(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136655
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】異型断面アクリル繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/18 20060101AFI20240927BHJP
D01F 6/38 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
D01F6/18 Z
D01F6/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047838
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森 達哉
(72)【発明者】
【氏名】高田 大暉
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB11
4L035BB16
4L035DD02
4L035DD20
4L035MB06
4L035MB08
(57)【要約】
【課題】本発明は、風合い、抗ピル性、白度に優れる異型断面アクリル系繊維の製造方法に関するものである。
【解決手段】本発明は、繊維の横断面形状が少なくとも2つの凹部を有する異型断面のアクリル繊維の製造方法であって、主たる繰り返し単位がアクリロニトリルからなるアクリロニトリル系重合体を、有機溶剤中の溶液重合によって得た紡糸原液を用い、有機溶剤濃度が40~60重量%の凝固浴中に、異型孔口金から下記式(1)を満たす紡糸原液吐出速度の範囲で吐出することを特徴とする、異型断面アクリル繊維の製造方法である。
4.70≦吐出線速度/繊度≦7.90 式(1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の横断面形状が少なくとも2つの凹部を有する異型断面アクリル繊維の製造方法であって、有機溶剤中の溶液重合によって得た主たる繰り返し単位がアクリルからなるアクリル系重合体の紡糸原液を、有機溶剤濃度が40~60重量%の凝固浴中に、異型孔口金から下記式(1)を満たす吐出線速度の範囲で吐出することを特徴とする、異型断面アクリル繊維の製造方法。
4.70≦吐出線速度/繊度≦7.90 式(1)
【請求項2】
有機溶剤の水への拡散係数が2.5~8.0の範囲であることを特徴とする、請求項1記載の異型断面アクリル繊維の製造方法
【請求項3】
異型孔の形状が亜鈴型である、請求項1または2記載の異型断面アクリル繊維の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の製造方法によって得られた、色調b値が1.5~6.0であることを特徴とする、異型断面アクリル繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた異型断面アクリル系繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル系繊維は羊毛に似た風合いを持つことから、セーターや靴下などの衣料製品、あるいは獣毛調の風合いや光沢を生かした獣毛調立毛製品のパイル素材などに用いられており、合成繊維の中でも主要な素材である。繊維の断面形状は、その最終製品の外観、特に風合いに大きく寄与しており、製品の特長を決定づけ得るものであり、アクリル繊維の断面形状には、真円型、そら豆型、扁平型等があるが、その中でも亜鈴型(ドッグボーン型)断面がソフト感、ハリコシ、ぬめり感等に特徴があり、非常に良好な風合いを与えることが知られている。
【0003】
亜鈴型断面のアクリル繊維を得るための方法として、特許文献1には乾式紡糸法による方法が公開されている。また、特許文献2および特許文献3には湿式紡糸法を用いて、ノズルからの紡糸原液吐出速度に対する引き取り速度の比を特定範囲内とする方法が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53-147818号公報
【特許文献2】特開平11-217723号公報
【特許文献3】特開2003-301322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、湿式紡糸法と比較して生産性に劣るという課題があった。特許文献2および特許文献3の方法では、アクリロニトリル系重合体を一旦乾燥し、再び有機溶剤に溶解させるため、熱履歴が増大し繊維が黄色みを帯びるという課題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は生産性、白度、風合いに優れる異型断面アクリル繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、次の手段により達成できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明は、繊維の横断面形状が少なくとも2つの凹部を有する異型断面のアクリル繊維の製造方法であって、主たる繰り返し単位がアクリロニトリルからなるアクリロニトリル系重合体を、有機溶剤中の溶液重合によって得た紡糸原液を用い、有機溶剤濃度が40~60重量%の凝固浴中に、異型孔口金から下記式(1)を満たす紡糸原液吐出速度の範囲で吐出することを特徴とする、異型断面アクリル繊維の製造方法である。
【0009】
4.70≦吐出線速度/繊度≦7.90 式(1)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生産性、白度に優れる異型断面アクリル繊維が製造でき、そこから得られた繊維によって、風合いの良好な繊維製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の製造方法によって得られる異型断面アクリル系繊維の一例の断面写真である。
【
図2】本発明の製造方法によって得られる異型断面の代表模式図である。斜線部が凹部を示す。
【
図3】本発明の製造方法によって得られる亜鈴型断面の一例の模式図であり、異型度を評価する線部A、線部Bを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の異型断面アクリル系繊維の製造方法は、有機溶剤中の溶液重合によって得た主たる繰り返し単位がアクリロニトリルからなるアクリル系重合体の紡糸原液を、有機溶剤濃度が40~60重量%の凝固浴中に、異型孔口金から下記式(1)を満たす紡糸原液吐出速度の範囲で吐出することを特徴とする、異型断面アクリル繊維の製造方法である。
4.70≦吐出線速度/繊度≦7.90 式(1)
本発明においては、アクリル系重合体が溶媒に溶解してなる紡糸原液(以降、単に「紡糸原液」と記すこともある)を用いる。アクリル系重合体とは、主たる繰り返し単位としてアクリロニトリル単位によって構成されるものであって、それと共重合可能なビニル系単量体で構成されるものをいう。アクリル系重合体中のアクリロニトリルは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、更に好ましくは90モル%以上含むものが用いられる。
【0013】
共重合可能ビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらのエステル類、イタコン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのオレフィン系モノマー、あるいはアリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリルスルホン酸、メタリルスルホン酸及びP-スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸またはこれらの塩類などを用いることができ、特にアクリル酸メチルやメタリルスルホン酸ナトリウムが好ましく用いられる。衣料用や資材用として、染色、機能性付与を行う観点からは、上記の少なくとも1つの成分を共重合しておくことが好ましく、好ましい下限は1モル%、より好ましくは2モル%である。共重合成分が多すぎる場合には曳糸性を損なう場合があり、好ましい上限は20モル%、より好ましくは15モル%である。
【0014】
また、本発明で用いられるアクリル系重合体には必要に応じ、添加剤として、重合開始剤、pH調整剤及び分子量調整剤等を配合することができる。
【0015】
本発明に用いられる紡糸原液は、有機溶剤中でアクリロニトリルおよび共重合モノマーを溶液重合することによって得られるものである。アクリル系重合体を得る方法としては水系懸濁重合も一般的であるが、ポリマー粒子を一度乾燥させるため熱履歴が高く、紡糸原液および繊維に黄味を帯びるため本発明には不適である。本発明においては、溶液重合によりアクリル系重合体を得、乾燥することなく、重合体溶液をそのまま、もしくは濃度調整等を行って紡糸原液として用いるため熱履歴を少なくすることが出来る。溶液重合に用いられる有機溶剤としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドからなる群より選択される1種以上であればよい。本発明のより好ましい様態としては、有機溶剤の水への拡散係数が2.5~8.0の範囲にあることが好ましく、この観点から有機溶剤はジメチルスルホキシドが好ましい。
【0016】
本発明において、有機溶剤濃度が40~60重量%の凝固浴中に吐出することが必要である。有機溶剤濃度が40重量%を下回る場合、繊維表層面の凝固が著しく早く、内部の凝固が進行しないために紡糸性が著しく低下する。有機溶剤濃度の好ましい下限は42重量%であり、より好ましい下限は44重量%である。一方、有機溶剤濃度が60重量%を超えると、凝固が遅くなるために所望の異型断面が得られない。有機溶剤濃度の好ましい上限は58重量%であり、更に好ましくは56重量%である。なお、凝固浴に用いられる有機溶剤は、凝固浴液の分離・回収・再利用の観点から重合に用いられる有機溶剤と同一であることが好ましい。
【0017】
本発明に用いられる異型孔口金は、少なくとも2つの凹部を有する所望の異型断面を形成する口金であれば当業者が適宜選択可能である。少なくとも2つの凹部を有する異型断面とは、亜鈴型、トリローバル型、十字型、扁平多葉型などが挙げられる。ここでいう凹部とは、
図2に示すとおり、繊維横断面の外周を最短距離で描いた図形に対し、実際の繊維外周が内側に凹みを有すしている部分をいう。すなわち、三角断面や六角断面などは凹部を有する異型断面に該当しない。また、凹部が1つのみである場合、例えばそら豆型断面などの場合も不適当である。2つ以上の凹部を有さない場合、目的のソフト感、ハリコシ、ぬめり感が不足するため不適である。
【0018】
本発明の異型断面アクリル系繊維の凹部の程度については、断面形状により表現が異なるが、例えば亜鈴型の場合、
図3に示すように、繊維横断面(亜鈴型断面)における最長線部に対し直交し、かつ最長となる線部をAとし、最短となる線部をBとしたとき、A/Bを異型度とし、この数値が大きいほど凹部が大きく、異型度が高いとみなすことができる。本発明の異型断面アクリル系繊維においては、亜鈴型の場合にはA/Bが1.15以上となることが好ましい。
【0019】
本発明において、紡糸原液を異形孔口金から下記式(1)を満たす吐出線速度の範囲で吐出する必要がある。
4.70≦吐出線速度/繊度≦7.90 式(1)
ここで、繊度は得られる繊維の繊度(dtex)であり、吐出線速度(cm/秒)は1孔当たりの紡糸原液の体積吐出量(cm3/秒)を1孔あたりの開孔面積(cm2)で除したものである。この値が4.70cm/(秒・dtex)を下回る場合、断面形成と製糸性が凝固浴条件によって急激に変動し、異型断面アクリル系繊維を安定的に製糸することが困難になる。下限の好ましい範囲は5.00cm/(秒・dtex)、より好ましくは5.50cm/(秒・dtex)である。この値が7.90cm/(秒・dtex)を超えると、口金孔吐出直後のバラス効果が増大し、明瞭な異型断面が得られなくなる。
【0020】
紡出された糸条は、引き取り設備にて一定速度で引き取られ、以後連続的に、延伸、水洗、乾燥緻密化させ油剤を付与し、捲縮および熱緩和処理を施し、乾燥して繊維を得る。本発明の製造方法によって得られる異型断面アクリル系繊維の一例(亜鈴型)の断面写真を
図1に示す。なお、本発明の製造方法によって得られる異型断面アクリル系繊維の繊度の好ましい範囲としては1.0dtex~5.5dtexである。繊維はトウ状態であっても、切断してステープルとしてもよい。
【0021】
また、本発明の製造方法によって得られる異型断面アクリル系繊維の好ましい様態として、黄味の指標となる色調b値が1.5~6.0の範囲であり、より好ましくは2.0~5.0の範囲である。本発明の製造方法では、上述のとおり熱履歴を少なくすることができることから、繊維に黄色味を帯びることを抑制することができ、色調b値を上記の範囲とすることができる。
【0022】
その他、本発明を実施するための形態は重合・製糸諸条件を当業者が適宜調整可能である。
【実施例0023】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
(1)単繊維繊度(dtex)
JIS L1015:2010化学繊維ステープル試験方法に記載の方法に準拠して測定した。
【0025】
(2)色調b値
JIS L1015:2010化学繊維ステープル試験方法に記載の白色度測定方法に準じて試料を作製し、スガ社製「カラーコンピューター;型式SM-3」を用いてb値を測定した。
【0026】
(3)製糸性
同一吐出条件で引き取り速度を徐々に増加させ、口金面での糸切れの発生が見られた速度を上限可紡速度(m/分)とし、その数値に応じて以下の通り判定した。
良 (A):10.0≦上限可紡速度
可 (B):8.0<上限可紡速度<10.0
不良(C):上限可紡速度≦8.0
上記の3段階で判定して良(A)、可(B)を合格とした。
【0027】
(4)異型度
繊維横断面(亜鈴型断面)における最長線部に対し直行し、かつ最長となる線部をAとし、最短となる線部をBとしたとき、A/Bを異型度とし、1.15以上を合格とした。
【0028】
(5)総合評価
製糸性、異型度を総合し評価した。異型度が合格し、製糸性が良のものを「良」、異型度が合格し、製糸性が可のものを「可」、製糸性、異型度いずれかが不可のものは「不可」とした。
【0029】
[実施例1~5、比較例1~4]
アクリロニトリル93.8質量%、アクリル酸メチル5.0質量%、メタリルスルホン酸ソーダ1.2質量%からなるアクリル系重合体をDMSO系溶液重合により得た。得られたアクリル系重合体のDMSO溶液に、DMSOを添加してアクリル系重合体溶液の濃度を22質量%に調整し、紡糸原液とした。この紡糸原液を60℃に温調し、亜鈴型口金孔を用いて表1に示す各種諸条件で紡糸したのち、5.0倍での延伸、軟水での水洗、乾燥緻密化、油剤付与の後、スチームによる湿熱処理にてトウを75℃に昇温し、押し込みクリンパーにて捲縮付与し、乾燥、切断することにより、アクリル系繊維を得た。得られた繊維の諸特性を表1に示す。なお、表1の異型度において、繊維横断面に凹部の形成が認められないものについては1とした。なお、
図1は実施例2で得られた異型断面アクリル系繊維の断面写真である。
【0030】
実施例1~5の製造方法では、良好な製糸性でありながら、優れた異型度の異型断面アクリル系繊維が得られることを示した。比較例1、2においては、吐出線速度/繊度の値が高く、凝固浴条件を低濃度としても良好な異型度が得られなかった。比較例3においては、比較的良好な異型度は得られるものの、製糸性が劣位であり安定製糸することができなかった。比較例4において、有機溶剤濃度を本発明の規定を超える濃度とすれば比較例3対比製糸性は改善するものの、良好な異型度が得られないものとなった。
【0031】