(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136810
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】作業機械の制御装置および作業機械、作業機械の制御方法
(51)【国際特許分類】
B66C 13/20 20060101AFI20240927BHJP
F15B 11/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B66C13/20
F15B11/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048067
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】沢村 俊明
(72)【発明者】
【氏名】菅野 直紀
【テーマコード(参考)】
3F204
3H089
【Fターム(参考)】
3F204AA04
3F204BA02
3F204CA07
3F204GA01
3H089BB17
3H089CC09
3H089DA03
3H089DB43
3H089EE15
3H089EE36
3H089GG02
3H089JJ01
(57)【要約】
【課題】油圧機器が非線形の挙動特性を示す場合であっても、アクチュエータの動きを安定して制御することが作業機械の制御装置および作業機械、作業機械の制御方法を提供する。
【解決手段】コントローラ101は、起伏レバー111から出力される操作指令信号に応じた所定の動作を可変容量モータ121に実行させるように設定された制御モデルを含む制御系処理と、油圧回路機構Hに含まれる非線形特性を相殺するための逆変換処理とを連結して処理することで、流量調整部Mに入力するための流量指令信号を前記操作指令信号に応じて生成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体と前記機体に対して起伏可能なアタッチメントとを有する作業機械の制御装置であって、
入力される操作の大きさに応じた操作指令信号を出力する操作部と、
作動油を吐出することが可能な油圧ポンプと、前記油圧ポンプから作動油の供給を受けることで作動する油圧式のアクチュエータと、前記油圧ポンプと前記アクチュエータとの間に介在し、入力される流量指令信号に応じて前記アクチュエータに供給される作動油の流量を調整することが可能な流量調整部と、を含む油圧回路機構と、
前記操作部から出力される前記操作指令信号に応じた所定の動作を前記アクチュエータに実行させるように設定された制御モデルを含む制御系処理と、前記油圧回路機構に含まれる非線形特性を相殺するための逆変換処理とを連結して処理することで、前記流量調整部に入力するための前記流量指令信号を前記操作指令信号に応じて生成する制御部と、
を備える、作業機械の制御装置。
【請求項2】
前記流量調整部は、
入力されるパイロット二次圧の大きさに応じて移動するスプールを含み、前記スプールの移動量に応じて前記アクチュエータに作動油を供給するための開口面積が変化するように開弁する方向切換弁と、
前記操作部から受ける前記操作指令信号に応じて、前記方向切換弁に入力する前記パイロット二次圧の大きさを変化させることが可能な比例弁と、
を有し、
前記油圧回路機構に含まれる前記非線形特性の逆変換処理は、
前記操作指令信号と前記パイロット二次圧との間の非線形特性を相殺するための処理、
前記パイロット二次圧の大きさと前記スプールの移動量との間の非線形特性を相殺するための処理、
前記スプールの移動量と前記方向切換弁の開口面積との間の非線形特性を相殺するための処理のうちの、少なくとも一つの処理を含む、請求項1に記載の作業機械の制御装置。
【請求項3】
前記流量調整部は、入力されるパイロット二次圧の大きさに応じて移動するスプールを含み、前記スプールの移動量に応じて前記アクチュエータに作動油を供給するための開口面積が変化するように開弁する方向切換弁を有し、
前記油圧回路機構に含まれる前記非線形特性の逆変換処理は、オリフィスの関係式に基づく前記開口面積と前記アクチュエータに流入する作動油の流量との間の非線形特性を相殺するための処理である、請求項1に記載の作業機械の制御装置。
【請求項4】
前記油圧式のアクチュエータは、可変容量モータであり、
前記油圧回路機構に含まれる前記非線形特性の逆変換処理は、前記可変容量モータのモータ容量における非線形特性を相殺するための処理である、請求項1に記載の作業機械の制御装置。
【請求項5】
入力される傾転指令電流値の大きさに応じて、前記可変容量モータのモータ容量を調整可能な傾転調整機構を更に備え、
前記制御部は、前記可変容量モータについての、前記傾転指令電流値に応じて変化する第1モータ容量と、前記可変容量モータに作用するトルクに応じて馬力制御に基づいて決定される第2モータ容量との高位選択によって現在の前記モータ容量を推定することで前記非線形特性を相殺する処理を実行する、請求項4に記載の作業機械の制御装置。
【請求項6】
機体と、
前記機体に対して起伏可能なアタッチメントと、
請求項1に記載の作業機械の制御装置と、
を備える作業機械。
【請求項7】
前記操作部は、前記アタッチメントを起伏させるための操作を受けるものであって、
前記アクチュエータは、前記アタッチメントの先端部から垂下された吊り荷ロープの巻き取りおよび繰り出しを行うことが可能な油圧モータであって、
前記制御部の前記制御モデルは、前記所定の動作として、前記吊り荷ロープに接続された吊り荷の高さが一定となるように、前記アタッチメントを起伏させるための前記操作指令信号に応じて前記油圧モータを回転させるように設定されている、請求項6に記載の作業機械。
【請求項8】
機体と、前記機体に対して起伏可能なアタッチメントと、前記アタッチメントを起伏させるために入力される操作の大きさに応じた操作指令信号を出力する操作部と、作動油を吐出することが可能な油圧ポンプと前記油圧ポンプから作動油の供給を受けることで前記アタッチメントの先端部から垂下された吊り荷ロープの巻き取りおよび繰り出しを行うことが可能な油圧モータと前記油圧ポンプと前記油圧モータとの間に介在し入力される流量指令信号に応じて前記油圧モータに供給される作動油の流量を調整することが可能な流量調整部とを含む油圧回路機構と、を有する作業機械の制御方法であって、
前記操作部から出力される前記操作指令信号に応じた所定の動作を前記アクチュエータに実行させるように設定された制御モデルを含む制御系処理と、前記油圧回路機構に含まれる非線形特性を相殺するための逆変換処理とを連結して処理することで、前記流量調整部に入力するための前記流量指令信号を前記操作指令信号に応じて生成することを備える、作業機械の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械の制御装置および作業機械、作業機械の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業機械として、クレーン本体と、当該クレーン本体に起伏方向に回動可能に支持されたブーム(アタッチメント)と、を有するクレーンが知られている。ブームの先端から垂下された吊り荷ロープが吊り荷に接続され、吊り荷ウインチが吊り荷ロープを巻き上げることで、吊り荷の吊り上げ作業を行うことができる。
【0003】
特許文献1には、クレーンの水平引き込み制御装置が開示されている。当該制御装置は、水平引き込みのためのブームの俯仰角に基づく吊り荷ウインチのドラムの目標回転速度を算出する手段と、ドラムの実回転速度を算出する手段と、ドラムの目標ロープ繰り出し若しくは巻取り量を算出する手段と、ドラムの実ロープ繰り出し若しくは巻取り量を算出する手段とを有する。そして、制御装置は、上記各算出値からドラムの回転速度の補正値とドラムの目標回転速度とを算出し、更に、双方の算出値の差から偏差を算出して、ドラムの回転数を変化させ、ロープの繰り出し若しくは巻取りの量及び速度を修正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術は、油圧機器の非線形の挙動特性を考慮した制御仕様となっていないため、油圧回路内の油圧機器の個体差、アタッチメントの振動などの外乱が発生したときに制御系が不安定になるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、油圧機器が非線形の挙動特性を示す場合であっても、アクチュエータの動きを安定して制御することが作業機械の制御装置および作業機械、作業機械の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって提供されるのは、機体と前記機体に対して起伏可能なアタッチメントとを有する作業機械の制御装置であって、入力される操作の大きさに応じた操作指令信号を出力する操作部と、作動油を吐出することが可能な油圧ポンプと、前記油圧ポンプから作動油の供給を受けることで作動する油圧式のアクチュエータと、前記油圧ポンプと前記アクチュエータとの間に介在し、入力される流量指令信号に応じて前記アクチュエータに供給される作動油の流量を調整することが可能な流量調整部と、を含む油圧回路機構と、前記操作部から出力される前記操作指令信号に応じた所定の動作を前記アクチュエータに実行させるように設定された制御モデルを含む制御系処理と、前記油圧回路機構に含まれる非線形特性を相殺するための逆変換処理とを連結して処理することで、前記流量調整部に入力するための前記流量指令信号を前記操作指令信号に応じて生成する制御部と、を備える。
【0008】
本構成によれば、油圧回路機構に含まれる非線形特性が逆変換処理によって相殺されるため、制御モデルに基づいてアクチュエータを動かすことが可能になり、油圧機器の個体差、アタッチメントの振動などの誤差や外乱が発生しても、制御系を安定させることができる。
【0009】
上記の構成において、前記流量調整部は、入力されるパイロット二次圧の大きさに応じて移動するスプールを含み、前記スプールの移動量に応じて前記アクチュエータに作動油を供給するための開口面積が変化するように開弁する方向切換弁と、前記操作部から受ける前記操作指令信号に応じて、前記方向切換弁に入力する前記パイロット二次圧の大きさを変化させることが可能な比例弁と、を有し、前記油圧回路機構に含まれる前記非線形特性の逆変換処理は、前記操作指令信号と前記パイロット二次圧との間の非線形特性を相殺するための処理、前記パイロット二次圧の大きさと前記スプールの移動量との間の非線形特性を相殺するための処理、前記スプールの移動量と前記方向切換弁の開口面積との間の非線形特性を相殺するための処理のうちの、少なくとも一つの処理を含むものでもよい。
【0010】
本構成によれば、比例弁や方向切換弁のような複雑な非線形特性をもつ部材に対しても、各々の特性に基づく逆変換処理を用いることによって、制御系をより安定させることができる。
【0011】
上記の構成において、前記流量調整部は、入力されるパイロット二次圧の大きさに応じて移動するスプールを含み、前記スプールの移動量に応じて前記アクチュエータに作動油を供給するための開口面積が変化するように開弁する方向切換弁を有し、前記油圧回路機構に含まれる前記非線形特性の逆変換処理は、オリフィスの関係式に基づく前記開口面積と前記アクチュエータに流入する作動油の流量との間の非線形特性を相殺するための処理であってもよい。
【0012】
本構成によれば、方向切換弁のような複雑な非線形特性をもつ部材に対しても、その特性に基づく逆変換処理を用いることによって、制御系をより安定させることができる。
【0013】
上記の構成において、前記油圧式のアクチュエータは、可変容量モータであり、前記油圧回路機構に含まれる前記非線形特性の逆変換処理は、前記可変容量モータのモータ容量における非線形特性を相殺するための処理であってもよい。
【0014】
本構成によれば、可変容量モータのような複雑な非線形特性をもつ部材に対しても、その特性に基づく逆変換処理を用いることによって、制御系をより安定させることができる。
【0015】
上記の構成において、入力される傾転指令電流値の大きさに応じて、前記可変容量モータのモータ容量を調整可能な傾転調整機構を更に備え、前記制御部は、前記可変容量モータについての、前記傾転指令電流値に応じて変化する第1モータ容量と、前記可変容量モータに作用するトルクに応じて馬力制御に基づいて決定される第2モータ容量との高位選択によって現在の前記モータ容量を推定することで前記非線形特性を相殺する処理を実行するものでもよい。
【0016】
本構成によれば、作用するトルクに応じてモータ容量が変化するような複雑な油圧回路機構が設けられている場合であっても、これらの挙動を予測してモータ容量を推定することで、制御系をより安定させることができる。
【0017】
また、本発明によって提供されるのは、機体と、前記機体に対して起伏可能なアタッチメントと、上記に記載の作業機械の制御装置と、を備える作業機械である。
【0018】
本構成によれば、油圧回路機構に含まれる非線形特性が逆変換処理によって相殺されるため、制御モデルに基づいてアクチュエータを動かすことが可能になり、油圧機器の個体差、アタッチメントの振動などの誤差や外乱が発生しても、作業機械における制御系を安定させることができる。
【0019】
上記の構成において、前記操作部は、前記アタッチメントを起伏させるための操作を受けるものであって、前記アクチュエータは、前記アタッチメントの先端部から垂下された吊り荷ロープの巻き取りおよび繰り出しを行うことが可能な油圧モータであって、前記制御部の前記制御モデルは、前記所定の動作として、前記吊り荷ロープに接続された吊り荷の高さが一定となるように、前記アタッチメントを起伏させるための前記操作指令信号に応じて前記油圧モータを回転させるように設定されているものでもよい。
【0020】
本構成によれば、油圧回路機構に含まれる非線形特性が逆変換処理によって相殺されるため、制御モデルに基づいてアタッチメントの起伏に応じて油圧モータを動かすことが可能になり、油圧機器の個体差、アタッチメントの振動などの誤差や外乱が発生しても、作業機械における水平引き作業の制御系を安定させることができる。
【0021】
また、本発明によって提供されるのは、機体と、前記機体に対して起伏可能なアタッチメントと、前記アタッチメントを起伏させるために入力される操作の大きさに応じた操作指令信号を出力する操作部と、作動油を吐出することが可能な油圧ポンプと前記油圧ポンプから作動油の供給を受けることで前記アタッチメントの先端部から垂下された吊り荷ロープの巻き取りおよび繰り出しを行うことが可能な油圧モータと前記油圧ポンプと前記油圧モータとの間に介在し入力される流量指令信号に応じて前記油圧モータに供給される作動油の流量を調整することが可能な流量調整部とを含む油圧回路機構と、を有する作業機械の制御方法であって、当該制御方法は、前記操作部から出力される前記操作指令信号に応じた所定の動作を前記アクチュエータに実行させるように設定された制御モデルを含む制御系処理と、前記油圧回路機構に含まれる非線形特性を相殺するための逆変換処理とを連結して処理することで、前記流量調整部に入力するための前記流量指令信号を前記操作指令信号に応じて生成することを備える。
【0022】
本方法によれば、油圧回路機構に含まれる非線形特性が逆変換処理によって相殺されるため、制御モデルに基づいてアタッチメントの起伏に応じて油圧モータを動かすことが可能になり、油圧機器の個体差、アタッチメントの振動などの誤差や外乱が発生しても、作業機械における水平引き作業の制御系を安定させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、油圧機器が非線形な挙動特性を示す場合であっても、アクチュエータの動きを安定して制御することが作業機械の制御装置および作業機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る作業機械の側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る作業機械の制御装置のブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る作業機械の油圧回路機構の回路図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る作業機械の制御装置が実行する処理のモデル図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る作業機械の制御装置が実行する処理のブロック線図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る作業機械の制御装置が実行する処理のフローチャートである。
【
図7】比例弁の電流指令値と二次圧との関係を示すグラフである。
【
図8】比例弁の二次圧と方向制御弁のスプールストロークとの関係を示すグラフである。
【
図9】方向制御弁のスプールストロークとバルブ開口面積との関係を示すグラフである。
【
図10】本発明の一実施形態に係る方向制御弁の模式的な断面図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る作業機械の制御装置と比較される他の制御装置が実行する処理のブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係るタワークレーン10(作業機械)の側面図である。なお、
図1には、「上」、「下」、「前」および「後」の方向が示されているが、当該方向は、本実施形態に係るタワークレーン10の構造を説明するために便宜上示すものであり、本発明に係る作業機械の制御装置の機能、使用態様などを限定するものではない。
【0026】
タワークレーン10は、クローラ式の下部走行体11と、上部旋回体12(機体)と、運転室13と、ブーム14と、ジブ15と、ブーム起伏ウインチ16Aと、主巻ウインチ16B(第1ウインチともいう)と、補巻ウインチ16C(第2ウインチともいう)と、ブーム起伏ロープ17と、下部スプレッダ18Aと、上部スプレッダ18Bと、ブームガイライン19と、ガントリ20と、フロントストラット21と、リアストラット22と、ジブ起伏ロープ23と、連結ロッド24と、ジブガイライン25と、吊り荷ロープ30と、フック35とを備える。
【0027】
下部走行体11は、地面などの走行面上を走行することができる。なお、下部走行体11は、クローラ以外の、例えばホイールなどを用いた移動構造を有するものでもよい。また、本発明に係る作業機械は、移動構造を有さない固定式クレーンでもよく、後記のとおりタワークレーン以外のラッフィングクレーンや、ジブを有さないクレーンなどでもよい。
【0028】
上部旋回体12は、下部走行体11に上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能に支持されている。運転室13は、上部旋回体12の前部に設けられ、タワークレーン10のオペレータ(作業者)が搭乗することが可能である。
【0029】
ブーム14は、上部旋回体12の前端部に設けられた不図示の支軸に、起伏方向に回動可能に支持されている。本実施形態では、ブーム14は複数のブーム部材がその長手方向に沿って互いに連結されることで構成されている。
【0030】
ジブ15は、ブーム14の先端部に起伏可能に支持されている。
【0031】
ブーム起伏ウインチ16Aは、上部旋回体12の後部に搭載されている。ブーム起伏ウインチ16Aは、ブーム14を起伏させるために、ブーム起伏ロープ17を巻き取りおよび繰り出す機能を有している。
【0032】
主巻ウインチ16Bは、上部旋回体12のうちブーム起伏ウインチ16Aの前側に搭載されている。
図1のタワークレーン10では、主巻ウインチ16Bは、吊り荷ロープ30を巻き取りおよび繰り出す機能を有している。また、補巻ウインチ16Cは、上部旋回体12のうち主巻ウインチ16Bの前側に搭載されている。補巻ウインチ16Cは、ジブ起伏ロープ23を巻き取りおよび繰り出す機能を有している。なお、補巻ウインチ16Cは、機能上、ジブ起伏ウインチともいう。また、ジブ起伏ウインチと補巻ウインチとは別々に設置されてもよい。この場合の補巻ウインチは、主巻ウインチ16Bとは異なる吊り荷ロープ(補巻ロープ)を巻き取りおよび繰り出す機能を有する。
【0033】
ガントリ20は、上部旋回体12の後側部分に立設される。ガントリ20は、ブーム14の起伏動作における支柱として機能する。
【0034】
下部スプレッダ18Aは、ガントリ20の上端部に接続されており、不図示の下部シーブブロックを有する。下部シーブブロックには、複数のシーブが幅方向(左右方向)に配列されている。
【0035】
上部スプレッダ18Bは、下部スプレッダ18Aの上方に所定の間隔をおいて配置される。上部スプレッダ18Bは、左右一対のブームガイライン19を介してブーム14の先端部に接続される。上部スプレッダ18Bは、不図示の上部シーブブロックを有する。上部シーブブロックには、複数のシーブが幅方向(左右方向)に配列されている。
【0036】
ブーム起伏ロープ17は、ブーム起伏ウインチ16Aから引き出され、ガントリ20の上端部に配置されたガイドシーブに掛けられた後、下部スプレッダ18Aの前記下部シーブブロックと上部スプレッダ18Bの前記上部シーブブロックとの間で複数回掛け回される。なお、前記下部シーブブロックおよび前記上部シーブブロックに掛け回された後のブーム起伏ロープ17の先端部は、ガントリ20の上端部に固定される。
【0037】
ブーム起伏ウインチ16Aは、ブーム起伏ロープ17の巻き取りおよび繰り出しを行うことで下部スプレッダ18Aの下部シーブブロックと上部スプレッダ18Bの上部シーブブロックとの間の距離を変化させ、ブーム14をガントリ20に対して相対的に回動させながらブーム14を起伏させる。
【0038】
フロントストラット21およびリアストラット22は、ジブ15の後方においてブーム14の先端部に回動可能に支持されている。フロントストラット21の回動端部とリアストラット22の回動端部とは連結ロッド24によって接続されている。
図1に示すように、フロントストラット21、リアストラット22および連結ロッド24は三角形状を有する。フロントストラット21の回動端部とジブ15の先端部とは、ジブガイライン25によって接続されている。ジブ起伏ロープ23は、リアストラット22の回動端部に接続されている。この際、補巻ウインチ16Cと、リアストラット22の回動端部との間に、前述の下部スプレッダ18Aおよび上部スプレッダ18Bと同様の構造が配置されてもよい。補巻ウインチ16Cがジブ起伏ロープ23の巻き取り、繰り出しを行うと、フロントストラット21およびリアストラット22が一体的に回動する。これに連動して、ジブ15がブーム14に対して相対的に起伏する。
【0039】
主巻ウインチ16Bから引き出された吊り荷ロープ30は、ブーム14の先端部の不図示のアイドラシーブなどを介して、ジブ15の先端部を経由して、フック35に接続されている。主巻ウインチ16Bが、吊り荷ロープ30の巻き取り、繰り出しを行うと、フック35およびこれに接続された不図示の吊荷が上下に移動する。なお、ジブの先端にポイントシーブが設けられ、フック35のシーブとの間で吊り荷ロープ30が複数回巻かれても良い。
【0040】
図1に示すようなタワークレーン10において、フック35によって吊り荷が吊上げられた状態で、ジブ15を起伏させることで、前記吊り荷を前後方向に移動させる場合がある。例えば、ジブ15を起立方向に回動させながら、吊り荷の高さを一定に保つように、吊り荷ロープ30を繰り出す作業(水平引き作業、水平引込作業)がある。本実施形態では、運転室13に搭乗するオペレータがジブ15を起立させる操作を行うことに伴って、主巻ウインチ16Bが自動で吊り荷ロープ30を繰り出す機能をタワークレーン10が有している(水平引込アシスト機能)。
【0041】
図2は、本実施形態に係るタワークレーン10の制御装置のブロック図である。
図3は、本実施形態に係るタワークレーン10の油圧回路機構Hの回路図である。
図2を参照して、タワークレーン10は、コントローラ101(制御部)と、主巻ドラム回転検出部102と、補巻ドラム回転検出部103と、起伏ドラム回転検出部104と、ブーム角度検出部105と、ジブ角度検出部106と、荷重値検出部107と、モニタスイッチ108と、主巻レバー109と、補巻レバー110(操作部)と、起伏レバー111と、を有する。
【0042】
コントローラ101は、タワークレーン10の各部の動作を統括的に制御するものである。コントローラ101の構造、機能については後記で詳述する。
【0043】
主巻ドラム回転検出部102は、主巻ウインチ16Bが備える不図示のウインチドラムの回転数、回転量を検出し、その大きさに対応する信号をコントローラ101に入力する。
【0044】
補巻ドラム回転検出部103は、補巻ウインチ16Cが備える不図示のウインチドラムの回転数、回転量を検出し、その大きさに対応する信号をコントローラ101に入力する。
【0045】
起伏ドラム回転検出部104は、ブーム起伏ウインチ16Aが備える不図示のウインチドラムの回転数、回転量を検出し、その大きさに対応する信号をコントローラ101に入力する。
【0046】
ブーム角度検出部105は、例えばブーム14の基端部に装着されており、ブーム14の角度を検出し、その大きさに対応する信号をコントローラ101に入力する。本実施形態では、ブーム角度検出部105は、ブーム14の対地角(地面または水平面に対するブーム14の角度)を検出する。なお、ブーム角度検出部105が検出する角度は、上記以外の角度でもよい。
【0047】
ジブ角度検出部106は、例えばジブ15の基端部に装着されており、ジブ15の角度を検出し、その大きさに対応する信号をコントローラ101に入力する。本実施形態では、ジブ角度検出部106は、ブーム14に対するジブ15の相対角(ブーム14の中心線とジブ15の中心線とがなす角度)を検出する。なお、ジブ角度検出部106が検出する角度は、上記以外の角度でもよい。
【0048】
荷重値検出部107は、フック35に接続された吊り荷の荷重を検出し、その大きさに対応する信号をコントローラ101に入力する。一例として、荷重値検出部107は、ロードセルなどから構成され、主巻ウインチ16Bに設けられ、吊り荷ロープ30の張力を検出し、当該張力から吊り荷の荷重を推定する。なお、荷重値検出部107は、ジブ15や、ジブ起伏ロープ23に接続される下部スプレッダなど、その他の位置に設けられても良い。
【0049】
モニタスイッチ108は、運転室13内に配置され、オペレータによって操作される。モニタスイッチ108は、後記のアシスト処理の実行有無を切換えるための操作を受ける。
【0050】
主巻レバー109は、運転室13内に配置され、オペレータによって操作される。主巻レバー109は、主巻ウインチ16Bの回転速度、回転方向を切換えるための操作を受ける。主巻レバー109が一の方向に傾動されると、主巻ウインチ16Bが吊り荷ロープ30を巻き取り、主巻レバー109が前記一の方向とは反対の他の方向に傾動されると、主巻ウインチ16Bが吊り荷ロープ30を繰り出す。なお、主巻レバー109が傾動される操作の操作量(大きさ)によって、主巻ウインチ16Bの回転速度(巻き取り速度、繰り出し速度)が調整される。
【0051】
補巻レバー110は、運転室13内に配置され、オペレータによって操作される。補巻レバー110は、補巻ウインチ16Cの回転速度、回転方向を切換えるための操作を受ける。補巻レバー110が一の方向に傾動されると、補巻ウインチ16Cがジブ起伏ロープ23を巻き取り、補巻レバー110が前記一の方向とは反対の他の方向に傾動されると、補巻ウインチ16Cがジブ起伏ロープ23を繰り出す。なお、補巻レバー110が傾動される操作の操作量(大きさ)によって、補巻ウインチ16Cの回転速度(巻き取り速度、繰り出し速度)が調整される。
【0052】
起伏レバー111は、運転室13内に配置され、オペレータによって操作される。起伏レバー111は、ブーム起伏ウインチ16Aの回転速度、回転方向を切換えるための操作を受ける。起伏レバー111が一の方向に傾動されると、ブーム起伏ウインチ16Aがブーム起伏ロープ17を巻き取り、起伏レバー111が前記一の方向とは反対の他の方向に傾動されると、ブーム起伏ウインチ16Aがブーム起伏ロープ17を繰り出す。なお、起伏レバー111が傾動される操作の操作量(大きさ)によって、ブーム起伏ウインチ16Aの回転速度(巻き取り速度、繰り出し速度)が調整される。
【0053】
前述のコントローラ101は、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等から構成されている。コントローラ101は、前記CPUがROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、初期設定部112、制御モード状態管理部113、フィードフォワード制御演算部114、フィードバック制御演算部115、モータ容量演算部116、電流指令値演算部117の各機能部を備えるように機能する。これらの機能部は、実体を有するものではなく、前記制御プログラムによって実行される機能の単位に相当する。なお、コントローラ101のすべてまたは一部は、タワークレーン10内に設けられるものに限定されず、タワークレーン10とは異なる位置に配置されても良い。また、前記制御プログラムは遠隔地のサーバ(管理装置)やクラウドなどからタワークレーン10内のコントローラ101に送信され実行されるものでもよいし、前記サーバーやクラウド上で前記制御プログラムが実行され、生成された各種の指令信号がタワークレーン10に送信されるものでもよい。
【0054】
初期設定部112は、主巻ドラム回転検出部102、補巻ドラム回転検出部103、起伏ドラム回転検出部104、ブーム角度検出部105、ジブ角度検出部106の各検出部の検出結果と、ML(モーメント・リミッタ機能)に関するタワークレーン10の設定情報をもとに、タワークレーン10の初期姿勢情報や吊り荷の初期位置を演算する。
【0055】
制御モード状態管理部113は、モニタスイッチ108、主巻レバー109、補巻レバー110、起伏レバー111から入力される信号に基づいて、タワークレーン10の制御モードの状態管理を行い、水平引き機能の有効、無効を切り替える。
【0056】
フィードフォワード制御演算部114は、ジブトップ高さの変化速度によるフィードフォワード制御を行うものであって、ブーム起伏ウインチ16A、補巻ウインチ16Cの回転から演算したジブトップ高さ変化速度に基づいて、吊り荷が同じ速度となるように、主巻ウインチ16Bの巻き取り、繰り出し速度を演算する。
【0057】
フィードバック制御演算部115は、吊り荷高さの偏差によるフィードバック制御をおこなうものであって、主巻ドラム回転検出部102、ブーム角度検出部105、ジブ角度検出部106の各検出結果から演算した吊り荷の高さ偏差をもとにフィードバック制御を演算することで、フィードフォワード制御のみの場合に発生してしまう定常的な誤差を補正する。
【0058】
モータ容量演算部116は、荷重値検出部107によって検出された吊り荷の荷重から可変容量モータ121のモータトルクを演算し、現在の制御状態が後記で詳述する馬力制御の機能の有効域であるかどうかを判定する。これと同時に、ML機能に含まれるモータ容量比例弁電流値から決まるモータ容量とを比較して、現在のモータ容量を推測する。
【0059】
電流指令値演算部117は、上記のフィードフォワード制御、フィードバック制御、モータ容量の各々から決まる速度を実現するために、主巻比例弁118または補巻比例弁119に入力する比例弁電流指令値を演算する。電流指令値演算部117は、現在の吊り荷の接続状況をもとに、上記で演算した電流指令値を主巻比例弁118または補巻比例弁119、あるいはその両方に適用する。
【0060】
タワークレーン10は、更に、主巻比例弁118(
図2)と、補巻比例弁119と、可変容量ポンプ120(
図3)(油圧ポンプ)と、可変容量モータ121(油圧モータ)と、方向制御弁122と、シャトル弁123と、リリーフ弁124とを有する。なお、
図3では、タワークレーン10が有する複数のウインチのうちの一のウインチ(主巻ウインチ16B)を駆動するための油圧回路機構Hを図示している。実際には、各ウインチに対応して油圧回路機構Hと同様の回路が備えられている。なお、複数のウインチの油圧回路の一部が互いに共用されてもよい。
【0061】
主巻比例弁118は、コントローラ101の電流指令値演算部117から与えられる指令信号の電流値に応じて、主巻ウインチ16Bに対応する方向制御弁122に入力されるパイロット圧を調整する。具体的に、主巻比例弁118は、各々が電磁比例弁からなる主巻第1比例弁および主巻第2比例弁を有する。主巻第1比例弁および主巻第2比例弁は、パイロット油圧源と方向制御弁122の第1パイロットポート122Pおよび第2パイロットポート122Qとの間にそれぞれ介在し、第1パイロットポート122Pおよび第2パイロットポート122Qにそれぞれパイロットラインを介して接続されている。主巻第1比例弁は、電流指令値演算部117から指令信号が与えられると第1パイロットポート122Pに供給されるパイロット圧を増圧するように開弁する。また、主巻第2比例弁は、電流指令値演算部117から指令信号が与えられると第2パイロットポート122Qに供給されるパイロット圧を増圧するように開弁する。この際、第1パイロットポート122Pおよび第2パイロットポート122Qに入力されるパイロット圧の変化に応じて、方向制御弁122のスプールのストローク量(移動量)が変化する。
【0062】
同様に、補巻比例弁119は、コントローラ101の電流指令値演算部117から与えられる指令信号の電流値に応じて、補巻ウインチ16Cに対応する方向制御弁122に入力されるパイロット圧を調整する。具体的に、主巻比例弁118は、各々が電磁比例弁からなる補巻第1比例弁および補巻第2比例弁を有する。補巻第1比例弁および補巻第2比例弁は、パイロット油圧源と方向制御弁122の第1パイロットポート122Pおよび第2パイロットポート122Qとの間にそれぞれ介在し、第1パイロットポート122Pおよび第2パイロットポート122Qにそれぞれパイロットラインを介して接続されている。補巻第1比例弁は、電流指令値演算部117から指令信号が与えられると第1パイロットポート122Pに供給されるパイロット圧を増圧するように開弁する。また、補巻第2比例弁は、電流指令値演算部117から指令信号が与えられると第2パイロットポート122Qに供給されるパイロット圧を増圧するように開弁する。この際、第1パイロットポート122Pおよび第2パイロットポート122Qに入力されるパイロット圧の変化に応じて、方向制御弁122のスプールのストローク量(移動量)が変化する。
【0063】
可変容量ポンプ120は、不図示のエンジンの出力軸に連結され当該出力軸から入力される動力をうけ、可変容量モータ121に供給されるべき作動油をタンクから吸い込んで吐出する。この実施形態に係る可変容量ポンプ120は、当該可変容量ポンプ120に含まれる傾転調整機構(レギュレータ)への傾転指令信号の入力により可変容量ポンプ120の容量(押しのけ容積)が変化し、これにより可変容量ポンプ120から吐出される作動油の流量であるポンプ吐出流量が変化する。換言すれば、可変容量ポンプ120は、傾転指令信号の入力を受け付け当該傾転指令信号の大きさに応じて作動油の最大吐出量を変化させることが可能とされている。なお、上記の傾転指令信号は、コントローラ101から入力される。
【0064】
可変容量モータ121は、例えば主巻ウインチ16Bを回転駆動する油圧式のウインチモータである。なお、前述のように、補巻ウインチ16Cをそれぞれ回転駆動するための他の可変容量モータ121が別途設けられている。可変容量モータ121は、内部に複数の油圧室を備え、可変容量ポンプ120から供給される作動油を前記複数の油圧室のうちの一の油圧室に受け入れるとともに前記複数の油圧室のうちの他の油圧室から作動油を排出することで、主巻ウインチ16Bのウインチドラムを回転させる駆動力を発生する。具体的に、可変容量モータ121は、モータ第1ポート121Aおよびモータ第2ポート121Bを有する。可変容量モータ121は、モータ第1ポート121Aを通じて作動油の供給を受けることにより主巻ウインチ16Bを巻き取り方向に回転させるとともに、モータ第2ポート121Bを通じて作動油を排出する。一方、可変容量モータ121は、モータ第2ポート121Bを通じて作動油の供給を受けることにより主巻ウインチ16Bを巻き取り方向とは反対の繰出し方向に回転させるとともにモータ第1ポート121Aを通じて作動油を排出する。
【0065】
方向制御弁122は、可変容量ポンプ120と可変容量モータ121との間に介在するように、作動油の油路に配置されている。方向制御弁122は、可変容量ポンプ120から可変容量モータ121への作動油の供給の方向を切換えるとともに、作動油の流量を調整するように作動する。方向制御弁122は、可変容量モータ121のモータ第1ポート121Aおよびモータ第2ポート121Bにそれぞれ接続されている。
【0066】
方向制御弁122は、当該方向制御弁122に入力されるパイロット圧に応じて巻き取り位置122A、中立位置122Bおよび繰り出し位置122Cの間で切換わるように作動する。方向制御弁122は、一対のパイロットポート、すなわち第1パイロットポート122Pおよび第2パイロットポート122Qを有する。方向制御弁122は、第1パイロットポート122Pおよび第2パイロットポート122Qのいずれにもパイロット圧が入力されない場合には中立位置122Bに保たれる。方向制御弁122は、第1パイロットポート122Pにパイロット圧が入力されると巻き取り位置122Aに切換えられ、第2パイロットポート122Qにパイロット圧が入力されると繰り出し位置122Cに切換えられる。そして、方向制御弁122は、前記パイロット圧に応じた開口面積で開弁し、可変容量モータ121に供給される作動油の流量を変化させる。
【0067】
シャトル弁123は、一対の第1入力ポート及び第2入力ポートと、一つの出力ポートと、を有する。シャトル弁123の前記第1入力ポートは、可変容量モータ121のモータ第1ポート121A側に接続され、シャトル弁123の前記第2入力ポートは、可変容量モータ121のモータ第2ポート121B側に接続されている。シャトル弁123の前記出力ポートは、油路を介してリリーフ弁124の一次圧側に接続されている。当該シャトル弁123は、可変容量モータ121のモータ第1ポート121A側の作動油とモータ第2ポート121B側の作動油とのうちの圧力が高い方の作動油が、選択的にリリーフ弁124に供給されることを許容する。
【0068】
リリーフ弁124は、可変容量ポンプ120から吐出された作動油の一部をタンクに導く機能を有している。可変容量モータ121のモータ第1ポート121A側およびモータ第2ポート121B側のうちの圧力が高い側(駆動側)の圧力に応じてリリーフ弁124の開度が調整される。このため、可変容量ポンプ120によって吐出された作動油が過剰に可変容量モータ121に供給されることが抑止される。
【0069】
換言すれば、本実施形態では、方向制御弁122に加えてメータイン圧を一定に保つ弁を設けることにより、方向制御弁122に二次圧を与える各比例弁へ入力される電流指令値に応じた流量の作動油を可変容量モータ121に供給することができる。
【0070】
なお、主巻比例弁118と、補巻比例弁119と、方向制御弁122とは、本実施形態における流量調整部Mを構成する。流量調整部Mは、可変容量ポンプ120と可変容量モータ121との間に介在し、入力される流量指令信号に応じて前記アクチュエータに供給される作動油の流量を調整することが可能とされている。
【0071】
図4は、本実施形態に係るタワークレーン10の制御装置が実行する処理のモデル図である。
図4は、コントローラ101において油圧回路機構Hに含まれる非線形要素を消去する様子を示している。当該制御において実装するロジックは、予め制御系設計を行ったロジックと非線形要素の逆変換との連結となっている。一例として、前記制御系設計のロジックは、ジブ15の起伏に応じて、吊り荷の高さが一定となるように、主巻ウインチ16Bの回転を制御するものである。
図4の上側のモデル図のように、タワークレーン10には、油圧回路機構Hなどにおいてさまざまな非線形要素が含まれている。このような非線形特性は、主巻ウインチ16Bの回転を制御するにあたって変動要因になるため、吊り荷の高さを一定に保つ制御を精度良く行うことが難しくなる。そこで、この非線形要素の特性について、予めコントローラ101内の処理において逆変換を行っておくことで、
図4の下側のモデル図のように、非線形要素を相殺し、線形特性に基づいて主巻ウインチ16Bの回転を制御することができる。
【0072】
例えば、タワークレーン10の持つ非線形要素や、ジブ15(アタッチメント)の長さなどのように作業条件によって変化する要素を消去し、作業条件に依存しない線形要素のみを対象とした制御系設計を行うことで、ロジック全体として安定性を保持した制御ロジックを構築することができる。具体的に、コントローラ101は、主巻比例弁118または補巻比例弁119における比例弁電流指令値とパイロット二次圧との関係、方向制御弁122におけるパイロット二次圧とスプールストロークとの関係、方向制御弁122におけるスプールストロークと開口面積との関係に対して、それぞれ逆特性を与える一方、方向制御弁122の開口面積と可変容量モータ121に流入するモータ流量との関係についてはオリフィスの関係式に基づき非線形特性を消去する。
【0073】
なお、可変容量モータ121におけるモータ流量とモータ回転との関係における非線形特性は、傾転指令値によって定まるモータ容量と、モータトルクから定まるCHP(スプリングセット圧)によるモータ容量との高位選択によって定まるモータ容量によって特性の演算を行うことで、非線形特性を消去することができる。なお、モータに含まれる減速機、ワイヤ掛け数については、予め設定された仕様およびコントローラ101内部の情報からその影響を消去することができる。また、主巻ウインチ16Bなどにおけるウインチドラムのドラム有効径については、前記ウインチドラムに設けられたエンコーダから出力されるドラム回転パルスから演算することで、その影響を消去することができる。このようなフィードフォワード制御、フィードバック制御、モータ容量については、コントローラ101への入力情報に基づいて、予め設定された仕様や各アタッチメントの長さに伴う影響を考慮した幾何学的な演算等も利用してもよい。
【0074】
図5は、タワークレーン10の制御装置が実行する処理のより詳しいブロック線図であって、特に、可変容量モータ121のモータ容量を予測する様子を表したブロック線図である。主巻ドラム回転検出部102(
図2)の検出結果によって、現在の吊り荷の高さが検出され、吊り荷の目標高さ(ジブ15の起伏開始時の吊り荷の高さ)との差がゼロとなるように、フィードバック制御が実行される。一方、主巻ウインチ16Bには、吊り荷の荷重によって所定の負荷トルクが作用する。当該負荷トルクは、荷重値検出部107によって検出される吊り荷の荷重から演算することができる。更に、コントローラ101は、後記で詳述するように、所定の条件に応じて可変容量モータ121のモータ容量を演算、設定する。この際、所定の傾転指令電流が、可変容量モータ121に設けられた傾転調整機構に入力されることで、可変容量モータ121のモータ容量が調整される。可変容量モータ121のモータ容量の挙動は非線形特性を含むともに、入力信号に対して実際の出力が遅れる、いわゆる応答遅れが存在する。なお、
図5においてTは時定数である。本実施形態では、これらの変動要因を予め相殺する処理をコントローラ101が実行する。
【0075】
具体的に、
図5に示すように、可変容量モータ121に掛かる負荷トルクと、コントローラ101内で生成されるモータ傾転指令電流値とから、モータ容量の非線形逆特性によって予測したモータ容量を用いて、目標とする流入流量が演算される。そして、当該演算された流入流量からこれに対応する比例弁電流指令値が更に演算される。ここで、実際の流量をモータ容量で除算した値が、可変容量モータ121の回転速度になるが、
図5に示すように、実際のモータ容量が分母側、前処理において予測したモータ容量が分子側となり、両者は相殺することになる。これにより時間的に変化するモータ容量の特性を打ち消して、目標とする吊り荷ロープ30の繰り出し量を調整することができる。
【0076】
一方、
図11は、本実施形態に係るタワークレーン10の制御装置と比較される他の制御装置が実行する処理のブロック線図である。
図11では、前もってモータ容量を予測せずに制御を行う場合を示している。この場合、モータ容量を制御するためのモータ傾転指令電流や可変容量モータ121の負荷トルクによって、モータ容量が非線形特性をもつように変化する。そして、その変化に対して、更に応答遅れが生じるため、同じモータ流入流量であっても可変容量モータ121の回転速度が変化してしまう。このため、主巻ウインチ16Bの回転制御、すなわち、吊り荷の高さ制御が難しくなる。この結果、
図11に示すフィードバックゲインの設計を容易に行うことができなくなる。一方、本実施形態に係る処理では、前述のように、モータ容量の非線形逆特性を打ち消す処理を行うことで、線形的な制御を行うことが可能になる。
【0077】
<可変容量モータ制御のフローチャートについて>
図6は、タワークレーン10の制御装置が実行する処理のフローチャートである。以下では、上記と同様に、オペレータが起伏レバー111を操作してジブ15を起伏させる際に、吊り荷の高さを一定に保つようにコントローラ101が主巻ウインチ16Bを回転させる場合について説明する。
【0078】
本実施形態では、タワークレーン10の作動中、コントローラ101(制御モード状態管理部113)が制御モードの状態管理を行っている(ステップS1)。この状態管理は、非線形特性を相殺する処理を含む主巻ウインチ16Bなどの回転制御機能(アシスト処理ともいう)を実行するか否かを管理するものである。例えば、オペレータは、
図2のモニタスイッチ108を通じて当該機能を切換えることができる。
【0079】
ここで、現在の状態が機能ON状態であれば(ステップS2でYES)、オペレータが操作する起伏レバー111のレバー中立時に、コントローラ101(初期設定部112)が、以後の制御、演算で用いる変数を初期化する(ステップS3)。なお、これらの変数の初期化は、タワークレーン10のアタッチメント(ブーム14、ジブ15)の長さを変更した場合や、制御開始時の前記アタッチメントの姿勢に応じたパラメータを計算するためのものであるため、機能OFF状態から機能ON状態に移行した最初の演算周期(1周期目)のみに実行される。次に、コントローラ101(フィードフォワード制御演算部114、フィードバック制御演算部115、電流指令値演算部117)が、上記の変数を用いて吊り荷高さ(フック高さ)を一定にするための、主巻比例弁118または補巻比例弁119の電流指令値を演算する(ステップS4)。この際、コントローラ101は三角関数などを用いて、ジブ15の角度から吊り荷高さを求めることができる。演算された電流指令値は、フィルタ処理や予め設定された上下限制限値内に限定するような整形処理を受けたのち、各比例弁に入力される(ステップS5)。
図6に示すフローが、起伏レバー111が操作を受けている、すなわち、ジブ15が起伏している間、所定の周期で繰り返される。
【0080】
<油圧回路機構Hに含まれる非線形特性について>
次に、油圧回路機構Hに含まれる各部材の非線形特性について詳述する。
図7は、主巻比例弁118、補巻比例弁119に例示される比例弁の電流指令値(横軸)と当該比例弁の二次圧(縦軸)との関係を示すグラフである。
図7において、実線で示すグラフが、上記の関係を示すものである。また、破線は、非線形特性の逆変換処理を説明するための基準線(y=x)のグラフである。更に、一点鎖線は、実線のグラフを基準線に対して線対称で示したグラフであって、非線形特性の逆変換特性を示している。なお、各線の意味は、以後の他のグラフでも同様である。
【0081】
一般的に、比例弁はヒステリシスを持っているため、同じ電流指令値でも励磁の上げ側と下げ側とでは圧力が異なる。
図7の2本の実線は、このヒステリシス幅を表している。このヒステリシスは比例弁の個体に応じて異なる(個体差)を持つため、例えば主巻ウインチ16Bのドラム回転速度を制御する場合には、フィードバック制御によって吸収される必要がある誤差となる。
【0082】
図8は、主巻比例弁118、補巻比例弁119に例示される比例弁の二次圧(横軸)と方向制御弁122のスプールストローク(縦軸)との関係を示すグラフである。各比例弁の二次圧が方向制御弁122の各パイロットポートに入力されると、方向制御弁122のスプールが移動する。
図9に示すように、比例弁の二次圧に対してスプールストローク(移動量)は、ほとんどの領域で概ね直線的に推移するが、比例弁の二次圧がゼロから所定の圧力に至るまでの間は、不感帯(ストロークがゼロ)となるため、結果的に
図8のグラフは非線形特性を有することとなる。
【0083】
図9は、本実施形態に係る方向制御弁122のスプールストローク(横軸)と方向制御弁122のバルブ開口面積(縦軸)との関係を示すグラフである。この関係は、バルブの仕様として既知であり、例えば、コントローラ101が有する不図示の記憶部に記憶されている。また、
図10は、方向制御弁122の模式的な断面図である。方向制御弁122のようなスプール弁は、オリフィス絞りとみなすことができるため、その開口面積Aは
図10の開口量x、スプール径dを用いると、近似的に次の式1のように表すことができる。
A=π×d×x ・・・(式1)
【0084】
なお、実際にはスプールに切込みなどが設けられることで上記の開口面積Aは更に調整されている。そして、スプールストロークと開口面積の関係は、仕様として与えられているため、当該仕様に基づいて非線形特性の逆変換が処理されてもよい。
【0085】
また、オリフィスの流量の理論式を参照すると、密度ρの流体が流れると仮定し、圧力降下をΔp、流量係数をCd、開口面積をAとすると、流量Qは次の式2で表すことができる。
Q=Cd×A×√(2×Δp/ρ) ・・・(式2)
【0086】
クレーンのウインチ回路では差圧を一定にするバルブの作用によってΔpは一定に保たれる。これにより、式2では開口面積A以外を定数とみなすことができるため、予め仕様によって定められている開口面積Aに応じて、流量Qが決定される。本実施形態では、この関係を利用することによって、タワークレーン10の主巻ウインチ16Bに対して、吊り荷の荷重やアタッチメントの姿勢に依存せず、起伏レバー111のレバー操作量に応じて概ね一対一で対応した回転速度で制御することができる。なお、本実施形態では、
図7から
図9において一点鎖線で示される逆変換特性を合成した処理が行われる。
【0087】
<可変容量モータ121の容量制御について>
次に、馬力一定制御を含む可変容量モータ121の制御について説明する。可変容量モータ121に採用される馬力一定制御とは、可変容量モータ121に掛かる負荷が大きくなった際に、そのモータ容量を大きくして、可変容量モータ121が行う仕事(馬力)を一定に保つ制御である。以下では、可変容量モータ121が斜板式油圧モータである場合について説明する。可変容量モータ121は可変容量ポンプ120から供給される作動油の圧力によってピストンを押し込み、回転エネルギーに変換することで馬力を得て駆動する。ここで、損失等は無視すると、可変容量モータ121が行う仕事は、モータ流量とモータ圧力との積で表すことができる一方、モータトルクとモータ回転数の積で表すこともできる。
【0088】
すなわち、可変容量モータ121が作動油から得られる動力が一定の場合、流量を増加させるとモータ圧力が下がり、流量を減少させるとモータ圧力が上がることになる。また、動力が一定の場合に、モータトルクが上昇すると可変容量モータ121の回転数は下がる。ここで、可変容量モータ121の傾転調整機構の斜板の傾き(傾転)を大きくすると、内部のピストンのストロークが大きくなることによって、1回転当たりのモータの流量が増加する。このため、作動油の流量が同じであれば、可変容量モータ121の回転数は下がることになる。したがって、同じ動力であっても可変容量モータ121のトルクを上昇させることが可能になる。逆に、前記斜板の傾きを小さくすると、可変容量モータ121の流量が小さくなり、そのモータトルクが小さくなる。本実施形態に係るタワークレーン10では、上記の斜板の傾きが2つの方法で変更される。第1の変更方法は、コントローラ101から入力される比例弁電流指令値によるものである。第2の変更方法は、馬力一定制御に基づいて機械的に(からくり的に)斜板の傾きが変化するものである。
【0089】
タワークレーン10を通常使用している場合、オペレータによるレバー操作とトリマ操作の2つの操作によって、可変容量モータ121の傾転調整機構に入力される傾転比例弁指令値(モータ容量を決定するための電流指令値)が決定される。ここで、可変容量モータ121は、モータの自己圧を傾転調整機構に対する入力圧として導く構造を有している。そして、モータの圧力が所定の閾値を超えると、自動的に(機械的に)傾転調整機構への入力を調整し、モータ容量が増加する。この結果、モータ流量が大きくなり、可変容量モータ121の自己圧が更に増加することが抑止される(馬力一定制御)。このように、本実施形態では、可変容量モータ121の自己圧が相対的に低い場合は、傾転比例弁指令によりモータ容量が決まり(第1のモータ容量)、モータ自己圧が上がると自動的にモータ容量が上がる(第2のモータ容量)。このため、コントローラ101は、
図5のモデルにおけるモータ容量の非線形逆特性の処理において、上記の2つのモータ容量を計算し、両者の高位選択を行うことによって、現在設定されているモータ容量を推定することができる。更に、モータ容量変化において生じる応答遅れについては、コントローラ101が遅れの動特性を予測することによって、現在のモータ容量をより精度良く推定することができる。
【0090】
以上のように、本実施形態では、コントローラ101が、起伏レバー111から出力される前記操作指令信号に応じた所定の動作を可変容量モータ121に実行させるように設定された制御モデルを含む制御系処理と、前記油圧回路機構Hに含まれる非線形特性を相殺するための逆変換処理とを連結して処理することで、前記流量調整部Mに入力するための前記流量指令信号を前記操作指令信号に応じて生成する。
【0091】
このような構成によれば、油圧回路機構Hに含まれる非線形特性が逆変換処理によって相殺されるため、制御モデルに基づいて可変容量モータ121を動かすことが可能になり、油圧機器の個体差、アタッチメントの振動などの誤差や外乱が発生しても、制御系を安定させることができる。
【0092】
また、本実施形態では、流量調整部Mは、方向制御弁122と、主巻比例弁118および補巻比例弁119とを有する。方向制御弁122は、入力されるパイロット二次圧の大きさに応じて移動するスプールを含み、前記スプールの移動量に応じて可変容量モータ121に作動油を供給するための開口面積が変化するように開弁する。一方、比例弁は、前記操作部から受ける前記操作指令信号の電流値に応じて、前記方向制御弁122に入力する前記パイロット二次圧の大きさを変化させる。そして、油圧回路機構Hに含まれる前記非線形特性の逆変換処理は、前記操作指令信号の電流値と前記パイロット二次圧との間の非線形特性を相殺するための処理、前記パイロット二次圧の大きさと前記スプールの移動量との間の非線形特性を相殺するための処理、前記スプールの移動量と前記方向制御弁122の開口面積との間の非線形特性を相殺するための処理のうちの、少なくとも一つの処理を含む。なお、オペレータが起伏レバー111を操作してジブ15を起伏させる場合には、その操作量に応じて、コントローラ101が疑似的な操作部として、各比例弁に操作指令信号を入力する。この結果、主巻レバー109に対応する主巻ウインチ16Bの回転が制御される。
【0093】
このような構成によれば、比例弁や方向切換弁のような複雑な非線形特性をもつ部材に対しても、各々の特性に基づく逆変換処理を用いることによって、制御系をより安定させることができる。
【0094】
また、本実施形態では、油圧回路機構Hに含まれる非線形特性の逆変換処理は、オリフィスの関係式に基づく、開口面積Aと可変容量モータ121に流入する作動油の流量との間の非線形特性を相殺するための処理を含む。
【0095】
このような構成によれば、方向切換弁のような複雑な非線形特性をもつ部材に対しても、その特性に基づく逆変換処理を用いることによって、制御系をより安定させることができる。
【0096】
また、本実施形態では、油圧式のアクチュエータは、可変容量モータ121であり、油圧回路機構Hに含まれる非線形特性の逆変換処理は、可変容量モータ121のモータ容量における非線形特性を相殺するための処理を含む。
【0097】
このような構成によれば、可変容量モータのような複雑な非線形特性をもつ部材に対しても、その特性に基づく逆変換処理を用いることによって、制御系をより安定させることができる。
【0098】
また、本実施形態では、可変容量モータ121が、入力される傾転指令電流値の大きさに応じて、可変容量モータ121のモータ容量を調整可能な傾転調整機構を更に備える。コントローラ101は、可変容量モータ121についての、前記傾転指令電流値に応じて変化する第1モータ容量と、前記可変容量モータに作用するトルクに応じて馬力制御に基づいて決定される第2モータ容量との高位選択によって前記モータ容量を推定することで前記非線形特性を相殺する処理を実行する。
【0099】
このような構成によれば、可変容量モータ121に作用するトルクに応じてそのモータ容量が変化するような複雑な油圧回路機構Hが設けられている場合であっても、これらの挙動を予測してモータ容量を推定することで、制御系をより安定させることができる。
【0100】
なお、本実施形態には、タワークレーン10の制御方法が含まれている。前述のように、タワークレーン10は、上部旋回体12と、上部旋回体12に対して起伏可能なアタッチメントと、前記アタッチメントを起伏させるために入力される操作の大きさに応じた操作指令信号を出力する補巻レバー110(操作部)と、作動油を吐出することが可能な可変容量ポンプ120と前記可変容量ポンプ120から作動油の供給を受けることで前記アタッチメントの先端部から垂下された吊り荷ロープの巻き取りおよび繰り出しを行うことが可能な可変容量モータ121と前記可変容量ポンプ120と前記可変容量モータ121との間に介在し入力される流量指令信号に応じて前記可変容量モータ121に供給される作動油の流量を調整することが可能な流量調整部Mとを含む油圧回路機構Hと、を有する。前記制御方法は、前記操作部から出力される前記操作指令信号に応じた所定の動作を前記アクチュエータ、すなわち可変容量モータ121に実行させるように設定された制御モデルを含む制御系処理と、前記油圧回路機構Hに含まれる非線形特性を相殺するための逆変換処理とを連結して処理することで、前記流量調整部Mに入力するための前記流量指令信号を前記操作指令信号に応じて生成することを備える。
【0101】
本方法によれば、油圧回路機構Hに含まれる非線形特性が逆変換処理によって相殺されるため、制御モデルに基づいてアタッチメントの起伏に応じて可変容量モータ121を動かすことが可能になり、油圧機器の個体差、アタッチメントの振動などの誤差や外乱が発生しても、タワークレーン10における水平引き作業の制御系を安定させることができる。
【0102】
なお、本実施形態に含まれるタワークレーン10の制御装置が実行する各種の処理は、上記の制御方法の一部を構成する。
【0103】
以上、本発明の一実施形態に係るタワークレーン10の制御装置およびその制御方法について説明した。なお、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。本発明では、以下のような変形実施形態が可能である。
【0104】
(1)上記の実施形態では、
図1に示すタワークレーン10を用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の構造を備えたクレーンにも適用可能である。
【0105】
具体的に、上記の実施形態では、ブーム14の先端にジブ15が起伏可能に支持され、当該ジブ15の先端から吊り荷ロープ30が垂下される態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものでない。
図1において、タワークレーン10がジブ15を有さず、ブーム14の先端から吊り荷ロープ30が垂下されてもよい。この場合も、ブーム起伏ウインチ16Aがブーム起伏ロープ17の巻き取り、繰り出しを行うことで、ブーム14が起伏する。そして、ブーム14の起伏によって吊り荷を前後に移動させる際に、吊り荷の高さ変化を抑止するためには、上記の実施形態と同様に、ロープに接続された主巻ウインチ16Bまたは補巻ウインチ16Cの回転を制御すればよい。
【0106】
(2)上記の実施形態では、オペレータが起伏レバー111を操作し補巻ウインチ16Cを回転させてジブ15を起伏させることに連動して、コントローラ101が主巻ウインチ16Bを制御して吊り荷ロープ30の巻き取り、繰り出しを行う態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものでない。オペレータが操作するアクチュエータとコントローラ101が非線形特性を相殺するように逆変換処理を行って制御するアクチュエータとは、例えば、同じ主巻ウインチ16Bのモータであってもよい。この場合も、油圧回路機構Hに含まれる各種の非線形特性を相殺して、オペレータの操作に従って安定してアクチュエータの動きを制御することができる。
【0107】
(3)また、先の実施形態で説明したコントローラ101やその他の機器の全てまたは一部は、タワークレーン10と異なる場所に配置されてもよい。すなわち、本発明に係る作業装置の制御装置は、タワークレーン10などの作業機械の遠隔操作技術に適用することができる。
【0108】
(4)また、コントローラ101が実行する逆変換処理は、先に示した処理のうちの少なくとも一つでも良いし、その他の処理を含んでも良い。
【符号の説明】
【0109】
10 タワークレーン(作業機械)
101 コントローラ(制御部)
102 主巻ドラム回転検出部
103 補巻ドラム回転検出部
104 起伏ドラム回転検出部
105 ブーム角度検出部
106 ジブ角度検出部
107 荷重値検出部
108 モニタスイッチ
109 主巻レバー
11 下部走行体
110 補巻レバー
111 起伏レバー
112 初期設定部
113 制御モード状態管理部
114 フィードフォワード制御演算部
115 フィードバック制御演算部
116 モータ容量演算部
117 電流指令値演算部
118 主巻比例弁
119 補巻比例弁
12 上部旋回体
120 可変容量ポンプ
121 可変容量モータ(アクチュエータ)
122 方向制御弁
123 シャトル弁
124 リリーフ弁
13 運転室
14 ブーム(アタッチメント)
15 ジブ(アタッチメント)
16A ブーム起伏ウインチ
16B 主巻ウインチ
16C 補巻ウインチ
17 ブーム起伏ロープ
23 ジブ起伏ロープ
30 吊り荷ロープ
35 フック
H 油圧回路機構
M 流量調整部