(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136635
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】干渉計測装置および干渉計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/45 20060101AFI20240927BHJP
G01N 21/3581 20140101ALI20240927BHJP
【FI】
G01N21/45 A
G01N21/3581
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047799
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】高橋 永斉
(72)【発明者】
【氏名】河合 直弥
(72)【発明者】
【氏名】里園 浩
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059EE09
2G059HH05
2G059JJ13
2G059JJ22
2G059KK02
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】テラヘルツ波を用いた干渉計測によるフーリエ分光を高速かつ正確に行うことができる干渉計測装置および干渉計測方法を提供する。
【解決手段】干渉測定装置1Aは、光源10、干渉光学系20A、光電子増倍管30、干渉強度測定部40、電界振幅算出部50および分析部60を備える。光源10は、光電子増倍管30が感度を有する帯域(テラヘルツ波を含む光の帯域)の光を出力する。光電子増倍管30は、ラヘルツ波を含む光の帯域に感度を有し、入射光強度に応じた値の電気信号を出力する。電界振幅算出部50は、光電子増倍管30へ入射する光の電界振幅の値と光電子増倍管30から出力される電気信号の値との間の関係に基づいて、干渉強度測定部40により測定された干渉光の強度Vの値を電界振幅Eの値に換算して、光路長差Δdに対応する時間差Δtの各値について干渉光の電界振幅Eの値を求める。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ波を含む光の帯域に感度を有し入射光強度に応じた値の電気信号を出力する光電子増倍管と、
前記光電子増倍管が感度を有する帯域の光を出力する光源と、
前記光源から出力された光を2分岐して第1分岐光および第2分岐光とし、分析対象物を経た前記第1分岐光と前記第2分岐光とを合波して前記光電子増倍管へ入射させ、前記第1分岐光と前記第2分岐光との間の光路長差が可変である干渉光学系と、
前記光電子増倍管から出力された前記電気信号に基づいて、前記光電子増倍管に入射した前記第1分岐光および前記第2分岐光による干渉光の強度を測定する干渉強度測定部と、
前記光電子増倍管へ入射する光の電界振幅の値と前記光電子増倍管から出力される電気信号の値との間の関係に基づいて、前記干渉強度測定部により測定された前記干渉光の強度の値を電界振幅の値に換算して、前記光路長差に対応する時間差の各値について前記干渉光の電界振幅の値を求める電界振幅算出部と、
前記電界振幅算出部により求められた前記干渉光の電界振幅の値の前記時間差の値に対する依存性に基づいてフーリエ変換を行うことにより前記分析対象物の分析を行う分析部と、
を備える干渉計測装置。
【請求項2】
前記干渉強度測定部は、前記光電子増倍管から出力された前記電気信号に基づいて前記干渉光の強度を測定する際の測定レンジを調整して、前記干渉光の強度の測定値の飽和を抑制するとともに、前記干渉光の強度の測定値がノイズレベル以下となることを抑制する、
請求項1に記載の干渉計測装置。
【請求項3】
前記干渉強度測定部は、前記光電子増倍管から出力された前記電気信号の時間波形をフーリエ変換して得られた特定周波数成分の大きさを前記干渉光の強度として測定する、
請求項1に記載の干渉計測装置。
【請求項4】
前記干渉強度測定部は、前記光電子増倍管への印加電圧を調整して、前記電気信号に基づいて前記干渉光の強度を測定する際のダイナミックレンジまたは感度を設定する、
請求項1に記載の干渉計測装置。
【請求項5】
前記光電子増倍管は入射光強度分布のイメージングが可能なものであり、
前記分析部は前記分析対象物の分析イメージングを行う、
請求項1に記載の干渉計測装置。
【請求項6】
テラヘルツ波を含む光の帯域に感度を有し入射光強度に応じた値の電気信号を出力する光電子増倍管と、
前記光電子増倍管が感度を有する帯域の光を出力する光源と、
前記光源から出力された光を2分岐して第1分岐光および第2分岐光とし、分析対象物を経た前記第1分岐光と前記第2分岐光とを合波して前記光電子増倍管へ入射させ、前記第1分岐光と前記第2分岐光との間の光路長差が可変である干渉光学系と、
を用いて、前記分析対象物を分析する方法であって、
前記光電子増倍管から出力された前記電気信号に基づいて、前記光電子増倍管に入射した前記第1分岐光および前記第2分岐光による干渉光の強度を測定する干渉強度測定ステップと、
前記光電子増倍管へ入射する光の電界振幅の値と前記光電子増倍管から出力される電気信号の値との間の関係に基づいて、前記干渉強度測定ステップにおいて測定された前記干渉光の強度の値を電界振幅の値に換算して、前記光路長差に対応する時間差の各値について前記干渉光の電界振幅の値を求める電界振幅算出ステップと、
前記電界振幅算出ステップにおいて求められた前記干渉光の電界振幅の値の前記時間差の値に対する依存性に基づいてフーリエ変換を行うことにより前記分析対象物の分析を行う分析ステップと、
を備える干渉計測方法。
【請求項7】
前記干渉強度測定ステップにおいて、前記光電子増倍管から出力された前記電気信号に基づいて前記干渉光の強度を測定する際の測定レンジを調整して、前記干渉光の強度の測定値の飽和を抑制するとともに、前記干渉光の強度の測定値がノイズレベル以下となることを抑制する、
請求項6に記載の干渉計測方法。
【請求項8】
前記干渉強度測定ステップにおいて、前記光電子増倍管から出力された前記電気信号の時間波形をフーリエ変換して得られた特定周波数成分の大きさを前記干渉光の強度として測定する、
請求項6に記載の干渉計測方法。
【請求項9】
前記干渉強度測定ステップにおいて、前記光電子増倍管への印加電圧を調整して、前記電気信号に基づいて前記干渉光の強度を測定する際のダイナミックレンジまたは感度を設定する、
請求項6に記載の干渉計測方法。
【請求項10】
前記光電子増倍管として入射光強度分布のイメージングが可能なものを用い、
前記分析ステップにおいて前記分析対象物の分析イメージングを行う、
請求項6に記載の干渉計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉計測装置および干渉計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ波は、光波と電波との中間領域の帯域(周波数1THz前後の帯域)の光であり、薬剤等の分析対象物について他の波長帯域には見られない特有の吸収スペクトルを有することから、分析対象物の同定等への活用が期待されている。テラヘルツ波を用いた分析技術として様々な技術が知られている。
【0003】
テラヘルツ波時間領域分光法(Terahertz Time Domain Spectroscopy、THz-TDS)は、分析対象物で透過、反射または全反射したテラヘルツ波の時間波形を測定し、この測定によって得られたテラヘルツ波の電界振幅の時間波形をフーリエ変換することにより、分析対象物の分析を行うことができる(非特許文献1)。以下では、これを「従来技術1」という。従来技術1では、テラヘルツ波の時間波形を測定する際にロックインアンプが用いられる。
【0004】
出力波長が可変であるテラヘルツ波光源を用い、分析対象物で透過、反射または全反射したテラヘルツ波を分光して検出することにより、分析対象物の分析を行うことができる(非特許文献2)。以下では、これを「従来技術2」という。従来技術2では、テラヘルツ波の検出の際に熱型検出器が用いられる。
【0005】
また、フーリエ変換赤外分光法(Fourier Transform Infrared Spectroscopy、FTIR)と同様の測定原理により、テラヘルツ波を用いた干渉計測によるフーリエ分光を行うことでも、分析対象物の分析を行うことができる(非特許文献3)。以下では、これを「従来技術3」という。従来技術3では、テラヘルツ波の干渉の検出の際に熱型検出器が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jens Neu, et al, "Tutorial:An introduction to terahertz time domain spectroscopy (THz-TDS)," J. Appl.Phys. 124, 231101 (2018).
【非特許文献2】K. Murate, et al,"Perspective: Terahertz wave parametric generator and itsapplications," J. Appl. Phys. 124, 160901 (2018).
【非特許文献3】Masashi Yamaguchi, et al,"Terahertz wave generation in nitrogen gas using shaped opticalpulses," J. Opt. Soc. Am. B, Vol.26, No.9 (2009).
【非特許文献4】Simon Lehnskov Lange, et al,"Ultrafast THz-driven electron emission from metal metasurfaces," J.Appl. Phys. 128, 070901 (2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の従来技術1では、テラヘルツ波の時間波形を測定する際に、ロックインアンプによる長い積算時間が必要である。また、上記従来技術2,3では、応答が遅い熱型検出器が用いられるので測定時間が長い。これら従来技術1~3を含め、テラヘルツ波を用いた従来の分析技術は、測定に長時間を要する。
【0009】
本発明者らは、テラヘルツ波を用いた高速な分析技術について研究していく過程で、特許文献1に記載された光電子増倍管を用いることを検討した。特許文献1に記載された光電子増倍管は、テラヘルツ波を含む光の帯域に感度を有することができ、入射光強度に応じた値の電気信号を出力することができる。
【0010】
この光電子増倍管は、光入射によって電子を放出する電子放出部と、この放出された電子を増倍する電子増倍部と、増倍された電子を収集して電流信号や蛍光体で変換した光学像として出力する信号出力部と、を備える。これら電子放出部、電子増倍部および信号出力部は、内部が真空に維持されるハウジングの内部に配置されている。このハウジングに窓部が設けられており、この窓部を透過した光が電子放出部に入射する。電子放出部は、検出対象の光の帯域に応じたメタマテリアル構造(メタサーフェス)が基板の主面上に形成されたものであり、そのメタサーフェスへの光入射によって光電子を放出することができる。電子増倍部は、複数段のダイノードまたはマイクロチャネルプレートを含む。電子増倍部がマイクロチャネルプレートを含む場合、入射光強度分布のイメージングが可能である。
【0011】
本発明者らは、従来技術3の構成において熱型検出器に替えて上記の光電子増倍管を用いることにより、テラヘルツ波を用いた干渉計測によるフーリエ分光の高速化の可能性を見出したものの、一方で、上記の光電子増倍管からの出力信号について従来のFTIRと同様の処理を行うだけでは分析対象物の正確な分析を行うことができないことを見出した。
【0012】
本発明は、上記のような本発明者らの知見に基づいてなされたものであり、テラヘルツ波を用いた干渉計測によるフーリエ分光を高速かつ正確に行うことができる干渉計測装置および干渉計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の干渉計測装置の第1態様は、(1) テラヘルツ波を含む光の帯域に感度を有し入射光強度に応じた値の電気信号を出力する光電子増倍管と、(2) 光電子増倍管が感度を有する帯域の光を出力する光源と、(3) 光源から出力された光を2分岐して第1分岐光および第2分岐光とし、分析対象物を経た第1分岐光と第2分岐光とを合波して光電子増倍管へ入射させ、第1分岐光と第2分岐光との間の光路長差が可変である干渉光学系と、(4) 光電子増倍管から出力された電気信号に基づいて、光電子増倍管に入射した第1分岐光および第2分岐光による干渉光の強度を測定する干渉強度測定部と、(5) 光電子増倍管へ入射する光の電界振幅の値と光電子増倍管から出力される電気信号の値との間の関係に基づいて、干渉強度測定部により測定された干渉光の強度の値を電界振幅の値に換算して、光路長差に対応する時間差の各値について干渉光の電界振幅の値を求める電界振幅算出部と、(6) 電界振幅算出部により求められた干渉光の電界振幅の値の時間差の値に対する依存性に基づいてフーリエ変換を行うことにより分析対象物の分析を行う分析部と、を備える。
【0014】
本発明の干渉計測装置は次のような態様としてもよい。
本発明の干渉計測装置の第2態様では、第1態様に加えて、干渉強度測定部は、光電子増倍管から出力された電気信号に基づいて干渉光の強度を測定する際の測定レンジを調整して、干渉光の強度の測定値の飽和を抑制するとともに、干渉光の強度の測定値がノイズレベル以下となることを抑制する。
【0015】
本発明の干渉計測装置の第3態様では、第1態様または第2態様に加えて、干渉強度測定部は、光電子増倍管から出力された電気信号の時間波形をフーリエ変換して得られた特定周波数成分の大きさを干渉光の強度として測定する。
【0016】
本発明の干渉計測装置の第4態様では、第1~第3の態様の何れかに加えて、干渉強度測定部は、光電子増倍管への印加電圧を調整して、電気信号に基づいて干渉光の強度を測定する際のダイナミックレンジまたは感度を設定する。
【0017】
本発明の干渉計測装置の第5態様では、第1~第4の態様の何れかに加えて、光電子増倍管は入射光強度分布のイメージングが可能なものであり、分析部は分析対象物の分析イメージングを行う。
【0018】
本発明の干渉計測方法の第1態様は、(1) テラヘルツ波を含む光の帯域に感度を有し入射光強度に応じた値の電気信号を出力する光電子増倍管と、(2) 光電子増倍管が感度を有する帯域の光を出力する光源と、(3) 光源から出力された光を2分岐して第1分岐光および第2分岐光とし、分析対象物を経た第1分岐光と第2分岐光とを合波して光電子増倍管へ入射させ、第1分岐光と第2分岐光との間の光路長差が可変である干渉光学系と、を用いて、分析対象物を分析する方法である。本発明の干渉計測方法の第1態様は、(4) 光電子増倍管から出力された電気信号に基づいて、光電子増倍管に入射した第1分岐光および第2分岐光による干渉光の強度を測定する干渉強度測定ステップと、(5) 光電子増倍管へ入射する光の電界振幅の値と光電子増倍管から出力される電気信号の値との間の関係に基づいて、干渉強度測定ステップにおいて測定された干渉光の強度の値を電界振幅の値に換算して、光路長差に対応する時間差の各値について干渉光の電界振幅の値を求める電界振幅算出ステップと、(6) 電界振幅算出ステップにおいて求められた干渉光の電界振幅の値の時間差の値に対する依存性に基づいてフーリエ変換を行うことにより分析対象物の分析を行う分析ステップと、を備える。
【0019】
本発明の干渉計測方法は次のような態様としてもよい。
本発明の干渉計測方法の第2態様では、第1態様に加えて、干渉強度測定ステップにおいて、光電子増倍管から出力された電気信号に基づいて干渉光の強度を測定する際の測定レンジを調整して、干渉光の強度の測定値の飽和を抑制するとともに、干渉光の強度の測定値がノイズレベル以下となることを抑制する。
【0020】
本発明の干渉計測方法の第3態様では、第1態様または第2態様に加えて、干渉強度測定ステップにおいて、光電子増倍管から出力された電気信号の時間波形をフーリエ変換して得られた特定周波数成分の大きさを干渉光の強度として測定する。
【0021】
本発明の干渉計測方法の第4態様では、第1~第3の態様の何れかに加えて、干渉強度測定ステップにおいて、光電子増倍管への印加電圧を調整して、電気信号に基づいて干渉光の強度を測定する際のダイナミックレンジまたは感度を設定する。
【0022】
本発明の干渉計測方法の第5態様では、第1~第4の態様の何れかに加えて、光電子増倍管として入射光強度分布のイメージングが可能なものを用い、分析ステップにおいて分析対象物の分析イメージングを行う。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、テラヘルツ波を用いた干渉計測によるフーリエ分光を高速かつ正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、干渉測定装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、干渉測定装置の他の構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、光電子増倍管30の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、光電子増倍管30から出力された電気信号に基づいて干渉強度測定部40により測定された干渉光の強度と時間差Δtとの間の関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、非特許文献3に示されている干渉光の強度と時間差Δtとの間の関係を示すグラフである。
【
図6】
図6(a)は、光電子増倍管30の入出力特性を示すグラフである。
図6(b)は、光電子増倍管30から出力される電圧信号Vの時間依存性を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)は、Vp-pの光路長差Δd依存性を示すグラフである。
図7(b)は、Vp-pの時間差Δt依存性を示すグラフである。
【
図8】
図8(a)は、干渉光の電界振幅Eの時間差Δt依存性を示すグラフである。
図8(b)は、干渉光の電界振幅Eの振幅スペクトルおよび位相スペクトルを示す図である。
【
図9】
図9は、フィッティング処理により求めた光電子増倍管30の出力値Vと入射テラヘルツ波の電界振幅Eとの関係(FN式)を示すグラフである。
【
図10】
図10は、FN式を用いた計算による入射テラヘルツ波の電界振幅Eと光電子増倍管30の出力値Vとの間の対応例を記載した表である。
【
図11】
図11(a)は、干渉光の電界振幅Eの時間差Δt依存性を示すグラフである。
図11(b)は、干渉光の電界振幅Eの位相スペクトルを示すグラフである。
【
図12】
図12(a)は、干渉光の電界振幅Eの振幅スペクトルを示すグラフである。
図12(b)は、吸収係数α(ω)のスペクトルを示すグラフである。
図12(c)は、屈折率n(ω)のスペクトルを示すグラフである。
【
図13】
図13は、光電子増倍管30の出力値Vと入射テラヘルツ波の電界振幅Eとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0026】
本実施形態の干渉計測装置は、以下に説明する干渉測定装置1A(
図1)または干渉測定装置1B(
図2)の構成とすることができる。
【0027】
図1は、干渉測定装置の構成例を示す図である。この図に示される干渉測定装置1Aは、光源10、干渉光学系20A、光電子増倍管30、干渉強度測定部40、電界振幅算出部50および分析部60を備える。
【0028】
光源10は、光電子増倍管30が感度を有する帯域(テラヘルツ波を含む光の帯域)の光を出力する。光源10が出力する光は、パルス光であってもよいし、連続光であってもよい。パルス光のテラヘルツ波を出力することができる光源として、フェムト秒レーザ光源(例えばTiサファイア・レーザ光源)と非線形光学結晶(例えばZnTe)とを組み合わせた構成、および、光注入型テラヘルツ波パラメトリック発振器(Injection Seeded THz Parametric Generator、is-TPG)等が挙げられる。連続光のテラヘルツ波を出力することができる光源として、共鳴トンネルダイオード(Resonant Tunneling Diode、RTD)、IMPATTダイオード(Impact Avalanche and Transit Time Diode)、量子カスケードレーザ光源およびTHzガスレーザ光源などが挙げられる。
【0029】
干渉光学系20Aは、ビームスプリッタ21、ミラー23およびミラー24を含み、マイケルソン干渉計の構成を有する。ビームスプリッタ21は、光源10から出力された光を2分岐して第1分岐光および第2分岐光とし、一方の第1分岐光をミラー23へ出力し、他方の第2分岐光をミラー24へ出力する。また、ビームスプリッタ21は、ミラー23で反射された第1分岐光を入力するとともに、ミラー24で反射された第2分岐光を入力して、これら入力した第1分岐光と第2分岐光とを合波して光電子増倍管30へ出力する。ビームスプリッタ21は例えばシリコンやITOミラーにより構成され得る。分析対象物Sは、ビームスプリッタ21とミラー23との間の第1分岐光の光路上に配置される。分析対象物Sは、第2分岐光の光路上に配置されてもよい。ミラー23およびミラー24の双方または何れか一方は反射面に垂直な方向に移動が可能であり、これにより、第1分岐光と第2分岐光との間の光路長差が可変である。
【0030】
光電子増倍管30は、テラヘルツ波を含む光の帯域に感度を有し、入射光強度に応じた値の電気信号を出力する。光電子増倍管30の詳細については、後に
図3を用いて説明する。
【0031】
干渉強度測定部40は、光電子増倍管30から出力された電気信号に基づいて、光電子増倍管30に入射した第1分岐光および第2分岐光による干渉光の強度を測定する(干渉強度測定ステップ)。
【0032】
電界振幅算出部50は、光電子増倍管30へ入射する光の電界振幅の値と光電子増倍管30から出力される電気信号の値との間の関係に基づいて、干渉強度測定部40により測定された干渉光の強度Vの値を電界振幅Eの値に換算して、光路長差Δdに対応する時間差Δtの各値について干渉光の電界振幅Eの値を求める(電界振幅算出ステップ)。光路長差Δdは、ビームスプリッタから二つのミラーそれぞれまでの距離の差の2倍に相当する。光路長差Δdと時間差Δtとの間にはΔt=Δd/cなる関係がある。cは真空中の光速である。
【0033】
分析部60は、電界振幅算出部50により求められた干渉光の電界振幅Eの値の時間差Δtの値に対する依存性に基づいてフーリエ変換を行うことにより分析対象物Sの分析を行う(分析ステップ)。
【0034】
干渉強度測定部40、電界振幅算出部50および分析部60それぞれによる処理の詳細についても後述する。
【0035】
本実施形態の干渉計測方法は、上記の光源10、干渉光学系20Aおよび光電子増倍管30を用いて分析対象物Sを分析する方法であって、干渉強度測定ステップ、電界振幅算出ステップおよび分析ステップを備える。
【0036】
図2は、干渉測定装置の他の構成例を示す図である。この図に示される干渉測定装置1Bは、光源10、干渉光学系20B、光電子増倍管30、干渉強度測定部40、電界振幅算出部50および分析部60を備える。干渉測定装置1A(
図1)の構成と比較すると、干渉測定装置1B(
図2)は、干渉光学系20Aに替えて干渉光学系20Bを備える点で相違する。
【0037】
干渉光学系20Bは、ビームスプリッタ21,22、ミラー23~26を含み、マッハツェンダ干渉計の構成を有する。ビームスプリッタ21は、光源10から出力された光を2分岐して第1分岐光および第2分岐光とし、一方の第1分岐光をミラー23へ出力し、他方の第2分岐光をミラー24へ出力する。ミラー24へ出力された第2分岐光は、ミラー24、ミラー25およびミラー26それぞれ反射される。ビームスプリッタ22は、ミラー23で反射された第1分岐光を入力するとともに、ミラー26で反射された第2分岐光を入力して、これら入力した第1分岐光と第2分岐光とを合波して光電子増倍管30へ出力する。分析対象物Sは、ビームスプリッタ21からミラー23を経てビームスプリッタ22へ到る第1分岐光の光路上に配置される。分析対象物Sは、第2分岐光の光路上に配置されてもよい。ミラー24およびミラー25は移動が可能であり、これにより、第1分岐光と第2分岐光との間の光路長差が可変である。
【0038】
マッハツェンダ干渉計と比べて、マイケルソン干渉計は、光学部品(ビームスプリッタ、ミラー)の個数が少なく、光路長差を可変とする機構が簡易であるので、好ましい。したがって、干渉測定装置1B(
図2)の構成より、干渉測定装置1A(
図1)の構成の方が好ましい。
【0039】
図3は、光電子増倍管30の構成を示すブロック図である。光電子増倍管30は、電子放出部31、電子増倍部32および信号出力部33を、内部が真空に維持されるハウジング34の内部に配置したものである。ハウジング34に窓部35が設けられている。
【0040】
電子放出部31は、窓部35を透過した光νが入射すると、その光入射によって電子eを放出する。電子放出部31は、検出対象のテラヘルツ波を含む光の帯域に感度を有するように設計された光電変換部であって、例えばメタマテリアル構造(メタサーフェス)が基板の主面上に形成されており、そのメタサーフェスへの光入射によって電子eを放出することができる。
【0041】
電子増倍部32は、電子放出部31から放出された電子eを増倍する。電子増倍部32は、複数段のダイノードまたはマイクロチャネルプレートを含む。電子増倍部32における電子増倍率は、複数段のダイノードまたはマイクロチャネルプレートに印加される電圧に応じたものとなる。信号出力部33は、電子増倍部32により増倍された電子eを収集して電流信号Jとして出力する。干渉強度測定部40は、信号出力部33から出力された電流信号Jを入力してもよいし、電流信号JがIV変換回路により電圧信号に変換された後の該電圧信号を入力してもよい。
【0042】
図4は、光電子増倍管30から出力された電気信号に基づいて干渉強度測定部40により測定された干渉光の強度と時間差Δtとの間の関係を示すグラフである。この図に示されるように、時間差Δt=0の位置に干渉光の強度のピークがあり、時間差Δt=-16~-11psの範囲および時間差Δt=+11~+16psの範囲それぞれにも干渉光の強度のピークがある。一方で、これらピーク範囲以外の時間差Δtの範囲では、干渉光の強度は非常に小さい。
【0043】
時間差Δt=0の位置にある干渉光強度のピークは、第1分岐光および第2分岐光の何れも多重反射することなく干渉したことに因るものであり、半値全幅は0.4ps程度である。光電子増倍管30を用いて干渉光強度を求めることができることが確認できた。
【0044】
時間差Δt=-16~-11psの範囲および時間差Δt=+11~+16psの範囲それぞれにある干渉光強度のピークは、光電子増倍管30の窓部35または電子放出部31の基板におけるテラヘルツ波のエタロン効果に因るものであると考えられる。これらのエタロン効果による干渉光強度のピークは、時間差Δt=0の位置にある干渉光強度のピークに対し、十分に離れており、ノイズとなることはない。
【0045】
例えば、光電子増倍管30の窓部35が合成石英(屈折率1.5)からなり厚さが1mmであると、エタロン効果により13.3psの時間間隔で反射パルスが生じる。光電子増倍管30の電子放出部31の基板がシリコン(屈折率3.3)からなり厚さが0.525mmであると、エタロン効果により12.0psの時間間隔で反射パルスが生じる。これらのエタロン効果により生じる反射パルスの時間間隔(13.3ps、12.0ps)は、時間差Δt=0の位置にある干渉光強度のピークの半値全幅(0.4ps程度)より十分に大きい。したがって、光電子増倍管30の窓部35または電子放出部31の基板におけるテラヘルツ波のエタロン効果の影響はない。
【0046】
図5は、非特許文献3に示されている干渉光の強度と時間差Δtとの間の関係を示すグラフである。非特許文献3では熱型検出器が用いられている。
図4と
図5とを対比すると、干渉光の強度の時間差Δt依存性が、光電子増倍管30と熱型検出器とでは大きく相違している。光電子増倍管30を用いた場合に得られる干渉光の強度の時間差Δt依存性は、光電子増倍管30に入射するテラヘルツ波の波形との相関が低い。したがって、光電子増倍管30からの出力信号について従来のFTIRと同様の処理を行うだけでは分析対象物の正確な分析を行うことができない。これは、光電子増倍管30へ入射するテラヘルツ波の電界振幅の値と光電子増倍管30から出力される電気信号の値との間の関係が、光電子増倍管30と熱型検出器とでは相違することが原因であると考えられる。本発明は、このような本発明者らの知見に基づいてなされたものである。
【0047】
図6~
図8は、干渉強度測定部40、電界振幅算出部50および分析部60それぞれによる処理内容を説明する図である。干渉強度測定部40は、
図6(b)および
図7(a)で説明する処理を行う。電界振幅算出部50は、
図7(b)および
図8(a)で説明する処理を行う。分析部60は、
図8(b)で説明する処理を行う。なお、
図6(a)の横軸スケールおよび縦軸スケールならびに
図7(b)の縦軸スケールは対数であり、他の横軸・縦軸のスケールは線形である。
【0048】
図6(a)は、光電子増倍管30の入出力特性を示すグラフである。横軸は、光電子増倍管30へ入射する光の電界振幅Eである。縦軸は、光電子増倍管30から出力される電気信号(電圧信号V)である。この図に示されるように、光電子増倍管30の入出力特性は線形ではない。このような光電子増倍管30の入出力特性を予め求めておく。
【0049】
図6(b)は、光電子増倍管30から出力される電圧信号Vの時間依存性を示すグラフである。光路長差Δdを或る値に設定して、光電子増倍管30から出力される電圧信号Vの時間変化を求める。このグラフから、電圧信号Vの振幅の大きさVp-pを読み取る。
【0050】
図7(a)は、Vp-pの光路長差Δd依存性を示すグラフである。このグラフは、光路長差Δdの各値についてVp-pを求めることにより得られる。
【0051】
図7(b)は、Vp-pの時間差Δt依存性を示すグラフである。光路長差Δdと時間差Δtとの間にはΔt=Δd/cなる関係があるので、光路長差Δdから時間差Δtを求めることができる。
【0052】
図8(a)は、干渉光の電界振幅Eの時間差Δt依存性を示すグラフである。光電子増倍管30の入出力特性(
図6(a))を用いることにより、
図7(b)から
図8(a)へ変換することができる。
【0053】
図8(b)は、干渉光の電界振幅Eの振幅スペクトルおよび位相スペクトルを示す図である。これは、干渉光の電界振幅Eの時間差Δt依存性をフーリエ変換することにより得られる。
【0054】
このように、本実施形態では、光電子増倍管30の入出力特性(光電子増倍管30へ入射する光の電界振幅Eと、光電子増倍管30から出力される電気信号(電圧信号V)との間の関係)を予め求めておき、これを用いて、光電子増倍管30から出力される電圧信号Vの振幅の大きさVp-pを干渉光の電界振幅Eに換算する。光電子増倍管30を用いるとともに、このような換算をすることにより、テラヘルツ波を用いた干渉計測によるフーリエ分光を高速かつ正確に行うことができる。
【0055】
上述したとおり、光電子増倍管30の入出力特性(
図6(a))は線形ではない。光電子増倍管30からの出力値は、光電子増倍管30へ入射する光の電界振幅Eを変数とする多項式で記述されてもよいが、メタサーフェスにおける電子放出の効率を表す下記(1)式を用いて記述されてもよい(非特許文献4)。この式は、メタサーフェスから放出される電流J
FNと入射テラヘルツ波の電界振幅Eとの間の関係を表すものであって、Fowler-Nordheimrelations(以下「FN式」という。)と呼ばれている。
【0056】
【0057】
このFN式において、aFNおよびbFNそれぞれは、FN定数と呼ばれ、或る一定値である。βは、電界増強係数(field enhancement factor)であり、非特許文献4では約400である。Φは、電子放出部31のメタサーフェスの材料の仕事関数であり、金であれは3.5eVである。tF,およびνFそれぞれは、定数である。入射テラヘルツ波の電界振幅が大きくない場合には、tF,およびνFそれぞれの値を1としてよい。その場合にはFN式は下記(2)式で表される。
【0058】
【0059】
FN式は、光電子増倍管30の電子放出部31から放出される電流JFNと入射テラヘルツ波の電界振幅Eとの間の関係を表すものであるが、光電子増倍管30の出力値と入射テラヘルツ波の電界振幅Eとの間の関係も同様に表すことができる。
【0060】
FN式におけるa
FNおよびb
FNそれぞれの値を求める必要がある。そのためには、入射テラヘルツ波の電界振幅Eを各値に設定して光電子増倍管30の出力値Vを測定し、これらの測定値を用いたフィッティング処理をすることにより、a
FNおよびb
FNそれぞれの値を求めることができる。
図9は、フィッティング処理により求めた光電子増倍管30の出力値Vと入射テラヘルツ波の電界振幅Eとの関係(FN式)を示すグラフである。この図には、五つの測定値が丸印で示されている。
【0061】
FN式を用いて光電子増倍管30の出力値Vから入射テラヘルツ波の電界振幅Eを求めるには、次のようにすればよい。FN式を用いた計算により、入射テラヘルツ波の電界振幅Eの各値に対して光電子増倍管30の出力値Vを求めておく。
図10は、FN式を用いた計算による入射テラヘルツ波の電界振幅Eと光電子増倍管30の出力値Vとの間の対応例を記載した表である。電界振幅算出部50は、実際の光電子増倍管30の出力値Vから、最もフィッティングの値に近い入射テラヘルツ波の電界振幅Eを求める。或いは、補間計算により入射テラヘルツ波の電界振幅Eを求めてもよい。
【0062】
分析部60は、電界振幅算出部50により求められた干渉光の電界振幅Eの値の時間差Δtの値に対する依存性に基づいてフーリエ変換を行うことにより分析対象物Sの分析を行う。具体的には次のとおりである。
【0063】
マイケルソン干渉計の構成を有する干渉光学系20Aを備える干渉測定装置1A(
図1)では、テラヘルツ波は分析対象物Sを2回透過する。分析対象物Sの位相屈折率をn(ω)とし、分析対象物Sの消衰係数をk(ω)として、分析対象物Sの複素屈折率をn'(ω)=n(ω)+ik(ω)とする。ωはテラヘルツ波の角周波数である。テラヘルツ波の周波数をfとすると、ω=2πfである。πは円周率である。iは虚数単位である。
【0064】
分析対象物Sが配置された状態で得られた干渉光の電界振幅をEsample(ω)とし、分析対象物Sが配置されていない状態で得られた干渉光の電界振幅をEref(ω)として、両者の比T(ω)を下記(3)式で表す。tasは、空気から分析対象物Sへの界面振幅透過率であり、下記(4)式で表される。tsaは、分析対象物Sから空気への界面振幅透過率であり、下記(5)式で表される。dは分析対象物Sの厚みである。cは真空中の光速である。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
上記(3)式を実部と虚部とに分解することにより、下記(6)式~(8)式が得られる。φ(ω)は位相スペクトルである。α(ω)は吸収係数である。干渉測定装置1A(
図1)では、分析部60は、これらから分析対象物Sを分析することができる。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
マイケルソン干渉計の構成を有する干渉光学系20Bを備える干渉測定装置1B(
図2)では、テラヘルツ波は分析対象物Sを1回透過する。したがって、上記(3)式,(6)式および(7)式に替えて、次のような(8)式~(11)式となる。干渉測定装置1B(
図2)では、分析部60は、これらから分析対象物Sを分析することができる。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
図11および
図12は、測定ないし分析の結果の一例を示すグラフである。
図11(a)のグラフは、電界振幅算出部50により得られたものである。
図11(b)および
図12(a)~(c)の各グラフは、分析部60により得られたものである。
【0077】
図11(a)は、干渉光の電界振幅Eの時間差Δt依存性を示すグラフである。
図11(b)は、干渉光の電界振幅Eの位相スペクトルを示すグラフである。
図12(a)は、干渉光の電界振幅Eの振幅スペクトルを示すグラフである。これらの図は、分析対象物Sが配置されている場合および配置されていない場合それぞれを示す。分析対象物Sとしてラクトース(lactose)を用いた。
【0078】
図12(b)は、吸収係数α(ω)のスペクトルを示すグラフである。
図12(c)は、屈折率n(ω)のスペクトルを示すグラフである。これらの図は、本実施形態による分析結果および従来技術1のTHz-TDSによる分析結果を示す。
【0079】
本実施形態による分析結果と従来技術1のTHz-TDSによる分析結果とを対比して分かるとおり、吸収係数α(ω)のスペクトルに現れる吸収ピークの位置は、両者の間で一致している。このことから、本実施形態により分析対象物Sを分析することができていると言える。
【0080】
干渉強度測定ステップにおいて、干渉強度測定部40は、光電子増倍管30から出力された電気信号に基づいて干渉光の強度を測定する際の測定レンジを調整して、干渉光の強度の測定値の飽和を抑制するとともに、干渉光の強度の測定値がノイズレベル以下となることを抑制するのが好適である。すなわち、光路長差Δdを変化させたとき、光電子増倍管30から出力される電圧信号Vの振幅の大きさVp-pは3桁程度変化する。このとき、干渉光の強度を測定する際の測定レンジを固定しておくと、干渉光の強度の測定値が飽和し、或いは、干渉光の強度の測定値がノイズレベル以下となる場合がある。干渉強度測定部40は、干渉光の強度を測定する際の測定レンジを調整することにより、干渉光の強度の測定値の飽和を抑制することが可能となり、干渉光の強度の測定値がノイズレベル以下となることを抑制するが可能となる。
【0081】
干渉強度測定ステップにおいて、干渉強度測定部40は、光電子増倍管30から出力された電気信号の時間波形をフーリエ変換して得られた特定周波数成分の大きさを干渉光の強度として測定するのが好適である。すなわち、干渉強度測定部40は、オシロスコープが有するFFT機能を用いるのが好適である。FFT機能を用いれば電気信号の値を対数変換することができるので、測定レンジを調整しなくても、干渉光の強度の測定値の飽和を抑制するとともに、干渉光の強度の測定値がノイズレベル以下となることを抑制することができる。フーリエ変換して得られた特定周波数成分の大きさを干渉光の強度として測定すればよい。一般に、周波数が低いほどSN比が高い。高周波成分は光電子増倍管のタイプに依存するので、この点でも、低周波数成分を解析するのが好ましい。ただし、周波数0Hz(すなわちDC成分)では信号による有意な差異はない。また、光源10から出力されるパルス光の繰り返し周波数と一致する成分は避けるのが好ましい。したがって、干渉強度測定部40は、DC成分およびパルス光の繰り返し周波数を除いて、できるだけ低い周波数の成分を干渉光の強度として測定するのが好適である。
【0082】
干渉強度測定ステップにおいて、干渉強度測定部40は、光電子増倍管30への印加電圧を調整して、電気信号に基づいて干渉光の強度を測定する際のダイナミックレンジまたは感度を設定するのが好適である。すなわち、
図9に示されるとおり、入射テラヘルツ波の電界振幅Eの増加に対して、光電子増倍管30の出力値Vは非線形に増加する。入射テラヘルツ波の電界振幅Eが大きくなるに従って、光電子増倍管30の出力値Vの増加は鈍くなっていく傾向にある。また、光電子増倍管30の電子増倍部32に印加する電圧値を変化させることにより、この光電子増倍管30の出力値Vと入射テラヘルツ波の電界振幅Eとの関係を示す感度曲線を、左右方向にシフトさせることができる。
【0083】
図13は、光電子増倍管30の出力値Vと入射テラヘルツ波の電界振幅Eとの関係を示すグラフである。この図は、光電子増倍管30の電子増倍部32に印加する電圧値を異ならせた三つの感度曲線A~Cを示している。光源10の仕様が一定であるとし、入射テラヘルツ波の電界振幅Eの変化範囲ΔEも一定であるとする。
【0084】
感度曲線Aに対し印加電圧を大きくすると、感度曲線が左方向にシフトして感度曲線Bとなる。感度曲線Aにおける光電子増倍管30の出力値Vの変化範囲ΔVAと比べて、感度曲線Bでは、光電子増倍管30の出力値Vの変化範囲ΔVBが小さくなるので、測定のダイナミックレンジを大きくすることができ、例えば、光電子増倍管30を用いた分光測定に有利となる。
【0085】
逆に、感度曲線Aに対し印加電圧を小さくすると、感度曲線が右方向にシフトして感度曲線Cとなる。感度曲線Aにおける光電子増倍管30の出力値Vの変化範囲ΔVAと比べて、感度曲線Cでは、光電子増倍管30の出力値Vの変化範囲ΔVCが大きくなるので、測定感度を大きくすることができ、例えば、光電子増倍管30を用いたセンシングに有利となる。
【0086】
このように、干渉強度測定部40は、光電子増倍管30への印加電圧を調整することにより、電気信号に基づいて干渉光の強度を測定する際のダイナミックレンジまたは感度を設定することができる。
【0087】
光電子増倍管30は、入射光強度を測定するものであってもよいし、入射光強度分布のイメージングが可能なものであてもよい。電子増倍部32がマイクロチャネルプレートを含む場合(例えばイメージインテンシファイア)、入射光強度分布のイメージングが可能である。このような光電子増倍管30を用いることにより、分析対象物Sの分析イメージングが可能となる。
【符号の説明】
【0088】
1A,1B…干渉測定装置、10…光源、20A,20B…干渉光学系、21,22…ビームスプリッタ、23~26…ミラー、30…光電子増倍管、31…電子放出部、32…電子増倍部、33…信号出力部、34…ハウジング、35…窓部、40…干渉強度測定部、50…電界振幅算出部、60…分析部、S…分析対象物。