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特開2024-136618二酸化炭素吸着用チャバサイト型ゼオライトの製造方法、およびチャバサイト型ゼオライト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136618
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸着用チャバサイト型ゼオライトの製造方法、およびチャバサイト型ゼオライト
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/46 20060101AFI20240927BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20240927BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20240927BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C01B39/46
C01B32/50
B01J20/18 D
B01J20/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047775
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 陽子
(72)【発明者】
【氏名】児玉 貴志
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 俊二
【テーマコード(参考)】
4G066
4G073
4G146
【Fターム(参考)】
4G066AA13C
4G066AA62B
4G066BA38
4G066CA35
4G066DA02
4G066EA13
4G066FA03
4G066FA14
4G066FA21
4G066FA37
4G066FA38
4G066FA40
4G073BA02
4G073BA04
4G073BA05
4G073BA63
4G073BA75
4G073CZ03
4G073CZ17
4G073FA30
4G073FB04
4G073FB30
4G073FC30
4G073FD08
4G073FE02
4G073GA03
4G073GA04
4G073GA19
4G073UA06
4G073UB60
4G146JA02
4G146JB09
4G146JC27
(57)【要約】
【課題】CO吸着量の高いCHA型ゼオライトを提供すること。
【解決手段】チャバサイト型ゼオライトの製造方法は、溶媒とFAU型ゼオライトとを混合し、スラリーを調製する工程と、スラリーを水熱処理することによりチャバサイト型ゼオライトを調製する工程を備える。さらに、水熱処理するより前に、水酸化物イオン(OH)とFAU型ゼオライト中のSiとの比(OH/Si)が0.38以上となるように、水酸化物イオンを含む塩を添加する塩基添加工程と、水熱処理するより前にカリウムイオンを含む塩を添加する工程と、を備える。さらに、水熱処理するより前にナトリウムイオンを含む塩を添加するナトリウム添加工程、およびチャバサイト型ゼオライトにナトリウムイオンを含む塩を添加することによりイオン交換するイオン交換工程、のうち少なくともひとつのナトリウム置換工程と、を備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒とFAU型ゼオライトとを混合し、スラリーを調製する工程と、
前記スラリーを水熱処理することによりチャバサイト型ゼオライトを調製する工程を備え、
前記水熱処理するより前に、水酸化物イオン(OH)と前記FAU型ゼオライト中のSiとの比(OH/Si)が0.38以上となるように、水酸化物イオンを含む塩を添加する塩基添加工程と、
前記水熱処理するより前にカリウムイオンを含む塩を添加する工程と、
前記水熱処理するより前にナトリウムイオンを含む塩を添加するナトリウム添加工程、および前記チャバサイト型ゼオライトにナトリウムイオンを含む塩を添加することによりイオン交換するイオン交換工程、のうち少なくともひとつのナトリウム置換工程と、をさらに備えるCO吸着用のチャバサイト型ゼオライトの製造方法。
【請求項2】
前記ナトリウム置換工程で前記チャバサイト型ゼオライト中のナトリウム含有量をNaO換算で1~25重量%に調整することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ナトリウム置換工程が前記水熱処理するより前にナトリウムイオンを含む塩を添加する工程であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ナトリウム置換工程が、前記水熱処理するより前にナトリウムを含む塩を添加する工程と、前記チャバサイト型ゼオライトにナトリウムを含む塩を添加することによりイオン交換する工程と、の両方を行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記水熱処理するより前に前記スラリーを湿式粉砕する工程を備え、
前記塩基添加工程で水酸化物イオンと前記FAU型ゼオライト中のSiとの比(OH/Si)が0.55以下となるように水酸化物イオンを含む塩を添加することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1の製造方法により得られたチャバサイト型ゼオライトを含むことを特徴とするCO吸着材。
【請求項7】
SARが5~9であり、
NaをNaO換算で1~25重量%含む、
CO吸着用のチャバサイト型ゼオライト。
【請求項8】
XRDにより得られたミラー指数が(100)面のピーク強度I100と(211)面のピーク強度I211の比〔I100/I211〕が0.8以下である請求項7に記載のチャバサイト型ゼオライト。
【請求項9】
請求項7に記載のチャバサイト型ゼオライトを添加することを特徴とするCO吸着材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸着用チャバサイト型ゼオライトに関する。
【0002】
二酸化炭素(CO)は地球温暖化の原因となる温室効果ガスの一つであり、その排出を削減することがパリ協定で定められている。発電所や工場等で発生したCOを他のガスから分離回収するために、CO吸着材としてゼオライトが用いられている。特に、チャバサイト型のゼオライト(CHAゼオライト)はCOを吸着し易いことが知られている(例えば、特許文献1)。CHAゼオライトは、鋳型となる構造規定剤(SDA)を用いて合成することができる。なお、分離回収したCOを化学製品の原料等にリサイクルすることにより、COの排出量を削減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-116532号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、CHAゼオライトにCOを吸着させている。しかしながら、SDAを用いてCHAゼオライトを合成(SDA法)しているため、CO吸着量が多くなるようにSiO/Alモル比(SAR)や結晶構造を調整できないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、FAU型ゼオライトを用いることによりCHAゼオライトを製造すること(転換法)により、SAR等を調整し、さらに、Kの一部をナトリウムイオン(Na)に置換することにより、CO吸着量が多いCHAゼオライトを製造できることを見出した。すなわち、チャバサイト型ゼオライトの製造方法は、溶媒とFAU型ゼオライトとを混合し、スラリーを調製する工程と、スラリーを水熱処理することによりチャバサイト型ゼオライトを調製する工程を備える。さらに、水熱処理するより前に、水酸化物イオン(OH)とFAU型ゼオライト中のSiとの比(OH/Si)が0.38以上となるように、水酸化物イオンを含む塩を添加する塩基添加工程と、水熱処理するより前にカリウムイオンを含む塩を添加する工程と、を備える。さらに、水熱処理するより前にナトリウムイオンを含む塩を添加するナトリウム添加工程、およびチャバサイト型ゼオライトにナトリウムイオンを含む塩を添加することによりイオン交換するイオン交換工程、のうち少なくともひとつのナトリウム置換工程と、を備える。
【0006】
また、チャバサイト型ゼオライトは、SARが5~9であり、NaをNaO換算で1~25重量%含む。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明はフォージャサイト型ゼオライト(FAUゼオライト)を用いてチャバサイト型ゼオライト(CHAゼオライト)を製造する方法(転換法)に関する。CHAゼオライトは以下のように製造できる。まず、溶媒とFAUゼオライトとを混合することによりスラリーを調製する<スラリー調製工程>。スラリーを水熱処理することにより、CHAゼオライトを生成する<ゼオライト生成工程>。水熱処理するより前に、水酸化物イオン(OH)を含む塩を添加する<水酸化物添加工程>。水熱処理するより前にカリウムイオン(K)を含む塩を添加する<カリウム(K)添加工程>。Kの一部をナトリウムイオン(Na)に置換する<ナトリウム(Na)置換工程>。これにより、CHAゼオライトの二酸化炭素(CO)吸着量が多くなる。ここで、塩とは、陽イオンと陰イオンからなる化合物である。
【0008】
の一部をNaに置換する方法は以下の二通りある。一つ目は、生成したCHAゼオライトにNaを含む塩を添加することにより、イオン交換する方法である<イオン交換工程>。この方法では、CHAゼオライト中の陽イオンを吸着するサイト(カチオンサイト)に吸着しているKがNaにイオン交換される。二つ目は、水熱処理するより前にNaを含む塩を添加する方法である<Na添加工程>。この方法では、CHAゼオライトが生成する際にCHAゼオライトのカチオンサイトに吸着するKの一部の代わりにNaがカチオンサイトに吸着する。Na置換工程では、CHAゼオライト中のNa含有量をNaO換算で1~25重量%に調整することが好ましい。このNa含有量が高いほど、カチオンサイトに吸着するNaの量が多くなり、CHAゼオライト1gに対するCO吸着量(以下、単にCO吸着量と略記する)が多くなる。そのため、このNa含有率は2重量%以上が好ましく、5重量%以上がさらに好ましい。一方、このNa含有量が低いほど、CHAゼオライト中のNaの合計量に対してCHAゼオライト中のカチオンサイトに吸着しているNaの割合が高くなる。これにより、CHAゼオライト中の余分なNaが少なくなり、CO吸着量が高くなる。そのため、このNa含有量は20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましい。ここで、CHAゼオライト中のK含有量が少ないほど、CHAゼオライトのカチオンサイトに存在するNaの量が多いといえる。そのため、Na置換工程により、CHAゼオライト中のK含有量を(K換算で)10重量%以下に調整することが好ましい。このK含有量は、5重量%以下がより好ましく、0.5重量%以下がさらに好ましい。また、Na置換工程によりCHAゼオライト中のKとNaのモル比(K/Na)を0~30に調整することが好ましい。この比は、10以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。このモル比は、1以下がさらに好ましい。以下、二通りの工程について詳細に説明する。
【0009】
<イオン交換工程>
本工程では、CHAゼオライトにNaを含む塩を添加することにより、CHAゼオライト中のKをNaに置換する。すなわち、イオン交換する。KをNaにイオン交換するためには、イオンの状態でNaがCHAゼオライトに接触すればよい。例えば、Naを含む塩を水中で電離させた(水溶液の)状態にしてNaを添加することができる。特にNaを含む塩として正塩を用いた場合、水溶液のpHが中性に近くなり、CHAゼオライトのSiO/Alモル比(SAR)が変化し難い。そのため、CHAゼオライトのSARを調整し易い。また、CHAゼオライトを水に分散させた状態で(CHAゼオライトの水分散液)にNaを含む塩を添加することが好ましい。この方法であれば、KがNaにイオン交換し易い。この方法を用いた場合、CHAゼオライトの水分散液の濃度が高い場合、イオン交換が早くなる。そのため、この濃度は、5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましい。一方、この濃度が低いほど、CHAゼオライトの水分散とNaを含む塩を混ぜ易くなる。そのため、この濃度は、30重量%以下が好ましく、25重量%以下が好ましい。また、CHAゼオライトの水分散液の温度が高いほど、速くイオン交換する。そのため、この温度は50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。また、イオン交換の時間が長いほど、イオン交換が進行する。そのため、この時間は1分以上が好ましく、30分以上がより好ましい。一方、この時間が長すぎる場合、生産効率が悪くなる。そのため、この時間は10時間以下が好ましい。また、この水分散液のpHが中性に近いほど、SiやAlの溶出が少なくなるので、CHAゼオライトのSARを調整し易い。そのため、このpHは4~10が好ましく、5~9がより好ましい。
【0010】
<Na添加工程>
本工程では、水熱処理するより前にNaを含む塩を添加する。これにより、CHAゼオライトのカチオンサイトにNaが収まり易くなる。その結果、CHAゼオライトのCO吸着量が多くなる。使用できるNaを含む塩は<イオン交換工程>の記載と同様である。本工程を行う場合、<イオン交換工程>を行わなくてよいため、工程を簡略化できる。また、水酸化ナトリウムを用いた場合、<水酸化物添加工程>で水酸化物として添加できるので、工程を簡略化できる。一方、本工程と<イオン交換工程>を両方行うことにより、カチオンサイトに吸着しているNaの割合を高くできる。
【0011】
添加するNaの量が多いほど、CHAゼオライトのCO吸着量が多くなり易い。FAUゼオライト100質量部に対して、Naの添加量が2質量部以上となるようにNaを含む塩を添加することが好ましい。この添加量は、4質量部以上がより好ましく、6質量部以上がさらに好ましい。この添加量の上限はないが、添加量が少ないほど、コストが低くなる。そのため、100質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、25質量部以下がさらに好ましい。この添加量にはFAUゼオライトに含まれるNaは含まれない。
【0012】
また、水熱処理するより前に<K添加工程>で添加するKと、<Na添加工程>で添加するNaと、の添加比〔K/Na〕が低いほど、CHAゼオライトのCO吸着量が多くなり易い。そのため、この添加比は10以下が好ましく、5以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。この添加比は0.5以下がさらに好ましい。ここで、<Na添加工程>で添加するNaには、原料のFAUゼオライトに含まれるNaは含まれない。
【0013】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0014】
<スラリー調製工程>
本工程では、溶媒とFAU型ゼオライトを混合することによりスラリーを調製する。FAU型ゼオライトのSARは5以上が好ましい。SARがこの範囲にある場合、CHAゼオライトが生成し易い。FAU型ゼオライトのSARは5~10が好ましい。SARがこの範囲にある場合、CHAゼオライトのSARが5~9となり易く、CHAゼオライトのCO吸着量が多くなり易い。溶媒は水と有機溶媒のどちらでも用いることができる。水を用いる場合、安全に水熱合成できる。また、FAUゼオライト中のNaイオンの量が少ないほど、CHAゼオライトが生成し易い。そのため、FAUゼオライト中のNa含有量はNaO換算で13重量%以下が好ましく、7.5重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。
【0015】
FAU型ゼオライトとして、X型とY型のゼオライトが知られている。このうち、Y型ゼオライトのSARは5~10に調整し易い。Y型ゼオライトは特許第6320658に記載の方法で調製できる。Y型ゼオライトとして、NaY型ゼオライト、超安定Y型ゼオライト(USYゼオライト)、希土類イオン交換型のY型ゼオライト(ReY)が挙げられる。中でも、USYゼオライトを用いることが好ましい。USYゼオライトのSARは5~10に調整し易いうえ、USYゼオライトのNa含有量は低くし易い。
【0016】
スラリーの固形分濃度が高いほど、生産効率が高くなる。そのため、スラリーの固形分濃度は5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましい。一方、スラリーの固形分濃度が低いほど、作業し易くなる。そのため、スラリーの固形分濃度は50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。
【0017】
<水酸化物添加工程>
本工程では、水熱処理するより前に、OHを含む塩を添加する。OHとFAUゼオライト中のSiとの比(OH/Si)が0.38以上となるようにOHを含む塩を添加することにより、CHAゼオライトが生成し易くなる。OHを含む塩は小分けにして添加しても、一度に添加してもよい。OHを含む塩として、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられる。NaやKの水酸化物を用いれば、工程を簡略化できる。水熱処理では、スラリーを撹拌しても、静置してもよい。OHを含む塩を添加した後のpHは高くなり易い。例えば、スラリーのpHは9以上になる。
【0018】
<K添加工程>
本工程では、水熱処理するより前にKを含む塩を添加する。Kを含む塩として、炭酸カリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。特に水酸化カリウムを用いれば、水酸化物添加工程で水酸化物として添加することができ、工程を簡略化できる。Kの添加量は1.6質量部以上が好ましい。Kの添加量がこの範囲の場合、CHAゼオライトが生成し易い。Kの添加量は100質量部以下が好ましい。Kの添加量がこの範囲の場合、CHAゼオライトが生成し易い。
【0019】
<ゼオライト生成工程>
本工程では、FAUゼオライトと、Kと、OHとを含むスラリーを水熱処理することにより、CHAゼオライトを生成する。水熱処理では、オートクレーブ等の密閉容器内にスラリーを充填するため、スラリーに掛かる圧力を大気圧より高くできる。そのため、スラリーの温度を溶媒の沸点より高くできる。水熱処理の温度は130℃以上が好ましい。一方、この温度が190℃以下の場合、CHA以外の結晶が生成し難い。また、水熱処理の時間が長いほど、CHAゼオライトが生成し易い。そのため、この時間は、12時間以上が好ましい。一方、この時間が短いほど、コストが低くなる。そのため、この時間は96時間以下が好ましい。
【0020】
得られたゼオライトのX線回析の測定パターンを、「Collection of Simulated XRD Powder Patterns for Zeolites」M.M.J.Treacy, J.B.Higgins編:2001年発行、第4版に記載されているCHA型ゼオライトX線回折パターンと照合し、CHA型ゼオライトが生成したことを確認できる。
【0021】
原料のFAUゼオライトの残存量が少ないほど、CHAゼオライトのCO吸着量が多くなる。ここで、生成したCHAゼオライトをXRDにより測定したとき、FAUピークの(111)面のピーク強度Iと、CHAゼオライトの(100)面のピーク強度Iとの比〔I/I〕が小さいほど、FAUゼオライトの残存量が少ないといえる。この比は0.1以下であることが好ましい。
【0022】
水熱処理する前にスラリーを湿式粉砕することが好ましい。湿式粉砕した場合、水熱処理前の比(OH/Si)が低くても、CHAゼオライトが生成し易い。湿式粉砕する場合、この比は0.55以下が好ましく、0.47以下がより好ましい。湿式粉砕にはボールミルやビーズミル等を用いることができる。湿式粉砕前のスラリーに含まれるFAUゼオライトのX線回折パターンに現れる3本のピーク〔(111)、(331)および(533)のミラー指数に帰属されるピーク〕の合計強度(Ha)に対して、湿式粉砕後のスラリーに含まれるFAUゼオライトの合計強度(Hb)が半分以下(0.5Ha≧Hb)になるように湿式粉砕することが好ましい。このようにFAUゼオライトを粉砕すれば、OHを含む塩の添加量を減らしても、CHAゼオライトが生成し易くなる。湿式粉砕中のスラリーの温度が低いほど、CHAゼオライトの収率が高くなる。そのため、湿式粉砕中はスラリーの温度は65℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましい。スラリーの温度の下限は溶媒の沸点より高ければよい。例えば、水であれば0℃以上である。
【0023】
以下、CHAゼオライトについて説明する。CHA型ゼオライトのSARは5~9である。このようなCHAゼオライトがNaを1重量%以上含む。これにより、CHAゼオライトのCO吸着量が多くなる。CHAゼオライトのNa含有量が1重量%未満の場合、CHAゼオライトのCO吸着量が少ない。このNa含有量が高いほど、CHAゼオライトのCO吸着量が多くなる。そのため、このNa含有量は3重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましい。一方、このNa含有量が高過ぎる場合、ゼオライトのカチオンサイトにNaが収まりきらず、Naが不純物となる。そのため、このNa含有量は20重量%以下が好ましく、15重量%以下が好ましく、12重量%以下がさらに好ましい。CHA型ゼオライトのSARが5未満の場合、CHAゼオライトの結晶子径が低くなり、CHAゼオライトの比表面積が小さくなる。その結果、CHAゼオライトのCO吸着量が少なくなる。SARが9より大きい場合、CHAゼオライト中のカチオンサイトが減るため、CHAゼオライトのCO吸着量が少ない。CHAゼオライトの形状として、粒子状、板状、棒状、サイコロ状などが挙げられる。
【0024】
XRDによりCHA型ゼオライトを測定した際、ミラー指数が(100)面のピーク強度I100と(211)面のピーク強度I211の強度比〔I100/I211〕が低いほど、CHAゼオライトのCO吸着量が多くなる。そのため、この比〔I100/I211〕は0.8以下が好ましく、0.65以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましい。転換法により調製したゼオライトでは、この比〔I100/I211〕が低くなり易い。また、前述の<Na添加工程>でのNa添加量が多いほど、この比〔I100/I211〕が低くなり易い。
【0025】
上述のチャバサイト型ゼオライトを用いてCO吸着材を製造することができる。CO吸着材にはチャバサイト型ゼオライト以外に、バインダ、焼結助剤、嵩増し剤等を添加してもよい。バインダとして、メチルセルロース等のセルロース類、澱粉、ポリビニルアルコール等が挙げられる。焼結助剤として、シリカやアルミナ等の無機酸化物が挙げられる。
【0026】
チャバサイト型ゼオライトを成型することにより、CO吸着材を製造してもよい。成形方法として、押出成型、打錠成形等が挙げられる。成形する前に、CHAゼオライトにバインダや焼結助剤を添加することが好ましい。成形後に、成形品を乾燥・焼成することが好ましい。乾燥温度は20~150℃、焼成温度は、500~700℃が好ましい。
【0027】
以下、CHAゼオライトの製造方法とその物性について具体的に説明する。調製条件を表1に示す。
【0028】
[実施例1]
<スラリー調製工程(水酸化物添加工程・K添加工程・Na添加工程を含む)>
純水416.4gに濃度48.0質量%のNaOHを20.7gと95.5質量%のKOHを2.8g添加した。次いで、FAU型ゼオライト(SAR:7.0、NaO量:1.14重量%、以下の実施例および比較例においても同様のFAU型ゼオライトを用いる。)を60.1g添加し、スラリーを得た。
【0029】
ビーズミル(アシザワファインテック社製:LMZ015)を用いて、0.5Ha≧Hbになるまでこのスラリーを湿式粉砕した。湿式粉砕の条件は、ジルコニアビーズ0.5mm、周速10m/s、ビーズ充填量85%(体積換算)であった。なお、スラリーを180℃で30分乾燥して得られた粉末を乳鉢で粉砕することにより、X線回折測定用の試料を作成した。これを試料板にセットし、以下の測定条件でX線回折測定することにより、各ミラー指数のピーク強度を求めた。(測定条件; 装置:株式会社リガク製MiniFlex(登録商標)、操作軸:2θ/θ、線源:CuKα、測定方法:連続式、電圧:40kV、電流:15mA、開始角度:2θ=5°、終了角度:2θ=50°、サンプリング幅:0.020°、スキャン速度:10.000°/min。)
【0030】
<ゼオライト生成工程>
湿式粉砕後のスラリーを165℃で24時間水熱処理した。その後、水熱処理した合成スラリーを取出し、ろ過、洗浄、乾燥(110℃10時間)してCHAゼオライト(粉末)を得た。
【0031】
得られた粉末(以下の実施例および比較例でイオン交換工程を実施している場合はNa交換CHAゼオライト)を以下(1)~(3)のように測定・評価した。以下の実施例および比較例の測定結果・評価結果も併せて表2に示す。
【0032】
(1)X線回折測定(結晶系、XRDピーク比)
得られた粉末を乳鉢で粉砕し、試料板にセットした。これを上述の測定条件と同様にX線回折測定した。得られたX線回折パターンが、(100)、(200)、(20-1)、(21-1)、(211)、(3-1-1)、(310)、(3-1-2)のミラー指数に帰属されるピークをすべて有している場合、チャバサイト構造の結晶系を有していると判断した。ここで得られた、(100)と(211)のミラー指数に帰属されるピークの強度比を算出した。
【0033】
(2)元素分析(SAR、K量、Na量)
白金皿にCHAゼオライトを約0.5g採取して、フッ化水素酸10ml、(1+1)硫酸10mlを添加した。サンドバス上で、硫酸の白煙が出るまで加熱したら、水を加えて溶解した。これを200mlのメスフラスコで定容した。このうち10mlを100mlのメスフラスコで定容することにより、試験溶液とする。Na、Kを原子吸光装置(日立ハイテク社製 Z―2310)で、AlはICP装置(島津製作所社製 ICPS―8100)で測定した。Na、K、Alの含有量をそれぞれNaO、KO、Alに換算した。SiOの値は、100重量%からAl、NaO、KO、の含有量(重量%)を差し引いて求めた。このSiOとAlの含有量をモル比に換算し、SARを算出した。
【0034】
(3)CO吸着量の測定
得られた粉末0.1gを試料管に充填させ、100%-He(50SCCM)気流中で、400℃まで10℃/分で昇温して60分保持した後、30℃まで放冷させた。この試験管を30℃の状態に保ち、二酸化炭素濃度が1%のCO/Heガス(50SCCM)を25分間流通させた。流通後、検出器(TCD、装置:マイクロトラック・ベル社製 BEL-CAT2)がCOを検出した時点を破過点とした。流通開始から破過点までに流通させたCO総量を求めた。同様の測定を空の試料管でも行い、流通開始から破過点までに流通させたCO総量を求めた。それぞれのCO総量の差分をCO吸着量とした。
【0035】
[実施例2]
純水417.3gに濃度48.0質量%のNaOHを18.0gと95.5質量%のKOHを4.7g添加した。次いで、FAU型ゼオライトを60.0g添加し、スラリーを得た。このスラリーを用いたこと以外は実施例1と同様に実施しCHAゼオライトを得た。
【0036】
[実施例3]
純水419.5gに濃度48.0質量%のNaOHを11.4gと95.5質量%のKOHを9.3g添加した。次いで、FAU型ゼオライトを59.8g添加し、スラリーを得た。このスラリーを用いたこと以外は実施例1と同様に実施しCHAゼオライトを得た。
【0037】
[実施例4]
純水421.6gに濃度48.0質量%のNaOHを4.8gと95.5質量%のKOHを13.9g添加した。次いで、FAU型ゼオライトを59.7g添加し、スラリーを得た。このスラリーを用いたこと以外は実施例1と同様に実施しCHAゼオライトを得た。
【0038】
[実施例5]
純水417.5gに濃度48.0質量%のNaOHを11.2gと95.5質量%のKOHを11.7g添加した。次いで、FAU型ゼオライトを59.6g添加し、スラリーを得た。このスラリーを用いたこと以外は実施例1と同様に実施しCHAゼオライトを得た。
【0039】
[実施例6]
純水414.4gに濃度48.0質量%のNaOHを14.6gと95.5質量%のKOHを11.6g添加した。次いで、FAU型ゼオライトを59.5g添加し、スラリーを得た。このスラリーを用いたこと以外は実施例1と同様に実施しCHAゼオライトを得た。
【0040】
[実施例7]
実施例2と同様の処方でCHAゼオライトを得た。
【0041】
<イオン交換工程>
純水200.0gにCHAゼオライト10.0g、100質量%のNaClを20.0g添加した後、これを1時間80℃の状態で保ち、ろ過、洗浄した。すなわち、イオン交換した。CHAゼオライト10.0gの代わりに洗浄後のCHAゼオライトを用いて同様の操作をさらに5回行った。得られたCHAゼオライトを乾燥することにより、Na交換CHAゼオライトを得た。
【0042】
[実施例8]
純水421.2gに濃度95.5質量%のKOHを19.5g添加した。次いで、FAU型ゼオライトを58.7g添加することにより、スラリーを得た。このスラリーを用いたこと以外は実施例1と同様に実施しCHAゼオライトを得た。本実施例で得たCHAゼオライトを用いたこと以外は、実施例7と同様にイオン交換工程を行うことにより、Na交換ゼオライトを得た。
【0043】
[実施例9]
純水415.3gに濃度95.5質量%のKOHを26.0g添加した。次いで、FAU型ゼオライトを58.7g添加し、スラリーを得た。このスラリーを用いたこと、および湿式粉砕しなかったこと以外は、実施例1と同様にCHA型ゼオライトを得た。本実施例で得たCHAゼオライトを用いたこと以外は、実施例7と同様にイオン交換工程を行うことにより、Na交換ゼオライトを得た。
【0044】
[実施例10]
純水417.3gにFAU型ゼオライトを60.0g添加しスラリーを得た。実施例1と同様の条件で、このスラリーを湿式粉砕した。このスラリーに濃度48.0質量%のNaOHを18.0gと95.5質量%のKOHを4.7g添加した後、水熱合成することにより、CHAゼオライトを得た。
【0045】
[比較例1]
純水393.1gに25%N,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム水溶液(セイケムジャパン製)を46.4g、95.5質量%のKOHを0.3g、アルミン酸ナトリウム水溶液(Al濃度22質量%、NaO濃度17質量%)を25.4g、ヒュームドシリカ(トクヤマ社製レオロシール(登録商標)QS40)を34.7g添加・混合し調合スラリーを得た。この調合スラリーを150℃で96時間水熱処理した。その後、水熱処理した合成スラリーを取出し、ろ過、洗浄、乾燥してCHAゼオライトを得た。CHAゼオライトを600℃で3時間焼成した。本実施例で得たCHAゼオライトを用いたこと以外は、実施例7と同様にイオン交換工程を行うことにより、Na交換ゼオライトを得た。
【0046】
[比較例2]
純水425.2gに95.5質量%のKOHを15.0g添加した。次いで、FAU型ゼオライトを59.8g添加し、スラリーを得た。このスラリーを用いたこと以外は、実施例1と同様にCHAゼオライトを得た。
【0047】
[比較例3]
実施例8のCHAゼオライトを用いた。
【0048】
[比較例4]
純水415.3gに95.5質量%のKOHを26.0g添加した。次いで、FAU型ゼオライトを58.7g添加し、スラリーを得た。スラリーを水熱合成し、CHA型ゼオライトを得た。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】