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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136736
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
E04B1/58 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047950
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】廣嶋 哲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭一
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 唯一
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA12
2E125AA53
2E125AA62
2E125AB01
2E125AC15
2E125AE01
2E125AE11
2E125AE12
2E125AE15
2E125AE16
2E125AG08
2E125AG12
2E125BB08
2E125BD01
2E125BE01
2E125BF01
2E125CA02
2E125CA05
2E125CA14
2E125CA19
(57)【要約】
【課題】板状部材の移動に対する追従性を維持しつつ、H形断面部材の材軸方向の単位長さ当たりの接合部材の数を抑えて、H形断面部材の第1フランジ及び板状部材を、厚さ方向の向きによらず比較的高い一定の固定度で互いに接続することができる接合構造を提供する。
【解決手段】接合構造1Aは、板状部材10と、H形断面部材15と、H形断面部材の第1フランジ16及び板状部材を互いに接続する、金属製の複数の接合部材30と、を備え、複数の接合部材は、H形断面部材の材軸方向Xの所定の位置には、1つのみ配置され、複数の接合部材は、形断面部材のウェブ18よりも、ウェブの厚さ方向Yの第1側Y1に配置された第1接合部材21と、ウェブよりも厚さ方向の第2側Y2に配置された第2接合部材31と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部材と、
H形断面部材と、
前記H形断面部材の第1フランジ及び前記板状部材を互いに接続する、金属製の複数の接合部材と、を備え、
前記複数の接合部材は、前記H形断面部材の材軸方向の所定の位置には、1つのみ配置され、
前記複数の接合部材は、
前記H形断面部材のウェブよりも、前記ウェブの厚さ方向の第1側に配置された第1接合部材と、
前記ウェブよりも前記厚さ方向の第2側に配置された第2接合部材と、を有する、接合構造。
【請求項2】
前記材軸方向に隣り合う一対の前記接合部材は、前記第1接合部材及び前記第2接合部材を有する、請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記H形断面部材は、溶接軽量H形鋼であり、
前記複数の接合部材は、複数のドリルビスである、請求項1又は2に記載の接合構造。
【請求項4】
前記ウェブの前記厚さ方向の中心と、前記複数の接合部材との距離のそれぞれは、前記第1フランジの前記厚さ方向の長さの1/4以下である、請求項1又は2に記載の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、H形鋼(H形断面部材)の第1フランジ及び外壁材(板状部材)を、ビス(接合部材)により互いに接続した接合構造が知られている(例えば、特許文献1から4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-200137号公報
【特許文献2】特開2019-190102号公報
【特許文献3】特開2010-229758号公報
【特許文献4】特開2007-255055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、図20から図23を用いて、従来の接合構造6A,6Bについて説明する。接合構造6Bは、接合構造6Aと同様に構成されているため、以下では、接合構造6Aについて説明する。
図20及び図21に示すように、接合構造6Aは、外壁材10と、H形鋼15と、複数のビス20と、を備える。
図20に示すように、外壁材10は、外壁材10の厚さ方向に見たときに矩形状を呈する、平板状に形成されている。すなわち、外壁材10は、前記厚さ方向に見たときに、長辺及び短辺を有する矩形状を呈する。この例では、接合構造6Aは、複数の外壁材10を備える。複数の外壁材10は、短辺に沿う方向に並べて配置されている。
【0005】
図20及び図21に示すように、H形鋼15は、第1フランジ16と、第2フランジ17と、ウェブ18と、を有する。第1フランジ16及び第2フランジ17は、互いに対向するように配置されている。ウェブ18は、第1フランジ16及び第2フランジ17の間に配置されている。ウェブ18は、第1フランジ16の幅方向の中心、及び第2フランジ17の幅方向の中心にそれぞれ接続されている。
外壁材10は、第1フランジ16における第2フランジ17とは反対側の面に接触している。
【0006】
複数のビス20は、金属製である。複数のビス20は、H形鋼15の第1フランジ16及び外壁材10にそれぞれ挿通され、第1フランジ16及び外壁材10を互いに接続する。例えば、外壁材10には、円柱状のビス20が挿入される円柱状の孔が形成されている。
複数のビス20は、H形鋼15の材軸方向Xの所定の位置には、1つのみ配置されている。すなわち、複数のビス20は、ウェブ18の厚さ方向Yに重ならない。
厚さ方向Yは、第1フランジ16の幅方向、及び第2フランジ17の幅方向である。
【0007】
図20に示すように、複数のビス20は、ウェブ18よりも厚さ方向Yの第1側Y1(以下では、単に第1側Y1とも言う)に配置された第1ビス(第1接合部材)21のみを有する(以下では、ビス一列配置と言う)。つまり、接合構造6Aが備える複数のビス20は、全て第1ビス21であり、H形鋼15のウェブ18よりも第1側Y1に配置されている。第1側Y1は、H形鋼15の面外方向である。
接合構造6Bは、接合構造6Aに対して、厚さ方向Yにおける第1側Y1とは反対側の第2側Y2(以下では、単に第2側Y2とも言う)に並べて配置されている。
例えば、接合構造6A,6Bは、材軸方向Xが水平面に沿うように配置される。
【0008】
接合構造6A,6Bが施工されている建築物のある地域に地震が発生すると、建築物の地震応答による層間変形に伴い、図22に示すように、接合構造6A,6Bが移動する。なお、図22では、地震により、H形鋼15がウェブ18の厚さ方向Yに傾斜し、複数の外壁材10が第2側Y2に移動した状態を示している。
図22に示すように、複数のビス20は、H形鋼15の材軸方向Xの所定の位置には1つのみ配置され、外壁材10が各第1ビス21周りに回転できる。このため、地震によるH形鋼15の移動に対して、複数のビス20及び複数の外壁材10がH形鋼15から脱落せず、H形鋼15に追従できる。つまり、地震時の外壁材10の変形追従性の確保の観点から、このような複数のビス20の配置がなされている。
【0009】
一方で、地震時以外においては、接合構造6A,6Bには風荷重等の外力が作用する。外壁材10が受けた荷重は、複数のビス20を介してH形鋼15に伝達される。このような荷重条件において、作用する外力が大きくなると図23に示すように、接合構造6A,6BのH形鋼15に横座屈が生じる。
なお、図23では、外壁材10に負圧の風荷重(複数のビス20が引き抜かれる方向の荷重)が作用した場合を示している。
【0010】
この場合、図23に示すように、横座屈により第1フランジ16に対して第2フランジ17が、第1側Y1に、矢印F1で示すように移動し、外壁材10と第1フランジ16との接合部25に、H形鋼15の材軸方向X回りの曲げモーメントが作用する。外壁材10に接続される第1フランジ16の局部変形を伴いながら、H形鋼15が容易に変形してしまう。この場合、外壁材10とH形鋼15との第1ビス21による固定度は、比較的低い。
そのため、外壁材10によるH形鋼15に対する拘束効果を十分に発揮することができず、H形鋼15に横座屈が発生し易いという課題がある。
なお、図21において、複数のビス20が、H形鋼15のウェブ18よりも第2側Y2に配置されている場合について説明する。この場合には、第1フランジ16に対して第2フランジ17が第1側Y1に移動しようとするのに対しては固定度(固定強度)が上がるものの、H形鋼15の横座屈は、固定度の低い第2フランジ17が第2側Y2に移動する方向に生じてしまう。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、地震時におけるH形断面部材の移動に対する板状部材の追従性を維持しつつ、H形断面部材の材軸方向の単位長さ当たりの接合部材の数を抑えて、H形断面部材の第1フランジ及び板状部材を、厚さ方向の向きによらず一定の比較的高い固定度で互いに接続することができる接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1は、板状部材と、H形断面部材と、前記H形断面部材の第1フランジ及び前記板状部材を互いに接続する、金属製の複数の接合部材と、を備え、前記複数の接合部材は、前記H形断面部材の材軸方向の所定の位置には、1つのみ配置され、前記複数の接合部材は、前記H形断面部材のウェブよりも、前記ウェブの厚さ方向の第1側に配置された第1接合部材と、前記ウェブよりも前記厚さ方向の第2側に配置された第2接合部材と、を有する、接合構造である。
【0013】
この発明では、複数の接合部材は材軸方向の所定の位置には1つのみ配置されているため、例えば地震時において、板状部材に対してH形断面部材及び複数の接合部材が移動しても、板状部材が複数の接合部材及びH形断面部材から脱落せず、H形断面部材の移動に対する板状部材の追従性を維持することができる。
複数の接合部材は、材軸方向の所定の位置には1つのみ配置されるため、H形断面部材の材軸方向の単位長さ当たりの接合部材の数を抑えられる。
また、複数の接合部材は第1接合部材及び第2接合部材をそれぞれ有するため、H形断面部材の第2フランジが、厚さ方向の第1側及び厚さ方向の第2側のいずれに移動する場合でも、第1接合部材の固定度及び第2接合部材の固定度の平均値程度となる比較的高い一定の固定度で、H形断面部材の第1フランジ及び板状部材を互いに接続することができる。
【0014】
(2)本発明の態様2は、前記材軸方向に隣り合う一対の前記接合部材は、前記第1接合部材及び前記第2接合部材を有する、(1)に記載の接合構造であってもよい。
この発明では、材軸方向において、H形断面部材の第1フランジ及び板状部材が接続される固定度を、より一定にすることができる。
【0015】
(3)本発明の態様3は、前記H形断面部材は、溶接軽量H形鋼であり、前記複数の接合部材は、複数のドリルビスである、(1)又は(2)に記載の接合構造であってもよい。
この発明では、溶接軽量H形鋼の第1フランジの厚さは、一般的なH形鋼の第1フランジの厚さよりも薄いため、複数のドリルビスを第1フランジに打ちやすくすることができる。また、複数の接合部材として、ドリルビスを用いることで、板状部材や溶接軽量H形鋼の第1フランジに予め孔をあけておく必要がなくなり、高い施工性を確保することができる。
【0016】
(4)本発明の態様4は、前記ウェブの前記厚さ方向の中心と、前記複数の接合部材との距離のそれぞれは、前記フランジの前記厚さ方向の長さの1/4以下である、(1)から(3)のいずれか一に記載の接合構造であってもよい。
この発明では、H形断面部材の第1フランジ及び板状部材が接続される固定度をより高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の接合構造では、地震時におけるH形断面部材の移動に対する板状部材の追従性を維持しつつ、H形断面部材の材軸方向の当たりの接合部材の数を抑えて、H形断面部材の第1フランジ及び板状部材を、厚さ方向の向きによらず一定の比較的高い固定度で互いに接続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態の接合構造が用いられる建築物の、一部を破断した斜視図である。
図2】同建築物の要部の正面図である。
図3図2における切断線A6-A6の横座屈変形時の断面図である。
図4】固定度を検討するための接合構造の解析モデルを示す斜視図である。
図5】H形鋼の寸法を説明する断面図である。
図6】解析ケースに対する回転剛性の変化を説明する図である。
図7】解析ケースに対する回転剛性上昇率の変化を説明する図である。
図8】弾性横座屈耐力を検討するための接合構造の解析モデルを示す斜視図である。
図9】弾性横座屈耐力を検討するための接合構造の解析モデルを示す断面図である。
図10】第2フランジの材軸方向の無次元化座標に対する、無次元化曲げモーメントの変化を説明する図である。
図11】解析ケースA1,A2の場合における、(L/H)に対する弾性横座屈耐力の変化を説明する図である。
図12】解析ケースB1,B2の場合における、(L/H)に対する弾性横座屈耐力の変化を説明する図である。
図13】解析ケースC1,C2の場合における、(L/H)に対する弾性横座屈耐力の変化を説明する図である。
図14】解析ケースD1,D2の場合における、(L/H)に対する弾性横座屈耐力の変化を説明する図である。
図15】解析ケースE1,E2の場合における、(L/H)に対する弾性横座屈耐力の変化を説明する図である。
図16】(L/H)に対する弾性横座屈耐力比の変化を説明する図である。
図17】ビス一列配置の場合における、(L/H)に対する弾性横座屈耐力の変化を説明する図である。
図18】ビス交互配置の場合における、(L/H)に対する弾性横座屈耐力の変化を説明する図である。
図19】本発明の一実施形態の接合構造が用いられる他の建築物の、一部を破断した斜視図である。
図20】従来の接合構造の一例を示す正面図である。
図21図20における切断線A1-A1の断面図である。
図22】同接合構造が地震により移動した状態を示す正面図である。
図23図20における切断線A1-A1の横座屈変形時の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る接合構造の一実施形態を、図1から図19を参照しながら説明する。
【0020】
〔1.接合構造が用いられた建築物の構成〕
図1に示すように、本実施形態の接合構造1A,1B,‥,2A,2B,‥は、例えば建築物100に用いられる。以下では、接合構造1A,1B,‥を区別しないときには、接合構造1と言う場合がある。接合構造2A,2B,‥についても、接合構造1と同様である。
建築物100は、複数の柱105と、複数の大梁110と、複数の接合構造1と、複数の接合構造2と、を備える。なお、図1では、複数のビス30を示していない。
【0021】
柱105は、上下方向に沿って延びている。複数の柱105は、互いに間隔を開けて配置されている。柱105は、鋼製、RC(Reinforced Concrete)製、SRC(Steel Reinforced Concrete)製等である。
複数の大梁110は、鋼製である。複数の大梁110は、隣り合う柱105の間にかけ渡され、水平面に沿う方向に延びている。複数の大梁110の両端部は、柱105等に溶接等でそれぞれ接合されている。
【0022】
図2に示すように、接合構造1Aは、接合構造6Aの各構成に対して、複数のビス30の配置のみが異なる。なお、接合構造1Aが備える外壁材10の数は、限定されない。
なお、H形鋼15は、JIS G 3353:2011 一般構造用溶接軽量H形鋼に規定される溶接軽量H形鋼である。接合構造1Aにおいて、H形鋼15は胴縁である。
接合構造1Aでは、複数のビス30は、前記第1ビス21と、第2ビス(第2接合部材)31と、を有する。複数のビス30としては、複数のビス20と同一のものが用いられる。ビス30は、接合金物である。
【0023】
ビス30は、ドリルビスであることが好ましい。このように構成することで、H形鋼15に下孔を形成する必要が無くなり、施工性が向上する。
接合構造1Aにおける切断線A5-A5の断面図は、図21に示す接合構造6Aの断面図と同一である。接合構造1Aにおける切断線A6-A6の断面図を、図3に示す。なお、図3では、H形鋼15の第2フランジ17が、矢印F2で示すように移動して横座屈した状態を示している。第2ビス31は、ウェブ18よりも第2側Y2に配置されている。
【0024】
図2に示すように、材軸方向Xに隣り合う一対のビス30は、第1ビス21及び第2ビス31を有する。接合構造1Aでは、第1ビス21及び第2ビス31が、材軸方向Xの全長にわたって、材軸方向Xに交互に配置されている(以下では、ビス交互配置と言う)。
【0025】
図1に示すように、接合構造1AのH形鋼15は、水平面に沿って延びている。接合構造1AのH形鋼15の第2フランジ17は、柱105に接続されている。
接合構造1B,‥についても、接合構造1Aと同様に構成される。
【0026】
複数の接合構造2Aは、接合構造1Aの各構成に対して、複数の外壁材10に代えて、屋根材(板状部材)40を備える。例えば、屋根材40は折板屋根である。
なお、板状部材は、平板状に形成されてもよいし、板状部材の主面に沿う方向に向かうに従い、板状部材の厚さ方向の第1側及び第2側に交互に変位することで、波状に形成されてもよい。
接合構造2Aにおいて、H形鋼15は母屋である。接合構造2AのH形鋼15の第2フランジ17は、大梁110に接続されている。
接合構造2B,‥についても、接合構造2Aと同様に構成される。
【0027】
図3に示すように、外壁材10に負圧の風荷重が作用した場合に、横座屈が発生すると、第1フランジ16に対して第2フランジ17が、第1側Y1に、矢印F2で示すように移動する。この移動により、外壁材10と第1フランジ16との接合部35に、H形鋼15の材軸方向X回りの曲げモーメントが作用する。この場合、外壁材10とH形鋼15との第2ビス31による固定度は、比較的高い。
なお、風荷重時に、第1フランジ16に対して第2フランジ17が、第2側Y2に移動した場合には、第1ビス21による固定度が比較的高くなり、第2ビス31による固定度が比較的低くなる。
【0028】
なお、板状部材は、各種屋根葺材、ALC(Autoclaved Lightweight aerated Concrete:高温高圧蒸気養生された軽量気泡コンクリート)パネルを用いた屋根、CLT(Cross Laminated Timber:直交集成板)等の木材を用いた屋根、金属系・木質系・窯業系・樹脂系等の各種サイディング等でもよい。接合部材は、ボルト、釘、その他の取付金物等でもよい。
【0029】
〔2.ビスの配置が弾性横座屈耐力に及ぼす影響の検討〕
〔2.1.ビスの配置が固定度に及ぼす影響の検討〕
ビスの配置による外壁材10とH形鋼15との接合部の固定度への影響を、FEM(Finite Element Method:有限要素法)による弾性解析を用いて確認した。
図4に、接合構造1Aの解析モデルを示す。解析モデルはH形鋼15のみを再現したモデルであり、フランジ16,17及びウェブ18を4節点シェル要素によって構成している。材軸方向Xにx軸、厚さ方向Yにz軸、x軸及びz軸にそれぞれ直交する方向にy軸を規定した。x軸、y軸、及びz軸を、右手系の直交座標系として、各軸の正の向きを規定した。
H形鋼15の長さを、L(mm)と規定した。
【0030】
外壁材10による拘束効果を模して、境界条件を設定した。すなわち、第1フランジ16のz軸方向正側の端部16aにおいて、外壁材10との当接部を模してy軸方向の変位を拘束した。第1フランジ16のx軸方向における中間部の1箇所の位置P1において、ビスによる接合部を模してx軸方向とz軸方向の変位を拘束し、y軸方向の変位をバネ拘束とした。
ここで、y軸方向の変位に対するバネ剛性は、外壁材10やビスの変形を想定して2000N/mmとした。この解析モデルについて、第2フランジ17とウェブ18の交点にz軸方向正側の強制変位F5を与えて解析を行った。
【0031】
ここで、図5に示すように、H形鋼15の断面寸法を規定する。
H形鋼15の高さ(せい)を、H(mm)とする。第1フランジ16及び第2フランジ17それぞれの幅(ウェブ18の厚さ方向Yの長さ)を、B(mm)とする。第1フランジ16及び第2フランジ17それぞれの厚さを、t(mm)とする。ウェブ18の厚さを、t(mm)とする。
【0032】
解析の変数は、H形鋼15の断面寸法とビスの配置とした。そして、表1に示す解析ケースAから解析ケースEの組合せについて解析を行った。
【0033】
【表1】
【0034】
H形鋼15は、サイズの異なる3種類とした。すなわち、解析ケースA、解析ケースBから解析ケースD、及び解析ケースEの3種類とした。
表1において、ビス距離は、ウェブ18の厚さ方向Yの中心(ウェブ18の芯)と、ビス(ビスの中心軸)との距離を意味する。
ビス距離は、フランジ16,17の幅Bの1/4(B/4)を基本とした。各解析ケースについて、ウェブ18の厚さ方向Yの中心を基準として、ビスを、z軸方向における正側に配置する場合(図4参照。以下では、ビス正側配置と言う)と、負側に配置する場合(以下では、ビス負側配置と言う)の2パターンを実施した。
なお、H-250x100(H形鋼15の高さ×フランジ16,17の幅)の場合のみ、ビス距離をB/8及び3B/8とした場合も検討対象とした(解析ケースB及び解析ケースD)。例えば、解析ケースBでは、ビス距離はB/8である。
これにより、ビスがウェブ18に寄った場合や、ウェブ18から離れた場合の影響を確認する。
【0035】
得られた解析結果より、強制変位F5により作用するz軸方向の荷重と、H形鋼15の強制変位F5の作用位置におけるz軸方向の変位の関係を整理した。そして、この荷重-変位の関係から、接合構造1Aの初期剛性を得た。
得られた初期剛性は、H形鋼15のウェブ18の曲げ変形と、ビス接合部周辺の局部変形(接合部のバネ剛性の影響含む)と、の影響を含む。このため、初期剛性からウェブ18の曲げ剛性の計算値を差し引くことで、ビス接合部周辺の局部変形のみによる剛性が得られる。
解析から得られたビス接合部周辺の局部変形による回転剛性とビスの配置による回転剛性上昇率を、表2、図6及び図7に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
ここでは、回転剛性を、フランジ16の位置における曲げモーメントと回転角の関係における剛性とした。
図6において、横軸は解析ケースを表し、縦軸は回転剛性(kNm/rad)を表す。図6には、ビス正側配置及びビス負側配置の結果を併せて示す。
図7において、横軸は解析ケースを表し、縦軸は回転剛性上昇率(-)を表す。回転剛性上昇率は、ビス正側配置の回転剛性に対する、ビス負側配置の回転剛性の上昇率を意味する。
【0038】
図6より、全ての解析ケースにおいて、ビス負側配置の回転剛性が、ビス正側配置の回転剛性に比べて高くなることが分かる。図7より、ビス距離をB/4とした解析ケースA,C,Eでは、回転剛性が約7~8倍となっていることが分かる。一方で、ビスの配置がウェブ18に寄った解析ケースBでは回転剛性上昇率が3倍程度となっており、ビスの配置がウェブ18から離れた解析ケースDでは回転剛性上昇率が26倍程度となる。ビスの配置がウェブ18から離れた場合の方が、ビス負側配置の回転剛性とビス正側配置の回転剛性とで大きな差が生じることが確認できる。
ただし、図6に示すように、解析ケースB~Dにおいて、ビス負側配置の回転剛性は約6~7kNm/radと、ビスの位置による大きな差はない。一方で、ビス正側配置の回転剛性は、ビスの配置がウェブ18から離れるにつれ低下するため、図7に示すように、回転剛性上昇率に大きな差が生じている。
【0039】
つまり、ビスがウェブ18から離れているほうが、ビス正側配置とビス負側配置とを変えることによる回転剛性の変化は大きい。一方で、ビスがウェブ18に近い方が、ビス正側配置の回転剛性とビス負側配置の回転剛性との差が小さく、安定的に比較的高い回転剛性の発揮を期待することが出来るといえる。
【0040】
なお、本検討ではy軸方向の変位に対するバネ剛性を2000N/mmとしたが、外壁材10の種類や接合方法によりバネ剛性は様々な値となり得る。
しかし、ビスの配置に関わらず、バネ剛性が大きくなると固定度が上がり、バネ剛性が小さくなると固定度が下がる。このため、ビス正側配置とビス負側配置との相対的な固定度の大小関係に変わりはなく、ビスの配置を変えることによる効果は、バネ剛性の絶対値関わらず同様に得られる。
【0041】
〔2.2.固定度が弾性横座屈耐力に及ぼす影響の検討〕
外壁材10とH形鋼15の接合部の固定度がH形鋼15の弾性横座屈耐力へ与える影響を、FEMによる弾性座屈解析を用いて確認した。
図8及び図9に解析モデルを示す。解析モデルは、H形鋼15を4節点シェル要素によって構成している。第1フランジ16に取り付く外壁材10による拘束効果として、第1フランジ16の断面中心の節点について、複数のビス30の間隔p毎にx軸回りの回転を回転バネにより拘束し、z軸方向の変位は固定した。x軸回りの回転バネについては、第1ビス21及び第2ビス31に対応する2種類のバネ剛性を交互に配置することで、複数のビス30の配置に応じたバネ剛性を設定した。
【0042】
なお、本来であれば、z軸方向変位も外壁材10によるバネ拘束を受ける。しかし、複数のビス30の配置が変わってもz軸方向移動に対する固定度は変わらない。このため、ここでは複数のビス30の位置における、第1フランジ16のz軸方向の変位を一律に固定した。
H形鋼15のx軸方向の端(材軸方向Xの端)は、H形鋼15のねじれに対して固定端、フランジ16,17の反りに関しては自由端とした。また、H形鋼15は、一方のx軸方向の端(材軸方向Xの端)はx軸方向、y軸方向、z軸方向の変位を固定し、もう一方のx軸方向の端についてはx軸方向、y軸方向の変位を固定し、z軸回りの回転は共に拘束しない、いわゆるピン-ピンローラー支持とした。
【0043】
図10において、横軸はH形鋼15の材軸方向Xの無次元化座標を表し、縦軸は無次元化曲げモーメントを表す。H形鋼15の材軸方向Xの無次元化座標は、H形鋼15の長さLに対する、H形鋼15のx軸方向の座標を意味する。無次元化曲げモーメントは、H形鋼15に作用する最大曲げモーメントに対する、H形鋼15のx軸方向の所定の位置に作用する曲げモーメントを意味する。
図10に示すように、第2フランジ17が圧縮となる曲げモーメント分布となるように、第1フランジ16の断面中心の節点にy軸方向正側の等分荷重を作用させた。
なお、この曲げモーメント分布は、実際の建築物において風荷重等によりH形鋼に作用するモーメントを模擬したものである。
【0044】
この解析モデルに対して、H形鋼15の断面寸法、H形鋼15の長さL、及びx軸回りの回転バネの回転剛性を変数に設定した。解析ケースの組合せは、表3に示す10通りである。
【0045】
【表3】
【0046】
例えば、解析ケースAにおいて、ビス一列配置の場合が解析ケースA1であり、ビス交互配置の場合が解析ケースA2である。
H形鋼15の断面寸法は、〔2.1〕で実施した接合部の回転剛性を評価した解析と同じであり、回転剛性は〔2.1〕の解析から得られた剛性としている。これらの解析ケースについて、H形鋼15の高さに対するH形鋼15の長さLの比(L/H)が10~50の範囲となるようH形鋼15の長さLを設定し、解析を実施した。
【0047】
図11から図18に、解析結果を示す。図11から図15は、解析ケース毎に、縦軸を解析から得られた弾性横座屈耐力(kNm)とし、横軸を(L/H)として示した図である。
全ての解析ケースにおいて、H形鋼15の長さLに関わらず、ビス一列配置からビス交互配置とすることで、弾性横座屈耐力が上昇していることが分かる。
【0048】
図16は、全ての解析ケースについて、縦軸を弾性横座屈耐力比とし、横軸を(L/H)として示したものである。ここでいう弾性横座屈耐力比とは、各解析ケースにおいて、ビス交互配置の弾性横座屈耐力を、ビス一列配置の弾性横座屈耐力で除して得られた値である。例えば、ビス交互配置である解析ケースA2の弾性横座屈耐力を、ビス一列配置である解析ケースA1の弾性横座屈耐力で除した弾性横座屈耐力比を、A2/A1と表す。
【0049】
弾性横座屈耐力比は、解析ケースやH形鋼15の長さLによって1.00~1.70程度にばらついている。H形鋼15の長さLが短い場合は横座屈が問題とならないために、ビス交互配置の弾性横座屈耐力とビス一列配置の弾性横座屈耐力との間で差が生じ難い。
これを踏まえると、ビスの配置がウェブ18に近いビス距離がB/8であるB2/B1で5~10%程度、ビス距離が標準のB/4であるA2/A1、C2/C1、E2/E1で10~40%程度、ビスの配置がウェブ18から遠いビス距離が3B/8であるD2/D1で30~70%程度の弾性横座屈耐力の向上が、ビスの配置を変更することで期待できる。
【0050】
図17及び図18に、H形鋼15の断面寸法が等しくビスの配置が異なる解析ケースB~Dの解析結果の比較を示す。図17はビス一列配置の比較、図18はビス交互配置の比較である。
ビスの配置に関わらず、ビスがウェブ18に近い位置にあるほうが弾性横座屈耐力は高く、ビスはウェブ18に近い位置に配置するのがより好ましいと言える。
また、図17図18との比較より、ビス交互配置とすることで、ビスの位置による弾性横座屈耐力のばらつきが小さくなることが確認できる。つまり、施工時のばらつきによりビスの位置が所定位置からずれてしまう場合においても、ビス交互配置としておけば弾性横座屈耐力への影響を抑えることが出来、安定した構造性能発揮が期待できるため好ましいと言える。
【0051】
また、ビス交互配置である図18において、ビス距離が短くなる、解析ケースD、解析ケースC、解析ケースBの順で、弾性横座屈耐力が高くなる。このため、ビス距離はB/4以下であることが好ましい。
【0052】
〔3.本実施形態の効果〕
以上説明したように、本実施形態の接合構造1Aでは、複数のビス30は材軸方向Xの所定の位置には1つのみ配置されているため、例えば地震時において、外壁材10に対してH形鋼15及び複数のビス30が移動しても、外壁材10が複数のビス30及びH形鋼15から脱落せず、H形鋼15の移動に対する外壁材10の追従性を維持することができる。
複数のビス30は、材軸方向Xの所定の位置には1つのみ配置されるため、H形鋼15の材軸方向Xの単位長さ当たりのビス30の数を抑えられる。
また、複数のビス30は第1ビス21及び第2ビス31をそれぞれ有するため、H形鋼15の第2フランジ17が、第1側Y1及び第2側Y2のいずれに移動する場合でも、第1ビス21の固定度及び第2ビス31の固定度の平均値程度となる比較的高い一定の固定度で、H形鋼15の第1フランジ16及び外壁材10を互いに接続することができる。
【0053】
材軸方向Xに隣り合う一対のビス30は、第1ビス21及び第2ビス31を有する。従って、材軸方向Xにおいて、H形鋼15の第1フランジ16及び外壁材10が接続される固定度を、より一定にすることができる。
H形断面部材は溶接軽量H形鋼であり、複数の接合部材は複数のドリルビスである。H形鋼15の第1フランジ16の厚さは、一般的なH形鋼の第1フランジの厚さよりも薄いため、複数のドリルビスを第1フランジ16に打ちやすくすることができる。また、複数の接合部材として、複数のドリルビスを用いることで、外壁材10やH形鋼15の第1フランジ16に予め孔をあけておく必要がなくなり、高い施工性を確保することができる。
【0054】
ビス距離はB/4以下である場合がある。この場合には、H形鋼15の第1フランジ16及び外壁材10が接続される固定度をより高め、H形鋼15の弾性横座屈耐力をより高くすることができる。
【0055】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、図19に示すように、接合構造1A,1B,‥が用いられる建築物115が構成されてもよい。
建築物115は、複数の柱120と、複数の梁125と、複数の接合構造1と、を備える。
柱120は、上下方向に沿って延びている。複数の柱120は、互いに間隔を開けて配置されている。複数の梁125は、複数の柱120の間にかけ渡され、水平面に沿う方向に延びている。
複数の接合構造1AのH形鋼15は、上下方向に沿って延びている。複数の接合構造1Aにおいて、H形鋼15は胴縁である。複数の接合構造1AのH形鋼15の第2フランジ17等は、複数の梁125に接続されている。
【0056】
なお、本実施形態ではビスが正側と負側に交互に配置されるものとして検討したが必ずしも交互である必要はなく、正側配置と負側配置が混在すれば効果の差は生じるものの同様の効果が期待できる。
接合構造1Aでは、第1ビス21及び第2ビス31が、材軸方向Xの一部のみ、材軸方向Xに交互に配置されていてもよい。例えば、材軸方向Xの一端のみ第1ビス21で、それ以外が第2ビス31でもよい。
H形鋼15は、溶接軽量H形鋼でなくてもよい。H形断面部材は、一対のフランジ及びウェブを有すれば、H形鋼に限定されない。
【符号の説明】
【0057】
1A,1B,2A,2B 接合構造
10 外壁材(板状部材)
15 H形鋼(H形断面部材)
16 第1フランジ
18 ウェブ
20,30 ビス(接合部材)
21 第1ビス(第1接合部材)
31 第2ビス(第2接合部材)
40 屋根材(板状部材)
X 材軸方向
Y 厚さ方向
Y1 第1側
Y2 第2側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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