(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136658
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】生分解性不織布、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/435 20120101AFI20240927BHJP
D04H 1/55 20120101ALI20240927BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20240927BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20240927BHJP
D01F 2/00 20060101ALI20240927BHJP
D01F 6/62 20060101ALI20240927BHJP
D01F 6/84 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
D04H1/435
D04H1/55
D01F6/92 307A
D01F8/14 B
D01F2/00 Z
D01F6/62 305Z
D01F6/84 301
D01F6/84 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047842
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向井 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】大関 達郎
【テーマコード(参考)】
4L035
4L041
4L047
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035DD19
4L035EE01
4L035EE20
4L035FF05
4L041BA16
4L041BD03
4L041BD11
4L041CA05
4L041CA08
4L041DD14
4L047AA08
4L047AA21
4L047AA28
4L047AB02
4L047AB09
4L047BA08
4L047BA09
4L047BB06
4L047CA19
(57)【要約】
【課題】本発明は、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)繊維を含む生分解性サーマルボンド不織布を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維を少なくとも含み、前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維は、繊維長が11~160mmであり、かつ捲縮を有する、生分解性サーマルボンド不織布等である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維を少なくとも含み、
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維は、繊維長が11~160mmであり、かつ捲縮を有する、生分解性サーマルボンド不織布。
【請求項2】
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維を20重量%以上80重量%以下含み、
少なくとも1種以上の生分解性多糖類を含有する生分解性多糖類系短繊維を20重量%以上80重量%以下含む、請求項1に記載の生分解性サーマルボンド不織布。
【請求項3】
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維の示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解ピーク範囲の下限の温度が40℃以上であり、
該結晶融解ピーク範囲の上限の温度が180℃以下である、請求項1又は2に記載の生分解性サーマルボンド不織布。
【請求項4】
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維の捲縮数は、5~25個/25mmである、請求項1又は2に記載の生分解性サーマルボンド不織布。
【請求項5】
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維の単繊維繊度が0.1~100dtexである、請求項1又は2に記載の生分解性サーマルボンド不織布。
【請求項6】
前記生分解性多糖類が、セルロース群からなる多糖類である、請求項1又は2に記載の生分解性サーマルボンド不織布。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の生分解性サーマルボンド不織布の製造方法であって、
ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系延伸フィラメントを予熱する工程と、
スタッフィングボックスを用い、予熱した前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系延伸フィラメントを捲縮加工する工程と、
捲縮加工した前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系延伸フィラメントを所定の繊維長にカットすることにより、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維を得る工程と、
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維を含む繊維を40℃~180℃の温度条件で熱接着させる工程とを有する、生分解性サーマルボンド不織布の製造方法。
【請求項8】
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系延伸フィラメントの単繊維引張強度が0.5~10cN/dtexである、請求項7に記載の生分解性サーマルボンド不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性不織布、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック廃棄物が、生態系への影響、燃焼時の有害ガス発生、大量の燃焼熱量による地球温暖化等、地球環境への大きな負荷を与える原因となっている問題がある。この問題を解決できるものとして、生分解性プラスチックの開発が盛んになっている。
【0003】
このような生分解性プラスチックの中でも植物由来の原料を使用して得られる生分解性プラスチックを燃焼させた際に出る二酸化炭素は、もともと空気中にあったもので、大気中の二酸化炭素は増加しない。このことをカーボンニュートラルと称し、二酸化炭素削減目標値を課した京都議定書の下、重要視され、積極的な使用が望まれている。
【0004】
最近、生分解性及びカーボンニュートラルの観点から、植物由来の原料を炭素源として微生物産生される生分解性プラスチックとして、脂肪族ポリエステル系樹脂が注目されている。
【0005】
特許文献1には、生分解性を有する熱可塑性重合体たる脂肪族ポリエステル系重合体からなる短繊維と、セルロース系短繊維とが混綿されてなり、かつ構成繊維同士が三次元的に交絡している生分解性短繊維不織布が開示されている。
また、特許文献2には、生分解性の熱可塑性重合体からなる短繊維で構成されるとともに、構成繊維どうしが三次元的に交絡して形態保持されていることを特徴とする生分解性短繊維不織布が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-200457号公報
【特許文献2】特開平9-13255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
不織布として、サーマルボンド不織布は知られている。
また、生分解性プラスチックとして、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)も知られている。
しかし、上記特許文献1、2には、サーマルボンド不織布及びポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)の何れも記載されていない。
また、これまで、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系繊維を含むサーマルボンド不織布が提供されていない。
【0008】
そこで、本発明は、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系繊維を含む生分解性サーマルボンド不織布を提供することを課題とし、そして、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系繊維を含み、触感、風合い、及び、生分解性に優れる生分解性サーマルボンド不織布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、生分解性サーマルボンド不織布に含ませるポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維の繊維長を所定範囲内にし、かつ、該ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維が捲縮を有することにより、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)繊維を含む生分解性サーマルボンド不織布が得られることを見出した。
また、本発明者は、斯かる生分解性サーマルボンド不織布が触感、風合い、及び、生分解性に優れることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の第一は、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維を少なくとも含み、
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維は、繊維長が11~160mmであり、かつ捲縮を有する、生分解性サーマルボンド不織布に関する。
【0011】
本発明の第二は、前記生分解性サーマルボンド不織布の製造方法であって、
ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系延伸フィラメントを予熱する工程と、
スタッフィングボックスを用い、予熱した前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系延伸フィラメントを捲縮加工する工程と、
捲縮加工した前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系延伸フィラメントを所定の繊維長にカットすることにより、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維を得る工程と、
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維を含む繊維を40℃~180℃の温度条件で熱接着させる工程とを有する、生分解性サーマルボンド不織布の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)繊維を含む生分解性サーマルボンド不織布を提供し得る。そして、斯かる生分解性サーマルボンド不織布は、触感、風合い、及び、生分解性に優れた不織布となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0014】
<生分解性サーマルボンド不織布>
本実施形態に係る生分解性サーマルボンド不織布(以下、単に「不織布」ともいう。)は、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維を少なくとも含む繊維を有する。
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維の繊維長は、11~160mmである。
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維は、捲縮を有する。
【0015】
本実施形態に係る不織布は、サーマルボンド不織布であることにより、柔軟でドレープ性に富み、かつ触感、及び、風合いに優れた不織布となる。
【0016】
(ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維)
本実施形態に係る生分解性不織布は、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(以下、「P3HB3HH」ともいう。)を含有するポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維(以下、「P3HB3HH系短繊維」ともいう。)を含む。
本実施形態に係る不織布は、P3HB3HH系短繊維を含むことにより、柔軟でドレープ性に富み、かつ触感、風合い、及び、生分解性に優れる不織布となる。
【0017】
前記P3HB3HH系短繊維は、P3HB3HHを、好ましくは50重量%を超えて含有し、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上含有する。
【0018】
P3HB3HHを製造する方法としては特に限定されないが、例えば、P3HB3HH産生能を有する微生物によりP3HB3HHを産生させる方法が挙げられる。
P3HB3HH生産菌としては、P3HB3HHの生産性を上げるためにP3HA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bacteriol.,179,p4821-4830(1997))が挙げられる。
微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させ、そのP3HB3HHを回収することでP3HB3HHを製造することができる。用いる微生物にあわせて、基質の種類を含む培養条件を最適化することができる。
【0019】
前記P3HB3HHは、優れた生分解性を有する。
なお、本実施形態における「生分解性」とは、自然界において微生物によって低分子化合物に分解され得る性質をいう。具体的には、好気条件ではISO 14855(compost)及びISO 14851(activated sludge)、嫌気条件ではISO 14853(aqueous phase)及びISO 15985(solid phase)等、各環境に適合した試験に基づいて生分解性の有無が判断できる。また、海水中における微生物の分解性については、生物化学的酸素要求量(Biochemical oxygen demand)の測定により評価できる。
【0020】
前記P3HB3HHは、構成単位としての3-ヒドロキシブチレート(3HB)を、好ましくは85.0モル%~99.5モル%、より好ましくは85.0モル%~97.0モル%含む。
前記P3HB3HHが構成単位としての3-ヒドロキシブチレート(3HB)を85.0モル%以上含むことにより、P3HB3HH系短繊維の剛性が高くなる。
また、前記P3HB3HHが構成単位としての3-ヒドロキシブチレート(3HB)を99.5モル%以下含むことにより、P3HB3HH系短繊維が柔軟性に優れる。
P3HB3HHにおける構成単位としての3-ヒドロキシブチレート(3HB)の比率は、後述する方法で求めることができる。
【0021】
前記P3HB3HH系短繊維は、P3HB3HH以外の他の生分解性樹脂を含有してもよい。
前記他の生分解性樹脂としては、例えば、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、未変性デンプン、変性デンプン、酢酸セルロース、キトサン、ポリ(4-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂等が挙げられる。
また、前記他の生分解性樹脂としては、P3HB3HH以外のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂なども挙げられる。
P3HB3HH以外のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂としては、P3HB、P3HB3HV、P3HB4HB、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)等が挙げられる。
ここで、P3HBは、単独重合体たるポリ(3-ヒドロキシブチレート)を意味する。
P3HB3HVは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)を意味する。
P3HB4HBは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)を意味する。
前記P3HB3HH系短繊維は、他の生分解性樹脂を1種含んでもよく、また、2種以上含んでもよい。
【0022】
前記P3HB3HH系短繊維は、添加剤を含有してもよい。
【0023】
前記添加剤としては、例えば、結晶核剤、滑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤等)、着色剤(染料、顔料等)、可塑剤、無機充填剤、有機充填剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0024】
前記P3HB3HHの結晶化を促進すべく、前記P3HB3HH系短繊維は、結晶核剤を含有することが好ましい。
前記結晶核剤は、前記P3HB3HHの結晶化を促進する効果を有する化合物である。また、前記結晶核剤は、前記P3HB3HHよりも融点が高い。
前記結晶核剤としては、無機物(窒化ホウ素、酸化チタン、タルク、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、及び金属リン酸塩など);天然物由来の糖アルコール化合物(ペンタエリスリトール、エリスリトール、ガラクチトール、マンニトール、及びアラビトール等);ポリビニルアルコール;キチン;キトサン;ポリエチレンオキシド;脂肪族カルボン酸塩;脂肪族アルコール;脂肪族カルボン酸エステル;ジカルボン酸誘導体(ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、及びジブチルセバケート);C=OとNH、S及びOから選ばれる官能基とを分子内に有する環状化合物(インジゴ、キナクリドン、及びキナクリドンマゼンタなど);ソルビトール系誘導体(ビスベンジリデンソルビトール、及びビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトールなど);窒素含有ヘテロ芳香族核(ピリジン環、トリアジン環、及びイミダゾール環など)を含む化合物(ピリジン、トリアジン、及びイミダゾールなど);リン酸エステル化合物;高級脂肪酸のビスアミド;高級脂肪酸の金属塩;並びに分岐状ポリ乳酸等が例示できる。
また、P3HBは、結晶核剤として使用することも可能である。
これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0025】
前記結晶核剤としては、P3HB3HHの結晶化速度の改善効果の観点、並びに、P3HB3HHとの相溶性及び親和性の観点から、糖アルコール化合物、ポリビニルアルコール、キチン、キトサンが好ましい。
また、該糖アルコール化合物のうち、ペンタエリスリトールが好ましい。
【0026】
前記P3HB3HH系短繊維は、前記P3HB3HH100重量部に対して、結晶核剤を、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、更に好ましくは0.4重量部以上含有する。
前記P3HB3HH系短繊維は、前記P3HB3HH100重量部に対して、結晶核剤を0.1重量部以上含有することにより、P3HB3HHの結晶化を促進することができる。
また、前記P3HB3HH系短繊維は、前記P3HB3HH100重量部に対して、結晶核剤を、好ましくは4重量部以下、より好ましくは3重量部以下、更に好ましくは2.5重量部以下含有する。
前記P3HB3HH系短繊維は、前記P3HB3HH100重量部に対して、結晶核剤を4重量部以下含有することにより、溶融紡糸法でP3HB3HH系短繊維を作製する際に、溶融物の粘度を低くすることができ、その結果、前記P3HB3HH系短繊維の作製がしやすくなるという利点がある。
【0027】
また、前記P3HB3HH系短繊維は、前記P3HB3HH100重量部に対して、ペンタエリスリトールを、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、更に好ましくは0.4重量部以上含有する。また、前記P3HB3HH系短繊維は、前記P3HB3HH100重量部に対して、ペンタエリスリトールを、好ましくは4重量部以下、より好ましくは3重量部以下、更に好ましくは2.5重量部以下含有する。
【0028】
前記P3HB3HH系短繊維は、前記滑剤を含有することが好ましい。前記P3HB3HH系短繊維が滑剤を含むことによりP3HB3HH系短繊維の滑性が良好となる。
該滑剤としては、例えば、脂肪酸アミドなどが挙げられる。
前記脂肪酸アミドは、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、及び、エルカ酸アミドから選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0029】
前記P3HB3HH系短繊維は、前記P3HB3HH100重量部に対して、滑剤を、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、更に好ましくは0.4重量部以上含有する。
前記P3HB3HH系短繊維は、前記P3HB3HH100重量部に対して、滑剤を0.1重量部以上含有することにより、P3HB3HH系短繊維の滑性に優れるという利点がある。
また、前記P3HB3HH系短繊維は、前記P3HB3HH100重量部に対して、滑剤を、好ましくは4重量部以下、より好ましくは3重量部以下、更に好ましくは2.5重量部以下含有する。
前記P3HB3HH系短繊維は、前記P3HB3HH100重量部に対して、滑剤を4重量部以下含有することにより、滑剤が前記P3HB3HH系短繊維の表面にブリードアウトするのを抑制できるという利点がある。
【0030】
また、前記P3HB3HH系短繊維は、前記P3HB3HH100重量部に対して、脂肪酸アミドを、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、更に好ましくは0.4重量部以上含有する。また、前記P3HB3HH系短繊維は、前記P3HB3HH100重量部に対して、脂肪酸アミドを、好ましくは4重量部以下、より好ましくは3重量部以下、更に好ましくは2.5重量部以下含有する。
【0031】
実用性の観点から、前記P3HB3HH系短繊維の繊維長は、11~160mm、好ましくは15~160mm、より好ましくは20~110mm、更に好ましくは25~76mmである。
なお、前記繊維長は、JIS L1015:2021「化学繊維ステープル試験方法」の「8.4繊維長」の「8.4.1平均繊維長」の「c)C法(置換法)」で求めた「繊維長の平均値」を意味する。
【0032】
前記P3HB3HH系短繊維は、捲縮を有する。言い換えれば、前記P3HB3HH系短繊維は、クリンプ糸(捲縮糸)となっている。
前記P3HB3HH系短繊維が捲縮を有することにより、サーマルボンド不織布を作製するための後述するウェブを作製する際に、繊維どうしが絡まりやすくなり、ウェブが作製しやすくなるという利点がある。その結果、サーマルボンド不織布が製造しやすくなるという利点がある。
【0033】
前記P3HB3HH系短繊維の捲縮数は、5~25個/25mmであることが好ましく、6~20個/25mmであることがより好ましく、7~18個/25mmであることがさらに好ましく、8~17個/25mmであることが特に好ましい。
前記P3HB3HH系短繊維の捲縮数が5個/25mm以上であることにより、ウェブを作製する際に、繊維どうしが絡まりやすくなり、ウェブが作製しやすくなるという利点がある。
前記P3HB3HH系短繊維の捲縮数が25個/25mm以下であることにより、ウェブを作製する際に、P3HB3HH系短繊維が固まりになるのを抑制でき、ウェブが作製しやすくなるという利点がある。
なお、P3HB3HH系短繊維の捲縮数は、P3HB3HH系短繊維の長さ25mm当たりの捲縮数を意味する。また、P3HB3HH系短繊維の捲縮数は、P3HB3HH系短繊維を無作為に15本選択し、選択したP3HB3HH系短繊維の捲縮数の平均値を意味する。P3HB3HH系短繊維が15本未満である場合には、全てのP3HB3HH系短繊維の捲縮数の平均値を意味する。各P3HB3HH系短繊維の捲縮数については、顕微鏡を用いてP3HB3HH系短繊維の長さ25mmの間の捲縮の山の数をカウントすることにより求めることができる。なお、各P3HB3HH系短繊維の長さが25mm未満である場合には、顕微鏡を用いて全長における捲縮の山の数をカウントし、25mm当たりの捲縮数を求めてもよい。
【0034】
前記P3HB3HH系短繊維の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5万~250万の範囲にあり、より好ましくは7万~100万、さらに好ましくは10万~40万である。
前記重量平均分子量が250万以下であることにより、ノズル押出による紡糸により、後述するポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系延伸フィラメントを得る際の生産性を向上しやすくなる。
前記重量平均分子量が5万以上であることにより、P3HB3HH系短繊維の物性(P3HB3HH系短繊維の強度等)が向上される。
求められる「生産性」及び「P3HB3HH系短繊維の物性」に合わせて、最適な重量平均分子量の樹脂を用いることができる。
【0035】
なお、本実施形態における重量平均分子量は、クロロホルム溶離液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
例えば、カラム温度は40℃とし、対象物質3mgをクロロホルム2mlに溶解したものを10μl注入し、クロロホルム溶離液(移動相)の流量を1.0ml/分にして、重量平均分子量(Mw)を求めることができる。GPC装置としてLC-10Aシステム(島津製作所製)を使用し、カラムとしてGPCK-806M(昭和電工製)を使用することができる。
【0036】
P3HB3HH系短繊維の示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解ピーク範囲の下限の温度は、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは60℃以上である。
該下限の温度が40℃以上であることにより、熱接着の際に、ハンドリングし易い、低い温度域から熱融着が可能になるという利点がある。
前記下限の温度は、好ましくは115℃以下、より好ましくは110℃以下、更に好ましくは105℃以下である。
該下限の温度が115℃以下であることにより、熱接着の際に、P3HB3HH系短繊維が収縮し寸法が不安定になることをより一層抑制でき、繊維形状をより一層良好に保ったまま接着をし易くなるという利点がある。
【0037】
前記結晶融解ピーク範囲の上限の温度は、好ましくは180℃以下、より好ましくは177℃以下、更に好ましくは175℃以下である。
該上限の温度が180℃以下であることにより、熱接着の際に、樹脂の分解温度以下で熱融着をし易くなるという利点がある。
前記上限の温度は、好ましくは145℃以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは155℃以上である。
該上限の温度が145℃以上であることにより、熱接着の際に、P3HB3HH系短繊維の融点近傍で繊維表面の熔融状態がより一層良好になり接着し易くなるという利点がある。
【0038】
前記結晶融解ピーク範囲の下限の温度及び上限の温度は、JIS K7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」に従って測定することができる。
具体的には、示差走査熱量計(例えば、TA Instruments社製の示差走査熱量計DSC25)を用い、測定容器に試料たるP3HB3HH系短繊維を約6.0mg充てんして、窒素ガス流量50ml/minのもと10℃/minの昇温冷却速度で0℃~185℃の間で昇温・冷却し、結晶融解ピーク範囲の下限の温度及び上限の温度を求める。
【0039】
前記下限の温度は、例えば、P3HB3HHにおける構成単位としての3-ヒドロキシブチレート(3HB)の比率を高めることにより、高めることができる。
また、前記上限の温度は、例えば、P3HB3HHにおける構成単位としての3-ヒドロキシブチレート(3HB)の比率を高めることにより、低くすることができる。
【0040】
P3HB3HH系短繊維は、マルチフィラメントであることが好ましい。
また、P3HB3HH系短繊維は、単繊維を、1本以上、好ましくは30本以上、より好ましくは30~500,000本、更に好ましくは50~300,000本有する。
【0041】
前記マルチフィラメントは、隣接する単繊維どうしの融着を抑制するという観点、隣接する単繊維どうしが静電気により離れてしまうのを抑制するという観点などから、単繊維の表面に紡糸油剤を更に有することが好ましい。
前記紡糸油剤としては、例えば、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、精製エステル化油、鉱油、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル、シリコーンオイル、パラフィンワックスなどが挙げられる。これは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
隣接する単繊維どうしの融着を抑制するという観点では、前記紡糸油剤としては、シリコーンオイルが好ましい。
隣接す単繊維どうしが静電気により離れてしまうのを抑制するという観点では、前記紡糸油剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤が好ましい。
前記紡糸油剤としては、例えば、シリコーンオイルとアニオン界面活性剤とを含む紡糸油剤(例えば、丸菱油化社製の「ポリマックスFKY」)を用いることができる。
【0042】
P3HB3HH系短繊維の単繊維繊度は、好ましくは0.1~100dtex、より好ましくは0.5~50dtex、更に好ましくは1.0~20dtexである。
P3HB3HH系短繊維の単繊維繊度が100dtex以下であることにより、不織布の触感がより一層良好となるという利点がある。
P3HB3HH系短繊維の単繊維繊度が0.1dtex以上であることにより、実用に耐える強度の不織布を均一に作製できるという利点がある。
P3HB3HH系短繊維の単繊維繊度は、後述する溶融紡糸法において、紡糸ノズルから吐出する溶融物の流量、原糸を延伸ロールで延伸する延伸倍率などを調整することによって、調整することが出来る。
【0043】
本実施形態において、単繊維繊度とは、単繊維の太さのことであり、単位長さあたりの重量として定義される。10,000mあたりの重量(g)を単位(dtex)で表す。
本実施形態において、単繊維繊度は、以下のようにして求めることができる。
まず、P3HB3HH系短繊維の繊度(総繊度)を測定する。また、P3HB3HH系短繊維に含まれる単繊維の本数を求める。
そして、下記式から単繊維繊度を求める。
単繊維繊度 = P3HB3HH系短繊維の繊度/P3HB3HH系短繊維に含まれる単繊維の本数
【0044】
P3HB3HH系短繊維の単繊維引張強度は、好ましくは0.1~10cN/dtex、より好ましくは0.3~10cN/dtexである。
P3HB3HH系短繊維の単繊維引張強度は、0.1cN/dtex以上であることにより、不織布の強度が高くなる。
P3HB3HH系短繊維の単繊維引張強度は、後述する溶融紡糸法において、原糸を延伸ロールで延伸する延伸倍率などを調整することによって、調整することが出来る。
【0045】
本実施形態において、単繊維引張強度は、以下のようにして求めることができる。
まず、短繊維を構成する全ての単繊維について、各単繊維の引張強度を測定する。あるいは、短繊維から単繊維を10本以上無作為に選択し、各単繊維の引張強度を測定する。すなわち、短繊維を構成する単繊維について、各単繊維の引張強度を測定するのが現実的ではない場合があるので、短繊維から単繊維を10本以上無作為に選択し、各単繊維の引張強度を測定してもよい。
そして、各単繊維の引張強度から単繊維の引張強度の算術平均値を求め、この値を単繊維引張強度とする。
【0046】
各単繊維の引張強度は、JIS L 1015:2021「化学繊維ステープル試験方法」に基づき、初期長20mm、速度20mm/minで測定することができる。
例えば、各単繊維の引張強度は、以下のようにして求めることができる。
まず、引張測定装置オートグラフAG-I(島津製作所社製)を用いて、下記条件で、各単繊維の切断時の荷重(cN)を測定する。
各単繊維の初期長さ:20mm
引張速度:20mm/min
ロードセル:定格容量が5Nであるロードセル
また、各単繊維の繊度を測定する。各単繊維の繊度は、例えば、オートバイブロスコープ法で測定することができる。
そして、下記式により、各単繊維の引張強度を算出する。
各単繊維の引張強度(cN/dtex) = 各単繊維の切断時の荷重(cN)/各単繊維の繊度
【0047】
前記単繊維の断面の形状は、例えば、円形状(真円形、略円形、楕円形、及び、略楕円形を含む概念)である。
【0048】
(生分解性多糖類系短繊維)
本実施形態に係る不織布は、少なくとも1種以上の生分解性多糖類を含有する生分解性多糖類系短繊維を含むことが好ましい。
本実施形態に係る不織布が生分解性多糖類系短繊維を含むことにより、P3HB3HH系短繊維と生分解性多糖類系短繊維とを熱融着させてサーマルボンド不織布を得る際に、主にP3HB3HH系短繊維が熱溶融され、サーマルボンド不織布の短繊維の形状を生分解性多糖類系短繊維によって維持させやすくなるという利点がある。
また、本実施形態に係る不織布は、生分解性多糖類系短繊維を含むことにより、生分解性に優れたものとなる。
【0049】
前記生分解性多糖類としては、セルロース、キチン、キトサン等が挙げられる。
前記生分解性多糖類としては、繊維が入手しやすいという観点から、セルロースが好ましい。
また、前記生分解性多糖類は、セルロース群を含む多糖類であることが好ましい。
セルロース群を含む生分解性多糖類系短繊維としては、例えば、再生セルロース繊維、天然セルロース繊維などが挙げられる。
前記再生セルロース繊維としては、リヨセル、レーヨン、ポリノジック、キュプラなどが挙げられる。
前記天然セルロースとしては、例えば、植物原料をパルプ化したものが挙げられる。植物原料としては、例えば、木材、綿、竹、麻、シュート、ケナフ等が挙げられる。
【0050】
前記生分解性多糖類系短繊維は、生分解性多糖類を、好ましくは50重量%を超えて含有し、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上含有する。
【0051】
前記生分解性多糖類系短繊維の繊維長は、好ましくは11~160mm、より好ましくは15~160mm、更に好ましくは20~110mm、最も好ましくは25~76mmである。
【0052】
前記生分解性多糖類系短繊維は、捲縮を有してもよい。
また、前記生分解性多糖類系短繊維は、マルチフィラメントであっても、モノフィラメントであってもよい。
【0053】
前記生分解性多糖類系短繊維の単繊維繊度は、好ましくは0.1~100dtex、より好ましくは0.5~80dtex、更に好ましくは1.0~60dtexである。
【0054】
本実施形態に係る不織布は、前記P3HB3HH系短繊維を、好ましくは20重量%以上80重量%以下、より好ましくは30重量%以上70重量%以下、更に好ましくは40重量%以上60重量%以下含む。
本実施形態に係る不織布は、前記生分解性多糖類系短繊維を、好ましくは20重量%以上80重量%以下、より好ましくは30重量%以上70重量%以下、更に好ましくは40重量%以上60重量%以下含む。
本実施形態に係る不織布は、前記P3HB3HH系短繊維を20重量%以上80重量%以下含み、前記生分解性多糖類系短繊維を20重量%以上80重量%以下含むことにより、触感、風合い、及び、生分解性がより一層優れたものとなる。
【0055】
本実施形態に係る不織布は、前記P3HB3HH系短繊維及び前記生分解性多糖類系短繊維を合計で、好ましくは50~100重量%、より好ましくは70~100重量%、さらに好ましくは80~100重量%、特に好ましくは90~100重量%、最も好ましくは100重量%含む。
【0056】
本実施形態に係る不織布の目付は、好ましくは5~500g/m2、より好ましくは10~300g/m2である。
不織布の目付が5g/m2以上であることにより、不織布の強度及び伸度が高まる。また、前記不織布の目付が5g/m2以上であることにより、不織布による粒子(埃など)の捕集効率がより一層高まる。
不織布の目付が500g/m2以下であることにより、不織布の通液性(通水性等)又は通気性を高めることができる。
【0057】
なお、前記不織布の目付は、以下のようにして求めることができる。
まず、前記不織布から試験片を取得する。
試験片の大きさは、例えば100mm×100mm、200mm×200mm等とすることができる。
次に、電子天秤などにより試験片の重量を測定する。
そして、試験片の重量を試験片の面積で除して目付を算出する。
【0058】
本実施形態に係る不織布は、例えば、水切りゴミ袋、お茶パック、換気扇フィルターなどの家庭雑貨;紙おむつ(例えば、幼児用紙おむつ、大人用紙おむつ)の表面材、生理用ナプキンの表面材などの表面材;ワイパーなどの衛生材料などの用途で広く使用することが出来る。
【0059】
本実施形態に係る生分解性不織布は、上記の如く構成されているが、次に、本実施形態に係る生分解性不織布の製造方法について説明する。
【0060】
<生分解性サーマルボンド不織布の製造方法>
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定の製造方法により、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系繊維を含む生分解性サーマルボンド不織布を製造しやすくなることを見出した。
【0061】
すなわち、本実施形態に係る生分解性サーマルボンド不織布の製造方法(以下、単に「不織布の製造方法」ともいう。)では、前記不織布を製造する。
本実施形態に係るサーマルボンド不織布の製造方法は、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系延伸フィラメント(以下「P3HB3HH系延伸フィラメント」ともいう。)を予熱する工程と、予熱した前記P3HB3HH系延伸フィラメントを捲縮加工する工程と、捲縮加工した前記P3HB3HH系延伸フィラメントを所定の繊維長にカットすることにより、P3HB3HH系短繊維を得る工程と、前記P3HB3HH系短繊維を含む繊維を熱接着させる工程とを有する。
【0062】
前記予熱する工程では、P3HB3HH系延伸フィラメントP3HB3HH系延伸フィラメントを、好ましくは50~100℃、より好ましくは60~90℃の温度で予熱する。
本実施形態に係る不織布の製造方法は、前記予熱する工程を有することにより、前記捲縮加工する工程でP3HB3HH系延伸フィラメントが十分に捲縮されやすくなるという利点を有する。
予熱する温度が50℃以上であることにより、前記捲縮加工する工程でP3HB3HH系延伸フィラメントが十分に捲縮されやすくなるという利点がある。
予熱する温度が100℃以下であることにより、P3HB3HH系延伸フィラメントにおけるフィラメントとしての形状が維持されやすくなるという利点がある。
【0063】
前記捲縮加工する工程では、予熱した前記P3HB3HH系延伸フィラメントを捲縮加工する。
【0064】
前記捲縮加工する工程で用いる前記P3HB3HH系延伸フィラメントは、例えば、従来公知の溶融紡糸法で作製することができる(例えば、国際公開第2022/202397号)。
溶融紡糸法では、P3HB3HH系延伸フィラメントの材料を加熱しながら混錬することにより、溶融物を得る。次に、吐出孔を有する紡糸ノズルから溶融物を吐出することにより、溶融状態の原糸を得る。その後、溶融状態の原糸に気体を吹き付けることで原糸を冷却する。そして、冷却した原糸を延伸ロールで延伸することにより、P3HB3HH系延伸フィラメントを得る。
【0065】
P3HB3HH系延伸フィラメントの単繊維引張強度は、好ましくは0.5~10cN/dtex、より好ましくは0.7~10cN/dtexである。
P3HB3HH系短繊維の単繊維引張強度が0.5cN/dtex以上であることにより、得られる不織布の強度が高くなるという利点がある。
P3HB3HH系短繊維の単繊維引張強度が10cN/dtex以下であることにより、短繊維の熱収縮率の増加を抑制し、不織布加工時の寸法安定性が向上するという利点がある。
【0066】
前記捲縮加工する工程では、スタッフィングボックスを用いて、前記P3HB3HH系延伸フィラメントを捲縮加工することが好ましい。
スタッフィングボックスを用いて、前記P3HB3HH系延伸フィラメントを捲縮加工する際のスタッフィング圧(ゲージ圧)は、好ましくは0.001~0.3MPa、より好ましくは0.01~0.1MPaである。
前記スタッフィング圧が0.001MPa以上であることにより、P3HB3HH系延伸フィラメントを十分に捲縮させることができるという利点がある。
前記スタッフィング圧が0.3MPa以下であることにより、過剰に捲縮が付与されることや過剰な熱により繊維が融着及び固化することを抑制し、弾力に優れる捲縮糸を得ることが出来るという利点がある。
なお、スタッフィング圧は、スタッフィングボックス内のP3HB3HH系延伸フィラメントに掛かる圧力を意味する。
【0067】
前記P3HB3HH系短繊維を得る工程では、捲縮加工した前記P3HB3HH系延伸フィラメントを所定の繊維長にカットすることにより、P3HB3HH系短繊維を得る。
前記所定の繊維長は、好ましくは11~160mm、より好ましくは15~160mm、更に好ましくは20~110mm、特に好ましくは25~76mmである。
【0068】
前記熱接着させる工程では、前記P3HB3HH系短繊維を含む繊維を熱接着させる。これにより、サーマルボンド不織布を得ることができる。
前記熱接着させる工程では、前記繊維を、好ましくは40℃~180℃、より好ましくは50℃~170℃、さらに好ましくは60℃~160℃の温度条件で熱接着させる。
前記温度条件を40℃以上とすることにより、繊維を十分に熱接触させることができるという利点がある。
前記温度条件を180℃以下とすることにより、繊維が溶融しすぎるのを抑制でき、繊維の形状を維持させやすくなるという利点がある。
前記熱接着させる工程では、梳綿機を用いて、P3HB3HH系短繊維を含む繊維からウェブを得、該ウェブに含まれる繊維を熱接着させる。
【0069】
繊維を熱接着させる方法としては、フラットタイプ、オープンタイプ、エンボスタイプなどが挙げられる。
フラットタイプでは、平滑性がある熱ロールでウェブをプレスしながら繊維どうしを熱接着させる。フラットで薄い不織布を得ることができる。
オープンタイプでは、熱風が出るオーブンを使用し、オーブン内でウェブの中に熱風を通過させて繊維どうしを熱接着させる。ふんわりとした嵩高い不織布を得ることができる。
エンボスタイプでは、エンボス模様のある熱ロールでウェブをプレスしながら繊維どうしを熱接着させる。エンボスパターンが付いた不織布を得ることができる。
【0070】
前記熱接着させる工程では、ウェブに荷重(圧力)をかけながら繊維どうしを熱接着させることが好ましい。
これにより、低温で短時間でも繊維を熱接着させやすくなり、すなわち、繊維の繊維形状を維持させつつ、十分に熱接着させやすくなるという利点がある。
また、質感に優れた不織布が得られやすくなるという利点もある。
【0071】
〔開示項目〕
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
〔項目1〕
ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維を少なくとも含み、
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維は、繊維長が11~160mmであり、かつ捲縮を有する、生分解性サーマルボンド不織布。
〔項目2〕
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維を20重量%以上80重量%以下含み、
少なくとも1種以上の生分解性多糖類を含有する生分解性多糖類系短繊維を20重量%以上80重量%以下含む、項目1に記載の生分解性サーマルボンド不織布。
〔項目3〕
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維の示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解ピーク範囲の下限の温度が40℃以上であり、
該結晶融解ピーク範囲の上限の温度が180℃以下である、項目1又は2に記載の生分解性サーマルボンド不織布。
〔項目4〕
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維の捲縮数は、5~25個/25mmである、項目1~3のいずれか1項に記載の生分解性サーマルボンド不織布。
〔項目5〕
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維の単繊維繊度が0.1~100dtexである、項目1~4のいずれか1項に記載の生分解性サーマルボンド不織布。
〔項目6〕
前記生分解性多糖類が、セルロース群からなる多糖類である、項目1~5のいずれか1項に記載の生分解性サーマルボンド不織布。
〔項目7〕
項目1~6のいずれか1項に記載の生分解性サーマルボンド不織布の製造方法であって、
ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系延伸フィラメントを予熱する工程と、
スタッフィングボックスを用い、予熱した前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系延伸フィラメントを捲縮加工する工程と、
捲縮加工した前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系延伸フィラメントを所定の繊維長にカットすることにより、ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維を得る工程と、
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系短繊維を含む繊維を40℃~180℃の温度条件で熱接着させる工程とを有する、生分解性サーマルボンド不織布の製造方法。
〔項目8〕
前記ポリ-(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系延伸フィラメントの単繊維引張強度が0.5~10cN/dtexである、項目7に記載の生分解性サーマルボンド不織布の製造方法。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明は、上記した作用効果によって限定されるものでもない。さらに、本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例0073】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
(P3HB3HHにおけるHH及びHBの比率)
後述する実施例及び比較例のP3HB3HHにおける構成単位としての3-ヒドロキシヘキサノエート(HH)及び3-ヒドロキシブチレート(HB)の比率は、以下のようにして求めた。
まず、乾燥した20mgのP3HB3HHに、硫酸とメタノールとの混合液(硫酸の体積:メタノールの体積=15:85)2mL、及び、クロロホルム2mLを添加した試料を密栓し、密栓した状態で該試料を100℃で140分間加熱することにより、P3HB3HHの分解物であるメチルエステルを含む第1の反応液を得た。
そして、該第1の反応液を冷却し、冷却した第1の反応液に1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置することにより、第2の反応液を得た。
さらに、第2の反応液と、4mLのジイソプロピルエーテルとをよく混合することにより、混合物を得た。
次に、該混合物を遠心分離することにより、上清液を得た。
そして、上清液中の前記分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより下記条件で分析することにより、P3HB3HHにおける構成単位としての3-ヒドロキシヘキサノエート(HH)及び3-ヒドロキシブチレート(HB)の比率を求めた。
測定値を下記表1に示す。
ガスクロマトグラフ:島津製作所製のGC-17A
キャピラリーカラム:GLサイエンス社製のNEUTRA BOND-1(カラム長:25m、カラム内径:0.25mm、液膜厚:0.4μm)
キャリアガス:He
カラム入口圧:100kPa
サンプルの量:1μL
温度条件については、100~200℃では8℃/分の速度で昇温し、さらに200~290℃では30℃/分の速度で昇温した。
【0075】
(短繊維のパラメータの測定)
後述する実施例及び比較例の短繊維について、繊維長、単繊維繊度、単繊維引張強度、重量平均分子量、捲縮数、並びに、DSC測定による結晶融解ピーク範囲の下限の温度及び上限の温度は、上述した方法で測定した。
測定値を下記表1に示す。
【0076】
(実施例1)
下記表1に示す材料を下記表1に示す配合比で混合することにより、P3HB3HH組成物(溶融物を)得、溶融紡糸法により、下記表1に示すP3HB3HH系延伸フィラメントを得た。
次に、P3HB3HH系延伸フィラメントを75℃の温度で予熱し、スタッフィングボックスを用いて、予熱したP3HB3HH系延伸フィラメントを0.03MPaのスタッフィング圧の条件下で捲縮加工した。
そして、捲縮加工したP3HB3HH系延伸フィラメントをカットすることにより、P3HB3HH系短繊維を得た。
次に、P3HB3HH系短繊維と、生分解性多糖類系短繊維としての下記表1に示すリヨセル短繊維とを、下記表1の重量比で混合し、梳綿機を用いて、ウェブを作製した。
均熱乾燥機を用いて、ウェブに荷重を掛けずにウェブを165℃で5分間加熱することにより、繊維を熱接着(熱融着)させた。
【0077】
(実施例2~7)
下記表1の条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
なお、表1において、「熱プレス有り」は、熱プレスによりウェブに荷重をかけたことを意味する。
また、表1の「荷重有り」は、ウェブを板で挟み、重りでウェブに荷重をかけたこと(「熱プレス有り」よりは低圧で荷重をかけたこと)を意味する。
【0078】
(比較例1、2)
捲縮を有しないP3HB3HH系短繊維(捲縮数:0個/25mm)を用い、下記表1の条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にウェブを作製しようと試みたところ、繊維どうしが絡み合わずに、ウェブを作製することが出来なかった。
【0079】
(目付)
不織布の目付は、上述した方法で測定した。
測定値を下記表1に示す。
【0080】
(風合い)
本明細書では、不織布の風合いは、不織布の表面の触感のことを意味する。不織布の風合いについては、以下の基準で評価した。
良好:ふんわりとした柔らかい触感
不良:ザラザラした触感または硬い触感
結果を下記表1に示す。
【0081】
(質感)
本明細書では、不織布の質感は、材料(不織布)そのものが持つ特性のことを意味する。不織布の質感については、以下の基準で評価した。
極めて良好:下記「良好」よりもしっかりした状態
良好:融着物や異物がほとんど無く和紙のように薄くしっかりした状態
不良:たわしやプラスチックのように固く和紙または布の形状を保たない状態
結果を下記表1に示す。
【0082】
(土壌分解性)
5cm×5cmにカットした不織布のサンプルの所定水準をポリプロピレン製ネットに入れ、土壌たる培養土(タキイ種苗製含水セル培土:初期肥効型)中に埋設し、水をかけて土壌をネット内に十分に含侵させた後に、簡易土壌酸度計&土壌水分計(藤原産業株式会社製)を用いて、土壌中の水分量を水分目盛り4~7の範囲で一定に保ち、分解の重量経時変化を測定した。試験期間中、培養土の温度は25~35℃、pHは6~7で推移した。埋設前にサンプルを60℃12時間の条件で乾燥させ、重量を測定した(W3)。埋設2週間後及び4週間後にそれぞれサンプル(n=2)を回収し、流水で十分洗浄した後、120℃で1.5時間乾燥させた後、重量を測定した(W4)。不織布の重量減少率は、下記数式により算出した。
重量減少率(%)=(W3-W4)/W3×100
上記数式中、W3は土中に埋設する前のサンプルの乾燥重量であり、W4は土中に所定時間埋設した後のサンプルの乾燥重量である。
そして、以下の基準で評価した。
〇:分解により重量が減少した。
×:重量が減少しなかった。
結果を下記表1に示す。
【0083】
【0084】
表1に示すように、本発明の範囲内である実施例1~7の不織布では、風合い及び質感が良好以上の評価結果であり、また、土壌分解性が〇の評価結果であった。
従って、本発明によれば、触感、風合い、及び、生分解性に優れる不織布を提供し得ることがわかる。
【0085】
また、繊維を熱接着させる際に荷重をかけた実施例2、3では、HH比率が同程度であるが繊維を熱接着させる際に荷重をかけなかった実施例1に比べて、不織布の質感がより一層良好であった。
また、繊維を熱接着させる際に熱プレスによりウェブに荷重をかけた実施例5では、HH比率が同程度であるが繊維を熱接着させる際に実施例5よりも小さい圧力で荷重をかけた実施例4に比べて、不織布の質感がより一層良好であった。
従って、繊維を熱接着させる際に大きな圧力で荷重をかけることで、繊維同士の表面がより強固に接触し、熱を付与し繊維が接着性を発現した際に繊維同士が強固に接着することから不織布の質感がより一層良好になることがわかる。