(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136698
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】発光素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/40 20100101AFI20240927BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20240927BHJP
【FI】
H01L33/40
H01L33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047893
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 浩一
(72)【発明者】
【氏名】面家 英樹
(72)【発明者】
【氏名】松井 慎一
(72)【発明者】
【氏名】牧野 浩明
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA03
5F241AA24
5F241CA05
5F241CA13
5F241CA40
5F241CA65
5F241CA73
5F241CA74
5F241CA82
5F241CA92
5F241CA93
(57)【要約】
【課題】電力効率の高いUVCの発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】発光波長が200~280nmのAlを含むIII族窒化物半導体からなる発光素子の製造方法において、p層14上に、p層14に接するRu層を有するp電極15を形成するp電極形成工程と、孔23の底面に露出するn層11上に、n層11に接し厚さ5nm以上15nm以下のVであるV層と、V層上に接するAlであるAl層と、を有したn電極16を形成するn電極形成工程と、温度500~650℃、1~10分間の熱処理を行い、p電極15およびn電極16のコンタクト抵抗を低減するとともに、p層14のp型不純物の活性化を行う熱処理工程と、を有し、孔23とp層14の面積の合計に対するp電極15の面積の割合が70%以上となるように、孔23およびp電極15のパターンを設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光波長が200~280nmのAlを含むIII族窒化物半導体からなる発光素子の製造方法において、
基板上にn層、発光層、p層の順に積層する半導体層形成工程と、
前記p層表面の所定の領域に、前記n層に達する深さの孔を形成する孔形成工程と、
前記p層上に、前記p層に接するRu層を有するp電極を形成するp電極形成工程と、
前記孔の底面に露出する前記n層上に、前記n層に接し厚さ5nm以上15nm以下のVまたはVを主成分とする金属であるV層と、前記V層上に接するAlまたはAlを主成分とする金属であるAl層と、を有したn電極を形成するn電極形成工程と、
温度500~650℃、1~10分間の熱処理を行い、前記p電極および前記n電極のコンタクト抵抗を低減するとともに、前記p層のp型不純物の活性化を行う熱処理工程と、を有し、
前記孔と前記p層の面積の合計に対する前記p電極の面積の割合が70%以上となるように、前記孔および前記p電極のパターンを設定する、発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記孔は、複数形成し、前記孔の配列パターンは正方格子状、正三角格子状、またはハニカム状とし、前記n電極は、各前記孔の底面に形成する、請求項1に記載の発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程後、前記p電極および前記n電極上にそれぞれ第1pn電極および第2pn電極を形成するpn電極形成工程と、
絶縁体である保護膜を、素子上面全体を覆うように形成する保護膜形成工程と、
前記保護膜の所定位置に孔を設け、前記保護膜上に孔を介して前記第1pn電極と接続するpパッド電極と、孔を介して前記第2pn電極と接続し、前記pパッド電極から離間するnパッド電極と、を形成するパッド電極形成工程と、
をさらに有する請求項1または請求項2に記載の発光素子の製造方法。
【請求項4】
発光波長が200~280nmのAlを含むIII族窒化物半導体からなる発光素子において、
基板と、
基板上にn層、発光層、p層の順に積層された半導体層と、
前記p層表面の所定の領域に設けられ、前記n層に達する深さの孔と、
前記p層上に接して設けられたRu層を有するp電極と、
前記孔の底面に露出する前記n層上に設けられ、前記n層上に接して位置し、AlNxまたは前記n層よりもAl組成の高いAlyGa1-yNxからなり、厚さが1nm以上3nm以下である第1層と、前記第1層上に接して位置し、Alを主としVを含む金属からなり、厚さが50nm以上500nm以下である第2層と、を有したn電極と、を有し、
前記孔と前記p層の面積の合計に対する前記p電極の面積の割合が70%以上となるように、前記孔および前記p電極のパターンが設定されている、発光素子。
【請求項5】
前記孔は、複数形成され、前記孔の配列パターンは格子状であり、前記n電極は、各前記孔の底面に形成されている、請求項4に記載の発光素子。
【請求項6】
前記p電極および前記n電極上にそれぞれ設けられた第1pn電極および第2pn電極と、
素子上面全体を覆う絶縁体である保護膜と、
前記保護膜上に設けられ、前記保護膜に設けられた孔を介して前記第1pn電極と接続されたpパッド電極と、
前記保護膜上に設けられ、前記保護膜に設けられた孔を介して前記第2pn電極と接続され、前記pパッド電極から離間して設けられたnパッド電極と、
をさらに有する請求項4または請求項5に記載の発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外線LEDを水や空気などの殺菌、消毒に使用することが注目されており、紫外線LEDの高効率化に向けた研究、開発が盛んに行われている。
【0003】
従来のIII族窒化物半導体からなる発光素子では、p層と接触するp電極としてITOやNi/Auが広く用いられている。それらの材料はUVC(200~280nm)では反射率が低い。そこでUVCの発光素子では反射率が高いRhやRuをp電極として用いることが検討されている(特許文献1)。また、n層と接触するn電極としてはTi/Alが広く用いられており、特許文献2のようにVを用いることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-64955号公報
【特許文献2】特開2003-77862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、UVCの発光素子は電力効率が低く、向上が求められていた。電力効率を高くするためには、光取り出し効率の向上と順方向電圧Vfの低減を両立する必要があり、実現は困難であった。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、電力効率の高いUVCの発光素子およびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
発光波長が200~280nmのAlを含むIII族窒化物半導体からなる発光素子の製造方法において、
基板上にn層、発光層、p層を順に積層する半導体層形成工程と、
前記p層表面の所定の領域に、前記n層に達する深さの孔を形成する孔形成工程と、
前記p層上に、前記p層に接するRu層を有するp電極を形成するp電極形成工程と、
前記孔の底面に露出する前記n層上に、前記n層に接し厚さ5nm以上15nm以下のVまたはVを主成分とする金属であるV層と、前記V層上に接するAlまたはAlを主成分とする金属であるAl層と、を有したn電極を形成するn電極形成工程と、
温度500~650℃、1~10分間の熱処理を行い、前記p電極および前記n電極のコンタクト抵抗を低減するとともに、前記p層のp型不純物の活性化を行う熱処理工程と、を有し、
前記孔と前記p層の面積の合計に対する前記p電極の面積の割合が70%以上となるように、前記孔および前記p電極のパターンを設定する、発光素子の製造方法にある。
【0008】
本発明の他の一態様は、
発光波長が200~280nmのAlを含むIII族窒化物半導体からなる発光素子において、
基板と、
基板上にn層、発光層、p層の順に積層された半導体層と、
前記p層表面の所定の領域に設けられ、前記n層に達する深さの孔と、
前記p層上に接して設けられたRu層を有するp電極と、
前記孔の底面に露出する前記n層上に設けられ、前記n層上に接して位置し、AlNxまたは前記n層よりもAl組成の高いAlyGa1-yNxからなり、厚さが1nm以上3nm以下である第1層と、前記第1層上に接して位置し、Alを主としVを含む金属からなり、厚さが50nm以上500nm以下である第2層と、を有したn電極と、を有し、
前記孔と前記p層の面積の合計に対する前記p電極の面積の割合が70%以上となるように、前記孔および前記p電極のパターンが設定されている、発光素子にある。
【発明の効果】
【0009】
上記態様によれば、Ruからなるp電極の面積を広く取ることにより、p電極による紫外線の反射を増やし、光取り出し効率を向上させることができる。また、p電極、n電極のいずれもコンタクト抵抗が低く、順方向電圧を低減することができる。そのため、UVCの発光素子の電力効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態における発光素子の構成を示した図であって、基板に垂直な断面図。
【
図3】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【
図4】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【
図5】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【
図6】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【
図7】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【
図8】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【
図9】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【
図10】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【
図12】発光素子の発光波長と電力効率を示したグラフ(散布図)。
【
図14】実施形態における発光素子の変形例2の構成を示した図であって、基板に垂直な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発光素子の製造方法は、発光波長が200~280nmのAlを含むIII族窒化物半導体からなる発光素子の製造方法である。また、基板上にn層、発光層、p層を順に積層する半導体層形成工程と、前記p層表面の所定の領域に、前記n層に達する深さの孔を形成する孔形成工程と、前記p層上に、前記p層に接するRu層を有するp電極を形成するp電極形成工程と、前記孔の底面に露出する前記n層上に、前記n層に接し厚さ5nm以上15nm以下のVまたはVを主成分とする金属であるV層と、前記V層上に接するAlまたはAlを主成分とする金属であるAl層と、を有したn電極を形成するn電極形成工程と、温度500~650℃、1~10分間の熱処理を行い、前記p電極および前記n電極のコンタクト抵抗を低減するとともに、前記p層のp型不純物の活性化を行う熱処理工程と、を有する。また、前記孔と前記p層の面積の合計に対する前記p電極の面積の割合が70%以上となるように、前記孔および前記p電極のパターンを設定する。
【0012】
前記孔は、複数形成し、前記孔の配列パターンは正方格子状、正三角格子状、またはハニカム状とし、前記n電極は、各前記孔の底面に形成してもよい。
【0013】
前記熱処理工程後、前記p電極および前記n電極上にそれぞれ第1pn電極および第2pn電極を形成するpn電極形成工程と、絶縁体である保護膜を、素子上面全体を覆うように形成する保護膜形成工程と、前記保護膜の所定位置に孔を設け、前記保護膜上に孔を介して前記第1pn電極と接続するpパッド電極と、孔を介して前記第2pn電極と接続し、前記pパッド電極から離間するnパッド電極と、を形成するパッド電極形成工程と、をさらに有していてもよい。
【0014】
発光素子は、発光波長が200~280nmのAlを含むIII族窒化物半導体からなる。また、基板と、基板上にn層、発光層、p層の順に積層された半導体層と、前記p層表面の所定の領域に設けられ、前記n層に達する深さの孔と、前記p層上に接して設けられたRu層を有するp電極と、前記孔の底面に露出する前記n層上に設けられ、前記n層上に接して位置し、AlNxまたは前記n層よりもAl組成の高いAlyGa1-yNxからなり、厚さが1nm以上3nm以下である第1層と、前記第1層上に接して位置し、Alを主としVを含む金属からなり、厚さが50nm以上500nm以下である第2層と、を有したn電極と、を有する。また、前記孔と前記p層の面積の合計に対する前記p電極の面積の割合が70%以上となるように、前記孔および前記p電極のパターンが設定されている。
【0015】
前記孔は、複数形成され、前記孔の配列パターンは格子状であり、前記n電極は、各前記孔の底面に形成されていてもよい。
【0016】
前記p電極および前記n電極上にそれぞれ設けられた第1pn電極および第2pn電極と、素子上面全体を覆う絶縁体である保護膜と、前記保護膜上に設けられ、前記保護膜に設けられた孔を介して前記第1pn電極と接続されたpパッド電極と、前記保護膜上に設けられ、前記保護膜に設けられた孔を介して前記第2pn電極と接続され、前記pパッド電極から離間して設けられたnパッド電極と、をさらに有していてもよい。
【0017】
(実施形態)
図1は、実施形態における発光素子の構成を示した図であり、基板に垂直な断面図である。また、
図2は、実施形態における発光素子の電極の平面パターンを示した図である。実施形態における発光素子は、フリップチップ型の紫外発光素子であり、発光波長はUVC、たとえば200~280nmである。
【0018】
1.発光素子の構成
図1に示すように、実施形態における発光素子は、基板10、n層11、発光層12、電子ブロック層13、p層14、p電極15、n電極16、pn電極17A、17B、保護膜18、反射膜19、pパッド電極20、nパッド電極21、反射防止膜22を有している。以下、各構成について説明する。
【0019】
基板10は、c面を主面とするサファイアからなる基板である。サファイア以外にも、発光波長に対して透過率が高く、III族窒化物半導体を成長させることができる材料であれば任意の材料を用いてよい。
【0020】
基板10の裏面(n層11側とは反対側の面であり、光取り出し側)には、反射防止膜22が設けられている。反射防止膜22を設けることにより、基板10裏面で紫外線が反射して素子側に戻ってしまうことを抑制し、光取り出しを向上させている。反射防止膜22は、たとえば厚さが発光波長の1/4のSiO2である。
【0021】
n層11は、基板10上にバッファ層(図示しない)を介して位置している。n層11は、n―AlGaNからなる。n型不純物はSiであり、Si濃度が5×1018~5×1019/cm3である。n層11は複数の層で構成されていてもよい。
【0022】
発光層12は、n層11上に位置している。発光層12は、井戸層と障壁層が交互に繰り返し積層されたMQW構造である。繰り返し数はたとえば2~5である。井戸層はAlGaNからなり、そのAl組成は所望の発光波長に応じて設定される。障壁層は、井戸層よりもAl組成の大きなAlGaNである。井戸層よりもバンドギャップエネルギーの大きなAlGaInNでもよい。また、発光層12はSQW構造でもよい。
【0023】
電子ブロック層13は、発光層12上に位置している。電子ブロック層13は、発光層12の障壁層よりもAl組成比の高いp-AlGaNからなる。電子ブロック層13によって、n電極16から注入した電子が発光層12を超えてp層14側に拡散してしまうのを抑制している。
【0024】
p層14は、電子ブロック層13上に位置している。p層14は、p-AlGaNからなる。実施形態における発光素子は、n層11からp層14まですべての半導体層がAlGaNであり、これによって半導体層による紫外線の吸収を抑制している。p層14のAl組成はたとえば5~80%である。p型不純物はMgである。Mg濃度は、1×1019/cm3以上である。p層14はAl組成やMg濃度の異なる複数の層で構成されていてもよい。その場合、p電極15と接する層がAl組成5~80%のp-AlGaNであればよい。また、p層14は、AlGaNに限らず、Alを含むIII族窒化物半導体であればよく、AlGaInNでもよい。
【0025】
p層14表面の一部領域には、n層11に達する深さの孔23が形成されている。孔23はドット状であり、複数の孔23が格子状に配列されて設けられている(
図2参照)。ただし、p電極15の下部に当たる領域には孔23が設けられていない。孔23の底面にはn層11が露出している。n層11を露出させるための孔23をドット状の配列パターンとすることで、面内の発光の均一さを確保しつつ、孔23による発光面積(p層14の面積)の減少をなるべく少なくし、光出力の向上を図っている。
【0026】
各孔23の平面パターンは、たとえば円である。他に、正六角形などの多角形でもよい。正六角形の場合は孔23の側面をm面とするのがよい。孔23の配列パターンは、正三角格子状である。他にも、たとえば正方格子状、ハニカム状のパターンとしてもよい。
【0027】
p電極15は、p層14上に設けられている。p電極15は、p層14表面のうち、孔23の設けられていない領域とp層14の端辺近傍を除いて設けられており(
図2参照)、これにより発光面積を広く取っている。p電極15は、発光層12から放射される紫外線を基板10側に反射させて光取り出し効率を高める反射電極である。p電極15の材料は、Ruである。Ruを主成分とする合金でもよい。RuはUVCにおいて高い反射率を有し、p-AlGaNであるp層14に対するコンタクト抵抗も低いため、UVCの発光素子におけるp電極15として好適である。
【0028】
素子上面の面積(孔23とp層14の面積の合計)に対するp電極15の面積の割合は、70%以上とする。孔23およびp電極15の平面パターンはこれを満たすように設定する。たとえば、孔23の直径や配列数、配列間隔を調整する。Ruからなるp電極15の面積を広く取ることにより、p電極15による紫外線の反射を増やし、光取り出し効率を向上させることができる。より好ましくは75%以上である。
【0029】
n電極16は、各孔23の底面に露出するn層11上に設けられている。そのため、n電極16もドット状に配列されたパターンである(
図2参照)。n電極16の材料は、V/Al/Tiを熱処理した構造体である。他にもTi/Al/Tiなどを用いることができる。V/Al/Tiを熱処理した構造体は、具体的には、AlN
xからなる層と、Alを主としVとTiを含む金属からなる層と、Tiからなる層と、を順に積層させた構造である。
【0030】
AlNxからなる層は、厚さ1~3nmである。xは、たとえば0.4~0.7である。またxは、厚さ方向にn層11から離れるにつれて減少していてもよい。この場合はxの厚さ方向の平均が0.4~0.7である。また、n層11側からのGaの拡散がある場合もあり、その場合には、n層11よりもAl組成比が高いAlyGa1-yNx(0.4≦x≦0.7)である。n層11のAl組成比がaであれば、a<y≦1である。yはたとえば0.7以上である。またこの場合も、xは厚さ方向にn層11から離れるにつれて減少していてもよく、yは厚さ方向にn層11から離れるにつれて増加していてもよい。
【0031】
Alを主としVとTiを含む金属からなる層は、厚さ50~500nmである。Al、V、Tiの比率は、たとえばAlが50~85mol%、Vが5~20mol%、Tiが10~30mol%である。
【0032】
上記構造のn電極16では、n層11に対するコンタクト抵抗が低減されている。たとえば、n層11に対するn電極16のコンタクト抵抗率は4×10―4Ω・cm2以下である。その理由は、第1に、AlNxからなる層がn層11に対する良好なコンタクト層として機能しているためと考えられる。また、第2に、n層11表面に窒素空孔が生じ、n型化するためコンタクト抵抗が低下していると考えられる。
【0033】
Tiからなる層は、アロイ時にn電極16中のAlが蒸発してしまうのを抑制するカバーとして設けるものである。Ti以外にもTiN、Ni、Pt、Auなどを用いることができる。
【0034】
pn電極17A、17Bは、p電極15上、n電極16上にそれぞれ設けられている。pn電極17Aの平面パターンは、p電極15の平面パターンと同様である。また、pn電極17Bの平面パターンは、n電極16の平面パターンと同様であり、複数のドットが配列されたパターンである。pn電極17A、17Bの材料は、たとえばTi/Ni/Au/Alである。
【0035】
保護膜18は、素子上面全体を覆うように設けられている。すなわち、p電極15およびn電極の側面と表面、半導体層の表面と側面、素子分離溝26の側面、孔23の内部、に連続して設けられている。
【0036】
保護膜18は絶縁体であり、たとえばSiO2である。他にもSiN、Al2O3、TiO2、AlNなどを用いることができる。複数の材料の積層としてもよい。
【0037】
保護膜18中には、Alからなる反射膜19が設けられている。反射膜19は、後述の孔24、25が存在する領域を除いて全面的に設けられている。反射膜19によって基板10側に光を反射させ、光取り出し効率の向上を図っている。また、保護膜18の放熱性を向上させている。反射膜19を保護膜18の中に埋め込んでいるのはマイグレーション防止のためである。
【0038】
反射膜19の材料はAlに限らず、発光波長における反射率の高い任意の材料でよい。Alを主とする合金でもよい。
【0039】
pパッド電極20およびnパッド電極21は、保護膜18上に離間して設けられている。pパッド電極20は、保護膜18に開けられた孔24を介してpn電極17Aと接続されている。また、nパッド電極21は、保護膜18に開けられた孔25を介して各pn電極17Bと接続されている。pパッド電極20およびnパッド電極21の材料は、たとえばTi/Pt/Au/AuSnである。
【0040】
pパッド電極20およびnパッド電極21の平面パターンは、素子の矩形パターンより少し内側となる矩形パターンに対し、その矩形の角部においてその矩形の辺に対して45°を成す直線Lに沿った幅Wの線状領域によって2分し、直角二等辺三角形のパターンとなる方をpパッド電極20、他方(矩形の角を落とした形状の五角形)をnパッド電極21とするものである。
【0041】
線状領域の角度は45°に限らないが、pパッド電極20およびnパッド電極21の面積の和をなるべく大きくするため45°に近いことが好ましく、たとえば30~60°が好ましく、40~50°がより好ましい。
【0042】
また、線状領域の位置および幅Wは、pパッド電極20およびnパッド電極21の面積の和が、発光面積(p電極15の面積)に対して90%以上となるように設定することが好ましい。もちろん、幅Wはpパッド電極20とnパッド電極21間で短絡しないような幅とする。たとえば幅Wは100μm以上である。また、pパッド電極20は、サブマウント側と良好に接合できる大きさとする。たとえば、pパッド電極20の直角二等辺三角形における等しい2辺の長さは200μm以上である。
【0043】
pパッド電極20およびnパッド電極21の平面パターンを上記のようにすることで、pパッド電極20とnパッド電極21の面積の和を大きく取ることができ、放熱性を高めることができる。
【0044】
以上、実施形態における発光素子では、p電極15の材料としてRuを用い、素子上面の面積に対するp電極15の面積の割合を70%以上としており、これにより光取り出しを向上させることができる。また、p電極15、n電極16のいずれもコンタクト抵抗が低く、順方向電圧を低減することができる。そのため、発光素子の電力効率を向上させることができる。
【0045】
2.発光素子の製造工程
実施形態における発光素子の製造工程について、図を参照に説明する。
【0046】
まず、サファイアからなる基板10を用意する。そして、基板10上に、MOCVD法によってn層11、発光層12、電子ブロック層13、p層14を順に形成する(
図3参照)。
【0047】
次に、p層14の所定領域をドライエッチングし、n層11に達する深さの孔23を複数形成する(
図4参照)。
【0048】
次に、p層14上にスパッタや蒸着によってp電極15を形成する(
図5参照)。次に、孔23の底面に露出するn層11上にスパッタや蒸着によってV層、Al層、Ti層を順に積層してn電極16を形成する(
図6参照)。p電極15よりも先にn電極16を形成してもよいが、なるべくp層14表面が清浄な状態でp電極15を形成したいため、実施形態ではp電極15を先に形成している。
【0049】
次に、温度500~650℃、1~10分間の熱処理を行う。熱処理は、たとえば窒素などの不活性ガス雰囲気の減圧下で行うことが好ましく、たとえば1×102~1×104Paである。熱処理温度は好ましくは500~560℃である。
【0050】
この熱処理は、p層14のMg活性化処理とp電極15およびn電極16の低コンタクト抵抗化とを兼ねている。
【0051】
実施形態では、n電極16としてV/Al/Tiを用いることで熱処理温度を低減し、p層14のMg活性化処理とp電極15およびn電極16のコンタクト抵抗の低減とを共通化して同時に行うことで熱処理回数を減らしている。熱処理温度の低温化と熱処理回数減少の結果、発光素子の電気特性の劣化を抑制できる。
【0052】
ここで、n電極16は、上記熱処理によって次のような構造に変化する。n電極16であるV/Al/TiのうちVはAl中に拡散していき、n層11やTiには拡散しない。この拡散の結果、V層は消失する。また、V/Al/Ti中のAlは、n層11中のNと反応し、n層11とAl層の界面にはAlNxが形成される。Vは、AlとNの反応を促進する触媒のような作用をしていると考えられる。この熱処理の結果、n電極16の構造は、AlNxからなる層と、Alを主としVとTiを含む金属からなる層と、Tiからなる層との3層構造に変化する。
【0053】
n電極16がこのような構造に変化することにより、n層11に対するn電極16のコンタクト抵抗が低減する。その理由はすでに述べたとおりである。すなわち、第1に、AlNxからなる層がn層11に対して良好なコンタクト層として機能していると考えられること、第2に、AlNxの形成によりn層11に窒素空孔が生じたことでn層11のn型化がより促進したと考えられることである。
【0054】
次に、p電極15上およびn電極16上に、スパッタや蒸着によってpn電極17A、17Bをそれぞれ形成する(
図7参照)。
【0055】
次に、素子分離溝26を形成する。素子分離溝26は基板10が露出する深さである。次に、素子上面全体を覆う保護膜18を形成する(
図8参照)。保護膜18の成膜は蒸着やスパッタ、CVDなどである。膜の緻密性からスパッタやCVDが好ましい。
【0056】
次に、保護膜18上であって、後に孔24、25を形成する領域を除く領域に、Alからなる反射膜19を形成する(
図9参照)。反射膜19の成膜は蒸着やスパッタ、パターニングはウェットエッチングである。
【0057】
次に、保護膜18上および反射膜19上に、再度保護膜18を形成する(
図10参照)。これにより、保護膜18中に反射膜19が埋め込まれた構造とする。なお、素子分離溝26の底面には保護膜18を形成せず、素子ごとに保護膜18が分離していることが好ましい。素子ごとに分割する際、保護膜18に力が加わったり、保護膜18の応力に変動が生じたりしないようにするためである。
【0058】
次に、保護膜18の所定領域をドライエッチングしてpn電極17A、17Bに達する孔24、孔25を形成する。そして、保護膜18上にpパッド電極20、nパッド電極21をそれぞれ形成し、pパッド電極20は孔24を介してpn電極17Aと接続し、nパッド電極21は孔25を介してpn電極17Bと接続するようにする。pパッド電極20、nパッド電極21のパターンは
図2に示す通りである。pパッド電極20、nパッド電極21の成膜は蒸着やスパッタ、パターニングはリフトオフである。次に、基板10の裏面に反射防止膜22を形成する。次に基板10を個々の素子に分割する。以上によって
図1に示す実施形態における発光素子が製造される。
【0059】
3.実験結果
実施形態に係る各種実験結果について説明する。
【0060】
(実験1)
発光波長275nm、p電極15をRuとする実施形態に係る発光素子を作製した。比較のため、p電極15をRuからRhに替えた発光素子も作製した。
【0061】
図11は、発光素子のI-V特性を示したグラフである。
図11のように、p電極15としてRhを用いた場合よりもRuを用いた場合の方が駆動電圧を低減できることが分かった。これは、RhよりもRuの方がp層14に対するコンタクト抵抗が低いためである。
【0062】
(実験2)
発光波長が275nmとなるように発光層12の組成を設定し、p電極15をRuとする実施形態に係る発光素子を複数作製した。比較のため、p電極15の材料をRuからRhに替えた発光素子も複数作製した。
【0063】
図12は、発光素子の発光波長と電力効率を示したグラフ(散布図)である。電力効率は、p電極15をRhとした場合の電力効率の平均を100%として規格化した値である。
図12のように、p電極15としてRhを用いた場合よりもRuを用いた場合の方が、電力効率が高い傾向にあることが分かった。これは、紫外線反射率はRuもRhも高いが、コンタクト抵抗はRhよりもRuの方が低いためと考えられる。また、電力効率のばらつきもRhよりRuの方が小さいことが分かった。実験1、2の結果、UVCの発光素子のp電極15として、RhよりもRuの方が好ましいことが分かった。
【0064】
4.実施形態の変形例
実施形態における発光素子の各種変形例を説明する。
【0065】
(変形例1)
実施形態に示した電極パターンは一例であり、素子上面の面積に対するp電極15の面積の割合が70%以上であれば他のパターンでもよい。たとえば、以下の変形例1のようなパターンとすることもできる。
【0066】
実施形態における発光素子の変形例1は、電極パターンを次のように替えたものであり、実施形態におけるp電極15、n電極16、pパッド電極120、nパッド電極121、孔23に替えて、p電極115、n電極116、pパッド電極120、nパッド電極121、孔123が設けられている。
【0067】
図13は、実施形態における発光素子の変形例1の電極パターンを示した図である。
図13のように、pパッド電極120とnパッド電極121は、素子の矩形パターンより少し内側となるパターンを、その矩形の辺に平行な直線に沿った帯状の線状領域によって2分したパターンである。線状領域は矩形のある一辺の近傍に位置しており、線状領域により2分されたパターンのうち、面積の小さい方がpパッド電極120、面積の大きな方がnパッド電極121である。
【0068】
孔23に替えて設けられた孔123は、nパッド電極121の下部に位置し、複数の孔123が三角格子状に配列されている。pパッド電極120の下部の領域には配置されていない。そして、孔123の底面にn電極116、pn電極17Bが順に設けられ、保護膜18に開けられた孔25を介してpn電極17Bとnパッド電極121が接続されている。なお、孔25のパターンはn電極116のパターンとほぼ同一であり、
図13においては図示を省略している。
【0069】
また、p電極15に替えて設けられたp電極115は、p層14のパターンから孔123を除いたパターンとなっている。p電極115上にはpn電極17Aが設けられ、孔24を介してpn電極17Aとpパッド電極120が接続されている。pn電極17Aとpパッド電極120を接続する孔24は円形であり、矩形の辺に沿って複数配列されている。なお、孔24の円の外側の円のパターンは、反射膜19の境界を示している。
【0070】
(変形例2)
実施形態における発光素子の変形例2は、電極構造、電極パターンを替えたものであり、それ以外は実施形態における発光素子と同様である。
【0071】
図14は、実施形態における発光素子の変形例2の構成を示した図であり、基板主面に垂直な断面図である。また、
図15は、実施形態における発光素子の変形例2の電極パターンを示した図である。
図15ではp電極215、n電極216、pバッド電極220、nパッド電極221の平面パターンを図示している。
【0072】
図14、15のように、孔23に替えて孔223が設けられている。孔223は円形であり、正三角格子状に配列されている。孔223の底面にはn電極216、pn電極217Bが順に設けられている。
図2や
図13の場合とは異なり、孔223は全面的に配置されており、pパッド電極220の下部にも孔223が設けられている。p電極215は、p層14の矩形のパターンから孔223の領域を除いたパターンに形成されている。また、p電極215上にはpn電極217Bがp電極215と同じ平面パターンで設けられている。
【0073】
また、保護膜18に替えて保護膜218が設けられている。保護膜218は、第1保護膜218A、第2保護膜218Bを順に積層させた構造である。第1保護膜218A、第2保護膜218Bは同一材料としてもよいし、異なる材料としてもよい。
【0074】
中間電極219A、219Bは、第1保護膜218Aと第2保護膜218Bの間にそれぞれ設けられている。なお、
図15では中間電極219A、219Bの図示は省略している。中間電極219Aは、第1保護膜218Aに設けられた孔を介してp電極15と接続されている。また、中間電極219Bは、第1保護膜218Aに設けられた孔を介してドット状の各n電極16と接続されている。これらの孔も
図15には図示せず省略している。
【0075】
pパッド電極220およびnパッド電極221は、保護膜218B上に離間して設けられている。pパッド電極220は、第2保護膜218Bに開けられた孔を介して中間電極219Aと接続されている。また、nパッド電極221は、第2保護膜218Bに開けられた孔を介して中間電極219Bと接続されている。これらの孔も
図15には図示せず省略している。
図15のように、pパッド電極220、nパッド電極221は、素子の矩形パターンより少し内側となるパターンを、その矩形の辺に平行な直線に沿った帯状の線状領域によって2等分したパターンである。
【0076】
変形例2では、孔223を全面的に配置することができ、発光の面内均一性を向上させることができる。また、p電極15、n電極16とpパッド電極220、nパッド電極221の間に中間電極219A、219Bを介在させており、これによりpパッド電極220、nパッド電極221のパターンを自由に設定できる。
【符号の説明】
【0077】
10:基板
11:n層
12:発光層
13:電子ブロック層
14:p層
15:p電極
16:n電極
17A、17B:pn電極
18:保護膜
19:反射膜
20:pパッド電極
21:nパッド電極