(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136692
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】藻類増殖用の鉄イオン徐放性ガラス材ならびにこれを備えた藻類増殖材及び人工魚礁
(51)【国際特許分類】
C03C 3/089 20060101AFI20240927BHJP
A01G 33/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C03C3/089
A01G33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047881
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000222222
【氏名又は名称】東洋ガラス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000236610
【氏名又は名称】株式会社不動テトラ
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太郎
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 紀一
(72)【発明者】
【氏名】青田 徹
【テーマコード(参考)】
2B026
4G062
【Fターム(参考)】
2B026AC03
2B026EA03
4G062AA01
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4G062KK10
4G062MM18
4G062NN34
(57)【要約】
【課題】着生後の藻類が植食性動物による摂食の影響を受けやすい期間において、藻類の増殖に必要な鉄イオンを継続的に溶出させる。
【解決手段】藻類増殖用の鉄イオン徐放性ガラス材は、40~70質量%のSiO
2と、1~29質量%B
2O
3と、1~35質量%のNa
2OおよびK
2Oの何れか1種または2種と、1~40質量%のFeOおよびFe
2O
3の何れか1種または2種と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類増殖用の鉄イオン徐放性ガラス材であって、
40~70質量%のSiO2と、
1~29質量%のB2O3と、
1~35質量%のNa2OおよびK2Oの何れか1種または2種と、
1~40質量%のFeOおよびFe2O3の何れか1種または2種と、を含む、鉄イオン徐放性ガラス材。
【請求項2】
全ての成分におけるケイ素に対するホウ素のモル比B/Siおよびナトリウムに対するカリウムのモル比K/Naにより記述される次式において、消失速度定数κ×10
-4の範囲が1.14以上かつ2.85以下である、請求項1に記載の鉄イオン徐放性ガラス材。
【数9】
ただし、κは以下のように定められる。
【数10】
ここで、
t:鉄イオンの溶出開始後の経過時間
W
0:粒子の初期質量
W:粒子の現在質量をそれぞれ示す。
【請求項3】
前記消失速度定数κ×10-4の範囲が1.425以上かつ2.28以下である、請求項2に記載の鉄イオン徐放性ガラス材。
【請求項4】
全ての成分におけるケイ素に対するホウ素のモル比B/Si、ナトリウムに対するカリウムのモル比K/Na、及びアルカリ含有率αにより記述される次式において、溶融温度T×10
-3の範囲が1.20以上1.45以下である、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の鉄イオン徐放性ガラス材。
【数11】
ただし、Tおよびαは、以下の通りである。
T:鉄イオン徐放性ガラス材の原料の溶融温度[℃]
α:全ての成分におけるホウ素、ケイ素、ナトリウム、カリウム、及び鉄の質量の和に対するナトリウムおよびカリウムの質量の和の比
【請求項5】
請求項1に記載された前記鉄イオン徐放性ガラス材と、
前記鉄イオン徐放性ガラス材が固定された基材と、
を含む、藻類増殖材。
【請求項6】
請求項1に記載された前記鉄イオン徐放性ガラス材または請求項5に記載された前記藻類増殖材を含む、人工魚礁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水中等における藻類の育成に必要な鉄イオンの供給に用いられる藻類増殖用の鉄イオン徐放性ガラス材ならびにこれを備えた藻類増殖材及び人工魚礁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海中などの水中に人為的に設置される人工魚礁に関し、藻類などの増殖効果を高めることを目的として、鉄イオンを含む成分を水中に溶出させるための技術が開発されている。
【0003】
例えば、ケイ素、ナトリウム及び/又はカリウム、ならびに鉄を、それぞれSiO2換算で30~70質量%、Na2O及び/又はK2O換算で10~50質量%、Fe2O3換算で5~50質量%にあたる量を含有し、二価の鉄の含有量が1質量%以上であるガラス質材料からなる藻場増殖材が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、二価の鉄イオンを水中に効率良く溶出させることを目的とした藻場増殖材として、例えば、SiO2:15~50質量%、Na2OおよびK2Oの何れか1種または2種:1~35質量%、B2O3:30~70質量%、FeOおよびFe2O3の何れか1種または2種:1~40質量%を主成分とするものが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2577319号公報
【特許文献2】特許第3357990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、全国各地で植食性動物の摂餌による磯焼け現象が拡大している。その要因の1つとして、ウニや魚などの植食性動物による摂餌量が、魚礁に着生した藻類の増殖量を上回ってしまうことが考えられる。特に、藻類の芽出し直後から幼体の時期には、その柔らかい葉体が植食性動物によって摂餌されやすい。
【0007】
上記特許文献1に開示された藻場増殖材では、藻類の増殖効果を高めるために必要な鉄イオンの溶出が長期間(例えば、10年程度)にわたって持続するという利点がある。また、上記特許文献2に開示された藻場増殖材では、鉄イオンを水中に効率良く溶出させることができるため、必要な鉄イオンの溶出量を少量の藻場増殖材によって確保することが可能となり、特に、稚ウニや稚貝餌料となる付着珪藻類を効果的に増殖させることができるという利点がある。
【0008】
そこで、本願発明者らは、上記特許文献1、2に開示された藻場増殖材の適用により、藻類の摂食されやすい時期に、植食性動物による摂食に耐え得る藻類の増殖量を確保することについて鋭意検討した。
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された藻場増殖材では、藻類の摂餌されやすい時期には、鉄イオンの溶出量が不足する(すなわち、摂食に耐えうる海藻類の増殖量を確保できない)可能性がある。
【0010】
一方、特許文献2に開示された藻場増殖材では、鉄イオンの溶出速度が高められるものの、その継続期間(すなわち、藻場増殖材の消失寿命)が3か月程度と短いため、藻類の必要な増殖(数世代にわたり藻類が人工魚礁に安定的に着生するための増殖を含む。)を達成できない可能性がある。
【0011】
これに対し、本願発明者らは、摂食に耐え得る藻類の増殖量を確保するためには、藻類の生長に必要な鉄イオンの溶出を、2~5年程度(すなわち、藻類の生長が植食性動物による摂食の影響を受けやすい期間)にわたって継続させる必要があることを見出した。
【0012】
本発明は、以上の背景を鑑み、着生後の藻類が植食性動物による摂食の影響を受けやすい期間において、藻類の増殖に必要な鉄イオンを継続的に溶出させることができる鉄イオン徐放性ガラス材ならびにこれを備えた藻類増殖材及び人工魚礁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のある態様は、藻類増殖用の鉄イオン徐放性ガラス材であって、40~70質量%のSiO2と、1~29質量%のB2O3と、1~35質量%のNa2OおよびK2Oの何れか1種または2種と、1~40質量%のFeOおよびFe2O3の何れか1種または2種と、を含む構成とする。
【0014】
この態様によれば、着生後の藻類が植食性動物による摂食の影響を受けやすい期間において、藻類の増殖に必要な鉄イオンを継続的に溶出させることができる。
【0015】
上記の態様において、全ての成分におけるケイ素に対するホウ素のモル比B/Siおよびナトリウムに対するカリウムのモル比K/Naにより記述される次式において、消失速度定数κ×10-4の範囲が1.14以上かつ2.85以下であるとよい。
【0016】
【0017】
ただし、κは以下のように定められる。
【数2】
ここで、
t:鉄イオンの溶出開始後の経過時間
W
0:粒子の初期質量
W:粒子の現在質量(時間tにおける質量)をそれぞれ示す。
【0018】
この態様によれば、藻類の増殖に必要な鉄イオンを、植食性動物による摂食の影響を受けやすい2~5年程度にわたり継続的に溶出させることができる。
【0019】
上記の態様において、前記消失速度定数κ×10-4の範囲が1.425以上かつ2.28以下であるとよい。
【0020】
この態様によれば、藻類の増殖に必要な鉄イオンを、植食性動物による摂食の影響を受けやすい2.5~4年程度にわたり継続的に溶出させることができる。
【0021】
上記の態様において、全ての成分におけるケイ素に対するホウ素のモル比B/Si、ナトリウムに対するカリウムのモル比K/Na、及びアルカリ含有率αにより記述される次式において、溶融温度T×10-3の範囲が1.20以上1.45以下であるとよい。
【0022】
【数3】
ただし、Tおよびαは、以下の通りである。
T:鉄イオン徐放性ガラス材の原料の溶融温度[℃]
α:全ての成分におけるホウ素、ケイ素、ナトリウム、カリウム、及び鉄の質量の和に対するナトリウムおよびカリウムの質量の和の比
【0023】
この態様によれば、鉄イオン徐放性ガラス材の溶融温度を適切な範囲(すなわち、1200~1450℃)に設定することが容易となり、その製造が容易となる。
【0024】
本発明のある態様は、前記鉄イオン徐放性ガラス材と、前記鉄イオン徐放性ガラス材が固定された基材と、を含む、藻類増殖材である。
【0025】
この態様によれば、着生後の藻類が植食性動物による摂食の影響を受けやすい期間において、藻類の増殖に必要な鉄イオンを継続的に溶出させる藻類増殖材を実現することができる。
【0026】
本発明のある態様は、前記鉄イオン徐放性ガラス材または前記藻類増殖材を含む、人工魚礁である。
【0027】
この態様によれば、着生後の藻類が植食性動物による摂食の影響を受けやすい期間において、藻類の増殖に必要な鉄イオンを継続的に溶出させる人工魚礁を実現することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る鉄イオン徐放性ガラス材ならびにこれを備えた藻類増殖材及び人工魚礁は、着生後の藻類が植食性動物による摂食の影響を受けやすい期間において、藻類の増殖に必要な鉄イオンを継続的に溶出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】鉄イオン徐放性ガラス材を備えた人工魚礁の模式図
【
図2】鉄イオン徐放性ガラス材を備えた藻類増殖材の模式図
【
図3】消失速度定数κ×10
-4とB/SiおよびK/Naとの関係を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る藻類増殖用の鉄イオン徐放性ガラス材ならびにこれを備えた藻類増殖材及び人工魚礁について説明する。
【0031】
図1に示すように、実施形態に係る人工魚礁1は、海中などの水中に人為的に設置される少なくとも1つのテトラボッド2(すなわち、4面体の頂点をそれぞれ先端とする4本の足から成るコンクリート塊)を含む。各テトラボッド2には、複数の凹部2aが形成されている。各凹部2aには、藻類(例えば、海苔、わかめ、昆布などの海藻)を着生させるための藻類増殖材3がそれぞれ接着剤によって固定されている。
【0032】
藻類増殖材3は、平面視において矩形状をなすモルタル製のプレート11(基材の一例)と、プレート11の上面に固定された鉄イオン徐放性ガラス材12(以下、単に「ガラス材12」という。)とを有する。ガラス材12は、多数のガラス質の粒子を含み、
図2に示すように、プレート11の上面に層状をなすように固定されている。それらガラス質の粒子は、例えば、約2~7mmの範囲の粒径(例えば、平均粒径4.5mm)を有し、より好ましくは約3~5mmの範囲の粒径を有する。
【0033】
なお、本発明に係る人工魚礁1は、
図1に示すものに限らず、魚礁に適した公知の材料(例えば、石材、鋼材、木材、及びコンクリート材を含む。)からなり、かつ所望の形態(形状やサイズの変更を含む)を有するブロック等を含み得る。また、本発明に係る藻類増殖材3の形態についても種々の変更が可能である。また、藻類増殖材3においてプレート11は必須ではない。藻類増殖材3としては、ガラス材12が袋状のネットに収容された形態が採用されてもよい。
【0034】
ガラス材12は、水中に溶出するイオン源となる成分として、SiO2、B2O3、Na2OおよびK2Oの何れか1種または2種、並びにFeOおよびFe2O3の何れか1種または2種を少なくとも含む。
【0035】
これにより、水中のガラス材12からは、珪素イオン、ホウ素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、二価の鉄イオン、及び三価の鉄イオンが溶出し得る。ただし、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンは、それらの少なくとも一方がガラス材12から溶出すればよい。同様に、二価の鉄イオンおよび三価の鉄イオン、それらの少なくとも一方がガラス材12から溶出すればよい。以下では、二価の鉄イオンおよび三価の鉄イオンについて、特に区別する必要がない場合には、単に「鉄イオン」という。
【0036】
また、ガラス材12は、鉄イオンの溶出速度に大きな影響を及ぼさない限りにおいて、SiO2、B2O3、Na2O、K2O、FeO、及びFe2O3以外の成分を含み得る。
【0037】
SiO2は、ガラス材12における3次元の網目構造を形成する主成分である。ガラス材12におけるSiO2の割合は、40~70質量%の範囲で設定されるとよい。
【0038】
B2O3は、SiO2と共にガラス材12の網目構造を形成することにより、当該網目構造の骨格を壊れやすくし、そこに固定された溶出成分(本実施形態では、特に鉄イオン)の溶出速度を増大させるための成分である。ガラス材12におけるB2O3の割合は、1~29質量%(30質量%未満)の範囲で設定されるとよい。B2O3が、30質量%以上となると、鉄イオンの溶出速度が過大となり、着生後の藻類が植食性動物による摂食の影響を受けやすい期間において、藻類の増殖に必要な鉄イオンを継続的に溶出させることが難しくなる(すなわち、ガラス材12の鉄イオン徐放性が早期に失われる。)。
【0039】
Na2OおよびK2Oは、ガラス材12の網目構造を切断し、ガラスの溶出速度を調整するための成分である。ガラス材12におけるNa2OおよびK2Oの何れか1種または2種(すなわち、それらの総和)の割合は、1~35質量%の範囲で設定されるとよい。
【0040】
FeOおよびFe2O3は、藻類の増殖に重要な役割を果たす二価の鉄イオンおよび三価の鉄イオンをそれぞれ溶出させるための成分である。ガラス材12におけるFeOおよびFe2O3の何れか1種または2種(すなわち、それらの総和)の割合は、1~40質量%の範囲、より好ましくは、5~20質量%の範囲で設定されるとよい。FeOおよびFe2O3の何れか1種または2種が1質量%未満では、着生後の藻類が植食性動物による摂食の影響を受けやすい期間において、藻類の増殖に必要な鉄イオンの溶出量が不足する。また、FeOおよびFe2O3の何れか1種または2種が40質量%を超えると、網目構造に入りきれずに金属鉄として析出する場合があり、ガラス材12に鉄イオン成分を均等に分散させることが難しくなる。また、ガラス材12におけるFeOおよびFe2O3の何れか1種または2種の割合を5~20質量%の範囲とすることで、鉄イオンの必要な溶出速度をより安定的に確保する一方、ガラス材12における金属鉄としての析出をより安定的に防止することができる。
【0041】
ガラス材12は、上述の各成分をそれぞれ含む公知の材料を、高温(例えば、1200~1450℃)に加熱して共に溶融させた後、それを冷却することにより製造することが可能である。さらに、冷却後のガラス材12を、攪拌ミル等を用いて破砕(または粉砕)し、ふるいで整粒することにより、それらの粒径を所望の範囲内(例えば、約3~5mm)に収まるように調整することができる。
【実施例0042】
以下に示すように、ガラス試料を用いてガラス材12の消失寿命(ここでは、ガラス材12が水中に配置された後に、その鉄イオン徐放性が失われるまでの期間)を測定(推定)するための実験を行った。
【0043】
(ガラス試料の原料)
ガラス試料の原料として、その成分におけるSiO2、B2O3、Na2O、K2O、FeO、及びFe2O3の割合が上述の範囲を満たすように公知の材料を調合し、互いに組成が異なる複数の調合済み原料を得た。それらの材料として、フラタリー硅砂(SiO2)(国際埠頭(株)社製のフラタリーシリカサンド―60)、無水ホウ砂(Na2B4O7)(IMC Chemicals,Inc.社製のPYROBOR Dehydrated Borax)、ホウ酸(H3BO2)(U.S.Borax,Inc.社製のOrthoboric Acid)、ソーダ灰(Na2CO3)((株)トクヤマ社製のソーダ灰デンス)、炭酸カリウム(K2CO3)(UNID Global Corporation社製のPotassium Carbonate)、酸化第二鉄(Fe2O3)(ケミライト工業(株)社製のCY)、及びコークス(C)(浄水材製造(株)社製の100号特粉)を用いた。それら各材料の調合割合を表1に示す。
【0044】
【0045】
(ガラス試料の製造方法)
各調合済み原料を、予熱したアルミナるつぼに入れた後、そのアルミナるつぼを1200~1450℃に加熱した電気炉に入れ、2時間放置した。その後、アルミナるつぼ内の溶融した原料を鉄板上に流し出し、ガラス試料を得た。同様の方法によって、組成の異なる複数のガラス試料(試料番号1-21)を得た(各ガラス試料の組成の詳細については、後述する表2を参照)。
【0046】
(消失寿命の測定方法)
数年となり得るガラス材12の消失寿命を、ガラス試料を用いて2ヶ月程度の短い期間で推定するために、以下の条件1、2の下で加速試験を行った。
【0047】
条件1:消失寿命は、ガラス試料を構成する粒子の初期粒径の大きさに比例して長くなるため、それら粒子の初期粒径(すなわち、初期の平均粒径)を、実際のガラス材12の粒径よりも小さく設定した。
条件2:水中におけるガラス試料の反応性(すなわち、鉄イオンの溶解速度)を高めるために、ガラス試料を浸す溶媒(ここでは、人工海水)の温度を常温よりも高い温度(ここでは、70℃)に設定した。
【0048】
1.25gのガラス試料(粒径0.35~0.8mm)をナイロンメッシュに入れ、70℃に保持した溶媒250mlの入った三角フラスコの中に吊り下げ(すなわち、溶媒に浸し)、それを3~4日おきに取り出し、乾燥した後に質量を測定した。測定後のガラス試料は、溶媒を交換した三角フラスコの中に再び吊り下げた。このような測定を繰り返し実施することで、ガラス試料の質量の時間変化に関するデータを取得した。溶媒としては、人工海水の素(日本家庭用塩(株)社製のマリンエッセンスNK-1)を4.16g/水100mlとなるよう溶解した人工海水を用いた。
【0049】
(消失寿命の指標)
ガラス試料を構成する粒子物質の溶媒中の初期濃度が溶解度よりはるかに小さく(シンク条件)、また、ガラスの溶媒に対する溶解が、ガラス表面を介した拡散のみにより起こることを仮定した場合、次の式(1)に示すようなヒクソン-クロウェル(Hixson-Crowell)式の関係が導かれる。
【0050】
【数4】
ただし、
W
0:粒子の初期質量
W:粒子の現在質量(時間tにおける質量)
k:みかけの溶解速度定数[h
-1・g
1/3]
t:粒子の溶解開始後の経過時間
【0051】
また、ガラス試料を構成する粒子の規格化消失量δは、上記W0およびWを用いて次の式(2)で表すことができる。
【0052】
【0053】
式(1)、(2)に基づき、規格化消失量δは、消失速度定数κを用いて次の式(3)ように表すことができる。ここで、tは、鉄イオンの溶出開始後(すなわち、鉄イオン徐放性ガラス材を水中に浸した後)の経過時間に相当する。
【0054】
【0055】
本実施例では、上記消失速度定数κ×10-4[h-1]を指標として用いることにより、ガラス試料の消失寿命を評価した。
【0056】
上記規格化消失量δに基づき、ガラス材12の鉄イオンの溶出を2~5年程度(すなわち、藻類の生長が植食性動物による摂食の影響を受けやすい期間)にわたって継続させるためには、速度係数κ×10-4を、1.14以上かつ2.85以下の範囲内とする(すなわち、1.14≦κ×10-4≦2.85を満たす)必要がある。より好ましくは、ガラス材12の鉄イオンの溶出を2.5~4年程度にわたって継続させるために、速度係数κ×10-4を、1.425以上かつ2.28以下の範囲内とする(すなわち、1.42≦κ×10-4≦2.28を満たす)必要がある。
【0057】
(消失寿命の測定結果)
上述の測定方法に基づくガラス試料の消失寿命に関する測定結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
(組成パラメータと消失寿命との関係)
上述のガラス試料の消失寿命に関する測定結果によれば、SiO2、B2O3、Na2O、K2O、FeO、及びFe2O3の割合を、それぞれ上述の範囲に設定することにより、目的とする消失速度定数κの範囲を実現できる可能性がある(試料番号9-13を参照)。一方、本願発明者らは、ガラス試料におけるSiO2、B2O3、Na2O、K2O、FeO、及びFe2O3の割合を設定するのみでは、消失速度定数κの範囲を安定的に目標範囲(すなわち、1.14≦κ×10-4≦2.85を満たす範囲)に調整することは難しいと考えた。
【0060】
そこで、本願の発明者らが鋭意検討した結果、ガラス試料の速度係数κ×10-4を安定的に1.14~2.85の範囲内とするためには、その消失速度に対して大きな影響を及ぼすガラス試料中のケイ素(Si)に対するホウ素(B)のモル比(以下、「B/Si」という。)およびナトリウム(Na)に対するカリウム(K)のモル比(以下、「K/Na」という。)を、組成の決定に考慮すべきパラメータ(以下、「組成パラメータ」という。)として採用することが好ましいことを見出した(各ガラス試料に関する組成パラメータ(ここでは、B/Si、K/Na)については表3を参照)。
【0061】
【0062】
そこで、B/SiおよびK/Naを説明変数とし、速度係数κ×10-4を目的変数として重回帰分析を行った。速度係数κ×10-4とB/Siとの相関係数r1-1は、0.884であった。また、速度係数κ×10-4とK/Naとの相関係数r1-2は、0.476であった。
【0063】
重回帰分析の結果、次の式(4)を求めた。
【0064】
【0065】
この式(4)は、
図3に示すように、速度係数κ×10
-4を目的とする範囲(すなわち、1.14≦κ×10
-4≦2.85)に収めるためのB/SiおよびK/Naの関係(すなわち、
図3において色づけされた範囲)を示すものである。式(4)を満たすように、ガラス材12の各成分を調整することにより、藻類の増殖に必要な鉄イオンを、植食性動物による摂食の影響を受けやすい2~5年程度にわたり継続的に溶出させるガラス材12を得ることができる。
【0066】
(組成パラメータと溶融温度との関係)
上述のガラス試料の消失寿命に関する測定結果に基づき、本願の発明者らが鋭意検討した結果、ガラス試料の製造における原料の溶融温度T[℃]を製造負荷の小さい温度範囲内(ここでは、1200~1450℃)とするためには、その溶融温度Tに対して大きな影響を及ぼすB/Si、K/Na、及びアルカリ含有率α(すなわち、ガラス試料におけるホウ素(B)、ケイ素(Si)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、及び鉄(Fe)の質量の和に対するナトリウム(Na)およびカリウム(K)の質量の和の比)を、組成パラメータとして考慮することが重要であることを見出した(各ガラス試料に関する組成パラメータ(ここでは、B/Si、K/Na、及びアルカリ含有率α)については、上述の表3を参照)。
【0067】
そこで、B/Si、K/Na、及びアルカリ含有率αを説明変数とし、溶融温度T×10-3を目的変数として重回帰分析を行った。溶融温度T×10-3とB/Siとの相関係数r2-1は、0.686であった。また、溶融温度T×10-3とK/Naとの相関係数r2-2は、0.383であった。また、溶融温度T×10-3とアルカリ含有率αとの相関係数r2-3は、0.825であった。
【0068】
重回帰分析の結果、次の式(5)を求めた。
【0069】
【0070】
式(5)を満たすように、ガラス材12の各成分を調整することにより、藻類の増殖に必要な鉄イオンを、植食性動物による摂食の影響を受けやすい2~5年程度にわたり継続的に溶出させ、しかも、溶融温度が適切な範囲(すなわち、1200~1450℃)に設定されたガラス材12を得ることができる。
【0071】
以上の実施形態に係る藻類増殖用の鉄イオン徐放性ガラス材ならびにこれを備えた藻類増殖材及び人工魚礁によれば、着生後の藻類が植食性動物による摂食の影響を受けやすい期間において、藻類の増殖に必要な鉄イオンを継続的に溶出させることができる。
【0072】
また、上記式(4)を満たす組成パラメータの値を設定することにより、速度係数κ×10-4を適切な範囲(すなわち、1.14≦κ×10-4≦2.85)に設定することが可能となる。このように組成パラメータを設定することにより、ガラス材12は、藻類の増殖に必要な鉄イオンを、植食性動物による摂食の影響を受けやすい2~5年程度にわたり継続的に溶出させることができる。
【0073】
また、上記式(5)を満たす組成パラメータの値を設定することにより、溶融温度T×10-3を適切な範囲(すなわち、1.20≦T×10-3≦1.45)に設定することが可能となる。このように組成パラメータを設定することにより、ガラス材12は、その溶融温度が適切な範囲(すなわち、1200~1450℃)に設定され、その製造が容易となる。
【0074】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。
本発明の藻類増殖用の鉄イオン徐放性ガラス材ならびにこれを備えた藻類増殖材及び人工魚礁は、着生後の藻類が植食性動物による摂食の影響を受けやすい期間において、藻類の増殖に必要な鉄イオンを継続的に溶出させることができるため、海水中等における藻類の育成に必要な鉄イオンの供給に用いられる藻類増殖用の鉄イオン徐放性ガラス材ならびにこれを備えた藻類増殖材及び人工魚礁などとして有用である。