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特開2024-136549防火性能保持効果を有する木材用塗料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136549
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】防火性能保持効果を有する木材用塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20240927BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20240927BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20240927BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D183/04
C09D7/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047699
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390002185
【氏名又は名称】大成ロテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507381455
【氏名又は名称】株式会社フェクト
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 康裕
(74)【代理人】
【識別番号】100119747
【弁理士】
【氏名又は名称】能美 知康
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 愛枝
(72)【発明者】
【氏名】新藤 竹文
(72)【発明者】
【氏名】今井 和正
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 充人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 育正
(72)【発明者】
【氏名】大山 潤哉
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG001
4J038DL031
4J038GA07
4J038HA446
4J038KA03
4J038MA14
4J038NA03
4J038NA05
4J038NA15
4J038PB05
4J038PC06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】難燃化処理された木材に対しても白華現象が生じ難く、防火性能を保持しつつ、屋外環境への耐久性にすぐれた有機無機複合塗膜を形成することができる木材用塗料を提供する。
【解決手段】溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物と、エポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物を含む硬化剤と、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末と、の混合物から調製されたものを含むことを特徴とする。メチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの含有量は、溶剤系アクリル樹脂100質量部に対して10質量部以上60質量部以下であり、硬化剤の添加量は塗料組成物100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃処理薬剤封止効果を有する木材用保護塗料であって、
溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物と、
エポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物を含む硬化剤と、
イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末と、
の混合物から調製されたものを含むことを特徴とする木材用保護塗料。
【請求項2】
前記メチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの含有量は、前記溶剤系アクリル樹脂100質量部に対して10質量部以上60質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の木材用保護塗料。
【請求項3】
前記硬化剤の添加量は、前記塗料組成物100質量部に対して、0.5質量部以上20質量部以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の木材用保護塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃化処理された木材に対しても白華現象が生じ難く、防火性能を保持しつつ、屋外環境への耐久性にすぐれた有機無機複合塗膜を形成することができる木材用塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
公共建築物等や、脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材利用促進法が施行されるなど、建築物への木材の積極的な利用が促進されている。木材を外装木として使用する場合、その耐久性を向上させるために、一般的に塗料による木材表面の被覆が行われている。このような外装木は、延焼のおそれのある部分については何らかの防火対策が必要であり、難燃化処理が求められている。木材の難燃化処理に使用する薬剤は、多くの場合水溶性である。従って、難燃化処理された木材を屋外で使用した場合、風雨によって薬剤が早期に溶脱するので、難燃性効果持続期間が短くなることが問題となっている。また、溶脱した薬剤は、木材表面で析出し、白華現象とよばれる外観不良を引き起こす。
【0003】
このような難燃化処理に使用する薬剤の溶脱を抑制する方法として、木材表面に塗装を行って、表面を被覆することが考えられる。塗装による木材の被覆には、大きく分けて、木材に染み込む「含浸形」、表面に被膜を形成しつつ木材にやや染み込む「半造膜形(薄膜)」、及び、表面に厚膜を形成する「造膜形(厚膜)」のものが知られているが、「造膜形」のものは木目が見えなくなり、木質感が失われるためにあまり好まれていない。さらに、外装木材用塗料としては、紫外線や風雨等に曝されることによる変色、ひび割れ等の経年劣化に対処することが要求されるほか、木材は周囲の湿度との関係により湿気を吸ったり吐いたりすることで伸縮するために寸法が変化するので、この寸法変化に対する追従性も要求される。
【0004】
含浸形塗料であるアクリル樹脂、ウレタン樹脂等の有機系塗料の場合、可撓性のコントロールが容易で、クラック発生の恐れは低いが、耐候性に劣るという欠点がある。半造膜形ないし厚膜形の木材保護塗料の場合は、耐候性の観点からシリコーン塗料、フッ素樹脂系塗料又はセラミックやケイ素等の無機物を主成分とする無機系塗料が望ましいが、これらの塗料は、通常は硬質のために木材の動きに追従できず、クラックが発生しやすいという欠点がある。
【0005】
このような有機系の木材用塗料の耐候性に劣るという課題を解決すべく半造膜形ないし造膜形の有機無機複合塗料ないし無機系塗料の開発も多く行われている。たとえば特許文献1(特開2021-102673号公報)には、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物と、加水分解性シリコーン化合物を主成分とする前記水性塗料組成物の硬化剤とを含む有機無機複合塗料において、無機粒子として鱗片状シリカ粉末及びポリカルボジイミドを反応させたスメクタイト粉末を含むものを用い水性外装木材用塗料の発明が開示されている。
【0006】
また、特許文献2(特開2006-159554号公報)には、1分子中にケイ素原子に結合するヒドロキシル基を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサンと、アミノ基含有オルガノアルコキシシランと酸無水物との反応生成物と、エポキシ基含有オルガノアルコキシシラン及び/又はその部分加水分解物と、コロイダルシリカ及び/又はポリシルセスキオキサンと、硬化触媒とからなる成分を界面活性剤存在下に水中に乳化分散させたシリコーンエマルジョン組成物を含む塗料組成物の発明が開示されている。
【0007】
また、特許文献3(特開2017-052853号公報)には、ポリエステルポリオールを含有する主剤と、ポリイソシアネートを含有する硬化剤と、を含む2液型木材塗料であって、2以上のイソシアネート基を有する界面活性剤を含有する第1の添加剤と、末端にシラノール基を有する無機化合物を含む第2の添加剤をさらに含む2液型木材塗料の発明が開示されており、第2の添加剤として白雲母などの鱗片形状の珪素化合物を用いることも開示されている([0033]参照)。
【0008】
また、特許文献4(特許第6985638号公報)には、3級アミノ基含有アクリル樹脂及びナノシリカを複合したメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物と、エポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物を含む硬化剤とからなり、単一の塗膜でも防腐剤等の木材保存剤の溶脱防止効果が高く、しかも、耐候性、耐久性に優れた有機無機複合塗膜を形成することができる木材用塗料の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-102673号公報
【特許文献2】特開2006-159554号公報
【特許文献3】特開2017-052853号公報
【特許文献4】特許第6985638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1~4に開示されている有機無機複合塗料ないし無機系塗料によれば、伸縮性だけでなく、耐候性や耐久性に優れているため、外装木材用塗料として良好な特性を備えている。一方、難燃化処理された木材に対して塗装する場合、水系塗料の多くは難燃化薬剤と反応して結晶化などを引きおこし、正常に塗装できないという課題が存在している。特許文献1及び2に開示されている有機無機複合塗料ないし無機系塗料も、水系塗料であるため、難燃化処理された木材に塗装すると結晶化してしまうので、正常に塗装できない。
【0011】
また、特許文献3に開示されている2液型木材塗料は、溶剤系であるために難燃化処理された木材に正常に塗布することができ、しかも、7日間の耐候試験後には白華現象が生じなかったこと(段落[0049]参照)も示されているが、より長期の耐候性に関しては明らかではない。なお、特許文献4に開示されている木材用塗料は、防腐剤で処理された木材に対しては良好な木材保存剤の溶脱防止効果を奏することができるようになるが、難燃化処理された木材に対する難燃化処理薬剤の溶脱防止効果は必ずしも優れているものではなく、更なる改良が求められている。
【0012】
本発明は、上述のような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、木材中に含有された難燃化処理薬剤の溶脱防止効果が高くて白華現象が生じがたく、しかも、耐候性、耐久性に優れた有機無機複合塗膜を形成することができる木材用保護塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の難燃処理薬剤封止効果を有する木材用保護塗料は、溶剤系アクリル樹脂、及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物と、エポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物を含む硬化剤にイソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末と、を混合させたものであることを特徴とする。
【0014】
本発明の木材用保護塗料によれば、難燃化処理された木材に対して塗膜を形成した際に難燃化処理薬剤によってゲル化することがなく、木材表面に膜が形成されるため、難燃化処理された木材から難燃化処理薬剤の溶脱を防止し、木材表面に白い生成物として浮き出る白華を防止できる。加えて、塗膜の可撓性が大きくて木材の伸縮に良好に追従することができるので、耐候耐久性も良好な塗膜が得られる。
【0015】
なお、本発明の難燃処理薬剤封止効果を有する木材用保護塗料は、使用時に「塗料組成物」と、「硬化剤」と、「イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末」と、を混合して木材用保護塗料とする「3液型」のものとすることも、予め硬化剤及びイソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末とを混合しておき、使用時に「塗料組成物」と、「硬化剤及びイソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末とを混合したもの」と、を混合して木材用保護塗料とする「2液型」のものとすることもできる。
【0016】
一般に、アクリル樹脂とエポキシ基を持った加水分解性シリコーン化合物との硬化機構は、次の反応式(1)のとおり、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂からなる硬化塗膜を形成することによるものと考えられている。
【0017】
また、シリコーンアルコキシオリゴマーは、下記化学式に示したように、分子末端がアルコキシシリル基(≡Si-OR)である比較的低分子のシリコーンレジンであり、分子内に有機置換基(R)と加水分解性のアルコキシ基(-OR)を同時に含有している。
【0018】
このシリコーンアルコキシオリゴマーは、下記反応式(2)に示したように、アルコキシシリル基により常温で湿気硬化が可能である。
【0019】
本発明の木材用保護塗料におけるメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーは、メチル基とフェニル基を併せ持っており、溶剤系アクリル樹脂等の有機樹脂との相容性が良好であり、しかも溶剤系アクリル樹脂と架橋反応して得られる共重合体は、耐候性、耐熱性、耐薬品性に優れた塗料用樹脂となる。
【0020】
本発明の木材用保護塗料においては、溶剤系アクリル樹脂がソフトセグメントとして作用し、メチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーがハードセグメントとして作用する熱可塑性樹脂成分となる。なお、熱可塑性樹脂は、基本的にハードセグメントとソフトセグメントの二つから構成されているものであり、ソフトセグメントは弾性を付与するためのゴム成分であって軟質性を付与する役割を持ち、ハードセグメントは高温では流動するが常温では変形を阻止する拘束性を付与する役割を持つ。
【0021】
なお、メチル基を有機置換基とするメチル系シリコーンアルコキシオリゴマーは、高硬度で耐擦傷性に優れた硬化塗膜を形成するが、曲げや衝撃に対し割れやすくなる傾向があり、変形追随性に劣っている。これに対し、フェニル基を含有するメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーは、硬さを調節でき、溶剤系アクリル樹脂など有機樹脂との相溶性が良好であるという特徴を有している。そのため、本発明の木材用保護塗料の調製用には、フェニル基を含有するメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを使用する。なお、メチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーにおけるアルコキシ基はメトキシ基であり、アルコキシ量は10~50%の範囲のものが市販されている。このうち、アルコキシ量30~35%のメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーが特に溶剤系アクリル樹脂との混合安定性が良好で、耐水性や耐候性に優れるようになる。
【0022】
本発明の木材用保護塗料におけるメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの含有量は、溶剤系アクリル樹脂100質量部に対して10質量部以上60質量部以下とすることが好ましい。メチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの含有量が溶剤系アクリル樹脂100質量部に対して10質量部未満では耐水性や耐候性の改良効果が小さくなり、同じく60質量部を越えるとひび割れ防止効果が低下する。
【0023】
なお、アクリル樹脂は水系ないし溶剤系の何れにおいても多種類のものが市販されているが、本発明の木材用保護塗料における溶剤系アクリル樹脂としては市販のものから適宜に選択して使用すればよい。また、メチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーとしては、市販の信越化学工業(株)のKR-401N、KR-510、KR-213、KR-9218など、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社のTSR165、XR31-B2230、XR31-B6667など(いずれも商品名)を使用することができる。
【0024】
また、本発明の木材用保護塗料においては、硬化剤としてのエポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物の添加量は、溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物100質量部に対して、0.5質量部以上20質量部以下が好ましい。
【0025】
なお、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末は、例えばメチルエチルケトン中に適量のポリイソシアネート化合物及び鱗片状シリカ粉末を添加して撹拌・混合し、数分~数十分間静置し、濾過及び乾燥することにより調製することができる。イソシアネート化合物及び鱗片状シリカ粉末のそれぞれの添加量は、臨界的限度は明確ではないが、質量比で1:0.1~0.5とすることが好ましい。イソシアネート化合物の添加量が鱗片状シリカ粉末の添加量の0.1倍よりも少ないとイソシアネート化合物を反応させたことの効果が良好に現れず、また、0.5倍よりも多すぎても反応しなかったイソシアネート化合物が無駄となるので不経済となる。
【0026】
このイソシアネート化合物は、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂中に含まれる官能基(水酸基)と反応してウレタン結合を形成するので、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末は、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂に強固に結合して複合化され、塗膜中に安定的に存在できるようになる。
【0027】
鱗片状シリカ粉末と反応させるイソシアネート化合物は特に限定されず、2液反応型塗料用の硬化剤として公知のものを用いることができる。このイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、メタキシリレンジイソシアネート(MXDI)等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、テトラメチレンジイソシアネート、2-メチル-ペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチル-ペンタン-1,5-ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリオキシエチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキシルジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。なかでも、粘度が比較的低い点で、脂肪族ジイソシアネートが好ましく、HDIがより好ましい。
【0028】
また、鱗片状シリカは、耐水性、耐熱性に優れ、自己造膜性を有しているが、膨潤性は小さい。そのため、塗膜中に鱗片状シリカ粉末のみを含んでいる場合には、伸縮性が少ない強固な塗膜が得られるが、外装木材用塗料としては木材の伸縮に対して追従性が劣るために適さなくなる。しかしながら、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末を含む場合には、伸縮性が良好で木材の伸縮に対して良好に追従できる塗膜が得られるようになる。また、鱗片状シリカ粉末は無機材料であるため、良好な耐久性を得ることができるようになる。なお、鱗片状シリカ粉末の粒度は、それぞれ塗料用として市販されているものを適宜に選択して使用すればよく、例えば市販のサンラブリー(登録商標名、AGCSIテック株式会社)を使用することができる。
【0029】
なお、本発明の木材用保護塗料におけるイソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末の機能としては、塗膜形成作用というよりは木材内部の空隙に入り込んで木材と塗膜との間のアンカー機能を強化する補強材として作用を奏しているものと推定される。
【0030】
そのため、本発明の木材用保護塗料によれば、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末が強固に塗膜中に複合化されているので、木材の伸縮に伴う寸法変化に追従して塗膜が伸縮しても良好に追従できる耐久性が良好な有機無機複合塗膜が得られる。しかも、鱗片状シリカ粉末は、無機材料であるため、良好な耐久性を得ることができるようになる。
【0031】
また、本発明の木材用保護塗料で用いる鱗片状シリカ粉末の添加量は、溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系アルコキシシリコーンオリゴマーを主成分とする塗料組成物100質量部に対し0.5質量部以上5質量部以下とすることが好ましい。鱗片状シリカ粉末の含有割合が塗料組成物100質量部に対して0.5質量部未満であると、良好な木材のひび割れ防止補強効果が得られず、同じく5質量部を越えると塗膜の外観が損なわれる。より好まししい溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系アルコキシシリコーンオリゴマーを主成分とする塗料組成物中の鱗片状シリカ粉末の含有割合は、塗料組成物100質量部に対して0.5質量部以上4質量部以下である。なお、本発明の木材用保護塗料で用いる鱗片状シリカ粉末の平均粒径は、臨界的限度は必ずしも明確ではないが、0.5μm以上3.0μm以下であることが好ましい。
【0032】
さらに、本発明の木材用保護塗料においては、外装木材用塗料に慣用的に使用されている紫外線吸収剤、光安定剤、防腐剤、顔料等を適宜に添加してもよい。紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤及び無機系紫外線吸収剤の少なくとも1種を使用することができる。有機系紫外線吸収剤としては、トリアジン系の紫外線吸収剤であるチヌビン400(商品名、BASF製)、ベンゾトリアソール系の紫外線吸収剤であるアデカスタブLA31、アデカスタブLA32、アデカスタブLA36(何れも商品名、株式会社ADEKA製)、HOSTAVIN3315DISP、HOSTAVIN3326DISP(何れも商品名、クラリアントケミカルズ株式会社製)等を使用することができる。さらに、無機系紫外線吸収剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム等を使用することができる。本発明の防火性能保持効果を有する木材用保護塗料においては、有機系紫外線吸収剤及び無機系紫外線吸収剤を併用することが好ましい。
【0033】
また、光安定剤は、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)が汎用的に用いられており、高分子の光劣化を抑制し、特に表面の劣化防止に優れている添加剤である。この光安定剤としては、BASF製のチヌビン(商品名)、アデカスタブLA72、アデカスタブLA82(何れも商品名、株式会社ADEKA製)、HOSTAVIN3051-2DISP、HOSTAVIN3070DISP(何れも商品名、クラリアントケミカルズ株式会社製)等を使用することができる。
【0034】
なお、防腐剤としては、木材用防腐剤として周知のものうち適宜に選択して使用することができ、例えば第4級アンモニウム化合物、銅・第四級アンモニウム化合物、銅・アゾール化合物等を使用することができる。
【0035】
また、本発明の木材用保護塗料は、塗膜構造中にシラノール基が含まれているため、このシラノール基に起因する塗膜表面の親水化が起こる。一般的な建築外装用塗料であれば、このシラノール基の存在によって、雨水によるセルフクリーニング機能が発現し、耐汚染性に優れた塗膜が形成されるが、木材用保護塗料として使用した場合、木の内部に水分が浸透しやすくなり、腐朽菌の増殖につながって木の劣化が促進されてしまう。そのため、本発明の木材用保護塗料においては、溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物中に撥水性添加剤を添加してもよい。これにより、塗膜の表面に撥水性が付与され、木材用に使用した場合でも木の内部に水分が浸透し難くなるので、木の劣化が抑制される。
【0036】
この撥水性添加剤としては、フッ素/アクリル系コポリマーであるモディバーF3636(商品名、日油株式会社製)、シコーン/アクリルコポリマーであるモディバーFS720(日油株式会社製)、フッ素樹脂であるメガファックF-552(商品名、DIC株式会社製)等を使用することができるほか、一般的なシリコーンオイルも使用することができる。
【発明の効果】
【0037】
以上述べたように、本発明の木材用保護塗料によれば、溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物中にイソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末が添加されているため、難燃処理された木材に用いても、難燃処理薬剤封止効果を有する耐候性、耐汚染性、耐水性等の耐久性が良好な有機無機複合塗膜を形成することができる塗料組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】実験例1、比較例1及び比較例2のそれぞれ塗布直後の試験体の表面写真である。
図2】実験例1~7及び比較例2の試験片のそれぞれ乾湿繰り返し試験後の表面写真である。
図3】実験例1~7及び比較例2の試験片のそれぞれ耐候性試験後の表面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係る難燃処理薬剤封止効果を有する木材用保護塗料について、各種実験例及び比較例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す各種実験例は、本発明の技術思想を具体化するための例を示すものであって、本発明をこれらの実験例に示したものに特定することを意図するものではない。本発明は特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適用し得るものである。
【0040】
[イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末] 最初に本発明の難燃処理薬剤封止効果を有する木材用保護塗料に必要なイソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末の調製工程について説明する。まず、メチルエチルケトンに市販の鱗片状シリカ粉末(サンラブリー(登録商標名、AGCSIテック株式会社)を分散させると共に、ポリイソシアネート化合物を質量比で鱗片状シリカ粉末の1/10となるように添加し、5分間良く撹拌した後に濾過及び乾燥して、各種実験例で使用するイソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末を得た。
【0041】
[難燃化木材試験体について] 水溶性難燃剤としては、多種多様のものが市販されており、特に限定されず、たとえば、無機リン系難燃剤やホウ素系難燃剤を用いたものでもよい。本発明の木材用保護塗料の難燃処理薬剤封止効果を確認するための試験体としては、任意の木材に市販の水溶性難燃剤を含浸させて調製したものを用いればよいが、以下では市販の難燃化処理木材をそのまま用いて各種試験を行った。
【0042】
[実験例1] 実験例1の木材用保護塗料における溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物としては、溶剤系アクリル樹脂(ACRYDIC A-814(商品名)、DIC(株))と、メチルフェニル系シリコーンオリゴマー(KR-401N(商品名)、信越化学工業(株))とから調製されたものを用いた。また、硬化剤としては、加水分解性シリコーン化合物(OFS6040(商品名)、ダウ・東レ製)を高沸点系芳香属系溶剤に溶解させたものを用いた。
【0043】
さらに、各種添加剤として、上述のようにして調製されたイソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末と、撥水性添加剤(モディバーF3636、モディバーF720等(商品名、日油株式会社製))、無機系紫外線吸収材(酸化チタン)、有機系紫外線吸収剤(チヌビン400(商品名、BASF製))、光安定剤(チヌビン(商品名)、BASF製)部、防腐剤(塩化ジデシルジメチルアンモニウム)、ミネラルスピリット、キシレン及びナフタレン溶剤をそれぞれ用い、さらにピニー色の塗料とするために顔料としてベンガラ及び酸化鉄イエローを用いた。
【0044】
実験例1における木材用保護塗料は、上記の溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物中に加水分解性シリコーン化合物を含む硬化剤及びイソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末以外の全ての成分を混合したものをA液とし、加水分解性シリコーン化合物を含む硬化剤及びイソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末とを混合した物をB液とし、使用直前にA液:B液=1:1(質量比)の割合で混合して調製した。実験例1の木材用保護塗料は「造膜(半造膜)タイプ」のものであり、溶剤系アクリル樹脂100質量部に対するメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの含有量は10質量部であり、塗料組成物(溶剤系アクリル樹脂+メチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマー)100質量部に対する硬化剤の添加量は5質量部に対応する。実験例1の木材用保護塗料の全組成をそれぞれの成分毎に比較例1及び2の塗料の組成と共に下記表1に纏めて示した。
【0045】
[比較例1及び2] 比較例1の木材用保護塗料としては市販の水性高耐久木材保護塗料T-WOOD COAT(商品名、大成建設(株))のライトブラウン色のものをそのまま使用し、比較例2の木材用保護塗料としては同じく市販の油性木材保護塗料のライトブラウン色のものをそのまま使用した。比較例1の木材用保護塗料は「造膜(半造膜)タイプ」のものであり、比較例2の木材用保護塗料のは「含浸タイプ」のものである。比較例1及び2の木材用保護塗料の全組成をそれぞれの成分毎に実験例1のものと纏めて表1に示した。なお、実験例1の木材用保護塗料のメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの溶剤系アクリル樹脂に対する含有割合は25.0%に対応する。さらに、硬化剤であるエポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物の溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする樹脂組成物100質量部に対する含有量は2.0質量部に対応する。
【0046】
【表1】
【0047】
[塗装試験(実験例1、比較例1及び2)] 実験例1、比較例1及び2のそれぞれの木材用保護塗料を用い、市販の難燃化処理された杉材(無節)の70×150×10mmのものを用意し、直ちにスプレー法や刷毛塗により、予め定めた条件で、所定厚さに塗布し、塗装直後の試験体の表面状態を観察した。得られた実験例1、比較例1及び比較例2の試験体の表面状態を図1に示した。なお、図1は、実験例1、比較例1及び比較例2のそれぞれ塗布直後の試験体の表面写真である。
【0048】
図1に示した結果から、実験例1及び比較例2の試験体では塗膜に何等の異常も認められなかったが、比較例1の試験体では塗膜に結晶化現象が観察されて正常な塗膜が得られないことが分かった。このことは、実験例1及び比較例2の木材用保護塗料は何れも溶剤性(油性)であるのに対し、比較例1の木材用保護塗料は水性であるために木材中に含まれている水溶性の難燃化処理薬剤との反応が生じていることを示している。そこで、以下の乾湿繰り返し試験及び耐候性試験では比較例1の木材用保護塗料を外して行った。
【0049】
[実験例2] 実験例2の木材用保護塗料は、実験例1の木材用保護塗料で用いられているイソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末に換えて単なる鱗片状シリカを用い、その分だけ高沸点芳香属系溶剤の量を増加させた以外は実験例1の木材用保護塗料と同様の組成を有している。
【0050】
実験例2の木材用保護塗料のメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの溶剤系アクリル樹脂100質量部に対する含有割合、及び、硬化剤としてのエポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物の溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物100質量部に対する含有割合は、それぞれ実験例1の場合と同じ25.0質量部、2.0質量部に対応する。なお、実験例2の木材用保護塗料には、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末は含まれていない。
【0051】
[実験例3] 実験例3の木材用保護塗料は、実験例1の木材用保護塗料で用いられている鱗片状シリカ粉末を除外(ただし、ポリイソシアネートは含む)し、その分だけミネラルスピリットの含有量を増加させた以外は実験例1の木材用保護塗料と同様の組成を有している。実験例3の木材用保護塗料のメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの溶剤系アクリル樹脂100質量部に対する含有割合、及び、硬化剤としてのエポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物の溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物100質量部に対する含有割合も、それぞれ実験例1の場合と同じ25.0質量部、2.0質量部に対応する。なお、実験例3の木材用保護塗料には、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末は含まれていない。
【0052】
[実験例4] 実験例4の木材用保護塗料は、実験例1の木材用保護塗料で用いられているメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの含有量を2.0質量%まで減少させるとともに、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末中の鱗片状シリカ分の含有量を5.0質量部から0.1質量部まで減少させるとともにポリイソシアネート分の含有量を3.5質量部から0.01質量部まで減少させ、硬化剤であるエポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物の含有量も0.5質量部から0.1質量部まで減少させ、それに対応してミネラルスピリット及び高沸点芳香属系溶剤の含有量を増加させた以外は実験例1の木材用保護塗料と同様の組成を有している。
【0053】
この実験例4の木材用保護塗料のメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの溶剤系アクリル樹脂100質量部に対する含有割合は、10.0質量部に対応する。また、硬化剤であるエポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物の溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマー100質量部に対する含有割合は0.45質量部に対応する。なお、硬化剤であるエポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物の溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする樹脂組成物100質量部に対する含有量は0.5質量部に対応する。
【0054】
[実験例5] 実験例5の木材用保護塗料は、実験例1の木材用保護塗料で用いられているメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの含有量を12.0質量%まで増加させるとともに、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末中の鱗片状シリカ分の含有量を5.0質量部から6.4質量部まで増加させるとともにポリイソシアネート分の含有量を3.5質量部から6.4質量部まで増加させ、硬化剤であるエポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物の含有量も0.5質量部から6.4質量部まで増加させ、それに対応してミネラルスピリット及び高沸点芳香属系溶剤の含有量を減少させた以外は実験例1の木材用保護塗料と同様の組成を有している。
【0055】
この実験例5の木材用保護塗料のメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの溶剤系アクリル樹脂100質量部に対する含有割合は、60質量部に対応する。また、硬化剤であるエポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物の溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマー100質量部に対する含有割合は20質量部に対応する。さらに、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末の溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマー100質量部に対する含有割合は40質量部に対応する。
【0056】
[実験例6] 実験例6の木材用保護塗料は、実験例1の木材用保護塗料においてイソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末の含有量を4.0質量部から15.0質量部まで増大させ、その分だけミネラルスピリット及び高沸点芳香属系溶剤の含有量を増加させた以外は実験例1の木材用保護塗料と同様の組成を有している。
【0057】
この実験例6の木材用保護塗料のメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの溶剤系アクリル樹脂100質量部に対する含有割合、及び、硬化剤としてのエポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物の溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物100質量部に対する含有割合も、それぞれ実験例1の場合と同じ25.0質量部、2.0質量部に対応する。なお、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末の溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマー100質量部に対する含有割合は74質量部に対応する。
【0058】
[実験例7] 実験例7の木材用保護塗料は、実験例1の木材用保護塗料において、イソシアネート化合物の量を3.5質量部から7.0質量部に増大させ、その分だけ高沸点芳香属系溶剤の量を減少させた以外は実験例1の木材用保護塗料と同様の組成を有している。
【0059】
この実験例7の木材用保護塗料のメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの溶剤系アクリル樹脂100質量部に対する含有割合、及び、硬化剤としてのエポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物の溶剤系
アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物100質量部に対する含有割合も、それぞれ実験例1の場合と同じ25.0質量部、2.0質量部に対応する。なお、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末の溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマー100質量部に対する含有割合は48質量部に対応する。
【0060】
このようにして調整された実験例2~7の木材用保護塗料の組成をそれぞれの成分毎に実験例1の木材用保護塗料の組成と共に下記表2に纏めて示した。
【表2】
【0061】
[塗装試験(実験例2~7)] このようにして作成された実験例2~7の木材用保護塗料を用い、市販の難燃化処理された杉材(無節)の70×100×10mmと、70×150×10mmのものを用意し、直ちに刷毛塗により、予め定めた条件で、所定厚さに塗布し、塗装直後の表面状態を観察した。その結果、塗布直後には、実験例1及び比較例2の場合と同様に塗膜に何等の異常も認められず、正常な塗膜が形成されたことを確認できた。
【0062】
[乾湿繰り返し試験(実験例1~7、比較例2)] 次いで、実験例1~7及び比較例2の木材用保護塗料を形成した試験体について、乾湿繰り返し試験を行い、白華現象がどの程度生じるかについての確認を行った。乾湿繰り返し試験は、40℃、90%RHの条件下に24時間放置し、その後に60℃で送付乾燥を24時間行うことを1サイクルとする操作を5サイクルまで行い、白華の生成程度と塗料としての評価を求めた。この乾湿繰り返し試験を行った後の実験例1~7及び比較例2の木材用保護塗料を形成した試験体の表面の状態を図2に示した。なお、図2は、実験例1~7及び比較例2の試験片のそれぞれ乾湿繰り返し試験後の表面写真である。
【0063】
そして、白華の生成程度は、図2に示された乾湿繰り返し試験後の表面状態を基に、以下のようにして評価した。まず、マス目で区切った透明シートを用い、試験体表面の白華が見られた部位のマス目数を求め、試験体表面全体のマス目数に占める割合を計測して評価した。マス目のサイズは5 mm方眼とした。白華部分と、非白華部分の区別については、塗膜表面に白色(薄い白色も含めて)がある場合は白華部分とし、塗膜内部の変色は評価外としてた。また、塗膜表面の端部で側面からの白華が移行しているものも評価外とした。この評価は、白華した部位のマス目数が全体の5%未満の場合は「〇」と判定し、同じく5%以上30%未満の場合は「△」と判定し、同じく30%以上の場合は「×」と判定した。この白華の生成割合及び判定結果を、溶剤系アクリル樹脂100質量部に対するメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの含有量、塗料組成物に対する硬化剤の添加量とともに下記表3に示した。
【0064】
【表3】
【0065】
表3に示した結果から以下のことが分かる。実験例2の木材用保護塗料は、実験例1の木材用保護塗料において、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末に換えて単なる鱗片状シリカを含有させたものであり、また、実験例3の木材用保護塗料は、鱗片状シリカ粉末そのものを含有していないものであるが、白華の生成割合が86%ないし78%と非常に大きくなっている。それに対し、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末を用いている実験例1の木材用保護塗料を用いた場合、白華の生成割合は1%と非常に小さい。このことは、実験例1の木材用保護塗料で用いられているイソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末は、イソシアネート基が塗料組成物中の溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーと反応して強固に固定されており、実験例1の木材用保護塗料がガラス質の強固な塗膜を形成していることと相まって、乾湿繰り返し試験を行っても塗膜に傷ないし損傷が起こりがたく、難燃化処理された木材から難燃化処理薬剤の溶脱が防止されて白華の生成が防止されているものと思われる。
【0066】
また、実験例4の木材用保護塗料は、実験例1の木材用保護塗料よりもイソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末及び硬化剤としてのエポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物の添加量を減少させたものであるが、白華の生成割合は1%と実験例1の場合と同様の結果が得られている。したがって、実験例1~4の結果を総合的に勘案すると、木材用保護塗料中に、溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物と、エポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物を含む硬化剤と、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末とを含んでいれば、難燃化処理されている木材に塗膜を形成した際に、乾湿の繰り返しがあっても良好な白華抑制効果が奏されることを示すものである。メチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの含有量の下限は、実験例4の結果から、溶剤系アクリル樹脂100質量部に対して10質量部であると思われる。また、溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物に対するエポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物を含む硬化剤含有量の下限は、同じく実験例4の結果から、0.5質量部であると思われる。
【0067】
さらに、実験例5の木材用保護塗料は、実験例1の木材用保護塗料において、溶剤系アクリル樹脂に対するメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの含有量を増大させるとともに、エポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物を含む硬化剤と、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末の含有量を増大させたものであるが、白華の生成割合は1%と実験例1の場合と同様の結果が得られている。
【0068】
また、実験例6の木材用保護塗料は、実験例1の木材用保護塗料において、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末における鱗片状シリカ粉末の割合を増大化し、イソシアネート化合物自体は同量としたものあり、実験例7の木材用保護塗料は、イソシアネート化合物を反応させた鱗片状シリカ粉末におけるイソシアネートの割合を増大化し、鱗片状シリカ粉末は同量としたものあるが、白華の生成割合が86%ないし78%と非常に大きくなっている。したがって、実験例1、5~7の結果を総合的に勘案すると、メチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの含有量の上限は、実験例5の結果から、溶剤系アクリル樹脂100質量部に対して60質量部であると思われる。また、溶剤系アクリル樹脂及びメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーを主成分とする塗料組成物に対するエポキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物を含む硬化剤含有量の上限は、同じく実験例5の結果から、20.0質量部であると思われる。
【0069】
[耐候性試験] 次いで、実験例1~7及び比較例2の木材用保護塗料を形成した別の試験体について、耐候性試験を行ない、白華現象がどの程度生じるかについての確認を行った。耐候性試験は、促進耐候性試験機(キセノンランプ法)を用い、JIS K5600-7-7のサイクルA法に準じて紫外線と水とによる促進劣化を500時間行なうことにより行い、上記の乾湿繰り返し試験の場合と同様にして白華の生成程度と塗料としての評価を求めた。この耐候性試験を行った後の実験例1~7及び比較例2の木材用保護塗料を形成した試験体の表面の状態を図3に示した。なお、図3は、実験例1~7及び比較例2の試験片のそれぞれ耐候性試験後の表面写真である。
【0070】
この白華の生成割合及び判定結果を、溶剤系アクリル樹脂100質量部に対するメチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマーの含有量、塗料組成物に対する硬化剤の添加量とともに、下記表4に示した。
【0071】
【表4】
【0072】
表4に示した結果から、耐候性試験によっては、実験例1~6では白華の生成はほとんど見られず、実験例7では少々多くの白華の生成が見られた。ただし、実験例7の場合であっても比較例2の場合とほぼ同様の白華の生成割合となっており、耐候性試験では難燃処理された木材における白華は生成しがたいことが確認された。したがって、本発明の木材用保護塗料によれば、乾湿の繰り返しによっても塗膜に傷ないし損傷が生じ難いため、難燃化処理された木材を屋外で使用しても、風雨によって薬剤が早期に溶脱することがなく、難燃性効果が持続する期間が長くなり、しかも、難燃化処理された木材から難燃処理薬剤の溶出が抑制され、白華の形成が少なくなることが確認された。
図1
図2
図3