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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136819
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】セッター及び焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20240927BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240927BHJP
   B33Y 40/20 20200101ALI20240927BHJP
   C04B 35/64 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B28B1/30
B33Y10/00
B33Y40/20
C04B35/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048081
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】594050784
【氏名又は名称】第一セラモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187414
【弁理士】
【氏名又は名称】正司 武嗣
(72)【発明者】
【氏名】小西 勇介
(72)【発明者】
【氏名】和田 誠
(72)【発明者】
【氏名】小谷 知誉
【テーマコード(参考)】
4G052
【Fターム(参考)】
4G052DA02
4G052DB12
4G052DC06
(57)【要約】
【課題】焼結性の無機粉末および有機バインダーを含む組成物からなる構造体を脱脂・焼結する際に不良の発生を抑えつつ、その工程に掛かる時間を短縮することができるセッターの製造方法であって、かつ複雑な形状であっても比較的簡易に製造することが可能なセッターの製造方法を提供する。
【解決手段】焼結性無機粉末および有機バインダーを含有する構造物を加熱して脱脂する際に当該構造物を載せる目的または支える目的で使用されるセッターの製造方法であって、焼結性無機粉末および有機バインダーを含有する組成物を材料として、熱溶融積層方式の3Dプリンタによって積層構造体を造形する工程、造形した前記積層構造体を脱脂する工程、および、脱脂した前記積層構造体中の焼結性無機粉末を焼結する工程を含む、セッターの製造方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結性無機粉末および有機バインダーを含有する構造物を加熱して脱脂、焼結する際に当該構造物を載せる目的または支える目的で使用されるセッターの製造方法であって、
焼結性無機粉末および有機バインダーを含有する組成物を材料として、熱溶融積層方式の3Dプリンタによって積層構造体を造形する工程、
造形した前記積層構造体を脱脂する工程、および、
脱脂した前記積層構造体中の焼結性無機粉末を焼結する工程を含む、セッターの製造方法。
【請求項2】
前記セッターが網状三次元形状を有する、請求項1に記載のセッターの製造方法。
【請求項3】
前記セッターが格子状三次元形状を有する、請求項1に記載のセッターの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の前記セッターを用いて、焼結性の無機粉末および有機バインダーを含む構造体を脱脂する工程、および、脱脂した前記積層構造体中の焼結性無機粉末を焼結する工程を含む焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記焼結体の底面部が凹凸形状を有する、請求項4に記載の焼結体の製造方法
【請求項6】
前記焼結体が、金属、セラミックスまたがサーメットからなる、請求項4に記載の焼結体の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結性無機粉末および樹脂バインダーを含む構造体を脱脂、焼結する際に用いられるセッター、及び焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、焼結性の無機粉末と有機バインダーを含む組成物を原料として、3Dプリンタにより構造体を造形する方法が開示されている。当該構造体は、所定の温度で加熱されて脱脂された後、さらに高い温度で加熱される。これにより構造体中の無機粉末が焼結するため、所望する形状の焼結体を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2020/003901
【特許文献2】WO2006/120936
【特許文献3】WO2006/003736
【特許文献4】特開2016-038194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば、構造体を脱脂する工程(脱脂工程)では、構造体中でガス化した有機物により構造体が膨れてしまったり、造形物にクラックが入ってしまったりするなどの不良を生じやすい。これを防ぐために、脱脂工程には時間を掛ける必要があった。
【0005】
このような問題を解決するための技術として、特許文献2(WO2006/120936)では、脱脂等の際に構造体を載置等するための治具である焼成用セッター(以下、単に「セッター」とも称する)が開示されている。セッターを用いることにより、構造体中の熱分布を均一化することで、不良の発生を抑えつつ脱脂工程等に掛かる時間の短縮が可能となる。特許文献2では、アルミナ粉末と有機バインダーを含む組成物を射出成形し、その後、脱脂・焼成することにより多孔質のアルミナセッターを作製する方法が記載されている。しかし、この方法では、金型作製等に大きなコストがかかり、また、作製できない形状もあるため形状についての自由度が低い。
【0006】
また、特許文献3(WO2006/003736)では、セラミックのセッターの一部に貫通孔及び/又は切欠き部を形成し、多段に積み重ねて使用することが提案されている。しかし、この方法では、作製できない形状もあるため形状についての自由度が低い。
【0007】
また、特許文献4(特開2016-038194)にもセッターが開示されているが、当該セッターは孔を多数有するセラミックシートを積層する等により組み立てる必要があり、作製できない形状もあるため形状についての自由度が低い。
【0008】
また、脱脂体を焼結する際に、底面の形状に凹凸がある場合は、平面セッターに置くと、凸部に荷重がかかることで変形が生じて形状の保持が難しい。また、大物焼結体の場合は、焼結時のセッターとの摩擦抵抗が大きい為、焼結収縮時に変形やき裂の不具合が生じることが多い。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、その目的は、焼結性の無機粉末および有機バインダーを含む構造体を脱脂・焼結する際に不良の発生を抑えつつ、その工程に掛かる時間を短縮することができるセッターの製造方法であって、かつ複雑な形状であっても比較的簡易に製造することが可能なセッターの製造方法及び焼結体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の主題を含む。
(1)焼結性無機粉末および有機バインダーを含有する構造物を加熱して脱脂する際に当該構造物を載せる目的または支える目的で使用されるセッターの製造方法であって、焼結性無機粉末および有機バインダーを含有する組成物を材料として、熱溶融積層方式の3Dプリンタによって積層構造体を造形する工程、造形した前記積層構造体を脱脂する工程、および、脱脂した前記積層構造体中の焼結性無機粉末を焼結する工程を含む、セッターの製造方法。
(2)前記セッターが網状三次元形状を有する、(1)に記載のセッターの製造方法。
(3)前記セッターが格子状三次元形状を有する、(1)に記載のセッターの製造方法。
(4)(1)に記載のセッターを用いて、焼結性の無機粉末および有機バインダーを含む構造体を脱脂する工程、および、脱脂した前記積層構造体中の焼結性無機粉末を焼結する工程を含む焼結体の製造方法。
(5)前記焼結体が、底面部が凹凸形状を有する、(4)に記載の焼結体の製造方法。
(6)前記焼結体が、金属、セラミックスまたがサーメットからなる、(4)に記載の焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、焼結性の無機粉末および有機バインダーを含む構造体を脱脂・焼結する際に不良の発生を抑えつつ、その工程に掛かる時間を短縮することができるセッターの製造方法であって、かつ複雑な形状であっても比較的簡易に製造することが可能なセッターの製造方法、および当該セッターを用いた製造方法にて得られた焼結体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の実施の形態に係るセッターの一例を示す図である。当該セッターは実施例でも使用する。
図2図2は、実施例で使用する脱脂・焼結対象物を示す図である。
図3図3は、実施例にてセッター上に配置した脱脂・焼結対象物を示す図である。
図4図4は、実施例で使用するセッターを示す図である。
図5図5は、実施例で使用するセッターを示す図である。
図6図6は、実施例で使用する脱脂・焼結対象物を示す図である。
図7図7は、実施例にてセッター上に配置した脱脂・焼結対象物を示す図である。
図8図8は、実施例で使用するセッターを示す図である。
図9図9は、実施例で使用するセッターを示す図である。
図10図10は、実施例で使用する脱脂・焼結対象物を示す図である。
図11図11は、実施例にてセッター上に配置した脱脂・焼結対象物を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書では、3Dプリンタを用いて、樹脂組成物等を積層して形成した造形物を「積層構造体」とも称し、積層構造体中の焼結性無機粉末を焼結させることにより得られる造形物を「焼結体」とも称する。なお、本明細書では、このような焼結性無機粉末の焼結体を得るための作業について、「積層構造体を焼結させる」等とも表現する。
【0014】
また、本発明に係るセッターを用いて脱脂、焼結される構造物のことを「脱脂・焼結対象物」とも称する。脱脂・焼結対象物は、たとえば、セッター上部に載置された構造物であり、無機粉末および有機バインダーを含有する。脱脂・焼結対象物としては、3Dプリンタまたは粉末射出成型(PIM)により造形されたものが挙げられる。脱脂・焼結対象物が3Dプリンタにより造形される場合、その材料としては、たとえば、特許文献1(WO2020/003901)に記載されている「3次元プリンタ用組成物」を挙げることができる。
【0015】
なお、セッターは、脱脂・焼結対象物を上部に載せる以外にも、たとえば側面から支える等の目的で用いられる。これにより、たとえば脱脂・焼結対象物の転倒または変形を防ぐことができる。
【0016】
脱脂・焼結対象物は、たとえば、セッター上に載置された状態で、後述するセッターの製造方法と同様に脱脂工程および焼結工程を経て、無機粉末の焼結体となる。
【0017】
<セッターの形状>
図1は、本実施の形態に係るセッターの構造の一例を示す図である。たとえば図1に示すように、セッターは網状三次元形状を有する。なお、本明細書では、セッターの形状を網状三次元形状と表現するが、「格子状三次元形状」などとも表現する場合がある。また、図1の構造は、線状の部材で各辺を構成した立体(立方体または直方体等)を積み重ねたような形状を有しているとも言える。
【0018】
セッターは、このような形状により、内部に気流が通過できる十分な空間を有しており、また、たとえばその上部に載置された脱脂・焼結対象物との接触面積を小さくすることができる。
【0019】
脱脂・焼結対象物の形状や重量により、セッターを構成する線状部分の幅や、線状部分同士の間隔、全体の高さ・幅・奥行き、および全体の形状は任意に決定することができる。
【0020】
なお、図1に示すセッターは、直線状の部分とそれらが結合する部分等とから構成されるが、直線状の部分の代わりに曲線状の部分を有していてもよい。
【0021】
セッターにおいて、脱脂・焼結対象物と接触する箇所の開口率は30~80%であることが好ましい。当該開口率が30%未満では脱脂不具合が発生しやすくなり、開口率が80%以上になるとセッター自体の強度が不足し破損しやすくなる。なお、開口率は、たとえば、脱脂・焼結対象物をセッター上に載置した場合おいて、脱脂・焼結対象物が占めるセッターの上面の面積(S1)と、脱脂・焼結対象物とセッターとが直接接触している面積(S2)とに基づいて算出される。具体的には、開口率(H)は次の式で求められる。
H=(S1-S2)/S1
【0022】
また、セッターは、その内部を気流が通りやすい構造を有する。具体的には、たとえば、脱脂・焼結対象物をセッターに載置した場合に、脱脂・焼結対象物の下の気流の通り道(風の通り道)の面積は、セッター自身の大きさにもよるが200mm以上であることが好ましい。当該面積が200mm未満の場合、脱脂・焼結対象物が大きくなると脱脂時に不具合が発生しやすくなる。当該面積は、たとえば、セッターのある面から反対側の面まで貫通する開口部の面積の合計である。以下、セッターの製造方法について説明する。
【0023】
<積層工程>
本実施形態に係るセッターの製造方法は、焼結性無機粉末および有機バインダーを含む組成物を材料として、3Dプリンタによって網状三次元形状の積層構造体を造形する工程(積層工程)を含む。以下、当該組成物を「3Dプリンタ用組成物」とも称する。
【0024】
3Dプリンタ用組成物としては、焼結性無機粉末および有機バインダーを含む、3Dプリンタにより造形可能な組成物であれば特に限定されない。3Dプリンタ用組成物としては、たとえば、特許文献1(WO2020/003901)に記載されている「3次元プリンタ用組成物」を挙げることができる。
【0025】
焼結性無機粉末としては、具体的には、アルミナ(Al)、SiC(炭化ケイ素)、ムライト(3Al・2SiO)、AlN(窒化アルミニウム)、Si(窒化ケイ素)、BN(窒化ホウ素)などが挙げられる。耐熱温度、化学安定性、強度等の観点から、アルミナ、SiC、BNが好ましい。
【0026】
焼結性無機粉末の平均粒径は、特に限定されないが、たとえば、0.1~10μmである。また、有機バインダーは、たとえば、特許文献1に記載されているように、熱可塑性樹脂、滑剤、およびワックス等を含んでもよい。焼結性無機粉末と有機バインダーの質量比率は、たとえば、(焼結性無機粉末)/(有機バインダー)=100/5~100/30の範囲である。
【0027】
3Dプリンタとしては、3Dプリンタ用組成物を加熱して流動化させ、ノズルから吐出して積層しながら3次元構造体を造形することができるものを用いることができ、材料押出積層方式(MEX)(熱溶融積層方式(FDM)ともいわれる。)の各種3Dプリンタが挙げられる。
【0028】
3Dプリンタ用組成物は、たとえば、ペレット状に加工されて使用されてもよいし、フィラメント状に加工されて使用されてもよい。3Dプリンタ用組成物がペレット状の場合は、ペレット用の3Dプリンタが用いられ、3Dプリンタ用組成物がフィラメント状の場合は、フィラメント用の3Dプリンタが用いられる。
【0029】
網状三次元形状の積層構造体は、脱脂・焼結対象物と接触することになる部分の開口率や気流の通り道の面積等を考慮して設計され、3Dプリンタを用いて3Dプリンタ用組成物を1層ずつ積層することにより造形される。
【0030】
<脱脂工程>
本実施形態に係るセッターの製造方法は、造形した上記の積層構造体を脱脂する工程を含む。
【0031】
脱脂工程は、積層構造体を加熱することにより積層構造体中の有機バインダーを熱分解させて除去する工程である。脱脂工程では、後述する焼結工程よりも低い温度すなわち焼結性無機粉末が焼結しない温度で積層構造体を加熱する。
【0032】
脱脂工程では、有機バインダーが分解されてガスとなり放出される。このガスは、積層構造体中の焼結性無機粉末および分解前の有機バインダーの隙間を通って外部へ放出されることになるが、たとえば積層構造体中に放出経路がない場合には、このガスにより積層構造体が変形してしまう。具体的には、たとえば、逃げ場のないガスにより積層構造体が膨れてしまったり、ひび割れてしまったりすることがある。このような、積層構造体が変形してしまう問題を防ぐために、脱脂工程に時間を掛ける対策が行われてきたが、本実施形態のセッターを用いると、このような変形を抑えながら脱脂工程の時間を短縮することができる。
【0033】
脱脂工程では、具体的には、たとえば、積層構造体に含まれる無機粉末がアルミナの場合は、大気フロー式の脱脂炉により、キャリアガス流量10L/分の条件下、積層構造体を10℃/hの速さで室温から600℃まで昇温して脱脂する。
【0034】
<焼結工程>
【0035】
本実施形態に係るセッターの製造方法は、脱脂した上記積層構造体中の焼結性無機粉末を焼結する工程(焼結工程)を含む。
【0036】
焼結工程は、脱脂工程の後、残った焼結性無機粉末をより高い温度で加熱することにより焼結性無機粉末を焼結させ、焼結体を得る工程である。この焼結体がセッターとして用いられる。
【0037】
焼結工程では、たとえば、脱脂工程を経た積層構造体を、30℃/hの速さで室温から無機粉末の焼結温度(アルミナの場合、1600℃)まで昇温して2時間保持し、50℃/hの速さで1000℃まで降温し、その後室温まで冷却する。これにより、網状三次元形状の焼結体つまり本実施の形態に係るセッターが得られる。以下、脱脂・焼結対象物について説明する。
【0038】
<脱脂・焼結対象物>
脱脂・焼結対象物は、3Dプリンタを使用し、溶融させた3Dプリンタ用組成物を1層ずつ積層することにより製造される。また、脱脂・焼結対象物は、射出成型機を用いて得られた射出成型体であってもよい。
【0039】
脱脂・焼結対象物は、たとえばセッター上に載置された状態で脱脂され、その後焼結される。具体的には、たとえば、脱脂・焼結対象物中の無機粉末がセラミックスの場合は、大気フロー式の脱脂炉で、キャリアガス流量10L/分の条件下、10℃/hの昇温速度で、室温から600℃まで加熱し脱脂を行い、その後、大気炉にて30℃/hの速さで無機粉末の焼結温度(アルミナの場合、1600℃)まで昇温して2時間保持し、50℃/hの速さで1000℃まで降温し、その後室温まで冷却する。これにより、目的の焼結体を得ることができる。
【0040】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【実施例0041】
[実施例1]
<直方体のセッターの作製>
(1)積層工程
3Dプリンタ用組成物であるアルミナコンパウンドからなるペレットを材料として、ペレット用3Dプリンタ(エスラボ製CERA-P3)を使用し、網状三次元形状の積層構造体を作製した。具体的には、溶融温度180℃にて直径Φ1mmのノズルから溶融押出した材料を1層ずつ積層して、図1に示す直方体の格子状積層構造体を作製した。この積層構造体(以下、「積層構造体L」とも称する。)の外形は縦100mm、横100mm、高さ20mmであり、内部は線幅1mmの格子間距離5mmの格子状で、接地面の開口率は64%である。
【0042】
(2)脱脂工程・焼結工程
得られた積層構造体を、大気フロー式の脱脂炉で、キャリアガス流量10L/分の条件下、10℃/時の速度で室温から600℃まで昇温時、脱脂を行った(脱脂工程)。その後、30℃/hの速さで室温から1600℃まで昇温して2時間保持し(焼結工程)、その後冷却することで格子状三次元形状のセッターを得た。積層構造体Lから得られた焼結体を「セッターL」とも称する。
【0043】
<脱脂・焼結対象物1の作製および脱脂・焼結>
(1)積層工程
3Dプリンタ用組成物であるジルコニアコンパウンドからなるペレットを材料として、ペレット用3Dプリンタ(エスラボ製CERA-P3)を使用し、図2に示す円柱(直径56mm, 高さ75mm, インフィル構造ハニカム)の脱脂・焼結対象物を作製した。具体的には、溶融温度180℃にて直径Φ1mmのノズルから溶融押出した材料を1層ずつ積層して脱脂・焼結対象物を作製した。この、実施例1の脱脂・焼結対象物を脱脂・焼結対象物1とも称する。
【0044】
(2) 脱脂工程・焼結工程
上述のセッターLを1つ準備して図3に示すように配置し、その上部に脱脂・焼結対象物1を載せた。セッターの開口率は64%であり、脱脂・焼結対象物1の下のセッターLの気流の通り道の面積は903mmである。
【0045】
脱脂・焼結対象物1を、セッターL上に配置したまま、大気フロー式の脱脂炉にてキャリアガス流量10L/分の条件下、10℃/hの速さで室温から600℃まで昇温して脱脂した。その後、30℃/hの速さで室温から1450℃まで昇温して2時間保持し、冷却することで焼結体を得た。
【0046】
得られた焼結体を目視で観察し、焼結体に膨らみおよびひび割れ等の不良がないことを確認した。
【0047】
[比較例1]
脱脂・焼結対象物1を、市販で入手したアルミナセッターを用いて、実施例1と同じ条件で脱脂・焼結したところ、得られた焼結体に膨らみおよびひび割れが確認された。
【0048】
[実施例2]
<組合せセッター(囲い)の作製>
実施例1と同様にアルミナコンパウンドを用いて、温度180℃にて直径Φ1mmのノズルから溶融押出した材料を1層ずつ積層して、図4に示す直方体の積層構造体を作製した。積層構造体(以下、「積層構造体S」とも称する。)の外形は縦20mm、横100mm、高さ75mmである。得られた積層構造体を、実施例1と同様に脱脂、焼結を行い、格子状三次元形状のセッターを得た。積層構造体Sから得られた焼結体を「セッターS」とも称する。
実施例1で作製した1つのセッターLと、2つのセッターSとを図5の様に組合せたセッター(囲い)を準備した。
【0049】
<脱脂・焼結対象物2の作製および脱脂・焼結>
実施例1と同様にジルコニアコンパウンドを用いて、図6に示すコの字状の脱脂・焼結対象物を作製した。作製した脱脂・焼結対象物を脱脂・焼結対象物2とも称する。脱脂・焼結対象物2と、1つのセッターLと、2つのセッターSとを図7の様に配置した。具体的には、セッターLの上に、コの字状の脱脂・焼結対象物2を配置し、さらに、各脱脂・焼結対象物2の外側の面に沿わすようにセッターSを配置した。セッターSは脱脂・焼結対象物2が外側に変形するのを防ぐために用いられた。脱脂・焼結対象物2を、この状態で、実施例1と同様に脱脂・焼結し、得られた焼結体を目視で観察した。焼結体に膨らみおよびひび割れがないことを確認した。
【0050】
[実施例3]
<組合せセッター(傾斜)の作製>
上述の直方体のセッターと同様の方法により、図8に示す三角柱の積層構造体を作製した。具体的には上述の積層造形体Sを半分にカットした形状であり、縦20mm、横100mmの直角三角形に対し奥行75mmの形状である。得られた積層構造体(以下、「積層構造体T」とも称する。)を、実施例1と同様に脱脂、焼結を行い、格子状三次元形状のセッターを得た。積層構造体Tから得られた焼結体を「セッターT」とも称する。
上述で作製した1つのセッターL、2つのセッターS、2つのセッターTを図9のように組合せたセッター(傾斜)を準備した。
【0051】
<脱脂・焼結対象物3の作製および脱脂・焼結>
図10に示す断面が台形の四角柱の部位を有する脱脂・焼結対象物を、脱脂・焼結対象物1と同様に作製した。作製した脱脂・焼結対象物を脱脂・焼結対象物3とも称する。脱脂・焼結対象物3と、1つのセッターLと、2つのセッターSと、2つのセッターTとを図11の様に配置した。具体的には、セッターLの上に脱脂・焼結対象物3を載置し、脱脂・焼結対象物3を支えるように2つのセッターTを配置し、外側に2つセッターSを配置した。脱脂・焼結対象3を、この状態で、実施例1と同様に脱脂・焼結し、得られた焼結体を目視で観察した。焼結体に膨らみおよびひび割れがないことを確認した。
【0052】
[実施例4]
実施例1に記載のセッターを作製し、3Dプリンタ用組成物であるSUS316Lコンパウンドからなるペレット材料で、実施例1と同様の形状の脱脂・焼結対象物を作製した。この、実施例4の脱脂・焼結対象物を脱脂・焼結対象物4と称する。
脱脂・焼結対象物4を、セッター上に配置したまま、窒素ガス雰囲気中にて、昇温速度50℃/hで温度1350℃まで昇温して焼結を行い、焼結体を得た。
得られた焼結体を目視で観察し、焼結体に膨らみおよびひび割れ等の不良がないことを確認した。
【0053】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。また本明細書において、「A~B」といった範囲に関する記載は、「A以上B以下」を意味する。
【0054】
なお、実施例2~4では、いくつかのセッターを組み組み合わせて使用したが、これらのセッターは3Dプリンタにより一体に作製されたものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、外観に優れたセラミックス製品、金属製品、およびサーメット等を効率よく製造することが可能になる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11