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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136647
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ナノバブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/76 20060101AFI20240927BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240927BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 49/22 20060101ALI20240927BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20240927BHJP
   C12N 9/24 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C07K14/76
A61K47/42
A61K9/00
A61K49/22
C07K16/00
C12N9/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047819
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】522348941
【氏名又は名称】貴田 浩志
(71)【出願人】
【識別番号】523107802
【氏名又は名称】立花 克郎
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】貴田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】立花 克郎
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA99
4C076EE41
4C076FF70
4C085HH09
4C085JJ20
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045AA40
4H045CA40
4H045DA70
4H045DA75
4H045DA89
4H045EA20
4H045EA34
4H045FA71
(57)【要約】
【課題】安全性の高いバブル製剤を簡便に調製するための方法の構築。
【解決手段】ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物を凍結乾燥する工程を含む、ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するナノバブルの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物を凍結乾燥する工程を含む、ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有する乾燥状態のナノバブルの製造方法。
【請求項2】
ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物を、浮力を利用した分離工程に供さないことを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
凍結乾燥が、真空凍結乾燥である、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
ペプチドまたはタンパク質が、アルブミン、免疫グロブリンG、およびリゾチームからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項5】
ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物を凍結乾燥する工程を含む、ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物からマイクロバブルを除去する方法。
【請求項6】
ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物を、浮力を利用した分離工程に供さないことを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
凍結乾燥が、真空凍結乾燥である、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
ペプチドまたはタンパク質が、アルブミン、免疫グロブリンG、およびリゾチームからなる群から選択される、請求項5~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するナノバブルを凍結乾燥する工程を含む、ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するナノバブルの微細化方法。
【請求項10】
凍結乾燥が、真空凍結乾燥である、請求項9記載の微細化方法。
【請求項11】
ペプチドまたはタンパク質が、アルブミン、免疫グロブリンG、およびリゾチームからなる群から選択される、請求項9または10記載の微細化方法。
【請求項12】
ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有する乾燥状態のナノバブル、またはそれを含む組成物。
【請求項13】
請求項12記載の組成物であって、ここで、当該組成物に含まれるマイクロバブルの残存率が1%以下であり、且つ、当該ナノバブルの平均粒子径が1~1000nm未満である、組成物。
【請求項14】
ペプチドまたはタンパク質が、アルブミン、免疫グロブリンG、およびリゾチームからなる群から選択される、請求項12または13記載のナノバブルまたは組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノバブルの製造方法等に関し、より詳細には、ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するナノバブルの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ISOの定義において、直径100μm未満の気泡は、ファインバブル(Fine Bubble:FB)と定義される。また、ファインバブルのうち、直径1μm~100μmのものは「マイクロバブル」、直径1μm未満の気泡は、ウルトラファインバブル(Ultra Fine Bubble:UFB、「ナノバブル」とも称される)と定義されている。マイクロバブルおよびナノバブルは様々な分野への応用が検討されており、その主要な一分野として、医学研究分野や医療分野が挙げられる。医学研究分野や医療分野において、マイクロバブルやナノバブルは、検査、診断、または治療のためのツールとして用いられている。
【0003】
マイクロバブルの医療応用の一つとして、超音波画像診断における超音波造影剤としての応用が挙げられる。マイクロバブルは柔軟な表面を有し超音波に共鳴することから、強いエコー原性を有している。この特性を利用して、マイクロバブルは超音波画像診断に適用されている。
【0004】
また、マイクロバブルの医療分野における別の応用例として、薬物送達システム(Drug Delivery System:DDS)が挙げられる。液中に存在するマイクロバブルに対して超音波を照射すると、マイクロバブルは周波数に同期して膨張と収縮を繰り返しながら周囲の気体分子を取り込み成長し、最終的に破裂する。この一連の流れは「音響キャビテーション」と称される。音響キャビテーションの結果として破裂したマイクロバブルはマイクロ液体ジェット流を発生させるが、このマイクロ液体ジェット流は多様な用途に用いることができる。例えば、本発明者らはマイクロ液体ジェット流を利用することで薬物の薬効を増強できることを報告している(非特許文献1)。
【0005】
また、細胞の近傍でマイクロバブルの破裂に伴うマイクロ液体ジェット流を発生させると、当該マイクロ液体ジェット流によって細胞膜上に一時的に穿孔を生じせしめることができ、かかる穿孔を利用して細胞内へ薬剤を送達させる技術(「ソノポレーション(sonoporation)」)が開発されている。
【0006】
ソノポレーションの強みは、低分子化合物、遺伝子(例、DNA、mRNA、siRNAなど)、抗体、ペプチドなどの様々な治療モダリティを細胞内へ送達可能な点である。特にソノポレーションによるDDSが有利な状況としては、巨大分子の細胞内送達が簡便に行える点が挙げられる。例えば、プラスミドDNAなどの巨大分子を細胞内へ送達する手段としては、ソノポレーション以外では、ウイルスベクター、リポソームあるいは高分子ミセルなどの化学的キャリアの使用が一般的である。しかしながら、これらの手段は送達しようとする巨大分子に加えて、それを搭載する化学的キャリアをも調製する必要があり、プロセスの煩雑化や高コスト化につながる。一方で、ソノポレーションはキャリアフリーの様式で巨大分子を細胞内へ送達することができるため簡便且つ低コストでのDDSを可能とする。
【0007】
マイクロバブルと超音波を用いた薬物送達のもう一つの強みは、送達部位を厳密に制御可能な点である。MRIガイド下集束超音波(magnetic resonance-guided FUS:MRgFUS)を用いることにより、超音波の照射部位をmm単位で制御することができる。その応用例の一つがBBBオープニング(Blood brain barrier opening:BBBO)である。脳動脈は、血管内皮細胞同士が密に結合した血液脳関門(Blood brain barrier:BBB)と呼ばれる構造を有しており、物質の脳内への送達を制限している。BBBOでは、薬物とともにマイクロバブルを血管内に投与し、MRgFUSで超音波を脳深部に向けて照射する。標的部位でマイクロバブルを収縮、膨張、破裂させ、一時的にBBBを開裂させることにより、薬物を脳内へ送達させることができる。
【0008】
ところで近年マイクロバブルよりもさらに微細なナノバブルの応用が鋭意検討されている。ナノバブルは非常に微細で観察が困難であることなどを理由にその物理的性質は未だ十分に解明されていないが、マイクロバブルと同様に超音波造影剤やソノポレーションを含むDDSへ応用できることが報告されている。尚、本発明者らは、ナノバブルを用いたソノポレーションによりキャリアフリーの様式でmRNAを細胞内へ送達できることを報告している(非特許文献2)。
【0009】
マイクロバブルやナノバブルはこれまでに様々な改良がなされてきた。例えば、気泡内に内包されるガスとして初期段階では空気が用いられていたが、その後、パーフルオロプロパン(C3F8)、パーフルオロブタン(C4F10)、六フッ化硫黄(SF6)などの高分子量を有する溶解度の低いガスが用いられるようになり、その結果、気泡の安定性が大幅に向上し、造影効果の持続時間の延長に寄与した。また、気泡殻として初期段階ではヒト血清アルブミンが用いられていたが、その後、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)、パルミチン酸、またはリン脂質などが殻成分として用いられるようになり、マイクロバブルの特性の多様化に貢献した。さらには、気泡殻表面にPEG等の化学修飾を施すことでマイクロバブルの滞留性能を向上させたり、気泡殻表面に抗体等の特定の標的に対して親和性を有する分子を結合させることで、マイクロバブルに標的指向性を付与したりすることも可能となっている。
【0010】
上述のとおり、これまでにマイクロバブルやナノバブルに対して様々な観点から鋭意検討がなされ、多数の学術的知見が蓄積されてきた。しかしながら一方で、安全性やコスト等の問題から、現時点において臨床で実際に使用可能なバブル製剤は数種類しかなく、また、その用途も極めて制限されている。
【0011】
バブル製剤の上市が困難な理由の一つとして、バブルサイズの均一化が困難である点が挙げられる。例えば、ナノバブル溶液を調製する際に、少数でもマイクロバブルが混入してしまうと、バブル溶液全体の物性に大きな影響を与えてしまう可能性がある。計算上、バブルの内包ガス体積はその中空半径の3乗に比例する。仮に中空半径100nmのナノバブルと中空半径でその10倍の1μmのマイクロバブルの体積を比較した場合、後者の内包ガス体積は前者の1000倍に相当する。したがって、ナノバブル溶液の中に少数でもマイクロバブルが混入する場合、その物理的・生理的な作用への影響は極めて大きくなる。ナノバブル溶液の作用を均一化するためには、溶液中に混入するマイクロバブルを可能な限り、除去することが重要となる。従って、安全性が高いバブル製剤を低コストで調製できる新規のバブル製造手段の確立には極めて強いニーズが存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】K. Tachibana et al., Circulation. 1995 Sep 1;92(5):1148-50.
【非特許文献2】H. Kida et al., Front Pharmacol. 2022 Jun 1;13:855495.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
かかる背景から、本発明は、安全性の高いバブル製剤(特に、ナノバブル製剤)を簡便に調製するための方法の構築をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、安全性の高いアルブミンからなる殻を有するマイクロバブルおよびナノバブルを含む水溶液を凍結乾燥することにより、
(1)マイクロバブルを選択的に崩壊させ、ナノバブルのみを維持させることができること、
(2)凍結乾燥したナノバブルは4~25℃程度の温度帯で長期保存が可能であること、
(3)長期保存後のナノバブルは、蒸留水などに再溶解して再生させることにより、凍結乾燥前のナノバブルと同様に、超音波造影剤やソノポレーションに使用することが可能であること等を見出した。
【0015】
バブル製剤の製造において、凍結乾燥は高い柔軟性を有するリン脂質からなる気泡殻を有するバブルに対して一般的に用いられる手法であり、アルブミン殻等の比較的柔軟性の低い気泡殻を有するバブルに対してはバブルを崩壊させてしまうと考えられていた。そのような技術常識の存在を理由として、凍結乾燥はアルブミン殻を有するバブルにおいてはほとんど適用されてこなかった。従って、凍結乾燥処理が、アルブミン殻マイクロバブルを選択的に崩壊させ、一方でアルブミン殻ナノバブルを維持させることができる事実や、凍結乾燥したアルブミン殻ナノバブルが冷蔵から室温の温度帯で長期保存可能であるとの本発明者らの発見は極めて驚くべきものであった。本発明者らは、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0016】
[1]
ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物を凍結乾燥する工程を含む、ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有する乾燥状態のナノバブルの製造方法。
[2]
ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物を、浮力を利用した分離工程に供さないことを特徴とする、[1]記載の製造方法。
[3]
凍結乾燥が、真空凍結乾燥である、[1]または[2]記載の製造方法。
[4]
ペプチドまたはタンパク質が、アルブミン、免疫グロブリンG、およびリゾチームからなる群から選択される、[1]~[3]のいずれか記載の製造方法。
[5]
ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物を凍結乾燥する工程を含む、ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物からマイクロバブルを除去する方法。
[6]
ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物を、浮力を利用した分離工程に供さないことを特徴とする、[5]記載の方法。
[7]
凍結乾燥が、真空凍結乾燥である、[5]または[6]記載の方法。
[8]
ペプチドまたはタンパク質が、アルブミン、免疫グロブリンG、およびリゾチームからなる群から選択される、[5]~[7]のいずれか記載の方法。
[9]
ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するナノバブルを凍結乾燥する工程を含む、ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するナノバブルの微細化方法。
[10]
凍結乾燥が、真空凍結乾燥である、[9]記載の微細化方法。
[11]
ペプチドまたはタンパク質が、アルブミン、免疫グロブリンG、およびリゾチームからなる群から選択される、[9]または[10]記載の微細化方法。
[12]
ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有する乾燥状態のナノバブル、またはそれを含む組成物。
[13]
[12]記載の組成物であって、ここで、当該組成物に含まれるマイクロバブルの残存率が1%以下であり、且つ、当該ナノバブルの平均粒子径が1~1000nm未満である、組成物。
[14]
ペプチドまたはタンパク質が、アルブミン、免疫グロブリンG、およびリゾチームからなる群から選択される、[12]または[13]記載のナノバブルまたは組成物。
【発明の効果】
【0017】
アルブミン殻を有するナノバブルの凍結乾燥製剤はこれまでに存在していなかったが、本発明によりこれを調製することができる。また、アルブミン殻を有するマイクロバブルとナノバブルの混合物からナノバブルの混合物を分離するにはこれまで両者の浮力の差を用いることが一般的であったが、浮力の差による分離では、マイクロバブルとナノバブルの混合物からナノバブルのみを高純度に分離することは非常に困難であり、結果として、夾雑物としてマイクロバブルを実質的に伴わない高純度のアルブミン殻ナノバブル組成物を調製することは容易ではなかった。しかし、本発明によれば、静置や遠心分離などのマイクロバブルの浮力を利用した分離を行うことなく、凍結乾燥のみによって、高純度のアルブミン殻を有するナノバブルを極めて容易に調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、96ウェルプレートにおけるナノバブルに対するソニケーション処理方法またはソノポレーション方法の略図である。(A)ナノバブルに対するソニケーション処理方法。ナノバブルに対する超音波照射。(B-F)ソノポレーション方法。(B)HSC-2細胞を播種した96マルチウェルプレートのウェルからインキュベーション培地を除去。(C)ナノバブルを含有する溶液をウェルに充填。(D)超音波照射による遺伝子トランスフェクション。(E-1)ソニケーションされた培地の吸引。(E-2)新しいインキュベーション培地を添加。(F)24時間のインキュベーション後、レポーターアッセイ用の上清を回収。(G)96ウェルプレート上の、細胞が播種されたウェルの配置(色付きで示される)および超音波照射エリア(破線の円の内側)。
図2図2は、フローファントムおよび測定セットアップを示す図である。NBs(+):ナノバブルを伴う溶液、NBs(-):ナノバブルを伴わない溶液。
図3図3は、(A)バブリングを伴う、および(B)バブリングを伴わないアルブミン溶液の凍結乾燥物の外観を示す図である。
図4図4は、バブリングを伴う、またはバブリングを伴わないアルブミン溶液の凍結乾燥物のSEMイメージを示す図である。バブリングを伴う凍結乾燥物の低倍率(A:×1,000)、高倍率(B:×10,000)および超高倍率(C:×30,000)。バブリングを伴わない凍結乾燥物の低倍率(D:×1,000)、高倍率(E:×10,000)および超高倍率(F:×30,000)。
図5図5は、凍結乾燥前後での溶液中のバブルの特性における変化を示す図である。(A)FCM測定における、バブル濃度およびバブル分布の比較。(B)NTA計測における、バブル濃度および粒子サイズの比較。(C)RMM測定における、バブル濃度およびバブル浮遊質量の比較。LPh(-):凍結乾燥前の溶液、LPh(+):凍結乾燥後の溶液。
図6図6は、ソニケーションによる凍結乾燥後の溶液中のバブルの特性の変化を示す図である。(A)FCM測定における、バブル濃度およびサイズ分布の比較。(B)NTA計測における、バブル濃度および粒子サイズの比較。(C)RMM測定における、バブル濃度およびバブル浮遊質量の比較。
図7図7は、凍結乾燥物から再生されたナノバブルを伴う、または伴わない溶液によるフローファントム管におけるエコー輝度変化の検出を示す図である。(A)Bモードのみ。(B)Coded Harmonic Angioを伴うBモード。(C)Amplitude Modulationを伴うBモード。NBs(-):ナノバブル伴わない溶液、NBs(+)ナノバブルを伴う溶液。
図8図8は、凍結乾燥物から再生されたナノバブルを用いたソノポレーションによる、mRNAトランスフェクション効率(A)および細胞生存率(B)を示す図である。NBs(+):ナノバブルを伴う溶液、NBs(-):ナノバブルを伴わない溶液。(***p<0.001、n.s.:有意差なし)(N=3)
図9図9は、バブリング工程間の0.06%ヒト血清アルブミン水溶液の温度変化を示す図である。測定時の室温は18.9℃であった。灰色でア示される領域:バイブレーションプロセス。
図10図10は、真空凍結乾燥前後での溶液中のマイクロバブルの残存濃度の比較を示す図である。
図11図11は、凍結乾燥後のナノバブル集合体をそれぞれ1.2mL、3.6mLの純水で再溶解した際のバブルの濃度の変化を示す図である。
図12図12は、凍結乾燥物から再生されたナノバブルによるバイオフィルム形成抑制作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本明細書において「マイクロバブル」とは、直径1~100μm未満の気泡を意味するものとし、また、「ナノバブル」とは、直径1μm未満の気泡を意味するものとする。なお、本明細書においてマイクロバブルは「MB」或いは「MBs」と、ナノバブルは「NB」或いは「NBs」と称することがある。
【0020】
1.ナノバブルの製造方法
本発明は、ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物を凍結乾燥する工程を含む、ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するナノバブルの製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称することがある)を提供する。
【0021】
本発明の製造方法において用いられるマイクロバブルやナノバブルは、その殻がアミノ酸(好ましくは、天然アミノ酸)から構成されるペプチドまたはタンパク質である。
【0022】
本発明の製造方法において用いられるマイクロバブルやナノバブルの殻を構成するペプチドとしては、通常2~36残基、好ましくは4~24残基の直鎖又は分岐アミノ酸配列を有するペプチドが用いられ得る。
【0023】
一態様において、ペプチドは疎水性であり得、疎水性配列としては特にイソロイシンの連続配列が好ましい場合がある。また、ペプチドは一部に非天然アミノ酸や修飾が施されていても良い。
【0024】
また、別の一態様において、ペプチドは、C末端およびN末端のいずれか又は両方において、親水性のアミノ酸配列(2~8残基)を有していてもよい。或いは、別の一実態様において、ペプチドは、C末端およびN末端のいずれか又は両方において、疎水性のアミノ酸配列(2~8残基)を有していてもよい。好ましい一態様において、ペプチドは、一方の末端に親水性のアミノ酸配列(2~8残基)を有しており、且つ、他方の末端に疎水性のアミノ酸配列(2~8残基)を有していてもよい。本構造を有するペプチドは両親媒性となり、界面活性剤として機能して、気液界面に配置されると推測される。
【0025】
なお、理論に拘束されることを望むものではないが、疎水性の高いアミノ酸配列は、薬物や遺伝子の細胞内送達に際し、その効率を向上させることが知られている。従って、本発明の製造方法により調製したナノバブルをDDSの目的に使用する場合は、ナノバブルの殻を構成するペプチドまたはタンパク質における疎水性アミノ酸の割合を高めることが望ましい場合がある。そのような疎水性の高いアミノ酸配列からなるナノバブルの調製は自体公知の方法を用いればよい。一例としては、フェニルアラニンやイソロイシンの連続配列を有するようにペプチドまたはタンパク質のアミノ酸配列を改変する方法が挙げられるが、これに限定されない。
【0026】
本発明の製造方法において用いられるマイクロバブルやナノバブルの外殻を構成するペプチドまたはタンパク質は、アミノ酸(好ましくは天然のアミノ酸)からなるペプチドまたはタンパク質であって、バブルの外殻を構成でき、且つ、本発明の所望の効果を奏するものである限り特に限定されないが、一例としては、アルブミン、免疫グロブリンGおよびリゾチーム、またはこれらの断片であって、バブルの外殻を構成できるもの等が挙げられる。
【0027】
アルブミンは、任意の動物由来のアルブミンであってよく、好ましくは、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、またはオボアルブミンであり得る。尚、バブルの外殻を構成できる限り、アルブミンの断片であってもよい。
【0028】
免疫グロブリンG(以下、IgGと称することがある)は、任意の動物由来のIgGであってよいが、好ましくは哺乳動物由来のIgGであり、より好ましくはヒト由来のIgGである。IgGは、ヒト化IgGであってもよい。また、IgGは、いずれのサブタイプのものであってもよい。具体的には、IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のいずれであってもよい。
【0029】
リゾチームは、任意の動物由来のリゾチームであってよいが、好ましくはヒト由来のリゾチームであり得る。
【0030】
本発明の製造方法における好ましい一態様において、マイクロバブルやナノバブルは、アルブミンからなる殻を有するマイクロバブルまたはナノバブルであり得る。より好ましくは、マイクロバブルまたはナノバブルは、ヒト血清アルブミンからなる殻を有するマイクロバブルまたはナノバブルであり得る。
【0031】
上述した通り、本発明の製造方法において用いられるマイクロバブルやナノバブルは、その殻がアミノ酸(好ましくは、天然アミノ酸)から構成されるペプチドまたはタンパク質であるが、換言すれば、本発明の製造方法において用いられるマイクロバブルやナノバブルは、その外殻として、アミノ酸からなるペプチドまたはタンパク質以外の成分を実質的に含まない。
【0032】
かかるアミノ酸からなるペプチドまたはタンパク質以外の成分としては、例えば、脂質(特に、リン脂質)、界面活性剤、およびPLGA(乳酸・グリコール酸共重合体)などが挙げられ、本発明の製造方法において用いられるマイクロバブルやナノバブルでは、これらの成分を外殻として含まない。
【0033】
なお、脂質としては、例えば、以下の脂質またはその誘導体が例示される:
(1)ホスファチジルエタノールアミン(例、ジミリストイル-ホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジアラキドイルホスファチジルエタノールアミン(DAPE)、ジリノレイルホスファチジルエタノールアミン(DLPE)等);
(2)ホスファチジルコリン(例、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジアラキドイルホスファチジルコリン(DAPC)、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)等);
(3)ホスファチジルセリン(例、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジアラキドイルホスファチジルセリン(DAPS)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジオレイルホスファチジルセリン(DOPS)等);
(4)ホスファチジン酸(例、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジミリストイルホスファチジン酸(DMPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)、ジアラキドイルホスファチジン酸(DAPA)等);
(5)ホスファチジルグリセロール(例、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレイルホスファチジルグリセロール(DOPG)等);
(6)ホスファチジルイノシトール(例、ジラウロイルホスファチジルイノシトール(DLPI)、ジアラキドイルホスファチジルイノシトール(DAPI)、ジミリストイルホスファチジルイノシトール(DMPI)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、ジオレイルホスファチジルイノシトール(DOPI)等)。
【0034】
また、界面活性剤としては、例えば、以下の界面活性剤またはその誘導体が例示される:
(1)アニオン性界面活性剤(例、ラウリル硫酸ナトリウム等);
(2)非イオン性界面活性剤(例、グリセリン脂肪酸エステル(例、モノステアリン酸グリセリン等)、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル(例、モノステアリン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン等)、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル(例、ポリソルベート20等)、ポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステル(例、ポリソルベート80等)等)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(例、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等)、マクロゴール類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(例、ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロキサミン等)等);
(3)カチオン性界面活性剤(例、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化デカリニウム等);
(4)両性界面活性剤(例、コカミドプロピルベタイン、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン等)。
【0035】
本発明の製造方法におけるマイクロバブルやナノバブルに封入される気体としては、バブルの製造に使用することが可能である任意の気体を用いることができる。例えば、気体として、パーフルオロ炭化水素(例、パーフルオロプロパン(C3F8)、パーフルオロブタン等)、空気、窒素、オゾン、酸素、アルゴン、二酸化炭素、プロパン(C3H8)、一酸化炭素(CO)、およびヘリウム等から選ばれる1種または2種以上の混合物等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、パーフルオロ炭化水素(例、パーフルオロプロパン、パーフルオロブタン等)、空気、窒素、オゾン、酸素、アルゴンが挙げられる。より好ましくは、パーフルオロ炭化水素(例、パーフルオロプロパン、パーフルオロブタン等)、空気等である。気体として空気を用いる場合、安価、かつ、容易にナノバブルを製造することができる。さらに好ましくは、気体はパーフルオロプロパンまたはパーフルオロブタンである。
【0036】
凍結乾燥前のマイクロバブルとナノバブルとを含む混合物は通常液状である。換言すれば、凍結乾燥前のマイクロバブルとナノバブルは通常液体に含有された状態で存在する。本発明の製造方法において、マイクロバブルとナノバブルを含有するかかる液体は特に限定されないが、例えば、水道水、脱イオン水、蒸留水、滅菌蒸留水、注射用精製水または超純水等であり得る。また、液体にはマイクロバブルおよびナノバブル以外の他の成分が含まれていてもよい。
【0037】
マイクロバブルとナノバブルとの混合物を製造する方法は自体公知である。一般的な手法としては、気体を高速旋回(或いは高速振動)で破砕してマイクロバブルとナノバブルの混合物を発生させる方法(高速旋回液流式)や、気体を加圧して過飽和で溶解させた液を急速減圧してマイクロバブルとナノバブルを析出させる方法(加圧溶解式)などが例示される。また、マイクロバブルやナノバブルを発生させる装置は多数市販されており、これらを用いてもよい。市販される装置の例としては、オーラテック社製OM4-MD5-045、ニクニ社製マイクロバブルジェネレータ、バイ・クリーン社製YJ、アクアエアー社製マイクロバブル発生装置、ローヤル電機社製マイクロブレードなどが挙げられるがこれらに限定されない。一例として以下にヒト血清アルブミン殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物を高速振動により調製する方法を具体的に説明するが、アルブミン殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0038】
(1)パーフルオロプロパンガス(C3F8)を空のガラスバイアルに注入し、ゴム栓等を用いて密封する。
(2)注射針等を用いて、ゴム栓を通じて、追加のパーフルオロプロパンガスとヒト血清アルブミン水溶液を充填する。
(3)バイアルを高速振動させる。
(4)振動後、バイアルを遠心し、氷上で冷却する。
(5)振動、遠心、冷却を複数回繰り返し、バブルを発生させる。
【0039】
尚、上述の(2)において用いられるヒト血清アルブミン水溶液におけるヒト血清アルブミンの濃度の下限は、通常0.001%以上であり、好ましくは0.005%以上、0.01%以上、0.02%以上、0.03%以上、または0.04%以上であり、より好ましくは0.05%以上である。また、ヒト血清アルブミンの濃度の上限は、通常0.9%以下、好ましくは0.85%以下、0.8%以下、0.75%以下、0.7%以下、または0.65%以下であり、より好ましくは0.6%以下である。溶液のヒト血清アルブミンの濃度が1%以上である場合、当該溶液の粘度が高まり、高速振動によってナノバブルを発生させることが難しくなる場合がある。一態様において、ヒト血清アルブミン溶液におけるヒト血清アルブミンの濃度は、0.001~0.9%であり、好ましくは0.005~0.85%、0.01~0.8%、0.02~0.75%、0.03~0.7%、または0.04~0.65%であり、より好ましくは0.05~0.6%である。
【0040】
マイクロバブルとナノバブルの混合物からナノバブルを分離するために、従前はマイクロバブルとナノバブルの浮力に関する特性の違いが利用されていた。マイクロバブルは浮力を有する一方で、ナノバブルは浮力を有さないので、マイクロバブルとナノバブルを含む液を静置したり、遠心分離したりすることで、マイクロバブルは浮上させ、ナノバブルは液中に残留させることにより、両者を分離することができる。しかし、かかるマイクロバブルの浮力を利用する従前の方法では、ナノバブル分画にマイクロバブルが残存してしまい、高純度のナノバブルを調製することが大きな課題であった。
【0041】
本発明の製造方法においては、マイクロバブルとナノバブルの混合物(或いは、混合液)を凍結乾燥することを特徴とする。マイクロバブルとナノバブルの混合物を凍結乾燥することで、実質的にすべてのマイクロバブルを崩壊させつつ、ナノバブルは維持させることができる。
【0042】
マイクロバブルとナノバブルとの混合物の凍結乾燥は自体公知の方法を用いて行えばよい。一般的には、例えば、液体窒素などを用いて混合物を冷凍し、次いでこれを真空乾燥することにより、混合物を凍結乾燥することができる。混合物の冷凍に用いられる温度および時間は特に限定されず、マイクロバブルとナノバブルの混合物が十分に冷凍される温度および時間であればいかなるものであってもよい。また、冷凍物の乾燥に用いられる圧力および時間などもまた特に限定されず、冷凍されたマイクロバブルとナノバブルの混合物を十分に乾燥させ得る圧力および時間であればいかなるものであってもよい。本発明の好ましい一態様において、マイクロバブルとナノバブルとの混合物の凍結乾燥は、真空凍結乾燥であり得る。真空凍結乾燥もまた、自体公知の方法を用いればよい。
【0043】
上述した通り、本発明の製造方法においては、マイクロバブルとナノバブルの混合物からナノバブルを分離させる工程において、マイクロバブルとナノバブルの浮力における特性の違いを利用しないことを特徴とする。従って、本発明の製造方法の一態様において、本発明の製造方法は、マイクロバブルとナノバブルとの混合物を遠心分離に供する工程を含まないことを特徴とする。
【0044】
本発明の製造方法により製造されるナノバブルは、夾雑物としてのマイクロバブルを実質的に含まないことを特徴とする。換言すれば、本発明の製造方法によりナノバブルを製造した場合の夾雑物としてのマイクロバブルの残存率を次式:
【0045】
マイクロバブルの残存率(%)=(凍結乾燥後のマイクロバブル濃度/凍結乾燥前のマイクロバブル濃度)×100
【0046】
で定義するとき、マイクロバブルの残存率は、通常1%以下、好ましくは0.8%以下、0.6%以下、または0.4%以下、より好ましくは0.3%以下、特に好ましくは0.1%以下であり得る。一態様において、マイクロバブルの残存率は、通常0~1%であり、好ましくは0~0.8%、0~0.6%、0~0.4%または0~0.3%であり、特に好ましくは0~0.1%であり得る。
【0047】
尚、かかるマイクロバブルの残存率の低減は、換言すれば、マイクロバブルの除去と捉えることもできる。この観点において、マイクロバブルの除去率は次式で定義することができる。
【0048】
マイクロバブルの除去率(%)=100-(マイクロバブルの残存率)
【0049】
マイクロバブルの除去率は、通常99%以上、好ましくは99.2%以上、99.4%以上、または99.6%以上、より好ましくは99.7%以上、特に好ましくは99.9%以上であり得る。一態様において、マイクロバブルの除去率は、通常99~100%であり、好ましくは99.2~100%、99.4~100%、99.6~100%または99.7~100%であり、特に好ましくは99.9~100%であり得る。
【0050】
また、本発明の製造方法により製造されるナノバブルの中空径は、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、20nm以上、30nm以上、40nm以上、または50nm以上、より好ましくは60nm以上、70nm以上、80nm以上、90nm以上、または95nm以上、特に好ましくは100nm以上であり得る。また、ナノバブルの中空径の上限は、通常1000nm未満、好ましくは900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、または500nm以下、より好ましくは400nm以下、350nm以下、330nm以下、320nm以下、または310nm以下、特に好ましくは300nm以下であり得る。一態様において、本発明の製造方法により製造されるナノバブルの中空径は、通常1~1000nm未満、好ましくは10~900nm以下、20~800nm以下、30~700nm以下、40~600nm以下、50~500nm以下、より好ましくは60~400nm以下、70~350nm以下、80~330nm以下、90~320nm以下、95~310nm以下、特に好ましくは100~300nm以下であり得るがこれらに限定されない。
【0051】
また、一態様において、本発明の製造方法により製造されるナノバブルは、その中空径とマイクロバブルの残存率が次の条件を満たし得る:
[1]
中空径:1~1000nm未満、且つ、
残存率:0~1%、0~0.8%、0~0.6%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.1%、または0%
[2]
中空径:10~900nm以下、且つ、
残存率:0~1%、0~0.8%、0~0.6%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.1%、または0%
[3]
中空径:20~800nm以下、且つ、
残存率:0~1%、0~0.8%、0~0.6%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.1%、または0%
[4]
中空径:30~700nm以下、且つ、
残存率:0~1%、0~0.8%、0~0.6%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.1%、または0%
[5]
中空径:40~600nm以下、且つ、
残存率:0~1%、0~0.8%、0~0.6%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.1%、または0%
[6]
中空径:50~500nm以下、且つ、
残存率:0~1%、0~0.8%、0~0.6%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.1%、または0%
[7]
中空径:60~400nm以下、且つ、
残存率:0~1%、0~0.8%、0~0.6%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.1%、または0%
[8]
中空径:70~350nm以下、且つ、
残存率:0~1%、0~0.8%、0~0.6%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.1%、または0%
[9]
中空径:80~330nm以下、且つ、
残存率:0~1%、0~0.8%、0~0.6%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.1%、または0%
[10]
中空径:90~320nm以下、且つ、
残存率:0~1%、0~0.8%、0~0.6%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.1%、または0%
[11]
中空径:95~310nm以下、且つ、
残存率:0~1%、0~0.8%、0~0.6%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.1%、または0%
[12]
中空径:100~300nm以下、且つ、
残存率:0~1%、0~0.8%、0~0.6%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.1%、または0%
【0052】
本発明により製造されるナノバブルは凍結乾燥状態で長期保存することができる。従前、アミノ酸から構成されるペプチドまたはタンパク質からなる外殻を有するナノバブル(例、アルブミン殻を有するナノバブル等)は、凍結乾燥が難しいと考えられており、それ故、年単位で保存が可能な製品は開発されていなかった。しかし、本発明によりアミノ酸から構成されるペプチドまたはタンパク質からなる外殻を有するナノバブルをマイクロバブルの夾雑を抑えた状態、且つ、長期保存可能な状態で調製することが可能となった。
【0053】
尚、本発明により製造されたナノバブルは、凍結乾燥した状態から蒸留水等で復水することで容易に再生することができる。以下の実施例で実証する通り、凍結乾燥後に再生させたナノバブルは凍結乾燥前のナノバブルと同様の機能を維持している。
【0054】
さらに、凍結乾燥に調製したナノバブルの再生時に、ナノバブルを溶解させる液体(例、蒸留水)の量を適宜調節することで、所望のナノバブル濃度を有するナノバブル溶液を製造することもできる。従前、マイクロバブルを夾雑物として実質的に含まない高濃度のナノバブル溶液を製造するためには比較的長時間および高コストを要したが、本発明によれば、実質的には凍結乾燥工程を行うことにより簡便に高濃度のナノバブル溶液を製造できるようになる。この側面に着目すれば、本発明は、「ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物を凍結乾燥する工程と、凍結乾燥で得られたナノバブルを再生用の溶液に浸漬させることを含む、ナノバブル水の濃度調製方法」をも提供する。
【0055】
加えて、本発明における、ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物を凍結乾燥することによりマイクロバブルのみを崩壊させナノバブルの純度を高めるとの側面に着目すれば、本発明は、「ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するマイクロバブルとナノバブルとの混合物からマイクロバブルを除去する方法(以下、「本発明の除去方法」とも称することがある)」と言い換えることができる。
【0056】
尚、本発明の除去方法におけるマイクロバブルの除去率は、本発明の製造方法において説明したものと同様である。
【0057】
或いは、マイクロバブルとナノバブルとの混合物を凍結乾燥に供すると、マイクロバブルが崩壊するとともに、比較的サイズの大きいナノバブルについても一部崩壊し、その結果、本発明の製造方法により製造されたナノバブルの平均粒子径(ナノバブルの中空径の平均)は、凍結乾燥前のナノバブルの平均粒子径よりも減少する。本発明におけるこの側面に着目すれば、本発明は、「ナノバブルの微細化方法(以下、「本発明の微細化方法」と称することがある)」と解釈することもできる。
【0058】
本発明の微細化方法において、ナノバブルの平均粒子径は、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、20nm以上、30nm以上、40nm以上、50nm以上、60nm以上、70nm以上、80nm以上、90nm以上、100nm以上、110nm以上、120nm以上、130nm以上、140nm以上、150nm以上、160nm以上、170nm以上、180nm以上、190nm以上、200nm以上、210nm以上、220nm以上、230nm以上、240nm以上、250nm以上、260nm以上、270nm以上、280nm以上、290nm以上、300nm以上、310nm以上、320nm以上、330nm以上、340nm以上、350nm以上、360nm以上、370nm以上、380nm以上、390nm以上、400nm以上、410nm以上、420nm以上、430nm以上、440nm以上、450nm以上、460nm以上、470nm以上、480nm以上、490nm以上、500nm以上、510nm以上、520nm以上、530nm以上、540nm以上、550nm以上、560nm以上、570nm以上、580nm以上、590nm以上、600nm以上、610nm以上、620nm以上、630nm以上、640nm以上、650nm以上、660nm以上、670nm以上、680nm以上、690nm以上、700nm以上、710nm以上、720nm以上、730nm以上、740nm以上、750nm以上、760nm以上、770nm以上、780nm以上、790nm以上、800nm以上、810nm以上、820nm以上、830nm以上、840nm以上、850nm以上、860nm以上、870nm以上、880nm以上、890nm以上、又は900nm以上であり得る。また、ナノバブルの平均粒子径の上限は、通常1000nm未満、好ましくは990nm以下、980nm以下、970nm以下、960nm以下、950nm以下、940nm以下、930nm以下、920nm以下、910nm以下、900nm以下、890nm以下、880nm以下、870nm以下、860nm以下、850nm以下、840nm以下、830nm以下、820nm以下、810nm以下、800nm以下、790nm以下、780nm以下、770nm以下、760nm以下、750nm以下、740nm以下、730nm以下、720nm以下、710nm以下、700nm以下、690nm以下、680nm以下、670nm以下、660nm以下、650nm以下、640nm以下、630nm以下、620nm以下、610nm以下、600nm以下、590nm以下、580nm以下、570nm以下、560nm以下、550nm以下、540nm以下、530nm以下、520nm以下、510nm以下、500nm以下、490nm以下、480nm以下、470nm以下、460nm以下、450nm以下、440nm以下、430nm以下、420nm以下、410nm以下、400nm以下、390nm以下、380nm以下、370nm以下、360nm以下、350nm以下、340nm以下、330nm以下、320nm以下、310nm以下、300nm以下、290nm以下、280nm以下、270nm以下、260nm以下、250nm以下、240nm以下、230nm以下、220nm以下、210nm以下、200nm以下、190nm以下、180nm以下、170nm以下、160nm以下、150nm以下、140nm以下、130nm以下、120nm以下、110nm以下、又は100nm以下であり得る。一態様において、本発明の微細化方法により得られるナノバブルの平均粒子径は、通常1~1000nm未満、好ましくは10~900nm以下、10~800nm以下、10~700nm以下、10~600nm以下、10~500nm以下、より好ましくは10~400nm以下、10~350nm以下、50~350nm以下、100~350nm以下、150~350nm以下、又は150~300nm以下であり得るがこれらに限定されない。
【0059】
2.乾燥状態のナノバブルまたはそれを含む組成物
本発明はまた、ペプチドまたはタンパク質からなる殻を有する乾燥状態のナノバブル、またはそれを含む組成物(以下、「本発明のナノバブル」または「本発明の組成物」と称することがある)を提供する。
【0060】
本発明のナノバブルは、本発明の製造方法により製造されたペプチドまたはタンパク質からなる殻を有するナノバブルそのもの(則ち、凍結乾燥状態のナノバブル)である。また、本発明の組成物は、当該本発明のナノバブルを適当な溶液に浸漬し、乾燥状態のナノバブルを再生させたものである。ナノバブルの純度や平均粒子径等の用語は、本発明の製造方法や本発明の微細化方法において説明したものと同様である。
【0061】
本発明の組成物は、本発明の所望の効果を奏する限り、本発明のナノバブル以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0062】
本発明のナノバブルや本発明の組成物は、DDSにおける薬物機能の増強を目的として用いることができるだけでなく、その他の目的に用いてもよい。例えば、マイクロバブルやナノバブルを用いて微生物の増殖を抑制する手法が報告されており、医薬品や食品の製造分野において利用されるほか湖沼などの水質改善にも利用されているが、以下の実施例において実証する通り、本発明の組成物は、バイオフィルム形成抑制効果を有しているので、かかる用途に用いることもできる。
【0063】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例0064】
[材料および方法]
【0065】
1.アルブミン殻を有するマイクロバブルとナノバブルの混合物の調製
アルブミン殻を有するマイクロバブルおよびナノバブルの混合物を次のように調製した。
5mLのパーフルオロプロパンガス(C3F8、高千穂化学工業株式会社)を空のガラスバイアルに注入した。ゴム栓で閉じ、かつアルミニウムキャップでシールされたバイアルに、23ゲージ針を用いてゴム栓を通じて、追加の1.5mLパーフルオロプロパンガスおよび3.6mLの0.06%ヒト血清アルブミン(Albuminar 25、CSLベーリングLLC)蒸留水溶液を充填した。次いで、そのバイアルを高速振動型組織ホモジナイザー装置(Precellys Evolution、Bertin Instruments)中へ配置し、6000rpmで80秒間振動させた。振動後、バイアルを100Gで2分間遠心し(MX-401、TOMY)、氷上で3分間冷却した。振動、遠心、および冷却を3回繰り返し、最後に振動フェイズを1回追加した。18ゲージ針をバイアルのゴム栓に挿入し圧力を低下させた。振動および冷却によるヒト血清アルブミン水溶液の温度変化はデジタル温度計(TX1003、横河計測株式会社)を用いて経時的に測定した。
【0066】
穴の開いたゴム栓を有するバイアル中にマイクロバブルおよびナノバブルを含む水溶液を液体窒素中に浸漬し急速凍結した。凍結物を凍結乾燥機(Free Zone4.5、Labconco Corporation)で48時間、20Paの真空圧、コレクター温度-50℃で凍結乾燥した。
【0067】
凍結乾燥したナノバブルを含有するバイアルを再びゴム栓で閉じ、アルミニウムキャップでシールすることで吸湿を防ぎ、4℃で保存した。
【0068】
凍結乾燥しない場合(則ち、対照)は、バブルを含有する懸濁液はピペッティングにより均一に混合し2時間以内に4℃で保存し、測定に供した。
【0069】
2.走査型電子顕微鏡を用いたナノバブルの凍結乾燥物の形態学的観察
ナノバブルの凍結乾燥物と対照をピンセットで慎重に引きちぎり、断面を上向きにしてカーボンテープが貼られたアルミニウムスタブ上にマウントした。凍結乾燥物断片を、OPC-80オスミウムプラズマコーター(Nippon Laser & Electronics Lab)オスミウム層でコートした。サンプルを走査型電子顕微鏡(SEM)(JSM-7500F、JEOL)を用いて5kVで観察した。凍結乾燥物の領域はランダムに選択し、1000×~30000×のレンジの倍率で観察した。
【0070】
3.再生されたナノバブルの物理的特性と残存の評価
ナノバブルを含有する凍結乾燥物を凍結乾燥前と同様に3.6mLの蒸留水に溶解させた。ナノ粒子トラッキング解析、フローサイトメトリー解析、および共鳴質量測定を用いて当該サンプルを解析することで、ナノバブルの物理的特性を評価した。
【0071】
[ナノ粒子トラッキング解析]
ナノバブルの粒子サイズはナノ粒子トラッキング解析(NTA)装置(NanoSight LM10、Malvern Instruments)により測定した。ナノ粒子懸濁液に638nmの波長の赤色レーザーを照射した。ナノ粒子運動は、CCDカメラ(C11440-50B、浜松ホトニクス株式会社)光散乱とブラウン運動により可視化した。このシステムは、ブラウン運動下の平均移動距離の計算するために、ナノ粒子のセンターポジションを自動的に検出し二次元平面において各粒子運動を追跡する。NTAでの粒子運動のイメージは、室温で60秒間記録した。NTA法の粒子サイズ測定の範囲は10nm~1000nmに調節した。粒子サイズはストークス‐アインシュタインの式に対する平均運動距離によって評価した。0.5mLのナノバブル懸濁液を、1.0mL体積のプラスチックシリンジ(テルモ)でNanoSightシステムのサンプル測定チャンバーへインジェクトした。サンプルイメージキャプチャリングおよびデータ解析は測定アプリケーションソフトウェア(NTA 3.2 Dev Build3.2.16)を用いて行った。すべてのサンプル測定は、各サンプルに対して独立に行った。粒子サイズは、3回の測定の平均の、平均および最頻値±標準誤差として示した。再溶解後のナノバブルサイズは凍結乾燥していない遠心分離サンプルと比較した。
【0072】
[フローサイトメトリー解析]
ナノバブルのサイズ比率および個数はフローサイトメーター(CytoFLEX、ベックマン・コールター)を用いて測定した。フローサイトメーターはナノ粒子の検出のため405nm(violet)レーザーを備えており、ナノ粒子検出の増強を目的として、violetレーザーから側方散乱(Side Scatter;SS)を測定するようセットアップした(violet SS)。粒子検出に対するViolet SSシグナル分解能限界は200nmであった。優れた分解能は前方散乱(Forward Scatter;FS)シグナルよりもSSで得ることができ、小型粒子(例えば、ナノスケール粒子)の測定に好適である。Violet-SS Violet側方散乱エリア(SS-A)を粒子サイズと関連付けるために、既知のサイズのビーズでフローサイトメーターを較正した(Wisgrill et al.,Cytometry A.2016 Jul;89(7):663-72.;Zucker et al.,Cytometry A.2016 Feb;89(2):169-83.)。フポリスチレンスタンダードビーズ(500nm、qNano Calibration Particle、Izon Science、1000nm、Archimedes Standard polystyrene beads、Malvern Instruments)を超純水中に懸濁させ、フローサイトメーターで事前に測定した。得られたナノバブルのViolet SS-Aシグナルを次いでCytExpertソフトウェアversion2.0(ベックマン・コールター株式会社)により解析した。実験前に、ナノバブルのサイズを決定するために500~1000nmにおける各スタンダードビーズのサイズに基づきViolet SSC-A値のゲートを創出した。これらのデータを用いて、各サイズのシグナルバンドに存在するナノバブルの個数を測定した。ナノバブルの粒子の個数は測定前に10倍希釈し、ストック懸濁液の濃度を遡及的に逆算した。凍結乾燥していない遠心後の水溶液中のナノバブルの濃度に基づいて、総数および各サイズレンジのついて凍結乾燥-溶解後に残存する割合を計算した。希釈していない原液を直接測定し、1000nmのスタンダードビーズのViolet SSC-A値のゲートを超える範囲の粒子をマイクロバブルとしてカウントし、マイクロバブル濃度を算出した。マイクロバブル・ナノバブル混合溶液の作製直後および凍結乾燥-溶解後のマイクロバブル濃度から、その残存率と除去率を計算した。
【0073】
[共鳴質量測定]
凍結乾燥-溶解後に存在するナノ粒子が実際に浮遊性バブルであることを確認するために、本発明者らの既報(Watanabe et al.,Heliyon 2019,5,e01907.)に基づき、粒子質量を共鳴質量測定(RMM)システム(Archimedes、Malvern Instruments Ltd)により測定した。RMMはサンプル溶液がカンチレバー内のマイクロ流体フローチャネルを通過するように用いられる。マイクロ流体フローチャネルを通過する粒子は、溶液と異なる密度の粒子の通過により引き起こされる質量変化に関連する、カンチレバーの共鳴周波数における瞬間的なシフトに依拠して検出した。周波数シフトの方向によれば、正浮力を有する粒子と負浮力を有する粒子を明確に区別できる(Patel,A.R et al.,Analytical chemistry 2012,84,6833-6840.,Burg,T.P. et al.,Nature 2007,446,1066-1069.)。本実施例においては、2×2 μmの内部マイクロ流体フローチャネル次元を有するArchimedes Hi-Q nano sensor(Malvern Instruments Ltd)における共鳴装置を用いた。全ての測定に対して、コントロールサンプルであるPBS溶液において観察されたベースラインノイズに基づいて、方向の限定または0.01Hzのスレッシュホールドを手動で選択した。ナノバブル懸濁液をHi-Q nanosensorに供給し、20分間、室温で測定を継続した。浮遊質量(buoyant mass)は、Particle Lab Software version 1.9.81(Malvern Instruments Ltd)を用いることにより、一時的な共鳴周波数シフトから計算した。
【0074】
4.再生されたナノバブルの超音波(US)応答性
凍結乾燥し溶解後に存在するナノ粒子が実際にUS応答性バブルであることを確認するために、ナノ粒子のサイズ分布をソニケーションの前後で測定した。ソニケーションは本発明者らの既報(Kida,H.et al.,Frontiers in Pharmacology 2022,13.)に基づいた。簡潔には、ナノバブル懸濁液(100μL)を、音響的に透過性のフィルムベースの96穴マルチウェル細胞培養プレート(Sarstedt、Numbrecht)内に配置した。カルチャープレートを音響透過ゲル(アクアソニック100ゲル、Parker lab)を介してUSトランスデューサの表面上に固定した。トランスデューサ(直径1.6cm)、駆動周波数1MHz、バースト率100Hz、および50%デューティレシオで、ソノポレーター(SP100、Sonidel Limited)によりUSを照射した(図1A)。US照射の方法は、以下に記載される、培養細胞を含む96穴マルチウェルプレートを用いたマイクロスケールインビトロソノポレーションシステムと同様である。ナノバブルの直径は、様々な強度(0、1、2、または5W/cm)での30秒間のソニケーション後に測定された。US照射前後のナノバブル粒子の個数および分布の変化は、上述したナノ粒子トラッキング解析、フローサイトメトリー解析および共鳴質量測定を用いて測定した。
【0075】
5.再生されたナノバブルのインビトロ超音波イメージキャラクタリゼーション
US造影剤としての再生されたナノバブルの機能を評価するために、USイメージングを行った。USゲルパッド(Aquaflex ultrasound gel pad;Parker lab)で作られたフローファントム(7cm×8cm×11cm)(図2)をUS造影増強イメージング実験セットアップ用にカスタムメイドした。ナノバブル水溶液を流すための直径5mmの2つの平行な流管を、ファントムの水平長軸方向における表面から1.5cmの深さで2cm離して製造した。再生されたナノバブル溶液または対照を蒸留水で3倍希釈してシリンジに充填し、オートインジェクター(YSP-201、テルモ)により、流管の穴に接続された内径3.1mmの塩化ポリビニルチューブ(SF0ET2022L、テルモ)を通じて、2mL/minの流速で、同じ向きに流管に直接インジェクトした。再生されたナノバブルの音響評価は、広域スペクトル術中リニアアレイL8-18i-Dプローブ(4~14MHz)を有する診断用USイメージングシステム(LOGIQ E9、GEヘルスケア)により行った。USプローブはフローファントムの上面に配置し固定した。USフローファントムのUS Bモード画像は、Coded Harmonic Angio(CHA、mechanical index 0.6)またはAmplitude Modulation(AM、mechanical index 0.28)の造影モードを用いる場合と用いない場合で取得した。
【0076】
6.インビトロでのルシフェラーゼmRNAトランスフェクションおよび発現の評価
[mRNAトランスフェクション]
再生されたナノバブルのUS応答性によるmRNAの細胞内送達の効果を確認する目的で、本発明者らの既報(Kida,H.et al.,Frontiers in Pharmacology 2022,13.)に基づいて実験を行った。凍結乾燥させたナノバブル含有物を、凍結乾燥前の水溶液と等量のopti-MEMに溶解した。Gaussiaルシフェラーゼ(GLuc)をコードするmRNAをナノバブルまたはコントロール溶液にそれぞれ終濃度10μg/mL添加した。本実験のすべての工程の略図を図1に示す。音響透過性の底面を有する96ウェルプレートの各口腔扁平上皮癌細胞(HSC-2)培養培地を、500ngのmRNAを含有する再生されたナノバブル培地50μLに置き換えた(図1BおよびC)。US(SP100、Sonidel Limited)を、HSC-2細胞、ナノバブルおよび遺伝子を含む当該培地プレート底面に対して照射した(図1D)。US照射処理後、ナノバブルを含有する溶液を除去した。次いで、100μLの培養培地を各培養ウェエルに再充填し、加湿された5%CO雰囲気において、37℃でインキュベートした(図1E)。24時間後、ルシフェラーゼ発現アッセイおよび細胞生存アッセイを行った(図1FおよびG)。
【0077】
[ルシフェラーゼ発現アッセイ]
インビトロのルシフェラーゼ活性は、Spark(登録商標)マルチモードマイクロプレートリーダー(Tecan、Mannedorf)を用いて決定した。細胞ソニケーション後24時間インキュベート後、10μLの培養上清を、Costar 96 well white solid plate(Corning)の各インキュベーションウェルから回収した。0.01%Tween(登録商標)20/0.1 mM EDTA/PBSに溶解させた100μL/100μLのセレンテラジン(Gold Biotechnology)溶液を各ウェルに添加した。添加後2~12秒間の相対発光単位(RLU)値をプロットし合計した。
【0078】
[細胞生存率アッセイ]
細胞毒性アッセイ(CellTiter 96 AQue-ous One Solution Cell Proliferation Assay system(Promega))における生存している細胞数を決定するために、生存しているHSC-2細胞の数を3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3-carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium(MTS)を用いた比色法により測定した。一部の上清がルシフェラーゼアッセイのために取り除かれた各ウェルに対して20μLのCell Titer Solution Reagentを加えた。2時間のインキュベーション後、96ウェルプレートリーダーMultiskan(商標) Go(Thermo Fisher Scientific)を用いて、吸光度を490nmにて記録した。処理された細胞の生存率は、コントロールの非処理生存細胞の数に対する生存細胞数の比として計算した。
【0079】
7.統計解析
測定データは平均±平均の標準誤差(s.e.m)として表示した。データは、Welch’s correctionを伴う対応のないt検定を用いて解析した。複数のグループ間の統計学的に有意な差は、Microsoft Excel(Version 2212、 Microsoft)を用いて解析した。p値<0.05の確率値を統計学的有意とした。
【0080】
[実施例1]ヒト血清アルブミンベースのナノバブルの殻は凍結乾燥において保持される。
最大25℃、4バイブレーションサイクルでバブリングしたHSA溶液を急速凍結および真空乾燥した(図9)。得られた凍結乾燥物は、バブルの有無にかかわらず、肉眼的にはわたあめ様(cotton-like)であった(図3)。これらの構造物は柔らかく、ピンセットでつまむと容易に引きちぎれた。ピンセットでの硬さの目視検査や目視観察ではこれら2つは区別はできなかった。
【0081】
バブルを含む溶液から調製された凍結乾燥物の低倍率SEM(×1,000)において、直径1μmを超える乾燥バブル殻が多数検出された。これらのマイクロバブルの大多数においては殻孔(shell pores)が観察された(図4A)。高倍率SEM(×10,000)ではナノバブルと思われる球体物が示されている(図4B)。HSA-ナノバブルに交じって存在する、不規則で絡み合った形状のアルブミン凝集物からそれらを完全に区別するのは困難ではあるものの、超高倍率SEM(×30,000)には、殻に孔を有する球体上のHSA-ナノバブルが確認された(図4C)。一方で、気泡しなかった溶液の凍結乾燥物の低~超高倍率SEM(×1,000~×30,000)での観察では、マイクロバブルやナノバブルと思われる構造は存在せず、不規則な形状のアルブミン凝集体のみが存在した(図4D~F)。
【0082】
[実施例2]ヒト血清アルブミン殻のバブルを含有する凍結乾燥物の溶解によってナノバブルは再生する。
HSAナノバブルを含有する凍結乾燥物を凍結乾燥前と等量の蒸留水に再溶解させた。凍結乾燥前後の粒子濃度および粒子分布をFCM10倍希釈での測定値から逆算した(図5A、表1)。真空凍結乾燥前の溶液中のHSAナノバブルの濃度は1.2×10/mLであった。比較して、再生されたナノバブル溶液におけるバブルの濃度は7.8×10/mLであった。すなわち、ナノバブルの64.5%が凍結乾燥操作によって保持されていたことが分かった。直径200nm未満のナノバブルは、102.0%(3.0×10/mL to 3.1×10/mL)保存されていた。直径200~500nmのナノバブルおよび直径500nmを超えるナノバブルは、それぞれ、57.3%(7.9×10/mL to 4.5×10/mL)および17.7%(1.2×10/mL to 2.2×10/mL)保存されていた。NTA計測において、ナノバブルの濃度は、凍結乾燥前の13.8×10/mLから、凍結乾燥後4.8×10/mL(34.8%)に減少した(図5B)。平均ナノバブルサイズ(average nano-bubble size)は、真空凍結乾燥前は266.7±17.1nmであったが、真空凍結乾燥後は224.8±13.8nmに低下した。RMM測定において、ナノバブルの濃度は凍結乾燥前11.5×10/mLから凍結乾燥後9.6×10/mL(83.2%)に減少した(図5C)。真空凍結乾燥前に存在するナノバブルの100.0%が正浮力を有しており、平均浮遊質量は-2.6fgであった。一方で、真空凍結乾燥後に存在するナノバブルの97.7%が正浮力を有しており、平均浮遊質量は-2.1fgであった。
【0083】
【表1】
【0084】
(表1:凍結乾燥によるナノバブル濃度の変化。括弧内の値は凍結乾燥前の濃度から維持された割合を示す。NBs:ナノバブル。)
【0085】
[実施例3]凍結乾燥によってマイクロバブル・ナノバブル混合液から高効率にマイクロバブルを除去できる。
作製直後のマイクロバブル・ナノバブル混合液および、凍結乾燥物を等量の純水で再溶解した溶液に含まれるマイクロバブル濃度を、FCM測定を用いて比較した。結果を図10に示す。凍結乾燥前の溶液に含まれるマイクロバブルの濃度は1.4×10/mLであった。凍結乾燥後に等量の純水で再溶解した溶液に含まれるマイクロバブルの濃度は5.6×10/mLであった。凍結乾燥処置前後でのマイクロバブル残存率は0.41%、除去率は99.59%であった。
【0086】
[実施例4]凍結乾燥物から任意の濃度に濃縮あるいは希釈してナノバブルを再生可能である。
凍結乾燥物を、乾燥前の溶液量と等量および1/3量の純水で溶解し、再生したナノバブルの濃度を、FCM測定を用いて比較した。結果を図11に示す。当量の純水での溶解した場合のナノバブルの濃度は6.9x10/mLであった。それに対し、1/3量の純水での溶解した場合のナノバブルの濃度は1.2x10/mLであり、等量の純水で再溶解した場合の1.7倍の濃度に濃縮された。
【0087】
[実施例5]凍結乾燥状態から再生したナノバブルはバイオフィルム形成抑制効果を有する。
凍結乾燥状態のナノバブルを再生して得られた濃縮ナノバブルおよび同濃度のアルブミン溶液を用いて、細菌によるバイオフィルムの形成抑制効果を調べた(n=6)。
【0088】
ナノバブルの凍結乾燥物を乾燥前の溶液量の1/3の液量のMHB培地に溶解し、ナノバブルを再生した。再生されたナノバブルを含むMHB培地に表皮ブドウ球菌:Staphylococcus epidermidisを1.5×108 CFU/mLとなるように希釈し、180μL/wellずつ、96multi-well plateに添加し、Biofilm Formation Assay Kit(同仁化学研究所)のピンプレートを装着した。37℃で培養開始から24時間の時点で、新鮮なナノバブルを含むMHB培地に交換し、さらに72時間培養した。培養終了後に、0.1% Crystal Violet溶液を用いて、ピンプレート上に形成されたバイオフィルムを染色した。ピンプレートを、生理食塩水で洗浄後に、エタノールを満たした新しい96 multi-well plateに浸して、Crystal Violetを抽出した。Crystal Violetが抽出されたエタノールの590nmの吸光度を測定した。同濃度のアルブミンを含むMHB培地を用いて培養した条件の吸光度から計算されるバイオフィルム形成量を100%とし、ナノバブルを含むHMB培地を用いて培養した条件におけるバイオフィルムの形成率を計算した。結果を図12に示す。ナノバブルを含む培地を用いて細菌を培養した場合、バイオフィルムの形成率が21.6%抑制された。
【0089】
[実施例6]凍結乾燥物から再生されたナノバブルは超音波照射により崩壊する。
凍結乾燥物から再生されたナノバブル溶液に超音波を照射した。1、2または5W/cmでのUS照射は、FCM測定において、ナノバブルの濃度を6.3×10/mLから、それぞれ、2.1×10/mL(33.3%)、1.6×10/mL(24.7%)または9.9×10/mL(15.7%)に低下させた(図6A、表2)。5W/cmのUS照射により、直径200nm未満のナノバブルについては、2.0×10/mLから7.1×10/mL(34.7%)へ、直径200~500nmのナノバブルについては、4.0×10/mLから2.5×10/mL(6.2%)へ、直径500nmを超えるナノバブルについては、2.2×10/mLから2.5×10/mL(11.3%)へ、それぞれ、濃度が減少した。NTA計測においては、1、2または5W/cmでのUS照射は、35.3×10/mLのナノバブルの濃度から、それぞれ、18.1×10/mL(51.3%)、7.1×10/mL(20.0%)および5.2×10/mL(14.8%)へ低下させた(図6B)。平均ナノバブルサイズは、266.1±6.7nmから、それぞれ、189.3±11.1nm、192.5±3.6nm、および166.8±2.2nmに減少した。RMM測定では、ナノバブルの濃度は、95.7×10/mLから、それぞれ、26.0×10/mL(27.2%)、4.4×10/mL(4.6%)および5.49×10/mL(5.7%)へ減少した。ナノバブルの平均浮遊質量は、ソニケーション前で-2.1fgであり、ソニケーション後は、それぞれ、-1.9fg、-0.3fgおよび-1.25であった。正浮力を有する粒子はソニケーション前は97.7%であり、ソニケーション後は、それぞれ、98.4%、76.5%および100.0%であった(図6C)。
【0090】
【表2】
【0091】
(表2:ソニケーションによる再生されたナノバブル濃度の変化。括弧内の値はソニケーション前の濃度から維持された割合を示す。NBs:ナノバブル。)
【0092】
[実施例7]凍結乾燥物から再生されたナノバブルはエコー原性である。
凍結乾燥物から再生されたナノバブルを含む、または含まない希釈溶液をそれぞれフローファントムの管に還流させ、それらのエコー原性を観察した。Bモードイメージングのみの場合、ナノバブルを含むまたは含まない溶液のいずれも管内のエコー輝度の変化は検出できなかった(図7A)。輝度の上昇は、CHAモードでのナノバブル含有溶液の還流においてのみ検出された(図7B)。一方で、AMモードでは、ナノバブルを含むまたは含まない溶液のいずれにおいても管内の輝度の上昇は観察されなかった(図7C)。
【0093】
[実施例8]凍結乾燥物から再生されたナノバブルはmRNAソノポレーションにおいてキャビテーション核として働く。
インビトロソノポレーションにおいて、ナノバブルを伴う場合または伴わない場合のいずれでも、mRNAトランスフェクション効率は、USとの音響強度における段階的な増加(1、2または5W/cm)に応じて段階的に増加したが(図8A)、ソニケーションによるmRNAトランスフェクション効率の増加は、ナノバブルを伴う条件においてより大きく増加した。ナノバブルを伴い且つ5W/cmとの最大音響強度でUS照射を行う条件において、RLU値は2.6±0.1(×10)に達した。この値は、ナノバブルを伴なわない溶液を用いて同じ強度でUS照射するトランスフェクション条件の値と比較して7.5倍高かった(p=0.0002)。5W/cmでのUS照射後の細胞生存率は、それぞれ、ナノバブルを伴う場合は84.9%であり、ナノバブルを伴わない場合は90.7%であった(p=0.6255)(図8B)。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、アルブミン等の安全性の高い生体由来のタンパク質などからなる殻を有するナノバブルを高純度に調製することができる。ナノバブルは造影剤として使用でき、また、細胞へ遺伝子や薬剤を送達するために使用することができる。従って、本発明は、例えば、疾患の診断または治療にかかる技術分野において極めて有用である。或いは、本発明を用いて調製されたナノバブルは、バイオフィルム形成抑制効果を有することから、食品及び医薬品の製造における衛生管理や微生物による環境汚染の改善などにも適用可能である。
図1
図2
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図12