IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ハブユニット軸受 図1
  • 特開-ハブユニット軸受 図2
  • 特開-ハブユニット軸受 図3
  • 特開-ハブユニット軸受 図4
  • 特開-ハブユニット軸受 図5
  • 特開-ハブユニット軸受 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136902
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20240927BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240927BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20240927BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240927BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20240927BHJP
   F16J 15/3256 20160101ALI20240927BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16C33/80
F16J15/3232 201
F16J15/447
F16J15/3256
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048206
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 良雄
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J006
3J042
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE23
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE41
3J006AE42
3J006AE46
3J006CA01
3J042AA09
3J042CA10
3J042CA21
3J042DA10
3J043AA16
3J043CA02
3J043CA05
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA06
3J043HA01
3J043HA04
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC24
3J216CC35
3J216CC68
3J216DA01
3J216DA12
3J216GA03
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701FA13
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】ハブに対する摺接環の嵌合力を十分に確保することができる構造を実現する。
【解決手段】シール装置5は、ハブ3に外嵌固定される摺接環31と、外輪2に内嵌固定されるシールリング32とを備え、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する転動体設置空間30の軸方向外側の開口を塞ぐ。摺接環31は、摺接環側芯金33と、該摺接環側芯金33に結合固定された摺接環側シール部材34とを有する。摺接環側シール部材34は、摺接環側芯金33の径方向内側の端部を覆うように備えられ、かつ、ハブ3の外周面に備えられたハブ側係止溝13に係止された摺接環側係止部39と、回転フランジ12の軸方向内側面に先端部を接触させた摺接環側シールリップ40と、外輪2の内周面に摺接または近接対向する外径側シール部46とを有する。シールリング32は、摺接環側芯金33の軸方向内側面に先端部に摺接させたシールリップ48aを含むシールリング側シール部材49を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に備えられた複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に備えられた複列の内輪軌道と、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に備えられ、かつ、径方向外側に突出する回転フランジと、軸方向に関して前記回転フランジと前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側の内輪軌道との間部分の外周面に備えられ、かつ、径方向内側に向けて凹んだハブ側係止溝とを有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
前記ハブに外嵌固定される摺接環と、前記外輪に内嵌固定されるシールリングとを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシール装置と、を備え、
前記摺接環は、摺接環側芯金と、該摺接環側芯金に結合固定された摺接環側シール部材とを有し、
前記摺接環側シール部材は、前記摺接環側芯金の径方向内側の端部を覆うように備えられ、かつ、前記ハブ側係止溝に係止された摺接環側係止部と、前記回転フランジの軸方向内側面に先端部を接触させた摺接環側シールリップと、前記外輪の内周面に摺接または近接対向する外径側シール部とを有し、
前記シールリングは、前記摺接環側芯金の軸方向内側面に先端部を摺接させたシールリップを含むシールリング側シール部材を有し、
前記摺接環側芯金の内径が、前記ハブ側係止溝の内面のうちで軸方向内側を向いた側面の外径よりも小さく、かつ、前記ハブ側係止溝の内面のうちで軸方向外側を向いた側面の外径よりも大きい、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記外輪は、内周面のうち、前記外径側シール部が摺接または近接対向する部分に、軸方向外側に向かうほど内径が大きくなる外輪側傾斜面部を有する、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項3】
前記外輪は、前記複列の外輪軌道のうちの軸方向外側の外輪軌道よりも軸方向外側に位置する部分の内周面に、径方向外側に向けて凹んだ外輪側係止溝を有し、
前記シールリングは、シールリング側芯金と、該シールリング側芯金に結合固定された前記シールリング側シール部材とを有し、
前記シールリング側シール部材は、前記シールリップと、前記シールリング側芯金の径方向外側の端部を覆うように備えられ、かつ、前記外輪側係止溝に係止されたシールリング側係止部とを有し、
前記シールリング側芯金の外径が、前記外輪側係止溝の内面のうちで軸方向外側を向いた側面の外径よりも大きく、かつ、前記外輪側係止溝の内面のうちで軸方向内側を向いた側面の外径よりも小さい、
請求項1または2に記載のハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪および制動用回転体を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪は、ハブユニット軸受により、懸架装置に対して回転自在に支持される。ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有するハブと、複列の外輪軌道と複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える。外輪は、懸架装置に支持固定される。ハブの回転フランジには、車輪のホイールおよび制動用回転体が結合固定される。
【0003】
なお、ハブユニット軸受に関して、軸方向外側とは、車両に組み付けた状態での車両の幅方向外側をいい、軸方向内側とは、車両に組み付けた状態での車両の幅方向中央側をいう。
【0004】
ハブユニット軸受は、外部からの泥水などの侵入を防止するため、外輪の内周面とハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシール装置をさらに備える。従来、このようなシール装置として、外輪の軸方向外側の端部に支持固定され、かつ、それぞれの先端部をハブの軸方向中間部外周面または回転フランジの軸方向内側面に全周にわたり摺接させた複数のシールリップを有するシールリングが広く知られている。
【0005】
ハブの軸方向中間部外周面および回転フランジの軸方向内側面には、総形の研削砥石である回転砥石を用いた仕上げの研削加工が施される。総形の研削砥石を用いてハブの表面に研削加工を施す際には、回転フランジの軸方向内側面に、対数螺旋状、すなわち渦巻状の研削筋目が形成される可能性がある。このような研削筋目が形成されると、シールリップの先端部が回転フランジの軸方向内側面に貼り付いて摩擦抵抗が増大したり、シールリップの先端部が研削筋目の凹部の内側に深く入り込み、ハブが回転した際に、径方向に往復移動させられて振動し、シール鳴きと呼ばれる異音が発生したりする可能性がある。
【0006】
その対策として、特開2017-129197号公報(特許文献1)には、外輪の軸方向外側の端部に支持固定されたシールリングと、ハブの外周面のうち回転フランジと軸方向外側の内輪軌道との間に存在する円筒面状の溝肩部に圧入外嵌された金属板製の摺接環とを備えたシール装置が記載されている。このシール装置では、シールリングを構成する複数のシールリップの先端部を、表面粗さが良好で、加工筋目が素材の長手方向に一定な摺接環の表面に摺接させている。このため、シールリップの先端部の貼り付きによる摩擦抵抗の増大や異音の発生を抑えることができる。
【0007】
ところで、ハブユニット軸受には、主に自動車が旋回走行する際に、路面反力に基づくモーメント荷重が負荷される。この際、溝肩部を含む、回転フランジの根元部の表面には、回転曲げ荷重が加わる。これに伴い、該表面には、半回転するごとに凹形状の変形と凸形状の変形とが交互に繰り返される態様の、繰り返し運動が生じる。このため、溝肩部に対する摺接環の嵌合力が不足していると、溝肩部に生じる凹凸変形の繰り返し運動を推進力として、摺接環がクリープを伴ってハブに対し軸方向に移動する可能性がある。摺接環がハブに対して軸方向に移動すると、摺接環の表面に対するシールリップの先端部の軸方向の締め代が増大してシールトルクが増大したり、該締め代が減少してシール性能が低下したりする可能性があるため、好ましくない。
【0008】
これに対して、特開2017-129197号公報に記載の従来構造では、摺接環の径方向内側の端部に備えられた嵌合筒部を、素材となる金属板をU字形に折り返してなる高剛性の筒部としている。これにより、溝肩部に対する摺接環の嵌合筒部の嵌合力を高めている。さらに、前記従来構造では、溝肩部に形成された角形(略台形状)の断面形状を有する径方向突起部を、摺接環の嵌合筒部に対し、軸方向内側から対向させている。これにより、嵌合筒部と径方向突起部との係合に基づいて、摺接環がハブに対し軸方向内側に移動することを抑えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-129197号公報
【特許文献2】特開2017-180599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特開2017-129197号公報に記載の従来構造では、径方向突起部を乗り越えさせてから、溝肩部のうちで径方向突起部よりも軸方向外側部分に摺接環を外嵌するため、溝肩部に対する摺接環の嵌合力を確保することが難しくなる。また、摺接環の嵌合筒部を高剛性としているため、径方向突起部を乗り越えさせるのに大きな力が必要となり、摺接環を溝肩部に圧入外嵌する作業が困難になる。
【0011】
また、摺接環に使用されるSUS304などのステンレス鋼板は、比例限度が0.1%程度と低いため、嵌合筒部に塑性変形を生じさせることなく径方向突起部を乗り越えさせるためには、径方向突起部の径方向高さを十分に高くすることはできない。したがって、摺接環の軸方向内側への移動を径方向突起部により十分に抑えることは難しい。
【0012】
なお、特開2017-180599号公報(特許文献2)に記載されるように、ハブの外周面には、中心軸が軸方向内側に向かうほどハブの中心軸に近づく方向に傾斜した総形の研削砥石を用いて仕上げの研削加工が施される。一方、径方向突起部の断面形状を角形とした場合には、径方向突起部は、研削砥石の中心軸とは反対側を向いた軸方向外側面を有する。このため、研削加工時に、溝肩部のうちで径方向突起部の軸方向外側に隣接する部分には研削砥石が届かず、当該部分を研削することができない。したがって、径方向突起部の断面形状を角形とした場合には、溝肩部のうちで径方向突起部の軸方向外側に隣接する部分に嵌合面としての面精度を持たせることができず、当該部分を嵌合面として利用することもできない。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、ハブに対する摺接環の嵌合力を十分に確保することができる、ハブユニット軸受の構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様のハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、シール装置とを備える。
【0015】
前記外輪は、内周面に備えられた複列の外輪軌道を有する。
【0016】
前記ハブは、外周面に備えられた複列の内輪軌道と、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に備えられ、かつ、径方向外側に突出する回転フランジと、軸方向に関して前記回転フランジと前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側の内輪軌道との間部分の外周面に備えられ、かつ、径方向内側に向けて凹んだハブ側係止溝とを有する。
【0017】
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
【0018】
前記シール装置は、前記ハブに外嵌固定される摺接環と、前記外輪に内嵌固定されるシールリングとを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ。
【0019】
前記摺接環は、摺接環側芯金と、該摺接環側芯金に結合固定された摺接環側シール部材とを有する。
【0020】
前記摺接環側シール部材は、前記摺接環側芯金の径方向内側の端部を覆うように備えられ、かつ、前記ハブ側係止溝に係止された摺接環側係止部と、前記回転フランジの軸方向内側面に先端部を接触させた摺接環側シールリップと、前記外輪の内周面に摺接または近接対向する外径側シール部とを有する。
【0021】
前記シールリングは、前記摺接環側芯金の軸方向内側面に先端部を摺接させたシールリップを含むシールリング側シール部材を有する。
【0022】
さらに本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記摺接環側芯金の内径が、前記ハブ側係止溝の内面のうちで軸方向内側を向いた側面の外径よりも小さく、かつ、前記ハブ側係止溝の内面のうちで軸方向外側を向いた側面の外径よりも大きい。
【0023】
本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記外輪は、内周面のうち、前記外径側シール部が摺接または近接対向する部分に、軸方向外側に向かうほど内径が大きくなる外輪側傾斜面部を有することができる。
【0024】
本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記外輪は、前記複列の外輪軌道のうちの軸方向外側の外輪軌道よりも軸方向外側に位置する部分の内周面に、径方向外側に向けて凹んだ外輪側係止溝を有することができ、前記シールリングは、シールリング側芯金と、該シールリング側芯金に結合固定された前記シールリング側シール部材とを有することができ、および、前記シールリング側シール部材は、前記シールリップと、前記シールリング側芯金の径方向外側の端部を覆うように備えられ、かつ、前記外輪側係止溝に係止されたシールリング側係止部とを有することができる。
【0025】
この場合、前記シールリング側芯金の外径を、前記外輪側係止溝の内面のうちで軸方向外側を向いた側面の外径よりも大きく、かつ、前記外輪側係止溝の内面のうちで軸方向内側を向いた側面の外径よりも小さくすることができる。
【0026】
上述した本発明の一態様のハブユニット軸受のそれぞれは、矛盾を生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一態様のハブユニット軸受によれば、ハブに対する摺接環の嵌合力を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の実施の形態の第1例のハブユニット軸受を示す断面図である。
図2図2は、図1のX部拡大図である。
図3図3は、本発明の実施の形態の第2例についての図2に相当する図である。
図4図4は、本発明の実施の形態の第3例についての図2に相当する図である。
図5図5は、第3例について、シールリング側係止部を軸方向外側から見た模式図である。
図6図6は、本発明の実施の形態の第4例についての図2に相当する図である。る。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、図1および図2を用いて説明する。本例のハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4a、4bと、シール装置5とを備える。なお、本例のハブユニット軸受1は、従動輪用の構造を備え、かつ、転動体4a、4bとして玉を使用している。
【0030】
以下の説明において、ハブユニット軸受1に関して、軸方向、径方向、および円周方向とは、特に断らない限り、外輪2の軸方向、径方向、および円周方向をいう。外輪2の軸方向、径方向、および円周方向は、ハブ3の軸方向、径方向、および円周方向と一致する。また、軸方向外側は、ハブユニット軸受1を自動車に組み付けた状態での車体の幅方向外側をいい、軸方向内側は、ハブユニット軸受1を自動車に組み付けた状態での車体の幅方向中央側をいう。
【0031】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。外輪2は、内周面に、複列の外輪軌道6a、6bを有し、かつ、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ7を有する。それぞれの外輪軌道6a、6bは、円弧形の母線形状を有する。静止フランジ7は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔8を有する。
【0032】
本例では、支持孔8は、ねじ孔により構成されている。外輪2は、懸架装置のナックルに備えられた通孔を挿通した支持ボルトを、静止フランジ7の支持孔8に軸方向内側から螺合することで、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0033】
さらに本例では、外輪2は、内周面のうち、後述する摺接環側シール部材34の摺接環側傾斜面部46が近接対向する部分である軸方向外側の端部に、軸方向外側に向かうほど内径が大きくなる外輪側傾斜面部9を有する。外輪側傾斜面部9は、直線状の母線形状を有する円すい台面により構成されている。
【0034】
また、外輪2は、内周面のうち、軸方向に関して外輪側傾斜面部9と軸方向外側の外輪軌道6aとの間に存在する部分に、外輪小肩部10を有する。外輪小肩部10は、軸方向に関して内径が変化しない円筒面により構成されている。
【0035】
ハブ3は、外輪2の径方向内側に外輪2と同軸に配置される。ハブ3は、複列の内輪軌道11a、11bと、回転フランジ12と、ハブ側係止溝13とを備える。
【0036】
複列の内輪軌道11a、11bは、ハブ3の外周面のうちで複列の外輪軌道6a、6bに対向する部分に備えられている。それぞれの内輪軌道11a、11bは、円弧形の母線形状を有する。
【0037】
回転フランジ12は、ハブ3のうち、外輪2の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に位置する部分に備えられ、かつ、径方向外側に向けて突出する。回転フランジ12は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔14を有する。取付孔14のそれぞれには、ディスクやドラムなどの制動用回転体、および、車輪を構成するホイールを、回転フランジ12に対し結合固定するためのスタッド15が圧入状態でセレーション嵌合されている。すなわち、本例では、取付孔14は、円筒孔により構成されている。
【0038】
ハブ側係止溝13は、ハブ3の外周面のうち、軸方向に関して回転フランジ12と軸方向外側の内輪軌道11aとの間に存在する部分に全周にわたって備えられ、かつ、径方向内側に向けて凹んでいる。
【0039】
ハブ側係止溝13は、矩形の断面形状を有する。すなわち、ハブ側係止溝13の内面のうち、互いに対向する側面16a、16bは、ハブ3の中心軸に直交する平坦面により構成されており、かつ、底面17は、軸方向に関して外径が変化しない円筒面により構成されている。また、ハブ側係止溝13の内面のうちで軸方向内側を向いた側面16aの外径D16aは、ハブ側係止溝13の内面のうちで軸方向外側を向いた側面16bの外径D16bよりも大きくなっている(D16a>D16b)。
【0040】
本例では、ハブ3は、外周面のうち、軸方向に関してハブ側係止溝13と軸方向外側の内輪軌道11aとの間に位置する部分に、ハブ側溝肩部18を有する。ハブ側溝肩部18は、軸方向に関して外径が変化しない円筒面により構成されている。
【0041】
また、回転フランジ12は、軸方向内側面に、径方向内側から順に、曲面部19と、内径側平坦面部20と、段部21と、外径側平坦面部22とを有する。
【0042】
曲面部19は、回転フランジ12の軸方向内側面の径方向内側の端部に備えられており、凹円弧形の断面形状を有する。すなわち、本例では、ハブ側係止溝13は、ハブ3の外周面のうち、軸方向に関して曲面部19とハブ側溝肩部18との間に位置する部分に備えられている。
【0043】
内径側平坦面部20は、回転フランジ12の軸方向内側面のうち、曲面部19の径方向外側に隣接する径方向内側部分に備えられており、ハブ3の中心軸に直交する円輪状の平面により構成されている。
【0044】
段部21は、回転フランジ12の軸方向内側面の径方向中間部に備えられている。段部21は、内径側平坦面部20の径方向外側の端部から軸方向外側に向かうほど外径が大きくなる略円すい台面により構成されている。
【0045】
外径側平坦面部22は、回転フランジ12の軸方向内側面の径方向外側部分に備えられており、ハブ3の中心軸に直交する円輪状の平面により構成されている。
【0046】
また、ハブ3は、軸方向外側の端部に、円筒状のパイロット部23を備える。
【0047】
ディスクやドラムなどの制動用回転体、および、車輪を構成するホイールは、それぞれの中心部を軸方向に貫通する中心孔にパイロット部23を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所を軸方向に貫通する通孔に、スタッド15を挿通した状態で、スタッド15の先端部にハブナットを螺合することにより、回転フランジ12に結合固定される。
【0048】
なお、回転フランジの取付孔を、ねじ孔により構成することもできる。この場合には、制動用回転体に備えられた通孔と、ホイールに備えられた通孔とを挿通したハブボルトを、取付孔に軸方向外側から螺合することにより、制動用回転体および車輪を回転フランジに結合固定する。
【0049】
本例では、ハブ3は、内輪24とハブ輪25とを組み合わせてなる。
【0050】
内輪24は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪24は、外周面に、軸方向内側の内輪軌道11bを有する。
【0051】
ハブ輪25は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪25は、軸方向外側の内輪軌道11aと、回転フランジ12と、ハブ側係止溝13と、パイロット部23とを備える。
【0052】
ハブ輪25は、軸方向外側の内輪軌道11aよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪24が外嵌される小径段部26を有する。さらに、ハブ輪25は、小径段部26の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差面27を有し、かつ、小径段部26の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部28を有する。
【0053】
ハブ3は、ハブ輪25の小径段部26に内輪24を外嵌し、かつ、ハブ輪25の段差面27とかしめ部28との間で内輪24を軸方向両側から挟持することにより、内輪24とハブ輪25とを結合固定することで構成されている。
【0054】
なお、ハブ輪のうちで内輪の軸方向内側の端部から突出した軸方向内側の端部にナットを螺合することで、前記ハブ輪と前記内輪とを結合することもできる。
【0055】
なお、本例のハブユニット軸受1は、従動輪用のハブユニット軸受であるため、ハブ3は、中実に構成されている。
【0056】
ただし、本発明の一態様のハブユニット軸受は、駆動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。この場合、ハブは、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔を有する。スプライン孔には、エンジンや電動モータを駆動源として回転駆動する駆動軸の先端部がスプライン係合される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブを回転駆動することで、ハブの回転フランジに結合固定された車輪および制動用回転体を回転駆動する。
【0057】
複数個の転動体4a、4bは、複列の外輪軌道6a、6bと複列の内輪軌道11a、11bとの間に、それぞれ複数個ずつ、保持器29a、29bにより保持された状態で転動自在に配置されている。これにより、ハブ3は、外輪2の径方向内側に回転自在に支持される。なお、それぞれの転動体4a、4bは、軸受鋼などの硬質金属、または、セラミックスにより構成される。
【0058】
シール装置5は、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する転動体設置空間30の軸方向外側の開口を塞ぐ。これにより、前記軸方向外側の開口を通じて、外部空間から転動体設置空間30内に泥水などの異物が侵入したり、転動体設置空間30内に封入したグリースが、前記軸方向外側の開口を通じて外部空間に漏洩したりすることを防止する。シール装置5は、ハブ3に外嵌固定される摺接環31と、外輪2に内嵌固定されるシールリング32とを備える。
【0059】
摺接環31は、摺接環側芯金33と、該摺接環側芯金33に結合固定された摺接環側シール部材34とを有する。
【0060】
摺接環側芯金33は、ステンレス鋼板などの金属板を断面略クランク形に曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。
【0061】
本例では、摺接環側芯金33は、内径側円輪部35と、傾斜板部36と、外径側円輪部37と、折れ曲がり部38とを有する。
【0062】
内径側円輪部35は、中空円形平板状に構成されている。
【0063】
傾斜板部36は、内径側円輪部35の径方向外側の端部から径方向外側に向かうほど軸方向外側に向かう方向に傾斜した円すい筒状に構成されている。
【0064】
外径側円輪部37は、傾斜板部36の径方向外側の端部から径方向外側に向けて伸長する中空円形平板状に構成されている。
【0065】
折れ曲がり部38は、外径側円輪部37の径方向外側の端部から軸方向内側に向けて折れ曲がり、円筒状に構成されている。
【0066】
本例では、摺接環側芯金33の内径d33、すなわち内径側円輪部35の内径を、ハブ側係止溝13の内面のうちで軸方向内側を向いた側面16aの外径D16aよりも小さく、かつ、ハブ側係止溝13の内面のうちで軸方向外側を向いた側面16bの外径D16bよりも大きくしている(D16a>d33>D16b)。
【0067】
摺接環側シール部材34は、ゴムのごときエラストマーなどの弾性材により構成され、摺接環側芯金33の表面に加硫接着により結合固定されている。摺接環側シール部材34は、摺接環側芯金33の径方向内側の端部を覆うように備えられ、かつ、ハブ側係止溝13に係止された摺接環側係止部39と、回転フランジ12の軸方向内側面に先端部を接触させた摺接環側シールリップ40とを有する。
【0068】
本例では、摺接環側シール部材34は、基部41と、内径側リップ42と、摺接環側シールリップ40と、外径側シール部である摺接環側傾斜面部46とを有する。
【0069】
基部41は、摺接環側芯金33のうち、内径側円輪部35の軸方向内側面の径方向内側部分から折れ曲がり部38の内周面までの範囲を覆うように、摺接環側芯金33に結合固定されている。すなわち、基部41は、内径側円輪部35の軸方向内側面の径方向内側部分、内周面、および軸方向外側面を覆う内径側覆い部43と、傾斜板部36の内周面および外径側円輪部37の軸方向外側面を覆う側面覆い部44と、折れ曲がり部38の外周面、軸方向内側面、および内周面を覆う外径側覆い部45とを有する。
【0070】
内径側リップ42は、内径側覆い部43の径方向内側の端部から径方向内側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に伸長している。
【0071】
摺接環31は、ハブ側係止溝13の内面のうちで軸方向内側を向いた側面16aに、内径側覆い部43の軸方向外側面を弾性的に突き当て、かつ、ハブ側係止溝13の内面のうちで軸方向外側を向いた側面16bに、内径側リップ42の先端部を弾性的に突き当てることにより、ハブ3に対して軸方向に位置決めした状態で、該ハブ3に外嵌固定されている。すなわち、本例では、内径側覆い部43と内径側リップ42とにより、ハブ側係止溝13に係止される摺接環側係止部39が構成されている。
【0072】
別の言い方をすれば、摺接環31は、内径側覆い部43と内径側リップ42とからなる摺接環側係止部39を、ハブ側係止溝13の内面のうち、互いに対向する側面16a、16b同士の間で弾性的に挟持する(軸方向に弾性的に押し潰す)ことにより、ハブ3に対して軸方向に位置決めした状態で、該ハブ3に外嵌固定されている。さらに別の言い方をすれば、摺接環31は、摺接環側係止部39をハブ側係止溝13にゴム嵌合させることで、ハブ3に対して外嵌固定されている。
【0073】
なお、本例では、摺接環31をハブ3の周囲に装着する以前の自由状態において、内径側リップ42の先端部の内径を、ハブ側係止溝13の底面17の外径よりも小さくしている。これにより、摺接環31をハブ3に装着した状態で、内径側リップ42の内周面を、ハブ側係止溝13の底面17に弾性的に押し付けている。
【0074】
摺接環側シールリップ40は、側面覆い部44から軸方向外側に向かうほど径方向外側に向かう方向に伸長している。本例では、摺接環側シールリップ40は、先端部を、回転フランジ12の軸方向内側面のうち、曲面部19に接触させている。
【0075】
摺接環側傾斜面部46は、外径側覆い部45の外周面に備えられ、軸方向外側に向かうほど外径が大きくなる傾斜した円すい台面により構成されている。摺接環31をハブ3に外嵌固定した状態で、摺接環側傾斜面部46は、外輪2の内周面のうち、外輪側傾斜面部9と略平行に配置され、かつ、該外輪側傾斜面部9に近接対向する。これにより、外輪側傾斜面部9と摺接環側傾斜面部46との間に、軸方向外側に向かうほど径方向外側に向かう方向に傾斜したラビリンスシール47を構成している。
【0076】
シールリング32は、摺接環側芯金33の軸方向内側面に先端部を摺接させたシールリップ48aを有するシールリング側シール部材49を備える。本例では、シールリング32は、シールリング側芯金50と、該シールリング側芯金50に結合固定されたシールリング側シール部材49とを備える。
【0077】
シールリング側芯金50は、軟鋼板などの金属板を断面略クランク形に曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。本例では、シールリング側芯金50は、内径側円輪部51と、傾斜板部52と、外径側円輪部53と、嵌合筒部54とを有する。
【0078】
傾斜板部52は、内径側円輪部51の径方向外側の端部から径方向外側に向かうほど軸方向外側に向かう方向に傾斜した円すい筒状に構成されている。
【0079】
外径側円輪部53は、傾斜板部52の径方向外側の端部から径方向外側に向けて伸長する。
【0080】
嵌合筒部54は、外径側円輪部53の径方向外側の端部から軸方向内側に向けて折れ曲がり、円筒状に構成されている。嵌合筒部54は、外輪2の内周面のうち、外輪小肩部10に締り嵌めで内嵌固定されている。
【0081】
シールリング側シール部材49は、ゴムのごときエラストマーなどの弾性材により構成され、シールリング側芯金50の表面に加硫接着により結合固定されている。本例では、シールリング側シール部材49は、基部55と、3本のシールリップ48a、48b、48cとを有する。
【0082】
基部55は、シールリング側芯金50の表面のうち、外径側円輪部53の軸方向外側面から内径側円輪部51の軸方向内側面の径方向内側部分までの範囲を覆うように、シールリング側芯金50に加硫接着により結合固定されている。別の言い方をすれば、基部55は、外径側円輪部53の軸方向外側面と、傾斜板部52の内周面と、内径側円輪部51の軸方向外側面、内周面、および軸方向内側面の径方向内側部分とを覆うように、シールリング側芯金50に結合固定されている。
【0083】
それぞれのシールリップ48a、48b、48cは、基部55から摺接環側芯金33の軸方向内側面またはハブ3の外周面に向けて延出し、かつ、先端部を、摺接環側芯金33の軸方向内側面またはハブ3の外周面に全周にわたり摺接させている。
【0084】
本例では、3本のシールリップ48a、48b、48cのうち、最も径方向外側のシールリップ48aは、基部55のうちで外径側円輪部53を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に延出し、かつ、先端部を、摺接環側芯金33の軸方向内側面、具体的には外径側円輪部37の軸方向内側面に摺接させている。径方向外側から2番目のシールリップ48bは、基部55のうちで内径側円輪部51の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向内側に向かう方向に延出し、かつ、先端部を、ハブ3の外周面、具体的にはハブ側溝肩部18に摺接させている。最も径方向内側のシールリップ48cは、基部55のうちで内径側円輪部51の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向内側かつ径方向内側に向かう方向に延出し、かつ、先端部を、ハブ3の外周面、具体的にはハブ側溝肩部18に摺接させている。
【0085】
なお、本発明の一態様のハブユニット軸受を実施する場合、シールリングが備えるシールリップの本数は、3本に限定されず、1本、2本、または4本以上とすることもできる。ただし、いずれも場合でも、少なくとも1本のシールリップの先端部を、摺接環側芯金の軸方向内側面に摺接させる。
【0086】
このようなシール装置5により、転動体設置空間30の軸方向外側の端部を塞いで、泥水などの異物が、転動体設置空間30の軸方向外側の開口部から該転動体設置空間30に侵入したり、転動体設置空間30に封入されたグリースが、該転動体設置空間30の軸方向外側の端部から外部空間に漏洩したりすることを防止している。
【0087】
本例のハブユニット軸受1は、転動体設置空間30の軸方向内側の開口部を塞ぐカバー56をさらに備える。カバー56は、外輪2の軸方向内側の端部に締り嵌めで内嵌固定された円筒部57と、該円筒部57の軸方向内側の端部を塞ぐ底板部58とを有する。このようなカバー56により、異物が、転動体設置空間30の軸方向内側の開口部から該転動体設置空間30に侵入したり、転動体設置空間30に封入されたグリースが、該転動体設置空間30の軸方向内側の開口部から外部空間に漏洩したりすることを防止している。なお、カバー56に代えて、組み合わせシールリングにより、転動体設置空間30の軸方向内側の開口部を塞ぐこともできる。
【0088】
本例のハブユニット軸受1では、シールリング32のシールリップ48aを、金属板製で、表面性状を良好に確保しやすい摺接環側芯金33の軸方向内側面に摺接させているため、シール鳴きやシールリップの貼りつきなどの問題が生じるのを防止することができる。また、回転フランジ12の軸方向内側面に、仕上げの研削加工を施す必要がないため、研削加工に用いる回転砥石やダイヤモンドホイールの幅を短く抑えたり、加工に要する時間を短く抑えたりすることができて、コストの低減を図りやすい。
【0089】
本例のハブユニット軸受1では、摺接環側係止部39をハブ側係止溝13にゴム嵌合させることにより、摺接環31をハブ3に対して外嵌固定している。具体的には、摺接環31を、内径側覆い部43と内径側リップ42とからなる摺接環側係止部39を、ハブ側係止溝13の内面のうち、互いに対向する側面16a、16b同士の間で弾性的に挟持することにより、ハブ3に対して軸方向に位置決めした状態で、該ハブ3に外嵌固定している。このため、ハブ3に対する摺接環31の嵌合力を十分に確保することができる。
【0090】
さらに本例では、内径側リップ42の内周面を、ハブ側係止溝13の底面17に弾性的に押し付けている。この面からも、ハブ3に対する摺接環31の嵌合力を向上させることができる。
【0091】
本例では、摺接環側芯金33の内径d33を、ハブ側係止溝13の内面のうちで軸方向外側を向いた側面16bの外径D16bよりも小さくしている。摺接環31は、内輪24とハブ輪25とを結合固定する以前に、弾性材により構成された摺接環側シール部材34の内径を弾性的に拡径させつつ、摺接環31をハブ輪25に対して軸方向内側から押し込み、摺接環31がハブ側係止溝13の周囲に位置した状態で、摺接環側シール部材34を弾性的に復元させ、摺接環側係止部39をハブ側係止溝13にゴム嵌合させることで、ハブ3に対して装着することができる。すなわち、本例のハブユニット軸受1では、特開2017-129197号公報に記載の従来構造のように、比例限度が低いステンレス鋼板により構成された摺接環の嵌合筒部に塑性変形を生じさせることなく径方向突起部を乗り越えさせる必要がない。このため、ハブ3への摺接環31の装着を容易に行うことができる。
【0092】
さらに本例では、摺接環側芯金33の内径d33を、ハブ側係止溝13の内面のうちで軸方向内側を向いた側面16aの外径D16aよりも小さくしている。このため、摺接環31がハブ3に対して、所定の嵌合位置から軸方向外側に移動することを防止できる。
【0093】
本例のハブユニット軸受1では、摺接環側シールリップ40の先端部を、回転フランジ12の軸方向内側面に接触させている。これにより、車両の走行中に跳ね上げられた泥水などの水分が、外輪2やハブ3に付着することに基づいて生じた、アルカリ性の錆汁が、ハブ側係止溝13と摺接環側係止部39との間から、摺接環31とシールリング32との間部分であって、最も径方向外側のシールリップ48aよりも径方向内側に存在する中間空間59aに侵入することを防止できる。したがって、本例のハブユニット軸受1によれば、摺接環側芯金33と摺接環側シール部材34との間に介在させた、耐アルカリ性が低いフェノール樹脂系の接着剤が、錆汁により侵食されて、摺接環側芯金33から摺接環側シール部材34が剥がれるのを防止することができる。
【0094】
なお、摺接環側シールリップ40は、ハブ3に対して外嵌固定された摺接環31に備えられており、ハブユニット軸受1の使用時にも、摺接環側シールリップ40の先端部は、回転フランジ12の軸方向内側面に対して摺動しないため、摺接環側シールリップ40の先端部と回転フランジ12の軸方向内側面との間でシール鳴きやシールリップの貼りつきなどの問題が生じることはない。
【0095】
また、本例では、摺接環31の径方向外側の端部に備えられた摺接環側傾斜面部46と、外輪2の内周面に備えられた外輪側傾斜面部9とを近接対向させ、外輪側傾斜面部9と摺接環側傾斜面部46との間に、外径側シール部に相当するラビリンスシール47を構成している。このため、車両の走行中に跳ね上げられた泥水などの異物が、外輪2の内周面と、摺接環31の径方向外側の端部との間から、摺接環31とシールリング32との間部分であって、最も径方向外側のシールリップ48aよりも径方向外側に存在する中間空間59bに侵入することを防止できる。
【0096】
さらに本例では、外輪側傾斜面部9は、軸方向外側に向かうほど径方向外側に向かう方向に傾斜している。このため、径方向外側の中間空間59bに異物が侵入した場合でも、該異物を外部空間に排出しやすい。
【0097】
本例のハブユニット軸受1は、軸方向外側列の転動体4aのピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体4bのピッチ円直径とが等しい、等径PCD型の構造を備えるが、本発明の一態様のハブユニット軸受は、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径が、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径よりも大きいか、または、小さい、異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。また、本例のハブユニット軸受1では、転動体4a、4bとして玉を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。
【0098】
[第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、図3を用いて説明する。本例では、摺接環側シール部材34aの基部41aのうち、外径側覆い部45aの外周面を、軸方向に関して外径が変化しない円筒面により構成している。すなわち、本例の摺接環側シール部材34aは、外径側覆い部45aの外周面に、第1例の摺接環側シール部材34のように、摺接環側傾斜面部46を備えていない。
【0099】
代わりに、本例では、摺接環側シール部材34aは、外径側覆い部45aの軸方向内側の端部外周面から径方向外側に向かうほど軸方向外側に向かう方向に延出した外径側リップ60を有する。そして、外径側リップ60の先端部を、外輪2の外周面に備えられた外輪側傾斜面部9に摺接させている。これにより、車両の走行中に跳ね上げられた泥水などの異物が、外輪2の内周面と、摺接環31aの径方向外側の端部との間から径方向外側の中間空間59bに侵入することを防止している。すなわち、本例では、外径側リップ60により、外径側シール部が構成されている。その他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0100】
[第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、図4および図5を用いて説明する。本例のハブユニット軸受では、外輪2aに対するシールリング32aの装着態様を、第1例のハブユニット軸受1から変更している。
【0101】
本例では、外輪2aは、軸方向外側の外輪軌道6aよりも軸方向外側に位置する部分の内周面、具体的には外輪小肩部10に、径方向外側に向けて凹んだ外輪側係止溝61を全周にわたって備える。
【0102】
外輪側係止溝61は、矩形の断面形状を有する。すなわち、外輪側係止溝61の内面のうち、互いに対向する側面62a、62bは、外輪2aの中心軸に直交する平坦面により構成されており、かつ、底面63は、軸方向に関して内径が変化しない円筒面により構成されている。また、外輪側係止溝61の内面のうちで軸方向内側を向いた側面62aの内径d62aは、外輪側係止溝61の内面のうちで軸方向外側を向いた側面62bの外径d62bよりも大きくなっている(d62a>d62b)。
【0103】
シールリング32aは、シールリング側芯金50aと、シールリング側シール部材49aとを備える。
【0104】
シールリング側芯金50aは、軟鋼板などの金属板を断面略クランク形に曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。本例では、シールリング側芯金50aは、内径側円輪部64と、内径側傾斜板部65と、中間円輪部66と、外径側傾斜板部67と、外径側円輪部68とを備える。
【0105】
内径側円輪部64は、中空円形平板状に構成されている。
【0106】
内径側傾斜板部65は、内径側円輪部64の径方向外側の端部から径方向外側に向かうほど軸方向外側に向かう方向に傾斜した円すい筒状に構成されている。
【0107】
中間円輪部66は、内径側傾斜板部65の径方向外側の端部から径方向外側に向けて伸長する中空円形平板状に構成されている。
【0108】
外径側傾斜板部67は、中間円輪部66の径方向外側の端部から径方向外側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に傾斜した円すい筒状に構成されている。
【0109】
外径側円輪部68は、外径側傾斜板部67の径方向外側の端部から径方向外側に向けて伸長する中空円形平板状に構成されている。
【0110】
本例では、シールリング側芯金50aの外径D50a、すなわち外径側円輪部68の外径を、外輪側係止溝61の内面のうちで軸方向内側を向いた側面62aの内径d62aよりも小さく、かつ、外輪側係止溝61の内面のうちで軸方向外側を向いた側面62bの内径d62bよりも大きくしている(d62a>D50a>d62b)。
【0111】
シールリング側シール部材49aは、基部55aと、3本のシールリップ48a、48b、48cとを有する。
【0112】
基部55aは、シールリング側芯金50aの表面のうち、外径側円輪部68の軸方向内側面の径方向外側部分から内径側円輪部64の軸方向内側面の径方向内側部分までの範囲を覆うように、シールリング側芯金50aに加硫接着により結合固定されている。別の言い方をすれば、基部55aは、外径側円輪部68の軸方向内側面の径方向外側部分、外周面、および軸方向外側面と、外径側傾斜板部67の外周面と、中間円輪部66の軸方向外側面と、内径側傾斜板部65の内周面と、内径側円輪部64の軸方向外側面、内周面、および軸方向内側面の径方向内側部分とを覆うように、シールリング側芯金50aに結合固定されている。
【0113】
シールリング32aは、基部55aのうちで外径側円輪部68の軸方向内側面の径方向外側部分、外周面、および軸方向外側面を覆う部分であるシールリング側係止部69を、外輪側係止溝61にゴム嵌合させることで、外輪2aに対して内嵌固定されている。すなわち、シールリング32aは、外輪側係止溝61の内面のうちで軸方向内側を向いた側面62aに、シールリング側係止部69の軸方向外側面を弾性的に突き当て、かつ、外輪側係止溝61の内面のうちで軸方向外側を向いた側面62bに、シールリング側係止部69の軸方向内側面を弾性的に突き当てることにより、外輪2aに対して軸方向に位置決めした状態で、該外輪2aに内嵌固定されている。別の言い方をすれば、シールリング32aは、シールリング側係止部69を、外輪側係止溝61の内面のうち、互いに対向する側面62a、62b同士の間で弾性的に挟持する(軸方向に弾性的に押し潰す)ことにより、外輪2aに対して軸方向に位置決めした状態で、該外輪2aに内嵌固定されている。
【0114】
シールリング側係止部69は、外周面に、軸方向内側に向かうほど外径が小さくなるシールリング側傾斜面部70を有する。したがって、シールリング32aを外輪2aに装着した状態で、シールリング側傾斜面部70と底面63との間には、断面略三角形(くさび形)の環状隙間71が形成される。
【0115】
また、シールリング側係止部69は、軸方向外側面に、径方向にわたって軸方向内側に向けて凹んだ外側通気溝72を有し、かつ、軸方向内側面のうち、外側通気溝72から円周方向に外れた部分に、径方向にわたって軸方向外側に向けて凹んだ内側通気溝73を有する。したがって、シールリング32aを挟んで存在する径方向外側の中間空間59bと転動体設置空間30とは、外側通気溝72と環状隙間71と内側通気溝73とにより連通される。
【0116】
本例では、シールリング側係止部69は、軸方向外側面の径方向反対側2箇所位置に、外側通気溝72を有し、かつ、軸方向内側面のうち、円周方向に関する位相が外側通気溝72から90度外れた径方向反対側2箇所位置に、内側通気溝73を有する。
【0117】
本例では、シールリング側係止部69を外輪側係止溝61にゴム嵌合させることにより、シールリング32aを外輪2aに対して内嵌固定している。したがって、本例によれば、シールリング側芯金50の嵌合筒部54を外輪小肩部10に締り嵌めで内嵌固定する第1例の構造のように、外輪小肩部10に研削加工を施す必要がない。このため、外輪2aの内周面に研削加工を施す際に、外輪2aの内周面に対する砥石の押し付け力を小さく抑えることができ、該外輪2aの弾性変形量を小さく抑えることができる。特に、外輪2aの内周面のうち、外輪側傾斜面部9を旋削加工により形成する場合には、砥石による研削加工を、外輪2aの内周面のうち、複列の外輪軌道6a、6bにのみ施せば足りる。この結果、外輪2aの内周面の研削加工に要する時間を短縮することができる。なお、砥石の押し付け力を抑えることによる被加工物の弾性変形量の低減効果は、被加工物の外周面を研削する場合に比べて、外輪2aの内周面のように、被加工物の内周面を研削する場合に顕著となる。
【0118】
本例では、シールリング側芯金50aの外径D50aを、外輪側係止溝61の内面のうちで軸方向内側を向いた側面62aの内径d62aよりも小さくしている。シールリング32aは、弾性材により構成されたシールリング側シール部材49aの外径を弾性的に拡径させつつ、シールリング32aを外輪2aに対して軸方向外側から押し込み、シールリング32aが外輪側係止溝61の径方向内側に位置した状態で、シールリング側シール部材49aを弾性的に復元させ、シールリング側係止部69を外輪側係止溝61にゴム嵌合させることで、外輪2aに対して装着することができる。
【0119】
さらに本例では、シールリング側芯金50aの外径D50aを、外輪側係止溝61の内面のうちで軸方向外側を向いた側面62bの内径d62bよりも大きくしている。このため、シールリング32aが外輪2aに対して、所定の嵌合位置から軸方向内側に移動することを防止できる。
【0120】
また、本例では、シールリング32aを挟んで存在する径方向外側の中間空間59bと転動体設置空間30とが、外側通気溝72と環状隙間71と内側通気溝73とにより連通されている。このため、ハブユニット軸受の使用時の温度変化に伴う転動体設置空間30内の圧力(内圧)の変化を小さく抑えることができる。
【0121】
さらに本例では、外部空間と径方向外側の中間空間59bとが、ラビリンスシール47により連通されているため、転動体設置空間30の内圧の変化をより効果的に抑えることができる。
【0122】
また、本例では、外側通気溝72の円周方向に関する配置位置と、内側通気溝73の円周方向に関する配置位置とをずらしている。このため、外側通気溝72と環状隙間71と内側通気溝73とからなる通気路を通じて、外部からの異物が転動体設置空間30に侵入したり、転動体設置空間30内に封入したグリースが外部に漏洩したりするのを抑制できる。その他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0123】
[第4例]
本発明の実施の形態の第4例について、図6を用いて説明する。本例のハブユニット軸受は、第2例のハブユニット軸受と、第3例のハブユニット軸受とを組み合わせた如き構造を有する。
【0124】
すなわち、本例では、摺接環側シール部材34aの径方向外側の端部に備えられた外径側リップ60を、外輪2aの外周面に備えられた外輪側傾斜面部9に摺接させ、かつ、シールリング側係止部69を外輪側係止溝61にゴム嵌合させることで、シールリング32aを外輪2aに対して内嵌固定している。その他の部分の構成および作用効果は、第1例~第3例と同様である。
【符号の説明】
【0125】
1 ハブユニット軸受
2、2a 外輪
3 ハブ
4a、4b 転動体
5 シール装置
6a、6b 外輪軌道
7 静止フランジ
8 支持孔
9 外輪側傾斜面部
10 外輪小肩部
11a、11b 内輪軌道
12 回転フランジ
13 ハブ側係止溝
14 取付孔
15 スタッド
16a、16b 側面
17 底面
18 ハブ側溝肩部
19 曲面部
20 内径側平坦面部
21 段部
22 外径側平坦面部
23 パイロット部
24 内輪
25 ハブ輪
26 小径段部
27 段差面
28 かしめ部
29a、29b 保持器
30 転動体設置空間
31、31a 摺接環
32、32a シールリング
33 摺接環側芯金
34、34a 摺接環側シール部材
35 内径側円輪部
36 傾斜板部
37 外径側円輪部
38 折れ曲がり部
39 摺接環側係止部
40 摺接環側シールリップ
41、41a 基部
42 内径側リップ
43 内径側覆い部
44 側面覆い部
45、45a 外径側覆い部
46 摺接環側傾斜面部
47 ラビリンスシール
48a、48b、48c シールリップ
49、49a シールリング側シール部材
50、50a シールリング側芯金
51 内径側円輪部
52 傾斜板部
53 外径側円輪部
54 嵌合筒部
55、55a 基部
56 カバー
57 円筒部
58 底板部
59a、59b 中間空間
60 外径側リップ
61 外輪側係止溝
62a、62b 側面
63 底面
64 内径側円輪部
65 内径側傾斜板部
66 中間円輪部
67 外径側傾斜板部
68 外径側円輪部
69 シールリング側係止部
70 シールリング側傾斜面部
71 環状隙間
72 外側通気溝
73 内側通気溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6