(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136901
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】鋼板の熱間圧延における噛み止めの防止方法、それを用いた熱間圧延方法及び鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 37/00 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
B21B37/00 221
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048205
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】片岡 拓也
(72)【発明者】
【氏名】池堂 健治
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 宜文
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124CC07
4E124EE14
4E124GG07
(57)【要約】
【課題】 オペレータの手動によるマイナストルク補正ではなく、適切なトルク補正値を自動で計算する熱間圧延における噛み止めの防止方法を提供する。
【解決手段】 トルク制約値を用いて計算した圧延スケジュールに基づき圧延を行う鋼板の熱間圧延における噛み止めの防止方法であって、前段のパス毎に圧延トルクを計算し、トルク外れ率を計算し、該計算の結果に基づいて後段の各パスに対しトルク制約値の補正を行い、補正されたトルク制約値を使用して圧延スケジュールの再計算をする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク制約値を用いて計算した圧延スケジュールに基づき圧延を行う鋼板の熱間圧延における噛み止めの防止方法であって、
前段のパス毎に圧延トルクを計算し、トルク外れ率を計算し、該計算の結果に基づいて後段の各パスに対しトルク制約値の補正を行い、補正されたトルク制約値を使用して圧延スケジュールの再計算をすることを特徴とする鋼板の熱間圧延における噛み止めの防止方法。
【請求項2】
前記前段のパスが、圧延開始から1~5パス目であることを特徴とする請求項1に記載の鋼板の熱間圧延における噛み止めの防止方法。
【請求項3】
前記トルク外れ率は下記式(1)で計算し、下記式(2)の成立下で下記式(3)及び式(4)にてトルク制約値を補正することを特徴とする請求項1に記載の鋼板の熱間圧延における噛み止めの防止方法。
トルク外れ率=(実績トルク-予測トルク)/予測トルク ‥‥(1)
予測トルク×(1+トルク外れ率)>閾値 ‥‥(2)
トルク補正値=-{予測トルク×(1+トルク外れ率)-閾値}/補正前のトルク制約値 ‥‥(3)
補正後のトルク制約値=補正前のトルク制約値×(1+トルク補正値) ‥‥(4)
【請求項4】
前記トルク外れ率は下記式(1)で計算し、下記式(2)の成立下で下記式(3)及び式(4)にてトルク制約値を補正することを特徴とする請求項2に記載の鋼板の熱間圧延における噛み止めの防止方法。
トルク外れ率=(実績トルク-予測トルク)/予測トルク ‥‥(1)
予測トルク×(1+トルク外れ率)>閾値 ‥‥(2)
トルク補正値=-{予測トルク×(1+トルク外れ率)-閾値}/補正前のトルク制約値 ‥‥(3)
補正後のトルク制約値=補正前のトルク制約値×(1+トルク補正値) ‥‥(4)
【請求項5】
鋼板の熱間圧延方法において、請求項1~4のいずれか一項に記載された噛み止めの防止方法を用いることを特徴とする鋼板の熱間圧延方法。
【請求項6】
鋼板の製造方法において、請求項5に記載された熱間圧延方法を用いることを特徴とする鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の熱間圧延における噛み止めの防止方法、特にトルク制約値の自動補正による噛み止めの防止方法、この噛み止め防止方法を用いる熱間圧延方法及び鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、厚板圧延機に代表される四重圧延機を用いた熱間圧延では、圧延能率最大化を目的として、圧延スケジュールが計算される。この計算では、各パスの予測温度や設定板厚を用いて、設備制約の最大荷重や最大トルク(以下、「トルク制約値」ともいう)を超えない範囲内で、各パスで最大の圧下量をとるよう計算されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
したがって、実績の鋼板温度が予測した鋼板温度よりも低い場合、実績の変形抵抗が予測した変形抵抗よりも高くなる。その結果、ワークロールを回転させる主機モータの上限トルクに比べて、鋼板を圧下しながら送り出すのに必要なトルクが不足し、鋼板が圧延機内で停止してしまうことがある。これを「噛み止め」と呼ぶ。
【0004】
そこで、従来、圧延作業員(以下、「オペレータ」ともいう)が圧延開始前及び圧延中にトルク制約値を減じる補正値を手動で入力して圧延スケジュールを再計算する「マイナストルク補正」とよばれる操作を行って、噛み止めを防止していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したマイナストルク補正の操作は、オペレータがスラブ単重や1パス目の荷重外れのトン数、スラブ外観の色から判断するスラブの加熱の程度等の状況に基づき、補正の要否を判断し、必要な場合は補正値を決定している。この操作は手動で行うので、オペレータの技量差に影響される。
【0007】
圧延トルクが当初の予測より外れ、その結果噛み止めが発生するリスクがあるとオペレータが判断し、例えばトルク制約値を-10%補正した場合には、圧延スケジュール計算における最大トルク値も-10%補正されて再計算され、最大圧下量が小さくなる。したがって、実際に発生するトルクは当初の最大トルク値の場合よりも小さくなるので、主機モータの上限を超えるトルクが作用しなくなる。その結果、この-10%補正によって、圧延途中の噛み止めトラブルを抑止できるが、各パスの圧下量が小さくなるので、圧延パスの合計数は増加してしまう。
【0008】
このように、オペレータによるマイナストルク補正が、過剰である場合、圧延パス数が必要以上に増加して圧延能率が悪化し、逆にこの補正が不足である場合、噛み止めが発生する。
【0009】
噛み止めが発生するとワークロールと高温の鋼板が長時間接触することによりワークロールにクラックが発生し、ワークロールの研削量が通常の10倍以上に増えることでワークロール原単位が悪化する。また、噛み止めが発生した鋼板は圧延続行が不可能と判断され、そのままスクラップとなり歩留が悪化する。また、圧延が停止すると圧延ラインのダウンタイムが発生する。
【0010】
本発明は、前述の諸々の課題を解決し、オペレータの手動によるマイナストルク補正ではなく、適切なトルク補正値を自動で計算する熱間圧延における噛み止めの防止方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明の他の目的は、前記噛み止めの防止方法を用いる鋼板の熱間圧延方法及び鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前述の課題を解決するために鋭意検討した。その結果、熱間圧延の前段のパスでのトルク外れ率を用いて後段のパスでの噛み止め発生の有無を予測した。この予測結果に基づき、後段のパスに対しトルク制約値を自動で補正して再度圧延スケジュール計算をすることが噛み止めの防止に対して有効との知見を得、本発明をなした。
【0013】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1] トルク制約値を用いて計算した圧延スケジュールに基づき圧延を行う鋼板の熱間圧延における噛み止めの防止方法であって、
前段のパス毎に圧延トルクを計算し、トルク外れ率を計算し、該計算の結果に基づいて後段の各パスに対しトルク制約値の補正を行い、補正されたトルク制約値を使用して圧延スケジュールの再計算をすることを特徴とする鋼板の熱間圧延における噛み止めの防止方法。
[2] 前記[1]において、前記前段のパスが、圧延開始から1~5パス目であることを特徴とする鋼板の熱間圧延における噛み止めの防止方法。
[3] 前記[1]又は[2]において、前記トルク外れ率は下記式(1)で計算し、下記式(2)の成立下で下記式(3)及び式(4)にてトルク制約値を補正することを特徴とする鋼板の熱間圧延における噛み止めの防止方法。
トルク外れ率=(実績トルク-予測トルク)/予測トルク ‥‥(1)
予測トルク×(1+トルク外れ率)>閾値 ‥‥(2)
トルク補正値=-{予測トルク×(1+トルク外れ率)-閾値}/補正前のトルク制約値 ‥‥(3)
補正後のトルク制約値=補正前のトルク制約値×(1+トルク補正値) ‥‥(4)
[4] 鋼板の熱間圧延方法において、前記[1]~[3]のいずれか一つに記載された噛み止めの防止方法を用いることを特徴とする鋼板の熱間圧延方法。
[5] 鋼板の製造方法において、前記[4]に記載された熱間圧延方法を用いることを特徴とする鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る熱間圧延の噛み止め防止方法によれば、従来のオペレータの経験と勘に頼った手動操作によらず、適切なトルクの補正値を自動で計算して圧延スケジュールを再計算し圧延に適用することで、無用な圧延パス数の増加を防ぎつつ、噛み止めを防止できる。また、本発明に係る熱間圧延方法及び鋼板の製造方法によれば、圧延能率向上の効果とともに、ワークロール原単位の改善、歩留改善の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る鋼板の熱間圧延における噛み止め防止方法の実施形態を示すフロー図である。
【
図2】噛み止めが発生する鋼板における予測・実測荷重の例を示す図である。
【
図3】実施例1の当初予定荷重、予定荷重及び実績荷重の推移を示す図である。
【
図4】計算最大トルク区分に対するパス数の分布及び過去に噛み止めが発生した範囲を示す図である。
【
図5】パス数及び最大トルク補正値の従来と実施例2を比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る鋼板の熱間圧延における噛み止め防止方法の実施形態について
図1に示すフロー図を参照し説明する。このフロー図に沿った作業はプロセスコンピュータが実行する。
本発明ではまず、圧延スケジュール計算をする(ステップ100)。
【0017】
[圧延スケジュール計算]
この計算では、各パスの予測温度や目標板厚を用いて、設備制約の最大荷重や最大トルクを超えない範囲で各パスで最大の圧下量が算出され、また、圧延トルク(以下、単に「トルク」ともいう)も算出される。
トルクの計算には下記式(5)が用いられる。
To=α×{RD×(入側板厚-出側板厚)}×0.5×(最大荷重) ‥‥(5)
ここで、Toはトルクであり、予測トルクともいう。RDは偏平ロール径で、RD=C×(上ワークロール径)/2、Cはロール偏平係数である。αはトルクアーム係数で、α=0.5+0.17×(出側板厚/RD)×0.5×{1-(入側板厚-出側板厚)/入側板厚}である。なお、単位は、トルク[t・m]、RD、入側板厚、出側板厚[mm]、最大荷重[t]である。
【0018】
[トルク制約値]
設備制約の最大トルク値であるトルク制約値の初期設定値は、通常圧延材と制御圧延材に対し、プロセスコンピュータ内で個別に定数が充当される。この定数は例えば、通常圧延材に対し300~400t・m、制御圧延材に対し300~400t・mが挙げられる。
圧延スケジュール計算の後、圧延を開始する(ステップ110)。圧延の開始後、パス順番、荷重及びトルクの実績を取得する(ステップ120)。実績パス順番が最終パスかの当否を判定し(ステップ130)、「当」(Y)ならば圧延終了し(ステップ190)、「否」(N)ならば前段パスかの当否を判定する(ステップ140)。
【0019】
[前段のパス]
ステップ140の「前段のパス」とは、圧延開始から順に区分される「調整パス」、「幅出しパス」及び「仕上げパス」のうち調整パス又は幅出しパスに含まれる少なくとも1つのパスを意味する。前記調整パスは、圧下量制約で各パスの圧下量が決定されるパスである。前記幅出しパスは、トルク値の制約で各パスの圧下量が決定されるパスであり、前記仕上げパスは、荷重制約・形状線の制約によって各パスの圧下量が決定されるパスである。
前記前段のパスは、圧延開始から1~5パス目とするのが好ましい。これにより、噛み止め及び無用なパス数増加を防止する効果がより十分なものとなる。
【0020】
前段のパスを1~5パス目とするのが好適な理由を以下に述べる。噛み止めは経験上、主に幅出し圧延時に発生する。幅出し圧延時は、圧延中に最もワークロールと鋼板の接触面積が大きく圧延時のトルクが大きくなりやすいためである。幅出し圧延は、通常、3パス目から開始し、6~8パス目で終了する。したがって、前記前段のパスを6パス目以降とした場合、補正の時機を失して噛み止めの発生防止が困難である。
ステップ140の前段のパスかの当否判定が「否」(N)ならば、パス順番を1つ増してステップ120へ飛び、「当」(Y)ならばトルク外れ率を計算する(ステップ150)。
【0021】
[トルク外れ率]
ステップ150におけるトルク外れ率は、例えば下記式(1)で計算する。
トルク外れ率=(実績トルク-予測トルク)/予測トルク ‥‥(1)
ここで、実績トルクは、式(5)の最大荷重に実績荷重を代入して求められる。予定荷重は、各パスの予測温度と変形抵抗から計算される。
【0022】
[トルク制約値の補正の要否]
前記トルク外れ率の計算結果に基づいて後段のパスでのトルク制約値の補正の要否を判定し(ステップ160)、「否」(N)ならば、パス順番を1つ増してステップ120へ飛ぶ。
前記「後段のパス」とは、前段のパスよりも後の少なくとも1つのパスを意味する。
前記補正の要否判定には、例えば下記式(2)を用いる。
予測トルク×(1+トルク外れ率)>閾値 ‥‥(2)
式(2)における予測トルクは、後段のパスでのものである。式(2)の左辺は、前段のパスでのトルク外れ率が、後段のパスでも維持されるとして、後段のパスで推定されるトルクである。この推定は、過去の圧延操業実績の解析結果から裏付けられた。
【0023】
前記推定されるトルクが高いと、噛み止めのリスクが大きい。そこで、前記推定されるトルクと比較する閾値を設定し、前記推定されるトルクが閾値超のとき、噛み止めのリスクが高いとして、トルク制約値の補正「要」と判定する。
【0024】
[閾値]
前記閾値は、圧延材種が、スラブ長:4~5m、スラブ抽出温度:1050~1150℃及び鋼種:N11LXR(日本海事協会NK規格、40A、40D、40E相当)の場合の例として370t・mが挙げられる。この例の閾値は次のようにして決定した。すなわち、過去の圧延操業実績の解析から最大計算トルク区分に対するパス数の分布と、噛み止めが発生したことがある範囲とを求め、
図4を得た。
図4から、最大計算トルクが370t・m以下では噛み止めが発生していないことがわかる。よって、この例における閾値は370t・mとした。
【0025】
なお、
図4の例では、スラブ長:4~5m、スラブ抽出温度:1050~1150℃及び鋼種:N11LXRの条件の場合である。これらの条件の少なくともいずれか1つがこの例の範囲から外れると、370t・mとは異なる閾値が適正となる場合がある。そのように条件が異なる場合の適正な閾値の全体は、300~400t・mの範囲である。したがって、閾値は、スラブ長、スラブ抽出温度及び鋼種の内の少なくともいずれか1つの関数として設定することが好ましい。
【0026】
例えば、鋼種ごとに、複数に区分したスラブ長及びスラブ抽出温度と対応する閾値との関係をテーブルの形式で準備しておき、このテーブルから、実際の圧延材の鋼種、スラブ長及びスラブ抽出温度に対応する閾値を選定するようにしてもよい。
【0027】
[トルク制約値の補正]
トルク制約値の補正の要否が[要](Y)ならば、後段のパスに用いるトルク制約値を補正する(ステップ170)。これには、例えば下記式(3)及び(4)を用いる。
トルク補正値=-{予測トルク×(1+トルク外れ率)-閾値}/補正前のトルク制約値 ‥‥(3)
補正後のトルク制約値=補正前のトルク制約値×(1+トルク補正値) ‥‥(4)
ここで、式(3)における「補正前のトルク制約値」は、前述のように、通常圧延材に対し300~400t・m、制御圧延材に対し300~400t・mが挙げられる。
【0028】
[圧延スケジュール再計算]
そして、式(4)で得られた補正後のトルク制約値を用いて、圧延スケジュール再計算を行う(ステップ180)。
圧延スケジュール再計算後は、パス順番を1つ増してステップ120へ飛ぶ。よって、後段のパスでは、再計算後の圧延スケジュールに基づいて圧延が継続される。
【0029】
本発明の熱間圧延方法は、本発明の噛み止めの防止方法を用いたものであり、これにより、噛み止めの発生を防止でき、その結果、圧延能率が向上し、ワークロール原単位が向上する。
【0030】
また、本発明の鋼板の製造方法は、本発明の熱間圧延方法を用いたものであり、これにより、噛み止めによる鋼板のスクラップ化が防止でき、その結果、鋼板の製品歩留りが向上する。
【実施例0031】
[実施例1]
実施例1では、鋼種:N11LXR、スラブ寸法:245mm×1904mm×2680mm、圧延命令寸法:10.2mm×4151mm×40600mm、スラブ抽出温度:1120℃の場合の例である。
【0032】
前段のパスは1~5パス目とした。鋼板は通常圧延材で、トルク制約値の初期設定値は326t・mとした。トルク外れ率の計算には前記式(1)を用い、トルク制約値の補正の要否判定には前記式(2)を用い、閾値は370t・mとした。トルク補正値の計算には前記式(3)を用い、補正後のトルク制約値の計算には前記式(4)を用いた。
【0033】
圧延開始後、3パス目でトルク制約値の補正「要」となったので、トルク補正値の計算、トルク制約値の補正、圧延スケジュール再計算を順次実行し、第4パス以降は、再計算後の圧延スケジュールに基づいて圧延を行った。
【0034】
このときの、当初予定荷重、予定荷重及び実績荷重の推移を
図3に示す。ここで、横軸の板厚は圧延開始からの各パスの出側板厚である。また、当初予定荷重とは、当初の圧延スケジュール計算での予測荷重であり、再スケ後予定荷重とは圧延スケジュール再計算での予測荷重である。なお、この例では、当初、全14パスで、1及び2パス目が前記調整パス、3~7パス目が前記幅出しパス、8~14パス目が前記仕上げパスであったが、再スケ後は、前記15パスで、3~8パス目が前記幅出しパス、9~15パス目が前記仕上げパスとなった。
【0035】
図3に示されるとおり、実施例1では、3パス目で実績荷重が当初予定荷重より高く外れ、この成り行きでは4パス目以降で圧延時の荷重がさらに増大し、トルク不足となって噛み止めが発生するリスクが高いと自動で判定した。そこで、前述のとおりトルク外れ率を用いてトルク制約値を自動で補正して圧延スケジュール再計算を行い、4パス目以降は再計算後の圧延スケジュールに基づき圧延し、噛み止めを防止できた。
【0036】
[実施例2]
実施例2では、通常圧延材で仕上げ板厚が20~30mmの範囲の鋼板を対象とした。従来は、オペレータが前述のマイナストルク補正を行っていた。実施例2と従来とで、トルク補正値及びパス数を比較した。圧延本数は、実施例2が1箇月分の合計で2000本、従来が3箇月分の合計で6000本である。トルク補正値、圧延パス数とも、圧延本数の全域にわたる合計を圧延本数で除した平均値で示した。その結果を
図5に示す。
【0037】
図5に示すとおり、実施例2では、トルク補正値が従来より5.5ポイント増加し、パス数が従来より0.7パス減少した。これにより、圧延能率が約22t/h改善した。
【0038】
また、従来では、ワークロールのクラック発生頻度が最大で約6回/月であったのに対し、実施例2では1回/月未満と格段に低減した(図示せず)。