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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136695
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】走行用二次電池昇温システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20240927BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20240927BHJP
   H01M 10/6571 20140101ALI20240927BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20240927BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240927BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20240927BHJP
   B60L 53/14 20190101ALI20240927BHJP
   B60L 53/30 20190101ALI20240927BHJP
   B60L 58/13 20190101ALI20240927BHJP
   B60L 58/32 20190101ALI20240927BHJP
【FI】
H02J7/00 P
H01M10/615
H01M10/6571
H01M10/625
H02J7/00 H
B60L15/20 J
B60L50/60
B60L53/14
B60L53/30
B60L58/13
B60L58/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047887
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】国政 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】廣江 健太
【テーマコード(参考)】
5G503
5H031
5H125
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503AA04
5G503BA02
5G503BB02
5G503CA10
5G503CB11
5G503DA07
5G503FA06
5G503GD03
5G503GD06
5H031KK03
5H125AA01
5H125AC12
5H125AC24
5H125BC05
5H125BC12
5H125BC21
5H125BC24
5H125CA18
5H125CD09
5H125DD02
5H125EE25
5H125EE27
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】電池昇温用の機器に頼らずに効率よく二次電池を昇温させる。
【解決手段】走行用の二次電池2と、二次電池2の充電及び放電を行う外部充電器5と、外部充電器5と接続された二次電池2の充放電を制御する制御装置6とを備えた走行用二次電池昇温システムであって、制御装置6は、走行開始予定時刻取得部63と、走行開始予定時刻における二次電池2の温度を予測する温度予測部64と、外部充電器5の接続中に、走行開始予定時刻までに二次電池2の充電容量が目標容量に達するよう外部充電器5による充電を制御するタイマー充電制御部61と、予測温度が目標電池温度よりも低い場合、外部充電器5による二次電池2の充電と二次電池2から外部充電器5への放電とを制御することで走行開始時刻までに二次電池2を目標温度まで昇温する昇温制御部62と、を備える。外部充電器5には、二次電池2から放電された電力を利用する給電対象34が接続される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両に装備され前記電動車両の走行用電動機に電力を給電する走行用二次電池と、
前記走行用二次電池と接続されることで前記走行用二次電池の充電及び放電を行う外部充電器と、
前記外部充電器と接続された前記走行用二次電池の充放電を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記外部充電器と接続された前記電動車両の走行開始予定時刻を取得する走行開始予定時刻取得部と、
前記走行開始予定時刻における前記走行用二次電池の温度を予測する温度予測部と、
前記外部充電器との接続中に、前記走行開始予定時刻までに前記走行用二次電池の充電容量が目標容量に達するように、前記外部充電器による前記走行用二次電池の充電を制御するタイマー充電制御部と、
前記走行用二次電池の目標電池温度を設定する目標電池温度設定部を有し、前記温度予測部で予測された予測温度が前記目標電池温度よりも低い場合は、前記外部充電器による前記走行用二次電池の充電と、前記走行用二次電池から前記外部充電器への放電と、を制御することで前記走行開始予定時刻までに前記走行用二次電池を前記目標電池温度まで昇温する昇温制御部と、を備え、
前記外部充電器には、前記走行用二次電池から放電された電力を利用する給電対象が接続されている
ことを特徴とする走行用二次電池昇温システム。
【請求項2】
前記外部充電器は、前記走行用二次電池の電力を貯留する二次電池を備え、前記走行用二次電池から放電された電力を前記二次電池に充電可能となっている
ことを特徴とする請求項1に記載の走行用二次電池昇温システム。
【請求項3】
前記昇温制御部は、前記走行用二次電池への充電と放電とを周期的に繰り返すことで前記走行用二次電池を昇温し、この時の充放電量の大きさは、前記予測温度又は前記走行用二次電池の現在の温度と前記目標電池温度との温度差が大きいほど大きく設定される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の走行用二次電池昇温システム。
【請求項4】
前記走行用二次電池の温度を検出する温度検出部を備え、
前記昇温制御部は、前記温度検出部で検出された前記走行用二次電池の温度が低いほど前記充放電量の大きさの最大値を小さく設定し、前記最大値以下の前記充放電量で前記走行用二次電池への充電と放電とを繰り返すことで前記走行用二次電池を昇温する
ことを特徴とする請求項3に記載の走行用二次電池昇温システム。
【請求項5】
前記昇温制御部は、前記タイマー充電制御部による充電が設定されていない場合には、前記温度検出部で検出された前記走行用二次電池の温度が前記目標電池温度よりも低い場合に、前記最大値で前記走行用二次電池への充電と放電とを繰り返すことで前記走行用二次電池を昇温する
ことを特徴とする請求項4に記載の走行用二次電池昇温システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記電動車両の走行開始後の走行予定ルートを取得する走行予定ルート取得部を備え、
前記目標電池温度設定部は、前記走行予定ルート取得部で取得した前記走行予定ルートから前記電動車両の走行開始後の前記走行用電動機の負荷を推定して、前記目標電池温度を当該負荷が大きいほど高い温度に設定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の走行用二次電池昇温システム。
【請求項7】
前記昇温制御部は、前記走行用二次電池の温度が前記目標電池温度に達した後は、前記走行用二次電池の充放電を、昇温のための充放電量よりも低い充放電量で実施するように制御して前記走行用二次電池を前記目標電池温度に保温する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の走行用二次電池昇温システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、電動車両に装備された走行用二次電池の温度を上昇させる、走行用二次電池昇温システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両の走行用電池に適用されるリチウムイオン電池等の二次電池は、一般に、温度が低下すると充放電量が低下する特性がある。このため、電池の温度が低い場合には速やかに電池を昇温することが好ましい。電池を直接温めるヒータのような電池昇温用の機器を装備すれば電池を昇温することができる。例えば特許文献1には、外部電力と電池電力とのいずれかを選択し、選択された電力を用いて電気ヒータを作動させて熱を発生させて対象電池を昇温させる制御に関する技術が開示されている。
【0003】
しかし、このような機器に頼らずに電池の昇温を実施できるようにしたい。かかる観点から、電動車両の走行用二次電池の昇温技術も提案されている。
例えば特許文献2には、電池の自己発熱を利用し、リップル電流を二次電池に積極的に発生させることによって二次電池を自身の内部抵抗により昇温させる技術が開示されている。この技術では、電池の自己発熱を利用、リップル電流を二次電池に積極的に発生させることによって、二次電池を自身の内部抵抗により昇温させる。
【0004】
また、特許文献3には、二次電池の充放電を促進し自己発熱によって昇温させる技術が開示されている。この技術は、二次電池とモータとの組み合わせを前輪側と後輪側で二組用意し、走行中に、前輪駆動用モータでは力行運転し、後輪駆動モータでは回生運転する。このとき、前輪駆動用モータで車両駆動力分よりも余剰に駆動力を発生し、その余剰分を後輪で回生させる。この余剰分の駆動力による力行と回生とによる電池の充放電を実施することで、通常走行よりも電池の充放電を促進し自己発熱によって昇温させる。
【0005】
また、特許文献4には、低温状態の二次電池に大きな電流で充電が行われると、二次電池の性能劣化が生じる場合があるため、これを抑制しつつ二次電池の充電をする技術が開示されている。この技術は、タイマー充電開始時の電池温度を予測し、充電電流が制限される程低温である場合は、二次電池の放電または充放電を実行して二次電池を昇温させた後に充電を行う。これにより、二次電池の劣化の進行を抑制しつつタイマー充電を実行できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-34271号公報
【特許文献2】国際公開第2011/004464号
【特許文献3】特開2004-320882号公報
【特許文献4】特開2022-81897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献2~4の技術は、ヒータのような電池昇温用の機器に頼らずに電池の昇温を実施できる。しかし、特許文献2の技術では、電池が低温であるほど内部抵抗が大きく、流せる電流は限られるため、昇温に時間を要することが推測される。
【0008】
また、特許文献3の技術では、走行中のみ電池昇温制御を実施する為、走行開始直後に電池が低温であれば、電池出力が抑制される。また、昇温は走行状況に依存するので、二組の二次電池の温度にばらつきが生じやすく、目標温度までの電池の温度パターン制御が困難な場合が発生する。
【0009】
この点、特許文献4の技術は、特許文献2,3の課題を解消可能と考えられ、また、充電要求に応じて二次電池を昇温させることができるが、二次電池の放電または充電を実行して二次電池を昇温させる際の充放電態様が不明であり、エネルギー効率の観点から技術開発の余地がある。
【0010】
本件は、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、電池昇温用の機器に頼らずにエネルギー効率よく二次電池を昇温させることを可能とする走行用二次電池昇温システムを提供することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示のハイブリッド車両の制御装置は、以下に開示する態様(適用例)として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。態様2以降の各態様は、何れもが付加的に適宜選択されうる態様であって、何れもが省略可能な態様である。態様2以降の各態様は、何れもが本件にとって必要不可欠な態様や構成を開示するものではない。
【0012】
態様1.開示の走行用二次電池昇温システムは、電動車両に装備され前記電動車両の走行用電動機に電力を給電する走行用二次電池と、前記走行用二次電池と接続されることで前記走行用二次電池の充電及び放電を行う外部充電器と、前記外部充電器と接続された前記走行用二次電池の充放電を制御する制御装置とを備える。前記制御装置は、前記外部充電器と接続された前記電動車両の走行開始予定時刻を取得する走行開始予定時刻取得部と、前記走行開始予定時刻における前記走行用二次電池の温度を予測する温度予測部と、前記外部充電器との接続中に、前記走行開始予定時刻までに前記走行用二次電池の充電容量が目標容量に達するように、前記外部充電器による前記走行用二次電池の充電を制御するタイマー充電制御部と、前記走行用二次電池の目標電池温度を設定する目標電池温度設定部を有し、前記温度予測部で予測された予測温度が前記目標電池温度よりも低い場合は、前記外部充電器による前記走行用二次電池の充電と、前記走行用二次電池から前記外部充電器への放電と、を制御することで前記走行開始予定時刻までに前記走行用二次電池を前記目標電池温度まで昇温する昇温制御部と、を備える。前記外部充電器には、前記走行用二次電池から放電された電力を利用する給電対象が接続されている。
【0013】
態様2.上記の態様1において、前記外部充電器は、前記走行用二次電池の電力を貯留する二次電池を備え、前記走行用二次電池から放電された電力を前記二次電池に充電可能となっていることが好ましい。
【0014】
態様3.上記の態様1又は2において、前記昇温制御部は、前記走行用二次電池への充電と放電とを周期的に繰り返すことで前記走行用二次電池を昇温し、この時の充放電量の大きさは、前記予測温度又は前記走行用二次電池の現在の温度と前記目標電池温度との温度差が大きいほど大きく設定されることが好ましい。
【0015】
態様4.上記の態様3において、前記走行用二次電池昇温システムは、前記走行用二次電池の温度を検出する温度検出部を備えることが好ましい。この場合、前記昇温制御部は、前記温度検出部で検出された前記走行用二次電池の温度が低いほど前記充放電量の大きさの最大値を小さく設定し、前記最大値以下の前記充放電量で前記走行用二次電池への充電と放電とを繰り返すことで前記走行用二次電池を昇温することが好ましい。
【0016】
態様5.上記の態様4において、前記昇温制御部は、前記タイマー充電制御部による充電が設定されていない場合には、前記温度検出部で検出された前記走行用二次電池の温度が前記目標電池温度よりも低い場合に、前記最大値で前記走行用二次電池への充電と放電とを繰り返すことで前記走行用二次電池を昇温することが好ましい。
【0017】
態様6.上記の態様1~5の何れかにおいて、前記制御装置は、前記電動車両の走行開始後の走行予定ルートを取得する走行予定ルート取得部を備え、前記目標電池温度設定部は、前記走行予定ルート取得部で取得した前記走行予定ルートから前記電動車両の走行開始後の前記走行用電動機の負荷を推定して、前記目標電池温度を当該負荷が大きいほど高い温度に設定することが好ましい。
【0018】
態様7.上記の態様1~6の何れかにおいて、前記昇温制御部は、前記走行用二次電池の温度が前記目標電池温度に達した後は、前記走行用二次電池の充放電を、昇温のための充放電量よりも低い充放電量で実施するように制御して前記走行用二次電池を前記目標電池温度に保温することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
開示の走行用二次電池昇温システムによれば、電池昇温用の機器に頼らずにエネルギー効率よく二次電池を昇温させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る走行用二次電池昇温システムを示す図であって、(a)はその概略構成図、(b)はその制御装置を主体に示すブロック図である。
図2図1に示すシステムの二次電池の各種温度におけるSOCに対応した充放電(入出力)可能電力(SOP)の特性を示すグラフである。
図3図1に示すシステムの二次電池の温度及び充放電の振幅に対する昇温特性を示すグラフである。
図4図3に示す特性を用いて目標電池温度、現在電池温度及び現在SOCから昇温時間を推定する手法を説明するブロック図である。
図5図1に示すシステムの二次電池の温度及び昇温に利用可能な余裕時間に対する充放電の振幅の特性を示すグラフである。
図6図5に示す特性を用いて目標電池温度、現在電池温度、及び余裕時間から充放電の振幅パターンを設定する手法を説明するブロック図である。
図7図1に示すシステムによるタイマー充電制御及び昇温制御に伴うSOC及び電池温度の変動の第1例を示すタイムチャートである。
図8図1に示すシステムによるタイマー充電制御及び昇温制御に伴うSOC及び電池温度の変動の第2例を示すタイムチャートである。
図9図1に示すシステムによる制御の概要を説明するフローチャートである。
図10図1に示すシステムによる制御の詳細を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照して、実施形態としての走行用二次電池昇温システムについて説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【実施例0022】
[1.システム構成]
図1(a)に示すように、本実施形態に係る走行用二次電池昇温システムは、電動車両1(以下、単に「車両1」ともいう)に装備される走行用二次電池2(以下、単に「バッテリ2」ともいう)と、家屋3側のカーポート4等に装備された外部充電器としてのV2H機器5と、電動車両1に装備されて走行用二次電池2の充放電を制御する制御装置6とを備えている。
なお、バッテリ2の電力は、車両1の走行用モータ7(走行用電動機、以下、単に「モータ7」という)に供給される。
【0023】
電動車両1は、V2H機器5と接続可能な電動車両であればよく、内燃機関を装備しない電気自動車だけでなく、内燃機関を装備しV2H機器5と接続可能なプラグインハイブリッド車を含む。
また、本実施形態では、バッテリ2にリチウムイオン二次電池を用いている。ただし、走行用二次電池はこれに限定されない。このバッテリ2には、バッテリ2の充放電時に充放電を制御する充放電器21が接続される。さらに、充放電器21には、車両1の外部に開口してV2H機器5と接続可能な充放電ポート22が接続されている。
【0024】
本実施形態では、家屋3に、太陽光発電装置(PV;Photovoltaic)31と、太陽光発電装置31で発電した直流電気を家庭で使用できるように交流電流に変換したり太陽光発電装置31を管理したりするPV用パワーコンディショナー32とが装備されている。PV用パワーコンディショナー32で変換された交流電流(白矢印参照)や、送電線8を通じて電力会社から供給される交流電流(黒矢印参照)は、家屋3に装備された分電盤33を通じて、家屋3内の各種家電製品等の電気設備(給電対象)34に供給される。また、太陽光発電装置31で発電した余剰電力がPV用パワーコンディショナー32によって送電線8を通じて電力会社の送電システムに給電できるようになっている。
【0025】
V2H機器5は、車両1のバッテリ2と家屋3側の電気設備34との間の双方向で電力の授受を可能とするV2H(Vehicle to Home)システムの中心となる構成機器であり、交流電流を直流電流に切り替える機能と直流電流を交流電流に切り替える機能とを有する電流変換器51を備えている。本実施形態では、V2H機器5の内部にも二次電池52が装備され、外部からの給電によって充電できるようになっている。V2H機器5には、充放電ポート22に差し込んでバッテリ2と接続する充電ガン55が装備される。
【0026】
バッテリ2をV2H機器5に、家屋3側の分電盤33をV2H機器5に、それぞれ電線ケーブル53,54を通じて電気的に接続することにより、分電盤33から供給された交流電流の電気を直流電流に切り替えて車両1のバッテリ2を充電することや、車両1のバッテリ2に充電された電力を直流電流から交流電流に切り替えて家屋3側の分電盤33に給電することが可能となる。
【0027】
なお、本実施形態では、V2H機器5が家屋3を通じて送電線8に接続されており、バッテリ2からV2H機器5に供給された電力を交流電流に切り替えて家屋3から送電線8を通じて電力会社の送電システムに給電できるようになっている。
【0028】
[2.制御構成]
制御装置6には、車両に搭載される電子制御システム(ECU;Electronic Control Unit)を適用している。なお、ECUは、CPU,各種メモリ及び入出力インターフェイス等から構成される。また、制御装置6にはタイマーが内蔵されており、現在時刻を認識することができる。
【0029】
図1(b)に示すように、制御装置6は、車両1とV2H機器5との接続中に、走行開始予定時刻までにバッテリ2の充電容量が目標容量に達するように、V2H機器5によるバッテリ2の充電を制御するタイマー充電制御部61と、V2H機器5によるバッテリ2の充放電を制御することで走行開始予定時刻までにバッテリ2を目標電池温度まで昇温する昇温制御部62とを有している。
【0030】
制御装置6は、さらに、ドライバーにより入力される車両1の充電後(V2H機器5との接続後)の走行開始予定時刻を取得する走行開始予定時刻取得部63と、走行開始予定時刻におけるバッテリ2の温度を予測する温度予測部64と、バッテリ2のSOC(State Of Charge)を取得するSOC取得部65と、車両1の走行開始後の走行予定ルートを取得する走行予定ルート取得部66と、バッテリ2の目標電池温度を設定する目標電池温度設定部67とを備えている。
【0031】
また、制御装置6には、バッテリ2の電圧を検出する電圧センサ11、バッテリ2の充放電時の電流を検出する電流センサ12及びバッテリ2の温度を検出する温度センサ(温度検出部)13が接続されている。詳細は図示しないが、電圧センサ11はバッテリ2に並列に接続され、バッテリ2の正負極間の電圧を測定する。電流センサ12は、バッテリ2に直接に接続されており、バッテリ2の充電電流及び放電電流を測定する。温度センサ13は、バッテリ2の近傍に設けられている。
【0032】
温度予測部64は、温度センサ13で検出された現在の電池温度(バッテリ2の温度)と天気予報とからタイマー充電時(充電開始時点及び充電終了時点)の電池温度を予測する。なお、タイマー充電開始時点の電池温度は現在の電池温度と天気予報(具体的にはタイマー充電時までの外気温度)とから推定でき、タイマー充電終了時点の電池温度は、タイマー充電開始時点の電池温度に、タイマー充電で昇温すると予測される昇温温度を加算することで推定できる。タイマー充電で昇温すると予測される昇温温度は、タイマー充電時の充電電力を基に推定できる。
【0033】
SOC取得部65は、例えばバッテリ2のSOCとバッテリ2の電圧値とが一対一対応をしている特性のものであれば、電圧センサ11で検出されたバッテリ2の電圧からバッテリ2のSOCを取得する。SOC取得部65は、これに限らず周知の推定方法を用いてバッテリ2のSOCを取得することができる。
【0034】
走行予定ルート取得部66は、例えば車両1に搭載されるナビゲーションシステム(図示略)を用いてドライバーによって入力された目的地までの走行予定ルートを利用することができ、ナビゲーションシステムを通じて取得することができる。
【0035】
目標電池温度設定部67は、車両1の走行開始時の電池温度の目標値である目標電池温度を設定する。本実施形態では、目標電池温度設定部67は、車両1の走行開始後のモータ7の負荷を推定し、モータ7の負荷が高いほど目標電池温度を高い値に設定する。モータ7の負荷は、走行予定ルート取得部66で取得された走行予定ルートから推定することができる。つまり、走行予定ルートに上り坂があればモータ7の負荷は大きいと推定でき、走行予定ルートの道路の基準速度が高ければ(例えば高速道路)モータ7の負荷は大きいと推定できる。
【0036】
タイマー充電制御部61は、時刻に対応してバッテリ2に対する充電を進行させるタイマー充電制御を実施する。つまり、タイマー充電制御部61は、走行開始予定時刻取得部63で取得された走行開始予定時刻に基づいて、充電完了予定時刻を予め設定する。走行開始予定時刻は、ユーザの車両1への入力により設定される。ユーザの車両1への入力は、ナビゲーションシステムへの入力や、スマートフォンへの入力を車両1へ送信することで行えばよい。また、タイマー充電制御では、タイマー充電終了時のバッテリ2の充電量である目標SOCが設定される。本実施形態では、目標SOCはユーザによる車両1又はV2H機器5への入力によって設定される。
【0037】
タイマー充電制御部61は、温度予測部64で予測されたタイマー充電開始時点の電池温度から、タイマー充電時の電流制御プランを設定する。そして、この設定した電流制御プランの電流値、及び、SOC取得部65で取得されたバッテリ2の現在のSOCの値と目標SOCとの差からタイマー充電に要する時間を推定し、充電完了予定時刻から逆算してタイマー充電を開始する。本実施形態では、充電完了予定時刻はユーザによる車両1又はV2H機器5への入力によって設定される。なお、充電完了予定時刻は、走行開始予定時刻よりも昇温制御に要すると思われる所定の時間分だけ早い時刻に自動的に設定されてもよい。
【0038】
上記の所定の時間は、その地域で想定されるバッテリ2の最低温度から、バッテリ2の充放電電力を最大にできるバッテリ2の温度まで昇温することができる温度に設定すればよい。また、タイマー充電開始時刻は、電力会社の電力使用料金の安い時間帯に充電が完了するように自動的に設定されてもよい。また、充電完了予定時刻だけでなくタイマー充電を開始する時刻もユーザによって設定できるものとしてもよい。この場合、バッテリ2の現在のSOC、及び、充電完了予定時刻とタイマー充電を開始する時刻との差に基づいて、充電完了予定時刻のバッテリ2のSOCが決定される。すなわち、充電完了予定時刻とタイマー充電を開始する時刻とを設定することで、目標SOCが設定される。
【0039】
昇温制御部62は、温度予測部64で予測されたタイマー充電終了時点の電池温度(予測電池温度)と、目標電池温度設定部67で設定された目標電池温度とから、昇温制御の要否を判定する。予測電池温度が目標電池温度以上であれば昇温制御は不要であり、予測電池温度が目標電池温度未満であれば昇温制御が必要になる。
【0040】
昇温制御部62は、昇温制御を実施する時には、V2H機器5を用いてバッテリ2の充放電を繰り返し実施する。つまり、「電池の充放電時の発熱特性」を利用して充放電を繰り返すこと、換言すれば、充電と放電とを交互に実施することによりバッテリ2を発熱させて電池温度を上昇させる。これにより、バッテリ2に入力される電流は、正の値(充電電流)と負の値(放電電流)とを交互に繰り返すことで周期的な波状となる。昇温制御部62は、この充放電を繰り返す際の放電電流、充電電流の振幅(電流の絶対値)を、目標電池温度と電池温度との差に応じて設定し、昇温制御を実施する。昇温制御については後述する。
【0041】
昇温制御の充放電時におけるバッテリ2からの放電時の電力は、V2H機器5を通じて有効利用される。つまり、バッテリ2からの放電電流は、V2H機器5を通じて、家屋3内の電気設備34に給電したり(図1中の斜線付き矢印参照)、送電線8を通じて電力会社の送電システムに給電したり、V2H機器5に内蔵された二次電池52に給電したりして、種々の給電対象に有効利用される。
【0042】
また、本実施形態の昇温制御部62は、タイマー充電制御部61によるタイマー充電開始時点の電池温度が基準温度以下の場合には、予備昇温制御を実施する。この予備昇温制御は、バッテリ2の温度が低いと充電可能な電力が制限されて充電に時間がかかることに着目し、これを回避するために、タイマー充電開始前に、電池温度を基準温度まで昇温させる制御である。この予備昇温制御も、充電と放電とを交互に実施することによりバッテリ2を発熱させて電池温度を上昇させる。
【0043】
さらに、本実施形態の昇温制御部62は、昇温制御の完了後に走行開始予定時刻までに時間がある場合には、電池温度を目標電池温度に保持する保温制御を実施する。この保温制御も、充電と放電とを交互に実施することによりバッテリ2を発熱させて電池温度を維持させる。ただし、保温に必要なだけバッテリ2を発熱させればよいので昇温制御に比べて充放電の振幅は小さくなる。
【0044】
ここで、図2を参照して、各種温度におけるバッテリ2の充放電特性を説明する。
図2は、横軸にSOC、縦軸にSOP(State Of Power)を取り、バッテリ2の温度が20℃、10℃及び0℃の3種の温度の場合の放電可能電力及び充電可能電力を、線種を変えて示すものである。太線の実線は温度が20℃の放電時の特性を示し、中線の実線は温度が10℃の放電時の特性を示し、細線の実線は温度が0℃の放電時の特性を示す。また、太線の破線は温度が20℃の充電時の特性を示し、中線の破線は温度が10℃の充電時の特性を示し、細線の破線は温度が0℃の充電時の特性を示す。
【0045】
図示するように、放電時も充電時もバッテリ2の温度が高い方が放電可能電力及び充電可能電力が高い。特に、バッテリ2の温度が低い(0℃)場合には、充電可能電力が極めて低くなってしまうことがわかる。つまり、バッテリ2の温度が低い(0℃)場合、充電可能電力が極めて低いため充電時間が大幅に長くなってしまうこととなる。
この点に着目したのが、上記の予備昇温制御である。予めバッテリ2の温度を上げておくことで、充電時間を短縮できる。
【0046】
さらに、放電時には、図2に示すように、SOCが高くなるのに応じて放電可能電力が高まる傾向がある。ただし、バッテリ2の温度が20℃の場合、SOCが30%以上では放電可能電力は一定(最大値)となっている。このことから、バッテリ2の温度が20℃に到達すれば、放電可能電力を最大にできることがわかる。
【0047】
前述のように、目標電池温度設定部67で、モータ7の負荷が高いほど目標電池温度を高い値に設定するのは、この点に着目したものである。モータ7の負荷が低ければ、例えばバッテリ2の温度が10℃あるいは0℃で放電可能電力が低くてもモータ7に必要な電力を供給できるが、モータ7の負荷が高ければ、バッテリ2の温度が10℃あるいは0℃で放電可能電力が低くてはモータ7に必要な電力を供給できない。そこで、予想されるモータ7の負荷が高いほど目標電池温度を高い値に設定している。
【0048】
また、走行開始後、回生ブレーキの頻度が高いと予想されれば、回生ブレーキに伴うバッテリ2の発熱による温度上昇を見込むことができるので、目標電池温度を比較的低い値に設定できる。一方、回生ブレーキの頻度が低いと予想されれば、回生ブレーキに伴うバッテリ2の発熱による温度上昇を見込むことができないので、目標電池温度を比較的高い値に設定する必要がある。
【0049】
一方、充電時には、SOCが高くなるのに応じて充電可能電力が低くなる傾向がある。ただし、バッテリ2の温度が20℃の場合、SOCが60%以上になるまでは、充電電可能電力は一定(最大値)となっている。これらのことから、バッテリ2の温度を20℃に到達すれば、充電可能電力を最大にできることがわかる。
【0050】
次に、図3図6を参照して、昇温制御部62による昇温制御時の放電電流及び充電電流の振幅設定について説明する。
図3は横軸に目標電池温度を、縦軸に昇温時間(昇温に要する時間)を取り、電池温度が-10℃の場合を実線で示し、電池温度が0℃の場合を破線で示し、振幅が小の場合を細線で示し、振幅が大の場合を太線で示している。つまり、電池温度が-10℃で振幅が小の場合は細実線で示し、電池温度が-10℃で振幅が大の場合は太実線で示し、電池温度が0℃で振幅が小の場合は細破線で示し、電池温度が0℃で振幅が大の場合は太破線で示している。なお、本実施形態では、放電電流の振幅と充電電流の振幅とを同一としたが、放電電流の振幅と充電電流の振幅は同一とは限らずそれぞれ別設定してもよい。例えば、放電電流の振幅を充電電流の振幅よりも小さくすれば、SOCを増加させつつバッテリ2の温度を上昇させることができる。
【0051】
図3に示すように、振幅が大きいほど昇温時間が短くなる(黒矢印参照)。これは、振幅が大きいほど充放電電流が大きくなってバッテリ2の発熱が促進されるためである。また、現在電池温度が低いほど、もしくは目標電池温度が高いほど昇温時間が長くなる(白矢印参照)。これは、現在電池温度が低いほど目標電池温度と現在電池温度との差が大きくなり、必要な昇温量が大きくなるためである。
【0052】
そこで、図4に示すように、目標電池温度、現在電池温度に対して昇温時間を対応させたマップを振幅毎に(例えば、振幅が小、中、大のそれぞれ)用意することで、昇温時間、つまり、昇温制御によって現在電池温度が目標電池温度まで昇温するのに要する時間を求めることができる。なお、後述するように、昇温時間はタイマー充電終了時刻に依存するため、図4では現在SOCも参照している。
【0053】
また、図5は横軸に目標電池温度を、縦軸に振幅を取り、現在電池温度が-10℃の場合を実線で示し、現在電池温度が0℃の場合を破線で示し、走行開始予定時刻と現在時刻との差(以下、「時間差」という)が小の場合を細線で示し、時間差が大の場合を太線で示している。つまり、現在電池温度が-10℃で時間差が小の場合を細実線で示し、現在電池温度が-10℃で時間差が大の場合を太実線で示し、現在電池温度が0℃で時間差が小の場合を細破線で示し、現在電池温度が0℃で時間差が大の場合を太破線で示している。なお、「時間差」は、昇温を行うことが可能な時間である「余裕時間」に相当する。
【0054】
図5に示すように、時間差が短いほど振幅を大きくする必要があり、時間差が長いと振幅を小さくできる(黒矢印参照)。また、現在電池温度が低いほど振幅を大きくする必要があり、現在電池温度が低いほど振幅は小さくできる(白矢印参照)。また、目標電池温度が高いほど振幅を大きくする必要があり、目標電池温度が低いほど振幅は小さくできる。
【0055】
そこで、図6に示すように、目標電池温度、現在電池温度及び時間差に対して振幅を対応させたマップを用意することで、目標電池温度、現在電池温度及び時間差に応じた振幅量(振幅パターン)を求め設定することができる。この振幅量(振幅パターン)の設定は昇温制御開始時や昇温制御中に行って適宜更新することもできる。
【0056】
ところで、本実施形態の昇温制御部62は、バッテリ2がV2H機器5と接続されていない場合やタイマー充電が設定されていない場合も、必要であれば可能な限り昇温制御を実施可能な状態にするようにドライバー(ユーザ)の行動を促す、すなわちV2H機器5との接続及びタイマー充電を促すための制御を行う。これについて、表1を参照して説明する。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すように、バッテリ2がV2H機器5と接続されタイマー充電が設定されていれば、上記のように、タイマー充電の終了時点の推定電池温度が所定値未満の低温状態であれば、充放電(給電/充電)による昇温制御を実施してバッテリ2を昇温させる。推定電池温度が所定値以上なら昇温制御は不要である。
【0059】
バッテリ2がV2H機器5と接続されているがタイマー充電が設定されていない場合、走行開始予定時刻における推定電池温度が所定値未満の低温状態であれば、ドライバーに昇温制御の実施要否を確認する通知を出し、実施要(実施を希望するというドライバーの要望)を確認ができたら、充放電(給電/充電)による昇温制御を実施してバッテリ2を昇温させる。推定電池温度が所定値以上なら昇温制御は不要であるため、通知も不要である。なお、バッテリ2がV2H機器5と接続されているがタイマー充電が設定されていない場合の走行開始予定時刻は、ユーザに入力を促してもよいし、今までの走行開始時刻の履歴から判断してもよい。
【0060】
更に、バッテリ2がV2H機器5と接続されていない場合、走行開始予定時刻における推定電池温が所定値未満の低温状態であれば、ドライバーにV2H機器5との接続と昇温制御の実施要否とを確認する通知を出し、V2H機器5が接続され実施要を確認ができたら、充放電(給電/充電)による昇温制御を実施してバッテリ2を昇温させる。この場合も、推定電池温度が所定値以上なら昇温制御は不要である。なお、バッテリ2がV2H機器5と接続されていない場合の走行開始予定時刻は、ユーザに入力を促してもよいし、今までの走行開始時刻の履歴から判断してもよい。
【0061】
次に、図7,8のタイムチャートを参照して、タイマー充電及び昇温制御によるSOC及び電池温度の変動例を説明する。なお、図7,8において、実線はSOCの変動を示し、破線は電池温度の変動を示す。
【0062】
図7は昇温に必要な「昇温時間」が「走行開始予定時刻-タイマー充電終了時刻」即ち、「余裕時間」よりも短い、つまり、「余裕時間」が十分にある場合の例を示す。
図7に示すように、走行開始予定時刻等に基づいて予め設定されたタイマー充電開始時刻t11でタイマー充電が開始される。タイマー充電が開始されると、充電によりSOCが増加していく。タイマー充電中にも、バッテリ2の発熱があるのでバッテリ2の温度も僅かではあるが上昇する。SOCが目標SOCに達すると(時刻t12)、タイマー充電を終了する。その後(時刻t13)、昇温制御を開始する。
【0063】
この場合の昇温制御では、充放電の振幅量(振幅パターン)を、走行開始予定時刻(時刻t14)までにバッテリ2の温度を目標電池温度とできる程度に小さく設定する。この昇温制御における周期的な充放電では、放電時にはSOCが低下するが充電時にはSOCが回復する。このため昇温制御時には、SOCが上下変動しながらバッテリ2の温度が上昇する。バッテリ2の温度が目標電池温度に達して(時刻t14)、車両1が走行を開始する時刻(時刻t15)まで時間があれば、すなわち、走行開始予定時刻(時刻t14)に達してもバッテリ2とV2H機器5との接続が継続している場合は、保温制御を実施する。この保温制御時も充放電に伴いSOCが上下変動しながらバッテリ2の温度が保持されるが、充放電の振幅が小さいため、SOCの上下変動は少ない。バッテリ2とV2H機器5との接続が切断されたら、保温制御を終了する。
【0064】
図8は昇温に必要な「昇温時間」が「走行開始予定時刻-タイマー充電終了時刻」即ち、「余裕時間」よりも長い、つまり、「昇温時間」が十分に確保できない場合の例を示す。
図8に示すように、この場合も走行開始予定時刻等に基づいて予め設定されたタイマー充電開始時刻t21でタイマー充電が開始される。タイマー充電が開始されると、充電によりSOCが増加していく。タイマー充電中にも、バッテリ2の発熱があるのでバッテリ2の温度も僅かではあるが上昇する。SOCが目標SOCに達すると(時刻t22)、タイマー充電を終了すると共に昇温制御を開始する。
【0065】
この場合の昇温制御では、充放電の振幅量(振幅パターン)を最大値に設定する。充放電の振幅量の最大値は、バッテリ2の温度に基づいて決定されるバッテリ2の充放電可能な最大電力(電流)と、V2H機器5の許容最大出力とに基づいて設定される。バッテリ2の温度に基づいて決定されるバッテリ2の充放電可能な最大電力(電流)は、図2のような特性に基づいて、バッテリ2の温度毎に設定される。充放電の振幅量を大きく設定することで昇温速度を速めることができる。これにより、走行開始予定時刻(時刻t23)まで昇温制御を実施することで、バッテリ2の温度を目標電池温度に近づけることができる。
【0066】
[3.フローチャート]
図9は、制御装置6により実施される昇温制御の処理の一例を示すフローチャートである。このフローは、車両停止後、所定のタイミングで実施される。
図9に示すように、まず、タイマー充電を設定しているか否かを判定し(ステップA10)、タイマー充電を設定している場合は、天気予報と現在電池温度よりタイマー充電終了時における電池温度を予測し、この予測した電池温度が目標電池温度未満か否かを判定する(ステップA20)。なお、タイマー充電の設定は、バッテリ2とV2H機器5とが接続されていることが前提である。
【0067】
予測した電池温度が目標電池温度未満なら、タイマー充電、昇温制御終了時にバッテリ2の充電量が目標SOCに達しかつ電池温度が目標電池温度以上になるように、V2H機器5を用いた充放電による昇温制御を実施する(ステップA30)。以下、本実施形態では、目標SOCを満充電として説明する。一方、予測した電池温度が目標電池温度以上なら、昇温制御は行わず、通常のタイマー制御を実施する(ステップA40)。昇温制御の際の放電時には、放電電流は電気設備34等の給電対象に給電されて有効利用される。電気設備34等の給電対象への給電には、V2H機器5に内蔵された二次電池52への充電も含まれる。
【0068】
タイマー充電を設定していない場合は、ステップA10からステップA50に進み、天気予報と現在電池温度より走行開始予定時刻での電池温度を予測し、この予測した電池温度が目標電池温度未満か否かを判定する。予測した電池温度が目標電池温度未満なら、ユーザにV2H機器5へ接続し、昇温制御の実施を促す為にスマートフォン等へ通知する(ステップA60)。さらに、走行開始予定時刻に基づいて昇温制御終了時刻を設定し(ステップA70)、昇温制御終了時に満充電かつ電池温度が目標電池温度以上になるように、V2H機器5を用いた充放電による昇温制御を実施する(ステップA80)。
【0069】
図10は、制御装置6により実施されるタイマー充電及び昇温制御時の各処理の例をより詳細に示すフローチャートである。このフローは、車両停止後、所定のタイミングで実施される。
【0070】
図10に示すように、まず、走行開始予定時刻が設定され、充電ガン55が接続される(ステップB10)。次に、目標電池温度、現在電池温度、タイマー充電終了時刻、走行開始予定時刻から振幅パターンを決定する(ステップB20)。次に、振幅パターン、目標電池温度、現在電池温度から、昇温時間を演算する(ステップB30)。
【0071】
そして、昇温時間が「走行開始予定時刻-タイマー充電終了時刻」よりも短いか否かを判定する(ステップB40)。ここで、昇温時間が「走行開始予定時刻-タイマー充電終了時刻」よりも短い場合は、現在時刻がタイマー充電開始時刻か否かを判定する(ステップB50)。
【0072】
現在時刻がタイマー充電開始時刻になったら、タイマー充電を開始する(ステップB60)。そして、その時点のSOCを参照しながらタイマー充電終了か否かを判定する(ステップB70)。タイマー充電が終了したら、その時点の現在電池温度を取得し(ステップB80)、目標電池温度、現在電池温度、タイマー充電終了時刻(現在時刻)、走行開始予定時刻から振幅パターンを更新する(ステップB90)。
【0073】
そして、更新した振幅パターンから昇温時間を更新し、更新した昇温時間、走行開始予定時刻から昇温開始時刻を算出し(ステップB100)、現在時刻が昇温開始時刻(昇温制御の開始時刻)か否かを判定する(ステップB110)。現在時刻が昇温開始時刻になったら、昇温制御を開始する(ステップB120)。
【0074】
バッテリ2の温度が目標電池温度に到達したか否かを判定する(ステップB130)。バッテリ2の温度が目標電池温度に到達したら、昇温制御を終了する(ステップB140)。そして、保温制御を実施する(ステップB150)。
【0075】
一方、昇温時間が「走行開始予定時刻-タイマー充電終了時刻」よりも短くない場合は、ステップB40からステップB160に進み、振幅パターンを最大値に設定する。
そして、現在時刻がタイマー充電開始時刻か否かを判定する(ステップB162)。現在時刻がタイマー充電開始時刻になったら、タイマー充電を開始する(ステップB170)。さらに、その時点のSOCを参照しながらタイマー充電終了か否かを判定する(ステップB180)。タイマー充電が終了したら、振幅パターンを最大値にして昇温制御を開始する(ステップB190)。
【0076】
そして、車両1の走行開始予定時刻か否かを判定し(ステップB200)、バッテリ2の温度が目標電池温度に到達したか否かを判定する(ステップB210)。車両1の走行開始予定時刻に到達するまでに、バッテリ2の温度が目標電池温度に到達したら、昇温制御を終了する(ステップB220)。また、バッテリ2の温度が目標電池温度に到達する前に、車両1の走行開始予定時刻に到達したら、その時点で昇温制御を終了する(ステップB220)。
【0077】
[4.効果]
本実施形態に係る走行用二次電池昇温システムは、上述のように構成されるので、以下のような作用及び効果を得ることができる。
【0078】
(1)温度予測部64で予測されたバッテリ2の予測温度が目標電池温度よりも低い場合は、タイマー充電制御部61によるバッテリ2の充電制御と連携して、外部充電器であるV2H機器5によるバッテリ2の充放電を制御することで、電池昇温用の機器に頼らずに、走行開始予定時刻までにバッテリ2を目標電池温度まで効率よく昇温することができる。したがって、バッテリ2の温度が低いことによってSOPが抑えられてモータ7への供給電流が制限される不具合が解消される。特に、昇温制御中のバッテリ2の充放電時の放電電力は、給電対象(電気設備34等)に給電されて有効に利用されるので、エネルギーロスを抑えることができる。
【0079】
(2)V2H機器5は、バッテリ2の電力を貯留する二次電池52を備えているので、昇温制御中のバッテリ2の充放電時の放電電力を、V2H機器5の内部の二次電池52に給電して充電することができる。このため、昇温制御中のバッテリ2の充放電時の放電電力を効率的に利用することができる。
【0080】
(3)昇温制御時の充放電の充放電量(振幅)の大きさは、予測温度や検出温度と目標電池温度との温度差が大きいほど大きく設定され、バッテリ2の昇温を行うのに利用可能な余裕時間が短いほど大きく設定されるので、必要に応じて、速やかな昇温や緩やかな昇温を行うことができる。速やかな昇温により、制限された時間内でのバッテリ2の昇温をできる一方で、緩やかな昇温でSOC変動の少ない昇温を実施できる。
【0081】
(4)検出されたバッテリ2の温度が低いほど充放電量の大きさ(振幅)の最大値を小さく設定し、最大値以下の充放電量で昇温制御を実施することで、バッテリ2の負担を過剰にすることなく昇温制御を行うことができ、バッテリ2の劣化を抑制することができる。
【0082】
(5)タイマー充電制御部61による充電が設定されていない場合にも、検出されたバッテリ2の温度が目標電池温度よりも低い場合には、充放電量をバッテリ2の温度に基づいて決定された最大値としてバッテリ2への充電と放電とを繰り返す昇温制御を実施するので、バッテリ2の温度を早期に上昇させ、給電電流の低下を抑止でき、モータ7の出力不足を回避することができる。
【0083】
(6)取得した走行予定ルートから車両1の走行開始後のモータ7の負荷を推定して、負荷が大きいほど目標電池温度を高い温度に設定するので、車両1の走行開始後に、バッテリ2の温度が低いことによるモータ7への供給電流の不足によるモータ7の出力不足を回避することができる。
【0084】
(7)また、バッテリ2の温度が目標電池温度に達した後は、バッテリ2の充放電を低い充放電量で実施するように制御してバッテリ2を目標電池温度に保温するので、昇温制御終了後にバッテリ2の温度が低下することを回避できる。また、このときのSOC変動を少なくすることができるので、保温終了後のSOCが安定する。
【0085】
[5.その他]
上述の実施形態で説明した走行用二次電池昇温システムの構成及びこのシステムで実施される制御は一例であり、本件の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更や省略をすることができる。
【0086】
例えば、上記実施形態では、家屋3に太陽光発電装置31やPV用パワーコンディショナー32が装備されたものを例示したが、これらは必須ではない。
また、V2H機器5にも二次電池52が装備されているが、これも必須ではない。
【0087】
さらに、外部充電器にV2H機器5を適用したが、外部充電器は、バッテリ2の充放電による昇温制御を行え、かつ、放電時の電力を給電対象(電気設備34等)に給電できるものであればよく、V2H機器5に限定されない。
また、放電時の電力の供給先である給電対象は、家屋3の内部に設けられる電気設備34や、V2H機器5の内部に設けられる二次電池52等に限らないが、少なくとも、V2H機器5又は家屋3に何らかの給電対象(電気設備34,二次電池52等)を設けておくことで、本実施形態に係る昇温制御と同様の制御を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本件は、走行用二次電池の製造産業に利用可能であり、その走行用二次電池が適用された電動車両の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 車両(電動車両)
2 バッテリ(走行用二次電池)
3 家屋
4 カーポート
5 V2H機器(外部充電器)
6 制御装置
7 モータ(走行用電動機、走行用モータ)
8 送電線
11 電圧センサ
12 電流センサ
13 温度センサ(温度検出部)
21 充放電器
22 充放電ポート
31 太陽光発電装置(PV;Photovoltaic)
32 PV用パワーコンディショナー
33 分電盤
34 電気設備(給電対象)
51 電流変換器
52 V2H機器の二次電池
53,54 電線ケーブル
55 充電ガン
61 タイマー充電制御部
62 昇温制御部
63 走行開始予定時刻取得部
64 温度予測部
65 SOC取得部
66 走行予定ルート取得部
67 目標電池温度設定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10