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特開2024-136719酸化亜鉛薄膜の製造方法および太陽電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136719
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】酸化亜鉛薄膜の製造方法および太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20240927BHJP
   H10K 30/85 20230101ALI20240927BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20240927BHJP
   C01G 9/02 20060101ALI20240927BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20240927BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/85
H01L21/368
C01G9/02 B
H10K30/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047929
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】ガントゥムル ムンクチュル
(72)【発明者】
【氏名】モハマド シャヒドゥザマン
(72)【発明者】
【氏名】當摩 哲也
【テーマコード(参考)】
4G047
5F053
5F251
【Fターム(参考)】
4G047AA02
4G047AB02
4G047AC03
4G047AD02
5F053AA50
5F053DD20
5F053FF01
5F053LL05
5F053RR13
5F251AA09
5F251AA11
5F251BA16
5F251CB13
5F251FA04
5F251FA06
5F251GA03
5F251XA01
5F251XA54
5F251XA61
(57)【要約】
【課題】透明性を有する緻密な酸化亜鉛薄膜を、低コストで容易に製造することを可能とする酸化亜鉛薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の酸化亜鉛薄膜の製造方法は、エタノールと硝酸と酸化亜鉛を含む混合物11を作製する混合物作製工程と、基材12の表面に混合物11を塗布する混合物塗布工程と、基材12の表面に塗布された混合物11を加熱する混合物加熱工程と、を有し、混合物11を液体とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールと硝酸と酸化亜鉛を含む混合物を作製する混合物作製工程と、
基材の表面に前記混合物を塗布する混合物塗布工程と、
前記基材の表面に塗布された前記混合物を加熱する混合物加熱工程と、を有し、
前記混合物を液体とすることを特徴とする酸化亜鉛薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記混合物作製工程において、前記エタノールと前記硝酸の合計質量に対する前記エタノールの質量の比率を、60%以上、80%以下とする請求項1に記載の酸化亜鉛薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記混合物作製工程において、前記混合物の質量に対する前記酸化亜鉛の質量の比率を0.9%以上、1.1%以下とすることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の酸化亜鉛薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記混合物作製工程において、前記混合物に水を含ませ、
前記混合物の質量に対する前記水の質量の比率を、11%以上、13%以下とすることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の酸化亜鉛薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記混合物塗布工程において、スピンコート法を用いて前記混合物の塗布を行い、
前記スピンコート法による前記基材の回転速度を、2500rpm以上、3500rpm以下とすることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の酸化亜鉛薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記混合物加熱工程において、前記混合物の加熱温度を340℃以上、360℃以下とすることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の酸化亜鉛薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記混合物塗布工程の前に、前記基材の表面に対し、酸素プラズマ処理を行う酸素プラズマ処理工程を、さらに有すること特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の酸化亜鉛薄膜の製造方法。
【請求項8】
負極層、電子輸送層、発電層、正孔輸送層、および正極層を、基材に積層してなる太陽電池の製造方法であって、
前記基材として透明導電性基板を用い、
請求項1または2のいずれかに記載の酸化亜鉛薄膜の製造方法を用いて、前記透明導電性基板上に前記混合物からなる膜を形成することにより、前記電子輸送層を形成することを特徴とする太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛薄膜の製造方法および太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機材料の膜を発電層に用いた、有機太陽電池の開発が行われている。有機太陽電池を構成する電子輸送層は、発電層で生じた電子を電極に輸送する層であり、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化スズ等の金属酸化物の膜で構成される。これらの金属酸化物のうち、可視光を透過させ、紫外光を吸収する酸化亜鉛の膜が、電子輸送層を構成する膜として注目されている。
【0003】
電子輸送層を構成する膜は、発電層で生じた電子を負極に効率よく流せるように、緻密であることが求められる。そのため、電子輸送層の成膜は、一般的にはスパッタリング、CVD等の蒸着法を用いて行われるが、この場合には、減圧下での高温処理用の大掛かりな製造装置を必要とし、多くの手間と高いコストがかかってしまう。低コストで容易な成膜方法としては、スピンコート、バーコート、ロールコート、スプレーコート、ディップコート、スクリーン印刷等の塗布法が知られており、デバイスを構成する積層構造の各層の形成、表面処理等に用いられている。また、電子輸送層を構成する膜の原料を、ペースト状にして塗布する方法も開示されている(非特許文献1、2)。
【0004】
しかしながら、これらの塗布法では、太陽電池を構成するような緻密で薄い膜を均一に形成することは難しく、薄く均一に形成できたとしても、緻密に形成することは特に難しい。そのため、一般的には、塗布法で形成した膜においては、十分な透明性が得られないと考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K Tennakone et al J . Phys. D: Appl. Phys. 1999, 32, 374
【非特許文献2】N Jamalullail et al. IOP Conf. Ser.:Mater. Sci. Eng. 2018, 374 012048
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、透明性を有する緻密な酸化亜鉛薄膜を、低コストで容易に製造することを可能とする酸化亜鉛薄膜の製造方法と、この酸化亜鉛薄膜を電子輸送層として備えた太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0008】
(1)本発明の一態様に係る酸化亜鉛薄膜の製造方法は、エタノールと硝酸と酸化亜鉛を含む混合物を作製する混合物作製工程と、基材の表面に前記混合物を塗布する混合物塗布工程と、前記基材の表面に塗布された前記混合物を加熱する混合物加熱工程と、を有し、前記混合物を液体とする。
【0009】
(2)上記(1)に記載の酸化亜鉛薄膜において、前記混合物作製工程において、前記エタノールと前記硝酸の合計質量に対する前記エタノールの質量の比率を、60%以上、80%以下とすることが好ましい。
【0010】
(3)上記(1)または(2)のいずれかに記載の酸化亜鉛薄膜において、前記混合物作製工程における前記混合物の質量に対する前記酸化亜鉛の質量の比率を、0.9%以上、1.1%以下とすることが好ましい。
【0011】
(4)上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の酸化亜鉛薄膜の製造方法において、前記混合物作製工程で前記混合物に水を含ませ、前記混合物の質量に対する前記水の質量の比率を、11%以上、13%以下とすることが好ましい。
【0012】
(5)上記(1)~(4)のいずれか一つに記載の酸化亜鉛薄膜の製造方法において、前記混合物塗布工程でスピンコート法を用いて前記混合物の塗布を行い、前記スピンコート法による前記基材の回転速度を、2500rpm以上、3500rpm以下とすることが好ましい。
【0013】
(6)上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の酸化亜鉛薄膜の製造方法において、前記混合物加熱工程で前記混合物の加熱温度を、340℃以上、360℃以下とすることが好ましい。
【0014】
(7)上記(1)~(6)のいずれか一つに記載の酸化亜鉛薄膜の製造方法において、前記混合物塗布工程の前に、前記基材の表面に対し、酸素プラズマ処理を行う酸素プラズマ処理工程を、さらに有することが好ましい。
【0015】
(8)本発明の一態様に係る太陽電池の製造方法は、負極層、電子輸送層、発電層、正孔輸送層、および正極層を、基材に積層してなる太陽電池の製造方法であって、前記基材として透明導電性基板を用い、上記(1)または(2)のいずれかに記載の酸化亜鉛薄膜の製造方法を用いて、前記透明導電性基板上に前記混合物からなる膜を形成することにより、前記電子輸送層を形成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、透明性を有する緻密な酸化亜鉛薄膜を、低コストで容易に製造することを可能とする酸化亜鉛薄膜の製造方法と、この酸化亜鉛薄膜を電子輸送層として備えた太陽電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)~(c)本発明の一実施形態に係る、酸化亜鉛薄膜の製造方法を説明する図である。
図2】同実施形態の酸化亜鉛薄膜の製造方法で得られた酸化亜鉛薄膜を、電子輸送層として備えた太陽電池の側面図である。
図3】(a)~(c)異なる材料で形成された酸化亜鉛薄膜の構成について、比較する図である。
図4】(a)~(e)比較例1~4、実施例1で得られた混合物の写真である。
図5】比較例3で得られた酸化亜鉛薄膜の一部を拡大したSEM画像である。
図6】比較例4で得られた酸化亜鉛薄膜の一部を拡大したSEM画像である。
図7】実施例1で得られた酸化亜鉛薄膜の一部を拡大したSEM画像である。
図8】(a)~(c)比較例3、5、実施例1で得られた酸化亜鉛薄膜の一部を拡大したSEM画像である。
図9】(a)~(d)比較例6~8、4で得られた酸化亜鉛薄膜の一部を拡大したSEM画像である。
図10】実施例1~3で得られた酸化亜鉛薄膜について、X線回折パターンを示すグラフである。
図11】比較例3、4、実施例1の酸化亜鉛薄膜について、電磁波の吸収スペクトルを示すグラフである。
図12】比較例3、4、実施例1の酸化亜鉛薄膜を備えた太陽電池について、電流電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した実施形態に係る酸化亜鉛薄膜の製造方法および太陽電池の製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0019】
<酸化亜鉛薄膜の製造方法>
図1(a)~(c)は、本発明の一実施形態に係る、酸化亜鉛薄膜の製造方法について説明する図である。本実施形態の酸化亜鉛薄膜の製造方法は、主に、混合物作製工程と、混合物塗布工程と、混合物加熱工程と、を有する。各工程について説明する。
【0020】
(混合物作製工程)
図1(a)に示すように、所定の容器10に、酸化亜鉛(ZnO)の粉末Aと、エタノール(CO)の溶液Bと、硝酸(HNO)の溶液Cとを収容し、所定の温度で攪拌して混合し、酸化亜鉛とエタノールと硝酸を含む混合物11を作製する。
【0021】
作製される混合物が液体になるように、混合物に含まれる酸化亜鉛、エタノール、硝酸の比率等を調整する。本実施形態における液体は、同じ種類の固体粒子が内部で均一(均質)に分布している混合物であり、異なる種類の固体粒子が内部で不均一に分散したペースト(懸濁液)とは異なるものである。
【0022】
粉末A、溶液B、Cの混合の順序は限定されない。粉末A、溶液B、Cの三つを同時に混合してもよいし、粉末A、溶液B、Cのうち、二つを先に混合してから、残りの一つを追加して混合してもよい。
【0023】
容器10に収容する粉末A、溶液B、Cの量について、混合物11中における、酸化亜鉛、エタノール、硝酸それぞれの質量比を考慮して調整する。すなわち、エタノールと硝酸の合計質量に対するエタノールの質量の比率が、60%以上、80%以下となるように、好ましくは65%以上、75%以下となるように、最も好ましくは70%となるように、容器10に収容する溶液B、Cの量を調整する。粉末Aの平均粒径は、0.5μm以上、5μm以下であることが好ましい。
【0024】
また、作製後の混合物11の質量に対し、混合物11に含まれる酸化亜鉛の質量の比率が、0.9%以上、1.1%以下となるように、好ましくは0.95%以上、1.05%以下となるように、最も好ましくは1%となるように、容器10に収容する粉末A、溶液B、Cの量を調整する。
【0025】
粉末A、溶液B、Cを混合する過程で、作製する混合物11中に水を含ませてもよい。混合物11の質量に対し、この水の質量の比率を、11%以上、13%以下とすることが好ましく、12%であれば最も好ましい。この場合の水は、溶液B、Cに元々含まれるものであってもよいし、混合物作製工程で新たに加わったものであってもよい。
【0026】
(混合物塗布工程)
次に、図1(b)に示すように、所定の基材(基板)12の一面12a上に、作製した混合物11を塗布する。一面12aは、平坦であることが好ましいが、曲がっていてもよい。混合物11を塗布する前に、基材12の表面に対し、洗浄を目的とした酸素プラズマ処理を行う工程(酸素プラズマ処理工程)を、さらに有していてもよい。この酸素プラズマ処理により、基材12の表面を洗浄するとともに、基材12の表面の混合物11に対する濡れ性を向上させることができる。
【0027】
基材12としては、特に限定されないが、例えば、ガラス、シリコン、鉄、金、銅等の金属等で構成されるものが挙げられる。基材12は、板状の部材であってもよいし、フィルム(膜体)であってもよい。基材12の表面に導電層(導電膜)が形成されていてもよい。太陽電池用の下地基板として用いる場合の基材には、光を透過させるガラス等の基板(透明導電性基板)を用いることが好ましい。
【0028】
ここでは、混合物11の塗布方法として、大気中での実施が可能なスピンコート法を用いる場合を例示しているが、他の塗布方法を用いてもよい。他の塗布方法としては、例えば、バーコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。スピンコート法は、基材の回転速度、回転時間等のパラメータにより、形成される膜の厚み、膜質等について、容易に微調整することができるため、本実施形態では最も好ましい塗布方法となる。
【0029】
スピンコート法では、所定のスピンコート装置(不図示)を用い、基材12を回転させながら、所定の位置に固定されたノズル13から、基材の一面12aに対して混合物11を塗布(滴下)し、混合物11を原料とする薄膜(酸化亜鉛薄膜)11Aを形成する。スピンコート法の各パラメータについては、薄膜11Aが所望の厚み、膜質になるように調整する。例えば、薄膜11Aの厚みを60nm~65nmとする場合、基材12の回転数は2500rpm以上、3500rpm以下とすることが好ましく、3000rpmとすることがより好ましく、基材12の回転時間は25s以上、35s以下とすることが好ましく、また、混合物の塗布中の温度は、190℃以上、210℃以下とすることが好ましい。スピンコート法では、基材12の回転に伴って発生する遠心力を利用して、塗布された混合物11を基材の一面12a全体に行き渡らせる。一面12a全体に均一に行き渡らせる観点から、一面12aの形状は円であってもよい。
【0030】
(混合物加熱工程)
次に、図1(c)に示すように、所定の加熱炉14を用い、基材の一面12aに塗布された混合物11を、加熱して乾燥させる。ここでの加熱は、薄膜11Aを焼成し、緻密化することを目的としている。混合物11を塗布された基材12を加熱炉(加熱室)14内に配置し、加熱炉14内を1atm以下の減圧状態とし、加熱手段(不図示)を用いて基材12上とともに混合物11を加熱する。加熱手段としては、特に限定されないが、例えばヒーター、ビーム照射装置、誘導加熱用コイル等が挙げられる。加熱温度は、340℃以上、360℃以下とすることが好ましく、345℃以上、355℃以下とすることがより好ましく、350℃とすることが最も好ましい。加熱時間は、80分以上、120分以下とすることが好ましく、90分以上、110分以下とすることがより好ましい。
【0031】
本実施形態の酸化亜鉛薄膜の製造方法では、酸化亜鉛薄膜の原料として用いる混合物が、液体になるように、混合物に含まれる酸化亜鉛、エタノール、硝酸の比率等を調整する。この調整により、作製された酸化亜鉛薄膜は、緻密であり、かつ高い透明性を有する膜となる。本実施形態の酸化亜鉛薄膜であれば、その下地となる基材の表面を均一に覆うことができる。また、本実施形態の酸化亜鉛薄膜は、塗布法で製造することができるため、他の方法で製造する場合に比べて、製造コストを低く抑えることができる。
【0032】
<太陽電池の製造方法>
図2は、本実施形態に係る太陽電池100の斜視図である。上述した酸化亜鉛薄膜の製造方法を用いて、太陽電池100を製造することができる。具体的には、酸化亜鉛薄膜の製造方法を用いて基材101の一面101aの一部に、酸化亜鉛薄膜からなる電子輸送層102を形成する。さらに、電子輸送層102の上に、発電層(光電変換層)103、正孔輸送層104、正極層105を順に形成(積層)する。また、透明基板の一面101aの他の一部に、電子輸送層102と接触するように負極層106を形成する。図2に示す太陽電池の構成(積層構造)は、一例であって、太陽電池として動作するのであれば、他の構成であってもよい。
【0033】
基材101は、上記各層からなる構造物を支持するものであれば、特に限定されない。基材101は、光透過性に優れた透明導電性基板であることが好ましく、例えば、可視光の透過率が90%以上であればより好ましい。また、基材101は、フレキシブルであることが好ましい。基材101の構成材料としては、例えば、ガラス、プラスティックフィルム等が挙げられる。プラスティックフィルムを構成する樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等を用いることができる。
【0034】
発電層103は、光を受けて発電する層である。発電層103は、ドナーとアクセプターとを含む。発電層103は、ドナーとアクセプターが混合された層(バルクヘテロ構造)でもよいし、ドナーの層とアクセプターの層とが積層されたもの(積層構造)でもよい。また、発電層103は、ペロブスカイト型の物質で構成されてもよい。ドナーは光を吸収して励起する。励起した励起子は、ドナーとアクセプターの界面へ移動する。励起子がアクセプターに電子を受け渡すと、ドナーはカチオン(ホール)を生成し、アクセプターはアニオンを生成する。カチオンとアニオンとが異なる電極に向かって流れることで、外部回路に電流が流れる。
【0035】
ドナーは、例えば、p型有機半導体である。ドナーは、公知のものを用いることができる。ドナーは、例えば、共役系重合体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体等である。例えば、ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)は共役高分子であり、ドナーとして用いられる。
【0036】
アクセプターは、例えば、n型有機半導体である。アクセプターは、公知のものを用いることができ、非フラーレン系化合物でも、フラーレン系化合物でもよい。フラーレン系化合物のアクセプターは、例えば、[60]PCBM、bis-[60]PCBM、[70]PCBM、bis-[70]PCBM等である。この他、シリルメチル基を有するフラーレン誘導体(SIMEF)等もフラーレン系化合物のアクセプターの一例である。非フラーレン系化合物のアクセプターは、例えば、TTBT系化合物、ITIC系化合物、IDT系化合物、IDTT系化合物、TTCTT系化合物、PPhTQ、ローバンドギャップ材料(Y6、Y7等)等である。
【0037】
電子輸送層102は、発電層103で生じた電子を捕集し、負極層106に向かって効率的に輸送する層である。電子輸送層102の構成材料としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化アルミニウム等の無機材料、あるいは、PCBM、フラーレンC60等の有機材料等のn型半導体が挙げられる。
【0038】
正孔輸送層104は、発電層103で生じた正孔を捕集し、正極層105に向かって効率的に輸送する層である。正孔輸送層102の構成材料としては、例えば、酸化ニッケル、ヨウ化銅、酸化銅、硫化銅等の無機材料、あるいは、Spiro-OMeTAD、PTAA、PEDOT:PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)との複合物)等の有機材料等のp型半導体が挙げられる。
【0039】
正極層105は、例えば、金、銀、アルミニウム等の金属、あるいは、PEDOT:PSSのような有機導電性インク等の導電性を有する材料で構成される。負極層106は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化アルミニウム亜鉛(AZO)、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、グラフェン等の導電性を有する材料で構成される。
【0040】
図3(a)~(c)は、基材12の上に酸化亜鉛薄膜(電子輸送層)11A、発電層15、正孔輸送層16、および正極層17を順に形成した太陽電池の構成を、模式的に示す図である。太陽電池の電子輸送層として、異なる原料で形成された酸化亜鉛薄膜11Aの構成、および発電層15に太陽光Lが照射された際の作用について、比較している。
【0041】
図3(a)は、硝酸を含まない混合物を原料とした場合に、得られる酸化亜鉛薄膜の構成を、模式的に示している。図3(b)は、エタノールを含まない混合物を原料とした場合に、得られる酸化亜鉛薄膜の構成を、模式的に示している。これらの場合に得られる酸化亜鉛薄膜11Aは、基材12の表面を均一に覆わず、多くのピンホールを有している。そのため、発電層15で生じた正孔(キャリア)が、ピンホールを通って負極(不図示)側に漏れてしまい、その分の電流をロスしてしまう。したがって、これらの太陽電池で高い出力を得ることは難しい。
【0042】
図3(c)は、エタノールと硝酸の両方を含む混合物を原料とした場合に、得られる酸化亜鉛薄膜の構成を、模式的に示している。この場合に得られる酸化亜鉛薄膜は、基材の表面を均一に覆い、緻密でピンホールを有していない。そのため、この場合には、発電層15で生じた正孔(キャリア)が、負極(不図示)側に漏れてしまうのを防ぎ、電流のロスを防ぐことができる。したがって、この太陽電池であれば、高い出力を得ることが可能となる。
【0043】
以上のように、本実施形態で得られた酸化亜鉛薄膜は、緻密で高い透明性を有するため、これを太陽電池の電子輸送層として用いた場合、発電層で生じた正孔の漏れを防ぎ、優れた出力特性を実現することができる。本実施形態の太陽電池の製造方法によれば、電子輸送層を塗布法で形成することにより、太陽電池を低コストで容易に製造することができる。さらに、本実施形態で得られた太陽電池は、電子輸送層の形成に蒸着法を用いた場合の太陽電池と、同等の出力特性を実現することができる。
【実施例0044】
以下、実施例により、本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0045】
(実施例1)
上記実施形態の酸化亜鉛薄膜の製造方法を用いて、次の手順で、基材の一面に酸化亜鉛薄膜を作製した。
【0046】
混合物作製工程において、エタノールの溶液0.7mlと硝酸の溶液0.3mlを先に混合してから、酸化亜鉛の粉末10mg(平均粒径は約1μm)を追加して混合し、混合物930mgを作製した。混合物中における、エタノールと硝酸の合計質量に対するエタノールの質量の比率を、70%とした。
【0047】
混合物塗布工程において、TCOガラス基板を基材とし、TCOガラス基板の一面に対し、作製した混合物930mgをスピンコート法で五回に分けて塗布した。一回(各回)の塗布において、スピンコート中の基材の回転速度を3000rpmとし、回転時間を30分とした。
【0048】
混合物加熱工程において、加熱炉を用い、基材に塗布された混合物を、350℃で60分間加熱し、酸化亜鉛薄膜を形成した。形成した酸化亜鉛薄膜の厚みは、60nmとなった。
【0049】
(実施例2)
混合物加熱工程において、加熱温度を200℃とした以外は、実施例1と同様の手順で酸化亜鉛薄膜を作製した。
【0050】
(実施例3)
混合物加熱工程において、加熱温度を300℃とした以外は、実施例1と同様の手順で酸化亜鉛薄膜を作製した。
【0051】
(比較例1)
混合物作製工程において、エタノールと硝酸の混合物を用いる代わりに、クロロフォルム(CHCl)の溶液1mlを用いた以外は、実施例1と同様の手順で酸化亜鉛薄膜を作製した。
【0052】
(比較例2)
混合物作製工程において、エタノールと硝酸の混合物を用いる代わりに、メタノール(CHOH)の溶液1mlを用いた以外は、実施例1と同様の手順で酸化亜鉛薄膜を作製した。
【0053】
(比較例3)
混合物作製工程において、エタノールと硝酸の混合物を用いる代わりに、硝酸を含まないエタノールの溶液1mlを用いた以外は、実施例1と同様の手順で酸化亜鉛薄膜を作製した。
【0054】
(比較例4)
混合物作製工程において、エタノールと硝酸の混合物を用いる代わりに、エタノールを含まない硝酸の溶液1mlを用いた以外は、実施例1と同様の手順で酸化亜鉛薄膜を作製した。
【0055】
(比較例5)
混合物作製工程で作製する混合物中において、エタノールと硝酸の合計質量に対するエタノールの質量の比率を90%とした以外は、実施例1と同様の手順で酸化亜鉛薄膜を作製した。
【0056】
(比較例6)
混合物作製工程で作製する混合物中において、エタノールと硝酸の合計質量に対するエタノールの質量の比率を50%とした以外は、実施例1と同様の手順で酸化亜鉛薄膜を作製した。
【0057】
(比較例7)
混合物作製工程で作製する混合物中において、エタノールと硝酸の合計質量に対するエタノールの質量の比率を30%とした以外は、実施例1と同様の手順で酸化亜鉛薄膜を作製した。
【0058】
(比較例8)
混合物作製工程で作製する混合物中において、エタノールと硝酸の合計質量に対するエタノールの質量の比率を10%とした以外は、実施例1と同様の手順で酸化亜鉛薄膜を作製した。
【0059】
図4(a)~(e)は、それぞれ、比較例1~4、実施例1の混合物作製工程で作製した混合物を、透明な瓶に収容した状態の写真である。比較例1~3の混合物は濁っているのに対し、比較例4、実施例1の混合物は、ほぼ透明である。この結果から、混合物に、少なくとも硝酸を加える必要があることが分かる。
【0060】
図5~7は、それぞれ、図4(c)~(e)の混合物を用いて形成した酸化亜鉛薄膜の全体の画像(上側)と、酸化亜鉛薄膜の一部を拡大した画像(下側)である。図5の画像から、硝酸を含まない混合物を用いた比較例3では、酸化亜鉛薄膜内で複数箇所で酸化亜鉛粒子が凝集しており、均一で緻密な酸化亜鉛薄膜が得られていないことが分かる。また、図6の画像から、エタノールを含まない混合物を用いた比較例4では、酸化亜鉛薄膜内で複数箇所で厚み方向に延びるピンホールが形成されており、均一で緻密な酸化亜鉛薄膜が得られていないことが分かる。一方、図7の画像から、硝酸とエタノールの両方を含む混合物を用いた実施例1では、酸化亜鉛薄膜の全体にわたって、均一で緻密な酸化亜鉛薄膜が得られていることが分かる。
【0061】
図8(a)~(c)、図9(a)~(d)は、それぞれ比較例3、5、実施例1、比較例6~8、4の混合物を用いて形成した、酸化亜鉛薄膜の一部を拡大した画像(SEM画像)である。図8(a)~(c)の比較から、エタノールと硝酸の合計質量に対するエタノールの質量の比率が、70%より高くなるにつれて、酸化亜鉛薄膜中の粒子の凝集が進み、酸化亜鉛薄膜の緻密さが失われてゆくことが分かる。また、図8(c)、図9(a)~(d)の比較から、同比率が70%より低くなるにつれて、酸化亜鉛薄膜中に発生するピンホール、クラックの数が増え、酸化亜鉛薄膜の緻密さが失われてゆくことが分かる。
【0062】
図10は、実施例1~3で得られた酸化亜鉛薄膜について、X線回折パターンを示すグラフである。混合物加熱工程での加熱温度を200℃として、作製した酸化亜鉛薄膜のX線回折パターンには、酸化亜鉛以外の不純物のピークが多く見られることから、酸化亜鉛薄膜中に、酸化亜鉛分子が十分に取り込まれていないことが分かる。加熱温度を300℃、350℃として作製した酸化亜鉛薄膜のX線回折パターンには、酸化亜鉛の結晶面(100)、(002)、(101)、(102)、(110)、(103)に対応したピークが見られ、かつ不純物のピークが少なくなっていることから、酸化亜鉛薄膜中に、酸化亜鉛分子が十分に取り込まれていることが分かる。これらの結果から、混合物の加熱温度は、300℃以上350℃以下の範囲であれば好ましいことが分かる。
【0063】
図11は、比較例3、4、実施例1で得られた酸化亜鉛薄膜について、電磁波の吸収スペクトルを示すグラフである。比較例3の酸化亜鉛薄膜が、400nm以上の波長領域の光(電磁波)に対して、高い吸収率を示している。これは、発電層で生じた多くの光が、電子輸送層を構成する酸化亜鉛薄膜中のエタノールを透過できず、発電層に留まって吸収されてしまっているためと考えられる。比較例4、実施例1の酸化亜鉛薄膜は、同波長領域の光に対して、低い吸収率を示している。これは、発電層で生じた多くの光が、電子輸送層を構成する酸化亜鉛薄膜を透過し、負極層に送られているためと考えられる。
【0064】
比較例3、4、実施例1で得られた酸化亜鉛薄膜を用いて、図2に示すような太陽電池を作製した。酸化亜鉛薄膜(電子輸送層)の上に、発電層、正孔輸送層、正極層を形成した。また、TCOガラス基板の一面に、酸化亜鉛薄膜と接するように負極層を形成した。太陽電池の各層の主な構成材料については、次のようにした。
基板:ガラス
負極層:ITO
電子輸送層:酸化亜鉛
発電層:P3HT、PCBM
正孔輸送層:PEDOT、PSS
正極層:金
【0065】
図12は、比較例3、4、実施例1で得られた酸化亜鉛薄膜を備えた太陽電池について、電流電圧特性を示すグラフである。グラフの横軸、縦軸は、それぞれ、正極層と負極層の間に発生する電圧、電流密度を示している。
【0066】
比較例3、4の酸化亜鉛膜を備えた太陽電池では、十分な電流電圧特性が得られていない。これは、基板に対する酸化亜鉛膜の被覆率が低く、発電層で生じた正孔を十分にブロックできていないため、キャリアになるはずの正孔が、基板内、あるいは、基板を経由して負極層に流れ出てしまうためである。
【0067】
一方、実施例1の酸化亜鉛膜を備えた太陽電池では、十分な電流電圧特性が得られている。これは、基板に対する酸化亜鉛膜の被覆率が高く、酸化亜鉛薄膜が緻密かつ均一であり、発電層との間の界面の抵抗が下がって、キャリアとしての電子の流れ(輸送)が活発化するためである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の酸化亜鉛薄膜は、ペロブスカイト型の太陽電池、有機太陽電池、発光ダイオード、紫外線センサー、バイオセンサー、光検出器、薄膜トランジスタ等の様々な技術分野に適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
10・・・容器
11・・・混合物
11A・・・薄膜
12・・・基材
12a・・・基材の一面
13・・・ノズル
14・・・加熱炉
A・・・粉末
B、C・・・溶液
100・・・太陽電池
101・・・基板
101a・・・基板の一面
102・・・電子輸送層
103・・・発電層
104・・・正孔輸送層
105・・・正極層
106・・・負極層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12