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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136667
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 1/28 20060101AFI20240927BHJP
   B41J 29/38 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B65H1/28 320A
B41J29/38 204
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047853
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】守屋 佑亮
【テーマコード(参考)】
2C061
3F343
【Fターム(参考)】
2C061HK09
2C061HK10
2C061HK11
2C061HN08
2C061HN15
3F343FA02
3F343FB04
3F343FC06
3F343GA01
3F343GB03
3F343GC01
3F343GD01
3F343HA32
3F343HA33
3F343HA34
3F343HB03
3F343KB03
3F343KB04
3F343KB17
3F343LA03
3F343LA13
3F343LC14
3F343LC15
3F343LC19
3F343MA45
3F343MA47
3F343MB02
3F343MB10
3F343MC19
3F343MC23
(57)【要約】
【課題】連続印刷において画質を向上させる印刷装置を提供すること。
【解決手段】印刷装置1は、媒体Mに液体を吐出し、画像を形成する印刷部50と、複数の媒体Mを一時的に載置するスタッカー81と、スタッカー81に載置された状態の媒体Mを、印刷部50へ向けて供給する給紙部30と、を備え、スタッカー81に載置された状態の複数の媒体Mは、大気に暴露される第1層部L1と、第1層部L1よりも大気から離間する第2層部L2と、を有し、給紙部30は、分離部31aを有し、分離部31aは、スタッカー81に載置される複数の媒体Mを、第1層部L1と、第2層部L2と、に分離し、分離された第2層部L2の媒体Mが、給紙部30によって供給されることを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に液体を吐出し、画像を形成する印刷部と、
複数の前記媒体を一時的に載置するスタッカーと、
前記スタッカーに載置された状態の前記媒体を、前記印刷部へ向けて供給する給紙部と、を備え、
前記スタッカーに載置された状態の複数の前記媒体は、大気に暴露される第1層部と、前記第1層部よりも前記大気から離間する第2層部と、を有し、
前記給紙部は、分離部を有し、
前記分離部は、前記スタッカーに載置される複数の前記媒体を、前記第1層部と、前記第2層部と、に分離し、
分離された前記第2層部の前記媒体が、前記給紙部によって供給されることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記スタッカーに載置される複数の前記媒体は、第1方向に積層され、
前記分離部は、前記第1方向から前記媒体を吸着し、前記スタッカーに載置される複数の前記媒体から、前記第1方向へ前記第1層部を分離することを特徴とする、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記スタッカーに載置される複数の前記媒体は、第1方向に積層され、
前記分離部は、前記第1方向と交差する第2方向から、積層される複数の前記媒体に接触して、前記第1層部を分離することを特徴とする、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記分離部は、前記媒体に接触する爪部を有し、
前記第1方向および前記第2方向と交差する第3方向からの側面視にて、前記爪部の先端は尖形であることを特徴とする、請求項3に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記スタッカーに載置される複数の前記媒体は、第1方向に積層され、
前記分離部は、凹凸状の壁部を有し、
前記壁部は、前記第1方向と交差する第2方向から複数の前記媒体に接触して前記第1方向へ移動し、前記第1層部を分離することを特徴とする、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項6】
分離された前記第1層部と前記第2層部とを、合一する戻し部を備えることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項7】
制御部と、前記スタッカーに載置される前記媒体の暴露状態を検出するセンサーと、を備え、
前記制御部は、前記センサーの検出結果に応じて、前記第1層部として分離する前記媒体の枚数を調整することを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単票状の印刷媒体が格納されるスタッカーを備えた印刷装置が知られていた。例えば、特許文献1には、複数枚のシートが積載されるカセットを備えた記録装置が開示されている。該記録装置では、カセットに積載されるシートが最上位から一枚ずつ給送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-122461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、連続的に印刷を行うと印刷物の画質を向上させることが難しいという課題があった。詳しくは、複数枚のシートが重ねられてカセットに積載される。そのため、複数枚のシートのうち上位にあるシートは雰囲気の影響を受けて吸湿し易く、下位にあるシートは吸湿し難い。すなわち、複数枚のシートでは、最上位から最下位に向かって水分量が変化する可能性がある。このような状態で水系インクを用いて連続的に印刷を行うと、水分量の差によって印刷物の画質が遷移して、印刷物の画質を向上させることが難しくなる場合があった。すなわち、連続印刷において画質を向上させる印刷装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
印刷装置は、媒体に液体を吐出し、画像を形成する印刷部と、複数の前記媒体を一時的に載置するスタッカーと、前記スタッカーに載置された状態の前記媒体を、前記印刷部へ向けて供給する給紙部と、を備え、前記スタッカーに載置された状態の複数の前記媒体は、大気に暴露される第1層部と、前記第1層部よりも前記大気から離間する第2層部と、を有し、前記給紙部は、分離部を有し、前記分離部は、前記スタッカーに載置される複数の前記媒体を、第1層部と、第2層部と、に分離し、分離された前記第2層部の前記媒体が、前記給紙部によって供給されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係る印刷装置の構成を示すブロック図。
図2】分離部、給紙ローラー、および戻し部などの配置を示す模式側面図。
図3】分離部による第1層部と第2層部との分離方法を示す模式側面図。
図4】給紙部による第2層部の媒体の供給方法を示す模式側面図。
図5】戻し部による第1層部と第2層部との合一方法を示す模式側面図。
図6】別の形態の分離部の構成および分離方法を示す模式側面図。
図7】別の形態の分離部の構成および分離方法を示す模式側面図。
図8】別の形態の分離部の構成および分離方法を示す模式側面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に述べる実施の形態では、印刷装置としてインクジェットプリンターを例示する。インクジェットプリンターは、インクなどの液体をヘッドから紙などの媒体に付着させて印刷を行う。なお、本発明の印刷装置はインクジェットプリンターに限定されない。
【0008】
以下の各図では、必要に応じて相互に直交する座標軸としてXYZ軸を付し、各矢印が指す方向を+方向とし、+方向と反対の方向を-方向とする。Z軸は鉛直方向に沿う仮想軸であって、+Z方向を上方ということもあり、-Z方向を下方ということもある。なお、以下の各図では、図示の便宜上、各部材の大きさを実際とは異ならせている。
【0009】
図1に示すように、本実施形態に係る印刷装置1は、制御部100、給紙部30、キャリッジ40、印刷部50、およびセンサー60を備える。給紙部30は、分離部31aおよび給紙ローラー32を有する。図示を省略するが、印刷装置1は、上記の構成の他に搬送部、インク収容部、スタッカー、および戻し部などを備える。
【0010】
制御部100は、印刷装置1の各構成の稼働を統合的に制御する。制御部100は、システムバス110、入出力部111、CPU(Central Processing Unit)112、RAM(Random Access Memory)113、ROM(Read Only Memory)114、ヘッド駆動部116、およびモーター駆動部117を含む。
【0011】
CPU112は印刷装置1の全体の制御を司る。CPU112は、システムバス110を介して、入出力部111、RAM113、ROM114、ヘッド駆動部116、およびモーター駆動部117などと電気的に接続される。RAM113は一時的にデータを格納する。ROM114には、CPU112が実行する各種制御プログラムやメンテナンスシーケンスなどが格納される。入出力部111は、パーソナルコンピューターなどの外部の情報端末から操作指示を受け付けると共に、印刷装置1の各種情報を情報端末に送信する。
【0012】
ヘッド駆動部116は、インクジェットヘッドである印刷部50と電気的に接続される。ヘッド駆動部116は印刷部50を駆動する。印刷部50には、インク収容部からインクなどの液体が供給される。印刷部50は、ヘッド駆動部116に駆動されて、後述する媒体Mに液体を吐出して画像などを形成する。
【0013】
モーター駆動部117は、キャリッジ駆動モーター49、給紙ローラー駆動モーター38、および給紙部移動モーター37などと電気的に接続される。図示を省略するが、モーター駆動部117は、搬送部の搬送モーターとも電気的に接続される。モーター駆動部117は、上記の各モーターを駆動する。
【0014】
給紙部移動モーター37は給紙部30を移動させる。給紙ローラー駆動モーター38は給紙ローラー32を回動させる。給紙部30は、給紙ローラー32の回動によってスタッカーから媒体Mを給送する。給紙部30の移動および給紙の詳細については後述する。
【0015】
搬送部は、搬送モーターにより、給紙部30から供給される媒体Mを搬送する。これにより、媒体Mは、印刷部50と対向する位置であるプラテンを含む領域へ搬送される。
【0016】
キャリッジ駆動モーター49はキャリッジ40を移動させる。キャリッジ40は印刷部50を支持する。キャリッジ40は、印刷部50を支持しながら、プラテンと対向する領域を往復移動する。媒体Mがプラテンにて搬送される方向と、キャリッジ40が往復移動する方向とは交差する。
【0017】
上記の構成によって、プラテンでの媒体Mの搬送と印刷部50の往復移動とに連動させて、任意のタイミングで印刷部50から液体を媒体Mに吐出することで印刷が成される。なお、印刷装置1は所謂シリアルプリンターであるが、本発明の印刷装置はこれに限定されず、プラテンに対して印刷時にヘッドが移動しないラインヘッド方式であってもよい。
【0018】
ここで、従来のインクジェットプリンターなどの印刷装置では、印刷物の画質が設置環境の影響を受けることがあった。詳しくは、水系のインクに適用される普通紙などの印刷媒体では、環境の湿度によって吸湿が進行する場合がある。印刷媒体の吸湿が進行すると、印刷媒体に付着されたインクのドットが滲み易くなる。そして、この状態で印刷を行うと、ヘッドの移動方向に沿って、スジ状の部分的に濃いムラである黒スジが発生し易くなる。黒スジは、印刷媒体に対するインク付着量が過剰である場合に生じ易い。
【0019】
そのため、従来の印刷装置の中には、画質への環境の影響を低減しようとするものがある。このような印刷装置は、例えば、印刷開始前にテスト印刷を行って、テスト印刷の画質から印刷条件を変更して本来の印刷を行う。
【0020】
具体的には、比較的に高温高湿度の環境下では、テスト印刷に供される印刷媒体は吸湿して水分量が比較的に高く、インクの滲みによって黒スジが発生し易い。そのため、印刷媒体に対するインク付着量を減らす印刷条件を適用して印刷を行う。
【0021】
ところが、複数の印刷媒体に続けて印刷する連続印刷を行うと、積層された複数の印刷媒体のうち下方の印刷媒体も印刷に供されることになる。下方の印刷媒体は、印刷面が上方の印刷媒体に遮られて大気に暴露されていない。そのため、下方の印刷媒体は吸湿し難く、その水分量は、テスト印刷に供された最も上方の印刷媒体、および印刷を開始した当初の上方の印刷媒体の水分量よりも低くなる。
【0022】
そのため、インク付着量を減らす当初の印刷条件では、下方の印刷媒体に対してインク付着量が不足する傾向となる。インク付着量が不足すると、ヘッドの移動方向に沿って、スジ状の部分的に薄いムラである白スジが発生し易くなる。このように、従来の印刷装置では、連続印刷において画質が遷移して白スジが発生する傾向があり、印刷物の画質を向上させることが難しかった。
【0023】
発明者らによる吸湿実験の結果を以下に述べる。温度10℃、湿度80%RHの環境下に、普通紙を上下方向に重ねて後述するスタッカー内に8時間放置した。この結果、最も上方から下方へ向かって30枚程度までの普通紙に顕著な吸湿が見られた。すなわち、上記範囲の普通紙を用いたテスト印刷にて印刷条件を設定すると、31枚目以降に白スジが発生し易くなっていた。また、上記環境下に62時間放置した場合には、最も上方から下方へ向かって60枚程度までの普通紙に顕著な吸湿が見られた。これに対して、本実施形態の印刷装置1は、以下に述べる構成によって画質の遷移を抑制し、画質を向上させるものである。
【0024】
図2に示すように、印刷装置1は、分離部31aおよび給紙ローラー32を含む給紙部30、ガイド部35、センサー60、戻し部71、スタッカー81を備える。ここで図2では、印刷装置1のうち、印刷前の媒体Mの載置と供給とに係わる構成のみを図示している。なお、以下の各図の説明では、特に断りがない限り、+Y方向から側面視した状態を述べることとする。
【0025】
給紙部30、ガイド部35、センサー60、および戻し部71は、図示しない共通の支持部材に支持される。該支持部材は、上記の給紙部移動モーター37の駆動により、X軸に沿って往復移動する。これによって、給紙部30、ガイド部35、センサー60、および戻し部71は、図2に示した配置を維持したまま、X軸に沿う方向に往復移動が可能である。
【0026】
スタッカー81は、印刷前の複数の媒体Mを一時的に載置する。スタッカー81は、樹脂や金属などによって形成され、単票状の媒体Mのサイズに対応した形状を有する。スタッカー81に載置される複数の媒体Mは、第1方向である+Z方向に積層され、印刷面がXY平面に沿う。例えば、複数の媒体Mは、各々の印刷面の法線方向がZ軸に沿って積層される。
【0027】
媒体Mは、例えば、A4判やA3判の長方形であり、長手方向がX軸に沿ってスタッカー81に載置される。媒体Mには、例えば、普通紙、上質紙、再生紙、光沢紙、マット紙、および再生紙などの市販のプリンター用紙が適用される。
【0028】
複数の媒体Mは、スタッカー81内に重ねられて保持されるため、上下方向における下層から中層に比べて上層では雰囲気の影響を受け易い。詳しくは、下層から中層の媒体Mは、スタッカー81と接することに加えて、上方に上層の媒体Mが介在するため大気に暴露されず、吸湿が進行し難い。これに対して、最も上層の媒体Mは、スタッカー81の上方が開放されているため、大気に暴露されて吸湿が進行し易い。また、最上層より下方の上層の媒体Mにおいても、大気の影響が波及して吸湿が進行し易い。
【0029】
分離部31aは、スタッカー81に載置される複数の媒体Mを2つに分割する。分離部31aは、スタッカー81に載置される複数の媒体Mに対して、+X方向の端部に配置される。分離部31aは、主面がYZ平面に沿う略板状の部材である。
【0030】
分離部31aは、給紙部30の-X方向への移動と連動して、複数の媒体Mの一部と当接して-X方向へ押して移動させる。分離部31aの配置は、複数の媒体Mのうち、中層の一部から上層に対応する。すなわち、分離部31aは、複数の媒体Mの中層の一部から上層を-X方向へ移動させることが可能である。
【0031】
給紙ローラー32は、スタッカー81に載置された状態の媒体Mを、上記印刷部50に向けて供給する。給紙ローラー32は。略円柱状の部材であって、円柱の高さ方向がY軸に沿う。給紙ローラー32は、分離部31aの+X方向に配置される。給紙ローラー32は、上記給紙ローラー駆動モーター38の駆動によって、回転軸33を中心として回動する。
【0032】
ガイド部35は、給紙ローラー32によって送り出される媒体Mを案内する。媒体Mの移動方向は、ガイド部35によって、略+X方向から+X方向かつやや上向きに変更される。
【0033】
センサー60は、スタッカー81に載置される媒体Mの暴露状態を検出する。センサー60の下方の端部は、スタッカー81に載置される媒体Mの上方の面に接することが可能である。
【0034】
センサー60は、図示しないタイマー、温湿度計、および水分量計を含む。タイマーは、媒体Mがスタッカー81に載置されてからの大気への暴露時間などの履歴情報を取得する。温湿度計は、スタッカー81の周辺の大気である雰囲気の温湿度を計測する。水分量計は、例えば電極プローブを備える接触式の水分量計である。水分量計は、スタッカー81の最も上方の媒体Mに接触して、電気抵抗値から水分量を計測する。
【0035】
媒体Mの暴露状態は、温湿度、履歴情報、および水分量から把握される。詳しくは、媒体Mの暴露状態は、温湿度および履歴情報、履歴情報および水分量、または上記全ての情報全てから、上記制御部100によって把握される。
【0036】
戻し部71は、分離部31aによって分割された複数の媒体Mを元の一体に戻す。戻し部71は、スタッカー81に載置される複数の媒体Mに対して、-X方向の端部に配置される。戻し部71は、主面がYZ平面に沿う略板状の部材である。
【0037】
戻し部71は、給紙部30の+X方向への移動と連動して、複数の媒体Mの一部と当接して+X方向へ押して移動させる。戻し部71の配置は、複数の媒体Mのうち、中層の一部から上層に対応する。すなわち、分離部31aは、複数の媒体Mの中層の一部から上層を+X方向へ移動させることが可能である。分離部31aおよび戻し部71の機能の詳細については後述する。
【0038】
図3に示すように、分離部31aは、スタッカー81に載置される複数の媒体Mを、大気に暴露される第1層部L1と、第1層部L1よりも大気から離間する第2層部L2とに分離する。具体的には、分離部31aは、第1方向と交差する第2方向である+X方向から、第1層部L1に対応する積層される複数の媒体Mの一部に接触する。そして、分離部31aは、給紙部30ごと-X方向へ移動することによって、複数の媒体Mから第1層部L1を分離する。
【0039】
これにより、媒体Mの側方である+X方向の端部から、分離部31aが各媒体Mに接触するため、第1層部L1と第2層部L2とが分離される。分離部31aの移動と共に、給紙ローラー32、ガイド部35、センサー60、および戻し部71も-X方向へ移動する。
【0040】
給紙部30の-X方向への移動により、給紙ローラー32は、第2層部L2において最も上方の媒体Mの+X方向の端部の上面に当接する。これにより、給紙ローラー32は、第2層部L2の媒体Mを印刷部50へ向けて供給可能となる。
【0041】
スタッカー81の複数の媒体Mにおいて、第1層部L1として分離される媒体Mの枚数は、制御部100によって調整される。詳しくは、制御部100は、センサー60の検出結果である媒体Mの暴露状態に応じて、第1層部L1の媒体Mの枚数を制御する。
【0042】
制御部100は、上記暴露状態から、媒体Mの水分量が高いか、複数の媒体Mの吸湿が顕著であると判断した場合には、第1層部L1の媒体Mの枚数を増やす。また、制御部100は、暴露状態から、媒体Mの水分量が低いか、複数の媒体Mの吸湿が軽微であると判断した場合には、第1層部L1の媒体Mの枚数を減らす。このように、第1層部L1の媒体Mの枚数は、暴露状態に応じて適宜変更される。そのため、無駄となる媒体Mを低減して、効率的に媒体Mを使用することができる。
【0043】
なお、印刷装置1において、第1層部L1は所謂上層部であり、第2層部L2は所謂中下層部として説明したが、本発明の各層部の関係はこれに限定されない。複数の媒体Mの載置形態などに応じて、第1層部L1は大気に暴露され易い領域であればよく、第2層部L2は第1層部L1よりも大気に暴露され難い領域であればよい。すなわち、第1層部L1と第2層部L2とは、上下関係などの配置によって決まるものではない。
【0044】
図4に示すように、給紙ローラー32は反時計回りに回動する。これにより、給紙部30は、第1層部L1と分離された第2層部L2のうち最も上方の媒体M1を、上記印刷部50へ向けて供給する。第2層部L2の複数の媒体Mは、大気の影響を受け難く、吸湿が進行し難い。第2層部L2の複数の媒体Mは、上方と下方とで含まれる水分量の差が僅少である。そのため、第2層部L2の複数の媒体Mを用いて連続的に印刷を行うと、画質の遷移を抑えることができる。
【0045】
なお、第2層部L2の最も上方の媒体Mに接する水分量計を配置してもよい。該水分量計にて上記媒体Mの水分量を計測し、印刷条件を調整してもよい。また、上記媒体Mを用いてテスト印刷を実施して、テスト印刷の結果から印刷条件を調整してもよい。
【0046】
図5に示すように、印刷装置1の印刷動作が終了すると、戻し部71は給紙部30などと共に+X方向へ移動する。このとき、戻し部71は、第1層部L1の複数の媒体Mにおいて、-X方向の端部に接する。これにより、第1層部L1の複数の媒体Mは、戻し部71に押されて+X方向へ移動して、第2層部L2と一緒になる。すなわち、戻し部71は、分離された第1層部L1と第2層部L2とを合一する。
【0047】
第1層部L1と第2層部L2とを分離したままにすると、第2層部L2の媒体Mでも吸湿が進行する可能性がある。そこで、第1層部L1と第2層部L2とを合一して元に戻すことにより、第2層部L2の媒体Mの吸湿を抑えることができる。なお、第1層部L1の媒体Mは、印刷部50のノズルチェック印刷など、本来の印刷用途以外に使用してもよい。本発明の印刷装置は、上述した構成に限定されず、第1層部L1と第2層部L2とを分離可能であればよい。
【0048】
次に、本発明の分離部の別の形態について例示する。以下の各図では要部を拡大して示し、上記実施形態と同一の構成には同一の符号を付して説明は省略する。
【0049】
図6に示すように、印刷装置1は、上述した分離部31aに代えて分離部31bを備えてもよい。分離部31bは、媒体Mに接触する爪部Cを有する。+Z方向および-X方向と交差する第3の方向である+Y方向からの側面視にて、爪部Cの先端は尖形である。
【0050】
上記給紙部30の移動に連動して分離部31bが-X方向へ移動すると、複数の媒体Mの側面から爪部Cが差し込まれる。さらに分離部31bが-X方向へ移動すると、複数の媒体Mが第1層部L1と第2層部L2とに分離される。第1層部L1は、印刷終了後に、上記戻し部71によって第2層部L2と合一される。
【0051】
例えば、平板状の部材を側方から複数の媒体Mに押し当てて分離する場合には、媒体Mが滑るなどして分離し難くなる可能性がある。また、上記の構成であると、静電気などの影響によって所望の枚数で第1層部L1を分離することが難しくなる場合がある。これに対して、先端が尖った爪部Cが媒体Mと他の媒体Mとの間に差し込まれて、第1層部L1と第2層部L2とに分離される。そのため、第1層部L1の分離が着実になされると共に、+Z方向における所望の位置、すなわち所望の枚数にて第1層部L1を容易に分離することができる。
【0052】
図7に示すように、印刷装置1は、上述した分離部31aに代えて分離部31cを備えてもよい。分離部31cは、媒体Mに接触する側面に凹凸状の壁部Wを有する。分離部31cは、上記分離部31a,31bとは異なり、給紙部30を支持する支持部材において、Z軸に沿う方向へ移動が可能に支持される。
【0053】
壁部Wは、+Z方向と交差する+X方向から、スタッカー81の複数の媒体Mに接触する。このとき、複数の媒体Mの+X方向の端部は、壁部Wの複数の凹みへ挟まる状態となる。そして、図示しないモーターの駆動によって分離部31cが+Z方向へ移動すると、第1層部L1の複数の媒体Mの+X方向の端部が上方へ持ち上げられる。これによって、第1層部L1と第2層部L2とが分離される。
【0054】
なお、分離部31cを備える構成では、上記実施形態の戻し部71を省いてよい。この場合には、分離部31cが本発明の戻し部を兼ね、分離部31cを下方へ下げることにより第1層部L1と第2層部L2とを合一する。
【0055】
以上により、分離部31cが+Z方向へ移動して第1層部L1が分離される。このとき、積層される複数の媒体Mについて、層を分割する方向に分離部31cが動作する。そのため、第1層部L1と第2層部L2とを分離し易くなる。また、分離部31cが移動する方向が主にZ軸に沿う方向であることから、Z軸と交差する方向において分離部31cを小型化することが可能となる。これによって、印刷装置1の設置スペースを小さくすることができる。
【0056】
図8に示すように、印刷装置1は、上述した分離部31aに代えて分離部31dを備えてもよい。分離部31dは、スタッカー81に載置される複数の媒体Mの上方に配置される。分離部31dは、静電チャックであって、図示しない電極を有する。電極は、XY平面に沿い、スタッカー81の媒体Mと上下方向に対向して配置される。分離部31dは、電極にて被吸着体である媒体Mを吸着する。
【0057】
分離部31dは、上記分離部31a,31bとは異なり、給紙部30を支持する支持部材において、Z軸に沿う方向へ移動が可能に支持される。
【0058】
分離部31dは、+Z方向から-Z方向へ移動して複数の媒体Mを吸着する。次いで、分離部31dは+Z方向へ移動する。これにより、スタッカー81に載置される複数の媒体Mから、+Z方向へ第1層部L1が分離される。第1層部L1として分離される媒体Mの枚数は、静電チャックの吸着力、すなわち電極に印加される電圧によって調整される。なお、上記電圧の値および印加されるタイミングは、上述した制御部100によって制御される。
【0059】
なお、分離部31dを備える構成では、上記実施形態の戻し部71を省いてよい。この場合には、分離部31dが本発明の戻し部を兼ね、電極への電圧の印加を止めることにより、第1層部L1と第2層部L2とを合一する。
【0060】
以上により、静電吸着にて第1層部L1を分離するため、部材などを当接させて分離する方式と比べて、媒体Mの変形を抑えることができる。また、分離部31dが動作する方向がZ軸に沿う方向であるため、Z軸と交差する方向において分離部31dを小型化することが可能となる。これにより、印刷装置1の設置スペースを小さくすることができる。
【0061】
本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0062】
複数の媒体Mの連続印刷において、印刷物の画質を向上させることができる。詳しくは、第1層部L1は大気に暴露されるため、媒体Mの吸湿が進行し易い。これに対して、第2層部L2では第1層部L1が大気との間に介在するため、媒体Mの吸湿が進行し難い。すなわち、第2層部L2の複数の媒体Mには水分量の差が生じ難い。これにより、第2層部L2の媒体Mを用いて連続的に印刷を行っても画質が遷移し難く、画質が向上する。したがって、連続印刷において印刷物の画質を向上させる印刷装置1を提供することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…印刷装置、30…給紙部、31a,31b,31c,31d…分離部、50…印刷部、60…センサー、71…戻し部、81…スタッカー、100…制御部、C…爪部、L1…第1層部、L2…第2層部、M,M1…媒体、W…壁部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8