(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136895
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】徐放性コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/16 20060101AFI20240927BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240927BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240927BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240927BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20240927BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61K9/16
A61K47/38
A61K47/14
A61K9/10
A61K31/167
A61P29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048196
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】前田 太史
(72)【発明者】
【氏名】楢▲崎▼ 美也
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 大樹
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076AA32
4C076AA94
4C076BB01
4C076CC01
4C076DD46
4C076DD47
4C076EE33H
4C076FF16
4C076FF21
4C076FF32
4C076FF68
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4C076GG16
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA02
4C206GA31
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA43
4C206MA61
4C206NA10
4C206NA12
4C206ZA07
4C206ZA08
(57)【要約】
【課題】本開示は、製法上の制限をより緩和できる徐放性膜材料を提供することを目的とする。
【解決手段】25℃で酢酸セルロースを可溶な可塑剤とともに酢酸セルロースを用いることで、徐放性膜を作成可能な機能を付与できるとともに、有機溶剤及び滑沢剤の使用を要さず、キュアリング工程を要さず、且つコーティング工程における許容温度も拡大可能となり、製法上の制限が顕著に緩和される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸セルロースを含み、用時に可塑剤と混合される、顆粒状薬剤の徐放性コーティング組成物であって、
前記可塑剤が、25℃で前記酢酸セルロースを可溶な可塑剤である、徐放性コーティング組成物。
【請求項2】
酢酸セルロースと、25℃で前記酢酸セルロースを可溶な可塑剤とを含む、顆粒状薬剤の徐放性コーティング組成物。
【請求項3】
前記酢酸セルロースが、平均粒子径が6μm以下の粒子である、請求項1又は2に記載の徐放性コーティング組成物。
【請求項4】
前記可塑剤が、トリアセチン及び/又はクエン酸トリエチルである、請求項1又は2に記載の徐放性コーティング組成物。
【請求項5】
前記酢酸セルロース及び前記可塑剤の合計100重量部に対する前記可塑剤の量が、10重量部以上である、請求項1又は2に記載の徐放性コーティング組成物。
【請求項6】
有機溶剤を実質的に含まない、請求項1又は2に記載の徐放性コーティング組成物。
【請求項7】
滑沢剤及び/又は流動化剤を実質的に含まない、請求項1又は2に記載の徐放性コーティング組成物。
【請求項8】
水懸濁液である、請求項1又は2に記載の徐放性コーティング組成物。
【請求項9】
有効成分を含む素顆粒と、前記素顆粒を被覆する徐放性膜とを含み、
前記徐放性膜が、25℃で酢酸セルロースを可溶な可塑剤と、前記可塑剤に溶解した前記酢酸セルロースとを含む混合物で構成されている、徐放性顆粒。
【請求項10】
有効成分を含む素顆粒に、請求項2に記載の徐放性コーティング組成物を噴霧してコーティングするコーティング工程を含み、且つ、キュアリング工程を含まない、徐放性顆粒の製造方法。
【請求項11】
前記コーティング工程を、38~100℃で行う、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、徐放性コーティング組成物、それを用いた徐放性顆粒及び徐放性顆粒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品有効成分(API)の溶出速度を調整し、APIが長時間安定して溶出するよう設計された製剤は徐放化製剤と呼ばれている。徐放化製剤は、服薬回数の削減、APIの血中濃度の安定化等の多くの利点があるため、広く利用されている。徐放化製剤は、放出制御機構に基づきマトリックス型とリザーバー型とに分類される。このうち、リザーバー型の徐放性製剤は、薬物を含有する錠剤又は顆粒を徐放性の高分子皮膜でコーティングした構造を有する。
【0003】
リザーバー型の徐放性製剤における徐放性の高分子被膜の材料としては、広くエチルセルロースが用いられている。例えば、特許文献1には、薬物を含有する錠剤等を、水溶性の小孔形成物質と、エチルセルロースとを含む水分散液で被覆し、さらにキュアリングする工程を含む、固体剤形を製造する方法が開示されている。また、当該徐放性の高分子被膜の材料として、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体も用いられる。例えば、特許文献2には、粒子状組成物における徐放性層の材料として、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体及びタルクを含む水分散液を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-538105号公報
【特許文献2】特開2018-8917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エチルセルロースの分散液を用いて徐放性膜を作成する場合、膜に徐放性の機能を付与するためには、特許文献1に記載されるキュアリングを行うことにより膜を緻密化させる工程が不可欠である。しかしながら、キュアリングの条件は膜の状態ひいては徐放性の性能に直結するため、所望の徐放性を得るためのキュアリング時における温度等の条件制御は難しく、製法上の制限が厳格にすぎる問題がある。特許文献1では当該問題に対処するため若干の工夫が提案されているものの、キュアリング時における温度等の条件制御の困難さは本質的な問題であるため、依然として、製法上の制限が厳格であることに変わりはない。
【0006】
また、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体を含む分散液を用いて徐放性膜を作成する場合、当該ポリマーのガラス転移点が極めて低いことにより、コーティング工程において膜の融解による粒子同士の付着を防ぐために温度を低く保たなければならず、この点で製法上の厳格な制限がある。さらに、コーティング工程における粒子同士の付着を防ぐため、特許文献2で示されている通りタルクなどの滑沢剤又は流動化剤を多量に用いる必要がある点も、製法上の制限の1つである。
【0007】
このように、これまで用いられてきた徐放性膜の材料は、製法上の制限が厳格であるという問題がある。そこで、本開示は、製法上の制限をより緩和できる徐放性膜材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、徐放性膜の材料として、高融点を持つ酢酸セルロースを選択することを着想した。酢酸セルロースは半透膜の材料として周知であり、その特有の特性である半透性を利用して浸透圧錠剤のコーティング剤として用いられている。しかしながら、浸透圧錠剤のコーティング剤としての酢酸セルロースは、有機溶剤に溶解させられた溶液の形態で用いられる。有機溶剤が、その揮発性のため安全性を確保するため温度制御等の製法上の制限を不可避的に伴うことから、上記目的において、酢酸セルロースを浸透圧錠剤のコーティング剤と同様の形態で用いることはできない。
【0009】
そこで本発明者が鋭意検討した結果、酢酸セルロースを、25℃で酢酸セルロースを可溶な可塑剤とともに用いることで、徐放性膜を作成可能な機能を付与できるとともに、有機溶剤及び滑沢剤の使用を要さず、キュアリング工程を要さず、且つコーティング工程における許容温度も拡大可能となり、製法上の制限が顕著に緩和されることを見出した。
【0010】
即ち、本開示は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 酢酸セルロースを含み、用時に可塑剤と混合される、顆粒状薬剤の徐放性コーティング組成物であって、
前記可塑剤が、25℃で前記酢酸セルロースを可溶な可塑剤である、徐放性コーティング組成物。
項2. 酢酸セルロースと、25℃で前記酢酸セルロースを可溶な可塑剤とを含む、顆粒状薬剤の徐放性コーティング組成物。
項3. 前記酢酸セルロースが、平均粒子径が6μm以下の粒子である、項1又は2に記載の徐放性コーティング組成物。
項4. 前記可塑剤が、トリアセチン及び/又はクエン酸トリエチルである、項1~3のいずれかに記載の徐放性コーティング組成物。
項5. 前記酢酸セルロース及び前記可塑剤の合計100重量部に対する前記可塑剤の量が、10重量部以上である、項1~4のいずれかに記載の徐放性コーティング組成物。
項6. 有機溶剤を実質的に含まない、項1~5のいずれかに記載の徐放性コーティング組成物。
項7. 滑沢剤及び/又は流動化剤を実質的に含まない、項1~6のいずれかに記載の徐放性コーティング組成物。
項8. 水懸濁液である、項1~7のいずれかに記載の徐放性コーティング組成物。
項9. 有効成分を含む素顆粒と、前記素顆粒を被覆する徐放性膜とを含み、前記徐放性膜が、25℃で酢酸セルロースを可溶な可塑剤と、前記可塑剤に溶解した前記酢酸セルロースとを含む混合物で構成されている、徐放性顆粒。
項10. 有効成分を含む素顆粒に、項2~8のいずれかに記載の徐放性コーティング組成物を噴霧してコーティングするコーティング工程を含み、且つ、キュアリング工程を含まない、徐放性顆粒の製造方法。
項11. 前記コーティング工程を、38~100℃で行う、項10に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、製法上の制限をより緩和できる徐放性膜材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の徐放性顆粒の徐放性を試験した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.徐放性コーティング組成物
本開示の徐放性コーティング組成物には、酢酸セルロースを含み、用時に、25℃で前記酢酸セルロースを可溶な可塑剤(以下において、「所定の可塑剤」とも記載する。)と混合されることを特徴とする、顆粒状薬剤の徐放性コーティング組成物(以下において、「第1の徐放性コーティング組成物」とも記載する。)、及び酢酸セルロースと、25℃で前記酢酸セルロースを可溶な可塑剤とを含むことを特徴とする、顆粒状薬剤の徐放性コーティング組成物(以下において、「第2の徐放性コーティング組成物」とも記載する。)それぞれが包含される。以下において、第1の徐放性コーティング組成物と第2のコーティング組成物とをまとめて「徐放性コーティング組成物」と記載する。
【0014】
1-1.酢酸セルロース
本開示の徐放性コーティング組成物は、酢酸セルロースを含む。本開示において用いることができる酢酸セルロースについては特に制限はない。
【0015】
酢酸セルロースのアセチル基含量については特に限定されないが、例えば29%以上、好ましくは33%以上、より好ましくは36%以上、さらに好ましくは38%以上が挙げられる。当該アセチル基残量は、その上限としても特に限定されないが、例えば45%以下、好ましくは42%以下、より好ましくは41%以下が挙げられる。なお、アセチル基含量は、米国薬局方(USP)及び国民医薬品集(NF)の組み合わせコンペンディア(以下において、「USP-NF」と記載する。)における「Cellulose Acetate」の項の「Content of Acetyl」に記載されるアセチル基含量の定量法により測定される値である。
【0016】
酢酸セルロースの重合度についても特に限定されないが、6%粘度として、例えば80mPa・s以上、好ましくは85mPa・s以上、より好ましくは87mPa・s以上が挙げられる。当該6%粘度は、その上限としても特に限定されないが、例えば300mPa・s以下、好ましくは200mPa・s以下、より好ましくは150mPa・s以下、さらに好ましくは100mPa・s以下が挙げられる。6%粘度は、25℃における6w/v%溶液の粘度である。
【0017】
酢酸セルロースの形状としては特に限定されず、粒子状、フレーク状、繊維状等、任意の形状が許容される。粒子状の酢酸セルロースを用いる場合、酢酸セルロース粒子の大きさとしては特に限定されないが、膜の徐放性を向上させる観点から、平均粒子径で、例えば6μm以下、好ましくは4μm以下、より好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1.5μm以下、一層好ましくは1μm以下が挙げられる。当該平均粒子径は、その下限において特に限定されるものではないが、例えば0.05μm以上、0.1μm以上、0.2μm以上、0.3μ、以上、0.4μm以上、0.5μm以上、0.6μm以上、0.7μm以上、0.8μm以上、又は0.9μm以上が挙げられる。なお、本明細書において、平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(D50)である。
【0018】
本開示の第1の徐放性コーティング組成物に含まれる酢酸セルロースの量は、用時の形態(つまり第2の徐放性コーティング組成物)に応じて決定することができる。本開示の第1の徐放性コーティング組成物に含まれる酢酸セルロースの量としては特に限定されないが、例えば0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは2重量%以上、さらに好ましくは2.5重量%以上が挙げられる。本開示の第1の徐放性コーティング組成物に含まれる酢酸セルロースの量は、その上限においても特に限定されないが、例えば20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは8重量%以下、さらに好ましくは7重量%以下が挙げられる。本開示の第2の徐放性コーティング組成物に含まれる酢酸セルロースの量としては特に限定されないが、例えば0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは2重量%以上、さらに好ましくは2.5重量%以上が挙げられる。本開示の第1の徐放性コーティング組成物に含まれる酢酸セルロースの量は、その上限においても特に限定されないが、例えば15重量%以下、好ましくは7.5重量%以下、より好ましくは3.8重量%以下が挙げられる。
【0019】
1-2.所定の可塑剤
本開示の第1の徐放性コーティング組成物は、所定の可塑剤を含んでいないが、用時に所定の可塑剤と混合して用いられる。本開示の第2の徐放性コーティング組成物は、所定の可塑剤を含む。
【0020】
所定の可塑剤とは、25℃で前記酢酸セルロースを可溶な可塑剤である。このような可塑剤としては、薬学的に許容される公知のものを特に制限なく用いることができる。所定の可塑剤の具体例としては、トリアセチン及びクエン酸トリエチルが挙げられる。所定の可塑剤については、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
本開示の第1の徐放性コーティング組成物が用時に混合する所定の可塑剤の量、及び本開示の第2の徐放性コーティング組成物に含まれる所定の可塑剤の量は、酢酸セルロースの含有量、酢酸セルロース粒子の大きさ、及び/又は所望する徐放性の程度等に基づいて適宜設定することができる。例えば、所定の可塑剤は、酢酸セルロース及び所定の可塑剤の合計100重量部に対する所定の可塑剤の量として、例えば10重量部以上又は20重量部以上、好ましくは25重量部以上、より好ましくは30重量部以上、さらに好ましくは35重量部以上、一層好ましくは40重量部以上、より一層好ましくは43重量部以上、47重量部以上、50重量部以上、又は53重量部以上が挙げられる。上記所定の可塑剤の量は、その上限においても特に限定されないが、例えば70重量部以下、65重量部以下、60重量部以下、又は57重量部以下が挙げられる。
【0022】
本開示の第2の徐放性コーティング組成物に含まれる所定の可塑剤の具体的な量は、酢酸セルロースの含有量及び所定の可塑剤の比率に応じて定まるが、好ましくは0.3~18重量%、より好ましくは0.7~13重量%、さらに好ましくは1~8重量%が挙げられる。
【0023】
1-3.他の成分
本開示の徐放性コーティング組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜、他の成分を含むことができる。他の成分としては、水、界面活性剤、防腐剤、pH調整剤、増粘剤等が挙げられる。これらの他の成分は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本開示の徐放性コーティング組成物における水の含有量については特に限定されないが、例えば60~99重量%、好ましくは70~98重量%、より好ましくは80~97.5重量%、さらに好ましくは85~97重量%、一層好ましくは90~96.5重量%、より一層好ましくは92~96重量%が挙げられる。
【0025】
また、本開示の徐放性コーティング組成物は、有機溶剤、滑沢剤及び/又は流動化剤を含むことを完全に排除するものではないが、好ましくは、有機溶剤、滑沢剤及び/又は流動化剤を実質的に含まず、より好ましくは、有機溶剤と滑沢剤及び/又は流動化剤とのいずれも実質的に含まない。なお、有機溶剤は、沸点150℃以下(好ましくは100℃以下)の液状有機化合物である。有機溶剤を実質的に含まないとは、有機溶剤の含有量が0~1重量%(好ましくは0~0.1重量%、より好ましくは0重量%)であることをいう。滑沢剤及び/又は流動化剤としては、医薬品に通常使用されるものが挙げられ、例えば、タルク、モノステアリン酸グリセリン、ステアリン酸マグネシウム、スタリン酸カルシウム、ステアリン酸、ショ糖脂肪酸エステル、二酸化ケイ素、マクロゴール等が挙げられる。い、滑沢剤及び/又は流動化剤を実質的に含まないとは、滑沢剤及び流動化剤の総量が0~1重量%(好ましくは0~0.1重量%、より好ましくは0重量%)であることをいう。
【0026】
1-4.形態
本開示の徐放性コーティング組成物の具体的な形態については特に限定されず、配合成分に応じて適宜決定できる。好ましくは、本開示の徐放性コーティング組成物の形態は、水懸濁液である。
【0027】
1-5.用途
本開示の徐放性コーティング組成物は、徐放性顆粒の徐放性膜の材料として用いられる。第1の徐放性コーティング組成物は、用時に、所定の可塑剤と混合されることで第2の徐放性コーティング組成物に調製され、「3.徐放性顆粒の製造方法」に記載の製造方法に供される。第2の徐放性コーティング組成物は、そのまま「3.徐放性顆粒の製造方法」に記載の製造方法に供される。
【0028】
2.徐放性顆粒
本開示の徐放性顆粒は、有効成分を含む素顆粒と、前記素顆粒を被覆する徐放性膜とを含み、前記徐放性膜が、25℃で酢酸セルロースを可溶な可塑剤と前記可塑剤に溶解した前記酢酸セルロースとを含む混合物で構成されていることを特徴とする。
【0029】
素顆粒の構成成分については、用途に応じた医薬品有効成分(API)等から適宜選択することができる。医薬品有効成分は、内服用医薬品に配合され作用持続性が所望される有効成分であればよく、例えば、血管拡張薬、抗血小板薬、降圧薬、抗喘息薬(気管支拡張薬)、抗嘔吐剤、強心薬、鎮痛薬、抗炎症薬、抗潰瘍薬、抗悪性腫瘍薬、抗リウマチ薬、抗生物質、抗うつ薬、抗精神病薬、抗不安薬、抗アレルギー薬、及び抗てんかん薬等が挙げられる。これらの医薬品有効成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
素顆粒の大きさとしては特に限定されないが、平均粒子径(D50)で、例えば100μm以上、好ましくは150μm以上、より好ましくは200μm以上、さらに好ましくは250μm以上、一層好ましくは300μm以上が挙げられる。当該平均粒子径は、その上限についても特に限定されないが、例えば800μm以下、好ましくは650μm以下、より好ましくは500μm以下が挙げられる。
【0031】
徐放性膜は、所定の可塑剤と、当該所定の可塑剤に溶解した前記酢酸セルロースとを含む混合物で構成されている。この徐放性膜は、酢酸セルロース粒子に可塑剤が含浸し相溶一体化していることで粒子同士が結合している。
【0032】
徐放性膜の厚さについては、所望の徐放性に応じて適宜決定すればよい。徐放性膜の厚さは、素顆粒100重量部に対して、徐放性膜を構成する酢酸セルロース及び所定の可塑剤の合計量が、例えば5~40重量部、好ましくは10~30重量部、より好ましくは15~25重量部、さらに好ましくは18~22重量部となる厚さが挙げられる。徐放性膜の具体的な厚さとしては、例えば2~40μm、好ましくは3~25μm、より好ましくは5~20μm、さらに好ましくは6~16μm、一層好ましくは7~13μmが挙げられる。
【0033】
本開示の徐放性顆粒の医薬品分類としては、リザーバー型徐放性顆粒であり、具体的には、pH非依存型徐放性顆粒及びpH依存型徐放性顆粒が挙げられる。これらの中でも、本開示の徐放性顆粒の好ましい医薬品分類は、pH非依存型徐放性顆粒である。
【0034】
本開示の徐放性顆粒は、「3.徐放性顆粒の製造方法」に記載の製造方法により調製される。
【0035】
3.徐放性顆粒の製造方法
本開示の徐放性顆粒の製造方法は、有効成分を含む素顆粒に、上記「1.徐放性コーティング組成物」に記載の第2の徐放性コーティング組成物を噴霧してコーティングするコーティング工程を含み、且つ、キュアリング工程を含まないことを特徴とする。
【0036】
従来の徐放性膜の材料であるエチルセルロース又はアクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体が徐放性膜を製膜する機構が、それら材料樹脂の融解にあることに対し、本開示の製造方法における徐放性膜の材料である上記「1.徐放性コーティング組成物」に記載の第2の徐放性コーティング組成物が徐放性膜を製膜する機構は、酢酸セルロースの溶解にある。このため、本開示の製造方法では、酢酸セルロースの融点が高いにも関わらず、コーティングした材料を融解させるキュアリング工程を行わずに徐放性膜を製膜できる。
【0037】
コーティング工程における具体的な方法としては、通常の湿式コーティング法(流動層コーティング法ともいう)を用いることができる。
【0038】
さらに、本開示の製造方法では、酢酸セルロースの融点が高いため、コーティング工程における温度条件が広く許容される。このため、本開示の製造方法では、従来の徐放性膜のコーティング時に許容できなかった比較的高い温度も許容される。具体的は、コーティング構成における温度条件としては、例えば38~100℃、好ましくは40~100℃、好ましくは45~100℃、より好ましくは50~100℃、55~100℃、60~100℃、50~80℃、50~70℃、又は50~75℃が挙げられる。当該温度は、湿式コーティング法における乾燥気体温度として設定することができる。
【0039】
コーティング工程における温度以外の条件(例えば、乾燥気体風量、噴霧速度、噴霧気体風量等)については、素顆粒の大きさ及び量等に応じて適宜決定することができる。
【0040】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【実施例0041】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
【0042】
[試験例1]
(1)酢酸セルロース
(1-1)アセチル基含量
本試験例で用いた酢酸セルロースのアセチル基含量を、USP-NFにおける定量法に記載の測定法に準じて測定した結果、39.5%であった。
【0043】
(1-2)6%粘度
本試験例で用いた酢酸セルロースの6%粘度を以下のようにして測定した結果、89mPa・sであった。
【0044】
三角フラスコに、乾燥酢酸セルロース3.00g、及び95v/v%アセトン水溶液39.90gを入れ、密栓して約1.5時間攪拌した。その後、回転振盪機で約1時間振盪して完溶させた。得られた6w/v%の溶液を所定のオストワルド粘度計の標線まで移し、25℃で約15分間整温した。計時標線間の流下時間を測定し、次式により6%粘度を算出した。
【数1】
【0045】
粘度計係数は、粘度計校正用標準液を用いて上記と同様の操作で流下時間を測定し、次式より求めた。
【数2】
【0046】
(2)第1の徐放性コーティング組成物の調製
(2-1)実施例1-1
高圧ホモジナイザーを用い、酢酸セルロースを含む水懸濁液を、処理圧力50MPaGで20回処した後、さらに、処理圧力150MPaGで30回処理した。これにより、第1の徐放性コーティング組成物を水懸濁液(実施例1-1)として得た。この水懸濁液(実施例1-1)に含まれる酢酸セルロース(6重量%)の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布計で確認した結果、D50は6μmであった。
【0047】
(2-2)実施例1-2
ビーズミル(A-LABO)を用い、酢酸セルロースを含む水懸濁液を、ビーズ粒径Φ0.8mm、周速8mの条件で循環させる処理を行った。これにより、第1の徐放性コーティング組成物を水懸濁液(実施例1-2)として得た。この水懸濁液(実施例1-2)に含まれる酢酸セルロース(6重量%)の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布計で確認した結果、D50は0.4μmであった。
【0048】
(3)第2の徐放性コーティング組成物(実施例2-1,2-2)の調製
実施例1-1の水懸濁液に、トリアセチン水溶液(6重量%)を、酢酸セルロース及びトリアセチンの総量100重量部当たりトリアセチンが55重量部となるように加え、酢酸セルロース及びトリアセチンを含む水懸濁液(実施例2-1)を得た。実施例1-2の水懸濁液に対してもトリアセチンが同じ比率となるように前記のトリアセチン水溶液を加え、酢酸セルロース及びトリアセチンを含む水懸濁液(実施例2-2)を得た。水懸濁液(実施例2-1及び実施例2-2)の酢酸セルロースの量は2.7重量%、トリアセチンの量は3.3重量%、水の量は94重量%であった。
【0049】
(4)徐放性顆粒(実施例3-1,3-2)の調製
APIとしてアセトアミノフェン(AAP)(製品名ピレチノール・岩城製薬株式会社)を用いた。AAPを目開き355μmの篩で全量の20%が通過するまで篩い、篩上分を素顆粒として用いた。
【0050】
素顆粒150gを流動層コーティング装置(FL-LABO・フロイント産業株式会社)に投入し、実施例2-1及び実施例2-2の徐放性コーティング組成物それぞれを噴霧することで流動層コーティングした。流動層コーティングの諸条件は次の通りとした。
【0051】
【0052】
用いた徐放性コーティング組成物中の酢酸セルロース及びトリアセチンの合計量が30g(素顆粒100重量部に対し当該合計量が20重量部)となった時点で、コーティングを終了した。これにより、実施例2-1の徐放性コーティング組成物を用いた徐放性顆粒(実施例3-1)及び実施例2-2の徐放性コーティング組成物を用いた徐放性顆粒(実施例3-2)を得た。回収した徐放性顆粒を目開き1mmの篩でふるい、篩下分を溶出試験に供した。
【0053】
(5)溶出性試験(徐放性試験)
日本薬局方の溶出試験法・回転バスケット法に準じて溶出性試験を行った。試験液は精製水を用いた。得られた溶出率を
図1に示す。
図1においては、徐放性膜を被覆しなかったAAPの結果を比較例1として示す。
【0054】
図1に示す通り、いずれの徐放性顆粒(実施例3-1,3-2)についても、徐放性が確認できた。また、平均粒子径が6μmの酢酸セルロースを用いた実施例3-1の徐放性顆粒に比べて、平均粒子径が0.4μmの酢酸セルロースを用いた実施例3-2の徐放性顆粒の方が徐放性能が顕著に優れていることが確認できた。
【0055】
[試験例2]
実施例1-2の徐放性コーティング組成物に添加するトリアセチンの使用量を表2に示す通りに変更したことを除いて、試験例1の実施例3-2と同様にして徐放性顆粒(実施例4,5)を調製し、溶出性試験を行った。溶出時間60分における溶出率(%)を表2に示す。表2では、実施例3-2の結果も再掲する。
【0056】
【0057】
表2に示す通り、いずれの徐放性顆粒についても同等の徐放性が得られたことが確認できた。
【0058】
[参考例]
(1)第2の徐放性コーティング組成物の調製
実施例1-2の徐放性コーティング組成物(酢酸セルロースの水懸濁液)に添加する可塑剤を、表3に示すものに変更したことを除いて、実施例2-2と同様にして徐放性コーティング組成物(実施例6及び比較例2,3)を調製した。
【0059】
(2)製膜評価
それぞれの徐放性コーティング組成物5gをガラスシャーレに分注し、40℃で48時間乾燥させた。得られた乾燥物を目視観察し、以下の基準に基づいて膜化の程度を評価した。結果を表3に示す。
○:酢酸セルロース粒子に可塑剤が含浸し相溶一体化している。
△:酢酸セルロース粒子と可塑剤との馴染みが不十分であるため粒子同士の一体化が不十分である。
×:酢酸セルロース粒子と可塑剤とが分離しているため粒子が一体化していない。
【0060】
【0061】
表3に示す通り、25℃での酢酸セルロースを可溶な可塑剤を用いた場合(実施例2-2,6)には、キュアリングを行わなくとも製膜した。試験例1,2に示す通り、実施例2-2の徐放性コーティング組成物で素顆粒を被覆した徐放性顆粒で徐放性が確認されたことから、実施例2-2の徐放性コーティング組成物と同様に製膜した実施例6の徐放性コーティング組成物も、素顆粒に徐放性膜を被覆できることが合理的に推認できる。一方、25℃での酢酸セルロースを溶解できない可塑剤を用いた場合(比較例2,3)には、製膜不可であり、したがって当然に、素顆粒に徐放性膜を被覆できないものであった。