(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136652
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ポリマー微粒子、その製造方法、組成物、光学部材、光源ユニット、ディスプレイ、照明装置およびインク
(51)【国際特許分類】
C08J 3/16 20060101AFI20240927BHJP
C08L 1/08 20060101ALI20240927BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20240927BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20240927BHJP
C08L 39/06 20060101ALI20240927BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20240927BHJP
G02B 1/04 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C08J3/16 CER
C08J3/16 CEZ
C08L1/08
C08L29/04
C08L23/08
C08L39/06
C08L71/02
G02B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047833
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 友彦
(72)【発明者】
【氏名】辻 祐一
(72)【発明者】
【氏名】境野 裕健
(72)【発明者】
【氏名】市橋 泰宜
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA18
4F070AA32
4F070AB01
4F070AC12
4F070AC43
4F070AC65
4F070AC66
4F070AC80
4F070AE04
4F070AE14
4F070AE28
4F070DA21
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4F070DA33
4F070DC06
4F070DC07
4F070DC09
4F070DC14
4J002AB011
4J002BE021
4J002BE031
4J002BJ001
4J002CH021
4J002EA046
4J002EA066
4J002EL066
4J002EU026
4J002EU046
4J002EU136
4J002EV236
4J002EV306
4J002EX046
(57)【要約】
【課題】高い光線透過率と低複屈折率を有することで光学用途に適し、さらに粒子の真球度が高く、均一性、等方性に優れたポリマー微粒子を提供することを目的とする。
【解決手段】波長400nm以上800nm以下の範囲で光線透過率が85%以上であり、固有複屈折が-30×10
-4以上+30×10
-4以下である樹脂を主成分とするポリマー微粒子であって、D50粒子径が0.1μm以上100μm以下、真球度が80以上100以下であることを特徴とする、ポリマー微粒子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長400nm以上800nm以下の範囲で光線透過率が85%以上であり、固有複屈折が-30×10-4以上+30×10-4以下である樹脂、を主成分とするポリマー微粒子であって、D50粒子径が0.1μm以上100μm以下、真球度が80以上100以下であることを特徴とする、ポリマー微粒子。
【請求項2】
亜麻仁油吸油量が1mL/100g以上200mL/100g以下である、請求項1に記載のポリマー微粒子。
【請求項3】
D90粒子径/D10粒子径が1.0以上5.0以下である、請求項1に記載のポリマー微粒子。
【請求項4】
前記樹脂の比重が1.15g/cm3以下である、請求項1に記載のポリマー微粒子。
【請求項5】
前記樹脂のガラス転移温度が100℃以上 である、請求項1に記載のポリマー微粒子。
【請求項6】
前記ポリマー微粒子がさらに発光材料または着色材料を含む、請求項1に記載のポリマー微粒子。
【請求項7】
前記発光材料または着色材料の吸収スペクトルが、波長400nm以上800nm以下の範囲に少なくとも1つの極大ピークを有する、請求項6に記載のポリマー微粒子。
【請求項8】
下記(a)および(b)の工程を順次行うことを特徴とするポリマー微粒子の製造方法。
(a)波長400nm以上800nm以下の範囲で光線透過率が85%以上であり、固有複屈折が-30×10-4以上+30×10-4以下である樹脂と、有機溶媒と、を含むポリマー相と、水溶性高分子と、水および/またはアルコールと、を含む貧溶媒相と、の2相を含む乳化液を形成させる工程。
(b)該乳化液を、撹拌下で加熱および/または減圧を行い、該乳化液中に含有する有機溶媒の一部または全部を揮散除去して、ポリマー微粒子を析出させる工程。
【請求項9】
前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコール、ポリ(ビニルアルコール-エチレン)共重合体、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体およびポリビニルピロリドン類からなる群より選ばれる1種以上である、請求項8に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記有機相がさらに発光材料または着色材料を含む、請求項8に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記発光材料または着色材料の吸収スペクトルが、波長400nm以上800nm以下の範囲に少なくとも1つの極大ピークを有する、請求項10に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項12】
バインダー樹脂と、請求項1~7のいずれかに記載のポリマー微粒子とを含む、組成物。
【請求項13】
請求項1~11のいずれかに記載のポリマー微粒子を含む、光学部材。
【請求項14】
光源と、請求項6または7に記載のポリマー微粒子とを含む、光源ユニット。
【請求項15】
請求項14に記載の光源ユニットを備える、ディスプレイ。
【請求項16】
請求項14に記載の光源ユニットを備える、照明装置。
【請求項17】
請求項6または7に記載のポリマー微粒子を含む、インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー微粒子とその製造方法、および当該ポリマー微粒子を含む組成物と、当該ポリマー微粒子を用いて製造される光学部材、光源ユニット、ディスプレイ、照明装置およびインクに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー微粒子とは、ポリマーからなる微粒子のことであり、一般的にその直径は、数十nmから数百μmの大きさである。ポリマー微粒子は、フィルム、繊維、射出成形品、押出成形品などのポリマー成形品とは異なり、比表面積が大きい点や、微粒子の形状である点などを利用することで、各種材料の改質、改良に用いられている。主要用途としては、化粧品の改質剤、トナー用添加剤、光拡散、光吸収などの光学用途、塗料などのレオロジー改質剤、医療用診断検査剤、自動車材料、建築材料などの成形品への添加剤、3Dプリンタ用粉末原料などが挙げられる。
【0003】
従来のポリマー微粒子の一般的な製造方法としては、ラジカル重合法を始めとするビルドアッププロセスや、機械的粉砕、溶解析出法等のトップダウンプロセスに大別することができる。
【0004】
代表的なビルドアッププロセスとしては、乳化重合などのビニル系重合体のラジカル重合法を挙げることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
代表的なトップダウンプロセスとして簡便に用いられている方法は、機械的粉砕法や溶解析出法である。機械的粉砕法は、樹脂ペレットなどを、液体窒素などにより凍結させ、機械的に粉砕する方法である。溶解析出法は、樹脂を溶媒中に溶解させ、冷却や溶媒除去など溶解性を低下させることで微粒子を得る方法である(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
さらには、光学性能に優れた樹脂とともに発光材料を溶解させ、スプレードライ法で粒子を取出し、発光材料を樹脂マトリクスに含有させ粒子化したものが報告されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-133328号公報
【特許文献2】特開2005-054153号公報
【特許文献3】WO2020/050144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されているようなビルドアッププロセスで検討されている樹脂は、アクリル、スチレン等を原料とする一部のビニル系重合体に限られており、光学用途に適した所望の樹脂でポリマー微粒子を得ることに制限があるという課題があった。また、乳化させたモノマーを重合して作製するため、乳化剤や重合開始剤、それらの変質物などが重合後のポリマー微粒子中に残留することが避けられず、光学用途での長時間使用において、微量不純物に起因する着色等の光学特性変化が課題であった。
【0009】
一方で、トップダウンプロセスであれば、所望の特性を有する樹脂を微粒子形状に加工するため、光学性能に優れた樹脂でポリマー微粒子を得られるという利点を有する。また、精製済の高純度樹脂をそのまま粒子化できるため、ポリマー微粒子中への微量不純物残留を防ぐ観点でも利点を有する。しかし、この手法のうち機械的粉砕法では、樹脂を凍結させることが必要になるため、エネルギーコストがかかり、また得られた粉砕物は、一般的に不定形状になるという課題があった。また特許文献2に記載されているような溶解析出法でも一般的に不定形状になるという課題の他、粒子が多孔質となるなど比表面積が大きくなるという課題があった。
【0010】
さらに、近年、光学用途では光源に求められる照度が高まっており、発光材料や着色材料を含有する部材の劣化が課題となっている。上記特許文献3には、確かに、ポリマーの微粒子化により高活性種の伝播を抑制し、部材全体の加速的な劣化を抑制する技術が開示されているが、光源の急速な高照度化に対し、既存の技術では、未だこの課題を十分に解決できていなかった。具体的には、ポリマー微粒子の組成や形状に関する設計技術が不十分であった。例えば、上記特許文献3に開示されている技術は、確かに、発光材料や着色材料を含有するポリマー微粒子が作製可能であるが、粒子を構成する樹脂の最適化に関しては不十分であり、また、粒子形状が不定形状となることにより、光学的損失や劣化促進が起こる課題があった。
【0011】
そこで、本発明は、光学用途に適し、さらに粒子の真球度が高く、均一性、等方性に優れたポリマー微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は以下の構成をとる。
[1]波長400nm以上800nm以下の範囲で光線透過率が85%以上であり、固有複屈折が-30×10-4以上+30×10-4以下である樹脂を主成分とするポリマー微粒子であって、D50粒子径が0.1μm以上100μm以下、真球度が80以上100以下であることを特徴とする、ポリマー微粒子。
[2]亜麻仁油吸油量が1mL/100g以上200mL/100g以下である、[1]に記載のポリマー微粒子。
[3]D90粒子径/D10粒子径が1.0以上5.0以下である、[1]または[2]に記載のポリマー微粒子。
[4]前記樹脂の比重が1.15g/cm3以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリマー微粒子。
[5]前記樹脂のガラス転移温度が100℃以上 である、[1]~[4]のいずれかに記載のポリマー微粒子。
[6]前記ポリマー微粒子がさらに発光材料または着色材料を含む、[1]~[5]のいずれかに記載のポリマー微粒子。
[7]前記発光材料または着色材料の吸収スペクトルが、波長400nm以上800nm以下の範囲に少なくとも1つの極大ピークを有する、[6]に記載のポリマー微粒子。
[8]下記(a)および(b)の工程を順次行うことを特徴とするポリマー微粒子の製造方法。
(a)波長400nm以上800nm以下の範囲で光線透過率が85%以上であり、固有複屈折が-30×10-4以上+30×10-4以下である樹脂と、有機溶媒と、を含む有機相と、水溶性高分子と、水および/またはアルコールと、を含む水相と、の2相を含む乳化液を形成させる工程。
(b)該乳化液を、撹拌下で加熱および/または減圧を行い、該乳化液中に含有する有機溶媒の一部または全部を揮散除去して、ポリマー微粒子を析出させる工程。
[9]前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコール、ポリ(ビニルアルコール-エチレン)共重合体、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体およびポリビニルピロリドン類からなる群より選ばれる1種以上である、[8]に記載のポリマー微粒子の製造方法。
[10]前記有機相がさらに発光材料または着色材料を含む、[8]または[9]に記載のポリマー微粒子の製造方法。
[11]前記発光材料または着色材料の吸収スペクトルが、波長400nm以上800nm以下の範囲に少なくとも1つの極大ピークを有する、[10]に記載のポリマー微粒子の製造方法。
[12]バインダー樹脂と、[1]~[7]のいずれかに記載のポリマー微粒子とを含む、組成物。
[13]光源と、[6]または[7]に記載のポリマー微粒子とを含む、光源ユニット。
[14][13]に記載の光源ユニットを備える、ディスプレイ。
[15][13]に記載の光源ユニットを備える、照明装置。
[16][6]または[7]に記載のポリマー微粒子を含む、インク。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るポリマー微粒子は光学用途に適しており、光学的損失が非常に小さい光源ユニット、インクなどの光学材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1で得られたポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡写真
【
図2】比較例2で得られたポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡写真
【
図3】実施例3で得られたポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡写真
【
図4】比較例3で得られたポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡写真
【
図5】本発明の実施の形態に係る光学部材の一例を示す模式断面図
【
図6】本発明の実施の形態に係る光学部材の一例を示す模式断面図
【
図7】本発明の実施の形態に係る光学部材の一例を示す模式断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0016】
本発明において「以上」とは、そこに示す数値と同じかまたはそれよりも大きいことを意味する。また、「以下」とは、そこに示す数値と同じかまたはそれよりも小さいことを意味する。また、「未満」とは、そこに示す数値よりも小さいことを意味する。
【0017】
(微粒子)
本発明の実施の形態に係るポリマー微粒子のD50粒子径は、0.1~100μmの範囲である。D50粒子径が100μmを超えると、粒子サイズが光学材料で使用するフィルム等の層厚み以上となり、ザラつきや外観低下の原因となる。D50粒子径が0.1μm未満であると、ポリマー微粒子の表面積が大きくなり、スラリーやインクで使用する際に増粘する原因となって好ましくない。
【0018】
ポリマー微粒子のD50粒子径の上限は、70μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、20μm以下が特に好ましく、10μm以下が著しく好ましく、5μm以下が最も好ましい。またその下限は、0.2μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1.0μm以上がさらに好ましく、1.5μm以上がいっそう好ましく、2.0μm以上が特に好ましい。
【0019】
ポリマー微粒子のD50粒子径は、レーザー回折式粒径分布計にて測定される粒径分布の小粒径側からの累積度数が50%となる粒径(D50粒子径)である。
【0020】
ポリマー微粒子の粒度分布は、粒度分布のD90粒子径とD10粒子径の比であるD90粒子径/D10粒子径(以下、D90/D10と表記する)で表され、1.0以上5.0以下であることが好ましい。ポリマー微粒子の粒度分布が狭い方が、粒子サイズの差による光散乱性の差が無くなり、より光学的な均一性が得られるため好ましい。従ってD90/D10の上限は、4.0以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましい。また、その下限値は、粉末状態での充填性に優れる点で、1.5以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。
【0021】
ポリマー微粒子のD90/D10は、上記したレーザー回折式粒径分布計により測定した粒径分布の小粒径側からの累積度数が90%となる粒径(D90)を小粒径側からの累積度数が10%となる粒径(D10)で除した値である。
【0022】
本発明の実施の形態に係るポリマー微粒子の真球性を示す真球度は、80以上100以下ある。真球度が80に満たない場合には、ポリマー微粒子を透過する光の等方性が損なわれる。真球度は、好ましくは85以上100以下、より好ましくは90以上100以下、さらに好ましくは93以上100以下、特に好ましくは95以上100以下である。
【0023】
ポリマー微粒子の真球度は、走査型電子顕微鏡の写真から無作為に30個の粒子を観察し、その短径と長径から下記数式に従い、決定される。
【0024】
【0025】
この式において、S:真球度、a:長径、b:短径、n:測定数30である。
【0026】
本発明の実施の形態に係るポリマー微粒子表面の平滑性は、亜麻仁油を吸収する量(亜麻仁油吸油量)で表すことが可能である。即ち、表面が平滑であるほど表面に孔の存在しない微粒子となり、亜麻仁油吸油量が少なくなる。
【0027】
ポリマー微粒子の亜麻仁油吸油量は、1mL/100g以上200mL/100g以下であることが好ましい。ポリマー微粒子の亜麻仁油吸油量が小さい方が粒子の表面が平滑かつ内部が中実となり、粒子表面での望まない光散乱や粒子内部での多重反射による光学的損失を低減することができ、また、多重励起による発光材料や着色材料の劣化促進を抑制することができる。更には、スラリーやインクで使用する際に増粘を抑制できる。亜麻仁油吸油量の上限としては、150mL/100g以下がより好ましく、120mL/100g以下がさらに好ましく、100mL/100g以下がいっそう好ましく、70mL/100g以下が特に好ましい。下限としては特に限定されないが、10mL/100g以上がより好ましく、20mL/100g以上がさらに好ましく、30mL/100g以上が特に好ましい。
【0028】
ポリマー微粒子の亜麻仁油吸油量は、日本工業規格(JIS規格)JIS K 5101(2004)“顔料試験方法 精製あまに油法”に準じて測定される。
【0029】
本発明の実施の形態に係るポリマー微粒子の表面の平滑性や内部の中実性は、ガス吸着によるBET比表面積によって表すことが可能である。ポリマー微粒子の表面が平滑であり、かつ内部が中実であると、ポリマー微粒子表面及び内部での光散乱による光学的損失を低減することができるため、好ましい。更には、その表面積が小さくなり、流動性が向上し取り扱い性に優れるため、好ましい。ここでは、表面が平滑であるほど、BET比表面積は小さくなることを意味する。具体的には、ポリマー微粒子のBET比表面積が10m2/g以下であることが好ましく、より好ましくは5m2/g以下であり、さらに好ましくは3m2/g以下であり、特に好ましくは1m2/g以下である。また、その下限値は、粒子径が100μmであった場合に理論上0.05m2/gである。
【0030】
ポリマー微粒子のBET比表面積は、日本工業規格(JIS規格)JIS R 1626(1996)“気体吸着BET法による比表面積の測定方法”に準じて測定される。
【0031】
本発明の実施の形態に係るポリマー微粒子の中実性は、BET比表面積とD50粒子径から算出される理論表面積の比を示す下記の式によって評価することもできる。下記式の値が1に近いほど、粒子の最表面のみで吸着が起こるため、表面平滑で中実な粒子であることを示す。下記式の値は、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましく、2以下が最も好ましい。また、その下限値は、理論上1である。
【0032】
【0033】
この式において、R:表面積の比、D:D50粒子径、α:ポリマー微粒子の密度、A:BET比表面積である。
【0034】
(微粒子中の樹脂)
本発明の実施の形態に係るポリマー微粒子の主成分となる樹脂は、波長400nm以上800nm以下の範囲で光線透過率が85%以上である。光線透過率が高いほど樹脂の透明性が向上し、光源ユニットなどで用いる際に光学的損失を小さくすることができる。また、ポリマー微粒子が発光材料または着色材料を含む場合には、その発色を良くすることが可能となる。光線透過率は、87%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上、特に好ましくは92%以上である。
【0035】
樹脂の波長400nm以上800nm以下の範囲での光線透過率は、膜厚1μm以上100μm以下の樹脂サンプル片を作製し、市販の測定器(例えば日立製作所(株)製の紫可視分光光度計(商品名 U-3010))を用いて測定することができる。
【0036】
また、樹脂は、その固有複屈折が-30×10-4以上+30×10-4以下である。固有複屈折の絶対値が小さいほど、光の拡散を防止することができる。また、ポリマー微粒子が発光材料または着色材料を含む場合には、その発色を向上することが可能となる。固有複屈折は、下限としては-25×10-4以上であることが好ましく、より好ましくは-20×10-4以上、さらに好ましくは-15×10-4以上である。また上限としては+25×10-4以下であることが好ましく、より好ましくは+20×10-4以下、さらに好ましくは+15×10-4以下である。
【0037】
樹脂の固有複屈折は、AM1法やPM3法等の分子軌道法によって、構成単位それぞれの結合単位における誘電分極差を計算し、その体積平均として下記ローレンツ-ローレンツの式によって固有複屈折値を算出することができる。
【0038】
【0039】
この式において、Δn0:固有複屈折値、ΔP:分子鎖軸方向の誘電分極率と分子鎖軸に直角方向の誘電分極率との差、n:屈折率、d:密度、N:アボガドロ数、M:分子量である。
【0040】
樹脂の比重は、材料の軽量化が可能となる観点から、1.20g/cm3以下であることが好ましく、1.15g/cm3以下であることがより好ましく、1.12g/cm3以下であることが特に好ましい。
【0041】
樹脂のガラス転移温度(Tg)は、内包する発光材料の熱拡散や分子運動を抑制する観点から、100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることが特に好ましい。樹脂のTgの上限としては特に限定されないが、180℃以下であることが好ましい。樹脂のガラス転移温度は、市販の測定器(例えば、TAインスツルメント社製の示差走査熱量計(商品名 DSCQ20)によって、昇温速度20℃/分の条件により測定することができる。なお、サンプルの形態は測定用の容器に入れば特に限定されないが、粉末、細かく裁断したペレット、フィルム、あるいは樹脂溶液をキャストした後に十分乾燥して溶剤を除去した状態で測定することが好ましい。
【0042】
本発明の実施の形態に係るポリマー微粒子において、粒子を構成する樹脂としては、透明性、耐熱性等に優れる材料が好適に用いられる。樹脂の種類の例としては、例えば、アクリル酸系、メタクリル酸系、ポリケイ皮酸ビニル系、環ゴム系等の反応性ビニル基を有する光硬化型レジスト材料、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂(シリコーンゴム、シリコーンゲル等のオルガノポリシロキサン硬化物(架橋物)を含む)、ウレア樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、脂肪族エステル樹脂、芳香族エステル樹脂、脂肪族ポリオレフィン樹脂、芳香族ポリオレフィン樹脂等の公知のものが挙げられる。また、これらの樹脂の混合物や共重合体を用いても構わない。これらの樹脂を適宜設計することで、本発明の実施の形態に係るポリマー微粒子に有用な樹脂が得られる。
【0043】
これらの樹脂の中でも、透明性や発光材料または着色材料の分散性の観点から、アクリル樹脂、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル部位を含む共重合樹脂、ポリエステル樹脂、シクロオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂のいずれかであることが好ましい。より好ましくは、アクリル樹脂、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル部位を含む共重合樹脂、ポリエステル樹脂であり、特に好ましくはアクリル樹脂、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル部位を含む共重合樹脂である。また、耐熱性の観点からは、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂を好適に用いることができる。
【0044】
本発明の実施の形態に係るポリマー微粒子は、分子構造中に、脂肪族炭化水素環、脂肪族複素環およびSP3炭素を含む環からなる群より選ばれる少なくとも1種の環構造を有する樹脂を主成分とすることが好ましい。樹脂が分子構造中に環構造を有する場合、樹脂の分子運動が抑制され、発光材料または着色材料の分散状態の変化を抑制し、これらの材料同士の近接を抑制することができる。さらに、環構造が脂肪族炭化水素環、脂肪族複素環およびSP3炭素を含む環からなる群より選ばれる少なくとも1種の環構造であることで、樹脂中のπ共役構造が少なくなり、光吸収による活性種の生成が低減する。これらにより、発光材料または着色材料の劣化を抑制し、ポリマー微粒子の耐久性の悪化を防ぐことができる。ここで、SP3炭素とは、SP3混成軌道で4つの原子と結合している炭素原子を示す。
【0045】
脂肪族炭化水素環、脂肪族複素環およびSP3炭素を含む環を構成する原子数は、特に限定されないが、通常3~30個、好ましくは4~20個、より好ましくは5~15個の範囲である。
【0046】
脂肪族炭化水素環、脂肪族複素環およびSP3炭素を含む環構造の具体例としては、例えば、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、ノルボルネン、アダマンタン、ピロリジン、ピペリジン、エチレンオキシド、オキセタン、フラン、テトラヒドロピラン、モルホリン、ジオキサン、インダン、フルオレン、環状エステル、環状アミド、およびそれらの誘導体が挙げられる。中でも、シクロヘキサン、ノルボルネン、アダマンタン、エチレンオキシド、オキセタン、フルオレン、環状エステル、環状アミド、およびそれらの誘導体が好ましく、シクロヘキサン、ノルボルネン、アダマンタン、フルオレン、環状エステル、およびそれらの誘導体がより好ましく、シクロヘキサン、ノルボルネン、フルオレン、環状エステル、およびそれらの誘導体がいっそう好ましく、シクロヘキサン、ノルボルネン、およびそれらの誘導体が特に好ましい。
【0047】
本発明の実施の形態に係るポリマー微粒子は、主成分である樹脂が、脂肪族炭化水素環、脂肪族複素環およびSP3炭素を含む環からなる群より選ばれる少なくとも1種の環構造をポリマー主鎖に有する樹脂、および、ポリマー主鎖に脂肪族炭化水素環、脂肪族複素環およびSP3炭素を含む環からなる群より選ばれる少なくとも1種の環構造がポリマー主鎖に直接連結している樹脂のうち少なくとも一方の樹脂を主成分とすることが好ましい。環構造がポリマー主鎖中に含まれる、あるいは環構造が主鎖に直接結合している場合、環構造をポリマー側鎖に導入する場合よりも効率的に樹脂の分子運動が抑制でき、発光材料または着色材料の分散状態の変化を抑制することができる。
【0048】
また、発光材料または着色材料を樹脂中に良好に分散させるためには、樹脂が、発光材料または着色材料との相溶性の高い部分構造と、相溶性の低い部分構造とを併せ持つことが好ましい。樹脂のさらに好ましい形態として、発光材料または着色材料との相溶性の高い部分構造と相溶性の低い部分構造をランダムに含む共重合体であることが好ましい。
【0049】
発光材料または着色材料との相溶性が高い部分構造としては、特に限定されるものではないが、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルに由来する部位や、エステル結合やアミド結合で連結された部位が挙げられる。一方、発光材料または着色材料との相溶性が低い部分構造としては、特に限定されるものではないが、炭素原子のみからなるビニル化合物や脂肪族炭化水素環を有するビニル化合物由来の部位が挙げられる。よって、樹脂として、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステルもしくはメタクリル酸エステルに由来する部位、およびエステル結合もしくはアミド結合で連結された部位のうち少なくとも一方と、炭素原子のみからなるビニル化合物由来の部位および脂肪族炭化水素環を有するビニル化合物由来の部位のうち少なくとも一方と、を有することが好ましい。
【0050】
発光材料または着色材料との相溶性を確保し、良好に分散させる観点から、上記共重合体における発光材料または着色材料との相溶性が高い部分構造の含有量は、樹脂の総量のうち、30重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。一方、上記共重合体における発光材料または着色材料との相溶性が低い部分構造の含有量は、樹脂の総量のうち、70重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましい。
【0051】
樹脂の好適な例として、特に限定されるものではないが、分子構造中に一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する樹脂が挙げられる。
【0052】
【0053】
一般式(1)中、Y1およびY2は同じでも異なっていてもよく、水素原子または炭素数1以上20以下の有機基である。
【0054】
一般式(2)中、Y3~Y6は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子または炭素数1以上20以下の有機基であり、かつ、Y3~Y6のうち少なくとも一つは、脂肪族環状炭化水素構造を含む基である。
【0055】
共重合の反応性が良好である観点からY1は水素原子またはメチル基であることが好ましく、ラジカルの生成を低減する観点からメチル基であることがより好ましい。
【0056】
樹脂の耐熱性を高める観点から、Y2は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基またはヘテロアリール基が好ましい。また、これらの基は、さらに上述の置換基により置換されていてもよい。これらの中でも、Y2がメチル基またはシクロアルキル基であることがより好ましい。発光材料または着色材料との相溶性の観点から、メチル基であることがさらに好ましい。
【0057】
樹脂の耐熱性を高める観点から、Y3~Y6は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基またはヘテロアリール基が好ましい。また、これらの基は、さらに上述の置換基により置換されていてもよい。
【0058】
Y3~Y6のうち少なくとも一つは、脂肪族環状炭化水素構造を含む基であり、特に制限はないが、入手の容易性やコストの観点から、Y3~Y6のうち少なくとも一つが置換もしくは無置換のシクロヘキシル基であることが好ましい。また、Y3~Y6のうち一つが置換もしくは無置換のシクロヘキシル基であり、その他三つが水素原子であることがより好ましい。
【0059】
一般式(1)で表される部分構造の繰り返し単位の含有量は、特に限定されないが、樹脂の総量のうち、30重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましく、60重量%以上がさらに好ましく、70重量%以上が特に好ましい。一般式(1)で表される部分構造の繰り返し単位の割合が上記範囲であることにより、発光材料または着色材料との相溶性を確保でき、良好に分散させることができる。
【0060】
一般式(1)で表される部分構造の繰り返し単位の含有量は、樹脂の総量のうち、95重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましく、85重量%以下がさらに好ましい。一般式(1)で表される部分構造の繰り返し単位の割合が上記範囲であることにより、発光材料または着色材料との相溶性を確保でき、良好に分散させることができる。
【0061】
一般式(2)で表される部分構造の繰り返し単位の含有量は、樹脂の総量のうち、5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましく、15重量%以上が特に好ましい。一般式(2)で表される部分構造の繰り返し単位の含有量が上記範囲であることで、発光材料または着色材料との相溶性を確保でき、良好に分散させることができる。
【0062】
一般式(2)で表される部分構造の繰り返し単位の含有量は、樹脂の総量のうち、70重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましい。一般式(2)で表される部分構造の繰り返し単位の割合が上記範囲であることにより、発光材料または着色材料との相溶性を確保でき、良好に分散させることができる。
【0063】
樹脂は、例えば、各原料モノマーを重合開始剤や触媒の存在下で共重合させるなどの方法により得ることができる。また、市販品を用いることもできる。市販の樹脂としては、例えば、三菱瓦斯化学(株)製のOptimas(登録商標)6500やOptimas(登録商標)7500)やユピゼータ(登録商標)EP-5000、大阪ガスケミカル株式会社製OKP(登録商標)4やOKP(登録商標)-A1等が挙げられるが、これらに限るものではない。他には、特開2021-162621や特開2022-116643、特開2022-179996、特開2022-72382、特開2020-180184、特開2018-53044等で開示されている樹脂も好適に用いることができる。
【0064】
(発光材料または着色材料)
本発明の実施の形態に係るポリマー微粒子は、微粒子中に発光材料または着色材料を含むことが好ましい。
【0065】
本発明で好適に用いられる発光材料または着色材料は、その吸収スペクトルが、波長400nm以上800nm以下の範囲に少なくとも1つの極大ピークを有することが好ましい。
【0066】
本発明で好適に用いられる発光材料または着色材料の具体例としては、例えば、無機蛍光体、蛍光顔料、蛍光染料、量子ドット等が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。中でも樹脂への高い分散性、使用量の低減、環境負荷の低減の観点から、有機顔料あるいは有機染料を用いることがより好ましい。
【0067】
有機顔料あるいは有機染料として、例えば、
ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、ペリレン、フルオランテン、フルオレン、インデン等の縮合アリール環を有する化合物やその誘導体;
フラン、ピロール、チオフェン、シロール、9-シラフルオレン、9,9’-スピロビシラフルオレン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、インドール、ジベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、イミダゾピリジン、フェナントロリン、ピリジン、ピラジン、ナフチリジン、キノキサリン、ピロロピリジン等のヘテロアリール環を有する化合物やその誘導体;
ボラン誘導体;
1,4-ジスチリルベンゼン、4,4’-ビス(2-(4-ジフェニルアミノフェニル)エテニル)ビフェニル、4,4’-ビス(N-(スチルベン-4-イル)-N-フェニルアミノ)スチルベン等のスチルベン誘導体;
芳香族アセチレン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、アルダジン誘導体、ピロメテン誘導体、ジケトピロロ[3,4-c]ピロール誘導体;
クマリン6、クマリン7、クマリン153などのクマリン誘導体;
イミダゾール、チアゾール、チアジアゾール、カルバゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾールなどのアゾール誘導体およびその金属錯体;
インドシアニングリーン等のシアニン系化合物;
フルオレセイン・エオシン・ローダミン等のキサンテン系化合物やチオキサンテン系化合物;
ポリフェニレン系化合物、ナフタルイミド誘導体、フタロシアニン誘導体およびその金属錯体、ポルフィリン誘導体およびその金属錯体;
ナイルレッドやナイルブルー等のオキサジン系化合物;
ヘリセン系化合物;
N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(3-メチルフェニル)-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミン等の芳香族アミン誘導体;および
イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、オスミウム(Os)、及びレニウム(Re)等の有機金属錯体化合物;
等が好適なものとして挙げられる。
【0068】
これらの中でも、吸光係数が大きく、耐熱性が比較的高いことから、ペリレン誘導体やキサンテン系化合物、ピロメテン誘導体、ジケトピロロ[3,4-c]ピロール誘導体、フタロシアニン誘導体およびその金属錯体、ポルフィリン誘導体およびその金属錯体がより好適なものとして挙げられる。
【0069】
(ポリマー微粒子の製造方法)
本発明の実施の形態に係るポリマー微粒子の製造方法は、下記(a)および(b)の工程を順次行う方法である。
(a)波長400nm以上800nm以下の範囲で光線透過率が85%以上であり、固有複屈折が-30×10-4以上+30×10-4以下である樹脂と、有機溶媒とを含むポリマー相(相1)と、水溶性高分子と、水および/またはアルコールとを含む貧溶媒相(相2)と、の2相を含む乳化液を形成させる工程。
(b)該乳化液を、撹拌下で加熱および/または減圧を行い、該乳化液中に含有する有機溶媒の一部または全部を除去して、ポリマー微粒子を析出させる工程。
【0070】
本方法では、相1と相2とからなる均質なエマルションを介し、有機溶媒を除去してポリマー微粒子を取り出す方法のため、所望の真球度、亜麻仁油吸油量のポリマー微粒子を製造することができる。更に、分散相と連続相の粘度比や、界面張力、与える撹拌動力を調整することで、所望の粒子径、粒度分布を有するポリマー微粒子を製造することができる。
【0071】
有機溶媒は、波長400nm以上800nm以下の範囲で光線透過率が85%以上であり、固有複屈折が-30×10-4以上+30×10-4以下である樹脂を溶解してポリマー相を形成することができ、かつ水溶性高分子と、水および/またはアルコールを含む貧溶媒相と分離するものであれば、特に限定されない。このような溶媒としては、適宜選択できるが、非プロトン性の溶媒が好ましく用いられる。具体的には、ヘキサン、シクロヘキサン、ジオキサン、トルエン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ピリジン、エチレングリコール、アセトニトリル、クロロホルム、ジクロロメタンなどが挙げられる。この中でも、沸点が低く、(b)工程で有機溶媒のみを選択的に除去できる点で、ヘキサン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、クロロホルム、ジクロロメタンがより好ましく、(a)工程で貧溶媒相との相溶しにくく安定なエマルションを形成できる点で、ヘキサン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタンがさらに好ましく、樹脂の溶解性に優れる点でシクロヘキサン、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタンが特に好ましい。
【0072】
本発明の実施の形態に係るポリマー微粒子の製造方法において好ましく用いられる水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリ(ビニルアルコール-エチレン)共重合体、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体およびポリビニルピロリドン類の中から選ばれる少なくとも1種以上である。この中でも分散相と連続相の界面安定化効果に優れ、均質なエマルションを形成できる点で、ポリビニルアルコール、ポリ(ビニルアルコール-エチレン)共重合体、ポリエチレングリコールがより好ましく、水への溶解性が高く、洗浄で除去しやすい点でポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールがさらに好ましい。
【0073】
本発明の実施の形態に係るポリマー微粒子の製造方法において貧溶媒相を形成する溶媒は、波長400nm以上800nm以下の範囲で光線透過率が85%以上であり、固有複屈折が-30×10-4以上+30×10-4以下である樹脂を溶解させず、水溶性高分子を溶解するものであれば、特に限定されない。このような溶媒としては適宜選択できるが、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類や水が挙げられ、有機溶媒を起因に造形物にボイドなどを発生させることを防ぐ観点から水が好ましい。
【0074】
得られた乳化液は、撹拌下で加熱および/または減圧を行い、該乳化液中に含有する有機溶媒の一部または全部を除去することで、ポリマー微粒子を析出させる。有機溶媒のみを選択的に除去する方法としては、特に制限されない。具体的には、任意の減圧度で留出してくる液の温度を観測して蒸気温度をモニタリングする方法、減圧度と反応槽の温度を観測して溶媒の蒸気圧曲線から判断する方法、留出した液を採取してGC、NMRなどで分析する方法などが挙げられる。各溶媒の、温度と蒸気圧の関係はAntoineの式より算出できる(改訂3版 化学便覧 基礎編II p111-132 日本化学会編 丸善株式会社参照)。溶媒の揮発挙動について観測できる観点から、蒸気温度を観測する方法が好ましい。
【0075】
このようにして得られたポリマー微粒子溶液は、ろ過法などの通常の固液分離法によりろ別し、得られた湿潤固体を必要に応じて、水などの溶媒にて洗浄し、乾燥工程を経て目的の乾燥粉体を得ることができる。
【0076】
(組成物および光学部材)
本発明の1つの実施の形態として、ポリマー微粒子をバインダー樹脂や溶剤、添加剤などと混合してポリマー微粒子を含む組成物とすることができる。本発明の実施の形態に係る組成物は、適用する部材に合わせて所望の形状に成形することができる。例えば、ポリマー粒子と樹脂を混合した組成物を、シート状やレンズ状、その他三次元立体形状に成形することで、所望の光学部材を作製することができる。成形の方法としては、所望の形状に成形できる方法であれば、特に限定されないが、公知の塗布法により塗布して乾燥する方法や、押し出し機を用いて成形する方法、3Dプリンター等による三次元積層造形法などが挙げられる。
【0077】
本発明の実施の形態に係る光学部材の代表的な構造例として、例えば、
図5~
図7に示すものが挙げられる。
図5~
図7は、本発明の実施の形態に係る光学部材の一例を示す模式断面図である。
【0078】
図5に示す形態では、光学部材1は、支持体3の内部にポリマー微粒子2が分散した構造である。
【0079】
図6に示す形態では、光学部材1は、支持体3の内部にポリマー微粒子2aおよびポリマー微粒子2bが分散した構造である。ポリマー微粒子2aおよび2bは、例えば、発光色が互いに異なるなど、互いの異なる特性を備えたものである。
【0080】
図7に示す形態では、光学部材1は、内部にポリマー微粒子2aが分散した支持体3aと内部にポリマー微粒子2bが分散した支持体3bが積層した構造である。
【0081】
ここで、支持体の材質としては、特に制限無く公知の金属、樹脂、ガラス、セラミック、紙等を使用することができるが、透明性や加工成形性の観点から、支持体は樹脂からなることが好ましい。
【0082】
本発明の実施の形態に係る光学部材の1つの例として、入射光を異なる波長の光に変換する、色変換部材が挙げられる。発光材料を含む本発明のポリマー粒子は、光学的損失が小さく、耐久性にも優れるため、好適に用いることができる。
【0083】
本発明の実施の形態に係る光学部材の別の例として、透明基板上に、複数の色変換層を備えた、色変換基板が挙げられる。本発明において、色変換層は、赤色変換層と緑色変換層とを含むことが好ましい。赤色変換層は少なくとも青色光を吸収して赤色光を発する蛍光体材料によって形成されている。緑色変換層は少なくとも青色光を吸収して緑色光を発する蛍光体材料によって形成されている。また、隔壁が形成されていてもよく、色変換層は、隔壁と隔壁の間(凹部)に配置されていることが好ましい。透明基板側から励起光を入射させ、透明基板と反対の側から視認してもよいし、色変換層側から励起光を入射させ、透明基板側から視認してもよい。色変換層の量子収率は、ピーク波長が440~460nmの青色光を色変換基板に照射したとき、通常は0.5以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上である。
【0084】
(光源)
本発明の実施の形態に係る光源は、特に限定されず、例えば、熱陰極管や冷陰極管、無機ELなどの蛍光性光源、有機エレクトロルミネッセンス素子光源、LED光源、白熱光源、あるいは太陽光などいずれの光源でも原理的には利用可能である。これらの中でも、LEDが好適な光源であり、ディスプレイや照明用途では、青色光の色純度を高められる点で、400~500nmの範囲に極大発光を有する青色LEDがさらに好適な光源である。さらに、波長430nm以上480nm以下の範囲に極大発光を有する青色LEDがより好ましく、波長450nm以上470nm以下の範囲に極大発光を有する青色LEDがさらに好ましい。
【0085】
光源は1種類の発光ピークを持つものでもよく、2種類以上の発光ピークを持つものでもよいが、色純度を高めるためには1種類の発光ピークを持つものが好ましい。また、発光ピークの種類の異なる複数の光源を任意に組み合わせて使用することも可能である。
【0086】
(光源ユニット)
本発明の実施の形態に係る光源ユニットは、上記の光源およびポリマー微粒子あるいはポリマー微粒子を含む部材を含む。本発明における光源ユニットは、空間照明、バックライト等種々の光源に有用であり、具体的にはディスプレイ、照明、インテリア、標識、看板などの用途に使用できるが、特にディスプレイや照明用途に特に好適に用いられる。
【0087】
(ディスプレイ、照明装置)
本発明の実施の形態に係るディスプレイは、少なくとも、上述したように光源およびポリマー微粒子を含む光源ユニットを備える。例えば、液晶ディスプレイ等のディスプレイには、バックライトユニットとして、上述の光源ユニットが用いられる。
【0088】
また、本発明の実施の形態に係る照明装置は、少なくとも、上述したように光源およびポリマー微粒子を含む光源ユニットを備える。例えば、この照明装置は、光源ユニットとしての青色LED光源と、この青色LED光源からの青色光をこれよりも長波長の光に変換するポリマー微粒子またはそれを含む色変換部材とを組み合わせて、白色光を発光するように構成される。
【0089】
(インク)
本発明のポリマー微粒子は、インクに用いることもできる。本発明の実施の形態に係るインクは、少なくとも本発明のポリマー微粒子を含んだ液体、ジェル、固体の状態で、文字の記載や表面への色付けのために用いられるものである。本発明の実施の形態に係るポリマー微粒子は、真球度が高く、形状が均一であるため、本発明の実施の形態に係るインクを用いることで、印刷面の平滑性を高め、表面凹凸による光散乱を抑制することができる。また、本発明のポリマー微粒子は耐久性にも優れるため、本発明の実施の形態に係るインクを用いることで、印刷物の長期使用が可能となる。
【実施例0090】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0091】
下記の実施例および比較例において、化合物D-1~D-2は以下に示す化合物である。
【0092】
【0093】
[測定・評価方法]
(1)樹脂の光線透過率
膜厚20μm以下のサンプル片を作製し、市販の測定器(例えば日立製作所(株)製の紫可視分光光度計(商品名 U-3010))を用いて測定した。
【0094】
(2)樹脂の固有複屈折
AM1法やPM3法等の分子軌道法によって、構成単位それぞれの結合単位における誘電分極差を計算し、その体積平均として下記ローレンツ-ローレンツの式によって固有複屈折値を算出した。
【0095】
【0096】
なお、上式において、Δn0:固有複屈折値、ΔP:分子鎖軸方向の誘電分極率と分子鎖軸に直角方向の誘電分極率との差、n:屈折率、d:密度、N:アボガドロ数、M:分子量とする。
【0097】
(3)ポリマー微粒子のD50粒子径、およびD90粒子径/D10粒子径
日機装株式会社製レーザー回折式粒径分布計測定装置(マイクロトラックMT3300EX II)に、予め100mg程度のポリマー微粒子を5mL程度の脱イオン水で分散させた分散液を測定可能濃度になるまで添加し、測定装置内で30Wにて60秒間の超音波分散を行った後、測定時間10秒で測定される粒径分布の小粒径側からの累積度数が50%となる粒径をD50粒子径とした。また、小粒径側からの累積度数が10%、90%となる粒径をD10粒子径、D90粒子径とし、その比率からD90粒子径/D10粒子径を算出した。なお測定時の屈折率は1.52、媒体(脱イオン水)の屈折率は1.333を用いた。
【0098】
(4)ポリマー微粒子の真球度
ポリマー微粒子の真球度は、日本電子(株)製走査型電子顕微鏡(JSM-6301NF)写真から無作為に30個の粒子を観察し、その短径と長径から下記数式に従い算出した。
【0099】
【0100】
なお、上式において、S:真球度、a:長径、b:短径、n:測定数30とする。
【0101】
(5)ポリマー微粒子の亜麻仁油吸油量
日本工業規格(JIS規格)JIS K 5101(2004)“顔料試験方法 精製あまに油法”に準じ、ポリマー微粒子約300mgを時計皿の上に精秤し、精製あまに油(関東化学株式会社製)をビュレットで1滴ずつ徐々に加え、パレットナイフで練りこんだ後に、試料の塊ができるまで滴下-練りこみを繰り返し、ペーストが滑らかな硬さになった点を終点とし、滴下に使用した精製あまに油の量から吸油量(mL/100g)を算出した。
【0102】
(6)樹脂の比重
樹脂の比重は、日本工業規格(JIS規格)JIS Z 8807(2012)に従い、ゲーリュサック型比重瓶(ピクノメーター)にサンプル10g程度とサンプルより比重が小さい溶媒を導入し、比重瓶のみ、比重瓶+サンプル、比重瓶+サンプル+溶媒、比重瓶+溶媒の重量をそれぞれ測定し、下記数式に従い算出した。なお、サンプルの形態は粉末、ペレット、フィルムのいずれかとする。
【0103】
【0104】
なお、d:微粒子比重、d0:溶媒比重、Wa:比重瓶重量、Wb:比重瓶+サンプル重量、Wc:比重瓶+サンプル+溶媒重量、Wd:比重瓶+溶媒重量とする。
【0105】
(7)ガラス転移温度
TAインスツルメント社製示差走査熱量計(DSCQ20)を用いて、窒素雰囲気下、30℃から樹脂の融点を示す吸熱ピークから30℃高い温度まで20℃/分の速度で昇温したDSC曲線において、低温側および高温側のベースラインを延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度をガラス転移温度とした。なお、融点ピークを示さない非晶ポリマーの場合、30℃から300℃まで昇温することでDSC曲線を得た。測定に要したサンプルは、約8mgであった。
【0106】
(8)粉末の光拡散性
充填粉末の光拡散性は、株式会社村上色彩技術研究所製変角分光測色計(GCMS-4型)を用いて入射角-45°で測定した受光角0°および+45°のL値の比により評価した。粘着テープの上にサンプル粉末を乗せ、スパチュラの背で粘着部分に粉末を均一に塗布した後、化粧用ブラシで過剰な粉末を除去し、白板のブランクに対する入射角-45°で測定した受光角0°および+45°のL値を測定し、以下の基準で評価した
〇:L(0°)/L(45°)が0.50以下。
△:L(0°)/L(45°)が0.50より大きく、0.75以下。
×:L(0°)/L(45°)が0.75より大きい。
【0107】
[実施例1]
樹脂としてポリメチルメタクリレート-水添スチレン共重合樹脂“Optimas”(登録商標)7500(三菱瓦斯化学(株)製、波長400nm以上800nm以下の範囲での光線透過率92%、固有複屈折-12×10-4、比重1.11g/cm3、ガラス転移温度120℃、屈折率1.496、一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する)45gと、溶媒として酢酸エチル255gとを混合し、15質量%のポリマー溶液を調製した。また、水258gにポリビニルアルコールGL-05(日本合成化学(株)製)42gを溶解させ、14質量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。1Lの槽に、該ポリマー溶液と該ポリビニルアルコール水溶液を添加し、40℃で、300rpmの回転数で撹拌することで、乳化液を得た。次にダイヤフラムポンプを用いて該1L槽を200hPaまで段階的に減圧した。200hPa到達後、さらに1時間減圧することで、該乳化液中の有機溶媒を除去し、ポリマー微粒子スラリーを得た。
【0108】
該ポリマー微粒子スラリーは、遠心分離および上澄みのデカンテーションにより溶媒とポリビニルアルコール水溶液を除去した。その後、水でリスラリーし、80℃下1時間温水洗浄を行った後、濾別することで粒子中の不純物を除去し、ポリマー微粒子ケークを得た。該ポリマー微粒子ケークは減圧乾燥を行い、ポリマー微粒子を収率90%で得た。得られたポリマー微粒子の特性および材料特性について表1に示した。得られたポリマー微粒子を導電テープに乗せて白金蒸着を行い、日本電子(株)製走査型電子顕微鏡(JSM-6301NF)にて倍率5000倍で撮影した写真を
図1に示した。
【0109】
[実施例2]
水279gにポリビニルアルコールGL-05を21g溶解させた7質量%のポリビニルアルコール水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法でポリマー微粒子を作製した。得られたポリマー微粒子の特性および材料特性について表1に示した。
【0110】
[比較例1]
200mLの槽にポリマー(A)としてポリカーボネート(出光興産株式会社製‘タフロン(登録商標)’A2200、波長400nm以上800nm以下の範囲での光線透過率85%、固有複屈折1060×10-4、比重1.20g/cm3、ガラス転移温度150℃)5.0g、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン40g、ポリマー(B)としてポリビニルアルコールGL-05を5.0g加え、80℃に加熱し、ポリマーが溶解するまで攪拌を行った。系の温度を80℃に維持したまま、450rpmで攪拌しながら、100gのイオン交換水を、送液ポンプを経由して、1.64g/分のスピードで滴下した。全量の水を入れ終わった後に、ろ過し、イオン交換水100gで洗浄し、濾別したものを10時間凍結乾燥することで、ポリマー微粒子を得た。得られたポリマー微粒子の特性および材料特性について表1に示した。
【0111】
[比較例2]
樹脂としてOptimas(商標)7500(三菱瓦斯化学(株)製)をフリーザーミルにて凍結粉砕し、ポリマー微粒子を作製した。得られたポリマー微粒子の特性および材料特性について表1に示した。実施例1と同様に、走査型電子顕微鏡にて倍率200倍で撮影した写真を
図2に示した。
【0112】
[実施例3]
ポリマー溶液にD-1を0.41g添加した以外は、実施例1と同様の方法でポリマー微粒子を作製し、発光剤含有ポリマー微粒子を収率92%で得た。得られたポリマー微粒子の特性および材料特性について表1に示した。実施例1と同様に、走査型電子顕微鏡にて倍率5000倍で撮影した写真を
図3に示した。
【0113】
[実施例4]
ポリマー溶液にD-2を0.01g添加した以外は、実施例3と同様の方法で発光剤含有ポリマー微粒子を作製した。得られたポリマー微粒子の特性および材料特性について表1に示した。
【0114】
[比較例3]
国際公開WO2020/050144号公報の実施例1に記載されたものと同様に、樹脂としてOptimas(商標)7500(三菱瓦斯化学(株)製)を用い、この樹脂100質量部に対してD-1を0.3質量部、溶剤としてトルエンを400質量部混合した。これらの混合溶液を、遊星式撹拌・脱泡装置“マゼルスターKK-400”(クラボウ製)を用いて300rpmで30分間撹拌・脱泡した。この混合溶液をスプレードライ法で乾燥させることにより、ポリマー微粒子を作製した。得られたポリマー微粒子の特性および材料特性について表1に示した。実施例1と同様に、走査型電子顕微鏡にて倍率1000倍で撮影した写真を
図3に示した。
【0115】