(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136788
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】捺染画像形成物、インクジェットインク、オーバーコート層形成液、前処理液、および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
D06P 5/30 20060101AFI20240927BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240927BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20240927BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
D06P5/30
B41M5/00 120
B41M5/00 114
B41M5/00 132
B41M5/00 134
C09D11/30
B41J2/01 123
B41J2/01 501
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048034
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白石 雅晴
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EE17
2C056FA10
2C056FB03
2C056FC02
2C056HA42
2C056HA46
2H186AB03
2H186AB10
2H186AB12
2H186AB22
2H186AB23
2H186AB34
2H186AB39
2H186AB41
2H186AB54
2H186AB56
2H186AB57
2H186BA08
2H186DA17
2H186FA08
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB18
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
4H157AA01
4H157DA01
4H157DA20
4H157GA06
4J039BE01
4J039EA42
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】布帛に形成された捺染画像のベタつき、および捺染画像が形成された布帛の風合いが悪くなることを抑制すること。
【解決手段】布帛と、前記布帛に形成された、前処理層、定着層、およびオーバーコート層を有する捺染画像とを有する捺染画像形成物であって、前記捺染画像の付着量が1g/m
2~10g/m
2であり、前記捺染画像形成物と、前記捺染画像が形成されていない布帛とを摩擦感テスターKES-SEでそれぞれ測定したとき、平均摩擦係数MIUの差が0.42以下であり、前記捺染画像形成物と、前記捺染画像が形成されていない布帛とを折り曲げ試験機KES-FB2-Aでそれぞれ測定したとき、折り曲げトルクの差が0.006gf・cm以下である、捺染画像形成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛と、前記布帛に形成された、前処理層、定着層、およびオーバーコート層を有する捺染画像とを有する捺染画像形成物であって、
前記捺染画像の付着量が1g/m2~10g/m2であり、
前記捺染画像形成物と、前記捺染画像が形成されていない布帛とを摩擦感テスターKES-SEでそれぞれ測定したとき、平均摩擦係数MIUの差が0.42以下であり、
前記捺染画像形成物と、前記捺染画像が形成されていない布帛とを折り曲げ試験機KES-FB2-Aでそれぞれ測定したとき、折り曲げトルクの差が0.006gf・cm以下である、捺染画像形成物。
【請求項2】
前記布帛は綿サテンであり、前記定着層は顔料を含む、請求項1に記載の捺染画像形成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の捺染画像形成物の定着層を形成するために用いられるインクジェットインクであって、ガラス転移温度Tgが-35℃以下である定着樹脂を含む、インクジェットインク。
【請求項4】
請求項1または2に記載の捺染画像形成物のオーバーコート層を形成するために用いられるオーバーコート層形成液であって、ガラス転移温度Tgが50℃以上であるアニオン樹脂微粒子を含む、オーバーコート層形成液。
【請求項5】
請求項1または2に記載の捺染画像形成物の前処理層を形成するために用いられる前処理液であって、重量平均分子量Mwが1000~10000であるカチオン樹脂を含む、前処理液。
【請求項6】
請求項1または2に記載の捺染画像形成物を製造するための画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染画像形成物、インクジェットインク、オーバーコート層形成液、前処理液、および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
捺染方法として、従来、染料で満たされた浴に布帛を浸漬して捺染を行う吸尽捺染が知られているが、染色に長時間を要することから、生産効率が低かった。近年では、短時間で染色でき、生産効率が高いこと等から、インクジェット法により布帛への画像形成を行う、所謂、インクジェット捺染が広く行われている。
【0003】
インクジェット捺染では、インクの微小液滴をインクジェット記録ヘッドから吐出させ、布帛に着弾させて画像形成を行う。たとえば、特許文献1は、このようなインクジェットによって捺染物を製造する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット捺染では、布帛に形成された捺染画像がベタつくこと、捺染画像が形成された布帛の風合いが悪くなることがある。
【0006】
本発明の目的は、布帛に形成された捺染画像のベタつき、および捺染画像が形成された布帛の風合いが悪くなることを抑制することができる捺染画像形成物および当該捺染画像を製造するための画像形成装置を提供することである。また、本発明の目的は、当該捺染画像形成物を形成するためのインクジェットインク、オーバーコート層形成液、および前処理液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の捺染画像、インクジェットインク、オーバーコート層形成液、前処理液、および画像形成装置に関する。
【0008】
[1] 布帛と、前記布帛に形成された、前処理層、定着層、およびオーバーコート層を有する捺染画像とを有する捺染画像形成物であって、前記捺染画像の付着量が1g/m2~10g/m2であり、前記捺染画像形成物と、前記捺染画像が形成されていない布帛とを摩擦感テスターKES-SEでそれぞれ測定したとき、平均摩擦係数MIUの差が0.42以下であり、前記捺染画像形成物と、前記捺染画像が形成されていない布帛を折り曲げ試験機KES-FB2-Aでそれぞれ測定したとき、折り曲げトルクの差が0.006gf・cm以下である、捺染画像形成物。
[2] 前記布帛は綿サテンであり、前記定着層は顔料を含む、[1]に記載の捺染画像形成物。
[3] [1]または[2]に記載の捺染画像形成物の定着層を形成するために用いられるインクジェットインクであって、ガラス転移温度Tgが-35℃以下である定着樹脂を含む、インクジェットインク。
[4] [1]または[2]に記載の捺染画像形成物のオーバーコート層を形成するために用いられるオーバーコート層形成液であって、ガラス転移温度Tgが50℃以上であるアニオン樹脂微粒子を含む、オーバーコート層形成液。
[5] [1]または[2]に記載の捺染画像形成物の前処理層を形成するために用いられる前処理液であって、重量平均分子量Mwが1000~10000であるカチオン樹脂を含む、前処理液。
[6] [1]または[2]に記載の捺染画像形成物を製造するための画像形成装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、布帛に形成された捺染画像のベタつき、および捺染画像が形成された布帛の風合いが悪くなることを抑制することができる捺染画像形成物および当該捺染画像形成物を製造するための画像形成装置を提供することができる。また、本発明によれば、当該捺染画像形成物を形成するためのインクジェットインク、オーバーコート層形成液、および前処理液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る画像形成装置を示す模式図である。
【
図2】
図2は、折り曲げ試験の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前処理層、定着層、およびオーバーコート層を有する捺染画像のベタつきを抑えるためには、例えば、前処理層の上に形成される定着層に含まれる樹脂を硬くすることが考えられる。しかし、定着層に含まれる樹脂を硬くすると、捺染画像が形成された布帛の風合いが悪くなる。このように、捺染画像において、捺染画像のベタつきの抑制と、布帛の風合いとはトレードオフの関係にあり、両立させることが難しい。
【0012】
しかし、本発明の実施の形態に係る捺染画像によれば、ベタつきの抑制と、風合いとを両立することができる。
【0013】
ベタつきの抑制については、捺染画像の摩擦係数が小さいことで評価でき、風合いは捺染画像が形成された布帛(捺染画像形成物)の折り曲げトルクが小さいことで評価できると考えられる。
【0014】
具体的には、本実施の形態に係る捺染画像形成物は、捺染画像(前処理層、定着層、およびオーバーコート層の合計の付着量)の付着量を1g/m2~10g/m2としたときに、捺染画像が形成された布帛(捺染画像形成物)と、捺染画像が形成されていない布帛とを摩擦感テスターKES-SEでそれぞれ測定したとき、平均摩擦係数MIUの差が0.42以下であればよい。また、平均摩擦係数の平均偏差MMDの差が0.24以下であることが好ましい。
また、本実施の形態に係る捺染画像形成物は、捺染画像の付着量を1g/m2~10g/m2としたときに、捺染画像が形成された布帛(捺染画像形成物)と、捺染画像が形成されていない布帛とを折り曲げ試験機KES-FB2-Aでそれぞれ測定したとき、折り曲げトルクの差が0.006gf・cm以下である。
なお、捺染画像の付着量は1g/m2~10g/m2であればよく、3g/m2~10g/m2であることがより好ましく、3g/m2~8g/m2であることがより好ましい。
【0015】
なお、捺染画像が形成される布帛は、捺染画像が形成できれば特に制限されない。この布帛を構成する繊維素材の種類の例には、綿(セルロース繊維)、麻、羊毛、絹等の天然繊維や;レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル又はアセテート等の化学繊維が含まれる。布帛は、これらの繊維を、織布、不織布、編布等、いずれの形態にしたものであってもよい。また、布帛は、2種類以上の繊維の混紡織布又は混紡不織布等であってもよい。布帛は、例えば、綿サテンであることが好ましい。
【0016】
上述のように、本実施の形態に係る捺染画像形成物の捺染画像は、前処理層、定着層、およびオーバーコート層を有し、それぞれ、前処理液、インクジェットインク、およびオーバーコート層形成液によって形成される。以下、それぞれについて説明する。
【0017】
1-1.前処理液
前処理液は、最初に布帛に対して付与される。布帛上に前処理液が付与されることで前処理層となる。前処理液は、カチオン樹脂を含み、カチオン樹脂は、インクジェットインク中の定着樹脂と顔料の凝集を促進して定着層の定着を促進する。
【0018】
カチオン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、捺染画像のベタつきを抑制するという観点から、1000以上であることが好ましい。一方、カチオン樹脂の重量平均分子量の上限は、前処理液中での分散性という観点から10000以下であることが好ましい。すなわち、カチオン樹脂の重量平均分子量は、1000~10000であることが好ましい。カチオン樹脂の重量平均分子量(Mw)はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリスチレン換算にて測定したものとすることができる。
【0019】
カチオン樹脂の例には、ポリアミン、ジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルアミン重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミンアミド硫酸塩重合体、メチルジアリルアミン酢酸塩重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト重合体、アミン・エピクロロヒドリン縮合型ポリマー、ポリ-2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロリド、ジメチルアミン・エチレンジアミン・エピクロルヒドリン縮合物、ジメチルアミン・アンモニア・エピクロルヒドリン縮合物等が含まれる。
【0020】
カチオン樹脂の市販品の例には、ニットーボーメディカル株式会社製のPAS-H-L、四日市合成株式会社製のカチオマスター(登録商標)のPD-7、PD-30、PE―30、センカ株式会社製のユニセンスKHE等が含まれる。
【0021】
カチオン樹脂は、前処理液に対して、0.1質量%~10質量%であることが好ましい。
【0022】
前処理液を付与する方法は、特に制限されず、例えばパッド法、コーティング法、スプレー法、インクジェット法等でありうる。布帛に付与された前処理液は、温風、ホットプレート又はヒートローラーを用いて加熱乾燥させてもよい。
【0023】
1-2.インクジェットインク
インクジェットインクは、上記の前処理層上に付与される。インクジェットインクが前処理層上に付与されることで定着層となる。インクジェットインクは、定着樹脂を含み、定着樹脂は、前処理層に含まれるカチオン樹脂によって凝集が促進される。これにより定着層の定着が促進される。
【0024】
本実施の形態において、インクジェットインクは、顔料と、定着樹脂と、界面活性剤と、水性媒体とを含む。以下、各成分ついて説明し、インクジェットインクの物性および調製についても説明する。
【0025】
(顔料)
顔料は、特に限定されないが、例えば、カラーインデックスに記載される下記番号の有機顔料又は無機顔料でありうる。
【0026】
橙又は黄顔料の例としては、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185、C.I.ピグメントイエロー213等が挙げられる。
【0027】
赤又はマゼンタ顔料の例には、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange 13、16、20、36が含まれる。
【0028】
青又はシアン顔料の例には、Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17-1、22、27、28、29、36、60が含まれる。
【0029】
緑顔料の例には、Pigment Green 7、26、36、50が含まれる。黄顔料の例には、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94,95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193が含まれる。
【0030】
黒顔料の例には、Pigment Black 7、28、26が含まれる。
【0031】
白顔料の例には、二酸化チタン等が含まれる。
【0032】
顔料は、インク中における分散性を高める観点から、顔料分散剤でさらに分散されていることが好ましい。顔料分散剤については、後述する。
【0033】
また、顔料は、自己分散性顔料であってもよい。自己分散性顔料は、顔料粒子の表面を、親水性基を有する基で修飾したものであり、顔料粒子と、その表面に結合した親水性を有する基とを有する。
【0034】
親水性基の例には、カルボキシル基、スルホン酸基、及びリン含有基が含まれる。リン含有基の例には、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、ホスファイト基、ホスフェート基が含まれる。
【0035】
自己分散性顔料の市販品の例には、Cabot社Cab-0-Jet(登録商標)200K、250C、260M、270V(スルホン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)300K(カルボン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)400K、450C、465M、470V、480V(リン酸基含有自己分散性顔料)が含まれる。
【0036】
顔料の含有量は、特に限定されないが、インクジェットインクの粘度を適度に調整しやすく、高濃度の画像を形成可能にする観点では、インクジェットインクに対して0.3~10質量%であることが好ましく、0.5~3質量%であることがより好ましい。顔料の含有量が下限値以上であると、画像の色が一層鮮やかになりやすい。顔料の含有量が上限値以下であると、インクジェットインクの粘度が高くなりすぎず、吐出安定性が損なわれにくい。
【0037】
(定着樹脂)
定着樹脂は、定着層を布帛に定着させる目的で含まれ、定着層が定着することで顔料も定着する。定着樹脂は、例えば水分散性樹脂であればよい。定着樹脂は、画像形成しても布帛が硬くなりにくく、風合いを良好に維持する観点から、ガラス転移温度Tgが、低いことが好ましい。具体的には、定着樹脂のTgは、-35℃以下であることが好ましく、-35~-70℃であることが好ましい。定着樹脂のTgは、示差走査熱量測定法により、JIS K 7121に準拠して、昇温速度10℃/分にて測定することができる。
【0038】
定着樹脂のTgは、定着樹脂の種類やモノマー組成により調整することができる。例えば、(メタ)アクリル樹脂の場合、アルキルアクリレートに由来する構造単位(a)の含有量を多くすれば、Tgは低くなりやすい。
【0039】
定着樹脂の種類は、Tgが上記範囲を満たすものであれば特に制限されない。定着樹脂の例には、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等が含まれる。中でも、良好な柔軟性を有し、布帛の風合いを一層維持しやすい観点では、(メタ)アクリル樹脂及びポリウレタン樹脂が好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリル、メタクリル、又はこれらの両方を表す。
【0040】
また、定着樹脂は、イオン性基を有していてもよい。定着樹脂が有するイオン性基は、布帛に付着した前処理液のイオン性基と対をなすイオン性基であってもよい。例えば、前処理液は、通常、カチオン性基を有することから、インクジェットインクに含まれる定着樹脂は、アニオン性基を有してもよい。アニオン性基の例には、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基が含まれる。
【0041】
(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル単量体に由来する構造単位を含む重合体である。
【0042】
(メタ)アクリル単量体は、(メタ)アクリロイル基を有する単量体であり、その例には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリルアミド類等が含まれる。なお、(メタ)アクリルは、メタクリル及びアクリルの両方を含む概念である。中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0043】
すなわち、(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(a)を含み、水分散性や凝集性を高める観点等から、アニオン性基を有する不飽和化合物に由来する構造単位(b)をさらに含むことが好ましい。
【0044】
構造単位(a)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する。樹脂のTgを低くする観点では、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。アクリル酸アルキルエステルのアルキル基の炭素数は、例えば1~20であり、好ましくは4~12、より好ましくは4~8である。アクリル酸アルキルエステルの例には、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート及び2-エチルヘキシルアクリレート等が含まれ、好ましくはブチルアクリレートである。
【0045】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種類だけであってもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。例えば、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルとを併用してもよい。
【0046】
構造単位(a)の含有量は、特に制限されないが、(メタ)アクリル樹脂を構成する全構造単位に対して70~96質量%であることが好ましい。上記含有量が70質量%以上であると、樹脂のTgをより低くしやすい。上記含有量が96質量%以下であると、耐摩擦性等が損なわれにくい。同様の観点から、上記含有量は、(メタ)アクリル樹脂を構成する全構造単位に対して80~90質量%であることがより好ましい。
【0047】
構造単位(b)は、アニオン性基を有する不飽和化合物に由来する。カルボキシ基を有する不飽和化合物の例には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、2-アクリロイロキシエチルコハク酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が含まれる。スルホン酸基を有する不飽和化合物の例には、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸が含まれる。リン酸基を有する不飽和化合物の例には、ビニルホスホン酸、リン酸2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル等が含まれる。中でも、エチレン性不飽和カルボン酸が好ましい。
【0048】
構造単位(b)の含有量は、特に制限されないが、(メタ)アクリル樹脂を構成する全構造単位に対して3~15質量%であることが好ましい。上記含有量が3質量%以上であると、インク中への定着樹脂の分散性や凝集性を一層高めやすい。上記含有量が15質量%以下であると、インクの粘度を増大させにくく、吐出安定性が損なわれにくい。同様の観点から、構造単位(b)の含有量は、(メタ)アクリル樹脂を構成する全構造単位に対して3~10質量%であることがより好ましい。
【0049】
(メタ)アクリル樹脂は、上記以外の他の単量体に由来する構造単位(c)をさらに含んでもよい。他の単量体の例には、エチレン性不飽和カルボン酸(例えばマレイン酸、イタコン酸);スチレン類(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン);飽和脂肪酸ビニル類(例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル);ビニル化合物(例えば1,4-ジビニロキシブタン、ジビニルベンゼン等);アリル化合物(例えばジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート等);アクリルアミド等の単官能の単量体や;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)等の多官能(メタ)アクリレート)、多官能アクリルアミド等の二官能以上の単量体が挙げられる。
【0050】
(メタ)アクリル樹脂の市販品の例には、EMN-325(日本触媒社製アクリセット、アクリル系エラストマー、Tg:-50℃)、EMN-326(日本触媒社製アクリセット、アクリル系エラストマー、Tg:-50℃)等が含まれる。
【0051】
ウレタン樹脂は、熱可塑性ウレタン樹脂である。熱可塑性ウレタン樹脂は、例えば、鎖延長剤としての低分子量ジオール、ポリイソシアネート、及びポリオールの反応生成物でありうる。また、ウレタン樹脂は、自己乳化型のものであることが好ましい。自己乳化型のウレタン樹脂は、例えば、鎖延長剤としての低分子量ジオール、アニオン性基を有するポリイソシアネート、及びポリオールの反応生成物でありうる。
【0052】
低分子量ジオールは、グリコールの二官能性脂肪族オリゴマーである。グリコールの典型的な二官能性脂肪族オリゴマーとして、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4ブタンジオール、1,6ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0053】
ポリイソシアネートは、好ましくはジイソシアネートであり、その例には、ジフェニルメタンジイソシアネート、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0054】
ポリオールは、ポリエステルポリオールであってもよいし、ポリエーテルポリオールであってもよい。ポリエステルポリオールの例には、ポリカルボン酸とポリオールの反応生成物でありうる。ポリカルボン酸の例には、マロン酸、クエン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、テレフタル酸、フタル酸が含まれる。ポリカルボン酸と反応させるポリオールの例には、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、2-メチルグルコシド、ソルビトール、低分子量ポリオール、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール及びブロックヘテロポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
【0055】
熱可塑性ポリウレタンは、分子中に硬質セグメントと軟質セグメントとを含む。硬質セグメントは、主に、ポリイソシアネートと低分子量ジオールとの反応により生成される部分であり;軟質セグメントは、主に、ポリオールの部分でありうる。
【0056】
熱可塑性ポリウレタンのポリマー鎖中の硬質セグメントと軟質セグメントの質量比は、例えば75/25~15/85(質量比)、好ましくは60/40~25/75(質量比)である。Tgを低くする観点では、軟質セグメントの質量比を高くすること、例えば硬質セグメントよりも軟質セグメントの質量比を高くしてもよい。
【0057】
熱可塑性ポリウレタンの市販品の例には、エラストラン1185A(BASF社製、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、Tg:-41℃)が含まれる。
【0058】
定着樹脂の酸価は、特に制限されないが、摩擦堅牢性を一層高める観点では、15~100mgKOH/gであることが好ましく、20~80mgKOH/gであることがより好ましい。定着樹脂の酸価は、JIS K 0070に従って測定することができる。
【0059】
定着樹脂の酸価は、構造単位(b)の含有量によって調整することができる。例えば、酸性基を有する不飽和化合物に由来する構造単位(b)の含有量を多くすれば、酸価は高くなる。
【0060】
インクジェットインク中における定着樹脂の平均粒子径は、特に制限されないが、例えばインクジェットによる吐出性の観点から、好ましくは30~200nm、より好ましくは50~120nmである。平均粒子径は、一次粒子径の平均値である。平均粒子径は、例えばMelvern社製のZataizer Nano S90における分散粒径(Z平均)として測定することができる。
【0061】
定着樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、例えば摩擦堅牢性を高める観点では、定着樹脂の重量平均分子量は高いことが好ましく、例えば10000~1000000であることが好ましい。一方、風合いをより高めやすくする観点では、定着樹脂の重量平均分子量は低いことが好ましく、10000以下であることが好ましい。定着樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリスチレン換算にて測定することができる。特に、定着樹脂の重量平均分子量が10000以下と低い場合に、インクジェット記録ヘッドのノズル面への当該樹脂の付着が生じやすい。そのような場合でも、界面活性剤を含むことで、樹脂付着を低減できる。
【0062】
定着樹脂の含有量は、特に制限されないが、インクジェットインクに対して1~20質量%であることが好ましい。定着樹脂の含有量が1質量%以上であると、布帛に対するインクジェットインクの定着性を一層高めやすい。定着樹脂の含有量が20質量%以下であると、風合いが一層損なわれにくい。同様の観点から、定着樹脂の含有量は、インクに対して5~15質量%であることがより好ましい。
【0063】
(界面活性剤)
界面活性剤は、主にインクジェットインクが吐出される記録ヘッドのノズル面への定着樹脂の付着を抑制する目的で添加されうる。界面活性剤は、定着樹脂と親和性を有する界面活性剤であれば特に制限されない。そのような界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤であることが好ましい。
【0064】
ノニオン系界面活性剤は、イオン性基を含まない界面活性剤である。ノニオン系界面活性剤の例には、
アセチレングリコール、アセチレングリコールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物等のアセチレングリコール系界面活性剤(例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7,-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール等やそのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物);
アセチレンアルコール、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物等のアセチレンアルコール系界面活性剤(例えば、3,5-ジメチル-1-ヘキサン-3-オール等やそのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物):
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のエーテル系界面活性剤;
ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系界面活性剤;
ジメチルポリシロキサン等のポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤;
フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
【0065】
これらの界面活性剤は、市販品であってもよい。例えば、ポリエーテル変性シロキサン化合物の市販品の例には、エボニック社製のTEGO Wet240、TEGO WetKL245、TEGO Wet250、TEGO Wet260、TEGO Wet265、TEGO Wet280、BYK社製のLPX23288、LPX23289、LPX23347、BYK-348、BYK-349が含まれる。アセチレングリコール界面活性剤及びアセチレンアルコール界面活性剤の市販品の例には、日信化学工業社製オルフィンE1010、オルフィンEXP.4036、オルフィンEXP.4123、サーフィノール465、サーフィノール485が含まれる。エーテル系界面活性剤の市販品の例には、花王社製のエマルゲン106(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)、エマルゲン709(ポリオキシエチレン高級アルキルエーテル)、BYK社製のDYNWET800、DYNWET800N(いずれもアルコールアルコキシレート)が含まれる。
【0066】
中でも、水分散性樹脂との親和性がより良好であり、ヘッドへの樹脂の付着をより抑制しやすい観点では、アセチレングリコール系界面活性剤及びアセチレンアルコール系界面活性剤が好ましく、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物がより好ましい。
【0067】
界面活性剤の含有量は、インクジェットインクに対して0.1~10質量%であることが好ましい。界面活性剤の含有量が0.1質量%以上であると、ヘッドへの樹脂の付着をより抑制しやすい。界面活性剤の含有量が10質量%以下であると、得られる画像形成物の摩擦堅牢性が一層損なわれにくい。この観点から、界面活性剤の含有量は、インクに対して0.1~5質量%であることがより好ましい。
【0068】
(水性媒体)
水性媒体は、特に制限されないが、水を含むことが好ましく、水溶性有機溶剤をさらに含むことが好ましい。
【0069】
水の含有量は、インクジェットインクに対して例えば20~70質量%であり、好ましくは30~60質量%である。
【0070】
水溶性有機溶剤は、水と相溶するものであれば特に制限されないが、インクジェットインクを布帛の内部まで浸透させやすくする観点、インクジェット方式での射出安定性を損なわれにくくする観点では、インクジェットインクが乾燥により増粘しにくいことが好ましい。したがって、インクジェットインクは、沸点が200℃以上の高沸点溶媒を含むことが好ましい。
【0071】
沸点が200℃以上の高沸点溶媒は、沸点が200℃以上である水溶性有機溶剤であればよく、ポリオール類やポリアルキレンオキサイド類であることが好ましい。
【0072】
沸点が200℃以上のポリオール類の例には、1,3-ブタンジオール(沸点208℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点223℃)、ポリプロピレングリコール等の2価のアルコール類;グリセリン(沸点290℃)、トリメチロールプロパン(沸点295℃)等の3価以上のアルコール類が含まれる。
【0073】
沸点が200℃以上のポリアルキレンオキサイド類の例には、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点245℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点305℃)、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点256℃);及びポリプロピレングリコール等の2価のアルコール類のエーテルや、グリセリン(沸点290℃)、ヘキサントリオール等の3価以上のアルコール類のエーテルが含まれる。
【0074】
水性媒体は、上記高沸点溶媒以外の他の溶媒をさらに含んでもよい。他の溶媒の例には、沸点が200℃未満の多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサントリオール等);沸点が200℃未満の多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル;1価アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール);アミン類(例えば、エタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン);アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド);複素環類(例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジン)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド);及びスルホン類(例えば、スルホラン)が含まれる。
【0075】
水溶性有機溶剤の含有量は、インクジェットインクに対して例えば20~70質量%であり、好ましくは30~60質量%である。
【0076】
(他の成分)
インクジェットインクは、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、顔料分散剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤等が含まれる。
【0077】
顔料分散剤は、インク中で、顔料粒子の表面を取り囲むように存在するか、又は、顔料粒子の表面に吸着されて、顔料分散液を形成し、顔料を良好に分散させる。顔料分散剤は、好ましくは高分子分散剤であり、より好ましくはアニオン性高分子分散剤である。
【0078】
アニオン性高分子分散剤は、カルボン酸基、リン含有基、スルホン酸基等の親水性基を有する高分子分散剤であり、好ましくはカルボン酸基を有する高分子分散剤である。
【0079】
カルボン酸基を有する高分子分散剤は、ポリカルボン酸又はその塩でありうる。ポリカルボン酸の例には、アクリル酸又はその誘導体、マレイン酸又はその誘導体、イタコン酸又はその誘導体、フマル酸又はその誘導体から選ばれるモノマーの(共)重合体及びこれらの塩が含まれる。共重合体を構成する他のモノマーの例には、スチレンやビニルナフタレンが含まれる。
【0080】
アニオン性高分子分散剤のアニオン性基当量は、顔料粒子を十分に分散させる観点では、例えば1.1~3.8meq/gであることが好ましい。アニオン性基当量が上記範囲内であると、アニオン性高分子分散剤の分子量を大きくしなくても、高い顔料分散性が得られやすい。アニオン性高分子分散剤のアニオン性基当量は、酸価から求めることができる。酸価は、JIS K0070に準拠して測定することができる。
【0081】
高分子分散剤の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、5000~30000であることが好ましい。高分子分散剤のMwが5000以上であると、顔料粒子を十分に分散させやすく、30000以下であると、インクが増粘しすぎないため、布帛への浸透性が損なわれにくい。高分子分散剤のMwは、上記と同様の方法で測定することができる。
【0082】
高分子分散剤の含有量は、顔料粒子を十分に分散させるとともに、布帛に対する浸透性を損なわない程度の粘度を有する範囲であればよく、特に制限されないが、顔料に対して20~100質量%であることが好ましく、25~60質量%であることがより好ましい。
【0083】
防腐剤又は防黴剤の例には、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(例えば、PROXEL GXL)等が含まれる。
【0084】
pH調整剤の例には、クエン酸、クエン酸ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウムが含まれる。
【0085】
(物性)
インクジェットインクの25℃における粘度は、インクジェット方式による射出性が良好となる程度であればよく、特に制限されないが、3~20mPa・sであることが好ましく、4~12mPa・sであることがより好ましい。インクの粘度は、E型粘度計により、25℃で測定することができる。
【0086】
(インクジェットインクの調製)
インクジェットインクは、任意の方法で製造することができる。例えば、インクジェットインクは、1)顔料と、顔料分散剤と、溶媒(水等)とを混合して、顔料分散液を得る工程と、2)得られた顔料分散液と、上記水分散性樹脂を含む分散体(樹脂粒子分散体)と、水性媒体等とをさらに混合する工程を経て製造されうる。
【0087】
1-3.オーバーコート層形成液
オーバーコート層形成液は、上記の前処理層および定着層上に付与されることでオーバーコート層となる。オーバーコート層は、前処理層および定着層によるベタつきを抑えることができる。
【0088】
オーバーコート層形成液は、アニオン樹脂微粒子を含む。アニオン樹脂微粒子は、捺染画像のベタつき、および捺染画像が形成された布帛(画像形成物)の風合いの悪化を抑制する観点から、ガラス転移温度Tgが50℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。アニオン樹脂微粒子のガラス転移温度Tgは、示差走査熱量測定法により、JIS K 7121に準拠して、昇温速度10℃/分にて測定することができる。
【0089】
アニオン樹脂微粒子の例には、マイナスの電荷を持つことができる官能基を有する重合体の微粒子が含まれる。このような官能基の例には、カルボキシル基、水酸基、硫酸基などが含まれる。
【0090】
アニオン樹脂微粒子の市販品の例には、BYK社製のAQUACER507、東邦化学社製のハイテックE-4Aが含まれる。
【0091】
アニオン樹脂微粒子は、オーバーコート層形成液に対して2質量%~6質量%であることが好ましく、4質量%程度であることが好ましい。
【0092】
オーバーコート層形成液を付与する方法は、特に制限されず、例えばパッド法、コーティング法、スプレー法、インクジェット法等でありうる。布帛に付与されたオーバーコート層形成液は、温風、ホットプレート又はヒートローラーを用いて加熱乾燥させてもよい。
【0093】
2.画像形成装置および画像形成方法
2-1.画像形成装置
本発明に係る捺染画像の形成に用いられる画像形成装置の概要について説明する。
【0094】
図1は、捺染画像の形成に用いられる画像形成装置100の一実施形態の概略を示す模式図である。
図1に示すように、画像形成装置100は、前処理液収容部110a、インク収容部110bと、オーバーコート層形成液収容部110cと、記録ヘッド120と、ヘッドキャリッジ130と、乾燥部140と、搬送部150とを有する。
【0095】
前処理液収容部110a、インク収容部110b、オーバーコート層形成液収容部110cは、それぞれ、前処理液a、インクジェットインクb、オーバーコート層形成液cを収容し、この順に布帛160の搬送方向Yの上流方向から下流方向に並ぶ。なお、布帛160は搬送部150によって搬送される。
【0096】
前処理液収容部110a、インク収容部110b、オーバーコート層形成液収容部110cは、それぞれに接続された記録ヘッド120に、前処理液a、インクジェットインクb、オーバーコート層形成液cを供給し、記録ヘッド120はそれぞれ、前処理液a、インクジェットインクb、オーバーコート層形成液cを布帛160上に吐出し、捺染画像を形成する。
【0097】
インク収容部110bおよび記録ヘッド120は、例えばインクの色ごとに複数配置されていてもよい。
【0098】
ヘッドキャリッジ130は、上記記録ヘッド120を搭載し、記録ヘッド120を布帛160の搬送方向Yと略直交する主走査方向に走査する。記録ヘッド120は、インク収容部110bと一体で動いてもよいし、別体で動いてもよい。
【0099】
乾燥部140は、各収容部および各記録ヘッド120の搬送方向Yの下流側に配置されている。乾燥部140は、熱風を吹き付ける温風ドライヤーや、赤外線又は電離放射線を照射するヒーター、加熱ローラ等の加熱手段でありうる。乾燥部140は、布帛160上に形成された捺染画像を乾燥させる。
【0100】
2-2.画像形成方法
次に、捺染画像形成物の製造方法について、
図1を参照しながら具体的に説明する。本実施形態に係る捺染画像形成物の製造方法は、1)布帛上に、前処理液、インクジェットインク、オーバーコート層形成液を、この順に、各記録ヘッド120から吐出して、布帛に付着させて捺染画像を形成する工程と、2)捺染画像を乾燥及び定着させる工程とを含む。
【0101】
1)の工程
まず、各記録ヘッド120から前処理液、インクジェットインク、オーバーコート層形成液をこの順に吐出させて、搬送方向Yで移動する布帛160上に前処理層を形成し、その上に定着層を形成し、その上にオーバーコート層を形成して捺染画像を形成する。
【0102】
2)の工程
次いで、布帛160に形成した捺染画像を、乾燥部140により乾燥させて、インク中の溶媒成分を除去する。それにより、布帛160に顔料を定着させる。このようにして捺染画像形成物を得る。
【0103】
乾燥方法は、特に制限されず、ヒーター、温風乾燥機、加熱ローラ等を用いた方法でありうる。本実施形態では、乾燥部140により、温風乾燥機とヒーターを用いて、布帛の両面を加熱して乾燥させることが好ましい。
【0104】
乾燥温度は、インク中の溶媒成分を蒸発させるように設定されればよい。具体的には、乾燥温度は、溶媒成分が蒸発する温度以上であり、定着樹脂のガラス転移温度Tgから170℃高い温度以下(Tg+170℃以下)であることが好ましい。なお、乾燥温度は、室温であってもよい。
【0105】
2-3.画像の評価
本実施の形態に係る捺染画像は布帛の風合いの低下が抑制され、捺染画像のベタつきも抑制される。風合いは、具体的には、所定の条件で捺染画像を形成した布帛と、捺染画像を形成する前の布帛との折り曲げ試験における折り曲げトルク力の差が小さいことで評価される。捺染画像が形成された布帛の風合いを良好にするという観点から、折り曲げトルクの差は、0.006gf・cm以下であることが好ましく、0.004gf・cm以下であることがより好ましく、0.002gf・cm以下であることがさらに好ましい。
【0106】
折り曲げ試験は、以下の手順で行うことができる。
図2は、折り曲げ試験の概要を示す模式図である。
1)まず、布帛上に、前処理液、インクジェットインク、オーバーコート層形成液を付与する。このとき、インクジェットインクによって形成される定着層の付着量が3g/m
2~10g/m
2となるように画像を形成し、乾燥させて捺染画像形成物を得る。画像形成した布帛(捺染画像形成物)を5×20cmの大きさに切り出し、試料片1とする。次いで、
図2に示すように、試料片1の長さ方向の一方の先端Aと、当該先端から3cm離れた位置Bとを、折り曲げ試験機のクリップに挟む。そして、当該先端Aを、位置Bを基点として回動させ、位置B付近の試料片1の曲率が2.5cm
-1になるまで曲げる時に必要な力(捺染画像が形成された布帛(捺染画像形成物)の折り曲げトルク)を測定する。
2)同様の試験を、画像形成していない布帛(5×20cmの試料片)についても行う(白字部の折り曲げトルク)。
3)上記1)で得られた折り曲げトルクの値から、上記2)で得られた折り曲げトルクの値を引いて、折り曲げトルクの差を算出する。
【0107】
折り曲げ試験機としては、例えばKES-FB2-A純曲げ試験機(カトーテック)を用いることができる。
「捺染画像の付着量」は、捺染画像形成物(捺染画像が形成された布帛)の重量から捺染画像が形成されていない布帛の重量を差し引いて求めることができる。
【0108】
折り曲げトルクの差は、顔料の付着量を一定とした場合、定着樹脂の量や種類によって調整されうる。例えば、定着樹脂のTgが低いほど、折り曲げトルクの差も小さくなりやすい。また、定着樹脂の量が少ないほど、折り曲げトルクの差も小さくなりやすい。
【0109】
また、本実施の形態に係る捺染画像はベタつきが抑制される。ベタつきは、具体的には、所定の条件で捺染画像を形成した布帛と、捺染画像を形成していない布帛との平均摩擦係数MIUの差が小さいこと、および、平均摩擦係数の平均偏差MMDの差が小さいことで評価される。ベタつきを抑制するという観点から、平均摩擦係数MIUの差は、0.42以下であることが好ましく、0.35以下であることがさらに好ましく、0.3以下であることがさらに好ましい。また、同様の観点から、平均摩擦係数の平均偏差MMDの差は、0.24以下であることが好ましく、0.2以下であることがさらに好ましく、0.15以下であることがさらに好ましい。
【0110】
平均摩擦係数MIUの差、および平均摩擦係数の平均偏差MMDの差は、以下のようにして測定することができる。
【0111】
摩擦感テスターKES-SE(カトーテック株式会社製)を用いて測定することができる。試料としては捺染画像が形成されていない布帛と、捺染画像形成物とを用い、それぞれについて平均摩擦係数MIUおよび平均摩擦係数の平均偏差MMDを測定する。具体的には、摩擦感テスターの試料台上に試料を置き、試料に接触する接触子として、接触面が1cm2のピアノワイヤーセンサを用いる。接触子に50gの荷重をかけて、接触子の移動距離は30mmで往復させる。また、測定環境は、気温23℃、湿度65%でよい。それぞれの測定結果から差を出すことで平均摩擦係数MIUの差、および平均摩擦係数の平均偏差MMDの差を求めることができる。
【実施例0112】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0113】
(実施例1)
実施例1の捺染画像を得るために用いられる、前処理液、インクジェットインク、オーバーコート層形成液を以下のようにして得た。
【0114】
1-1.前処理液
前処理液の質量を100質量部として、以下の各成分を以下の割合で混合して前処理液を得た。
カチオン樹脂として、PAS-H-1L(ニット-ボーメディカル株式会社製):4.7質量部
エチレングリコール:10質量部
プロピレングリコール:10質量部
グリセリン:10質量部:
界面活性剤E-1010:0.1質量部
プロキセルGXL(ロンザ・ジャパン社製、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、防黴剤):0.10質量部
イオン交換水:残部
【0115】
1-2.インクジエットインク
インクジェットインクは、顔料(顔料分散液)、定着樹脂、界面活性剤、水溶性有機溶剤、防黴剤を含む。これらの各成分は以下のようにして準備した。
【0116】
顔料分散剤としてスチレン・ブチルアクリレート・メタクリル酸共重合体(アニオン性分散剤、重量平均分子量16000、アニオン性基当量3.5meq/g)7質量部に対し、水78質量部を混合した後、加温攪拌し、顔料分散剤の中和物を調製した。この混合液に、C.I.ピグメントブルー15:3を15質量部添加し、予備混合した後、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散させて、顔料濃度15質量%のシアン顔料分散液を得た。
定着樹脂として、EMN-325(日本触媒社製、Tg-50℃)を用いた。
界面活性剤として、E-1010(日信化学工業株式会社製)を用いた。
水溶性有機溶剤として、エチレングリコール(沸点197℃)、グリセリン(沸点290℃)、プロピレングリコール(沸点188℃)を用いた。
防かび剤として、プロキセルGXL(ロンザ・ジャパン社製、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン)を用いた。
【0117】
インクジェットインクの質量を100質量部として、上記の各成分を以下の割合で混合してインクジェットインクを得た。
顔料分散液:10質量部(顔料濃度15質量%、固形分濃度1.5質量部)
定着樹脂:10質量部
エチレングリコール:10質量部
プロピレングリコール:10質量部
グリセリン:10質量部:
界面活性剤:0.5質量部
プロキセルGXL(ロンザ・ジャパン社製、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、防黴剤):0.10質量部
イオン交換水:残部
【0118】
1-3.オーバーコート層形成液
オーバーコート層形成液の質量を100質量部として、以下の各成分を以下の割合で混合してオーバーコート層形成液を得た。
アニオン樹脂微粒子として、AQUACER507(BYK社製):10質量部
エチレングリコール:10質量部
プロピレングリコール:10質量部
グリセリン:10質量部:
界面活性剤E-1010:0.1質量部
プロキセルGXL(ロンザ・ジャパン社製、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、防黴剤):0.10質量部
イオン交換水:残部
【0119】
2.捺染画像形成
布帛として、綿サテン(綿100%:製品名60綿サテン、オカダヤ社製)を準備した。この綿サテンに、上記の前処理液、インクジェットインク、オーバーコート層形成液をそれぞれインクジェット法で付与した後、乾燥させて、捺染画像形成物を得た。記録ヘッドとしては(コニカミノルタヘッド #204)を用いた。記録ヘッドから前処理液、インクジェットインク、オーバーコート層形成液の吐出は、主走査540dpi×副走査720dpiにてそれぞれ行った。なお、dpiとは、2.54cm当たりのインク液滴(ドット)の数を表す。吐出周波数は、22.4kHzとした。そして、ベルト搬送式乾燥機にて120℃で5分間乾燥させて、捺染画像形成物を得た。なお、前処理層、定着層、オーバーコート層の付着量は、それぞれ、1g/m2、6g/m2、3g/m2であった。この付着量は、インク吐出量から求めた。
【0120】
3.評価
捺染画像のベタつき、および風合いを以下のように評価した。
【0121】
(ベタつき)
得られた捺染画像形成物について、以下の平均摩擦係数MIUの差を測定することでベタつきを評価した。
1)摩擦感テスターKES-SE(カトーテック株式会社製)を用いてMIUを測定した。試料としては捺染画像が形成されていない布帛と、捺染画像形成物とを用い、それぞれについて平均摩擦係数MIUを測定した。具体的には、摩擦感テスターの試料台上に各試料を置き、試料に接触する接触子として、接触面が1cm2のピアノワイヤーセンサを用いた。接触子に50gの荷重をかけて、接触子の移動距離は30mmで往復させた。また、測定環境は、気温23℃、湿度65%とした。捺染画像形成物の平均摩擦係数MIUから、捺染画測が形成されていない布帛の平均摩擦係数MIUを差し引くことで平均摩擦係数MIUの差を求めた。
2)平均摩擦係数MIUの差を以下の基準で評価した。
◎:MIUの差 0.35未満
○:MIUの差 0.35以上0.42以下
△:MIUの差 0.42超0.5以下
×:MIUの差 0.5超
【0122】
(風合い)
得られた捺染画像形成物について、以下の折り曲げ試験を行うことで風合いを評価した。
1)捺染画像を形成した布帛を5×20cmの大きさに切り出し、試料片1とした。次いで、
図2に示すように、試料片1の長さ方向の一方の先端Aと、当該先端から3cm離れた位置Bとを、折り曲げ試験機KES-FB2-A純曲げ試験機(カトーテック)のクリップに挟んだ。そして、当該先端Aを、位置Bを基点として回動させ、位置B付近の試料片1の曲率が2.5cm
-1になるまで曲げる時に必要な力(画像形成部の折り曲げトルク)を測定した。
2)同様の試験を、画像形成していない布帛(5×20cmの試料片)についても行った(白字部の折り曲げトルク)。
3)上記1)と2)で得られた折り曲げトルクの差を算出した。
そして、風合いを、以下の基準で評価した。
○:折り曲げトルクの差が0.006gf・cm以下
×:折り曲げトルクの差が0.006gf・cm超
【0123】
評価結果を表1に示す。
【0124】
(実施例2~5、比較例1、2)
前処理液に含まれるカチオン樹脂を表1に示されるようにした以外は、上記の実施例1と同様にして実施例2~5および比較例1の捺染画像形成物を製造して評価した。また、比較例2は、前処理液を用いなかった以外は、上記の実施例1と同様にして捺染画像形成物を製造して評価した。
【0125】
【0126】
実施例1~5は、いずれもベタつきの抑制と風合いとが良好であったのに対して比較例1ではいずれも不良であった。これは、実施例1~5では、カチオン樹脂の重量平均分子量(Mw)がいずれも1000以上であるのに対して、比較例1では1000未満であるためと考えられる。このように重量平均分子量が1000未満のカチオン樹脂を用いると、捺染画像のベタつきの原因となると考えられる。
【0127】
一方、比較例2のように前処理液を用いずにカチオン樹脂を用いないと、捺染画像のベタつきは良好であるものの、風合いが悪いままである。このように、両者を両立させようとする場合、重量平均分子量が1000以上のカチオン樹脂を有する前処理液を用いることが有効であることがわかった。
本発明によれば、ベタつきを抑えつつ、風合いが良好な捺染画像形成物を得ることができる。そのため、本発明は、捺染画像形成技術の幅を広げ、同分野の技術の進展および普及に貢献することが期待される。