(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013687
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】屋上緑化雨水一時貯留装置
(51)【国際特許分類】
A01G 27/02 20060101AFI20240125BHJP
E04D 13/00 20060101ALI20240125BHJP
A01G 27/00 20060101ALI20240125BHJP
A01G 9/02 20180101ALI20240125BHJP
A01G 20/10 20180101ALI20240125BHJP
【FI】
A01G27/02 B
E04D13/00 Z
A01G27/00 502R
A01G9/02 E
A01G20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115970
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000217365
【氏名又は名称】田島ルーフィング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522291555
【氏名又は名称】田島緑化工事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 康夫
(72)【発明者】
【氏名】後藤 良昭
(72)【発明者】
【氏名】觸澤 隆
(72)【発明者】
【氏名】石井 克美
【テーマコード(参考)】
2B022
2B327
【Fターム(参考)】
2B022AB04
2B327ND01
2B327NE11
2B327UA09
2B327UA13
(57)【要約】
【課題】例えば集中豪雨が発生したような場合に、建物の屋上に降り注いだ雨水を一時的に貯留することにより、地上への排水、ひいては河川への流入を遅延させ、河川の氾濫や浸水害を抑制できる屋上緑化雨水一時貯留装置を提供する。
【解決手段】建造物の屋上または屋根の防水層上に構築され、土壌を含む緑化領域内に配置される屋上緑化雨水一時貯留装置は、前記緑化領域の重力方向下方に配置され、土壌の通過を制限するが、水の透過を許容するフィルター層と、前記フィルター層の重力方向下方に配置された通水部と、前記緑化領域に対して水平方向に側壁を隔てて配置され、前記フィルター層を透過し、前記通水部を介して進入した水を貯留する貯留部と、前記貯留部から水を排出する排水口と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の屋上または屋根の防水層上に構築され、土壌を含む緑化領域内に配置される緑化用水貯留装置であって、
前記緑化領域の重力方向下方に配置され、土壌の通過を制限するが、水の透過を許容するフィルター層と、
前記フィルター層の重力方向下方に配置された通水部と、
前記緑化領域に対して水平方向に側壁を隔てて配置され、前記フィルター層を透過し、前記通水部を介して進入した水を貯留する貯留部と、
前記貯留部から水を排出する排水口と、を有する、
ことを特徴とする屋上緑化雨水一時貯留装置。
【請求項2】
前記側壁は、重力方向に沿って延在し且つ相互に対面する第1壁部及び第2壁部と、前記第1壁部及び前記第2壁部の一方の側縁同士を接続する第3壁部と、前記第1壁部及び前記第2壁部の他方の側縁同士を接続する第4壁部とを有し、
前記第4壁部は、前記排水口を有しており、前記緑化領域の内外を仕切る見切り部材の立ち上がり部に隣接して、前記排水口を露出するように設置可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載の屋上緑化雨水一時貯留装置。
【請求項3】
前記第4壁部の外面は、前記見切り部材の立ち上がり部の外面と略同一面に沿って設置可能である、
ことを特徴とする請求項2に記載の屋上緑化雨水一時貯留装置。
【請求項4】
前記第4壁部の外面は、前記見切り部材の立ち上がり部の内面に当接し、前記立ち上がり部は、前記第4壁部が当接したときに前記排水口が露出する開口を備える、
ことを特徴とする請求項2に記載の屋上緑化雨水一時貯留装置。
【請求項5】
前記第4壁部は、前記貯留部に貯留された水が所定量を超えたとき、前記排水口以外から排水を行うオーバーフロー開口を有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の屋上緑化雨水一時貯留装置。
【請求項6】
前記側壁は、重力方向に沿って延在し且つ相互に対面する第1壁部及び第2壁部と、前記第1壁部及び前記第2壁部の一方の側縁同士を接続する第3壁部とを有し、
前記第1壁部及び前記第2壁部の他方の側縁は、前記緑化領域の内外を仕切る見切り部材の立ち上がり部に当接し、または隙間を開けて対向するように設置可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載の屋上緑化雨水一時貯留装置。
【請求項7】
前記貯留部に貯留された水が所定量を超えたとき、前記排水口以外から排水を行うオーバーフロー開口が、前記排水口とともに前記見切り部材に配設されている、
ことを特徴とする請求項6に記載の屋上緑化雨水一時貯留装置。
【請求項8】
前記第1壁部及び前記第2壁部の他方の側縁から、前記緑化領域の内外を仕切る見切り部材の立ち上がり部に沿って互いに離間する方向に延在する羽根板を有する、
ことを特徴とする請求項2~7のいずれか一項に記載の屋上緑化雨水一時貯留装置。
【請求項9】
前記第1壁部、前記第2壁部及び前記第3壁部の少なくとも一つに、前記通水部から前記貯留部に水を取り込む入水口が形成されている、
ことを特徴とする請求項2~7のいずれか一項に記載の屋上緑化雨水一時貯留装置。
【請求項10】
前記通水部は、前記フィルター層を支持する支持部と、前記支持部に対して重力方向下方に配置され前記貯留部の底部に繋がる流路部と、を有する、
ことを特徴とする請求項1~7いずれか一項に記載の屋上緑化雨水一時貯留装置。
【請求項11】
前記排水口は、排水量を調節可能に構成されている、
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の屋上緑化雨水一時貯留装置。
【請求項12】
前記排水口を通過する水が流れる樋部材が排水制限部を有し、前記樋部材を交換することにより排水量を調節可能である、
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の屋上緑化雨水一時貯留装置。
【請求項13】
前記貯留部を覆うカバーを有する、
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の屋上緑化雨水一時貯留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋上緑化雨水一時貯留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に夏期において、ゲリラ豪雨とも称される集中豪雨が多発している。都市部などでは緑化地域が少なく、多くの地面はコンクリートやアスファルトにより覆われている。このため、集中豪雨が発生すると、降り注いだ大量の雨水が地面に蓄えられることが少なく、速やかに河川に集中して流れ込み、氾濫等を引き起こし、それにより甚大な浸水被害を与えるおそれがある。
【0003】
これに対し、都市部においても、特許文献1に示すように、例えば建物の屋上を緑化することが既に行われている。そこで、集中豪雨発生時に、屋上に載置できる緑化部の土壌に雨水を貯留することも一案である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的には、屋上に載置できる緑化部の土壌の量は限られるため、土壌に蓄えられる水分の量も制限される。このため、建物の屋上に設置した従来の緑化部では、集中豪雨発生時に河川に雨水が集中することを防げないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて、例えば集中豪雨が発生したような場合に、建物の屋上に降り注いだ雨水を一時的に貯留することにより、地上への排水、ひいては河川への流入を遅延させ、河川の氾濫や浸水害を抑制できる屋上緑化雨水一時貯留装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、代表的な本発明の屋上緑化雨水一時貯留装置の一つは、
建造物の屋上または屋根の防水層上に構築され、土壌を含む緑化領域内に配置される緑化用水貯留装置であって、
前記緑化領域の重力方向下方に配置され、土壌の通過を制限するが、水の透過を許容するフィルター層と、
前記フィルター層の重力方向下方に配置された通水部と、
前記緑化領域に対して水平方向に側壁を隔てて配置され、前記フィルター層を透過し、前記通水部を介して進入した水を貯留する貯留部と、
前記貯留部から水を排出する排水口と、を有する、ことにより達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば集中豪雨が発生したような場合に、建物の屋上に降り注いだ雨水を一時的に貯留することにより、地上への排水、ひいては河川への流入を遅延させ、河川の氾濫や浸水害を抑制できる屋上緑化雨水一時貯留装置を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1の実施形態にかかる屋上緑化雨水一時貯留装置を緑化部に設置した状態で、鉛直方向の面で切断した状態を示す断面図である。
【
図2】
図2は、設置された屋上緑化雨水一時貯留装置を見切り部材とともに外部から視認した状態で示す斜視図である。
【
図3】
図3は、貯水槽を分解して示す斜視図であり、見切り部材の一部とともに示す図である。
【
図4】
図4は、透水フィルター及び保水排水通気構造の一部を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、貯水槽を、第1の変形例にかかる見切り部材とともに外部から視認した状態で示す斜視図である。
【
図6】
図6は、貯水槽を、第2の変形例にかかる見切り部材とともに外部から視認した状態で示す斜視図である。
【
図7】
図7は、第2の実施形態にかかる貯水槽を分解して示す斜視図であり、見切り部材の一部とともに示す図である。
【
図8】
図8は、第1の実施形態の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態を説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態にかかる屋上緑化雨水一時貯留装置を緑化部に設置した状態で、鉛直方向の面で切断した状態を示す断面図であり、図で上下方向が重力方向である。
図2は、設置された屋上緑化雨水一時貯留装置を見切り部材とともに外部から視認した状態で示す斜視図であるが、緑化部の構成は省略する。
【0012】
貯水槽10は、建造物の屋上や屋根、ベランダ等の設置面FLに設置される。見切り部材1に囲われたその内側は緑化部(緑化領域)となり、その外側は非緑化部となる。本実施形態では、
図2に示すように、設置面FL上で緑化領域に対して側壁を隔てて隣接する貯水槽10は、見切り部材1の途切れた部分を埋めるように配置される。
【0013】
例えばアルミ材から形成される見切り部材1は、設置面FLの緑化部側に設置される水平板1aと、水平板1aの外縁に接続された垂直板(立ち上がり部)1bと、垂直板1bの上縁に接続され水平板1aと同方向に向かって平行に延在する軒板1cと、軒板1cの先端から下方に向かって延在する縁板1dとを、連設してなる。
【0014】
見切り部材1の内側の緑化部は、
図1に示すように植栽2が植えられている植栽部であり、上から重力方向に沿って、風飛び防止ネット3、土壌飛散防止層4、土壌層5、透水フィルター(フィルター層)6、保水排水通気構造7(通水部)が配設されている。保水排水通気構造7の下方において、設置面FLに防水シート8が張り合わされている。防水シート8の上面に耐根シートを貼り付けることもある。防水シート8単体、または防水シート8と耐根シートの組み合わせにより防水層を構成する。緑化部に隣接して貯水槽(貯留部)10が配置される。透水フィルター6、保水排水通気構造7、及び貯水槽10により、屋上緑化雨水一時貯留装置を構成する。
【0015】
図3は、貯水槽10を分解して示す斜視図であり、見切り部材1の一部とともに示す。
図3において、例えばステンレス材から形成される貯水槽10は、重力方向に沿って延在し且つ相互に対面する左壁10a(第1壁部)及び右壁10b(第2壁部)と、左壁10a及び右壁10bの後側縁同士を接続する後壁10c(第3壁部)と、左壁10a及び右壁10bの前側縁同士を接続する前壁10d(第4壁部)と、を連設してなる4つの側壁を持つ角筒状の構造であり、底壁と頂壁は有していない。平板状の蓋(カバー)11が、左壁10a、右壁10b、後壁10c及び前壁10dに当接可能に設けられ、貯水槽10の上部を遮蔽可能に設けられる。
【0016】
左壁10a、右壁10b、後壁10c及び前壁10dのいずれかの内面に、下端からの高さを示す目盛りSC(
図1)を形成してもよい。
【0017】
左壁10a、右壁10b及び後壁10cの下端には、入水口10e(または切欠)が形成されている。ただし、左壁10a、右壁10b及び後壁10cのいずれかに、入水口10eが形成されていれば足りる。一方、
図2に示すように、前壁10dの下端には、排水口10f(または切欠)が形成され、前壁10dの下端から所定の高さに、オーバーフロー開口10gが形成されている。オーバーフロー開口10gの開口面積は、排水口10fの開口面積より大きい。
【0018】
図3において、左壁10a、右壁10b及び後壁10cの下端に接続されるようにして、コ字状の底羽根板10hが形成されている。さらに、矩形状の左羽根板10iが、左壁10aの前側縁に接続され前壁10dと対向して延在し、また矩形状の右羽根板10jが、右壁10bの前側縁に接続され前壁10dと対向して延在している。左羽根板10iと右羽根板10jの下端は、底羽根板10hの端部に接続している。
【0019】
貯水槽10は、蓋11がかぶせられた状態で、底羽根板10hが防水シート8(
図1)(または耐根シート)上に設置され、左羽根板10iと右羽根板10jが見切り部材1の垂直板1bと縁板1dとの間に挿入され、前壁10dが見切り部材1の間から露出するようにして配置される。このとき、見切り部材1と、左壁10a及び右壁10bとの間に隙間があっても、左羽根板10iと右羽根板10jにより、かかる隙間から土壌の落下や水の漏れが生ずることを抑制できる。なお、前壁10dの外面が、隣接する見切り部材1の外面と略同一面に沿うようにすれば、美観の観点から好ましい。
【0020】
さらに互いに接した底羽根板10hと設置面FL(または防水シート8あるいは耐根シート)上とにかけて防水テープが貼り付けられ、また互いに接した左羽根板10i及び右羽根板10jと垂直板1bとの間に防水テープが貼り付けられる。
【0021】
図1において、貯水槽10に隣接して緑化部に配置される風飛び防止ネット3は、土壌飛散防止層4の上にその全面を覆うように設置され、植栽2や土壌飛散防止層4、土壌層5の風飛びを防止する風飛び防止部材である。風飛び防止ネット3は、例えば、ポリエチレン製のネット等を利用することができる。
【0022】
土壌飛散防止層4は、土壌層5の表面を覆い、土壌の飛散を防止する。さらに、土壌飛散防止層4により、美観を高めることも可能である。土壌飛散防止層4は、例えば、火山砂利等のマルチング材等を利用することができる。
【0023】
土壌層5は、植栽2の土壌となる層である。土壌層5は、例えば、ソイル等を利用することができる。
【0024】
透水フィルター6は、土壌層5の客土の流出を防止すると共に、土壌層5の水を透過して保水排水通気構造7に排出する層である。保水排水通気構造7は、土壌層5からの水を排水したり、また、通気を促したりする層である。
【0025】
図4は、透水フィルター6及び保水排水通気構造7の一部を示す斜視図である。透水フィルター6は不織布などから形成される。透水フィルター6は柔軟な素材からなるため、
図1に示すように、水平な状態から垂直な状態に曲げられて、貯水槽10の左壁10a、右壁10b及び後壁10cにかけ渡されることができる。貯水槽10に対して、養生テープを用いて透水フィルター6を固定すると好ましい。
【0026】
保水排水通気構造7は、平板状の基板7aと、基板7aにおいてマトリクス状に間隔をあけて配設された複数の凹部7bと、基板7a上において凹部7bの間に配設された凸部(支持部)7cとを有する。凸部7cは、十字の切欠部7dを有し、また頂面に貫通孔7eを有する。保水排水通気構造7は、凹部7bが形成されることにより下方に角錐台状に突出した複数の突出部7fを有する。突出部7fは、基板7aの下面において離間して形成され、防水シート8(または耐根シート)の上面に当接する。これにより保水排水通気構造7が、防水シート8(または耐根シート)上に保持される。
【0027】
透水フィルター6に保水排水通気構造7を重ねたとき、凸部7cが透水フィルター6の下面に当接して支持する機能を有する。この時、切欠部7dがあるため、透水フィルター6が基板7aに密着した状態でも、保水排水通気構造7の通気性を確保できる。
【0028】
図1において、防水シート8は、防水性があり少なくとも片面が粘着性のあるテープやシート等であり、緑化部から周辺部への水の浸みだしを防止する機能を有する。防水シート8上に耐根シートを設ける場合、耐根シートは、生長した植物の根が防水シート8に侵入、貫入することを防ぐ自着層として機能する。保水排水通気構造7と防水シート8(または耐根シート)との間であって、隣接する突出部7fの間が、貯水槽10の底部に設けた入水口10eに連通する流路部を構成する。
【0029】
図1を参照して、本実施形態の作用について説明する。雨水や散水により植栽2に降り注いだ水は、風飛び防止ネット3や土壌飛散防止層4を透過して土壌層5に至る。土壌層5に蓄えられた水分は植栽2の生育に利用されるが、土壌層5に蓄えられた水分以外の水は、透水フィルター6を通過して濾過・浄水され、枯葉などの不純物が除かれた状態で保水排水通気構造7に至る。保水排水通気構造7に至った水の一部は凹部7bに貯水され、また別の一部は貫通孔7eを通過して保水排水通気構造7の下方に流れる。このため、保水排水通気構造7の下方にて通水を邪魔する堆積物が生じない。
【0030】
保水排水通気構造7の下方に流れた水は、防水シート8(または耐根シート)の上面を伝わって、貯水槽10に到達し、入水口10eを介して貯水槽10の内部に進入し、ここに貯留される。ただし、左壁10a、右壁10b、及び後壁10cの下端と防水シート8(または耐根シート)との間を通過して、貯水槽10の内部に水が進入することもある。貯水槽10の排水口10fは、一定時間(例えば24時間)の排水に適した開口面積を持つため、排水口10fを介して見切り部材1の外部に排出される水の量が制限される。このため、貯水槽10の内部には、常に所定量の水が貯留されることとなる。すなわち本実施形態の屋上緑化雨水一時貯留装置によれば、見切り部材1で囲われた領域全体を貯水領域として利用できるため、大量の雨水を一時的に貯留できる。また、簡素な構成で電源も不要でありながら、土壌に含まれる水分量を自然に調整できる。なお、排水口10fにシャッタや絞りなどを設けて開口面積を可変とすれば、排水量を任意に調整できる。
【0031】
緑化部の管理者は、蓋11を開けて貯水槽10の内部を視認することにより、貯留された水の残量を把握することができ、また、万が一の排水部の詰まりなどを点検確認できる。このとき、貯水槽10の内面に目盛りSCが形成されていれば、目盛りSCと水面とを比較することで、貯水された残量を正確に把握できる。
【0032】
一方、豪雨などにより緑化部に大量の雨水が短時間に降り注いだ場合(例えば50mm/h)、保水排水通気構造7と防水シート8(または耐根シート)との間を通って、貯水槽10内に進入する水の量も多くなる。本実施形態の屋上緑化雨水一時貯留装置によれば、集中豪雨が発生したような場合に、建物の屋上に降り注いだ雨水を一時的に貯留することにより、地上への排水、ひいては河川への流入を遅延させ、河川の氾濫や浸水害を抑制できる。なお、排水口10fからの排水量は制限されるため、貯水槽10内の貯水量は入水量に応じて増加することとなる。しかし、貯水槽10内の貯水量が限界量を超えたとき、オーバーフロー開口10gを介して見切り部材1の外部に余剰水が排出される。これにより、緑化部が多量の水で溢れることが抑制される。
【0033】
(変形例1)
図5は、貯水槽10を、第1の変形例にかかる見切り部材1Aとともに外部から視認した状態で示す斜視図であるが、緑化部の構成は省略する。本変形例の見切り部材1Aは、垂直板1Abに下端から上方に向かって形成された大開口1Aeを有する。それ以外の構成(貯水槽10を含む)は、上述した実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0034】
貯水槽10は、前壁10d、及び左壁10aと右壁10b(
図5では不図示)の一部が、見切り部材1Aの水平板1Aaに乗りあがるようにして配置され、見切り部材1Aの垂直板1Abの内面に前壁10dを接することとなる。このとき、排水口10fとオーバーフロー開口10gは、大開口1Aeから露出するように位置する。これにより、貯水槽10から制限された水が排水口10fを介して排出され、また貯水槽10のオーバーフロー時に、余剰水がオーバーフロー開口10gを介して排出される。
【0035】
本変形例によれば、貯水槽10を設置するために、見切り部材を分離する必要がないため、緑化部の土壌や植栽、落ち葉などが貯水槽10と見切り部材との間から洩れ出ることが抑制される。なお、貯水槽10に左羽根板10iと右羽根板10jを設けなくてもよい。
【0036】
(変形例2)
図6は、貯水槽10を、第2の変形例にかかる見切り部材1Bとともに外部から視認した状態で示す斜視図であるが、緑化部の構成は省略する。本変形例の見切り部材1Bは、レンガやブロックなどを積み上げてなる。それ以外の構成(貯水槽10を含む)は、上述した実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0037】
貯水槽10は、見切り部材1Bの外面に、左羽根板10iと右羽根板10jの内面が接するようにして配置される。このとき底羽根板10h(
図6では不図示)の一部は、重量物である見切り部材1Bの下方に位置するため、貯水槽10が安定した状態で保持される。
【0038】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態にかかる貯水槽10Cを分解して示す斜視図であり、見切り部材1Cの一部とともに示す。
図7において、例えばステンレス材から形成される貯水槽10Cは、重力方向に沿って延在し且つ相互に対面する左壁10Ca(第1壁部)及び右壁10Cb(第2壁部)と、左壁10a及び右壁10bの後側縁同士を接続する後壁10Cc(第3壁部)とを連設してなる3つの側壁を持つ構造であり、前壁と底壁と頂壁は有していない。蓋(カバー)11Cが、左壁10Ca、右壁10Cb、及び後壁10Ccに当接可能に設けられ、貯水槽10Cの上部を遮蔽可能となっている。
【0039】
左壁10Ca、右壁10Cb及び後壁10Ccの下端から所定距離だけ上方の位置に、左壁10Ca、右壁10Cb及び後壁10Ccの外面に水平に接続されるようにして、コ字状の中間羽根板10Ckが形成されている。中間羽根板10Ckは、例えば保水排水通気構造7の基板7a(
図4)を支持するために用いることができる。ただし、中間羽根板10Ckは、必ずしも設ける必要はなく、仕様に応じて取捨選択できる。
【0040】
左壁10Ca、右壁10Cb及び後壁10Ccの下方には、入水口10Ce(または切欠)が形成されている。ただし、左壁10Ca、右壁10Cb及び後壁10Ccのいずれかに、入水口10Ceが形成されていれば足りる。
【0041】
図7において、左壁10Ca、右壁10Cb及び後壁10Ccの下端に接続されるようにして、コ字状の底羽根板10Chが形成されている。さらに、左羽根板10Ciが、左壁10Caの前側縁に接続され、また右羽根板10Cjが、右壁10Cbの前側縁に接続され、左羽根板10Ciと右羽根板10Cjとは互いに対向して延在している。左羽根板10Ciと右羽根板10Cjの下端は、底羽根板10Chの端部に接続している。
【0042】
見切り部材1Cは、水平板1Caと、水平板1Caの外縁に接続された垂直板(立ち上がり部)1Cbと、垂直板1Cbの上縁に接続され水平板1Caと同方向に向かって平行に延在する軒板1Ccと、軒板1Ccの先端から下方に向かって延在する縁板1Cdとを、連設してなる。本実施形態では、水平板1Caから縁板1Cdの下端までの高さは、蓋11Cをかぶせた貯水槽10Cの高さより高くなっている。本実施形態では、貯水槽10Cと見切り部材1Cとで、貯留部を構成する。
【0043】
垂直板1Cbは、水平板1Caに近接する位置に、矩形状の排水口1Ceを有する。排水口1Ceには、樋部材12Cが取り付けられる。
【0044】
樋部材12Cは、突き当て板12Caと、突き当て板12Caに対して交差する方向に延在する角筒状の導水筒12Cbとを有する。突き当て板12Caは、矩形開口12Ccを有しており、導水筒12Cbの一端12Cdが矩形開口12Ccに接続されている。導水筒12Cbの一端12Cdは、矩形状の排水口1Ceと断面が略等しい。一方、導水筒12Cbの他端12Ceは、一端12Cdよりも断面が小さく形成されている。すなわち、導水筒12Cbの他端12Ceが排水制限部を構成する。
【0045】
組付け時に、導水筒12Cbを排水口1Ceに挿通し、見切り部材1Cの内面に突き当て板12Caの外面を当接させることで、樋部材12Cは、排水口1Ceを覆い、かつ他端12Ceが見切り部材1Cから突出した状態で、見切り部材1Cに取り付けられる。
【0046】
また、貯水槽10Cは、蓋11Cがかぶせられた状態で、底羽根板10Chが防水シート8(
図1)(または耐根シート)上に設置され、左羽根板10Ciと右羽根板10Cjが見切り部材1Cの垂直板1Cbと縁板1Cdとの間に挿入され、後壁10Ccが見切り部材1Cの排水口1Ceに対向するようにして配置される。左壁10Ca及び右壁10Cbは、見切り部材1Cの内面に当接させると好ましいが、隙間を開けて配設してもよい。
【0047】
さらに互いに接した底羽根板10Chと設置面FL(または防水シート8あるいは耐根シート)上とにかけて防水テープが貼り付けられ、また互いに接した左羽根板10Ci及び右羽根板10Cjと垂直板1Cbとの間に防水テープが貼り付けられる。
【0048】
本実施形態においても、入水口10Ceを介して貯水槽10Cの内部に進入した水は、貯水槽10Cの内部に貯留され、また排水口1Ceに配置された樋部材12Cの導水筒12Cbを介して排出される。このとき、導水筒12Cbの他端12Ceが見切り部材1Cの外面から離間しているため、見切り部材1Cが泥水で汚染されることが抑制され、美観を保持する上で好ましい。なお、他端12Ceの断面積を変えた樋部材12Cに交換することで、導水筒12Cbを通過する排水の量を容易に変更することができる。また、上述した実施の形態と同様に、オーバーフロー開口1Cfを見切り部材1Cにおける排水口1Ceの上に形成しているため、余剰水の排出が可能になる。
【0049】
(変形例3)
図8は、第1実施形態の変形例を示す斜視図である。本変形例は、
図2の実施形態に対して、筐体10に樋部材12Dを取り付けている点が異なる。それ以外の構成は、第1の実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0050】
樋部材12Dは、筐体10の前壁10dに取り付けられる角筒状の導水筒12Dbを有する。導水筒12Dbの一端12Ddは、前壁10dの排水口10fと同じ断面形状であり、排水口10fに接続するようにして、前壁10dに脱着可能に取り付けられる。第2実施形態と同様に樋部材12Dに突き当て板を設けたうえで、導水筒12Dbを前壁10dの内側から排水口10fに差し込むようにして取り付けてもよい。一方、導水筒12Dbの他端(先端)12Deは、一端12Ddすなわち排水口10fよりも断面積が小さく形成されている。すなわち、導水筒12Dbの他端12Deが排水制限部を構成する。
【0051】
本変形例においても、入水口10eを介して貯水槽10の内部に進入した水は、貯水槽10の内部に貯留され、さらに排水口10f(
図2)を通り、その周囲に配置された樋部材12Dの導水筒12Dbを介して、前壁10dから離れた位置に排水される。
【0052】
樋部材12Dは、導水筒12Dbの他端12Deの断面積が異なるものと交換することにより排水量を調整できるため、屋上緑化雨水一時貯留装置に貯留する水の量を任意に変更できる。樋部材12D及び排水口10fは、筐体10の底部近傍に取り付けると好ましい。
【0053】
一方、上記実施形態及び変形例において、オーバーフロー開口10gは、屋上緑化部の土壌層5の表面よりも下方になるように配置することが好ましい。オーバーフロー開口10gを土壌層5の表面よりも高い位置に設けると、豪雨の際に屋上緑化部より流れ出る落ち葉や多量の土壌により建物のドレンを詰まらせ、それにより排水障害を引き起こすことが危惧されるためである。
【0054】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されない。本発明の範囲内において、上述の実施形態の任意の構成要素の変形が可能である。また、上述の実施形態において任意の構成要素の追加または省略が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1,1A,1B,1C 見切り部材
2 植栽
3 風飛び防止ネット
4 土壌飛散防止層
5 土壌層
6 透水フィルター(フィルター層)
7 保水排水通気構造7(通水部)
8 防水シート又は耐根シート
10,10C 貯水槽
11,11C 蓋
12C、12D 樋部材