(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136617
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電解研磨方法
(51)【国際特許分類】
C25F 7/00 20060101AFI20240927BHJP
C25F 3/24 20060101ALI20240927BHJP
B24B 31/14 20060101ALI20240927BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240927BHJP
B24B 31/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C25F7/00 J
C25F3/24
C25F7/00 M
B24B31/14
B24B37/00 Z
B24B31/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047774
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】大木戸 希
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 真紀
(72)【発明者】
【氏名】田端 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】青島 藍莉
【テーマコード(参考)】
3C158
【Fターム(参考)】
3C158AA01
3C158AA11
3C158AB01
3C158AB04
3C158AB08
3C158CA04
3C158CB01
(57)【要約】
【課題】鉄系金属により構成された被研磨物の電解研磨において、研磨量のばらつきが小さい研磨物を得ることが可能な電解研磨方法を提供する。
【解決手段】鉄系金属により構成された被研磨物を、チタンダミーメディアを用いて電解研磨する方法であって、バレル容器に複数の被研磨物および複数のチタンダミーメディアを投入し、且つ、バレル容器の内部における被研磨物の合計体積に対するチタンダミーメディアの合計体積の割合を100%超とする投入工程と、バレル容器の内部に収容された被研磨物およびチタンダミーメディアを電解液に浸し、バレル容器の内部の電解液に浸るように陽極を配置し、さらにバレル容器の外部の電解液に浸るように陰極を配置して、被研磨物またはチタンダミーメディアが陽極と接触するように被研磨物およびチタンダミーメディアを撹拌させながら直流電圧を印加する印加工程と、を備える電解研磨方法により、前記課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系金属により構成された被研磨物を、チタンダミーメディアを用いて電解研磨する方法であって、
バレル容器に複数の前記被研磨物および複数の前記チタンダミーメディアを投入し、且つ、前記バレル容器の内部における前記被研磨物の合計体積に対する前記チタンダミーメディアの合計体積の割合を100%超とする投入工程と、
前記バレル容器の内部に収容された前記被研磨物および前記チタンダミーメディアを電解液に浸し、前記バレル容器の内部の前記電解液に浸るように陽極を配置し、さらに前記バレル容器の外部の電解液に浸るように陰極を配置して、前記被研磨物または前記チタンダミーメディアが前記陽極と接触するように前記被研磨物および前記チタンダミーメディアを撹拌させながら直流電圧を印加する印加工程と、を備える、
電解研磨方法。
【請求項2】
前記投入工程において、前記バレル容器の内部における前記被研磨物の合計体積に対する前記チタンダミーメディアの合計体積の割合を150%以上1000%以下とする、請求項1に記載の電解研磨方法。
【請求項3】
前記投入工程において、投入する前記被研磨物および前記チタンダミーメディアの全合計体積を、前記バレル容器の内部収容領域の体積に占める割合として2.0%以上8.0%以下とする、請求項1または2に記載の電解研磨方法。
【請求項4】
前記チタンダミーメディアが略円柱形状であり、且つ、前記チタンダミーメディアの1つ当たりの体積が前記被研磨物の1つ当たりの体積と異なる、請求項1または2に記載の電解研磨方法。
【請求項5】
前記チタンダミーメディアがJIS1種またはJIS2種の純チタンにより構成されている、請求項1または2に記載の電解研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系金属により構成された被研磨物の電解研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼などの鉄系金属により構成された部品等において、表面の異物やバリなどを除去するために電解研磨が行われることがある。この電解研磨とは、バレル容器や治具などを用いて被研磨物を電解研磨液(電解液)に浸し、被研磨物と対向電極との間に電圧を印加し、電気分解によって被研磨物の表面平滑化を行う方法である。そして、多くは行われていないが、バレル容器等に被研磨物とともにメディア(ダミーメディア)を収容して電解研磨を行う場合もある。
【0003】
例えば、特許文献1には、被研磨ステンレス鋼板を陽極とし、対極を金属板とし、電解研磨するために付与する電流密度パターンにおいて、始めに最終電流密度の15%以上50%以下の一定電流密度で電解することを特徴とするステンレス鋼板の電解研磨方法が開示されている。
また、特許文献2には、上面が開放された容器内に電解液とメディアと被研磨物を収容し、容器を揺動させるとともに容器を振動させながら電解液に直流電圧を印加することを特徴とする電解研磨方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-287099号公報
【特許文献2】特開平5-214600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ダミーメディアを用いない一般的な電解研磨では、研磨量のばらつきがある程度生じることは避け難い。また、特許文献2のようなダミーメディアを用いた電解研磨を行っても、得られる研磨物間(製品間)や研磨物内(製品内)での研磨量のばらつきが一定程度生じる場合が多く、特に、求められる寸法公差の許容範囲が狭い製品の製造に電解研磨を用いる場合などにおいてさらなる改善の余地があった。
【0006】
そこで本発明は、鉄系金属により構成された被研磨物の電解研磨において、研磨量のばらつきが小さい研磨物を得ることが可能な電解研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、電解研磨を行う際のバレル容器の内部における被研磨物の合計体積に対するチタンダミーメディアの合計体積の割合が、得られる研磨物間や研磨物内における研磨量のばらつきに影響を与えることを見出し、さらに検討を行って本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は次の<1>~<5>である。
<1>鉄系金属により構成された被研磨物を、チタンダミーメディアを用いて電解研磨する方法であって、バレル容器に複数の前記被研磨物および複数の前記チタンダミーメディアを投入し、且つ、前記バレル容器の内部における前記被研磨物の合計体積に対する前記チタンダミーメディアの合計体積の割合を100%超とする投入工程と、前記バレル容器の内部に収容された前記被研磨物および前記チタンダミーメディアを電解液に浸し、前記バレル容器の内部の前記電解液に浸るように陽極を配置し、さらに前記バレル容器の外部の電解液に浸るように陰極を配置して、前記被研磨物または前記チタンダミーメディアが前記陽極と接触するように前記被研磨物および前記チタンダミーメディアを撹拌させながら直流電圧を印加する印加工程と、を備える、電解研磨方法。
<2>前記投入工程において、前記バレル容器の内部における前記被研磨物の合計体積に対する前記チタンダミーメディアの合計体積の割合を150%以上1000%以下とする、<1>に記載の電解研磨方法。
<3>前記投入工程において、投入する前記被研磨物および前記チタンダミーメディアの全合計体積を、前記バレル容器の内部収容領域の体積に占める割合として2.0%以上8.0%以下とする、<1>または<2>に記載の電解研磨方法。
<4>前記チタンダミーメディアが略円柱形状であり、且つ、前記チタンダミーメディアの1つ当たりの体積が前記被研磨物の1つ当たりの体積と異なる、<1>~<3>のいずれか1つに記載の電解研磨方法。
<5>前記チタンダミーメディアがJIS1種またはJIS2種の純チタンにより構成されている、<1>~<4>のいずれか1つに記載の電解研磨方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鉄系金属により構成された被研磨物を電解研磨して、研磨量のばらつきが小さい研磨物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る電解研磨方法の実施形態の一例を示す模式的な断面図である。
【
図2】実施例で測定および算出された、各条件でのステンレス鋼円柱の電解研磨前後における径の標準偏差の変化量(Δσ:μm)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について説明する。
本発明は、鉄系金属により構成された被研磨物(複数の被研磨物)を、チタンダミーメディア(複数のチタンダミーメディア)を用いて電解研磨する方法であって、バレル容器に複数の被研磨物および複数のチタンダミーメディアを投入し、且つ、バレル容器の内部におけるこの被研磨物の合計体積に対するチタンダミーメディアの合計体積の割合を100%超とする投入工程と、バレル容器の内部に収容された被研磨物およびチタンダミーメディアを電解液に浸し、バレル容器の内部の電解液に浸るように陽極を配置し、さらにバレル容器の外部の電解液に浸るように陰極を配置して、被研磨物またはチタンダミーメディアが陽極と接触するように被研磨物およびチタンダミーメディアを撹拌させながら直流電圧を印加する印加工程と、を備える電解研磨方法である(以下においてはこれを「本発明に係る電解研磨方法」という場合もある)。
【0012】
以下、本発明に係る電解研磨方法の各工程の実施形態について、
図1等を用いて詳細に説明する。なお、図面に示された装置、部材等の寸法比率などは、発明の理解を容易にするために、実際の寸法比率などとは異なる場合がある。
【0013】
<投入工程>
投入工程は、バレル容器に複数の鉄系金属により構成された被研磨物および複数のチタンダミーメディアを投入する工程であるが、この「バレル容器」とは、電解研磨を行う際に被研磨物およびチタンダミーメディアを内部に収容して撹拌させることが可能な容器である。限定されるものではないが、例えば
図1に示すような、短手方向の断面が略円形状であり且つその断面の略中心を軸として回転させることが可能な筒状の容器や、さらにその長手方向の中央部から両方の端部に向かってこの断面の径(つまり容器の側壁)がテーパー状に縮径している容器などが示される。なお、この回転に加えてさらに振動させることが可能な容器であっても良い。さらには、この短手方向の断面が多角形状(六角形状、八角形状など)の容器であっても良く、これに加えてその長手方向の中央部から両方の端部に向かってこの多角形状の断面の径がテーパー状に縮径している構成であっても良い。そして、後述する電解液を内外に行き来させることが可能な構成(例えば、メッシュ状の側壁を有する、電解液は内外に行き来させることができるが被研磨物およびチタンダミーメディアは外部に通過できない容器など)であって良い。さらに必要であれば、電解研磨処理中に被研磨物およびチタンダミーメディアがバレル容器から排出されないようにするための蓋などが備わっていても良い。
【0014】
また、「鉄系金属」とは、鉄を主成分とする金属である。そして、この「主成分」とは、当該成分の含有率が70質量%以上であることを意味する。したがって、鉄系金属により構成された被研磨物(ワーク)としては、例えば、ステンレス鋼(マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼)やクロム鋼などにより構成された部材等(部品など)が例示される。
本発明の説明において「鉄系金属」および「主成分」の文言は、特に説明がない限り、このような意味で用いるものとする。
【0015】
さらに、「チタンダミーメディア」とは、チタン(純チタンまたはチタン合金)により構成されたダミーメディアである。このように、被研磨物と混合して用いるダミーメディアが鉄系金属より柔らかいチタン(特に純チタン)により構成されていることにより、撹拌時に上記被研磨物と衝突しても被研磨物の変形や傷つきなどが生じ難い。そして、チタン(特に純チタン)により構成されたダミーメディアは電解研磨によりほとんど分解せず、導電性も高いため、効率的な電解研磨が実現できる。なお、純チタンは、JIS規格(JIS H 4600)でFeやOなどの不純物の含有量等によってJIS1種からJIS4種までの4種類に分けられているが、本発明で用いるチタンダミーメディアは、被研磨物への影響をより少なくし且つ効率的な電解研磨を行う観点から、JIS1種の純チタンまたはJIS2種の純チタンにより構成されているのが特に好ましい。しかしながら、このチタンダミーメディアは、チタン合金により構成されていても構わない。
【0016】
そして、この投入工程では、上記したような被研磨物およびチタンダミーメディアをいずれも複数投入し、さらに、バレル容器の内部におけるこの複数の被研磨物の合計体積に対する複数のチタンダミーメディアの合計体積の割合を100%超とする。これにより、電解研磨の際に被研磨物に流れる電流量が絞り込まれることなどによって、研磨スピード(電気分解のスピード、積算電流量)が全体としてコントロールされて、研磨量のばらつきが小さい研磨物を得ることができる。なお、この効果がより発揮され易くなることから、バレル容器の内部におけるこの被研磨物の合計体積に対するチタンダミーメディアの合計体積の割合の下限は、110%以上であるのがより好ましく、120%以上であるのがさらに好ましく、150%以上であるのがさらに好ましく、180%以上であるのがさらに好ましく、200%以上であるのがさらに好ましく、230%以上であるのがさらに好ましい。上限は、30000%以下であるのが好ましく、25000%以下であるのがより好ましく、20000%以下であるのがさらに好ましく、15000%以下であるのがさらに好ましく、10000%以下であるのがさらに好ましく、5000%以下であるのがさらに好ましく、3000%以下であるのがさらに好ましく、2500%以下であるのがさらに好ましく、2000%以下であるのがさらに好ましく、1800%以下であるのがさらに好ましく、1500%以下であるのがさらに好ましく、1300%以下であるのがさらに好ましく、1000%以下であるのがさらに好ましく、900%以下であるのがさらに好ましく、800%以下であるのがさらに好ましい。例えば、バレル容器の内部におけるこの被研磨物の合計体積に対するチタンダミーメディアの合計体積の割合を120%以上1500%以下、さらには150%以上1000%以下とすると極めて好適である。
【0017】
さらに、上記に加え、この投入する被研磨物およびチタンダミーメディアの全合計体積(バレル容器に投入する全ての被研磨物およびチタンダミーメディアの合計体積)を、バレル容器の内部収容領域の体積(バレル容器内の被研磨物およびチタンダミーメディアを収容可能な領域の総容積)に占める割合として2.0%以上8.0%以下とするのが好ましい。これによって、見かけ上、投入された被研磨物およびチタンダミーメディアの全体(それぞれの隙間の領域も含めた全体の領域)がバレル容器の内部収容領域の総容積のうち5~20%程度を占めるような状態となり、電解研磨の際に、バレル容器内の被研磨物およびチタンダミーメディアを回転などによって満遍なく撹拌させ易いからである。特に、上記割合が2.5%以上6.0%以下であるとより好適であり、2.5%以上4.5%以下であるとさらに好適であり、2.5%以上4.0%以下であるとさらに好適である。
【0018】
なお、バレル容器に投入する(収容される)被研磨物の1つ当たりの体積およびチタンダミーメディアの1つ当たりの体積はいずれも限定されないが、例えば、チタンダミーメディアの1つ当たりの体積は、被研磨物の1つ当たりの体積(100%)に対して50~150%程度であると、効率的な電解研磨がし易いため好適である。そして、複数のチタンダミーメディアは、実質的に同体積である(略同形状である等)のが好ましい。
ここで、本発明において「被研磨物の1つ当たりの体積」とは、バレル容器に投入、収容される複数の被研磨物の合計体積および個数から算出される1つ当たりの体積(平均値)である。同様に、「チタンダミーメディアの1つ当たりの体積」とは、バレル容器に投入、収容される複数のチタンダミーメディアの合計体積および個数から算出される1つ当たりの体積(平均値)である。
【0019】
また、電解研磨後に研磨物とチタンダミーメディアとの分離をし易くなることから、バレル容器に投入する(収容される)チタンダミーメディアの1つ当たりの体積が被研磨物の1つ当たりの体積と異なるのが好ましい。例えば、被研磨物の1つ当たりの体積(100%)に対して、チタンダミーメディアの1つ当たりの体積が10%以上大きい又は10%以上小さい実施形態が例示される。特に、被研磨物の1つ当たりの体積(100%)に対して、チタンダミーメディアの1つ当たりの体積が50~90%又は110~150%であるとより好ましい。そして、この場合において、電解研磨の効率を高く維持しつつ上記した分離がし易く、コスト面も優れることから、このチタンダミーメディアの形状が略円柱形状であるのがより好ましい。しかしながら、チタンダミーメディアの形状は略球状などであっても構わない。
【0020】
<印加工程>
印加工程は、前述した投入工程によりバレル容器の内部に収容された複数の被研磨物および複数のチタンダミーメディアを電解液に浸し、バレル容器の内部の電解液に浸るように陽極を配置し、さらにバレル容器の外部の電解液に浸るように陰極を配置して、被研磨物またはチタンダミーメディアが陽極と接触するように被研磨物およびチタンダミーメディアを撹拌させながら直流電圧を印加する工程である。つまり、直流電圧を印加して被研磨物を電解研磨する工程である。
【0021】
この電解液(電解研磨液)は、電解研磨に用いられている公知のものを使用でき特段限定はされないが、本発明の効果がより発揮され易いことから、リン酸および/または硫酸と、水と、を主成分(この場合は合計で70vol%以上)とするもの(例えば、リン酸、硫酸、および水を主成分とするもの)が好ましい。特に、水およびリン酸が主成分である電解液(リン酸系電解液)がより好ましい。しかし、他の成分と水とを主成分とする電解液を除外するものではなく、例えば、塩酸、塩素酸、過塩素酸、硝酸、スルホン酸(メタンスルホン酸等)などの無機酸またはその塩、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、乳酸、グルコン酸、酒石酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、アスコルビン酸、アコニット酸、グリオキシル酸、グリコール酸などの有機酸またはその塩と水とを主成分とするものであっても良い。さらに、金属塩、アミン類、ゼラチン、一価アルコール、多価アルコール、pH調整剤、界面活性剤、キレート剤などの添加剤を1種以上含んでいても良い。
さらには、電解液の粘度も、液状である限り特段限定されず、純水に近い性状(1cps程度の粘度)のものだけでなく、100cps程度の粘度である電解液であっても良い。
【0022】
そして、バレル容器の内部に収容された被研磨物およびチタンダミーメディアをこのような電解液に浸す。例えば、被研磨物およびチタンダミーメディアを収容した、電解液を内部に通過可能な構成であるバレル容器をそのまま電解液(電解液で満たされた槽など)に浸せば良い。この電解液は、バレル容器の内部に収容された被研磨物およびチタンダミーメディアが電解研磨の際にこの電解液に常に浸っている状態となるような量を使用すれば良いが、バレル容器の内部収容領域の50%以上が電解液によって満たされる量を使用しても良く、この内部収容領域の全てが電解液によって満たされる量を使用しても良い。また、電解研磨の際に、上記範囲を維持するために電解液を補充しても良い。
【0023】
さらに、このバレル容器の内部の電解液に浸るように陽極を配置し、加えて、バレル容器の外部の電解液に浸るように陰極を配置する。なお、この陽極および陰極は直流電源に接続されている。この陽極および陰極としては、いずれも電解研磨に用いられている公知のものを使用することができ、特段限定はされないが、陽極としてチタンなど、陰極としてリン青銅板や銅板などを用いるのが好ましい。なお、陰極として、ステンレス鋼(SUS)やニッケル(Ni)なども使用できる。また、陽極は、バレル容器内において被研磨物およびチタンダミーメディアの撹拌を妨げ難い形状であるのが好ましく、例えば
図1のような棒状などであるのが好ましい。さらに、陽極が棒状である場合において、この陽極が1本の棒状であっても良く、あるいは2本以上の棒状電極がその一部において互いに接続または接合された形状であっても良い。そして、この複数の棒状電極のうち少なくとも1本が電解液に浸るように配置すれば良い。なお、この陽極は、電解研磨の際に被研磨物やチタンダミーメディアに接触するものではあるが、治具や導線などによって被研磨物と直接的な接続や接合がされているものではない。さらに、陰極は、バレル容器の外部の電解液に浸るように複数配置するのがより好ましい(例えば
図1のような、バレル容器を挟むように複数配置するなど)。
【0024】
また、使用する電源は、少なくとも電圧制御および電流制御のいずれもが可能な直流電源であれば特段限定はされないが、電圧制御および電流制御をプログラム動作により行うことができる直流電源を使用すると、電圧や電流の制御が容易となるためより好ましい。
【0025】
このように陽極および陰極を配置した後、例えばバレル容器を回転させて、被研磨物またはチタンダミーメディア(これらから選ばれる少なくとも1つの一部)が陽極と接触するように被研磨物およびチタンダミーメディアを撹拌させながら、陽極(陽極と直接またはチタンダミーメディアを介して間接的に接触した被研磨物)と陰極との間で直流電圧を印加する。この撹拌による陽極と被研磨物またはチタンダミーメディアとの接触は、被研磨物の合計体積に対するチタンダミーメディアの合計体積の割合が前述したような範囲であるため、被研磨物と陽極とが直接接触する頻度が比較的少なくなり、つまりチタンダミーメディアと陽極とが直接接触する頻度が比較的多くなり、電解研磨の際に被研磨物に流れる電流量がある程度絞り込まれ、一方で被研磨物に満遍なく通電させることはできるため、研磨量のばらつきが小さい研磨物を得ることができる実施形態となっている。また、このチタンダミーメディアの存在により、電解研磨の反応が速く進みすぎることを抑制する、被研磨物が撹拌され易くなるなどの効果も発揮される。
【0026】
なお、この印加の際には、被研磨物またはチタンダミーメディアの少なくとも一部が陽極と接触するように被研磨物およびチタンダミーメディアを撹拌させる必要があり、つまり電圧印加時の撹拌は必須であるが、撹拌方法は特段限定されない。例えば、バレル容器を回転させる実施形態などが例示される。また、前述したように、この回転とともにバレル容器を振動させても良い。
【0027】
そして、電解研磨を行う際の(つまりこの印加工程での)電解液の温度は特に限定されず、被研磨物の材質や電解液の種類などにより適宜設定すれば良い。また、電解研磨の際に、電解液を緩やかに対流させても構わない。
【0028】
さらに、印加する電圧の条件も、用いる電解液の種類、被研磨物の形状や材質、求める研磨量、研磨状態などにより適宜設定でき、限定されるものではない。そして、電解研磨の際には、この電圧は一定としても良く、あるいは、途中で電圧を変化させる実施形態としても構わない。
【0029】
なお、印加工程での電解研磨が終了した後は、得られた研磨物とチタンダミーメディアとを分離する。この分離は、前述したように、チタンダミーメディアの1つ当たりの体積と、被研磨物の1つ当たりの体積と、が異なる場合などでは、篩やローラー選別機等を使用して行うことができる。また、磁石などを使用して分離しても良く、あるいはカメラなどを使用した装置によって選別を行っても良い。
【0030】
<その他の工程>
本発明に係る電解研磨方法は、前述した投入工程および印加工程を備え且つ本発明の効果に大きな影響を与えない範囲において、これら以外の任意の工程を含んでいても良い。例えば、得られた研磨物を洗浄する洗浄工程などをさらに含むことができる。
【0031】
以上のような実施形態である本発明に係る電解研磨方法により、鉄系金属により構成された被研磨物を電解研磨して、研磨量のばらつきが小さい研磨物を得ることができる。つまり、得られる複数の研磨物間および得られる1つの研磨物内における研磨量のばらつきを小さくすることができる。したがって、本発明に係る電解研磨方法は、求められる寸法公差(最大値と最小値との差)の許容範囲が狭い製品の製造などに好ましく用いることができる。
【0032】
ここで、本発明に係る電解研磨方法の具体例を
図1の模式図で示す。
図1では、バレル容器41に複数の被研磨物31および複数のチタンダミーメディア33を投入し、且つバレル容器41の内部における被研磨物31(黒塗り)の合計体積に対するチタンダミーメディア33(白抜き)の合計体積の割合を100%超としている。また、バレル容器41の内部収容領域の体積に占める被研磨物31およびチタンダミーメディア33の全合計体積の割合を2.0%以上8.0%以下としている。さらに、被研磨物31およびチタンダミーメディア33を収容したバレル容器41の全体が電解研磨槽11中の電解液13に浸され、バレル容器41の内部の電解液13に浸るように陽極21(棒状陽極)が配置され、バレル容器41の外部の電解液13に浸るように陰極23が配置されている。なお、この陽極21および陰極23は直流電源51に接続されている。そして、バレル容器41がその短手方向断面の略中心の回転軸43で回転して(例えば矢印方向に回転して)、被研磨物31またはチタンダミーメディア33が陽極21と接触するように撹拌されながら直流電圧が印加され、電解研磨が行われる。電解研磨の終了後は、バレル容器41から研磨物およびチタンダミーメディア33が取り出され、篩やローラー選別機などによってチタンダミーメディア33が分離される。
【0033】
本発明に係る電解研磨方法は、上記のような実施形態であることが好ましいが、これに限定されず、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲においてさらなる変形等が可能である。
【実施例0034】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例にも限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【0035】
被研磨物として、直径2.7mm、長さ7mmのステンレス鋼円柱(φ2.7×7mm:SUS304)を用い、チタンダミーメディアとして、直径3mm、長さ7mmの純チタン円柱(φ3×7mm:JIS1種)を用いた。そして、下記表1に示した数量(個数)の上記被研磨物と、上記チタンダミーメディア2000個と、をメッシュ状の側壁を有するバレル容器(内部収容領域の体積4L)に投入して収容した。なお、バレル容器の内部における、被研磨物の合計体積に対するチタンダミーメディアの合計体積の割合(ダミー体積割合)も下記表1に示した。例えば、被研磨物2000個と、チタンダミーメディア2000個と、をバレル容器に投入した場合、バレル容器の内部における被研磨物の合計体積に対するチタンダミーメディアの合計体積の割合は約123%となる。
【0036】
そして、
図1のように、被研磨物およびチタンダミーメディアが収容されたバレル容器を水およびリン酸が主成分である電解液(奥野製薬社製のEP-13とリン酸との混合液)に浸し、バレル容器の内部の電解液に浸るように棒状の陽極(チタン)を配置し、さらにバレル容器の外部の電解液に浸るようにバレル容器を挟んで2箇所陰極(リン青銅板)を配置して、バレル容器を回転させ、被研磨物またはチタンダミーメディアが陽極と接触するように被研磨物およびチタンダミーメディアを撹拌させながら直流電圧を印加した。なお、電源は電圧および電流のいずれも制御できる直流方式電源を使用し、電解液の温度が一定となるように調整しながら直流電圧を印加して、電解研磨を行った。
【0037】
そして、電解研磨終了後に全ての研磨物の径(μm)を画像測定により測定して標準偏差(σ)を算出し、事前に同様の方法で測定しておいた全ての被研磨物の径(μm)から算出された標準偏差(σ)と比較して、標準偏差の変化量(Δσ:μm)を算出した。この結果を下記表1および
図2に示した。
【0038】
この結果、標準偏差の変化量(Δσ)はいずれも0.8μm未満となっていた。したがって、バレル容器に収容する被研磨物の合計体積に対するチタンダミーメディアの合計体積を100%超とすることにより、電解研磨前後での標準偏差の変化量(Δσ)が少ない、つまり研磨量のばらつきが小さい研磨物を得ることができた。特に、バレル容器に収容する被研磨物の合計体積に対するチタンダミーメディアの合計体積が約123%~約1235%の場合に研磨量のばらつきがかなり小さい研磨物を得ることができ、さらに、この被研磨物の合計体積に対するチタンダミーメディアの合計体積が約247%および約617%の場合に研磨量のばらつきが極めて小さい研磨物を得ることができた。したがって、このバレル容器に収容する被研磨物の合計体積に対するチタンダミーメディアの合計体積は120%以上1500%以下程度がより好ましく、150%以上1000%以下程度が特に好ましいことが示唆された。
【0039】