(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136731
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】内燃機関の排気制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/04 20060101AFI20240927BHJP
F01N 3/023 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F02D41/04
F01N3/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047943
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 信二
【テーマコード(参考)】
3G190
3G301
【Fターム(参考)】
3G190AA02
3G190AA16
3G190CA01
3G190DA01
3G190DB02
3G190DB05
3G190EA01
3G190EA14
3G190EA22
3G190EA26
3G190EA42
3G301HA11
3G301HA13
3G301JA15
3G301KA16
3G301KA21
3G301NA08
3G301ND02
3G301NE01
3G301NE06
3G301PA01
3G301PA07
3G301PA10
3G301PB10
3G301PD11
3G301PD14
3G301PE01
3G301PE06
3G301PE08
(57)【要約】
【課題】排気通路内の煤を自動的に除去し、エンジン性能を確保しつつ利便性を高められる内燃機関の排気制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関1の排気制御装置20は、内燃機関1の排気通路3内に存在する煤の量を推定煤量として算出する算出部21と、算出部21で算出された推定煤量が所定量を超えた場合に、内燃機関1の排気流量を増大させて排気通路3内の煤を除去する煤除去制御を行う第一制御部22と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路内に存在する煤の量を推定煤量として算出する算出部と、
前記推定煤量が所定量を超えた場合に、前記内燃機関の排気流量を増大させて前記煤を除去する煤除去制御を行う第一制御部と、を備えた
ことを特徴とする、内燃機関の排気制御装置。
【請求項2】
前記第一制御部は、前記煤除去制御において、前記内燃機関の回転数を増加させることで前記排気流量を増大させる
ことを特徴とする、請求項1記載の内燃機関の排気制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関と、
前記内燃機関と駆動輪とを繋ぐ動力伝達経路上に介装されたクラッチと、
前記内燃機関の吸気通路に介装され、吸気を過給する過給機と、を備えた車両に適用される前記排気制御装置であって、
前記第一制御部は、アクセルオフでの減速時には、前記煤除去制御において、前記クラッチの切断状態で前記内燃機関の回転数を増加させるとともに前記過給機の過給圧を高めることで前記排気流量を増大させる
ことを特徴とする、請求項2記載の内燃機関の排気制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関と、
前記内燃機関と駆動輪とを繋ぐ動力伝達経路上に介装されたクラッチと、を備えた車両に適用される前記排気制御装置であって、
前記第一制御部は、アクセル開度が0以外の略一定の走行時に、前記煤除去制御において、シフトダウンして前記クラッチを接続することで前記内燃機関の回転数を増加させて前記排気流量を増大させる
ことを特徴とする、請求項2又は3記載の内燃機関の排気制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関には、前記排気通路に介装され、前記内燃機関の排気に含まれる粒子状物質を捕集するフィルタが設けられ、
所定の第一開始条件が成立した場合に、前記内燃機関の排気温度を高めて前記フィルタに捕集された前記粒子状物質を焼却する再生制御を実施する第二制御部を備え、
前記第二制御部は、前記第一制御部により前記煤除去制御が実施された場合には、前記第一開始条件を緩和した第二開始条件が成立した場合に前記再生制御を開始する
ことを特徴とする、請求項1記載の内燃機関の排気制御装置。
【請求項6】
前記第二制御部は、前記第二開始条件の成立に従い開始した第二の前記再生制御では、前記第一開始条件の成立に従い開始する通常の前記再生制御と比較して、前記排気温度の目標値を低くする
ことを特徴とする、請求項5記載の内燃機関の排気制御装置。
【請求項7】
前記第二制御部は、前記第二の再生制御では、前記通常の再生制御と比較して、当該制御の実施時間を長くする
ことを特徴とする、請求項6記載の内燃機関の排気制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、内燃機関(以下、「エンジン」ともいう)の排気通路内に存在する煤を除去する制御を行う排気制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両や船舶等に搭載されるエンジンの排気は、排気通路を通じて車外や船外等に排出されるが、この排気には煤が含まれているため、エンジンの作動時間や作動形態によっては、排気通路を含む排気系に煤が堆積していくことが知られている。例えば特許文献1には、排気の一部を吸気に還流させるEGR配管の内壁に、煤が堆積しているか否かを判定する技術が開示されている。この技術では、煤の堆積状況を推定し、堆積していると判定した場合には、ドライバに対して、ランプ点灯等で、その旨を知らせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1の技術では、煤の堆積状況を知らせるのみであるため、煤の堆積状況を知ったドライバが適切な対応をとる必要があり、ドライバの負担が大きい。そのため、排気通路内に存在する(堆積する)煤の量を把握し、自動的に(ドライバの手を煩わせることなく)煤を除去することができれば、エンジン性能を確保しつつ利便性の向上を図れる。
【0005】
本件は、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、排気通路内の煤を自動的に除去し、エンジン性能を確保しつつ利便性を高めることを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の内燃機関の排気制御装置は、以下に開示する態様(適用例)として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。態様2以降の各態様は、何れもが付加的に適宜選択されうる態様であって、何れもが省略可能な態様である。態様2以降の各態様は、何れもが本件にとって必要不可欠な態様や構成を開示するものではない。
【0007】
態様1.開示する内燃機関の排気制御装置は、内燃機関の排気通路内に存在する煤の量を推定煤量として算出する算出部と、前記推定煤量が所定量を超えた場合に、前記内燃機関の排気流量を増大させて前記煤を除去する煤除去制御を行う第一制御部と、を備えている。
態様2.上記の態様1において、前記第一制御部は、前記煤除去制御において、前記内燃機関の回転数を増加させることで前記排気流量を増大させることが好ましい。
【0008】
態様3.上記の態様2において、前記排気制御装置は、前記内燃機関と、前記内燃機関と駆動輪とを繋ぐ動力伝達経路上に介装されたクラッチと、前記内燃機関の吸気通路に介装され、吸気を過給する過給機と、を備えた車両に適用される前記排気制御装置であることが好ましい。この場合、前記第一制御部は、アクセルオフでの減速時には、前記煤除去制御において、前記クラッチの切断状態で前記内燃機関の回転数を増加させるとともに前記過給機の過給圧を高めることで前記排気流量を増大させることが好ましい。
【0009】
態様4.上記の態様2又は3において、前記排気制御装置は、前記内燃機関と、前記内燃機関と駆動輪とを繋ぐ動力伝達経路上に介装されたクラッチと、を備えた車両に適用される前記排気制御装置であることが好ましい。この場合、前記第一制御部は、アクセル開度が0以外の略一定の走行時に、前記煤除去制御において、シフトダウンして前記クラッチを接続することで前記内燃機関の回転数を増加させて前記排気流量を増大させることが好ましい。
【0010】
態様5.上記の態様1~4のいずれかにおいて、前記内燃機関には、前記排気通路に介装され、前記内燃機関の排気に含まれる粒子状物質を捕集するフィルタが設けられることが好ましい。この場合、前記排気制御装置は、所定の第一開始条件が成立した場合に、前記内燃機関の排気温度を高めて前記フィルタに捕集された前記粒子状物質を焼却する再生制御を実施する第二制御部を備え、前記第二制御部は、前記第一制御部により前記煤除去制御が実施された場合には、前記第一開始条件を緩和した第二開始条件が成立した場合に前記再生制御を開始することが好ましい。
【0011】
態様6.上記の態様5において、前記第二制御部は、前記第二開始条件の成立に従い開始した第二の前記再生制御では、前記第一開始条件の成立に従い開始する通常の前記再生制御と比較して、前記排気温度の目標値を低くすることが好ましい。
態様7.上記の態様6において、前記第二制御部は、前記第二の再生制御では、前記通常の再生制御と比較して、当該制御の実施時間を長くすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
開示の内燃機関の排気制御装置によれば、排気流量を増大させることで煤を吹き飛ばすことができるため、自動的に(ドライバの手を煩わせることなく)煤を除去でき、エンジン性能を確保しつつ利便性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る排気制御装置を備えた内燃機関を示す模式図である。
【
図2】
図1の排気制御装置で実施される煤除去制御のフローチャート例である。
【
図3】
図1の排気制御装置で実施される再生制御のフローチャート例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して、実施形態としての内燃機関(以下、「エンジン」ともいう)の排気制御装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0015】
[1.装置構成]
本実施形態の内燃機関(以下、「エンジン」ともいう)は、図示しない車両に搭載される。この車両は、駆動源としてのエンジンが搭載されたエンジン自動車、あるいは、駆動源としてのエンジン及びモータと発電装置としてのジェネレータと蓄電装置としてのバッテリ(電池パック)とが搭載されたハイブリッド自動車(ハイブリッド電気自動車,HEV,Hybrid Electric Vehicle)またはプラグインハイブリッド自動車(プラグインハイブリッド電気自動車,PHEV,Plug-in Hybrid Electric Vehicle)である。プラグインハイブリッド自動車とは、バッテリに対する外部充電またはバッテリからの外部給電が可能なハイブリッド自動車を意味する。プラグインハイブリッド自動車と電気自動車とには、外部充電設備からの電力が送給される充電ケーブルを差し込むための充電口(インレット)や外部給電用のコンセント(アウトレット)が設けられる。
【0016】
エンジンの種類はディーゼルエンジンであってもよいし、ガソリンエンジンであってもよい。エンジンの気筒数や気筒の配置,燃料噴射形態(直噴,ポート噴射),吸気弁や排気弁のバルブリフト量及びバルブタイミングを変更する機構の有無なども、特に限られない。また、排気の一部を吸気通路に還元するEGRシステム(高圧EGRシステム,低圧EGRシステム)の有無も特に限られない。以下の説明では、多気筒の直噴ディーゼルエンジンであって、高圧EGRシステムを備えたものを例示する。
【0017】
図1に示すように、エンジン1は、吸気通路2と排気通路3とを備え、これらの通路2,3に介装された各種機器とセンサ類を備える。本実施形態のエンジン1は、吸気通路2と排気通路3とに跨って介装された過給機4を備える。エンジン1の吸気通路2には、上流側から順に、エアクリーナ5(エアフィルタ),過給機4のコンプレッサ(図示略),インタークーラ6,スロットルバルブ7,サージタンク8が介装される。また、エンジン1の排気通路3には、上流側から順に、過給機4のタービン(図示略),触媒9及びフィルタ10が介装される。触媒9及びフィルタ10は排気浄化装置の一例であり、ケーシングに内蔵される。
【0018】
本実施形態の過給機4は、排気圧を利用して吸気を過給する機器であり、排気圧(排気のエネルギ)によってタービンを回転させ、タービンと同軸上に設けられたコンプレッサで吸気(空気)を圧縮して、高圧の吸気をエンジン1の気筒へ送り込む。本実施形態の過給機4はさらに、過給圧(吸気圧力)を制御可能な可変容量ターボチャージャである。すなわち、過給機4のタービンのタービンブレードに複数の可変ベーンが付設されており、アクチュエータ4Aにより可変ベーンの開度を調整,変更することで過給圧を制御可能となっている。なお、アクチュエータ4Aの作動状態は、後述する制御装置20により制御される。
【0019】
吸気通路2に導入された吸気は、エアクリーナ5で濾過され、過給機4のコンプレッサにより圧縮されたのち、インタークーラ6で冷却される。さらにその後、吸気は、スロットルバルブ7により流量が調整されるとともに、サージタンク8において一時的に溜められた後、吸気ポート側へと流れる。
【0020】
一方、エンジン1の排気ポートから排出された排気は、過給機4のタービンを回したのち、触媒9において、排気に含まれる炭化水素(HC)成分や一酸化炭素(CO),窒素酸化物(NOx)等が浄化される。さらにその後、排気は、フィルタ10において、排気に含まれる煤等の粒子状物質(Particulate Matter,PM)が捕集されたのち、車外へと排出される。なお、排気通路3上に介装される排気浄化装置は触媒9及びフィルタ10に限られず、いずれか一方だけでもよいし、これら以外の触媒(酸化触媒,三元触媒,NOxトラップ触媒)が設けられてもよい。
【0021】
本実施形態のエンジン1は、排気の一部を吸気側へと還流させるEGRシステム11を有する。EGRシステム11は、排気通路3における過給機4よりも上流側(排気ポート側)と、吸気通路2における過給機4よりも下流側(吸気ポート側)とを繋ぐEGR通路12を有する。すなわち、このEGRシステム11は高圧EGRシステムである。EGR通路12上には、EGRガス量(還流させる排気流量)を調整するEGRバルブ13と、EGRガスを冷却するEGRクーラ14とが介装される。EGRバルブ13を閉弁することでEGRガス量が0となり、排気ポートから排出された排気がすべて下流側へと流れる。一方、EGRバルブ13の開度を大きくするほどEGRガス量が増え、その分、下流側へ流れる排気流量が減る。
【0022】
エンジン1には、運転状態に関する情報を取得するための各種センサが設けられる。本実施形態のエンジン1は、エンジン1の回転数を検出するエンジン回転数センサ30と、吸気系に設けられた吸気流量センサ31,吸気温度センサ32,吸気圧センサ33,EGR温度センサ34と、排気系に設けられた排気温度センサ35A,35B,35C,差圧センサ36とを有する。
【0023】
吸気流量センサ31及び吸気温度センサ32は過給機4の上流側に設けられ、吸気圧センサ33はスロットルバルブ7の下流かつEGR通路11の接続箇所の上流に設けられる。これらのセンサ31,32,33は、それぞれの設置位置における吸気の流量,温度,圧力をそれぞれ検出する。EGR温度センサ34はサージタンク8に設けられており、この位置での吸気(EGRガスが吸気通路2に導入された場合にはEGRガスを含む吸気)の温度を検出する。
【0024】
排気温度センサ35A,35B,35Cは、過給機4の下流側に設けられ、それぞれの設置位置における排気の温度を検出する。ここでは、触媒9の直上流と、フィルタ10の直上流及び直下流とのそれぞれに排気温度センサ35A,35B,35Cが配置された構成を例示する。差圧センサ36は、フィルタ10の上流圧力と下流圧力との差圧を検出する。これらのセンサ31~36で検出された情報は、制御装置20に送信される。
【0025】
本実施形態ではさらに、車両1の車速を検出する車速センサ37と、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ38とが設けられる。これらのセンサ37,38で検出された情報も、制御装置20に送信される。なお、これらのセンサはその配置も含めて一例である。また、これらのセンサの他に、エンジン1の運転状態や車両の状態を検出するセンサ(排気流量センサ,エンジン水温センサ,トルクセンサ,ブレーキセンサ等)が設けられてもよい。
【0026】
制御装置20(排気制御装置)は、エンジン1の運転状態を司る電子制御装置(コンピューター)であり、CPU,MPUなどのプロセッサ装置やROM,RAMなどのメモリ装置を集積した電子デバイスである。本実施形態の制御装置20は、車載ネットワークに接続されて、車両の状態(情報)を取得しうる。
【0027】
制御装置20は、排気通路3内に存在する煤の量が所定量を超えた場合に、その煤を除去する制御(以下、「煤除去制御」という)を実施する。すなわち、本実施形態のエンジン1及びこのエンジン1を備えた車両では、ドライバの手を煩わせることなく、制御装置20が自動的に煤を除去し、エンジン1の性能を確保する。また、本実施形態の制御装置20は、フィルタ10に堆積したPMを除去する必要がある場合に、フィルタ10の再生制御を実施する。
【0028】
[2.制御構成]
制御装置20は、上記の煤除去制御を実施するための機能要素として、算出部21及び煤除去制御部22(第一制御部)を有し、上記の再生制御を実施するため機能要素として、再生制御部23(第二制御部)を有する。これらの要素21~23は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0029】
[2-1.煤除去制御]
まず、煤除去制御について説明する。算出部21は、排気通路3内に存在する煤の量を推定煤量として算出するものである。排気ポートから排出される排気には煤が含まれており、排気が流れる過程で、その一部が排気通路3内に留まって堆積しうる。なお、ここでいう排気通路3内には、排気通路3の内壁のほか、過給機4のタービンに付設された可変ベーンの表面や、排気浄化装置のケーシングの内壁も含まれる。
【0030】
発明者による実験の結果、排気通路3内に溜まる煤の量は、おもに排気流量に依存することがわかった。具体的には、排気流量が0から所定流量までは、排気流量が多くなるほど溜まる煤の量が多くなり、この所定流量以降は、排気流量が多くなるほど溜まる煤の量が減少することがわかった。これは、排気流量が多いほど流速も高くなるため、所定流量を超えて以降は、排気に含まれる煤が排気通路3内に留まらなくなり、さらに、排気の勢いにより、排気通路3内に溜まり始めた煤が吹き飛ばされるようになるからである。
【0031】
したがって、算出部21は、排気流量に基づいて推定煤量を算出することが好ましい。この算出方法としては、例えば、排気流量と推定煤量との二次元マップを予め制御装置20に記憶しておき、実際の排気流量を二次元マップに適用してその時点での現在推定煤量を求め、これをエンジン1の作動時間(排気が流通する時間)のあいだ積算する方法が挙げられる。実際の排気流量は、吸気流量センサ31で検出された吸気流量,エンジン回転数センサ30で検出されたエンジン回転数,EGRバルブ13の開度情報などから算出可能である。あるいは、排気通路に排気流量センサを設けて、センサ値を取得してもよい。
【0032】
また、排気通路3内に溜まる煤の量は、そもそも排気に含まれる煤の量(排気中の煤の割合、以下、「スモーク濃度」という)によっても変化しうる。なお、スモーク濃度は、エンジン1の運転状態〔例えば、燃料噴射量(空燃比),エンジン水温など〕によって変化しうる。
【0033】
したがって、算出部21は、排気流量及びスモーク濃度に基づいて推定煤量を算出することがより好ましい。この算出方法としては、例えば、排気流量とスモーク濃度と推定煤量との三次元マップを予め制御装置20に記憶しておき、実際の排気流量及びスモーク濃度を三次元マップに適用してその時点での推定煤量を求め、これをエンジン1の作動時間(排気が流通する時間)のあいだ積算する方法が挙げられる。実際のスモーク濃度は、エンジン1の運転状態に基づき、数式やマップ等を用いて算出すればよい。
【0034】
あるいは、エンジン1の作動中に排出される煤の量及びスモーク濃度を固定値とみなし、エンジン1の作動時間のみから推定煤量を算出する方法も挙げられる。すなわち、算出部21が、エンジン1の作動時間(タイマーカウント値)のみに基づいて推定煤量を算出してもよい。この方法であれば、上記の二つの方法と比較して、算出精度は劣るものの、排気流量の演算や検出,スモーク濃度の演算,二次元マップや三次元マップといった情報が不要となるため、簡素化が可能である。
【0035】
なお、算出部21は、排気の勢いにより排気通路3内の煤が吹き飛ばされるほどの排気流量が算出又は検出された場合、例えばエンジン1が高回転高負荷運転となった場合には、上記の積算した値及びタイマーカウント値を0にリセットすることが好ましい。これにより、通常のエンジン1の運転状態で排気通路3から煤が除去された場合には、煤除去制御が実施されないこととなり、不要な制御の実施が抑制される。
【0036】
煤除去制御部22は、算出部21で算出された推定煤量が所定量を超えた場合に、煤除去制御を実施するものである。煤除去制御では、エンジン1の排気流量を増大させることで、排気通路3内に堆積した煤を吹き飛ばして除去(排出)する。つまり、煤除去制御は、排気の流れ(勢い)を利用した物理的な方法である。この方法であれば、一時的に排気流量を増大させるだけでよいため、数秒程度で除去が完了する。吹き飛ばされた煤は、下流側に位置するフィルタ10で捕集されうる。なお、フィルタ10が存在しない場合には、吹き飛ばされた煤がテールパイプからそのまま排出される。
【0037】
煤除去制御の開始条件は、推定煤量が所定量を超えることである。この所定量は予め設定された固定値でもよいし、エンジン1の作動状態や車両の状態に応じて変更されうる可変値であってもよい。所定量は、例えば、フィルタ10を備えている場合には、フィルタ10で捕集可能なPMの量(フィルタ10の容量)を超えない値に設定され、フィルタ10を備えていない場合には、テールパイプからの黒煙吐出を確実に防止できる値に設定される。
【0038】
煤除去制御において排気流量を増大させる方法としては、以下の三つが挙げられる。
方法1.エンジン回転数を増加させる
方法2.過給圧を高める
方法3.EGRバルブ13を閉じる(EGR開度=0とする)
以下、これらの方法について説明する。
【0039】
方法1は、エンジン1が備える機器(過給機4及びEGRシステム11)によらず実施可能な方法である。方法2は、エンジン1が過給機4を備える場合に実施可能な方法である。方法3は、エンジン1が、高圧のEGRシステム11を備える場合に実施可能な方法である。煤除去制御部22は、これらの方法1~3を単独使用も併用も可能であり、好ましくは、方法1を使用し、且つ、エンジン1が備える機器に応じて方法2及び3の一方又は双方も併用する。
【0040】
本実施形態の煤除去制御部22は、方法1を使用し、状況に応じて方法2を併用する。すなわち、煤除去制御部22は、まずはエンジン回転数を増加させることで排気流量の増大を図る。エンジン回転数を増加させる方法としては、以下の二つが挙げられる。
方法1-1.クラッチの切断状態で燃料噴射量を増やす
方法1-2.シフトダウンしてクラッチを接続状態とする
【0041】
ここでいうクラッチとは、エンジン1と車両の駆動輪とを繋ぐ動力伝達経路上に介装された動力断接機構であり、クラッチが接続されていればエンジン1の動力が駆動輪に伝達され、クラッチが切断されるとエンジン1の動力が駆動輪に伝達されない。クラッチの断接状態は、制御装置20(例えば、煤除去制御部22)により制御されてもよいし、制御装置20とは別の電子制御装置により制御されるとともにその断接状態が制御装置20に伝達されてもよい。制御装置20は、少なくともクラッチの断接状態を把握できればよい。
【0042】
煤除去制御部22は、車両の走行状態(より具体的には、アクセル開度)に応じて、上記の方法1-1又は方法1-2を択一的に選択して煤除去制御を実施する。これは、方法1-1ではクラッチが切断された状態であるため、エンジン1の動力が駆動輪に伝達されなくなっても問題ない(走行に影響しない)状況、すなわちアクセルオフでの減速時でなければならないからである。
【0043】
したがって、本実施形態の煤除去制御部22は、アクセルオフ(アクセル開度が0)の減速時に、方法1-1を選択する。以下、アクセルオフでの減速時に実施される煤除去制御を「第一煤除去制御」ともいう。アクセルオフの状態では、ドライバの要求トルク(おもにアクセル開度)に基づく制御を実施するだけではエンジン回転数は下がっていくが、第一煤除去制御により、クラッチが切断された状態で燃料噴射量を増やすため、強制的に(ドライバの意思であるアクセル開度とは関係なく)エンジン回転数が高められる。
【0044】
本実施形態の煤除去制御部22は、さらにこの場合(すなわち方法1-1を選択した場合)、上記の方法2を併用する。つまり、煤除去制御部22は、第一煤除去制御において、クラッチの切断状態でエンジン回転数を増加させるとともに過給機4の過給圧を高めることで排気流量を増大させる。これにより、走行に影響を与えることなく排気流量が一時的に増量され、排気通路3内の煤が効率的に除去される。なお、煤除去制御部22は、このタイミングで方法3も併用してもよい。EGRバルブ13を閉じることで、増量した排気の全てが煤除去のために使用される。
【0045】
過給圧を高める方法としては、以下の三つが挙げられる。
方法2-1.燃料噴射時期を遅角し、排気エネルギーを過給機に供給する
方法2-2.可変容量ターボチャージャの場合、可変ベーンの開度を小さくする
方法2-3.電気式ターボチャージャの場合、電力でタービンを回す
いずれの方法も、吸気流量を増大させることで、結果的に排気流量を増大させる方法である。
【0046】
方法2-1は、過給機4の種類によらず実施可能な方法である。燃料の噴射時期を遅角することで、エンジン出力として使用されなかったエネルギー(ピストンを押し下げることに使用されなかったエネルギー)が排気ポートから排出される。この排気エネルギーを過給機4で使うことで過給圧を高めて、吸気流量を増大させる。方法2-2は、過給機4が可変容量ターボチャージャの場合に実施可能な方法であり、可変ベーンの開度を小さくすることでタービンブレードの回転数が増し、吸気流量を増大させる。方法2-3は、過給機4が電気式ターボチャージャ(電動過給機)の場合に実施可能な方法であり、電力を使ってタービンブレードの回転速度を高めることで吸気流量を増大させる。なお、電動過給機の場合には、エンジン1の吸気通路に介装され、排気圧の代わりに電力を利用してタービンを回す。方法2-1~2-3は単独使用が可能であり、方法2-1のみ、方法2-2又は2-3と併用が可能である。
【0047】
煤除去制御部22は、アクセル開度が0以外で略一定の走行時には、上記の方法1-2を選択する。以下、アクセル開度が0以外で略一定の走行時に実施される煤除去制御を「第二煤除去制御」ともいう。アクセルオフではなく加速もしていない定常走行時には、クラッチの切断状態を維持できないことから、煤除去制御部22は、シフトダウンしてクラッチを接続状態とすることによりエンジン回転数を増加させる。第二煤除去制御では、クラッチ接続状態で煤を除去でき、且つ、燃料噴射量を増やすことなくエンジン回転数を増加させることが可能である。ただし、方法1-2におけるシフトダウンに伴うエンジン回転数の増加量には限度がある。方法1-2では走行状態を維持しなければならない、すなわち、シフトダウン前とシフトダウン後で車速が急変しないようにしなければならないためである。よって、シフトダウンに伴うエンジン回転数の増加量は、クラッチを切断しての燃料噴射量によるエンジン回転数の増加量よりも小さくなる。そのため、方法1-1の方が方法1-2に比べて、煤を除去する能力は高い。
【0048】
なお、アクセルペダルが踏み込まれるような加速時には、その加速に伴いエンジン回転数が増加して排気流量が増大する。すなわち、加速時にはそもそも排気通路3内の煤が吹き飛ばされる可能性が高いため、上記の方法1-1及び1-2のいずれも選択されず、煤除去制御が実施されない。
【0049】
[2-2.再生制御]
次に、再生制御について説明する。再生制御とは、排気温度を高めて、フィルタ10に捕集されたPMを焼却し、フィルタ10の機能(能力)を再生させる制御である。つまり、再生制御は、排気中の酸素を利用して酸化反応させる化学的な方法である。この方法では、排気温度を上昇させる必要があるため、煤除去制御よりも時間を要し、例えば数分~数十分程度で除去が完了する。
【0050】
再生制御は、エンジン1の運転状態がフィルタ10の再生に適した状態であり、かつ、所定の第一開始条件が成立した場合に、開始される。前者の条件(実施可能条件)は、例えば以下の条件A~Cのいずれかに基づいて確認することができる。同様に後者の条件(第一開始条件)は、例えば条件D~Fのいずれかに基づいて確認することができる。
【0051】
条件A.エンジン回転数が規定値以下である
条件B.スロットル開度が規定開度以下である
条件C.エンジン水温が規定温度以上である
条件D.PM堆積量が規定量以上である
条件E.フィルタ10の上流圧力と下流圧力との差圧が規定値以上である
条件F.前回の再生制御の終了から所定時間が経過した
【0052】
再生制御部23は、例えば条件A~Cの少なくともいずれか一つ以上(好ましくは三つすべての条件)が成立する場合に、再生制御を実施することが可能な状態である(実施可能条件を満たす)と判断する。また、再生制御部23は、例えば条件D~Fの少なくともいずれか一つ以上が成立する場合に、再生制御の第一開始条件が成立したと判断する。再生制御部23は、実施可能条件及び第一開始条件の双方が成立したと判断した場合に再生制御を開始し、少なくとも一方の条件が成立しないと判断した場合には再生制御を実施しない。
【0053】
なお、エンジン回転数,エンジン水温,フィルタ10の差圧は各種センサから取得可能であり、スロットル開度はスロットルバルブ7を制御する制御装置(制御装置20や他の制御装置)から取得可能である。また、PM堆積量は、エンジン1の運転状態などから演算(推定)可能である。
【0054】
本実施形態の再生制御部23は、煤除去制御部22により煤除去制御が実施された場合には、上記の第一開始条件を緩和した第二開始条件が成立した場合に再生制御を開始する。すなわち、第二開始条件は第一開始条件より再生制御が開始され易い条件として設定される。これは、煤除去制御が実施されて煤が吹き飛ばされると、多くの煤(PM)がフィルタ10に付着し、目詰まりを起こす可能性が高まるためである。つまり、煤除去制御の実施後は、再生制御が実施されやすくなるようにすることで、フィルタ10の機能低下を抑制する。
【0055】
第二開始条件は、例えば、上記の条件D~Fを緩和した条件d~fの少なくともいずれか一つが成立することである。
条件d.PM堆積量が第二規定量(<規定量)以上である
条件e.差圧が第二規定値(<規定値)以上である
条件f.前回の再生制御の終了から第二所定時間(<所定時間)が経過した
【0056】
あるいは、再生制御部23は、推定したPM堆積量を増量補正したり、差圧を増大補正したりしたのち、上記の条件D~Fを満たすか否かを判断することにより、第一開始条件を緩和してもよい。このように、条件D~Fの規定量や規定値等を変更する代わりに、規定量や規定値等と比較する値を補正することで第二開始条件としてもよい。以下、特に区別する場合には、第一開始条件(緩和されていない開始条件)が成立した場合に開始される再生制御を「通常の再生制御」といい、第二開始条件が成立した場合に開始される再生制御を「第二の再生制御」という。
【0057】
再生制御部23は、第二の再生制御では、通常の再生制御と比較して、排気温度の目標値(目標排気温度)を低くする。上記の通り、再生制御では、排気温度を高めて、フィルタ10に捕集されたPMを焼却させるが、第二の再生制御では、通常の再生制御と比べて多量のPMが燃えることが予想されるため、フィルタ10が高温になりすぎる可能性がある。そこで、再生制御部23は、第二の再生制御での目標排気温度を、通常の再生制御での目標排気温度よりも低くする。これにより、フィルタ10の過度な温度上昇が抑制される。
【0058】
また、再生制御部23は、第二の再生制御では、通常の再生制御と比較して、制御の実施時間を長くする。これは、第二の再生制御では目標排気温度を低めにするため、フィルタ10に捕集されたPMが全て焼却されず、一部が燃え残る可能性が生じるが、この可能性をなくすためである。つまり、目標排気温度を抑えた分、長めに制御を実施することで、燃え残りをなくし、フィルタ10の再生を確実に行う。なお、再生制御の実施時間は、予め設定された固定値でもよいし、再生制御中に検出又は推定された差圧やPM堆積量などから決まる可変値でもよい。いずれにしても、第二の再生制御では、この実施時間が増大補正される。
【0059】
[3.フローチャート]
図2は、上記の煤除去制御を説明するためのフローチャート例であり、
図3は、上記の再生制御を説明するためのフローチャート例である。これら二つのフローチャートは、いずれも制御装置20において実施されるが、個別に、所定の演算周期で実施される。ただし、二つのフローチャート間において、後述するフラグFの値は互いに共有される。
【0060】
まず、煤除去制御を説明する。
図2に示すように、ステップS1では、各種センサ情報が取得され、ステップS2では、算出部21が、取得された情報に基づいて推定煤量を算出する。ステップS3では、推定煤量が第一所定量(請求項における所定量)を超えているか否かが判定され、第一所定量以下であればフローをリターンする。この場合は、次の演算周期以降において、ステップS1~S3が繰り返される。このように、推定煤量を常に算出することで、最新の推定煤量を用いて、煤除去制御の要否を判定可能である。例えば、推定煤量が第一所定量に近づいていたとしても、加速によって排気通路3内の煤が自然と吹き飛ばされたような場合には、ステップS2での推定煤量の値が小さくなるため、煤除去制御の実施が保留される。
【0061】
ステップS3において、推定煤量が第一所定量を超えた場合は、ステップS4において、アクセルオフであるか否かが判定される。アクセルオフである場合は、第一煤除去制御を実施可能であるため、ステップS5においてクラッチが切断状態とされ、第一煤除去制御が実施される(ステップS6)。具体的には、燃料噴射量を増やすことでエンジン回転数を増加させ(方法1-1)、方法2-1~2-3の少なくとも一つを使って過給圧を高める。また、このとき、EGRバルブ13を閉じてもよい。
【0062】
第一煤除去制御が終了したら、ステップS7においてクラッチが接続状態とされる。そして、ステップS10において、フラグFがF=1に設定されて、このフローをリターンする。フラグFは、第二の再生制御を実施すべきか否かを判断するためのものであり、煤除去制御の実施直後にF=1に設定され、再生制御が実施されるとF=0にリセットされる。推定煤量やフラグFの値は、車両の主電源がオンからオフにされたとしてもリセットされずに、次に主電源がオンにされたときに引き継がれることが好ましい。これにより、フィルタ10の性能低下が抑制される。
【0063】
一方、ステップS4において、アクセルオフではないと判断された場合は、ステップS8に進み、ステップS2で算出された推定煤量が第二所定量以上であるか否かが判定される。推定煤量が第二所定量未満であればこのフローをリターンし、再びステップS1から処理が開始される。つまり、推定煤量が第一所定量を超えていても、アクセルオフにならない限りは第一煤除去制御は開始されない。このため、例えば、高速道路などで定常走行が長時間続くような場合には、排気通路3内の煤を除去できないことになる。ステップS8の判定は、このように第一煤除去制御を実施できない状況が長く続いた場合に、第二煤除去制御を実施するための処理である。ステップS8の第二所定量は、ステップS3の第一所定量よりも大きな値に予め設定されている。
【0064】
ステップS8において、推定煤量が第二所定量以上となった場合は、ステップS9に進み、第二煤除去制御が実施される。具体的には、クラッチを切断した後速やかにシフトダウンし、クラッチを再接続することでエンジン回転数を増加させつつ駆動軸にエンジン出力を伝達する(方法1-2)。なお、第二煤除去制御では、過給圧を高めることができないが、EGRバルブ13を閉じてもよい。第二煤除去制御が終了したら、ステップS10に進み、フラグFがF=1に設定されて、このフローをリターンする。
【0065】
次に、再生制御を説明する。
図3に示すように、ステップR1では、各種センサ情報が取得され、ステップR2では、フラグFがF=0であるか否かが判定される。フラグFがF=0である場合、すなわち、煤除去制御を実施した後でない場合は、ステップR3に進み、再生制御の第一開始条件が成立するか否かが判定される。第一開始条件が成立しなければこのフローをリターンし、第一開始条件が成立する場合は、ステップR4において通常の再生制御が実施される。通常の再生制御が終了したら、ステップR7に進み、フラグFがF=0のままとされ、このフローをリターンする。
【0066】
一方、ステップR2において、フラグFがF=1である場合、すなわち、煤除去制御を実施した後である場合は、ステップR5に進み、再生制御の第二開始条件が成立するか否かが判定される。第二開始条件が成立しなければこのフローをリターンし、第二開始条件が成立する場合は、ステップR6において第二の再生制御が実施される。第二の再生制御が終了したら、ステップR7に進み、フラグFがF=0にリセットされ、このフローをリターンする。
【0067】
[4.作用,効果]
(1)上述した制御装置20では、算出部21が排気通路3内に存在する煤の量を推定煤量として算出し、煤除去制御部22が、算出された推定煤量が所定量を超えた場合に、エンジン1の排気流量を増大させて煤を除去する煤除去制御を実施する。このように、排気流量を増大させることで煤を吹き飛ばすことができるため、自動的に(言い換えると、ドライバの手を煩わせることなく)煤を除去でき、エンジン性能を確保しつつ利便性を高めることができる。また、煤が所定量を超えて排気通路3内に溜まる前に煤を除去することで、大量の煤が一気に放出されることを抑制できる。これにより、排気通路3内に溜まった煤が黒煙となって排出されることを防止できる。
【0068】
(2)上記の煤除去制御部22は、煤除去制御において、エンジン回転数を増加させることで排気流量を増大させる。このため、エンジン1が備える機器によらず、簡単な方法で排気流量を増大させることができ、煤を吹き飛ばすことができる。
【0069】
(3)また、上述した制御装置20は、過給機4を備えたエンジン1及びクラッチを備えた車両に適用されるものであり、上記の煤除去制御部22は、アクセルオフでの減速時に第一煤除去制御を実施する。具体的には、クラッチの切断状態でエンジン回転数を増加させるとともに過給機4の過給圧を高めることで排気流量を増大させる。つまり、減速時にクラッチが切断状態となると、エンジン1の出力が駆動輪に伝達されなくなるため、エンジン回転数を増加させるとともに過給圧を増やしても車両の走行状態に影響しない。このため、アクセルオフの減速時に第一煤除去制御を実施することで、排気流量を効率よく増大させ、効果的に煤を除去することができる。
【0070】
(4)また、上記の煤除去制御部22は、アクセル開度が0以外の略一定の走行時(定常走行時)に第二煤除去制御を実施する。具体的には、シフトダウンした後すぐにクラッチを接続状態とすることでエンジン回転数を増加させて排気流量を増大させる。つまり、アクセルペダルを略一定開度で踏んでいる走行状態では、クラッチが切断状態とならないため、シフトダウンすることによりエンジン回転数を上げる。これにより、走行に影響を与えないようにしつつ煤を除去することができる。
【0071】
また、上記実施形態のように、第一煤除去制御を実施できない状況が長く続いた時に第二煤除去制御を実施するようにすれば、排気通路3内の煤が黒煙となって排出されることを確実に防止でき、エンジン性能を確保することができる。
【0072】
(5)上述した制御装置20は、排気通路3にフィルタ10が介装されたエンジン1に適用されるものであり、煤除去制御とは別に、再生制御部23が、所定の第一開始条件が成立した場合に、エンジン1の排気温度を高めてフィルタ10に捕集されたPMを焼却する再生制御を実施する。この再生制御部23は、煤除去制御部22により煤除去制御が実施された場合には、第一開始条件を緩和した第二開始条件が成立した場合に再生制御を開始する。これは、煤除去制御によって吹き飛ばされた煤が、下流側に位置するフィルタ10に多く付着すると予想されるからである。このため、煤除去制御が実施された場合には再生制御が開始される条件を緩和することで、フィルタ10の目詰まりを防止でき、フィルタ10の機能の低下を防止できる。
【0073】
(6)上記の再生制御部23は、第二開始条件の成立に従い開始した第二の再生制御では、通常の再生制御と比較して、排気温度の目標値を低くする。第二の再生制御では、多量の煤を燃焼させることでフィルタ10が過度に温度上昇してしまう可能性があるが、第二の再生制御の目標排気温度を、通常の再生制御の目標排気温度よりも低くすることで、フィルタ10の過昇温を抑制でき、フィルタ10を保護することができる。
【0074】
(7)さらに、上記の再生制御部23は、第二の再生制御では、通常の再生制御と比較して、再生制御の実施時間を長くする。これにより、第二の再生制御において、排気温度の目標値を下げたとしても、再生時間を長くとることで、フィルタ10に捕集されたPMを確実に焼却でき、フィルタ10を再生させることができる。
【0075】
[5.その他]
上述したエンジン1の構成及び制御装置20の構成はいずれも一例である。例えば、フィルタ10を備えていないエンジンでもよいし、過給機4を備えていないエンジンでもよい。エンジン1がフィルタ10を備えていない場合、再生制御部23は省略してよい。あるいは、エンジン1が触媒9及びフィルタ10に加えて、他の触媒を備えている場合には、制御装置20が他の触媒に関する制御を実施してもよい。
【0076】
上記の煤除去制御部22は、第一煤除去制御と第二煤除去制御とを実施しているが、いずれか一方のみを実施してもよい。また、煤除去制御において、必ずしも、エンジン回転数を増加させる方法1を使用しなくてもよい。排気流量を増大させるためには、上述した様々な方法を単独使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0077】
なお、上述した実施形態では、エンジン1が車両に搭載される構成を例示したが、本件の適用対象を車両に限定する意図はない。例えば、船舶や航空機などに搭載されるエンジンに対して上述した制御装置20(排気制御装置)を適用してもよいし、発電機や産業用機械に内蔵されるエンジンに対して適用してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 エンジン(内燃機関)
2 吸気通路
3 排気通路
4 過給機
10 フィルタ
20 制御装置(排気制御装置)
21 算出部
22 煤除去制御部(第一制御部)
23 再生制御部(第二制御部)