周囲保護層の気孔率が「35以上、70以下」の範囲にあり、特に、実施例8、21は、何れも、周囲保護層の気孔率が70である。これに対して、実施例9、22は、何れも、周囲保護層の気孔率が25であり、周囲保護層の気孔率が35よりも小さい(低い)。また、実施例12は、周囲保護層の気孔率が80であり、周囲保護層の気孔率が70よりも大きい(高い)。
【0174】
実施例1~12、14~23は、何れも、周囲保護層の厚みが「200以上、900以下」の範囲にあり、特に、実施例7、8、12、20、21は、何れも、周囲保護層の厚みが200である。また、実施例10、23は、何れも、周囲保護層の厚みが900である。これに対して、実施例13は、周囲保護層の厚みが100であり、周囲保護層の厚みが200未満である。
【0175】
実施例1~5、7~18、20~23は、何れも、導入口保護層の気孔率が、周囲保護層の気孔率よりも低く(小さく)、つまり、導入口保護層の気孔率よりも周囲保護層の気孔率の方が高い(大きい)。これに対して、実施例6、19は、何れも、導入口保護層の気孔率が、周囲保護層の気孔率よりも高く(大きく)、導入口保護層の気孔率は、周囲保護層の気孔率以上である。
【0176】
実施例1~5、7~18、20~23は、何れも、導入口保護層の気孔率が「10以上、45以下」の範囲にあり、特に、実施例4、5、8、12、17、18、21は、何れも、導入口保護層の気孔率が45である。これに対して、実施例6、19は、何れも、導入口保護層の気孔率が70であり、導入口保護層の気孔率が45よりも大きい(高い)。
【0177】
実施例2~13、15~23は、何れも、導入口保護層の厚みが「100以上、900以下」の範囲にあり、特に、実施例2、7、8、12、13、15、20、21は、何れも、導入口保護層の厚みが100である。また、実施例10、23は、何れも、導入口保護層の厚みが900である。これに対して、実施例1、14は、何れも、導入口保護層の厚みが50であり、導入口保護層の厚みが100よりも小さい(薄い)。
【0178】
実施例1~10、12~23は、何れも、導入口保護層の厚みが、周囲保護層の厚み以下であり、つまり、周囲保護層の厚みは、導入口保護層の厚み以上である。これに対して、実施例11において、周囲保護層の厚みは、導入口保護層の厚みよりも、小さい(薄い)。
【0179】
表2に示す実施例14~23は、何れも、外層保護層の気孔率が「10以上、45以下」の範囲にあり、特に、実施例20の外層保護層の気孔率は10であり、また、実施例21の外層保護層の気孔率は45である。
【0180】
実施例14~23は、何れも、外層保護層の厚みが「100以上、400以下」の範囲にあり、特に、実施例20、21は、何れも、外層保護層の厚みが100であり、また、実施例23の外層保護層の厚みは400である。
【0181】
本件発明者らは、上述の基準素子1、および、実施例1~23のそれぞれに係るガスセンサ素子について、測定空間における脈動の、内部空間における被測定ガスの圧力への影響(動圧依存性)を比較するために、以下の試験を行なった。すなわち、基準素子1、および、実施例1~23のそれぞれに係るガスセンサ素子を含むガスセンサに対して、動圧測定試験を行なって、動圧依存性(脈動の影響を抑制する効果)を評価した。動圧測定試験においては、自動車のエンジンの排気管に圧力計および各ガスセンサを取り付け、動圧測定を行なった。エンジンとしては、V型8気筒の4.6Lガソリンエンジンを使用し、動圧測定試験においては、8気筒のうち4気筒を動作させた。エンジンを動作させることによって動圧(脈動)が生じ、動圧測定においては、各ガスセンサ(各ガスセンサ素子)のポンプ電流(以下、「Ip0」と称する)の変化率(%)を測定した。Ip0は、ガスセンサ素子の内部空間における被測定ガスの圧力(係る圧力の変化)に応じて変化する。動圧測定試験においては、ΔIp0/(Ip0平均値)をIp0の変化率(%)とした。Ip0のピークピーク値(Peak-to-peak value)をΔIp0とした。Ip0を示す信号の取得間隔は、1msecとした。エンジン条件(回転数、スロットル開度、λ)を調整することによって、複数種類の動圧を生じさせ、各動圧におけるIp0の変化率を測定した。Ip0の変化率が小さい程、動圧依存性が抑制されているといえ、つまり、測定空間(排気管内)における脈動の、ガスセンサ素子の内部空間における被測定ガスの圧力への影響を抑制できているといえる。
【0182】
併せて、本件発明者らは、各ガスセンサ(各ガスセンサ素子)について、その耐被水性を評価した。今回の耐被水性の評価においては、先ず、各実施例に係る複数本(例、5本)のガスセンサ(ガスセンサ素子)について、所定の時間間隔で水滴を滴下し、被水割れ等の被水による影響が確認された時点までの合計滴下水量(限界被水量)の平均値を算出した。各実施例に係る限界被水量(限界被水量の平均値)から、各ガスセンサ(各ガスセンサ素子)の耐被水性を評価した。限界被水量の値が大きいほど、耐被水性が優れていることになる。
【0183】
表1およ表2において、「動圧依存性」が「◎(極めて良好)」とは、実施例1~23のそれぞれに係るガスセンサ素子(ガスセンサ)の動圧依存性が、基準素子1の動圧依存性に比べて、50%以上向上したことを示している。動圧依存性は、「測定空間における脈動の、内部空間における被測定ガスの圧力への影響を抑制する効果」と捉えることができる。「動圧依存性」が「〇(良好)」とは、実施例1~23のそれぞれに係るガスセンサ素子の動圧依存性が、基準素子1の動圧依存性に比べて、30%以上、50%未満の範囲で向上したことを示している。「動圧依存性」が「△(若干向上)」とは、実施例1~23のそれぞれに係るガスセンサ素子の動圧依存性が、基準素子1の動圧依存性に比べて、10%以上、30%未満の範囲で向上したことを示している。「動圧依存性」が「×(不良)」とは、実施例1~23のそれぞれに係るガスセンサ素子の動圧依存性が、基準素子1の動圧依存性と比較して、10%未満の範囲で向上した、同等である、または、悪化した、ことを示している。
【0184】
表1およ表2において、「耐被水性」が「◎(極めて良好)」とは、実施例1~23のそれぞれに係るガスセンサ素子(ガスセンサ)について、基準素子1の耐被水性よりも高い耐被水性を確認したことを示している。「耐被水性」が「〇(良好)」とは、実施例1~23のそれぞれに係るガスセンサ素子(ガスセンサ)について、基準素子1と同等の耐被水性を確認したことを示している。「耐被水性」が「×(不良)」とは、基準素子1の耐被水性に比べて、実施例1~23のそれぞれに係るガスセンサ素子の耐被水性が、悪化(低下)していたことを示している。
【0185】
(周囲保護層の気孔率を導入口保護層よりも高くすることで実現される効果)
表1において、導入口保護層の気孔率が、周囲保護層の気孔率よりも低い実施例2~5、7~13は、何れも、「動圧依存性」が「〇」または「△」である。これに対して、導入口保護層の気孔率が、周囲保護層の気孔率よりも高い実施例6の「動圧依存性」は「×」である。
【0186】
同様に、表2において、導入口保護層の気孔率が、周囲保護層の気孔率よりも低い実施例15~18、20~23は、何れも、「動圧依存性」が「〇」または「△」である。これに対して、導入口保護層の気孔率が、周囲保護層の気孔率よりも高い実施例19の「動圧依存性」は「×」である。
【0187】
そのため、導入口保護層の気孔率を周囲保護層の気孔率よりも低くすることで、特に、導入口保護層の気孔率よりも周囲保護層の気孔率を高くすることで、動圧依存性を改善することができ、つまり、脈動の影響を抑制できることを確認した。したがって、ガスセンサ素子は、周囲保護層よりも気孔率の低い導入口保護層によって、脈動の影響を確実に抑制することができる。特に、ガスセンサ素子は、被測定ガス流通部での工夫(具体的には、拡散律速部)と両立可能な、「周囲保護層よりも気孔率の低い導入口保護層」によって、脈動の影響を極めて良好に抑制することができる。
【0188】
(導入口保護層の厚みを100以上とすることで実現される効果)
表1において、導入口保護層の厚みが「100以上」の範囲にある実施例2~5、7~13は、何れも、「動圧依存性」が「〇」または「△」である。これに対して、導入口保護層の厚みが100よりも小さく50である実施例1の「動圧依存性」は「×」である。
【0189】
同様に、表2において、導入口保護層の厚みが「100以上」の範囲にある実施例15~18、20~23は、何れも、「動圧依存性」が「〇」または「△」である。これに対して、導入口保護層の厚みが100よりも小さく50である実施例14の「動圧依存性」は「×」である。
【0190】
そのため、導入口保護層の厚みを「100以上」の範囲とすることで、ガスセンサ素子の動圧依存性を改善でき、つまり、脈動の影響を抑制する効果が向上することが確認された。したがって、ガスセンサ素子は、厚みが100以上である導入口保護層によって、脈動の影響を確実に抑制することができる。特に、ガスセンサ素子は、被測定ガス流通部での工夫(具体的には、拡散律速部)と両立可能な、「厚みが100以上である導入口保護層」によって、脈動の影響を極めて良好に抑制することができる。
【0191】
(周囲保護層の厚みを導入口保護層の厚み以上とすることで実現される効果)
表1において、周囲保護層の厚みが導入口保護層の厚み以上である実施例1~8、10は、何れも、「耐被水性」が「〇」である。これに対して、周囲保護層の厚みが導入口保護層の厚みよりも薄い実施例11は、「耐被水性」が「×」である。
【0192】
そのため、周囲保護層の厚みを導入口保護層の厚み以上とすることで、ガスセンサ素子の耐被水性を向上できることが確認された。周囲保護層の厚みを導入口保護層の厚みよりも小さく(薄く)すると、導入口保護層の少なくとも一部が、周囲保護層の外側に露出することになり、周囲保護層および導入口保護層の少なくとも一方が破損しやすくなり、ガスセンサ素子の耐被水性が悪化する。そこで、ガスセンサ素子は、周囲保護層の厚みを導入口保護層の厚み以上とすることで、ガスセンサ素子の耐被水性を維持、向上させる。したがって、ガスセンサ素子は、導入口保護層の厚み以上の厚みを有する周囲保護層によって、良好な耐被水性を実現する。
【0193】
(外側保護層を備えることで実現される効果)
実施例1~6、8、10のそれぞれと、実施例14~19、21、23のそれぞれとは、「導入口保護層および周囲保護層よりも外側に配置され、少なくとも周囲保護層に接する」外側保護層を備えるか否かを除いて、周囲保護層の気孔率および厚み、導入口保護層の気孔率および厚みは、同様である。そして、実施例1~6、8、10のそれぞれの「耐被水性」が「〇」であるのに対して、実施例14~19、21、23のそれぞれの「耐被水性」は「◎」である。つまり、上述の外側保護層により、ガスセンサ素子の耐被水性が向上した。
【0194】
そのため、「導入口保護層および周囲保護層よりも外側に配置され、少なくとも周囲保護層に接する」外側保護層により、ガスセンサ素子の耐被水性を向上できることを確認した。したがって、ガスセンサ素子は、導入口保護層および周囲保護層よりも外側に配置される、上述の外側保護層によって、係る外側保護層を備えない場合よりもさらに、耐被水性を向上させることができる。
【0195】
特に、上述の外側保護層は、気孔率が「10以上、45以下」の範囲にあり、厚みが「100以上、400以下」の範囲にある。そのため、気孔率が「10以上、45以下」の範囲にあり、厚みが「100以上、400以下」の範囲にある外側保護層によって、ガスセンサ素子は、係る外側保護層を備えない場合よりもさらに、耐被水性を向上させることができる。
【0196】
(導入口保護層の気孔率を45%以下とすることで実現される効果)
表1において、導入口保護層の気孔率が45である実施例4、5、8、12の「動圧依存性」は「△」であるのに対して、「45未満」の範囲にある実施例2、3、7、9、10、11、13は、何れも、「動圧依存性」が「〇」である。同様に、表2において、導入口保護層の気孔率が45である実施例17、18、21の「動圧依存性」は「△」であるのに対して、「45未満」の範囲にある実施例15、16、20、22、23は、何れも、「動圧依存性」が「〇」である。そして、導入口保護層の気孔率が45よりも大きく70である実施例6、19は、何れも、「動圧依存性」が「×」である。
【0197】
そのため、(1)導入口保護層の気孔率の上限は45であること、および、(2)導入口保護層の気孔率を「45以下」の範囲とすることで、ガスセンサ素子の動圧依存性を改善でき、つまり、脈動の影響を抑制する効果が向上することが確認された。したがって、ガスセンサ素子は、気孔率が45以下である導入口保護層によって、脈動の影響を確実に抑制することができる。特に、ガスセンサ素子は、被測定ガス流通部での工夫(具体的には、拡散律速部)と両立可能な、「気孔率が45以下である導入口保護層」によって、脈動の影響を極めて良好に抑制することができる。
【0198】
なお、導入口保護層の気孔率を10未満とすると、導入口保護層により被測定ガスの内部空間(被測定ガス流通部)への導入が制約され、つまり、内部空間へと導入される被測定ガスのガス流量が小さくなって、ガスセンサ素子の応答性、測定精度等が悪化する。そこで、ガスセンサ素子は、導入口保護層の気孔率を10以上とすることで、応答性、測定精度等の悪化を回避する。
【0199】
(周囲保護層の気孔率を35%以上とすることで実現される効果)
表1において、周囲保護層の気孔率が「35以上」の範囲にある実施例1~8、10は、何れも、「耐被水性」が「〇」であるのに対して、周囲保護層の気孔率が35よりも小さい25である実施例9の「耐被水性」は「×」である。同様に、表2において、周囲保護層の気孔率が「35以上」の範囲にある実施例14~21、23は、何れも、「耐被水性」が「◎」または「〇」であるのに対して、周囲保護層の気孔率が35よりも小さい25である実施例22の「耐被水性」は「×」である。
【0200】
そのため、周囲保護層の気孔率を「35以上」の範囲とすることで、ガスセンサ素子の耐被水性を向上できることを確認した。したがって、ガスセンサ素子は、「気孔率が35以上である周囲保護層」によって、ガスセンサ素子の耐被水性を向上させつつ、被測定ガス流通部での工夫と両立可能な導入口保護層によって、脈動の影響を極めて良好に抑制することができる。
【0201】
(周囲保護層の気孔率を70%以下とすることで実現される効果)
表1において、実施例8と実施例12とは、周囲保護層の気孔率が70以下であるかを除いて、周囲保護層の厚み、導入口保護層の気孔率および厚みは、同様である。そして、実施例8の「耐被水性」が「〇」であるのに対して、実施例12の「耐被水性」は「×」である。つまり、周囲保護層の気孔率を70以下とすることで、ガスセンサ素子の耐被水性が向上した。
【0202】
そのため、周囲保護層の気孔率を70以下とすることで、ガスセンサ素子の耐被水性を向上できることを確認した。したがって、ガスセンサ素子は、「気孔率が70以下である周囲保護層」によって、ガスセンサ素子の耐被水性を向上させつつ、被測定ガス流通部での工夫と両立可能な導入口保護層によって、脈動の影響を極めて良好に抑制することができる。
【0203】
(周囲保護層の厚みを200以上とすることで実現される効果)
表1において、実施例2と実施例13とは、周囲保護層の厚みが200以下であるかを除いて、周囲保護層の気孔率、導入口保護層の気孔率および厚みは、同様である。そして、実施例2の「耐被水性」が「〇」であるのに対して、実施例13の「耐被水性」は「×」である。つまり、周囲保護層の厚みを200以上とすることで、ガスセンサ素子の耐被水性が向上した。
【0204】
そのため、周囲保護層の厚みを200以上とすることで、ガスセンサ素子の耐被水性を向上できることを確認した。したがって、ガスセンサ素子は、「厚みが200以上である周囲保護層」によって、ガスセンサ素子の耐被水性を向上させつつ、被測定ガス流通部での工夫と両立可能な導入口保護層によって、脈動の影響を極めて良好に抑制することができる。
【符号の説明】
【0205】
10…ガス導入口、7…被測定ガス流通部(内部空間)、100…素子基体、
101、101A~101D…センサ素子(ガスセンサ素子)、
200、200A~200D…導入口保護層、
300、300A~300D…周囲保護層、400、400A~400D…外側保護層、
Th1…導入口保護層の厚み、Th2…周囲保護層の厚み