(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136765
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】液化メタンの製造方法および液化メタンの製造装置
(51)【国際特許分類】
F25J 3/02 20060101AFI20240927BHJP
F25J 3/08 20060101ALI20240927BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F25J3/02 Z
F25J3/08
B01D53/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047999
(22)【出願日】2023-03-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、環境省、地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証の委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 沙紀
(72)【発明者】
【氏名】寺井(田中) 真子
(72)【発明者】
【氏名】西川 智大
【テーマコード(参考)】
4D006
4D047
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006KA72
4D006KB12
4D006KB18
4D006PA02
4D006PB64
4D006PB68
4D047AA07
4D047AB08
4D047BB04
4D047BB06
4D047BB08
4D047CA03
4D047CA04
4D047DA04
(57)【要約】
【課題】バイオガスからの液化メタンの製造方法および製造装置を提供すること。
【解決手段】メタンガス、炭酸ガス、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガスおよび水分を含むバイオガス、または、前記バイオガス中のメタンガスを濃縮した濃縮ガスから液化メタンを製造する方法であって、前記バイオガスまたは前記濃縮ガスから炭酸ガスおよび水分を分離して中間ガスを得る第1工程と、前記中間ガスを蒸留塔により蒸留分離し、液化メタンを得る第2工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタンガス、炭酸ガス、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガスおよび水分を含むバイオガス、または、前記バイオガス中のメタンガスを濃縮した濃縮ガスから液化メタンを製造する方法であって、
前記バイオガスまたは前記濃縮ガスから炭酸ガスおよび水分を分離して中間ガスを得る第1工程と、
前記中間ガスを蒸留塔により蒸留分離し、液化メタンを得る第2工程と、を含む、液化メタンの製造方法。
【請求項2】
前記第2工程において、前記蒸留塔の塔頂部に接続されたコンデンサに冷媒として液体窒素が供給される、請求項1に記載の液化メタンの製造方法。
【請求項3】
前記コンデンサで生じる窒素ガスを、前記第2工程において前記中間ガスを冷却するための冷媒として再利用する、請求項2に記載の液化メタンの製造方法。
【請求項4】
前記第1工程は、複数の分離方法を含む、請求項1に記載の液化メタンの製造方法。
【請求項5】
前記第1工程において、膜分離法および温度スイング吸着法による分離がこの順に行われる、請求項4に記載の液化メタンの製造方法。
【請求項6】
前記バイオガスは、家畜の糞尿および食品の残渣からなる群より選択される少なくとも1種を由来とするガスである、請求項1に記載の液化メタンの製造方法。
【請求項7】
前記バイオガスは、メタンガスを50体積%以上60体積%以下、炭酸ガスを30体積%以上40体積%以下、窒素ガスを1体積%以上15体積%以下含む、請求項1に記載の液化メタンの製造方法。
【請求項8】
メタンガス、炭酸ガス、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガスおよび水分を含むバイオガス、または、前記バイオガス中のメタンガスを濃縮した濃縮ガスから液化メタンを製造するための装置であって、
前記バイオガスまたは前記濃縮ガスから炭酸ガスおよび水分を分離して中間ガスを得るための分離装置と、
前記中間ガスを蒸留分離して液化メタンを得るための蒸留装置と、を含む、液化メタンの製造装置。
【請求項9】
前記蒸留装置は、蒸留塔および前記蒸留塔の塔頂部に接続されたコンデンサを有し、
前記コンデンサに冷媒として液体窒素が供給される、請求項8に記載の液化メタンの製造装置。
【請求項10】
前記中間ガスを冷却するための主熱交換器を有し、
前記コンデンサで生じる窒素ガスを前記主熱交換器で冷媒として再利用する、請求項9に記載の液化メタンの製造装置。
【請求項11】
前記分離装置は、複数の分離装置を含む、請求項8に記載の液化メタンの製造装置。
【請求項12】
前記分離装置は、膜分離装置および温度スイング吸着分離装置を含む、請求項11に記載の液化メタンの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液化メタンの製造方法および液化メタンの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスや液化天然ガスは、石炭や石油等の化石燃料と比較して、炭酸ガスの排出量が少ないクリーンなエネルギーとして注目されてきた。しかし、天然ガスや液化天然ガスをエネルギー源とした場合にも炭酸ガスは排出され、その排出量は増加の一途を辿っている。したがって、天然ガスや液化天然ガスに代わる代替エネルギーが求められている。
【0003】
このような代替エネルギーとして、乳牛や肉牛等の家畜の糞尿や食品の残渣、下水汚泥等を由来とするバイオガスが注目されている。バイオガスは、メタンガス、炭酸ガス、窒素ガス等で構成されており、天然ガスや液化天然ガスに代わる代替エネルギーとして期待されている。
【0004】
バイオガスをエネルギーとして利用する場合、バイオガス中の炭酸ガス等の不純物を除去し、メタンガスの濃度を高くする必要がある。特許文献1(特開2018-188594号公報)は、高圧水吸収法を用いて、特許文献2(特開2021-178269号公報)は、化学吸収法を用いて、特許文献3(特表2013-534863号公報)は、膜分離法を用いて、バイオガス中の炭酸ガスを除去することでメタンガスの濃度を高める方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-188594号公報
【特許文献2】特開2021-178269号公報
【特許文献3】特表2013-534863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、装置が大型化する、コストがかかるといった課題がある。また、特許文献2および3に記載の方法では、メタンガスの純度を高くすることが困難である。
【0007】
また、海外では、船舶燃料やトラック燃料として、バイオガス由来の液化メタンが使用されており、供給体制も整備されている。その他に、ロケット燃料にも高純度の液化メタンが使用されている。このように、メタンガスだけでなく、液化メタンの需要も拡大するものと考えられる。
【0008】
本開示の目的は、バイオガスからの液化メタンの製造方法および製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔1〕 メタンガス、炭酸ガス、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガスおよび水分を含むバイオガス、または、前記バイオガス中のメタンガスを濃縮した濃縮ガスから液化メタンを製造する方法であって、
前記バイオガスまたは前記濃縮ガスから炭酸ガスおよび水分を分離して中間ガスを得る第1工程と、
前記中間ガスを蒸留塔により蒸留分離し、液化メタンを得る第2工程と、を含む、液化メタンの製造方法。
【0010】
〔2〕 前記第2工程において、前記蒸留塔の塔頂部に接続されたコンデンサに冷媒として液体窒素が供給される、〔1〕に記載の液化メタンの製造方法。
【0011】
〔3〕 前記コンデンサで生じる窒素ガスを、前記第2工程において前記中間ガスを冷却するための冷媒として再利用する、〔2〕に記載の液化メタンの製造方法。
【0012】
〔4〕 前記第1工程は、複数の分離方法を含む、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の液化メタンの製造方法。
【0013】
〔5〕 前記第1工程において、膜分離法および温度スイング吸着法による分離がこの順に行われる、〔4〕に記載の液化メタンの製造方法。
【0014】
〔6〕 前記バイオガスは、家畜の糞尿および食品の残渣からなる群より選択される少なくとも1種を由来とするガスである、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の液化メタンの製造方法。
【0015】
〔7〕 前記バイオガスは、メタンガスを50体積%以上60体積%以下、炭酸ガスを30体積%以上40体積%以下、窒素ガスを1体積%以上15体積%以下含む、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の液化メタンの製造方法。
【0016】
〔8〕 メタンガス、炭酸ガス、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガスおよび水分を含むバイオガス、または、前記バイオガス中のメタンガスを濃縮した濃縮ガスから液化メタンを製造するための装置であって、
前記バイオガスまたは前記濃縮ガスから炭酸ガスおよび水分を分離して中間ガスを得るための分離装置と、
前記中間ガスを蒸留分離して液化メタンを得るための蒸留装置と、を含む、液化メタンの製造装置。
【0017】
〔9〕 前記蒸留装置は、蒸留塔および前記蒸留塔の塔頂部に接続されたコンデンサを有し、
前記コンデンサに冷媒として液体窒素が供給される、〔8〕に記載の液化メタンの製造装置。
【0018】
〔10〕 前記中間ガスを冷却するための主熱交換器を有し、
前記コンデンサで生じる窒素ガスを前記主熱交換器で冷媒として再利用する、〔9〕に記載の液化メタンの製造装置。
【0019】
〔11〕 前記分離装置は、複数の分離装置を含む、〔8〕から〔10〕のいずれかに記載の液化メタンの製造装置。
【0020】
〔12〕 前記分離装置は、膜分離装置および温度スイング吸着分離装置を含む、〔11〕に記載の液化メタンの製造装置。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、バイオガスからの液化メタンの製造方法および製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本実施形態における液化メタンの製造装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における液化メタンの製造装置の一部の構成の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、実施例1において使用した液化メタンの製造装置の構成を示す概略図である。
【
図4】
図4は、実施例2において使用した液化メタンの製造装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施形態が説明される。ただし以下の説明は特許請求の範囲を限定するものではない。
【0024】
<液化メタンの製造方法>
本実施形態における液化メタンの製造方法は、メタンガス、炭酸ガス(CO2)、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガスおよび水分を含むバイオガスまたはバイオガス中のメタンガスを濃縮した濃縮ガスからCO2および水分を分離して中間ガスを得る第1工程と、中間ガスを蒸留塔により蒸留分離し、液化メタンを得る第2工程と、を含む。以下、本実施形態における液化メタンの製造方法の各工程について説明する。
【0025】
《バイオガス》
本実施形態において、「バイオガス」とは、メタンガス、CO2、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガスおよび水分を含むガスを示す。バイオガスは、例えば、家畜の糞尿および食品の残渣からなる群より選択される少なくとも1種を由来とするガスであってもよい。バイオガス中の各ガスの濃度は、例えば、メタンガスは50体積%以上60体積%以下であり、CO2は30体積%以上40体積%以下であり、窒素ガスは1体積%以上15体積%以下であり、酸素ガスは0.1体積%以上5体積%以下であり、アルゴンガスは0.01体積%以上1体積%以下であり、水分は0.01体積%以上5体積%以下である。バイオガスは、予め硫化水素が除去されていることが好ましい。
【0026】
《濃縮ガス》
本実施形態において、「濃縮ガス」とは、バイオガス中のメタンガスを濃縮したガスを示す。濃縮ガス中のメタンガスの濃度は、例えば、75体積%以上97体積%以下である。
【0027】
《中間ガス》
本実施形態において、「中間ガス」とは、バイオガスまたは濃縮ガスからCO2および水分が分離され、バイオガスまたは濃縮ガスよりもメタンガスの濃度が高くなったガスを示す。中間ガス中のメタンガスの濃度は、例えば、80体積%以上99体積%以下である。
【0028】
《第1工程》
本工程は、バイオガスまたは濃縮ガスからCO2および水分を分離して中間ガスを得る工程である。本工程により、中間ガス中のCO2濃度は、0.0001体積%以下にされる。本工程により、中間ガス中の水分は、0.0001体積%以下にされる。本工程における分離方法としては、例えば、温度スイング吸着法、圧力スイング吸着法等が挙げられる。また、主にCO2を分離する方法としては、分離膜分離法、高圧水吸収法、化学吸収法等が挙げられる。
【0029】
(温度スイング吸着法)
本方法では、CO2および水分を吸着する吸着剤が充填された吸着塔にバイオガスまたは濃縮ガスを導入し、CO2および水を分離する。本方法は、例えば、(1)吸着工程、(2)加熱再生工程、(3)パージ工程、(4)復圧工程、の吸着サイクルを順次繰り返す。
【0030】
(1)吸着工程
吸着工程とは、吸着塔にバイオガスまたは濃縮ガスを供給し、CO2および水分を吸着剤に吸着させることにより、バイオガスまたは濃縮ガスからCO2および水分を分離する工程である。本工程では、供給するバイオガスまたは濃縮ガスの温度は、例えば、40℃以下となるように調整される。
【0031】
吸着剤は、CO2および水分を吸着可能であり、加熱されることで吸着したCO2および水分が放出されて吸着性能が回復する再生可能な吸着剤である。このような吸着剤としては、例えば、活性アルミナ、シリカゲル、疎水性ゼオライト等が挙げられる。
【0032】
(2)加熱再生工程
加熱再生工程とは、吸着工程後の吸着塔に対し、吸着剤とは不活性なガス(以下、単に「不活性ガス」と称する。)を加熱して供給する、または吸着剤を直接加熱することにより、吸着剤からCO2および水分を脱着させる工程である。換言すると、加熱再生工程は、吸着塔内に充填された吸着剤を再使用可能な状態にする工程である。
【0033】
不活性ガスとしては、例えば、吸着工程によりバイオガスまたは濃縮ガスからCO2および水分が除去されたガスや、窒素ガス等が挙げられる。このようなガスが加熱され、吸着塔内に充填された吸着剤に接触させることにより、吸着剤表面の温度を上昇させ、吸着剤に吸着しているCO2および水分を脱着させる。本工程により、吸着剤は再生される。加熱温度は、例えば、170℃以上である。
【0034】
不活性ガスとしては、窒素ガスが好適に使用される。この場合、後述する第2工程で使用された窒素ガスを再利用することが好ましい。このようにすることで、窒素ガスが有効に利用され、本製造方法全体で使用される窒素ガスの量が削減される。
【0035】
(3)パージ工程
パージ工程とは、加熱再生工程後の吸着塔内の不活性ガスを取り除く工程である。本工程では、吸着塔内にガスを導入することで、不活性ガスを取り除く。不活性ガスが窒素ガスの場合、導入されるガスは、例えば、吸着工程によりバイオガスまたは濃縮ガスからCO2および水分が除去されたガスである。本工程は、不活性ガスが完全に取り除かれるまで、複数回行われることが好ましい。なお、不活性ガスが吸着工程によりバイオガスまたは濃縮ガスからCO2および水分が除去されたガスである場合、本工程は不要である。
【0036】
(4)復圧工程
復圧工程では、脱着工程後の吸着塔を、例えば、高圧ガスを導入し、吸着工程を行うための圧力まで復圧させる工程である。高圧のガスとしては、例えば、吸着工程によりバイオガスからCO2および水分が除去されたガスを用いる。
【0037】
本方法では、複数の吸着塔を用いることが好ましい。例えば、2つの吸着塔を用いる場合、一方の吸着塔で吸着工程が行われている間は、他方の吸着塔で加熱再生工程、パージ工程および復圧工程が行われ、このような切り換えを行いながら、2つの吸着塔を稼働させることにより、連続的かつ効率的にバイオガスまたは濃縮ガスからのCO2および水の分離を可能にしている。
【0038】
(圧力スイング吸着法)
本方法では、CO2および水分を吸着する吸着剤が充填された吸着塔にバイオガスまたは濃縮ガスを導入し、CO2および水を分離する。本方法は、(1)吸着工程、(2)パージ工程、(3)脱着工程、(4)復圧工程、の吸着サイクルを順次繰り返す。なお、(2)パージ工程および(4)復圧工程に関しては、上述の温度スイング吸着法における(3)パージ工程および(4)復圧工程と同じであるため、説明は省略する。
【0039】
吸着工程とは、吸着塔にバイオガスまたは濃縮ガスを供給し、CO2および水分を吸着剤に吸着させることにより、バイオガスまたは濃縮ガスからCO2および水分を分離する工程である。本工程は、例えば、0.7MPaG以上の圧力下で行う。なお、吸着剤は、上述の温度スイング吸着法で使用可能な吸着剤と同じであるため、説明は省略する。
【0040】
脱着工程とは、吸着工程後の吸着塔を、大気圧(0MPaG)まで減圧し、吸着剤に吸着させたCO2および水分を脱着させる工程である。本工程では、例えば、真空ポンプにより吸着塔の圧力を-0.1MPaGまで減圧させてもよい。
【0041】
(膜分離法)
本方法では、CO2を選択的に透過させる分離膜にバイオガスまたは濃縮ガスを導入し、CO2を分離する。本方法では、バイオガスまたは濃縮ガスを圧縮して導入し、膜間の分圧差により分離が進行する。分離膜としては、例えば、中空糸状の高分子膜や、ゼオライト等の無機物で構成されるもの等が挙げられる。本方法では、0.8MPaG以上まで圧縮することが好ましい。なお、本方法により分離されたCO2にメタンガスが含まれることがあるため、分離されたCO2を再度本方法によりCO2とメタンガスとに分離して、メタンガスを回収しリサイクルしてもよい。
【0042】
(高圧水吸収法)
本方法では、高圧条件下において、CO2を水に吸収させることによりCO2を分離する。本方法では、バイオガスまたは濃縮ガスを圧縮して導入し、水への溶解度差により分離が進行する。本方法では、0.9MPaG以上まで圧縮することが好ましい。
【0043】
(化学吸収法)
本方法では、化学吸収液にバイオガスまたは濃縮ガスを導入し、化学反応させることによりCO2を分離する。本方法では、化学吸収液中のアルカリ性化合物とバイオガス中または濃縮ガス中のCO2とを反応させることにより分離が進行する。アルカリ性化合物としては、例えば、アミン化合物が挙げられる。
【0044】
第1工程は、少なくとも温度スイング吸着法および圧力スイング吸着法からなる群から選択される1つの方法を含むことが好ましい。第1工程は、複数の分離方法を含むことがより好ましい。例えば、第1工程が2つの分離方法を含む場合、温度スイング吸着法および圧力スイング吸着法からなる群から選択される1つの方法と、膜分離法、高圧水吸収法および化学吸収法からなる群から選択される1つの方法と、の組み合わせであることが好ましい。これらの中でも、膜分離法および温度スイング吸着法による分離がこの順に行われることがより好ましい。なお、濃縮ガスから中間ガスを得る場合、第1工程は、少なくとも温度スイング吸着法および圧力スイング吸着法からなる群から選択される1つの方法を含んでいればよい。
【0045】
《第2工程》
本工程は、中間ガスを蒸留塔により蒸留分離し、液化メタンを得る工程である。本方法は、(1)冷却工程、(2)蒸留工程、(3)凝縮工程を含む。
【0046】
(1)冷却工程
冷却工程とは、第1工程で得られた中間ガスを冷却する工程である。冷却工程に供給される中間ガスの温度は、40℃以下であることが好ましい。冷却工程中の中間ガスの圧力は、例えば、0.1~0.8MPaGである。冷却工程により、中間ガスに含まれるメタンガスの一部が液化されてもよい。冷却工程は、1回のみ行われてもよく、複数回行われてもよい。また、後述する凝縮工程における窒素ガスが、本工程の冷却手段に再利用されてもよい。
【0047】
本工程後の中間ガスは、後述する蒸留工程に導入される前に、圧力が調製されてもよい。本工程時の圧力は、通常、蒸留工程時の圧力よりも大きいため、減圧されることが好ましい。
【0048】
(2)蒸留工程
蒸留工程とは、中間ガスを蒸留塔に導入し、蒸留を行う工程である。蒸留工程中の蒸留塔内の圧力は、例えば、0.1~0.9MPaGである。
【0049】
本工程により、中間ガスに含まれる窒素ガス(大気圧での沸点:-195.8℃)、酸素ガス(大気圧での沸点:-183℃)およびアルゴンガス(大気圧での沸点:-185.8℃)と、メタンガス(大気圧での沸点:-161.6℃)とが沸点差により分離される。分離されたメタンガスは、通常蒸留塔の塔底部に設置されたリボイラと熱交換することにより、液化メタンとなる。
【0050】
(3)凝縮工程
凝縮工程とは、蒸留工程で液化されなかったメタンガスをコンデンサにて凝縮し、液化メタンを得る工程である。
【0051】
コンデンサは、蒸留塔の塔頂部に接続され、メタンガスは、該塔頂部からコンデンサに導入される。コンデンサに導入されたメタンガスは凝縮され、少なくともその一部が液化メタンとなる。液化メタンは、再度蒸留塔に戻され、回収される。
【0052】
コンデンサに導入されたメタンガスは、例えば、冷媒との熱交換によって凝縮される。冷媒としては、例えば、液体窒素が使用され、液体窒素がコンデンサに供給されることによって本工程が行われる。液体窒素は、例えば、0.5MPaG程度の圧力を掛けられた状態でコンデンサに導入される。
【0053】
メタンガスとの熱交換により、液体窒素の一部は気化され窒素ガスとなる。本工程により得られた窒素ガスは、例えば、冷却工程で中間ガスを冷却するための冷媒として再利用されることが好ましい。また、再利用された窒素ガスは、上述の温度スイング吸着法のパージ工程で再利用されることが好ましい。このようにすることで、窒素ガスが有効に利用され、本製造方法全体で使用される窒素ガスの量が削減される。
【0054】
本工程では、蒸留工程により分離された中間ガス中の窒素ガス、酸素ガスおよびアルゴンガスもコンデンサに導入される。これらの窒素ガス、酸素ガスおよびアルゴンガスは液化されないため、排気されるか、冷却工程で中間ガスを冷却するための冷媒として再利用されてもよい。
【0055】
<液化メタンの製造装置>
本実施形態における液化メタンの製造装置は、メタンガス、CO2、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガスおよび水分を含むバイオガス、またはバイオガス中のメタンガスを濃縮した濃縮ガスからCO2および水分を分離して中間ガスを得るための分離装置と、中間ガスを蒸留分離して液化メタンを得るための蒸留装置と、を含む。
【0056】
図1は、本実施形態における液化メタンの製造装置の構成の一例を示す概略図である。以下、液化メタンの製造装置30について説明する。なお、上述の<液化メタンの製造方法>において説明した内容と重複する説明は省略する。
【0057】
《分離装置》
本装置は、バイオガスまたは濃縮ガスからCO
2および水分を分離して中間ガスを得るための装置である。分離装置しては、例えば、温度スイング吸着分離装置、圧力スイング吸着分離装置等が挙げられる。また、主にCO
2を分離する装置としては、膜分離装置、高圧水吸収装置、化学吸収装置等が挙げられる。なお、
図1は、分離装置として膜分離装置1および温度スイング吸着装置10を示すものとする。
【0058】
(温度スイング吸着分離装置)
本装置には、バイオガスまたは濃縮ガスに含まれるCO2および水分を吸着する吸着塔11が設置されている。吸着塔11には、CO2および水分を吸着するための吸着剤が充填されている。本装置を用いて、上述の温度スイング吸着法による各工程が行われることで、バイオガスまたは濃縮ガスからCO2および水分が分離される。
【0059】
本装置は、加熱手段12を備えていることが好ましい。加熱手段12により、上述の加熱再生工程で使用される不活性ガスが、吸着塔内に充填された吸着剤を再使用可能な程度に加熱される。加熱手段12としては、特に制限はないが、例えば、ヒータ等が挙げられる。
【0060】
温度スイング吸着分離装置10は、吸着塔11を複数備えていることが好ましい。
図1においては、温度スイング吸着分離装置10は2つの吸着塔(吸着塔11a、吸着塔11b)により構成されており、吸着塔11aと吸着塔11bとにバイオガスまたは濃縮ガスが交互に導出されることで、連続的かつ効率的にバイオガスまたは濃縮ガスからのCO
2および水分の分離を可能にしている。
【0061】
(圧力スイング吸着分離装置)
本装置(図示せず)には、バイオガスまたは濃縮ガスに含まれるCO2および水分を吸着する吸着塔が設置されている。吸着塔には、CO2および水分を吸着するための吸着剤が充填されている。本装置を用いて、上述の圧力スイング吸着法による各工程が行われることで、バイオガスまたは濃縮ガスからCO2および水分が分離される。
【0062】
(膜分離装置)
本装置には、バイオガスまたは濃縮ガスに含まれるCO2を選択的に透過させるための分離膜モジュール(図示せず)が設置されている。バイオガスまたは濃縮ガスは、圧縮機(図示せず)により分離膜モジュールに導出され、バイオガスまたは濃縮ガスに含まれるCO2が分離膜により分離される。なお、膜分離装置により分離されたCO2にメタンガスが含まれることがあるため、分離されたCO2を再度膜分離装置によりCO2とメタンガスとに分離して、メタンガスを回収しリサイクルしてもよい。
【0063】
(高圧水吸収装置)
本装置(図示せず)には、バイオガスまたは濃縮ガスに含まれるCO2を吸収する高圧吸収塔が設置されている。高圧吸収塔には、CO2を吸収するための水が含まれている。バイオガスまたは濃縮ガスは、圧縮機により高圧吸収塔に導出され、バイオガスまたは濃縮ガスに含まれるCO2が分離される。
【0064】
(化学吸収装置)
本装置(図示せず)には、バイオガスまたは濃縮ガスに含まれるCO2を吸収する吸収塔が設置されている。吸収塔には、CO2を吸収するための処理液が含まれている。バイオガスまたは濃縮ガスは、吸収塔に導出され、バイオガスまたは濃縮ガスに含まれるCO2が分離される。
【0065】
分離装置は、少なくとも温度スイング吸着分離装置および圧力スイング吸着分離装置からなる群から選択される1つの装置を含むことが好ましい。分離装置は、複数の分離装置を含むことがより好ましい。例えば、分離装置が2つの分離装置を含む場合、温度スイング吸着分離装置、圧力スイング吸着分離装置からなる群から選択される1つの装置と、膜分離装置、高圧水吸収装置および化学吸収装置からなる群から選択される1つの装置との組み合わせであることが好ましい。これらの中でも、膜分離装置および温度スイング吸着分離装置による分離がこの順に行われることがより好ましい。なお、濃縮ガスから中間ガスを得る場合、分離装置は、少なくとも温度スイング吸着分離装置および圧力スイング吸着分離装置からなる群から選択される1つの分離装置を含んでいればよい。
【0066】
《蒸留装置》
本製造装置では、蒸留装置により中間ガスを蒸留分離して液化メタンを得る。
図2は、蒸留装置の構成の一例を示す概略図である。以下、
図2を参考にして説明する。
【0067】
分離装置により得られた中間ガスは、例えば、主熱交換器21により冷却される。主熱交換器21においては、後述する窒素ガスを冷媒として再利用することが好ましい。また、後述するように、蒸留塔23で分離され、コンデンサ24で凝縮されなかった窒素ガス、酸素ガスおよびアルゴンガスも、冷媒として再利用されてもよい。なお、主熱交換器21により冷却された中間ガスは、蒸留塔23に導入される前に、例えば、減圧弁(図示せず)等により圧力が調製されてもよい。
【0068】
主熱交換器21により冷却された中間ガスは、蒸留塔23に導入され、蒸留される。蒸留塔23への中間ガスの導入は、蒸留の効率を高める観点から、蒸留塔23の塔中部に導入口を設け、塔中部からされることが好ましい。蒸留塔23で蒸留分離された液化メタンは、蒸留塔23の塔底部より取り出され、貯蔵槽25に送られる。
【0069】
主熱交換器21により冷却された中間ガスは、蒸留塔23に導入される前に、通常蒸留塔23の塔底部に設置されたリボイラ22を通して蒸留塔23に導入される。中間ガスがリボイラ22で冷却されることで、中間ガス中のメタンガスの一部が液化され、中間ガスと液化メタンとが混合した状態で蒸留塔23へと導入される。
【0070】
蒸留塔23で液化されなかったメタンガスは、蒸留塔23の塔頂部に接続されたコンデンサ24により凝縮され、少なくともその一部が液化メタンとなる。液化メタンは、再度蒸留塔23に戻され、貯蔵槽25に送られる。
【0071】
コンデンサ24に導入されたメタンガスは、例えば、冷媒との熱交換によって凝縮される。冷媒としては、例えば、液体窒素が使用される。
【0072】
メタンガスとの熱交換により、液体窒素の一部は気化され窒素ガスとなる。窒素ガスは、例えば、主熱交換器21において中間ガスを冷却するための冷媒として再利用されることが好ましい。また、主熱交換器21で再利用された窒素ガスは、上述の温度スイング吸着分離装置10で再利用されることが好ましい。
【0073】
蒸留塔23により分離された中間ガス中の窒素ガス、酸素ガスおよびアルゴンガスも、コンデンサ24に導入される。これらの窒素ガス、酸素ガスおよびアルゴンガス等の液化されないガスは、排気されるか、主熱交換器21において中間ガスを冷却するための冷媒として再利用されてもよい。
【0074】
本蒸留装置は、液体窒素を保持するためのタンク26を備えていてもよい。液化メタンの融点は-182.5℃であるのに対して、本実施形態において使用される液体窒素は、0.5MPaG程度の圧力を掛けられた状態でコンデンサ24に導入される。この場合の液体窒素は、通常の液体窒素よりも高温(例えば、-180~-175℃)であり、液化メタンの融点に近い。液体窒素の圧力が低下すると、コンデンサ24内で液化メタンが固化するおそれがある。そのため、コンデンサ24内での液体窒素の温度の低下を抑制するために、液体窒素を保管するためのタンク26を設置することで、コンデンサ24の過冷却を防止することができる。
【実施例0075】
以下、実施例が説明される。ただし以下の例は、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0076】
<実施例1>
図3に示す構成を有する液化メタンの製造装置が準備された。家畜の糞尿由来のバイオガスが準備された。バイオガス中の各ガスの濃度は、表1のポイント1に示す通りである。本実施例においては、上述の製造方法において、第1工程が膜分離法および温度スイング吸着法の順に行われた後、第2工程が行われた。膜分離装置では、分離膜として中空糸膜が、温度スイング吸着分離装置では、吸着剤としてゼオライトが、それぞれ用いられた。主熱交換器における冷媒は、コンデンサでメタンガスと熱交換された液体窒素の一部が気化された窒素ガス、および、蒸留により分離された窒素ガス、酸素ガスおよびアルゴンガスが用いられた。なお、ポイント1におけるバイオガスは、圧縮機によって圧縮されたものとする。
【0077】
図3中のポイント1~6における流量、圧力、温度および組成を表1に示す。各ポイントにおけるの組成の分析は、ガスクロマトグラフィー((株)ジェイ・サイエンス・ラボ社製、GAS5000F・HPID)により行われた。
【0078】
【0079】
<実施例2>
図4に示す構成を有する液化メタンの製造装置が準備された。実施例1で使用されたバイオガス中のメタンガスを濃縮した濃縮ガスが準備された。濃縮ガス中の各ガスの濃度は、表2のポイント1に示す通りである。本実施例においては、上述の製造方法において、第1工程が温度スイング吸着法の順に行われた後、第2工程が行われた。第1工程における温度スイング吸着分離装置および第2工程における蒸留装置は、実施例1と同じものが用いられた。なお、ポイント1における濃縮ガスは、圧縮機によって圧縮されたものとする。
【0080】
図4中のポイント1~5における流量、圧力、温度および組成を表2に示す。なお、各ポイントにおけるの組成の分析は、実施例1と同じガスクロマトグラフィーにより行われた。
【0081】
【0082】
表1に示されるように、実施例1において、50体積%のメタンガスを含むバイオガスから、純度99.99%以上の液化メタンが得られた。また、液化メタンの回収率は95体積%であった。
【0083】
表2に示されるように、実施例2において、実施例1と同じバイオガス中のメタンガスを濃縮した濃縮ガスから、純度99.99%以上の液化メタンが得られた。また、液化メタンの回収率は95体積%であった。
【0084】
このように、本開示に記載の液化メタンの製造方法および製造装置を用いることによって、バイオガスから高純度の液化メタンを製造ことができる。また、本開示においては、廃棄されていた家畜の糞尿を有効活用していることから、持続可能な開発目標(SDGs)の一部活動に貢献することができる。
【0085】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 分離膜装置、10 温度スイング吸着分離装置、11,11a,11b 吸着塔、12 加熱手段、20 蒸留装置、21 主熱交換器、22 リボイラ、23 蒸留塔、24 コンデンサ、25 貯蔵槽、26 タンク、30 液化メタンの製造装置。