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特開2024-136654高分子電解質材料、それを用いた高分子電解質成型体、触媒層付電解質膜、膜電極接合体、固体高分子燃料電池および水電解式水素発生装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136654
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】高分子電解質材料、それを用いた高分子電解質成型体、触媒層付電解質膜、膜電極接合体、固体高分子燃料電池および水電解式水素発生装置
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240927BHJP
   H01M 8/1025 20160101ALI20240927BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240927BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240927BHJP
   C25B 1/02 20060101ALI20240927BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20240927BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M8/1025
H01M8/10 101
C25B9/00 A
C25B1/02
C25B9/19
C25B13/08 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047836
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村上 和歩
(72)【発明者】
【氏名】松井 一直
(72)【発明者】
【氏名】田中 毅
(72)【発明者】
【氏名】出原 大輔
【テーマコード(参考)】
4K021
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021DB53
4K021DC03
5G301CD01
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG18
5H126JJ00
5H126JJ03
5H126JJ05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低加湿条件下での発電性能が比較的良好なレベルにあり、かつ優れた機械的耐久性を有する高分子電解質材料を提供する。
【解決手段】イオン性基を含有するセグメント(以下「イオン性セグメント」という)とイオン性基を含有しないセグメント(以下「非イオン性セグメント」という)とをそれぞれ有するブロック共重合体からなる高分子電解質材料であって、イオン交換容量が2.4meq/g以下であり、かつ、下記条件1および条件2をともに満たす。
<条件1>高分子電解質材料の結晶化熱量が0.1J/g以上であるかまたは結晶化度が0.5%以上である。
<条件2>高分子電解質材料が相分離構造(共連続M1、ラメラM2、シリンダーM3或いは海島M4)を有し、透過電子顕微鏡によって観察される相分離構造の平均周期サイズが60nm以上110nm未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性基を含有するセグメント(以下「イオン性セグメント」という)とイオン性基を含有しないセグメント(以下「非イオン性セグメント」という)とをそれぞれ有するブロック共重合体からなる高分子電解質材料であって、イオン交換容量が2.4meq/g以下であり、かつ下記条件1および条件2をともに満たす、高分子電解質材料。
<条件1>示差走査熱量分析法(DSC)によって測定される前記高分子電解質材料の結晶化熱量が0.1J/g以上であるか、または、広角X線回折によって測定される前記高分子電解質材料の結晶化度が0.5%以上である。
<条件2>前記高分子電解質材料が相分離構造を有し、透過電子顕微鏡によって観察される前記相分離構造の平均周期サイズが60nm以上110nm未満である。
【請求項2】
前記相分離構造が共連続様またはラメラ様である、請求項1に記載の高分子電解質材料。
【請求項3】
前記イオン性セグメントおよび非イオン性セグメントが芳香族ポリエーテルケトン系重合体を含む、請求項1に記載の高分子電解質材料。
【請求項4】
前記イオン性セグメントが下記一般式(S1)で表される構造を含有する、請求項1に記載の高分子電解質材料。
【化1】
(一般式(S1)中、Ar~Arは、それぞれ独立に、置換または無置換のアリーレン基を表し、Ar~Arのうち少なくとも1つはイオン性基を有する。YおよびYは、それぞれ独立に、ケトン基または、ケトン基に誘導され得る保護基を表す。*は、一般式(S1)または他の構成単位との結合を表す。)
【請求項5】
前記一般式(S1)で表される構造が下記一般式(S2)で表される構造である、請求項4に記載の高分子電解質材料。
【化2】
(一般式(S2)中、YおよびYは、それぞれ独立に、ケトン基またはケトン基に誘導され得る保護基を表す。M~Mは、それぞれ独立に、水素原子、金属カチオンまたはアンモニウムカチオンを表す。n~nは、それぞれ独立に、0または1であり、n~nのうち少なくとも1つは1である。*は、一般式(S2)または他の構成単位との結合を表す。)
【請求項6】
前記非イオン性セグメントが下記一般式(S3)で表される構造を含有する、請求項1に記載の高分子電解質材料。
【化3】
(一般式(S3)中、Ar~Arは、それぞれ独立に、置換または無置換のアリーレン基を表す。ただしAr~Arはいずれもイオン性基を有さない。YおよびYは、それぞれ独立に、ケトン基、ケトン基に誘導され得る保護基を表す。*は、一般式(S3)または他の構成単位との結合を表す。)
【請求項7】
前記一般式(S3)で表される構造が下記一般式(S4)で表される構造である、請求項6に記載の高分子電解質材料。
【化4】
(一般式(S4)中、YおよびYは、それぞれ独立に、ケトン基またはケトン基に誘導され得る保護基を表す。*は、一般式(S4)または他の構成単位との結合を表す。
【請求項8】
前記ブロック共重合体が、前記イオン性セグメントと前記非イオン性セグメントとの間を結合するリンカー部位を有する、請求項1に記載の高分子電解質材料。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の高分子電解質材料を含む高分子電解質成型体。
【請求項10】
請求項9に記載の高分子電解質成型体を用いて構成される触媒層付電解質膜。
【請求項11】
請求項9に記載の高分子電解質成型体を用いて構成される膜電極接合体。
【請求項12】
請求項9に記載の高分子電解質成型体を用いて構成される固体高分子燃料電池。
【請求項13】
請求項9に記載の高分子電解質成型体を用いて構成される水電解式水素発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質材料、それを用いた高分子電解質成型体、触媒層付電解質膜、膜電極接合体、固体高分子燃料電池および水電解式水素発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素、メタノールなどの燃料を電気化学的に酸化することによって電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。なかでも固体高分子形燃料電池は、標準的な作動温度が100℃前後と低く、かつ、エネルギー密度が高いことから、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として幅広い応用が期待されている。また、固体高分子形燃料電池は、小型移動機器や携帯機器の電源としても注目されており、携帯電話やパソコンにおける、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池の代替用途としても期待されている。
【0003】
燃料電池は、通常、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)がセパレータによって挟まれたセルをユニットとして構成されている。MEAは、電解質膜の両面に触媒層を配置し、その両側にさらにガス拡散層を配置したものである。MEAにおいては、電解質膜を挟んで両側に配置された触媒層とガス拡散層とで一対の電極層が構成され、そのうちの一方がアノード電極であり、他方がカソード電極である。アノード電極に水素を含む燃料ガスが接触するとともに、カソード電極に空気が接触することにより電気化学反応によって電力が作り出される。電解質膜は高分子電解質材料を主として構成される。また、高分子電解質材料は触媒層のバインダーにも用いられる。
【0004】
従来、高分子電解質材料としてフッ素系高分子電解質である“ナフィオン”(登録商標)(ケマーズ(株)製)が広く用いられてきた。一方で、“ナフィオン”(登録商標)に替わり得る、安価で、膜特性に優れた炭化水素系電解質材料の開発も近年活発化している。炭化水素系電解質材料は、低ガス透過性や耐熱性に優れており、芳香族ポリエーテルケトンや芳香族ポリエーテルスルホンを用いた電解質材料について特に活発に検討されてきた。しかしながら、従来の炭化水素系電解質材料は、高加湿条件下においてはフッ素系電解質材料と同等か、またはより優位なプロトン伝導性を示す一方で、低加湿条件下におけるプロトン伝導性が不十分であった。例えば、プロトン伝導性が不十分であると良好な発電性能が得られないことがある。また、燃料電池や水電解装置などに適用される電解質膜には、高い機械的耐久性が求められることがある。
【0005】
上記のような課題に対して、プロトン伝導性および機械的耐久性が向上した炭化水素系高分子電解質膜として、相分離構造を有する電解質膜が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/018487号
【特許文献2】国際公開第2013/031675号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献に開示された高分子電解質膜は、プロトン伝導性および機械的耐久性が改良されることが期待できる。
【0008】
しかしながら、一般的に、プロトン伝導性と機械的耐久性とはトレードオフの関係、すなわち、プロトン伝導性を高めると機械的耐久性が低下し、逆に機械的耐久性を高めるとプロトン伝導性が低下するという関係にあり、特許文献1~2に記載の電解質膜を用いてもなお、これらの特性を比較的高いレベルで両立させることは難しいという問題があった。特に、低加湿条件下でのプロトン伝導性(発電性能)を高めると機械的耐久性が低下することがあった。すなわち、機械的耐久性と低加湿条件下での発電性能を両立させることは難しかった。
【0009】
そこで、本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、低加湿条件下での発電性能が比較的良好なレベルにあり、かつ優れた機械的耐久性を有する高分子電解質材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の高分子電解質材料は、上記課題を解決するために、以下の構成を採る。すなわち、
[1]イオン性基を含有するセグメント(以下「イオン性セグメント」という)とイオン性基を含有しないセグメント(以下「非イオン性セグメント」という)とをそれぞれ有するブロック共重合体からなる高分子電解質材料であって、イオン交換容量が2.4meq/g以下であり、かつ下記条件1および条件2をともに満たす、高分子電解質材料。
<条件1>示差走査熱量分析法(DSC)によって測定される前記高分子電解質材料の結晶化熱量が0.1J/g以上であるか、または、広角X線回折によって測定される前記高分子電解質材料の結晶化度が0.5%以上である。
<条件2>前記高分子電解質材料が相分離構造を有し、透過電子顕微鏡によって観察される前記相分離構造の平均周期サイズが60nm以上110nm未満である。
[2]前記相分離構造が共連続様またはラメラ様である、[1]に記載の高分子電解質材料。
[3]前記イオン性セグメントおよび非イオン性セグメントが芳香族ポリエーテルケトン系重合体を含む、[1]または2に記載の高分子電解質材料。
[4]前記イオン性セグメントが下記一般式(S1)で表される構造を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の高分子電解質材料。
【0011】
【化1】
【0012】
(一般式(S1)中、Ar~Arは、それぞれ独立に、置換または無置換のアリーレン基を表し、Ar~Arのうち少なくとも1つはイオン性基を有する。YおよびYは、それぞれ独立に、ケトン基または、ケトン基に誘導され得る保護基を表す。*は、一般式(S1)または他の構成単位との結合を表す。)
[5]前記一般式(S1)で表される構造が下記一般式(S2)で表される構造である、[4]に記載の高分子電解質材料。
【0013】
【化2】
【0014】
(一般式(S2)中、YおよびYは、それぞれ独立に、ケトン基またはケトン基に誘導され得る保護基を表す。M~Mは、それぞれ独立に、水素原子、金属カチオンまたはアンモニウムカチオンを表す。n~nは、それぞれ独立に、0または1であり、n~nのうち少なくとも1つは1である。*は、一般式(S2)または他の構成単位との結合を表す。)
[6]前記非イオン性セグメントが下記一般式(S3)で表される構造を含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の高分子電解質材料。
【0015】
【化3】
【0016】
(一般式(S3)中、Ar~Arは、それぞれ独立に、置換または無置換のアリーレン基を表す。ただしAr~Arはいずれもイオン性基を有さない。YおよびYは、それぞれ独立に、ケトン基、ケトン基に誘導され得る保護基を表す。*は、一般式(S3)または他の構成単位との結合を表す。)
[7]前記一般式(S3)で表される構造が下記一般式(S4)で表される構造である、[6]に記載の高分子電解質材料。
【0017】
【化4】
【0018】
(一般式(S4)中、YおよびYは、それぞれ独立に、ケトン基またはケトン基に誘導され得る保護基を表す。*は、一般式(S4)または他の構成単位との結合を表す。
[8]前記ブロック共重合体が、前記イオン性セグメントと前記非イオン性セグメントとの間を結合するリンカー部位を有する、[1]~[7]のいずれかに記載の高分子電解質材料。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の高分子電解質材料を含む高分子電解質成型体。
[10][9]に記載の高分子電解質成型体を用いて構成される触媒層付電解質膜。
[11][9]に記載の高分子電解質成型体を用いて構成される膜電極接合体。
[12][9]に記載の高分子電解質成型体を用いて構成される固体高分子燃料電池。
[13][9]に記載の高分子電解質成型体を用いて構成される水電解式水素発生装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低加湿条件下での発電性能が比較的良好なレベルにあり、かつ優れた機械的耐久性を有する高分子電解質材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、高分子電解質材料における相分離構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0022】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料は、イオン性基を含有するセグメント(以下「イオン性セグメント」という)とイオン性基を含有しないセグメント(以下「非イオン性セグメント」という)とをそれぞれ有するブロック共重合体からなる。このようなブロック共重合体からなる高分子電解質材料は、相分離構造を形成しやすいという特長を有する。以下、高分子電解質材料を単に「電解質材料」ということがある。
【0023】
例えば、電解質材料を用いて成形された電解質膜においては、前述したように、発電性能と機械的耐久性とは一般的にトレードオフの関係にある。例えば、電解質材料のイオン交換容量(以下「IEC」と略記することがある)を例に採ると、発電性能は、IECが大きいと高く、IECが小さいと低くなる傾向にあり、一方、機械的耐久性は、IECが大きいと低くなり、IECが小さいと高くなる傾向にある。
【0024】
そこで、本発明は、電解質材料が結晶性を有することとIECが2.4meq/g以下であることとの相乗効果によって機械的耐久性が向上すること、および電解質材料のIECが2.4meq/g以下であっても電解質材料が相分離構造を有しその平均周期サイズが60nm以上110nm未満であることによって発電性能が比較的良好なレベルを維持できること、を見出した。
【0025】
本発明において、電解質材料が結晶性を有するとは、条件1を満たすことを意味する。<条件1>示差走査熱量分析法(DSC)によって測定される電解質材料の結晶化熱量が0.1J/g以上であるか、または、広角X線回折によって測定される電解質材料の結晶化度が0.5%以上である。
以下、条件1を満たすことを「結晶性を有する」に置き換えて説明する。
【0026】
本発明において、電解質材料の相分離構造の確認、電解質材料の結晶性の確認と測定、電解質材料の機械的耐久性および発電性能の評価は、それぞれ、電解質材料を適当な溶媒に溶解あるいは分散した溶液を支持基材上に塗布、乾燥して得られた膜(以下「電解質膜」という)を用いて行ったものである。以下、電解質材料を電解質膜に置き換えて説明することがある。
【0027】
本発明において機械的耐久性が良好であるとは、電解質材料からなる電解質膜の乾湿寸法変化率が小さいことを意味する。ここで、電解質膜の乾湿寸法変化率は、以下のような測定で求めることができる。電解質膜試験片に一定の応力をかけながら、乾燥雰囲気(30%RH)と加湿雰囲気(90%RH)に交互に曝すという乾湿サイクルを繰り返し実施する10サイクル目の30%RHの寸法変化率(%)と90%RHの寸法変化率(%)を測定し、その差を乾湿寸法変化率(%)とする。
【0028】
本発明において発電性能が良好であるとは、後述する発電性能評価において、高い電圧を示すことを意味する。
【0029】
[イオン交換容量(IEC)]
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料は、IECが2.4meq/g以下である。機械的耐久性の観点からは、IECは低い方が好ましい。つまり、本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料のIECは、2.3meq/g以下が好ましく、2.2meq/g以下がより好ましい。また、良好な発電性能を確保するという観点からは、IECは、1.5meq/gよりも大きいことが好ましく、1.7meq/gよりも大きいことがより好ましく、1.9meq/gよりも大きいことが特に好ましい。
【0030】
IECとは、電解質材料(ブロック共重合体)の単位乾燥質量当たりに導入されたイオン交換基のモル量である。IECは、元素分析、中和滴定法等により測定が可能である。イオン交換基がスルホン酸基である場合、元素分析法を用い、S/C比から算出することもできるが、スルホン酸基以外の硫黄源を含む場合などは測定することが難しい。従って、本発明においては、IECは、後述の中和滴定法により求めた値と定義する。
【0031】
電解質材料のIECは、例えば、ブロック共重合体のスルホン酸基の密度、ブロック共重合体におけるイオン性セグメントの含有量などを制御することによって調整することができる。
【0032】
[結晶性]
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料は結晶性を有する。ここで、「結晶性を有する」とは、(i)昇温すると結晶化されうること、(ii)結晶化可能な性質を有すること、および(iii)既に結晶化していること、のいずれかを意味する。
【0033】
上記(i)および(ii)は、示差走査熱量分析法(DSC)によって測定される電解質材料の結晶化熱量で判断できる。上記(iii)は、広角X線回折によって測定される電解質材料の結晶化度で判断できる。つまり、本発明において、電解質材料が結晶性を有するとは、示差走査熱量分析法(DSC)によって測定される電解質材料の結晶化熱量が0.1J/g以上であるか、または、広角X線回折によって測定される電解質材料の結晶化度が0.5%以上であること(前述の<条件1>を満たすこと)を指す。
【0034】
電解質材料の結晶性の程度は、機械的耐久性の観点から高い方が好ましい。例えば、結晶化熱量の場合は、1J/g以上が好ましく、5J/g以上がより好ましく、10J/g以上が特に好ましい。また、結晶化熱量が大きくなりすぎると、電解質膜が脆くなる傾向にあるので、35J/g以下が好ましく、30J/g以下がより好ましく、25J/g以下が特に好ましい。
【0035】
結晶化度の場合は、1%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、5%以上が特に好ましい。また、結晶化度が高くなりすぎると、電解質膜が脆くなる傾向にあるので、30%以下が好ましく、27%以下がより好ましく、25%以下が特に好ましい。
【0036】
電解質材料(ブロック共重合体)の結晶性は、非イオン性セグメントの分子鎖長を大きくすること、あるいはブロック共重合体における非イオン性セグメントの含有率を大きくすること、によって高めることができる。また、分子構造を選択することによっても高めることができる。上記分子構造については、イオン性セグメントおよび非イオン性セグメントが、それぞれ、芳香族炭化水素系重合体を含むことが好ましく、さらに芳香族ポリエーテル系重合体を含むことが好ましく、芳香族ポリエーテルケトン系重合体を含むことが特に好ましい。詳細は後述する。
【0037】
[相分離構造]
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料は、相分離構造を有する。ここで、電解質材料が相分離構造を有するとは、上記電解質膜を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したときに相分離構造が確認できることを意味する。
【0038】
電解質膜の相分離構造の形態例を図1に示す。相分離構造は、共連続(M1)、ラメラ(M2)、シリンダー(M3)、海島(M4)の4つに大きく分類される。本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料は、(M1)~(M4)のいずれかの相分離構造を有する。
【0039】
図1の(M1)~(M4)において、白色部の連続相(相1)がイオン性セグメントおよび非イオン性セグメントから選ばれる一方のセグメントにより形成され、グレー色部の連続相または分散相(相2)が他方のセグメントにより形成される。
【0040】
上記相分離構造は、例えばアニュアル レビュー オブ フィジカル ケミストリ-(Annual Review of Physical Chemistry), 41, 1990, p.525等に記載がある。
【0041】
イオン性セグメントと非イオン性セグメントの高次構造や形状を制御することで、低加湿および低温条件下においても優れたプロトン伝導性が実現可能となる。すなわち、電解質膜が(M1)~(M4)の相分離構造を有することによって、連続したプロトン伝導チャネルの形成が可能となり、プロトン伝導性が向上する。
【0042】
共連続(M1)およびラメラ(M2)からなる相分離構造では、イオン性セグメントおよび非イオン性セグメントが、いずれも連続相を形成する。このような相分離構造を有する電解質膜は、連続したプロトン伝導チャネルが形成されることでプロトン伝導性に優れると同時に、非イオン性セグメントからなるドメインの結晶性によって、優れた機械的耐久性を有する。すなわち、本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料は、共連続様(M1)またはラメラ様(M2)の相分離構造を有することが好ましく、共連続様(M1)の相分離構造を有することが特に好ましい。
【0043】
上記のドメインとは、1本または複数のポリマー鎖において、類似するセグメントが凝集してできた塊のことを意味する。
【0044】
電解質膜が共連続様(M1)あるいはラメラ様(M2)の相分離構造を有することは、以下の手法により確認できる。具体的には、以下の手法により所望とする像が観察される場合に、該構造を有すると定義する。その手法として、TEMトモグラフィー観察により得られた3次元図に対して、縦、横、高さの3方向から切り出したデジタルスライス3面図を比較する。例えば、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとを有するブロック共重合体を含む電解質膜において、その相分離構造が、共連続様(M1)またはラメラ様(M2)の場合、3面図すべてにおいてイオン性セグメントを含む親水性ドメインと非イオン性セグメントを含む疎水性ドメインがともに連続相を形成する。
【0045】
共連続様(M1)の場合は連続相のそれぞれが入り組んだ模様を示し、ラメラ様(M2)の場合は連続相のそれぞれが層状に連なった模様を示す。ここで連続相とは、巨視的に見て、個々のドメインが孤立せずに繋がっている相のことを意味するが、一部繋がっていない部分があってもかまわない。
【0046】
一方、シリンダー構造(M3)や海島構造(M4)の場合、少なくとも1面でドメインのいずれかが連続相を形成しないので、上記共連続様(M1)およびラメラ様(M2)とは区別できるし、また3面図の各々が示す模様からも構造を判別することができる。
【0047】
相分離構造の観察において、イオン性セグメントと非イオン性セグメントの凝集状態やコントラストを明確にするために、例えば、電解質膜を2重量%酢酸鉛水溶液中に2日間浸漬してイオン性基を鉛でイオン交換した後、透過型電子顕微鏡(TEM)およびTEMトモグラフィー観察に供することができる。
【0048】
相分離構造のサイズは、イオン性セグメントを含む親水性ドメインと非イオン性セグメントを含む疎水性ドメインの周期サイズとして表すことができる。かかる相分離構造の周期サイズは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により得られる相分離構造の画像処理が与える自己相関関数から見積もることができる。透過電子顕微鏡(TEM)観察によって求められる相分離構造の周期サイズは、真空雰囲気におけるサイズである。
【0049】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料(電解質膜)における相分離構造の平均周期サイズは、60nm以上110nm未満である。すなわち、本発明において電解質材料は条件2を満たす。
<条件2>高分子電解質材料が相分離構造を有し、透過電子顕微鏡によって観察される相分離構造の平均周期サイズが60nm以上110nm未満である。
このように、相分離構造の平均周期サイズが大きくなることによって、IECが2.4meq/g以下であっても高い発電性能が得られる。
【0050】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料において、相分離構造の平均周期サイズは、上記観点から、63nm以上が好ましく、65nm以上がより好ましく、70nm以上が特に好ましい。一方、相分離構造の平均周期サイズが110nm以上になると機械的耐久性が低下する。また、共連続様の相分離構造が好ましいことは前述のとおりであるが、相分離構造の平均周期サイズが110nm以上と大きくなると、共連続様の相分離構造が形成されにくくなる。そのため、共連続様の相分離構造を得るという観点からも、平均周期サイズは110nm未満である。さらに、上記観点から、相分離構造の平均周期サイズは100nm未満がより好ましい。
【0051】
ブロック共重合体における相分離構造の平均周期サイズはIECと相関し、IECが小さくなると周期サイズも小さくなる傾向にある。これまで、結晶性を有しかつIECが2.4meq/g以下のブロック共重合体において、相分離構造の平均周期サイズが60nm以上110nm未満であるものは、具体的に開示されていなかった。そこで、本発明は、結晶性を有しかつIECが2.4meq/g以下であっても、相分離構造の平均周期サイズが上記範囲のブロック共重合体を得ることに成功し、そして、このブロック共重合体からなる電解質材料は、機械的耐久性に優れ、低加湿条件における発電性能が比較的良好であることを見出した。
【0052】
このようなブロック共重合体は、例えば、ブロック共重合体のイオン性セグメントおよび非イオン性セグメントの分子鎖長をそれぞれ大きくすること、あるいはイオン性セグメントの分子鎖長に対する非イオン性セグメントの分子鎖長の比率を従来の比率よりも高めること、によって得ることができる。詳細は後述する。
【0053】
[ブロック共重合体]
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料は、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとをそれぞれ有するブロック共重合体からなる。本発明において、セグメントとは、ブロック共重合体を合成する際に用いるマクロモノマーの、ブロック共重合体中での部分構造である。また、非イオン性セグメントはイオン性基を含有しないと表記しているが、本発明の効果、特に結晶性に悪影響を及ぼさない範囲でイオン性基を少量含んでいても構わない。
【0054】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料を構成するブロック共重合体は、2種類以上の互いに不相溶なセグメント鎖、すなわち、親水性セグメントであるイオン性セグメントと、疎水性セグメントである非イオン性セグメントが連結され、1つのポリマー鎖を形成したものである。ブロック共重合体においては、化学的に異なるセグメント鎖間の反発から生じる短距離相互作用により、それぞれのセグメント鎖からなるナノまたはミクロドメインに相分離する。そして、セグメント鎖がお互いに共有結合していることから、長距離相互作用が生じ、その効果により、各ドメインが特定の秩序を持って配置せしめられる。各セグメント鎖からなるドメインが集合して作り出す高次構造は、ナノまたはミクロ相分離構造と呼ばれる。ここで、ドメインとは、1本または複数のポリマー鎖において、類似するセグメントが凝集してできた塊のことを意味する。電解質膜のイオン伝導については、膜中におけるイオン伝導セグメントの空間配置、すなわち、ナノまたはミクロ相分離構造が重要になる。
【0055】
[イオン性セグメント]
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料を構成するブロック共重合体中のイオン性セグメントは、結晶性および機械的耐久性の観点から、炭化水素系重合体を含むことが好ましい。ここで、炭化水素系とは、パーフルオロ系以外であることを意味し、炭化水素系重合体とはパーフルオロ系以外の重合体であることを意味する。
【0056】
さらに、結晶性および機械的耐久性の観点から、イオン性セグメントは、主鎖に芳香環を有する炭化水素系重合体(以下、「芳香族炭化水素系重合体」という)を含むことが好ましい。
【0057】
芳香族炭化水素系重合体に含まれる芳香環は、炭化水素系芳香環だけでなく、ヘテロ環を含んでいてもよい。また、芳香環ユニットと共に一部脂肪族系ユニットがポリマーを構成していてもよい。芳香族炭化水素系重合体の具体例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホンから選択される構造を芳香環とともに主鎖に有するポリマーが挙げられる。この中でも、コスト、重合性の観点から、芳香族ポリエーテル系重合体が好ましい。
【0058】
芳香族ポリエーテル系重合体とは、主として芳香環から構成される重合体において、繰り返し単位中に、芳香環ユニットが連結する様式として少なくともエーテル結合が含まれているものをいう。芳香族ポリエーテル系重合体の構造として、例えば、芳香族ポリエーテル、芳香族ポリエーテルケトン、芳香族ポリエーテルイミド、芳香族ポリエーテルスルホンなどが挙げられるが、これらに限定されない。結晶性の観点から、芳香族ポリエーテルケトン系重合体であることが好ましい。
【0059】
芳香族ポリエーテルケトン系重合体とは、主として芳香環から構成される重合体において、繰り返し単位中に、芳香環ユニットが連結する様式として少なくともエーテル結合とケトン結合が含まれているものをいう。芳香族ポリエーテルケトン系重合体には、芳香族ポリエーテルケトン、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエーテルケトンケトン、芳香族ポリエーテルエーテルケトンケトン、芳香族ポリエーテルケトンエーテルケトンケトンなどが含まれる。
【0060】
本発明に使用されるイオン性セグメントは、芳香族求核置換反応やカップリング反応などにより合成することができる。
【0061】
イオン性セグメントは、上記したように芳香族ポリエーテルケトン系重合体を含むことが好ましく、上記重合体は下記一般式(S1)で表される構造を含有することが好ましい。
【0062】
【化5】
【0063】
一般式(S1)中、Ar~Arは、それぞれ独立に、置換または無置換のアリーレン基を表し、Ar~Arのうち少なくとも1つはイオン性基を有する。YおよびYは、それぞれ独立に、ケトン基、ケトン基に誘導され得る保護基を表す。*は、一般式(S1)または他の構成単位との結合を表す。
【0064】
ここで、Ar~Arで表されるアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレンジイル基などの炭化水素系アリーレン基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイルなどのヘテロアリーレン基などが挙げられるが、これらに限定されない。イオン性基は、負電荷を有する原子団が好ましく、プロトン交換能を有するものが好ましい。このような官能基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
上記イオン性基は、塩となっている場合を含む。このような塩を形成するカチオンとしては、任意の金属カチオン、NR (Rは任意の有機基)等を例として挙げることができる。金属カチオンには特に制限はないが、安価で、容易にプロトン置換可能なNa、K、Liが好ましい。
【0066】
これらのイオン性基は、イオン性セグメント中に2種類以上含むことができ、組み合わせはブロック共重合体の構造などにより適宜決められる。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基を含有することがより好ましく、原料コストの点からスルホン酸基を含有することが特に好ましい。
【0067】
また、一般式(S1)において、YおよびYは、相分離構造形成の観点から、ケトン基またはケトン基に誘導され得る保護基であることが好ましい。すなわち、イオン性セグメントは、芳香族ポリエーテルケトン系重合体であることが好ましい。ケトン基に誘導され得る保護基については後述する。
【0068】
上記一般式(S1)で表される構造が、下記一般式(P1)で表される構造であることが原料入手性の点から好ましく、中でも、下記一般式(S2)で表される構造であることが原料入手性と重合性の点からさらに好ましい。
【0069】
【化6】
【0070】
一般式(P1)及び一般式(S2)中、YおよびYは、それぞれ独立に、ケトン基またはケトン基に誘導され得る保護基を表す。M~Mは、それぞれ独立に、水素原子、金属カチオンまたはアンモニウムカチオンを表す。n~nは、それぞれ独立に、0または1であり、n~nのうち少なくとも1つは1である。*は一般式(P1)、(S2)または他の構成単位との結合を表す。
【0071】
さらに原料入手性と重合性の点からn=1、n=1、n=0、n=0またはn=0、n=0、n=1、n=1であることが最も好ましい。
【0072】
上記のようなイオン性セグメントの構成単位を合成するために用いられるイオン性モノマーとして、例えば芳香族活性ジハライド化合物が挙げられる。イオン性セグメント中に用いる芳香族活性ジハライド化合物として、芳香族活性ジハライド化合物にイオン酸基を導入した化合物を用いることは、化学的安定性、製造コスト、イオン性基の量を精密制御が可能な点から好ましい。イオン性基としてスルホン酸基を有するモノマーの好適な具体例としては、3,3'-ジスルホネート-4,4'-ジクロロジフェニルスルホン、3,3'-ジスルホネート-4,4'-ジフルオロジフェニルスルホン、3,3'-ジスルホネート-4,4'-ジクロロジフェニルケトン、3,3'-ジスルホネート-4,4'-ジフルオロジフェニルケトン、3,3'-ジスルホネート-4,4'-ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、3,3'-ジスルホネート-4,4'-ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
プロトン伝導度および耐加水分解性の点からイオン性基としてはスルホン酸基が最も好ましいが、上記イオン性基を有するモノマーは他のイオン性基を有していても構わない。
【0074】
上記したスルホン酸基を有するモノマーのなかでも化学的安定性と機械的耐久性の点から、3,3'-ジスルホネート-4,4'-ジクロロジフェニルケトン、3,3'-ジスルホネート-4,4'-ジフルオロジフェニルケトンがより好ましく、重合活性の点から3,3'-ジスルホネート-4,4'-ジフルオロジフェニルケトンが最も好ましい。
【0075】
イオン性基を有するモノマーとして、3,3'-ジスルホネート-4,4'-ジクロロジフェニルケトン、3,3'-ジスルホネート-4,4'-ジフルオロジフェニルケトンを用いて合成したイオン性セグメントとしては、下記一般式(p1)で表される構成単位を含むものとなり、好ましく用いられる。該芳香族ポリエーテル系重合体は、ケトン基の有する高い結晶性の特性に加え、スルホン基よりも耐熱水性に優れる成分となり、高温高湿度条件での機械的耐久性の点からさらに好ましく用いられる。これらのスルホン酸基は重合の際には、スルホン酸基が1価カチオン種との塩になっていることが好ましい。1価カチオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限される訳ではない。これら芳香族活性ジハライド化合物は、単独で使用することができるが、複数の芳香族活性ジハライド化合物を併用することも可能である。
【0076】
【化7】
【0077】
一般式(p1)中、MおよびMは水素、金属カチオン、アンモニウムカチオン、a1およびa2は1~4の整数を表す。一般式(p1)で表される構成単位は任意に置換されていてもよい。
【0078】
また、芳香族活性ジハライド化合物としては、イオン性基を有するものと持たないものを共重合することで、イオン性基密度を制御することも可能である。しかしながら、上記イオン性セグメントとしては、プロトン伝導パスの連続性確保の観点から、イオン性基を持たない芳香族活性ジハライド化合物を共重合しないことがより好ましい。
【0079】
イオン性基を持たない芳香族活性ジハライド化合物のより好適な具体例としては、4,4'-ジクロロジフェニルスルホン、4,4'-ジフルオロジフェニルスルホン、4,4'-ジクロロジフェニルケトン、4,4'-ジフルオロジフェニルケトン、4,4'-ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、4,4'-ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾニトリル、2,6-ジフルオロベンゾニトリル等を挙げることができる。中でも4,4'-ジクロロジフェニルケトン、4,4'-ジフルオロジフェニルケトンが結晶性付与、機械的耐久性の点からより好ましく、重合活性の点から4,4'-ジフルオロジフェニルケトンが最も好ましい。これら芳香族活性ジハライド化合物は、単独で使用することができるが、複数の芳香族活性ジハライド化合物を併用することも可能である。
【0080】
芳香族活性ジハライド化合物として、4,4'-ジクロロジフェニルケトン、4,4'-ジフルオロジフェニルケトンを用いて合成した高分子電解質材料としては、下記一般式(p2)で表される構成部位をさらに含むものとなり、好ましく用いられる。該構成単位は分子間凝集力や結晶性を付与する成分となり、高温高湿度条件での機械的耐久性に優れた材料となるので好ましく用いられる。
【0081】
【化8】
【0082】
一般式(p2)で表される構成単位は任意に置換されていてもよいが、イオン性基は含有しない。
【0083】
またイオン性セグメントを合成するために用いられる非イオン性モノマーとして、芳香族ジフェノール化合物が挙げられ、特に後述する保護基を有する芳香族ジフェノール化合物であることが好ましい。
【0084】
以上、イオン性セグメントの構成単位を合成するために用いられるモノマーについて説明した。
【0085】
イオン性セグメントとして、またはイオン性セグメントを構成する構成単位として、一般式(S1)で表される構造以外に下記一般式(T1)および(T2)で表される構造を含むことができる。
【0086】
【化9】
【0087】
一般式(T1)および(T2)中、Bは芳香環を含む2価の有機基を表す。MおよびMは、それぞれ独立に、水素原子、金属カチオンまたはアンモニウムカチオンを表す。
【0088】
この芳香族ポリエーテルケトン系共重合体において、一般式(T1)と(T2)で表される構成単位の組成比を変えることで、イオン交換容量を制御することが可能である。
【0089】
イオン性セグメントとして、一般式(P1)で表される構造と、一般式(T1)および(T2)で表される構造とを有することが特に好ましい。このようなイオン性セグメントにおいて、一般式(P1)、(T1)および(T2)で表わされる構成単位の量を、それぞれp1、t1およびt2とするとき、t1とt2の合計モル量を100モル部に対してp1が75モル部以上であることが好ましく、90モル部以上であることがより好ましく、100モル部以上であることがさらに好ましい。
【0090】
一般式(T1)および(T2)中の芳香環を含む2価の有機基Bとしては、芳香族求核置換反応による芳香族ポリエーテル系重合体の重合に用いることができる各種2価フェノール化合物の残基や、それにスルホン酸基が導入されたものを挙げることができる。
芳香環を含む2価の有機基Bの好適な具体例としては、下記一般式(X’-1)~(X’-6)で示される基を例示できるが、これらに限定されない。
【0091】
【化10】
【0092】
これらはイオン性基や芳香族基を有していてもよい。また、これらは必要に応じて併用することも可能である。なかでも、結晶性、機械的耐久性、化学的安定性の観点から、より好ましくは一般式(X’-1)~(X’-4)で示される基、最も好ましくは一般式(X’-2)および(X’-3)で示される基である。
【0093】
[非イオン性セグメント]
本発明のブロック共重合体を構成する非イオン性セグメントは、結晶性および機械的耐久性の観点から、炭化水素系重合体を含むことが好ましく、芳香族炭化水素系重合体を含むことがさらに好ましい。ここで、炭化水素系重合体の定義および芳香族炭化水素系重合体の具体例は前述のとおりである。
【0094】
芳香族炭化水素系重合体の中でも、コスト、重合性の観点から、芳香族ポリエーテル系重合体が好ましく、結晶性および機械的耐久性の観点から、芳香族ポリエーテルケトン系重合体がより好ましい。
【0095】
非イオン性セグメントは、上記したように芳香族ポリエーテルケトン系重合体を含むことが好ましく、上記重合体は下記一般式(S3)で表される構造を含有することが好ましい。
【0096】
【化11】
【0097】
一般式(S3)中、Ar~Arは、それぞれ独立に、置換または無置換のアリーレン基を表す。ただしAr~Arはいずれもイオン性基を有さない。YおよびYは、それぞれ独立に、ケトン基、ケトン基に誘導され得る保護基を表す。*は、一般式(S3)または他の構成単位との結合を表す。
【0098】
ここで、Ar~Arで表されるアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレンジイル基などの炭化水素系アリーレン基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイルなどのヘテロアリーレン基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0099】
また、一般式(S3)において、YおよびYは、相分離構造形成の観点から、ケトン基またはケトン基に誘導され得る保護基であることから、該ブロック共重合体は結晶性を有し、また相分離構造が形成されやすい。すなわち、非イオン性セグメントは、芳香族ポリエーテルケトン系重合体であることが好ましい。
【0100】
上記一般式(S3)で表される構造が、下記一般式(P2)で表される構造を含有することが原料入手性の点から好ましく、中でも、下記一般式(S4)で表される構成単位を含有することが結晶性の点からさらに好ましい。
【0101】
【化12】
【0102】
一般式(P2)および(S4)中、YおよびYは、それぞれ独立に、ケトン基またはケトン基に誘導され得る保護基を表す。*は、一般式(P2)および(S4)または他の構成単位との結合を表す。
【0103】
非イオン性セグメントにおける一般式(P2)または(S4)で表される構造の含有量としては、結晶性および機械的耐久性の観点から、20モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が特に好ましい。
【0104】
ケトン基に誘導され得る保護基としては、例えば下記一般式(P3)および(P4)から選ばれる少なくとも1種を含有するものが好ましく挙げられる。
【0105】
【化13】
【0106】
一般式(P3)および(P4)において、Ar11~Ar14は任意の2価のアリーレン基、RおよびRはHおよびアルキル基から選ばれた少なくとも1種の基、Rは任意のアルキレン基、それぞれが2種類以上の基を表しても良い。一般式(P3)および(P4)で表される基は任意に置換されていてもよい。
【0107】
一般式(P3)中のRおよびRとしては、安定性の点でアルキル基であることがより好ましく、さらに好ましくは炭素数1~6のアルキル基、最も好ましく炭素数1~3のアルキル基である。また、一般式(P4)中のRとしては、安定性の点で炭素数1~7のアルキレン基であることがより好ましく、最も好ましくは炭素数1~4のアルキレン基である。Rの具体例としては、-CHCH-、-CH(CH)CH-、-CH(CH)CH(CH)-、-C(CHCH-、-C(CHCH(CH)-、-C(CHO(CH-、-CHCHCH-、-CHC(CHCH-等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0108】
一般式(P3)および(P4)中のAr11~Ar14として好ましい有機基は、フェニレン基、ナフチレン基、またはビフェニレン基である。これらは任意に置換されていてもよい。芳香族ポリエーテル系重合体としては、溶解性および原料入手の容易さから、一般式(P4)中のAr13およびAr14が共にフェニレン基であることがより好ましく、最も好ましくはAr13およびAr14が共にp-フェニレン基である。
【0109】
ここで、ケトン部位をケタールで保護する方法としては、ケトン基を有する前駆体化合物を、酸触媒存在下で1官能および/または2官能アルコールと反応させる方法が挙げられる。例えば、ケトン前駆体の4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンと1官能および/または2官能アルコール、脂肪族又は芳香族炭化水素などの溶媒中で臭化水素などの酸触媒の存在下で反応させることによって製造できる。アルコールは炭素数1~20の脂肪族アルコールである。
【0110】
ケタールモノマーを製造するための改良法は、ケトン前駆体の4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンと2官能アルコールをアルキルオルトエステル及び固体触媒の存在下に反応させることからなる。
【0111】
ケタールで保護したケトン部位の少なくとも一部を脱保護せしめ、ケトン部位とする方法は特に限定されるものではない。脱保護反応は、不均一又は均一条件下に水及び酸の存在下において行うことが可能であるが、機械的耐久性、耐溶剤性の観点からは、膜等に成型した後で酸処理する方法がより好ましい。具体的には、成型された膜を塩酸水溶液や硫酸水溶液中に浸漬することにより脱保護することが可能であり、酸の濃度や水溶液の温度については適宜選択することができる。
【0112】
ポリマーに対して必要な酸性水溶液の重量比は、好ましくは1~100倍であるけれども更に大量の水を使用することもできる。酸触媒は好ましくは存在する水の0.1~50重量%の濃度において使用する。好適な酸触媒としては塩酸、硝酸、フルオロスルホン酸、硫酸などのような強鉱酸、及びp-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンルスホン酸などのような強有機酸が挙げられる。ポリマーの膜厚等に応じて、酸触媒及び過剰水の量、反応圧力などは適宜選択できる。
【0113】
例えば、膜厚50μmの膜であれば、6N塩酸水溶液に例示されるような酸性水溶液中に浸漬し、95℃で1~48時間加熱することにより、容易にほぼ全量を脱保護することが可能である。また、25℃の1N塩酸水溶液に24時間浸漬しても、大部分の保護基を脱保護することは可能である。ただし、脱保護の条件としてはこれらに限定されるものではなく、酸性ガスや有機酸等で脱保護してもよいし、熱処理によって脱保護してもよい。
【0114】
芳香族ポリエーテル系重合体が直接結合等のエーテル結合以外の結合様式を含む場合においても、加工性向上の点から、導入される保護基の位置としては芳香族エーテル系重合体部分であることがより好ましい。
【0115】
具体的には、例えば一般式(P3)および(P4)で表される構成単位を含有する芳香族ポリエーテル系重合体は、芳香族ジフェノール化合物としてそれぞれ下記一般式(P3-1)および(P4-1)で表される化合物を使用し、芳香族活性ジハライド化合物との芳香族求核置換反応により合成することが可能である。一般式(P3)および(P4)で表される構成単位が芳香族ジフェノール化合物、芳香族活性ジハライド化合物のどちら側由来でも構わないが、モノマーの反応性を考慮して芳香族ジフェノール化合物由来を使用する方がより好ましい。
【0116】
【化14】
【0117】
一般式(P3-1)および(P4-1)において、Ar11~Ar14は任意の2価のアリーレン基、RおよびRはHおよびアルキル基から選ばれた少なくとも1種の基、Rは任意のアルキレン基を表す。一般式(P3-1)および一般式(P4-1)で表される化合物は任意に置換されていてもよい。
【0118】
[ブロック共重合体の詳細説明]
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料を構成するブロック共重合体は、イオン性セグメントおよび非イオン性セグメントが、ともに、芳香族ポリエーテル系重合体であることが好ましく、さらに、芳香族ポリエーテルケトン系重合体であることが好ましい。
【0119】
特に、本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料を構成するブロック共重合体は、上記一般式(S1)で表される構成単位を含有するイオン性セグメントと、上記一般式(S3)で表される構成単位を含有する非イオン性セグメントとを含むことが好ましい。
【0120】
非イオン性セグメントが、一般式(S3)で表される構成単位を含有する場合、結晶性を有するセグメントであり、この非イオン性セグメントの分子量やブロック共重合体における含有量を制御することによって、所望の結晶性に調整することができる。
【0121】
一般式(S3)で表される構成単位を含有する非イオン性セグメントを含むブロック共重合体は、例えば、少なくとも非イオン性セグメントに保護基を導入したブロック共重合体前駆体を成型した後、成型体に含有される該保護基の少なくとも一部を脱保護せしめることにより製造することができる。ブロック共重合体では、ランダム共重合体よりも、ドメインを形成したポリマーの結晶化により、加工性が不良となる傾向があるので、少なくとも非イオン性セグメントに保護基を導入し、加工性を向上させることが好ましく、イオン性セグメントについても、加工性が不良となる場合には保護基を導入することが好ましい。
【0122】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料を構成するブロック共重合体は、相分離構造を有する。すなわち、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとをそれぞれ有する、本発明のブロック共重合体において、イオン性セグメントが凝集して形成された親水性ドメインは、局所的に高いイオン性基濃度を有することにより、優れた発電性能を示す。非イオン性セグメントが凝集して形成された疎水性ドメインは、結晶性による強い分子間相互作用を有することにより、優れた機械的耐久性を示す。
【0123】
ブロック共重合体を構成するイオン性セグメントおよび非イオン性セグメントが、ともに、芳香族ポリエーテル系重合体であることによって、好ましくは芳香族ポリエーテルケトン系重合体であることによって、相分離構造が形成されやすくなる。さらに、上記観点から、本発明におけるブロック共重合体は、上記一般式(S1)で表される構成単位を含有するイオン性セグメントと、上記一般式(S3)で表される構成単位を含有する非イオン性セグメントとを含むことが好ましい。
【0124】
また、本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料を構成するブロック共重合体は、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとの間を連結するリンカー部位を1個以上含有することが好ましい。このようなブロック共重合体は、共連続様の相分離構造が形成されやすくなり、また相分離構造の周期サイズも大きくなりやすくなる。以下、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとの間を連結するリンカー部位を「リンカー(R1)」ということがある。一方、後述するように、イオン性セグメント内の構成単位間を連結するリンカー部位を「リンカー(R2)」ということがある。
【0125】
上記リンカー(R1)とは、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとの間を連結する部位であって、イオン性セグメントや非イオン性セグメントとは異なる化学構造を有する部位と定義する。
【0126】
リンカー(R1)は、エーテル交換反応による共重合体のランダム化、セグメント切断、その他共重合体の合成時に生じうる副反応などを抑制しながら、異なるセグメントを連結する機能を有する。そのため、このようなリンカー(R1)を与えるような化合物を原料として用いることで、それぞれのセグメントの分子量を下げることなく、ブロック共重合体を得ることができる。リンカー(R1)を与える化合物としては、ハライド化合物が好ましく、例えば、デカフルオロビフェニル、ヘキサフルオロベンゼン、4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン、2,6-ジフルオロベンゾニトリル等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0127】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料を構成するブロック共重合体を構成するイオン性セグメントの数平均分子量と非イオン性セグメントの数平均分子量を制御することによって、ブロック共重合体のIEC、結晶性および相分離構造の平均周期サイズを所望の前述した範囲に調整することができる。例えば、イオン性セグメントの数平均分子量は、IECおよび相分離構造の平均周期サイズを所望の範囲に調整するという観点から、40,000~150,000の範囲が好ましく、45,000~130,000の範囲がより好ましく、50,000~120,000の範囲が特に好ましい。一方、非イオン性セグメントの数平均分子量は、結晶性および相分離構造の平均周期サイズを所望の範囲に調整するという観点から、15,000~60,000の範囲が好ましく、20,000~50,000の範囲がより好ましく、22,000~45,000の範囲が特に好ましい。
【0128】
イオン性セグメントの数平均分子量を比較的大きくするために、例えば、数平均分子量を50,000以上にするために、イオン性セグメント内の構成単位間をリンカー部位(リンカー(R2))で連結した構造とすることが好ましい。リンカー(R2)を用いることによって、長鎖ポリマーの合成が比較的容易になる。リンカー(R2)を与える化合物としては、ハライド化合物が好ましく、例えば、デカフルオロビフェニル、ヘキサフルオロベンゼン、4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン、2,6-ジフルオロベンゾニトリル等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0129】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料を構成するブロック共重合体、すなわち、IECが2.4meq/g以下で結晶性を有するブロック共重合体において、平均周期サイズが60nm以上110nm未満である相分離構造は、ブロック共重合体のイオン性セグメントの数平均分子量をMn1、非イオン性セグメントの数平均分子量をMn2としたとき、例えば、Mn1およびMn2を上記のような範囲に設計し、かつMn1とMn2との比率(Mn1/Mn2)を1.50~4.00の範囲に設計することで形成されやすくなる。比率(Mn1/Mn2)は1.50~3.70の範囲が好ましい。比率(Mn1/Mn2)が1.50~4.00の範囲において、Mn2は20,000以上が好ましく、22,000以上がより好ましい。
【0130】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料を構成するブロック共重合体の具体的な合成方法を以下に例示する。ただし、本発明は、これらに限定されない。
【0131】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料を構成するブロック共重合体中の各セグメントは、芳香族求核置換反応によって合成することが、プロセス上容易であることから好ましい。芳香族求核置換反応は、ジハライド化合物とジオール化合物のモノマー混合物を塩基性化合物の存在下で反応させる方法である。重合は、0~350℃の温度範囲で行うことができるが、50~250℃の温度であることが好ましい。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒などを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
【0132】
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等があげられるが、ジオール類を活性なフェノキシド構造にし得るものであれば、これらに限定されず使用することができる。また、フェノキシドの求核性を高めるために、18-クラウン-6などのクラウンエーテルを添加することも好適である。クラウンエーテル類は、スルホン酸基のナトリウムイオンやカリウムイオンに配位して有機溶媒に対するモノマーやポリマーのスルホン酸塩部の溶解性が向上する場合があり、好ましく使用できる。
【0133】
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水剤を使用することもできる。
【0134】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料を構成するブロック共重合体は、ブロック共重合体前駆体を合成した後、前駆体に含有される保護基の少なくとも一部を脱保護させることにより製造することが出来る。本発明のブロック共重合体およびブロック共重合体前駆体の製造方法としては、少なくとも下記工程(1)~(2)を備えることが好ましい。これらの工程を備えることにより、高分子量化による機械的耐久性の向上を達成でき、かつ、両セグメントの交互導入によって、相分離構造やドメインサイズが厳密に制御されたブロック共重合体を得ることができる。このようなブロック共重合体は、IECが2.4meq/g以下であっても良好な発電性能を有する。
【0135】
工程(1):両末端に-OM基(Mは、水素原子、金属カチオンまたはアンモニウムカチオンを表す。)を有するイオン性セグメントおよび両末端に-OM基を有する非イオン性セグメントのうちの一方のセグメントについて、そのセグメントの両末端の-OM基とリンカー(R1)を与える化合物とを反応させて、そのセグメントの両末端にリンカー(R1)を導入する工程
工程(2):工程(1)で合成したリンカー(R1)を導入したセグメントの両末端リンカー(R1)と、もう一方のセグメントの両末端の-OM基とを重合させることにより、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとを有するブロック共重合体またはブロック共重合体前駆体を製造する工程。
【0136】
両末端とも-OM基であるような一般式(S1)および一般式(S2)で表されるイオン性セグメントと、両末端とも-OM基であるような一般式(S3)および一般式(S4)で表される非イオン性セグメントの具体例としては、それぞれ、下記一般式(H3-1)、(H3-2)で表される構造のセグメントが挙げられる。また、一般式(H3-1)、(H3-2)で表される構造のセグメントをそれぞれリンカー(R1)を与える化合物と反応させた後の構造としては、例えば、それぞれ下記一般式(H3-3)、(H3-4)で表される構造が挙げられる。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0137】
【化15】
【0138】
上記一般式(H3-1)~(H3-4)において、N、N、N、Nはそれぞれ独立して1~200の整数を表す。
【0139】
イオン性セグメントがその構成単位間を連結するリンカー(R2)を有するものの具体例を下記一般式(H3-1L)、このイオン性セグメントに上記工程(1)でリンカー(R1)を導入したものの具体例を一般式(H3-3L)に示す。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、イオン性セグメントにリンカー(R2)とリンカー(R1)を導入する工程は、一つの反応工程で行うことができる。
【0140】
【化16】
【0141】
上記一般式(H3-1L)および(H3-3L)において、N5、N6はそれぞれ独立して1~200の整数を表す。
【0142】
一般式(H3-1)~(H3-4)、(H3-1L)および(H3-3L)において、ハロゲン原子はF、末端-OM基は-OK基、アルカリ金属はNaおよびKでそれぞれ示しているが、これらに限定されることなく使用することが可能である。また、これらの一般式は読み手の理解を助ける目的で挿入するものであり、ポリマーの重合成分の化学構造、正確な組成、並び方、スルホン酸基の位置、数、分子量などを必ずしも正確に表すわけではなく、これらに限定されるものでない。
【0143】
さらに、一般式(H3-1)~(H3-4)、(H3-1L)および(H3-3L)では、いずれのセグメントに対しても、保護基としてケタール基を導入したが、本発明においては、結晶性が高く溶解性が低い成分に保護基を導入すればよい。したがって、上記イオン性セグメントには必ずしも保護基が必要ではなく、機械的耐久性の観点から、保護基がないものも好ましく使用できる。
【0144】
[高分子電解質成型体]
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料は、高分子電解質成型体として好適である。ここで、高分子電解質成型体とは、本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料を含む成型体を意味する。かかる高分子電解質成型体としては、膜類(フィルムおよびフィルム状のものを含む)の他、板状、繊維状、中空糸状、粒子状、塊状、微多孔状、コーティング類、発泡体類など、用途によって様々な形態をとりうる。これらの中でも、幅広い用途に適応可能であることから、膜類であることが好ましい。以下、膜類の高分子電解質成型体を「電解質成型膜」という。前述した電解質材料の特性を評価するための「電解質膜」は、上記「電解質成型膜」に含まれる。以下、高分子電解質成型体として電解質成型膜を代表例として説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0145】
電解質成型膜を製造する方法として、ケタール等の保護基を有する段階で溶液状態より製膜する方法、あるいは溶融状態より製膜する方法が挙げられる。前者では、例えば、電解質材料をN-メチル-2-ピロリドン等の溶媒に溶解し、その溶液をガラス板やポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルム)等の上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜する方法が例示できる。
【0146】
製膜に用いる溶媒としては、電解質材料を溶解し、その後に除去し得るものであればよく、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、Nメチル-2ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはイソプロパノールなどのアルコール系溶媒、水およびこれらの混合物が好適に用いられるが、非プロトン性極性溶媒が最も溶解性が高く好ましい。また、イオン性セグメントの溶解性を高めるために、18-クラウン-6などのクラウンエーテルを添加することも好適である。
【0147】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料を電解質成型膜へ転化する方法としては、例えば、該電解質材料から構成される膜を上記手法により製膜後、保護基で保護した部位の少なくとも一部を脱保護するものである。例えば、保護基としてケタール部位を有する場合、ケタールで保護したケトン部位の少なくとも一部を脱保護し、ケトン部位とする。この方法によれば、溶解性に乏しいブロック共重合体の溶液製膜が可能となる。
【0148】
また、含まれるイオン性基がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンと塩を形成した状態で製膜した後に、当該アルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンをプロトンと交換する工程を行っても良い。この工程は、成型膜を酸性水溶液と接触させる工程であることが好ましく、特に成型膜を酸性水溶液に浸漬する工程であることがより好ましい。この工程においては、酸性水溶液中のプロトンがイオン性基とイオン結合している陽イオンと置換されるとともに、残留している水溶性の不純物や、残存モノマー、溶媒、残存塩などが同時に除去される。
【0149】
酸性水溶液は特に限定されないが、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、リン酸、クエン酸などを用いることが好ましい。酸性水溶液の温度や濃度等も適宜決定すべきであるが、生産性の観点から0℃以上80℃以下の温度で、3質量%以上、30質量%以下の硫酸水溶液を使用することが好ましい。
【0150】
本発明における電解質成型膜の厚みとしては、機械的耐久性の観点から、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、3μm以上が特に好ましい。一方、発電性能の観点からは、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下が特に好ましい。特に、電解質成型膜(電解質膜)を燃料電池に適用する場合、その厚みは、発電性能の観点から、20μm未満が好ましく、15μm未満がより好ましく、10μm未満が特に好ましい。このように、電解質成型膜の厚みを小さくすると機械的耐久性が低下するが、本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料を用いることによって機械的耐久性を向上させることができる。
【0151】
また、電解質成型膜は、通常の高分子化合物に使用される結晶化核剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤あるいは離型剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で含有していてもよい。
【0152】
また、電解質成型膜は、前述の諸特性に悪影響をおよぼさない範囲内で、機械的強度、熱安定性、加工性などの向上を目的に、各種ポリマー、エラストマー、フィラー、微粒子、各種添加剤などを含有していてもよい。また、電解質成型膜は、微多孔膜、不織布、メッシュ等で補強してもよい。
【0153】
電解質成型膜は、種々の用途に適用することができる。例えば、人工皮膚などの医療用途、ろ過用途、耐塩素性逆浸透膜などのイオン交換樹脂用途、各種構造材用途、電気化学用途、加湿膜、防曇膜、帯電防止膜、脱酸素膜、太陽電池用膜、ガスバリアー膜に適用可能である。中でも種々の電気化学用途により好ましく利用できる。電気化学用途としては、例えば、固体高分子形燃料電池、レドックスフロー電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置、電気化学式水素ポンプ、水電解式水素発生装置などが挙げられる。
【0154】
固体高分子形燃料電池、電気化学式水素ポンプ、および水電解式水素発生装置において、電解質成型膜は、両面に触媒層、電極基材及びセパレータが順次積層された構造体で使用される。このうち、電解質成型膜の両面に触媒層を積層させたもの(すなわち、触媒層/電解質成型膜/触媒層の層構成のもの)は触媒層付電解質膜(CCM)と称され、さらに電解質成型膜の両面に触媒層及びガス拡散基材を順次積層させたもの(すなわち、ガス拡散基材/触媒層/電解質成型膜/触媒層/ガス拡散基材の層構成のもの)は、膜電極接合体(MEA)と称されている。本発明の実施の形態に係る高分子電解質材料は、こうしたCCMおよびMEAを構成する電解質成型膜として特に好適である。
【0155】
電解質成型膜は、例えば、電解質材料を適当な溶媒に溶解もしくは分散した電解質溶液を支持基材(ガラス板やPETフィルムなど)上に流延塗布し、乾燥することによって製造することができる。このようにして得られた電解質成型膜は必要に応じて酸処理が施され、水洗、乾燥される。
【実施例0156】
本発明を実施例にて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されない。本実施例に使用した測定方法を以下に示す。なお、下記測定方法において、ブロック共重合体での測定が困難であるか、もしくは測定精度が懸念される場合は、ブロック共重合体に替えて以下の電解質膜を検体として用いた。
【0157】
<電解質膜(検体)の作製>
ブロック共重合体を溶解させた25重量%N-メチルピロリドン(NMP)溶液を、ガラス繊維フィルターを用いて加圧ろ過した後、ガラス基板上に流延塗布し、100℃にて4時間乾燥して膜を得た。次いで、この膜を10質量%硫酸水溶液に80℃で24時間浸漬して、プロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、膜厚8μmの電解質膜を得た。
【0158】
(1)ポリマーの分子量
ポリマーの数平均分子量、重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー(株)製HLC-8022GPCを、またガードカラムとして、東ソー(株)製TSKgelGuardColumnSuperH-H(内径4.6mm、長さ3.5cm)を用い、GPCカラムとして東ソー(株)製TSKgelSuperHM-H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用い、N-メチル-2-ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN-メチル-2-ピロリドン溶媒)にて、サンプル濃度0.1wt%、流量0.2mL/min、温度40℃、測定波長265nmで測定し、標準ポリスチレン換算により数平均分子量、重量平均分子量を求めた。
【0159】
(2)イオン交換容量(IEC)
以下の1)~4)に示す中和滴定法により測定した。測定は3回実施し、その平均値を取った。
1)プロトン置換し、純水で十分に洗浄したブロック共重合体の水分を拭き取った後、100℃にて12時間以上真空乾燥し、乾燥重量を求めた。
2)ブロック共重合体に5wt%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12時間静置してイオン交換した。
3)0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定した。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v%を加え、薄い赤紫色になった点を終点とした。
4)IECは下記式により求めた。
IEC(meq/g)=〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/mL)×滴下量(mL)〕/試料の乾燥重量(g)。
【0160】
(3)示差走査熱量分析法(DSC)による結晶化熱量測定
電解質膜(検体)10mgをDSC装置内において、110℃で3時間予備乾燥した後、検体をDSC装置から出さずに、以下の条件にて200℃まで昇温させ、昇温段階の温度変調示差走査熱量分析を行った。
・測定温度範囲:30℃~200℃
・温度制御:交流温度制御
・昇温速度:2℃/min
・振幅:±3℃
・印加周波数:0.02Hz
・試料パン:アルミニウム製クリンプパン
・測定および予備乾燥の雰囲気:窒素100mL/min。
【0161】
(4)広角X線回折(XRD)による結晶化度測定
電解質膜(検体)を回折計にセットし、以下の条件にてX線回折測定を行った。
X線回折装置:(株)リガク製RINT2500V
X線:Cu-Kα
X線出力:50kV-300mA
光学系:集中法光学系
スキャン速度:2θ=2°/min
スキャン方法:2θ-θ
スキャン範囲:2θ=5~60°
スリット:発散スリット-1/2°、受光スリット-0.15mm、散乱スリット-1/2°
X線回折測定結果についてプロファイルフィッティングを行うことにより各成分の分離を行い、各成分の回折角と積分強度を求め、得られた結晶質ピークと非晶質ハローの積分強度を用いて下記一般式(s2)の計算式から結晶化度を算出した。
【0162】
結晶化度(%)=(全ての結晶質ピークの積分強度の和)/(全ての結晶質ピークと非晶質ハローの積分強度の和)×100・・・(s2)。
【0163】
(5)透過型電子顕微鏡(TEM)による相分離構造の観察
電解質膜(検体)を用いて、相分離構造を確認した。染色剤として2重量%酢酸鉛水溶液中に試料片を浸漬させ、25℃下で72時間放置した。染色処理された試料を取りだし、エポキシ樹脂で包埋した。ウルトラミクロトームを用いて室温下で薄片80nmを切削し、得られた薄片をCuグリッド上に回収しTEM観察に供した。観察は加速電圧100kVで実施し、撮影倍率1万~10万倍で撮影した。なお、上記撮影倍率は、相分離構造のサイズに応じて適宜設定した。機器としては、HT7700((株)日立ハイテク製)を使用した。
【0164】
また、TEM像を高速フーリエ変換(FFT)して、得られたリング状のFFTパターンからTD方向およびZD方向の空間周波数を測長し、そこから相分離構造の周期サイズを算出した。空間周波数は、画像の中心からリングの厚み中心までの距離を測長した。FFTおよび測長はDigitalMicrograph(Gatan社製)を使用した。
【0165】
(6)透過型電子顕微鏡(TEM)トモグラフィーによる相分離構造の観察
上記(5)記載の方法にて作成した薄片試料を、コロジオン膜上にマウントし、以下の条件に従って観察を実施した。
装置: 電界放出型電子顕微鏡(HRTEM)日本電子(株)製JEM 2100F
画像取得: DigitalMicrograph(Gatan社製)
システム: マーカー法
加速電圧: 200kV
撮影倍率: 30,000倍
傾斜角度: +60°~-62°
再構成解像度: 0.71nm/pixel
3次元再構成処理は、マーカー法を適用した。3次元再構成を実施する際の位置合わせマーカーとして、コロジオン膜上に付与したAuコロイド粒子を用いた。マーカーを基準として、+61°から-62°の範囲で、試料を1°毎に傾斜しTEM像を撮影する連続傾斜像シリーズより取得した計124枚のTEM像を基にCT再構成処理を実施、3次元相分離構造を観察した。
【0166】
(7)発電性能の評価
発電性能を評価するにあたり、下記の要領で触媒層付電解質膜(CCM)および膜電極接合体(MEA)を作製した。
【0167】
<CCMの作製>
電解質膜の一方の面に下記のアノード触媒デカール、他方の面にカソード触媒デカールを重ね合わせ、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行って接合した。その後、それぞれの触媒デカールのポリテトラフルオロエチレンフィルムを剥離して、CCMを得た。
【0168】
<アノード触媒デカールの作製>
田中貴金属工業(株)製白金触媒担持炭素粒子TEC10E50E(白金担持率50質量%)10質量部と、フッ素系高分子電解質(ケマーズ(株)製“ナフィオン”(登録商標))固形分換算で5質量部とを、混合溶媒(水と1-プロピルアルコールとの質量比4:6)中でビーズミルを用いて分散して、固形分濃度が10質量%の触媒インク1を調製した。この触媒インク1を、市販のポリテトラフルオロエチレン製フィルムに塗布し乾燥して、アノード触媒デカールを作製した。触媒層の白金量は、0.4mg/cmであった。
【0169】
<カソード触媒デカールの作製>
触媒層の白金量を0.7mg/cmに変更する以外は、アノード触媒デカールと同様にして作製した。
【0170】
<MEAの作製>
市販のSGL社製ガス拡散層24BCHを、上記で作製したCCMの両面に重ね合わせ、160℃、4.5Maで5分間加熱プレスを行って、MEAを作製した。このMEAを用いて、以下の要領で発電性能を評価した。
【0171】
<発電性能の評価>
MEAを英和(株)製のJARI標準セル“Ex-1”(電極面積25cm)にセットして発電評価用モジュールとした。アノード電極に燃料ガスとして水素ガスを供給し、カソード電極に酸化ガスとして空気を供給した。下記条件で発電評価を行い、電圧が0.2V以下になるまで0A/cmから1.2A/cmまで電流を掃引した。本発明では電流密度1.2A/cm時の電圧を読み取り評価した。
電子負荷装置;菊水電子工業(株)製 電子負荷装置“PLZ664WA”
セル温度;80℃
供給ガス(水素ガスおよび空気)の相対湿度;30%RH
供給ガス(水素ガスおよび空気)の背圧:150kPa
ガス利用率;アノードは量論の70%、カソードは量論の40%。
低加湿条件で良好な発電性能を得るという観点から、上記で測定した発電電圧は、0.58V以上が好ましく、0.60V以上がより好ましく、0.61V以上が特に好ましい。
【0172】
(8)乾湿寸法変化率
電解質膜(検体)を3mm×20mmの長方形にカットして試料片とした。温湿度調整機能付炉を有する熱機械分析装置TMA/SS6100((株)日立ハイテクサイエンス製)のサンプルホルダーに上記試料片の長辺が測定方向となるように設置し、20mNの応力がかかるよう設定した。炉内で、23℃、50%RHで試料を1時間定常化し、この試料片の長さをゼロ点とした。炉内温度を23℃で固定し、30分かけて30%RH(乾燥条件)に湿度調整し、30分間ホールドした。次に30分かけて90%RH(加湿条件)に湿度調整し、30分間ホールドした。この乾湿サイクル(30%RH-90%RH)を1サイクルとして、10サイクル目の30%RHの寸法変化率(%)と90%RHの寸法変化率(%)の差を、乾湿寸法変化率(%)とした。
優れた機械的耐久性を得るという観点から、上記で測定した乾湿寸法変化率は、5.0%以下が好ましく、4.5%以下がより好ましく、4.2%以下が特に好ましい。
【0173】
[ポリマーの合成]
以下の合成例で得られた化合物の構造は、H-NMRで確認した。純度はキャピラリー電気泳動(有機物)およびイオンクロマトグラフィー(無機物)で定量分析した。
【0174】
<合成例1>
(下記式(G1)で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン(K-DHBP)の合成)
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mLフラスコに、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp-トルエンスルホン酸一水和物0.50gを仕込み、溶液とした。その後78~82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温し、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで120℃に保った。この反応液を室温まで冷却した後、反応液を酢酸エチルで希釈した。有機層を5%炭酸カリウム水溶液100mLで洗浄し分液した後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mLを加え結晶を析出させ、これを濾過し、乾燥して、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン52.0gを得た。純度は99.9%であった。
【0175】
【化17】
【0176】
<合成例2>
(下記式(G2)で表されるジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの合成)
4,4’-ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO)150mL(和光純薬試薬)中、100℃で10時間反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩(NaCl)200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、ジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.3%であった。
【0177】
【化18】
【0178】
<合成例3>
(下記式(G3)で表される3,3’-ジスルホン酸ナトリウム塩-4,4’-ジフルオロジフェニルスルホンの合成)
4,4-ジフルオロジフェニルスルホン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO)150mL(和光純薬試薬)中、100℃で10時間反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、3,3’-ジスルホン酸ナトリウム塩-4,4’-ジフルオロジフェニルスルホンを得た。純度は99.3%であった。
【0179】
【化19】
【0180】
[実施例1]
<下記一般式(G4)で表される非イオン性オリゴマーa1の合成>
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2,000mLのSUS製重合装置に、炭酸カリウム16.59g(アルドリッチ試薬、120mmol)、合成例1で得たK-DHBP25.83g(100mmol)および4,4’-ジフルオロベンゾフェノン21.47g(アルドリッチ試薬、98mmol)を入れた。装置内を窒素置換した後、N-メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mLを加え、150℃で脱水した後、昇温してトルエンを除去し、170℃で3時間重合を行った。多量のメタノールに再沈殿精製を行い、非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ基体を得た。この非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ基体の数平均分子量は27,000であった。
【0181】
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム1.1g(アルドリッチ試薬、8mmol)、上記非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ基体を27.0g(1mmol)を入れた。装置内を窒素置換した後、NMP100mL、トルエン30mLを加え、100℃で脱水した後、昇温してトルエンを除去した。さらに、ヘキサフルオロベンゼン1.1g(アルドリッチ試薬、6mmol)を入れ、105℃で12時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記一般式(G4)で示される非イオン性オリゴマーa1(末端:フルオロ基)を得た。この非イオン性オリゴマーa1の数平均分子量は28,000であった。なお、一般式(G4)において、mは1以上の整数を表す。
【0182】
【化20】
【0183】
<下記一般式(G5)で表されるイオン性オリゴマーa2の合成>
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2,000mLのSUS製重合装置に、炭酸カリウム27.64g(アルドリッチ試薬、200mmol)、合成例1で得たK-DHBP12.91g(50mmol)、4,4’-ビフェノール9.31g(アルドリッチ試薬、50mmol)、合成例2で得たジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン41.64g(98.6mmol)および18-クラウン-6を26.40g(和光純薬100mmol)入れた。装置内を窒素置換した後、NMP300mL、トルエン100mLを加え、150℃で脱水した後、昇温してトルエンを除去し、170℃で6時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記一般式(G5)で示されるイオン性オリゴマーa2(末端:OM基)を得た。このイオン性オリゴマーa2の数平均分子量は46,000であった。なお、一般式(G5)において、Mは、水素原子、NaまたはKを表し、nは1以上の整数を表す。
【0184】
【化21】
【0185】
<下記一般式(G6)で表されるイオン性オリゴマーa2’の合成>
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2,000mLのSUS製重合装置に、炭酸カリウム0.56g(アルドリッチ試薬、400mmol)およびイオン性オリゴマーa2を49.0g入れた。装置内を窒素置換した後、NMP500mLを加え、60℃で内容物を溶解させた後に、ヘキサフルオロベンゼン/NMP溶液(1wt%)を19.8g加えた。80℃で18時間反応を行い、一般式(G6)で示されるイオン性オリゴマーa2’(末端:OM基)を含むNMP溶液を得た。このイオン性オリゴマーa2’の数平均分子量は92,000であった。なお、一般式(G6)において、Mは、水素原子、NaまたはKを表し、nは1以上の整数を表す。
【0186】
【化22】
【0187】
<ブロック共重合体b1の合成>
ブロック共重合体b1は、イオン性セグメントとして上記オリゴマーa2’、非イオン性セグメントとして上記オリゴマーa1を含有する。
【0188】
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2,000mLのSUS製重合装置に、イオン性オリゴマーa2’を49.0gおよび非イオン性オリゴマーa1を8.17g入れ、オリゴマーの総仕込み量が7wt%となるようにNMPを加えて、105℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコール/NMP混合液(重量比2/1)への再沈殿を行い、多量のイソプロピルアルコールで精製を行い、ブロック共重合体b1を得た。このブロック共重合体の数平均分子量は160,000であり、重量平均分子量は420,000であった。
【0189】
ブロック共重合体b1のIECは2.3meq/gであった。ブロック共重合体b1を用いて作製した電解質膜は、共連続様の相分離構造(イオン性基を含有する親水性ドメインとイオン性基を含有しない疎水性ドメインとがともに連続相を形成)が確認できた。相分離構造の平均周期サイズは、83nmであった。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は14.8J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。つまり、ブロック共重合体b1は結晶性を有する。
【0190】
[実施例2]
<上記一般式(G4)で表される非イオン性オリゴマーa3の合成>
4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を21.51gとしたこと以外はオリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の合成と同様にして、オリゴマーa3の末端ヒドロキシ体を得た。このオリゴマーa3の末端ヒドロキシ体の数平均分子量は29,000であった。
【0191】
オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の代わりにオリゴマーa3の末端ヒドロキシ基体29.0gを用いたこと以外はオリゴマーa1の合成と同様にして、一般式(G4)で示される非イオン性オリゴマーa3(末端:フルオロ基)を得た。この非イオン性オリゴマーa3の数平均分子量は30,000であった。
【0192】
<上記一般式(G5)で表されるイオン性オリゴマーa4の合成>
ジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を41.38g(98.0mmol)としたこと以外はイオン性オリゴマーa2の合成と同様にして、イオン性オリゴマーa4を得た。このイオン性オリゴマーa4の数平均分子量は35,000であった。
【0193】
<下記一般式(G7)で表されるイオン性オリゴマーa4’の合成>
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2,000mLのSUS製重合装置に、炭酸カリウム0.56g(アルドリッチ試薬、400mmol)およびイオン性オリゴマーa4を37.16g入れた。装置内を窒素置換した後、NMP400mLを加え、60℃で内容物を溶解させた後に、2,6-ジフルオロベンゾニトリル/NMP溶液(1wt%)を11.4g加えた。80℃で18時間反応を行い、一般式(G7)で示されるイオン性オリゴマーa4’(末端:OM基)を含むNMP溶液を得た。このイオン性オリゴマーa4’の数平均分子量は70,000であった。なお、一般式(G7)において、Mは、水素原子、NaまたはKを表し、nは1以上の整数を表す。
【0194】
【化23】
【0195】
<ブロック共重合体2の合成>
ブロック共重合体b2は、イオン性セグメントして上記オリゴマーa4’、非イオン性セグメントとして上記オリゴマーa3を含有する。
【0196】
イオン性オリゴマーa2’(49.0g)の代わりにイオン性オリゴマーa4’(40.89g)を用い、非イオン性オリゴマーa1(7.65g)の代わりに非イオン性オリゴマーa3(12.39g)としたこと以外はブロック共重合体b1の合成と同様にして、ブロック共重合体b2を得た。このブロック共重合体の数平均分子量は160,000であり、重量平均分子量は390,000であった。
【0197】
ブロック共重合体b2のIECは2.0meq/gであった。ブロック共重合体b2を用いて作製した電解質膜は、共連続様の相分離構造(イオン性基を含有する親水性ドメインとイオン性基を含有しない疎水性ドメインとがともに連続相を形成)が確認できた。相分離構造の平均周期サイズは、79nmであった。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は17.8J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。つまり、ブロック共重合体b2は結晶性を有する。
【0198】
[実施例3]
<上記一般式(G4)で表される非イオン性オリゴマーa5の合成>
4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を21.43gとしたこと以外はオリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の合成と同様にして、オリゴマーa5の末端ヒドロキシ体を得た。このオリゴマーa5の末端ヒドロキシ体の数平均分子量は25,000であった。
【0199】
オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の代わりにオリゴマーa5の末端ヒドロキシ基体25.0gを用いたこと以外はオリゴマーa1の合成と同様にして、一般式(G4)で示される非イオン性オリゴマーa5(末端:フルオロ基)を得た。この非イオン性オリゴマーa5の数平均分子量は26,000であった。
【0200】
<ブロック共重合体b3の合成>
ブロック共重合体b3は、イオン性セグメントして上記オリゴマーa2’、非イオン性セグメントとして上記オリゴマーa5を含有する。
【0201】
非イオン性オリゴマーa1(7.65g)の代わりに非イオン性オリゴマーa5(12.25g)としたこと以外はブロック共重合体b1の合成と同様にして、ブロック共重合体b3を得た。このブロック共重合体の数平均分子量は150,000であり、重量平均分子量は380,000であった。
【0202】
ブロック共重合体b3のIECは2.1meq/gであった。ブロック共重合体b3を用いて作製した電解質膜は、共連続様の相分離構造(イオン性基を含有する親水性ドメインとイオン性基を含有しない疎水性ドメインとがともに連続相を形成)が確認できた。相分離構造の平均周期サイズは、62nmであった。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は15.7J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。つまり、ブロック共重合体b3は結晶性を有する。
【0203】
[実施例4]
<上記一般式(G4)で表される非イオン性オリゴマーa6の合成>
4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を21.55gとしたこと以外はオリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の合成と同様にして、オリゴマーa6の末端ヒドロキシ体を得た。このオリゴマーa6の末端ヒドロキシ体の数平均分子量は34,000であった。
【0204】
オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の代わりにオリゴマーa6の末端ヒドロキシ基体34.0gを用いたこと以外はオリゴマーa1の合成と同様にして、一般式(G4)で示される非イオン性オリゴマーa6(末端:フルオロ基)を得た。この非イオン性オリゴマーa6の数平均分子量は35,000であった。
【0205】
<ブロック共重合体b4の合成>
ブロック共重合体b4は、イオン性セグメントして上記オリゴマーa4’、非イオン性セグメントとして上記オリゴマーa6を含有する。
【0206】
イオン性オリゴマーa2’(49.0g)の代わりにイオン性オリゴマーa4’(35.58g)を用い、非イオン性オリゴマーa1(7.65g)の代わりに非イオン性オリゴマーa6(14.23g)としたこと以外はブロック共重合体b1の合成と同様にして、ブロック共重合体b4を得た。このブロック共重合体の数平均分子量は160,000であり、重量平均分子量は400,000であった。
【0207】
ブロック共重合体b4のIECは1.9meq/gであった。ブロック共重合体b4を用いて作製した電解質膜は、共連続様の相分離構造(イオン性基を含有する親水性ドメインとイオン性基を含有しない疎水性ドメインとがともに連続相を形成)が確認できた。相分離構造の平均周期サイズは、77nmであった。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は19.4J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。つまり、ブロック共重合体b4は結晶性を有する。
【0208】
[比較例1]
<上記一般式(G4)で表される非イオン性オリゴマーa7の合成>
4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を21.27gとしたこと以外はオリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の合成と同様にして、オリゴマーa7の末端ヒドロキシ体を得た。このオリゴマーa7の末端ヒドロキシ体の数平均分子量は17,000であった。
【0209】
オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の代わりにオリゴマーa7の末端ヒドロキシ基体17.0gを用いたこと以外はオリゴマーa1の合成と同様にして、一般式(G4)で示される非イオン性オリゴマーa7(末端:フルオロ基)を得た。この非イオン性オリゴマーa7の数平均分子量は18,000であった。
【0210】
<上記一般式(G5)で表されるイオン性オリゴマーa8の合成>
ジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を41.6g(98.5mmol)としたこと以外はイオン性オリゴマーa2の合成と同様にして、イオン性オリゴマーa8を得た。このイオン性オリゴマーa8の数平均分子量は40,000であった。
【0211】
<上記一般式(G7)で表されるイオン性オリゴマーa8’の合成>
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2,000mLのSUS製重合装置に、炭酸カリウム0.56g(アルドリッチ試薬、400mmol)およびイオン性オリゴマーa8を49.00g入れた。装置内を窒素置換した後、NMP400mLを加え、60℃で内容物を溶解させた後に、2,6-ジフルオロベンゾニトリル/NMP溶液(1wt%)を11.4g加えた。80℃で18時間反応を行い、一般式(G7)で示されるイオン性オリゴマーa4’(末端:OM基)を含むNMP溶液を得た。このイオン性オリゴマーa8’の数平均分子量は80,000であった。
【0212】
<ブロック共重合体b5の合成>
ブロック共重合体b5は、イオン性セグメントして上記オリゴマーa8’、非イオン性セグメントとして上記オリゴマーa7を含有する。
【0213】
非イオン性オリゴマーa1をa7に変更し、その使用量を5.57gとしたこと以外は実施例1と同様にして、ブロック共重合体b5を得た。このブロック共重合体の数平均分子量は140,000であり、重量平均分子量は360,000であった。
【0214】
ブロック共重合体b5のIECは2.6meq/gであった。ブロック共重合体b4を用いて作製した電解質膜は、共連続様の相分離構造(イオン性基を含有する親水性ドメインとイオン性基を含有しない疎水性ドメインとがともに連続相を形成)が確認できた。相分離構造の平均周期サイズは、61nmであった。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は10.1J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。つまり、ブロック共重合体b5は結晶性を有する。
【0215】
[比較例2]
<上記一般式(G4)で表される非イオン性オリゴマーa9の合成>
4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を21.25gとしたこと以外はオリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の合成と同様にして、オリゴマーa9の末端ヒドロキシ体を得た。このオリゴマーa9の末端ヒドロキシ体の数平均分子量は16,000であった。
【0216】
オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の代わりにオリゴマーa9の末端ヒドロキシ基体17.0gを用いたこと以外はオリゴマーa1の合成と同様にして、一般式(G4)で示される非イオン性オリゴマーa9(末端:フルオロ基)を得た。この非イオン性オリゴマーa9の数平均分子量は17,000であった。
【0217】
<上記一般式(G5)で表されるイオン性オリゴマーa10の合成>
ジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を41.30g(97.8mmol)としたこと以外はイオン性オリゴマーa2の合成と同様にして、イオン性オリゴマーa10を得た。このイオン性オリゴマーa10の数平均分子量は30,000であった。
【0218】
<上記一般式(G6)で表されるイオン性オリゴマーa10’の合成>
イオン性オリゴマーa2(49.0g)に代えてイオン性オリゴマーa10(37.16g)を用い、NMPの使用量を400mLとし、ヘキサフルオロベンゼン/NMP溶液(1wt%)の使用量を15.3gとしたこと以外はイオン性オリゴマーa2’の合成と同様にして、一般式(G6)で示されるイオン性オリゴマーa10’(末端:OM基)を含むNMP溶液を得た。このオリゴマーa24’の数平均分子量は60,000であった。
【0219】
<ブロック共重合体b6の合成>
ブロック共重合体b6は、イオン性セグメントとして上記オリゴマーa10’、非イオン性セグメントとして上記オリゴマーa9を含有する。
【0220】
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2,000mLのSUS製重合装置に、イオン性オリゴマーa2’(49.0g)の代わりにイオン性オリゴマーa10’(37.16g)を用い、非イオン性オリゴマーa1の代わりに非イオン性オリゴマーa9(5.80g)を用いたこと以外はブロック共重合体b1の合成と同様にして、ブロック共重合体b6を得た。このブロック共重合体の数平均分子量は130,000であり、重量平均分子量は340,000であった。
【0221】
上記ブロック共重合体b6のIECは、2.3meq/gであった。上記ブロック共重合体b6を用いて作製した電解質膜は、共連続様の相分離構造(イオン性基を含有する親水性ドメインとイオン性基を含有しない疎水性ドメインとがともに連続相を形成)が確認できた。相分離構造の平均周期サイズは、52nmであった。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は16.2J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。つまり、ブロック共重合体b6は結晶性を有する。
【0222】
[比較例3]
<下記一般式(G8)で表される非イオン性オリゴマーa11の合成>
K-DHBPの使用量を25.22g、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を21.82gとしたこと以外は、非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の合成と同様にして、一般式(G8)で示される非イオン性オリゴマーa11(末端:フルオロ基)を得た。このイオン性オリゴマーa11の数平均分子量は17,000であった。
【0223】
【化24】
【0224】
<上記一般式(G5)で表されるイオン性オリゴマーa12の合成>
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2,000mLのSUS製重合装置に、炭酸カリウム27.64g(アルドリッチ試薬、200mmol)、合成例1で得たK-DHBP12.91g(50mmol)、4,4’-ビフェノール9.31g(アルドリッチ試薬、50mmol)、合成例2で得たジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン41.47g(98.2mmol)および18-クラウン-6を26.40g(和光純薬100mmol)入れた。装置内を窒素置換した後、NMP300mL、トルエン100mLを加え、150℃で脱水した後、昇温してトルエンを除去し、170℃で6時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、式(G5)で示されるイオン性オリゴマーa12(末端:ヒドロキシ基)を得た。このイオン性オリゴマーa12の数平均分子量は42,000であった。
【0225】
<ブロック共重合体b7の合成>
ブロック共重合体b7は、イオン性セグメントとしてオリゴマーa12、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa11を含有する。
【0226】
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2,000mLのSUS製重合装置に、イオン性オリゴマーa12を43.57gおよび非イオン性オリゴマーa11を10.89g入れ、オリゴマーの総仕込み量が21wt%となるようにNMPを加えて、180℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコール/NMP混合液(重量比2/1)への再沈殿を行い、多量のイソプロピルアルコールで精製を行い、ブロック共重合体b7を得た。このブロック共重合体の数平均分子量は90,000であり、重量平均分子量は210,000であった。
【0227】
ブロック共重合体b7のIECは、2.1meq/gであった。上記ブロック共重合体b7を用いて作製した電解質膜は、海島様の相分離構造が確認できた。相分離構造の平均周期サイズは、120nmであった。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は3.6J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。つまり、ブロック共重合体b7は結晶性を有する。
【0228】
[比較例4]
<下記一般式(G9)で表される非イオン性オリゴマーa13の合成>
4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの代わりに、4,4-ジフルオロジフェニルスルホン23.65gを用いたこと以外は非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ基体の合成と同様にして、非イオン性オリゴマーa13の末端ヒドロキシ基体を得た。この非イオン性オリゴマーa13の末端ヒドロキシ基体の数平均分子量は10,000であった。
【0229】
非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ基体20.0gの代わりに非イオン性オリゴマーa13の末端ヒドロキシ基体10.0gを用いたこと以外は非イオン性オリゴマーa1の合成と同様にして、一般式(G9)で示される非イオン性オリゴマーa13(末端フルオロ基)を得た。この非イオン性オリゴマーa13の数平均分子量は、11,000であった。なお、一般式(G9)において、mは1以上の整数を表す。
【0230】
【化25】
【0231】
<下記一般式(G10)で表されるイオン性オリゴマーa14の合成>
ジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン41.60gの代わりに合成例3で得た3,3’-ジスルホン酸ナトリウム塩-4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン44.94g(98.1mmol)を用いたこと以外はイオン性オリゴマーa2の合成と同様にして、一般式(G10)で示されるイオン性オリゴマーa14(末端:OM基)を得た。このイオン性オリゴマーa14の数平均分子量は41,000であった。なお、一般式(G10)において、Mは、水素原子、NaまたはKを表し、nは1以上の整数を表す。
【0232】
【化26】
【0233】
<ブロック共重合体b8の合成>
ブロック共重合体b8は、イオン性セグメントとして上記オリゴマーa14、非イオン性セグメントとして上記オリゴマーa13を含有する。
【0234】
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2,000mLのSUS製重合装置に、イオン性オリゴマーa14(45.76g)および非イオン性オリゴマーa13(8.93g)入れ、オリゴマーの総仕込み量が7wt%となるようにNMPを加えて、105℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコール/NMP混合液(重量比2/1)への再沈殿を行い、多量のイソプロピルアルコールで精製を行い、ブロック共重合体b8を得た。このブロック共重合体b8の数平均分子量は120,000であり、重量平均分子量は290,000であった。
【0235】
ブロック共重合体b8のIECは、2.4meq/gであった。上記ブロック共重合体b8を用いて作製した電解質膜は、共連続様の相分離構造が確認できた。相分離構造の平均周期サイズは、32nmであった。DSCにより、結晶化ピークが認められなかった(結晶化熱量0J/g)。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。つまり、ブロック共重合体b8は結晶性を有しない。
【0236】
[比較例5]
<ポリエーテルスルホン(PES)系ブロック共重合体前駆体bpの合成>
無水塩化ニッケル1.62gとジメチルスルホキシド15mLとを混合し、70℃に調整した。これに、2,2’-ビピリジル2.15gを加え、同温度で10分撹拌し、ニッケル含有溶液を調製した。
【0237】
ここに、2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2-ジメチルプロピル)1.49gと下記式(G11)で示される、“スミカエクセル”(登録商標)PES5200P(住友化学社製、Mn=40,000、Mw=94,000)0.50gとを、ジメチルスルホキシド5mLに溶解させて得られた溶液に、亜鉛粉末1.23gを加え、70℃に調整した。これに上記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、70℃で4時間重合反応を行った。反応混合物をメタノール60mL中に加え、次いで、6mol/L塩酸60mLを加え1時間攪拌した。析出した固体を濾過により分離し、乾燥し、灰白色の下記式(G12)と下記式(G13)で表されるセグメントを含む前駆体bpを収率99%で得た。
【0238】
【化27】
【0239】
<ポリエーテルスルホン(PES)系ブロック共重合体b9の合成>
上記前駆体bp0.23gを、臭化リチウム1水和物0.16gとNMP8mLとの混合溶液に加え、120℃で24時間反応させた。反応混合物を、6mol/L塩酸80mL中に注ぎ込み、1時間撹拌した。析出した固体を濾過により分離した。分離した固体を乾燥し、灰白色の上記一般式(G13)で示されるセグメントと下記化学式(G14)で表されるセグメントからなるPES系ブロック共重合体b9を得た。このPES系ブロック共重合体の重量平均分子量は18万であった。
【0240】
【化28】
【0241】
PES系ブロック共重合体b9のIECは、2.1meq/gであった。上記ブロック共重合体b9を用いて作製した電解質膜は、共連続様の相分離構造が確認できた。相分離構造の平均周期サイズは、60nmであった。DSCにより、結晶化ピークが認められなかった(結晶化熱量0J/g)。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。つまり、PESブロック共重合体b8は結晶性を有しない。
【0242】
[測定結果]
実施例および比較例で得られた電解質材料の測定結果を表1に示す。
【0243】
【表1】
【0244】
表中、「Mn1」、「Mn2」、「Mn3」は、それぞれイオン性セグメント、非イオン性セグメント、ブロック共重合体の数平均分子量を表し、「Mw」はブロック共重合体の重量平均分子量を表す。
【符号の説明】
【0245】
1 相1
2 相2
図1