(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136653
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】成型用フィルム及びそれを用いた成型体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047835
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河田 融司
(72)【発明者】
【氏名】白井 克哉
(72)【発明者】
【氏名】森下 健太
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK12C
4F100AK25C
4F100AK42A
4F100AK45C
4F100AK51B
4F100AK51G
4F100AK74C
4F100AT00
4F100BA03
4F100BA08A
4F100BA14A
4F100CB02B
4F100CB02G
4F100EC182
4F100EC18B
4F100EC18G
4F100GB07
4F100GB31
4F100GB48
4F100JA03
4F100JJ03
4F100JL01
4F100JN06
(57)【要約】
【課題】本発明は、成型加工時の成型性に優れ、かつ成型体に加工した後の耐熱性に優れる成型用フィルムを提供することその課題とする。
【解決手段】ポリエステルフィルムの少なくとも片面に樹脂層(X層)を有する成型用フィルムであって、前記ポリエステルフィルムの150℃30分条件下での熱収縮率が、最も大きい方向において-1.0%以上2.0%以下であることを特徴とする、成型用フィルム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に樹脂層(X層)を有する成型用フィルムであって、前記ポリエステルフィルムの150℃30分条件下での熱収縮率が、最も大きい方向において-1.0%以上2.0%以下であることを特徴とする、成型用フィルム。
【請求項2】
前記X層の主成分が非結晶性樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の成型用フィルム。
【請求項3】
前記X層と前記ポリエステルフィルムとの間に少なくとも1つの接着層を有することを特徴とする、請求項1に記載の成型用フィルム。
【請求項4】
前記ポリエステルフィルムが熱可塑性樹脂Aを主成分とする層(A層)と前記熱可塑性樹脂Aとは異なる熱可塑性樹脂Bを含む層(B層)が厚み方向に交互に合計51層以上積層された構成を有することを特徴とする、請求項1に記載の成型用フィルム。
【請求項5】
波長帯域400nm~700nmにおける平均反射率が30%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の成型用フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の成型用フィルムを有することを特徴とする、成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型用フィルム及びそれを用いた成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりにより、建材、自動車部品、携帯電話、及び電機製品などの分野において、溶剤レス塗装、メッキ代替の加飾方法などの要望が高まっており、フィルムを使用した加飾方法の導入が進んでいる。そして、金属調や高光沢調は高い意匠性を演出することができるためニーズが高い。また、各種デバイスに赤外線センサーを搭載することも多くなっており、赤外線の透過性を担保しつつ、外部からセンサーが見えなくするようなニーズも存在する。
【0003】
フィルムを用いて金属調の加飾を施す方法としては、真空蒸着法またはスパッタリング法、イオンブレーティング法などの蒸着法を利用してフィルムにアルミニウムやインジウム、クロム等を主成分とする意匠層を形成し、これを対象部材に転写する方法が知られている(特許文献1)。また、別の方法としては、光干渉多層膜を使用した成型用フィルムの成型性を高める手法として、光干渉多層膜の少なくとも片面にポリカーボネート樹脂またはアクリル樹脂を積層する方法や、成型性フィルム全体の貯蔵弾性率や延伸応力を制御する方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-201032号公報
【特許文献2】特開2018-69552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、インサート成型や真空圧空成型をはじめとした成型加工時の延伸により蒸着面の割れや隠蔽性の悪化が見られることや、赤外線の透過性が十分ではないことが課題であった。特許文献2に記載の技術では、成型加工を行った後の成型体を加熱した際に、成型用フィルムの内部で剥離が発生するという課題があった。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の問題点を改良し、成型加工時の成型性に優れ、成型体の熱安定性に優れる成型用フィルムを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の成型用フィルムは以下の構成よりなる。すなわち、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に樹脂層(X層)を有する成型用フィルムであって、前記ポリエステルフィルムの150℃30分条件下での熱収縮率が、最も大きい方向において-1.0%以上2.0%以下であることを特徴とする、成型用フィルムである。
【0008】
また、本発明の成型用フィルムは以下の態様とすることができ、また、以下の通り本発明の成型用フィルムを用いて成型体を得ることもできる。
(1) ポリエステルフィルムの少なくとも片面に樹脂層(X層)を有する成型用フィルムであって、前記ポリエステルフィルムの150℃30分条件下での熱収縮率が、最も大きい方向において-1.0%以上2.0%以下であることを特徴とする、成型用フィルム。
(2) 前記X層の主成分が非結晶性樹脂であることを特徴とする、(1)に記載の成型用フィルム。
(3) 前記X層と前記ポリエステルフィルムとの間に少なくとも1つの接着層を有することを特徴とする、(1)または(2)に記載の成型用フィルム。
(4) 前記ポリエステルフィルムが熱可塑性樹脂Aを主成分とする層(A層)と前記熱可塑性樹脂Aとは異なる熱可塑性樹脂Bを含む層(B層)が厚み方向に交互に合計51層以上積層された構成を有することを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載の成型用フィルム。
(5) 波長帯域400nm~700nmにおける平均反射率が30%以上であることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の成型用フィルム。
(6) (1)~(5)のいずれかに記載の成型用フィルムを有することを特徴とする、成型体。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、成型加工時の成型性に優れ、成型体に加工した後の耐熱性に優れるフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施態様である成型用フィルムをフィルム面と垂直な面で切断したときの断面図である(X層片面、接着層無し)。
【
図2】本発明の一実施態様である成型用フィルムをフィルム面と垂直な面で切断したときの断面図である(X層片面、接着層有り)。
【
図3】本発明の一実施態様である成型用フィルムをフィルム面と垂直な面で切断したときの断面図である(X層両面、接着層無し)。
【
図4】本発明の一実施態様である成型用フィルムをフィルム面と垂直な面で切断したときの断面図である(X層両面、接着層有り)。
【
図5】本発明の一実施態様である成型用フィルムをフィルム面と垂直な面で切断したときの断面図である(X層両面、片面のみ接着層無し)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の成型用フィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に樹脂層(X層)を有する成型用フィルムであって、前記ポリエステルフィルムの150℃30分条件下での熱収縮率が、最も大きい方向において-1.0%以上2.0%以下であることを特徴とする。以下、本発明の成型用フィルムについてより具体的に説明する。
【0012】
本発明の成型用フィルムにおいて、ポリエステルフィルムとは、ポリエステル樹脂を主成分とするシート状物をいい、主成分とは、フィルムを構成する全成分を100質量%としたときに、50質量%を超えて100質量%以下含まれる成分をいう。(このとき、ポリエステル樹脂に該当する成分が複数含まれる場合はその合計量が50質量%を超えるならば、ポリエステル樹脂を主成分とするものとみなす。以下、主成分については同様に解釈することができる。)。ポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸単位とジオール単位がエステル結合により繋がった分子構造を有する樹脂をいう。また、本発明におけるポリエステルフィルムは、フィルムの強度、耐熱性及び汎用性の観点から、二軸配向ポリエステルフィルムが好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムとは、直交する2方向に分子配向を有するポリエステルフィルムをいい、通常、未延伸のポリエステルシートを直交する2方向、例えば長手方向と幅方向に延伸することにより得られる。長手方向とは製造工程中をフィルムが走行する方向(フィルムロールであれば巻き方向に相当)をいい、幅方向とはフィルム面内で長手方向に直交する方向をいう。
【0013】
本発明の成型用フィルムにおいては、加熱に伴い発生する成型用フィルムの内部剥離を軽減する観点から、ポリエステルフィルムの150℃30分条件下での熱収縮率が、最も大きい方向において-1.0%以上2.0%以下である。本発明において150℃30分条件下での熱収縮率(HS)とは以下のように定義される。事前に常温(23℃±2℃)下での標線間距離(L0)を測定しておき、150℃に設定した熱風オーブンに30分間投入し、常温(23℃±2℃)に冷却した後測定した標線距離(L1)を求め、下記式(1)により算出する(詳細な測定方法は後述)。なお、以下、ポリエステルフィルムの150℃30分条件下での熱収縮率が最も大きい方向における当該熱収縮率を、ポリエステルフィルムの熱収縮率の最大値、または単に熱収縮率の最大値ということがある。
式(1) HS(%)=(L0-L1)/L0×100%。
【0014】
150℃30分条件下での熱収縮率が最も大きい方向は、以下の手順で特定することができる。まず、ポリエステルフィルムの任意の方向を起点に15度ずつ回転させて、12方向について150℃の熱風オーブンに30分投入した後の熱収縮率を測定する。得られた測定値のうち、最も大きい値を示した方向を当該熱収縮率が最も大きい方向とする。
【0015】
本発明のポリエステルフィルムの熱収縮率の最大値は0.0%以上であることがより好ましい。一方、熱収縮率の最大値は、1.5%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。本発明のポリエステルフィルムの熱収縮率の最大値が-0.1%を下回る場合や、2.0%を上回る場合は、成型加工後の成型体を加熱した際に、樹脂層X層との収縮率の差が大きくなる。結果、成型用フィルムの内部剥離が発生し、成型体の耐熱性も悪化するため、好ましくない。以下、ポリエステルフィルムの熱収縮率の最大値を上述のような範囲に調整する方法については後述する。
【0016】
本発明の成型用フィルムを構成するポリエステルフィルムの厚みは、成型用フィルムに意匠性を持たせるための加工を施す際の加工性の観点ならびに、後述するようにポリエステルフィルムが熱可塑性樹脂Aを主成分とする層(A層)と前記熱可塑性樹脂Aとは異なる熱可塑性樹脂Bを含む層(B層)が厚み方向に交互に積層した構成を取った場合に意匠性を発現させる観点から30μm以上であることが好ましい。上記観点から好ましくは、60μm以上であり、さらに好ましくは80μm以上である。一方、製膜性や成型性の観点からポリエステルフィルムの厚みは500μm以下であることが好ましい。上記観点から好ましくは、300μm以下であり、さらに好ましくは150μm以下である。なお、ポリエステルフィルムの厚みは、キャストの引き取り速度を大きくすることや、単位時間あたりの口金からの溶融樹脂の吐出量を少なくすること等により、小さくすることができ、これらの手段は適宜組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明の成型用フィルムは、射出成型加工時のウォッシュアウトを防ぐ観点から樹脂層(X層)を有する。樹脂層(X層)の主成分である樹脂は、特に限定されるものではないが、成型性の観点から熱可塑性樹脂であることが好ましい。X層の主成分が熱可塑性樹脂の場合、結晶性または非結晶性いずれでもよいが、X層の主成分は成型性の観点から非結晶性の熱可塑性樹脂であることがより好ましい。X層の主成分が非結晶性の熱可塑性樹脂であると、本発明の成型用フィルムを成型加工する際に結晶部分による成型性の悪化を軽減することができる。
【0018】
ここで熱可塑性樹脂が結晶性であるか非結晶性であるかは、次の手順で特定される。まず、示差走査熱量計(DSC)を用いて、25℃から300℃に10℃/分の昇温速度にて昇温し、0℃に急冷する。その後再度25℃から300℃に10℃/分の昇温速度にて昇温する。2回目の昇温時において100℃から200℃の間に結晶化による発熱ピークを見られないものを非結晶性の熱可塑性樹脂とする。一方、当該発熱ピークが見られるものを結晶性の熱可塑性樹脂とする。
【0019】
結晶性の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂・ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフレート樹脂などが挙げられる。非結晶性の熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂(以下、PCということがある。)、アクリル樹脂などが挙げられる。
【0020】
X層の主成分は非結晶性の熱可塑性樹脂の中でも、特にガラス転移温度の調整のしやすさの観点から、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリスチレン樹脂のいずれかの内、少なくとも一種であることが好ましい。なお、層中に複数のポリカーボネート樹脂が含まれる場合におけるポリカーボネート樹脂の含有量は、全てのポリカーボネート樹脂を合算して算出するものとし、その合計が50質量%を超えるのであればX層がポリカーボネート樹脂を主成分とするものとみなす。これは、X層中に複数のアクリル樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、あるいはポリスチレン樹脂が含まれる場合も同様である。
【0021】
本発明の成型用フィルムを構成するX層に用いられるポリカーボネート樹脂としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を用いて得られるポリカーボネート樹脂や、ビスフェノールAと2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(テトラブロモビスフェノールA)との混合物を用いて得られる難燃性ポリカーボネート系樹脂、ビスフェノールA系ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0022】
本発明の成型用フィルムを構成するX層に用いられるアクリル樹脂としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、例えば、メタクリル酸エステルを主体とする重合体やメタクリル酸エステルと他の単量体との共重合体、メタクリル樹脂と一種またはそれ以上の他の樹脂とからなるポリマーアロイが好ましく、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリエチルヘキシルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート・スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート・ポリフッ化ビニリデンアロイ等が好ましく、透明性、成型性、耐擦傷性の観点から、ポリメチルメタクリルレートを用いることがより好ましい。
【0023】
本発明の成型用フィルムを構成するX層に用いられるアクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンを共重合したものに加え、スチレンに代替しα-メチルスチレンを重合したα-メチルスチレン系ABS樹脂、フェニルマレイミドを使用し、イミド変性を加えたABS樹脂、ブタジエンに代替し、アクリルゴムを重合したASA樹脂、ブタジエンに代替し塩素化ポリエチレンを重合したACS樹脂、ブタジエンに代替し、エチレンプロピレンジエンゴムを重合したAES樹脂が好ましい。
【0024】
本発明の成型用フィルムを構成するX層に用いられるポリスチレン樹脂としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、例えば、スチレンを単独で重合したものに加え、ポリα-メチルスチレンや、メタ位あるいはパラ位を置換したスチレン誘導体の重合体、上記スチレン系モノマーを共重合したものや、各種オレフィン系樹脂と共重合したもの等が好ましく、透明性、成型性の観点からスチレン単独重合樹脂がより好ましい。
【0025】
なお、上記のポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂は、耐候性を付与するための紫外線吸収剤、柔軟性を付与するためのゴム粒子、着色や遮光のための各種染料や顔料など、各種添加剤が添加されたものであってもよい。
【0026】
X層の樹脂の種類が不明な場合には、FT-IR、熱分解GC-MS、1H-NMR、13C-NMRなどの公知の方法を組み合わせて、樹脂の種類の同定を行うことが可能である。また、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、あるいはポリスチレン樹脂が主成分であるか、すなわち、層を構成する全成分を100質量%としたときに、上記成分が50質量%を超えて100質量%以下含まれるかが明らかではない場合には、溶剤抽出法、各種クロマトグラフィーなど公知の方法により上記成分を分離し、その含有量(質量%)を求めることが可能である。
【0027】
本発明の成型用フィルムにおけるX層の厚みは、成型用フィルムとしての加工性の観点から、50μm以上500μm以下であることが好ましい。X層の厚みが50μm以上であると、成型加工時の成型性が向上する。一方、X層の厚みが500μm以下であると、例えば乾燥工程中の反りを抑えるなど、成型用フィルムとしての加工性や作業性を確保できると同時に、製造コストの増加も軽減できる。上記観点から、X層の厚みの好ましい範囲は100μm以上400μm以下であり、より好ましくは150μm以上300μm以下であり、さらに好ましくは200μm以上250μm以下である。
【0028】
本発明の成型用フィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面にX層を有する限り特に層構成については制限されないが、ポリエステルフィルムの両面にX層を有することが好ましい。例えば、成型体の全面ではなく部分的に金属調を施したい場合など、成型用フィルムに印刷加工を施す場合がある。この際、X層がポリエステルフィルムの両面に施されていることで、インキの密着性が向上することや、印刷インキの乾燥における加熱時に発生する反りを抑制できる。ポリエステルフィルムとX層の線膨張係数の差が大きい場合には、X層を両面に設けることが特に効果的である。
【0029】
X層を両面に設ける場合、両面に設けられるX層(X1層、X2層とする。)を構成する樹脂は、同じ種類の樹脂でもよいし、別々の樹脂を選択してもよい。例えば、X1層、X2層ともポリカーボネート樹脂を主成分とする層であってもよいし、X1層がポリカーボネート樹脂を主成分とする層、X2層がアクリル樹脂を主成分とする層であってもよい。また、例えばX1層、X2層ともポリカーボネート樹脂を主成分とする場合においては、両者の主成分となるポリカーボネート樹脂が同じであっても異なっていてもよい。
【0030】
本発明の成型用フィルムの具体的態様の例を
図1~5に示す。
図1の態様においては、成型用フィルム1において、ポリエステルフィルム2の片面にX層3が設けられている。ポリエステルフィルム2とX層3の間には、接着層4が設けられてもよい(
図2の態様)。また、X層3はポリエステルフィルム2の両面に設けられてもよく(
図3の態様)、少なくとも片面のポリエステルフィルム2とX層の間に接着層4が設けられてもよい(
図4,5の態様)。成型用フィルムには、インサート成型加工や真空圧空成型加工が行われるため、印刷加工時のフィルムの反り低減や成型加工品の耐熱性の向上の観点から、ポリエステルフィルムの両面にX層を有することが好ましい。
【0031】
本発明の成型用フィルムは、層間密着性を高める観点から、X層とポリエステルフィルムとの間に少なくとも一つの接着層を有することが好ましい。ポリエステルフィルムとX層とを、接着層を介して積層させる方法は特に限られるものではなく、公知の方法、例えば光学粘着シートを用いることや、ドライラミネート法により積層すること等が可能である。中でも、成型時の密着性の観点からドライラミネート法を用いることが好ましい。
【0032】
本発明の成型用フィルムにおける接着層に用いられる接着剤は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、成型加工時の耐熱性の観点から二液硬化型ポリウレタン系接着剤が好ましく用いられる。二液硬化型ポリウレタン系の接着剤は、高分子末端に水酸基を有する主剤(ポリオール)と、イソシアネート基を有する硬化剤(ポリイソシアネート)を含み、水酸基とイソシアネート基の反応によりウレタン結合を形成して硬化する。
【0033】
ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールが挙げられる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリオキシエチレンポリオール、ポリオキシプロピレンポリオール、ポリオキシエチレン-プロピレン共重合ポリオール、ポリテトラメチレンポリオール、及びそれらの混合物等が挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、ジカルボン酸(アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸など)とグリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサングリコール、ネオペンチルグリコールなど)とを重縮合させ得られたポリオールなどが挙げられる。
【0034】
ポリイソシアネートとしては、2,4-トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、カルボジイミド変性MDI、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族系ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及び脂環式系ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0035】
接着層には各種の添加剤、例えば粘度調整剤、レベリング剤、ゲル化防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、耐電防止剤、核剤などが配合されてもよい。
【0036】
接着層の厚みは、接着性とフィルム外観を両立させる観点から、0.5μm以上30μm以下であることが好ましい。本発明の接着層の厚みが0.5μm以上であると、層間の密着性が十分に保たれる。一方、本発明の接着層の厚みが30μm以下であると、層の厚みムラが抑えられ、フィルム外観の悪化が軽減される。上記観点から接着層の厚みのより好ましい範囲は1μm以上20μm以下であり、さらに好ましくは3μm以上15μm以下である。なお、両面ともに接着層を介してX層が形成される場合は各接着層の厚みは同一でも異なっていてもよいが、いずれも上記の好ましい範囲であることが好ましい。
【0037】
本発明の成型用フィルムにおいては、ポリエステルフィルムが熱可塑性樹脂Aを主成分とする層(A層)と前記熱可塑性樹脂Aとは異なる熱可塑性樹脂Bを含む層(B層)が厚み方向に交互に合計51層以上積層された構成を有することが好ましい。より好ましくはA層とB層が厚み方向に交互に合計251層以上積層された構造であり、さらに好ましくは801層以上積層された構造である。層数の上限に特に制限はないが、生産性やコストの観点から2001層以下が好ましい。積層される層の数が51層以上であることにより、層間の干渉反射の均一性が向上し、意匠性に優れたフィルムとなる。
【0038】
ここで「熱可塑性樹脂が異なる」とは、互いの熱可塑性樹脂の基本骨格(後述)が異なる場合、及び基本骨格が同じであり、熱可塑性樹脂を構成する全繰り返し単位を100mol%としたときに、その10mol%以上50mol%未満が異なる場合をいう。また、B層における熱可塑性樹脂Bの含有量は、A層とB層の屈折率差を高める観点から、B層における全熱可塑性樹脂量を100質量%としたときに、17質量%以上が好ましく、22質量%以上がより好ましく、27質量%以上がさらに好ましい。一方、B層における熱可塑性樹脂Bの含有量の上限については特に制限はなく、理論上100質量%であるが、成型用フィルムの反りの軽減や、A層とB層の密着性の観点から50質量%が好ましい。
【0039】
本発明の成型用フィルムは、意匠性の観点から波長帯域400nm~700nmにおける平均反射率が30%以上であることが好ましい。波長帯域400nm~700nmにおける平均反射率は、入射角度Φ=10°として測定した値であり、詳細な測定方法は後述する。
【0040】
本発明におけるポリエステルフィルムは、成型用フィルムの波長帯域400~700nmにおける反射率をより均一にし、金属調の意匠性を発現できる観点から、層対厚み100nm以上200nm未満の層数が、層対厚み200nm以上250nm未満の層数より多いことが好ましい。ここで、「層対厚み」とは、隣接するA層及びB層のそれぞれの層厚みを足した厚みを指す。また、層対厚みは、A層のみについて一方のフィルム表面から数えたm番目のA層と、隣接するB層のみについて同表面から数えたm番目のB層の層厚みを足したものでなければならない。ここで、mは整数を表している。例えば、一方のフィルム表面から反対側の表面にA1層/B1層/A2層/B2層/A3層/B3層・・・の順番で並んでいる場合、A1層とB1層が1番目の層対であり、A2層とB2層が2番目の層対であり、A3層とB3層が3番目の層対となる。
【0041】
層対厚み100nm以上200nm未満の層数が、層対厚み200nm以上250nm未満の層数以下であると、波長帯域400nm~700nmの反射帯域において低波長側ほど反射率が低下するため、赤みを帯びた外観になることがある。これは、低波長側の反射を起こす層対の密度が薄くなるために起こるものである。従って、ポリエステルフィルムを構成する層の層対厚み序列としては、単調に等差数列的に層対厚みが増減するのではなく、上記条件を満たしながら等比数列的に層対厚みが増減することが好ましい。より好ましくは、層対厚み100nm以上200nm未満の層数が、層対厚み200nm以上250nm未満の層数に対して1.05倍以上2.50倍以下であることが好ましい。
【0042】
ポリエステルフィルムにおける熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bは、強度、耐熱性、透明性及び汎用性の観点から、ポリエステル樹脂であることが好ましい。ポリエステル樹脂としては、芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸とジオールを主成分とする単量体からの重合により得られるポリエステルが好ましい。
【0043】
ここで、芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸等を挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体等を挙げることができる。中でも屈折率の高いテレフタル酸と2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。これらの酸成分は1種類のみを用いても、2種類以上を併用しても、さらにはヒドロキシ安息香酸等のオキシ酸等を一部共重合してもよい。
【0044】
また、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、スピログリコール等を挙げることができる。中でも、エチレングリコールが好ましく用いられる。これらのジオール成分は1種類のみを用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0045】
前記ポリエステル樹脂のうち、A層の面内平均屈折率を相対的に高くし、さらにA層とB層の面内平均屈折率との差を0.005以上、好ましくは0.040以上にしやすくする観点から、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体、ポリエチレンナフタレート及びその共重合体、ポリブチレンテレフタレート及びその共重合体、ポリブチレンナフタレート及びその共重合体、さらにはポリヘキサメチレンテレフタレート及びその共重合体、ポリヘキサメチレンナフタレート及びその共重合体等を用いることが好ましい。
【0046】
なお、A層ならびにB層の面内屈折率は、例えば以下のように求めることができる。まず、A層もしくはB層に用いた樹脂をベント付きの二軸押出機で290℃の溶融状態とし、ギヤポンプ及びフィルターを介してT-ダイに導いてシート状に成形した後、静電印加で表面温度25℃に保たれたキャスティングドラムに密着させて急冷固化し、A層、B層それぞれのキャストフィルムを得る。続いて、アッベ屈折率、光源としてナトリウムD線を用いて、各キャストフィルムの長手方向及び幅方向の屈折率を測定し、その平均値を面内屈折率とする(測定方法の詳細は後述する。)。なお、ポリエステルフィルムが延伸されている場合、結晶性の熱可塑性樹脂は分子が延伸方向に配向するため、ポリエステルフィルムのA層と上記方法で得られたA層のキャストフィルムとは屈折率が異なる可能性があるが、その差は微差であるため上記方法を採用することができる。
【0047】
熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bの組み合わせは、両方の熱可塑性樹脂の基本骨格が共通する組み合わせが好ましい。ここで、本発明でいう「基本骨格」とは、樹脂を構成する繰り返し単位であって最も多く含まれるものを指し、例えばポリエチレンテレフタレートの場合、エチレンテレフタレートが基本骨格となる。このような組み合わせの例としては、一方の熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートであり、もう一方の熱可塑性樹脂がエチレンテレフタレート単位とシクロヘキサン1,4-ジメチレンテレフタレート単位からなる重合体(共重合体)であって、エチレンテレフタレート単位が最も多く含まれるものである態様が挙げられる。同一の基本骨格の樹脂を用いると、積層フィルムの製膜において、フローマーク等の積層不良や層間での剥離等の問題が生じ難くなる。
【0048】
熱可塑性樹脂Aは、耐押し跡性(耐打痕性)を高めることや、ポリエステルフィルム自体の腰の強さの観点から、結晶性の樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂Aとしては、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートを用いることが好ましい。一方、熱可塑性樹脂Bは、屈折率の上昇を抑制して非結晶性の膜とする観点から、非結晶性の樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂Bとしては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル酸、シクロヘキサンジカルボン酸を含有、または、スピログリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノキシエタノールフルオレン、ビスフェノールAを構成単位として含有したポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートの共重合体を用いることが好ましい。
【0049】
本発明におけるポリエステルフィルムの150℃30分条件下における熱収縮率を調整するためには、例えば上述のように得られたポリエステルフィルムを巻出して、オーブン内を通過させた後巻き取ることが効果的であるが、オーブン内でのフィルム張力を調整し、ポリエステルフィルムの残存応力を緩和させる必要がある。特に、熱可塑性樹脂Bが非結晶性樹脂である場合は、ポリエステルフィルムの強度が低下する傾向にあることから、オーブンの温度、張力をより適切に管理する必要がある。
【0050】
本発明の成型用フィルムを構成するポリエステルフィルムの好ましい製造方法の一例を以下に説明するが、当該ポリエステルフィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0051】
まず、熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bをペレットの形態で用意する。該ペレットを、必要に応じて熱風中あるいは真空下で乾燥した後、各々2台の押出機にそれぞれ供給する。各押出機内において融点以上に加熱溶融された熱可塑性樹脂を、ギヤポンプ等で樹脂の押出量を均一化して押し出し、さらにフィルター等を介して異物や変性した樹脂を取り除く。2台の押出機を用いて異なる流路から送り出された熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bを、それぞれ多層積層装置に送り込む。
【0052】
多層積層装置としては、マルチマニホールドダイやフィードブロックやスタティックミキサー等を用いることができるが、特に、本発明におけるポリエステルフィルムの積層構成を効率よく得るためには、多数の微細スリットを有する部材を、少なくとも別個に2個以上含むフィードブロックを用いることが望ましい。このようなフィードブロックを用いると、装置が極端に大型化することがないため、熱劣化による異物が少なく、積層数が極端に多い場合でも、高精度に積層が可能となる。また、幅方向の積層精度も従来技術に比較して格段に向上する他、任意の層厚み構成を形成することも容易となる。この装置では、各層の厚みをスリット形状(長さ、幅、間隙)で調整できるため、任意の層厚みを容易に達成することが可能となったものである。
【0053】
このとき、本発明の成型用フィルムの好ましい態様である、波長帯域400nm~700nmにおける平均反射率30%以上を実現するためには、ポリエステルフィルム各層の層厚みを、下記、式1に基づいて設計することが好ましい。ポリエステルフィルムは、光を反射/透過することを可能とするが、その反射率については熱可塑性樹脂Aからなる層と熱可塑性樹脂Bからなる層の屈折率差と層数によって制御することができる。
式1: 2×(na・da+nb・db)=λ
na:樹脂Aからなる層の面内平均屈折率
nb:樹脂Bからなる層の面内平均屈折率
da:樹脂Aからなる層の層厚み(nm)
db:樹脂Bからなる層の層厚み(nm)。
λ:主反射波長(1次反射波長)
このようにして所望の層構成とした溶融積層体を、ダイのスリット部よりシート状に吐出させ、このシート状物をキャスティングドラム等の回転冷却体上に押し出して冷却固化することにより、キャスティングフィルム(無延伸フィルム)を得る。この際、ワイヤー状、テープ状、針金状あるいはナイフ状等の電極を用いて、静電気力によりキャスティングドラム等の回転冷却体にシート状物を密着させて急冷固化することが好ましい。また、スリット状、スポット状、面状の装置からエアーを吹き出してキャスティングドラム等の回転冷却体に密着させて急冷固化することや、ニップロールにて回転冷却体に密着させて急冷固化することも好ましい。
【0054】
このようにして得られたキャスティングフィルム(無延伸フィルム)は、必要に応じて二軸延伸することが好ましい。二軸延伸とは、直交する2方向、例えば長手方向及び幅方向に延伸することをいう。延伸は、逐次に二軸方向に延伸してもよいし、同時に二方向に延伸してもよい。また、さらに長手方向及び/または幅方向に再延伸してもよい。
【0055】
まず、逐次二軸延伸の場合について説明する。ここで長手方向の延伸とは、フィルムに長手方向に分子配向を与えるための延伸をいい、通常は、ロールの周速差により施される。この延伸は一対の延伸ロールにより1段階で行っても、また、複数本の延伸ロール対を用いて多段階で行ってもよい。延伸倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2~15倍が好ましく、ポリエステルフィルムを構成する熱可塑性樹脂のいずれかにポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、2~7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としてはポリエステルフィルムを構成する熱可塑性樹脂A、Bのうちガラス転移温度がより高温である方の樹脂のガラス転移温度~ガラス転移温度+100℃が好ましい。
【0056】
また、ポリエステルフィルムには易接着層を設けてもよい。易接着層を設ける方法としては、塗剤をコーティングして積層する方法が好ましい。塗剤をコーティングする方法としては、本発明におけるポリエステルフィルムの製造工程とは別工程でコーティングを行う方法、いわゆるオフラインコーティング方法と、本発明におけるポリエステルフィルムの製造工程中にコーティングを行うことで易接着層を一度に積層させる、いわゆるインラインコーティング方法がある。コストの面や塗布厚みの均一化の面からインラインコーティング方法を採用することが好ましく、その場合に用いられる塗液の溶媒は、環境汚染や防爆性の観点から水系であることが好ましく、水を用いることが最も好ましい態様である。
【0057】
インラインコーティングで易接着層を積層する場合には、一軸延伸されたポリエステルフィルムに連続的に易接着層を構成する塗剤を塗布することが好ましい。溶媒として水を用いた塗剤(水系塗剤)の塗布方法としては、例えば、リバースコート法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、ロッドコート法及びダイコート法などを用いることができる。
【0058】
水系塗剤を塗布する前に、ポリエステルフィルムの表面にコロナ放電処理等を施すことも好ましい。これは、ポリエステルフィルムと塗剤との接着性が向上し、塗布性も良好となるためである。易接着層には、発明の効果を損なわない範囲であれば、架橋剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐侯安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑材、顔料、染料、有機または無機の粒子、充填材、界面活性剤等を配合してもよい。
【0059】
続いて行う幅方向の延伸とは、フィルムの幅方向に分子配向を与えるための延伸をいい、通常はテンターを用いて、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して、フィルムに熱を加えて予熱した後、幅方向に延伸する。テンター直前に塗布された水系塗剤はこの予熱時に乾燥される。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2~15倍が好ましく、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bのいずれかにポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、2~7倍が特に好ましい。また、延伸温度としては本発明におけるポリエステルフィルムを構成する熱可塑性樹脂A、Bのうちガラス転移温度がより高温である方の樹脂のガラス転移温度~ガラス転移温度+120℃の範囲が好ましい。二軸延伸されたポリエステルフィルムは、平面性、寸法安定性を付与するために、テンター内で延伸温度以上融点以下の温度で弛緩処理を行うことが好ましい。このようにして弛緩処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷却してワインダーにて巻き取られる。また、必要に応じて、徐冷の際にさらなる弛緩処理などを併用してもよい。
【0060】
次いで、同時二軸延伸の場合について説明する。同時二軸延伸の場合には、得られたキャストフィルムに、連続的に易接着層を構成する塗剤を塗布する。溶媒として水を用いた塗剤(水系塗剤)の塗布方法としては、例えば、リバースコート法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、ロッドコート法およびダイコート法などを好適に用いることができる。
【0061】
水系塗材を塗布する前に、本発明におけるポリエステルフィルムの表面にコロナ放電処理などを施すことが好ましい。これは、ポリエステルフィルムと塗剤との接着性が向上し、塗布性も良好となるためである。次に、塗剤を塗布したキャストフィルムを同時二軸テンターへ導き、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して、長手方向と幅方向に同時及び/または段階的に延伸する。同時二軸延伸機としては、パンタグラフ方式、スクリュー方式、駆動モーター方式、リニアモーター方式があるが、任意に延伸倍率を変更可能で、かつ任意の場所で弛緩処理を行うことができる駆動モーター方式もしくはリニアモーター方式が好ましい。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、面積倍率として6~50倍が好ましく、面積倍率として8~30倍が特に好ましい。また、延伸温度としては熱可塑性樹脂A、Bのうちガラス転移温度がより高温である方の樹脂のガラス転移温度~ガラス転移温度+120℃が好ましい。
【0062】
二軸延伸されたフィルムには、平面性、寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内で延伸温度以上熱可塑性樹脂A、Bのうち融点が高い方の融点以下の温度で弛緩処理を行うことが好ましい。この弛緩処理の際に、幅方向での主配向軸の分布を抑制するため、弛緩処理ゾーンに入る直前及び/または直後に瞬時に長手方向に弛緩処理することが好ましい。このようにして弛緩処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷却してワインダーにて巻き取られる。また、必要に応じて、徐冷の際に長手方向及び/または幅方向に追加の弛緩処理を行ってもよい。弛緩処理ゾーンに入る直前及び/または直後に瞬時に長手方向に弛緩処理することが好ましい。このようにして弛緩処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷却してポリエステルフィルムをワインダーにて巻き取る。
【0063】
さらに成型用フィルムを用いた成型品の耐熱性を高めるため、得られたポリエステルフィルムに、長手方向に10N/m~60N/m(好ましくは15N/m~45N/m)の張力をかけた状態で、135℃~165℃(好ましくは145℃~165℃)で15秒間~60秒間かけて熱処理を施してもよい。
【0064】
次に本発明の成型用フィルムの製造方法の一例(ドライラミネート法)を以下に説明するが、本発明の成型用フィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0065】
上述のようにして得られたポリエステルフィルムに、接着剤の塗材を塗工する。この際の塗工方式は、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、リップコーター、フレキソコーター、ブランケットコーター、ロールコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、キスタッチコーター、キスタッチリバースコーター、コンマコーター、コンマリバースコーター、マイクロリバースコーターなどの塗工方式から、接着剤塗材の粘度や塗工量に応じて適切なものを選択すればよいが、二液硬化型ポリウレタン系接着剤を用いた場合には、グラビアコーターが好ましく用いられる。
【0066】
次いで、接着剤の溶剤成分を乾燥させるために、乾燥オーブンを通過させる。乾燥温度は、接着剤樹脂の種類、溶剤の種類、ポリエステルフィルムの耐熱性などから応じて選択されるが、40℃~120℃が好ましい。
【0067】
次いで、対向する2本のロールに例えば0.1~10MPaの圧力を掛けた状態で、上記接着層を塗工したポリエステルフィルムの接着層を塗工した面と、あらかじめシート化した樹脂層(X層)を積層した状態で、上記対向する2本ロール中を通過させることでラミネートを行う。幅方向に均一に圧力をかける観点から、上記対向する2本のロールのうち少なくとも一方は表面が金属ではなくゴムにより覆われていることが好ましい。また、接着層と被着するシート(X層)の密着性を高める観点から上記対向する2本のロールは少なくとも一方を30℃~120℃に加熱されていることが好ましい。
【0068】
このようにして得られた積層フィルムをシート巻取りコア上に巻き取り、必要に応じて二液硬化型ポリウレタン系接着剤の硬化を目的に、得られた積層フィルムをロールに巻き取った状態で、20~60℃、24~168時間エージング処理を行うことも好ましい。かかるエージング処理を行う場合、その温度が20℃に満たない場合及び/またはエージング処理の時間が24時間に満たない場合には接着剤の硬化が不足して十分な接着強度が得られず、後の工程で貼り合わせたフィルムにズレが生じる場合がある。また、60℃を超える場合及び/またはエージング処理の時間が168時間を超える場合には、ロールとなったシートの巻き締まり痕が顕著となり、スジ状の外観欠点を生じることがある。こうしてX層を片面に有する本発明の成型用フィルムを得ることができる。
【0069】
ポリエステルフィルムの両面にX層を形成する場合には、X層を片面に有する本発明の成型用フィルムのポリエステルフィルム側に、さらに同様の方法でX層を形成すればよい。また、前述のように製造されたポリエステルフィルム2枚以上を使用して、本発明の成型用フィルムとしてもよい。複数のポリエステルフィルムを積層する方法は特に限られるものでは無く、上述のポリエステルフィルムとX層を積層する方法と同様の方法を用いて積層することが可能である。
【0070】
本発明の成型用フィルムは、金属光沢調を有し、かつ成型加工時の成型性や成型体の電磁波透過性に優れているため、成型体として好適に用いることができる。本発明の成型体は、本発明の成型用フィルムを有する。成型体の形成方法は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、例えば、インサート成型や真空圧空成型などの成型加工方法を用いることができる。
【0071】
インサート成型で用いられる樹脂としては本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、例えば、ポリブタジエン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、ポリアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系共重合樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリルニトリル・エチレンプロポレン・スチレン系共重合樹脂などの樹脂が用いられる。また、本発明の効果を損なわない限り、各種添加剤を添加してもよい。好ましく用いられる添加剤としては、紫外線吸収剤や着色を目的とした顔料などが挙げられる。
【0072】
また、真空圧空成型で用いられる成型基材としては本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、例えば、ポリブタジエン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、ポリアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系共重合樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリルニトリル・エチレンプロポレン・スチレン系共重合樹脂などの樹脂やアルミニウム、マグネシウムなどの金属、ガラス、炭素繊維成型物などが用いられる。
【0073】
また、成型体の意匠性をさらに高めるために、インサート成型や真空圧空成型の前に公知の方法により成型用フィルム上に部分的な印刷層を設けてもよい。
【実施例0074】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限を受けるものではない。
【0075】
[測定および評価方法]
実施例中に示す測定や評価は次に示すような条件で行った。
【0076】
(1)X層及びポリエステルフィルムの厚み
成型用フィルムの幅方向中央部から1cm四方のサンプルを3つ切り出した後、それぞれミクロトームを用いて厚み方向(フィルム面に垂直な方向)に切削を行い、切片サンプルを得た。コントラストを高めるために必要に応じて当該切片サンプルに金属スパッタ処理を行った後、該切片サンプルの断面を、走査電子顕微鏡S-3400N((株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、適切な倍率(例えば200倍から1000倍)で撮像した。得られた画像から採寸することで、X層及びポリエステルフィルムの層厚みを算出した。3サンプルそれぞれから得られた厚みの平均値をX層及びポリエステルフィルムの厚みとした。なお、X層の有無及びポリエステルフィルムの片面のみにあるか、両面にあるかについてもここで撮像した画像より判断した。
【0077】
(2)ポリエステルフィルムの150℃30分条件下における熱収縮率
成型用フィルムから接着層を剥がし、溶剤により接着層を除去する、あるいは、ナイフで削り出すことにより、X層及びポリエステルフィルムを得た。但し、成型用フィルムに用いたポリエステルフィルムあるいはX層を単独のフィルムとして準備できる場合には、それを用いた(以降の測定および評価においても同様)。得られたポリエステルフィルムの任意の1方向を長手方向となるようにサンプルを10mm×160mmの大きさに切り出し、100mmの間隔をあけて標線を引いた。23±3℃、65±10%RH環境下に2時間以静置した後、万能投影機を用いて標線間の距離を0.01mmの単位まで読み取った(読み取った値をL0とする)。次いで150℃に設定した熱風オーブンに30分間投入した後、23±3℃、65±10%RH環境下に2時間冷却してから、万能投影機を用いて標線間の距離を0.01mmの単位まで読み取った(読み取った値をL1とする)。計算式「(L0-L1)/L0×100(%)」により熱収縮率を求め、同様に3サンプルの評価を行いその平均値をHS(0)とした。次いで、上記任意の1方向より、15°、30°、45°、60°、75°、90°、105°、120°、135°、150°、165°面内方向で回転させて、ポリエステルフィルムを10mm×160mmの大きさに切り出し、同様にHS(15)、HS(30)、HS(45)、HS(60)、HS(75)、HS(90)、HS(105)、HS(120)、HS(135)、HS(150)、HS(165)を求め、HS(0)も含めて最も値が大きいものを当該ポリエステルフィルムの150℃30分条件下での熱収縮率とした。
【0078】
(3)接着層の有無
日本ミクロトーム研究所(株)製ロータリー式ミクロトームを使用し、成型用フィルムをフィルム面と垂直な方向に切断して作製したサンプルを、走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製S-3400N)で観察倍率1,000倍~10,000倍にて観察して、接着層の有無を判定した。
【0079】
(4)ポリエステルフィルムの層構成、層厚み、層対厚み200nm以上250nm未満の層数及び層対厚み100nm以上200nm未満の層数
成型用フィルムのサンプルよりミクロトームを用いて厚み方向と平行な断面を切り出した。次いで、(株)日立製作所製 透過型電子顕微鏡(TEM)H-7100FA型を用いて、加速電圧75kVでポリエステルフィルム部の断面を40,000倍に拡大して観察し、断面部分を撮影して層構成及び層厚みを測定した。なお、コントラストを高く得るために、RuO4を使用してサンプルを染色した。次に、ポリエステルフィルムの層構成及び層厚みの具体的な求め方を説明する。TEMで倍率約40,000倍として撮影した断面写真を、“CanonScan”(登録商標)D123U(キヤノン(株)製)を用いて画像サイズ729dpiで取り込んだ。画像をJPEG形式で保存し、次いで、画像処理ソフトImagc-Pro Plus ver.4(販売元プラネトロン(株))を用いて、該JPEGファイルを開き、画像解析を行った。画像解析処理は、垂直シックプロファイルモードで、厚み方向と幅方向の2本のライン間で挟まれた領域における平均の明るさとの関係を、数値データとして読み取った。表計算ソフト(“Excel”(登録商標)2000 マイクロソフト社製)を用いて、位置(nm)と明るさのデータに対してサンプリングステップ6(間引き6)でデータ採取後、3点移動平均の数値処理を施した。さらに、得られた周期的に明るさが変化するデータを微分し、VBA(ビジュアル・ベーシック・フォア アプリケーションズ)プログラムにより、微分曲線の極大値と極小値を読み込み、隣り合うこれらの間隔を1層の層厚みとして算出した。この操作を写真毎に行い、全ての層の層厚みを算出した。得られた層厚みのうち、薄膜層は1μm未満の厚みの層とした。薄膜層については、隣り合うA層及びB層の層厚みの和の平均値を全ての組について順次求め、層対厚み200nm以上250nm未満の層の数及び層対厚み100nm以上200nm未満の層の数を数えた。
【0080】
(5)波長帯域400~700nmにおける平均反射率
成型用フィルムの中央部から5cm四方のサンプルを切り出した。次いで、(株)日立製作所製分光光度計U-4100を用いて、入射角度Φ=10°における相対反射率を測定した。付属の積分球の内壁は、硫酸バリウムであり、標準板は、酸化アルミニウムである。測定波長は、250nm~1200nm、スリットは2nm(可視)/自動制御(赤外)とし、ゲイン2と設定し、走査速度600nm/分で測定した。サンプルの裏面を油性インキで黒塗りした。次いで、波長帯域400~700nmにおける平均反射率を算出した。平均反射率は、波長1nm毎の絶対反射率のデータを用いてシンプソン法公式に基づいて反射曲線と波長帯域で囲まれた面積を計算し、波長帯域の幅である300nmで除することにより求めた。なお、シンプソン法についての詳細な説明は、山内二郎他著書の「電子計算機のための数値計算法I」(培風館)(昭和40年)に記載されている。
【0081】
(6)印刷層乾燥時の反り評価
格子サイズ10mm×10mmの市松模様状の形状を有するスクリーン版並びにスクリーン印刷機を用いて、200mm×300mmの大きさに切り出した成型用フィルムの表面にアクリル/ウレタン系のブラックインキを乾燥後の塗工厚みが20μmとなるように塗工し、80℃に設定した熱風オーブンで10分間乾燥を行った。乾燥工程に投入してから10分後、オーブンから取り出す直前のフィルムの反りを以下の基準で評価し、B以上を合格とした。
A:オーブンから取り出す直前のフィルムの反りが15mm未満であった。
B:オーブンから取り出す直前のフィルムの反りが15mm以上50mm未満であった。
C:オーブンから取り出す直前のフィルムの反りが50mm以上であった。
【0082】
(7)成型加工時の成型追従性
金型温度60℃に設定した(株)日本製鋼所製の射出成型機に、(6)の通り準備した成型用フィルムサンプルをセットし、230℃に加熱したポリカーボネート樹脂による射出成型を行い、成型体を得た。得られた成型体について、型に沿って成型できた状態(絞り比:成型高さ/底面直径)より、成型用加飾フィルムの成型性を以下の基準で評価し、B以上を合格とした。
A:絞り比0.3以上で成型できた。
B:絞り比0.1以上0.3未満で成型できたが、絞り比0.3以上では成型できなかった。
C:絞り比0.1未満で成型できなかった。
【0083】
(8)成型加工品の耐熱性
(7)の成型性評価のサンプルを120℃に設定下熱風オーブンに1h投入した後常温(23±2℃)まで冷却した後の、成型フィルム内部の剥離状況を以下の基準で評価し、C以上を合格とした。なお、成型追従性がCランクのものについては評価対象外とした。
A:成型体全体に渡って成型用フィルムの剥離は見られなかった。
B:絞り比0.3以上の箇所で成型用フィルムの剥離は見られたが、絞り比0.3未満では成型用フィルムの剥離は見られなかった。
C:絞り比0.1以上の箇所で成型用フィルムの剥離は見られたが、絞り比0.1未満では成型用フィルムの剥離は見られなかった。
D:A~Cのいずれにも該当しなかった。
【0084】
(9)ポリエステルフィルムのA層またはB層の面内屈折率
A層に用いた樹脂をベント付きの二軸押出機で290℃の溶融状態とし、ギヤポンプ及びフィルターを介してT-ダイに導いてシート状に成形した後、静電印加で表面温度25℃に保たれたキャスティングドラムに密着させて急冷固化し、厚み100μmのキャストフィルムを得た。得られたフィルムの幅方向中央部よりサンプリングし、(株)アタゴ製アッベ屈折率NAR 4T、光源としてナトリウムD線を用いて、フィルムの流れ方向及び幅方向の屈折率を測定し、その平均値を面内屈折率とした。B層についても同様に、B層に用いた樹脂を用いてキャストフィルムを作製し、面内屈折率を求めた。
【0085】
〔成型用フィルムの製造に用いた熱可塑性樹脂等〕
成型用フィルムに用いられるポリエステルフィルムを得るための熱可塑性樹脂としては、例えば以下のものを使用した。
【0086】
(熱可塑性樹脂A-1)
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部の混合物に、テレフタル酸ジメチル量に対して酢酸マグネシウム0.09重量部、三酸化アンチモン0.03重量部を添加して、常法により加熱昇温してエステル交換反応を行った。次いで、該エステル交換反応生成物に、テレフタル酸ジメチル量に対して、リン酸85%水溶液0.020重量部を添加した後、重縮合反応槽に移行した。さらに、加熱昇温しながら反応系を除々に減圧して1mmHgの減圧下、290℃で常法により重縮合反応を行い、固有粘度(IV)0.63のポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある。)を得た。これを熱可塑性樹脂A-1とした。
【0087】
(熱可塑性樹脂A-2)
2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部の混合物を用いた以外は、熱可塑性樹脂A-1と同様に重合を行い、固有粘度(IV)0.67のポリエチレンナフタレート(以下、PENということがある。)樹脂を得た。これを熱可塑性樹脂A-2とした。
【0088】
(熱可塑性樹脂B-1)
エチレングリコールにスピログリコール(SPG)21mol%を混合し、また、テレフタル酸ジメチルにシクロヘキサンジカルボン酸(CHDC)24mol%を混合して共重合した以外は熱可塑性樹脂A-1と同様に重合を行い、固有粘度(IV)0.55の共重合ポリエステル樹脂を得た。これを熱可塑性樹脂B-1とした。
【0089】
(熱可塑性樹脂B-2)
エチレングリコールにシクロヘキサンジメタノール(CHDM)30mol%を混合し共重合した以外は熱可塑性樹脂A-1と同様に重合を行い、固有粘度(IV)0.72の共重合ポリエステル樹脂を得た。これを熱可塑性樹脂B-2とした。
【0090】
(熱可塑性樹脂B-3)
熱可塑性樹脂A-1と熱可塑性樹脂B-2を65:35(質量比)で混合した共重合ポリエステル樹脂混合物を熱可塑性樹脂B-3とした。
【0091】
(熱可塑性樹脂B-4)
熱可塑性樹脂A-1と熱可塑性樹脂B-2を70:30(質量比)で混合した共重合ポリエステル樹脂混合物を熱可塑性樹脂B-4とした。
【0092】
(熱可塑性樹脂B-5)
熱可塑性樹脂A-1と熱可塑性樹脂B-2を75:25(質量比)で混合した共重合ポリエステル樹脂混合物を熱可塑性樹脂B-5とした。
【0093】
(X層形成用のフィルム)
(フィルムC-1a(PET))
東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)U48、フィルム厚み125μmを用いた。
【0094】
(フィルムC-1b(PET))
東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)U48、フィルム厚み250μmを用いた。
【0095】
(フィルムC-2(PMMA))
住化アクリル販売(株)製アクリル系樹脂フィルム“テクノロイ”(登録商標)S001、フィルム厚み125μmを用いた。
【0096】
(フィルムC-3(ABS))
東和化工(株)製ABSフィルム、フィルム厚み100μmを用いた。
【0097】
(フィルムC-4(PS))
大石産業(株)製“スチロファン”(登録商標)GL、フィルム厚み100μmを用いた。
【0098】
(フィルムC-5a(PC))
ホスゲン法により重合したポリカーボネート樹脂(重量平均分子量40000)を二軸押出機で280℃の溶融状態とした後、ギヤポンプ及びフィルターを介して、T-ダイに導いてシート状に成形した後、表面温度25℃に保たれたキャスティングドラムに密着させて急冷固化し、キャストフィルムを得、厚み125μmのフィルムをワインダーにて巻き取った。
【0099】
(フィルムC-5b(PC))
キャスティングドラムのスピードを調整すること以外はフィルムC-5aと同様の方法により250μmフィルムを得た。
【0100】
(実施例1)
(ポリエステルフィルムの製造)
熱可塑性樹脂A-1及び熱可塑性樹脂B-5を、各々別のベント付き二軸押出機で290℃の溶融状態とした後、ギヤポンプ及びフィルターを介して、225個のスリットを有する部材を別個に4個有する901層のフィードブロックにて合流させた。なお、フィードブロックの構成により厚膜層となる両側の最表層は熱可塑性樹脂Aとなり、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bが交互に積層され、かつ隣接する熱可塑性樹脂Aからなる層と熱可塑性樹脂Bからなる層の層厚みは、ほぼ同じになるようにした。次いで、T-ダイに導いてシート状に成形した後、静電印加で表面温度25℃に保たれたキャスティングドラムに密着させて急冷固化し、キャストフィルムを得た。その後、得られたキャストフィルムを75℃に設定したロール群で加熱した後、延伸区間長100mmの間で、フィルム温度が80~150℃となるようにフィルム両面からラジエーションヒーターにより急速加熱しながら、縦方向(長手方向)に3.3倍延伸し、その後一旦冷却して一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムをテンターに導き、100℃の熱風で予熱後、110~150℃の温度で横方向に3.5倍延伸した。二軸延伸したフィルムを、そのまま240℃のテンター内で幅方向に7%の弛緩処理を施した後、室温まで冷却してワインダーにて巻き取った。この段階で得られたフィルムの150℃30分条件下における熱収縮率(最も大きい方向)は2.4%(フィルムの長手方向)であった。次いで、得られたフィルムの長手方向に40N/mの張力をかけた状態で140℃のオーブンを30秒間かけて通過させ、熱処理を行った(以降、本工程を熱処理工程と呼ぶことがある。)。得られたポリエステルフィルムの評価結果を表1に示す。
【0101】
(成型用フィルムの製造)
得られたポリエステルフィルムの一方の面にグラビア塗布装置を用いて、2液系ポリウレタン系熱硬化型接着剤(東洋インキ(株)製ドライラミネート接着剤BLS-PC21)をリバース、ウェット塗布量で5g/m2塗布し、乾燥温度70℃から90℃で速度20m/minで乾燥した。その後、厚みが250μmの前記ポリエステル系樹脂フィルム(フィルムC-1b)を、ニップ圧力0.4MPa、温度40℃のニップロールを使用して貼り合わせてX層(X1層)を形成し、目的とする成型用フィルムを得た。得られたポリエステルフィルム、成型用フィルム、及びそれらを用いた成型体の評価結果を表1に示す。
【0102】
(実施例2~8)
熱可塑性樹脂A、熱可塑性樹脂B、及びX1層形成用のフィルムを表1の通りとした以外は、実施例1と同様にポリエステルフィルム及び成型用フィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0103】
(実施例9)
熱処理工程のオーブン温度を150℃に変更した以外は、実施例8と同様にポリエステルフィルム及び成型用フィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0104】
(実施例10)
熱処理工程のオーブン温度を160℃、張力を20N/mに変更した以外は、実施例8と同様にポリエステルフィルム及び成型用フィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0105】
(実施例11)
実施例10で得られた成型用フィルムのポリエステルフィルムの他方の面に、同様の方法にて、厚み250μmのPC系樹脂フィルム(フィルムC-5b)を貼り合わせてX層(X2層)を形成し、成型用フィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0106】
(実施例12)
ポリエステルフィルムに用いる熱可塑性樹脂を熱可塑性樹脂A-2および熱可塑性樹脂B-1に変更した以外は実施例11と同様にポリエステルフィルム及び成型用フィルムを得た評価結果を表1に示す。
【0107】
(比較例1)
熱処理工程を施さない以外は実施例1と同様の方法で成型用フィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0108】
(比較例2)
熱処理工程のオーブン温度を160℃、張力を80N/mとした以外は実施例8と同様の方法で成型用フィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0109】
(比較例3)
東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)X10S(フィルム厚み75μm)の一方の面に、スクリーン印刷機を用いて乾燥後の厚みが3μmとなるように、(株)セイコーアドバンス製鏡面インキ シルバーBを印刷した後、80℃の熱風オーブンにて1時間乾燥させた。印刷層を設けた面にアクリル系樹脂フィルム(フィルムC-2)を、反対面にPC系樹脂フィルム(フィルムC-5b)を実施例11と同様に形成することにより、X1層とX2層を形成して成型用フィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0110】
本発明により、成型加工時の成型性に優れ、かつ成型体に加工した後の耐熱性に優れる成型用フィルムを提供することができる。本発明の成型用フィルムは、上記特性に優れることから、例えば、建材、自動車部品、携帯電話、電機製品、及び遊技機部品などの成型部材として、耐熱性要求の高い部品の加飾に好適に用いることができる。