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特開2024-136795評価装置、評価方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136795
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】評価装置、評価方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/50 20180101AFI20240927BHJP
【FI】
G16H50/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048044
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】中山 悠
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 展行
(72)【発明者】
【氏名】石黒 達男
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA03
(57)【要約】
【課題】滞在者の活動状態が時空間的に変化した場合であっても、感染リスクを精度よく評価することができる評価装置を提供する。
【解決手段】評価装置は、シミュレーション対象の3Dモデルと、空間および時間ごとの滞在者の呼吸量と、空間および時間ごとの非感染者の人員密度または人数と、前記空調機器の運転条件を含む設計パラメータとを設定する設定部と、前記3Dモデルおよび前記設計パラメータに基づいて前記シミュレーション対象の流れ場を解析する流れ場解析部と、前記流れ場の解析結果を用いて感染物質の時間ごとの濃度分布を解析し、時間ごとの前記濃度分布および前記呼吸量に基づいて、空間および時間ごとの感染伝播係数を求める係数算出部と、前記感染伝播係数と、前記非感染者の人員密度または人数とに基づいてリスクを評価する評価部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレーション対象における空調機器のレイアウトを含む3Dモデルと、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの滞在者の呼吸量と、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの非感染者の人員密度または人数と、前記空調機器の運転条件を含む設計パラメータとを設定する設定部と、
前記3Dモデルおよび前記設計パラメータに基づいて前記シミュレーション対象の流れ場を解析する流れ場解析部と、
前記流れ場の解析結果を用いて前記シミュレーション対象における感染物質の時間ごとの濃度分布を解析し、時間ごとの前記濃度分布および前記呼吸量に基づいて、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの感染伝播係数を求める係数算出部と、
前記感染伝播係数と、前記非感染者の人員密度または人数とに基づいて前記シミュレーション対象の感染リスクを評価する評価部と、
を備える評価装置。
【請求項2】
前記評価部は、前記感染伝播係数の積分値に基づき前記感染リスクを評価する、
請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記設定部は、前記シミュレーション対象の単位体積あたりの前記非感染者の人員密度を設定する、
請求項1に記載の評価装置。
【請求項4】
前記係数算出部は、前記感染物質の不活化モデルをさらに用いて前記濃度分布を解析する、
請求項1に記載の評価装置。
【請求項5】
第1のシミュレーション対象における非感染者の初期人数、呼吸量、感染物質への暴露時間、および前記暴露時間を経過後の感染者の人数が既知である感染事例に基づいて、前記感染物質の感染力を推算する推定部をさらに備え、
前記係数算出部は、推定部が推定した前記感染力にさらに基づいて、前記第1のシミュレーション対象と同一の感染物質について、前記第1のシミュレーション対象とは異なる第2のシミュレーション対象内の空間および時間毎の感染伝播係数を求める、
請求項1から4のいずれか一項に記載の評価装置。
【請求項6】
シミュレーション対象における空調機器のレイアウトを含む3Dモデルと、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの滞在者の呼吸量と、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの非感染者の人員密度または人数と、前記空調機器の運転条件を含む設計パラメータとを設定するステップと、
前記3Dモデルおよび前記設計パラメータに基づいて前記シミュレーション対象の流れ場を解析するステップと、
前記流れ場の解析結果を用いて前記シミュレーション対象における感染物質の時間ごとの濃度分布を解析し、時間ごとの前記濃度分布および前記呼吸量に基づいて、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの感染伝播係数を求めるステップと、
前記感染伝播係数と、前記非感染者の人員密度または人数とに基づいて前記シミュレーション対象の感染リスクを評価するステップと、
を有する評価方法。
【請求項7】
シミュレーション対象における空調機器のレイアウトを含む3Dモデルと、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの滞在者の呼吸量と、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの非感染者の人員密度または人数と、前記空調機器の運転条件を含む設計パラメータとを設定するステップと、
前記3Dモデルおよび前記設計パラメータに基づいて前記シミュレーション対象の流れ場を解析するステップと、
前記流れ場の解析結果を用いて前記シミュレーション対象における感染物質の時間ごとの濃度分布を解析し、時間ごとの前記濃度分布および前記呼吸量に基づいて、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの感染伝播係数を求めるステップと、
前記感染伝播係数と、前記非感染者の人員密度または人数とに基づいて前記シミュレーション対象の感染リスクを評価するステップと、
を評価装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、評価装置、評価方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
空調機器の設備設計において、設計者は、設備の有効性を模擬するためのシミュレーションモデルをコンピュータ上に構築する。設計者は、このシミュレーションモデルに外部環境や施設、移動体の運用条件、および設計パラメータ(供給空気の温湿度、流量)を設定してシミュレーションを実行し、その結果を評価する。これにより、設計者は、ある環境条件で設備に求められる要件を満たすことができるかの確認や、要件を満たすような空調機器のレイアウトおよび運転条件(温湿度、流量)などの設計パラメータの調整を、施工前に行うことができる。空調機器の代表的な要件として、快適性や空気質などがある。
【0003】
空気質の要件例として、「二酸化炭素濃度はXppm以下に留めなくてはならない」、「あるエリアの空気齢はY秒を超えてはいけない」などがある。
【0004】
近年、上記のような空気質評価を、疫学的な安全性の評価に応用する技術が注目されている。感染症に対するリスクを定量的に評価する評価式を定義し、異なる環境条件や設計パラメータを設定して得られた各々のシミュレーション結果に対して、評価式をもとに感染リスクを計算する。これにより、環境条件や設計パラメータの異なる複数のシミュレーション結果を感染リスクに基づいて比較、評価することができる。
【0005】
上述の評価式をシミュレーション結果が要件をどれだけ余裕を持って満たしているかの観点で定義することで、設計パラメータの値または値の組み合わせを相対比較することが可能になる。
【0006】
上記の観点で定義した評価式として、要件を論理式で記述しておき、法令規則や他の設計実績と比較する方法が知られている。例えば、要件「二酸化炭素濃度はXppm以下に留めなくてはならない」を論理式記述すると、『二酸化炭素濃度<X』であり、評価式は、『評価値=X-(シミュレーション空間内の二酸化炭素濃度の最大値)』である。
【0007】
計算した評価値は、値が正であれば要件を満たしていることを、負であれば要件を満たしていないことを意味している。また、評価値の値が高いほど、より余裕をもって要件を満たしていることを意味する。ただし、疫学的な安全性の評価という観点からは、二酸化炭素濃度が高いからといって、必ずしも感染物質が含まれているとは限らない。また、空気齢が高い(淀んでいる)空間であっても、感染物質が滞留しているとは限らない。
【0008】
そこで、より直接的に感染リスクを評価する手法として、たとえば非特許文献1には、CFDによる感染物質(菌、ウイルスなど)の濃度の移流拡散解析と数理疫学モデルの連成シミュレーションを用いることが記載されている。
【0009】
また、非特許文献2には、流れ場シミュレーション結果を基に感染物質の濃度場を解析し、算出された濃度分布を疫学モデルに入力することにより、空間内の感染リスク分布を算出することが記載されている。
【0010】
感染物質の移流拡散解析では、流れ場解析結果を用いて、物質濃度Φ[1/m3]のスカラ輸送方程式を解く事で非定常かつ不均一な濃度分布を求めている。その支配方程式は以下の式(1)で表現される。ここで、濃度は様々な感染物質に対応するため、便宜上、式の分子を無次元で定義している。
【0011】
【数1】
【0012】
式(1)において、v→(vの上に矢印を付したもの)は流速ベクトルであり、所与である。Γは拡散係数[kg/m-s]であり、式(2)で表される。
【0013】
【数2】
【0014】
式(2)において、ρは空気密度[kg/m3]、Dは分子拡散係数[m2/s]、μは乱流粘性係数[kg/m-s]、Sc_tは乱流シュミット数[-]である。
【0015】
一方、疫学モデルでは、Wells-Rileyモデル(以下、WRモデルとも記載する。)およびSIRモデルの2つの数理モデルを融合した式を用いている。以下、各モデルについて説明する。
【0016】
WRモデルは、閉空間の感染リスクを質点系で推定する古典的な疫学モデルである。感染初期段階における感染リスクを、限られたパラメータのみで予測可能な簡易モデルとなっている。初期感染者数I[人]、呼吸量p[m3/人・h]、感染物質発生量q[quanta/h]及び、換気量Q[m3/h]をパラメータとし、暴露時間t[h]を変数として、式(3)で感染リスクRを計算する。
【0017】
【数3】
【0018】
ここで、Cは新規の感染者数、Sは初期の非感染者数を表している。Wellsは、閉空間内に存在する”非”感染者の「1-(1/e)」(63.2%)を感染させる感染物質量として”quantum”を定義した。quantumは確率統計論的に定義されるが、その数は、閉空間内の空気中に存在する感染性物質の量と病原性の強さによって物理的に測定可能であると考えられる。
【0019】
SIRモデルは、非感染者(Susceptible)、感染者(Infected)及び、回復者(Recovery)の3変数に対する常微分方程式(4)~(6)で表現される。大きな時間スケール(日、月単位)での感染者から非感染者への感染伝播を表現可能な疫学モデルであり、S,I,Rの各人数は、感染伝播係数β、回復率γをパラメータとして計算される。
【0020】
【数4】
【0021】
【数5】
【0022】
【数6】
【0023】
ここで、感染初期段階での適用を想定するとγ=0,R=0となり、感染者数IをIと固定できる。また、人の移動に伴う拡散項D,D,Dを省略すると、S,I,Rの時間変化はそれぞれ式(7),(8),(9)で表される。
【0024】
【数7】
【0025】
【数8】
【0026】
【数9】
【0027】
なお、接触感染を除いたエアロゾル/空気感染による感染伝播β'のみを考慮すると、β'は感染物質濃度のみに相関があると考えられ、「β'=f(c)」(c:感染物質濃度[quanta/m3])とおける。以上より、SIRモデルの式(7),(8)の時間積分とWRモデルの式(3)を比較すると、β'の最も単純な関数形として式(10)が想定できる。式(10)において、Ioは初期感染者数[人]、pは非感染者の呼吸量[m3/人・h]、aは感染力[quanta]、Φは感染物質濃度[1/m3]である。なお、感染力aは、感染物質ごとに予め設定された固定値である。
【0028】
【数10】
【0029】
また、感染物質濃度Φを介したSIRモデルとCFDの連成シミュレーションは以下のように実施される。初期感染者(I=1)の呼吸により発生する感染物質は、CFD解析によって求められた定常流れ場によって移流拡散する。各セル、各時間ステップでの濃度Φから感染伝播係数β'を計算し、その値を使って各セルでの非感染者の人員密度S及び、感染者の人員密度IをSIRモデルから計算する。なお、局所的な感染リスクRlocalは、式(11)により感染者の人員密度(I)と非感染者の人員密度(S)の比率I/Sとして定義する。これより、時空間における感染伝播及び、感染リスク分布を算出、可視化できる。なお、S,Iを空間積分する事により、空間全体での非感染者数N、感染者数Nが求められ、式(12)より初期感染者1人を除いた空間全体の感染リスクRglobalが求まる。
【0030】
【数11】
【0031】
【数12】
【0032】
このように非特許文献2に記載の技術では、感染物質濃度と疫学モデルを組み合わせることで感染リスクを直接的に評価することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0033】
【非特許文献1】浅沼宏亮、伊藤一秀、”病院空間を対象とした非定常不均一濃度分布と数理疫学モデルの連成解析による感染伝播予測”、「日本建築学会環境系論文集 第78巻 第688号」、日本建築学会、2013年6月、p481-487
【非特許文献2】中山悠、石黒達男、佐野岳志、“CFDと疫学モデルの連成解析による大空間の感染リスク評価解析”、「日本機械学会第99期流体工学部門講演会 講演論文集」、日本機械学会、2021年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
滞在者の活動量が時空間的に変化する場合、感染物質濃度が同じであっても、活動量の変化に応じて滞在者の呼吸量も変化する。たとえば、休憩エリアと運動エリアとを含む施設では、休憩エリアで座っている滞在者の呼吸量は、運動エリアで運動する滞在者の呼吸量よりも少ないはずである。しかしながら、従来技術では、呼吸量は時間的にも空間的にも一定であるとして、感染リスクを評価していた。そうすると、たとえば施設内の空間や時間によって滞在者の呼吸量が変化する場合には、感染リスクの推定精度が低下する可能性がある。
【0035】
本開示の目的は、滞在者の活動状態が時空間的に変化した場合であっても、感染リスクを精度よく評価することができる評価装置、評価方法、およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本開示の一態様によれば、評価装置は、シミュレーション対象における空調機器のレイアウトを含む3Dモデルと、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの滞在者の呼吸量と、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの非感染者の人員密度または人数と、前記空調機器の運転条件を含む設計パラメータとを設定する設定部と、前記3Dモデルおよび前記設計パラメータに基づいて前記シミュレーション対象の流れ場を解析する流れ場解析部と、前記流れ場の解析結果を用いて前記シミュレーション対象における感染物質の時間ごとの濃度分布を解析し、時間ごとの前記濃度分布および前記呼吸量に基づいて、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの感染伝播係数を求める係数算出部と、前記感染伝播係数と、前記非感染者の人員密度または人数とに基づいて前記シミュレーション対象の感染リスクを評価する評価部と、を備える。
【0037】
本開示の一態様によれば、評価方法は、シミュレーション対象における空調機器のレイアウトを含む3Dモデルと、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの滞在者の呼吸量と、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの非感染者の人員密度または人数と、前記空調機器の運転条件を含む設計パラメータとを設定するステップと、前記3Dモデルおよび前記設計パラメータに基づいて前記シミュレーション対象の流れ場を解析するステップと、前記流れ場の解析結果を用いて前記シミュレーション対象における感染物質の時間ごとの濃度分布を解析し、時間ごとの前記濃度分布および前記呼吸量に基づいて、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの感染伝播係数を求めるステップと、前記感染伝播係数と、前記非感染者の人員密度または人数とに基づいて前記シミュレーション対象の感染リスクを評価するステップと、を有する。
【0038】
本開示の一態様によれば、プログラムは、シミュレーション対象における空調機器のレイアウトを含む3Dモデルと、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの滞在者の呼吸量と、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの非感染者の人員密度または人数と、前記空調機器の運転条件を含む設計パラメータとを設定するステップと、前記3Dモデルおよび前記設計パラメータに基づいて前記シミュレーション対象の流れ場を解析するステップと、前記流れ場の解析結果を用いて前記シミュレーション対象における感染物質の時間ごとの濃度分布を解析し、時間ごとの前記濃度分布および前記呼吸量に基づいて、前記シミュレーション対象内の空間および時間ごとの感染伝播係数を求めるステップと、前記感染伝播係数と、前記非感染者の人員密度または人数とに基づいて前記シミュレーション対象の感染リスクを評価するステップと、を評価装置に実行させる。
【発明の効果】
【0039】
上記態様によれば、滞在者の活動状態が時空間的に変化した場合であっても、感染リスクを精度よく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】第1の実施形態に係る評価装置の機能構成を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態に係る評価装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図3】第1の実施形態に係る評価装置の機能を説明するための図である。
図4】第2の実施形態に係る評価装置の機能を説明するための図である。
図5】第2の実施形態に係る評価装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図6】第3の実施形態に係る評価装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図7】第4の実施形態に係る評価装置の機能構成を示すブロック図である。
図8】第4の実施形態に係る評価装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
<第1の実施形態>
以下、図1図3を参照しながら第1の実施形態について説明する。
【0042】
(評価装置の機能構成)
図1は、第1の実施形態に係る評価装置の機能構成を示すブロック図である。
評価装置10は、シミュレーション対象における感染物質の感染リスクを評価するための装置である。シミュレーション対象は、たとえばオフィス、病院、ショッピングモールなど、内部に人を収容する施設である。図1に示すように、評価装置10は、プロセッサ11と、メモリ12と、ストレージ13と、インタフェース14とを備える。
【0043】
プロセッサ11は、所定のプログラムに従って動作することにより、評価装置10に種々の機能を発揮させる。プロセッサ11の機能については後述する。
【0044】
メモリ12は、プロセッサ11の動作に必要なメモリ領域を有する。
【0045】
ストレージ13は、いわゆる補助記憶装置であって、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等である。ストレージ13には、プロセッサ11の各部が処理中に取得、生成、参照するデータが格納される。
【0046】
インタフェース14は、入力装置15、表示装置16などの機器と通信するための接続インタフェースである。入力装置15は、マウスやキーボードなど、評価装置10のオペレータの入力操作を受け付けるための機器である。表示装置16は、液晶ディスプレイなどのモニタである。入力装置15および表示装置16は、たとえばタッチパネルで一体に構成されてもよい。
【0047】
次に、プロセッサ11の機能について説明する。プロセッサ11は、予め用意されたプログラムに従って動作することで、設定部111、流れ場解析部112、係数算出部113、評価部114としての機能を発揮する。
【0048】
設定部111は、シミュレーション対象の3Dモデル、環境条件、設計パラメータなどの設定値を設定する。3Dモデルは、シミュレーション対象の形状、寸法、面積、体積や、空調機器の数やレイアウトを特定可能なデータである。環境条件は、シミュレーション対象内の空間および時間ごとの非感染者の人員密度Sや、各セルの時間ごとの滞在者の呼吸量を含む。シミュレーション対象は、たとえば単位面積ごとのセルに分割されており、人員密度および呼吸量は、各セルの時間ごとに設定値が設定される。設計パラメータは、シミュレーション対象の空調機器の運転条件(空調機器の供給空気の温湿度、流量)などを含む。これら設定値は、評価装置10のオペレータが入力装置15を介して指定する。
【0049】
流れ場解析部112は、設計パラメータに基づいてシミュレーション対象の流れ場を解析する。
【0050】
係数算出部113は、流れ場の解析結果を用いてシミュレーション対象における感染物質の濃度分布を解析し、時間ごとの濃度分布および呼吸量に基づいて、シミュレーション対象内の空間(セル)および時間ごとの感染伝播係数を求める。
【0051】
評価部114は、感染伝播係数および非感染者の人員密度に基づいてシミュレーション対象の感染リスクを評価する。
【0052】
(リスク評価装置のフローチャート)
図2は、第1の実施形態に係る評価装置の処理の一例を示すフローチャートである。
ここでは、図2を参照しながら、評価装置10がシミュレーション対象の感染リスクを評価する処理の詳細について説明する。
【0053】
まず、設定部111は、オペレータの入力操作を受け付けて、シミュレーション対象の設定を行う(ステップS101)。具体的には、設定部111は、シミュレーション対象とする施設の形状、寸法や、空調機器の数およびレイアウトなどを定義した3Dモデル(CADモデル)を設定する。
【0054】
次に、設定部111は、オペレータの入力操作を受け付けて、シミュレーション対象の環境条件の設定を行う(ステップS102)。
【0055】
たとえば、設定部111は、環境条件の1つとして、各エリアの単位時間ごとの呼吸量を設定する。
【0056】
図3は、第1の実施形態に係る評価装置の機能を説明するための図である。
たとえば、図3の(a)に示すように、ショッピングモールのような複数のエリア1~4(休憩施設、運動施設、飲食施設、通路など)が含まれるシミュレーション対象では、エリアごとに滞在者の活動状態(座っている、運動している、歩いているなど)が異なる場合がある。オペレータは、各エリアの単位時間ごとの活動量データを入力する。なお、3Dモデルには、各エリアの位置や範囲(対応するセル)などの定義が予め紐づけられている。また、活動量に応じた標準的な呼吸量が予め規定されている。設定部111は、オペレータが入力した活動量データに基づいて、シミュレーション対象内の各セルに単位時間ごとの呼吸量[m3/人・h]を設定した呼吸量データを作成する。
【0057】
さらに、設定部111は、各エリアの時間ごとの非感染者の人員密度Sおよび感染者の人員密度Iを設定する。たとえば、オペレータは、図3の各エリアの単位時間ごとの人員密度S,Iを入力する。そうすると、設定部111は、各エリアの単位時間ごとの人員密度S,Iを設定した人員密度データを作成する。なお、人員密度は、たとえば、単位面積あたりの人数「人/m2」または単位体積あたりの人数[人/m3]であってもよい。また、他の実施形態では、人員密度に代えて、シミュレーション対象全体の非感染者および感染者の人数[人]を用いてもよい。
【0058】
また、設定部111は、オペレータの入力操作を受け付けて、シミュレーション対象の設計パラメータの設定を行う(ステップS103)。設計パラメータは、シミュレーション対象に設置される空調機器が供給する空気の温湿度、流量などを含む。
【0059】
次に、流れ場解析部112は、シミュレーション対象の3Dモデルと、設計パラメータとに基づいて、既知のCFD技術による流れ場シミュレーションを実行する(ステップS104)。
【0060】
また、係数算出部113は、流れ場の解析結果を用いて感染物質の濃度シミュレーションを実行して、シミュレーション対象の時間ごとの濃度分布を解析する。具体的には、上式(1)~(2)より濃度分布を求める。そして、係数算出部113は、シミュレーション対象内の空間(セル)ごと、および時間ごとの感染物質の濃度および呼吸量IRに基づいて、各空間の時間ごとの感染伝播係数β’を求める(ステップS105)。
【0061】
具体的には、係数算出部113は、感染伝播係数β’を、式(10)に代えて、以下の式(13)で求める。IRは、設定部111がステップS102で設定した空間ごと、単位時間ごとの呼吸量である。nは、係数算出部113が解析した濃度分布に基づく各エリアの単位時間ごとの感染物質濃度の濃度であり、上式(10)のaΦに相当する。つまり、本実施形態における感染伝播係数β’は、非感染者が単位時間あたりに感染物質を吸い込む量(感染物質への暴露量)を表したものである。
【0062】
【数13】
【0063】
次に、評価部114は、感染伝播係数β’に基づきシミュレーション対象における感染リスクを評価する(ステップS106)。
【0064】
本実施形態では、非感染者が感染物質を吸い込む量(感染伝播係数β’)が時空間的に変化することを考慮し、従来技術の非感染者の時間的変化を表す式(7)を、式(14)のように記載する。
【0065】
【数14】
【0066】
また、式(14)を式(15)~(17)のように解いて、式(18)を得る。
【0067】
【数15】
【0068】
【数16】
【0069】
【数17】
【0070】
【数18】
【0071】
なお、感染者の時間的変化を表す式は以下の式(19)となる。
【0072】
【数19】
【0073】
式(18)から、感染リスクRの評価式は式(20)となる。
【0074】
【数20】
【0075】
本実施形態では、非感染者が感染物質を吸い込む量(感染伝播係数β’)が時空間的に変化することから、式(18)、(20)のeの右肩を積分とし、感染物質の累積的な吸込み量を評価可能としている。これにより、累積的な吸込み量の多寡に応じて感染リスクをより厳密に評価することが可能となる。
【0076】
(作用、効果)
以上のように、本実施形態に係る評価装置10は、シミュレーション対象の3Dモデルと、シミュレーション対象内の空間および時間ごとの滞在者の呼吸量IRと、シミュレーション対象内の空間および時間ごとの非感染者の人員密度Sと、空調機器の運転条件を含む設計パラメータとを設定する設定部111と、3Dモデルおよび設計パラメータに基づいてシミュレーション対象の流れ場を解析する流れ場解析部112と、流れ場の解析結果を用いてシミュレーション対象における感染物質の時間ごとの濃度分布を解析し、時間ごとの濃度分布および呼吸量IRに基づいて、シミュレーション対象内の空間(単位面積)および時間ごとの感染伝播係数β’を求める係数算出部113と、感染伝播係数β’および非感染者の人員密度Sに基づいてシミュレーション対象の感染リスクRを評価する評価部114と、を備える。
【0077】
上述のように、従来技術では、呼吸量は時間的にも空間的にも一定であるとして、感染リスクを評価していた。そうすると、たとえばシミュレーション対象内の空間や時間によって滞在者の呼吸量が変化する場合には、感染リスクの精度が低下する可能性があった。これに対し、本実施形態に係る評価装置10は、シミュレーション対象内における滞在者の呼吸量の時空間的変化をパラメータとして、感染伝播係数β’を算出している。このため、本実施形態に係る評価装置10は、エアロゾル/空気による感染リスクRをより厳密に評価することができる。
【0078】
また、評価部114は、評価部は、感染伝播係数の積分値に基づき感染リスクRを評価する。
【0079】
このようにすることで、評価装置10は、非感染者の感染物質の累積的な吸込み量(暴露量)を精度よく推定して、感染リスクRの推定精度を向上することができる。
【0080】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について図4図5を参照しながら説明する。上述の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0081】
上述の実施形態では、シミュレーション対象における非感染者および感染者の人員密度S,Iを単位面積あたりの人員密度[人/m2]としていた。これに対し、本実施形態では、非感染者および感染者の人員密度S,Iを単位体積あたりの人員密度[人/m3]とする。
【0082】
図4は、第2の実施形態に係る評価装置の機能を説明するための図である。
シミュレーション対象には高さの異なる滞在者(たとえば、大人および子ども)が混在する。大人と子どもとでは、感染物質を吸い込む口や鼻の高さが異なる。そうすると、感染物質の濃度分布によっては、大人と子どもとで感染物質の吸込み量が変化する可能性がある。
【0083】
このため、本実施形態では、たとえば、大人の口や鼻がある空間V1と、子どもの口や鼻がある空間V2との2つの空間を設定する。空間V1は、大人の口や鼻があると想定される高さH1(たとえば、床面から1.5m)を中心とする一定範囲L1(たとえば20cm)の3次元空間である。空間V2は、子どもの口や鼻があると想定される高さH2(たとえば、床面から1m)を中心とする一定範囲L2(たとえば20cm)の3次元空間である。
【0084】
たとえば、大人の非感染者の人数が50人、子どもの人数が30人である場合、空間V1に50人が存在し、空間V2に30人が存在するとして、単位体積あたりの人員密度S[人/m3]を設定する。
【0085】
図5は、第2の実施形態に係る評価装置の処理の一例を示すフローチャートである。
ここでは、図5を参照しながら、評価装置10がシミュレーション対象の感染リスクを評価する処理の詳細について説明する。
【0086】
まず、設定部111は、シミュレーション対象の設定を行う(ステップS201)。この処理は、第1の実施形態(図2のステップS101)と同じ処理である。
【0087】
次に、設定部111は、環境条件の設定を行う(ステップS202)。ここで設定される非感染者の人員密度Sおよび感染者の人員密度は、上記したように単位体積あたりの人員密度[人/m3]である。なお、シミュレーション対象全体の非感染者の人員密度Nおよび感染者の人員密度Nは、図5に示すように各空間の人員密度を積分したものとなる。
【0088】
呼吸量の設定については、第1の実施形態(図2のステップS102)と同じである。またステップS203~S206の処理については、第1の実施形態(図2のS103~S106)の処理と同じである。
【0089】
以上のように、本実施形態に係る評価装置10は、非感染者および感染者の人員密度S,Iを単位体積あたりの人員密度として特定する。
【0090】
このようにすることで、感染物質の濃度分布が高さによって異なる場合に、高さの異なる非感染者(大人と子ども)を区別して感染リスクを評価することができる。また、高さによって人員密度が異なる(たとえば、大人と子どもの人数に偏りがある)場合も、より正確に感染リスクを評価することができる。
【0091】
なお、本実施形態では、大人が存在する空間V1と子どもが存在する空間V2との2つの空間を想定して人員密度を設定する例について説明したが、これに限られることはない。他の実施形態では、たとえば、シミュレーション対象が複数の階(フロア)を有する施設についても適用してもよい。たとえば、1~3階の3フロアを有する施設の場合、1階に対応する空間の人員密度、2階に対応する空間の人員密度、および3階に対応する空間の人員密度をそれぞれ設定してもよい。また、1~3階の中央部に吹き抜けがある場合は、2~3階の吹き抜けのある空間の人員密度は0に設定する。このようにすることで、複数階を有するシミュレーション対象についても、フロアごとの感染リスクの評価を実施することができる。
【0092】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態について図6を参照しながら説明する。上述の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0093】
感染物質は、一般的に時間経過とともに感染性が弱くなる(不活化する)。しかしながら、従来技術では、気中での不活化が考慮されていなかった。つまり、発生した感染物質は消滅しない前提で感染リスクの評価を行っていた。しかしながら、実際には、シミュレーション対象の環境(温度、湿度など)に応じて感染物質は時間とともに不活化する。そこで、本実施形態では、感染物質の移流拡散シミュレーション(流れ場シミュレーション)において、気中での不活化モデルを導入する。
【0094】
図6は、第3の実施形態に係る評価装置の処理の一例を示すフローチャートである。
ここでは、図6を参照しながら、評価装置10がシミュレーション対象の感染リスクを評価する処理の詳細について説明する。なお、ステップS301~S304については、第1の実施形態(図2のステップS201~S104)、または第2の実施形態(図5のステップS201~S204)と同じである。
【0095】
本実施形態に係る係数算出部113は、上記した式(1)で示す感染物質濃度の支配方程式に、気中での不活化モデルを導入した式(21)を用いて、シミュレーション対象の時間ごとの濃度分布を解析する(ステップS305)。
【0096】
【数21】
【0097】
不活化モデルは、次式(22)で表される。
【0098】
【数22】
【0099】
式(22)において、SΦは感染物質の発生または消滅[quanta/s・m3]、λは感染物質の不活化(自然減衰)の時定数[sec]、nは感染物質濃度[quanta/m3]を表す。
【0100】
また、感染物質がウイルスである場合、その自然減衰の時定数λは、一般に温湿度に依存する。このため、シミュレーション対象における温度(室温)T[℃]および相対湿度[%RH]の実測結果を基に、以下の式(23)の一次関数で近似する。
【0101】
【数23】
【0102】
以上のように、本実施形態に係る評価装置10は、感染物質の不活化モデルをさらに用いて、感染物質の濃度分布を解析する。
【0103】
評価装置10は、このように気中での感染物質の不活化現象をシミュレーションに追加することで、より現実に近い濃度分布を算出することができる。これにより、感染リスクRをより正確に評価することが可能となる。
【0104】
<第4の実施形態>
次に、第4の実施形態について図7を参照しながら説明する。上述の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0105】
上述の各実施形態では、感染物質の感染力aとして仮の値を用いていた。たとえば、あるシミュレーション対象において、空調機器の配置や設計パラメータなどを変化させた複数の空調プラン間で、感染リスクRを相対的に評価する場合、第1~第3の実施形態の手法は有効である。本実施形態では、感染リスクRの絶対的な評価についても精度よく行えるように、実際の感染事例に基づいて感染物質の感染力aを特定する解析検証プロセスをさらに実施する。
【0106】
図7は、第4の実施形態に係る評価装置の機能構成を示すブロック図である。
図7に示すように、本実施形態に係る評価装置10において、プロセッサ11は推定部115としての機能をさらに発揮する。推定部115は、初期(t=0)の非感染者数S、感染者数I、感染物質への暴露時間t、暴露時間t後の非感染者数S、および人の活動状態(呼吸量IR)既知である感染事例に基づいて、これらの既知の値を上式(10)、(11)に代入することにより、感染物質の平均的な濃度nを逆算する。また、逆算した濃度nから感染力aを推算する。
【0107】
図8は、第4の実施形態に係る評価装置の処理の一例を示すフローチャートである。
ここでは、図8を参照しながら、評価装置10が感染事例から感染力を推定する処理の流れについて説明する。
【0108】
まず、設定部111は、感染事例が発生した施設をシミュレーション対象に設定する(ステップS401)。また、設定部111は、感染事例に基づいて、環境条件(非感染者の人数S、感染者の人数I、呼吸量IR)の設定(ステップS402)、および設計条件の設定(ステップS403)を行う。これらの処理は、第1の実施形態(図2のステップS101~S103)と同様である。
【0109】
また、ステップS404~S406の処理は、第1の実施形態(図2のステップS104~S106)の処理と同じである。
【0110】
次に、推定部115は、感染事例から既知である非感染者の初期人数S、感染物質への暴露時間t、暴露時間t後の非感染者数S、暴露時間t後の感染者数I、および呼吸量IRを上式(10)、(11)に代入して、感染物質の平均的な濃度nを求める。また、評価部114は、算出した濃度n=aΦから感染力aを統計的に推算する(ステップS407)。
【0111】
推定部115が推算した感染事例に基づく感染力aは、他のシミュレーション対象で同一の感染物質の感染リスクを評価する際に用いられる。具体的には、設定部111は、図2のステップS102(または、図5のステップS202、図6のステップS302)において、環境条件の1つとして感染力aを設定する。このようにすることで、実際の感染事例に基づき、感染力aをより現実の値に近づけることができる。
【0112】
また、係数算出部113は、図2のステップS105(または、図5のステップS205、図6のステップS305)において、推定部115が推定した感染力aを加味した濃度n=aΦを式(13)に代入して、感染伝播係数β’を算出する。これにより、より正確な感染伝播係数β’を求めることができる。
【0113】
以上のように、本実施形態に係る評価装置10は、既知の感染事例に基づいて、感染物質の感染力を推算する推定部115をさらに備える。また、係数算出部113は、推定部115が推定した感染力にさらに基づいて、同一の感染物質について他のシミュレーション対象における感染伝播係数β’を求める。
【0114】
このようにすることで、評価装置10は、実際の感染事例に基づき、感染力aをより現実の値に近づけることができるので、より正確な感染伝播係数β’を求めることができる。これにより、評価装置10は、シミュレーション対象における感染リスクRの絶対的な評価についても精度よく行うことができる。
【0115】
<その他の実施形態>
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。すなわち、他の実施形態においては、上述の処理の順序が適宜変更されてもよい。また、一部の処理が並列に実行されてもよい。
【0116】
<付記>
上述の実施形態に記載の評価装置、評価方法、およびプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0117】
(1)第1の態様によれば、評価装置10は、シミュレーション対象における空調機器のレイアウトを含む3Dモデルと、シミュレーション対象内の空間および時間ごとの滞在者の呼吸量IRと、シミュレーション対象内の空間および時間ごとの非感染者の人員密度Sまたは人数と、空調機器の運転条件を含む設計パラメータとを設定する設定部111と、3Dモデルおよび設計パラメータに基づいてシミュレーション対象の流れ場を解析する流れ場解析部112と、流れ場の解析結果を用いてシミュレーション対象における感染物質の時間ごとの濃度分布nを解析し、時間ごとの濃度分布nおよび呼吸量IRに基づいて、シミュレーション対象内の空間および時間ごとの感染伝播係数β’を求める係数算出部113と、感染伝播係数β’と、非感染者の人員密度Sまたは人数とに基づいてシミュレーション対象の感染リスクRを評価する評価部114と、を備える。
【0118】
このようにすることで、評価装置10は、滞在者の活動状態に応じた呼吸量の時空間的変化を加味して感染伝播係数β’を算出することができるので、エアロゾル/空気による感染リスクRをより厳密に評価することができる。
【0119】
(2)第2の態様によれば、第1の態様に係る評価装置10において、評価部114は、感染伝播係数β’の積分値に基づき感染リスクRを評価する。
【0120】
このようにすることで、評価装置10は、非感染者の感染物質の累積的な吸込み量(暴露量)を精度よく推定して、感染リスクRの推定精度を向上することができる。
【0121】
(3)第3の態様によれば、第1または第2の態様に係る評価装置10において、設定部111は、シミュレーション対象の単位体積あたりの非感染者の人員密度Sを設定する。
【0122】
このようにすることで、感染物質の濃度分布が高さによって異なる場合に、高さの異なる非感染者(大人と子ども)を区別して感染リスクを評価することができる。また、高さによって人員密度が異なる(たとえば、大人と子どもの人数に偏りがある)場合も、より正確に感染リスクを評価することができる。
【0123】
(4)第4の態様によれば、第1から第3のいずれか一の態様に係る評価装置10において、係数算出部113は、感染物質の不活化モデルSΦをさらに用いて濃度分布を解析する。
【0124】
評価装置10は、このように気中での感染物質の不活化現象をシミュレーションに追加することで、より現実に近い濃度分布を算出することができる。これにより、感染リスクRをより正確に評価することが可能となる。
【0125】
(5)第5の態様によれば、第1から第4のいずれか一の態様に係る評価装置10は、第1のシミュレーション対象における非感染者の初期人数S、呼吸量IR、感染物質への暴露時間t、および暴露時間tを経過後の感染者の人数Sが既知である感染事例に基づいて、感染物質の感染力をa推算する推定部115をさらに備え、係数算出部113は、推定部115が推定した感染力aにさらに基づいて、第1のシミュレーション対象と同一の感染物質について、第1のシミュレーション対象とは異なる第2のシミュレーション対象内の空間および時間毎の感染伝播係数β’を求める。
【0126】
このようにすることで、評価装置10は、実際の感染事例に基づき、感染力aをより現実の値に近づけることができるので、より正確な感染伝播係数β’を求めることができる。これにより、評価装置10は、シミュレーション対象における感染リスクRの絶対的な評価についても精度よく行うことができる。
【0127】
(6)第6の態様によれば、評価方法は、シミュレーション対象における空調機器のレイアウトを含む3Dモデルと、シミュレーション対象内の空間および時間ごとの滞在者の呼吸量IRと、シミュレーション対象内の空間および時間ごとの非感染者の人員密度Sまたは人数と、空調機器の運転条件を含む設計パラメータとを設定するステップと、3Dモデルおよび設計パラメータに基づいてシミュレーション対象の流れ場を解析するステップと、流れ場の解析結果を用いてシミュレーション対象における感染物質の時間ごとの濃度分布nを解析し、時間ごとの濃度分布nおよび呼吸量IRに基づいて、シミュレーション対象内の空間および時間ごとの感染伝播係数β’を求めるステップと、感染伝播係数β’と、非感染者の人員密度Sまたは人数とに基づいてシミュレーション対象の感染リスクRを評価するステップと、を有する評価方法。
【0128】
(7)第7の態様によれば、プログラムは、シミュレーション対象における空調機器のレイアウトを含む3Dモデルと、シミュレーション対象内の空間および時間ごとの滞在者の呼吸量IRと、シミュレーション対象内の空間および時間ごとの非感染者の人員密度Sまたは人数と、空調機器の運転条件を含む設計パラメータとを設定するステップと、3Dモデルおよび設計パラメータに基づいてシミュレーション対象の流れ場を解析するステップと、流れ場の解析結果を用いてシミュレーション対象における感染物質の時間ごとの濃度分布nを解析し、時間ごとの濃度分布nおよび呼吸量IRに基づいて、シミュレーション対象内の空間および時間ごとの感染伝播係数β’を求めるステップと、感染伝播係数β’と、非感染者の人員密度Sまたは人数とに基づいてシミュレーション対象の感染リスクRを評価するステップと、を評価装置10に実行させる。
【符号の説明】
【0129】
10 評価装置
11 プロセッサ
111 設定部
112 場解析部
113 係数算出部
114 評価部
115 推定部
12 メモリ
13 ストレージ
14 インタフェース
15 入力装置
16 表示装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8