(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136813
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】リン酸の分離回収方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20230101AFI20240927BHJP
B01J 20/10 20060101ALI20240927BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C02F1/28 P
B01J20/10 A
B01J20/34 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048072
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】502178001
【氏名又は名称】学校法人梅村学園
(71)【出願人】
【識別番号】000113067
【氏名又は名称】プリマハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】野浪 亨
(72)【発明者】
【氏名】大野 竜慎
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 龍一
(72)【発明者】
【氏名】西村 郁海
(72)【発明者】
【氏名】山本 翔
(72)【発明者】
【氏名】佐山 音緒
(72)【発明者】
【氏名】秋元 政信
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D624AA04
4D624AB12
4D624BA01
4D624BA05
4D624BA11
4D624BA12
4D624BB01
4D624BC04
4D624CA01
4D624CA06
4D624DA07
4G066AA30B
4G066AA66B
4G066AB06D
4G066AB07D
4G066AB13D
4G066BA20
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4G066CA41
4G066DA08
4G066GA11
4G066GA31
4G066GA34
(57)【要約】 (修正有)
【課題】カルシウムマグネシウム珪酸塩と排水とを接触させ、排水中のリン酸態リンをハイドロキシアパタイト(HAP)としてカルシウムマグネシウム珪酸塩に吸着させた後、酸に接触させてHAPを分離・回収する既存技術を改良して、酸の種類やpHの条件などを検討することで、より危険性が低く安全にリンを回収できる新規リン回収溶液の技術を開発すること。
【解決手段】カルシウムマグネシウム珪酸塩と排水とを接触させ、排水中のリン酸態リンをHAPとしてカルシウムマグネシウム珪酸塩に吸着させる吸着ステップと、カルシウムマグネシウム珪酸塩に吸着されたHAPを、pH4~7の範囲で緩衝能を有するカルボン酸緩衝液、又はキレート剤緩衝液にpH4~7の条件下で接触させて、HAPをカルシウムマグネシウム珪酸塩から分離させる分離回収ステップと、を有する、水中のリン分離回収方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムマグネシウム珪酸塩と排水とを接触させ、排水中のリン酸態リンを水酸化リン酸カルシウムとして前記カルシウムマグネシウム珪酸塩に吸着させる吸着ステップと、
前記カルシウムマグネシウム珪酸塩に吸着された水酸化リン酸カルシウムを、(A)pH4~7の範囲で緩衝能を有するカルボン酸緩衝液、又は(B)キレート剤緩衝液にpH4~7の条件下で接触させて、水酸化リン酸カルシウムをカルシウムマグネシウム珪酸塩から分離させる分離回収ステップと、
を有する、水中のリン分離回収方法。
【請求項2】
カルボン酸緩衝液が、酢酸/酢酸ナトリウム水溶液又はクエン酸/クエン酸ナトリウム水溶液である、請求項1記載の水中のリン分離回収方法。
【請求項3】
キレート剤緩衝液が、キレート剤/キレート剤ナトリウム緩衝液である、請求項1記載の水中のリン分離回収方法。
【請求項4】
キレート剤が、アミノカルボン酸系キレート剤である、請求項3記載の水中のリン分離回収方法。
【請求項5】
カルボン酸緩衝液が、カルボン酸イオン濃度が0.01N以上である、請求項1又は2記載の水中のリン分離回収方法。
【請求項6】
キレート剤緩衝液が、キレート剤イオン濃度が0.01N以上である、請求項1又は3記載の水中のリン分離回収方法。
【請求項7】
カルシウムマグネシウム珪酸塩がディオプサイドである、請求項1記載の水中のリン分離回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排水中のリン酸態リンを水酸化リン酸カルシウムとして分離回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リンは生命活動あるいは工業的に広く使用されるが、わが国では輸入に依存しており、世界的にもリン資源の枯渇が課題となっている。一方で排水から放流されるリンは、湖沼や海洋の富栄養化の一因となっている。そのため事業場からの排水中に含まれるリンを除去及び回収する技術が求められている。
【0003】
例えば、排水などのリン含有水溶液中のリンを、活性アルミナ、水和酸化鉄、水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタン及び水和酸化イットリウムからなる群から選ばれる一種以上の金属酸化物系吸着剤に吸着させ、吸着剤にアルカリ水溶液を接触させて、リン酸イオンを吸着剤からアルカリ水溶液に溶出し、得られたリンを含有するアルカリ水溶液にカルシウム化合物を添加して、5~120分間撹拌して、リン酸カルシウム粒子を析出させるリンの回収方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、自然界では透輝石として存在するディオプサイド(CaMgSi2O6、カルシウムマグネシウム珪酸塩(Calcium magnesium Silicate)の一種)と結合材とを有し、前記ディオプサイドの少なくとも一部が前記結合材の界面において露出しているコンクリート固化物を水に接触させ、水中のリン酸態リンを水酸化リン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト、以下「HAP」ということがある。)として前記コンクリート固化物と水との界面に析出させる析出ステップと、 前記コンクリート固化物を水中から引き上げ、前記コンクリート固化物に析出している前記HAPを酸に接触させて、該HAPを前記コンクリート固化物から分離させる分離ステップと、分離した前記HAPを回収する回収ステップとを有する、水中のリン回収方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5550459号公報
【特許文献2】特許第6968402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カルシウムマグネシウム珪酸塩と排水とを接触させ、排水中のリン酸態リンをHAPとして前記カルシウムマグネシウム珪酸塩に吸着させた後、酸に接触させてHAPを分離・回収する既存技術では、酸を用いることによる取扱いの危険性あるいは酸が流出した場合の環境への悪影響が想定される。そこで、本発明の課題は、酸の種類やpHの条件などを検討することで、より危険性が低く安全にリンを回収できる新規リン回収溶液の技術を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、酸の種類、pH、酸イオン濃度について検討した。その結果、pH4~7の範囲で緩衝能を有するpH4~7のカルボン酸緩衝液、好ましくはカルボン酸イオン濃度が0.01N以上であるカルボン酸緩衝液が効率よくHAPをカルシウムマグネシウム珪酸塩から分離・回収できることを見いだした。また、pH4~7のキレート剤緩衝液にも上記カルボン酸緩衝液と同じ作用を有することも見いだした。本発明はこれらの知見に基づき完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明特定事項により特定されるとおりのものである。
[1]カルシウムマグネシウム珪酸塩と排水とを接触させ、排水中のリン酸態リンを水酸化リン酸カルシウムとして前記カルシウムマグネシウム珪酸塩に吸着させる吸着ステップと、
前記カルシウムマグネシウム珪酸塩に吸着された水酸化リン酸カルシウムを、(A)pH4~7の範囲で緩衝能を有するカルボン酸緩衝液、又は(B)キレート剤緩衝液にpH4~7の条件下で接触させて、水酸化リン酸カルシウムをカルシウムマグネシウム珪酸塩から分離させる分離回収ステップと、を有する、水中のリン分離回収方法。
[2]カルボン酸緩衝液が、酢酸/酢酸ナトリウム水溶液又はクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液である、上記[1]の水中のリン分離回収方法。
[3]キレート剤緩衝液が、キレート剤/キレート剤ナトリウム緩衝液である、上記[1]の水中のリン分離回収方法。
[4]キレート剤が、アミノカルボン酸系キレート剤である、上記[3]の水中のリン分離回収方法。
[5]カルボン酸緩衝液が、カルボン酸イオン濃度が0.01N以上である、上記[1]又は[2]の水中のリン分離回収方法。
[6]キレート剤緩衝液が、キレート剤イオン濃度が0.01N以上である、上記[1]又は[3]の水中のリン分離回収方法。
[7]カルシウムマグネシウム珪酸塩がディオプサイド(Dip)である、上記[1]の水中のリン分離回収方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、排水中のリン酸態リンをHAPとしてカルシウムマグネシウム珪酸塩に吸着させた後、カルシウムマグネシウム珪酸塩に吸着されたHAPを、より危険性が低く安全にかつ効率よくリンを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】人工ディオプサイド(Dip)0.5mg~100mg添加による30mg/Lリン水溶液のリン濃度変化の結果を示す図である。
【
図2】人工ディオプサイド(Dip)にHAPを吸着させたHAP吸着試料を、0.1Nの各酸溶液(pH無調整、pH3.0、pH6.0)によりリンを分離させた回収量を示す図である。
【
図3】人工DipにHAPを吸着させたHAP吸着試料を、0.1Nの各酸溶液(pH無調整、pH3.0、pH6.0)によりリンを分離させたときの各酸溶液のpH変化を示す図である。
【
図4】人工DipにHAPを吸着させたHAP吸着試料を、0.1Nのくえん酸/くえん酸ナトリウム水溶液(pH無調整、pH5.0~8.0)によりリンを分離させた回収量を示す図である。
【
図5】人工DipにHAPを吸着させたHAP吸着試料を、0.1Nの酢酸/酢酸ナトリウム水溶液(pH無調整、pH5.0~8.0)によりリンを分離させた回収量を示す図である。
【
図6】人工DipにHAPを吸着させたHAP吸着試料を、0.1Nのくえん酸/くえん酸ナトリウム水溶液(pH無調整、pH5.0~8.0)によりリンを分離させたときのpH変化を示す図である。
【
図7】人工DipにHAPを吸着させたHAP吸着試料を、0.1Nの酢酸/酢酸ナトリウム水溶液(pH無調整、pH5.0~8.0)によりリンを分離させたときのpH変化を示す図である。
【
図8】人工DipにHAPを吸着させたHAP吸着試料を、1N~0.001Nのくえん酸/くえん酸ナトリウム水溶液(pH6.0及び7.0)によりリンを分離させた回収量を示す図である。
【
図9】人工DipにHAPを吸着させたHAP吸着試料を、1N~0.001Nの酢酸/酢酸ナトリウム水溶液(pH6.0及び7.0)によるリン回収量を示す図である。
【
図10】人工DipにHAPを吸着させたHAP吸着試料を、1N~0.001Nのくえん酸/くえん酸ナトリウム水溶液(pH6.0及び7.0)によりリンを分離させたときのpH変化を示す図である。
【
図11】人工DipにHAPを吸着させたHAP吸着試料を、1N~0.001Nの酢酸/酢酸ナトリウム水溶液(pH6.0及び7.0)によりリンを分離させたときのpH変化を示す図である。
【
図12】人工DipにHAPを吸着させたHAP吸着試料を、0.1N、pH7の各カルボン酸/カルボン酸ナトリウムによるリン回収量を示す図である。
【
図13】人工DipにHAPを吸着させたHAP吸着試料を、0.1N、pH7の各カルボン酸/カルボン酸ナトリウムに添加後のpH変化を示す図である。
【
図14】人工DipにHAPを吸着させたHAP吸着試料を、0.1N、pH7の各キレート剤/キレート剤ナトリウムによるリン回収量を示す図である。
【
図15】人工DipにHAPを吸着させたHAP吸着試料を、0.1N、pH7の各キレート剤/キレート剤ナトリウムに添加後のpH変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水中のリン分離回収方法としては、カルシウムマグネシウム珪酸塩と排水とを接触させ、排水中のリン酸態リンをHAPとしてカルシウムマグネシウム珪酸塩に吸着させる吸着ステップと、カルシウムマグネシウム珪酸塩に吸着されたHAPを、pH4~7の条件下で(A)pH4~7の範囲で緩衝能を有するカルボン酸緩衝液、又は(B)キレート剤緩衝液に接触させて、HAPをカルシウムマグネシウム珪酸塩から分離させる分離回収ステップとを有する方法であれば特に制限されず、上記カルシウムマグネシウム珪酸塩としてはディオプサイド(Dip)やオケルマナイト(Akermanite;2CaO・MgO・2SiO2)を挙げることができるが、Dipを好適に例示することができ、Dipの由来としては天然の透輝石として存在するDipや人工のDipを挙げることができ、その形状としてはブロック状でもよいが、HAPを吸着する比表面積を大きくする観点から粉体が好ましい。また、カルシウムマグネシウム珪酸塩を固定するセメント等の結合材を用いることもできるが、用いない態様も本発明に含めることができる。
【0012】
上記吸着ステップにおいては、排水1m3あたりカルシウムマグネシウム珪酸塩の粉体1kg以上を排水に投入し、よく撹拌することにより排水中のリン酸態リンをHAPとしてカルシウムマグネシウム珪酸塩に吸着させた後、遠心分離やデカンテーション等によりHAPが吸着したカルシウムマグネシウム珪酸塩の粉末(湿潤体)を得ることができる。
【0013】
上記分離回収ステップにおいては、HAPが吸着したカルシウムマグネシウム珪酸塩の粉末(乾燥体)100重量部に対して、濃度0.01N~1Nの(A)カルボン酸緩衝液を1,000~100,000重量部添加してよく撹拌して、又は濃度0.01N~1Nの(B)キレート剤緩衝液を1,000~100,000重量部添加してよく撹拌して、HAPをカルシウムマグネシウム珪酸塩から分離溶出し、回収することができる。
【0014】
また、上記「pH4~7の範囲で緩衝能を有する」とは、水溶液のpHが4~7の範囲にあるときに、pHを一定に保とうとする緩衝作用が働くことを意味し、緩衝能はその化合物のpKaの±1の水溶液のpH範囲で働くことから、「pH4~7の範囲で緩衝能を有する」とは、当該カルボン酸のpKa値が3~8の範囲にあればよいということになる。例えば、酢酸のpKa値は4.76なので、約pH3.7~5.7の範囲で緩衝液となる。また、クエン酸はpKa1=3.15、pKa2=4.77、pKa3=6.40であるため、pH4~7の範囲では緩衝能を有することになる。
【0015】
上記(A)pH4~7の範囲で緩衝能を有するカルボン酸緩衝液としては、酢酸/酢酸ナトリウム水溶液や、クエン酸/クエン酸ナトリウム水溶液や、フマル酸/フマル酸ナトリウム水溶液や、リンゴ酸/リンゴ酸ナトリウム水溶液や、コハク酸/コハク酸ナトリウム水溶液、ギ酸/ギ酸ナトリウム水溶液、プロピオン酸/プロピオン酸ナトリウム水溶液、アスコルビン酸/アスコルビン酸ナトリウム水溶液等を挙げることができる。なお、フマル酸のpKa1=3.03,pKa2=4.54であり、リンゴ酸のpKa=3.4であり、コハク酸のpKa1=4.21,pKa2=5.64であり、ギ酸のpKa=3.75であり、プロピオン酸のpKa=4.88であり、アスコルビン酸pKa1=4.04,pKa2=11.7である。
【0016】
また、上記(B)キレート剤緩衝液におけるキレート剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤が特に好ましく、具体的にはEDTA(Ethylene Diamine Tetraacetic Acid)、NTA(Nitrilotriacetic acid)、PDTA(PDTA 1,3-Propanediamine Tetraacetic Acid)、DPTA-OH(1,3-Diamino-2-hydroxypropane Tetraacetic Acid)、HIDA(N-(2-Hydroxyethyl)iminodiacetic acid)、CMGA(Dicarboxymethyl Glutamic Acid)を挙げることができ、アミノカルボン酸系キレート剤以外のキレート剤としてはグルコン酸を挙げることができる。なお、EDTAのpKa1=1.50、pKa2=2.00、pKa3=2.69、pKa4=6.13、pKa5=10.37であり、NTAのpKa1=3.03、pKa2=3.07、pKa3=10.7であり、PDTAのpKa=1.45であり、DPTA-OHのpKa=1.39であり、HIDAのpKa1=2.20、pKa2=8.65であり、グルコン酸のpKa=3.60である。
【0017】
また、上記(B)キレート剤緩衝液としては、キレート剤/キレート剤ナトリウム水溶液を例示することができ、具体的には、EDTA/EDTAナトリウム水溶液、NTA/NTAナトリウム水溶液、PDTA/PDTAナトリウム水溶液、DPTA-OH/DPTA-OHナトリウム水溶液、HIDA/HIDAナトリウム水溶液、CMGA/CMGAナトリウム水溶液、グルコン酸/グルコン酸ナトリウム水溶液挙げることができる。
【0018】
これらのカルボン酸緩衝液やキレート剤緩衝液は、pH4~7の条件下で、HAPがカルシウムマグネシウム珪酸塩に吸着されているHAP吸着物(HAP吸着体)と接触させることが本発明の特徴の一つである。pH4~7の条件下でHAP吸着物と接触させるには、HAP吸着物にpHを4~7に調整したカルボン酸緩衝液やキレート剤緩衝液を添加混合することにより行うことできる。
【0019】
これらのカルボン酸緩衝液の使用濃度としては、0.01N以上、好ましくは0.05N以上、より好ましくは0.1N以上を挙げることができる。また、キレート剤緩衝液の使用濃度としては、0.01N以上、好ましくは0.05N以上、より好ましくは0.1N以上を挙げることができる。
【0020】
[実施例1]
(1)目的
Dipを用いたリン回収技術では、Dipにリンを吸着させた後、回収する技術が必要となる。DipはリンをHAPの形で吸着する。そこで、HAPを吸着した人工Dipから効率よくリンを回収できる溶液を選択するため、7種の酸(塩酸、硫酸、ぎ酸、酢酸、くえん酸、アスコルビン酸、グリシン)をそれぞれNaOHでpH3及び6に調整した0.1N酸溶液(以下、酸/酸Na水溶液と表記することがある。)を用い、リン回収量を比較する。
【0021】
(2)材料及び方法
1)人工ディオプサイド(Dip)の作製
人工Dipを合成するためCa:Mg:Siのモル比が1:1:2になるようCa(NO3)2・4H2O(試薬特級、富士フイルム和光純薬)を29.52g(0.125mol)、MgCl2・六水和物(試薬特級、富士フイルム和光純薬)を25.41g(0.125 mol)秤量してエタノール150mLに溶解した後、SiOC(和光特級、富士フイルム和光純薬)を55.4mL(0.250mol)加えて1時間攪拌し、80℃で24時間静置することによって無色透明のゲルを得た。このゲルを乾燥・粉砕してゲル粉体を得た後、650℃、本焼成を2時間行った後、乳鉢によって粉砕した。得られた粉末を目の開き53μmのふるいに全通するまで粉砕し、リン吸着用剤とした。
【0022】
2)人工DipへのHAP吸着
リン酸二水素カリウム(試薬特級、富士フイルム和光純薬)を105℃で3時間乾燥させた後、408.3mg(3mol)を秤量して蒸留水1Lに溶解し、さらにリン吸着用剤1gを加えて24時間攪拌した。24時間攪拌後、30分間静置し、上清を卓上アスピレーター(ケニス)で吸引除去した。沈殿物を50mL遠沈管に回収し、蒸留水を加えて50mLとした後、卓上遠心機にて遠心(1,000g、10分間、室温)した。上清を除去し、再度蒸留水を加えて50mLとした後、遠心(1,000g、10分間、室温)する操作を3回行った。上清を除去した後、乾燥機にて105℃で3時間乾燥させた。得られた粉末をHAP吸着試料とした。
【0023】
3)リン標準溶液の調製
リン酸二水素カリウムを乾燥機にて105℃で3時間乾燥させた後、得られた粉末0.2197g(リン重量として50mg)を秤量して蒸留水1Lに溶解し、50mg/Lリン標準溶液とした。
【0024】
4)リン発色試薬の調製
モリブデン酸アンモニウム・四水和物(試薬特級、富士フイルム和光純薬)6.0g、モリブデン酸アンモニウム・0.5水和物(試薬特級、富士フイルム和光純薬)0.24g、アミド硫酸アンモニウム(試薬特級、富士フイルム和光純薬)5.0gを秤量して蒸留水約300mlに溶解した。さらに硫酸(試薬特級、富士フイルム和光純薬)と蒸留水を2:1で混合して得られた硫酸水溶液120mLを加え、蒸留水で500mlとしたものをモリブデン酸アンモニウム溶液とした。またL-アスコルビン酸(試薬特級、富士フイルム和光純薬)17.2gを秤量し、蒸留水を加えて100mlとしたものをL-アスコルビン酸溶液とした。リン測定の当日にモリブデン酸アンモニウム溶液とL-アスコルビン酸溶液を5:1で混合し、リン発色試薬とした。
【0025】
5)リン検量線の作成
50mg/Lリン標準溶液100μLに蒸留水2400μLを加えて攪拌し、2mg/Lリン標準溶液を作製した。さらに2mg/Lリン標準溶液を蒸留水で2倍ずつ段階的に希釈し、1、0.5、0.25、0.125mg/Lリン標準測定溶液を作製した。蒸留水をリン0mg/Lとし、各リン標準測定溶液又は蒸留水1mLに対し、リン発色試薬80μLを加えて攪拌した。攪拌後、室温にて15分以上反応させた後、分光光度計にて波長880nmに対する吸光値を測定した。リン標準測定溶液の濃度をx軸、吸光値をy軸に設定し、得られた検量線をリン検量線とした。
【0026】
(3)人工Dip添加によるリン吸着への影響検討
30mg/Lのリン水溶液50mLに対し、人工Dipを0.5mg、1.0mg、5.0mg、10mg、50mg、100mgをそれぞれ添加し、添加直後、24時間後、及び48時間後の30mg/Lのリン水溶液中のリン濃度を経時的に測定した。
【0027】
(4)酸の種類によるリン回収への影響検討
12mol/L塩酸(和光一級、富士フイルム和光純薬)100μLを蒸留水11.9mLに溶解し、1N塩酸を作製した。次に硫酸(試薬特級、富士フイルム和光純薬)50μLを蒸留水17.95mLに溶解し、1N硫酸を作製した。更に各1N酸水溶液を作製するため、ぎ酸(試薬特級、富士フイルム和光純薬)0.4603g、酢酸(試薬特級、富士フイルム和光純薬)0.6005g、くえん酸(和光特級、富士フイルム和光純薬)0.6404g、L(+)-アスコルビン酸(試薬特級、富士フイルム和光純薬)1.7612g、グリシン(試薬特級、富士フイルム和光純薬)0.7507gをそれぞれ秤量し、蒸留水を加えて10mLとした。各1N酸水溶液2mLに蒸留水18mLを加え、0.1N酸水溶液(pH未調整)を作製した。更に各1N酸水溶液2mLに0.1N又は5N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、フィールド型ポータブル水質計D-200(HORIBA)で確認しながら、pH3.0及びpH6.0に調整した。pH調整後、蒸留水を加えて20mLとし、0.1N酸/酸Na水溶液(pH3.0又はpH6.0)とした。各0.1N酸水溶液、0.1N酸/酸Na水溶液又は蒸留水10mLをそれぞれ50mLビーカーに加え、スターラーで攪拌しながらHAP吸着試料10mgを添加した。HAP吸着試料添加後、10分が経過した時点でそれぞれ5mLずつ懸濁液をサンプリングし、0.45μmフィルターでろ過した。ろ液はpHメーターを用いてpHを確認した。ろ液を蒸留水で80倍希釈し、得られた溶液を測定溶液とした。測定溶液1mLに対し、リン発色試薬80μLを加えて攪拌した。攪拌後、室温にて15分以上反応させた後、紫外可視分光光度計システムUV-2550(島津製作所)にて波長880nmに対する吸光値を測定した。各測定溶液の吸光値を元に、リン検量線を用いて各測定溶液のリン濃度を算出した。
【0028】
(5)結果
1)30mg/Lのリン水溶液に人工Dip0.5mg~100mgを添加し、リン水溶液中のリン濃度(g/L)を測定した結果を
図1に示す。人工Dip50mgを添加24時間後には略20mg/Lのリンを吸着し、人工Dip100mgを添加24時間後には略30mg/Lのリンを吸着することがわかった。すなわち、人工Dip50mg以上を加えることで、24時間の時点で70%以上のリンが吸着可能であった。また、人工Dip100mg以上を加えることで、24時間の時点で100%近いリンが吸着可能であった。これらの結果から、排水1m
3あたりカルシウムマグネシウム珪酸塩の粉体1kg以上を排水に投入すれば良いことがわかる。
2)0.1NでpH調整なし、あるいはNaOHでpH3.0、pH6.0に調整した7種類の酸/酸Na水溶液を用いて、HAP吸着試料からのリン回収量を比較した。結果を
図2に示す。pH調整なしあるいはpH3.0の酸水溶液間では、ほとんどの酸が同程度のリン回収量を示した。一方で、より中性に近いpH6.0では酸の種類によるリン回収量の違いが確認された。カルボキシル基を有する酸でリン回収量が多く、特にくえん酸、酢酸ではpH調整なし、pH3.0、pH6.0を比較した際、リン回収量の差が小さかった。さらに、HAP吸着試料との反応前後の酸溶液のpHを
図3に示す。pH6.0に調整した酸のうち、塩酸、硫酸、ぎ酸ではpHが大きく上昇したのに対し、酢酸、くえん酸、L(+)-アスコルビン酸ではpHの変化が少なかった。
【0029】
(6)考察
図2の結果で特にリン回収量が多かった酢酸、くえん酸はいずれもカルボキシル基を有することから、中性付近に調整したカルボン酸を用いることで安全性が高く、かつ効率良くリンを回収可能なことが示唆された。
【0030】
[実施例2]
(1)目的
HAPを吸着した人工Dipより効率よくリンを回収する方法を検討するため、NaOHでpH調整した酸によるリン回収量を比較したところ、特にくえん酸、酢酸でリン回収量が多くなった。またこれらカルボン酸は緩衝作用を示したことから、pHによるリン回収量への影響を検討するため、pHの異なるくえん酸/くえん酸Na水溶液及び酢酸/酢酸Na水溶液のリン回収量を比較する。
【0031】
(2)材料及び方法
1)人工Dipの作製、人工DipへのHAP吸着、リン標準溶液の調製、リン発色試薬の調製、及びリン検量線の作成は、実施例1に準じて行った。
【0032】
2)くえん酸/くえん酸Na水溶液及び酢酸/酢酸Na水溶液のpHによるリン回収量への影響検討
くえん酸(試薬特級、富士フイルム和光純薬)0.3202gを秤量して蒸留水を加えて50mLとし、1Nくえん酸水溶液を作製した。また、酢酸(試薬特級、富士フイルム和光純薬)0.3003gを秤量して蒸留水を加えて50mLとし、1N酢酸水溶液を作製した。各1N酸水溶液5mLに蒸留水30mLを加えた後、5N水酸化Na水溶液を添加し、フィールド型ポータブル水質計D-200(HORIBA)を用いてpH5.0、6.0、7.0、8.0にそれぞれ調整した。pH調整後、蒸留水で50mLにメスアップし、pH5.0、6.0、7.0、8.0の各0.1N酸/酸Na水溶液を作製した。さらに、各1N酸水溶液5mLに蒸留水45mLを加えたものをpH無調整の酸水溶液とした。各pHの0.1N酸/酸Na水溶液、pH無調整の0.1N酸水溶液15mL又は蒸留水をそれぞれ50 mLビーカーに加え、スターラーで攪拌しながらHAP吸着試料15mgを添加した。HAP吸着試料添加後、5分間、10分間経過した時点でそれぞれ5mLずつ懸濁液をサンプリングし、0.45μmフィルターでろ過した。ろ液はフィールド型ポータブル水質計D-200(HORIBA)を用いてpHを確認した。ろ液を蒸留水で50倍希釈し、得られた溶液を測定溶液とした。測定溶液1mLに対し、リン発色試薬80μLを加えて攪拌した。攪拌後、室温にて15分以上反応させた後、紫外可視分光光度計システムUV-2550(島津製作所)にて波長880nmに対する吸光値を測定した。各測定溶液の吸光値を基にリン検量線を用いて、各測定溶液のリン濃度を算出した。
【0033】
(3)結果
pH5.0、6.0、7.0、8.0の各0.1Nくえん酸/くえん酸Na又は各酢酸/酢酸Na水溶液を用いて、HAP吸着試料からのリン回収量を比較した。結果を
図4及び
図5に示す。くえん酸/くえん酸Na水溶液の場合、pH無調整(pH2.6)、pH5.0、pH6.0におけるリン回収量はほぼ同程度であった。またpH7.0以降はpHが高いほどリン回収量が低下したが、pH8.0でもリンが回収可能であった(
図4)。一方、酢酸/酢酸Na水溶液の場合、pH無調整(pH3.0)と比較し、pH6.0ではリン回収量が約1/2となった。またpH7.0、pH8.0ではリンがほとんど検出されなかった(
図5)。いずれの酸/酸Na水溶液においても、経過時間に従いリン回収量が増加した。またろ液のpHを
図5及び
図6に示す。くえん酸/くえん酸Na水溶液ではpH7で調製したものを除き、リン回収前後でpHの変化はほとんど認められなかった(
図6)。酢酸/酢酸Na水溶液においても同様の傾向が見られ、リン回収前後の大きなpH変化は認められなかった(
図7)。
【0034】
(4)考察
Dipに吸着されたリンが水溶液へ溶解するとされているpH5.5以下と比較し、より中性に近いpH6以下のカルボン酸/カルボン酸Na水溶液でも、リンが回収できることが明らかになった。さらに、くえん酸/くえん酸Na水溶液では、pH8でもリンを回収可能であった。
【0035】
[実施例3]
(1)目的
HAPを吸着した人工Dipより効率よくリンを回収する方法を検討するため、pHを5.0~8.0に調整した各0.1Nくえん酸/くえん酸Na水溶液及び各0.1N酢酸/酢酸Na水溶液によるリン回収量を比較したところ、0.1N酢酸/酢酸Na水溶液ではpH6.0以下、0.1Nくえん酸/くえん酸Na水溶液ではpH8.0以下でリンを回収できることが明らかになった。そこで水溶液中の酸イオン濃度がリン回収量に与える影響を検討するため、規定度の異なる各酸/酸Na水溶液を用いて、酸イオン濃度によるリン回収量への影響を確認する。
【0036】
(2)材料及び方法
1)人工Dipの作製、人工DipへのHAP吸着、リン標準溶液の調製、リン発色試薬の調製、及びリン検量線の作成は、実施例1に準じて行った。
【0037】
2)くえん酸/くえん酸Na水溶液及び酢酸/酢酸Na水溶液の酸イオン濃度によるリン回収量への影響検討
くえん酸(試薬特級、富士フイルム和光純薬)0.3202g、酢酸(試薬特級、富士フイルム和光純薬)0.3003gをそれぞれ秤量し、蒸留水30mLを加えた後、5N水酸化Na水溶液を添加し、フィールド型ポータブル水質計D-200(HORIBA)を用いてpHを6.0又は7.0にそれぞれ調整した。pH調整後、蒸留水で50mLとし、pH6.0、pH7.0の各1N酸/酸Na水溶液を作製した。さらに、くえん酸(試薬特級、富士フイルム和光純薬)0.3202gを秤量した後に蒸留水を加えて50mLとし、1Nくえん酸水溶液を作製した。また、酢酸(試薬特級、富士フイルム和光純薬)0.3003gを秤量して蒸留水を加えて50mLとし、1N酢酸水溶液を作製した。各1N酸水溶液5mLに蒸留水30mLを加えた後、5N水酸化Na水溶液を添加し、フィールド型ポータブル水質計D-200(HORIBA)を用いてpHを6.0又は7.0にそれぞれ調製した。pH調整後、蒸留水で50mLにメスアップし、pH6.0、pH7.0の各0.1N酸/酸Na水溶液を作製した。この各0.1N酸/酸Na水溶液を蒸留水で10倍、100倍希釈し、pH6.0、pH7.0の各0.01N、0.001N酸/酸Na水溶液を50mLずつ作製した。各酸/酸Na水溶液15mLをそれぞれ50mLビーカーに加え、スターラーで攪拌しながらHAP吸着試料15mgを添加した。HAP吸着試料添加後、10分間経過した時点でそれぞれ5mLずつ懸濁液をサンプリングし、0.45μmフィルターでろ過した。ろ液はフィールド型ポータブル水質計D-200(HORIBA)を用いてpHを確認した。ろ液を蒸留水で80倍希釈し、得られた溶液を測定溶液とした。なお、各くえん酸/くえん酸Na水溶液より得られたろ液については、くえん酸による測定系への影響を考慮し、800倍希釈し測定溶液とした。測定溶液1mLに対し、リン発色試薬80μLを加えて攪拌した。攪拌後、室温にて15分以上反応させた後、紫外可視分光光度計システムUV-2550(島津製作所)にて波長880nmに対する吸光値を測定した。各測定溶液の吸光値を基にリン検量線を用いて、各測定溶液のリン濃度を算出した。
【0038】
(3)結果
カルボン酸/カルボン酸Na水溶液のカルボン酸イオン濃度によるリン回収量への影響を検討するため、くえん酸、あるいは酢酸を用い、カルボン酸イオン濃度の違いによるリン回収量を比較した。結果をそれぞれ
図8及び
図9に示す。いずれのカルボン酸/カルボン酸Na水溶液も、カルボン酸イオン濃度が高い場合にリン回収量が多かった。一方でpH6.0のくえん酸/くえん酸Na水溶液については、1Nと0.1Nでリン回収量にほとんど差は見られなかった。またいずれのカルボン酸/カルボン酸Na水溶液も、pH6.0と比較しpH7.0でリン回収量が少なくなったが、1Nのくえん酸/くえん酸NaではpH6.0とpH7.0でリン回収量に差は見られなかった。次に、リン回収前後のくえん酸/くえん酸NaのpH変化を
図10、及びリン回収前後の酢酸/酢酸NaのpH変化を
図11に示す。いずれの酸/酸Na溶液も規定度が高いほどリン回収前後のpH変化が小さくなり、緩衝作用が認められた。
【0039】
(4)考察
図8及び9の結果より、くえん酸/くえん酸Na水溶液あるいは酢酸/酢酸Na水溶液において、各カルボン酸イオン濃度がリン回収量に大きく影響することが明らかになった。すなわち、カルボン酸カルボン/酸Na水溶液のカルボン酸イオン濃度を高くすることで、効率よくリンを回収できることが明らかとなった。またリン回収に用いる酢酸イオン濃度は0.01N以上が望ましいことが示唆された。
【0040】
[実施例4]
(1)目的
HAPを吸着した人工Dipより、9種類の酸でリン回収試験を実施したところ、くえん酸及び酢酸でリン回収量が高くなった。くえん酸、酢酸がいずれもカルボン酸であることに着目し、より効率よくリンを回収でき、さらには安全性の高い酸を選択するため、食品添加物に該当するカルボン酸5種類のリン回収量を比較する。
【0041】
(2)材料及び方法
1)人工Dipの作製、人工DipへのHAP吸着、リン標準溶液の調製、リン発色試薬の調製、及びリン検量線の作成は、実施例1に準じて行った。
2)カルボン酸によるリン回収試験
0.1Nカルボン酸水溶液を作製するため、酢酸(試薬特級、富士フイルム和光純薬)0.2994g、フマル酸(和光特級、富士フイルム和光純薬)0.2902g、DL-リンゴ酸(和光特級、富士フイルム和光純薬)0.3352g、コハク酸(和光特級、富士フイルム和光純薬)0.2952g、くえん酸(和光特級、富士フイルム和光純薬)0.3202g、をそれぞれ別の50mLビーカーに秤量し、各ビーカーに蒸留水を加えて約40mLとした。更に5N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、フィールド型ポータブル水質計D-200(HORIBA)でpHを確認しながら、pHを7.0に調整した。pH調整後、蒸留水を加えて50mLとした。0.1N、pH7.0の各酸水溶液30mLをそれぞれ50mLビーカーに加え、スターラーで攪拌しながらHAP吸着試料30mgを添加した。HAP吸着試料添加後、10分が経過した時点でそれぞれ5mLずつ懸濁液をサンプリングし、0.45μmフィルターでろ過した。ろ液はフィールド型ポータブル水質計D-200(HORIBA)を用いてpHを確認した。ろ液を蒸留水で80倍希釈し、測定溶液を作製した。測定溶液1mLに対し、リン発色試薬80μLを加えて攪拌した。攪拌後、室温にて15分以上反応させた後、紫外可視分光光度計システムUV-2550(島津製作所)にて波長880nmに対する吸光値を測定した。各測定溶液の吸光値をもとに、リン検量線を用いて、各測定溶液のリン濃度を算出した。
【0042】
(3)結果
酸の種類によるリン回収への影響検討において、カルボン酸に該当する酢酸、くえん酸でリン回収量が多くなったことから、5種類のカルボン酸でカルボン酸/カルボン酸Na水溶液を作製し、リン回収量を比較した。結果を
図12に示す。0.1N、pH7.0に調製したカルボン酸/カルボン酸Na水溶液のうち、くえん酸/くえん酸Na水溶液で最もリン回収量が多くなった。さらにろ液のpH変化を
図13に示す。こちらもくえん酸/くえん酸Naにおいて、経過時間に伴うpHの上昇が最も大きくなった。
【0043】
(4)考察
カルボン酸の中でもくえん酸はキレート作用を有することから、キレート剤により効率よくリンを回収できることが示唆された。
【0044】
[実施例5]
(1)目的
HAPを吸着した人工Dipより、食品添加物に該当するカルボン酸/カルボン酸ナトリウム5種類でリン回収試験を実施したところ、くえん酸で最もリン回収量が高くなった。くえん酸がキレート作用を持つ点に着目し、くえん酸を含むキレート剤8種類でキレート剤/キレート剤Na水溶液を作製し、リン回収量を比較した。
【0045】
(2)材料及び方法
1)人工Dipの作製、人工DipへのHAP吸着、リン標準溶液の調製、リン発色試薬の調製、及びリン検量線の作成は、実施例1に準じて行った。
2)キレート剤によるリン回収試験
0.1Nキレート剤/キレート剤Na水溶液を作製するため、キレストB(EDTA、99.3%、キレスト(株))0.9366g、キレストNTB(NTA、99.5%、キレスト(株))0.7873g、キレストPD-4H(PDTA、99.0%、キレスト(株)) 0.7727g、キレストRA(DPTA-OH、92.9%、キレスト(株))0.8665g、キレストEA(CMGA、40.1%、キレスト(株))2.1883g、キレストGBR(グルコン酸、99.7%、キレスト(株))0.8801をそれぞれ別の50mLビーカーに秤量し、各ビーカーに蒸留水約80mLを加えた。更に5N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、フィールド型ポータブル水質計D-200(HORIBA)で確認しながら、pH7.0に調整した。pH調整後、蒸留水を加えて100mLとした。0.1N、pH7.0の各酸水溶液30mLをそれぞれ50mLビーカーに加え、スターラーで攪拌しながらHAP吸着試料30mgを添加した。HAP吸着試料添加後、1、10、30分が経過した時点でそれぞれ5mLずつ懸濁液をサンプリングし、0.45μmフィルターでろ過した。ろ液はpHメーターを用いてpHを確認した。ろ液を蒸留水で80倍希釈し、得られた溶液を測定溶液とした。測定溶液1mLに対し、リン発色試薬80μLを加えて攪拌した。攪拌後、室温にて15分以上反応させた後、紫外可視分光光度計システムUV-2550(島津製作所)にて波長880nmに対する吸光値を測定した。各測定溶液の吸光値をもとに、リン検量線を用いて、各測定溶液のリン濃度を算出した。
【0046】
(3)結果
カルボン酸によるリン回収試験において、キレート作用を有するくえん酸でリン回収量が多くなったことから、カルボキシル基を有するキレート剤8種類でキレート剤/キレート剤Na水溶液を作製し、リン回収量を比較した。結果を
図14に示す。グルコン酸を除き、キレート剤の種類によるリン回収量の差はほとんどなく、いずれも問題なくリンを回収可能であった。さらにろ液のpHを
図15に示す。くえん酸と比較し、緩衝能の高いキレート剤が見られた。
【0047】
(4)考察
キレート剤をリン回収溶液に用いることで、効率よくリンを回収可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によると、排水中のリンの除去により環境浄化に資するとともに、排水中のリンの回収によりリン資源の確保に資することができる。