(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136634
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電磁ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04B 53/16 20060101AFI20240927BHJP
F04B 17/04 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F04B53/16 A
F04B17/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047798
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000220505
【氏名又は名称】ニデックパワートレインシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】倉持 健太
【テーマコード(参考)】
3H069
3H071
【Fターム(参考)】
3H069AA03
3H069BB02
3H069CC04
3H069DD01
3H069DD35
3H069EE04
3H069EE09
3H071AA03
3H071BB01
3H071CC11
3H071CC42
3H071DD07
3H071DD32
(57)【要約】
【課題】ポンプ室に溜まった空気を効率的に排出する。
【解決手段】ソレノイド装置、ピストン、スリーブ、ポンプボディ、スリーブの内壁及びピストンの外壁の間とピストンの内部とに位置し、吸入通路とポンプ室とにつながる第1の通路、及びスリーブの外壁とポンプボディの内壁との間に位置し、吸入通路につながる第2の通路を備える電磁ポンプであって、スリーブは、第1の通路と第2の通路とを連通する軸方向に沿って伸びた連通溝を備え、連通溝は、ピストンがポンプ室の容積が予め定めた第1の容積となる第1の位置に位置する場合、第1の連通路と連通し、第1の位置からポンプ室の容積が第1の容積より小さい予め定めた第2の容積となる第2の位置に移動する途中で、第1の連通路から遮断される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビン、前記ボビンに巻回されたコイル、前記ボビンの貫通孔内の軸方向一方側に配置され、コイルの励磁によって軸方向に移動するプランジャ、プランジャに固定され、軸方向他方側に突出したプランジャピン、前記貫通孔の軸方向他方側に配置され、前記プランジャピンを軸方向に案内する軸方向に延びる孔を有した固定コア、及び、前記プランジャピンの軸方向他方側に配置され、前記プランジャピンの移動に伴い軸方向に移動可能なピストン体を有したソレノイド装置と、
前記プランジャピンの軸方向他方側に配置され、前記プランジャピンの移動に伴い軸方向に移動可能なピストンと、
前記ソレノイド装置の軸方向他方側に配置されたスリーブであって、中空筒状部、前記中空筒状部の軸方向一方側には前記ピストンを収容するピストン収容部、前記ピストンの軸方向他方側であって、前記ピストンの移動に伴って容積が変化するポンプ室、前記ポンプ室から前記スリーブ外につながる吐出通路、及び前記スリーブ外から前記ポンプ室の軸方向一方側につながる吸入通路を備えるスリーブと、
前記スリーブを収容するポンプボディと、
前記スリーブの内壁及び前記ピストンの外壁の間と前記ピストンの内部とに位置し、前記吸入通路と前記ポンプ室とにつながる第1の通路と、
前記スリーブの外壁と前記ポンプボディの内壁との間に位置し、前記吸入通路につながる第2の通路と、
を備える電磁ポンプであって、
前記スリーブは、前記第1の通路と前記第2の通路とを連通する軸方向に沿って伸びた連通溝を備え、
前記連通溝は、前記ピストンが前記ポンプ室の容積が予め定めた第1の容積となる第1の位置に位置する場合、前記第1の連通路と連通し、前記第1の位置から前記ポンプ室の容積が前記第1の容積より小さい予め定めた第2の容積となる第2の位置に移動する途中で、前記第1の連通路から遮断される、
電磁ポンプ。
【請求項2】
前記連通溝は、軸方向から見て鋭角の扇型の形状を備える、請求項1に記載の電磁ポンプ。
【請求項3】
前記連通溝は、軸方向一方側に開口を備え、
前記連通溝は、軸方向他方側に底面を備える、
請求項1又は請求項2に記載の電磁ポンプ。
【請求項4】
前記スリーブは、軸方向一方側に、前記ピストンを、前記プランジャピン側に付勢する付勢部材を収容する付勢部材収容部を備え、
前記連通溝は、前記不正部材収容部の軸方向長さよりも長い、
請求項1又は請求項2に記載の電磁ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、電磁ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ピストンを往復動させることにより、吸入ポートを介して作動流体をポンプ室に吸入すると共に吸入した作動流体をポンプ室から吐出ポートを介して吐出する電磁ポンプであって、ピストンの外周に所定の凹部が設けられる。この電磁ポンプでは、ポンプ室に空気が溜まらない場合、コイルの励磁によりピストンは、ポンプ室の容積を所定量小さくし、これにより吐出圧を大きくする。この場合、ピストンは、凹部が吐出ポートから遮断される位置、よって、ポンプ室と吐出ポートとが連通しない位置まで移動する。連通しない位置から、フルストローク位置までの容積変化分が吐出し量になる。
しかし、ポンプ室に空気が溜まった場合、コイルの励磁によりピストンが移動してもポンプ室の容積を所定量小さくできず、これにともないポンプ室の圧力は大きくならず、吐出圧も大きくならない。この場合、凹部が吐出ポートと連通する。ポンプ室に空気が溜まってもピストンのストローク量は変化しない。このようにポンプ室に空気が溜まった場合、ピストンの凹部がポンプ室と吐出ポートとを連通する。これによりポンプ室に溜まった空気を、凹部を介して吐出ポートから排出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記凹部は、ピストンの外周とピストンを収容するシリンダ本体の内壁との間に設けられるので、領域が小さい。よって、ポンプ室に溜まった空気が排出されにくい。
【0005】
本開示の技術は、ポンプ室に溜まった空気を効率的に排出することができる電磁ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本開示の技術の第1の態様の電磁ポンプは、ボビン、前記ボビンに巻回されたコイル、前記ボビンの貫通孔内の軸方向一方側に配置され、コイルの励磁によって軸方向に移動するプランジャ、プランジャに固定され、軸方向他方側に突出したプランジャピン、前記貫通孔の軸方向他方側に配置され、前記プランジャピンを軸方向に案内する軸方向に延びる孔を有した固定コア、及び、前記プランジャピンの軸方向他方側に配置され、前記プランジャピンの移動に伴い軸方向に移動可能なピストン体を有したソレノイド装置と、前記プランジャピンの軸方向他方側に配置され、前記プランジャピンの移動に伴い軸方向に移動可能なピストンと、前記ソレノイド装置の軸方向他方側に配置されたスリーブであって、中空筒状部、前記中空筒状部の軸方向一方側には前記ピストンを収容するピストン収容部、前記ピストンの軸方向他方側であって、前記ピストンの移動に伴って容積が変化するポンプ室、前記ポンプ室から前記スリーブ外につながる吐出通路、及び前記スリーブ外から前記ポンプ室の軸方向一方側につながる吸入通路を備えるスリーブと、前記スリーブを収容するポンプボディと、前記スリーブの内壁及び前記ピストンの外壁の間と前記ピストンの内部とに位置し、前記吸入通路と前記ポンプ室とにつながる第1の通路と、前記スリーブの外壁と前記ポンプボディの内壁との間に位置し、前記吸入通路につながる第2の通路と、を備える電磁ポンプであって、前記スリーブは、前記第1の通路と前記第2の通路とを連通する軸方向に沿って伸びた連通溝を備え、前記連通溝は、前記ピストンが前記ポンプ室の容積が予め定めた第1の容積となる第1の位置に位置する場合、前記第1の連通路と連通し、前記第1の位置から前記ポンプ室の容積が前記第1の容積より小さい予め定めた第2の容積となる第2の位置に移動する途中で、前記第1の連通路から遮断される。
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術の第1の態様は、ポンプ室に溜まった空気を効率的に排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の技術に係る電磁ポンプの斜視図である。
【
図2】本開示の技術に係る電磁ポンプの破断斜視図である。
【
図3】本開示の技術に係る電磁ポンプの通電OFF時の状態を示す縦断面図である。
【
図4A】本開示の技術に係る連通溝の斜視図である。
【
図4B】本開示の技術に係る連通溝の上面図である。
【
図7】本開示の技術に係る電磁ポンプの通電ON時の状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本開示の技術の実施形態を説明する。
【0010】
以下では、説明の便宜上、互いに直交する3軸をX軸、Y軸およびZ軸を設定する。一例として、X軸とY軸とを含むXY平面が水平、Z軸が鉛直である。例えば、X軸方向は、電磁ポンプ1の幅方向である。Y軸方向は、電磁ポンプ1の奥行き方向である。Z軸方向は、電磁ポンプ1の高さ方向である。なお、
図1及び
図2に示す矢印方向をそれぞれ「前後」(Y軸方向)、「左右」(X軸方向)、及び「上下」方向(Z軸方向)とも言う。
【0011】
図1は、本開示の技術に係る電磁ポンプの斜視図である。
図2は、本開示の技術に係る電磁ポンプの破断斜視図である。
図3は、本開示の技術に係る電磁ポンプの通電OFF時の状態を示す縦断面図である。
図4Aは、本開示の技術に係る連通溝の斜視図である。
図4Bは、本開示の技術に係る連通溝の上面図である。
図5は、
図3のA部拡大詳細図である。
図6は、
図5のB-B線断面図である。
図7は、本開示の技術に係る電磁ポンプの通電ON時の状態を示す縦断面図である。
図8は、
図7のC部拡大詳細図である。
【0012】
[電磁ポンプの構成]
本実施の形態に係る電磁ポンプ1は、不図示の車両用エンジンの摺動部にオイル(潤滑油)を供給するためのものであって、大きくはピストン駆動手段を構成する本開示の技術に係るソレノイド装置10と、該ソレノイド装置10によって駆動されて所要のポンピング作用を行うポンプ部20とを備える。
【0013】
本開示の技術に係るソレノイド装置10は、
図2及び
図3に示すように、矩形枠状のソレノイド収容体2と該ソレノイド収容体2の下面に取り付けられた矩形平板状の板状部材(プレート)3によって形成される空間内に、ボビン4、コイル5、プランジャ6、プランジャピン7、固定コア8などによって構成されるソレノイドアッシ(ソレノイド組立体)SAを収容して構成される。なお、ソレノイド装置10の構成の詳細については後述する。
【0014】
また、ポンプ部20は、
図2及び
図3に示すように、矩形ブロック状のポンプボディ21を備えており、このポンプボディ21内には、上下に往復動可能な円柱状のピストン22と、該ピストン22を軸方向に摺動可能に保持するスリーブ23などが収容される。なお、ポンプ部20の構成の詳細についても後述する。
【0015】
本実施の形態に係るソレノイド装置10においては、ソレノイド収容体2と板状部材3とはカシメによって互いに連結一体化され、ソレノイドアッシSAは、ソレノイド収容対2と板状部材3によって挟持される。
【0016】
(ソレノイド装置)
ここで、本開示の技術に係るソレノイド装置10の構成の詳細を
図3に基づいて以下に説明する。
【0017】
ソレノイドアッシSAは、次のように構成される。
【0018】
すなわち、ソレノイドアッシSAは、
図3に示すように、円筒状のボビン4と、該ボビン4に巻回されたコイル5と、ボビン4の軸中心を貫通する円孔状の貫通孔4aの上端部に上下方向に移動可能に嵌挿されたプランジャ(可動コア)6と、該プランジャ6に上端部が固定されて下端部がプランジャ6から下方へと垂直に突出する円柱状のプランジャピン7と、該プランジャピン7を上下方向に移動可能に案内する固定コア8とを備える。ここで、固定コア8は、板状部材3に固定支持される。
【0019】
そして、ソレノイドアッシSAの全体は、ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂などの絶縁樹脂によって構成された樹脂カバー11によって覆われており、この樹脂カバー11の上面にソレノイド収容体2の天井部2aの下面が接触する。ここで、ソレノイドアッシSAの全体は、樹脂カバー11によってモールドされて金属製のソレノイド収容体2と板状部材3とは電気的に絶縁される。なお、
図1及び
図2に示すように、樹脂カバー11の外周の一部には、コイルに電流を供給するためのバッテリなどの不図示の電源を電気的に接続するための絶縁樹脂製のカプラー12が一体に形成される。
【0020】
また、
図3に示すように、ソレノイド収容体2の上部中央には円孔2dが形成されており、この円孔2dには、ハット状のエンドキャップ13が嵌め込まれる。そして、このエンドキャップ13内のプランジャ6との間に形成された空間には、付勢手段としてのコイルスプリング14が圧縮状態で収容される。なお、このコイルスプリング14は、プランジャ6を常時下方へと付勢することによって該プランジャ6のガタツキを防ぐためのものである。
【0021】
さらに、
図3に示すように、固定コア8は、板状部材3の中央部に挿通固定されており、この固定コア8の下端部は、その一部が板状部材3の下面から下方へと突出する。なお、プランジャ6と固定コア8との間には、プランジャ6とプランジャピン7の上下移動量(ストローク)よりも大きな隙間が形成される。
【0022】
ここで、ソレノイド収容体2と板状部材3は、磁性金属であるSPC材(冷間圧延鋼板)などで構成されており、コイル5が発生する磁界の通り道として機能する。また、プランジャ6とプランジャピン7及び固定コア8は、鉄などの磁性金属によって構成されており、コイル5には、銅線を樹脂で覆ったエナメル線などが使用される。なお、
図3において、15,16はOリングなどのシールリングである。
【0023】
(ポンプ部)
次に、ポンプ部20の構成の詳細を
図3~
図6に基づいて以下に説明する。
【0024】
図3に示すように、ポンプ部20のポンプボディ21には、ソレノイド装置10のプランジャピン7と同軸に円筒状のスリーブ23が配置されており、このスリーブ23の中心部には、後述の大小異径の円穴23a,23bと円孔23c,23dによって構成される貫通孔が形成される。この貫通孔の一部を構成する円孔23c,23dに円柱状のピストン22が上下往復動可能に嵌め込まれて収容される。
【0025】
より詳細には、スリーブ23の軸中心部の上端部には大小異径の円穴23a,23bが形成されるとともに、これらの円穴23a,23bの下方には、大小異径の円孔23c,23dが形成される。ここで、ピストン22は、その上端に円板状のフランジ部22aが一体に形成されており、このフランジ部22aの下方には、円柱状の大径部22bと小径部22cがそれぞれ形成される。そして、このピストン22は、大径部22bと小径部22cがスリーブ23の円孔23c,23dにそれぞれ嵌め込まれることによってスリーブ23内に上下に往復動可能に収容される。なお、スリーブ23の大径側の円穴23aの上端部には、固定コア8の下端部が嵌め込まれる。また、大径側の円穴23aの底面には、水平方向(軸直角方向の面)を有する段部23eが形成される。
【0026】
また、ピストン22のフランジ部22aとスリーブ23の大径側の円穴23bの段部(底面)23beとの間の空間23Sには、コイルスプリング24が圧縮状態で収容されており、ピストン22は、コイルスプリング24によって常時上方(プランジャピン7方向)に付勢される。そして、ピストン22のフランジ部22aの上面中央部には、ソレノイド装置10のプランジャピン7の下端面が常時当接する。
【0027】
ピストン22のフランジ部22aとスリーブ23の大径側の円穴23bの段部23beとの間の空間23Sは、本開示の技術の「付勢部材収容部」の一例である。コイルスプリング24は、本開示の技術の「付勢部材」の一例である。
【0028】
ここで、コイルスプリング24は、小径側の円穴23bにコンパクトに収容されるが、このコイルスプリング24のばね定数(付勢力)は、前記コイルスプリング14のばね定数(付勢力)よりも大きく設定されるため、ピストン22とこれに当接するプランジャピン7および該プランジャピン7が取り付けられたプランジャ6は、ピストン22と共にコイルスプリング24によって常時上方に付勢される。
【0029】
そして、スリーブ23の小径側の円孔23dには、ピストン22の小径部22cの下端部が嵌め込まれており、円孔23d内には、ピストン22の下端面によって区画されるポンプ室Pが形成される。このポンプ室Pは、吐出口25と該吐出口25を選択的に開閉するチェック弁26を介して吐出通路27に選択的に連通する。ここで、チェック弁26は、スリーブ23の下端部に形成された弁室S内に収容されており、吐出口25に選択的に着座して該吐出口25を選択的に開閉する弁体26aと、該弁体26aを常時上方(吐出口25を閉じる方向)に付勢するバルブスプリング(コイルスプリング)26bによって構成される。そして、このチェック弁26とピストン22とは、ピストン22の移動方向(上下方向)に同軸に配置される。
【0030】
また、前記吐出通路27は、スリーブ23の下端部に横方向(水平方向)に形成されており、スリーブ23の外周側にポンプボディ21との間に形成される円筒状の油路28を経て
図1に示すようにポンプボディ21の前面に円孔状の吐出口29として開口する。
【0031】
他方、スリーブ23の大径側の円孔23cとピストン22の小径部22cとの間には、円筒状の油路30が形成される。この油路30には、スリーブ23の中間高さ位置に横方向(水平方向)に形成された吸入通路31が開口する。そして、この吸入通路31は、スリーブ22の上部外周とポンプボディ21との間に形成される円筒状の油路32に連通する。油路32は、スリーブ23の外壁とポンプボディ21の内壁との間に位置し、吸入通路31につながる。油路32は、スリーブ23の上端部に横方向(水平方向)に形成される油路33を経てスリーブ23の上端部に形成された大径側の円穴23aに連通する。油路30は、スリーブ23の内壁及びピストン22の外壁の間とピストン22の内部とに位置し、吸入通路31とポンプ室とPにつながる。なお、吸入通路31は、油路32を経て
図1に示すようにポンプボディ21の左端面に円孔状の吸入口34として開口する。なお、
図3において、35,36はOリングなどのシールリングである。
【0032】
油路32は、本開示の技術の「第2の通路」の一例である。油路30は、本開示の技術の「第1の通路」の一例である。
【0033】
スリーブ22は、
図4A及び
図4Bに示す連通溝23Aを備える。連通溝23Aは、油路30と油路32とを連通する、軸方向に沿って伸びた溝である。連通溝23Aは、第1の壁23a1と第2の壁23a2との間と、底面23a3と、により区画される。第1の壁23a1と第2の壁23a2との間は、油路32に連通する。詳細には後述するが、第1の壁23a1と第2の壁23a2との間の軸方向他方側且つ軸側は、ピストン22が上死点に位置する場合、油路30と連通し、上死点から下死点置に移動する途中で、油路30から遮断される。第1の壁23a1と第2の壁23a2との間の軸方向一方側は、吸入口34に開口する。連通溝23Aは、軸方向から見て鋭角の扇型の形状(
図4B参照)を備える。連通溝23Aは、ピストン22のフランジ部22aとスリーブ23の大径側の円穴23bの段部23eとの間の空間23Sの軸方向長さよりも長い。
【0034】
上死点は、本開示の技術の「第1の位置」の一例である。下死点は、本開示の技術の「第2の位置」の一例である。
【0035】
ここで、ピストン22の下部構造(オイルの連通路構造)の詳細を
図5及び
図6に基づいて説明する。
【0036】
図5に示すように、ピストン22の下端部の軸中心には円穴状の連通孔37が形成されており、この連通孔37の上端には、
図6に示すように、該連通孔37に直交する円孔状の油孔38が形成される。また、ピストン22の小径部22cの外周の一部には、溝22dが全周に亘って形成されており、この溝22dとスリーブ23の小径側の円孔23dとの間には、円筒状隙間δが形成される。そして、
図6に示すように、円筒状隙間δには、ピストン22の下端部に形成された前記油孔38が開口する。ここで、ピストン22に形成された連通孔37と油孔38、円筒状隙間δは、後述のように、コイル5への通電OFF時にポンプ室Pと吸入通路31とを連通させる連通路を構成する。
【0037】
[電磁ポンプの作用]
次に、以上のように構成された電磁ポンプ1の作用について説明する。
【0038】
車両に搭載されたバッテリなどの不図示の電源から電磁ポンプ1のコイル5に通電されていないとき(通電OFF時)には、
図3に示すように、ソレノイド装置10のプランジャ6とプランジャピン7には電磁駆動力が作用しないため、コイルスプリング24によって上方に付勢されたピストン22とこれに当接するプランジャピン7及び該プランジャピン7が固定されたプランジャ6は、一体的に上動し、ピストン22のフランジ部22aの上面が固定コア8の下端面に当接する位置(上死点)で停止する。ピストン22のフランジ部22aの上面が固定コア8の下端面に当接する位置(上死点)に位置すると、ポンプ室Pの容積が最大容積となる。
【0039】
「最大容積」は、本開示の技術の「第1の容積」の一例である。
【0040】
上記状態では、
図5及び
図6に示すように、ピストン22の小径部22bの外周の一部に形成された溝22dが吸入通路31に連通するため、オイルは、
図5及び
図6に矢印にて示すように、吸入通路31から円筒状隙間δと油孔38及び連通孔37を通ってポンプ室Pへと流れ込んで該ポンプ室Pに充填される。なお、このとき、チェック弁26は、吐出口25を閉じる。
【0041】
ピストン22が上死点に位置する場合、連通溝23Aの第1の壁23a1と第2の壁23a2との間の軸方向他方側且つ軸側は、油路30と連通する。
【0042】
次に、不図示の電源から電磁ポンプ1のコイル5に通電されると(通電ON)、コイル5に磁界が発生し、この磁界によってプランジャ6とプランジャピン7が磁化され、
図7に示すように、これらのプランジャ6とプランジャピン7が磁気駆動力によってコイルスプリング24の付勢力に抗して下動する。このようにプランジャピン7が下動すると、このプランジャピン7が当接するピストン22も一体に下動する。
【0043】
上述のようにピストン22が下動すると、
図8に鎖線にて示すように、ピストン22の小径部22cの外周の一部に形成された溝22dが閉じられると、ポンプ室Pと吸入通路31の連通が遮断され、ポンプ室Pが密閉状態となり、このポンプ室Pにオイルが密封される。ピストン22が上死点から下死点に移動する途中で、連通溝23Aは、油路30から遮断される。この状態からピストン22がさらに下動すると、ポンプ室P内のオイルがピストン22のポンピング作用によって加圧され、このオイルは、その圧力でチェック弁26の弁体26aをバルブスプリング26bの付勢力に抗して押し下げて吐出口25を開き、吐出通路27と油路28を通って最終的にポンプボディ21の前面に開口する吐出口29(
図1参照)からポンプボディ21外へと吐出され、不図示の車両用エンジンの摺動部へと供給される。
【0044】
ところで、ピストン22の下動は、
図7に示すように、該ピストン22のフランジ部22aの下面がスリーブ23の上端部に形成された大径側の円穴23aの段部(底面)23eに当接した時点で停止する。すなわち、ピストン22の下死点位置は、当該ピストン22のフランジ部22aとスリーブ23の段部23eとの当接によって規定される。ピストン22が下死点に位置する場合、ポンプ室Pの容積は、最大容積より小さい予め定めた第2の容積となる。この場合、ピストン22の下死点を規定する位置決め機構は、該ピストン22自体に形成されたフランジ部22aとスリーブ23に形成された段部23eによって構成されるため、従来のように多部品との間の取付誤差が集積されることによってピストン22の下死点にバラツキが発生することがない。したがって、ピストン22の下死点位置に製品ごとのバラツキが生じす、ピストン22の下死点位置が正確に規定される。
【0045】
他方、ピストン22の上限位置、つまり、上死点位置は、
図3に示すように、該ピストン22のフランジ部22aの上面が固定コア8の下端面に当接する位置によって正確に規定される。
【0046】
以上のように、上下方向の往復動によってポンピング作用を行うピストン22の上死点位置と下死点位置が正確に規定されるため、該ピストン22の往復動のストロークが一定となって製品ごとにバラツキが発生することがない。このため、電磁ポンプ1の吐出圧と吐出量が変動なく一定に保たれ、安定したオイルの供給が可能となる。
【0047】
[電磁ポンプの効果]
以上説明したように本実施の形態では、連通溝23Aは、スリーブ23の内壁及びピストン23の外壁の間からスリーブ23の外壁とポンプボディ21の内壁との間までの溝が軸方向に沿って伸びている。つまり、連通溝23Aは、従来技術のようにピストン23の外壁にのみ設けられる凹部より、大きい。よって、本実施の形態は、当該従来技術よりポンプ室Pの空気を効率的に排出することができる。
ここで、ポンプ室Pに空気が混入して吐出量が低下するメカニズムについて説明する。ポンプ室Pに空気が混入していない場合におけるピストン23がオイルを押し出す容積を10とすると、ピストン23の上記移動によりオイルが10吐出される。しかし、ポンプ室Pに空気が、例えば、2入ると、オイルの吐出量が8になる。ポンプ室P内の圧力が空気の混入により低下するからである。しかし、本実施の形態では、当該従来技術よりポンプ室Pの空気を効率的に排出することができる。よって、ポンプ室P内の圧力の低下を抑制することができる。
また、本実施の形態では、ポンプ室Pにオイルが引き込まれる際に大きな気泡が混入することを防止することができる。従って、この点からもポンプ室P内の圧力の低下を抑制することができる。
【0048】
[電磁ポンプの変形例]
なお、以上は本開示の技術を車両用エンジンの摺動部にオイル(潤滑油)を供給するための電磁ポンプに対して適用した形態について説明したが、本開示の技術は、オイル以外の他の任意の流体を供給するための電磁ポンプに対しても同様に適用可能である。
【0049】
その他、本開示の技術は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
1 電磁ポンプ
4 ボビン
5 コイル
6 プランジャ
7 プランジャピン
8 固定コア
10 ソレノイド装置
20 ポンプ部
22 ピストン
23 スリーブ
24 コイルスプリング
27 吐出通路
37 連通孔
38 油孔
23A 連通溝
23a1 第1の壁
23a2 第2の壁
23a3 底面
P ポンプ室