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特開2024-136660メンテナンス液及びメンテナンス方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136660
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】メンテナンス液及びメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
B41J2/165 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047846
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】飯田 圭司
(72)【発明者】
【氏名】浅川 裕太
(72)【発明者】
【氏名】安藤 慶吾
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056JB15
(57)【要約】
【課題】洗浄性、目詰まり回復性に優れるメンテナンス液等を提供することを目的とする。
【解決手段】インク組成物を吐出するインクジェット記録装置のメンテナンスに用いるメンテナンス液であって、前記インク組成物は、色材と、樹脂と、を含有する水系のインク組成物であり、前記メンテナンス液は、融点が30℃以上である水溶性低分子有機化合物Aを含有し、前記水溶性低分子有機化合物Aが、アミド類、含硫黄類、又はエーテル類の何れか1種以上を含有する、メンテナンス液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク組成物を吐出するインクジェット記録装置のメンテナンスに用いるメンテナンス液であって、
前記インク組成物は、色材と、樹脂と、を含有する水系のインク組成物であり、
前記メンテナンス液は、融点が30℃以上である水溶性低分子有機化合物Aを含有し、
前記水溶性低分子有機化合物Aが、アミド類、含硫黄類、又はエーテル類の何れか1種以上を含有する、
メンテナンス液。
【請求項2】
前記水溶性低分子有機化合物Aの総含有量が、前記メンテナンス液の総量に対して、1.0~15.0質量%である、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項3】
炭素数が4以下のジオール類である水溶性低分子有機化合物Bをさらに含有し、
前記水溶性低分子有機化合物Bの総含有量が、前記メンテナンス液の総量に対して、15.0質量%以上である、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項4】
前記水溶性低分子有機化合物Aを含めた水溶性低分子有機化合物の総含有量が、前記メンテナンス液の総量に対して、35.0質量%以下である、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項5】
界面活性剤をさらに含有し、
前記界面活性剤の含有量が、前記メンテナンス液の総量に対して、1.0質量%以下である、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項6】
インクジェット記録装置に付着したインク組成物を、請求項1~5のいずれか一項に記載のメンテナンス液でメンテナンスするメンテナンス工程を有し、
前記インク組成物は、色材と、樹脂と、を含有する水系のインク組成物である、
メンテナンス方法。
【請求項7】
前記インクジェット記録装置が、前記インク組成物を吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドに前記インク組成物を供給する流路と、を有し、
前記メンテナンス工程において、前記インクジェットヘッド及び前記流路の少なくとも何れかに付着した前記インク組成物を、前記メンテナンス液で洗浄する、
請求項6に記載のメンテナンス方法。
【請求項8】
前記メンテナンス工程において、前記インクジェットヘッド及び前記流路に、前記メンテナンス液を充填する、
請求項7に記載のメンテナンス方法。
【請求項9】
前記メンテナンス工程後に、前記インクジェットヘッド及び前記流路に、前記インク組成物を再充填する再充填工程を有する、
請求項7に記載のメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンス液及びメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、インクジェット記録装置のメンテナンスに用いるメンテナンス液について種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、少なくとも水、一般式(I)で表わされる化合物、2-ピロリドン、保湿剤を含有することを特徴とするインクジェット記録用メンテナンス液が開示されている。
【化1】
(式中、Rは炭素数1~10のアルキル基、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のエーテル結合を有しても良い炭化水素基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-006294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のメンテナンス液を用いても、インクジェットヘッド等のインクジェット記録装置内の部材の表面で、インク組成物に含まれる樹脂が固化し除去しにくくなり、インクジェット記録装置内の洗浄性、目詰まり回復性が十分でないということがわかってきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、インク組成物を吐出するインクジェット記録装置のメンテナンスに用いるメンテナンス液であって、上記インク組成物は、色材と、樹脂と、を含有する水系のインク組成物であり、上記メンテナンス液は、融点が30℃以上である水溶性低分子有機化合物Aを含有し、上記水溶性低分子有機化合物Aが、アミド類、含硫黄類、又はエーテル類の何れか1種以上を含有する、メンテナンス液である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本実施形態で使用する記録装置の概略図である。
図2】実施例の結果を示す表である。
図3】実施例の結果を示す表である。
図4】実施例の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0008】
1.メンテナンス液
本実施形態に係るメンテナンス液(以下、「メンテナンス液」ともいう。)は、インク組成物を吐出するインクジェット記録装置のメンテナンスに用いるメンテナンス液であって、上記インク組成物は、色材と、樹脂と、を含有する水系のインク組成物であり、上記メンテナンス液は、融点が30℃以上である水溶性低分子有機化合物A(以下、「化合物A」ともいう。)を含有し、上記水溶性低分子有機化合物Aが、アミド類、含硫黄類、又はエーテル類の何れか1種以上を含有する。
【0009】
レジンインクなどの水系のインク組成物は一般的に樹脂を含み、インク組成物に含まれる樹脂はインクジェット記録装置内に固着し得る。そこで、インクジェット記録装置内に残留したインク組成物を洗浄等してメンテナンスするために、樹脂溶解性に優れる有機溶剤を用いたメンテナンス液が使用される。
【0010】
例えば、2-ピロリドンなどのアミド類の有機溶剤がメンテナンス液に用いられている。この有機溶剤は、常温(25℃)で液体であり、蒸発しやすい。そのため、2-ピロリドンにより、インクジェット記録装置内に残留したインク組成物を除去しても、2-ピロリドンが蒸発し、結局、固化した樹脂が残る。また、このように固化した樹脂は再分散性が悪く、その後新たなメンテナンス液やインク組成物を流してもインクジェット記録装置内から除去しにくくなる。メンテナンス液の使用場所は様々あるが、例えば、メンテナンス対象がインク流路やインクジェットヘッドである場合には、結果として、インクジェット記録装置内の目詰まり回復性が劣るという問題があった。
【0011】
そこで、本実施形態においては、融点が30℃以上であり、アミド類、含硫黄類、又はエーテル類の何れか1種以上である水溶性低分子有機化合物Aを用いる。このような水溶性低分子有機化合物Aを含有するメンテナンス液を用いることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0012】
本実施形態のメンテナンス液をメンテナンスに用いたとき、水溶性低分子有機化合物Aは常温固体であり蒸発しにくいため、化合物Aがインク組成物の樹脂と混合した後、上記樹脂が固化してインクジェット記録装置内に固着することがない。そのため、その後新たなメンテナンス液やインク組成物等の液体を流したときに、化合物Aと上記樹脂の混合物が、上記液体に溶解又は分散し、インクジェット記録装置内の残留物の残存を減らすことができる。また、アミド類、含硫黄類、又はエーテル類の何れか1種以上を含有する化合物Aは、上記樹脂と混合するために適度な疎水性を有するため、アミド類、含硫黄類、又はエーテル類の何れか1種以上を含有する化合物Aが上記樹脂と混合して混合物を形成しやすくなる。結果として、洗浄性、目詰まり回復性が向上すると考えられる。但し、洗浄性、目詰まり回復性が向上する要因はこれに限定されない。
【0013】
以下、本実施形態のメンテナンス液の各成分についてそれぞれ詳説する。
【0014】
1.1.水溶性低分子有機化合物
本実施形態の水溶性低分子有機化合物は、分子量が1000以下であり、20℃、大気圧下で、水100gに対して、1g以上溶ける化合物であれば特に制限されない。水溶性低分子有機化合物には、下記で詳説する融点が30℃以上、つまり常温で固体である水溶性低分子有機化合物Aと、融点が30℃未満である水溶性低分子有機化合物Cとが含まれてもよい。また、水溶性低分子有機化合物には、炭素数が4以下のジオール類である水溶性低分子有機化合物Bと、炭素数が5以上のジオール類である水溶性低分子有機化合物Dとが含まれてもよい。水溶性低分子有機化合物Aと、水溶性低分子有機化合物B又はDとは、互いに重複することがある。また、同様に、水溶性低分子有機化合物Cと、水溶性低分子有機化合物B又はDとは、互いに重複することがある。
【0015】
水溶性低分子有機化合物A~Dの総称として呼称するときは、単に「水溶性低分子有機化合物」という。
【0016】
水溶性低分子有機化合物の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、50.0質量%以下であり、40.0質量%以下であり、35.0質量%以下である。また、水溶性低分子有機化合物の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、3.0~50.0質量%であり、5.0~45.0質量%であり、7.5~40.0質量%であり、10.0~35.0質量%であり、12.5~32.5質量%である。水溶性低分子有機化合物の含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。また、水溶性低分子有機化合物の含有量が、50.0質量%以下であることにより、保存安定性がより向上する傾向にある。さらに、水溶性低分子有機化合物の含有量が、3.0質量%以上であることにより、耐凍結性がより向上する傾向にある。
【0017】
1.1.1.水溶性低分子有機化合物A
本実施形態のメンテナンス液は、水溶性低分子有機化合物Aを含有する。水溶性低分子有機化合物Aは、融点が30℃以上である。なお、特に記載がない限り、本実施形態において融点は、大気圧下で測定される。
【0018】
水溶性低分子有機化合物Aは、常温下で固体であり蒸発しにくいため、メンテナンス液が水溶性低分子有機化合物Aを含有することにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0019】
水溶性低分子有機化合物Aは、アミド類、含硫黄類、又はエーテル類の何れか1種以上を含むものであれば、特に限定されず、これら以外の溶剤として、例えば、融点が30℃以上のポリオール類や融点が30℃以上のアミン類をさらに含んでもよい。アミド類、含硫黄類、及びエーテル類は、何れもインク組成物の樹脂と混合するために適度な疎水性を有するため、これらの水溶性低分子有機化合物Aを含有することにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。水溶性低分子有機化合物Aは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
水溶性低分子有機化合物Aの総含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、0.1~25.0質量%であり、0.5~20.0質量%であり、0.7~17.5質量%であり、1.0~15.0質量%であり、1.5~12.5質量%である。水溶性低分子有機化合物Aの総含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0021】
アミド類、含硫黄類、及びエーテル類の総含有量は、水溶性低分子有機化合物Aの総量に対して、好ましくは、80.0~100質量%であり、85.0~100質量%であり、87.5~100質量%であり、90.0~100質量%であり、92.5~100質量%であり、95.0~100質量%である。上述のアミド類、含硫黄類、及びエーテル類の総含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0022】
アミド類、含硫黄類、及びエーテル類の総含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、0.1~25.0質量%であり、0.5~20.0質量%であり、1.0~17.5質量%であり、1.5~15.0質量%である。上述のアミド類、含硫黄類、及びエーテル類の総含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0023】
本実施形態の水溶性低分子有機化合物Aは、上述のアミド類、含硫黄類、及びエーテル類以外の水溶性低分子有機化合物Aを含んでもよい。具体的には、特に限定されないが、例えば、上述の水溶性低分子有機化合物Aに含まれるポリオール類、及びアミン類が挙げられる。
【0024】
アミド類、含硫黄類、及びエーテル類以外の水溶性低分子有機化合物Aの含有量は、水溶性低分子有機化合物Aの総量に対して、特に限定されないが、例えば、0.5~40.0質量%であり、1.0~30.0質量%であり、1.2~20.0質量%であり、1.4~15.0質量%であり、1.6~12.5質量%であり、1.8~10.0質量%であり、2.0~7.5質量%である。
【0025】
アミド類、含硫黄類、及びエーテル類以外の水溶性低分子有機化合物Aの含有量は、メンテナンス液の総量に対して、特に限定されないが、例えば、0.01~15.0質量%であり、0.03~10.0質量%であり、0.05~7.5質量%であり、0.06~5.0質量%であり、0.07~2.5質量%であり、0.08~1.0質量%である。
【0026】
1.1.1.1.アミド類
水溶性低分子有機化合物Aに含まれるアミド類は、水溶性であり、融点が30℃以上である。より具体的には、特に限定されないが、例えば、ε―カプロラクタム、2-ピペリドン、2-アゼチジノン、2-ピリドン、アクリルアミド、アセトアミド、イソブチルアミド、クロロアセトアミド、シアノアセトアミド、1,3-ジメチル尿素、トリクロロアセトアミド、尿素、ビウレット、フェニル尿素、ブチルアミド、プロピオンアミド、ヘキサンアミド、マロンアミド、ラクトアミドが挙げられる。この中でも、ε―カプロラクタム、2-ピペリドンが好ましい。水溶性低分子有機化合物Aに含まれるアミド類を用いることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。水溶性低分子有機化合物Aに含まれるアミド類は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
水溶性低分子有機化合物Aに含まれるアミド類の含有量は、水溶性低分子有機化合物Aの総量に対して、好ましくは、60.0~99.5質量%であり、65.0~99.3質量%であり、70.0~99.0質量%であり、72.5~98.5質量%であり、75.0~98.0質量%である。水溶性低分子有機化合物Aに含まれるアミド類の含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0028】
水溶性低分子有機化合物Aに含まれるアミド類の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、0.5~15.0質量%であり、0.7~12.5質量%であり、1.0~10.0質量%であり、1.5~7.5質量%であり、1.7~5.0質量%である。水溶性低分子有機化合物Aに含まれるアミド類の含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0029】
1.1.1.2.含硫黄類
水溶性低分子有機化合物Aに含まれる含硫黄類は、水溶性であり、融点が30℃以上である。より具体的には、特に限定されないが、例えば、ジメチルスルホン、2-アミノエタンチオール、ジチオ二酢酸、スルホ安息香酸、トルエンスルホン酸、ヒポタウリン、フェノールスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メチオニンである。この中でも、ジメチルスルホンが好ましい。水溶性低分子有機化合物Aに含まれる含硫黄類を用いることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。水溶性低分子有機化合物Aに含まれる含硫黄類は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
水溶性低分子有機化合物Aに含まれる含硫黄類の含有量は、水溶性低分子有機化合物Aの総量に対して、好ましくは、60.0~99.5質量%であり、65.0~99.3質量%であり、70.0~99.0質量%であり、72.5~98.5質量%であり、75.0~98.0質量%である。水溶性低分子有機化合物Aに含まれる含硫黄類の含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0031】
水溶性低分子有機化合物Aに含まれる含硫黄類の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、0.5~15.0質量%であり、0.7~12.5質量%であり、1.0~10.0質量%であり、1.5~7.5質量%であり、1.7~5.0質量%である。水溶性低分子有機化合物Aに含まれる含硫黄類の含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0032】
1.1.1.3.エーテル類
水溶性低分子有機化合物Aに含まれるエーテル類は、水溶性であり、融点が30℃以上である。より具体的には、特に限定されないが、例えば、1,4-ジオキサン-2,3-ジオール、α-トリオキシメチレン、1,4-ジオキサンである。この中でも、1,4-ジオキサン-2,3-ジオールが好ましい。水溶性低分子有機化合物Aに含まれるエーテル類を用いることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。水溶性低分子有機化合物Aに含まれるエーテル類は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
水溶性低分子有機化合物Aに含まれるエーテル類の含有量は、水溶性低分子有機化合物Aの総量に対して、好ましくは、60.0~99.5質量%であり、65.0~99.3質量%であり、70.0~99.0質量%であり、72.5~98.5質量%であり、75.0~98.0質量%である。水溶性低分子有機化合物Aに含まれるエーテル類の含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0034】
水溶性低分子有機化合物Aに含まれるエーテル類の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、0.5~15.0質量%であり、0.7~12.5質量%であり、1.0~10.0質量%であり、1.5~7.5質量%であり、1.7~5.0質量%である。水溶性低分子有機化合物Aに含まれるエーテル類の含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0035】
1.1.1.4.ポリオール類
水溶性低分子有機化合物Aに含まれるポリオール類は、水溶性であり、融点が30℃以上である。より具体的には、特に限定されないが、例えば、トリメチロールプロパン、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、カテコール、ピロガロール、スチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,2,4-ベンゼントリオールである。水溶性低分子有機化合物Aに含まれるポリオール類は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
水溶性低分子有機化合物Aに含まれるポリオール類の含有量は、水溶性低分子有機化合物Aの総量に対して、特に限定されないが、例えば、0.1~5.0質量%であり、0.1~4.0質量%であり、0.1~3.0質量%である。また、水溶性低分子有機化合物Aに含まれるポリオール類を含まなくてもよい。
【0037】
水溶性低分子有機化合物Aに含まれるポリオール類の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、特に限定されないが、例えば、0.1~2.5質量%であり、0.1~2.0質量%であり、0.1~1.5質量%であり、0.1~1.0質量%である。また、水溶性低分子有機化合物Aに含まれるポリオール類を含まなくてもよい。
【0038】
1.1.1.5.アミン類
水溶性低分子有機化合物Aに含まれるアミン類は、水溶性であり、融点が30℃以上である。より具体的には、特に限定されないが、例えば、トリイソプロパノールアミン、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、ジメチルアミン塩酸塩、スペルミジン、トリエチルアミン塩酸塩、N-メチルヒドロキシルアミン塩酸塩である。この中でも、トリイソプロパノールアミンが好ましい。水溶性低分子有機化合物Aに含まれるアミン類を用いることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。水溶性低分子有機化合物Aに含まれるアミン類は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
水溶性低分子有機化合物Aに含まれるアミン類の含有量は、水溶性低分子有機化合物Aの総量に対して、好ましくは、0.5~40.0質量%であり、1.0~30.0質量%であり、1.2~20.0質量%であり、1.4~15.0質量%であり、1.6~12.5質量%であり、1.8~10.0質量%であり、2.0~7.5質量%である。水溶性低分子有機化合物Aに含まれるアミン類の含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0040】
水溶性低分子有機化合物Aに含まれるアミン類の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、0.01~15.0質量%であり、0.03~10.0質量%であり、0.05~7.5質量%であり、0.06~5.0質量%であり、0.07~2.5質量%であり、0.08~1.0質量%である。水溶性低分子有機化合物Aに含まれるアミン類の含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0041】
1.1.2.水溶性低分子有機化合物B
本実施形態のメンテナンス液は、炭素数が4以下のジオール類である水溶性低分子有機化合物Bをさらに含有してもよい。水溶性低分子有機化合物Bとしては、特に限定されないが、例えば、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、エチレングリコールが挙げられる。この中でも、1,2-ブタンジオール、プロピレングリコールが好ましい。水溶性低分子有機化合物Bは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
水溶性低分子有機化合物Bを含有することで、メンテナンス液が凍結しにくくなり、冬季でも好適に用いることができる傾向にある。
【0043】
水溶性低分子有機化合物Bの含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、15質量%以上であり、15.0~40.0質量%であり、17.5~37.5質量%であり、20.0~35.0質量%であり、21.0~32.5質量%であり、22.0~30.0質量%であり、22.5~28.0質量%であり、23.0~26.0質量%である。水溶性低分子有機化合物Bの含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0044】
1.1.3.水溶性低分子有機化合物C
本実施形態のメンテナンス液は、融点が30℃未満である水溶性低分子有機化合物Cをさらに含有してもよい。水溶性低分子有機化合物Cとしては、特に限定されないが、例えば、アミド類、含硫黄類、エーテル類、ポリオール類、及びアミン類が挙げられる。水溶性低分子有機化合物Cは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
より具体的には、特に限定されないが、例えば、アミド類として、2-ピロリドン、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド;含硫黄類として、ジビニルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン;エーテル類として、2-エトキシエタノール、ジエチルエーテル;ポリオール類として、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール;アミン類として、エチルアミン、2-アミノエタノール、1,3-プロパンジアミンが挙げられる。
【0046】
水溶性低分子有機化合物Cの含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、12.0~42.0質量%であり、17.0~39.5質量%であり、19.5~37.0質量%であり、23.0~34.5質量%であり、24.0~32.0質量%であり、24.5~30.0質量%であり、25.0~28.0質量%である。である。水溶性低分子有機化合物Cの含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0047】
1.1.4.水溶性低分子有機化合物D
本実施形態のメンテナンス液は、炭素数が5以上のジオール類である水溶性低分子有機化合物Dをさらに含有してもよい。水溶性低分子有機化合物Bとしては、特に限定されないが、例えば、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール等の1,2-アルカンジオール類;2,4-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,3-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール等のその他のアルカンジオール類が挙げられる。この中でも、メンテナンス液に含まれる界面活性剤、消泡剤等を良好に溶解させる観点から、1,2-アルカンジオール類が好ましく、1,2-ヘキサンジオールが特に好ましい。水溶性低分子有機化合物Bは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
水溶性低分子有機化合物Dの含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、0.1~10.0質量%であり、0.5~7.5質量%であり、0.7~5.0質量%であり、1.0~3.0質量%である。水溶性低分子有機化合物Dの含有量が、上記範囲内であることにより、メンテナンス液に含まれる界面活性剤、消泡剤等を良好に溶解できる傾向にある。
【0049】
1.2.界面活性剤
本実施形態のメンテナンス液は、界面活性剤をさらに含有してもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。界面活性剤を含有することにより、保存安定性が向上する傾向にある。
【0050】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(日信化学工業株式会社製)、サーフィノールDF110Dやサーフィノール61(エボニック・インダストリー社製)が挙げられる。
【0051】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、S-144、S-145(旭硝子株式会社製);FC-170C、FC-430、フロラード-FC4430(住友スリーエム株式会社製);FSO、FSO-100、FSN、FSN-100、FS-300(Dupont社製);FT-250、251(株式会社ネオス製)が挙げられる。
【0052】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、具体的には、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(信越化学株式会社製)が挙げられる。
【0053】
界面活性剤の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、5.0質量%以下であり、2.5質量%以下であり、1.0質量%以下であり、0.1~5.0質量%であり、0.2~2.5質量%であり、0.3~1.0質量%である。
【0054】
1.3.水
本実施形態のメンテナンス液に含まれる水としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水、純水が挙げられる。
【0055】
水の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、55~90質量%であり、60~80質量%である。
【0056】
1.4.その他の成分
本実施形態のメンテナンス液は、上記の各成分の他に、従来のメンテナンス液に用いられ得る公知のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、腐食防止剤、分散に影響を与える所定の金属イオンを捕獲するためのキレート化剤その他の添加剤、上記以外の水溶性低分子有機化合物、水溶性低分子有機化合物以外の有機化合物が挙げられる。その他の成分は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
2.インク組成物
本実施形態のインク組成物は、色材と、樹脂と、を含有する水系のインク組成物である。
【0058】
本実施形態のインク組成物は、樹脂を含有するため、吸収性記録媒体のみならず、低吸収性記録媒体、非吸収性記録媒体に対しても好適に用いられる。また、紙等の比較的硬い記録媒体だけでなく、樹脂フィルム等の比較的柔らかい記録媒体に対しても好適に用いられる。
【0059】
2.1.色材
色材としては、特に制限されないが、例えば、分散染料や顔料が挙げられる。色材は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
分散染料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ディスパースイエロー、C.I.ディスパースオレンジ、C.I.ディスパースブルー、C.I.ディスパースバイオレット、C.I.ディスパースブラックなど公知のものを用いることができる。
【0061】
無機顔料としては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンが挙げられる。
【0062】
有機顔料としては、特に限定されないが、例えば、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料、及びアゾ系顔料が挙げられる。
【0063】
色材の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.5~20.0質量%であり、0.7~15.0質量%であり、1.0~10.0質量%である。
【0064】
2.2.樹脂
樹脂としては、インク組成物中で溶解しているもの、又は、樹脂粒子、エマルションなどの形態で分散しているものが挙げられる。このような樹脂を用いることにより、記録物の耐擦性に優れる傾向にある。
【0065】
このような樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、パラフィン樹脂、フッ素樹脂、及び水溶性樹脂、並びにこれらの樹脂を構成する単量体を組み合わせた共重合体が挙げられる。共重合体としては、特に限定されないが、例えば、スチレンブタジエン樹脂、スチレンアクリル樹脂が挙げられる。また、樹脂としては、これらの樹脂を含むポリマーラテックスを用いることができる。
【0066】
例えば、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン樹脂の微粒子を含むポリマーラテックスが挙げられる。なお、樹脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
アクリル系樹脂は、アクリルモノマーを少なくとも重合させて得たポリマーであり、アクリルモノマーと他のモノマーの共重合ポリマーも含む。アクリルモノマーとしては、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸などがあげられる。他のモノマーとしては、ビニルモノマーなどがあげられ、例えばスチレンなどがあげられる。ウレタン系樹脂は、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とのウレタン重合により得られた樹脂である。
【0068】
樹脂の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.5~20.0質量%であり、1.0~15.0質量%であり、2.0~10.0質量%であり、2.5~8.0質量%であり、3.0~7.0質量%である。樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、記録物の耐擦性に優れる傾向にある。
【0069】
2.3.水溶性低分子有機化合物
本実施形態の水溶性低分子有機化合物は、下記で詳説する水溶性低分子有機化合物A、水溶性低分子有機化合物B、水溶性低分子有機化合物C、及び水溶性低分子有機化合物Dを包含する。ここで、低分子とは、特に限定されないが、例えば、分子量が10000以下であることを意味する。また、水溶性低分子有機化合物の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは、3.0~50.0質量%であり、5.0~45.0質量%であり、7.5~40.0質量%であり、10.0~35.0質量%であり、12.5~32.5質量%である。
【0070】
2.3.1.水溶性低分子有機化合物A
水溶性低分子有機化合物Aは、融点が30℃以上である。水溶性低分子有機化合物Aとしては、特に限定されないが、例えば、メンテナンス液で記載したものが挙げられる。水溶性低分子有機化合物Aは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
水溶性低分子有機化合物Aの含有量は、インク組成物の総量に対して、特に限定されないが、例えば、0.1~25.0質量%であり、0.5~20.0質量%であり、1.0~17.5質量%であり、1.5~15.0質量%である。
【0072】
2.3.2.水溶性低分子有機化合物B
水溶性低分子有機化合物Bは、炭素数が4以下のジオール類である。水溶性低分子有機化合物Bとしては、特に限定されないが、例えば、メンテナンス液で記載したものが挙げられる。水溶性低分子有機化合物Bは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
水溶性低分子有機化合物Bの含有量は、インク組成物の総量に対して、特に限定されないが、例えば、15.0~40.0質量%であり、17.5~37.5質量%であり、20.0~35.0質量%であり、21.0~32.5質量%であり、22.0~30.0質量%である。
【0074】
2.3.3.水溶性低分子有機化合物C
水溶性低分子有機化合物Cは、融点が30℃未満である。水溶性低分子有機化合物Cとしては、特に限定されないが、例えば、メンテナンス液で記載したものが挙げられる。水溶性低分子有機化合物Cは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
水溶性低分子有機化合物Cの含有量は、インク組成物の総量に対して、特に限定されないが、例えば、12.0~42.0質量%であり、17.0~39.5質量%であり、19.5~37.0質量%であり、23.0~34.5質量%である。
【0076】
2.3.4.水溶性低分子有機化合物D
水溶性低分子有機化合物Dは、炭素数が5以上のジオール類である。水溶性低分子有機化合物Dとしては、特に限定されないが、例えば、メンテナンス液で記載したものが挙げられる。水溶性低分子有機化合物Dは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
水溶性低分子有機化合物Dの含有量は、インク組成物の総量に対して、特に限定されないが、例えば、0.1~10.0質量%であり、0.5~7.5質量%であり、0.7~5.0質量%であり、1.0~3.0質量%である。
【0078】
2.4.界面活性剤
本実施形態のインク組成物は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、メンテナンス液で記載したものが挙げられる。界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。界面活性剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、特に限定されないが、例えば、0.1~5.0質量%であり、0.2~2.5質量%であり、0.3~1.0質量%である。
【0079】
2.5.水
本実施形態のインク組成物に含まれる水としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水、純水が挙げられる。
【0080】
水の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは、55~90質量%であり、60~80質量%である。
【0081】
2.5.その他の成分
本実施形態のインク組成物は、上記の各成分の他に、従来のインク組成物に用いられ得る公知のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、重合開始剤、重合性化合物、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、腐食防止剤、及び分散に影響を与える所定の金属イオンを捕獲するためのキレート化剤その他の添加剤、上記以外の水溶性低分子有機化合物、水溶性低分子有機化合物以外の有機化合物が挙げられる。その他の成分は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0082】
3.記録媒体
本実施形態のインク組成物の記録に用いる記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、吸収性記録媒体、低吸収性記録媒体、非吸収性記録媒体が挙げられる。
【0083】
吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、インクの浸透性が高い電子写真用紙等の普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)、布帛が挙げられる。
【0084】
低吸収性記録媒体は、特に限定されないが、例えば、インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙が挙げられる。
【0085】
非吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムやプレート;鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート;又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート;紙製の基材にポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムを接着(コーティング)した記録媒体が挙げられる。
【0086】
4.インクジェット記録方法
本実施形態のインク組成物を用いるインクジェット記録方法は、本実施形態のインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させるインク付着工程を有し、また、必要に応じて、記録媒体を搬送する搬送工程等のその他の工程を含んでいてもよい。
【0087】
4.1.インク付着工程
インク付着工程では、本実施形態のインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる。より具体的には、インクジェットヘッド内に設けられた圧力発生手段を駆動させて、インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填されたインク組成物をノズルから吐出させる。
【0088】
インク付着工程において用いるインクジェットヘッドとしては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。
【0089】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、記録媒体の記録幅以上の幅を有するインクジェットヘッドを記録装置に固定する。そして、記録媒体を副走査方向(記録媒体の搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0090】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、例えば、記録媒体の幅方向に移動可能なキャリッジにインクジェットヘッドを搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(記録媒体の幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0091】
4.2.搬送工程
本実施形態のインク組成物を用いるインクジェット記録方法は搬送工程を含んでいてもよい。搬送工程では、記録装置内で所定の方向に記録媒体を搬送する。より具体的には、記録装置内に設けられた搬送ローラーや搬送ベルトを用いて、記録装置の給紙部から排紙部へと記録媒体を搬送する。その搬送過程において、インクジェットヘッドから吐出されたインク組成物が記録媒体に付着し、記録物が形成される。インク付着工程と搬送工程は同時に行ってもよいし、交互に行ってもよい。
【0092】
5.メンテナンス方法
本実施形態のメンテナンス方法は、メンテナンス工程を有し、再充填工程を有してもよく、必要に応じてその他の工程を有してもよい。
【0093】
5.1.メンテナンス工程
本実施形態のメンテナンス工程では、インクジェット記録装置に付着した上記インク組成物を、上記メンテナンス液でメンテナンスする。ここで、メンテナンスすることとは、特に限定されないが、例えば、インクジェット記録装置内に付着した上記インク組成物をメンテナンス液で洗浄すること、インクジェット記録装置内をメンテナンス液で充填すること、等である。メンテナンス工程を有することにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0094】
インクジェット記録装置が、上記インク組成物を吐出するインクジェットヘッドと、上記インクジェットヘッドに上記インク組成物を供給する流路と、を有するとき、上記インクジェットヘッド及び上記流路の少なくとも何れかに付着した上記インク組成物を、上記メンテナンス液で洗浄することが好ましい。これにより、洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。また、洗浄性、目詰まり回復性を向上させる観点からは、上記インクジェットヘッド及び上記流路以外の、インクジェット記録装置のインクジェットヘッドキャップ及びフラッシングボックス等、上記インク組成物が付着しやすい箇所においても、上記インク組成物をメンテナンス液で洗浄することが好ましい。
【0095】
本実施形態のメンテナンス工程では、上記インクジェットヘッド及び上記流路に、上記メンテナンス液を充填してもよい。これにより、インクジェット記録装置を長期間使わない場合や輸送する場合において、インクジェット記録装置内に、上記インク組成物が付着することに起因して残留物が残存することを防ぐことができ、結果として洗浄性、目詰まり回復性が向上する傾向にある。
【0096】
5.2.再充填工程
本実施形態の再充填工程では、上記メンテナンス工程後に、上記インクジェットヘッド及び上記流路に、上記インク組成物を再充填する。再充填工程を有することにより、ノズル抜け等に起因する画質の低下を招くことなく、迅速に記録物を形成することができる。
【0097】
6.記録装置
インクジェット装置の一例として、図1に、シリアルプリンタの斜視図を示す。図1に示すように、シリアルプリンタ20は、搬送部220と、記録部230とを備えている。搬送部220は、シリアルプリンタに給送された記録媒体Fを記録部230へと搬送し、記録後の記録媒体をシリアルプリンタの外に排出する。具体的には、搬送部220は、各送りローラーを有し、送られた記録媒体Fを副走査方向T2へ搬送する。
【0098】
また、記録部230は、搬送部220から送られた記録媒体Fに対してインク組成物を吐出するノズルを有するインクジェットヘッド231を搭載するキャリッジ234と、キャリッジ234を記録媒体Fの主走査方向S1、S2に移動させるキャリッジ移動機構235を備える。
【0099】
シリアルプリンタの場合には、インクジェットヘッド231として記録媒体の幅より小さい長さであるヘッドを備え、ヘッドが移動し、複数パスで記録が行われる。また、シリアルプリンタでは、所定の方向に移動するキャリッジ234にヘッド231が搭載されており、キャリッジの移動に伴ってヘッドが移動することにより記録媒体F上にインク組成物を吐出する。これにより、2パス以上で記録が行われる。なお、パスを主走査ともいう。パスとパスの間には記録媒体を搬送する副走査を行う。つまり主走査と副走査を交互に行う。
【0100】
また、本実施形態のインクジェット装置は、上記シリアル方式のプリンタに限定されず、上述したライン方式のプリンタであってもよい。ライン方式のプリンタは、記録媒体の記録幅以上の長さを有するインクジェットヘッドであるラインヘッドを用いて、記録媒体に、1回の走査で記録を行うプリンタである。
【実施例0101】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。また、特段記載のない限り、室温(25℃)、10Paで行われた。
【0102】
1.メンテナンス液の調製
図2に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合撹拌し、実施例及び比較例のメンテナンス液を得た。なお、図中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。
【0103】
図2に示す材料は以下のとおりである。
<界面活性剤>
・BYK-349(ビックケミー・ジャパン株式会社製)
・サーフィノールDF110D(エボニック・インダストリー社製)
【0104】
2.インク組成物の調製
図3に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合撹拌し、実施例及び比較例のインク組成物を得た。なお、図中の各例に示す各成分の数値は、特段記載のない限り質量%を表す。また、色材及び樹脂の含有量は、固形分質量を表す。
【0105】
図3に示す材料は以下のとおりである。
<界面活性剤>
・BYK-349(ビックケミー・ジャパン株式会社製)
・サーフィノールDF110D(エボニック・インダストリー社製)
<色材>
・シアン顔料分散液(フタロシアニン顔料、ピグメントブルー15:3)
<樹脂>
・ジョンクリル631(BASF社製、アクリル樹脂)
・ハイテックE-6500(東邦化学工業株式会社製、ポリオレフィン樹脂)
【0106】
3.評価
3.1.洗浄性
ステンレス板に実施例及び比較例のインク組成物を5μL滴下し、室温で2時間乾燥させて、固化させた。その後、実施例及び比較例のメンテナンス液を10μL、3回滴下した後の固化したインク組成物の状態を目視で観察した。
[評価基準]
A:固化したインク組成物を確認できない。
B:固化したインク組成物がわずかに残存している。
C:メンテナンス液の滴下前後で、固化したインク組成物について変化がない。
【0107】
3.2.目詰まり回復性
インクジェットプリンタであるPX-S840(セイコーエプソン株式会社製)に、実施例及び比較例のインク組成物を充填した後、実施例及び比較例のメンテナンス液で置換して充填し、その後メンテナンス液を排出した。上記プリンタを40℃で1日放置した後、インク組成物を再充填して、ノズルチェックパターンを印刷し、未回復のノズル数(目詰まりしているノズル数)を数えて評価した。
[評価基準]
A:未回復のノズル数が、全体の1%未満である。
B:未回復のノズル数が、全体の1%以上2%未満である。
C:未回復のノズル数が、全体の2%以上である。
【0108】
3.3.耐擦性
インクジェットプリンタであるPX-S840(セイコーエプソン株式会社製)に、実施例及び比較例のインク組成物を充填し、A4サイズにカットした記録媒体ORAJET(登録商標) 3165G-010(オラフォルジャパン社製、塩化ビニルフィルム)にベタパターン(インク組成物付着量:12mg/inch)を印刷して記録物を形成した。30分間室温で放置した後、記録物を30×150mmの矩形に切断して評価部とし、水で濡らした平織布を使用して、学振式耐擦試験機(荷重500g)で100回擦った際の評価部の剥がれ度合いを目視で評価した。
[評価基準]
A:剥がれがない。
B:評価部の5割未満の剥がれがある。
C:評価部の5割以上の剥がれがある。
【0109】
3.4.耐凍結性
実施例及び比較例のメンテナンス液50gをアルミパックに封入後、-30℃恒温槽で完全に凍結させた。その後、設定温度を-20℃、-15°に変更したときのアルミパックの硬さを指触確認して評価した。
[評価基準]
A:-20℃で凍結しない。
B:-20℃で凍結するが、-15℃で凍結しない。
C:-15℃で凍結する。
【0110】
3.5.保存安定性
実施例及び比較例のメンテナンス液50gをアルミパックに封入後、60℃恒温槽で5日間及び14日間放置した。取り出して自然冷却した後、メンテナンス液10gをフィルタ(孔径10μm)に、通液面積が1cmとなるように通液し、通液後のメンテナンス液中の異物数を数えて評価した。
[評価基準]
A:60℃、14日間で異物数が50個未満である。
B:60℃、14日間で異物数が50個以上であり、60℃、5日間で異物数が50個未満である。
C:60℃、5日間で異物数が50個以上である。
【0111】
4.評価結果
図2,4の評価結果から、実施例1~8は何れも、メンテナンス液が、水溶性低分子有機化合物Aに含まれるアミド類、含硫黄類、又はエーテル類の何れも含有しない比較例1,3,4、インク組成物が樹脂を含有しない比較例2と比較して、洗浄性、目詰まり回復性、及び耐擦性に優れることがわかった。
【符号の説明】
【0112】
20…シリアルプリンタ、220…搬送部、230…記録部、231…インクジェットヘッド、234…キャリッジ、235…キャリッジ移動機構、F…記録媒体、S1,S2…主走査方向、T2…副走査方向
図1
図2
図3
図4