(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136843
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】分離膜評価プログラム、水処理システム及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 65/00 20060101AFI20240927BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20240927BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B01D65/00
C02F1/44 A
C02F1/44 D
G05B23/02 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048125
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】森本 紗代
(72)【発明者】
【氏名】石橋 光
【テーマコード(参考)】
3C223
4D006
【Fターム(参考)】
3C223AA06
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223FF04
3C223FF24
3C223FF42
3C223GG01
3C223HH03
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006GA14
4D006HA61
4D006KE03Q
4D006KE06Q
4D006KE07Q
4D006KE08Q
4D006KE24Q
4D006KE30P
4D006KE30Q
4D006MA01
4D006MA03
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC27
4D006MC29
4D006MC33
4D006MC39
4D006MC54
4D006MC58
4D006MC62
4D006PA01
4D006PB05
(57)【要約】
【課題】水処理システムにおける分離膜の状態を的確に監視しながら、分離膜の洗浄処理の実施時期を最適なタイミングで判断・制御することが可能な分離膜評価プログラム、水処理システム及び水処理方法を提供する。
【解決手段】水処理システムに用いられる分離膜の汚染状態を評価するための分離膜評価プログラムであって、分離膜の基準着色情報(1)、又は、分離膜と同様の成分を有するモニタ膜を用い、該モニタ膜の基準着色情報(2)と、前記水処理システムの運転条件との間の関連情報を取得することにより、該関連情報を、分離膜の汚染状態を評価するための基準情報として、サーバ又は端末設備に予め構築する基準情報取得ステップS1を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理システムに用いられる分離膜の汚染状態を評価するための分離膜評価プログラムであって、
前記分離膜の基準着色情報(1)、
又は、前記分離膜と同様の成分を有するモニタ膜を用い、該モニタ膜の基準着色情報(2)と、
前記水処理システムの運転条件との間の関連情報を取得することにより、該関連情報を、前記分離膜の汚染状態を評価するための基準情報として、サーバ又は端末設備に予め構築する基準情報取得ステップを含むことを特徴とする分離膜評価プログラム。
【請求項2】
前記サーバ又は前記端末設備に、少なくとも、
前記モニタ膜から検出した該モニタ膜のモニタ膜着色情報を受信するモニタ膜情報受信ステップと、
前記モニタ膜情報受信ステップで受信した前記モニタ膜着色情報を記憶するモニタ膜情報記憶ステップと、
前記モニタ膜情報記憶ステップで記憶した前記モニタ膜着色情報と、前記基準情報取得ステップで取得した基準情報とを比較するモニタ膜情報比較ステップと、
前記モニタ膜情報比較ステップにおける比較結果に基づき、前記水処理システムの前記運転条件を制御する制御ステップと、
を実行させることを特徴とする請求項1に記載の分離膜評価プログラム。
【請求項3】
前記サーバ又は前記端末設備に、
少なくとも、
前記分離膜から検出した分離膜着色情報を受信する分離膜情報受信ステップと、
前記分離膜情報受信ステップで受信した前記分離膜着色情報を記憶する分離膜情報記憶ステップと、
前記分離膜情報記憶ステップで記憶した前記分離膜着色情報と、前記基準情報取得ステップで取得した基準情報とを比較する分離膜情報比較ステップと、
前記分離膜情報比較ステップにおける比較結果に基づき、前記水処理システムの前記運転条件を制御する制御ステップと、
を実行させることを特徴とする請求項1に記載の分離膜評価プログラム。
【請求項4】
前記基準情報取得ステップは、前記基準情報が、前記モニタ膜の膜面着色状態と、前記水処理システムの前記運転条件の変化との間の関連情報であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の分離膜評価プログラム。
【請求項5】
前記基準情報取得ステップは、前記基準情報を、被処理水の水源ごとに取得することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の分離膜評価プログラム。
【請求項6】
請求項2に記載の分離膜評価プログラムを用いた水処理システムであって、
少なくとも、
前記分離膜を有する膜ろ過装置と、
前記分離膜と同様の成分を有する前記モニタ膜を有し、該モニタ膜の状態を監視することにより、前記分離膜のモニタリング情報として取得するモニタリング装置と、
前記モニタリング情報と、予め取得した前記分離膜の汚染状態を評価するための基準情報とを比較した比較結果に基づき、前記水処理システムの前記運転条件を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする水処理システム。
【請求項7】
請求項3に記載の分離膜評価プログラムを用いた水処理システムであって、
少なくとも、
前記分離膜を有する膜ろ過装置と、
前記分離膜の状態を監視することにより、前記分離膜のモニタリング情報として取得するモニタリング装置と、
前記モニタリング情報と、予め取得した前記分離膜の汚染状態を評価するための基準情報とを比較した比較結果に基づき、前記水処理システムの前記運転条件を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする水処理システム。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の水処理システムを用いて被処理水を処理することを特徴とする水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜評価プログラム、当該分離膜評価プログラムを備えた水処理システム及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被処理水の洗浄処理手段として、分離膜を有する水処理装置(水処理システム)が用いられている。このような水処理装置においては、分離膜の表面(膜面)にスケール又はファウラントが堆積することで、膜面が汚染(ファウリングやクロッギング等)され、膜性能が劣化することがある。このような問題に対処するためには、分離膜を適宜洗浄することが有効である。
【0003】
従来、分離膜の洗浄は、一般的に、膜圧又はフラックス変化を監視しながら、分離膜の洗浄タイミングを制御する方法が採用されている。一方、膜圧の上昇やフラックスの低下が生じる前に、分離膜のファウリングが既に進行している可能性もある。このような場合には、膜圧上昇やフラックス低下を検出したタイミングで分離膜の洗浄を行ったとしても、既に手遅れになっているため、膜性能を復元することが難しく、膜寿命が低下するという問題がある。
【0004】
上記のような問題を解決するためには、分離膜の膜面の様子を直接監視することで、膜汚染が進行しすぎる前の適宜なタイミングで分離膜の洗浄を行うことが最も理想的である。しかしながら、実際に水処理を行う現場においては、分離膜の膜面の様子を直接監視することが困難なケースが多い。
このため、分離膜の膜面の様子を直接監視しながら、分離膜の洗浄タイミングを制御する方法が求められており、種々の方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、脱塩部(逆浸透膜モジュール)の前に、モニタ部(モニタ用逆浸透膜)を設置した構成の水処理システムが開示されている。特許文献1に記載のモニタ部は、透明又は半透明の密閉容器で構成されたモニタ手段と、膜の状態を可視化する撮像手段とを有することで、膜面の様子を直接監視することが可能とされている。具体的には、特許文献1においては、モニタ手段におけるファウリング形成部材に付着物が観察されたときに、付着物の大きさを測定する。この測定値は、撮像手段が撮像した画像に占める付着物の投影面積を、画像処理手段で画像処理することにより求められる。そして、付着物の大きさが予め定められた閾値以上になったときに、RO膜ユニットを洗浄液で洗浄する。
【0006】
また、特許文献2には、分離膜モジュールに備えられる分離膜の材料と同一の材料からなる分離膜を備えたサブモジュールを備え、サブモジュールからの反射光強度を測定することにより、膜面堆積物、即ち、サブモジュールの分離膜表面における堆積物の厚さ、量、種類等を詳細に推定することが記載されている。具体的には、特許文献2においては、FT―IRを用いてサブモジュールの分離膜表面における堆積材付近のファウリングと、それ以外の部位のファウリングとを比較評価することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015―9174号公報
【特許文献2】特開2012-106237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法のように、付着物の大きさ、即ち、付着物の投影面積を用いて分離膜の洗浄タイミングを制御した場合、モニタ手段のファウリング形成部材における付着物が不均一であると、適切なタイミングで洗浄を行うことが困難であるという問題がある。
また、特許文献1のように、投影面積で付着物を判断した場合、判断結果が投影面積の計算方法に大きく左右されるが、特許文献1の実施例においては、「目視」で判断することしか記載されていない。このような「目視」による判断は、決して定量的な判断とはいえず、的確に膜洗浄のタイミングを判断することは難しいという問題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法では、サブモジュール全体が汚れた場合、即ち、サブモジュールの分離膜表面における堆積材付近のファウリングと、それ以外の部位のファウリングとが比較し難くなり、上記同様、的確に膜洗浄のタイミングを判断することは難しいという問題があった。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、水処理システムにおける分離膜の状態を的確に監視しながら、分離膜の洗浄処理の実施時期を最適なタイミングで判断・制御することが可能な分離膜評価プログラム、水処理システム及び水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。この結果、分離膜の表面における着色状況と、水処理運転の管理指標、即ち、水処理システムの運転条件の変化との関係について、定量化による関連性を把握したうえで、膜ろ過工程における分離膜の様子をモニタリングするモニタ膜の着色状況を監視・定量化し、これに基づいて水処理システムの運転を制御することを知見した。これにより、水処理システムにおける分離膜の状態を的確に監視しながら、分離膜の洗浄処理の実施時期を最適なタイミングで判断・制御することが可能になることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下の態様を有する。
【0012】
[1] 水処理システムに用いられる分離膜の汚染状態を評価するための分離膜評価プログラムであって、前記分離膜の基準着色情報(1)、又は、前記分離膜と同様の成分を有するモニタ膜を用い、該モニタ膜の基準着色情報(2)と、前記水処理システムの運転条件との間の関連情報を取得することにより、該関連情報を、前記分離膜の汚染状態を評価するための基準情報として、サーバ又は端末設備に予め構築する基準情報取得ステップを含むことを特徴とする分離膜評価プログラム。
[2] 前記サーバ又は前記端末設備に、少なくとも、前記モニタ膜から検出した該モニタ膜のモニタ膜着色情報を受信するモニタ膜情報受信ステップと、前記モニタ膜情報受信ステップで受信した前記モニタ膜着色情報を記憶するモニタ膜情報記憶ステップと、前記モニタ膜情報記憶ステップで記憶した前記モニタ膜着色情報と、前記基準情報取得ステップで取得した基準情報とを比較するモニタ膜情報比較ステップと、前記モニタ膜情報比較ステップにおける比較結果に基づき、前記水処理システムの前記運転条件を制御する制御ステップと、を実行させることを特徴とする上記[1]に記載の分離膜評価プログラム。
[3] 前記サーバ又は前記端末設備に、少なくとも、前記分離膜から検出した分離膜着色情報を受信する分離膜情報受信ステップと、前記分離膜情報受信ステップで受信した前記分離膜着色情報を記憶する分離膜情報記憶ステップと、前記分離膜情報記憶ステップで記憶した前記分離膜着色情報と、前記基準情報取得ステップで取得した基準情報とを比較する分離膜情報比較ステップと、前記分離膜情報比較ステップにおける比較結果に基づき、前記水処理システムの前記運転条件を制御する制御ステップと、を実行させることを特徴とする上記[1]に記載の分離膜評価プログラム。
[4] 前記基準情報取得ステップは、前記基準情報が、前記モニタ膜の膜面着色状態と、前記水処理システムの前記運転条件の変化との間の関連情報であることを特徴とする上記[1]~[3]の何れかに記載の分離膜評価プログラム。
[5] 前記基準情報取得ステップは、前記基準情報を、被処理水の水源ごとに取得することを特徴とする上記[1]~[4]の何れかに記載の分離膜評価プログラム。
[6] 上記[2]に記載の分離膜評価プログラムを用いた水処理システムであって、少なくとも、前記分離膜を有する膜ろ過装置と、前記分離膜と同様の成分を有する前記モニタ膜を有し、該モニタ膜の状態を監視することにより、前記分離膜のモニタリング情報として取得するモニタリング装置と、前記モニタリング情報と、予め取得した前記分離膜の汚染状態を評価するための基準情報とを比較した比較結果に基づき、前記水処理システムの前記運転条件を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする水処理システム。
[7] 上記[3]に記載の分離膜評価プログラムを用いた水処理システムであって、少なくとも、前記分離膜を有する膜ろ過装置と、前記分離膜の状態を監視することにより、前記分離膜のモニタリング情報として取得するモニタリング装置と、前記モニタリング情報と、予め取得した前記分離膜の汚染状態を評価するための基準情報とを比較した比較結果に基づき、前記水処理システムの前記運転条件を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする水処理システム。
[8] 上記[6]又は[7]に記載の水処理システムを用いて被処理水を処理することを特徴とする水処理方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る分離膜評価プログラム、水処理システム及び水処理方法によれば、上記構成を採用することにより、水処理システムにおける分離膜の状態を的確に監視しながら、分離膜の洗浄処理の実施時期を最適なタイミングで判断・制御できる。これにより、分離膜の汚染が進行する前に、適切なタイミングで分離膜を洗浄するように制御することができ、膜寿命を最大限に延ばすことができる。従って、水処理システムのメンテナンス性が高められるとともに、運転コストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る分離膜評価プログラム、水処理システム及び水処理方法の一実施形態について模式的に説明する図であり、分離膜を有する膜ろ過装置、モニタ膜の状態を監視して分離膜のモニタリング情報として取得するモニタリング装置、及び、モニタリング情報と基準情報とを比較した比較結果に基づいて水処理システムの運転条件を制御する制御装置を備えた水処理システムの一例を概略で示す系統図である。
【
図2】本発明に係る分離膜評価プログラム、水処理システム及び水処理方法の一実施形態について模式的に説明する図であり、水処理システムにおける、各種情報の伝達経路及び手段、並びに評価・判断経路の一例を概略で示すブロック図である。
【
図3】本発明に係る分離膜評価プログラム、水処理システム及び水処理方法の一実施形態について模式的に説明する図であり、分離膜評価プログラムの処理を概略で示すフローチャートである。
【
図4】本発明に係る分離膜評価プログラム、水処理システム及び水処理方法の一実施形態について模式的に説明する図であり、分離膜評価プログラムの処理を詳細に示すフローチャートである。
【
図5】本発明に係る分離膜評価プログラム、水処理システム及び水処理方法の一実施形態について模式的に説明する図であり、予め取得した分離膜(モニタ膜)の基準着色情報と、水処理システムの運転条件の変化との間の関連情報の関連情報の一例を示す図で、分離膜の膜面から算出したグレースケール値とフラックスとの関係を示すグラフである。
【
図6】本発明に係る分離膜評価プログラム、水処理システム及び水処理方法の実施例について説明する図であり、分離膜の使用開始からの経過時間と、フラックスとの関係を、分離膜の着色状態を含めて示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る分離膜評価プログラム、水処理システム及び水処理方法の実施の形態を挙げ、
図1~
図5を適宜参照しながら詳述する。
なお、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
また、以下の説明で用いる各図面は、その特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なる場合がある。
【0016】
<水処理システムの全体構成>
まず、本実施形態の分離膜評価プログラムが用いられる水処理システムの全体構成について、
図1~
図3を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の水処理システム1の全体構成を概略で示す系統図であり、
図2は、水処理システム1の運転条件を制御するための、各種情報の伝達経路及び手段、並びに評価・判断経路の一例を概略で示すブロック図である。また、
図3は、本実施形態の水処理システム1に用いられる分離膜評価プログラムの処理を概略で示すフローチャートである。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の水処理システム1は、少なくとも、分離膜21を有する膜ろ過装置2と、膜ろ過装置2に備えられる分離膜21と同様の成分を有するモニタ膜31を有し、このモニタ膜31の状態を監視することにより、分離膜21のモニタリング情報として取得するモニタリング装置3と、上記のモニタリング情報と、予め取得した分離膜21の汚染状態を評価するための基準情報とを比較した比較結果に基づき、水処理システム1の運転条件を制御する制御装置(
図1中では詳細な図示を省略)と、を備え、概略構成される。
【0018】
[膜ろ過装置]
本実施形態の水処理システム1は、ろ過手段として、少なくとも、分離膜21を有する膜ろ過装置2が含まれるシステムであれば、特に限定されない。また、他の水処理手段、例えば、イオン交換手段、砂ろ過等の除濁手段、又は活性炭交換等の不純物除去手段が含まれた構成であってもよい。
【0019】
図示例の水処理システム1に備えられる膜ろ過装置2は、上記の分離膜21に加え、被処理水が流通する本管10に接続され、分離膜21に濃縮水を循環させる循環ポンプ22と、循環配管14と、分離膜21の出口側に接続された濃縮水タンク23と、分離膜21の出口側に接続されたタンク24とを有する。
【0020】
分離膜21としては、特に限定されず、例えば、精密ろ過膜(MF)、限外ろ過膜(UF)、ナノろ過膜(NF)、逆浸透膜(RO)、又は正浸透膜(FO)等、各種のろ過膜を何ら制限無く採用することができる。また、分離膜21の形態も特に限定されず、個々の被処理水の膜分離に適した任意の形態、例えば、平膜、あるいは中空糸膜等を適宜採用することが可能である。
【0021】
分離膜21の主成分となる樹脂も特に限定されず、例えば、セルロースアセテート、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン等の樹脂を適宜採用することが可能である。
【0022】
[モニタリング装置]
図1に示すように、本実施形態の水処理システム1は、膜ろ過装置2に備えられる分離膜21の状態をモニタリングするためのモニタリング装置3を備える。モニタリング装置3は、上述したように、膜ろ過装置2に備えられる分離膜21と同様の成分を有するモニタ膜31を有し、このモニタ膜31の状態を監視することにより、分離膜21のモニタリング情報として取得するものである。即ち、モニタリング装置3は、被処理水が流通する本管10から分岐して該本管10と並列に設けられた分岐管11の経路中に配置される。
【0023】
本管10における、モニタリング装置3の上流側には、被処理水タンク12及びフィルタ13が、被処理水の流れ方向で、この順で配置されている。
【0024】
また、図示例の水処理システム1に備えられるモニタリング装置3には、分岐管11の経路上に設けられ、モニタ膜31の入口側に被処理水を導入して循環させる循環ポンプ34と、モニタ膜31の出口側から本管10に戻る被処理水の流量を制御するためのバルブ35とが設けられている。また、図示例のモニタリング装置3は、さらに、分岐管11の経路上において、モニタ膜31の入口側及び出口側の両方に設けられる圧力計Pと、モニタ膜31の出口側に設けられる流量計FLとを有する。
また、図示例におけるモニタリング装置3は、循環配管15と、モニタ膜31の濃縮水を排出する排出配管16とを、さらに備える。
【0025】
モニタリング装置3としては、膜ろ過装置2に備えられる分離膜21の状況をモニタリングできる位置であれば、その設置場所は特に限定されない。
図1中に示す例では、モニタリング装置3が膜ろ過装置2の前段(上流)側に設置されているが、例えば、後段(下流)側に設置されていてもよいし、膜ろ過装置2と並列に設置されていてもよい。例えば、バイオファウリングを膜のモニタリング対象とする場合には、モニタリング装置3を膜ろ過装置2の前段側に設置し、スケール成分を膜のモニタリングの対象とする場合には、モニタリング装置3を膜ろ過装置2の後段側に設置すればよく、モニタリング対象に応じて、適宜、設置場所を設定すればよい。
【0026】
本実施形態においては、モニタリング装置3は、膜ろ過装置2に備えられる分離膜21の状況を代替的に、即ち、予測的にモニタリングするものなので、上述したように、膜ろ過装置2に備えられる分離膜21と同様の成分を有するモニタ膜31を採用する。本実施形態で説明する、分離膜21と同様の成分を有するモニタ膜31とは、例えば、分離膜(分離膜21及びモニタ膜31)を構成する主成分が同一であることを意味する。このような、分離膜の「主成分が同一である」とは、例えば、これら各分離膜に共通して含まれる樹脂成分の含有量が50質量%超であることを意味する。共通して含まれる樹脂成分の含有量は70%以上でもよく、85質量%以上でもよく、90質量%以上でもよい。
【0027】
即ち、モニタリング装置3が有するモニタ膜31は、分離膜21と同じ膜種であることが好ましい。具体的には、モニタ膜31としては、例えば、MF膜、UF膜、NF膜、RO膜、又はFO膜等、分離膜21と同様の形態を有する各種ろ過膜から選択できる。また、モニタ膜31は、同様の主成分を有することが好ましい。具体的には、モニタ膜31の主成分としては、例えば、セルロースアセテート、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン等、膜ろ過装置2に備えられる分離膜21と同様の成分を有するものを選択できる。さらに、モニタ膜31は、分離膜21と同様の形態を有することが好ましい。具体的には、モニタ膜31の形態としては、例えば、平膜、あるいは中空糸膜、スパイラル膜等、分離膜21と同様の形態を有するものを選択できる。
これらの各種の膜の中でも、モニタリング装置3が有するモニタ膜31としては、膜ろ過装置2に備えられる分離膜21の状況を予測しやすいという観点から、分離膜21と同様の膜種、同様の主成分、且つ、同様の形態を有するものであることが最も好ましい。
【0028】
分離膜の樹脂成分及び樹脂組成は、一般的な分析方法を用いて分析することができ、例えば、NMR法、IR法、又は、これらを適宜組み合わせた方法で分析することが可能である。
【0029】
さらに、本実施形態では、膜ろ過装置2に備えられる分離膜21の状況を予測しやすいという観点から、モニタリング装置3に備えられるモニタ膜31は、分離膜21と同一の分離機構を有することが好ましい。本実施形態で説明する、「同一の分離機構を有する」とは、(1)、(2)に示す要件の少なくとも何れか、好ましくは両方を満たすことを意味する。
(1)分離膜(分離膜21、モニタ膜31)が浸漬される槽の底面積、容積、槽形状が同一であること。
(2)分離膜(分離膜21、モニタ膜31)が浸漬される槽に被処理水を供給する態様(供給配管の接続位置、加圧ポンプ、吸引ポンプ等)が同一であること。
【0030】
モニタリング装置3は、上記のモニタ膜31を含み、透明又は半透明の密閉容器で構成されたモニタ手段32と、膜の表面の状況を可視化するカメラ、ビデオカメラ等の撮像手段を含む撮像部33とを有することで、モニタ膜31の表面の状況を直接監視することが可能である。
具体的には、モニタ手段32に含まれるモニタ膜31におけるファウリング形成部材の付着物を撮像部33で撮影し、
図1中では図示を省略している送信装置により、撮像データをサーバ(
図1中では図示を省略)に送信する。この際、サーバが受信した撮像データは、詳細を後述する分離膜評価プログラムによって解析・定量化することで、予め取得した基準情報との比較で評価し、膜ろ過装置2における膜の洗浄モード、及び/又は、洗浄タイミングを判断する材料とされる。ここで、膜ろ過装置2における膜の洗浄モードや洗浄タイミングを判断する材料としては、必ずしも、撮像部33で撮影された画像を定量化した数値のみには限定されず、従来から分離膜の評価に用いられている指標、例えば、供給水質やフラックス、圧力等も併せた評価を行ってもよい。
また、上述したサーバに代えて、例えば、パソコンや携帯端末(タブレット端末を含む)等、上記同様、
図1中では図示を省略している端末設備に向けて撮像データを送信してもよい。
【0031】
[分離膜評価プログラムを用いた運転条件の制御]
図2のブロック図には、本実施形態の水処理システム1における、各種情報の伝達経路及び手段、並びに評価・判断経路の一例を示している。
図2に示すように、本実施形態の水処理システム1には、各種情報の伝達経路及び手段として、検出部D、受信部R、記憶部M、解析部A、及び評価部Eが備えられている。
【0032】
検出部Dは、
図1中に示した水処理システム1に備えられるモニタリング装置3において、モニタ膜31の表面の状況を可視化する撮像部33を含むモニタリング装置3に相当する。検出部Dは、後段の受信部Rとの間で、撮像部33による撮像データ、即ち、モニタ膜31の着色情報を送受信する。また、検出部Dは、後述の分離膜評価プログラムに備えられる検出ステップS2(
図4のフローチャートを参照)の一部を実行させるものである。
【0033】
受信部Rは、上述した制御装置(
図1中では図示を省略)の一部に相当し、検出部Dとの間で、モニタリング装置3の撮像部33による撮像データ、即ち、モニタ膜31の着色情報を送受信するとともに、受信情報を後段の記憶部Mに送信する。また、受信部Rも、後述の分離膜評価プログラムに備えられるモニタ膜情報受信ステップS3(同上)の一部を実行させるものである。
【0034】
受信部Rは、モニタ膜31の着色情報と同時に、さらに、外部情報を受信する構成を採用できる。本実施形態で説明する外部情報とは、例えば、特定のタイミングにおけるリアルタイムの原水(被処理水)水質・水位情報、水源地の気象情報・周辺情報等が挙げられる。
受信部Rとしては、モニタ膜31の着色情報を受信できるものであれば、その詳細な構成は特に限定されない。
【0035】
記憶部Mも、上述した制御装置(
図1中では図示を省略)の一部に相当し、受信部Rからモニタ膜31の着色情報を受信し、記憶する。また、記憶部Mは、後述の分離膜評価プログラムに備えられるモニタ膜情報記憶ステップS4(
図3のフローチャートにおける記憶ステップを参照)を実行させるものである。
また、記憶部Mにおいて記憶されるモニタ膜31の情報としては、上記の着色情報の他、例えば、着色したエリアや、流動物及び付着物、並びに形状等が挙げられる。
【0036】
また、記憶部Mは、前段の受信部Rで受信した上記の外部情報を記憶する機能を有していてもよい。
記憶部Mとしても、特に限定されないが、例えば、一般的なハードディスクやメモリ等が挙げられる。
【0037】
解析部Aも、上述した制御装置(
図1中では図示を省略)の一部に相当し、記憶部Mで記憶されたモニタ膜31の着色情報や、その他の情報が入力され、これらの情報を定量化する。これにより、解析部Aは、後述の分離膜評価プログラムに備えられる解析ステップ(
図3のフローチャートを参照)を実行させる。
【0038】
解析部Aとしては、特に限定されず、例えば、一般的なハードディスクやメモリ等に、画像情報を定量化できるソフトウェアを格納したもの等を用いることができる。このようなソフトウェアとしては、例えば、市販の画像処理ライブラリ(ソフトウェア)等が挙げられる。
また、着色情報等の定量化には、上記のようなソフトウェアを使用したもののみならず、例えば、他の物理的な判断指標となる画像を用いた手段を採用してもよい。
【0039】
評価部Eも、上述した制御装置(
図1中では図示を省略)の一部に相当し、解析部Aから、モニタ膜31の着色情報や、その他の情報が定量化された情報を受信し、予め取得した基準情報と比較することで、分離膜21の状態をモニタ膜31の情報に基づいて代替評価する。これにより、評価部Eは、後述の分離膜評価プログラムに備えられるモニタ膜情報比較ステップS5(
図3のフローチャートにおける比較ステップを参照)を実行させる。具体的には、評価部Eは、解析部Aから受信したモニタ膜31の膜面の濃さの定量化情報と、基準情報において洗浄処理を行うことが必要とされる臨界値とを比較する。
【0040】
さらに、評価部Eは、上記の比較結果に基づき、水処理システム1の運転条件を制御する。これにより、評価部Eは、さらに、後述の分離膜評価プログラムに備えられる制御ステップS6(
図3のフローチャートも参照)を実行させる。
上記の水処理システム1の運転条件とは、例えば、通常運転時の条件、及び、分離膜21の洗浄時の条件を含むものである。
【0041】
本実施形態の水処理システム1によれば、上記のような、詳細を後述する分離膜評価プログラムを用いた構成を採用することにより、水処理システム1における分離膜21の状態を的確に監視しながら、分離膜21の洗浄処理の実施時期を最適なタイミングで判断・制御できる。これにより、分離膜21の汚染が進行する前に、適切なタイミングで分離膜21を洗浄するように制御することができ、膜寿命を最大限に延ばすことができる。
【0042】
[変形例]
本実施形態の水処理システムは、上記のような構成には限定されない。例えば、上述したモニタリング装置3を省略したうえで、膜ろ過装置2に備えられる分離膜21を直接監視する構成を採用することも可能である。
即ち、詳細な図示は省略するが、詳細を後述する分離膜評価プログラムを用い、分離膜21の状態を直接監視することにより、分離膜21のモニタリング情報として取得する他のモニタリング装置を備えた構成を採用できる。このような構成を採用した場合には、例えば、
図1中では図示を省略している制御装置において、分離膜21の状態に係るモニタリング情報と、予め取得した分離膜21の汚染状態を評価するための基準情報とを比較した比較結果に基づき、水処理システムの運転条件を制御する。
【0043】
上記のような、膜ろ過装置2に備えられる分離膜21を直接監視する構成を採用した場合においても、後述の分離膜評価プログラムを用いて、水処理システムにおける分離膜21の状態を的確に監視しながら、分離膜21の洗浄処理の実施時期を最適なタイミングで判断・制御できる。これにより、上記同様、分離膜の汚染が進行する前に、適切なタイミングで分離膜を洗浄するように制御することができ、膜寿命を最大限に延ばすことができる。
【0044】
<水処理方法>
以下に、本実施形態の水処理方法について、上記の水処理システム1の説明と同じ図面を参照して説明する。
本実施形態の水処理方法は、上述した構成を有する本実施形態の水処理システム1を用いて被処理水を処理する方法なので、水処理システム1の詳細な構成、分離膜21の評価方法、及び、被処理水の流れ等については、既に説明した通りであり、その詳細な説明は省略する。
【0045】
本実施形態の水処理方法によれば、本実施形態の水処理システム1を用いて被処理水を処理することで、上記同様、水処理システム1における分離膜21の状態を的確に監視しながら、分離膜21の洗浄処理の実施時期を最適なタイミングで判断・制御できる。これにより、上記同様、分離膜21の汚染が進行する前に、適切なタイミングで分離膜21を洗浄するように制御することができ、膜寿命を最大限に延ばすことができる。従って、使用する水処理システム1のメンテナンス性が高められるとともに、運転コストを低減することが可能となる。
【0046】
<分離膜評価プログラム>
以下に、本実施形態の分離膜評価プログラムについて、主に
図3~
図5を参照しながら説明する(必要に応じて
図1及び
図2も参照)。
図4は、分離膜評価プログラムの処理を詳細に示すフローチャートであり、
図5は、予め取得した分離膜21(モニタ膜31)の基準着色情報と、水処理システム1の運転条件の変化との間の関連情報の関連情報の一例を示す図で、分離膜21(モニタ膜31)の膜面から算出したグレースケール値とフラックスとの関係を示すグラフである。
本実施形態の分離膜評価プログラムは、上述した本実施形態の水処理システム1に用いることが可能なものである。
【0047】
本実施形態の分離膜評価プログラムは、
図1及び
図2に示したような水処理システム1に用いられる分離膜21の汚染状態を評価するための分離膜評価プログラムである。本実施形態の分離膜評価プログラムは、
図4中に示すように、少なくとも、分離膜21と同様の成分を有するモニタ膜31を用い、このモニタ膜31の基準着色情報と、水処理システム1の運転条件との間の関連情報を取得することにより、この関連情報を、分離膜21の汚染状態を評価するための基準情報として、サーバ又は端末設備(
図1中では図示を省略)に予め構築する基準情報取得ステップS1を含む。
【0048】
また、本実施形態で説明する例の分離膜評価プログラムは、サーバ又は端末設備(
図1中では図示を省略)に、少なくとも、モニタ膜31から検出した該モニタ膜31のモニタ膜着色情報を受信するモニタ膜情報受信ステップS3と、モニタ膜情報受信ステップS3で受信したモニタ膜着色情報を記憶するモニタ膜情報記憶ステップS4と、モニタ膜情報記憶ステップS4で記憶したモニタ膜着色情報と、基準情報取得ステップS1で取得した基準情報とを比較するモニタ膜情報比較ステップS5と、モニタ膜情報比較ステップS5における比較結果に基づき、水処理システム1の運転条件を制御する制御ステップS6と、を実行させる。
【0049】
また、本実施形態で説明する例の分離膜評価プログラムは、さらに、モニタ膜31からモニタ膜着色情報を検出する検出ステップS2と、モニタ膜31の着色情報やその他の情報を定量化する解析ステップと、分離膜21を洗浄する洗浄ステップS7と、を含む。本実施形態に示す例では、比較ステップ(
図4のフローチャートにおけるS5)が、解析ステップ(
図3のフローチャートを参照)を含む。
【0050】
本実施形態においては、例えば、モニタ膜31からリアルタイムでモニタ膜着色情報を検出することが好ましい。ここで、本実施形態で説明する「リアルタイム」とは、モニタ膜31の着色から1日未満であることを意味する。
また、モニタ膜31からモニタ膜着色情報を検出するタイミングとしては、例えば、被処理水の水質が著しく変化したとき等が挙げられるが、その他、定期的にモニタ膜着色情報を検出するように構成してもよい。上記のような、「水質が著しく変化したとき」としては、例えば、大雨後に被処理水の濁度が2倍以上で上昇した場合、又は、膜洗浄前後等が挙げられる。また、定期的にモニタ膜着色情報を検出する場合には、例えば、1日に1回、1週間に1回、1か月に1回等の頻度のタイミングが挙げられる。
【0051】
[基準情報取得ステップS1]
基準情報取得ステップS1は、上述したように、モニタ膜31の基準着色情報と、水処理システム1の運転条件との間の関連情報を、分離膜21の汚染状態を評価するための基準情報として、サーバ又は端末設備に予め構築する。
【0052】
図5のグラフに示すように、基準情報取得ステップS1で取得する基準情報は、例えば、ラボや水処理現場において予め取得する、分離膜21(モニタ膜31)の膜面着色状態と、当該分離膜21を用いた水処理システム1の運転条件の変化との関連性を示す情報(関連情報)である。基準情報取得ステップS1では、所謂、水処理システム1の運転条件を制御するための基準情報のデータベースを事前に構築する。
【0053】
以下に、基準情報のデータベース構築について詳細に説明する。
基準情報取得ステップS1においては、例えば、上記の基準情報を、被処理水の水源ごとに取得する。即ち、基準情報取得ステップS1では、被処理水の水源ごとに、水処理システム1における分離膜21と同様の材料からなるモニタ膜31を用いて、このモニタ膜31の膜面の着色状態と、水処理システム1の運転条件との関連性データ(関連情報)を取得する。このような水処理システム1の運転条件とは、例えば、1次圧力や2次圧力、膜間圧力等の各圧力、フラックス、水回収率、水処理水量、及び、間欠運転・連続運転モード等が挙げられる。
【0054】
以下に、基準情報取得ステップS1について、上述した圧力、フラックス及び水回収率を具体例として説明する。
まず、モニタ膜31の膜面における着色の濃さと、当該濃さに対応する圧力やフラックス、水回収率の値を取得する。この際、フラックスや水回収率が著しく低減、あるいは、圧力増加を生じる場合の条件で、これに対応したモニタ膜31の膜面における着色の濃さのデータ(数値化したデータ)を取得する。その時点のモニタ膜31の膜面における着色の濃さは、洗浄ステップS7を行う際の臨界値となる。つまり、モニタ膜31の膜面における着色の濃さが臨界値になる前に、分離膜の洗浄を行う必要がある。
【0055】
基準情報取得ステップS1においては、被処理水の水源や条件ごとに、それらの関連情報を取得することが好ましいが、これには限定されず、他の水源の水質が類似していれば、すでに取得した関連情報をそのまま利用することも可能である。
また、基準情報取得ステップS1では、モニタ膜31の膜面における着色の濃さのみならず、例えば、異なる原水水質により、モニタ膜31の膜面の色や通過する被処理水並びに処理水も数値化することが可能である。例えば、原水における鉄分の濃度が高い場合、モニタ膜31の膜面は主として赤色を呈する。このようなモニタ膜31の膜面における着色も、上記の基準情報となりうる。
【0056】
モニタ膜31の膜面の画像を取得するのにあたっては、例えば、モニタ膜31の膜面における複数箇所の画像を取得してもよい。そして、取得した画像データの平均値/最大値/最小値/汚染のエリア(モニタ膜31の入口に近い箇所等)における色度等の値を基準情報のデータとする。
【0057】
また、基準情報取得ステップS1においては、上記の基準情報をラボで取得することには限定されず、例えば、水処理システムのパイロット機を用いて取得するか、あるいは、実際の水処理システムを用いて取得する等、現場ベースで基準情報を取得してもよい。
【0058】
[検出ステップS2]
検出ステップS2は、上述したように、モニタ膜31からリアルタイムでモニタ膜着色情報を検出する。
具体的には、検出ステップS2では、例えば、モニタリング装置3に備えられる撮像部33によってモニタ膜31の膜面を撮像することで、この膜面における着色の濃さを検出した撮像データを生成する。
【0059】
図4のフローチャートに示した例の検出ステップS2においては、まず、ステップS21において水処理を開始し、ステップS22において、モニタリング装置3から分離膜(モニタ膜31)における膜面の着色を検出する。
【0060】
なお、モニタリング装置3からの情報検出は、必ずしも連続的でなくてもよく、例えば、リアルタイムで取得する場合には、1時間に1回又は半日に1回等のタイミングとしてもよく、また、定期的に取得する場合には、1日に1回又は1週間に1回等、断続的な検出でデータを取得しても構わない。
【0061】
[モニタ膜情報受信ステップS3]
モニタ膜情報受信ステップ(受信ステップ)S3は、上述したように、モニタ膜31からリアルタイムで検出した該モニタ膜31のモニタ膜着色情報を受信する。
具体的には、モニタ膜情報受信ステップS3では、検出ステップS2で取得したモニタリング装置3の撮像部33による撮像データ、即ち、モニタ膜31の着色情報を受信する。
【0062】
モニタ膜情報受信ステップS3においては、モニタ膜31の着色情報と同時に、さらに、外部情報を受信する手順を採用してもよい。この場合の外部情報としては、水処理システム1の説明でも記したように、例えば、リアルタイムの原水(被処理水)水質・水位情報、水源地の気象情報・周辺情報等が挙げられる。
【0063】
[モニタ膜情報記憶ステップS4]
モニタ膜情報記憶ステップ(記憶ステップ)S4は、上述したように、モニタ膜情報受信ステップS3で受信したモニタ膜着色情報を記憶する。
また、モニタ膜情報記憶ステップS4において記憶するモニタ膜31の情報としては、上記の着色情報の他、例えば、着色したエリアや、流動物及び付着物、並びに形状等が挙げられる。
さらに、モニタ膜情報記憶ステップS4は、前段のモニタ膜情報受信ステップS3で受信した上記の外部情報を記憶する機能を有していてもよい。
【0064】
[モニタ膜情報比較ステップS5]
モニタ膜情報比較ステップ(比較ステップ)S5は、上述したように、モニタ膜情報記憶ステップS4で記憶したモニタ膜着色情報と、基準情報取得ステップS1で取得した基準情報とを比較する。また、本実施形態では、モニタ膜情報比較ステップS5が、さらに、モニタ膜情報記憶ステップS4で記憶したモニタ膜31の着色情報や、その他の情報が入力され、これらの情報を定量化する機能を有していてもよい。
【0065】
モニタ膜情報比較ステップS5における着色情報等の定量化には、上述したようなソフトウェアを使用した方法のみならず、例えば、他の物理的な判断指標となる画像を用いた方法を採用できる。
【0066】
そして、モニタ膜情報比較ステップS5においては、モニタ膜31の着色情報や、その他の情報が定量化された情報と、予め取得した基準情報とを比較することで、分離膜21の状態をモニタ膜31の情報に基づいて代替評価する。具体的には、モニタ膜情報比較ステップS5は、モニタ膜31の膜面の濃さの定量化情報と、基準情報において洗浄処理を行うことが必要される臨界値とを比較する。
【0067】
図4のフローチャートに示した例の比較ステップS5においては、まず、ステップS51において、記憶ステップS4で記憶したモニタ膜着色情報と、基準情報取得ステップS1で取得した基準情報とを比較する。そして、ステップS52において、モニタ膜着色情報が上記の臨界値よりも高い(着色が濃い)場合には、後述の制御ステップS6において水処理システム1の運転条件を制御する。一方、ステップS52において、モニタ膜着色情報が上記の臨界値よりも低い(着色が薄い)場合には、上記の受信ステップS3に戻る。
【0068】
[制御ステップS6]
制御ステップS6は、上述したように、モニタ膜情報比較ステップS5における比較結果に基づき、水処理システム1の運転条件を制御する。
上記の水処理システム1の運転条件とは、例えば、通常運転時の条件、及び、分離膜21の洗浄時の条件を含むものである。
【0069】
上記のような、本実施形態の分離膜評価プログラムにおいて制御する、水処理システム1の通常運転時の運転条件としては、例えば、1次圧力や2次圧力、膜間圧力等の各圧力、フラックス、水処理水量、水回収率、及び、間欠運転・連続運転モード等の設定等が挙げられる。
【0070】
図4のフローチャートに示した例の制御ステップS6においては、まず、ステップS61において、上記の各運転条件の項目のうちの少なくとも何れかを制御する。そして、ステップS62において、分離膜21(モニタ膜31)の汚れの状態が改善したか否かを判断し、改善していない場合には後述の洗浄ステップS7に移行し、改善した場合には、上記の受信ステップS3に戻る。
【0071】
[洗浄ステップS7]
洗浄ステップS7は、上述したように、モニタ膜情報比較ステップS5において分離膜21の洗浄が必要であると判定されたときに、分離膜21を洗浄するステップである。
洗浄ステップS7には、例えば、洗浄モード及び洗浄タイミングの判断が含まれる。
【0072】
洗浄モードの判断としては、例えば、洗浄水の通水速度、洗浄時間、薬品の種類、薬品濃度、及び、薬品の注入量等の判断が挙げられる。
洗浄ステップS7においては、洗浄モードの判断の際に、原水水質等の情報を含め、膜ファウリングや膜閉塞の原因物質を分析した結果に基づき、分離膜の洗浄モードを調整することが好ましい。
また、洗浄タイミングは、洗浄モードを起動するタイミングである。
【0073】
図4のフローチャートに示した例の洗浄ステップS7においては、まず、ステップS71において分離膜21及びモニタ膜31を同時に洗浄する。次いで、ステップS72において、分離膜21(モニタ膜31)の汚れの状態が改善したか否かを判断し、改善していない場合には、ステップS73において水処理を停止させる。一方、分離膜21(モニタ膜31)の汚れの状態が改善している場合には、ステップS74において、分離膜21(モニタ膜31)の評価結果に基づき、水処理システム1の通常運転又は洗浄運転の切り換え要否を判断する。
【0074】
なお、洗浄ステップS7においては、まず、モニタ膜31を先に洗浄し、膜間圧力等の運転条件の指標が戻るかどうかを確認した後、上記の各指標が戻った場合には、膜洗浄による効果が確認できた状態であるため、分離膜21を洗浄する。一方、上記の各指標が戻らなかった場合には、膜洗浄による効果がないと判断し、分離膜21を交換してもよい(図示せず)。
【0075】
[各ステップS1~S7について]
本実施形態の分離膜評価プログラムが格納されるサーバ又は端末設備は、水処理現場や作業者の手元に設置してもよく、クラウドを利用してもよい。例えば、水処理現場から遠い場所からも、24時間監視・制御することが可能になる観点からは、クラウドを利用することが好ましい。
【0076】
本実施形態の分離膜評価プログラムによれば、上記手順を採用することにより、分離膜評価プログラムが用いられる水処理システム1における分離膜21の状態を的確に監視しながら、分離膜21の洗浄処理の実施時期を最適なタイミングで判断・制御できる。これにより、分離膜21の汚染が進行する前に、適切なタイミングで分離膜21を洗浄するように制御することができ、膜寿命を最大限に延ばすことができる。
【0077】
[変形例]
本実施形態の分離膜評価プログラムは、上記のような手順には限定されない。本実施形態では、例えば、上述したモニタ膜情報受信ステップS3を省略したうえで、膜ろ過装置2に備えられる分離膜21を直接監視する手順、即ち、分離膜21からリアルタイムで検出した分離膜着色情報を受信する分離膜情報受信ステップS8を備えた手順を採用することも可能である。
【0078】
即ち、詳細な図示は省略するが、例えば、サーバ又は端末設備に、少なくとも、分離膜21からリアルタイムで検出した分離膜着色情報を受信する分離膜情報受信ステップS8と、分離膜情報受信ステップS8で受信した分離膜着色情報を記憶する分離膜情報記憶ステップS9と、分離膜情報記憶ステップで記憶した分離膜着色情報と、基準情報取得ステップS1で取得した基準情報とを比較する分離膜情報比較ステップS10と、分離膜情報比較ステップS10における比較結果に基づき、水処理システム1の運転条件を制御する制御ステップS11と、を実行させる手順を採用できる。
なお、本実施形態においては、分離膜21の膜面を観察するため、例えば、分離膜21を含むモジュールには、異常の発生の有無を観察可能な透明又は半透明の観察部を設けてもよい。あるいは、分離膜21を含むモジュールの内部に、異常の発生の有無を観察可能なカメラ、ビデオカメラ等の撮像手段を設けてもよい。
【0079】
上述した変形例においても、上記同様、水処理システム1における分離膜21の状態を的確に監視しながら、分離膜21の洗浄処理の実施時期を最適なタイミングで判断・制御できるので、分離膜21の汚染が進行する前に、適切なタイミングで分離膜21を洗浄するように制御することができ、膜寿命を最大限に延ばすことが可能となる。
【0080】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態の分離膜評価プログラム、水処理システム1及び水処理方法によれば、上記構成を採用することにより、水処理システム1における分離膜21の状態を的確に監視しながら、分離膜21の洗浄処理の実施時期を最適なタイミングで判断・制御できる。これにより、分離膜21の汚染が進行する前に、適切なタイミングで分離膜21を洗浄するように制御することができ、膜寿命を最大限に延ばすことができる。従って、水処理システム1のメンテナンス性が高められるとともに、運転コストを低減することが可能となる。
【0081】
<作用機序>
本発明は、上述したように、水処理システムにおける分離膜の状態を的確に監視しながら、分離膜の洗浄処理の実施時期を最適なタイミングで判断・制御できるものである。
具体的には、分離膜と同様の成分を有するモニタ膜の基準着色情報(2)と、水処理運転の管理指標、即ち、水処理システムの運転条件の変化との関係について、モニタ膜を用いて定量化による関連性を把握したうえで、膜ろ過工程における分離膜の様子をモニタリングするモニタ膜の着色状況を監視・定量化し、これに基づいて水処理システムの運転を制御することができる。これにより、水処理システムにおける分離膜の状態を的確に監視しながら、分離膜の洗浄処理の実施時期を最適なタイミングで判断・制御することが可能になる。
ここで、本発明においては、どのような分離膜であっても、この分離膜と対応するモニタ膜で監視することが可能であるため、分離膜の種類、主成分、形態等は特に限定されない。
また、本発明においては、必ずしもモニタ膜を用いて分離膜をモニタリングするわけではなく、例えば、分離膜自体の膜状況を観察した場合であっても、上記同様の効果が得られる。その場合、分離膜自体の基準着色情報(1)と、水処理システムの運転条件との間の関連情報を取得することにより、この関連情報を、分離膜の汚染状態を評価するための基準情報として、サーバ又は端末設備に予め構築する基準情報取得ステップを含む分離膜評価プログラムを用いることができる。
【実施例0082】
以下、実施例により、本発明に係る分離膜評価プログラム、水処理システム及び水処理方法についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
また、本実施例で採用した各条件は、あくまで一例であり、上記同様、本発明を限定するものではない。
【0083】
本実施例においては、スパイラル型ROエレメントにおけるスペーサ含有膜(分離膜)を評価する指標として、被処理水による着色、及び、膜面状態の観察が可能な膜ろ過評価装置の特徴を活かして、通水実験過程におけるRO膜(分離膜)の表面の画像を観察し、この情報を元にして定量化することで、分離膜の状態を判断することの可否を検討した。
【0084】
分離膜表面の画像の取得は、市販の薄層流式平膜テストセル(C10-T(クロスフロー):日東電工株式会社製)を用いて、膜表面の流路閉塞状況に対して動画撮影等を行うことで実施した。膜表面の撮影には、市販のセキュリティカメラ(100万画素)、及び、iPhone8(登録商標:アップルコンピュータ株式会社製;1200万画素)を用いた。上記のうち、CC-2のスペックは、膜表面のマクロな汚れ具合を把握するのにあたり、必要十分な性能であることが確認された。また、流路閉塞と想定される膜表面の汚れ具合は、被処理水において顕著に確認された。
【0085】
ここで、膜表面における流路の閉塞が指標となる場合において、流路閉塞の定量化手法は、一般的には未だ構築されていない。例えば、膜表面の状態が不可逆的なファウリングのみである場合(即ち、洗浄回復性がある場合)には、膜表面における流路の閉塞は、膜に対する供給圧力の増加あるいはフラックスの低下に先行して発生する。このような流路の閉塞は、増水時の有効膜面積の減少や薬品による洗浄回復の低下を招き、さらには、RO膜(分離膜)の長期安定稼働に悪影響を及ぼす一因となりうる。
【0086】
そこで、本実施例においては、プログラミング言語、及び、画像情報を定量化できるソフトウェアである市販の画像処理ライブラリ(ソフトウェア)を用いて、膜表面の着色濃度を、明度からグレースケール値として定量化する検討を行った。即ち、本実施例では、溶解性シリカ濃度51mg/Lの原水を被処理水として、フラックス:0.40(m/d)、回収率:70%の条件における、通水開始時の一連の水処理運転と、このときのフラックスの経時変化の結果、並びに膜の画像を一定期間(1日毎から3日毎の範囲)で取得した。そして、
図6のグラフにおいて、分離膜の使用開始からの経過時間とフラックスとの関係として、分離膜の着色状態を含めて示した。
【0087】
また、
図5のグラフには、本実施例において、分離膜の膜面から算出したグレースケール値とフラックスとの関係を示している。ここで、
図5のグラフの横軸においては、色の三属性のうち、明るさの度合いである265段階の明度を用いた考え方を採用しており、RGB値に変換した白色が0、黒色が255である。
図5に示した本実施例の結果では、わかりやすさを重視してグレースケールとしたが、カラーも含めることで、より精度を高めることが可能となる。
【0088】
具体的には、
図5のグラフに示すように、本実施例では、RO膜(分離膜)と原水スペーサを膜ろ過装置のセルに内蔵した際の、新品の分離膜のグレースケール値は66を示し、また、回収率が70%に到達して通水工程に入った時点でのグレースケール値は185を示した。また、本実施例で採用した条件下における濃縮工程での膜表面の汚れのグレースケール値は、上記の2つの値の差分値より119を示した。
【0089】
上記により、本発明の分離膜評価プログラムを用いることで、分離膜の着色、及び、膜面状態を観察した画像データに基づき、膜表面の汚れ具合が簡便に定量化できることが確認できた。
従って、本発明の分離膜評価プログラムを、各種の水処理システムにおける分離膜の評価に用いることで、分離膜の状態を的確に監視しながら、分離膜の洗浄処理の実施時期を最適なタイミングで判断・制御することが可能になることが明らかとなった。
本発明の分離膜評価プログラムは、水処理システムにおける分離膜の状態を的確に監視しながら、分離膜の洗浄処理の実施時期を最適なタイミングで判断・制御することが可能なものである。従って、本発明は、例えば、地下水その他を被処理液とする各種の水処理施設において、分離膜の汚れを評価する用途において非常に有用である。