(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136886
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
B60W 10/04 20060101AFI20240927BHJP
F16H 59/18 20060101ALI20240927BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20240927BHJP
F16H 59/02 20060101ALI20240927BHJP
B60W 10/107 20120101ALI20240927BHJP
【FI】
B60W10/00 104
F16H59/18
F16H63/50
F16H59/02
B60W10/04
B60W10/107
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048183
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】岩野 勉
(72)【発明者】
【氏名】井川 将
(72)【発明者】
【氏名】山本 淳一
【テーマコード(参考)】
3D241
3J552
【Fターム(参考)】
3D241AA21
3D241AA32
3D241AA51
3D241AC01
3D241AC20
3D241AD02
3D241AD11
3D241AD31
3J552MA02
3J552MA07
3J552MA12
3J552MA29
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA02
3J552PA32
3J552PA51
3J552QC09
3J552QC10
3J552RA08
3J552RA28
3J552RB16
3J552UA09
3J552VA71W
3J552VC01W
3J552VD03W
3J552VD16W
(57)【要約】 (修正有)
【課題】過渡変速制御において、エンジン回転数を漸増させる段階で走行モードが切り替えられたとしても、使用者が望むドライビングフィーリングを実現できる車両を提供する。
【解決手段】車両1は、通常モード及びパワーモードから走行モードを選択するモード設定部98と、ECU91とを備えている。ECU91は、アクセル開度が所定の閾値を超える変動率で大きくなることを条件として、入力回転数を所定期間上昇させる第一変速段階と、入力回転数を第一変速段階よりも緩やかに上昇させる第二変速段階とを経て入力回転数を上昇させる過渡変速制御を実行するものであり、通常モードでの過渡変速制御の実行中に、第二変速段階の途中でパワーモードへの走行モードの切り替えが行われた場合に、目標回転数をパワーモードに応じた値に変更して、過渡変速制御をリスタートさせる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機と、
前記変速機に対して動力を出力する動力源と、
所定の第一モード、及び前記第一モードよりも目標回転数を高く設定する第二モードを含む複数の走行モードから一の走行モードを任意に選択して設定可能なモード設定部と、
制御装置と、
を備えた車両であって、
前記制御装置が、
アクセル開度が所定の閾値を超える変動率で大きくなることを条件として、
目標回転数に向けて、記動力源から前記変速機への入力回転数を所定期間に亘って上昇させる第一変速段階と、
前記第一変速制御の後に、前記動力源から前記入力回転数を前記目標回転数に向けて前記第一変速段階よりも緩やかに上昇させる第二変速段階と、
を含む複数の段階を経て、前記入力回転数を上昇させる過渡変速制御を実行するものであり、
前記第一モードが選択された状態で前記過渡変速制御を実行している過程において、前記第二変速段階の途中で、前記第一モードから前記第二モードへの前記走行モードの切り替えが行われることを条件として、前記目標回転数を前記第二モードに応じた値に変更して、前記過渡変速制御をリスタートさせること、を特徴とする車両。
【請求項2】
前記変速機が、動力が入力される入力軸、及び動力を出力する出力軸の間にベルト変速機構を有するものであること、を特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記変速機が、
動力が入力される入力軸、及び動力を出力する出力軸の間の第一動力伝達経路上に介在される第一係合要素と、
前記入力軸と前記出力軸との間の第二動力伝達経路に介在される第二係合要素と、を備え、
前記第二動力伝達経路上にベルト変速機構を有し、
前記第一係合要素の解放および前記第二係合要素の係合により、前記ベルト変速機構によるベルト変速比が大きいほど前記入力軸と前記出力軸との間でのトータル変速比が大きくなる第一モードとなり、
前記第一係合要素の係合および前記第二係合要素の解放により、前記ベルト変速比が大きいほど前記トータル変速比が小さくなる第二モードとなるものであること、を特徴とする請求項1に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されているように、無段変速機を搭載した車両において、使用者が任意に操作可能とされた切換スイッチ等の操作により、走行モードを通常モードやパワーモード等の複数のモードから選択可能としたものが提供されている。パワーモードは、通常モードよりも加速力が高く、スポーティなドライビングフィーリングを実現する等の目的で設定された走行モードである。そのため、パワーモードがオン状態とされた場合には、高回転数域でエンジンの出力特性を最大限に生かすべく、目標回転数が通常モードよりも高く設定する制御が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、本発明者らは、上述した従来技術のようにパワーモードのような走行モードを選択可能とした車両において、キックダウン等によってアクセル開度が急激に大きくなった場合の挙動について検討を行った。
【0005】
キックダウン等によってアクセル開度が急激に大きくなった場合、エンジン回転数を急激に上げることによって、エンジンやトランスミッションに過剰な負荷が作用するのを回避する等の目的で、段階を経てエンジン回転数を上昇させる制御が行うと良い。具体的には、無段変速機を搭載した車両においてキックダウンが行われた場合、先ず初期段階(第一変速段階)において目標回転数に向けて短期間のうちにエンジン回転数を上昇させることにより、ユーザの要望に応じた大幅な加速を行う制御を行う。その後、次の段階(第二変速段階)において目標回転数に向けてエンジン回転数を徐々に向上させる制御(過渡変速制御)を行う。このような段階を経た制御を行うことにより、急激に大きな負荷がエンジンやトランスミッションに作用するのを抑制しつつ、加速をスムーズに行うことができる。
【0006】
その一方で、アクセル開度が急激に大きくなったときに、上述した第一変速段階及び第二変速段階を含む複数の段階を経る制御を行うこととした場合において、第二変速段階の途中で、上述したパワーモードのように目標回転数を高く設定する走行モードを選択する操作がなされることが想定される。第二変速段階の途中でこのような走行モードの切り替えが行われた場合、目標回転数は高く設定されるものの、回転数の上昇スピードや加速度に大きな変化がなく、使用者が望むドライビングフィーリングを実現しにくいといった問題が生じる可能性がある。
【0007】
そこで本発明は、第一モード、及び第一モードよりも目標回転数を高く設定する第二モードを含む複数の走行モードから一の走行モードを任意に選択可能であるとともに、アクセル開度が所定の閾値を超える変動率で大きくなった場合に行われる過渡変速制御において、エンジン回転数を徐々に向上させている段階において走行モードが第二モードに切り替えられたとしても、使用者が望むドライビングフィーリングを実現できる車両の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の車両は、変速機と、前記変速機に対して動力を出力する動力源と、所定の第一モード、及び前記第一モードよりも目標回転数を高く設定する第二モードを含む複数の走行モードから一の走行モードを任意に選択可能に受け付けるモード設定部と、制御装置と、を備えたものであって、前記制御装置が、アクセル開度が所定の閾値を超える変動率で大きくなることを条件として、目標回転数に向けて、前記動力源から前記変速機への入力回転数を所定期間に亘って上昇させる第一変速段階と、前記第一変速制御の後に、前記動力源から前記入力回転数を前記目標回転数に向けて前記第一変速段階よりも緩やかに上昇させる第二変速段階と、を含む複数の段階を経て、前記入力回転数を上昇させる過渡変速制御を実行するものであり、前記第一モードが選択された状態で前記過渡変速制御を実行している過程において、前記第二変速段階の途中で、前記第一モードから前記第二モードへの前記走行モードの切り替えが行われることを条件として、前記目標回転数を前記第二モードに応じた値に変更して、前記過渡変速制御をリスタートさせるものである。
【0009】
本発明の車両は、上記(1)のように、第一モードが選択された状態において過渡変速制御を実行している過程において、第二変速段階の途中で、第一モードから第二モードへの走行モードの切り替えが行われることを条件として、過渡変速制御をリスタートさせるものとされている。これにより、本発明の車両においては、第一変速段階を終えて、第二変速段階においてエンジン回転数を徐々に向上させている状態において走行モードが第一モードから第二モードに切り替えられた場合に、目標回転数を第二モードに応じた値に変更して過渡変速制御をリスタートさせることにより、第二変速段階よりも急峻に入力回転数を上昇させる第一変速段階が行われる。従って、本発明の車両は、第一モードが選択された状態において過渡変速制御を実行している過程において、第二変速段階の途中で、第一モードから第二モードへの走行モードの切り替えが行われた場合であっても、使用者が望むドライビングフィーリングを実現できる。
【0010】
(2)本発明の車両は、前記変速機が、動力が入力される入力軸、及び動力を出力する出力軸の間にベルト変速機構を有するものであると良い。
【0011】
本発明の車両は、上記(2)のように変速機がベルト変速機構を備えたものとすることにより無段階変速が可能となるため、自動変速機(Automatic Transmission)のような一般的な変速機を採用した場合と比べて、スムーズかつ素早く過渡変速制御を行うことができる。従って、本発明の車両は、上記(2)のような構成とすることにより過渡変速制御の実行時におけるドライビングフィーリングをより一層向上させることができる。
【0012】
(3)本発明の車両は、前記変速機が、動力が入力される入力軸、及び動力を出力する出力軸の間の第一動力伝達経路上に介在される第一係合要素と、前記入力軸と前記出力軸との間の第二動力伝達経路に介在される第二係合要素と、を備え、前記第二動力伝達経路上にベルト変速機構を有し、前記第一係合要素の解放および前記第二係合要素の係合により、前記ベルト変速機構によるベルト変速比が大きいほど前記入力軸と前記出力軸との間でのトータル変速比が大きくなる第一モードとなり、前記第一係合要素の係合および前記第二係合要素の解放により、前記ベルト変速比が大きいほど前記トータル変速比が小さくなる第二モードとなるものであると良い。
【0013】
本発明の車両は、変速機を上記(3)のような構成とすることにより、使用者が望むドライビングフィーリングを実現しつつ、動力伝達効率の向上や、変速比幅の拡大による燃費向上等を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上述した本発明の課題を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る変速システムを採用した車両の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
【
図2】
図1の変速システムを構成する変速機が備える各係合要素の状態を示す図である。
【
図3】
図1の変速システムを構成する変速機が備える遊星歯車機構のサンギヤ、キャリヤ、及びリングギヤの回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。
【
図4】
図1の変速システムを構成する変速機が備えるベルト変速機構のプーリ比と動力分割式無段変速機全体の減速比(ユニット変速比)との関係を示す図である。
【
図5】
図1の変速システムが備える制御系の構成を示す図である。
【
図6】
図1の変速システムにおいて行われる過渡変速制御の開始前後において走行モードの変更がない場合における加速度、目標回転数、エンジン回転数、アクセル開度の挙動を説明するためのタイミングチャートである。
【
図7】
図1の変速システムにおいて行われる過渡変速制御の開始後において走行モードが変更された場合における加速度、目標回転数、エンジン回転数、アクセル開度の挙動を説明するためのタイミングチャートである。
【
図8】
図1の変速システムにおいて走行モードとの関係で過渡変速制御の実行時に行われる制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る変速システムSについて、これを搭載した車両1を例に挙げ、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0017】
≪車両の駆動系≫
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。
【0018】
エンジン2には、エンジン2の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)、及び燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。また、エンジン2には、その始動のためのスタータが付随して設けられている。エンジン2の動力は、トルクコンバータ3、及び変速機4を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介してそれぞれ左右の駆動輪7L,7Rに伝達される。
【0019】
トルクコンバータ3は、フロントカバー21、ポンプインペラ22、タービンランナ23、及びロックアップ機構24を備えている。フロントカバー21には、駆動源出力軸11が接続され、フロントカバー21は、駆動源出力軸11と一体に回転する。ポンプインペラ22は、フロントカバー21に対するエンジン2側と反対側に配置されている。ポンプインペラ22は、フロントカバー21と一体回転可能に設けられている。タービンランナ23は、フロントカバー21とポンプインペラ22との間に配置されて、フロントカバー21と共通の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。
【0020】
ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25を備えている。ロックアップピストン25は、フロントカバー21とタービンランナ23との間に設けられている。ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25とフロントカバー21との間の解放油室26の油圧とロックアップピストン25とポンプインペラ22との間の係合油室27の油圧との差圧により、ロックアップオン(係合)/オフ(解放)される。すなわち、解放油室26の油圧が係合油室27の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21から離間し、ロックアップオフとなる。係合油室27の油圧が解放油室26の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21に押し付けられて、ロックアップオンとなる。
【0021】
ロックアップオフの状態では、駆動源出力軸11が回転されると、ポンプインペラ22が回転する。ポンプインペラ22が回転すると、ポンプインペラ22からタービンランナ23に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ23で受けられて、タービンランナ23が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ23には、駆動源出力軸11のトルクよりも大きなトルクが発生する。
【0022】
ロックアップオンの状態では、駆動源出力軸11が回転されると、駆動源出力軸11、ポンプインペラ22、及びタービンランナ23が一体となって回転する。
【0023】
トルクコンバータ3と変速機4との間には、オイルポンプ9が設けられている。オイルポンプ9は、機械式オイルポンプである。オイルポンプ9のポンプ軸は、トルクコンバータ3のポンプインペラ22と一体回転するように設けられている。これにより、エンジン2から出力される動力によってポンプインペラ22が回転すると、オイルポンプ9のポンプ軸が回転し、オイルポンプ9から油圧が発生する。
【0024】
変速機4は、入力軸31、及び出力軸32を備え、入力軸31に入力される動力を2つの経路に分岐して出力軸32に伝達可能に構成された、いわゆる動力分割式(トルクスプリット式)変速機である。2つの動力伝達経路を構成するため、変速機4は、ベルト変速機構33、前減速機構34、遊星歯車機構35、及びスプリット変速機構36を備えている。
【0025】
入力軸31は、トルクコンバータ3のタービンランナ23に連結され、タービンランナ23と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0026】
出力軸32は、入力軸31と平行に設けられている。出力軸32には、出力ギヤ37が相対回転不能に支持されている。出力ギヤ37は、デファレンシャルギヤ5(デファレンシャルギヤ5のリングギヤ)と噛合している。
【0027】
ベルト変速機構33は、ベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)によって構成されている。具体的には、ベルト変速機構33は、プライマリ軸41、セカンダリ軸42、プライマリプーリ43、セカンダリプーリ44、及びベルト45を備えている。プライマリ軸41及びセカンダリ軸42は、互いに並行に設けられている。また、プライマリプーリ43は、プライマリ軸41に相対回転不能に支持されたプーリである。セカンダリプーリ44は、セカンダリ軸42に相対回転不能に支持されたプーリである。ベルト45は、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とに亘って巻き掛けられている。
【0028】
プライマリプーリ43は、固定シーブ51、及び可動シーブ52を備えている。固定シーブ51は、プライマリ軸41に固定されたシーブである。また、可動シーブ52は、ベルト45を挟んで固定シーブ51に対して対向配置され、プライマリ軸41にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持されたシーブである。また、可動シーブ52に対して固定シーブ51と反対側には、シリンダ53が設けられている。シリンダ53は、プライマリ軸41に固定されている。可動シーブ52とシリンダ53との間には、油圧室54が形成されている。
【0029】
セカンダリプーリ44は、固定シーブ55、及び可動シーブ56を備えている。固定シーブ55は、セカンダリ軸42に固定されたシーブである。可動シーブ56は、ベルト45を挟んで固定シーブ55に対して対向配置され、セカンダリ軸42にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持されたシーブである。可動シーブ56に対して固定シーブ55と反対側には、シリンダ57が設けられている。シリンダ57は、セカンダリ軸42に固定されている。また、可動シーブ56とシリンダ57との間には、油圧室58が形成されている。回転軸線方向において、固定シーブ55と可動シーブ56との位置関係は、プライマリプーリ43の固定シーブ51と可動シーブ52との位置関係と逆転している。
【0030】
ベルト変速機構33では、プライマリプーリ43の油圧室54、及びセカンダリプーリ44の油圧室58に供給される油圧がそれぞれ制御されて、プライマリプーリ43、及びセカンダリプーリ44の各溝幅が変更される。これにより、ベルト変速機構33は、ベルト変速比(プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比)が連続的に無段階に変更できるものとされている。
【0031】
具体的には、ベルト変速比が小さくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が上げられる。これにより、プライマリプーリ43の可動シーブ52が固定シーブ51側に移動し、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔(溝幅)が小さくなる。これに伴い、プライマリプーリ43に対するベルト45の巻きかけ径が大きくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔(溝幅)が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が小さくなる。
【0032】
ベルト変速比が大きくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が下げられる。これにより、セカンダリプーリ44の推力(セカンダリ推力)に対するプライマリプーリ43の推力(プライマリ推力)の比である推力比が小さくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔が小さくなるとともに、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が大きくなる。
【0033】
一方、プライマリプーリ43、及びセカンダリプーリ44の推力は、プライマリプーリ43、及びセカンダリプーリ44とベルト45との間で滑り(ベルト滑り)が生じない大きさを必要とする。そのため、ベルト滑りを生じない必要十分な挟圧が得られるよう、プライマリプーリ43の油圧室54、及びセカンダリプーリ44の油圧室58に供給される油圧が制御される。
【0034】
前減速機構34は、入力軸31に入力される動力を逆転かつ減速させてプライマリ軸41に伝達する構成である。具体的には、前減速機構34は、入力軸ギヤ61と、プライマリ軸ギヤ62とを備えている。入力軸ギヤ61は、入力軸31に相対回転不能に支持されたギヤである。また、プライマリ軸ギヤ62は、入力軸ギヤ61よりも大径で歯数が多く、入力軸ギヤ61と噛合するギヤである。プライマリ軸ギヤ62は、プライマリ軸41にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されている。
【0035】
遊星歯車機構35は、サンギヤ71、キャリヤ72、及びリングギヤ73を備えている。サンギヤ71は、セカンダリ軸42にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されている。キャリヤ72は、出力軸32に相対回転可能に外嵌されている。キャリヤ72は、複数個のピニオンギヤ74を回転可能に支持している。ピニオンギヤ74は、円周上に複数個配置され、それぞれサンギヤ71と噛合している。リングギヤ73は、複数個のピニオンギヤ74を一括して取り囲む円環状の形状を有し、各ピニオンギヤ74にセカンダリ軸42の回転径方向の外側から噛合している。また、リングギヤ73には、出力軸32が接続され、リングギヤ73は、出力軸32と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0036】
スプリット変速機構36は、スプリットドライブギヤ81と、スプリットドライブギヤ81と噛合するスプリットドリブンギヤ82とを含む平行軸式歯車機構である。
【0037】
スプリットドライブギヤ81は、入力軸31に相対回転可能に外嵌されている。
【0038】
スプリットドリブンギヤ82は、遊星歯車機構35のキャリヤ72と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。スプリットドリブンギヤ82は、スプリットドライブギヤ81よりも小径に形成され、スプリットドライブギヤ81よりも少ない歯数を有している。
【0039】
また、変速機4は、クラッチC1,C2、及びブレーキB1を備えている。
【0040】
クラッチC1(第一係合要素)は、油圧により、入力軸31とスプリットドライブギヤ81とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
【0041】
クラッチC2(第二係合要素)は、油圧により、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
【0042】
ブレーキB1は、油圧により、遊星歯車機構35のキャリヤ72を制動する係合状態と、キャリヤ72の回転を許容する解放状態とに切り替えられる。
【0043】
≪動力伝達モード≫
図2は、車両1の前進時、及び後進時におけるクラッチC1,C2、及びブレーキB1の状態を示す図である。
図3は、遊星歯車機構35のサンギヤ71、キャリヤ72、及びリングギヤ73の回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。
図4は、ベルト変速機構33によるベルト変速比(プーリ比)と変速機4の全体でのトータル変速比(ユニット変速比)との関係を示す図である。
【0044】
図2において、「○」は、クラッチC1,C2、及びブレーキB1が係合状態であることを示している。「×」は、クラッチC1,C2、及びブレーキB1が解放状態であることを示している。
【0045】
車両1の車室内には、運転者が操作可能な位置に、複数のポジション間で変位可能に設けられた変位部材が設けられている。本実施形態では、シフトレバー(セレクトレバー)が、変位部材として配設されている。シフトレバーの可動範囲には、たとえば、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、D(ドライブ)ポジション、S(スポーツ)ポジション、及びB(ブレーキ)ポジションがこの順に一列に並べて設けられている。
【0046】
シフトレバーがPポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2、及びブレーキB1のすべてが解放され、パーキングロックギヤ(図示せず)が固定されることにより、変速機4の変速レンジの1つであるPレンジが構成される。また、シフトレバーがNポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2、及びブレーキB1のすべてが解放されて、パーキングロックギヤが固定されないことにより、変速機4の変速レンジの1つであるNレンジが構成される。クラッチC1、及びブレーキB1の両方が解放された状態では、エンジン2の動力がセカンダリ軸42まで伝達されて、セカンダリ軸42が回転するが、遊星歯車機構35のサンギヤ71、及びピニオンギヤ74が空転し、エンジン2の動力は駆動輪7L,7Rに伝達されない。
【0047】
シフトレバーがDポジション、Sポジション、又はBポジションに位置する状態では、変速機4の変速レンジの1つである前進レンジが構成される。この前進レンジでの動力伝達モードには、ベルトモード、及びスプリットモードが含まれる。ベルトモードとスプリットモードとは、クラッチC1が係合している状態とクラッチC2が係合している状態との切り替え(クラッチC1,C2の掛け替え)により切り替えられる。
【0048】
ベルトモードでは、
図2に示されるように、クラッチC1、及びブレーキB1が解放され、クラッチC2が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81が入力軸31から切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72がフリー(自由回転状態)になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結される。
【0049】
入力軸31に入力される動力は、前減速機構34により逆転かつ減速されて、ベルト変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41、及びプライマリプーリ43を回転させる。プライマリプーリ43の回転は、ベルト45を介して、セカンダリプーリ44に伝達され、セカンダリプーリ44、及びセカンダリ軸42を回転させる。遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結されているので、セカンダリ軸42と一体となって、サンギヤ71、リングギヤ73、及び出力軸32が回転する。したがって、ベルトモードでは、
図3、及び
図4に示されるように、変速機4のトータル変速比(ユニット変速比)がベルト変速機構33のベルト変速比(プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比)に前減速比α(入力軸31の回転数/プライマリ軸41の回転数)を乗じた値と一致する。
【0050】
スプリットモードでは、
図2に示されるように、クラッチC1が係合され、クラッチC2、及びブレーキB1が解放される。これにより、入力軸31とスプリットドライブギヤ81とが結合されて、入力軸31の回転がスプリットドライブギヤ81、及びスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に伝達可能になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離される。
【0051】
入力軸31に入力される動力は、スプリットドライブギヤ81からスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に増速されて伝達される。キャリヤ72に伝達される動力は、キャリヤ72からサンギヤ71、及びリングギヤ73に分割して伝達される。サンギヤ71の動力は、セカンダリ軸42、セカンダリプーリ44、ベルト45、プライマリプーリ43、及びプライマリ軸41を介してプライマリ軸ギヤ62に伝達され、プライマリ軸ギヤ62から入力軸ギヤ61に伝達される。そのため、ベルトモードでは、入力軸ギヤ61が駆動ギヤとなり、プライマリ軸ギヤ62が被動ギヤとなるのに対し、スプリットモードでは、プライマリ軸ギヤ62が駆動ギヤとなり、入力軸ギヤ61が被動ギヤとなる。
【0052】
スプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比は一定で不変(固定)であるので、スプリットモードでは、入力軸31に入力される動力が一定であれば、遊星歯車機構35のキャリヤ72の回転が一定速度に保持される。そのため、ベルト変速比が上げられると、遊星歯車機構35のサンギヤ71の回転数が下がるので、
図3に破線で示されるように、遊星歯車機構35のリングギヤ73(出力軸32)の回転数が上がる。その結果、スプリットモードでは、
図4に示されるように、ベルト変速機構33のベルト変速比が大きいほど、変速機4の減速比が小さくなり、ベルト変速比に対する減速比の感度(ベルト変速比の変化量に対する減速比の変化量の割合)がベルトモードと比べて低い。
【0053】
ベルトモード、及びスプリットモードにおける出力軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6R、及び駆動輪7L,7Rが前進方向に回転する。
【0054】
なお、シフトレバーがDポジション、Sポジション、又はBポジションのいずれに位置する状態であっても、前進レンジでは、変速比を自動的かつ連続的に無段階で変化させる変速制御が行われる。ただし、シフトレバーがSポジションに位置する状態(Sレンジ)では、シフトレバーがDポジションに位置する状態(Dレンジ)と比較して、エンジン回転数が高めに維持されるように変速比が変更される。これにより、Sレンジでは、Dレンジと比較して、運転者がスポーティな走行を楽しむことができ、また、減速時に強いエンジンブレーキが得られる。シフトレバーがBポジションに位置する状態(Bレンジ)では、Sレンジよりもエンジン回転数がさらに高めに維持されるように変速比が変更され、減速時にSレンジよりもさらに強いエンジンブレーキが得られる。
【0055】
シフトレバーがRポジションに位置する状態では、変速機4の変速レンジの1つである後進レンジが構成される。後進レンジでは、
図2に示されるように、クラッチC1,C2が解放され、ブレーキB1が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81が入力軸31から切り離され、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動される。
【0056】
入力軸31に入力される動力は、前減速機構34により逆転かつ減速されて、ベルト変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41からプライマリプーリ43、ベルト45、及びセカンダリプーリ44を介してセカンダリ軸42に伝達され、セカンダリ軸42と一体に、遊星歯車機構35のサンギヤ71を回転させる。遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動されているので、サンギヤ71が回転すると、遊星歯車機構35のリングギヤ73がサンギヤ71と逆方向に回転する。このリングギヤ73の回転方向は、前進時(ベルトモード、及びスプリットモード)におけるリングギヤ73の回転方向と逆方向となる。そして、リングギヤ73と一体に、出力軸32が回転する。出力軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6R、及び駆動輪7L,7Rが後進方向に回転する。
【0057】
≪車両の制御系≫
図5は、車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
【0058】
車両1には、マイコン(マイクロコントローラユニット)を含む構成のECU91(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が制御装置として備えられている。マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。
図5には、1つのECU91のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、ECU91と同様の構成を有する複数のECUが搭載されている。ECU91を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0059】
ECU91は、エンジン2の始動、停止、及び出力調整などのため、エンジン2に設けられた電子スロットルバルブ、インジェクタ、及び点火プラグなどを制御する。また、トルクコンバータ3のロックアップ制御、及び変速機4の変速制御などのため、トルクコンバータ3、及び変速機4を含むユニットの各部に油圧を供給するための油圧回路92に含まれる各種のバルブを制御する。
【0060】
ECU91には、その制御に必要な各種センサが接続されている。一例として、ECU91には、トルクコンバータ3のタービンランナ23の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するタービン回転センサ93と、プライマリ軸41の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するプライマリ回転センサ94と、セカンダリ軸42の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するセカンダリ回転センサ95と、出力軸32の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するアウトプット回転センサ96と、運転者により操作されるアクセルペダル(図示せず)の操作量に応じた検出信号を出力するアクセルセンサ97とが接続されている。
【0061】
また、ECU91には、モード設定部98が接続されている。モード設定部98は、使用者が操作可能なスイッチやダイヤル等によって構成されている。モード設定部98は、車両1の走行モードを使用者が任意に選択するための操作を受け付けて設定するためのものである。モード設定部98を操作することにより、通常の走行モードである通常モード(第一モード)や、通常モードよりも加速力が高く、スポーティなドライビングフィーリングを実現するためのパワーモード(第二モード)を含む複数の走行モードから任意のものを選択して設定することができる。
【0062】
ECU91では、タービン回転センサ93、プライマリ回転センサ94、セカンダリ回転センサ95およびアウトプット回転センサ96の各検出信号から、タービンランナ23の回転数であるタービン回転数、プライマリ軸41(プライマリプーリ43)の回転数であるプライマリ回転数、セカンダリ軸42(セカンダリプーリ44)の回転数であるセカンダリ回転数、および出力軸32の回転数であるアウトプット回転数が取得される。また、ECU91では、アクセルセンサ97の検出信号から、アクセルペダルの最大操作量に対する操作量の割合、つまりアクセルペダルが踏み込まれていないときを0%とし、アクセルペダルが最大に踏み込まれたときを100%とする百分率であるアクセル開度が求められる。
【0063】
なお、タービン回転センサ93、プライマリ回転センサ94、セカンダリ回転センサ95、アウトプット回転センサ96およびアクセルセンサ97の一部は、他のECUに接続されて、その一部のセンサから取得される情報は、他のECUから受信してもよい。
【0064】
≪変速制御≫
変速機4のトータル変速比は、ECU91によるベルト変速比の変更ならびにクラッチC1,C2及びブレーキB1の係合/解放により制御される。この変速制御では、まず、変速線図に基づいて、アクセル開度及び車速に応じた目標回転数が設定される。変速線図は、アクセル開度及び車速と目標回転数との関係を定めたマップであり、ECU91のROMに格納されている。車速の情報は、たとえば、エンジン2を制御するエンジンECUからECU91に送信される。目標回転数が設定されると、入力軸31に入力される回転数、つまりタービン回転数を目標回転数に一致させるトータル変速比の目標が求められ、その目標に応じたベルト変速比の目標が設定される。
【0065】
その後、ベルト変速比の目標に基づいて、プライマリプーリ43の可動シーブ52に供給される油圧であるプライマリ圧及びセカンダリプーリ44の可動シーブ56に供給される油圧であるセカンダリ圧の指令値が設定され、各指令値に基づいて、ベルト変速比の目標と実ベルト変速比との偏差が零に近づくように、プライマリ圧及びセカンダリ圧が制御される。実ベルト変速比は、プライマリ回転数をセカンダリ回転数で除することにより求められる。
【0066】
トータル変速比がスプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比に等しいスプリット点(スプリット変速比)を跨いで変更される場合、そのトータル変速比の変更には、ベルトモードとスプリットモードとの切り替え(以下、単に「モード切替」という。)が伴う。モード切替は、クラッチC1,C2の係合を切り替える制御(クラッチツークラッチ制御)により達成される。すなわち、クラッチC1,C2に供給される油圧の制御により、解放状態のクラッチC1(係合側)が係合され、係合状態のクラッチC2(解放側)が解放されることにより、ベルトモードからスプリットモードに切り替えられる。逆に、係合状態のクラッチC1(解放側)が解放され、解放状態のクラッチC2(係合側)が係合されることにより、スプリットモードからベルトモードに切り替えられる。
【0067】
ここで、本実施形態に係る車両1においては、いわゆるキックダウンを行った場合のように、アクセル開度が所定の閾値を超える変動率で急激に大きくなることを条件として、過渡変速制御を実行するものとされている。過渡変速制御は、第一変速段階、第二変速段階を含む複数の段階経て、変速機4への入力回転数を上昇させる制御である。本実施形態の車両1においては、第一変速段階、第二変速段階からなる2つの段階を経て、入力回転数を上昇させる制御とされている。
【0068】
図6に示すように、第一変速段階は、目標回転数に向けて、動力源であるエンジン2から変速機4への入力回転数を所定期間に亘って上昇させる段階である。この段階において、エンジン回転数が目標回転数に向けて上昇するのに連動して、加速度も大幅に上昇する。また、第二変速段階は、第一変速制御の後に行われる段階であり、動力源であるエンジン2から変速機4への入力回転数を目標回転数に向けて第一変速段階よりも緩やかに上昇させる段階である。この段階においては、エンジン回転数が緩やかに増加するのに応じて、加速度も緩やかに上昇する。
【0069】
ここで、車両1においては、過渡変速制御の開始前後において、モード設定部98において設定された走行モードの変更がない場合には、
図6に示すように、第一変速段階、第二変速段階からなる2つの段階を経て、入力回転数を上昇させる制御を行う。一方、過渡変速制御の開始後、第二変速段階において入力回転数を目標回転数に向けて第一変速段階よりも緩やかに上昇させている途中で、通常モードからパワーモードへの走行モードの切り替えが行われた場合には、
図7に示すように、目標回転数を第二モードに応じた値に変更して、過渡変速制御をリスタートさせる制御を行う。そのため、走行モードが通常モードである状態での過渡変速において、第二変速段階で緩やかに上昇しつつあったエンジン回転数が、過渡変速制御をリスタートして第一変速段階を開始すると、改めて設定変更後の目標回転数に向けて大幅に上昇を開始する。加速度についても、過渡変速制御のリスタートに伴って若干低下した後、大きく上昇する。過渡変速制御のリスタート後、所定期間が経過すると、再び第二変速段階に移行する。第二変速段階では、入力回転数が、設定変更後の目標回転数に向けて第一変速段階よりも緩やかに上昇する。これにより、加速度についても、第一変速段階よりも緩やかに上昇する。このように、車両1においては、第二変速段階において走行モードを通常モードからパワーモードに切り替える操作が行われたときに、過渡変速制御をリスタートすることにより、使用者が望むドライビングフィーリングを実現できるようにしている。以下、上述した走行モードとの関係で過渡変速制御の実行時に行われる制御について、
図8に示したフローチャートを参照しつつ詳細に説明する。
【0070】
(ステップ1)
ステップ1において、ECU91は、アクセル開度の変動率が所定の閾値以上であるか否かを確認する。これにより、例えばキックダウンを行った場合のように、アクセル開度が急激に大きくなったか否かが確認される。ここで、アクセル開度の辺土率が所定の閾値以上であることが確認された場合には、制御フローがステップ2に進められる。
【0071】
(ステップ2)
ステップ2において、ECU91は、目標回転数を設定する。目標回転数の設定後、制御フローはステップ3に進められる。
【0072】
(ステップ3)
ステップ3において、ECU91は、過渡変速制御の第一変速段階を実行する。すなわち、ECU91は、ステップ2において設定された目標回転数に向けて、変速機4への入力回転数を所定の上昇勾配で所定時間に亘って上昇させる制御を開始する。その後、制御フローがステップ4に進められる。
【0073】
(ステップ4)
ステップ4において、ECU91は、過渡変速制御の第一変速段階を終了するタイミングに到達したか否かを確認する。ここで、第一変速段階の終了タイミングに達していない場合には、引き続き第一変速段階を継続する。一方、第一変速段階の終了タイミングに達していることが確認された場合には、第一変速段階を終了し、制御フローがステップ5に進められる。
【0074】
(ステップ5)
ステップ5において、ECU91は、過渡変速制御の第二変速段階を開始する。すなわち、ECU91は、ステップ2において設定された目標回転数に向けて、変速機4への入力回転数を上昇させる制御を行う。ステップ4に係る第二変速段階では、ステップ3に係る第一変速段階よりも、変速機4への入力回転数の上昇勾配が低く設定される。ステップ4において過渡変速制御の第二変速段階が開始されると、制御フローがステップ6に進められる。
【0075】
(ステップ6)
ステップ6において、ECU91は、モード設定部98の操作によって走行モードを通常モードからパワーモードに切り替える操作が行われたか否かを確認する。ここで、パワーモードへの走行モードの切り替えが確認された場合には、制御フローがステップ7に進められ、走行モードへの切り替えが確認されなかった場合には、制御フローがステップ8に進められる。
【0076】
(ステップ7)
制御フローが上述したステップ6からステップ7に進められた場合には、ECU91は、過渡変速制御のリスタートに備えて、目標回転数を走行モードに応じた値に変更する処理を行う。その後、制御フローをステップ3に戻すことにより、過渡変速制御をリスタートさせる。
【0077】
(ステップ8)
制御フローが上述したステップ6からステップ8に進められた場合には、入力回転数が目標回転数に到達したか否かが確認される。ここで、入力回転数が目標回転数に到達していない場合には、制御フローがステップ6に戻され、第二変速制御が継続される。一方、入力回転数が目標回転数に到達していることが確認された場合には、第二変速制御を終了し、一連の制御フローが完了する。
【0078】
≪作用効果≫
上述した本実施形態の車両1は、以下の(a)~(c)のような特徴的構成を備えている。これにより、車両1は、以下に記載のような特有の効果を奏することができる。
【0079】
(a)本実施形態の車両1は、変速機4と、変速機4に対して動力を出力するエンジン2(動力源)と、所定の通常モード(第一モード)、及び通常モードよりも目標回転数を高く設定するパワーモード(第二モード)を含む複数の走行モードから一の走行モードを任意に選択可能に受け付けるモード設定部98と、ECU91(制御装置)と、を備えたものであって、ECU91が、アクセル開度が所定の閾値を超える変動率で大きくなることを条件として、目標回転数に向けて、エンジン2から変速機4への入力回転数を所定期間に亘って上昇させる第一変速段階と、第一変速制御の後に、エンジン2から入力回転数を目標回転数に向けて第一変速段階よりも緩やかに上昇させる第二変速段階と、を含む複数の段階を経て、入力回転数を上昇させる過渡変速制御を実行するものであり、通常モードが選択された状態で過渡変速制御を実行している過程において、第二変速段階の途中で、通常モードからパワーモードへの走行モードの切り替えが行われることを条件として、目標回転数をパワーモードに応じた値に変更して、過渡変速制御をリスタートさせるものである。
【0080】
本実施形態の車両1は、上記(a)のように、通常モードが選択された状態において過渡変速制御を実行している過程において、第二変速段階の途中で、通常モードからパワーモードへの走行モードの切り替えが行われることを条件として、過渡変速制御をリスタートさせるものとされている。これにより、本実施形態の車両1においては、第一変速段階を終えて、第二変速段階においてエンジン回転数を徐々に向上させている状態において走行モードが通常モードからパワーモードに切り替えられた場合に、目標回転数をパワーモードに応じた値に変更して過渡変速制御をリスタートさせることにより、第二変速段階よりも急峻に入力回転数を上昇させる第一変速段階が行われる。従って、本実施形態の車両1は、通常モードが選択された状態において過渡変速制御を実行している過程において、第二変速段階の途中で、通常モードからパワーモードへの走行モードの切り替えが行われた場合であっても、使用者が望むドライビングフィーリングを実現できる。
【0081】
(b)本実施形態の車両1は、変速機4が、動力が入力される入力軸31、及び動力を出力する出力軸32の間にベルト変速機構33を有するものであると良い。
【0082】
本実施形態の車両1は、上記(b)のように変速機4がベルト変速機構33を備えたものとすることにより無段階変速が可能となるため、自動変速機(Automatic Transmission)のような一般的な変速機を採用した場合と比べて、スムーズかつ素早く過渡変速制御を行うことができる。従って、本実施形態の車両1は、上記(b)のような構成とすることにより過渡変速制御の実行時におけるドライビングフィーリングをより一層向上させることができる。
【0083】
(c)本実施形態の車両1は、変速機4が、動力が入力される入力軸31、及び動力を出力する出力軸32の間の第一動力伝達経路上に介在されるクラッチC1(第一係合要素)と、入力軸31と出力軸32との間の第二動力伝達経路に介在されるクラッチC2(第二係合要素)と、を備え、第二動力伝達経路上にベルト変速機構33を有し、クラッチC1の解放およびクラッチC2の係合により、ベルト変速機構33によるベルト変速比が大きいほど入力軸31と出力軸32との間でのトータル変速比が大きくなる通常モードとなり、クラッチC1の係合およびクラッチC2の解放により、ベルト変速比が大きいほどトータル変速比が小さくなるパワーモードとなるものであると良い。
【0084】
本実施形態の車両1は、変速機4を上記(c)のような構成とすることにより、使用者が望むドライビングフィーリングを実現しつつ、動力伝達効率の向上や、変速比幅の拡大による燃費向上等を図ることができる。
【0085】
≪変形例≫
上記実施形態において例示した車両1は本発明の一例を示したものに過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、例えば上述した(a)~(c)に係る構成を上記実施形態において例示したものとは異なるものとすることが可能である。また、車両1、上述した(a)~(c)に含まれる構成に加えて、あるいは(a)~(c)に含まれる構成に代えて他の構成を備えたものとしたり、一部の構成を省略した構成としたりしても良い。具体的には、以下に説明するような変形例が考えられる。
【0086】
本実施形態では、エンジン2を駆動源として駆動力が変速機4に入力される例を示したが、本発明はこれに限定されず、エンジン2に加えて、あるいはエンジン2に代えてモータ等からの動力を受けて動作するものを駆動源として備えたものとしても良い。
【0087】
本実施形態では、目標トータル変速比設定部や、ベルト変速比変更部、切替制御部としての機能を全てECU91が備えたものを例示したが、本発明はこれに限定されず、目標トータル変速比設定部、ベルト変速比変更部、及び切替制御部の少なくともいずれかをECU91以外のECU等によって構成されても良い。
【0088】
本実施形態では、過渡変速制御が、第一変速段階及び第二変速段階の二つの変速段階を経て行われるものを例示したが、本発明はこれに限定されず、さらに他の変速段階を備えたものとすることができる。また、本実施形態では、車両1の走行モードとして、通常モードとパワーモードの2つのモードから選択可能とした例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、さらに他の走行モードを選択可能なものとしても良い。
【0089】
本実施形態では、上記(b)のように、変速機4が、動力が入力される入力軸31、及び動力を出力する出力軸32の間にベルト変速機構33を有するものであり、上記(c)のように、いわゆる動力分割式(トルクスプリット式)変速機である例を示したが、本発明の車両1はこれに限定されるものではなく、変速機4として他の種類のものを備えたものとすることも可能である。
【0090】
本発明は、上述した実施形態や変形例等として示したものに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲でその教示及び精神から他の実施形態があり得る。上述した実施形態の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また実施形態の任意の構成要素と、課題を解決するための手段に記載の任意の構成要素又は課題を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成してもよい。これらについても本願の補正又は分割出願等において権利取得する意思を有する。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、走行モードを目標回転数の異なる複数のモードから選択可能であり、かつアクセル開度が所定の閾値を超える変動率で大きくなることを条件として過渡変速制御を実行する車両全般において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0092】
1 :車両
2 :エンジン
4 :変速機
31 :入力軸
32 :出力軸
33 :ベルト変速機構
91 :ECU(制御装置)
98 :モード設定部
C1 :クラッチ(第一係合要素)
C2 :クラッチ(第二係合要素)
【手続補正書】
【提出日】2023-12-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機と、
前記変速機に対して動力を出力する動力源と、
所定の第一モード、及び前記第一モードよりも目標回転数を高く設定する第二モードを含む複数の走行モードから一の走行モードを任意に選択して設定可能なモード設定部と、
制御装置と、
を備えた車両であって、
前記制御装置が、
アクセル開度が所定の閾値を超える変動率で大きくなることを条件として、
目標回転数に向けて、記動力源から前記変速機への入力回転数を所定期間に亘って上昇させる第一変速段階と、
前記第一変速段階の後に、前記動力源から前記入力回転数を前記目標回転数に向けて前記第一変速段階よりも緩やかに上昇させる第二変速段階と、
を含む複数の段階を経て、前記入力回転数を上昇させる過渡変速制御を実行するものであり、
前記第一モードが選択された状態で前記過渡変速制御を実行している過程において、前記第二変速段階の途中で、前記第一モードから前記第二モードへの前記走行モードの切り替えが行われることを条件として、前記目標回転数を前記第二モードに応じた値に変更して、前記過渡変速制御をリスタートさせること、を特徴とする車両。
【請求項2】
前記変速機が、動力が入力される入力軸、及び動力を出力する出力軸の間にベルト変速機構を有するものであること、を特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記変速機が、
動力が入力される入力軸、及び動力を出力する出力軸の間の第一動力伝達経路上に介在される第一係合要素と、
前記入力軸と前記出力軸との間の第二動力伝達経路に介在される第二係合要素と、を備え、
前記第二動力伝達経路上にベルト変速機構を有し、
前記第一係合要素の解放および前記第二係合要素の係合により、前記ベルト変速機構によるベルト変速比が大きいほど前記入力軸と前記出力軸との間でのトータル変速比が大きくなる第一モードとなり、
前記第一係合要素の係合および前記第二係合要素の解放により、前記ベルト変速比が大きいほど前記トータル変速比が小さくなる第二モードとなるものであること、を特徴とする請求項1に記載の車両。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
(1)本発明の車両は、変速機と、前記変速機に対して動力を出力する動力源と、所定の第一モード、及び前記第一モードよりも目標回転数を高く設定する第二モードを含む複数の走行モードから一の走行モードを任意に選択可能に受け付けるモード設定部と、制御装置と、を備えたものであって、前記制御装置が、アクセル開度が所定の閾値を超える変動率で大きくなることを条件として、目標回転数に向けて、前記動力源から前記変速機への入力回転数を所定期間に亘って上昇させる第一変速段階と、前記第一変速段階の後に、前記動力源から前記入力回転数を前記目標回転数に向けて前記第一変速段階よりも緩やかに上昇させる第二変速段階と、を含む複数の段階を経て、前記入力回転数を上昇させる過渡変速制御を実行するものであり、前記第一モードが選択された状態で前記過渡変速制御を実行している過程において、前記第二変速段階の途中で、前記第一モードから前記第二モードへの前記走行モードの切り替えが行われることを条件として、前記目標回転数を前記第二モードに応じた値に変更して、前記過渡変速制御をリスタートさせるものである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0068
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0068】
図6に示すように、第一変速段階は、目標回転数に向けて、動力源であるエンジン2から変速機4への入力回転数を所定期間に亘って上昇させる段階である。この段階において、エンジン回転数が目標回転数に向けて上昇するのに連動して、加速度も大幅に上昇する。また、第二変速段階は、第一変速
段階の後に行われる段階であり、動力源であるエンジン2から変速機4への入力回転数を目標回転数に向けて第一変速段階よりも緩やかに上昇させる段階である。この段階においては、エンジン回転数が緩やかに増加するのに応じて、加速度も緩やかに上昇する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0079
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0079】
(a)本実施形態の車両1は、変速機4と、変速機4に対して動力を出力するエンジン2(動力源)と、所定の通常モード(第一モード)、及び通常モードよりも目標回転数を高く設定するパワーモード(第二モード)を含む複数の走行モードから一の走行モードを任意に選択可能に受け付けるモード設定部98と、ECU91(制御装置)と、を備えたものであって、ECU91が、アクセル開度が所定の閾値を超える変動率で大きくなることを条件として、目標回転数に向けて、エンジン2から変速機4への入力回転数を所定期間に亘って上昇させる第一変速段階と、第一変速段階の後に、エンジン2から入力回転数を目標回転数に向けて第一変速段階よりも緩やかに上昇させる第二変速段階と、を含む複数の段階を経て、入力回転数を上昇させる過渡変速制御を実行するものであり、通常モードが選択された状態で過渡変速制御を実行している過程において、第二変速段階の途中で、通常モードからパワーモードへの走行モードの切り替えが行われることを条件として、目標回転数をパワーモードに応じた値に変更して、過渡変速制御をリスタートさせるものである。