(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136700
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240927BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240927BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240927BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240927BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M10/052
H01M10/0569
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047900
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 舜平
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 丞
(72)【発明者】
【氏名】門馬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】吉富 修平
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK18
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL18
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM12
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
(57)【要約】
【課題】導電性の向上した正極活物質を提供する。または充放電特性の良好な二次電池を提供する。
【解決手段】正極を有する電池において、正極は、正極活物質を有し、正極活物質は、リチウムと、遷移金属Mと、酸素と、導電性を向上させる添加元素と、結晶構造を安定化させる添加元素と、を有し、導電性を向上させる添加元素はチタン、ルテニウムから選択される一または二であり、結晶構造を安定化させる添加元素はマグネシウム、フッ素、ニッケルおよびアルミニウムから選択される一または二以上であり、導電性を向上させる添加元素は、内部よりも表層部において多く検出される、電池。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極を有する電池において、
前記正極は、正極活物質を有し、
前記正極活物質は、リチウムと、遷移金属Mと、酸素と、導電性を向上させる添加元素と、を有し、
前記導電性を向上させる添加元素はチタン、ルテニウム、バナジウム、ニオブ、クロム、モリブデン、タングステン、レニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、ランタン、ストロンチウムから選択される一または二以上であり、
前記正極活物質は表層部と、内部と、を有し、
前記導電性を向上させる添加元素は、前記内部よりも前記表層部において多く検出される、電池。
【請求項2】
請求項1において、
前記正極活物質は、結晶構造を安定化させる添加元素を有し、
前記結晶構造を安定化させる添加元素は、マグネシウム、フッ素、ニッケルおよびアルミニウムから選択される一または二以上である、電池。
【請求項3】
請求項2において、
前記遷移金属Mは、コバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄から選択される一または二以上である、電池。
【請求項4】
請求項3において、
前記電池は電解液を有し、
前記電解液はフッ化環状カーボネートまたはフッ化鎖状カーボネートから選択される一または二を有する、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、物、方法、又は、製造方法に関する。または、本発明は、プロセス、マシン、マニュファクチャ、又は、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。本発明の一態様は、二次電池を含む蓄電装置、半導体装置、表示装置、発光装置、照明装置、電子機器またはそれらの製造方法に関する。
【0002】
なお、本明細書中において電子機器とは、蓄電装置を有する装置全般を指し、蓄電装置を有する電気光学装置、蓄電装置を有する情報端末装置などは全て電子機器である。
【背景技術】
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池、全固体電池等、種々の蓄電装置の開発が盛んに行われている。特に高出力、高容量であるリチウムイオン二次電池は半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し、充電可能なエネルギーの供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0004】
なかでもモバイル電子機器向け二次電池等では、重量あたりの放電容量が大きく、サイクル特性に優れた二次電池の需要が高い。これらの需要に応えるため、二次電池の正極が有する正極活物質の改良が盛んに行われている(例えば特許文献1および特許文献2)。また、正極活物質の結晶構造に関する研究も行われている(非特許文献1乃至非特許文献3)。より充放電サイクル特性が高く、レート特性が高く、動作可能温度の広いリチウムイオン二次電池が求められている。
【0005】
またX線回折(XRD)は、正極活物質の結晶構造の解析に用いられる手法の一つである。非特許文献4に紹介されているICSD(Inorganic Crystal Structure Database)を用いることにより、XRDデータの解析を行うことができる。たとえば非特許文献5に記載されているコバルト酸リチウムの格子定数を、ICSDから参照することができる。またリートベルト法解析には、たとえば解析プログラムRIETAN-FP(非特許文献6)を用いることができる。また結晶構造の描画ソフトウェアとして、VESTA(非特許文献7)を用いることができる。
【0006】
また画像処理ソフトとして、たとえばImageJ(非特許文献8乃至非特許文献10)が知られている。該ソフトを用いることで、たとえば正極活物質の形状について分析することができる。
【0007】
極微電子線回折も、正極活物質の結晶構造、特に表層部の結晶構造の同定に有効である。電子線回折パターンの解析には、たとえば解析プログラムReciPro(非特許文献11)を用いることができる。
【0008】
また金属酸化物の電気化学特性については古くから研究されている(非特許文献12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-206747号公報
【特許文献2】特開2022-070247号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Toyoki Okumura et.al.,”Correlation of lithium ion distribution and X-ray absorption near-edge structure in O3-and O2-lithium cobalt oxides from first-principle calculation”, Journal of Materials Chemistry, 2012, 22, p.17340-17348
【非特許文献2】Motohashi, T. et.al.,”Electronic phase diagram of the layered cobalt oxide system LixCoO2(0.0≦x≦1.0)”,Physical Review B,80(16);165114
【非特許文献3】Zhaohui Chen et.al.,“Staging Phase Transitions in LixCoO2”, Journal of The Electrochemical Society,2002,149(12)A1604-A1609
【非特許文献4】Belsky,A. et.al.,“New developments in the Inorganic Crystal Structure Database(ICSD):accessibility in support of materials research and design”,Acta Cryst.,(2002)B58 364-369.
【非特許文献5】Akimoto,J.;Gotoh,Y.;Oosawa,Y.“Synthesis and structure refinement of LiCoO2 single crystals” Journal of Solid State Chemistry(1998)141,p.298-302.
【非特許文献6】F.Izumi and K.Momma,,“Three-Dimensional Visualization in Powder Diffraction” Solid State Phenom.130,15-20(2007)
【非特許文献7】K.Momma and F.Izumi,”VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data” J.Appl.Cryst.(2011).44,1272-1276
【非特許文献8】Rasband,W.S.,ImageJ,U.S.National Institutes of Health,Bethesda,Maryland,USA,http://rsb.info.nih.gov/ij/, 1997-2012.
【非特許文献9】Schneider,C.A.,Rasband,W.S.,Eliceiri,K.W.”NIH Image to ImageJ:25 years of image analysis”.Nature Methods 9,671-675,2012.
【非特許文献10】Abramoff,M.D.,Magelhaes,P.J.,Ram,S.J.”Image Processing with ImageJ”.Biophotonics International,volume 11,issue 7,pp.36-42,2004.
【非特許文献11】Seto,Y.&Ohtsuka,M.”ReciPro:free and open-source multipurpose crystallographic software integrating a crystal model database and viewer, diffraction and microscopy simulators, and diffraction data analysis tools“(2022).J.Appl.Cryst.55.
【非特許文献12】田村英雄,米山宏,酸化物半導体の電気化学特性,電気化学および工業物理化学,1980,48巻,6号,p.335-343.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
リチウムイオン二次電池には、放電容量、サイクル特性、信頼性、安全性、又はコストといった様々な面で改善の余地が残されている。たとえば正極活物質の表面の結晶構造の変化を抑制するため、正極活物質の表面を不活性な酸化物で被覆する場合があるが、該被膜により導電性が低下する恐れ、およびリチウムの挿入脱離が阻害される恐れがある。導電性が低下すると、および/またはリチウムイオンの挿入脱離が阻害されると、レート特性が低下する、低温環境における充放電容量が低下する、等の二次電池の特性低下が懸念される。
【0012】
そこで本発明の一態様は、リチウムイオン二次電池に用いることができ、導電性が向上する、および/またはリチウムイオンの挿入脱離が促進される正極活物質を提供することを課題の一とする。または、低温環境における放電容量の低下が抑制された正極活物質または複合酸化物を提供することを課題の一とする。または、充放電サイクルにおける放電容量の低下が抑制された正極活物質または複合酸化物を提供することを課題の一とする。または、充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい正極活物質または複合酸化物を提供することを課題の一とする。または、放電容量が大きい正極活物質または複合酸化物を提供することを課題の一とする。または、安全性又は信頼性の高い二次電池または車両を提供することを課題の一とする。
【0013】
また本発明の一態様は、正極活物質、複合酸化物、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することを課題の一とする。
【0014】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、明細書、図面、請求項の記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、導電性を向上させる添加元素を表層部に有する正極活物質を提供することとした。導電性を向上させる添加元素は、単体で導電性が高いだけでなく、化合物、たとえば酸化物となったときに導電性の高い元素であることが好ましい。このような導電性を向上させる添加元素として、たとえばチタン、ルテニウム、バナジウム、ニオブ、クロム、モリブデン、タングステン、レニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、ランタン、ストロンチウムから選択される一または二以上を用いることができる。
【0016】
上記に加えて、正極活物質の表層部は結晶構造を安定化させる添加元素を有することがより好ましい。結晶構造を安定化させる添加元素として、たとえばマグネシウム、フッ素、ニッケルおよびアルミニウムから選択される一または二以上を用いることができる。
【0017】
本発明の一態様は、正極を有する電池において、正極は、正極活物質を有し、正極活物質は、リチウムと、遷移金属Mと、酸素と、導電性を向上させる添加元素と、を有し、導電性を向上させる添加元素はチタン、ルテニウム、バナジウム、ニオブ、クロム、モリブデン、タングステン、レニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、ランタン、ストロンチウムから選択される一または二以上であり、正極活物質は表層部と、内部と、を有し、導電性を向上させる添加元素は、内部よりも表層部において多く検出される、電池である。
【0018】
上記において、正極活物質は、結晶構造を安定化させる添加元素を有し、結晶構造を安定化させる添加元素は、マグネシウム、フッ素、ニッケルおよびアルミニウムから選択される一または二以上であることが好ましい。
【0019】
また上記において、遷移金属Mは、コバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄から選択される一または二以上であることが好ましい。
【0020】
また上記において、電池は電解液を有し、電解液はフッ化環状カーボネートまたはフッ化鎖状カーボネートから選択される一または二を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様により、リチウムイオン二次電池に用いることができ、導電性が向上する、および/またはリチウムイオンの挿入脱離が促進される正極活物質を提供することができる。または、リチウムイオン二次電池に用いることができ、低温環境における放電容量の低下が抑制された正極活物質または複合酸化物を提供することができる。または、充放電サイクルにおける放電容量の低下が抑制された正極活物質または複合酸化物を提供することができる。または、充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい正極活物質または複合酸化物を提供することができる。または、放電容量が大きい正極活物質または複合酸化物を提供することができる。または、安全性又は信頼性の高い二次電池または車両を提供することができる。
【0022】
また本発明の一態様により、正極活物質、複合酸化物、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することができる。
【0023】
なお、これらの効果の記載は、他の効果の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、必ずしも、これらの効果の全てを有する必要はない。なお、これら以外の効果は、明細書、図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面、請求項などの記載から、これら以外の効果を抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1(A)は正極活物質の断面図、
図1(B)は正極活物質における導電性を向上させる添加元素および結晶構造を安定化させる添加元素の分布を説明する図である。
【
図2】
図2はDSC分析の結果を説明する図である。
【
図3】
図3は結晶の配向が概略一致しているTEM像の例である。
【
図4】
図4(A)は結晶の配向が概略一致しているSTEM像の例である。
図4(B)は岩塩型結晶RSの領域のFFTパターン、
図4(C)は層状岩塩型結晶LRSの領域のFFTパターンである。
【
図5】
図5は正極活物質の結晶構造を説明する図である。
【
図6】
図6は従来の正極活物質の結晶構造を説明する図である。
【
図7】
図7は結晶構造から計算されるXRDパターンを示す図である。
【
図8】
図8は結晶構造から計算されるXRDパターンを示す図である。
【
図9】
図9(A)および
図9(B)は結晶構造から計算されるXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明を実施するための形態例について図面等を用いて説明する。ただし、本発明は以下の形態例に限定して解釈されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で発明を実施する形態を変更することは可能である。
【0026】
本明細書等では空間群は国際表記(またはHermann-Mauguin記号)のShort notationを用いて表記する。またミラー指数を用いて結晶面及び結晶方向を表記する。空間群、結晶面、および結晶方向の表記は、結晶学上、数字に上付きのバーを付すが、本明細書等では書式の制約上、数字の上にバーを付す代わりに、数字の前に-(マイナス符号)を付して表現する場合がある。また、結晶内の方向を示す個別方位は[ ]で、等価な方向すべてを示す集合方位は< >で、結晶面を示す個別面は( )で、等価な対称性を有する集合面は{ }でそれぞれ表現する。また空間群R-3mで表される三方晶は、構造の理解のしやすさのため、一般に六方晶の複合六方格子で表されることがある。またミラー指数として(hkl)だけでなく(hkil)を用いることがある。ここでiは-(h+k)である。本明細書等では空間群R-3mについて、特に断らない限り結晶面等を複合六方格子で表記する。
【0027】
なお本明細書等において、粒子とは球形(断面形状が円)のみを指すことに限定されず、個々の粒子の断面形状が楕円形、長方形、台形、三角形、角が丸まった四角形、非対称の形状などが挙げられ、さらに個々の粒子は不定形であってもよい。
【0028】
また正極活物質の理論容量とは、正極活物質が有する挿入脱離可能なリチウムが全て脱離した場合の電気量をいう。例えば、LiCoO2の理論容量は274mAh/g、LiNiO2の理論容量は275mAh/g、LiMn2O4の理論容量は148mAh/gである。
【0029】
また正極活物質中に挿入脱離可能なリチウムがどの程度残っているかを、組成式中のx、たとえばLixMO2中のxで示す(ここでMはコバルト、ニッケル、マンガンから選択される一以上である)。二次電池中の正極活物質の場合、x=(理論容量-充電容量)/理論容量とすることができる。たとえばLiMO2を正極活物質に用いた二次電池を219.2mAh/g充電した場合、Li0.2MO2またはx=0.2ということができる。LixMO2中のxが小さいとは、たとえば0.1<x≦0.24をいう。また正極活物質から脱離したリチウムが、理論容量に対してどの程度であるかを充電深度として示す場合がある。本明細書等において、充電深度=1-xである。
【0030】
たとえば正極に用いる前の、適切に合成したコバルト酸リチウムが化学量論比をおよそ満たす場合、LiCoO2でありx=1である。また放電が終了した二次電池に含まれるコバルト酸リチウムも、LiCoO2でありx=1といってよい。ここでいう放電が終了したとは、たとえば100mA/g以下の電流で、電圧が3.0Vまたは2.5V以下となった状態をいう。
【0031】
LixMO2中のxの算出に用いる充電容量および/または放電容量は、短絡および/または電解液等の分解の影響がないか、少ない条件で計測することが好ましい。たとえば短絡とみられる急激な容量の変化が生じた二次電池のデータはxの算出に使用してはならない。
【0032】
また結晶構造の空間群はXRD、電子線回折、中性子線回折等によって同定されるものである。そのため本明細書等において、ある空間群に帰属する、ある空間群に属する、またはある空間群であるとは、ある空間群に同定されると言い換えることができる。
【0033】
また陰イオンの配置がおおむね立方最密充填に近ければ、立方最密充填とみなすことができる。立方最密充填の陰イオンの配置とは、一層目に充填された陰イオンの空隙の上に二層目の陰イオンが配置され、三層目の陰イオンが、二層目の陰イオンの空隙の直上であって、一層目の陰イオンの直上でない位置に配置された状態を指す。そのため陰イオンは厳密に立方格子でなくてもよい。また、現実の結晶は必ず欠陥を有するため、分析結果が必ずしも理論通りでなくてもよい。たとえば電子線回折パターンまたはTEM像等のFFT(高速フーリエ変換)パターンにおいて、理論上の位置と若干異なる位置にスポットが現れてもよい。たとえば理論上の位置との方位が5度以下、または2.5度以下であれば立方最密充填構造をとるといってよい。
【0034】
またある元素の分布とは、ある連続的な分析手法で、該元素がノイズでない範囲で連続的に検出される領域をいうこととする。ノイズでない範囲で連続的に検出される領域とは、たとえば分析を複数回行ったときに必ず検出される領域ということもできる。
【0035】
また導電性を向上させる添加元素および/または結晶構造を安定化させる添加元素が添加された正極活物質を、複合酸化物、正極材、正極材料、二次電池用正極材、等と表現する場合がある。また本明細書等において、本発明の一態様の正極活物質は、化合物を有することが好ましい。また本明細書等において、本発明の一態様の正極活物質は、組成物を有することが好ましい。また本明細書等において、本発明の一態様の正極活物質は、複合体を有することが好ましい。
【0036】
また、以下の実施の形態等で正極活物質の個別の粒子の特徴について述べる場合、必ずしも全ての粒子がその特徴を有していなくてもよい。たとえばランダムに3個以上選択した正極活物質の粒子のうち50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上がその特徴を有していれば、十分に正極活物質およびそれを有する二次電池の特性を向上させる効果があるということができる。
【0037】
二次電池の充電電圧の上昇に伴い、正極の電圧は一般的に上昇する。本発明の一態様の正極活物質は、高い電圧においても安定な結晶構造を有する。充電状態において正極活物質の結晶構造が安定であることにより、充放電の繰り返しに伴う充放電容量の低下を抑制することができる。
【0038】
なお特に言及しない限り、二次電池が有する材料(正極活物質、負極活物質、電解質、セパレータ等)は、劣化前の状態について説明するものとする。なお二次電池製造段階におけるエージング処理およびバーンイン処理によって放電容量が減少することは劣化とは呼ばないとする。たとえば、リチウムイオン二次単電池およびリチウムイオン二次組電池(以下、リチウムイオン二次電池という)の定格容量の97%以上の放電容量を有する場合は、劣化前の状態と言うことができる。定格容量は、ポータブル機器用リチウムイオン二次電池の場合JIS C 8711:2019に準拠する。これ以外のリチウムイオン二次電池の場合、上記JIS規格に限らず電動車両推進用、産業用などの各JIS、IEC規格等に準拠する。
【0039】
なお、本明細書等において、二次電池が有する材料の劣化前の状態を、初期品、または初期状態と呼称し、劣化後の状態(二次電池の定格容量の97%未満の放電容量を有する場合の状態)を、使用中品または使用中の状態、あるいは使用済み品または使用済み状態と呼称する場合がある。
【0040】
(実施の形態1)
本実施の形態では、
図1乃至
図10を用いて本発明の一態様の正極活物質100について説明する。
【0041】
図1(A)は本発明の一態様の正極活物質100の断面である。
図1(B)は正極活物質100の表面および表層部を含む断面分析における、表面から内部に向かって測定する場合の元素濃度分布の模式図である。表面から内部に向かって測定することを、深さ方向に測定する、ともいい、
図1(A)におけるX1-X2及びY1-Y2の矢印は深さ方向の一例である。
【0042】
図1(A)に示すように、正極活物質100は、表層部100aと、内部100bを有する。
図1(A)中に破線で表層部100aと内部100bの境界を示す。図中の(001)は、LiMO
2の(001)面を示す。LiMO
2は空間群R-3mに帰属する。
【0043】
本明細書等において、正極活物質100の表層部100aとは、例えば、表面から内部に向かって50nm以内、より好ましくは表面から内部に向かって35nm以内、さらに好ましくは表面から内部に向かって20nm以内、最も好ましくは表面から内部に向かって、表面から垂直または略垂直に10nm以内の領域をいう。なお略垂直とは、80°以上100°以下とする。ひびおよび/またはクラックにより生じた面も表面といってよい。表層部100aは、表面近傍、表面近傍領域またはシェルと同義である。
【0044】
また正極活物質の表層部100aより深い領域を、内部100bと呼ぶ。内部100bは、内部領域またはコアと同義である。
【0045】
また、正極活物質100が空間群R-3mの層状岩塩型の結晶構造を有する場合、表層部100aは、エッジ領域と、ベーサル領域と、を有する。ここで、エッジ領域は、(001)面と交差する方向に露出する表面((001)配向以外の表面ともいう)を有しており、当該表面から内部に向かって50nm以内、より好ましくは表面から内部に向かって35nm以内、さらに好ましくは表面から内部に向かって20nm以内、最も好ましくは表面から内部に向かって、表面から垂直または略垂直に10nm以内の領域をエッジ領域と呼ぶ。なお、ここでいう交差する、とは、第1の面((001)面)の垂線と、第2の面(正極活物質100の表面)の法線と、が成す角度が、10度以上90度以下、より好ましくは30度以上90度以下であることをいい、更に好ましくは50度以上90度以下であることをいう。
【0046】
また、ベーサル領域は、(001)面と平行な表面((001)配向した表面ともいう)を有しており、当該表面から内部に向かって50nm以内、より好ましくは表面から内部に向かって35nm以内、さらに好ましくは表面から内部に向かって20nm以内、最も好ましくは表面から内部に向かって、表面から垂直または略垂直に10nm以内の領域をベーサル領域と呼ぶ。なお、ここでいう平行とは、第1の面((001)面)の垂線と、第2の面(正極活物質100の表面)の法線と、が成す角度が、0度以上10度未満、好ましくは0度以上5度以下、より好ましくは0度以上2.5度以下であることをいう。
【0047】
正極活物質100の表面とは、上記表層部100aおよび内部100bを含む複合酸化物の表面をいうこととする。そのため正極活物質100は、酸化アルミニウム(Al2O3)をはじめとする充放電に寄与しうるリチウムサイトを有さない金属酸化物が付着したもの、正極活物質の作製後に化学吸着した炭酸塩、ヒドロキシ基等は正極活物質100に含まないとする。なお付着した金属酸化物とは、たとえば内部100bと結晶構造が一致しない金属酸化物をいう。
【0048】
また正極活物質100に付着した電解質、有機溶剤、バインダ、導電材、またはこれら由来の化合物も正極活物質100に含まないとする。
【0049】
また図示しないが、正極活物質100は結晶粒界を有していてもよい。結晶粒界とは、たとえば正極活物質100の粒子同士が固着している部分、正極活物質100内部で結晶方位が変わる部分、つまりSTEM像等における明線と暗線の繰り返しが不連続になった部分、結晶欠陥を多く含む部分、結晶構造が乱れている部分等をいう。また結晶欠陥とは断面TEM(透過電子顕微鏡)、断面STEM像等で観察可能な欠陥、つまり格子間に他の原子が入り込んだ構造、空洞等をいうこととする。結晶粒界は、面欠陥の一つといえる。また結晶粒界の近傍とは、結晶粒界から10nm以内の領域をいうこととする。
【0050】
<含有元素>
正極活物質100は、リチウムと、遷移金属Mと、酸素と、導電性を向上させる添加元素と、を有する。さらに結晶構造を安定化させる添加元素を有することが好ましい。導電性を向上させる添加元素と結晶構造を安定化させる添加元素の上位概念として、単に添加元素と呼ぶ場合がある。遷移金属Mはコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄から選択される一以上である。正極活物質100はたとえば、層状岩塩型の結晶構造、スピネル型の結晶構造またはオリビン型の結晶構造を有することができる。より具体的には、層状岩塩型の結晶構造を有するコバルト酸リチウム(LCO)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(NCM)およびニッケルコバルトアルミン酸リチウム(NCA)、スピネル型の結晶構造を有するLiMnO2、またはオリビン型の結晶構造を有するリン酸鉄リチウム(LFP)等を有することができる。
【0051】
なかでも正極活物質100は層状岩塩型の結晶構造を有するリチウムと遷移金属Mの複合酸化物(LiMO2)に添加元素が加えられたものを有することが好ましい。ただしこの場合、本発明の一態様の正極活物質100は後述する添加元素の分布または結晶構造を有すればよい。そのため組成が厳密にLi:M:O=1:1:2(原子数比)に限定されるものではない。
【0052】
リチウムイオン二次電池の正極活物質は、リチウムイオンが挿入脱離しても電荷中性を保つために、酸化還元が可能な遷移金属を有する必要がある。本発明の一態様の正極活物質100は酸化還元反応を担う遷移金属Mとして主にコバルトを用いることが好ましい。正極活物質100が有する遷移金属のうち、コバルトが75原子%以上、好ましくは90原子%以上、さらに好ましくは95原子%以上であると、合成が比較的容易で取り扱いやすく優れたサイクル特性を有するなど利点が多く好ましい。
【0053】
また正極活物質100の遷移金属Mのうちコバルトが75原子%以上、好ましくは90原子%以上、さらに好ましくは95原子%以上であると、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)等のニッケルが遷移金属の過半を占めるような複合酸化物と比較して、充電によりリチウムが多く脱離した時の安定性がより優れる。これはニッケルよりもコバルトの方が、ヤーン・テラー効果による歪みの影響が小さいためと考えられる。遷移金属化合物におけるヤーン・テラー効果は、遷移金属のd軌道の電子の数により、その効果の強さが異なる。ニッケル酸リチウム等の8面体配位の低スピンニッケル(III)が遷移金属Mの過半を占めるような層状岩塩型の複合酸化物は、ヤーン・テラー効果の影響が大きく、ニッケルと酸素の8面体からなる層に歪みが生じやすい。そのため充放電サイクルにおいて結晶構造の崩れが生じる懸念が高まる。またニッケルイオンはコバルトイオンと比較して大きく、リチウムイオンの大きさに近い。そのためニッケル酸リチウムのようにニッケルが遷移金属Mの過半を占めるような層状岩塩型の複合酸化物ではニッケルとリチウムのカチオンミキシングが生じやすいという課題がある。
【0054】
正極活物質100が有する導電性を向上させる添加元素としては、単体で導電性が高いだけでなく、化合物、たとえば酸化物となったときに導電性の高い元素であればよい。ある化合物の導電性が高いとは、該化合物の電気伝導度(文献値)が、正極活物質100の内部100bが有する材料の電気伝導度(文献値)よりも高いことを言う。具体的にはチタン、ルテニウム、バナジウム、ニオブ、クロム、モリブデン、タングステン、レニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、ランタン、ストロンチウムから選択される一または二以上を用いることができる。これらの添加元素を有することで、正極活物質100のインピーダンスが低下することが期待される。
【0055】
また結晶構造を安定化させる添加元素としては、マグネシウム、ニッケル、アルミニウム、フッ素、ジルコニウム、鉄、マンガン、クロム、ヒ素、亜鉛、ケイ素、硫黄、リン、ホウ素、臭素、及びベリリウムから選ばれた一または二以上を用いることが好ましい。
【0056】
つまり正極活物質100は、マグネシウムおよびチタンが添加されたコバルト酸リチウム、マグネシウム、チタンおよびフッ素が添加されたコバルト酸リチウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムおよびチタンが添加されたコバルト酸リチウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウム、チタンおよびフッ素が添加されたコバルト酸リチウム、等を有することができる。
【0057】
導電性を向上させる添加元素および結晶構造を安定化させる添加元素は、正極活物質100に固溶していることが好ましい。そのため例えば、STEM-EDXの線分析を行った際に、これらの添加元素が検出される量が増加する深さは、遷移金属Mが検出される量が増加する深さよりも、深い位置、すなわち正極活物質100の内部側に位置していることが好ましい。
【0058】
なお本明細書等において、STEM-EDXの線分析においてある元素が検出される量が増加する深さとは、強度および空間分解能等の観点でノイズでないと判断できる測定値が、連続して得られるようになる深さ、をいうこととする。
【0059】
なお本明細書等において添加元素は混合物、原料の一部と同義である。
【0060】
なお導電性を向上させる添加元素として、必ずしもチタン、ルテニウム、バナジウム、ニオブ、クロム、モリブデン、タングステン、レニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、ランタン、ストロンチウムを含まなくてもよい。また結晶構造を安定化させる添加元素添加元素として、必ずしもフッ素、ジルコニウム、鉄、マンガン、クロム、ヒ素、亜鉛、ケイ素、硫黄、リン、ホウ素、臭素、またはベリリウムを含まなくてもよい。
【0061】
たとえばマンガンを実質的に含まない正極活物質100とすると、合成が比較的容易で取り扱いやすく、優れたサイクル特性を有するといった上記の利点がより大きくなる。正極活物質100に含まれるマンガンの重量はたとえば600ppm以下、より好ましくは100ppm以下であることが好ましい。
【0062】
正極活物質100は表層部100aに上記の添加元素を有する。また添加元素を複数有することがより好ましい。また表層部100aは内部100bよりも添加元素から選ばれた一または二以上の濃度が高いことが好ましい。または表層部100aは内部100bよりも添加元素から選ばれた一または二以上の検出量が多いことが好ましい。また正極活物質100が有する添加元素から選ばれた一または二以上は濃度勾配を有していることが好ましい。
【0063】
また正極活物質100は添加元素によって分布が異なっていることがより好ましい。たとえば添加元素によって表層部における検出量のピークの、表面または後述するEDX線分析における基準点からの深さが異なっていることがより好ましい。ここでいう検出量のピークとは、表層部100aまたは表面から50nm以下における検出量の極大値をいうこととする。検出量とは、たとえばEDX線分析におけるカウントをいう。
【0064】
〔チタン〕
チタンをはじめとする導電性を向上させる添加元素として表層部100aに存在することで、正極活物質100の導電性が向上する効果、および/または正極活物質へのリチウムイオンの挿入脱離を促進する効果が期待できる。また表層部100aにチタンを有することで、正極活物質100のインピーダンスが低下することが期待される。マグネシウムをはじめとする結晶構造を安定化させる添加元素の酸化物は絶縁性を示すが、チタンをはじめとする導電性を向上させる添加元素を有することでその絶縁性を緩和することができると考えられる。一方で導電性を向上させる添加元素の濃度が高すぎると、または導電性を向上させる添加元素のみを有する領域が広すぎると、正極活物質100が有する層状岩塩型の結晶構造が歪む恐れが生じる。そのため結晶構造を安定化させる添加元素、たとえばニッケル、マグネシウム等も表層部100aに存在することが好ましい。ニッケル、マグネシウムをはじめとする結晶構造を安定化させる添加元素により、該結晶構造の歪みが緩和されることが期待される。
【0065】
〔分布〕
上記の効果を発揮するため、添加元素のうち少なくともマグネシウム、ニッケルおよびチタンは、
図1(B)に示すように表層部100aの濃度が内部100bの濃度よりも高いことが好ましい。または表層部100aの検出量が内部100bの検出量よりも大きいことが好ましい。さらに表層部100aの中でもより表面に近い領域に検出量のピークを有することが好ましい。たとえば表面、または基準点から3nm以内に検出量のピークを有することが好ましい。またマグネシウムとニッケルの分布は重なっていることが好ましい。マグネシウムとニッケルの検出量のピークは同じ深さであってもよく、マグネシウムのピークがより表面側であってもよく、ニッケルのピークがより表面側であってもよい。ニッケルの検出量のピークと、マグネシウムの検出量のピークの深さの差は3nm以内が好ましく、1nm以内であるとさらに好ましい。また検出量の半値幅は狭いことが好ましい。
【0066】
同様に、マグネシウムとチタンの分布は重なっていることが好ましい。マグネシウムとチタンの検出量のピークは同じ深さであってもよく、マグネシウムのピークがより表面側であってもよく、チタンのピークがより表面側であってもよい。チタンの検出量のピークと、マグネシウムの検出量のピークの深さの差は3nm以内が好ましく、1nm以内であるとさらに好ましい。また検出量の半値幅は狭いことが好ましい。
【0067】
つまり、マグネシウムとニッケルとチタンの分布は重なっていることが好ましい。チタンの検出量のピークと、ニッケルの検出量のピークと、マグネシウムの検出量のピークの深さの差は3nm以内が好ましく、1nm以内であるとさらに好ましい。また検出量の半値幅は狭いことが好ましい。
【0068】
上記の、マグネシウムとニッケルの分布が重なっている領域、マグネシウムとチタンの分布が重なっている領域、又は、マグネシウムとニッケルとチタンの分布が重なっている領域は、表層部100aのなかでも、リチウムイオンが挿入脱離されるエッジ領域にあることが好ましい。つまり、
図1(B)の模式図に示す添加元素の分布は、
図1(A)におけるX1-X2の矢印の方向に観察されることが好ましい。一方、表層部100aのなかでも、ベーサル領域においては、上記の重なっている領域は必ずしも必要ではない。
【0069】
またSTEM-EDX分析におけるニッケルは、内部100bの検出量は表層部100aと比較して非常に小さいか、検出されない、または1原子%以下である場合がある。
【0070】
また図示しないが、フッ素はマグネシウムまたはニッケルと同様に、表層部100aの検出量が内部の検出量よりも大きいことが好ましい。また表層部100aの中でもより表面に近い領域に検出量のピークを有することが好ましい。たとえば表面、または基準点から3nm以内に検出量のピークを有することが好ましい。同様に、チタン、ケイ素、リン、ホウ素および/またはカルシウムも、表層部100aの検出量が内部の検出量よりも大きいことが好ましい。また表層部100aの中でもより表面に近い領域に検出量のピークを有することが好ましい。たとえばSTEM-EDX線分析において表面、または基準点から3nm以内に検出量のピークを有することが好ましい。
【0071】
また添加元素のうち少なくともアルミニウムは、マグネシウムおよびチタンよりも内部に検出量のピークを有することが好ましい。
図1(B)のようにマグネシウムとアルミニウムの分布は重なっていてもよいが、重なる領域がほとんどなくてもよい。アルミニウムの検出量のピークは表層部100aに存在してもよいし、表層部100aより深くてもよい。たとえば表面、または基準点から内部に向かって5nm以上30nm以下の領域にピークを有することが好ましい。
【0072】
アルミニウムが上記のように分布することで、正極活物質100の層状岩塩型の結晶構造をより安定化することができる。たとえば正極活物質100の表層部100aにおいて、層状岩塩型の結晶構造からスピネル型結晶構造に変化することを抑制することが期待される。なお、層状岩塩型の結晶構造中に発生したスピネル型結晶構造は、遷移金属Mの電荷の移動等を伴って移動する、または広がる可能性がある。また、正極活物質100中の結晶粒界をはじめとする欠陥は、c軸方向へのリチウムイオンの拡散経路になりうる。該欠陥近傍にはアルミニウムをはじめとする添加元素が含まれうる。つまりアルミニウムの存在によりリチウムイオンの拡散が起こりやすくなる可能性があると言える。
【0073】
マグネシウムおよびチタンよりもアルミニウムが内部まで分布しているのは、マグネシウムよりもアルミニウムの拡散速度が大きいためと考えられる。一方で最も表面に近い領域におけるアルミニウム検出量が少ないのは、マグネシウム等が高い濃度で固溶している領域よりも、そうでない領域の方が、アルミニウムが安定に存在できるためと推測される。
【0074】
より詳細に述べれば、空間群R-3mの層状岩塩型、もしくは立方晶系の岩塩型の領域において、マグネシウムが高い濃度で固溶している領域では、層状岩塩型のLiAlO2に比べて、陽イオン-酸素間の距離が長いため、アルミニウムが安定に存在しづらい。また、コバルトの周辺ではLi+がMg2+に置換した価数変化を、Co3+からCo2+になることで補い、カチオンバランスを取ることができる。しかしAlは3価しかとりえないため、岩塩型または層状岩塩型の構造の中ではマグネシウムの近傍で安定に存在しづらいと考えられる。
【0075】
また図示しないが、マンガンを含む場合、STEM-EDX線分析においてマンガンはアルミニウムと同様に、マグネシウムより内部に検出量のピークを有することが好ましい。
【0076】
ただし必ずしも、正極活物質100の表層部100a全てにおいて添加元素が同じような濃度勾配または分布でなくてもよい。表層部100aに添加元素が島状に分布していてもよいし、結晶面によって添加元素の分布の傾向が異なっていてもよい。
【0077】
より具体的には、正極活物質100の(001)配向した表面は、その他の表面と添加元素の分布が異なっていてもよい。たとえば、(001)配向した表面とその表層部100aは、(001)配向以外の表面と比較して添加元素から選ばれた一または二以上の検出量が低くてもよい。具体的にはマグネシウム、ニッケルおよびチタンのいずれか一または二以上の検出量が低くてもよい。または、(001)配向した表面とその表層部100aは、添加元素から選ばれた一または二以上が検出されないか、STEM-EDX分析において検出量が1原子%以下であってもよい。具体的にはニッケルの検出量が検出されないか、1原子%以下であってもよい。特にEDXのような特性X線を検出する分析方法の場合、コバルトのKβとニッケルのKαのエネルギーが近いため、コバルトが主たる元素である材料中での微量のニッケルは検出しづらい。または、(001)配向した表面とその表層部100aは、添加元素から選ばれた一または二以上の検出量のピークが、(001)配向以外の表面と比較して表面から浅くてもよい。具体的には、マグネシウムおよびアルミニウムの検出量のピークが、その他の面と比較して浅くてもよい。
【0078】
R-3mの層状岩塩型の結晶構造では、(001)面に平行に陽イオンが配列している。これはMO2層と、リチウム層と、が(001)面と平行に交互に積層した構造であるということができる。そのためリチウムイオンの拡散経路も(001)面に平行に存在する。
【0079】
MO2層は比較的安定であるため、正極活物質100の表面は(001)配向である方が安定である。(001)面には充放電におけるリチウムイオンの主な拡散経路は露出していない。
【0080】
一方、(001)配向以外の表面ではリチウムイオンの拡散経路が露出している。そのため(001)配向以外の表面および表層部100aは、リチウムイオンの拡散経路を保つために重要な領域であると同時に、リチウムイオンが最初に脱離する領域であるため不安定になりやすい。そのため(001)配向以外の表面および表層部100aを補強することが、正極活物質100全体の結晶構造を保つために極めて重要である。
【0081】
そのため本発明の別の一態様の正極活物質100では、(001)配向以外の表面およびその表層部100aの添加元素の存在分布がたとえば
図1(B)に示すような分布となっていることが重要である。添加元素の中でも特にニッケルが(001)配向以外の表面およびその表層部100aに検出されることが好ましい。一方、(001)配向した表面およびその表層部100aでは上述のように添加元素の濃度は低くてもよいし、またはなくてもよい。
【0082】
たとえば、(001)配向した表面とその表層部100aにおけるマグネシウムの分布は、その半値幅が10nm以上200nm以下であることが好ましく、50nm以上150nm以下であることがより好ましく、80nm以上120nm以下であるとさらに好ましい。また(001)配向でない表面とその表層部100aにおけるマグネシウムの分布は、その半値幅が200nmを超えて500nm以下であることが好ましく、200nmを超えて300nm以下であることがより好ましく、230nm以上270nm以下であることがさらに好ましい。
【0083】
また(001)配向でない表面とその表層部100aにおけるニッケルの分布は、その半値幅が30nm以上150nm以下であることが好ましく、50nm以上130nm以下であることがより好ましく、70nm以上110nm以下であることがさらに好ましい。
【0084】
後の実施の形態で説明する、純度の高いLiMO2を作製した後に、添加元素を後から混合して加熱する作製方法は、主にリチウムイオンの拡散経路を介して添加元素が広がる。そのため(001)配向以外の表面およびその表層部100aの添加元素の分布を好ましい範囲にしやすい。
【0085】
〔マグネシウム〕
マグネシウムは2価で、マグネシウムイオンは層状岩塩型の結晶構造におけるコバルトサイトよりもリチウムサイトに存在する方が安定であるため、リチウムサイトに入りやすい。マグネシウムが表層部100aのリチウムサイトに適切な濃度で存在することで、層状岩塩型の結晶構造を保持しやすくできる。これはリチウムサイトに存在するマグネシウムが、MO2層同士を支える柱として機能するためと推測される。またマグネシウムが存在することで、LixCoO2中のxがたとえば0.24以下の状態においてマグネシウムの周囲の酸素の脱離を抑制することができる。またマグネシウムが存在することで正極活物質100の密度が高くなることが期待できる。また表層部100aのマグネシウム濃度が高いと、電解液が分解して生じたフッ酸に対する耐食性が向上することも期待できる。
【0086】
マグネシウムは、適切な濃度であれば充放電に伴うリチウムの挿入および脱離に悪影響を及ぼさず上記のメリットを享受できる。しかしマグネシウムが過剰であるとリチウムの挿入および脱離に悪影響が出る恐れがある。さらに結晶構造の安定化への効果が小さくなってしまう場合がある。これはマグネシウムが、リチウムサイトに加えてコバルトサイトにも入るようになるためと考えられる。加えて、リチウムサイトにもコバルトサイトにも置換しない、不要なマグネシウム化合物(酸化物およびフッ化物等)が正極活物質の表面等に偏析し、二次電池の抵抗成分となる恐れがある。また正極活物質のマグネシウム濃度が高くなるのに伴って正極活物質の放電容量が減少することがある。これはリチウムサイトにマグネシウムが入りすぎ、充放電に寄与するリチウム量が減少するためと考えられる。
【0087】
そのため、正極活物質100全体が有するマグネシウムが適切な量であることが好ましい。たとえばマグネシウムの原子数はコバルトの原子数の0.002倍以上0.06倍以下が好ましく、0.005倍以上0.03倍以下がより好ましく、0.01倍程度がさらに好ましい。ここでいう正極活物質100全体が有するマグネシウムの量とは、例えばGD-MS、ICP-MS等を用いて正極活物質100の全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質100の作製の過程における原料の配合の値に基づいたものであってもよい。
【0088】
〔ニッケル〕
ニッケルは、LiMO2の層状岩塩型の結晶構造では、コバルトサイトとリチウムサイトのどちらにも存在しうる。コバルトサイトに存在する場合、コバルトと比較して酸化還元電位が低いため、たとえば充電においてはリチウムおよび電子を手放しやすい、ともいえる。そのため充放電スピードが速くなることが期待できる。そのため、同じ充電電圧でも、遷移金属Mがコバルトの場合よりもニッケルの場合の方が大きな充放電容量が得られる。
【0089】
またニッケルがリチウムサイトに存在する場合、コバルトと酸素の8面体からなる層状構造のずれが抑制されうる。また充放電に伴う体積の変化が抑制される。また弾性係数が大きくなる、つまり硬くなる。これはリチウムサイトに存在するニッケルも、MO2層同士を支える柱として機能するためと推測される。そのため特に高温、たとえば45℃以上での充電状態において結晶構造がより安定になることが期待でき好ましい。
【0090】
また酸化ニッケル(NiO)の陽イオンと陰イオン間の距離は、岩塩型MgOおよび岩塩型CoOよりも、LiCoO2の陽イオンと陰イオン間の距離の平均に近く、LiCoO2と配向が一致しやすい。
【0091】
またマグネシウム、アルミニウム、コバルト、ニッケルの順でイオン化傾向が大きい。そのため充電時にニッケルは上記の他の元素より電解液に溶出しにくいと考えられる。そのため充電状態において表層部の結晶構造を安定化させる効果が高いと考えられる。
【0092】
さらにニッケルはNi2+、Ni3+、Ni4+のうちNi2+が最も安定であり、ニッケルはコバルトと比較して3価のイオン化エネルギーが小さい。そのためニッケルと酸素のみではスピネル型の結晶構造を取らないことが知られている。そのためニッケルは、層状岩塩型からスピネル型の結晶構造への相変化を抑制する効果があると考えられる。
【0093】
一方でニッケルが過剰であるとヤーン・テラー効果による歪みの影響が強まり好ましくない。またニッケルが過剰であるとリチウムの挿入および脱離に悪影響が出る恐れがある。
【0094】
そのため正極活物質100全体が有するニッケルが適切な量であることが好ましい。たとえば正極活物質100が有するニッケルの原子数は、コバルトの原子数の0%を超えて7.5%以下が好ましく、0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%以下が好ましく、0.2%以上1%以下がより好ましい。または0%を超えて4%以下が好ましい。または0%を超えて2%以下が好ましい。または0.05%以上7.5%以下が好ましい。または0.05%以上2%以下が好ましい。または0.1%以上7.5%以下が好ましい。または0.1%以上4%以下が好ましい。ここで示すニッケルの量は例えば、GD-MS、ICP-MS等を用いて正極活物質の全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0095】
〔アルミニウム〕
またアルミニウムは層状岩塩型の結晶構造におけるコバルトサイトに存在しうる。アルミニウムは3価の典型元素であり価数が変化しないため、充放電の際もアルミニウム周辺のリチウムは移動しにくい。そのためアルミニウムとその周辺のリチウムが柱として機能し、結晶構造の変化を抑制しうる。そのため後述するように正極活物質100がリチウムイオンの挿入脱離によってc軸方向に伸縮する力が働いても、すなわち充電深度あるいは充電率を変えることによってc軸方向に伸縮する力が働いても、正極活物質100の劣化を抑制することができる。
【0096】
またアルミニウムは周囲のコバルトの溶出を抑制し、連続充電耐性を向上する効果がある。またAl-Oの結合はCo-O結合よりも強いため、アルミニウムの周囲の酸素の脱離を抑制することができる。これらの効果により、熱安定性が向上する。そのため添加元素としてアルミニウムを有すると、二次電池に正極活物質100を用いたときの安全性を向上できる。また充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい正極活物質100とすることができる。
【0097】
一方でアルミニウムが過剰であるとリチウムの挿入および脱離に悪影響が出る恐れがある。
【0098】
そのため正極活物質100全体が有するアルミニウムが適切な量であることが好ましい。たとえば正極活物質100の全体が有するアルミニウムの原子数は、コバルトの原子数の0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%以下が好ましく、0.3%以上1.5%以下がより好ましい。または0.05%以上2%以下が好ましい。または0.1%以上4%以下が好ましい。ここでいう正極活物質100全体が有する量とはたとえば、GD-MS、ICP-MS等を用いて正極活物質100の全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質100の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0099】
〔フッ素〕
フッ素は1価の陰イオンであり、表層部100aにおいて酸素の一部がフッ素に置換されていると、リチウム脱離エネルギーが小さくなる。これは、リチウム脱離に伴うコバルトイオンの酸化還元電位が、フッ素の有無によって異なることによる。つまりフッ素を有さない場合は、リチウム脱離に伴いコバルトイオンは3価から4価に変化する。一方フッ素を有する場合は、リチウム脱離に伴いコバルトイオンは2価から3価に変化する。両者で、コバルトイオンの酸化還元電位が異なる。そのため正極活物質100の表層部100aにおいて酸素の一部がフッ素に置換されていると、フッ素近傍のリチウムイオンの脱離および挿入がスムースに起きやすいと言える。そのため正極活物質100を二次電池に用いたときに充放電特性、大電流特性等を向上させることができる。また電解液に接する部分である表面を有する表層部100aにフッ素が存在することで、または表面にフッ化物が付着することで、正極活物質100と、電解液との過剰な反応を抑制することができる。またフッ酸に対する耐食性を効果的に向上させることができる。
【0100】
またフッ化リチウムをはじめとするフッ化物の融点が、他の添加元素源の融点より低い場合、その他の添加元素源の融点を下げる融剤(フラックス剤ともいう)として機能しうる。フッ化物がLiF及びMgF2を有する場合、LiFとMgF2の共融点は742℃付近であるため、添加元素を混合した後の加熱工程において、加熱温度を742℃以上とすると好ましい。
【0101】
ここで、フッ化物および混合物についての示差走査熱量測定(DSC測定)について
図2を用いて説明する。
図2中のフッ化物はLiFおよびMgF
2の混合物である。LiF:MgF
2=1:3(モル比)となるように混合した。
図2中の混合物は、リチウム酸化物としてコバルト酸リチウム、フッ化物としてLiFおよびMgF
2を用いて混合したものである。LiCoO
2:LiF:MgF
2=100:0.33:1(モル比)となるように混合した。
【0102】
図2に示すように、フッ化物では735℃付近に吸熱ピークが観測される。また混合物では830℃付近に吸熱ピークが観測される。よって、添加元素を混合した後の加熱温度としては、742℃以上が好ましく、830℃以上がより好ましい。またこれらの間である800℃以上でもよい。
【0103】
〔その他の添加元素〕
リンを表層部100aに有すると、LixCoO2中のxが小さい状態を保持した場合において、ショートを抑制できる場合があり好ましい。たとえばリンと酸素を含む化合物として表層部100aに存在することが好ましい。
【0104】
正極活物質100がリンを有する場合には、電解液または電解質の分解により発生したフッ化水素とリンが反応し、電解質中のフッ化水素濃度を低下できる可能性があり好ましい。
【0105】
電解質がLiPF6を有する場合、加水分解により、フッ化水素が発生する恐れがある。また、正極の構成要素として用いられるポリフッ化ビニリデン(PVDF)とアルカリとの反応によりフッ化水素が発生する恐れもある。電解質中のフッ化水素濃度が低下することにより、集電体の腐食および/または被覆部104のはがれを抑制できる場合がある。また、PVDFのゲル化および/または不溶化による接着性の低下を抑制できる場合がある。
【0106】
正極活物質100がマグネシウムと共にリンを有すると、LixCoO2中のxが小さい状態における安定性が極めて高くなり好ましい。正極活物質100がリンを有する場合、リンの原子数は、コバルトの原子数の1%以上20%以下が好ましく、2%以上10%以下がより好ましく、3%以上8%以下がさらに好ましい。または1%以上10%以下が好ましい。または1%以上8%以下が好ましい。または2%以上20%以下が好ましい。または2%以上8%以下が好ましい。または3%以上20%以下が好ましい。または3%以上10%以下が好ましい。加えてマグネシウムの原子数は、コバルトの原子数の0.1%以上10%以下が好ましく、0.5%以上5%以下がより好ましく、0.7%以上4%以下がより好ましい。または0.1%以上5%以下が好ましい。または0.1%以上4%以下が好ましい。または0.5%以上10%以下が好ましい。または0.5%以上4%以下が好ましい。または0.7%以上10%以下が好ましい。または0.7%以上5%以下が好ましい。ここで示すリンおよびマグネシウムの濃度は例えば、GD-MS、ICP-MS等を用いて正極活物質100の全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質100の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0107】
また正極活物質100がクラックを有する場合、クラックを表面とした正極活物質の内部、たとえば埋め込み部にリン、より具体的には例えばリンと酸素を含む化合物が存在することにより、クラックの進行が抑制されうる。
【0108】
〔複数の添加元素の相乗効果〕
さらに表層部100aにマグネシウムとニッケルを併せて有する場合、2価のマグネシウムの近くでは2価のニッケルがより安定に存在できる可能性がある。そのためLixMO2中のxが小さい状態でもマグネシウムの溶出が抑制されうる。そのため表層部100aの安定化に寄与しうる。
【0109】
同様の理由で、作製工程においては、コバルト酸リチウムに添加元素を加える際、マグネシウムはニッケルよりも前の工程で添加されることが好ましい。またはマグネシウムとニッケルは同じ工程で添加されることが好ましい。マグネシウムはイオン半径が大きく、どの工程で添加してもコバルト酸リチウムの表層部に留まりやすいのに対して、ニッケルはマグネシウムが存在しない場合、コバルト酸リチウムの内部に広く拡散しうる。そのためマグネシウムの前にニッケルが添加されると、ニッケルがコバルト酸リチウムの内部に拡散してしまい、表層部に好ましい量で残らない懸念がある。
【0110】
また分布が異なる添加元素を併せて有すると、より広い領域の結晶構造を安定化でき好ましい。たとえば正極活物質100は表層部100aのなかでもより表面に近い領域に分布するマグネシウムおよびニッケルと、これらよりも深い領域に分布するアルミニウムと、を共に有すると、いずれかしか有さない場合よりも広い領域の結晶構造を安定化できる。このように正極活物質100が分布の異なる添加元素を併せて有する場合は、表面の安定化はマグネシウム、ニッケル等によって十分に果たせるため、アルミニウムは表面に必須ではない。むしろアルミニウムはより深い領域に広く分布することが好ましい。たとえば表面から深さ方向1nm以上25nm以下の領域では連続的にアルミニウムが検出されることが好ましい。表面から0nm以上100nm以下の領域、好ましくは表面から0.5nm以上50nm以内の領域に広く分布する方が、より広い領域の結晶構造を安定化でき好ましい。
【0111】
上記のように複数の添加元素を有すると、それぞれの添加元素の効果が相乗し表層部100aのさらなる安定化に寄与しうる。特にマグネシウム、ニッケルおよびアルミニウムを有すると安定な組成および結晶構造とする効果が高く好ましい。
【0112】
ただし表層部100aが添加元素と酸素の化合物のみで占められると、リチウムの挿入脱離が難しくなってしまうため好ましくない。たとえば表層部100aが、MgOまたはMgOとMO(II)が固溶した構造のみで占められるのは好ましくない。そのため表層部100aは少なくともコバルトをはじめとする遷移金属Mを有し、放電状態においてはリチウムも有し、リチウムの挿入脱離の経路を有している必要がある。
【0113】
十分にリチウムの挿入脱離の経路を確保するために、表層部100aはマグネシウムよりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。たとえばXPSで正極活物質100の表面から測定したとき、マグネシウムの原子数Mgとコバルトの原子数Coの比Mg/Coは0.62以下であることが好ましい。また表層部100aはニッケルよりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。また表層部100aはアルミニウムよりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。また表層部100aはフッ素よりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。
【0114】
さらにニッケルが多すぎるとリチウムの拡散を阻害する恐れがあるため、表層部100aはニッケルよりもマグネシウムの濃度が高いことが好ましい。たとえばXPSで正極活物質100の表面から測定したとき、ニッケルの原子数はマグネシウムの原子数の1/6以下であることが好ましい。
【0115】
また添加元素の一部、特にマグネシウム、ニッケルおよびアルミニウムは、内部100bよりも表層部100aの濃度が高いことが好ましいものの、内部100bにもランダムかつ希薄に存在することが好ましい。マグネシウムおよびアルミニウムが内部100bのリチウムサイトに適切な濃度で存在すると、上記と同様に層状岩塩型の結晶構造を保持しやすくできるといった効果がある。またニッケルが内部100bに適切な濃度で存在すると、上記と同様にコバルトと酸素の8面体からなる層状構造のずれが抑制されうる。またマグネシウムとニッケルを併せて有する場合も上記と同様にマグネシウムの溶出を抑制する相乗効果が期待できる。
【0116】
上述のような添加元素の濃度勾配に起因して、内部100bから、表面に向かって結晶構造が連続的に変化することが好ましい。または表層部100aと内部100bの結晶の配向が概略一致していることが好ましい。
【0117】
たとえば層状岩塩型の内部100bから、岩塩型、または岩塩型と層状岩塩型の両方の特徴を有する表面および表層部100aに向かって結晶構造が連続的に変化することが好ましい。または岩塩型、または岩塩型と層状岩塩型の両方の特徴を有する表層部100aと、層状岩塩型の内部100bの結晶の配向が概略一致していることが好ましい。
【0118】
なお本明細書等において、リチウムとコバルトをはじめとする遷移金属を含む複合酸化物が有する、空間群R-3mに帰属する層状岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列する岩塩型のイオン配列を有し、遷移金属とリチウムが規則配列して二次元平面を形成するため、リチウムの二次元的拡散が可能である結晶構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損等の欠陥があってもよい。また、層状岩塩型結晶構造は、厳密に言えば、岩塩型結晶の格子が歪んだ構造となっている場合がある。
【0119】
また岩塩型の結晶構造とは、空間群Fm-3mをはじめとする立方晶系の結晶構造を有し、陽イオンと陰イオンが交互に配列している構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損があってもよい。
【0120】
また層状岩塩型と岩塩型の結晶構造の特徴の両方を有することは、電子線回折、TEM像、断面STEM像等によって判断することができる。
【0121】
岩塩型は陽イオンのサイトに区別がないが、層状岩塩型は結晶構造の陽イオンのサイトが2種あり、1つはリチウムが大半を占有し、もう1つは遷移金属が占有する。陽イオンの二次元平面と陰イオンの二次元平面とが交互に配列する積層構造は、岩塩型も層状岩塩型も同じである。この二次元平面を形成する結晶面に対応する電子線回折パターンの輝点の中で、中心のスポット(透過斑点)を原点000とした際、中心のスポットに最も近い輝点は、理想的な状態の岩塩型ではたとえば(111)面、層状岩塩型ではたとえば(003)面になる。たとえば岩塩型MgOと層状岩塩型LiCoO2の電子線回折パターンを比較する場合、LiCoO2の(003)面の輝点間の距離は、MgOの(111)面の輝点間の距離のおよそ半分程度の距離に観察される。そのため分析領域に、たとえば岩塩型MgOと層状岩塩型LiCoO2の2相を有する場合、電子線回折パターンでは、強い輝度の輝点と、弱い輝度の輝点とが交互に配列する面方位が存在する。岩塩型と層状岩塩型で共通する輝点は強い輝度となり、層状岩塩型のみで生じる輝点は弱い輝度となる。
【0122】
また断面STEM像等では、層状岩塩型の結晶構造をc軸に垂直な方向から観察したとき、強い輝度で観察される層と、弱い輝度で観察される層が交互に観察される。岩塩型は陽イオンのサイトに区別がないためこのような特徴はみられない。岩塩型と層状岩塩型の両方の特徴を有する結晶構造の場合、特定の結晶方位から観察すると、断面STEM像等では強い輝度で観察される層と、弱い輝度で観察される層が交互に観察され、さらに弱い輝度の層、すなわちリチウム層の一部にリチウムより原子番号の大きい金属が存在する。
【0123】
層状岩塩型結晶、および岩塩型結晶の陰イオンは立方最密充填構造(面心立方格子構造)をとる。後述するO3’型および単斜晶O1(15)結晶も、陰イオンは立方最密充填構造をとると推定される。そのため層状岩塩型結晶と岩塩型結晶が接するとき、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃う結晶面が存在する。
【0124】
または、以下のように説明することもできる。立方晶の結晶構造の{111}面における陰イオンは三角格子を有する。層状岩塩型は空間群R-3mであって、菱面体構造であるが、構造の理解を容易にするため一般に複合六方格子で表現され、層状岩塩型の(0001)面は六角格子を有する。立方晶{111}面の三角格子は、層状岩塩型の(0001)面の六角格子と同様の原子配列を有する。両者の格子が整合性を持つことを、立方最密充填構造の向きが揃うということができる。
【0125】
ただし、層状岩塩型結晶およびO3’型結晶の空間群はR-3mであり、岩塩型結晶の空間群Fm-3m(一般的な岩塩型結晶の空間群)とは異なるため、上記の条件を満たす結晶面のミラー指数は層状岩塩型結晶およびO3’型結晶と、岩塩型結晶では異なる。本明細書では、層状岩塩型結晶、O3’型および岩塩型結晶において、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃うとき、結晶の配向が概略一致する、と言う場合がある。また、結晶の配向が概略一致するような三次元的な構造上の類似性を有すること、または結晶学的に同じ配向であることをトポタキシ(topotaxy)という。
【0126】
二つの領域の結晶の配向が概略一致することは、TEM(Transmission Electron Microscope、透過電子顕微鏡)像、STEM(Scanning Transmission Electron Microscope、走査透過電子顕微鏡)像、HAADF-STEM(High-angle Annular Dark Field Scanning TEM、高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡)像、ABF-STEM(Annular Bright-Field Scanning Transmission Electron Microscope、環状明視野走査透過電子顕微鏡)像、電子線回折パターン、等から判断することができる。またTEM像のFFTパターン、およびSTEM像等のFFTパターンによっても判断することができる。さらにXRD(X-ray Diffraction、X線回折)、中性子線回折等も判断の材料にすることができる。
【0127】
図3に、層状岩塩型結晶LRSと岩塩型結晶RSの配向が概略一致しているTEM像の例を示す。TEM像、STEM像、HAADF-STEM像、ABF-STEM像等では、結晶構造を反映した像が得られる。
【0128】
たとえばTEMの高分解能像等では、結晶面に由来するコントラストが得られる。電子線の回折および干渉によって、たとえば層状岩塩型の複合六方格子のc軸と垂直に電子線が入射した場合、(0003)面に由来するコントラストが明るい帯(明るいストリップ)と暗い帯(暗いストリップ)の繰り返しとして得られる。そのためTEM像において明線と暗線の繰り返しが観察され、明線同士(たとえば
図3に示すL
RSとL
LRS)の角度が5度以下、または2.5度以下である場合、結晶面が概略一致している、すなわち結晶の配向が概略一致していると判断することができる。同様に、暗線同士の角度が5度以下、または2.5度以下である場合も、結晶の配向が概略一致していると判断することができる。
【0129】
またHAADF-STEM像では、原子番号に比例したコントラストが得られ、原子番号が大きい元素ほど明るく観察される。たとえば空間群R-3mに属する層状岩塩型のコバルト酸リチウムの場合、コバルト(原子番号27)が最も原子番号が大きいため、コバルト原子の位置で電子線が強く散乱され、コバルト原子の配列が明線もしくは強い輝度の点の配列として観察される。そのため層状岩塩型の結晶構造を有するコバルト酸リチウムをc軸と垂直に観察した場合、c軸と垂直にコバルト原子の配列が明線もしくは強い輝度の点の配列として観察され、リチウム原子、酸素原子の配列は暗線もしくは輝度の低い領域として観察される。コバルト酸リチウムの添加元素としてフッ素(原子番号9)およびマグネシウム(原子番号12)を有する場合も同様である。
【0130】
そのためHAADF-STEM像において、結晶構造の異なる二つの領域で明線と暗線の繰り返しが観察され、明線同士の角度が5度以下、または2.5度以下である場合、原子の配列が概略一致している、すなわち結晶の配向が概略一致していると判断することができる。同様に、暗線同士の角度が5度以下、または2.5度以下である場合も、結晶の配向が概略一致していると判断することができる。
【0131】
なおABF-STEMでは原子番号が小さい元素ほど明るく観察されるが、原子番号に応じたコントラストが得られる点ではHAADF-STEMと同様であるため、HAADF-STEM像と同様に結晶の配向を判断することができる。
【0132】
図4(A)に層状岩塩型結晶LRSと岩塩型結晶RSの配向が概略一致しているSTEM像の例を示す。岩塩型結晶RSの領域のFFTパターンを
図4(B)に、層状岩塩型結晶LRSの領域のFFTパターンを
図4(C)に示す。
図4(B)および
図4(C)の左に組成、JCPDSのカードナンバー、およびこれから計算されるd値および角度を示す。右に実測値を示す。Oを付したスポットは0次回折である。
【0133】
図4(B)でAを付したスポットは立方晶の11-1反射に由来するものである。
図4(C)でAを付したスポットは層状岩塩型の0003反射に由来するものである。
図4(B)および
図4(C)から、立方晶の11-1反射の方位と、層状岩塩型の0003反射の方位と、が概略一致していることがわかる。すなわち
図4(B)のAOを通る直線と、
図4(C)のAOを通る直線と、が概略平行であることがわかる。ここでいう概略一致および概略平行とは、角度が5度以下、または2.5度以下であることをいう。
【0134】
このようにFFTパターンおよび電子線回折パターンでは、層状岩塩型結晶と岩塩型結晶の配向が概略一致していると、層状岩塩型の〈0003〉方位と、岩塩型の〈11-1〉方位と、が概略一致する場合がある。このとき、これらの逆格子点はスポット状であること、つまり他の逆格子点と連続していないことが好ましい。逆格子点がスポット状で、他の逆格子点と連続していないことは、結晶性が高いことを意味する。
【0135】
また、上述のように立方晶の11-1反射の方位と、層状岩塩型の0003反射の方位と、が概略一致している場合、電子線の入射方位によっては、層状岩塩型の0003反射の方位とは異なる逆格子空間上に、層状岩塩型の0003反射由来ではないスポットが観測されることがある。例えば
図4(C)でBを付したスポットは、層状岩塩型の1014反射に由来するものである。これは、層状岩塩型の0003反射由来の逆格子点(
図4(C)のA)の方位から、52°以上56°以下の角度であり(すなわち∠AOBが52°以上56°以下であり)、dが0.19nm以上0.21nm以下の箇所に観測されることがある。なおこの指数は一例であり、必ずしもこれに一致している必要は無い。例えば、0003と1014と等価な逆格子点でも良い。
【0136】
同様に立方晶の11-1反射が観測された方位とは別の逆格子空間上に、立方晶の11-1反射由来ではないスポットが観測されることがある。例えば、
図4(B)でBを付したスポットは、立方晶の200反射に由来するものである。これは、立方晶の11-1由来の反射(
図4(B)のA)の方位から、54°以上56°以下の角度である(すなわち∠AOBが54°以上56°以下である)箇所に回折スポットが観測されることがある。なおこの指数は一例であり、必ずしもこれに一致している必要は無い。例えば、立方晶の11-1と200と等価な逆格子点でも良い。
【0137】
なお、コバルト酸リチウムをはじめとする層状岩塩型の正極活物質は、(0003)面およびこれと等価な面、並びに(10-14)面およびこれと等価な面が結晶面として現れやすいことが知られている。そのため正極活物質の形状をSEM等でよく観察することで、(0003)面が観察しやすいように、たとえばTEM等において電子線が[12-10]入射となるように観察サンプルをFIB等で薄片加工することが可能である。結晶の配向の一致について判断したいときは、層状岩塩型の(0003)面が観察しやすいよう薄片化することが好ましい。
【0138】
<結晶構造>
≪Li
xMO
2中のxが1のとき≫
本発明の一態様の正極活物質100は放電状態、つまりLi
xMO
2中のx=1の場合に、空間群R-3mに帰属する層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。層状岩塩型の複合酸化物は、放電容量が高く、二次元的なリチウムイオンの拡散経路を有しリチウムイオンの挿入/脱離反応に適しており、二次電池の正極活物質として優れる。そのため特に、正極活物質100の体積の大半を占める内部100bが層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。
図5に層状岩塩型の結晶構造をR-3m O3を付して示す。R-3m O3は、格子定数がa=2.81610、b=2.81610、c=14.05360、α=90.0000、β=90.0000、γ=120.0000であり、ユニットセルにおけるリチウム、コバルトおよび酸素の座標が、Li(0、0、0)、Co(0、0、0.5)、O(0、0、0.23951)である(非特許文献5)。
【0139】
一方、本発明の一態様の正極活物質100の表層部100aは、充電により正極活物質100からリチウムが抜けても、内部100bの遷移金属Mと酸素の8面体からなる層状構造が壊れないよう補強する機能を有することが好ましい。または表層部100aが正極活物質100のバリア膜として機能することが好ましい。または正極活物質100の外周部である表層部100aが正極活物質100を補強することが好ましい。ここでいう補強とは、酸素の脱離、および/または遷移金属Mと酸素の8面体からなる層状構造のずれ等の正極活物質100の表層部100aおよび内部100bの構造変化を抑制することをいう。および/または電解質が正極活物質100の表面で酸化分解されることを抑制することをいう。
【0140】
そのため表層部100aは、内部100bと異なる結晶構造を有していることが好ましい。また表層部100aは、内部100bよりも室温(25℃)で安定な組成および結晶構造であることが好ましい。例えば、本発明の一態様の正極活物質100の表層部100aの少なくとも一部が、岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。または表層部100aは、層状岩塩型と岩塩型の結晶構造の両方の結晶構造を有していることが好ましい。または表層部100aは、層状岩塩型と岩塩型の結晶構造の両方の特徴を有することが好ましい。
【0141】
表層部100aは充電時にリチウムイオンが最初に脱離する領域であり、内部100bよりもリチウム濃度が低くなりやすい領域である。また表層部100aが有する正極活物質100の粒子の表面の原子は、一部の結合が切断された状態ともいえる。そのため表層部100aは不安定になりやすく、結晶構造の劣化が始まりやすい領域といえる。たとえば表層部100aにおいて遷移金属Mと酸素の8面体からなる層状構造の結晶構造がずれると、その影響が内部100bに連鎖して、内部100bにおいても層状構造の結晶構造がずれ、正極活物質100全体の結晶構造の劣化につながると考えられる。一方で表層部100aを十分に安定にできれば、LixMO2中のxが小さいときでも、たとえばxが0.24以下でも内部100bの遷移金属Mと酸素の8面体からなる層状構造を壊れにくくすることができる。さらには、内部100bの遷移金属Mと酸素の8面体からなる層のずれを抑制することができる。
【0142】
また正極活物質100の内部100bは、転位を含む欠陥の密度が少ないことが好ましい。また正極活物質100は、XRDにより測定される結晶子サイズが大きいことが好ましい。換言すれば内部100bは結晶性が高いことが好ましい。また正極活物質100の表面はなめらかであることが好ましい。これらの特徴は、二次電池に用いた際の正極活物質100の信頼性を支える重要な要素である。正極活物質の信頼性が高ければ二次電池の充電電圧の上限を高くすることができ、充放電容量の高い二次電池とすることができる。
【0143】
内部100bの転位はたとえばTEMで観察することができる。転位を含む欠陥の密度が十分に少ない場合、観察試料の特定の1μm四方に観察されない場合がある。なお転位とは結晶欠陥の一種であり、空孔欠陥とは異なるものである。
【0144】
結晶子サイズが大きいほど、後述するようにLixCoO2中のxが小さい状態においてO3’型の結晶構造が保たれやすく、c軸長の収縮が抑制されやすい。
【0145】
TEMにより観察される転位を含む欠陥が少ないほど、XRDにより測定される結晶子サイズは大きくなると考えられる。
【0146】
結晶子サイズを算出する際のXRDの回折パターンは、正極活物質のみの状態で取得することが好ましいが、正極活物質に加えて集電体、バインダ及び導電材等を含む正極の状態で取得してもよい。ただし正極の状態では、作製工程における加圧等の影響で正極活物質が配向している可能性がある。配向が強いと結晶子サイズが正確に算出できない恐れがあるため、正極から正極活物質層を取出し、溶媒等を用いて正極活物質層中のバインダ等をある程度取り除いてから試料ホルダに充填する等の方法で取得することがより好ましい。また粉体サンプルをシリコン無反射板状にグリースを塗布し、サンプルを付着させるといった方法もある。
【0147】
結晶子サイズの算出には、たとえばBurker D8 ADVANCEを用い、X線源としてCuKα、2θは15°以上90°以下、increment 0.005、検出器をLYNXEYE XE-Tとして取得した回折パターンと、コバルト酸リチウムの文献値としてICSD coll.code.172909を用いることができる。結晶構造解析ソフトウェアとしてDIFFRAC.TOPAS ver.6を用いて解析を行うことができ、たとえば以下のように設定することができる。
Emission Profile:CuKa5.lam
Background:Chebychev polynomial、5次
Instrument
Primary radius:280mm
Secondary radius:280mm
Linear PSD 2Th angular range:2.9
FDS angle:0.3
Full Axial Convolution
Filament length:12mm
Sample length:15mm
Receiving Slit length:12mm
Primary Sollers:2.5
Secondary Sollers:2.5
Corrections
Specimen displacement:Refine
LP Factor:0
【0148】
上記の手法で算出された積分幅基準で補正した結晶子サイズであるLVol-IBの値を結晶子サイズとして採用することが好ましい。なお算出されたPreferred Orientationが0.8未満の場合、サンプルの配向が強すぎるため結晶子サイズを求めるには適さない場合がある。
【0149】
≪LixMO2中のxが小さい状態≫
本発明の一態様の正極活物質100は、放電状態において上述のような添加元素の分布および/または結晶構造を有することに起因して、LixMO2中のxが小さい状態での結晶構造が、従来の正極活物質と異なることが好ましい。なおここでxが小さいとは、0.1<x≦0.24をいうこととする。
【0150】
図5乃至
図9を用いて、Li
xMO
2中のxの変化に伴う結晶構造の変化について、従来の正極活物質と本発明の一態様の正極活物質100を比較しながら説明する。
【0151】
従来の正極活物質の結晶構造の変化を
図6に示す。
図6に示す従来の正極活物質は、特に添加元素を有さないコバルト酸リチウム(LiCoO
2)である。特に添加元素を有さないコバルト酸リチウムの結晶構造の変化は非特許文献1乃至非特許文献3等に述べられている。
【0152】
図6にR-3m O3を付してLi
xCoO
2中のx=1のコバルト酸リチウムが有する結晶構造を示す。この結晶構造はリチウムが8面体(Octahedral)サイトを占有し、ユニットセル中にCoO
2層が3層存在する。そのためこの結晶構造をO3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、CoO
2層とはコバルトに酸素が6配位した8面体構造が、稜共有の状態で平面に連続した構造をいうこととする。これをコバルトと酸素の8面体からなる層、という場合もある。
【0153】
また従来のコバルト酸リチウムは、x=0.5程度のときリチウムの対称性が高まり、単斜晶系の空間群P2/mに帰属する結晶構造を有することが知られている。この構造はユニットセル中にCoO2層が1層存在する。そのためO1型、または単斜晶O1型と呼ぶ場合がある。
【0154】
またx=0のときの正極活物質は、三方晶系の空間群P-3m1の結晶構造を有し、やはりユニットセル中にCoO2層が1層存在する。そのためこの結晶構造を、O1型、または三方晶O1型と呼ぶ場合がある。また三方晶を複合六方格子に変換し、六方晶O1型と呼ぶ場合もある。
【0155】
またx=0.12程度のときの従来のコバルト酸リチウムは、空間群R-3mの結晶構造を有する。この構造は、三方晶O1型のようなCoO
2の構造と、R-3m O3のようなLiCoO
2の構造と、が交互に積層された構造ともいえる。そのためこの結晶構造を、H1-3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、実際のリチウムの挿入脱離が正極活物質内で均一に生じるとは限らず、リチウムの濃度がまだらになりうるため、実験的にはx=0.25程度からH1-3型結晶構造が観測される。また実際にはH1-3型結晶構造は、ユニットセルあたりのコバルト原子の数が他の構造の2倍となっている。しかし
図6をはじめ本明細書では、他の結晶構造と比較しやすくするためH1-3型結晶構造のc軸をユニットセルの1/2にした図で示すこととする。
【0156】
H1-3型結晶構造は一例として、非特許文献3に記載があるように、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0,0,0.42150±0.00016)、O1(0,0,0.27671±0.00045)、O2(0,0,0.11535±0.00045)と表すことができる。O1およびO2はそれぞれ酸素原子である。正極活物質が有する結晶構造をいずれのユニットセルを用いて表すべきかは、例えばXRDパターンのリートベルト解析により判断することができる。この場合はGOF(goodness of fit)の値が小さくなるユニットセルを採用すればよい。
【0157】
LixCoO2中のxが0.24以下になるような充電と、放電とを繰り返すと、従来のコバルト酸リチウムはH1-3型結晶構造と、放電状態のR-3m O3の構造と、の間で結晶構造の変化(つまり非平衡な相変化)を繰り返すことになる。
【0158】
しかしながら、これらの2つの結晶構造は、CoO
2層のずれが大きい。
図6に点線および矢印で示すように、H1-3型結晶構造では、CoO
2層が放電状態のR-3m O3から大きくずれている。このようなダイナミックな構造変化は、結晶構造の安定性に悪影響を与えうる。
【0159】
さらにこれらの2つの結晶構造は体積の差も大きい。そのため、同数のコバルト原子あたりで比較した場合、H1-3型結晶構造と放電状態のR-3m O3型結晶構造の体積の差は3.5%を超え、代表的には3.9%以上である。
【0160】
加えて、H1-3型結晶構造が有する、三方晶O1型のようにCoO2層が連続した構造は不安定である可能性が高い。
【0161】
そのため、xが0.24以下になるような充電と、放電とを繰り返すと従来のコバルト酸リチウムの結晶構造は崩れていく。結晶構造の崩れが、サイクル特性の悪化を引き起こす。これは、結晶構造が崩れることで、リチウムが安定して存在できるサイトが減少し、またリチウムの挿入脱離が難しくなるためである。
【0162】
一方
図5に示す本発明の一態様の正極活物質100では、Li
xMO
2中のxが1の放電状態と、xが0.24以下の状態における結晶構造の変化が従来の正極活物質よりも少ない。より具体的には、xが1の状態と、xが0.24以下の状態におけるMO
2層のずれを小さくすることができる。またコバルト原子あたりで比較した場合の体積の変化を小さくすることができる。よって、本発明の一態様の正極活物質100は、xが0.24以下になるような充電と、放電とを繰り返しても結晶構造が崩れにくく、優れたサイクル特性を実現することができる。また、本発明の一態様の正極活物質100は、Li
xMO
2中のxが0.24以下の状態において従来の正極活物質よりも安定な結晶構造を取り得る。よって、本発明の一態様の正極活物質100は、Li
xMO
2中のxが0.24以下の状態を保持した場合において、ショートが生じづらい。そのような場合には二次電池の安全性がより向上し好ましい。
【0163】
Li
xMO
2中のxが1、0.2程度および0.15程度のときに正極活物質100の内部100bが有する結晶構造を
図5に示す。内部100bは正極活物質100の体積の大半を占め、充放電に大きく寄与する部分であるため、MO
2層のずれおよび体積の変化が最も問題となる部分といえる。
【0164】
正極活物質100はx=1のとき、従来のコバルト酸リチウムと同じR-3m O3の結晶構造を有する。
【0165】
しかし正極活物質100は、従来のコバルト酸リチウムがH1-3型結晶構造となるようなxが0.24以下、たとえば0.2程度および0.15程度のとき、これと異なる構造の結晶を有する。
【0166】
x=0.2程度のときの本発明の一態様の正極活物質100は、三方晶系の空間群R-3mに帰属される結晶構造を有する。これはCoO
2層の対称性がO3と同じである。よって、この結晶構造をO3’型結晶構造と呼ぶこととする。
図5にR-3m O3’を付してこの結晶構造を示す。
【0167】
O3’型の結晶構造は、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0,0,0.5)、O(0,0,x)、0.20≦x≦0.25の範囲内で示すことができる。またユニットセルの格子定数は、a軸は2.797≦a≦2.837(Å)が好ましく、2.807≦a≦2.827(Å)がより好ましく、代表的にはa=2.817(Å)である。c軸は13.681≦c≦13.881(Å)が好ましく、13.751≦c≦13.811(Å)がより好ましく、代表的にはc=13.781(Å)である。
【0168】
またx=0.15程度のときの本発明の一態様の正極活物質100は、単斜晶系の空間群P2/mに帰属される結晶構造を有する場合がある。これはユニットセル中にCoO
2層が1層存在する。またこのとき正極活物質100中に存在するリチウムは放電状態の15原子%程度である。よってこの結晶構造を単斜晶O1(15)型結晶構造と呼ぶこととする。
図5にP2/m 単斜晶O1(15)を付してこの結晶構造を示す。
【0169】
単斜晶O1(15)型の結晶構造は、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、
Co1(0.5,0,0.5)、
Co2(0,0.5,0.5)、
O1(XO1,0,ZO1)、
0.23≦XO1≦0.24、0.61≦ZO1≦0.65、
O2(XO2,0.5,ZO2)、
0.75≦XO2≦0.78、0.68≦ZO2≦0.71、の範囲内で示すことができる。またユニットセルの格子定数は、
a=4.880±0.05Å、
b=2.817±0.05Å、
c=4.839±0.05Å、
α=90°、
β=109.6±0.1°、
γ=90°である。
【0170】
なおこの結晶構造は、ある程度の誤差を許容すれば空間群R-3mでも格子定数を示すことが可能である。この場合のユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標は、
Co(0,0,0.5)、
O(0,0,ZO)、
0.21≦ZO≦0.23、の範囲内で示すことができる。
またユニットセルの格子定数は、
a=2.817±0.02Å、
c=13.68±0.1Åである。
【0171】
O3’型および単斜晶O1(15)型結晶構造のいずれも、コバルト、ニッケル、マグネシウム等のイオンが酸素6配位位置を占める。なおリチウムおよびマグネシウムなどの軽元素は酸素4配位位置を占める場合がありうる。
【0172】
図5中に点線で示すように、放電状態のR-3m O3と、O3’および単斜晶O1(15)型結晶構造とではCoO
2層のずれがほとんどない。
【0173】
また放電状態のR-3m O3と、O3’型結晶構造の同数のコバルト原子あたりの体積の差は2.5%以下、より詳細には2.2%以下、代表的には1.8%である。
【0174】
また放電状態のR-3m O3と、単斜晶O1(15)型結晶構造の同数のコバルト原子あたりの体積の差は3.3%以下、より詳細には3.0%以下、代表的には2.5%である。
【0175】
表1に、放電状態のR-3m O3と、O3’、単斜晶O1(15)、H1-3型および三方晶O1のコバルト原子1つあたりの体積の差を示す。表1の算出に用いた各結晶構造の格子定数は、放電状態のR-3m O3および三方晶O1については文献値を参照することができる(ICSD coll.code.172909および88721)。H1-3については非特許文献3を参照することができる。O3’、単斜晶O1(15)についてはXRDの実験値から算出することができる。
【0176】
【0177】
このように本発明の一態様の正極活物質100では、LixMO2中のxが小さいとき、つまり多くのリチウムが脱離したときの結晶構造の変化が、従来の正極活物質よりも抑制されている。また同数のコバルト原子あたりで比較した場合の体積の変化も抑制されている。そのため正極活物質100は、xが0.24以下になるような充電と、放電とを繰り返しても結晶構造が崩れにくい。そのため、正極活物質100は充放電サイクルにおける充放電容量の低下が抑制される。また従来の正極活物質よりも多くのリチウムを安定して利用できるため、正極活物質100は重量あたりおよび体積あたりの放電容量が大きい。そのため正極活物質100を用いることで、重量あたりおよび体積あたりの放電容量の高い二次電池を作製できる。
【0178】
なお正極活物質100は、LixMO2中のxが0.15以上0.24以下のときO3’型の結晶構造を有する場合があることが確認され、xが0.24を超えて0.27以下でもO3’型の結晶構造を有すると推定されている。またLixMO2中のxが0.1を超えて0.2以下、代表的にはxが0.15以上0.17以下のとき単斜晶O1(15)型の結晶構造を有する場合があることが確認されている。しかし結晶構造はLixMO2中のxだけでなく充放電サイクル数、充放電電流、温度、電解質等の影響を受けるため、必ずしも上記のxの範囲に限定されない。
【0179】
そのため正極活物質100はLixMO2中のxが0.1を超えて0.24以下のとき、O3’型のみを有してもよいし、単斜晶O1(15)型のみを有してもよいし、両方の結晶構造を有してもよい。また正極活物質100の内部100bの粒子のすべてがO3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造でなくてもよい。他の結晶構造を含んでいてもよいし、一部が非晶質であってもよい。
【0180】
またLixMO2中のxが小さい状態にするには、一般的には高い充電電圧で充電する必要がある。そのためLixMO2中のxが小さい状態を、高い充電電圧で充電した状態と言い換えることができる。たとえばリチウム金属の電位を基準として4.6V以上の電圧で、25℃の環境でCC/CV充電すると、従来の正極活物質ではH1-3型結晶構造が現れる。そのためリチウム金属の電位を基準として4.6V以上の充電電圧は高い充電電圧ということができる。本明細書等において、特に言及しない場合、充電電圧はリチウム金属の電位を基準として表すとする。
【0181】
そのため本発明の一態様の正極活物質100は、高い充電電圧、たとえば25℃において4.6V以上の電圧で充電しても、R-3m O3の対称性を有する結晶構造を保持できるため好ましい、と言い換えることができる。
【0182】
正極活物質100でもさらに充電電圧を高めるとようやく、H1-3型結晶構造が観測される場合がある。また上述したように結晶構造は充放電サイクル数、充放電電流、温度、電解質等の影響を受けるため、充電電圧がより低い場合、たとえば充電電圧が25℃において4.5V以上4.6V未満でも、本発明の一態様の正極活物質100はO3’型結晶構造を取り得る場合が有る。同様に25℃において4.65V以上4.7V以下の電圧で充電したときに単斜晶O1(15)型の結晶構造を取り得る場合がある。
【0183】
なお、二次電池において例えば負極活物質として黒鉛を用いる場合、上記よりも黒鉛の電位の分だけ二次電池の電圧が低下する。黒鉛の電位はリチウム金属の電位を基準として0.05V乃至0.2V程度である。そのため負極活物質として黒鉛を用いた二次電池の場合は、上記の電圧から黒鉛の電位を差し引いた電圧のとき同様の結晶構造を有する。
【0184】
また
図5のO3’および単斜晶O1(15)ではリチウムが全てのリチウムサイトに等しい確率で存在するように示したが、これに限らない。一部のリチウムサイトに偏って存在していてもよいし、たとえば
図6に示す単斜晶O1(Li
0.5CoO
2)のような対称性を有していてもよい。リチウムの分布は、たとえば中性子線回折により分析することができる。
【0185】
またO3’および単斜晶O1(15)型の結晶構造は、層間にランダムにリチウムを有するもののCdCl2型の結晶構造に類似する結晶構造であるということもできる。このCdCl2型に類似した結晶構造は、ニッケル酸リチウムをLi0.06NiO2まで充電したときの結晶構造と近いが、純粋なコバルト酸リチウム、またはコバルトを多く含む層状岩塩型の正極活物質では通常CdCl2型の結晶構造を取らないことが知られている。
【0186】
≪結晶粒界≫
本発明の一態様の正極活物質100が有する添加元素は、上記のような分布に加え、少なくとも一部は結晶粒界およびその近傍に偏在していることがより好ましい。
【0187】
なお本明細書等において、偏在とはある領域における元素の濃度が他の領域と異なることをいう。偏析、析出、不均一、偏り、または濃度が高い箇所と濃度が低い箇所が混在する、と同義である。
【0188】
たとえば正極活物質100の結晶粒界およびその近傍のマグネシウム濃度が、内部100bの他の領域よりも高いことが好ましい。また結晶粒界およびその近傍のフッ素濃度も内部100bの他の領域より高いことが好ましい。また結晶粒界およびその近傍のニッケル濃度も内部100bの他の領域より高いことが好ましい。また結晶粒界およびその近傍のアルミニウム濃度も内部100bの他の領域より高いことが好ましい。
【0189】
結晶粒界は面欠陥の一つである。そのため粒子表面と同様不安定になりやすく結晶構造の変化が始まりやすい。そのため、結晶粒界およびその近傍の添加元素濃度が高ければ、結晶構造の変化をより効果的に抑制することができる。
【0190】
また、結晶粒界およびその近傍のマグネシウム濃度およびフッ素濃度が高い場合、本発明の一態様の正極活物質100の結晶粒界に沿ってクラックが生じた場合でも、クラックにより生じた表面の近傍でマグネシウム濃度およびフッ素濃度が高くなる。そのためクラックが生じた後の正極活物質においてもフッ酸に対する耐食性を高めることができる。またクラックが生じた後の正極活物質においても電解液と正極活物質との副反応を抑制することができる。
【0191】
<粒径>
本発明の一態様の正極活物質100の粒径は、大きすぎるとリチウムの拡散が難しくなる、集電体に塗工したときに活物質層の表面が粗くなりすぎる、等の問題がある。一方、小さすぎると、電解液との反応が過剰に進む等の問題点も生じる。
【0192】
正極活物質100の粒径は、例えばレーザ回折式粒度分布測定装置によって測定することができる。レーザ回折式粒度分布測定装置によって測定される正極活物質100の粒径として、メディアン径(D50)が、1μm以上100μm以下が好ましく、2μm以上40μm以下であることがより好ましく、5μm以上30μm以下がさらに好ましい。または1μm以上40μm以下が好ましい。または1μm以上30μm以下が好ましい。または2μm以上100μm以下が好ましい。または2μm以上30μm以下が好ましい。または5μm以上100μm以下が好ましい。または5μm以上40μm以下が好ましい。
【0193】
また、粒径の異なる粒子を混合して正極に用いると、電極密度を増大させることができ、エネルギー密度の高い二次電池とすることができ好ましい。相対的に粒径の小さい正極活物質100は充放電レート特性が高いことが期待される。相対的に粒径の大きい正極活物質100は、充放電サイクル特性が高く、放電容量を高く保てることが期待される。
【0194】
<分析方法>
ある正極活物質が、LixMO2中のxが小さいときO3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造を有する本発明の一態様の正極活物質100であるか否かは、LixMO2中のxが小さい正極活物質を有する正極を、XRD、電子線回折、中性子線回折、電子スピン共鳴(ESR)、核磁気共鳴(NMR)等を用いて解析することで判断できる。
【0195】
特にXRDは、正極活物質が有するコバルト等の遷移金属の対称性を高分解能で解析できる、結晶性の高さおよび結晶の配向性を比較できる、格子の周期性歪みおよび結晶子サイズの解析ができる、二次電池を解体して得た正極をそのまま測定しても十分な精度を得られる、等の点で好ましい。XRDのなかでも粉末XRDでは、正極活物質100の体積の大半を占める正極活物質100の内部100bの結晶構造を反映した回折ピークが得られる。
【0196】
なお粉末XRDで結晶子サイズを解析する場合、加圧等による配向の影響を除いて測定することが好ましい。たとえば二次電池を解体して得た正極から正極活物質を取り出し、粉末サンプルとしてから測定することが好ましい。
【0197】
本発明の一態様の正極活物質100は、これまで述べたようにLixMO2中のxが1のときと、0.24以下のときで結晶構造の変化が少ないことが特徴である。高電圧で充電したとき、結晶構造の変化が大きな結晶構造が50%以上を占める材料は、高電圧の充電と放電との繰り返しに耐えられないため好ましくない。
【0198】
また添加元素を添加するだけではO3’型または単斜晶O1(15)型の結晶構造をとらない場合があることに注意が必要である。例えばマグネシウムおよびフッ素を有するコバルト酸リチウム、またはマグネシウムおよびアルミニウムを有するコバルト酸リチウム、という点で共通していても、添加元素の濃度および分布次第で、LixMO2中のxが0.24以下でO3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造が60%以上になる場合と、H1-3型結晶構造が50%以上を占める場合と、がある。
【0199】
また本発明の一態様の正極活物質100でも、xが0.1以下など小さすぎる場合、または充電電圧が4.9Vを超えるような条件ではH1-3型または三方晶O1型の結晶構造が生じる場合もある。そのため、本発明の一態様の正極活物質100であるか否かを判断するには、XRDをはじめとする結晶構造についての解析と、充電容量または充電電圧等の情報が必要である。
【0200】
ただし、xが小さい状態の正極活物質は、大気に触れると結晶構造の変化を起こす場合がある。例えばO3’型および単斜晶O1(15)型の結晶構造からH1-3型結晶構造に変化する場合がある。そのため、結晶構造の分析に供するサンプルはすべてアルゴン雰囲気等の不活性雰囲気でハンドリングすることが好ましい。
【0201】
またある正極活物質が有する添加元素の分布が、上記で説明したような状態であるか否かは、たとえばXPS、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)、EPMA(電子プローブ微小分析)等を用いて解析することで判断できる。
【0202】
また表層部100a、結晶粒界等の結晶構造は、正極活物質100の断面の電子線回折等で分析することができる。
【0203】
≪充電方法≫
ある複合酸化物が、本発明の一態様の正極活物質100であるか否かを判断するための充電は、例えば対極リチウムでコインセル(CR2032タイプ、直径20mm高さ3.2mm)を作製して充電することができる。
【0204】
より具体的には、正極には、正極活物質、導電材およびバインダを混合したスラリーを、アルミニウム箔の正極集電体に塗工したものを用いることができる。
【0205】
対極にはリチウム金属を用いることができる。なお対極にリチウム金属以外の材料を用いたときは、二次電池の電位と正極の電位が異なる。本明細書等における電圧および電位は、特に言及しない場合、正極の電位である。
【0206】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がEC:DEC=3:7(体積比)、ビニレンカーボネート(VC)が2wt%で混合されたものを用いることができる。
【0207】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレン多孔質フィルムを用いることができる。
【0208】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いることができる。
【0209】
上記条件で作製したコインセルを、任意の電圧(たとえば4.5V、4.55V、4.6V、4.65V、4.7V、4.75Vまたは4.8V)で充電する。任意の電圧で十分に時間をかけて充電できれば充電方法は特に限定されない。たとえばCCCVで充電する場合、CC充電における電流は、20mA/g以上100mA/g以下で行うことができる。CV充電は2mA/g以上10mA/g以下で終了することができる。正極活物質の相変化を観測するためには、このような小さい電流値で充電を行うことが望ましい。一方で長時間CV充電を行っても電流が2mA/g以上10mA/g以下とならない場合、正極活物質の充電ではなく電解液の分解に電流が消費されていると考えられるため、開始から十分な時間が経過した時点でCV充電を終了してもよい。このときの十分な時間とは、たとえば1.5時間以上3時間以下とすることができる。温度は25℃または45℃とする。このようにして充電した後に、コインセルをアルゴン雰囲気のグローブボックス中で解体して正極を取り出せば、任意の充電容量の正極活物質を得られる。この後に各種分析を行う際、外界成分との反応を抑制するため、アルゴン雰囲気で密封することが好ましい。例えばXRDは、アルゴン雰囲気の密閉容器内に封入して行うことができる。また充電完了後、速やかに正極を取り出し分析に供することが好ましい。具体的には充電完了後1時間以内が好ましく、30分以内がより好ましい。
【0210】
また複数回充放電した後の充電状態の結晶構造を分析する場合、該複数回の充放電条件は上記の充電条件と異なっていてもよい。たとえば充電は任意の電圧(たとえば4.6V、4.65V、4.7V、4.75Vまたは4.8V)まで、電流値20mA/g以上100mA/g以下で定電流充電し、その後電流値が2mA/g以上10mA/g以下となるまで定電圧充電し、放電は2.5V、20mA/g以上100mA/g以下で定電流放電とすることができる。
【0211】
さらに複数回充放電した後の放電状態の結晶構造を分析する場合も、たとえば2.5V、電流値20mA/g以上100mA/g以下で定電流放電とすることができる。
【0212】
≪XRD≫
XRD測定の装置および条件は特に限定されない。たとえば下記のような装置および条件で測定することができる。
XRD装置 :Bruker AXS社製、D8 ADVANCE
X線源 :CuKα1線
出力 :40kV、40mA
発散角 :Div.Slit、0.5°
検出器:LynxEye
スキャン方式 :2θ/θ連続スキャン
測定範囲(2θ) :15°以上90°以下
ステップ幅(2θ) :0.01°設定
計数時間 :1秒間/ステップ
試料台回転 :15rpm
【0213】
測定サンプルが粉末の場合は、ガラスのサンプルホルダーに入れる、またはグリースを塗ったシリコン無反射板にサンプルを振りかける、等の手法でセッティングすることができる。測定サンプルが正極の場合は、正極を基板に両面テープで貼り付け、正極活物質層を装置の要求する測定面に合わせてセッティングすることができる。
【0214】
O3’型の結晶構造と、単斜晶O1(15)型の結晶構造と、H1-3型結晶構造のモデルから計算される、CuKα
1線による理想的な粉末XRDパターンを
図7、
図8、
図9(A)および
図9(B)に示す。また比較のためLi
xMO
2中のx=1のLiCoO
2 O3と、x=0の三方晶O1の結晶構造から計算される理想的なXRDパターンも示す。
図9(A)および
図9(B)は、O3’型結晶構造、単斜晶O1(15)型結晶構造とH1-3型結晶構造のXRDパターンを併記したものであり、
図9(A)は2θの範囲が18°以上21°以下の領域、
図9(B)は2θの範囲が42°以上46°以下の領域について拡大したものである。なお、LiCoO
2(O3)およびCoO
2(O1)のパターンはICSD(Inorganic Crystal Structure Database)(非特許文献4参照)より入手した結晶構造情報からMaterials Studio(BIOVIA)のモジュールの一つである、Reflex Powder DiffracTionを用いて作成した。2θの範囲は15°から75°とし、Step size=0.01、波長λ1=1.540562×10
-10m、λ2は設定なし、Monochromatorはsingleとした。H1-3型結晶構造のパターンは非特許文献3に記載の結晶構造情報から同様に作成した。O3’型および単斜晶O1(15)型の結晶構造のパターンは正極活物質のXRDパターンから結晶構造を推定し、TOPAS ver.3(Bruker社製結晶構造解析ソフトウェア)を用いてフィッティングし、他と同様にXRDパターンを作成した。
【0215】
図7、
図9(A)および
図9(B)に示すように、O3’型の結晶構造では、2θ=19.25±0.12°(19.13°以上19.37°未満)、および2θ=45.47±0.10°(45.37°以上45.57°未満)に回折ピークが出現する。
【0216】
また単斜晶O1(15)型の結晶構造では、2θ=19.47±0.10°(19.37°以上19.57°以下)、および2θ=45.62±0.05°(45.57°以上45.67°以下)に回折ピークが出現する。
【0217】
しかし
図8、
図9(A)および
図9(B)に示すように、H1-3型結晶構造および三方晶O1ではこれらの位置にピークは出現しない。そのため、Li
xCoO
2中のxが小さい状態で19.13°以上19.37°未満および/または19.37°以上19.57°以下、並びに45.37°以上45.57°未満および/または45.57°以上45.67°以下にピークが出現することは、本発明の一態様の正極活物質100の特徴であるといえる。
【0218】
これは、本発明の一態様の正極活物質100ではx=1と、x≦0.24の結晶構造で、XRDの回折ピークが出現する位置が近いということもできる。より具体的には、x=1と、x≦0.24の結晶構造の主な回折ピークのうち2θが42°以上46°以下に出現するピークについて、2θの差が、0.7°以下、より好ましくは0.5°以下であるということができる。
【0219】
なお、本発明の一態様の正極活物質100はLixCoO2中のxが小さいときO3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造を有する場合があるが、粒子のすべてがO3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造でなくてもよい。他の結晶構造を含んでいてもよいし、一部が非晶質であってもよい。ただし、XRDパターンについてリートベルト解析を行ったとき、O3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、66%以上であることがさらに好ましい。O3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造が50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは66%以上あれば、十分にサイクル特性に優れた正極活物質とすることができる。
【0220】
また、同様にリートベルト解析を行ったとき、H1-3型およびO1型結晶構造が50%以下であることが好ましい。または34%以下であることが好ましい。または実質的に観測されないことがより好ましい。
【0221】
また、測定開始から100サイクル以上の充放電を経ても、リートベルト解析を行ったときO3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造が35%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、43%以上であることがさらに好ましい。
【0222】
またXRDパターンにおける回折ピークの鋭さは結晶性の高さを示す。そのため、充電後の各回折ピークは鋭い、すなわち半値幅が狭い方が好ましい。たとえば半値全幅が狭い方が好ましい。半値幅は、同じ結晶相から生じたピークでも、XRDの測定条件および2θの値によっても異なる。上述した測定条件の場合は、2θ=43°以上46°以下に観測されるピークにおいて、半値全幅は例えば0.2°以下が好ましく、0.15°以下がより好ましく、0.12°以下がさらに好ましい。なお必ずしも全てのピークがこの要件を満たしていなくてもよい。一部のピークがこの要件を満たせば、その結晶相の結晶性が高いことがいえる。このような高い結晶性は、十分に充電後の結晶構造の安定化に寄与する。
【0223】
また、正極活物質100が有するO3’型および単斜晶O1(15)の結晶構造の結晶子サイズは、放電状態のLiCoO2(O3)の1/20程度までしか低下しない。そのため、充放電前の正極と同じXRDの測定条件であっても、LixCoO2中のxが小さいとき明瞭なO3’型および/または単斜晶O1(15)の結晶構造のピークが確認できる。一方従来のLiCoO2では、一部がO3’型および/または単斜晶O1(15)の結晶構造に似た構造を取りえたとしても、結晶子サイズが小さくなり、ピークはブロードで小さくなる。結晶子サイズは、XRDピークの半値幅から求めることができる。
【0224】
本発明の一態様の正極活物質100においては、前述の通りヤーン・テラー効果の影響が小さいことが好ましい。ヤーン・テラー効果の影響が小さい範囲であれば、コバルトの他に添加元素としてニッケル、マンガン等の遷移金属を有してもよい。
【0225】
たとえばニッケル濃度が5%と7.5%ではa軸/c軸が顕著に変化する傾向がみられ、ニッケル濃度7.5%ではa軸の歪みが大きくなる。該歪みは三価のニッケルのヤーン・テラー歪みに起因する可能性がある。そのため正極活物質100が有する遷移金属Mのうち、ニッケルは7.5原子%未満であることが好ましい。
【0226】
またマンガン濃度が5%以上においては、格子定数の変化の挙動が異なり、ベガード則に従わないことが示唆される。よって、正極活物質100が有する遷移金属Mのうち、マンガンは4原子%以下が好ましい。
【0227】
なお、上記のニッケル濃度およびマンガン濃度の範囲は、表層部100aにおいては必ずしもあてはまらない。すなわち、表層部100aにおいては、上記の濃度より高くてもよい。
【0228】
以上より、格子定数の好ましい範囲について考察を行ったところ、本発明の一態様の正極活物質において、XRDパターンから推定できる、充放電を行わない状態、あるいは放電状態の正極活物質100が有する層状岩塩型の結晶構造において、a軸の格子定数が2.814×10-10mより大きく2.817×10-10mより小さく、かつc軸の格子定数が14.05×10-10mより大きく14.07×10-10mより小さいことが好ましいことがわかった。充放電を行わない状態とは例えば、二次電池の正極を作製する前の粉体の状態であってもよい。
【0229】
あるいは、充放電を行わない状態、あるいは放電状態の正極活物質100が有する層状岩塩型の結晶構造において、a軸の格子定数をc軸の格子定数で割った値(a軸/c軸)が0.20000より大きく0.20049より小さいことが好ましい。
【0230】
あるいは、充放電を行わない状態、あるいは放電状態の正極活物質100が有する層状岩塩型の結晶構造において、XRD分析をしたとき、2θが18.50°以上19.30°以下に第1のピークが観測され、かつ2θが38.00°以上38.80°以下に第2のピークが観測される場合がある。
【0231】
≪XPS≫
X線光電子分光(XPS)では、無機酸化物の場合で、X線源として単色アルミニウムのKα線を用いると、表面から2乃至8nm程度(通常5nm以下)の深さまでの領域の分析が可能であるため、表層部100aの深さに対して約半分の領域について、各元素の濃度を定量的に分析することができる。また、ナロースキャン分析をすれば元素の結合状態を分析することができる。なおXPSの定量精度は多くの場合±1原子%程度、下限は元素にもよるが約1原子%である。
【0232】
本発明の一態様の正極活物質100は、添加元素から選ばれた一または二以上の濃度が内部100bよりも表層部100aにおいて高いことが好ましい。これは表層部100aにおける添加元素から選ばれた一または二以上の濃度が、正極活物質100全体の平均よりも高いことが好ましい、と同義である。そのためたとえば、XPS等で測定される表層部100aから選ばれた一または二以上の添加元素の濃度が、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)、あるいはGD-MS(グロー放電質量分析法)等で測定される正極活物質100全体の平均の添加元素の濃度よりも高いことが好ましい、ということができる。たとえばXPS等で測定される表層部100aの少なくとも一部のマグネシウムの濃度が、正極活物質100全体のマグネシウム濃度よりも高いことが好ましい。また表層部100aの少なくとも一部のチタンの濃度が、正極活物質100全体のチタン濃度よりも高いことが好ましい。また表層部100aの少なくとも一部のニッケルの濃度が、正極活物質100全体のニッケル濃度よりも高いことが好ましい。また表層部100aの少なくとも一部のアルミニウムの濃度が、正極活物質100全体のアルミニウム濃度よりも高いことが好ましい。また表層部100aの少なくとも一部のフッ素の濃度が、正極活物質100全体のフッ素濃度よりも高いことが好ましい。
【0233】
なお本発明の一態様の正極活物質100の表面および表層部100aには、正極活物質100作製後に化学吸着した炭酸塩、ヒドロキシ基等は含まないとする。また正極活物質100の表面に付着した電解液、バインダ、導電材、またはこれら由来の化合物も含まないとする。そのため正極活物質が有する元素を定量するときは、XPSをはじめとする表面分析で検出されうる炭素、水素、過剰な酸素、過剰なフッ素等を除外する補正をしてもよい。例えば、XPSでは結合の種類を解析で分離することが可能であり、バインダ由来のC-F結合を除外する補正をおこなってもよい。
【0234】
さらに各種分析に供する前に、正極活物質の表面に付着した電解液、バインダ、導電材、またはこれら由来の化合物を除くために、正極活物質および正極活物質層等の試料に対して洗浄等を行ってもよい。このとき洗浄に用いる溶媒等にリチウムが溶け出す場合があるが、たとえその場合であっても、添加元素は溶け出しにくいため、添加元素の原子数比に影響があるものではない。
【0235】
また表層部100aにおける添加元素の濃度、および正極活物質100における添加元素の濃度は、コバルトとの原子数の比で比較してもよい。コバルトとの比を用いることにより、正極活物質を作製後に化学吸着した炭酸塩等の影響を減じて比較することができ好ましい。たとえばXPSの分析によるマグネシウムとコバルトの原子数の比Mg/Coは、0.4以上1.5以下であることが好ましい。一方ICP-MSの分析によるMg/Coは0.001以上0.06以下であることが好ましい。
【0236】
同様に正極活物質100は、十分にリチウムの挿入脱離の経路を確保するために、表層部100aにおいて各添加元素よりもリチウムおよびコバルトの濃度が高いことが好ましい。これはXPS等で測定される表層部100aが有する添加元素から選ばれた一または二以上の各添加元素の濃度よりも、表層部100aのリチウムおよびコバルトの濃度が高いことが好ましい、ということができる。たとえばXPS等で測定される表層部100aの少なくとも一部のマグネシウムの濃度よりも、XPS等で測定される表層部100aの少なくとも一部のコバルトの濃度が高いことが好ましい。同様にマグネシウムの濃度よりも、リチウムの濃度が高いことが好ましい。またニッケルの濃度よりも、コバルトの濃度が高いことが好ましい。同様にニッケルの濃度よりも、リチウムの濃度が高いことが好ましい。またアルミニウムよりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。同様にアルミニウムの濃度よりも、リチウムの濃度が高いことが好ましい。またフッ素よりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。同様にフッ素よりもリチウムの濃度が高いことが好ましい。
【0237】
さらにアルミニウムは深い領域、たとえば表面、または基準点からの深さが5nm以上50nm以内の領域に広く分布する方がより好ましい。そのため、ICP-MS、GD-MS等を用いた正極活物質100全体の分析ではアルミニウムが検出されるものの、XPS等ではこれの濃度が検出されないか、1原子%以下であると、より好ましい。
【0238】
さらに本発明の一態様の正極活物質100についてXPS分析をしたとき、コバルトの原子数に対して、マグネシウムの原子数は0.4倍以上1.2倍以下が好ましく、0.65倍以上1.0倍以下がより好ましい。またコバルトの原子数に対して、ニッケルの原子数は0.15倍以下が好ましく、0.03倍以上0.13倍以下がより好ましい。またコバルトの原子数に対して、アルミニウムの原子数は0.12倍以下が好ましく、0.09倍以下がより好ましい。またコバルトの原子数に対して、フッ素の原子数は0.3倍以上0.9倍以下が好ましく、0.1倍以上1.1倍以下がより好ましい。上記のような範囲であることは、これらの添加元素が正極活物質100の表面の狭い範囲に付着するのではなく、正極活物質100の表層部100aに好ましい濃度で広く分布していることを示すといえる。
【0239】
XPS分析を行う場合には例えば、X線源として単色化アルミニウムKα線を用いることができる。また、取出角は例えば45°とすればよい。たとえば下記の装置および条件で測定することができる。
測定装置 :PHI 社製QuanteraII
X線源 :単色化Al Kα(1486.6eV)
検出領域 :100μmφ
検出深さ :約4~5nm(取出角45°)
測定スペクトル :ワイドスキャン,各検出元素のナロースキャン
【0240】
また本発明の一態様の正極活物質100についてXPS分析したとき、フッ素と他の元素の結合エネルギーを示すピークは682eV以上685eV未満であることが好ましく、684.3eV程度であることがさらに好ましい。これは、フッ化リチウムの結合エネルギーである685eV、およびフッ化マグネシウムの結合エネルギーである686eVのいずれとも異なる値である。つまり、本発明の一態様の正極活物質100がフッ素を有する場合、フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウム以外の結合であることが好ましい。
【0241】
さらに、本発明の一態様の正極活物質100についてXPS分析したとき、マグネシウムと他の元素の結合エネルギーを示すピークは、1302eV以上1304eV未満であることが好ましく、1303eV程度であることがさらに好ましい。これは、フッ化マグネシウムの結合エネルギーである1305eVと異なる値であり、酸化マグネシウムの結合エネルギーに近い値である。つまり、本発明の一態様の正極活物質100がマグネシウムを有する場合、フッ化マグネシウム以外の結合であることが好ましい。
【0242】
≪EDX≫
正極活物質100が有する添加元素から選ばれた一または二以上は濃度勾配を有していることが好ましい。また正極活物質100は添加元素によって、濃度ピークの表面からの深さが異なっていることがより好ましい。添加元素の濃度勾配はたとえば、FIB(Focused Ion Beam)等により正極活物質100の断面を露出させ、その断面をエネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)、EPMA(電子プローブ微小分析)等を用いて分析することで評価できる。
【0243】
EDX測定のうち、領域内を走査しながら測定し、領域内を2次元に評価することをEDX面分析と呼ぶ。また線状に走査しながら測定し、原子濃度について正極活物質内の分布を評価することを線分析と呼ぶ。さらにEDXの面分析から、線状の領域のデータを抽出したものを線分析と呼ぶ場合もある。またある領域について走査せずに測定することを点分析と呼ぶ。
【0244】
EDX面分析(例えば元素マッピング)により、正極活物質100の表層部100a、内部100bおよび結晶粒界近傍等における、添加元素の濃度を定量的に分析することができる。また、EDX線分析により、添加元素の濃度分布および最大値を分析することができる。またSTEM-EDXのようにサンプルを薄片化する分析は、奥行き方向の分布の影響を受けずに、特定の領域における正極活物質の表面から中心に向かった深さ方向の濃度分布を分析でき、より好適である。
【0245】
正極活物質100はリチウムの挿入脱離が可能な遷移金属と酸素を有する化合物であるため、リチウムの挿入脱離に伴い酸化還元する遷移金属M(たとえばCo、Ni、Mn、Fe等)および酸素が存在する領域と、存在しない領域の界面を、正極活物質の表面とする。正極活物質を分析に供する際、表面に保護膜を付ける場合があるが、保護膜は正極活物質には含まれない。保護膜としては、炭素、金属、酸化物、樹脂などの単層膜または多層膜が用いられる場合がある。
【0246】
STEM-EDX線分析等では、原理的に、または測定誤差のため、元素の特性X線の検出量のグラフが急峻な変化とならず、厳密に表面を決めることが難しい場合がある。そのためSTEM-EDX線分析等において深さ方向に言及する際は、上記遷移金属Mが、内部の検出量の平均値MAVEと、バックグラウンドの平均値MBGとの和の50%になる点、および酸素が、内部の検出量の平均値OAVEと、バックグラウンドの平均値OBGとの和の50%になる点を表面の基準点とする。なお、上記遷移金属Mと酸素で、内部とバックグラウンドの和の50%の点が異なる場合は、表面に付着する酸素を含む金属酸化物、炭酸塩等の影響と考えられるため、上記遷移金属Mの内部の検出量の平均値MAVEと、バックグラウンドの平均値MBGとの和の50%の点を採用することができる。また遷移金属Mを複数有する正極活物質の場合、内部100bにおけるカウント数が最も多い元素のMAVEおよびMBGを用いて上記基準点を求めることができる。
【0247】
上記遷移金属Mのバックグラウンドの平均値MBGは、たとえば遷移金属Mの検出量が増加を始める近辺を避けて正極活物質の外側の2nm以上、好ましくは3nm以上の範囲を平均して求めることができる。また内部の検出量の平均値MAVEは、遷移金属Mおよび酸素のカウントが飽和し安定した領域、たとえば遷移金属Mの検出量が増加を始める領域から深さ30nm以上、好ましくは50nmを超える部分で、2nm以上、好ましくは3nm以上の範囲を平均して求めることができる。酸素のバックグラウンドの平均値OBGおよび酸素の内部の検出量の平均値OAVEも同様に求めることができる。
【0248】
また断面STEM(走査型透過電子顕微鏡)像等における正極活物質100の表面とは、正極活物質の結晶構造に由来する像が観察される領域と、観察されない領域の境界であって、正極活物質を構成する金属元素の中でリチウムより原子番号の大きな金属元素の原子核に由来する原子カラムが確認される領域の最も外側とする。STEM像等における表面は、より空間分解能の高い分析と併せて判断してもよい。
【0249】
またSTEM-EDX線分析におけるピークとは、元素毎の特性X線強度のグラフに現れる凸形状の極大値、または元素毎の特性X線の最大値をいうこととする。なおSTEM-EDX線分析におけるノイズとしては、空間分解能(R)以下、たとえばR/2以下の半値幅の測定値などが考えられる。
【0250】
同一箇所を同一条件で複数回スキャンすることでノイズの影響を軽減できる。たとえば6スキャン測定した積算値を各元素の検出値とすることができる。スキャン回数は6に限られず、それ以上行って、その平均を各元素の検出値とすることもできる。
【0251】
STEM-EDX線分析は、たとえば以下のように行うことができる。まず正極活物質の表面に保護膜を蒸着する。たとえばイオンスパッタ装置(日立ハイテク製MC1000)にて、炭素を蒸着することができる。
【0252】
次に正極活物質を薄片化しSTEM断面試料を作製する。たとえばFIB-SEM装置(日立ハイテク製XVision200TBS)にて薄片化加工を行うことができる。その際ピックアップはMPS(マイクロプロービングシステム)で行い、仕上げ加工の条件はたとえば加速電圧10kVとすることができる。
【0253】
STEM-EDX線分析は、たとえばSTEM装置(日立ハイテク製HD-2700)を用いて、EDX検出器は、EDAXのOctane T Ultra W(2本差し)を使用することができる。EDX線分析時は、STEM装置のエミッション電流が6μA以上10μA以下になるよう設定し、薄片化した試料のうち奥行きおよび凹凸の少ない箇所を測定する。倍率はたとえば15万倍程度とする。EDX線分析の条件は、ドリフト補正有り、線幅42nm、ピッチ0.2nm、フレーム数6回以上とすることができる。
【0254】
本発明の一態様の正極活物質100についてEDX面分析またはEDX点分析したとき、表層部100aの各添加元素、特に添加元素Xの濃度が、内部100bのそれよりも高いことが好ましい。
【0255】
たとえば添加元素としてマグネシウムを有する正極活物質100についてEDX面分析またはEDX点分析したとき、表層部100aのマグネシウム濃度が、内部100bのマグネシウム濃度よりも高いことが好ましい。またEDX線分析をしたとき、表層部100aのマグネシウム濃度のピークは、正極活物質100の表面、または基準点から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。またマグネシウムの濃度はピークトップから深さ1nmの点でピークの60%以下に減衰することが好ましい。またピークトップから深さ2nmの点でピークの30%以下に減衰することが好ましい。なおここでいう濃度のピークとは、濃度の極大値をいうこととする。
【0256】
またEDX線分析をしたとき、表層部100aのマグネシウム濃度(マグネシウム検出量/(マグネシウム、酸素、コバルト、フッ素、アルミニウム、チタン、ニッケルの検出量の和)の最大値は、0.5Atomic%以上10Atomic%以下であることが好ましく、1Atomic%以上5Atomic%以下であることがより好ましい。
【0257】
またEDX線分析をしたとき、表層部100aのチタン濃度(チタン検出量/(マグネシウム、酸素、コバルト、フッ素、アルミニウム、チタン、ニッケルの検出量の和)の最大値は、0.2Atomic%以上5Atomic%以下であることが好ましく、0.5Atomic%以上2Atomic%以下であることがより好ましい。
【0258】
またEDX線分析をしたとき、表層部100aのニッケル濃度(ニッケル検出量/(マグネシウム、酸素、コバルト、フッ素、アルミニウム、チタン、ニッケルの検出量の和)の最大値は、0.2Atomic%以上5Atomic%以下であることが好ましく、0.5Atomic%以上3Atomic%以下であることがより好ましい。
【0259】
また添加元素としてマグネシウムおよびフッ素を有する正極活物質100では、フッ素の分布は、マグネシウムの分布と重なる領域を有することが好ましい。たとえばフッ素濃度のピークと、マグネシウム濃度のピークの深さ方向の差が10nm以内であると好ましく、3nm以内であるとより好ましく、1nm以内であるとさらに好ましい。
【0260】
またEDX線分析をしたとき、表層部100aのフッ素濃度のピークは、正極活物質100の表面、または基準点から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。またフッ素濃度のピークはマグネシウムの濃度のピークよりもわずかに表面側に存在すると、フッ酸への耐性が増してより好ましい。たとえばフッ素濃度のピークはマグネシウムの濃度のピークよりも0.5nm以上表面側であるとより好ましく、1.5nm以上表面側であるとさらに好ましい。
【0261】
また添加元素としてニッケルを有する正極活物質100では、表層部100aのニッケル濃度のピークは、正極活物質100の表面、または基準点から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。またマグネシウムおよびニッケルを有する正極活物質100では、ニッケルの分布は、マグネシウムの分布と重なる領域を有することが好ましい。たとえばニッケル濃度のピークと、マグネシウム濃度のピークの深さ方向の差が3nm以内であると好ましく、1nm以内であるとより好ましい。
【0262】
また添加元素としてチタンを有する正極活物質100では、表層部100aのチタン濃度のピークは、正極活物質100の表面、または基準点から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。またマグネシウムおよびチタンを有する正極活物質100では、チタンの分布は、マグネシウムの分布と重なる領域を有することが好ましい。たとえばチタン濃度のピークと、マグネシウム濃度のピークの深さ方向の差が3nm以内であると好ましく、1nm以内であるとより好ましい。
【0263】
また正極活物質100が添加元素としてアルミニウムを有する場合は、EDX線分析をしたとき、表層部100aのアルミニウム濃度のピークよりも、マグネシウム、ニッケルまたはフッ素の濃度のピークが表面に近いことが好ましい。例えばアルミニウム濃度のピークは正極活物質100の表面、または基準点から中心に向かった深さ0.5nm以上50nm以下に存在することが好ましく、深さ5nm以上50nm以下に存在することがより好ましい。
【0264】
正極活物質100が上記の様にマグネシウム、チタン、ニッケル及びアルミニウムを有する場合に、正極活物質100を用いた電池において、高電圧充電(例えば4.6Vを上限とした充電)と放電との繰り返しにおける放電容量劣化を抑制できる「高いサイクル特性」、及び、低温(例えば0℃、-20℃、-40℃)で大きな放電容量が得られる「高い低温特性」を両立することが可能となる。
【0265】
また正極活物質100についてEDX線分析、面分析または点分析をしたとき、マグネシウム濃度のピークにおけるマグネシウムMgとコバルトCoの原子数の比(Mg/Co)は0.05以上0.6以下が好ましく、0.1以上0.4以下がより好ましい。アルミニウム濃度のピークにおけるアルミニウムAlとコバルトCoの原子数の比(Al/Co)は0.05以上0.6以下が好ましく、0.1以上0.45以下がより好ましい。ニッケル濃度のピークにおけるニッケルNiとコバルトCoの原子数の比(Ni/Co)は0以上0.2以下が好ましく、0.01以上0.1以下がより好ましい。フッ素濃度のピークにおけるフッ素FとコバルトCoの原子数の比(F/Co)は0以上1.6以下が好ましく、0.1以上1.4以下がより好ましい。
【0266】
また正極活物質100について線分析または面分析をしたとき、結晶粒界近傍における添加元素とコバルトCoの原子数の比(A/Co)は0.020以上0.50以下が好ましい。さらには0.025以上0.30以下が好ましい。さらには0.030以上0.20以下が好ましい。または0.020以上0.30以下が好ましい。または0.020以上0.20以下が好ましい。または0.025以上0.50以下が好ましい。または0.025以上0.20以下が好ましい。または0.030以上0.50以下が好ましい。または0.030以上0.30以下が好ましい。
【0267】
たとえば添加元素がマグネシウムのとき、正極活物質100について線分析または面分析をしたとき、結晶粒界近傍におけるマグネシウムとコバルトの原子数の比(Mg/Co)は、0.020以上0.50以下が好ましい。さらには0.025以上0.30以下が好ましい。さらには0.030以上0.20以下が好ましい。または0.020以上0.30以下が好ましい。または0.020以上0.20以下が好ましい。または0.025以上0.50以下が好ましい。または0.025以上0.20以下が好ましい。または0.030以上0.50以下が好ましい。または0.030以上0.30以下が好ましい。また正極活物質100の複数個所、たとえば3箇所以上において上記の範囲であると、添加元素が正極活物質100の表面の狭い範囲に付着するのではなく、正極活物質100の表層部100aに好ましい濃度で広く分布していることを示しているといえる。
【0268】
≪EPMA≫
EPMA(電子プローブ微小分析)も元素の定量が可能である。面分析ならば各元素の分布を分析することができる。
【0269】
本発明の一態様の正極活物質100の断面についてEPMA面分析をしたとき、EDXの分析結果と同様に、添加元素から選ばれた一または二以上は濃度勾配を有していることが好ましい。また添加元素によって、濃度ピークの表面からの深さが異なっていることがより好ましい。各添加元素の濃度ピークの好ましい範囲も、EDXの場合と同様である。
【0270】
ただしEPMAでは表面から1μm程度の深さまでの領域を分析する。そのため、各元素の定量値が他の分析法を用いた測定結果と異なる場合がある。たとえば正極活物質100の表面分析をEPMAで行ったとき、表層部100aに存在する各添加元素の濃度が、XPSの結果より低くなる場合がある。
【0271】
≪ラマン分光法≫
本発明の一態様の正極活物質100は、上述したように、表層部100aの少なくとも一部が、岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。そのため、正極活物質100およびこれを有する正極をラマン分光法で分析したとき、層状岩塩の結晶構造と共に、岩塩型をはじめとする立方晶系の結晶構造も観測されることが好ましい。後述するSTEM像および極微電子線回折パターンでは、観察時の奥行き方向にある程度の頻度でリチウム位置に置換したコバルト、および酸素4配位位置に存在するコバルト等が無いと、STEM像および極微電子線回折パターンの輝点として検出することができない。一方で、ラマン分光法はCo-Oなどの結合の振動モードをとらえる分析であるため、該当するCo-O結合の存在量が少なくても、対応する振動モードの波数のピークが観測できる場合がある。さらに、ラマン分光法は、表層部の面積数μm2、深さ1μmくらいの範囲を測定できるため、粒子表面にのみ存在する状態を感度よく捉えることができる。
【0272】
たとえばレーザ波長532nmのとき、層状岩塩型のLiCoO2では、470cm-1乃至490cm-1、580cm-1乃至600cm-1にピーク(振動モード:Eg、A1g)が観測される。一方、立方晶系CoOx(0<x<1)(岩塩型Co1-yO(0<y<1)またはスピネル型Co3O4)では、665cm-1乃至685cm-1にピーク(振動モード:A1g)が観測される。
【0273】
そのため、各ピークの積分強度を470cm-1乃至490cm-1をI1、580cm-1乃至600cm-1をI2、665cm-1乃至685cm-1をI3としたとき、I3/I2の値が1%以上10%以下であることが好ましく、3%以上9%以下であることがより好ましい。
【0274】
上記のような範囲で岩塩型をはじめとする立方晶系の結晶構造が観測されれば、正極活物質100の表層部100aに好ましい範囲で岩塩型の結晶構造を有しているといえる。
【0275】
≪極微電子線回折パターン≫
ラマン分光法と同様に極微電子線回折パターンでも、層状岩塩の結晶構造と共に、岩塩型の結晶構造の特徴も観察されることが好ましい。ただしSTEM像および極微電子線回折パターンにおいては、上述の感度の違いも踏まえ、表層部100a、なかでも最表面(たとえば表面から深さ1nm)において岩塩型の結晶構造の特徴が強くなりすぎないことが好ましい。最表面が岩塩型の結晶構造で覆われるよりも、層状岩塩型の結晶構造を有したままリチウム層にマグネシウム等の添加元素が存在する方が、リチウムの拡散経路を確保でき、かつ結晶構造を安定化させる機能がより強くなるためである。
【0276】
そのためたとえば表面から深さ1nm以下の領域の極微電子線回折パターンと、深さ3nm以上10nm以下までの領域の極微電子線回折パターンとを取得したとき、これらから算出される格子定数の差が小さい方が好ましい。
【0277】
たとえば表面から深さ1nm以下の測定箇所と、深さ3nm以上10nm以下までの測定箇所から算出される格子定数の差は、a軸について0.1Å以下であると好ましく、c軸について1.0Å以下であると好ましい。またa軸について0.05Å以下であるとより好ましく、c軸について0.6Å以下であるとより好ましい。またa軸について0.04Å以下であるとさらに好ましく、c軸について0.3Å以下であるとさらに好ましい。
【0278】
≪表面粗さと比表面積≫
本発明の一態様の正極活物質100は、表面がなめらかで凹凸が少ないことが好ましい。表面がなめらかで凹凸が少ないことは、後述する融剤の効果が十分に発揮されて、添加元素源とコバルト酸リチウムの表面が溶融したことを示す。そのため表層部100aにおける添加元素の分布が良好であることを示す一つの要素である。
【0279】
表面がなめらかで凹凸が少ないことは、たとえば正極活物質100の断面SEM像または断面TEM像、正極活物質100の比表面積等から判断することができる。
【0280】
たとえば以下のように、正極活物質100の断面SEM像から表面のなめらかさを数値化することができる。
【0281】
まず正極活物質100をFIB等により加工して断面を露出させる。このとき保護膜、保護剤等で正極活物質100を覆うことが好ましい。次に保護膜等と正極活物質100との界面のSEM像を撮影する。該SEM像に画像処理ソフトでノイズ処理を行う。たとえばガウスぼかし(σ=2)を行った後、二値化を行う。さらに画像処理ソフトで界面抽出を行う。さらに自動選択ツール等で保護膜等と正極活物質100との界面ラインを選択し、データを表計算ソフト等に抽出する。表計算ソフト等の機能を用いて、回帰曲線(二次回帰)から補正を行い、傾き補正後データからラフネス算出用パラメータを求め、標準偏差を算出した二乗平均平方根表面粗さ(RMS)を求める。また、この表面粗さは、正極活物質は少なくとも粒子外周の400nmにおける表面粗さである。
【0282】
本実施の形態の正極活物質100の粒子表面においては、ラフネスの指標である二乗平均平方根(RMS)表面粗さは3nm未満、好ましくは1nm未満、さらに好ましくは0.5nm未満の二乗平均平方根表面粗さ(RMS)であることが好ましい。
【0283】
なおノイズ処理、界面抽出等を行う画像処理ソフトについては特に限定されないが、たとえば非特許文献8乃至非特許文献10に記載の「ImageJ」を用いることができる。また表計算ソフト等についても特に限定されないが、たとえばMicrosoft Office Excelを用いることができる。
【0284】
またたとえば、定容法によるガス吸着法にて測定した実際の比表面積SRと、理想的な比表面積Siとの比からも、正極活物質100の表面のなめらかさを数値化することができる。
【0285】
理想的な比表面積Siは、すべての粒子の直径がD50と同じであり、重量が同じであり、形状は理想的な球であるとして計算して求める。
【0286】
メディアン径D50は、レーザ回折・散乱法を用いた粒度分布計等によって測定することができる。比表面積は、たとえば定容法によるガス吸着法を用いた比表面積測定装置等によって測定することができる。
【0287】
本発明の一態様の正極活物質100は、メディアン径D50から求めた理想的な比表面積Siと、実際の比表面積SRの比SR/Siが2.1以下であることが好ましい。
【0288】
または、下記のような方法によっても正極活物質100の断面SEM像から表面のなめらかさを数値化することができる。
【0289】
まず正極活物質100の表面SEM像を取得する。このとき観察前処理として導電性コーティングを施してもよい。観察面は電子線と垂直であることが好ましい。複数のサンプルを比較する場合は測定条件および観察面積を同じとする。
【0290】
次に画像処理ソフト(たとえば「ImageJ」)を用いて上記のSEM像をたとえば8ビットに変換した画像(これをグレースケール画像と呼ぶ)を取得する。グレースケール画像は輝度(明るさ情報)を含んでいる。たとえば8ビットのグレースケール画像では、輝度を2の8乗=256階調で表すことができる。暗い部分は階調数が低くなり、明るい部分は階調数が高くなる。階調数と関連付けて輝度変化を数値化することができる。当該数値をグレースケール値と呼ぶ。グレースケール値を取得することで正極活物質の凹凸を数値として評価することが可能となる。
【0291】
さらに対象領域の輝度変化をヒストグラムで表すことも可能となる。ヒストグラムとは対象領域における階調分布を立体的に示したもので、輝度ヒストグラムとも呼ぶ。輝度ヒストグラムを取得することで正極活物質の凹凸を視覚的にわかりやすく、評価することが可能となる。
【0292】
本発明の一態様の正極活物質100を評価する場合、上記グレースケール値の最大値と最小値との差が120以下であることが好ましく、115以下であることがより好ましく、70以上115以下であることがさらに好ましい。またグレースケール値の標準偏差は、11以下となることが好ましく、8以下であることがより好ましく、4以上8以下であることがさらに好ましい。
【0293】
<正極の断面SEM像を用いる粒度分布解析>
下記のような方法によっても正極活物質100の断面SEM像から、正極活物質100の粒度分布を算出することができる。
【0294】
まず、取得した断面SEM像から、解析領域を切り出す。画像解析のために十分な面積を有する範囲として例えば50μm以上×100μm以上の範囲を切り出すことができるが、この限りではない。正極活物質の大きさ等の要因次第で、より小さな面積を切り出してもよいし、より大きな面積を切り出してもよい。
【0295】
なお、断面SEM像の切り出しには画像処理ソフトの機能を使用してもよい。たとえば画像処理ソフトとしてImageJを用い、そのcrop機能により切り出してもよい。
【0296】
次に、画像処理ソフトを用いて切り出した第1の画像を二値化し、粒子解析を行う。
【0297】
画像処理ソフトにはたとえばImageJを用いることができる。以下に二値化の処理を説明する。256値のグレースケールで示される第1の画像を、黒(値が0)及び白(値が255)を除いた頻度グラフとして用い、当該頻度グラフにおいて最大ピークの半値半幅(HWHM)として、低値側(HWHM_L)及び高値側(HWHM_H)を求める。次に、当該最大ピークのピークトップ(最大頻度)となる値から、低値側にHWHM_Lの2倍の幅となる範囲の最低値aと、高値側にHWHM_Hの2倍の幅となる範囲の最高値bと、を定める。
【0298】
次に、a未満の値の範囲が白、a以上b以下の値の範囲が黒、bより大きい値の範囲が白、となるように二値化処理を行う。具体的には、ImageJのThreshold機能により、Threshold(a,b)として二値化を行う。その後、Gray Morphology (radius=3,operator=open,type=circle)、Gray Morphology (radius=1,operator=close,type=circle)の条件により、導電材に起因すると考えられるランダムな輝点を除去し、第2の画像を得ることができる。
【0299】
次に、第2の画像を用いて、ImegeJのAnalyze Particles機能により、粒子サイズ(投影面積)が0.5μm2以上700μm2以下の粒子を検出し、それぞれの粒子の面積Sを取得する。次に、それぞれの粒子の面積Sを基に、それぞれの粒子の直径rを算出する(数1)。
【0300】
【0301】
このようにして、断面SEM像から、それぞれの粒度分布を算出することができる。上記の解析を行うことを、正極の断面SEM像を用いて粒度分布解析を行う、という。
【0302】
また正極活物質100の表面の少なくとも一部に、被覆部が付着していてもよい。
図10に被覆部104が付着した正極活物質100の例を示す。
【0303】
被覆部104はたとえば充放電に伴い電解質および有機電解液の分解物が堆積して形成されたものであることが好ましい。特にLixCoO2中のxが0.24以下となるような充電を繰り返す場合、正極活物質100の表面に電解液由来の被覆部を有することで、充放電サイクル特性が向上することが期待される。これは正極活物質表面のインピーダンスの上昇を抑制する、またはコバルトの溶出を抑制する、等の理由による。被覆部104はたとえば炭素、酸素およびフッ素を有することが好ましい。さらに電解液にLiBOB、および/またはSUN(スベロニトリル)を用いた場合などは良質な被覆部を得られやすい。そのため、ホウ素、窒素、硫黄およびフッ素から選ばれた一または二以上を有する被覆部104は良質な被覆部である場合があり好ましい。また被覆部104は正極活物質100の全てを覆っていなくてもよい。たとえば、正極活物質100の表面の50%以上を覆っていればよく、70%以上であればより好ましく、90%以上であればさらに好ましい。
【0304】
≪粉体抵抗測定≫
本発明の一態様の正極活物質100は、高い電圧においても安定な結晶構造を有する。充電状態において正極活物質の結晶構造が安定であることにより、充放電の繰り返しに伴う充放電容量の低下を抑制することができる。上記のように優れた特性を有する正極活物質100の特徴として、上記の<<XRD>>において、LixCoO2中のxが小さいときO3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造を有することを説明した。また、上記の<<EDX>>にて、正極活物質100をSTEM-EDX分析をした場合における、添加元素の好ましい存在分布について、説明した。さらに、本発明の一態様の正極活物質100は、粉体の体積抵抗率においても特徴を有する。
【0305】
本発明の一態様の正極活物質100の特徴として、正極活物質100の粉体における体積抵抗率は、64MPaの圧力において1.0×108Ω・cm以上1.0×1010Ω・cm以下であることが好ましく、5.0×108Ω・cm以上1.5×109Ω・cm以下であることがより好ましい。
【0306】
上記の体積抵抗率を有する正極活物質100は、高い電圧においても安定な結晶構造を有し、充電状態において正極活物質の結晶構造が安定であるために重要である表層部100aを、良好に形成できたことを示す指標とすることができる。
【0307】
本発明の一態様の正極活物質100の粉体における体積抵抗率の測定方法について説明する。
【0308】
粉体の体積抵抗率の測定は、抵抗測定用の端子を有する機器部分と、測定対象である粉体に圧力を加える機構と、を有することが好ましい。抵抗測定用の端子としては4端子(4探針ともいう)を有することが好ましい。抵抗測定用の端子と、測定対象である粉体(サンプル)に圧力を加える機構と、を有する測定装置として例えば、三菱化学アナリテック社製のMCP-PD51を用いることができる。抵抗測定機器は低抵抗測定器ロレスタ-GPまたは高抵抗測定器ハイレスタ-GPを用いることができる。ロレスタ-GPは低抵抗サンプルの測定に用いることができ、ハイレスタ-GPは高抵抗サンプルの測定に用いることができる。なお、測定環境として、ドライルームなどの安定した環境であることが好ましい。ドライルームの環境として、例えば25℃の温度環境、かつマイナス40℃以下の露点環境であることが好ましい。湿度の高い環境で測定を行う場合、大気中の水分の影響で電気抵抗が下がり、本来の物性値が得られない可能性がある。
【0309】
上記に示す測定装置を用いる粉体の体積抵抗率の測定について説明する。まず、粉体サンプルを測定部にセットする。測定部において、粉体サンプルと、抵抗測定用の端子と、が接する構造となっており、かつ粉体サンプルに圧力を加えることが可能な構造となっている。また、測定部における粉体サンプルの体積を測定するための構造も有している。具体的には、上記の測定部は円筒状の空間を有し、該空間に粉体サンプルがセットされる。上記した粉体サンプルの体積を測定するための構造は、該空間にセットされた粉体の高さを計測することで、その時の粉体が占める体積を測定することが可能である。
【0310】
粉体の体積抵抗率の測定において、粉体に圧力を加えた状態で、粉体の電気抵抗測定と、粉体の体積計測を実施する。粉体に加える圧力は、複数条件で実施することができる。例えば、16MPa、25MPa、38MPa、51MPa、及び64MPaのそれぞれの圧力条件において、粉体の電気抵抗と、粉体の体積と、を計測することができる。計測した粉体の電気抵抗と粉体の体積の値から、粉体の体積抵抗率を算出することができる。
【0311】
上記に示すような測定をおこなう場合、本発明の一態様の正極活物質100の粉体における体積抵抗率が、64MPaの加圧下で測定したとき1.0×108Ω・cm以上1.0×1010Ω・cm以下である場合に、高い充電電圧条件での充放電サイクル試験において、好ましいサイクル特性を示し、5.0×108Ω・cm以上1.5×109Ω・cm以下である場合に、高い電圧条件での充放電サイクル試験において、さらに好ましいサイクル特性を示す。
【0312】
なお本発明書等で特に言及しない場合、上記のように測定した体積抵抗率は、粉体の体積抵抗率である。
【0313】
≪イオンクロマトグラフィー≫
本発明の一態様の正極活物質100の粉体の、イオンクロマトグラフィーの測定方法について説明する。イオンクロマトグラフィーの測定では、正極活物質100の粉体を酸に溶かして測定用の溶液を得る前処理工程と、当該溶液を測定する測定工程を行う。
【0314】
イオンクロマトグラフィーの装置および条件は特に限定されない。たとえば下記のような装置および条件で測定することができる。イオンクロマトグラフィーの装置として、例えばサーモフィッシャーサイエンティフィック社製イオンクロマトグラフィーシステムDionex ICS-2100を用いることができる。
【0315】
イオンクロマトグラフィーの前処理について、一例を説明する。正極活物質100の粉体を250mgと、0.05MのH2SO4水溶液を2mlと、を用意し、蓋つきのガラス容器に入れ、混合し、第1の混合溶液を得る。なお、混合として、超音波を1時間程度印加するとよい。その後、当該容器を常温環境で12時間以上静置する。その後、第1の混合溶液をろ過して得られたろ液を1mlと、純水を9mlと、を混合し、第2の混合溶液を得る。このようにして、正極活物質100の粉体の前処理を行うことができる。
【0316】
次に、上記の前処理で得られた第2の混合溶液を用いて、イオンクロマトグラフィーを行う。イオンクロマトグラフィーでは、陰イオン分析と、陽イオン分析と、を行うとよい。
【0317】
陰イオン分析の条件の一例を以下に示す。陰イオン分析はDionex IonPac AG20(2×50mm)、Dionex IonPac AS20(2×250mm)のカラムを用いて35℃で行うことができる。溶離液としてはKOH水溶液を用い、流量は0.44ml/minにするとよい。なお、KOH水溶液の濃度は徐々に濃くなるように、グラジエント測定を行うことが好ましい。検出器は電気伝導度検出器を用い、検量線の作成には関東化学社製陰イオン混合標準液を用いることができる。
【0318】
陽イオン分析の条件の一例を以下に示す。陽イオン分析はDionex IonPac CG16(3×50mm)、Dionex IonPac CS16(3×250mm)のカラムを用いて30℃で行うことができる。溶離液はメタンスルホン酸(MSA)水溶液とし、流量は0.36ml/minにするとよい。なお、MSA水溶液の濃度は一定として、イソクラティック測定を行うとよい。検出器は電気伝導度検出器を用い、検量線の作成には関東化学社製陽イオン混合標準液を用いることができる。
【0319】
上記で説明したイオンクロマトグラフィーの測定によって、陰イオン分析では例えばフッ素(F)、塩素(Cl)等の定量測定が可能であり、陽イオン分析では例えばリチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の定量測定が可能である。
【0320】
本発明の一態様の正極活物質100の粉体のイオンクロマトグラフィーの測定において、当該粉体の重量に対して、フッ素の重量は100ppm以上1000ppm以下であることが好ましく、100ppm以上200ppm以下であることがより好ましい。
【0321】
本実施の形態は、他の実施の形態と組み合わせ用いることができる。
【0322】
(実施の形態2)
本実施の形態では、
図11乃至
図14を用いて本発明の一態様の正極活物質100の作製方法の例について説明する。
【0323】
先の実施の形態で説明したような添加元素の分布、組成、および/または結晶構造を有する正極活物質100を作製するためには、添加元素の加え方が重要である。同時に内部100bの結晶性が良好であることも重要である。
【0324】
そのため正極活物質100の作製工程において、まずコバルト酸リチウムを合成し、その後添加元素源を混合して加熱処理を行うことが好ましい。
【0325】
コバルト源と、リチウム源と同時に添加元素源を混合して、添加元素を有するコバルト酸リチウムを合成する方法では、表層部100aの添加元素濃度を高めることが難しい。またコバルト酸リチウムを合成した後、添加元素源を混合するのみで加熱を行わなければ、添加元素はコバルト酸リチウムに固溶することなく付着するのみである。十分な加熱を経なければ、やはり添加元素を良好に分布させることが難しい。そのためコバルト酸リチウムを合成してから添加元素源を混合し、加熱処理を行うことが好ましい。この添加元素源を混合した後の加熱処理をアニールという場合がある。
【0326】
しかしながらアニールの温度が高すぎると、カチオンミキシングが生じて添加元素、たとえばマグネシウムがコバルトサイトに入る可能性が高まる。コバルトサイトに存在するマグネシウムは、LixCoO2中のxが小さいときR-3mの層状岩塩型の結晶構造を保つ効果がない。さらに、加熱処理の温度が高すぎると、コバルトが還元されて2価になってしまう、リチウムが蒸散するなどの悪影響も懸念される。
【0327】
そこで添加元素源と共に、融剤として機能する材料を混合することが好ましい。コバルト酸リチウムより融点が低ければ、融剤として機能する材料といえる。たとえばフッ化リチウムをはじめとするフッ素化合物が好適である。融剤を加えることで、添加元素源と、コバルト酸リチウムの融点降下が起こる。融点降下させることでカチオンミキシングが生じにくい温度で、添加元素を良好に分布させることが容易となる。
【0328】
《正極活物質の作製方法1》
正極活物質100の作製方法1について、
図11乃至
図12(C)を用いて説明する。
【0329】
<ステップS11>
図11(A)に示すステップS11では、出発材料であるリチウム及び遷移金属の材料として、それぞれリチウム源(Li源)及びコバルト源(Co源)を準備する。
【0330】
リチウム源としては、リチウムを有する化合物を用いると好ましく、例えば炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、又はフッ化リチウム等を用いることができる。リチウム源は純度が高いと好ましく、例えば純度が99.99%以上の材料を用いるとよい。
【0331】
コバルト源としては、コバルトを有する化合物を用いると好ましく、例えば四酸化三コバルト等の酸化コバルト、水酸化コバルト等を用いることができる。
【0332】
コバルト源は純度が高いと好ましく、例えば純度が3N(99.9%)以上、好ましくは4N(99.99%)以上、より好ましくは4N5(99.995%)以上、さらに好ましくは5N(99.999%)以上の材料を用いるとよい。高純度の材料を用いることで、正極活物質の不純物を制御することができる。その結果、二次電池の容量が高まり、及び/または二次電池の信頼性が向上する。
【0333】
加えて、コバルト源の結晶性が高いと好ましく、例えば単結晶粒を有するとよい。コバルト源の結晶性の評価としては、TEM(透過電子顕微鏡)像、STEM(走査透過電子顕微鏡)像、HAADF-STEM(高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡)像、ABF-STEM(環状明視野走査透過電子顕微鏡)像等による評価、またはX線回折(XRD)、電子線回折、中性子線回折等の評価がある。なお、上記の結晶性の評価に関する手法は、コバルト源だけではなく、その他の結晶性の評価にも適用することができる。
【0334】
<ステップS12>
次に、
図11(A)に示すステップS12として、リチウム源及びコバルト源を粉砕及び混合して、混合材料を作製する。粉砕及び混合は、乾式または湿式で行うことができる。湿式はより小さく解砕することができるため好ましい。湿式で行う場合は、溶媒を準備する。溶媒としてはアセトン等のケトン、エタノール及びイソプロパノール等のアルコール、エーテル、ジオキサン、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等を用いることができる。リチウムと反応が起こりにくい、非プロトン性溶媒を用いることがより好ましい。本実施の形態では、純度が99.5%以上の脱水アセトンを用いることとする。水分含有量を10ppm以下まで抑えた、純度が99.5%以上の脱水アセトンにリチウム源及びコバルト源を混合して、粉砕及び混合を行うと好適である。上記のような純度の脱水アセトンを用いることで、混入しうる不純物を低減することができる。
【0335】
粉砕及び混合の手段にはボールミル、またはビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、粉砕メディアとして酸化アルミニウムボール又は酸化ジルコニウムボールを用いるとよい。酸化ジルコニウムボールは不純物の排出が少なく好ましい。また、ボールミル、またはビーズミル等を用いる場合、メディアからのコンタミネーションを抑制するために、周速を、100mm/s以上2000mm/s以下とするとよい。本実施の形態では、周速838mm/s(回転数400rpm、ボールミルの直径40mm)として実施する。
【0336】
<ステップS13>
次に、
図11(A)に示すステップS13として、上記混合材料を加熱する。加熱は、800℃以上1100℃以下で行うことが好ましく、900℃以上1000℃以下で行うことがより好ましく、950℃程度がさらに好ましい。温度が低すぎると、リチウム源及びコバルト源の分解及び溶融が不十分となるおそれがある。一方温度が高すぎると、リチウム源からリチウムが蒸散する、及び/またはコバルトが過剰に還元される、などが原因となり欠陥が生じるおそれがある。例えばコバルトが3価から2価へ変化し、酸素欠陥などが誘発されることがある。
【0337】
加熱時間は短すぎるとコバルト酸リチウムが合成されないが、長すぎると生産性が低下する。たとえば加熱時間は1時間以上100時間以下とするとよく、2時間以上20時間以下とすることがさらに好ましい。
【0338】
昇温レートは、加熱温度の到達温度によるが、80℃/h以上250℃/h以下がよい。たとえば1000℃で10時間加熱する場合、昇温レートは200℃/hとするとよい。
【0339】
加熱は、乾燥空気等の水が少ない雰囲気で行うことが好ましく、例えば露点が-50℃以下、より好ましくは露点が-80℃以下の雰囲気がよい。本実施の形態においては、露点-93℃の雰囲気にて、加熱を行うこととする。また材料中に混入しうる不純物を抑制するためには、加熱雰囲気におけるCH4、CO、CO2、及びH2等の不純物濃度が、それぞれ5ppb(parts per billion)以下にするとよい。
【0340】
加熱雰囲気として酸素を有する雰囲気が好ましい。例えば反応室に乾燥空気を導入し続ける方法がある。この場合、乾燥空気の流量は10L/minとすることが好ましい。酸素を反応室へ導入し続け、酸素が反応室内を流れている方法をフローと呼ぶ。
【0341】
加熱雰囲気を、酸素を有する雰囲気とする場合、フローさせないやり方でもよい。例えば反応室を減圧してから酸素を充填し(パージし、といってもよい)、当該酸素が反応室から出入りしないようにする方法でもよい。たとえば反応室を-970hPaまで減圧してから、50hPaまで酸素を充填すればよい。
【0342】
加熱後の冷却は自然放冷でよいが、規定温度から室温までの降温時間が10時間以上50時間以下に収まると好ましい。ただし、必ずしも室温までの冷却は要せず、次のステップが許容する温度まで冷却されればよい。
【0343】
本工程の加熱は、ロータリーキルン又はローラーハースキルンによる加熱を行ってもよい。ロータリーキルンによる加熱は、連続式、バッチ式いずれの場合でも攪拌しながら加熱することができる。
【0344】
加熱の際に用いる、るつぼは酸化アルミニウムのるつぼが好ましい。酸化アルミニウムのるつぼは不純物を放出しにくい材質である。本実施の形態においては、純度が99.9%の酸化アルミニウムのるつぼを用いる。るつぼには蓋を配して加熱すると好ましい。材料の揮発を防ぐことができる。
【0345】
またるつぼは新品のものよりも、複数回使用したるつぼを用いることが好ましい。本明細書等において新品のるつぼとは、リチウム、遷移金属M、および/または添加元素を含む材料を入れて加熱する工程が2回以下のものをいうこととする。また複数回使用したるつぼとは、リチウム、遷移金属Mおよび/または添加元素を含む材料を入れて加熱する工程を3回以上経たものということとする。これは新品のるつぼを用いると、加熱の際にフッ化リチウムをはじめとする材料の一部がさやに吸収、拡散、移動および/または付着する恐れがあるためである。これらにより材料の一部が失われると、特に正極活物質の表層部の元素の分布が好ましい範囲にならない懸念が高まる。一方で複数回使用したるつぼではこの恐れが少ない。
【0346】
加熱が終わったあと、必要に応じて粉砕し、さらにふるいを実施してもよい。加熱後の材料を回収する際に、るつぼから乳鉢へ移動させたのち回収してもよい。また、当該乳鉢は酸化アルミニウムの乳鉢を用いると好適である。酸化アルミニウムの乳鉢は不純物を放出しにくい材質である。具体的には、純度が90%以上、好ましくは純度が99%以上の酸化アルミニウムの乳鉢を用いる。なお、ステップS13以外の後述の加熱の工程においても、ステップS13と同等の加熱条件を適用できる。
【0347】
<ステップS14>
以上の工程により、
図11(A)に示すステップS14で示すコバルト酸リチウム(LiCoO
2)を合成することができる。
【0348】
ステップS11乃至ステップS14のように固相法で複合酸化物を作製する例を示したが、共沈法で複合酸化物を作製してもよい。また水熱法で複合酸化物を作製してもよい。
【0349】
なお、ステップS14としてあらかじめ合成されたコバルト酸リチウムを用いてもよい。この場合、ステップS11乃至ステップS13を省略することができる。あらかじめ合成されたコバルト酸リチウムに対してステップS15を実施することで、表面がなめらかなコバルト酸リチウムを得ることができる。
【0350】
<ステップS20>
次にステップS20に示すように、コバルト酸リチウムに添加元素を加えることが好ましい。本実施の形態で説明する正極活物質の作製方法では添加元素を複数の工程に分けて加えるため、
図11に示すフローにおいて最初に加える添加元素をA1、2回目に加える添加元素をA2、3回目に加える添加元素をA3として説明することとする。添加元素A1を添加するステップについて、
図12(A)を用いて説明する。
【0351】
<ステップS21>
図12(A)に示すステップS21では、コバルト酸リチウムに添加する添加元素源(A1源)を用意する。A1源と合わせて、リチウム源を準備してもよい。
【0352】
添加元素A1としては、先の実施の形態で説明した添加元素を用いることができる。具体的にはマグネシウム、フッ素、ニッケル、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、鉄、マンガン、クロム、ニオブ、ヒ素、亜鉛、ケイ素、硫黄、リンおよびホウ素から選ばれた一または二以上を用いることができる。また臭素、及びベリリウムから選ばれた一または二を用いることもできる。
【0353】
添加元素にマグネシウムを選んだとき、添加元素源はマグネシウム源と呼ぶことができる。当該マグネシウム源としては、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、又は炭酸マグネシウム等を用いることができる。また上述したマグネシウム源を複数用いてもよい。
【0354】
添加元素にフッ素を選んだとき、添加元素源はフッ素源と呼ぶことができる。当該フッ素源としては、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化チタン(TiF4)、フッ化コバルト(CoF2、CoF3)、フッ化ニッケル(NiF2)、フッ化ジルコニウム(ZrF4)、フッ化バナジウム(VF5)、フッ化マンガン、フッ化鉄、フッ化クロム、フッ化ニオブ、フッ化亜鉛(ZnF2)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化バリウム(BaF2)、フッ化セリウム(CeF3、CeF4)、フッ化ランタン(LaF3)、又は六フッ化アルミニウムナトリウム(Na3AlF6)等を用いることができる。なかでも、フッ化リチウムは融点が848℃と比較的低く、後述する加熱工程で溶融しやすいため好ましい。
【0355】
フッ化マグネシウムはフッ素源としてもマグネシウム源としても用いることができる。またフッ化リチウムはリチウム源としても用いることができる。ステップS21に用いられるその他のリチウム源は炭酸リチウムがある。
【0356】
またフッ素源は気体でもよく、フッ素(F2)、フッ化炭素、フッ化硫黄、又はフッ化酸素(OF2、O2F2、O3F2、O4F2、O5F2、O6F2、O2F)、三フッ化窒素(NF3)等を用い、後述する加熱工程において雰囲気中に混合させてもよい。また上述したフッ素源を複数用いてもよい。
【0357】
図11乃至
図12(C)で説明する正極活物質の作製方法1では、添加元素A1としてマグネシウムおよびフッ素を用いることとする。フッ素源としてフッ化リチウム(LiF)を準備し、フッ素源及びマグネシウム源としてフッ化マグネシウム(MgF
2)を準備する。フッ化リチウムとフッ化マグネシウムは、LiF:MgF
2=65:35(モル比)程度で混合すると融点を下げる効果が最も高くなる。一方、フッ化リチウムが多くなると、リチウムが過剰になりすぎサイクル特性が悪化する懸念がある。そのため、フッ化リチウムとフッ化マグネシウムのモル比は、LiF:MgF
2=x:1(0≦x≦1.9)であることが好ましく、LiF:MgF
2=x:1(0.1≦x≦0.5)がより好ましく、LiF:MgF
2=x:1(x=0.33またはその近傍)がさらに好ましい。なお本明細書等において近傍とは、その値の0.9倍より大きく1.1倍より小さい値とする。
【0358】
<ステップS22>
次に、
図12(A)に示すステップS22では、マグネシウム源及びフッ素源を粉砕及び混合する。本工程は、ステップS12で説明した粉砕及び混合の条件から選択して実施することができる。
【0359】
<ステップS23>
次に、
図12(A)に示すステップS23では、上記で粉砕、混合した材料を回収して、A1源を得ることができる。なお、ステップS23に示すA1源は、複数の出発材料を有するものであり、混合物と呼ぶことができる。
【0360】
上記混合物の粒径は、D50(メディアン径)が600nm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であることがより好ましい。添加元素源として、一種の材料を用いた場合においても、D50(メディアン径)が600nm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であることがより好ましい。
【0361】
このような微粉化された混合物(添加元素が1種の場合も含む)であると、後の工程でコバルト酸リチウムと混合したときに、コバルト酸リチウムの粒子の表面に混合物を均一に付着させやすい。コバルト酸リチウムの粒子の表面に混合物が均一に付着していると、加熱後に複合酸化物の表層部100aに均一に添加元素を分布又は拡散させやすいため好ましい。
【0362】
<ステップS31>
次に、
図11に示すステップS31では、コバルト酸リチウムと、A1源とを混合する。コバルト酸リチウム中のコバルトの原子数Coと、A1源が有するマグネシウムの原子数Mgとの比は、Co:Mg=100:y(0.1≦y≦6)であることが好ましく、M:Mg=100:y(0.3≦y≦3)であることがより好ましい。
【0363】
ステップS31の混合は、コバルト酸リチウムの粒子の形状を破壊させないためにステップS12の混合よりも穏やかな条件とすることが好ましい。例えば、ステップS12の混合よりも回転数が少ない、または時間が短い条件とすることが好ましい。また湿式よりも乾式のほうが穏やかな条件であると言える。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとして酸化ジルコニウムボールを用いることが好ましい。
【0364】
本実施の形態では、直径1mmの酸化ジルコニウムボールを用いたボールミルで、150rpm、1時間、乾式で混合することとする。また該混合は、露点が-100℃以上-10℃以下のドライルームで行うこととする。
【0365】
<ステップS32>
次に、
図11のステップS32において、上記で混合した材料を回収し、混合物901を得る。回収の際、必要に応じて解砕した後にふるいを実施してもよい。
【0366】
<ステップS33>
次に、
図11(A)に示すステップS33では、混合物901を加熱する。ステップS13で説明した加熱条件から選択して実施することができる。加熱時間は2時間以上が好ましい。このとき、加熱雰囲気の酸素分圧を高めるため、炉内は大気圧を超えた圧力であってもよい。加熱雰囲気の酸素分圧が不足すると、コバルト等が還元され、コバルト酸リチウム等が層状岩塩型の結晶構造を保てなくなる恐れがあるためである。
【0367】
ここで加熱温度について補足する。ステップS33の加熱温度の下限は、コバルト酸リチウムと添加元素源との反応が進む温度以上である必要がある。反応が進む温度とは、コバルト酸リチウムと添加元素源との有する元素の相互拡散が起きる温度であればよく、これらの材料の溶融温度よりも低くてもよい。酸化物を例にして説明するが、溶融温度Tmの0.757倍(タンマン温度Td)から固相拡散が起こることがわかっている。そのため、ステップS33における加熱温度としては、650℃以上であればよい。
【0368】
勿論、混合物901が有する材料から選ばれた一または二以上が溶融する温度以上であると、より反応が進みやすい。例えば、添加元素源として、LiF及びMgF2を有する場合、LiFとMgF2の共融点は742℃付近であるため、ステップS33の加熱温度の下限は742℃以上とすると好ましい。
【0369】
また、LiCoO2:LiF:MgF2=100:0.33:1(モル比)となるように混合して得られた混合物903は、示差走査熱量測定(DSC測定)において830℃付近に吸熱ピークが観測される。よって、加熱温度の下限は830℃以上がより好ましい。
【0370】
加熱温度は高い方が反応が進みやすく、加熱時間が短く済み、生産性が高く好ましい。
【0371】
加熱温度の上限はコバルト酸リチウムの分解温度(1130℃)未満とする。分解温度の近傍の温度では、微量ではあるがコバルト酸リチウムの分解が懸念される。そのため、1000℃以下であるとより好ましく、950℃以下であるとさらに好ましく、900℃以下であるとさらに好ましい。
【0372】
これらを踏まえると、ステップS33における加熱温度としては、650℃以上1130℃以下が好ましく、650℃以上1000℃以下がより好ましく、650℃以上950℃以下がさらに好ましく、650℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、742℃以上1130℃以下が好ましく、742℃以上1000℃以下がより好ましく、742℃以上950℃以下がさらに好ましく、742℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、800℃以上1100℃以下、830℃以上1130℃以下が好ましく、830℃以上1000℃以下がより好ましく、830℃以上950℃以下がさらに好ましく、830℃以上900℃以下がさらに好ましい。なおステップS33における加熱温度は、ステップS13よりも高いとよい。
【0373】
さらに混合物901を加熱する際、フッ素源等に起因するフッ素またはフッ化物の分圧を適切な範囲に制御することが好ましい。
【0374】
本実施の形態で説明する作製方法では、一部の材料、例えばフッ素源であるLiFが融剤として機能する場合がある。この機能により加熱温度をコバルト酸リチウムの分解温度未満、例えば742℃以上950℃以下にまで低温化でき、表層部にマグネシウムをはじめとする添加元素を分布させ、良好な特性の正極活物質を作製できる。
【0375】
しかし、LiFは酸素よりも気体状態での比重が軽いため、加熱によりLiFが揮発または昇華する可能性があり、揮発すると混合物903中のLiFが減少してしまう。すると融剤としての機能が弱くなってしまう。よって、LiFの揮発を抑制しつつ、加熱する必要がある。なお、フッ素源等としてLiFを用いなかったとしても、LiCoO2表面のLiとフッ素源のFが反応して、LiFが生じ、揮発する可能性もある。そのため、LiFより融点が高いフッ化物を用いたとしても、同じように揮発の抑制が必要である。
【0376】
そこで、LiFを含む雰囲気で混合物901を加熱すること、すなわち、加熱炉内のLiFの分圧が高い状態で混合物901を加熱することが好ましい。このような加熱により混合物901中のLiFの揮発を抑制することができる。
【0377】
本工程の加熱は、混合物901の粒子同士が固着しないように加熱すると好ましい。加熱中に混合物901粒子同士が固着すると、雰囲気中の酸素との接触面積が減る、及び添加元素(例えばフッ素)が拡散する経路を阻害することにより、表層部への添加元素(例えばマグネシウム及びフッ素)の分布が悪化する可能性がある。
【0378】
また、添加元素(例えばフッ素)が表層部に均一に分布するとなめらかで凹凸が少ない正極活物質を得られると考えられている。そのため本工程でステップS15の加熱を経た、表面がなめらかな状態を維持する又はより一層なめらかになるためには、混合物901の粒子同士が固着しない方がよい。
【0379】
また、ロータリーキルンによって加熱する場合は、キルン内の酸素を含む雰囲気の流量を制御して加熱することが好ましい。例えば酸素を含む雰囲気の流量を少なくする、最初に雰囲気をパージしキルン内に酸素雰囲気を導入した後は雰囲気のフローはしない、等が好ましい。酸素をフローするとフッ素源が蒸散する可能性があり、表面のなめらかさを維持するためには好ましくない。
【0380】
ローラーハースキルンによって加熱する場合は、例えば混合物901の入った容器に蓋を配することでLiFを含む雰囲気で混合物901を加熱することができる。
【0381】
加熱時間について補足する。加熱時間は、加熱温度、ステップS14のコバルト酸リチウムの大きさ、及び組成等の条件により変化する。コバルト酸リチウムが小さい場合は、大きい場合よりも低い温度または短い時間がより好ましい場合がある。
【0382】
図11(A)のステップS14のコバルト酸リチウムのメディアン径(D50)が12μm程度の場合、加熱温度は、例えば650℃以上950℃以下が好ましい。加熱時間は例えば3時間以上60時間以下が好ましく、10時間以上30時間以下がより好ましく、20時間程度がさらに好ましい。なお、加熱後の降温時間は、例えば10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0383】
一方、ステップS14のコバルト酸リチウムのメディアン径(D50)が7μm程度の場合、加熱温度は例えば650℃以上950℃以下が好ましい。加熱時間は例えば1時間以上10時間以下が好ましく、5時間程度がより好ましい。なお、加熱後の降温時間は、例えば10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0384】
<ステップS34>
次に、
図11に示すステップS34では、加熱した材料を回収し、必要に応じて解砕して、複合酸化物902を得る。
【0385】
<ステップS40>
次に、
図11に示すステップS40では、添加元素源(A2源)を要する。添加元素A2としては、ステップS21で説明した添加元素を用いることができる。
図11乃至
図12(C)で説明する正極活物質の作製方法1では、添加元素A2としてニッケルおよびアルミニウムを用いることとする。ニッケル源としては、酸化ニッケル、水酸化ニッケル等を用いることができる。アルミニウム源としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、等を用いることができる。
図12(B)のステップS41乃至ステップS43に示すように、ニッケル源およびアルミニウム源をそれぞれ粉砕し、A2源とすることができる。粉砕の条件はステップS22の条件を参酌することができる。
【0386】
<ステップS51>
次に
図11に示すステップS51では、複合酸化物902と、A2源とを混合する。混合条件はステップS31の記載を参酌することができる。
【0387】
<ステップS52>
次に
図11に示すステップS52おいて、上記で混合した材料を回収し、混合物903を得る。回収の際、必要に応じて解砕した後にふるいを実施してもよい。
【0388】
<ステップS53>
次に
図11に示すステップS53では、混合物903を加熱する。加熱条件はステップS33の記載を参酌することができる。
【0389】
<ステップS54>
次に、
図11に示すステップS54では、加熱した材料を回収し、必要に応じて解砕して、複合酸化物904を得る。
【0390】
<ステップS60>
次に
図11に示すステップS60では、添加元素源(A3源)を要する。添加元素A3としては、ステップS21で説明した添加元素を用いることができる。
図11乃至
図12(C)で説明する正極活物質の作製方法1では、添加元素A3としてチタンを用いることとする。チタン源としては、チタン酸リチウム、酸化チタン、水酸化チタン等を用いることができる。
図12(C)のステップS61乃至ステップS63に示すように、チタン源を粉砕しA3源とすることができる。粉砕の条件はステップS22の条件を参酌することができる。
【0391】
<ステップS71>
次の
図11に示すステップS71では、複合酸化物904と、A3源とを混合する。混合条件はステップS31の記載を参酌することができる。
【0392】
<ステップS72>
次に
図11に示すステップS72おいて、上記で混合した材料を回収し、混合物905を得る。回収の際、必要に応じて解砕した後にふるいを実施してもよい。
【0393】
<ステップS73>
次に
図11に示すステップS73では、混合物905を加熱する。加熱条件はステップS33の記載を参酌することができる。
【0394】
<ステップS74>
次に、
図11に示すステップS74では、加熱した材料を回収し、必要に応じて解砕して、正極活物質100を得る。このとき、回収された粒子をさらに、ふるいにかけると好ましい。以上の工程により、本発明の一態様の正極活物質100を作製することができる。本発明の一態様の正極活物質は表面がなめらかである。
【0395】
表面がなめらかな正極活物質100は、そうでない正極活物質よりも加圧等による物理的な破壊に強い可能性がある。たとえば、釘刺し試験のような加圧を伴う試験において正極活物質100が破壊されにくく、結果として安全性が高まる可能性がある。
【0396】
〔初期加熱〕
上記で説明した作製方法において、コバルト酸リチウムを合成した後、添加元素を混合する前にも加熱を行うとより好ましい場合がある。この加熱を初期加熱という。
【0397】
初期加熱により、コバルト酸リチウムの表層部100aの一部からリチウムが脱離する影響で、添加元素の分布がさらに良好になる。
【0398】
より詳細には以下のような機序で、初期加熱により添加元素によって分布を異ならせやすくなると考えられる。まず初期加熱により表層部100aの一部からリチウムが脱離する。次にこのリチウムが欠乏した表層部100aを有するコバルト酸リチウムと、ニッケル源、アルミニウム源、マグネシウム源をはじめとする添加元素源を混合し加熱する。添加元素のうちマグネシウムは2価の典型元素であり、ニッケルは遷移金属であるが2価のイオンになりやすい。そのため表層部100aの一部に、Mg2+およびNi2+と、リチウムの欠乏により還元されたCo2+と、を有する岩塩型の相が形成される。ただし、この相が形成されるのは表層部100aの一部であるため、STEMなどの電子顕微鏡像および電子線回折パターンにおいて明瞭に確認できない場合もある。
【0399】
添加元素のうちニッケルは、表層部100aが層状岩塩型のコバルト酸リチウムの場合は固溶しやすく内部100bまで拡散するが、表層部100aの一部が岩塩型の場合は表層部100aにとどまりやすい。そのため、初期加熱を行うことでニッケルをはじめとする2価の添加元素を表層部100aに留まりやすくすることができる。この初期加熱の効果は特に正極活物質100の(001)配向以外の表面およびその表層部100aにおいて大きい。
【0400】
またこれらの岩塩型では、金属Meと酸素の結合距離(Me-O距離)が層状岩塩型よりも長くなる傾向にある。
【0401】
たとえば岩塩型Ni0.5Mg0.5OにおけるMe-O距離は2.09Å、岩塩型MgOにおけるMe-O距離は2.11Åである。また仮に表層部100aの一部にスピネル型の相が形成されたとしても、スピネル型NiAl2O4のMe-O距離は2.0125Å、スピネル型MgAl2O4のMe-O距離は2.02Åである。いずれもMe-O距離は2Åを超える。なお1Å=10-10mである。
【0402】
一方、層状岩塩型では、リチウム以外の金属と酸素の結合距離は上記より短い。たとえば層状岩塩型LiAlO2におけるAl-O距離は1.905Å(Li-O距離は2.11Å)である。また層状岩塩型LiCoO2におけるCo-O距離は1.9224Å(Li-O距離は2.0916Å)である。
【0403】
なおシャノンのイオン半径(Shannon et al., Acta A 32 (1976) 751.)によれば、6配位のアルミニウムのイオン半径は0.535Å、6配位の酸素のイオン半径は1.4Åであり、これらの和は1.935Åである。
【0404】
以上から、アルミニウムは、岩塩型よりも層状岩塩型のリチウム以外のサイトでより安定に存在すると考えられる。そのため、アルミニウムは表層部100aの中でも岩塩型の相を有する表面に近い領域よりも、層状岩塩型を有するより深い領域、および/または内部100bに分布しやすい。
【0405】
また初期加熱により、内部100bの層状岩塩型の結晶構造の結晶性を高める効果も期待できる。
【0406】
しかし、必ずしも初期加熱は行わなくてもよい。他の加熱工程、たとえばアニールにおいて、雰囲気、温度、時間等を制御することで、LixCoO2中のxが小さいときにO3’型を有する正極活物質100を作製できる場合がある。
【0407】
《正極活物質の作製方法2》
次に、本発明を実施する一形態であって、正極活物質の作製方法1とは異なる正極活物質の作製方法2について、
図13(A)および
図13(B)を用いて説明する。正極活物質の作製方法2は主に添加元素を加える回数が作製方法1とは異なる。その他の記載は作製方法1の記載を参酌することができる。
【0408】
正極活物質の作製方法1では、LiMO2を作製した後にのみ添加元素を加える作製方法について説明したが、本発明は上記方法に限定されない。添加元素は他のタイミングで加えてもよいし、複数回にわたって加えてもよい。元素によってタイミングを変えてもよい。
【0409】
たとえばステップS11の段階、つまり複合酸化物の出発材料の段階で添加元素をリチウム源及びコバルト源へ添加してもよい。この時加える添加元素源を、
図13(A)中にA0源として示す。その後ステップS13で添加元素を有するコバルト酸リチウムを得ることができる。この場合は、ステップS11乃至ステップS14の工程と、ステップS21乃至ステップS23の工程を分ける必要がない。簡便で生産性が高い方法であるといえる。
【0410】
また、あらかじめ添加元素の一部を有するコバルト酸リチウムを用いてもよい。たとえばマグネシウム及びフッ素が添加されたコバルト酸リチウムを用いれば、ステップS11乃至ステップS14、およびステップS20の一部の工程を省略することができる。簡便で生産性が高い方法であるといえる。
【0411】
また、あらかじめマグネシウム及びフッ素が添加されたコバルト酸リチウムに対して、添加元素を添加してもよい。
【0412】
また、正極活物質の作製方法1ではA1としてマグネシウムおよびフッ素、A2としてニッケルおよびアルミニウムを用い、異なるタイミングで添加する作製方法について説明したが、マグネシウム、フッ素、ニッケルおよびアルミニウムを同時に添加してもよい。
図13(A)および
図13(B)にステップS20aとして、これらを同時に添加する方法を示す。この作製方法も、混合および加熱工程を減らすことができるため簡便で生産性が高い方法であるといえる。
【0413】
本実施の形態は、他の実施の形態と組み合わせて用いることができる。
【0414】
(実施の形態3)
本実施の形態では、
図14および
図15を用いて本発明の一態様の二次電池の例について説明する。
【0415】
<二次電池の構成例>
以下に、
図14に示す、正極、負極および電解液が、外装体に包まれている二次電池を例にとって説明する。
【0416】
〔正極〕
正極は、正極活物質層および正極集電体を有する。正極活物質層は正極活物質を有し、導電材(導電助剤と同義)およびバインダを有していてもよい。正極活物質には、先の実施の形態で説明した作製方法を用いて作製した正極活物質を用いる。
【0417】
また先の実施の形態で説明した正極活物質と、他の正極活物質を混合して用いてもよい。
【0418】
他の正極活物質としてはたとえばオリビン型の結晶構造、層状岩塩型の結晶構造、またはスピネル型の結晶構造を有する複合酸化物等がある。例えば、LiFePO4、LiFeO2、LiNiO2、LiMn2O4、V2O5、Cr2O5、MnO2等の化合物があげられる。
【0419】
また、他の正極活物質としてLiMn2O4等のマンガンを含むスピネル型の結晶構造を有するリチウム含有材料に、ニッケル酸リチウム(LiNiO2またはLiNi1-xMxO2(0<x<1)(M=Co、Al等))を混合すると好ましい。該構成とすることによって、二次電池の特性を向上させることができる。
【0420】
<導電材>
導電材は、導電付与剤、導電助剤とも呼ばれ、炭素材料が用いられる。複数の活物質の間に導電材を付着させることで複数の活物質同士が電気的に接続され、導電性が高まる。なお、「付着」とは、活物質と導電材が物理的に密着していることのみを指しているのではなく、共有結合が生じる場合、ファンデルワールス力により結合する場合、活物質の表面の一部を導電材が覆う場合、活物質の表面凹凸に導電材がはまりこむ場合、互いに接していなくとも電気的に接続される場合などを含む概念とする。
【0421】
正極活物質層、負極活物質層、等の活物質層は、導電材を有することが好ましい。
【0422】
導電材としては、例えば、アセチレンブラック、およびファーネスブラックなどのカーボンブラック、人造黒鉛、および天然黒鉛などの黒鉛、カーボンナノファイバー、およびカーボンナノチューブなどの炭素繊維、ならびにグラフェン化合物、のいずれか一種又は二種以上を用いることができる。
【0423】
炭素繊維としては、例えばメソフェーズピッチ系炭素繊維、等方性ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維を用いることができる。また炭素繊維として、カーボンナノファイバーまたはカーボンナノチューブなどを用いることができる。カーボンナノチューブは、例えば気相成長法などで作製することができる。
【0424】
本明細書等においてグラフェン化合物とは、グラフェン、多層グラフェン、マルチグラフェン、酸化グラフェン、多層酸化グラフェン、マルチ酸化グラフェン、還元された酸化グラフェン、還元された多層酸化グラフェン、還元されたマルチ酸化グラフェン、グラフェン量子ドット等を含む。グラフェン化合物とは、炭素を有し、平板状、シート状等の形状を有し、炭素6員環で形成された二次元的構造を有するものをいう。該炭素6員環で形成された二次元的構造は炭素シートといってもよい。グラフェン化合物は官能基を有してもよい。またグラフェン化合物は屈曲した形状を有することが好ましい。またグラフェン化合物は丸まってカーボンナノファイバーのようになっていてもよい。
【0425】
本明細書等において酸化グラフェンとは、炭素と、酸素を有し、シート状の形状を有し、官能基、特にエポキシ基、カルボキシ基またはヒドロキシ基を有するものをいう。
【0426】
本明細書等において還元された酸化グラフェンとは、炭素と、酸素を有し、シート状の形状を有し、炭素6員環で形成された二次元的構造を有するものをいう。還元された酸化グラフェンは1枚でも機能するが、複数枚が積層されていてもよい。還元された酸化グラフェンは、炭素の濃度が80atomic%より大きく、酸素の濃度が2atomic%以上15atomic%以下である部分を有することが好ましい。このような炭素濃度および酸素濃度とすることで、少量でも導電性の高い導電材として機能することができる。また還元された酸化グラフェンは、ラマンスペクトルにおけるGバンドとDバンドの強度比G/Dが1以上であることが好ましい。このような強度比である還元された酸化グラフェンは、少量でも導電性の高い導電材として機能することができる。
【0427】
グラフェン化合物は、高い導電性を有するという優れた電気特性と、高い柔軟性および高い機械的強度を有するという優れた物理特性と、を有する場合がある。また、グラフェン化合物はシート状の形状を有する。グラフェン化合物は、湾曲面を有する場合があり、接触抵抗の低い面接触を可能とする。また、薄くても導電性が非常に高い場合があり、少ない量で効率よく活物質層内で導電パスを形成することができる。そのため、グラフェン化合物を導電材として用いることにより、活物質と導電材との接触面積を増大させることができる。グラフェン化合物は活物質の80%以上の面積を覆っているとよい。なお、グラフェン化合物が活物質粒子の少なくとも一部にまとわりついていると好ましい。また、グラフェン化合物が活物質粒子の少なくとも一部の上に重なっていると好ましい。また、グラフェン化合物の形状が活物質粒子の形状の少なくとも一部に一致していると好ましい。該活物質粒子の形状とは、たとえば、単一の活物質粒子が有する凹凸、または複数の活物質粒子によって形成される凹凸をいう。また、グラフェン化合物が活物質粒子の少なくとも一部を囲んでいることが好ましい。また、グラフェン化合物は穴が空いていてもよい。
【0428】
粒子径の小さい活物質粒子、例えば1μm以下の活物質粒子を用いる場合には、活物質粒子の比表面積が大きく、活物質粒子同士を繋ぐ導電パスがより多く必要となる。このような場合には、少ない量でも効率よく導電パスを形成することができるグラフェン化合物を用いると好ましい。
【0429】
上述のような性質を有するため、急速充電および急速放電が要求される二次電池には、グラフェン化合物を導電材として用いることが特に有効である。例えば2輪または4輪の車両用二次電池、ドローン用二次電池などは急速充電および急速放電特性が要求される場合がある。またモバイル電子機器などでは急速充電特性が要求される場合がある。急速充放電とは、たとえば正極活物質の重量あたり200mA/g、400mA/g、または1000mA/g以上の充電および放電をいうこととする。
【0430】
複数のグラフェンまたはグラフェン化合物は、複数の粒状の正極活物質を一部覆うように、あるいは複数の粒状の正極活物質の表面上に張り付くように形成されているため、互いに面接触していることが好ましい。
【0431】
ここで、複数のグラフェンまたはグラフェン化合物同士が結合することにより、網目状のグラフェン化合物シート(以下グラフェン化合物ネットまたはグラフェンネットと呼ぶ)を形成することができる。活物質をグラフェンネットが被覆する場合に、グラフェンネットは活物質同士を結合するバインダとしても機能することができる。よって、バインダの量を少なくすることができる、又は使用しないことができるため、電極体積および電極重量に占める活物質の比率を向上させることができる。すなわち、二次電池の放電容量を増加させることができる。
【0432】
またグラフェン化合物と共に、グラフェン化合物を形成する際に用いる材料を混合して活物質層200に用いてもよい。たとえばグラフェン化合物を形成する際の触媒として用いる粒子を、グラフェン化合物と共に混合してもよい。グラフェン化合物を形成する際の触媒としてはたとえば、酸化ケイ素(SiO2、SiOx(x<2))、酸化アルミニウム、鉄、ニッケル、ルテニウム、イリジウム、プラチナ、銅、ゲルマニウム等を有する粒子が挙げられる。該粒子はメディアン径(D50)が1μm以下であると好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0433】
活物質層の総量に対する導電材の含有量は、1wt%以上10wt%以下が好ましく、1wt%以上5wt%以下がより好ましい。
【0434】
活物質と点接触するカーボンブラック等の粒状の導電材と異なり、グラフェン化合物は接触抵抗の低い面接触を可能とするものであるから、通常の導電材よりも少量で粒状の活物質とグラフェン化合物との電気伝導性を向上させることができる。よって、活物質の活物質層における比率を増加させることができる。これにより、電池の放電容量を増加させることができる。
【0435】
カーボンブラック、黒鉛、等の粒子状の炭素含有化合物または、カーボンナノチューブ等の繊維状の炭素含有化合物は微小な空間に入りやすい。微小な空間とは例えば、複数の活物質の間の領域等を指す。微小な空間に入りやすい炭素含有化合物と、複数の粒子にわたって導電性を付与できるグラフェンなどのシート状の炭素含有化合物と、を組み合わせて使用することにより、電極の密度を高め、優れた導電パスを形成することができる。本発明の一態様の作製方法で得られる電池は、高容量密度を有し、かつ安定性を備えることができ、車載用の電池として有効である。
【0436】
[バインダ]
バインダとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-スチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などのゴム材料を用いることが好ましい。またバインダとして、フッ素ゴムを用いることができる。
【0437】
また、バインダとしては、例えば水溶性の高分子を用いることが好ましい。水溶性の高分子としては、例えば多糖類などを用いることができる。多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体、澱粉などのうち一以上を用いることができる。また、これらの水溶性の高分子を、前述のゴム材料と併用して用いると、さらに好ましい。
【0438】
または、バインダとしては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル(ポリメチルメタクリレート、PMMA)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレンプロピレンジエンポリマー、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース等の材料を用いることが好ましい。
【0439】
バインダは上記のうち複数を組み合わせて使用してもよい。
【0440】
[集電体]
集電体としては、ステンレス、金、白金、アルミニウム、チタン等の金属、及びこれらの合金など、導電性が高い材料をもちいることができる。また正極集電体に用いる材料は、正極の電位で溶出しないことが好ましい。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。集電体は、箔状、板状、シート状、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。集電体は、厚みが5μm以上30μm以下のものを用いるとよい。
【0441】
〔負極〕
負極は、負極活物質層および負極集電体を有する。また、負極活物質層は、導電材およびバインダを有していてもよい。
【0442】
[負極活物質]
負極活物質としては、例えば合金系材料および/または炭素系材料等を用いることができる。
【0443】
負極活物質として、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素を用いることができる。例えば、シリコン、スズ、ガリウム、アルミニウム、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、銀、亜鉛、カドミウム、インジウム等から選ばれた一または二以上を含む材料を用いることができる。このような元素は炭素と比べて充放電容量が大きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと高い。このため、負極活物質にシリコンを用いることが好ましい。また、これらの元素を有する化合物を用いてもよい。例えば、SiO、Mg2Si、Mg2Ge、SnO、SnO2、Mg2Sn、SnS2、V2Sn3、FeSn2、CoSn2、Ni3Sn2、Cu6Sn5、Ag3Sn、Ag3Sb、Ni2MnSb、CeSb3、LaSn3、La3Co2Sn7、CoSb3、InSb、SbSn等がある。ここで、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素、および該元素を有する化合物等を合金系材料と呼ぶ場合がある。
【0444】
本明細書等において、SiOは例えば一酸化シリコンを指す。あるいはSiOは、SiOxと表すこともできる。ここでxは1近傍の値を有することが好ましい。例えばxは、0.2以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.2以下がより好ましい。または0.2以上1.2以下が好ましい。または0.3以上1.5以下が好ましい。
【0445】
炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等を用いればよい。
【0446】
黒鉛としては、人造黒鉛、天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等が挙げられる。ここで人造黒鉛として、球状の形状を有する球状黒鉛を用いることができる。例えば、MCMBは球状の形状を有する場合があり、好ましい。また、MCMBはその表面積を小さくすることが比較的容易であり、好ましい場合がある。天然黒鉛としては例えば、鱗片状黒鉛、球状化天然黒鉛等が挙げられる。
【0447】
黒鉛は、リチウムイオンが黒鉛に挿入されたとき(リチウム-黒鉛層間化合物の生成時)にリチウム金属と同程度に低い電位を示す(0.05V以上0.3V以下 vs.Li/Li+)。これにより、リチウムイオン二次電池は高い作動電圧を示すことができる。さらに、黒鉛は、単位体積当たりの充放電容量が比較的高い、体積膨張が比較的小さい、安価である、リチウム金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
【0448】
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO2)、リチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12)、リチウム-黒鉛層間化合物(LixC6)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タングステン(WO2)、酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物を用いることができる。
【0449】
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、Li3N型構造をもつLi3-xMxN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6Co0.4N3は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm3)を示し好ましい。
【0450】
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、正極活物質としてリチウムイオンを含まないV2O5、Cr3O8等の材料と組み合わせることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質としてリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
【0451】
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウムとの合金を作らない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応が生じる材料としては、さらに、Fe2O3、CuO、Cu2O、RuO2、Cr2O3等の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn3N2、Cu3N、Ge3N4等の窒化物、NiP2、FeP2、CoP3等のリン化物、FeF3、BiF3等のフッ化物が挙げられる。
【0452】
負極活物質層が有することのできる導電材およびバインダとしては、正極活物質層が有することのできる導電材およびバインダと同様の材料を用いることができる。
【0453】
[負極集電体]
負極集電体には、正極集電体と同様の材料を用いることができる。なお負極集電体は、リチウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることが好ましい。
【0454】
〔電解質〕
電解質の一つの形態として、溶媒と、溶媒に溶解した電解質と、を有する電解液を用いることができる。電解液は、溶媒とリチウム塩を有する。電解液の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましく、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、メチルジグライム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、テトラヒドロフラン、スルホラン、スルトン等のうちの1種、又はこれらのうちの2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0455】
電解液として、エチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを含む場合、エチレンカーボネート、及びジエチルカーボネートの全含有量を100vol%としたとき、エチレンカーボネート、及びジエチルカーボネートの体積比が、x:100-x(ただし、20≦x≦40である。)であるものを用いることができる。より具体的には、ECと、DECと、を、EC:DEC=30:70(体積比)で含んだ混合有機溶媒を用いることができる。
【0456】
また電解液として、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、を含む場合、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジメチルカーボネートの全含有量を100vol%としたとき、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジメチルカーボネートの体積比が、x:y:100-x-y(ただし、5≦x≦35であり、0<y<65である。)であるものを用いることができる。より具体的には、ECと、EMCと、DMCと、を、EC:EMC:DMC=30:35:35(体積比)で含んだ混合有機溶媒を用いることができる。
【0457】
またさらに電解液として、フッ化環状カーボネート(フッ素化環状カーボネートと記すこともある)、又はフッ化鎖状カーボネート(フッ素化鎖状カーボネートと記すこともある)を含んだ混合有機溶媒を用いることができる。さらに上記混合有機溶媒は、フッ化環状カーボネート、及びフッ化鎖状カーボネートをともに含むと好ましい。フッ化環状カーボネート及びフッ化鎖状カーボネートは共に、電子求引性を示す置換基を有しており、リチウムイオンの溶媒和エネルギーが低くなり好ましい。そのためフッ化環状カーボネート及びフッ化鎖状カーボネートは共に電解液に好適であり、これらの混合有機溶媒は好適である。
【0458】
フッ化環状カーボネートとして、例えば、フルオロエチレンカーボネート(炭酸フルオロエチレン、FEC、F1EC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC、F2EC)、トリフルオロエチレンカーボネート(F3EC)、又はテトラフルオロエチレンカーボネート(F4EC)等を用いることができる。なお、DFECには、シス-4,5、トランス-4,5等の異性体がある。いずれのフッ化環状カーボネートも電子求引性を示す置換基を有するため、リチウムイオンの溶媒和エネルギーが低いと考えられる。FECにおいて電子求引性の置換基はF基である。
【0459】
フッ化鎖状カーボネートとして、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルがある。3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルの略称は、「MTFP」である。MTFPにおいて、電子求引性の置換基はCF3基である。
【0460】
FECは、環状カーボネートの一つであり、高い比誘電率を有するため、有機溶媒に用いると、リチウム塩の解離を促進させる効果を有する。さらにFECは電子求引性を示す置換基を有するため、リチウムイオンとクーロン力等によって結びつきやすい。具体的には、FECはリチウムイオンの溶媒和エネルギーが、電子求引性を示す置換基を有さないエチレンカーボネート(EC)よりも小さいため、リチウムイオンと溶媒和を生成しやすいといえる。さらにFECは最高被占有軌道(HOMO:Highest Occupied Molecular Orbital)準位が深いと考えられ、HOMO準位が深いと酸化されにくく耐酸化性が向上する。一方で、FECは粘度が高いことが懸念される。そこで、FECのみではなく、MTFPを更に含んだ混合有機溶媒を電解液に用いるとよい。MTFPは、鎖状カーボネートの一つであり、電解液の粘度を下げる、又は低温下(代表的には0℃)でも室温下(代表的には25℃)の粘度を維持する効果を有することも可能である。さらにMTFPは、電子求引性を示す置換基を有さないプロピオン酸メチル(略称は「MP」である)よりも溶媒和エネルギーが小さいため、電解液に用いた際にリチウムイオンとの溶媒和を生成することがあってもよい。
【0461】
このような物性を有するFEC、及びMTFPを含む混合有機溶媒の全含有量を100vol%として、体積比がx:100-x(ただし、5≦x≦30、好ましくは10≦x≦20である。)となるように混合して用いるとよい。つまり混合有機溶媒において、MTFPがFECよりも多くなるように混合するとよい。
【0462】
また、電解液の溶媒として、難燃性及び難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一つ又は複数用いることで、二次電池の内部短絡又は過充電等によって内部温度が上昇しても、二次電池の破裂及び/又は発火などを防ぐことができる。イオン液体は、カチオンとアニオンからなり、有機カチオンとアニオンとを含む。電解液に用いる有機カチオンとして、四級アンモニウムカチオン、三級スルホニウムカチオン、及び四級ホスホニウムカチオン等の脂肪族オニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン及びピリジニウムカチオン等の芳香族カチオンが挙げられる。また、電解液に用いるアニオンとして、1価のアミド系アニオン、1価のメチド系アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレートアニオン、パーフルオロアルキルボレートアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、又はパーフルオロアルキルホスフェートアニオン等が挙げられる。
【0463】
[リチウム塩]
上記溶媒に溶解させるリチウム塩(電解質とも呼ぶ)としては、例えばLiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiAlCl4、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2B10Cl10、Li2B12Cl12、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C4F9SO2)(CF3SO2)、LiN(C2F5SO2)2等のリチウム塩を一種、又はこれらのうちの二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。リチウム塩は溶媒に対して0.5mol/L以上3.0mol/L以下とするとよい。フッ化物であるLiPF6、LiBF4などを用いるとリチウムイオン二次電池の安全性が向上する。
【0464】
上述した電解液は、粒状のごみ又は電解液の構成元素以外の元素(以下、単に「不純物」ともいう。)の含有量が少ない高純度化された電解液を用いることが好ましい。具体的には、電解液に対する不純物の重量比が1wt%以下、好ましくは0.1wt%以下、より好ましくは0.01wt%以下である。
【0465】
[添加剤]
電解液は添加剤を有してもよい。添加剤により、高電圧及び/又は高温で二次電池を動作させるときに、正極表面又は負極表面で生じうる電解質の反応分解を抑制することができる。添加剤として例えばビニレンカーボネート(VC)、プロパンスルトン(PS)、TerT-ブチルベンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)を用いるとよい。LiBOBは良好な被膜を形成しやすく、特に好ましい。VC又はFECは二次電池のエージング時または使用初期の充電時に負極に良好な被膜を形成しサイクル特性を向上させることができ好ましい。
【0466】
添加剤として、ジニトリル化合物のいずれか一種または二種以上を用いることができる。ジニトリル化合物の具体例として、たとえばスクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル(ADN)、又はエチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル(EGBE)が挙げられる。
【0467】
さらにフルオロベンゼンを上記有機溶媒に添加してもよい。添加剤の濃度は、例えば電解液全体に対して0.1wt%以上5wt%以下とすればよい。PS又はEGBEは充放電時に正極に良好な被膜を形成しサイクル特性を向上させることができ好ましい。FBは正極及び負極への有機溶媒のぬれ性が向上するため好ましい。ジニトリル化合物は、ニトリル基が正極及び負極に配向して、有機溶媒の酸化分解を阻害するため耐電圧性を向上させることができ好ましい。さらにジニトリル化合物は、負極に銅を有する集電体を用いた場合、過放電の際に銅の溶解を防ぐことができ好ましい。高電圧での二次電池の使用を踏まえると、ニトリル化合物を添加することが好ましい。
【0468】
[ゲル電解質]
ゲル電解質として、ポリマーを電解液で膨潤させたポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーゲル電解質を用いることで、半固体電解質層を提供することができ、漏液性等に対する安全性が高まる。また、二次電池の薄型化及び軽量化が可能である。
【0469】
ゲル化されるポリマーとして、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマーのゲル等を用いることができる。
【0470】
ポリマーとしては、例えばポリエチレンオキシド(PEO)などのポリアルキレンオキシド構造を有するポリマー、PVDF、及びポリアクリロニトリル等、及びそれらを含む共重合体等を用いることができる。例えばPVDFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるPVDF-HFPを用いることができる。また、形成されるポリマーは、多孔質形状を有してもよい。
【0471】
[固体電解質]
電解液の代わりに、硫化物系又は酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質、PEO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質等を用いることができる。固体電解質を用いる場合には、セパレータ及び/又はスペーサの設置が不要となる。また、電池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
【0472】
〔セパレータ〕
また二次電池は、セパレータを有することが好ましい。セパレータとしては、例えば、紙、不織布、ガラス繊維、セラミックス、或いはナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンを用いた合成繊維等で形成されたものを用いることができる。セパレータはエンベロープ状に加工し、正極または負極のいずれか一方を包むように配置することが好ましい。
【0473】
セパレータは多層構造であってもよい。例えばポリプロピレン、ポリエチレン等の有機材料フィルムに、セラミックス系材料、フッ素系材料、ポリアミド系材料、またはこれらを混合したもの等をコートすることができる。セラミックス系材料としては、例えば酸化アルミニウム粒子、酸化シリコン粒子等を用いることができる。フッ素系材料としては、例えばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。ポリアミド系材料としては、例えばナイロン、アラミド(メタ系アラミド、パラ系アラミド)等を用いることができる。
【0474】
セラミックス系材料をコートすると耐酸化性が向上するため、高電圧充電の際のセパレータの劣化を抑制し、二次電池の信頼性を向上させることができる。またフッ素系材料をコートするとセパレータと電極が密着しやすくなり、出力特性を向上させることができる。ポリアミド系材料、特にアラミドをコートすると、耐熱性が向上するため、二次電池の安全性を向上させることができる。
【0475】
例えばポリプロピレンのフィルムの両面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートしてもよい。また、ポリプロピレンのフィルムの、正極と接する面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートし、負極と接する面にフッ素系材料をコートしてもよい。
【0476】
多層構造のセパレータを用いると、セパレータ全体の厚さが薄くても二次電池の安全性を保つことができるため、二次電池の体積あたりの放電容量を大きくすることができる。
【0477】
〔外装体〕
二次電池が有する外装体としては、例えばアルミニウムなどの金属材料および/または樹脂材料を用いることができる。また、フィルム状の外装体を用いることもできる。フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のフィルムを用いることができる。
【0478】
<ラミネート型二次電池とその作製方法>
ラミネート型の二次電池500の外観図の一例を
図14及び
図15に示す。
図14及び
図15は、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リード電極510及び負極リード電極511を有する。ラミネート型の二次電池は、可撓性を有する構成とすれば、可撓性を有する部位を少なくとも一部有する電子機器に実装すれば、電子機器の変形に合わせて二次電池も曲げることもできる。該ラミネート型二次電池の作製方法の一例について、
図15(A)乃至
図15(C)を用いて説明する。
【0479】
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。
図15(B)に積層された負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極を4組使用する例を示す。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタブ領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波溶接等を用いればよい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極リード電極511の接合を行う。
【0480】
次に外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
【0481】
次に、
図15(C)に示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。その後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この時、後に電解液を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)に接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
【0482】
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液(図示しない。)を外装体509の内側へ導入する。電解液の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性雰囲気下で行うことが好ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネート型の二次電池500を作製することができる。
【0483】
正極503に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、放電容量が高くサイクル特性に優れた二次電池500とすることができる。
【0484】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0485】
(実施の形態4)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を電子機器に実装する例について
図16(A)乃至
図18(C)を用いて説明する。
【0486】
先の実施の形態で説明した正極活物質を有する二次電池を電子機器に実装する例を、
図16(A)乃至
図16(G)に示す。二次電池を適用した電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
【0487】
また、フレキシブルな形状を備える二次電池を、家屋、ビル等の内壁または外壁、自動車の内装または外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
【0488】
図16(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体7401に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、スピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、二次電池7407を有している。上記の二次電池7407に本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯電話機を提供できる。
【0489】
図16(B)は、携帯電話機7400を湾曲させた状態を示している。携帯電話機7400を外部の力により変形させて全体を湾曲させると、その内部に設けられている二次電池7407も湾曲される。また、その時、曲げられた二次電池7407の状態を
図16(C)に示す。二次電池7407は薄型の蓄電池である。二次電池7407は曲げられた状態で固定されている。なお、二次電池7407は集電体と電気的に接続されたリード電極を有している。例えば、集電体は銅箔であり、一部ガリウムと合金化させて、集電体と接する活物質層との密着性を向上し、二次電池7407が曲げられた状態での信頼性が高い構成となっている。
【0490】
図16(D)は、バングル型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置7100は、筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び二次電池7104を備える。また、
図16(E)に曲げられた二次電池7104の状態を示す。二次電池7104は曲げられた状態で使用者の腕への装着時に、筐体が変形して二次電池7104の一部または全部の曲率が変化する。なお、曲線の任意の点における曲がり具合を相当する円の半径の値で表したものを曲率半径と呼び、曲率半径の逆数を曲率と呼ぶ。具体的には、曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲内で筐体または二次電池7104の主表面の一部または全部が変化する。二次電池7104の主表面における曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲であれば、高い信頼性を維持できる。上記の二次電池7104に本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯表示装置を提供できる。
【0491】
図16(F)は、腕時計型の携帯情報端末の一例を示している。携帯情報端末7200は、筐体7201、表示部7202、バンド7203、バックル7204、操作ボタン7205、入出力端子7206などを備える。
【0492】
携帯情報端末7200は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インターネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することができる。
【0493】
表示部7202はその表示面が湾曲して設けられ、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、表示部7202はタッチセンサを備え、指またはスタイラスなどで画面に触れることで操作することができる。例えば、表示部7202に表示されたアイコン7207に触れることで、アプリケーションを起動することができる。
【0494】
操作ボタン7205は、時刻設定のほか、電源のオン、オフ動作、無線通信のオン、オフ動作、マナーモードの実行及び解除、省電力モードの実行及び解除など、様々な機能を持たせることができる。例えば、携帯情報端末7200に組み込まれたオペレーティングシステムにより、操作ボタン7205の機能を自由に設定することもできる。
【0495】
また、携帯情報端末7200は、通信規格された近距離無線通信を実行することが可能である。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで通話することもできる。
【0496】
また、携帯情報端末7200は入出力端子7206を備え、他の情報端末とコネクタを介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子7206を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子7206を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0497】
携帯情報端末7200の表示部7202には、本発明の一態様の二次電池を有している。本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯情報端末を提供できる。例えば、
図16(E)に示した二次電池7104を、筐体7201の内部に湾曲した状態で、またはバンド7203の内部に湾曲可能な状態で組み込むことができる。
【0498】
携帯情報端末7200はセンサを有することが好ましい。センサとして例えば、指紋センサ、脈拍センサ、体温センサ等の人体センサ、タッチセンサ、加圧センサ、加速度センサ、等が搭載されることが好ましい。
【0499】
図16(G)は、腕章型の表示装置の一例を示している。表示装置7300は、表示部7304を有し、本発明の一態様の二次電池を有している。また、表示装置7300は、表示部7304にタッチセンサを備えることもでき、また、携帯情報端末として機能させることもできる。
【0500】
表示部7304はその表示面が湾曲しており、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、表示装置7300は、通信規格された近距離無線通信などにより、表示状況を変更することができる。
【0501】
また、表示装置7300は入出力端子を備え、他の情報端末とコネクタを介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0502】
表示装置7300が有する二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な表示装置を提供できる。
【0503】
また、先の実施の形態で示したサイクル特性のよい二次電池を電子機器に実装する例を
図16(H)乃至
図18(C)を用いて説明する。
【0504】
日用電子機器に二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な製品を提供できる。例えば、日用電子機器として、電動歯ブラシ、電気シェーバー、電動美容機器などが挙げられ、それらの製品の二次電池としては、使用者の持ちやすさを考え、形状をスティック状とし、小型、軽量、且つ、放電容量の大きな二次電池が望まれている。
【0505】
図16(H)はタバコ収容喫煙装置(電子タバコ)とも呼ばれる装置の斜視図である。
図16(H)において電子タバコ7500は、加熱素子を含むアトマイザ7501と、アトマイザに電力を供給する二次電池7504と、液体供給ボトルおよびセンサなどを含むカートリッジ7502で構成されている。安全性を高めるため、二次電池7504の過充電および/または過放電を防ぐ保護回路を二次電池7504に電気的に接続してもよい。
図16(H)に示した二次電池7504は、充電機器と接続できるように外部端子を有している。二次電池7504は持った場合に先端部分となるため、トータルの長さが短く、且つ、重量が軽いことが望ましい。本発明の一態様の二次電池は放電容量が高く、良好なサイクル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができる小型であり、且つ、軽量の電子タバコ7500を提供できる。
【0506】
図17(A)は、ウェアラブルデバイスの例を示している。ウェアラブルデバイスは、電源として二次電池を用いる。また、使用者が生活または屋外で使用する場合において、防沫性能、耐水性能または防塵性能を高めるため、接続するコネクタ部分が露出している有線による充電だけでなく、無線充電も行えるウェアラブルデバイスが望まれている。
【0507】
例えば、
図17(A)に示すような眼鏡型デバイス4000に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。眼鏡型デバイス4000は、フレーム4000aと、表示部4000bを有する。湾曲を有するフレーム4000aのテンプル部に二次電池を搭載することで、軽量であり、且つ、重量バランスがよく継続使用時間の長い眼鏡型デバイス4000とすることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0508】
また、ヘッドセット型デバイス4001に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。ヘッドセット型デバイス4001は、少なくともマイク部4001aと、フレキシブルパイプ4001bと、イヤフォン部4001cを有する。フレキシブルパイプ4001b内および/またはイヤフォン部4001c内に二次電池を設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0509】
また、身体に直接取り付け可能なデバイス4002に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。デバイス4002の薄型の筐体4002aの中に、二次電池4002bを設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0510】
また、衣服に取り付け可能なデバイス4003に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。デバイス4003の薄型の筐体4003aの中に、二次電池4003bを設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0511】
また、ベルト型デバイス4006に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。ベルト型デバイス4006は、ベルト部4006aおよびワイヤレス給電受電部4006bを有し、ベルト部4006aの内部に、二次電池を搭載することができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0512】
また、腕時計型デバイス4005に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。腕時計型デバイス4005は表示部4005aおよびベルト部4005bを有し、表示部4005aまたはベルト部4005bに、二次電池を設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0513】
表示部4005aには、時刻だけでなく、メールおよび電話の着信等、様々な情報を表示することができる。
【0514】
また、腕時計型デバイス4005は、腕に直接巻きつけるタイプのウェアラブルデバイスであるため、使用者の脈拍、血圧等を測定するセンサを搭載してもよい。使用者の運動量および健康に関するデータを蓄積し、健康を管理することができる。
【0515】
図17(B)に腕から取り外した腕時計型デバイス4005の斜視図を示す。
【0516】
また、側面図を
図17(C)に示す。
図17(C)には、内部に二次電池913を内蔵している様子を示している。二次電池913は実施の形態4に示した二次電池である。二次電池913は表示部4005aと重なる位置に設けられており、小型、且つ、軽量である。
【0517】
図17(D)はワイヤレスイヤホンの例を示している。ここでは一対の本体4100aおよび本体4100bを有するワイヤレスイヤホンを図示するが、必ずしも一対でなくてもよい。
【0518】
本体4100aおよび4100bは、ドライバユニット4101、アンテナ4102、二次電池4103を有する。表示部4104を有していてもよい。また無線用IC等の回路が載った基板、充電用端子等を有することが好ましい。またマイクを有していてもよい。
【0519】
ケース4110は、二次電池4111を有する。また無線用IC、充電制御IC等の回路が載った基板、充電用端子を有することが好ましい。また表示部、ボタン等を有していてもよい。
【0520】
本体4100aおよび4100bは、スマートフォン等の他の電子機器と無線で通信することができる。これにより他の電子機器から送られた音データ等を本体4100aおよび4100bで再生することができる。また本体4100aおよび4100bがマイクを有すれば、マイクで取得した音を他の電子機器に送り、該電子機器により処理をした後の音データを再び本体4100aおよび4100bに送って再生することができる。これにより、たとえば翻訳機として用いることもできる。
【0521】
またケース4110が有する二次電池4111から、本体4100aが有する二次電池4103に充電を行うことができる。二次電池4111および二次電池4103としては先の実施の形態のコイン型二次電池、円筒形二次電池等を用いることができる。実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、二次電池4103および二次電池4111に用いることで、ワイヤレスイヤホンの小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0522】
図18(A)は、掃除ロボットの一例を示している。掃除ロボット6300は、筐体6301上面に配置された表示部6302、側面に配置された複数のカメラ6303、ブラシ6304、操作ボタン6305、二次電池6306、各種センサなどを有する。図示されていないが、掃除ロボット6300には、タイヤ、吸い込み口等が備えられている。掃除ロボット6300は自走し、ゴミ6310を検知し、下面に設けられた吸い込み口からゴミを吸引することができる。
【0523】
例えば、掃除ロボット6300は、カメラ6303が撮影した画像を解析し、壁、家具または段差などの障害物の有無を判断することができる。また、画像解析により、配線などブラシ6304に絡まりそうな物体を検知した場合は、ブラシ6304の回転を止めることができる。掃除ロボット6300は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6306と、半導体装置または電子部品を備える。本発明の一態様に係る二次電池6306を掃除ロボット6300に用いることで、掃除ロボット6300を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0524】
図18(B)は、ロボットの一例を示している。
図18(B)に示すロボット6400は、二次電池6409、照度センサ6401、マイクロフォン6402、上部カメラ6403、スピーカ6404、表示部6405、下部カメラ6406および障害物センサ6407、移動機構6408、演算装置等を備える。
【0525】
マイクロフォン6402は、使用者の話し声及び環境音等を検知する機能を有する。また、スピーカ6404は、音声を発する機能を有する。ロボット6400は、マイクロフォン6402およびスピーカ6404を用いて、使用者とコミュニケーションをとることが可能である。
【0526】
表示部6405は、種々の情報の表示を行う機能を有する。ロボット6400は、使用者の望みの情報を表示部6405に表示することが可能である。表示部6405は、タッチパネルを搭載していてもよい。また、表示部6405は取り外しのできる情報端末であっても良く、ロボット6400の定位置に設置することで、充電およびデータの受け渡しを可能とする。
【0527】
上部カメラ6403および下部カメラ6406は、ロボット6400の周囲を撮像する機能を有する。また、障害物センサ6407は、移動機構6408を用いてロボット6400が前進する際の進行方向における障害物の有無を察知することができる。ロボット6400は、上部カメラ6403、下部カメラ6406および障害物センサ6407を用いて、周囲の環境を認識し、安全に移動することが可能である。
【0528】
ロボット6400は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6409と、半導体装置または電子部品を備える。本発明の一態様に係る二次電池をロボット6400に用いることで、ロボット6400を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0529】
図18(C)は、飛行体の一例を示している。
図18(C)に示す飛行体6500は、プロペラ6501、カメラ6502、および二次電池6503などを有し、自律して飛行する機能を有する。
【0530】
例えば、カメラ6502で撮影した画像データは、電子部品6504に記憶される。電子部品6504は、画像データを解析し、移動する際の障害物の有無などを察知することができる。また、電子部品6504によって二次電池6503の蓄電容量の変化から、バッテリ残量を推定することができる。飛行体6500は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6503を備える。本発明の一態様に係る二次電池を飛行体6500に用いることで、飛行体6500を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0531】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0532】
(実施の形態5)
本実施の形態では、車両に本発明の一態様の正極活物質を有する二次電池を搭載する例を示す。
【0533】
二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる。
【0534】
図19において、本発明の一態様である二次電池を用いた車両を例示する。
図19(A)に示す自動車8400は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車である。または、走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用いることが可能なハイブリッド自動車である。本発明の一態様を用いることで、航続距離の長い車両を実現することができる。また、自動車8400は二次電池を有する。たとえば車内の床部分に二次電池のモジュールを並べて使用することができる。二次電池は電気モーター8406を駆動するだけでなく、ヘッドライト8401およびルームライト(図示せず)などの発光装置に電力を供給することができる。
【0535】
また、二次電池は、自動車8400が有するスピードメーター、タコメーターなどの表示装置に電力を供給することができる。また、二次電池は、自動車8400が有するナビゲーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
【0536】
図19(B)に示す自動車8500は、自動車8500が有する二次電池にプラグイン方式および/または非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができる。
図19(B)に、地上設置型の充電装置8021から自動車8500に搭載された二次電池8024に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際しては、充電方法およびコネクタの規格等はCHAdeMO(登録商標)またはコンボ等の所定の方式で適宜行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーションでもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの電力供給により自動車8500に搭載された二次電池8024を充電することができる。充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行うことができる。
【0537】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路および/または外壁に送電装置を組み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電の方式を利用して、車両どうしで電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に太陽電池を設け、停車時および/または走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触での電力の供給には、電磁誘導方式および/または磁界共鳴方式を用いることができる。
【0538】
また、
図19(C)は、本発明の一態様の二次電池を用いた二輪車の一例である。
図19(C)に示すスクータ8600は、二次電池8602、サイドミラー8601、方向指示灯8603を備える。二次電池8602は、方向指示灯8603に電気を供給することができる。
【0539】
また、
図19(C)に示すスクータ8600は、座席下収納8604に、二次電池8602を収納することができる。二次電池8602は、座席下収納8604が小型であっても、座席下収納8604に収納することができる。二次電池8602は、取り外し可能となっており、充電時には二次電池8602を屋内に持って運び、充電し、走行する前に収納すればよい。
【0540】
本発明の一態様によれば、二次電池のサイクル特性が良好となり、二次電池の放電容量を大きくすることができる。よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。二次電池自体を小型軽量化できれば、車両の軽量化に寄与するため、航続距離を向上させることができる。また、車両に搭載した二次電池を車両以外の電力供給源として用いることもできる。この場合、例えば電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができる。電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避できれば、省エネルギー、および二酸化炭素の排出の削減に寄与することができる。また、サイクル特性が良好であれば二次電池を長期に渡って使用できるため、コバルトをはじめとする希少金属の使用量を減らすことができる。
【0541】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【符号の説明】
【0542】
100 正極活物質
100a 表層部
100b 内部
104 被覆部
901 混合物
902 複合酸化物
903 混合物
904 複合酸化物
905 混合物