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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136674
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20240927BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240927BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20240927BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/00 134
B41M5/00 120
B41J2/01 125
B41J2/01 123
C09D11/322
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047860
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】加賀田 尚義
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正和
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FD13
2C056HA44
2C056HA46
2C056KD10
2H186AB10
2H186AB17
2H186AB23
2H186AB33
2H186AB44
2H186AB46
2H186AB47
2H186AB54
2H186AB57
2H186BA11
2H186DA09
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB54
2H186FB56
4J039AE04
4J039BC07
4J039BE01
4J039CA06
4J039EA36
4J039EA42
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インクジェット法を用いて、製造装置の大型化を抑制しつつ、風合いおよび洗濯堅牢性に優れた記録物を安定的に製造することができる記録方法を提供すること。
【解決手段】本発明の記録方法は、剥離層を有する転写媒体にインクジェットヘッドから顔料および水を含む顔料インクを吐出して第1の層を形成する工程と、インクジェットヘッドから処理液を吐出して第1の層と重なるように第2の層を形成する工程と、転写媒体の第1の層および第2の層が形成された面を、吸収性の被転写媒体と対向させた状態で加熱することにより、第1の層および第2の層を被転写媒体に熱転写する工程とを有し、顔料インク中における樹脂の含有量が15.0質量%以下であり、処理液が樹脂と水とを含むものであり、処理液を吐出する際の第1の層の乾燥率が0%以上80%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離層を有する転写媒体にインクジェットヘッドから顔料および水を含む顔料インクを吐出して第1の層を形成する第1の層形成工程と、
インクジェットヘッドから処理液を吐出して前記第1の層と重なるように第2の層を形成する第2の層形成工程と、
前記転写媒体の前記第1の層および前記第2の層が形成された面を、吸収性の被転写媒体と対向させた状態で加熱することにより、前記第1の層および前記第2の層を前記被転写媒体に熱転写する熱転写工程とを有し、
前記顔料インク中における樹脂の含有量は15.0質量%以下であり、
前記処理液は、樹脂と水とを含むものであり、
前記処理液を吐出する際の前記第1の層の乾燥率が0%以上80%以下である、記録方法。
【請求項2】
前記処理液に含まれる前記樹脂は、ポリエステル、ポリウレタンおよびポリ塩化ビニルよりなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の記録方法。
【請求項3】
前記処理液中に含まれる前記樹脂のガラス転移温度は、-20℃以上50℃以下である、請求項1または2に記載の記録方法。
【請求項4】
前記処理液中に含まれる前記樹脂の融点は、80℃以上140℃以下である、請求項1または2に記載の記録方法。
【請求項5】
前記処理液中における前記樹脂の含有量が5.0質量%以上20.0質量%以下である、請求項1または2に記載の記録方法。
【請求項6】
前記処理液は、沸点が280℃以上の有機溶媒を含まないものである、請求項1または2に記載の記録方法。
【請求項7】
前記顔料インクは、ガラス転移温度が-40℃以上0℃以下の樹脂を含むものである、請求項1または2に記載の記録方法。
【請求項8】
前記顔料インクは、沸点が280℃以上の有機溶媒を含むものである、請求項1または2に記載の記録方法。
【請求項9】
前記被転写媒体は、布帛または皮革である、請求項1または2に記載の記録方法。
【請求項10】
剥離層を有する転写媒体にインクジェットヘッドから、顔料、ガラス転移温度が-40℃以上0℃以下の樹脂、沸点が280℃以上の有機溶媒、および、水を含む顔料インクを吐出して第1の層を形成する第1の層形成工程と、
インクジェットヘッドから処理液を吐出して前記第1の層と重なるように第2の層を形成する第2の層形成工程と、
前記転写媒体の前記第1の層および前記第2の層が形成された面を、吸収性の被転写媒体である布帛または皮革と対向させた状態で加熱することにより、前記第1の層および前記第2の層を前記被転写媒体に熱転写する熱転写工程とを有し、
前記顔料インク中における前記樹脂の含有量は2.0質量%以上15.0質量%以下であり、
前記処理液は、ガラス転移温度が-20℃以上50℃以下であり、かつ、融点が80℃以上140℃以下である樹脂と、水とを含み、かつ、沸点が280℃以上の有機溶媒を含まないものであり、
前記処理液に含まれる前記樹脂は、ポリエステル、ポリウレタンおよびポリ塩化ビニルよりなる群から選択される1種以上であり、
前記処理液中における前記樹脂の含有量が5.0質量%以上20.0質量%以下であり、
前記処理液を吐出する際の前記第1の層の乾燥率が0%以上80%以下である、記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像を形成した転写媒体である転写シートを布地等の被転写媒体に重ね合わせ、加熱加圧することで画像を被転写媒体に転写する転写印刷方法が知られている。このような方法では、転写シートに画像を形成する際に、微細な画像を高いオンデマンド性で形成するうえで有利であることから、インクジェット法が用いられることが多い。また、布帛、皮革等の吸収性の被転写媒体を用いた場合には、洗濯堅牢性も求められる。
【0003】
上記のような転写印刷方法では、基材の全面に剥離層およびホットメルト層が形成された転写シートに画像を形成した後、この転写シートを被転写媒体に加熱加圧して転写する方法が一般的である。
【0004】
しかし、このような方法を用いて製造される記録物では、ホットメルト層が画像とともに前記被転写媒体へ転写されて、画像以外の部分にもホットメルト層が被転写媒体に形成されてしまい、被転写媒体が有している風合いが損なわれるという問題があった。特に、記録物が被服であるような場合には着用者に不快感を与えやすいという問題がある。
【0005】
上記のような課題を解決する目的で、転写シートの表面に顔料を含むインクで画像を形成した後、転写シートの表面に加熱溶融性の粉体を振りかけインクの表面の全体に隙間なく粉体を付着させ、非画像形成部分の粉体を除去し被転写媒体である被転写物に転写シートを重ね合わせ、画像形成部分を粉体が溶融する温度で加熱加圧することで、転写シートの画像を被転写物に転写する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-171840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような方法によれば、全面にホットメルト層が設けられた転写シートを用いる方法に比べてやや改善するものの、依然として満足のいく風合いは得られない。また、このような方法では、インクジェット法により転写シートに画像を形成する画像形成装置や、加熱・加圧により画像を転写する転写装置に加えて、さらに、粉体を手作業で振りかけたり、粉体を振りかける装置を設置したりするための空間が必要であり、記録物を製造するための空間が大きくなるという問題があった。また、転写シートに振りかけた粉体のうち画像に付着していないものを振り落としたり、吸引除去したりする等の工程が必要となり、記録物の生産性を高めることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することができる。
【0009】
本発明の適用例に係る記録方法は、剥離層を有する転写媒体にインクジェットヘッドから顔料および水を含む顔料インクを吐出して第1の層を形成する第1の層形成工程と、
インクジェットヘッドから処理液を吐出して前記第1の層と重なるように第2の層を形成する第2の層形成工程と、
前記転写媒体の前記第1の層および前記第2の層が形成された面を、吸収性の被転写媒体と対向させた状態で加熱することにより、前記第1の層および前記第2の層を前記被転写媒体に熱転写する熱転写工程とを有し、
前記顔料インク中における樹脂の含有量は15.0質量%以下であり、
前記処理液は、樹脂と水とを含むものであり、
前記処理液を吐出する際の前記第1の層の乾燥率が0%以上80%以下である。
【0010】
本発明の他の適用例に係る記録方法は、剥離層を有する転写媒体にインクジェットヘッドから、顔料、ガラス転移温度が-40℃以上0℃以下の樹脂、沸点が280℃以上の有機溶媒、および、水を含む顔料インクを吐出して第1の層を形成する第1の層形成工程と、
インクジェットヘッドから処理液を吐出して前記第1の層と重なるように第2の層を形成する第2の層形成工程と、
前記転写媒体の前記第1の層および前記第2の層が形成された面を、吸収性の被転写媒体である布帛または皮革と対向させた状態で加熱することにより、前記第1の層および前記第2の層を前記被転写媒体に熱転写する熱転写工程とを有し、
前記顔料インク中における前記樹脂の含有量は2.0質量%以上15.0質量%以下であり、
前記処理液は、ガラス転移温度が-20℃以上50℃以下であり、かつ、融点が80℃以上140℃以下である樹脂と、水とを含み、かつ、沸点が280℃以上の有機溶媒を含まないものであり、
前記処理液に含まれる前記樹脂は、ポリエステル、ポリウレタンおよびポリ塩化ビニルよりなる群から選択される1種以上であり、
前記処理液中における前記樹脂の含有量が5.0質量%以上20.0質量%以下であり、
前記処理液を吐出する際の前記第1の層の乾燥率が0%以上80%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の記録方法の好適な実施形態を示す工程図である。
図2図2は、調製例A1~A5の顔料インクの組成を示す表である。
図3図3は、調製例B1~B5の処理液の組成を示す表である。
図4図4は、実施例1~12の記録方法の条件をまとめて示す表である。
図5図5は、実施例13~19、比較例1~4の記録方法の条件をまとめて示す表である。
図6図6は、実施例1~12の評価結果をまとめて示す表である。
図7図7は、実施例13~19、比較例1~4の評価結果をまとめて示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]記録方法
まず、本発明の記録方法について説明する。
図1は、本発明の記録方法の好適な実施形態を示す工程図である。
【0013】
本発明の記録方法は、剥離層12を有する転写媒体1にインクジェットヘッド50から顔料および水を含む顔料インク2’を吐出して第1の層2を形成する第1の層形成工程(1a)と、インクジェットヘッド50’から処理液3’を吐出して第1の層2と重なるように第2の層3を形成する第2の層形成工程(1b)と、転写媒体1の第1の層2および第2の層3が形成された面を、吸収性の被転写媒体5と対向させた状態で加熱することにより、第1の層2および第2の層3を被転写媒体5に熱転写する熱転写工程(1c)とを有する。そして、顔料インク2’中における樹脂の含有量は15.0質量%以下であり、処理液3’は、樹脂と水とを含むものであり、処理液3’を吐出する際の第1の層2の乾燥率が0%以上80%以下である。
【0014】
このような構成により、インクジェット法を用いて、製造装置の大型化を抑制しつつ、風合い、記録部4の発色性および洗濯堅牢性に優れた記録物100を安定的に製造することができる記録方法を提供することができる。また、水および顔料を含む顔料インク2’を用いることにより、例えば、家庭用に広く普及している小型かつ安価な水系顔料インク用インクジェット記録装置を活用することができ、低コストで簡便な記録方法とするうえで特に有利である。
【0015】
このような優れた効果が得られるのは、以下のような理由による。すなわち、本発明の記録方法によれば、粉体を振りかける必要がなく、また、過剰な粉体を除去する必要がないので、狭スペースで、優れた生産性で記録物を製造することができる。また、顔料を用いるので、発色性に優れた記録部を好適に形成することができる。また、本発明では、顔料インクを用いて形成された第1の層が過剰に乾燥する前に、当該第1の層と重なり合うように、樹脂と水とを含む処理液を付与して、第2の層を形成することにより、被転写媒体に形成される記録部は、顔料と樹脂とが適度に混合した状態のものとなり、被転写媒体への転写時に、顔料と樹脂とを含む混合物の一部が、吸収性の被転写媒体の内部に好適に浸透しやすくなる。このようなことから、転写後の記録部は、被転写媒体との密着性に優れ、洗濯堅牢性に優れたものとなるとともに、製造される記録物の風合いも優れたものとなる。また、顔料インク中の樹脂の含有量が所定値以下であることにより、インクジェット法による吐出安定性に優れ、インクジェットヘッドのノズル詰まりが抑制されるので、ノズル詰まり解消のためのメンテナンスの手間が軽減され、優れた記録物を安定的に生産することができ、記録物の生産性を向上させることができる。また、インクジェットヘッドのノズル詰まりが発生した場合でも、クリーニング等により、好適に回復することができる。
【0016】
これに対し、上記の条件を満たさない場合は、満足のいく結果が得られない。
例えば、顔料の代わりに染料を用いた場合には、記録部の発色性を十分に優れたものとすることができない。
【0017】
また、処理液の代わりにホットメルト樹脂で構成された粉体を用いた場合には、記録物の製造装置の大型化、記録物の製造スペースの増大を招くとともに、記録物の生産性が低下する。また、製造される記録物の風合いを十分に優れたものとすることができない。なお、本明細書において、ホットメルト樹脂とは、融点が100℃以上160℃以下でかつガラス転移温度が0℃以上50℃以下の樹脂のことを指す。
【0018】
また、顔料インク中における樹脂の含有量が多すぎると、インクジェット法による顔料インクの吐出安定性が低下し、記録物を安定的に製造することが困難となる。また、製造される記録物の風合いが低下する。
【0019】
また、処理液を吐出する際の第1の層の乾燥率が高すぎると、被転写媒体に対する記録部の密着性を十分に優れたものとすることができず、記録物の洗濯堅牢性が劣ったものとなる。
【0020】
なお、本発明において、吸収性の被転写媒体とは、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m超である被転写媒体のことを指す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」に述べられている。
【0021】
また、本発明において、第1の層の乾燥率とは、当該第1の層の形成に用いた顔料インク中に含まれる全液体成分のうち乾燥により除去されたものの割合を指す。このような乾燥率は、顔料インクが付着した転写媒体の質量を測定することにより求めることができる。
【0022】
[1-1]第1の層形成工程
第1の層形成工程では、剥離層12を有する転写媒体1に、インクジェットヘッド50から顔料および水を含む顔料インク2’を吐出して第1の層2を形成する(1a)。
【0023】
[1-1-1]転写媒体
転写媒体1は、剥離層12を有するものであればいかなるものであってもよいが、本実施形態では、基材11と剥離層12とを有するものである。
これにより、転写媒体1の取扱性がより優れたものとなる。
【0024】
転写媒体1の形状は、特に限定されないが、シート状のものが好適に用いられる。これにより、インクジェット法による第1の層2、第2の層3の形成をより好適に行うことができる。
【0025】
基材11の構成材料としては、例えば、紙、プラスチック材料、金属材料等が挙げられる。
【0026】
基材11を構成するプラスチック材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン等が挙げられる。
【0027】
基材11は、いかなる形状のものであってもよいが、シート状であるのが好ましい。
基材11がシート状である場合、基材11の厚さは、50μm以上200μm以下であるのが好ましい。
【0028】
剥離層12は、離型性を有する層である。転写媒体1が剥離層12を有することにより、熱転写工程後に、第1の層2、第2の層3の構成材料が転写媒体1上に不本意に残存することを好適に防止することができる。
【0029】
剥離層12の構成材料としては、例えば、ポリエチレンワックス系離型剤、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤等が挙げられる。
【0030】
剥離層12の厚さは、特に限定されないが、5μm以上80μm以下であるのが好ましく、10μm以上50μm以下であるのがより好ましい。
【0031】
[1-1-2]顔料インク
顔料インク2’は、顔料および水を含むものである。
そして、顔料インク2’中における樹脂の含有量は、15.0質量%以下である。
【0032】
このように、顔料インク2’中における樹脂の含有量が十分に少ないことにより、インクジェット法による顔料インク2’の吐出安定性を優れたものとすることができ、記録物100を安定的に製造することができる。また、製造される記録物100の風合いを優れたものとすることができる。
【0033】
[1-1-2-1]顔料
顔料インク2’中に含まれる顔料としては、各種の無機顔料や有機顔料を用いることができる。顔料としては、2種以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
無機顔料としては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック類、酸化鉄、酸化チタン等が挙げられる。
【0035】
有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等の染料キレート、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染色レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等が挙げられる。
【0036】
さらに詳しくは、黒色の顔料として使用されるカーボンブラックとしては、例えば、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン社製)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(以上、キャボット社製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ社製)等が挙げられる。
【0037】
白色の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21等が挙げられる。
【0038】
黄色の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180等が挙げられる。
【0039】
紅紫色の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、またはC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられる。
【0040】
藍紫色の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バット ブルー 4、60等が挙げられる。
【0041】
また、前記以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7、10、C.I.ピグメントブラウン 3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63等が挙げられる。
【0042】
顔料インク2’は、顔料として、自己分散顔料を含んでいてもよい。
自己分散顔料は、その顔料表面に親水基を有する自己分散顔料であり、その親水基としては、例えば、-OM、-COOM、-CO-、-SOM、-SOM、-SONH、-RSOM、-POHM、-PO、-SONHCOR、-NH、-NR等が挙げられる。なお、式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、または有機アンモニウムを表し、Rは、炭素原子数が1以上12以下のアルキル基または置換基を有していてもよいナフチル基を表す。また、顔料表面と前記親水基との間には、例えば、フェニル基が存在していてもよい。
【0043】
自己分散顔料は、例えば、顔料に物理的処理または化学的処理を施すことで、親水基を顔料の表面に結合させることにより製造することができる。このような物理的処理としては、例えば、真空プラズマ処理等が挙げられる。また、化学的処理としては、例えば、水中で酸化剤により酸化する湿式酸化法等が挙げられる。
【0044】
また、自己分散顔料としては、例えば、次亜ハロゲン酸および/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、オゾンによる酸化処理、または過硫酸および/または過硫酸塩による酸化処理により表面処理された自己分散顔料が、高発色という点で好ましい。また、自己分散顔料としては、市販品を利用することも可能であり、好ましい例としては、マイクロジェットCW1(オリヱント化学工業社製)、CAB-O-JET250C、CAB-O-JET260M、CAB-O-JET270Y、CAB-O-JET444MP(以上、キャボット社製)等が挙げられる。
【0045】
顔料インク2’中における顔料の含有量は、特に限定されないが、1.0質量%以上25.0質量%以下であるのが好ましく、2.0質量%以上20.0質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以上15.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0046】
これにより、顔料インク2’を用いて形成される記録部4において、十分な色濃度を確保しやすくなり、被転写媒体での発色性をより優れたものとすることができるとともに、顔料インク2’の保存安定性、インクジェット法による吐出安定性、インクジェットヘッドにおける目詰まり回復性等をより優れたものとすることができる。
【0047】
[1-1-2-2]水
顔料インク2’は、水を含んでいる。
水は、顔料インク2’中において、顔料を分散する分散媒として機能する成分である。
【0048】
顔料インク2’中における水の含有量は、50.0質量%以上75.0質量%以下であるのが好ましく、52.0質量%以上70.0質量%以下であるのがより好ましく、54.0質量%以上65.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0049】
[1-1-2-3]有機溶媒
顔料インク2’は、有機溶媒を含んでいてもよい。
【0050】
これにより、顔料インク2’の粘度、表面張力を好適に調整することができる。また、例えば、顔料インク2’の保湿性が優れたものとなり、インクジェットヘッド等での乾燥等により、顔料インク2’の固形分が不本意に析出してしまうこと等がより効果的に防止され、目詰まり回復性もより優れたものとすることができ、顔料インク2’の吐出安定性をより優れたものとすることができる。
【0051】
有機溶媒としては、水溶性有機溶媒が好ましく用いられる。
このような水溶性有機溶媒としては、25℃における水に対する溶解度が10g/100g水以上の有機溶媒を好適に用いることができる。
【0052】
特に、顔料インク2’は、沸点が280℃以上の有機溶媒を含むものであるのが好ましい。
【0053】
これにより、顔料インク2’の保湿性をより優れたものとすることができ、処理液3’を吐出する際の第1の層2の乾燥率が前述した条件を満たしやすくなる。
【0054】
顔料インク2’中に含まれる有機溶媒、特に、水溶性有機溶媒としては、例えば、ポリオール化合物、グリコールエーテル、環状アミド化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
ポリオール化合物としては、例えば、分子内の炭素数が2以上6以下であり、かつ、分子内にエーテル結合を1つ有してもよいポリオール化合物、好ましくはジオール化合物等が挙げられる。具体例としては、1,2-ペンタンジオール、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-3-フェノキシ-1,2-プロパンジオール、3-(3-メチルフェノキシ)-1,2-プロパンジオール、3-ヘキシルオキシ-1,2-プロパンジオール、2-ヒドロキシメチル-2-フェノキシメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール等のグリコール類が挙げられる。
【0056】
グリコールエーテルとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールから選択されるグリコールのモノアルキルエーテルが挙げられる。前記モノアルキルエーテルとしては、例えば、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられる。
【0057】
環状アミド化合物としては、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、2-ピペリドン(δ-バレロラクタム)、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0058】
顔料インク2’中における有機溶媒の含有量は、5.0質量%以上35.0質量%以下であるのが好ましく、10.0質量%以上30.0質量%以下であるのがより好ましく、15.0質量%以上25.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0059】
これにより、顔料インク2’の粘度、表面張力をより好適に調整することができる。また、顔料インク2’の保湿性がより優れたものとなり、インクジェットヘッド等での乾燥等により、顔料インク2’の固形分が不本意に析出してしまうこと等がより効果的に防止され、目詰まり回復性もより優れたものとすることができ、顔料インク2’の吐出安定性をより優れたものとすることができる。また、処理液3’を吐出する際の第1の層2の乾燥率が前述した条件を満たしやすくなる。
【0060】
[1-1-2-4]樹脂
顔料インク2’は、樹脂を含んでいてもよい。
【0061】
これにより、例えば、顔料を含む記録部4の被転写媒体5に対する密着性をより優れたものとすることができる。また、顔料インク2’中における顔料の分散安定性をより優れたものとすることができる。
【0062】
ただし、顔料インク2’中における樹脂の含有量は、15.0質量%以下である。
【0063】
これにより、インクジェット法による顔料インク2’の吐出安定性を十分に優れたものとし、記録物100を安定的に製造することができる。また、製造される記録物100の風合いを優れたものとすることができる。
【0064】
顔料インク2’中における樹脂の含有量は、15.0質量%以下であればよく、顔料インク2’は樹脂を含まないものであってもよいが、顔料インク2’中における樹脂の含有量は、2.0質量%以上13.0質量%以下であるのが好ましく、4.0質量%以上12.0質量%以下であるのがより好ましく、7.0質量%以上11.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0065】
これにより、インクジェット法による顔料インク2’の吐出安定性、記録物100の製造の安定性、記録物100の風合いを十分に優れたものとしつつ、顔料インク2’中における顔料の分散安定性や記録部4の被転写媒体5に対する密着性をさらに優れたものとすることができる。
【0066】
顔料インク2’が、樹脂を含むものである場合、顔料インク2’中における樹脂の形態は、特に限定されない。例えば、顔料インク2’中において、樹脂は、例えば、分散状態で含まれていてもよいし、溶解状態で含まれていてもよいが、分散状態で含まれているのが好ましい。
【0067】
これにより、インクジェット法による顔料インク2’の吐出安定性をより優れたものとすることができ、記録物100をより安定的に製造することができる。
【0068】
顔料インク2’中において樹脂が分散状態で含まれる場合、当該樹脂の平均粒径は、30nm以上3μm以下であるのが好ましく、50nm以上1μm以下であるのがより好ましく、60nm以上300nm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0069】
なお、本明細書において、平均粒径とは、体積基準の平均粒径を言い、例えば、サンプルをメタノールに添加し、超音波分散器で3分間分散した分散液をコールターカウンター法粒度分布測定器(COULTER ELECTRONICS INS製TA-II型)にて、50μmのアパチャーを用いて測定することにより求めることができる。
【0070】
顔料インク2’中に含まれる樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、スチレンアクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、ポリウレタンが好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0071】
顔料インク2’中に含まれる樹脂のガラス転移温度は、-40℃以上0℃以下であるのが好ましく、-35℃以上-5℃以下であるのがより好ましく、-30℃以上-10℃以下であるのがさらに好ましい。
【0072】
これにより、製造される記録物100の風合いや洗濯堅牢性等をより優れたものとすることができる。
【0073】
顔料インク2’中における、樹脂の含有量をXR[質量%]、顔料の含有量をXP[質量%]としたとき、0.2≦XR/XP≦1.8の関係を満たすのが好ましく、0.6≦XR/XP≦1.5の関係を満たすのがより好ましく、0.8≦XR/XP≦1.2の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0074】
これにより、顔料インク2’を用いて形成される記録部4において、十分な色濃度を確保しやすくなり、被転写媒体での発色性をより優れたものとすることができるとともに、顔料インク2’の保存安定性、インクジェット法による吐出安定性、インクジェットヘッドにおける目詰まり回復性等をより優れたものとすることができる。また、記録物100の風合い、記録部4の被転写媒体5に対する密着性をより優れたものとすることができる。
【0075】
[1-1-2-5]界面活性剤
顔料インク2’は、界面活性剤を含んでいてもよい。
【0076】
界面活性剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等の各種界面活性剤を用いることができる。
【0077】
顔料インク2’が界面活性剤を含むものである場合、顔料インク2’中における界面活性剤の含有量は、0.02質量%以上1.50質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以上1.00質量%以下であるのがより好ましく、0.10質量%以上0.70質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0078】
[1-1-2-6]その他の成分
顔料インク2’は、前述した成分以外の成分を含んでいてもよい。以下、この項目内において、このような成分を「その他の成分」ともいう。
【0079】
その他の成分としては、例えば、キレート化剤;防腐剤;防かび剤;防錆剤;防炎剤;各種分散剤;トリエタノールアミン等のpH調整剤;染料;酸化防止剤;紫外線吸収剤;酸素吸収剤;溶解助剤;浸透剤等が挙げられる。
【0080】
キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸塩等が挙げられる。また、防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2-ジベンゾイソチアゾリン-3-オン、4-クロロ-3-メチルフェノール等が挙げられる。また、防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0081】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、分子内にイソチアゾリン環構造を有する化合物を好適に用いることができる。
【0082】
顔料インク2’中におけるその他の成分の含有量は、6.0質量%以下であるのが好ましく、5.0質量%以下であるのがより好ましい。
なお、その他の成分の含有量の下限は、0質量%である。
【0083】
[1-1-2-7]その他の条件
顔料インク2’の25℃における粘度は、2mPa・s以上10mPa・s以下であるのが好ましく、3mPa・s以上8mPa・s以下であるのがより好ましい。
【0084】
これにより、インクジェットヘッドのノズルの目詰まり等がより生じにくくなり、顔料インク2’の吐出安定性がより向上する。また、ノズルの目詰まりを生じた場合でも、ノズルにキャップをすることによる回復性をより優れたものとすることができる。
【0085】
なお、粘度は、振動式粘度計、回転式粘度計、細管式粘度計、落球式粘度計により測定して求めることができる。例えば、振動式粘度計としては、JIS Z8809に準拠した測定により求めることができる。
【0086】
顔料インク2’の25℃における表面張力は、特に限定されないが、20mN/m以上60mN/m以下であるのが好ましく、25mN/m以上50mN/m以下であるのがより好ましく、27mN/m以上40mN/m以下であるのがさらに好ましい。
【0087】
これにより、インクジェットヘッドのノズルの目詰まり等がより生じにくくなり、顔料インク2’の吐出安定性がより向上する。また、ノズルの目詰まりを生じた場合でも、ノズルにキャップをすることによる回復性をより優れたものとすることができる。
【0088】
なお、表面張力としては、ウィルヘルミー法、もしくはリング法により測定した値を採用することができる。表面張力の測定は、表面張力計(例えば、協和界面科学社製、DY-300、DY-500、DY-700等)を用いることができる。
【0089】
[1-1-3]インクジェット法による吐出について
第1の層2は、インクジェット法により、剥離層12を有する転写媒体1に顔料インク2’を吐出することにより形成される。より具体的には、顔料インク2’は、転写媒体1の剥離層12に接触するように吐出される。
【0090】
インクジェット法としては、例えば、荷電偏向方式、コンティニュアス方式、ピエゾ式、バブルジェット(登録商標)式等のオンデマンド方式等が挙げられるが、特に、ピエゾ振動子を用いたインクジェットヘッドより吐出するピエゾ式であるのが好ましい。
【0091】
これにより、インクジェットヘッド50内での顔料インク2’の構成成分の不本意な変性等をより効果的に防止し、インクジェット法による吐出安定性をより優れたものとすることができる。
【0092】
また、インクジェットヘッド50としては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。
【0093】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、転写媒体1の記録幅以上の幅を有するインクジェットヘッドを記録装置に固定する。そして、転写媒体1を副走査方向(転写媒体1の搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッド50のノズルからインク滴を吐出させることにより、転写媒体1上に第1の層2を形成する。
【0094】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、例えば、転写媒体1の幅方向に移動可能なキャリッジにインクジェットヘッド50を搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(転写媒体1の幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッド50であるシリアルヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、転写媒体1上に第1の層2を形成する。
【0095】
本工程では、被転写媒体5に形成されるべき記録部4の反転画像として第1の層2を形成する。
【0096】
本工程では、複数種の顔料インク2’を用いてもよい。例えば、異なる色調の複数種の顔料インク2’、より具体的には、黒色インク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクを用いてもよい。
【0097】
[1-2]第2の層形成工程
第2の層形成工程では、インクジェットヘッド50’から処理液3’を吐出して、転写媒体1に形成された第1の層2と重なるように第2の層3を形成する(1b)。
【0098】
[1-2-1]処理液
処理液3’は、第2の層3の形成に用いられるものであり、樹脂と水とを含んでいる。
【0099】
[1-2-1-1]樹脂
処理液3’は、樹脂を含んでいる。
【0100】
これにより、記録部4の被転写媒体5に対する密着性を優れたものとすることができ、製造される記録物100の洗濯堅牢性を優れたものとすることができる。
【0101】
処理液3’に含まれる樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、スチレンアクリル樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、ポリエステル、ポリウレタンおよびポリ塩化ビニルよりなる群から選択される1種以上であるのが好ましく、ポリウレタンであるのがより好ましい。
【0102】
これにより、記録物100の風合いと洗濯堅牢性とをより高いレベルで両立することができる。
【0103】
処理液3’中における樹脂の形態は、特に限定されない。例えば、処理液3’中において、樹脂は、例えば、分散状態で含まれていてもよいし、溶解状態で含まれていてもよいが、分散状態で含まれているのが好ましい。
【0104】
これにより、インクジェット法による顔料インク2’の吐出安定性をより優れたものとすることができ、記録物100をより安定的に製造することができる。また、第2の層3や記録部4において、不本意に液体成分が残存することをより効果的に防止することができる。
【0105】
処理液3’において樹脂が分散状態で含まれる場合、当該樹脂の平均粒径は、30nm以上3μm以下であるのが好ましく、50nm以上1μm以下であるのがより好ましく、60nm以上300nm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0106】
処理液3’中に含まれる樹脂のガラス転移温度は、-20℃以上50℃以下であるのが好ましく、-10℃以上45℃以下であるのがより好ましく、0℃以上40℃以下であるのがさらに好ましい。
【0107】
これにより、記録物100の風合いと洗濯堅牢性とをより高いレベルで両立することができる。
【0108】
処理液3’中に含まれる樹脂の融点は、80℃以上140℃以下であるのが好ましく、85℃以上130℃以下であるのがより好ましく、90℃以上120℃以下であるのがさらに好ましい。
【0109】
これにより、記録物100の風合いと洗濯堅牢性とをより高いレベルで両立することができる。
【0110】
処理液3’中における樹脂の含有量は、5.0質量%以上20.0質量%以下であるのが好ましく、6.0質量%以上17.0質量%以下であるのがより好ましく、7.0質量%以上15.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0111】
これにより、記録物100の風合いと洗濯堅牢性とをより高いレベルで両立することができる。
【0112】
[1-2-1-2]水
処理液3’は、水を含んでいる。
【0113】
水は、処理液3’中において、例えば、樹脂を分散する分散媒または溶解する溶媒として機能する成分である。
【0114】
処理液3’中における水の含有量は、50.0質量%以上85.0質量%以下であるのが好ましく、55.0質量%以上80.0質量%以下であるのがより好ましく、60.0質量%以上75.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0115】
[1-2-1-3]有機溶媒
処理液3’は、有機溶媒を含んでいてもよい。
【0116】
これにより、処理液3’の粘度、表面張力を好適に調整することができる。また、例えば、処理液3’の保湿性が優れたものとなり、インクジェットヘッド等での乾燥等により、処理液3’の固形分が不本意に析出してしまうこと等がより効果的に防止され、目詰まり回復性もより優れたものとすることができ、処理液3’の吐出安定性をより優れたものとすることができる。
【0117】
ただし、処理液3’は、沸点が280℃以上の有機溶媒を含まないものであるのが好ましい。
【0118】
これにより、処理液3’を用いて形成される第2の層3の乾燥性が向上し、転写媒体1からの第1の層2および第2の層3を有する積層体の剥離性が向上する。
【0119】
有機溶媒としては、水溶性有機溶媒が好ましく用いられる。
【0120】
このような水溶性有機溶媒としては、25℃における水に対する溶解度が10g/100g水以上の有機溶媒を好適に用いることができる。
【0121】
顔料インク2’中に含まれる有機溶媒、特に、水溶性有機溶媒としては、例えば、ポリオール化合物、グリコールエーテル、環状アミド化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0122】
ポリオール化合物としては、例えば、分子内の炭素数が2以上6以下であり、かつ、分子内にエーテル結合を1つ有してもよいポリオール化合物、好ましくはジオール化合物等が挙げられる。具体例としては、1,2-ペンタンジオール、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-3-フェノキシ-1,2-プロパンジオール、3-(3-メチルフェノキシ)-1,2-プロパンジオール、3-ヘキシルオキシ-1,2-プロパンジオール、2-ヒドロキシメチル-2-フェノキシメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール等のグリコール類が挙げられる。
【0123】
グリコールエーテルとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールから選択されるグリコールのモノアルキルエーテルが挙げられる。前記モノアルキルエーテルとしては、例えば、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられる。
【0124】
環状アミド化合物としては、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、2-ピペリドン(δ-バレロラクタム)、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0125】
特に、処理液3’は、有機溶媒として、プロピレングリコールを含んでいるのが好ましい。
【0126】
これにより、乾燥性が向上し、加熱したときの樹脂の硬化が進みやすくなり、堅牢性が向上する。
【0127】
特に、処理液3’がプロピレングリコールを含むものである場合、処理液3’中に含まれる全有機溶媒中に占めるプロピレングリコールの割合は、50質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上であるのがより好ましく、80質量%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0128】
処理液3’中における有機溶媒の含有量は、5.0質量%以上35.0質量%以下であるのが好ましく、7.0質量%以上30.0質量%以下であるのがより好ましく、10.0質量%以上25.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0129】
これにより、処理液3’の粘度、表面張力をより好適に調整することができる。また、処理液3’の保湿性がより優れたものとなり、インクジェットヘッド等での乾燥等により、処理液3’の固形分が不本意に析出してしまうこと等がより効果的に防止され、目詰まり回復性もより優れたものとすることができ、処理液3’の吐出安定性をより優れたものとすることができる。
【0130】
[1-2-1-4]界面活性剤
処理液3’は、界面活性剤を含んでいてもよい。
【0131】
界面活性剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等の各種界面活性剤を用いることができる。
【0132】
処理液3’が界面活性剤を含むものである場合、顔料インク2’中における界面活性剤の含有量は、0.02質量%以上1.50質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以上1.00質量%以下であるのがより好ましく、0.10質量%以上0.70質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0133】
[1-2-1-5]その他の成分
処理液3’は、前述した成分以外の成分を含んでいてもよい。以下、この項目内において、このような成分を「その他の成分」ともいう。
【0134】
その他の成分としては、例えば、キレート化剤;防腐剤;防かび剤;防錆剤;防炎剤;各種分散剤;トリエタノールアミン等のpH調整剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;酸素吸収剤;溶解助剤;浸透剤等が挙げられる。
【0135】
処理液3’中におけるその他の成分の含有量は、6.0質量%以下であるのが好ましく、5.0質量%以下であるのがより好ましい。
なお、その他の成分の含有量の下限は、0質量%である。
【0136】
[1-2-1-6]その他の条件
処理液3’の25℃における粘度は、2mPa・s以上10mPa・s以下であるのが好ましく、3mPa・s以上8mPa・s以下であるのがより好ましい。
【0137】
これにより、インクジェットヘッドのノズルの目詰まり等がより生じにくくなり、処理液3’の吐出安定性がより向上する。また、ノズルの目詰まりを生じた場合でも、ノズルにキャップをすることによる回復性をより優れたものとすることができる。
【0138】
処理液3’の25℃における表面張力は、特に限定されないが、20mN/m以上60mN/m以下であるのが好ましく、25mN/m以上50mN/m以下であるのがより好ましく、27mN/m以上40mN/m以下であるのがさらに好ましい。
【0139】
これにより、インクジェットヘッドのノズルの目詰まり等がより生じにくくなり、処理液3’の吐出安定性がより向上する。また、ノズルの目詰まりを生じた場合でも、ノズルにキャップをすることによる回復性をより優れたものとすることができる。
【0140】
[1-2-2]インクジェット法による吐出について
第2の層3は、インクジェット法により、第1の層2が形成された転写媒体1に処理液3’を吐出することにより形成される。
【0141】
インクジェット法としては、例えば、荷電偏向方式、コンティニュアス方式、ピエゾ式、バブルジェット(登録商標)式等のオンデマンド方式等が挙げられるが、特に、ピエゾ振動子を用いたインクジェットヘッドより吐出するピエゾ式であるのが好ましい。
【0142】
これにより、インクジェットヘッド50’内での処理液3’の構成成分の不本意な変性等をより効果的に防止し、インクジェット法による吐出安定性をより優れたものとすることができる。
【0143】
また、インクジェットヘッド50’としては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。
【0144】
本工程では、第1の層2と重なるように、特に、第1の層2と同一のパターンとなるように、第2の層3を形成する。
【0145】
また、第1の層2の形成と、第2の層3の形成とは、異なるインクジェット記録装置を用いて行ってもよいが、同一のインクジェット記録装置を用いて行うのが好ましい。
【0146】
本工程で処理液3’を吐出する際の第1の層2の乾燥率は、0%以上80%以下であればよいが、10%以上75%以下であるのが好ましく、20%以上70%以下であるのがより好ましく、35%以上65%以下であるのがさらに好ましい。
【0147】
これにより、最終的に得られる記録物100中に、不本意に液体成分が残存することを効果的に防止しつつ、前述した本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0148】
本工程で処理液3’を吐出する際の第1の層2の乾燥率は、例えば、顔料インク2’の組成とともに、転写媒体1を置く雰囲気の温度、湿度、圧力や、転写媒体1に顔料インク2’が付着してから処理液3’を付着させるまでの時間等を調整することにより、好適に調整することができる。
【0149】
顔料インク2’が付着した転写媒体1を置く雰囲気の温度は、顔料インク2’の組成等によって異なるが、1℃以上40℃以下であるのが好ましく、5℃以上30℃以下であるのがより好ましい。
【0150】
顔料インク2’が付着した転写媒体1を置く雰囲気の湿度は、顔料インク2’の組成等によって異なるが、10%RH以上95%RH以下であるのが好ましく、20%RH以上90%RH以下であるのがより好ましい。
【0151】
顔料インク2’が付着した転写媒体1を置く雰囲気の圧力は、顔料インク2’の組成等によって異なるが、1kPa以上150kPa以下であるのが好ましく、10kPa以上110kPa以下であるのがより好ましい。
【0152】
顔料インク2’の組成等によって異なるが、転写媒体1に顔料インク2’が付着してから処理液3’を付着させるまでの時間は、1秒間以上60秒間以下であるのが好ましく、2秒間以上30秒間以下であるのがより好ましい。
本工程では、複数種の処理液3’を用いてもよい。
【0153】
[1-3]熱転写工程
熱転写工程では、転写媒体1の第1の層2および第2の層3が形成された面を、吸収性の被転写媒体5と対向させた状態で加熱することにより、第1の層2および第2の層3を被転写媒体5に熱転写する(1c)。
【0154】
[1-3-1]被転写媒体
被転写媒体5は、吸収性の部材であればいかなるものであってもよく、例えば、各種紙、多孔質金属、多孔質セラミックス、多孔質ガラス、多孔質プラスチック、布帛、皮革等が挙げられるが、布帛または皮革であるのが好ましい。
【0155】
これにより、布帛または皮革を縫製後の完成した製品に場所を選ばずに印刷物を転写することができ、良好な発色と耐擦性が得られる。
【0156】
[1-3-2]加熱条件
本工程での加熱温度は、特に限定されないが、120℃以上270℃以下であるのが好ましく、140℃以上250℃以下であるのがより好ましく、150℃以上210℃以下であるのがさらに好ましい。
【0157】
これにより、第1の層2、第2の層3の構成材料が転写媒体1上に不本意に残存することをより好適に防止しつつ、省エネルギーで記録物100の生産性をより優れたものとすることができる。
【0158】
処理液3’中に含まれる樹脂のガラス転移温度をTg[℃]、熱転写工程での加熱温度をTp[℃]としたとき、70≦Tp-Tg≦290の関係を満たすのが好ましく、95≦Tp-Tg≦260の関係を満たすのがより好ましく、110≦Tp-Tg≦210の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0159】
これにより、第1の層2、第2の層3の構成材料が転写媒体1上に不本意に残存することをより好適に防止しつつ、省エネルギーで記録物100の生産性をより優れたものとすることができる。
【0160】
本工程での加熱時間は、特に限定されないが、5秒間以上90秒間以下であるのが好ましく、15秒間以上70秒間以下であるのがより好ましく、20秒間以上60秒間以下であるのがさらに好ましい。
【0161】
これにより、第1の層2、第2の層3の構成材料が転写媒体1上に不本意に残存することをより好適に防止しつつ、省エネルギーで記録物100の生産性をより優れたものとすることができる。
【0162】
本工程は、転写媒体1の第1の層2および第2の層3が形成された面を、吸収性の被転写媒体5と対向させた状態で加熱することにより行えば、いかなる方法で行ってもよいが、熱プレスにより行うのが好ましい。
【0163】
本工程を熱プレスで行う場合、転写媒体1と被転写媒体5との積層体に加える圧力は、0.1N/cm以上30N/cm以下であるのが好ましく、0.6N/cm以上15N/cm以下であるのがより好ましく、1.5N/cm以上5N/cm以下であるのがさらに好ましい。
【0164】
[1-4]記録物
上記のような工程を経て、記録物100が得られる(1d)。
【0165】
上記のようにして得られる記録物100は、第1の層2および第2の層3により形成された記録部4を有している。
【0166】
記録部4の少なくとも一部は、吸収性の被転写媒体5の内部に侵入しているのが好ましい。
【0167】
記録部4は、通常、その少なくとも一部が、第1の層2の構成材料と第2の層3の構成材料とが一体化したものであるが、図示の構成では、記録部4は、その全体が、第1の層2の構成材料と第2の層3の構成材料とが一体化したものとして構成されている。
【0168】
[1-5]まとめ
上述したように、本発明の記録方法は、剥離層を有する転写媒体にインクジェットヘッドから顔料および水を含む顔料インクを吐出して第1の層を形成する第1の層形成工程と、インクジェットヘッドから処理液を吐出して前記第1の層と重なるように第2の層を形成する第2の層形成工程と、前記転写媒体の前記第1の層および前記第2の層が形成された面を、吸収性の被転写媒体と対向させた状態で加熱することにより、前記第1の層および前記第2の層を前記被転写媒体に熱転写する熱転写工程とを有し、前記顔料インク中における樹脂の含有量は15.0質量%以下であり、前記処理液は、樹脂と水とを含むものであり、前記処理液を吐出する際の前記第1の層の乾燥率が0%以上80%以下であるものであればよいが、剥離層を有する転写媒体にインクジェットヘッドから、顔料、ガラス転移温度が-40℃以上0℃以下の樹脂、沸点が280℃以上の有機溶媒、および、水を含む顔料インクを吐出して第1の層を形成する第1の層形成工程と、インクジェットヘッドから処理液を吐出して前記第1の層と重なるように第2の層を形成する第2の層形成工程と、前記転写媒体の前記第1の層および前記第2の層が形成された面を、吸収性の被転写媒体である布帛または皮革と対向させた状態で加熱することにより、前記第1の層および前記第2の層を前記被転写媒体に熱転写する熱転写工程とを有し、前記顔料インク中における前記樹脂の含有量は2.0質量%以上15.0質量%以下であり、前記処理液は、ガラス転移温度が-20℃以上50℃以下であり、かつ、融点が80℃以上140℃以下である樹脂と、水とを含み、かつ、沸点が280℃以上の有機溶媒を含まないものであり、前記処理液に含まれる前記樹脂は、ポリエステル、ポリウレタンおよびポリ塩化ビニルよりなる群から選択される1種以上であり、前記処理液中における前記樹脂の含有量が5.0質量%以上20.0質量%以下であり、前記処理液を吐出する際の前記第1の層の乾燥率が0%以上80%以下であるのが好ましい。
【0169】
これにより、前述したような各効果が相乗的に作用しあい、特に優れた効果が得られる。
【0170】
[2]インク・処理液セット
次に、本発明に係るインク・処理液セットについて説明する。
本発明に係るインク・処理液セットは、前述した顔料インクと処理液とを備えている。
【0171】
より具体的には、本発明に係るインク・処理液セットは、上記[1-1-2]で説明した条件を満たす顔料インクを備えるとともに、上記[1-2-1]で説明した処理液を備えるものであるのが好ましい。
【0172】
本発明に係るインク・処理液セットは、顔料インクおよび処理液を、それぞれ、少なくとも1種備えていればよいが、複数種の顔料インクを備えるものであってもよいし、複数種の処理液を備えるものであってもよい。また、本発明に係るインク・処理液セットは、上記のような条件を満たす顔料インクおよび処理液に加えて、さらに、他のインク、処理液を備えていてもよい。
【0173】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0174】
例えば、前述した説明では、被転写媒体として、吸収性の部材を用いる場合について説明したが、被転写媒体としては、非吸収性の部材、例えば、非吸収性である、金属製の部材やプラスチック製の部材を用いてもよい。
【0175】
また、前述した実施形態では、転写媒体に、目的とするパターンの第1の層を完成させた後に、処理液を吐出して目的とするパターンの第2の層を完成させ、その後、熱転写工程を行うものとして説明したが、本発明では、複数の工程を同時進行的に行ってもよい。より具体的には、例えば、同一の転写媒体の異なる部位において、顔料インクの吐出と、処理液の吐出とを、同時に行ってもよい。
【実施例0176】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[3]顔料インクの調製
【0177】
(調製例A1)
各成分を所定の比率で混合することで、図2に示す組成の顔料インクを得た。
【0178】
(調製例A2~A5)
顔料インクの調製に用いる成分の種類、各成分の配合比率を変更し、図2に示す組成となるようにした以外は、前記調製例A1と同様にして顔料インクを調製した。
【0179】
前記調製例A1~A5の顔料インクの組成を図2にまとめて示す。なお、図2中の各成分の「%」で示す数値は、含有量を質量%の単位で示したものである。また、図2中、C.I.ピグメントブルー15:3を「PB15:3」、ガラス転移温度が-20℃のポリウレタン樹脂(三井化学社製、タケラックW6110の固形分)を「ポリウレタン樹脂」、ホットメルト樹脂(ユニチカ社製、KT08701の固形分)を「ホットメルト樹脂」、水溶性有機溶媒であるグリセリンを「Gly」、界面活性剤としてのシルフェイスSAG503A(日信化学工業社製)を「SAG503A」と示した。また、前記調製例A1~A5の顔料インクは、いずれも、含有する樹脂の平均粒径が60nm以上300nm以下の範囲内の値であった。また、前記調製例A1~A5の顔料インクは、いずれも、25℃における表面張力が30mN/m以上40mN/m以下の範囲内の値であり、25℃における粘度が3mPa・s以上8mPa・s以下の範囲内の値であった。なお、表面張力は、表面張力計(協和界面科学社製、DY-300)を用いてウィルヘルミー法により測定し、粘度は、振動式粘度計(セニコック社製、VM-100)を用いたJIS Z8809に準拠して測定した。
【0180】
[4]処理液の調製
(調製例B1)
各成分を所定の比率で混合することで、図3に示す組成の処理液を得た。
【0181】
(調製例B2~B5)
処理液の調製に用いる成分の種類、各成分の配合比率を変更し、図3に示す組成となるようにした以外は、前記調製例B1と同様にして処理液を調製した。
【0182】
前記調製例B1~B5の処理液の組成を図3にまとめて示す。なお、図3中の各成分の「%」で示す数値は、含有量を質量%の単位で示したものである。また、図3中、ポリエステル樹脂(ユニチカ社製、KT9204の固形分)を「ポリエステル樹脂」、塩化ビニル樹脂(三井化学社製、ビニブラン715Sの固形分)を「塩ビ樹脂」、ポリウレタン樹脂(三井化学社製、タケラックW6061の固形分)を「ポリウレタン樹脂」、水溶性有機溶媒であるプロピレングリコールを「PG」、界面活性剤としてのシルフェイスSAG503A(日信化学工業社製)を「SAG503A」と示した。また、前記調製例B1~B5の処理液は、いずれも、含有する樹脂の平均粒径が60nm以上300nm以下の範囲内の値であった。また、前記調製例B1~B5の処理液は、いずれも、25℃における表面張力が30mN/m以上40mN/m以下の範囲内の値であり、25℃における粘度が3mPa・s以上8mPa・s以下の範囲内の値であった。なお、表面張力は、表面張力計(協和界面科学社製、DY-300)を用いてウィルヘルミー法により測定し、粘度は、振動式粘度計(セニコック社製、VM-100)を用いたJIS Z8809に準拠して測定した。
【0183】
[5]記録物の製造
(実施例1)
まず、ポリエチレンテレフタレートで構成された基材上に、離型剤で構成された剥離層が設けられた転写媒体(インクマニア社製、DTF用プリントフィルム)を用意した。
【0184】
次に、インクジェット記録装置(セイコーエプソン社製、SC-F2150)に、前記調製例A1で得られた顔料インクおよび前記調製例B1で得られた処理液を充填し、上記転写媒体の剥離層が設けられた面に、インクジェットヘッドから顔料インクを吐出して所定のパターンの第1の層を形成した。
【0185】
次に、第1の層と重なるように、インクジェットヘッドから処理液を吐出して、第1の層と同一パターンの第2の層を形成した。処理液を吐出する際の第1の層の乾燥率は50%であった。
【0186】
次に、転写媒体1の第1の層および第2の層が形成された面を、吸収性の被転写媒体である日清紡社製の綿ブロード(#4000)と対向させた状態で、200℃×40秒間の加熱処理を施すことにより、第1の層および第2の層を被転写媒体に熱転写した。
その後、転写媒体を除去することにより、記録物を得た。
【0187】
(実施例2~19)
顔料インク、処理液の種類、熱転写工程での加熱条件、被転写媒体の種類、および、処理液を吐出する際の第1の層の乾燥率を、図4図5に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして記録物を製造した。なお、実施例7では、第1の層の形成は、まず、調製例A1で得られた顔料インクをインクジェットヘッドから吐出して所定のパターンを形成し、この調製例A1で得られた顔料インクによるパターンと重なるように、インクジェットヘッドから調製例A4で得られた顔料インクを吐出して、第1の層と同一パターンを形成した。すなわち、実施例7では、第1の層を、調製例A1で得られた顔料インクによる層と、調製例A4で得られた顔料インクによる層との積層体として形成した。
【0188】
(比較例1)
第1の層が設けられた転写媒体に処理液を付与する代わりに、カスケードシェイカー(ユーロポート社製)を用いて、加熱溶融性の粉体として、インクマニア社製ホットメルトパウダーPU(ポリウレタン)の樹脂粉を振りかけて、その後、過剰な樹脂粉を振るい落とした後に、上記と同様に、被転写媒体への熱転写を行った以外は、前記実施例1と同様にして記録物を製造した。
【0189】
(比較例2)
第2の層の形成に用いる処理液を吐出する際の第1の層の乾燥率を100%に変更した以外は、前記実施例1と同様にして記録物を製造した。
【0190】
(比較例3)
第1の層の形成に前記調製例A5で調整した顔料インクを用い、第2の層を形成する工程を省略した以外は、前記実施例1と同様にして記録物を製造した。
【0191】
(比較例4)
第2の層を形成する工程を省略した以外は、前記実施例1と同様にして記録物を製造した。
【0192】
前記各実施例および各比較例の製造物の製造時の条件、すなわち、記録方法の条件を図4図5にまとめて示す。なお、図4図5中、被転写媒体としての日清紡社製の綿ブロード(#4000)を「綿ブロード」、被転写媒体としてのTC4520(豊島株式会社製、綿35質量%、ポリエステル繊維65質量%の混紡布帛)を「混紡」、被転写媒体としてのトロピカル(東レ社製、ポリエステル布帛)を「ポリエステル」、被転写媒体としてのPARELタフタN2188(東レ社製、ナイロン布帛)を「ナイロン」、被転写媒体としての天然皮革 牛革(大喜皮革社製)を「皮革」と示した。
【0193】
[6]評価
【0194】
[6-1]風合い
前記各実施例および各比較例に係る記録物について、以下のようにして風合いの評価を行った。
【0195】
具体的には、各記録物について、その感触を特定の評価者が目隠しをした状態で、以下の基準に従って官能評価を行い、風合いを評価した。
【0196】
評価結果はA、B、Cの順で、風合いに優れることを意味する。評価結果がAまたはBである場合、本願発明の効果が得られているといえる。
【0197】
A:柔らかく、ごわついた感触が認められない。
B:やや硬く、少しごわついた感触が認められる。
C:顕著にごわついた感触がある。
【0198】
[6-2]乾摩擦堅牢性
前記各実施例および各比較例に係る記録物について、以下のようにして乾摩擦堅牢性の評価を行った。
【0199】
具体的には、前記各記録物を製造後1時間、25℃の条件下で放置し、記録物の記録面を学振型摩擦堅牢度試験機AB-301(テスター産業社製)を用いて、荷重200g下、綿布にて20回擦ったときの記録部の剥がれ状態や綿布へのインク移り状態を目視で確認し、以下の基準に従い耐擦性を評価した。色移り、剥離が少ないほど、耐擦性に優れていると言え、耐擦性に優れているほど、堅牢性に優れていると言える。B以上を良好なレベルとした。
【0200】
A:色移り、剥離が認められない。
B:色移り、剥離がわずかに認められる。
C:色移り、剥離がはっきりと認められる。
【0201】
[6-3]湿摩擦堅牢性
前記各実施例および各比較例に係る記録物について、以下のようにして湿摩擦堅牢性の評価を行った。
【0202】
具体的には、前記各記録物を製造後1時間、25℃の条件下で放置し、記録物の記録面を学振型摩擦堅牢度試験機AB-301(テスター産業社製)を用いて、荷重200g下、純水に浸して湿らせた綿布にて20回擦ったときの記録部の剥がれ状態や綿布へのインク移り状態を目視で確認し、以下の基準に従い耐擦性を評価した。色移り、剥離が少ないほど、耐擦性に優れていると言え、耐擦性に優れているほど、堅牢性に優れていると言える。B以上を良好なレベルとした。
【0203】
A:色移り、剥離が認められない。
B:色移り、剥離がわずかに認められる。
C:色移り、剥離がはっきりと認められる。
【0204】
[6-4]洗濯堅牢性
前記各実施例および各比較例に係る記録物について、以下のようにして洗濯堅牢性の評価を行った。
【0205】
具体的には、ISO 105 C10 (B2)に準拠して、洗濯堅牢性試験を行い、以下の基準に従い洗濯堅牢性を評価した。B以上を良好なレベルとした。
【0206】
A:洗濯堅牢度が3級以上である。
B:洗濯堅牢度が2級以上3級未満である。
C:洗濯堅牢度が2級未満である。
【0207】
[6-5]剥離性
前記各実施例および各比較例について、被転写媒体への記録部の転写を行った後の転写媒体の様子を観察し、以下の基準に従い剥離性を評価した。B以上を良好なレベルとした。
【0208】
A:転写媒体に印刷された画像領域の100%が転写されている
B:転写媒体に印刷された画像領域の80%以上100%未満が転写されている
C:転写媒体に印刷された画像領域の80%未満が転写されている
【0209】
[6-6]目詰まり性
前記各実施例および各比較例で記録物の製造に用いた顔料インクおよび処理液を、インクジェットプリンター(商品名PX-G930、セイコーエプソン社製)に充填して、キャップ開放の状態にて1か月放置した。その後、クリーニングを3回行い、何本のノズルが抜けているかを求め、以下の基準に従い評価した。B以上を良好なレベルとした。
【0210】
A:ノズル抜けがない。
B:ノズル抜けが1本以上5本以下である。
C:ノズル抜けが6本以上20本以下である。
D:ノズル抜けが21本以上である。
【0211】
[6-7]装置サイズ
前記各実施例および各比較例で記録物の製造に用いた装置の設置面積の大きさを比較した。具体的には、前記比較例1で第1の層および第2の層の形成に用いたインクジェット記録装置、および、カスケードシェーカー(ユーロポート社製)の設置面積の和に対する、前記各実施例および各比較例で第1の層および第2の層の形成に用いた装置の設置面積の比率を求め、以下の基準に従い評価した。
【0212】
A:装置の設置面積が比較例1の50%未満である。
B:装置の設置面積が比較例1の50%以上100%未満である。
C:装置の設置面積が比較例1の100%以上である。
これらの結果を図6図7にまとめて示す。
【0213】
図6図7から明らかなように、本発明では優れた結果が得られた。これに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0214】
1…転写媒体、11…基材、12…剥離層、2’…顔料インク、2…第1の層、3’…処理液、3…第2の層、4…記録部、5…被転写媒体、50…インクジェットヘッド、50’…インクジェットヘッド、100…記録物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7