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特開2024-136846切削加工に用いる振動特性データベース、切削加工の安定性評価装置、切削加工プログラム生成装置、切削加工の安定性評価方法、および切削加工プログラム生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136846
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】切削加工に用いる振動特性データベース、切削加工の安定性評価装置、切削加工プログラム生成装置、切削加工の安定性評価方法、および切削加工プログラム生成方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/12 20060101AFI20240927BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B23Q15/12 A
G05B19/404 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048130
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】太田 望
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 明
【テーマコード(参考)】
3C001
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA07
3C001KB04
3C001TA03
3C001TA06
3C001TB08
3C269AB05
3C269BB03
3C269BB05
3C269EF02
3C269EF21
3C269EF23
3C269EF71
3C269MN24
(57)【要約】
【課題】びびり振動の発生を抑止しつつ効率の良い切削加工を実行するための加工プログラム生成に用いる切削加工プログラム生成装置を提供する。
【解決手段】切削加工プログラム生成装置1は、結合データベース生成部31と加工プログラム生成部32と安定性評価部34と加工プログラム修正部35とを有する。結合データベース生成部31は切削加工を行う工作機械と工具との組み合わせごとに該当する工作機械の振動特性データと工具の振動特性データとを結合した振動特性データを格納した結合データベースを生成する。加工プログラム生成部32は切削加工に関する加工条件の情報を含む加工プログラムを生成する。安定性評価部34は切削加工に用いる工作機械と工具との組み合わせに対応する結合データベース内の振動特性データに基づいて切削加工処理の安定性を評価する。加工プログラム修正部35は安定性の評価結果に基づいて加工プログラムを修正する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削加工を行う工作機械と前記切削加工に用いる工具との組み合わせごとに、該当する工作機械の振動特性データと該当する工具の振動特性データとを解析的に結合して生成された、所定の工作機械に所定の工具を設置して行う切削加工処理の安定性評価に用いる振動特性データを格納した、切削加工に用いる振動特性データベース。
【請求項2】
前記工作機械の振動特性データは、前記工作機械の本体と、前記工作機械の本体の主軸に設置されて前記工具を保持する保持部材との組み合わせごとの振動特性データである、請求項1に記載の切削加工に用いる振動特性データベース。
【請求項3】
前記工具の振動特性データは、所定形状の工具に関して取得した振動特性データと、取得した振動特性データから生成した、任意の形状の工具に関する振動特性データとを含む、請求項1に記載の切削加工に用いる振動特性データベース。
【請求項4】
切削加工を行う工作機械と前記切削加工に用いる工具との組み合わせごとに生成された、振動特性データを格納した振動特性データベースに通信可能に接続され、
処理対象の切削加工に用いる工作機械と工具との組み合わせに対応する前記振動特性データベース内の振動特性データに基づいて、前記処理対象の切削加工処理の安定性を評価する安定性評価部を備えた、切削加工の安定性評価装置。
【請求項5】
処理対象の切削加工内の処理単位ごとの加工条件の情報を取得する加工条件取得部をさらに備え、
前記安定性評価部は、前記振動特性データベースに格納された情報のうち、前記処理単位ごとの加工条件に対応する振動特性データに基づいて、前記処理単位ごとの加工処理の安定性を評価する、請求項4に記載の切削加工の安定性評価装置。
【請求項6】
請求項4に記載の切削加工の安定性評価装置に通信可能に接続され、
前記処理対象の切削加工に関する加工条件の情報を含む加工プログラムを取得する加工プログラム取得部と、
前記安定性評価部による前記切削加工処理の安定性の評価結果に基づいて、前記加工プログラムの修正が必要と判定すると、前記加工プログラム取得部が取得した加工プログラムを修正する加工プログラム修正部と、を備える切削加工プログラム生成装置。
【請求項7】
切削加工を行う工作機械と前記切削加工に用いる工具との組み合わせごとに生成された、振動特性データを格納した振動特性データベースに通信可能に接続された切削加工の安定性評価方法であって、
処理対象の切削加工に用いる工作機械と工具との組み合わせに対応する前記振動特性データベース内の振動特性データに基づいて、前記処理対象の切削加工処理の安定性を評価する、切削加工の安定性評価方法。
【請求項8】
請求項4に記載の切削加工の安定性評価装置を用いた切削加工プログラム生成方法であって、
切削加工プログラム生成装置が、
前記処理対象の切削加工に関する加工条件の情報を含む加工プログラムを取得し、
前記安定性評価部による前記切削加工処理の安定性の評価結果に基づいて、前記加工プログラムの修正が必要と判定すると、取得した加工プログラムを修正する、切削加工プログラム生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削加工に用いる振動特性データベース、切削加工の安定性評価装置、切削加工プログラム生成装置、切削加工の安定性評価方法、および切削加工プログラム生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械による切削加工中に、工作機械側の工具と被加工材との間で継続的な振動が発生することがある。この振動は、びびり振動と称される。切削加工中にびびり振動が発生すると加工精度や生産性の低下につながるため、これを抑止するための対策が必要となる。
【0003】
びびり振動の発生を抑止するために、オペレータが、びびり振動が発生する加工条件を予め把握しておき、把握した内容に基づいてびびり振動が発生しないように、オペレータが加工条件を調整することが行われている。
【0004】
びびり振動のうち、自励振動である再生型びびり振動が発生する加工条件を示す情報として、安定限界線図がある。安定限界線図では、工作機械の主軸回転数ごとの限界の切込み量が示されている。
【0005】
この安定限界線図を用いることで、オペレータは、びびり振動が発生しない加工条件を選択して精度良く切削加工を行うことができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-126837号公報
【特許文献2】特許第4433422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した安定限界線図は、切削加工に関する既知のパラメータ、具体的には、工具形状、工具の径方向または軸方向の切込み量、工作機械の主軸回転数、比切削抵抗、工具および被加工物の振動特性を示す周波数応答関数等の解析に基づいて生成される。
【0008】
しかし、この解析処理にはパラメータごとの膨大な試験データを必要とするため、加工条件ごとに安定限界線図を生成するためには多大な時間および労力を要するという問題があった。
【0009】
そこで、安定限界線図を直接的に求めずに、処理対象の切削加工について試し加工を行い、加工中に発生した振動をセンサ等で検知したうえで分析することで、びびり振動が発生しないように加工条件を検討する手法が提案されている(特許文献2)。
【0010】
この手法では、既に作成された切削加工プログラムに基づいて試し加工を行い、振動センサ等によって検知した加工中の振動の情報に基づいて工作機械の主軸回転数を調整する。そのため、予め切削加工のパラメータに関する試験データの取得は不要であるが、試し加工を行う必要があるため工程設計のリードタイムが増加するという問題があった。
【0011】
またこの手法では、作成済みの切削加工プログラム内で主軸回転数を変更することによって加工条件を調整することになるため、調整可能な加工条件に制限が生じ、びびり振動が発生せず安定した加工を実行するように調整できない場合があるという問題があった。また安定した加工を実行するように調整ができる場合であっても、工作機械の主軸回転数のみならず、工具経路や切込み条件等までも含めて、効率良く安定した加工を行うように調整することができない場合があるという問題があった。
【0012】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、びびり振動の発生を抑止しつつ、効率の良い切削加工を実行するための加工プログラム生成に用いる、切削加工に用いる振動特性データベース、切削加工の安定性評価装置、切削加工プログラム生成装置、切削加工の安定性評価方法、および切削加工プログラム生成方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示に係る振動特性データベースは、切削加工を行う工作機械と前記切削加工に用いる工具との組み合わせごとに、該当する工作機械の振動特性データと該当する工具の振動特性データとを解析的に結合して生成された、所定の工作機械に所定の工具を設置して行う切削加工処理の安定性評価に用いる振動特性データを格納する。
【0014】
また、前記工作機械の振動特性データは、前記工作機械の本体と、前記工作機械の本体の主軸に設置されて前記工具を保持する保持部材との組み合わせごとの振動特性データであってもよい。
【0015】
また前記工具の振動特性データは、所定形状の工具に関して取得した振動特性データと、取得した振動特性データから生成した、任意の形状の工具に関する振動特性データとを含んでいてもよい。
【0016】
また、本開示に係る切削加工の安定性評価装置は、切削加工を行う工作機械と前記切削加工に用いる工具との組み合わせごとに生成された、振動特性データを格納した振動特性データベースに通信可能に接続され、処理対象の切削加工に用いる工作機械と工具との組み合わせに対応する前記振動特性データベース内の振動特性データに基づいて、前記処理対象の切削加工処理の安定性を評価する安定性評価部を備える。
【0017】
また、前記切削加工の安定性評価装置は、処理対象の切削加工内の処理単位ごとの加工条件の情報を取得する加工条件取得部をさらに備え、前記安定性評価部は、前記振動特性データベースに格納された情報のうち、前記処理単位ごとの加工条件に対応する振動特性データに基づいて、前記処理単位ごとの加工処理の安定性を評価してもよい。
【0018】
また、本開示に係る切削加工プログラム生成装置は、前記切削加工の安定性評価装置に通信可能に接続され、前記処理対象の切削加工に関する加工条件の情報を含む加工プログラムを取得する加工プログラム取得部と、前記安定性評価部による前記切削加工処理の安定性の評価結果に基づいて、前記加工プログラムの修正が必要と判定すると、前記加工プログラム取得部が取得した加工プログラムを修正する加工プログラム修正部と、を備える。
【0019】
また、本開示に係る切削加工の安定性評価方法は切削加工を行う工作機械と前記切削加工に用いる工具との組み合わせごとに生成された、振動特性データを格納した振動特性データベースに通信可能に接続された切削加工の安定性評価方法であって、処理対象の切削加工に用いる工作機械と工具との組み合わせに対応する前記振動特性データベース内の振動特性データに基づいて、前記処理対象の切削加工処理の安定性を評価する。
【0020】
また、本開示に係る切削加工プログラム生成方法は、前記切削加工の安定性評価装置を用いた切削加工プログラム生成方法であって、切削加工プログラム生成装置が、前記処理対象の切削加工に関する加工条件の情報を含む加工プログラムを取得し、前記安定性評価部による前記切削加工処理の安定性の評価結果に基づいて、前記加工プログラムの修正が必要と判定すると、取得した加工プログラムを修正する。
【発明の効果】
【0021】
本開示の切削加工に用いる振動特性データベース、切削加工の安定性評価装置、切削加工プログラム生成装置、切削加工の安定性評価方法、および切削加工プログラム生成方法によれば、びびり振動の発生を抑止しつつ、効率の良い切削加工を実行するための加工プログラム生成を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態に係る切削加工プログラム生成装置の構成を示すブロック図である。
図2】所定の工具の振動特性データと、所定の工作機械の振動特性データと、これらのデータから、一実施形態に係る切削加工プログラム生成装置が生成する結合データとを示す図である。
図3】一実施形態に係る切削加工プログラム生成装置の動作を示すフローチャートである。
図4】一実施形態に係る切削加工プログラム生成装置が生成した安定限界線図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、工作機械が切削加工を行うためのNCプログラムを生成する、切削加工プログラム生成装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0024】
〈一実施形態による切削加工プログラム生成装置の構成〉
図1は、本実施形態による切削加工プログラム生成装置1の構成を示すブロック図である。切削加工プログラム生成装置1は、記憶部10と、入力部20と、CPU30(コントローラ)と、出力部40とを備える。
【0025】
記憶部10は、結合データベース記憶部11と、加工プログラム記憶部12とを有する。結合データベース記憶部11は、CPU30により予め生成される、切削加工に用いる工作機械と工具との組み合わせごとの結合データを格納した結合データベースを記憶する。この結合データは、該当する工作機械の振動特性データと該当する工具の振動特性データとを解析的に結合して生成される加工動作側の振動特性データである。
【0026】
加工プログラム記憶部12は、CPU30により生成される、所定の切削加工を行うためのNCプログラムを記憶する。
【0027】
入力部20は、結合データベースを生成するための各種実験データ、解析データ等を入力する。各種実験データまたは解析データの内容については、後述する。また入力部20は、NCプログラム生成対象の切削加工に関する、工作物形状を含むCAD/CAMデータ、処理条件等を入力する。
【0028】
CPU30(制御部または処理部の一例)は、演算装置、メモリ、及び入出力部を備える汎用のコンピュータである。CPU30には、切削加工プログラム生成装置の一部として機能させるためのコンピュータプログラム(切削加工プログラム生成用プログラム)がインストールされている。コンピュータプログラムを実行することにより、CPU30は、切削加工プログラム生成装置が備える複数の情報処理回路(31、32、33、34、35)として機能する。
【0029】
その他、切削加工プログラム生成用プログラムは、HDD、SSD、USBメモリ、CD、DVD等のコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶できる。コンピュータ読取り可能な記録媒体は、例えば、非一時的な記録媒体である。切削加工プログラム生成用プログラムは、通信ネットワークを介して配信することもできる。
【0030】
なお、以下では、ソフトウェアによって切削加工プログラム生成装置が備える複数の情報処理回路(31、32、33、34、35)を実現する例を示す。ただし、以下に示す各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、情報処理回路(31、32、33、34、35)を構成することも可能である。また、複数の情報処理回路(31、32、33、34、35)を個別のハードウェアにより構成してもよい。
【0031】
CPU30は、結合データベース生成部31と、加工プログラム取得部としての加工プログラム生成部32と、加工条件取得部33と、安定性評価部34と、加工プログラム修正部35とを有する。CPU30内の加工条件取得部33と、安定性評価部34とにより、安定性評価装置300が構成される。
【0032】
結合データベース生成部31は、入力部20から入力された各種データに基づいて、切削加工に用いる工作機械と工具との組み合わせごとの振動特性データである結合データを生成する。結合データベース生成部31はさらに、生成した結合データを格納した、振動特性データベースとしての結合データベースを生成する。
【0033】
加工プログラム生成部32は、入力部20から入力された切削加工に関する処理条件に基づいて、所定の切削加工のためのNCプログラムを生成する。
【0034】
加工条件取得部33は、加工プログラム生成部32が生成したNCプログラムから、処理対象の切削加工内の一部である処理単位に対応するプログラムブロックごとに抽出された、加工条件の情報を取得する。
【0035】
安定性評価部34は、結合データベース記憶部11に記憶された結合データベースを参照して、切削加工の処理単位ごとにびびり振動の発生予測を行って加工処理の安定性を評価し、対応するプログラムブロックの修正の要否を判定する。
【0036】
加工プログラム修正部35は、安定性評価部34が、修正が必要と判定したプログラムブロックの内容を修正する。
【0037】
出力部40は、例えば表示装置で構成され、CPU30内の機能部による実行される処理の情報を出力する。
【0038】
〈一実施形態による切削加工プログラム生成装置の動作〉
本実施形態による切削加工プログラム生成装置1が実行する、(1) 結合データベース生成処理と、(2) 切削加工プログラム生成処理について説明する。
【0039】
(1) 結合データベース生成処理
まず、入力部20から結合データベースを生成するためのデータとして、切削加工に用いる複数の工具ごとの振動特性データ群と、切削加工を行う複数の工作機械ごとの振動特性データ群とが入力される。
【0040】
工具ごとの振動特性データは、工具ごとの周波数応答関数(Frequency Response Function;FRF)である。工具ごとのFRFは、各工具の径、長さ、刃数、刃長等の工具の形状に関するパラメータに基づいて実行された実験結果、またはFEM(Finite Element Method)の手法を用いた解析結果により推定される。周波数応答関数を取得する実験は、例えばハンマリング試験、レーザーや磁場による非接触荷重を用いた加振試験等により実行される。
【0041】
ここで、切削加工において使用が想定される工具の形状は多種多様であり、これらすべての工具に関して実験または解析を行って、入力する振動特性データを準備するには多大な時間と手間を要する。そこで、本実施形態において入力部20は、有限個の工具に関する振動特性データのみを入力する。
【0042】
また、工作機械ごとの振動特性データは、工作機械と、工作機械の本体の主軸に設置されて工具を保持する保持部材であるツールホルダとの組み合わせごとのFRFである。工作機械とツールホルダとの組み合わせごとのFRFは、工作機械とツールホルダとの組み合わせごとに実行された、ハンマリング試験等の実験結果により推定される。工作機械とツールホルダとの組み合わせごとのFRFを用いることで、後述する、切削加工の安定性評価に用いる結合データを、精度良く生成することができる。
【0043】
入力されたこれらのデータは、結合データベース生成部31が取得する。結合データベース生成部31は、取得した各種データに基づいて、切削加工に用いる工作機械と工具との組み合わせごとの振動特性データである結合データを生成する。
【0044】
具体的には、結合データベース生成部31は、切削加工を行う複数の工作機械ごとの振動特性データ群の中の1つと、工具ごとの振動特性データ群の中の1つとの組み合わせごとに、該当する2つの振動特性データを結合した結合データを生成する。例えば、図2のD1に示すような所定の工具の振動特性データと、D2に示すような所定の工作機械の振動特性データとを解析的に結合して、D3に示す結合データを生成する。このように結合データを生成することで、加工動作の振動特性を精度良く予測した結合データを生成することができる。ここで「解析的に結合」とは、工具の振動特性データと、工作機械の振動特性データとを解析した情報から、切削加工処理の安定性評価に用いる振動特性データを生成することをいう。
【0045】
振動特性データを結合する技術は、例えば、Simon S. Park , Yusuf Altintas , Mohammad Movahhedy , Receptance coupling for end mills International Journal of Machine Tools & Manufacture 43 (2003) 889-896に記載の手法を用いることができる。
【0046】
また結合データベース生成部31は、入力部20から入力された有限個の工具に関する振動特性データから、機械的学習またはデータ解析手法を用いることで、入力された振動特性データ以外の、任意の形状の工具の振動特性データを生成し、補完する。その際、結合データベース生成部31は、工具の形状が振動特性に与える影響として断面二次モーメントおよび慣性モーメントの変化を考慮することで、精度良く、任意の形状の工具の振動特性データを補完することができる。
【0047】
結合データベース生成部31は、補完した工具の振動特性データと、入力された工作機械の振動特性データとの組み合わせについても、結合データを生成する。
【0048】
結合データベース生成部31は、上述したように生成した結合データを格納した、振動特性データベースとしての結合データベースを生成する。このように補完した振動特性データを含めて結合データベースを生成することで、少ない手間で、多種多様の形状の工具に関する結合データベースを生成することができる。結合データベース生成部31は、生成した結合データベースを、結合データベース記憶部11に記憶させる。以上で、結合データベース生成処理が終了する。
【0049】
(2) 切削加工プログラム生成処理
図3は、切削加工プログラム生成装置1が実行する切削加工のプログラム生成処理の動作を示すフローチャートである。
【0050】
まず、入力部20からNCプログラム生成対象の切削加工に関する情報として、例えば工作物形状を含むCAD/CAMデータ、加工の要求仕様、加工のリードタイム等の情報が入力されると(S1の「YES」)、入力された情報を、加工プログラム生成部32が取得する。
【0051】
加工プログラム生成部32は、取得した処理条件に基づいて、対象となる切削加工に関するNCプログラムを生成する(S2)。ここで、CAD/CAMデータ内の工具の形状、突き出し長、ツールホルダの種類等の情報が、NCプログラム内の工具番号と紐づけられている。
【0052】
NCプログラムが生成されると、加工条件取得部33が、生成されたNCプログラムの情報および入力されたCAD/CAMデータに基づいて、処理対象の切削加工の処理単位に対応するプログラムブロックごとに、設定された加工条件の情報を取得する。その際、加工条件取得部33は、プログラムブロック内の情報に紐づけられた、CAD/CAMデータ内の工具の形状、突き出し長、ツールホルダの種類等の情報も読み出す。
【0053】
加工条件取得部33は、CAD/CAMデータから得られる工作物形状、工具先端点軌跡、および工具軸方向を参照し、NCプログラムの各行または複数の行で示されるプログラムブロックごとに幾何学計算により、加工条件として、半径方向および軸方向切込み量、工具姿勢角、ならびに切削関与角を算出する。
【0054】
このようにプログラムブロックごとの加工条件を算出することにより、切削加工中に加工条件を意図的に変化させる場合にも、これらの変化に対応して後述する処理の安定性の評価を適正に実行することができる。切削加工中に加工条件を意図的に変化させる場合とは、例えば、切削加工が、粗加工→中仕上げ加工→仕上げ加工というような複数段階を含むことにより、加工の途中で主軸回転速度や切込み量、使用する工具などを変化させる場合、または、複雑な形状を加工するために、工具姿勢角を変化させる場合等である。
【0055】
次に、安定性評価部34が、結合データベース記憶部11に記憶された結合データベースから、切削加工の処理単位ごとの加工条件に対応する結合データを参照して、処理単位ごとに、びびり振動安定限界解析を実行する。安定性評価部34は、例えば周波数領域のzero-order solution法に基づくミリング加工時のびびり振動安定限界解析を実行する。
【0056】
再生びびり振動は、現在の振動変位と一刃前の振動によって創生された工作物表面の変位との位相差によって生じる切削力変動が,構造を加振して振動を成長させる場合に生じる自励振動の一種である。
【0057】
安定性評価部34は、この一巡のループの安定性を評価し、振動が発散する切込み条件の限界を安定限界切込み量として主軸回転数ごとに探索的に求めることで、安定限界解析を実行する。
【0058】
図4は、所定の処理ブロックの加工条件に対応する結合データを参照して実行した安定性限界解析結果に基づいて生成された、主軸回転数ごとの軸方向切込み量の限界値で示す安定限界線図である。図4の安定限界線図内の実線L1は、びびり振動が発散する加工条件と収束する加工条件との境界である安定限界の境界線を示す。境界線L1の上部がびびり振動が発散する加工条件に該当し、下部がびびり振動が集束する加工条件に該当する。
【0059】
安定性評価部34は、安定限界線図内において、評価対象の加工条件に対応する切込み量を示す位置が境界線L1よりも上部にある場合に、該当する処理単位の加工が不安定な状態であり加工条件の改善が必要であると判定する。加工が不安定な状態とは、びびり振動が発生する可能性がある状態である。ここで、境界線L1に解析マージン幅を与え、評価対象の加工条件の安定性を表す指標であるゲインマージンの値が予め設定した閾値を超える場合に加工条件の改善が必要であると判定してもよい。あるいは、解析に使用する比切削抵抗などのパラメータに誤差幅を与え、安定限界を線ではなくマージン幅を持った領域として算出し、これを加工条件改善の判断に用いてもよい。このように境界線Lに解析マージン幅を与えることで、工具ごとの振動特性のばらつきや摩耗による切削抵抗の変化などの影響による解析誤差を吸収して、加工条件の改善の要否を判定することができる。
【0060】
安定性評価部34は、加工条件の改善が必要と判定した処理単位があったときには(S5の「YES」)、図4のように、安定限界線図内に安定限界の境界線L1と、改善が必要であると判定した加工条件に対する位置P1とを示した報知情報を出力部40に出力する。このように報知情報を出力することで、加工条件の改善が必要と判定した処理単位があったこと、および処理の不安定度合いを切削加工プログラム生成装置1の利用者に報知することができる。
【0061】
また、加工プログラム修正部35は、判定結果をCAMなどの工程設計へフィードバックすることで、加工条件の改善が必要と判定した処理単位のプログラムブロックを、安定した推奨加工条件による加工となるように修正を行う(S6)。
【0062】
加工プログラム修正部35は、推奨加工条件として、例えば安定限界線図の中の現行の加工条件の近辺で安定限界の境界線L1より下部で、境界線L1からの所定距離にある点線L2上にあり、且つ、加工能率が高い加工条件を選択する。
【0063】
ここで、推奨加工条件として複数の候補が選択される場合、既定の仕上げ面理論粗さや切削力を満たすとともに工作機械の動作制約を満たす加工条件の中で、例えば主軸回転速度が最大となる条件、または切込み量が最大となる条件等、高い安定性を有しつつ高能率な加工条件を、採用対象として決定する。または、複数の推奨加工条件候補の情報を出力部40に出力させ、採用する加工条件を利用者に選択させてもよい。図4の安定限界線図内の位置P2は、採用対象として決定した加工条件に対応する位置である。
【0064】
加工プログラム修正部35は、採用対象として決定した加工条件に基づいて、修正対象のプログラムブロックの修正を行う。加工プログラム修正部35が修正対象のプログラムブロックの修正を行うと、ステップS2に戻る。ステップS2~S6の処理は、安定性評価部34で加工条件の改善が必要な処理単位がないと判定される(S5の「NO」)まで、繰り返される。
【0065】
加工プログラム生成部32は、加工プログラム修正部35により修正が加えられたことにより、加工条件の改善が必要ないと判定されたNCプログラムを、加工プログラム記憶部12に記憶させる。NC装置(図示せず)は、加工プログラム記憶部12に記憶されたNCプログラムにより、所定の切削加工を安全に実行することができる。
【0066】
以上の実施形態によれば、切削加工プログラム生成装置1は、工作機械と工具との組み合わせごとに生成された振動特性データを用いて、切削加工処理の安定性評価を高い精度で行うことができる。また切削加工プログラム生成装置1は、精度の高い安定性評価結果に基づいて、びびり振動の発生を抑止しつつ、効率の良い切削加工を実行するためのNCプログラムを生成することができる。
【0067】
本実施形態の切削加工プログラム生成装置1は、NCプログラムの作成段階でびびり振動の発生の有無を予測し、びびり振動が発生しないような加工条件でNCプログラムを生成することができる。そのため、プログラム作成後の修正では対応することができないような径方向切込み量または軸方向切込み量の変更も行いつつ加工条件を調整することができ、安定性が高く且つ加工能率の高いNCプログラムを生成することができる。
【0068】
上述した実施形態では、切削加工プログラム生成装置1が予め、工作機械の振動特性データと工具の振動特性データとを解析的に結合することで結合データを生成して記憶し、これを用いて加工処理の安定性を評価する場合について説明した。しかしこれには限定されず、切削加工プログラム生成装置1は、工作機械と工具との組み合わせごとに生成された、切削加工を行う際の加工動作側の振動特性データを予め記憶し、これを用いて加工処理の安定性を評価してもよい。このように処理を行うことで、簡易に加工処理の安定性評価を実行することができる。
【0069】
また上述した実施形態では、使用する工作機械と工具の組み合わせごとに生成された振動特性データに対して、生成された安定限界線図に基づく安定性の評価によって加工条件の変更が必要であると判断された際には、切込み量や主軸回転数を変更する場合について説明した。しかしこれには限定されず、使用する工具の変更による加工条件の修正を行ってもよい。
【0070】
この場合、使用する工作機械と工具の組み合わせごとに生成された振動特性データに対して、その固有周波数の情報からびびり振動の再生効果を打ち消すような工具ピッチ角の変更内容を算出する。加工プログラム修正部35は、算出した情報により、推奨加工条件となるように該当するプログラムブロックの修正を行う。
【0071】
また、上述した実施形態では、工具のFRFと、工作機械とツールホルダとの組み合わせごとのFRFとから、結合データを生成する場合について説明した。しかしこれには限定されず、工具とツールホルダとの組み合わせごとのFRFと、工作機械のFRFとから、結合データを生成してもよい。
【0072】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 切削加工プログラム生成装置
10 記憶部
11 結合データベース記憶部
12 加工プログラム記憶部
20 入力部
31 結合データベース生成部
32 加工プログラム生成部
33 加工条件取得部
34 安定性評価部
35 加工プログラム修正部
40 出力部
300 安定性評価装置
図1
図2
図3
図4