(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136594
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ラジアルタービン用インペラ
(51)【国際特許分類】
F01D 5/14 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F01D5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047749
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雄太
【テーマコード(参考)】
3G202
【Fターム(参考)】
3G202BA01
3G202BB01
(57)【要約】
【課題】漏れ流れとインペラ翼の負圧面側に発生する損失領域との干渉によるエネルギー損失を抑制したうえで、漏れ流れによるエネルギー損失の低減によって流体機械の断熱効率の向上を図ること。
【解決手段】フルブレード80、スプリッタブレード90のチップ縁80D、90Dのコード長方向において、上流縁80A、90Aから第1の所定距離をおいた点と、下流縁から第2の所定距離をおいた点との間の所定領域に、翼厚み方向に延出するフィン部82、92が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円錐形状のハブと、前記ハブの外周面に回転方向に間隔をおいて設けられた複数のインペラ翼とを有するラジアルタービン用インペラであって、
前記インペラ翼のチップ縁の、コード長方向において、上流縁から第1の所定距離をおいた点と、下流縁から第2の所定距離をおいた点との間の所定領域に、翼厚み方向に延出するフィン部を有するラジアルタービン用インペラ。
【請求項2】
前記所定領域は、前記インペラ翼の前記チップ縁の上流縁を0%及び前記チップ縁の下流縁を100%とした前記インペラ翼のコード長方向の比率において、15%~90%の範囲内の領域である請求項1に記載のラジアルタービン用インペラ。
【請求項3】
前記フィン部の外周面は前記インペラ翼の前記チップ縁の回転軌跡に沿って延在する部分を含む請求項1又は2に記載のラジアルタービン用インペラ。
【請求項4】
前記フィン部は前記インペラ翼の正圧面側及び又は負圧面側に設けられている請求項1又は2に記載のラジアルタービン用インペラ。
【請求項5】
前記フィン部の延出量が、前記フィン部の上流端からコード長方向の中間部に向けて漸増し、前記中間部から前記フィン部の下流端に向けて漸減する請求項1又は2に記載のラジアルタービン用インペラ。
【請求項6】
前記フィン部の延出量が、前記インペラ翼のルート縁側から前記チップ縁側に向けて漸増する請求項1又は2に記載のラジアルタービン用インペラ。
【請求項7】
前記フィン部は、前記インペラ翼のルート縁を0%及び前記インペラ翼の前記チップ縁を100%とした前記インペラ翼の翼高さ方向の比率において、80%~100%の範囲内に設けられている請求項1又は2に記載のラジアルタービン用インペラ。
【請求項8】
前記フィン部は、前記インペラ翼の前記チップ縁の上流縁を0%及び前記チップ縁の下流縁を100%とした前記インペラ翼のコード長方向の比率において、40%~70%の範囲に設けられ、前記インペラ翼の子午面断面における前記インペラ翼のルート縁を0%及び前記チップ縁を100%とした前記インペラ翼の翼高さ方向の比率において、80%~100%の範囲内にあり、前記インペラ翼の前記翼高さ方向の比率における80%の部位の翼厚さをT80、前記翼高さ方向の比率における100%の部位の翼厚さをT100とした場合、前記インペラ翼の翼厚さが最大になる部位は、2≦(T100/T80)≦5の範囲内である請請求項1又は2に記載のラジアルタービン用インペラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラジアルタービン用インペラに関する。
【背景技術】
【0002】
略円錐形状のハブと、ハブの外周面に回転方向に間隔をおいて設けられた複数のインペラ翼とを有するコンプレッサ用のインペラとして、インペラ翼の先端とシュラウドとの間に設定される間隙を通過する流体の漏れ流れを低減するために、インペラ翼の先端(ピッチ縁)に、インペラの回転進行方向に向けて延びたフィンを有するものが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図6(B)に示されているように、ラジアルタービンにおいて、インペラ翼100のコード長方向の全域に亘って、つまりインペラ翼100の上流端100Aから下流端100Bに亘ってフィン102が設けられると、インペラ翼100の上流端100Aを含むコード長方向の全域に亘って漏れ流れFRの流速が低下する。このため、インペラ翼100の上流端100A側の漏れ流れFRが、インペラ翼100の負圧面に沿って層状をなして発生する損失領域Rを、その延在方向に沿って長い間、通過するようになる。このことにより、漏れ流れFRと損失領域Rとの干渉によるエネルギー損失が大きくなり、ラジアルタービンの断熱効率が改善されなくなる。
【0005】
本発明は、以上の背景に鑑み、ラジアルタービンにおいて、漏れ流れとインペラ翼の負圧面側に発生する損失領域との干渉によるエネルギー損失を抑制したうえで、漏れ流れによるエネルギー損失の低減によってラジアルタービンの効率の向上を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、略円錐形状のハブ(70)と、前記ハブの外周面に回転方向に間隔をおいて設けられた複数のインペラ翼(80)とを有するラジアルタービン用インペラ(58)であって、前記インペラ翼のチップ縁(80D)の、コード長方向において、上流縁(80A)から第1の所定距離をおいた点(P1)と、下流縁(80A)から第2の所定距離をおいた点(P2)との間の所定領域(X)に、翼厚み方向に延出するフィン部(82)を有する。
【0007】
この態様によれば、漏れ流れとインペラ翼の負圧面側に発生する損失領域との干渉によるエネルギー損失が抑制されたうえで、漏れ流れによるエネルギー損失の低減によってラジアルタービンの効率が向上する。
【0008】
上記の態様において、前記所定領域は、前記インペラ翼のチップ縁の上流縁を0%及び前記チップ縁の下流縁を100%とした前記インペラ翼のコード長方向の比率において、15%~90%の範囲内の領域であってもよい。
【0009】
この態様によれば、チップ縁の上流縁側に生じる漏れ流れとインペラ翼の負圧面側に発生する損失領域との干渉によるエネルギー損失が小さくなり、ラジアルタービンの効率が向上する。
【0010】
上記の態様において、前記フィン部の外周面(82E)は前記インペラ翼の前記チップ縁の回転軌跡に沿って延在する部分を含んでいてもよい。
【0011】
この態様によれば、インペラを外囲するシュラウドの内周面とフィン部の外周面とが干渉することなく両者の間隙を小さくすることができ、当該間隙を流れるガスの漏れ流量が減少する。
【0012】
上記の態様において、前記フィン部は前記インペラ翼の正圧面側及び又は負圧面側に設けられていてもよい。
【0013】
この態様によれば、フィン部の配置に関する選択肢が多く、インペラの設計の自由度が大きくなる。
【0014】
上記の態様において、前記フィン部の延出量が、前記フィン部の上流端からコード長方向の中間部に向けて漸増し、前記中間部から前記フィン部の下流端に向けて漸減していてもよい。
【0015】
この態様によれば、フィン部の不連続な厚み変化に起因する流れ場の悪化が回避される。また、フィン部が設けられたことによってインペラ翼に発生する応力が集中することが回避され、インペラ翼の耐久性が向上する。
【0016】
上記の態様において、前記フィン部の延出量が、前記インペラ翼のルート縁側から前記チップ縁側に向けて漸増していてもよい。
【0017】
この態様によれば、フィン部の不連続な厚み変化に起因する流れ場の悪化が回避される。また、フィン部が設けられたことによってインペラ翼に発生する応力が集中することが回避され、インペラ翼の耐久性が向上する。
【0018】
上記の態様において、前記フィン部は、前記インペラ翼のルート縁を0%及び前記インペラ翼の前記チップ縁を100%とした前記インペラ翼の翼高さ方向の比率において、80%~100%の範囲内に設けられていてもよい。
【0019】
この態様によれば、翼根元のルート縁側に作用する応力に対してフィン部が設けられたことによるインペラ翼の翼厚みの増加を大きくすることができる。
【0020】
上記の態様において、前記フィン部は、前記インペラ翼のチップ縁の上流縁を0%及び前記チップ縁の下流縁を100%とした前記インペラ翼のコード長方向の比率において、40%~70%の範囲に設けられ、前記インペラ翼の子午面断面における前記インペラ翼のルート縁を0%及び前記チップ縁を100%とした前記インペラ翼の翼高さ方向の比率において、80%~100%の範囲内にあり、前記インペラ翼の翼高さ方向の前記比率における80%の部位の翼厚さをT80、前記比率における100%の部位の翼厚さをT100とした場合、前記インペラ翼の翼厚さが最大になる部位は、2≦(T100/T80)≦5の範囲内であってもよい。
【0021】
この態様によれば、翼根元のルート縁側に作用する応力に対してフィン部が設けられたことによるインペラ翼の翼厚みの増加を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上の態様によれば、漏れ流れとインペラ翼の負圧面側に発生する損失領域との干渉によるエネルギー損失が抑制されたうえで、漏れ流れによるエネルギー損失の低減によってラジアルタービンの効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態によるラジアルタービンインペラを備えた発電用ガスタービンシステムの断面図
【
図2】本実施形態のラジアルタービンインペラの斜視図
【
図3】本実施形態に係るラジアルタービンインペラの子午面断面図
【
図4】(A)~(C)は
図3の線IV-IVに沿った断面図
【
図5】本実施形態によるタービン翼の形状を示すグラフ
【
図6】漏れ流れとフルブレードの負圧面側に発生する損失領域との関係を示す説明図
【
図7】ラジアルタービンの断熱効率―膨張比特性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本実施形態に係るラジアルタービンインペラ58を備えた発電用ガスタービンシステム10の断面図である。
図1に示されているように、発電用ガスタービンシステム10は、回転軸12によって互いに同軸上に連結されたラジアルコンプレッサ14及びラジアルタービン16と、回転軸12に連結された発電機20とを有する。
【0025】
発電用ガスタービンシステム10は、軸線方向に順に互いに連結された前部端板22と前部ハウジング24と中間ハウジング26と後部ハウジング28とを有する。
【0026】
ラジアルコンプレッサ14は、前部ハウジング24に取り付けられてコンプレッサ室30を画定するコンプレッサハウジング32及びディフューザ34を固定するディフューザ固定部材36と、前部端板22に取り付けられた空気取入案内部材38とを有する。空気取入案内部材38はコンプレッサハウジング32と協働して空気取入口40を画定している。コンプレッサ室30には回転軸12に取り付けられたコンプレッサロータ42が回転可能に配置されている。コンプレッサロータ42はラジアルタービン16の出力軸である回転軸12により回転駆動される。ディフューザ固定部材36にはディフューザ34が取り付けられている。
【0027】
ラジアルコンプレッサ14は、空気取入口40から空気(外気)を取り入れ、コンプレッサロータ42の回転により空気を圧縮加圧し、圧縮加圧された空気(圧縮空気)をディフューザ34に噴出する。
【0028】
後部ハウジング28内には回転軸12の中心軸線周りに燃焼器18が設けられている。後部ハウジング28はディフューザ34から各燃焼器18に圧縮空気を導く圧縮空気通路44を画定する部分を含んでいる。各燃焼器18は燃焼室46を画定している。各燃焼器18には燃料噴射ノズル48が取り付けられている。燃料噴射ノズル48は燃焼室46に燃料を噴射する。
【0029】
各燃焼室46では、燃料噴射ノズル48により燃焼室46に噴射された燃料とラジアルコンプレッサ14からの圧縮空気との混合気が燃焼し、高圧の燃焼ガス(圧縮流体)が発生する。燃焼器18のガス出口部にはタービンノズル50が設けられている。
【0030】
ラジアルタービン16は、後部ハウジング28の内側部分によって画定され、燃焼器18のガス出口部に連通するタービン室52を有する。タービン室52は隔壁部材54によってコンプレッサ室30と隔てられている。タービン室52の隔壁部材54と離反する側はシュラウド56によって画定されている。タービン室52には回転軸12を一体的に有するラジアルタービンインペラ58が回転可能に配置されている。
【0031】
タービンノズル50は、ラジアルタービンインペラ58を外囲するように円環状をなし、燃焼ガスをラジアルタービンインペラ58に向けて径方向内側且つ周方向に噴射する。ラジアルタービンインペラ58は、タービンノズル50から噴射された燃焼ガスによって回転駆動される。ラジアルタービンインペラ58を回転駆動した燃焼ガスは排気ガスとして排気ガス通路60から大気中に排出される。
【0032】
回転軸12には発電機20のロータ軸62が連結されている。これにより、発電機20は、ラジアルタービン16の回転軸12によって回転駆動され、発電を行う。
【0033】
次に、ラジアルタービンインペラ58の詳細を、
図2~
図4(A)を参照して説明する。
【0034】
ラジアルタービンインペラ58(以下の説明では、タービンインペラ58と略称することがある)は、略円錐形状のハブ70と、ハブ70の外周面70Aにタービンインペラ58の回転方向に間隔をおいて設けられたインペラ翼として複数のフルブレード80及びスプリッタブレード90とを有する。以下の説明では、フルブレード80及びスプリッタブレード90を総称してタービン翼と呼ぶことがある。
【0035】
各フルブレード80と各スプリッタブレード90とはタービンインペラ58の回転方向に交互に配置されている。
【0036】
タービンインペラ58の回転方向は
図2で見て反時計廻り方向の一方向である。以下の説明は、このタービンインペラ58の回転方向を単に回転方向と言うことがある。
【0037】
各フルブレード80は、ハブ70の外周面70Aの母線方向の略全長に亘って延在、つまり、タービンインペラ58の流体入口端58Aから流体出口端58Bに至るように延在している。
【0038】
タービンインペラ58の流体入口端58Aはタービンノズル50に対応する位置にある(
図1参照)。タービンインペラ58の流体出口端58Bは排気ガス通路60に対応する位置にある(
図1参照)。
【0039】
各フルブレード80は、流体入口端58Aに位置する上流縁(前縁)80Aと、流体出口端58Bに位置する下流縁(後縁)80Bと、ハブ70の外周面70Aに接合し、外周面70Aに沿って上流縁80Aと下流縁80Bとの間に延在するルート縁(基端縁)80Cと、ハブ70の外周面70Aから離反し、シュラウド56(
図1参照)の内周面に沿って上流縁80Aと下流縁80Bとの間に延在するチップ縁(先端縁)80Dとを有する。
【0040】
各スプリッタブレード90は、流体入口端58Aに位置する上流縁(前縁)90Aと、流体出口端58Bの近傍に位置する下流縁(後縁)90Bと、ハブ70の外周面70Aに接合し、外周面70Aに沿って上流縁90Aと下流縁90Bとの間に延在するルート縁(基端縁)90Cと、ハブ70の外周面70Aから離反し、シュラウド56(
図1参照)の内周面に沿って上流縁90Aと下流縁90Bとの間に延在するチップ縁(先端縁)90Dとを有する。
【0041】
ここで、各フルブレード80及び各スプリッタブレード90に対して流体圧が回転方向に作用する側の面を正圧面と呼び、正圧面とは反対側の面を負圧面と呼ぶ。
【0042】
各フルブレード80は、
図3に示されているように、チップ縁80D及びその近傍に、コード長方向において、上流縁80Aから下流縁80Bからに向けて第1の所定距離をおいた点P1と、下流縁80Bから上流縁80Aに向けて第2の所定距離をおいた点P2との間の所定領域X内に、チップ縁80Dに沿って翼厚み方向(インペラ回転方向)に延出するフィン部82を有する。フィン部82は、
図4(A)に示されているように、各フルブレード80の正圧面側及び負圧面側に互いに対称に設けられている。
【0043】
フルブレード80のコード長方向において、フィン部82が設けられる所定領域Xは、フルブレード80のチップ縁80Dの上流縁80Aを0%及びチップ縁80Dの下流縁80Bを100%としたフルブレード80のコード長方向の比率において、15%~90%の範囲の領域である。つまり、フィン部82は、上記のコード長方向の比率において、15%~90%の範囲内に設けられている。
【0044】
フィン部82を含むフルブレード80のチップ縁80D側の翼厚みは、
図5のグラフの線Aによって示されているように、急激に変化することなくフィン部82の上流端(点P1)からコード長方向の中間部(点P3)に向けて漸増し、中間部(点P3)からフィン部82の下流端(点P2)に向けて漸減する。
【0045】
ここで云うフルブレード80の翼厚さは、フルブレード80自体の翼厚さ(インペラ回転方向の翼寸法)に正圧面側及び負圧面側のフィン部82のインペラ回転方向の延出量(インペラ回転方向の延出寸法)を加えたものである。
【0046】
フルブレード80のチップ縁80D側の翼厚み、換言すると、フィン部82の延出量は、
図4(A)に示されているように、急激に変化することなく、フルブレード80のルート縁80C側からチップ縁80D側に向けて漸増している。
【0047】
フルブレード80のチップ縁80Dを含むフィン部82の外周面80Eは、
図4(A)に示されているように、チップ縁80Dの回転軌跡に沿って延在する円弧面の部分を含む。換言すると、フルブレード80のチップ縁80Dを含むフィン部82の外周面80Eは、タービンインペラ58の回転中心と同心の円弧面の部分を含む。
【0048】
図4(A)に示されているように、フルブレード80のチップ縁80Dとシュラウド56の内周面56Aとの間に生じる間隙84のインペラ回転方向の長さ(通路長)は、フルブレード80のチップ縁80Dの正圧面側及び負圧面側にフィン部82が設けられていることにより、フィン部82がない場合に比して長くなる。このことにより、間隙84を通ってフルブレード80の正圧面側から負圧面側に漏れ流れるガスの流路抵抗が増大し、間隙84を流れるガスの漏れ流量が低減する。フィン部82はフルブレード80の正圧面側と負圧面側とに設けられているから、間隙84の通路長が、フィン部82がフルブレード80の正圧面側及び負圧面側のいずれか一方のみにある場合に比して長くなり、間隙84を流れるガスの漏れ流量が大きく低減する。
【0049】
各フィン部82の外周面80Eがチップ縁80Dの回転軌跡に沿って延在する円弧面の部分を含むことにより、間隙84の通路長が長くても外周面80Eがシュラウド56の内周面56Aと干渉することなく間隙84がインペラ回転方向について一様に小さくなる。このことによっても間隙84を流れるガスの漏れ流量が低減する。
【0050】
これらのことにより、ガス漏れに起因するエネルギー損失(漏れ損失)が低減し、ラジアルタービン16の断熱効率が向上する。
【0051】
本実施形態では、フィン部82は、上記のフルブレード80のコード長方向の比率において0%~15%のガス入口領域には設けられないので、当該領域の漏れ流れの流速が遅くなることがない。これにより、
図6(A)に示されているように、漏れ流れFRはフルブレード80の負圧面側に発生する損失領域Rの延在方向と交わる方向に損失領域Rを短く横切って通過するようになる。このことにより、漏れ流れFRと損失領域Rとの干渉によるエネルギー損失が小さくなり、ラジアルタービン16の断熱効率が改善される。
【0052】
フルブレード80のコード長方向の比率において90%~100%の範囲にはフィン部82が存在せず、フルブレード80の後縁付近の翼厚みが大きくなることがないので、フルブレード80のウェイク(後流)が厚くなることなく、後続する翼やダクトの性能に悪影響を及ばすことが回避される。
【0053】
フィン部82を含むフルブレード80のチップ縁80D側の翼厚み、換言すると、フィン部82の延出量は、
図5のグラフの線Aによって示されているように、フィン部82の上流端(点P1)からコード長方向の中間部(点P3)に向けて漸増し、中間部(点P3)からフィン部82の下流端(点P2)に向けて漸減するから、フィン部82が設けられたことによりフルブレード80に発生する応力がコード長方向において急激に変化することがない。このことにより、フィン部82の不連続な厚み変化に起因する流れ場の悪化が回避される。また、このことにより、フィン部82に応力集中が生じることが回避され、フルブレード80の耐久性が向上する。
【0054】
また、フィン部82の延出量がフルブレード80のルート縁80C側からチップ縁80D側に向けて漸増するから、フィン部82が設けられたことによりフルブレード80に発生する応力が翼高さ方向において急激に変化することがない。このことにより、フィン部82の不連続な厚み変化に起因する流れ場の悪化が回避される。また、このことによってもフィン部82に応力集中が生じることが回避され、フルブレード80の耐久性が向上する。
【0055】
正圧面側及び負圧面側の各フィン部82は、好ましくは、
図5の線Bによって示されているように、上記のコード長方向の比率において、40%~70%の範囲に設けられている。更に、各フィン部82は、
図4(A)に示されているように、フルブレード80の子午面断面におけるフルブレード80のルート縁80Cを0%及びチップ縁80Dを100%としたフルブレード80の翼高さ方向の比率において、80%~100%の範囲に設けられている。
【0056】
これにより、翼根元のルート縁80C側に作用する応力に対してフィン部82が設けられたことによるフルブレード80の翼厚みの増加(フィン部82の延出量)を大きくすることができる。
【0057】
更に、フルブレード80の翼高さ方向の比率における80%の部位の翼厚さをT80、同比率における100%の部位の翼厚さをT100とした場合、翼厚さが最大になる部位は、2≦(T100/T80)≦5の範囲内である。
【0058】
フルブレード80のコード長方向の比率40%~70%の範囲において、(T100/T80)が最大になる点は、漏れ損失の低減のためには1<(T100/T80)であればよいが、一定以上の効果があるという観点から、2≦(T100/T80)であることが好ましい。翼根元のルート縁80C側に作用する応力は翼厚みの増加に伴い増大するから、この応力の観点から、(T100/T80)≦5であることが好ましい。
【0059】
これにより、翼根元のルート縁80C側に作用する応力に対してフィン部82が設けられたことによるフルブレード80の翼厚みの増加(フィン部82の延出量)を大きくすることができる。
【0060】
各スプリッタブレード90は、
図2に示されているように、チップ縁90D及びその近傍に、コード長方向において、上流縁90Aから下流縁90Bからに向けて第3の所定距離をおいた点と、下流縁90Bとの間の所定領域内に、チップ縁90Dに沿って翼厚み方向(インペラ回転方向)に延出するフィン部92を有する。フィン部92は、スプリッタブレード90の正圧面側及び負圧面側に互いに対称に設けられている。
【0061】
スプリッタブレード90のコード長方向において、フィン部92が設けられる所定領域は、フルブレード80のコード長方向の比率において、15%~90%の範囲の領域である。つまり、フィン部92は、上記のフルブレード80のコード長方向の比率において、15%~90%の範囲内に設けられている。
【0062】
フィン部92を含むスプリッタブレード90のチップ縁90D側の翼厚みは、フルブレード80と同様に、上流側からコード長方向の中間部に向けて漸増し、中間部から下流側に向けて漸減する。
【0063】
ここで云うスプリッタブレード90の翼厚さは、スプリッタブレード90自体の翼厚さ(インペラ回転方向の翼寸法)に正圧面側及び負圧面側のフィン部92のインペラ回転方向の延出量(インペラ回転方向の延出寸法)を加えたものである。
【0064】
スプリッタブレード90のチップ縁90D側の翼厚み、換言すると、フィン部92の延出量は、そのルート縁90C側からチップ縁90D側に向けて漸増している。
【0065】
スプリッタブレード90のチップ縁90Dを含むフィン部92の外周面は、チップ縁90Dの回転軌跡に沿って延在する円弧面の部分を含む。換言すると、スプリッタブレード90のチップ縁90Dを含むフィン部92の外周面は、タービンインペラ58の回転中心と同心の円弧面の部分を含む。
【0066】
スプリッタブレード90のチップ縁90Dとシュラウド56の内周面56Aとの間に生じる間隙のインペラ回転方向の長さ(通路長)は、スプリッタブレード90のチップ縁90Dの正圧面側及び負圧面側にフィン部92が設けられていることにより、フィン部92がない場合に比して長くなる。このことにより、スプリッタブレード90のチップ縁90Dとシュラウド56の内周面56Aとの間隙を通ってスプリッタブレード90の正圧面側から負圧面側に漏れ流れるガスの流路抵抗が増大し、間隙を流れるガスの漏れ流量が低減する。フィン部92はスプリッタブレード90の正圧面側と負圧面側とに設けられているから、間隙の通路長が、フィン部92がスプリッタブレード90の正圧面側及び負圧面側のいずれか一方のみにある場合に比して長くなり、間隙を流れるガスの漏れ流量が大きく低減する。
【0067】
各フィン部92の外周面がチップ縁90Dの回転軌跡に沿って延在する円弧面の部分を含むことにより、スプリッタブレード90のチップ縁90Dとシュラウド56の内周面56Aとの間隙の通路長が長くてもスプリッタブレード90の外周面がシュラウド56の内周面56Aと干渉することなく間隙がインペラ回転方向について一様に小さくなる。このことによっても間隙を流れるガスの漏れ流量が低減する。
【0068】
これらのことにより、ガス漏れに起因するエネルギー損失(漏れ損失)が低減し、ラジアルタービン16の断熱効率が向上する。
【0069】
フィン部92は、上記のスプリッタブレード90のコード長方向の比率において0%~15%のガス入口領域には設けられないので、当該領域の漏れ流れの流速が遅くなることがない。これにより、フルブレード80における場合と同様に、漏れ流れはスプリッタブレード90の負圧面側に発生する損失領域Rの延在方向と交わる方向に損失領域Rを短く横切って通過するようになる。このことにより、スプリッタブレード90においても、漏れ流れと損失領域Rとの干渉によるエネルギー損失が小さくなり、ラジアルタービン16の断熱効率が改善される。
【0070】
スプリッタブレード90のコード長方向の比率において90%~100%の範囲にはフィン部92が存在せず、スプリッタブレード90の後縁付近の翼厚みが大きくなることがないので、スプリッタブレード90のウェイク(後流)が厚くなることなく、後続する翼やダクトの性能に悪影響を及ばすことが回避される。
【0071】
フィン部92を含むスプリッタブレード90のチップ縁90D側の翼厚み、換言すると、フィン部92の延出量は、上流側からコード長方向の中間部に向けて漸増し、中間部から下流側に向けて漸減するから、フィン部92が設けられたことによりスプリッタブレード90に発生する応力がコード長方向において急激に変化することがない。このことにより、フィン部92の不連続な厚み変化に起因する流れ場の悪化が回避される。また、このことにより、フィン部92に応力集中が生じることが回避され、スプリッタブレード90の耐久性が向上する。
【0072】
また、フィン部92の延出量がそのルート縁90C側からチップ縁90D側に向けて漸増するから、フィン部92が設けられたことによりスプリッタブレード90に発生する応力が翼高さ方向において急激に変化することがない。このことにより、フィン部92の不連続な厚み変化に起因する流れ場の悪化が回避される。また、このことによってもフィン部92に応力集中が生じることが回避され、スプリッタブレード90の耐久性が向上する。
【0073】
正圧面側及び負圧面側の各フィン部92は、好ましくは、上記のコード長方向の比率において、40%~70%の範囲に設けられている。更に、各フィン部92は、スプリッタブレード90の子午面断面におけるスプリッタブレード90のルート縁90Cを0%及びチップ縁90Dを100%としたスプリッタブレード90の翼高さ方向の比率において、80%~100%の範囲内、好ましくは80%~100%の範囲に設けられている。
【0074】
これにより、翼根元のルート縁90C側に作用する応力に対してフィン部92が設けられたことによるスプリッタブレード90の翼厚みの増加(フィン部92の延出量)を大きくすることができる。
【0075】
更に、スプリッタブレード90の翼高さ方向の比率における80%の部位の翼厚さをT80、同比率における100%の部位の翼厚さをT100とした場合、翼厚さが最大になる部位は、2≦(T100/T80)≦5の範囲内である。
【0076】
フルブレード80のコード長方向の比率40%~70%の範囲において、スプリッタブレード90の(T100/T80)が最大になる点は、漏れ損失の低減のためには1<(T100/T80)であればよいが、一定以上の効果があるという観点から、2≦(T100/T80)であることが好ましい。翼根元のルート縁90C側に作用する応力は翼厚みの増加に伴い増大するから、この応力の観点から、(T100/T80)≦5であることが好ましい。
【0077】
これにより、翼根元のルート縁90C側に作用する応力に対して、フィン部92が設けられたことによるスプリッタブレード90の翼厚みの増加(フィン部92の延出量)を大きくすることができる。
【0078】
これらのことにより、漏れ流れFRとフルブレード80或いはスプリッタブレード90の負圧面側に発生する損失領域Rとの干渉によるエネルギー損失が抑制されたうえで、漏れ流れFRによるエネルギー損失の低減によってラジアルタービン16の断熱効率が向上する。
【0079】
図7は本実施形態及び従来例の膨張比に対する断熱効率特性を示している。特性線C1は、正圧面側及び負圧面側の各フィン部82、92が、フルブレード80のコード長方向の比率において、40%~70%の範囲に設けられ、翼高さ方向の比率において、80%~100%の範囲内にあり、翼高さ方向の比率における90%の部位の翼厚さをT90、同比率における100%の部位の翼厚さをT100とした場合、翼厚さが最大になる部位が2≦(T100/T90)≦5である実施形態の特性を、特性線C2はフィン部82、92が設けられていない従来例の特性を、特性線C3はコード長方向の全域に亘ってフィン部が設けられている比較例の特性を各々示している。
【0080】
特性線C1と特性線C2及びC3との比較により、本実施形態である場合には、従来例に比して広い膨張比域に亘って断熱効率が向上していることが分かる。
【0081】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。例えば、ハブ70の形状、フルブレード80及びスプリッタブレード90の個数は、適宜変更可能である。
【0082】
例えば、フィン部82は、必ずしもフルブレード80の正圧面側及び負圧面側に互いに対称に設けられている必要はなく、
図4(B)に示されているように負圧面側にのみ設けられていても、
図4(C)に示されているように正圧面側にのみ設けられていてもよい。このことは、スプリッタブレード90のフィン部92についても同様である。これにより、フィン部82、92の配置に関する選択肢が多く、ラジアルタービンインペラ58の設計の自由度が大きくなる。
【0083】
スプリッタブレード90のフィン部92の延出量のコード長方向の増減は、上記の実施形態のように、フルブレード80のフィン部82の延出量のコード長方向における増減の比率と同じ比率であっても、フルブレード80のフィン部82の延出量のコード長方向における増減量と同じ増減量であってもよい。後者の場合は、スプリッタブレード90のフィン部92はスプリッタブレード90の下流縁90Bまで延在することがある。また、フルブレード80のフィン部82もフルブレード80の下流縁80Bまで延在していてもよい。
【0084】
フィン部82、92はフルブレード80のみに設けられていてもよい。タービンインペラ58はスプリッタブレード90がないフルブレード80のみのインペラでよい。
【0085】
本実施形態のラジアルタービンインペラ58は、発電用ガスタービンシステム10のラジアルタービン16のインペラに限られることはなく、各種のラジアルタービンのインペラに適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
10 :発電用ガスタービンシステム
16 :ラジアルタービン
56 :シュラウド
58 :ラジアルタービンインペラ
70 :ハブ
80 :フルブレード(インペラ翼)
80A :上流縁
80B :下流縁
80C :ルート縁
80D :チップ縁
80E :外周面
82 :フィン部
84 :間隙
90 :スプリッタブレード(インペラ翼)
90A :上流縁
90B :下流縁
90C :ルート縁
90D :チップ縁
92 :フィン部
P1 :点
P2 :点
X :所定領域