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特開2024-136781仕上げ材取付け用金物キット、及び、壁パネルへの仕上げ材取付け構造
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  • 特開-仕上げ材取付け用金物キット、及び、壁パネルへの仕上げ材取付け構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136781
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】仕上げ材取付け用金物キット、及び、壁パネルへの仕上げ材取付け構造
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/08 20060101AFI20240927BHJP
   E04B 2/94 20060101ALI20240927BHJP
   E04F 13/14 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
E04F13/08 101T
E04B2/94
E04F13/14 102C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048021
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】399117730
【氏名又は名称】住友金属鉱山シポレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 正実
【テーマコード(参考)】
2E002
2E110
【Fターム(参考)】
2E002NA01
2E002NB06
2E002PA04
2E002SA02
2E002WA01
2E002XA01
2E002XA03
2E002XA16
2E110AA24
2E110AA47
2E110AA57
2E110AB04
2E110AB22
2E110BA12
2E110CA04
2E110CC02
2E110CC04
2E110CC06
2E110CC17
2E110DC12
2E110EA01
2E110GA33W
2E110GA33Y
2E110GA34W
2E110GB01Z
2E110GB23W
2E110GB23X
(57)【要約】
【課題】仕上げ材が取り付けられてなる壁体において、取付け作業の施工容易性にも優れ、尚且つ、壁体のロッキング機能の発現を阻害することのない、仕上げ材取付け用の技術的手段を提供すること。
【解決手段】断面L字状の第1の取付け金具11と、座金部121の内円の円周上に円筒状凸部122が立設されてなる第2の取付け金具12と、弾性材料からなるリング状防水材14と、を含んでなり、第1の取付け金具11は、背面板部111の略中央部に第2の取付け金具12の円筒状凸部122の外径と略同一の内径を有する貫通孔112を有し、第2の取付け金具12は、円筒状凸部122の座金部121の表面からの突出高さが、第1の取付け金具11の背面板部111の厚さ以上であり、リング状防水材14の内円径は、第2の取付け金具12の円筒状凸部122の内径以上で円筒状凸部122の外径以下である、仕上げ材取付け用金物キット1を用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁パネルに仕上げ材を取り付けるための金物を構成する複数の金具の組合せからなる仕上げ材取付け用金物キットであって、
背面板部と底面板部とが直交してなる断面L字状の第1の取付け金具と、
座金部の開口部に円筒状凸部が立設されてなる第2の取付け金具と、
弾性材料からなるリング状防水材と、
を含んでなり、
前記第1の取付け金具は、前記背面板部の略中央部に前記第2の取付け金具の前記円筒状凸部の外径と略同一の内径を有する貫通孔を有し、
前記第2の取付け金具は、前記円筒状凸部の前記座金部の表面からの突出高さが、前記第1の取付け金具の前記背面板部の厚さ以上であり、
前記リング状防水材の内円径は、前記第2の取付け金具の前記円筒状凸部の内径以上で前記円筒状凸部の外径以下である、
仕上げ材取付け用金物キット。
【請求項2】
前記第2の取付け金具の前記円筒状凸部の前記突出高さと、前記第1の取付け金具の厚さの差が0.1mm以上2mm以下であり、
前記リング状防水材の厚さが、前記第2の取付け金具の前記円筒状凸部の前記突出高さと、前記第1の取付け金具の厚さの差以上である、
請求項1に記載の仕上げ材取付け用金物キット。
【請求項3】
軸部の径が前記第2の取付け金具の前記円筒状凸部の内径と略同一である固定用ボルトと、ワッシャーと、を含んでなる、第3の取付け金具を更に有し、
前記固定用ボルトが、前記軸部の雄ねじ部分を被覆する緩み止めコーティング層を有する、
請求項1又は2に記載の仕上げ材取付け用金物キット。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の仕上げ材取付け用金物キットを用いて仕上げ材が、壁パネルに取り付けられてなる、壁パネルへの仕上げ材取付け構造であって、
前記第1の取付け金具は、前記第2の取付け金具の前記円筒状凸部が前記貫通孔に挿通されている状態で、固定用ボルトによって前記壁パネルの内部に埋設されている仕上げ材取付け用アンカーに接合されていて、
前記リング状防水材は、前記固定用ボルトの頭部又はワッシャーと前記第1の取付け金具の前記背面板部との間に挟まれて押圧されている状態で、前記背面板部の前記貫通孔と同心円上に配置されていて、
前記第1の取付け金具が前記固定用ボルトに対して回動可能に取り付けられている、
壁パネルへの仕上げ材取付け構造。
【請求項5】
前記壁パネルが軽量気泡コンクリートパネルである、
請求項4に記載の壁パネルへの仕上げ材取付け構造。
【請求項6】
複数の前記壁パネルが水平方向に連接された状態で建物躯体に接合されている壁体に仕上げ材が取り付けられてなる仕上げ材付き壁体であって、
前記仕上げ材を取り付けるためのアングル材である仕上げ材用下地鋼材が前記壁体を水平方向に沿って横断する態様で、各々の前記壁パネルに接合していて、
前記仕上げ材は、請求項4に記載の壁パネルへの仕上げ材取付け構造によって、前記仕上げ材用下地鋼材を介して、前記壁体に取り付けられている、
仕上げ材付き壁体。
【請求項7】
前記壁パネルが軽量気泡コンクリートパネルである、
請求項6に記載の仕上げ材付き壁体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仕上げ材取付け用金物キット、及び、壁パネルへの仕上げ材取付け構造に関する。本発明は、詳しくは、軽量気泡コンクリートパネル等の壁パネルに、仕上げ材を取り付けるために用いる金具の組合せであって、仕上げ材が取付けられている状態の壁体に、適切なロッキング機構を付与することができる仕上げ材取付け用金物キット、及び、それを用いて構成される壁パネルへの仕上げ材取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリートパネル等の壁パネルによって構成される建物の壁体においては、地震等により一定以上の外力が加わった場合に、各壁パネルの取付け部に生じる応力が許容応力度を超え、壁パネルの脱落や局部的破壊が生じてしまうリスクがある。このリスクを回避するため、上記壁体においては、地震等により一定以上の外力が加わった場合には、壁面方向内での各壁パネルの微少な回転により上記の応力を開放することができるロッキング機構を、壁体に備えさせることによって必要な免震性が担保されている(特許文献1~3参照)。
【0003】
ここで、上記の壁体において、壁パネルの外側に、更に、金属貼り、石貼り、陶板貼り等の「仕上げ材」が取り付けられる場合がある。この場合、先ず、複数の壁パネルを横断する態様でアングル材等の下地鋼材(図10Aにおける仕上げ材用下地鋼材31参照)が、各々の壁パネルに取り付けられる。そして、このように壁体に固定されている仕上げ材用下地鋼材を介して、仕上げ材が壁体に設置される。
【0004】
ところが、壁体が上述のロッキング機構を有するものである場合、上記の下地鋼材等からなる仕上げ材の取付け構造が、本来、壁体が地震時に発揮すべきロッキング機能の発現を阻害してしまうことが問題となる。この問題に対して、壁パネルの外側に仕上げ材が取り付けられる壁体において、地震時に壁体のロッキング機能の発現を阻害しないようにすることを企図した仕上げ材取付用の金物、取り付け構造等が提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献3に開示されている仕上げ材取付用の金物は、複数の金具を、それぞれ別の固定用ボルトで壁パネルに固定する構造とされている。この場合、それぞれの固定用ボルトのトルク管理を個別に行う必要があり、仕上げ材取付けの作業が煩雑になる点について改善策が模索されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-16841号公報
【特許文献2】特開2017-166276号公報
【特許文献3】特開2020-200572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、壁パネルの外側に、仕上げ材が取り付けられてなる壁体において、取付け作業の施工容易性にも優れ、尚且つ、壁体のロッキング機能の発現を阻害することのない、仕上げ材取付け用の技術的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下に詳細を説明する各取付け金具の組合せからなる仕上げ材取付け用金物キットによって、上記課題が解決できることに想到し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0009】
(1) 壁パネルに仕上げ材を取り付けるための金物を構成する複数の金具の組合せからなる仕上げ材取付け用金物キットであって、背面板部と底面板部とが直交してなる断面L字状の第1の取付け金具と、座金部の開口部の円周上に円筒状凸部が立設されてなる第2の取付け金具と、弾性材料からなるリング状防水材と、を含んでなり、前記第1の取付け金具は、前記背面板部の略中央部に前記第2の取付け金具の前記円筒状凸部の外径と略同一の内径を有する貫通孔を有し、前記第2の取付け金具は、前記円筒状凸部の前記座金部の表面からの突出高さが、前記第1の取付け金具の前記背面板部の厚さ以上であり、前記リング状防水材の内円径は、前記リング状防水材の内円径は、前記第2の取付け金具の前記円筒状凸部の内径以上で前記円筒状凸部の外径以下である、仕上げ材取付け用金物キット。
【0010】
(1)の仕上げ材取付け用金物キットは、1本の固定用ボルトによって、2つの取付け金具を壁パネルに固定する構造からなるものであるため、ボルトの数を最小化して、トルク管理の負担を最小化することができる点を含めて、取付け作業の施工容易性に優れ、尚且つ、地震時には、第2の取付け金具に対して第1の取付け金具が適度に摺動して回動することが可能な構造であるため、仕上げ材の取り付けによって壁体のロッキング機能の発現が阻害されることを回避することができる。
【0011】
(2) 前記第2の取付け金具の前記円筒状凸部の前記突出高さと、前記第1の取付け金具の厚さの差が0.1mm以上2mm以下であり、前記リング状防水材の厚さが、前記第2の取付け金具の前記円筒状凸部の前記突出高さと、前記第1の取付け金具の厚さの差以上である、(1)に記載の仕上げ材取付け用金物キット。
【0012】
(2)の仕上げ材取付け用金物キットによれば、円筒状凸部の背面板部からの第1の取付け金具の表面からの突出高さを適切に確保することによって、この仕上げ材取付け用金物キットを用いて構成される仕上げ材取付け構造において弾性材料からなるリング状防水材による防水性を更に高め、尚且つ、地震時においては、当該リング状防水材との界面において第1の取付け金具を適切に回動させて、ロッキング機能をより安定的に発現させることができる。
【0013】
(3) 軸部の径が前記第2の取付け金具の前記円筒状凸部の内径と略同一である固定用ボルトと、ワッシャーと、を含んでなる、第3の取付け金具を更に有し、前記固定用ボルトが、前記軸部の雄ねじ部分を被覆する緩み止めコーティング層を有する、(1)又は(2)に記載の仕上げ材取付け用金物キット。
【0014】
(3)の仕上げ材取付け用金物キットによれば、(1)又は(2)に記載の仕上げ材取付け用金物キットの奏する上記各効果を享受しつつ、更に、雄ねじ部分を被覆してなる緩み止めコーティング層を有する固定用ボルトを用いることにより、固定用ボルトの壁パネルに対する安定性を高め、仕上げ材の取付け構造の安定性と、ロッキング機能の発現の安定性を、より高い水準で両立させることができる。
【0015】
(4) (1)又は(2)に記載の仕上げ材取付け用金物キットを用いて仕上げ材が、壁パネルに取り付けられてなる、壁パネルへの仕上げ材取付け構造であって、前記第1の取付け金具は、前記第2の取付け金具の前記円筒状凸部が前記貫通孔に挿通されている状態で、固定用ボルトによって前記壁パネルの内部に埋設されている仕上げ材取付け用アンカーに接合されていて、前記リング状防水材は、前記固定用ボルトの頭部又はワッシャーと前記第1の取付け金具の前記背面板部との間に挟まれて押圧されている状態で、前記背面板部の前記貫通孔と同心円上に配置されていて、前記第1の取付け金具が前記固定用ボルトに対して回動可能に取り付けられている、壁パネルへの仕上げ材取付け構造。
【0016】
(4)の壁パネルへの仕上げ材取付け構造によれば、壁パネルの外側に、仕上げ材が取り付けられてなる壁体において、(1)又は(2)に記載の仕上げ材取付け用金物キットの奏する上記各効果を享受して、仕上げ材の取付け作業の作業容易性及び仕上げ材の設置の安定性と、壁体のロッキング機能の発現の確実性を、両立させることができる。
【0017】
(5) 前記壁パネルが軽量気泡コンクリートパネルである、(4)に記載の壁パネルへの仕上げ材取付け構造。
【0018】
(5)の壁パネルへの仕上げ材取付け構造によれば、特に地震時におけるロッキング機能の発現の重要性が高い軽量気泡コンクリートパネルの壁体において、仕上げ材の取付け作業の作業容易性及び仕上げ材の設置の安定性と、壁体のロッキング機能の発現の確実性を、両立させることができる。
【0019】
(6) 複数の前記壁パネルが水平方向に連接された状態で建物躯体に接合されている壁体に仕上げ材が取り付けられてなる仕上げ材付き壁体であって、前記仕上げ材を取り付けるためのアングル材である仕上げ材用下地鋼材が前記壁体を水平方向に沿って横断する態様で、各々の前記壁パネルに接合していて、前記仕上げ材は、(4)に記載の壁パネルへの仕上げ材取付け構造によって、前記仕上げ材用下地鋼を介して、前記壁体に取り付けられている、仕上げ材付き壁体。
【0020】
(6)の仕上げ材付き壁体によれば、壁パネルが水平方向に連接された状態で建物躯体に接合されている壁体に仕上げ材が取り付けられてなる仕上げ材付き壁体において、(4)に記載の壁パネルへの仕上げ材取付け構造の奏する上記各効果を享受して、仕上げ材の取付け作業の作業容易性及び仕上げ材の設置の安定性と、壁体のロッキング機能の発現の確実性を、両立させることができる。
【0021】
(7) 前記壁パネルが軽量気泡コンクリートパネルである、(6)に記載の仕上げ材付き壁体。
【0022】
(7)の仕上げ材付き壁体によれば、特に地震時におけるロッキング機能の発現の重要性が高い軽量気泡コンクリートパネルの壁体において、仕上げ材の取付け作業の作業容易性及び仕上げ材の設置の安定性と、壁体のロッキング機能の発現の確実性を、両立させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、壁パネルの外側に、仕上げ材が取り付けられてなる壁体において、取付け作業の施工容易性にも優れ、尚且つ、壁体のロッキング機能の発現を阻害することのない、仕上げ材取付け用の技術的手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の仕上げ材取付け用金物キットを用いた壁パネルへの仕上げ材取付け構造の側面図である。
図2図1の部分拡大図である。
図3】本発明の仕上げ材取付け用金物キットを構成する第1の取付け金具の斜視図である。
図4】本発明の仕上げ材取付け用金物キットを構成する第1の取付け金具(他の実施形態)の斜視図である。
図5】本発明の仕上げ材取付け用金物キットを構成する第2の取付け金具の斜視図である。
図6】本発明の仕上げ材取付け用金物キットを構成する第2の取付け金具の側面図である。
図7】本発明の仕上げ材取付け用金物キットを構成する第3の取付け金具の側面図である。
図8】本発明の仕上げ材取付け用金物キットの使用態様の説明に供する分解斜視図である。
図9】本発明の仕上げ材取付け用金物キットの使用態様の説明に供する正面図であり、壁パネルへの仕上げ材取付け構造におけるロッキング機能の発現の説明に供する図面である。
図10】本発明の仕上げ材取付け用金物キットによって、仕上げ材を取り付けることができる壁体の一例(A)、及び、当該壁体におけるロッキング機能の発現態様(B)の説明に供する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の仕上げ材取付け用金物キット、本発明の壁パネルへの仕上げ材取付け構造、及び、仕上げ材付き壁体の好ましい実施形態について説明する。
【0026】
<全体構成の概略>
図10(A)は、本発明の「仕上げ材取付け用金物キット」(或いは、それを用いてなる「壁パネルへの仕上げ材取付け構造」)によって、仕上げ材を取り付けることができる壁体の一例である壁体100の立面図である。壁体100においては、軽量気泡コンクリートパネル等の複数の長方形の壁パネル20が水平方向に連接された状態で建物躯体に接合されている。そして、この壁体100は、地震等により一定以上の外力が加わった場合には、壁面方向内での各壁パネル20の微少な回転により応力を開放するロッキング機能が付与されている。
【0027】
この壁体100には、図9(A)に示すように、仕上げ材を取り付けるための長尺のアングル材である仕上げ材用下地鋼材31が、複数の壁パネル20を水平方向に沿って横断する態様で、各々の壁パネル20に取り付けられている。又、仕上げ材用下地鋼材31は、複数の金具の組合せによって構成されている取付け用金物を介して壁パネル20に接合されている。
【0028】
本発明の「仕上げ材取付け用金物キット」は、仕上げ材用下地鋼材31を各々の壁パネル20に取り付けるための上述の取付け用金物を構成する複数の金具(取付け用金物の部品)の組合せからなるものである。そして、本発明の「壁パネルへの仕上げ材取付け構造」は、「仕上げ材取付け用金物キット」に含まれる複数の金具によって構成される取付け用金物によって、軽量気泡コンクリートパネル等の壁パネル20に仕上げ材用下地鋼材31が接合されている部分及び当該部分の周辺の構造のことを言う。
【0029】
<仕上げ材取付け用金物キット>
仕上げ材取付け用金物キット1は、図8に示すように、断面L字状の第1の取付け金具11、座金部と円筒状凸部とを有する第2の取付け金具12、及び、弾性材料からなるリング状防水材14を少なくとも含んで構成される。又、仕上げ材取付け用金物キット1は、雄ねじ部分を被覆する緩み止めコーティング層を有する固定用ボルト131等によって構成される第3の取付け金具13を更に含んで構成されるものであることがより好ましい。仕上げ材取付け用金物キット1が第3の取付け金具13を含まずに構成されている場合には、汎用品として入手容易な適切なサイズのボルト及びワッシャーを、第3の取付け金具13に代えて用いることができる。
【0030】
[第1の取付け金具]
第1の取付け金具11は、図3に示す通り、背面板部111と底面板部113とが直交してなる断面L字状の金具である。幅が、40mm以上130mm以下程度で、厚さが、1.6mm以上12.0mm以下程度である金属板材を折り曲げ加工した部材に、下記態様の貫通孔112及び貫通スリット114を設けた金具を第1の取付け金具11として用いることができる。
【0031】
仕上げ材取付け用金物キット1を用いて構成される仕上げ材取付け構造10において、第1の取付け金具11は、貫通孔112に第2の取付け金具12の円筒状凸部122が挿通されている状態で、固定用ボルト(或いは第3の取付け金具13)によって壁パネル20の内部に埋設されている仕上げ材取付け用アンカー21に接合される(図2参照)。
【0032】
第1の取付け金具11は、背面板部111の略中央部の1か所に、取付け用金物としての使用時に第2の取付け金具12の円筒状凸部122が挿通される貫通孔112を有する。この貫通孔112の内径は、第2の取付け金具12の円筒状凸部122の外径と略同一である。
【0033】
第1の取付け金具11は、底面板部113の1か所又は複数か所に、仕上げ材用下地鋼材31を底面板部113に接合する固定金具32(図1参照)を貫通させる貫通スリット114を有する。貫通スリット114は、その長手方向が背面板部111と底面板部113との境いとなる折れ曲がり線に対して直行する方向に沿って形成されている長孔であることが好ましい。貫通スリット114を複数か所に設ける場合には、底面板部113の中央部に対して対称となる位置に形成することが好ましい。このような形状の貫通スリット114を上記のような複数か所に設けることにより、仕上げ材用下地鋼材31の位置について、下地の出入り調整、面内方向調整等の微調整を、第1の取付け金具11の固定位置を変えずに行うことができるようになる。
【0034】
又、第1の取付け金具の他の実施形態として図4に示す第1の取付け金具11Aを挙げることができる。第1の取付け金具11Aは、底面板部113の略中央部の1か所に、仕上げ材用下地鋼材31を底面板部113に接合する固定金具32(図4参照)を貫通させる貫通スリット114Aを、その長手方向が背面板部111と底面板部113との境となる折れ曲がり線に対して、並行する方向に沿って形成されている長穴としたものである。このような形状及び配置からなる貫通スリット114Aを設けることにより、仕上げ材用下地鋼材31の位置について、下地の面内方向調整等の微調整を、第一の取付け金具11の固定位置を変えずに行うことができるようになる。
【0035】
[第2の取付け金具]
第2の取付け金具12は、図5に示す通り、中央部分に円形の開口部を有する円盤形状の座金部121の開口部の円周上にパイプ状の円筒状凸部122が立設されてなる金具である。
【0036】
仕上げ材取付け用金物キット1を用いて構成される仕上げ材取付け構造10において、第2の取付け金具12は、円筒状凸部122が第1の取付け金具11の貫通孔112に挿通されている状態で、固定用ボルト(或いは第3の取付け金具13)によって壁パネル20の内部に埋設されている仕上げ材取付け用アンカー21に接合される(図2参照)。
【0037】
円筒状凸部122の内円と座金部121の開口部は同心円上にあり且つ両者の径は同一である。即ち、第2の取付け金具12においては、円筒状凸部122と座金部121の開口部とによって貫通路123が形成されている。
【0038】
第2の取付け金具12は、図6に示す通り、円筒状凸部122部の座金部121の表面からの突出高さ(図6における、厚さ:W+W)を、第1の取付け金具11の背面板部111の厚さ(図6における、厚さ:W)以上とする。又、第2の取付け金具の円筒状凸部122の突出高さと、第1の取付け金具の厚さの差(図6における、厚さ:W)は0.1mm以上2mm以下であることが好ましい。
【0039】
又、第2の取付け金具12は、座金部121における円筒状凸部122が設けられている面とは反対側の面(背面)に、弾性材料からなる防水層124が設けられていることが好ましい。第2の取付け金具12に防水層124を設けることによって、仕上げ材取付け用金物キット1を用いて構成される仕上げ材取付け構造10において、防水性を更に高め、尚且つ、地震時においては、防水層124との界面においても第1の取付け金具を適度に摺動させて、ロッキング機能をより安定的に発現させることができる。
【0040】
防水層124を構成するための材料としては、弾性と防水性を有する各種のゴム材料を特に限定なく用いることができるが、クロロプレーンゴム又はネオプレーンゴム、シリコーンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素樹脂、アクリルゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、天然ゴムを好ましく用いることができる。中でも、耐候性や難燃性において優れるクロロプレーンゴム又はネオプレーンゴム、シリコーンゴムを、特に好ましく用いることができる。
【0041】
[リング状防水材]
リング状防水材14は、弾性材料からなり中央部分に円形の開口部を有する円盤形状の部材である。
【0042】
仕上げ材取付け用金物キット1を用いて構成される仕上げ材取付け構造10において、リング状防水材14は、固定用ボルト(或いは第3の取付け金具13)の軸部135に環装され、ワッシャー133と第1の取付け金具11の背面板部111の間に挟まれて押圧されている状態で、貫通孔112と同心円上に配置される(図2参照)。又、リング状防水材14は、予め、ワッシャー133に接着しておくこともできる。
【0043】
リング状防水材14の内円径は、第2の取付け金具12の円筒状凸部122の内径以上で円筒状凸部122の外径以下である。第2の取付け金具の円筒状凸部122の突出高さと、第1の取付け金具の厚さの差(図6における、厚さ:W)が、リング状防水材14の厚さと同程度である場合には、リング状防水材14の内円の内径を円筒状凸部122の内径と同一とし、弾性を活かしてその内円を引き延ばした状態で、円筒状凸部122の取付け金具11の背面板部111表面からの突出部分に環装すればよい。
【0044】
リング状防水材14の厚さは、特に限定されないが、第2の取付け金具12の円筒状凸部122の第1の取付け金具の背面板部111からの突出高さと、背面板部111の厚さの差(厚さ:W)以上とすることが好ましい。具体的な厚さについては、厚さ:Wとの関係で好ましい厚さとすればよい。一例として、厚さ:Wが1mm以上2mm以下である場合、押圧による圧縮分、弾性材料の弾性等を考慮して、厚さ:Wの105%~110%程度の厚さとすることが好ましい。
【0045】
リング状防水材14を構成するための材料は、上述の第2の取付け金具12に形成される防水層124と同様に弾性と防水性を有する各種のゴム材料を特に限定なく用いることができる。上記同様、クロロプレーンゴム又はネオプレーンゴム、シリコーンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素樹脂、アクリルゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、天然ゴムを好ましく用いることができ、中でも、クロロプレーンゴム又はネオプレーンゴム、シリコーンゴムを、特に好ましく用いることができる。
【0046】
[第3の取付け金具]
仕上げ材取付け用金物キット1においては、上述の第1の取付け金具11、第2の取付け金具12、及び、リング状防水材14を、壁パネル20の内部に埋設されている仕上げ材取付け用アンカー21に接合するために用いる固定用ボルト等として、第3の取付け金具13を用いることが好ましい。第3の取付け金具13は、図7に示す通り、軸部135の径が第2の取付け金具の前記円筒状凸部の内径と略同一である固定用ボルト131と、ワッシャー133と、好ましくは、更に、スプリングワッシャー132を含んでなる、固定用金具である。そして、第3の取付け金具13を構成する固定用ボルト131は、図7に示す通り、軸部135の雄ねじ部分を被覆する緩み止めコーティング層136を有することを特徴とする。
【0047】
緩み止めコーティング層136は、軸部135の雄ねじ部分にナイロン樹脂、接着剤等が塗布されることにより形成されている薄膜であり、固定用ボルト131の壁パネル20に対する締結の安定性を高めることを目的とするものである。緩み止めコーティング層136を形成するための材料としては、シリコーン、或いは、ナイロン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂或いは、それらの混合樹脂材料等を適宜選択してこれらを軸部表面にコーティング加工することによって緩み止めコーティング層136を形成することができる。尚、上記の中でも、反復使用が可能で施工容易性に優れるナイロン樹脂を特に好ましく用いることができる。
【0048】
<壁パネルへの仕上げ材取付け構造>
図1に示す通り、本発明の実施形態の一つである、壁パネルへの仕上げ材取付け構造10においては、仕上げ材30を軽量気泡コンクリートパネル等の壁パネル20に接合するための部材である仕上げ材用下地鋼材31が、上記において詳細を説明した仕上げ材取付け用金物キット1に含まれる複数の金具等によって、軽量気泡コンクリートパネル等の壁パネル20に接合されている。
【0049】
図2及び図8に示す通り、壁パネルへの仕上げ材取付け構造10においては、第1の取付け金具11及び第2の取付け金具12は、第2の取付け金具12の円筒状凸部122が第1の取付け金具11の貫通孔112に挿通されている状態で固定用ボルト(好ましくは緩み止めコーティング層136を有する固定用ボルト131)によって、壁パネル20の内部に埋設されている仕上げ材取付け用アンカー21に固定されている。又、リング状防水材14は、固定用ボルトの頭部又はワッシャー133と第1の取付け金具11の背面板部111との間に挟まれて押圧されている状態で、背面板部111の貫通孔112と同心円上に配置されている。このように、壁パネルへの仕上げ材取付け構造10においては、リング状防水材14、第1の取付け金具11、及び、第2の取付け金具12が、固定用ボルト131によって同軸上に緊結されている。
【0050】
上述のように取り付け金物を構成する各部品が、1本の固定用ボルト131によって同軸上に緊結されている壁パネルへの仕上げ材取付け構造10においては、地震時には、第1の取付け金具11は、第1の取付け金具11の背面板部111とリング状防水材14との界面において摺動することによって、壁パネル20によって構成される壁体がロッキング機能を発現させることができる程度に固定用ボルトに対して回動することできる(図9参照)。これにより、壁パネルへの仕上げ材取付け構造10においては、壁体のロッキング機能が発現する際に生じる仕上げ材の変位を吸収することができるので、壁パネル20の外側に、仕上げ材30が取り付けられてなる壁体において、壁体のロッキング機能の発現が阻害されることを回避することができる。
【0051】
尚、「第1の取付け金具が固定用ボルトに対して回動可能に取り付けられている」とは、壁パネルへの仕上げ材取付け構造10において、第1の取付け金具11が固定用ボルトに対して、地震時におけるロッキング機能、即ち、壁パネル20の微少な回転により外力により生ずる応力を開放する機能が発現するときに、第1の取付け金具11等を含んで構成されている取付け用金物によって壁パネル20に接合されている仕上げ材用下地鋼材31が、ロッキング機能の発現を阻害することがないようにするために必要な範囲で、図10(B)に示すように、上述の壁パネル20の微少な回転による仕上げ材用下地鋼材31の変位を吸収することが可能である程度にR方向に回動可能であることを意味する。
【0052】
特に固定用ボルトを軸部135の雄ねじ部分を被覆する緩み止めコーティング層136を有する固定用ボルト131とする場合には、壁パネル20の内部に埋設されている仕上げ材取付け用アンカー21に対する締結の強度をより少ない締め付けによっても担保することができるので、その分、必要に応じて、第1の取付け金具11の背面板部111とリング状防水材14との界面の摩擦をより小さくして、より回動させやすくすることもできるようになる。
【0053】
尚、壁パネルへの仕上げ材取付け構造10において、第2の取付け金具の円筒状凸部122の突出高さと、第1の取付け金具の厚さの差(厚さ:W)が、0である場合には、固定用ボルトの締め付けトルクの調整により、第1の取付け金具11の回動のし易さを調整すればよい。又、上記の厚さの差(厚さ:W)を、上述したように数mm程度確保した場合には、上述したように、そのように確保した厚さ(クリアランス)に応じた適切な厚さを有する弾性材料からなるリング状防水材14をその隙間に介在させることによって、リング状防水材14を構成する弾性材料と金属面との間の適度な摩擦により、回転運動を適切に制御することができる。又、リング状防水材14を配置することにより、微細な振動時での金属同士の音鳴りを低減するという効果も享受することができる。
【0054】
<仕上げ材付き壁体>
本発明の実施形態の一つである、仕上げ材付き壁体は、軽量気泡コンクリートパネル等の壁パネル20が水平方向に連接された状態で建物躯体に接合されている壁体に仕上げ材が取り付けられてなる構造体である。この仕上げ材付き壁体は、躯体側取付け金具23(図1参照)を介して建物躯体に固定される。
【0055】
本発明の仕上げ材付き壁体においては、仕上げ材30を壁パネル20に接合するための部材である仕上げ材用下地鋼材31が、上記において詳細を説明した壁パネルへの仕上げ材取付け構造10によって、壁パネル20に接合されている。本発明の仕上げ材付き壁体においては、第1の取付け金具11が、通常時は、図10(A)に示すように、仕上げ材用下地鋼材31を水平に保持することができるように配置されている。そして、地震等の外力が壁体100に加えられた有事においては、図10(B)に示すように、第1の取付け金具11はR方向に回動することによって、ロッキング機能の発現による壁パネル20の微少な回転による仕上げ材用下地鋼材31の変位を吸収する。このようにして、本発明の仕上げ材付き壁体においては、地震時において壁体のロッキング機能を安定的に発現させることができる。
【0056】
尚、本発明の仕上げ材付き壁体を構成する壁パネル20としては、仕上げ材取付け用アンカー21、及び、壁パネル20を躯体側固定用ボルト24によって建物躯体に固定するための建物躯体側アンカー22が、何れも、工場でのパネル製造時に、パネル内部の補強鉄筋25に溶接固定され埋設されている状態とされているものを用いることが好ましい。これにより、施工現場での後加工の作業負担は低減し、壁パネル20の建物躯体及び仕上げ材との間の固定力を高めることができる。又、施工現場において、壁パネルにアンカー埋設用の穴を開ける作業を行う必要がなくなるため、当該加工による漏水の可能性も低減することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 仕上げ材取付け用金物キット
11、11A 第1の取付け金具
111 背面板部
112 貫通孔
113 底面板部
114、114A 貫通スリット
12 第2の取付け金具
121 座金部
122 円筒状凸部
123 貫通路
124 防水層
13 第3の取付け金具(固定用ボルト)
131 固定用ボルト
132 スプリングワッシャー
133 ワッシャー
135 軸部
136 緩み止めコーティング層
14 リング状防水材
10 仕上げ材取付け構造
20 壁パネル
21 仕上げ材取付け用アンカー
22 建物躯体側アンカー
23 躯体側取付け金具
24 躯体側固定用ボルト
25 補強鉄筋
30 仕上げ材
31 仕上げ材用下地鋼材
32 固定金具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10