(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136725
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】フッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体
(51)【国際特許分類】
C08G 77/24 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C08G77/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047935
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000178826
【氏名又は名称】日本山村硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 緑
(72)【発明者】
【氏名】信藤 卓也
【テーマコード(参考)】
4J246
【Fターム(参考)】
4J246AA03
4J246AB02
4J246BA070
4J246BA07X
4J246BB020
4J246BB021
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA040
4J246CA04X
4J246CA120
4J246CA12U
4J246CA12X
4J246CA130
4J246CA13U
4J246CA13X
4J246CA240
4J246CA24X
4J246FA061
4J246FA131
4J246FA321
4J246FA381
4J246FA441
4J246FC191
4J246GC17
4J246GC23
4J246GD05
4J246HA12
4J246HA28
(57)【要約】
【課題】フッ素の脱離が少なく、熱硬化によってUV耐性、特に深紫外線領域に耐性を有する硬化体を得ることが可能なフッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体を提供する。
【解決手段】フッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体は、少なくとも下記(A)と下記(B)との縮合反応生成物と、下記(C)と、触媒として下記(D)とを少なくとも含む混合物の縮合反応生成物であって、ケイ素に直結されたフッ素原子を1つ以上含有している。
(A)両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンであって、数平均分子量(Mn)が10,000より大きく60,000以下のもの。
(B)テトラアルコキシシランのオリゴマーであって、直鎖状であり、アルコキシ基としてメトキシ基またはエトキシ基を有するもの。
(C)ケイ素に直結されたフッ素とアルコキシ基を有するシラン化合物。
(D)有機金属化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記(A)と下記(B)との縮合反応生成物と、
下記(C)と、
触媒として下記(D)とを少なくとも含む混合物の縮合反応生成物であって、ケイ素に直結されたフッ素原子を1つ以上含有している、フッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体。
(A)両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンであって、数平均分子量(Mn)が10,000より大きく60,000未満のもの。
(B)テトラアルコキシシランのオリゴマーであって、直鎖状であり、アルコキシ基としてメトキシ基またはエトキシ基を有するもの。
(C)ケイ素に直結されたフッ素とアルコキシ基を有するシラン化合物。
(D)有機金属化合物。
【請求項2】
前記混合物は前記(C)を前記(A)1モルに対し0.5~10モル含む、請求項1に記載のフッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のフッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体を熱硬化させた硬化体であって、光透過率が、波長200~300nmで80%以上である、フッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のフッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体を、アクリル樹脂、フッ素樹脂、または、オレフィン系樹脂によって形成された型に入れ、100℃以下の温度で熱硬化させる工程を含む、硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にはフッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体に関し、特定的には、フッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部材である発光ダイオード(LED)は、近年、殺菌分野や半導体市場で発光波長の短波長化、高出力化が進行し、構成部材の耐光性の向上が求められている。
【0003】
従来、LEDの発光素子やワイヤー、リフレクター等の部品を保護するための封止材や窓材として石英ガラスが用いられている。石英ガラスをLED素子に接合する方法の1つとしては、メタライズ処理したガラス封着や金-すずろう材などが用いられる。この方法では、LED素子の製造に石英ガラスを接合するための工程が必要となり、また、この接合工程には高温処理が必要であり、また、石英ガラスや接合材のUV(紫外線)耐性、冷熱サイクル耐性など、硬い素材ゆえの弱点がある。
【0004】
石英ガラスをLED素子に接合する別の方法としては、接着剤など弾性材料が用いられる。特に水や空気の殺菌に用いるLEDでは、加工の自由度から、接着剤としてだけでなく、封止材や従来の石英ガラス窓材の代わりとしても耐UV性樹脂が求められている。
【0005】
しかしながら、波長が400nm以下となるUV(紫外線)-LED、特に300nm以下のUV-C領域においては、たとえ低出力のLEDであってもエネルギーが高く、これまで使用されてきた耐熱性が高いと言われる樹脂でも材料破壊や封止面からの剥離などのため使用することが難しい。
【0006】
特開2020-189964公報(特許文献1)には旭硝子社製サイトップと呼ばれるフッ素化合物樹脂が記載されている。これは薄膜形成を目的とする高価な樹脂であるが、UV域の波長の光にも耐光性があることが市場で認識されている。
【0007】
特開2020-9858号公報(特許文献2)には、一部のシリコーン樹脂の耐UV特性が高く、深紫外線を用いた用途で使用可能であることが記載されている。シリコーン樹脂は加工の自由度も高く、透明性や安定性に優れた樹脂である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-189964公報
【特許文献2】特開2020-9858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のフッ素化合物樹脂は、薄膜として用いることができても、集光を目的とするレンズ形状の成型、mm単位以上の封止、接着用途には応用することができない。
【0010】
また特許文献2に記載のシリコーン樹脂は、照射強度の高いLEDに用いると透過率低下や硬度変化が著しい。
【0011】
このように、UV域、特に深紫外域で接着剤や封止材として使用可能な樹脂材料は少ない。そのためフッ素樹脂の持つ深紫外線耐性とシリコーン樹脂の持つ加工の自由度、透過率の高さを併せ持つ材料が望まれている。
【0012】
本発明者らは以前からフッ素化合物を用いて耐UV材料を検討していた。合成可能な相溶性を有したフッ素化合物の多くは、比較的長い側鎖を有しており、フッ素が脱離し環境問題となるものも少なくない。フッ素の脱離を避けるためには、強固に主鎖に結合したフッ素原子を組み込む必要がある。
【0013】
一方で、このような化合物はフッ素原子の立体障害により反応性が乏しく、硬化条件が高温、長時間となる傾向がある。
【0014】
そこで本発明の目的は、フッ素の脱離が少なく、熱硬化によってUV耐性、特に深紫外線領域に耐性を有する硬化体を得ることが可能なフッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に従ったフッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体は、少なくとも下記(A)と下記(B)との縮合反応生成物と、下記(C)と、触媒として下記(D)とを少なくとも含む混合物の縮合反応生成物であり、ケイ素に直結されたフッ素原子を1つ以上含有している。
(A)両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンであって、数平均分子量(Mn)が10,000より大きく60,000未満のもの。
(B)テトラアルコキシシランのオリゴマーであって、直鎖状で4量体~10量体であり、アルコキシ基としてメトキシ基またはエトキシ基を有するもの。
(C)ケイ素に直結されたフッ素とアルコキシ基を有するシラン化合物。
(D)有機金属化合物である縮合及び硬化促進触媒。
【0016】
このようにすることにより、フッ素の脱離が少なく、熱硬化によってUV耐性、特に深紫外線領域に耐性を有する硬化体を得ることが可能なフッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明に用いられる材料について詳細に説明する。
【0018】
<両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサン(A)>
本発明のフッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体は、両末端に反応性のシラノール基を有したポリジメチルシロキサン(PDMS)を原料としている。両末端にシラノール基を有し、分子鎖が分岐、あるいは末端に複数個のシラノール基を有したもの、その他の反応性官能基を有したものなど、種々の原材料が考えられたが、フッ素含有の化合物の反応でフッ素を組み込むことを検討した際、これらはフッ素原子の立体障害が大きく合成が困難であった。結果的に、直鎖状で両末端にシラノール基を有したものがフッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体創製には最適であった。一般的な化学式を式(1)に示す。
H-(O-Si(CH3)2)m-OH (式1)
【0019】
両末端シラノールポリジメチルシロキサンは、直鎖状で数平均分子量(Mn)が10,000より大きく60,000未満であり、式(1)におけるmは、134~810である。
【0020】
数平均分子量が10,000以下である場合、合成されたフッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体を硬化させて得られるフッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサン硬化体が硬くなり、熱応力の緩和が難しくなる。その結果、耐UV特性は低下してしまう。一方、数平均分子量が60,000以上になると、フッ素組み込みの反応がフッ素の立体障害により非常に困難となる。そのため、原材料である末端シラノール基を有するPDMSの数平均分子量は10,000より大きく60,000未満であることが好ましく、20,000以上60,000未満であることがより好ましい。
【0021】
分子量分布指数Mw/Mn(Mw/Mn;Mwは重量平均分子量)は1.3より大きいことが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。分子量分布指数Mw/Mnは、汎用的なシリコーンでは概ね1.3以上、分子量が高いものでは1.5以上になる。均質性の高いリビング重合などによれば分子量分布指数Mw/Mnが1.1以下のものも市販されているが、UV耐性を得るためには、このような均質性の高いPDMSではなく、分子量分布指数Mw/Mnが大きいことが好ましい。
【0022】
分子量分布指数Mw/Mnが小さいと光に対する透明度や均質性は良好となり硬化反応が迅速に完結する点で有利である一方、分子量の分布が小さいポリマーになることで変形に対する靭性が低くなり、熱応力緩和力が低下していく。これはある程度分子量の異なる分子が介在すれば、クッションのような役割をはたし、熱変形に伴う衝撃を吸収できるためではないかと本発明者は考えている。光学特性としては、分子量分布指数Mw/Mnは1.3以下が望ましいが、UV域での耐性という点では、分子量分布指数Mw/Mnは1.3より大きいことが好ましく、1.5以上がより好ましい。
【0023】
<アルコキシ基を有するシランオリゴマー(B)>
アルコキシ基を有したシランオリゴマーは、一般的にはメチルシリケートとかエチルシリケートといった化合物が知られており、簡単に入手することが可能である。そのオリゴマーであるアルキルシリケートの一般構造式は下記の式(2)の通りである。
(RO)3Si-O-(Si(OR)2-O)n-Si-(OR)3 式(2)
【0024】
ここでRはメチル基、もしくはエチル基であるが、メチル基の場合、反応は迅速に進むが副生成物としてメタノールが発生することもあり、エチル基のものを用いることが望ましい。nは、1以上の整数で制約はないが、基本的に入手可能な市販品がn=4~10(4量体~10量体)のものである。n=10を超えるものでも理論上合成は可能であるが、ポリマーと反応させるオリゴマーとしては、分子鎖が長いものでは硬化しないことから、n=4~10が実用的である。なお、市販品の場合、未反応原料などを含むことが多く、蒸留処理などで精製することが望ましい。
【0025】
<ケイ素に直結されたフッ素とアルコキシ基を有するシラン化合物(C)>
ケイ素に直結されたフッ素とアルコキシ基を有するシラン化合物(C)はケイ素原子に直結した1つのフッ素と3つのアルコキシ基を有したシラン化合物である。アルコキシ基に関して制約は無いが、反応の制御しやすさの点からエトキシ基であることが好ましい。この化合物は反応性、揮発性も高く、一般的に反応性が高くなるメトキシ基では反応を制御することが困難であると予想される。このシラン化合物(C)の一般構造式は下記の式(3)の通りである。
F-Si(OCnHm)3 (nは1以上、m=2n+1の整数) 式(3)
【0026】
<有機金属化合物(D)>
本発明のフッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体は、有機金属化合物の縮合及び硬化促進触媒を用いて合成を進める。金属系触媒に制約は無いが、最も使いやすく添加量を低く抑えることが可能なSn系触媒が有効である。金属系触媒には、Sn系以外でもTi系、Al系、Zn系、Zr系、Bi系等の有機金属化合物が存在するが、反応性が低い、残留時の硬化体の耐熱性低下、着色などの課題を生じる場合があるため、環境面、安全面で課題はあるもののSn系触媒が最も効果的に使用することができる。
【0027】
Sn系触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ビスアセチルアセトナート等が一般的である。Sn系触媒は、合成条件次第で少量で効果的な縮合反応を進めることが可能であり、配合量も500ppm以下に抑えることが可能である。
【0028】
<平均分子量の測定>
上記PDMS(A)の平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により測定し、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比を分子量分布指数とした。標準試料としてポリスチレンを用い、ポリスチレン換算分子量を測定した。なおGPC法によるポリスチレン換算分子量測定は、以下の測定条件で行うものとする。
a)測定機器:東ソー製GPC HLC-8320PC
b)Mn30,000以下のカラム :TSKgel guardColumn Super HZ-H 、TSKgel Super HZM-H ×2本
c)Mn30,000以上のカラム :TSKgel guardColumn Super MP(HZ)-N 、TSKgel Multipore HZ-N ×3本
d)オーブン温度:40℃
e)溶離液 :テトラヒドロフラン(THF) 1.0mL/min
f)標準試料:ポリスチレン
g)注入量 :100μL
h)濃度 :0.05g/10mL
i)試料調製:2,6-ジ-tert-ブチル-p-フェノール(BHT)が0.2質量%添加されたTHFを溶媒として、室温で攪拌して溶解させる。
j)補正 :検量線測定時と試料測定時とのBHTのピークのずれを補正して、分子量計算を行う。
【0029】
<フッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体(E)の作製>
本発明のフッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体としてフッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体は、触媒として有機金属化合物(D)の存在下で、上記(A)と上記(B)の縮合反応生成物と、上記(C)との混合物が加熱されることによって、脱水および脱アルコールの縮合反応によって合成される。
【0030】
両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサン(A)とアルコキシ基を有するシランオリゴマー(B)は、モル比によって調整された配合で、熱処理によって脱水および脱アルコールによる縮合反応を生じる。この反応は、数時間から数十時間で制御され、縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体が得られる。合成には、攪拌装置、温度計、滴下ラインを取り付けた反応容器(挿入口が複数個あるフラスコ)を用いる。撹拌装置には、撹拌羽の付随した回転式撹拌機、マグネチックスターラー、二軸遊星式撹拌装置、超音波洗浄装置など、反応に寄与する高粘度液状原料を均質に混ぜる効果があれば特に制限はない。しかし温度制御、雰囲気制御、成分滴下ラインなどを付随させることから、回転式撹拌機、マグネチックスターラーなどが望ましい。合成温度は均一性が重要である。合成温度は60~140℃の間で適宜設定されることが好ましい。低温で長期間反応させる場合や高温で短時間に合成される場合など、原料の種別、配合比率、合成設備などによって個別に設定される。合成雰囲気は、不活性ガスとして例えば窒素ガスを使用し、該反応容器内に含有水分量を一定にした窒素ガスを十分に充満させる。このとき、窒素ガスには、窒素ガス製造装置以外にもボンベや液体窒素からも使用可能である。
【0031】
両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサン(A)とアルコキシ基を有するシランオリゴマー(B)のモル比(配合比)に関しては、(A)/(B)が0.1~4の範囲で調整されることが好ましい。(A)/(B)のモル比が上記の範囲で、かつ縮合に適した条件により縮合反応を進めることで、反応中または反応後のゲル化が起こりにくくなり、低分子量シロキサンの残留が無い安定したゾルが得られる。(A)/(B)のモル比は0.1~4であることが好ましく、1~2であることがより好ましい。
【0032】
なお、ここで言うモル比とは、ポリスチレンを標準物質とし、テトラヒドロフランを溶離液としてゲルパーミュエーションクロマトグラフ(GPC法)により測定したPDMSの数平均分子量(Mn)と、テトラアルコキシシランのオリゴマーの純度と平均分子量に基づいて計算したモル比である。
【0033】
合成された縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体に、有機金属化合物(D)の存在下で、ケイ素に直結されたフッ素とアルコキシ基を有したシラン化合物(C)を加えて加熱し、脱水および脱アルコールによる縮合反応をさせる。有機金属化合物(D)は、ここでは、縮合促進触媒として用いられる。合成温度は60~140℃の間で適宜設定されることが好ましい。
【0034】
ケイ素に直結されたフッ素とアルコキシ基を有したシラン化合物(C)は反応性が高く温度制御が重要である。この化合物はアルキル基により、先に調整された縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体と反応するが、前駆体の官能基を加水分解させ、反応性のシラノール基を持たせておく必要がある。このため、一種の加水分解処理を行うことが望ましいが、一般的には先の合成時において大気中の水蒸気などによる加水分解は生じているため、必ずしも加水分解処理を組み込む必要はない。
【0035】
ケイ素に直結されたフッ素とアルコキシ基を有したシラン化合物(C)の配合量は、両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサン(A)1モルに対し0.5~10モルで調整される。配合量がポリジメチルシロキサン(A)1モルに対し0.5モル未満では深紫外線領域での耐性が得られず、ポリジメチルシロキサン(A)1モルに対し10モル超えるとゲル化が生じる。ケイ素に直結されたフッ素とアルコキシ基を有したシラン化合物(C)の配合量は、ポリジメチルシロキサン(A)1モルに対し0.5~10モルが好ましく、4~8モルがより好ましい。
【0036】
合成されたフッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体(E)は、熱処理によって透明性が高くUV耐性を有したフッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサン硬化体となる。接着性も有しており、UV-LEDパッケージに充填し封止材として使用することが可能である。接着力も付与していることから、UV-LEDの石英窓材の固定、塗膜としても利用することができる。耐UV性が高いことから、特に265nm付近の深紫外領域の光を用いる光学部材に応用展開することが可能となる。
【0037】
なお、硬化体を得るために触媒として有機金属化合物(D)を使用することができる。有機金属化合物(D)は、ここでは、硬化促進触媒として用いられる。フッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体(E)の合成段階で有機金属化合物(D)が添加されているが、熱硬化の前にさらに有機金属化合物(D)を添加してもよい。得られる硬化体の形状、大きさ、厚み等により、適宜硬化剤を使用することが望ましい。
【0038】
また、本発明によるフッ素含有の縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体は、深さ方向に加工された型材に入れ、熱硬化によって樹脂成形体を得ることができる。
【0039】
フッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体(E)は、コーティングやポッティング、接着層として使用される他、形状転写が可能な型材に入れ、樹脂成形体として加工することが可能である。コーティングやポッティングでは、100℃前後で脱泡、脱溶剤した後、150~200℃に焼成することで硬化させることが可能である。接着層として使用する場合は、150℃前後で一次硬化させ、粘性や接着性を残して被接合体を貼り合わせることが可能である。樹脂成形体を得る場合には、型材に注型することで形状加工が可能である。
【0040】
フッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体(E)は、水酸基や水酸基と反応するアルコキシ基を分子内に内包している。この官能基は、100℃より高い温度で反応副生成物を系外に除去することで脱アルコール、脱水反応が進行する。そのため、樹脂成形体を得る際、型材の表面に水酸基などの官能基が存在すると縮合反応を生じ型に接合し脱型が困難となる。型表面にフッ素処理などを実施し脱型し易くする対応も可能であるが、高価である上、耐久性に乏しい膜が多く、メンテナンスも必要となる。
【0041】
型成形の場合、比較的表面に官能基が少なく鏡面加工が可能なアクリル樹脂、フッ素樹脂、または、オレフィン樹脂を用いて形状加工された型を使用することで脱型が容易にできる。上記の型へフッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体(E)を注型し、100℃以下で一定時間以上保持することで、脱型可能なフッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー硬化体(F)を得ることが可能である。型成型においては、熱硬化の温度は60℃以上100℃以下であることが好ましく、80℃以上100℃以下であることがより好ましく、80℃より高い温度であって100℃以下の温度であることがさらにより好ましい。その後、必要に応じて2次硬化することで、深紫外領域で耐光性を持った樹脂成形体を得ることができる。
【0042】
本発明においては、UV域、特に深紫外域で耐光性に優れた封止層または接着層、窓材、レンズとして使用でき、長期間にわたり深紫外線による変形、破断、変色、剥がれなどの特性劣化が生じない材料が提供可能となる。樹脂材によるUV-LED、特に深紫外線領域で使用可能な樹脂材によって、医療、光学、工業分野で紫外光を利用することが活発となり大きな効果を与えることができる。
【0043】
本発明を要約すると以下の通りである。
【0044】
(1)本発明に従ったフッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体は、少なくとも下記(A)と下記(B)との縮合反応生成物と、下記(C)と、触媒として下記(D)とを少なくとも含む混合物の縮合反応生成物であって、ケイ素に直結されたフッ素原子を1つ以上含有している。
(A)両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンであって、数平均分子量(Mn)が10,000より大きく60,000未満のもの。
(B)テトラアルコキシシランのオリゴマーであって、直鎖状で4量体~10量体であり、アルコキシ基としてメトキシ基またはエトキシ基を有するもの。
(C)ケイ素に直結されたフッ素とアルコキシ基を有するシラン化合物。
(D)有機金属化合物。
【0045】
(2)本発明に従ったフッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体においては、混合物は(A)1モルに対して(C)を0.5~10モル含むことが好ましく、4~8モル含むことがさらに好ましい。
【0046】
(3)本発明に従った硬化体は、上記(1)または(2)に記載のフッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体を熱硬化させた硬化体であって、光透過率が、波長200~300nmで80%以上であることが好ましい。
【0047】
(4)本発明に従った硬化体の製造方法は、上記(1)または(2)に記載のフッ素含有縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体を、アクリル樹脂、フッ素樹脂、または、オレフィン系樹脂によって形成された型に入れ、100℃以下の温度で熱硬化させる工程を含む。
【実施例0048】
以下実施例を用い、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0049】
<フッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体(E)の作製>
攪拌装置、温度計、滴下ラインを取り付けた反応容器に、窒素ガスを十分に充満させた。このとき、窒素ガスとして、窒素ガス製造装置(ジャパンユニックス社製UNX-200)によって製造したものを用いた。
【0050】
次に、上記窒素ガスを十分に充満させた上記反応容器内に、両末端にシラノール基を有するPDMS(A)と、テトラアルコキシシランのオリゴマー(B)と、溶媒とを投入し、(A)と(B)が均質になるまで撹拌後、縮合触媒を投入し、120℃で1時間反応させた。その後室温まで自然放冷し、縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体を得た。その前駆体に、ケイ素に直結されたフッ素とアルコキシ基を有したシラン化合物(C)と触媒として有機金属化合物(D)を入れ、先ほど同じように窒素を充填し、透明になるまで混合したのち120℃で30分反応させ室温に自然冷却し、フッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体(E)を得た。
【0051】
使用した原料の質量とそれぞれのモル比(ポリジメチルシロキサン(A)1モルに対するモル数)は、表1(実施例1~9)と表2(比較例1~3)の通りである。
【0052】
【0053】
【0054】
使用した材料は以下のものであった。
【0055】
PDMS(A):Nusil社製PLY2-7630(数平均分子量(Mn)27100、分子量分布指数Mw/Mn=2.21)、Nusil社製PLY1-7630(数平均分子量(Mn)18800、分子量分布指数Mw/Mn=1.87)、Nusil製PRO―2369(数平均分子量(Mn)54300、分子量分布指数Mw/Mn=1.94)、JNC社製FM-9927(数平均分子量(Mn)35000、分子量分布指数Mw/Mn=1.10)、JNC社製FM-9925A(数平均分子量(Mn)10000、分子量分布指数Mw/Mn=1.10)を使用。
【0056】
シリケートオリゴマー(B):エチルシリケート、多摩化学工業株式会社製、シリケート40(テトラエトキシシランの直鎖状4~6量体であるオリゴマー、平均分子量745。130℃で2時間蒸留したものを使用。)
【0057】
フルオロアルキルシラン(C):トリエトキシフルオロシラン(アズマック
ス株式会社製)、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン(フッ素がケイ素に直結していない。アズマックス株式会社製)を使用。
【0058】
溶媒として、和光純薬製ターシャリーブタノールを使用。
【0059】
<フッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー硬化体(F)の作製>
アクリル樹脂に、直径2cm、深さ1cmのドーム凹形状を作製し、表面を研磨して型を作製した。この型に実施例1のフッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体(E)を注型し、温度と時間で脱型可能な条件を見出した。表3に結果を示す。
【0060】
【0061】
表3に示す結果から、100℃以下の温度で熱硬化させることによって、型に接着してしまうことを避けることができることがわかる。熱硬化の温度は60℃以上100℃以下であることが好ましく、80℃以上100℃以下であることがより好ましく、80℃より高い温度であって100℃以下の温度であることがさらにより好ましい。
【0062】
<光透過率の評価>
<評価用サンプルの作製>
10mm×20mm厚さ0.5mmの石英基板の上に、フッ素含有縮合型ポリジメチルシロキサンポリマー前駆体(E)を塗布し、真空脱泡を15分させ、その上に同サイズの石英基板を乗せ、80℃で30分間保持した後、220℃3時間で焼成させた。
【0063】
<258nmでの暴露試験>
上記方法で作成した実施例と比較例サンプルを、セン特殊光源株式会社製のSSP16-110を使って、低圧水銀ランプによる258nm・出力17mW/m2の照度にて、1000時間まで連続照射を実施し、外観と265nmでの透過率の変化を初期から500時間、1000時間で比較した。結果を表4に示す。
【0064】
【0065】
表4の結果より、いずれの実施例でも265nmで90%以上の高い透過率を示しており、500時間の照射試験を終えても全ての実施例で90%以上の透過率を示し、1000時間の照射試験を終えてもほぼすべての実施例で90%以上の透過率を示した。一方、比較例1はゲル化し、比較例2は、初期の透過率は100%であったが、500時間の照射試験後にクラックが発生した。比較例3は、初期の透過率は90%を超えているが、500時間の照射試験後に透過率が87.6%まで低下した。
【0066】
[変更例]
本発明は上記実施例のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書の記載から当業者が認識することができる本発明の技術的思想に反しない限り、変更、削除および付加が可能である。また上記実施例においては、これに限定されるものではなく、異なった種類・特性の有機金属化合物を使用してもよい。