(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013691
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】恒温鍛造装置及び恒温鍛造方法
(51)【国際特許分類】
B21J 9/08 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
B21J9/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115993
(22)【出願日】2022-07-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム「B21:大型鍛造シミュレータを用いた鍛造材の塑性加工DB及び特性DBの構築と特性予測、B22:実機サイズ部品の非破壊検査手法の絞り込み、B24:革新的鍛造プロセス技術開発に向けたプロセス制御とデータベースの構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】黒田 秀治
(72)【発明者】
【氏名】本橋 功会
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA10
4E087CA11
4E087CB02
4E087CB16
4E087EC01
4E087ED04
4E087ED12
4E087HA61
(57)【要約】
【課題】不活性ガス中での恒温鍛造が容易に行える恒温鍛造装置を提供すること。
【解決手段】上部耐熱蛇腹部12a、可動金型押圧部2、上部囲繞板11aを含んで構成される上金型加熱炉1aと、下部耐熱蛇腹部12b、金型受台5及び下部囲繞板11bを含んで構成される下金型加熱炉1bで、不活性ガスが充填される開閉式のチャンバー1を形成し、
チャンバー1が開いた状態では上押圧部材4と下押圧部材6の間に被加工素材Wの出し入れを可能とし、チャンバー1が閉じた状態では上押圧部材4と下押圧部材6によって被加工素材Wを挟圧すると共に、前記挟圧状態では上部ヒータ7aと下部ヒータ7bで所定の高温状態を維持するように構成されたことを特徴とする恒温加工装置。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
挟圧して被加工素材を加工する上押圧部材及び下押圧部材と、
前記上押圧部材の外周壁側に沿って上下方向に移動可能に設けられた上部ヒータと、
前記下押圧部材の外周壁側に沿って上下方向に移動可能に設けられた下部ヒータと、
前記上部ヒータの外周壁側に配設された上部囲繞板と、
前記下部ヒータの外周壁側に配設された下部囲繞板と、
前記上押圧部材に固定された可動金型押圧部と、
前記下押圧部材に固定された金型受台と、
前記可動金型押圧部と前記上部囲繞板とを連結する上部耐熱蛇腹部と、
前記金型受台と前記下部囲繞板とを連結する下部耐熱蛇腹部と、
を備える恒温加工装置であって、
前記上部耐熱蛇腹部、前記可動金型押圧部、前記上部囲繞板、前記下部耐熱蛇腹部、前記金型受台及び前記下部囲繞板で不活性ガスが充填される開閉式のチャンバーを形成し、
前記チャンバーが開いた状態では前記上押圧部材と前記下押圧部材の間に前記被加工素材の出し入れを可能とし、
前記チャンバーが閉じた状態では前記上押圧部材と前記下押圧部材によって前記被加工素材を挟圧すると共に、前記挟圧状態では前記上部ヒータと前記下部ヒータで所定の高温状態を維持するように構成されたことを特徴とする恒温加工装置。
【請求項2】
前記上部ヒータと前記上押圧部材の間に形成される隙間の可動金型押圧部側に設けられた上部不活性ガス噴出孔と、
前記下部ヒータと前記下押圧部材の間に形成される隙間の金型受台側に設けられた下部不活性ガス噴出孔との少なくとも一方を備え、
前記チャンバーが閉じた状態では、前記上部不活性ガス噴出孔と前記下部不活性ガス噴出孔の少なくとも一方から不活性ガスを供給するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の恒温加工装置。
【請求項3】
さらに、前記チャンバーが閉じた状態での前記チャンバー内部の酸素濃度を測定する酸素濃度センサを備え、
前記酸素濃度センサが測定した前記チャンバー内部の酸素濃度が所定の基準値以下になってから、前記上押圧部材と前記下押圧部材によって前記被加工素材を挟圧する加工を開始するように構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の恒温加工装置。
【請求項4】
さらに、前記チャンバーが閉じた状態で、前記上部囲繞板と前記下部囲繞板の接触面から前記不活性ガスが外部に漏洩するのを防止するパッキンを設けたことを特徴とする請求項1乃至3に記載の恒温加工装置。
【請求項5】
上部ヒータによって上押圧部材の下押圧部材側の挟圧面を、被加工素材の加工温度に基づいて定められた所定温度に昇温すると共に、下部ヒータによって前記下押圧部材の前記上押圧部材側の挟圧面を前記所定温度に昇温し、
チャンバーが開いた状態として、前記被加工素材を前記上押圧部材と前記下押圧部材の所定加工位置に載置し、
前記チャンバーを閉じた状態として、前記チャンバーの内部に不活性ガスを供給し、
前記チャンバーの内部の酸素濃度が所定値以下になったか判定し、前記所定値を超えている場合は前記不活性ガスの供給を継続し、前記所定値以下になった後に、前記上部ヒータ及び下部ヒータに供給する電力を増加させ、前記被加工素材の温度が目標温度になった後に、前記被加工素材を加工し、
前記被加工素材の加工がされた後で、前記チャンバーを開いた状態として、前記被加工素材を前記所定加工位置から取り出す、
ことを特徴とする恒温加工方法。
【請求項6】
挟圧して被加工素材を加工する上押圧部材及び下押圧部材と、
前記上押圧部材の外周壁側に沿って上下方向に移動可能に設けられた上部ヒータと、
前記下押圧部材の外周壁側に沿って設けられた下部ヒータと、
前記上部ヒータの外周壁側に配設された上部囲繞板と、
前記下部ヒータの外周壁側に配設された下部囲繞板と、
前記上押圧部材に固定された可動金型押圧部と、
前記下押圧部材に固定された金型受台と、
前記可動金型押圧部と前記上部囲繞板とを連結する上部耐熱蛇腹部と、
を備える恒温加工装置であって、
前記上部耐熱蛇腹部、前記可動金型押圧部、前記上部囲繞板、前記金型受台及び前記下部囲繞板で不活性ガスが充填される開閉式のチャンバーを形成し、
前記チャンバーが開いた状態では前記上押圧部材と前記下押圧部材の間に前記被加工素材の出し入れを可能とし、
前記チャンバーが閉じた状態では前記上押圧部材と前記下押圧部材によって前記被加工素材を挟圧すると共に、前記挟圧状態では前記上部ヒータと前記下部ヒータで所定の高温状態を維持するように構成されたことを特徴とする恒温加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性ガス雰囲気下において高温状態で被加工素材を挟圧して加工する恒温鍛造装置及び恒温鍛造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高い品質が求められる航空機エンジンの部材には,高強度合金や高耐熱合金の鍛造品が使われている。航空機の低燃費化や環境負荷低減の要求に伴い、航空機エンジンの高温用タービンディスクに使われるNi基超耐熱合金は、より高温化、高強度化が求められている。
現在、このタービンディスクは恒温鍛造(被加工材と金型を同一の温度に制御した鍛造)により加工、成形されている(特許文献1参照)。
【0003】
恒温加工装置である恒温鍛造装置の例として、特許文献1の明細書並びに添付図面に記載されている同名称と同符号とを以て説明する。
図4は、従来の恒温鍛造装置の構成断面図である。図において、チャンバー1の占有空間内部において、上部基盤2の下側に上押圧部材である上金型4が固着され、下部基盤5の上側に下押圧素材である下金型6が固着されている。そして、上金型4の上昇時に、被加工素材である加熱素材Mが上金型4と下金型6との間に搬入され、上金型4を下降させて加熱素材Mの鍛造加工を行う。
【0004】
加熱素材Mの鍛造加工によって鍛造品を製造するに際しては、上金型4と下金型6とを囲繞する状態で配設されてなる加熱コイル7a、7bで加熱素材Mを加熱する。この加熱コイル7a、7bは立設された支柱(図示せず)で案内されることにより昇降して、加熱素材Mを均等に加熱するものである。そして、上金型4と下金型6等の酸化防止のために、この恒温鍛造装置の一部又は全体を、例えば、不活性ガス雰囲気下にて加熱するようにしている。
しかし、チャンバー1の占有空間が加熱素材Mに比較して大きいため、不活性ガスの使用量が莫大になるという課題があった。
【0005】
また、特許文献2では拡散溶接用加圧装置が開示されており、加熱素子19の外側を囲繞する状態で配設された円筒カバー部材50の内側を不活性ガスで充填して、上側及び下側鍛造ダイ9、10等の酸化防止を図る構造も提案されている。しかし、円筒カバー部材50の占有空間が大きいため、不活性ガスの使用量が莫大になるという課題があった。
特許文献3では鍛造装置が開示されており、溶接室7の内部で加熱ヒータ5によって溶接体4を拡散溶接によって接合している。溶接室7の内部は、真空や不活性ガスのような溶接雰囲気で満たされている。しかし、溶接室7の占有空間が溶接体4に比較して大きいため、不活性ガスの使用量が莫大になるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-39983号公報
【特許文献2】特公昭55-23696号公報
【特許文献3】特公昭56-45711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、近年の高温強度が向上した超耐熱鋼の開発に伴いこれらの加工、成形において1000℃を超える恒温鍛造が求められており、高温でも耐えうる金型を使用した恒温鍛造が必要になっている。
特に、Mo合金金型は高温下(1000~1100℃)においても十分な強度を保ち、高温下での恒温鍛造に有用な金型の一つである。しかし、Mo合金金型は耐高温酸化性が極めて乏しいため、この金型を用いた恒温鍛造は真空または不活性ガス中で行なわなければならず、特許文献1記載の従来装置には真空チャンバーが必須であった。真空チャンバーを付帯した鍛造装置は装置構成が複雑(高価)で作業能率も著しく低下するという課題があった。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するもので、不活性ガス中での恒温鍛造が容易に行える恒温鍛造装置及び恒温鍛造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本発明の恒温鍛造装置は、例えば
図1に示すように、挟圧して被加工素材Wを加工する上押圧部材4及び下押圧部材6と、上押圧部材4の外周壁側に沿って上下方向に移動可能に設けられた上部ヒータ7aと、下押圧部材6の外周壁側に沿って上下方向に移動可能に設けられた下部ヒータ7bと、上部ヒータ7aの外周壁側に配設された上部囲繞板11aと、下部ヒータ7bの外周壁側に配設された下部囲繞板11bと、上押圧部材4に固定された可動金型押圧部2と、下押圧部材6に固定された金型受台5と、可動金型押圧部2と上部囲繞板11aとを連結する上部耐熱蛇腹部12aと、金型受台5と下部囲繞板11bとを連結する下部耐熱蛇腹部12bと、を備える恒温加工装置であって、
上部耐熱蛇腹部12a、可動金型押圧部2、上部囲繞板11aを含んで構成される上金型加熱炉1aと、下部耐熱蛇腹部12b、金型受台5及び下部囲繞板11bを含んで構成される下金型加熱炉1bで、不活性ガスが充填される開閉式のチャンバー1を形成し、
チャンバー1が開いた状態では上押圧部材4と下押圧部材6の間に被加工素材Wの出し入れを可能とし、チャンバー1が閉じた状態では上押圧部材4と下押圧部材6によって被加工素材Wを挟圧すると共に、前記挟圧状態では上部ヒータ7aと下部ヒータ7bで所定の高温状態を維持するように構成されたことを特徴とする。
【0010】
[2]本発明の恒温鍛造装置[1]において、好ましくは、上部ヒータ7aと上押圧部材4の間に形成される隙間の可動金型押圧部2側に設けられた上部不活性ガス噴出孔10aと、下部ヒータ7bと下押圧部材6の間に形成される隙間の金型受台5側に設けられた下部不活性ガス噴出孔10bとの少なくとも一方を備え、チャンバー1が閉じた状態では、上部不活性ガス噴出孔10aと下部不活性ガス噴出孔10bの少なくとも一方から不活性ガスを供給するように構成されるとよい。
[3]本発明の恒温鍛造装置[1]又は[2]において、好ましくは、さらに、チャンバー1が閉じた状態でのチャンバー1内部の酸素濃度を測定する酸素濃度センサ15を備え、酸素濃度センサ15が測定したチャンバー1内部の酸素濃度が所定の基準値以下になってから、上押圧部材4と下押圧部材6によって被加工素材Wを挟圧する加工を開始するように構成されるとよい。
[4]本発明の恒温鍛造装置[1]乃至[3]において、好ましくは、さらに、チャンバー1が閉じた状態で、上部囲繞板11aと下部囲繞板11bの接触面から前記不活性ガスが外部に漏洩するのを防止するパッキン13を設けるとよい。
【0011】
[5]本発明の恒温鍛造方法は、例えば
図2に示すように、上部ヒータ7aによって上押圧部材4の下押圧部材6側の挟圧面を、被加工素材Wの加工温度に基づいて定められた所定温度に昇温し(S200)、下部ヒータ7bによって下押圧部材6の上押圧部材4側の挟圧面を前記所定温度に昇温し(S205)、チャンバー1が開いた状態として、被加工素材Wを上押圧部材4と下押圧部材6の所定加工位置に載置し(S210)、チャンバー1を閉じた状態として、チャンバー1の内部に不活性ガスを供給し(S215)、チャンバー1の内部の酸素濃度が所定値以下になったか判定し(S220)、前記所定値を超えている場合は前記不活性ガスの供給を継続し(S215)、前記所定値以下になった後に、上部ヒータ7a及び下部ヒータ7bに供給する電力を増加させ(S225)、被加工素材Wの温度が目標温度になったか判定し(S230)、前記目標温度に到達した後に、被加工素材Wを加工し(S235)、被加工素材Wの加工がされた後で、チャンバー1を開いた状態として、被加工素材Wを前記所定加工位置から取り出す(S240)ことを特徴とする。
【0012】
[6]本発明の恒温鍛造装置は、例えば
図3に示すように、挟圧して被加工素材Wを加工する上押圧部材4及び下押圧部材6と、上押圧部材4の外周壁側に沿って上下方向に移動可能に設けられた上部ヒータ7aと、下押圧部材6の外周壁側に沿って設けられた下部ヒータ7bと、上部ヒータ7aの外周壁側に配設された上部囲繞板11aと、下部ヒータ7bの外周壁側に配設された下部囲繞板11bと、上押圧部材4に固定された可動金型押圧部2と、下押圧部材6に固定された金型受台5と、可動金型押圧部2と上部囲繞板11aとを連結する上部耐熱蛇腹部12aと、を備える恒温加工装置であって、
上部耐熱蛇腹部12a、可動金型押圧部2、上部囲繞板11aを含んで構成される上金型加熱炉1aと、金型受台5及び下部囲繞板11bを含んで構成される下金型加熱炉1bで、不活性ガスが充填される開閉式のチャンバー1を形成し、
チャンバー1が開いた状態では上押圧部材4と下押圧部材6の間に被加工素材Wの出し入れを可能とし、チャンバー1が閉じた状態では上押圧部材4と下押圧部材6によって被加工素材Wを挟圧すると共に、前記挟圧状態では上部ヒータ7aと下部ヒータ7bで所定の高温状態を維持するように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の恒温鍛造装置によれば、真空チャンバーを用いずに高温下でMo合金金型を使用した恒温鍛造が実施可能となる。雰囲気制御により酸素濃度が大きく低下した環境下での鍛造が可能となり、耐酸化性の悪いMo合金金型も高温下で長時間使用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】本発明の一実施例を示す恒温鍛造装置の構成断面図で、チャンバーが閉じた状態を示している。
【
図1B】本発明の一実施例を示す恒温鍛造装置の構成断面図で、チャンバーが開いた状態を示している。
【
図1C】不活性ガス噴出孔を有する環状体の一例を示す構成斜視図である。
【
図2】本発明の恒温鍛造方法の一実施例を示すフローチャートである。
【
図3A】本発明の他の実施例を示す恒温鍛造装置の構成断面図で、チャンバーが閉じた状態を示している。
【
図3B】本発明の他の実施例を示す恒温鍛造装置の構成断面図で、チャンバーが開いた状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例を示す恒温鍛造装置の構成断面図で、(A)はチャンバーが閉じた状態、(B)はチャンバーが開いた状態を示している。
図において、チャンバー1は不活性ガスが入れられる開閉式の空間で、閉じた状態では上金型加熱炉1aと下金型加熱炉1bを含んで構成される。上金型加熱炉1aは上部耐熱蛇腹部12a、可動金型押圧部2、上部囲繞板11a及び上部ヒータ7aを含んで構成される。下金型加熱炉1bは、下部耐熱蛇腹部12b、金型受台5、下部囲繞板11b及び下部ヒータ7bを含んで構成される。
【0016】
可動金型押圧部2は、押圧部材4が固定されたもので、チャンバー1内で押圧部材4を上下に移動させる機構(図示せず)を伴っている。上押圧部材4は、下押圧部材6と共に被加工素材Wを挟圧して加工するものである。上部ヒータ7aは、上押圧部材4の外周壁側に沿って上下方向に移動可能に設けられたもので、例えば電熱コイルが使用される。上部囲繞板11aは、上部ヒータ7aの外周壁側に上部ヒータ7aの上下動と一体に移動するように配設されたもので、例えば1000℃程度の高温に耐える耐熱材料で構成される。上部耐熱蛇腹部12aは、可動金型押圧部2と上部囲繞板11aとを連結するもので、例えば400℃~1000℃程度の高温に耐える耐熱材料で構成された多層織物を用いるとよく、チャンバー1内の不活性ガスが外部に漏洩するのを防止できる程度の気密性を有している。
上部不活性ガス噴出孔10aは、上部ヒータ7aと上押圧部材4の間に形成される隙間の可動金型押圧部2側に設けられたものである。
【0017】
金型受台5は、下押圧部材6が固定されたものである。下部ヒータ7bは、下押圧部材6の外周壁側に沿って上下方向に移動可能に設けられたもので、例えば電熱コイルが使用される。下部囲繞板11bは、下部ヒータ7bの外周壁側に下部ヒータ7bの上下動と一体に移動するように配設されたもので、例えば1000℃程度の高温に耐える耐熱材料で構成される。下部耐熱蛇腹部12bは、金型受台5と下部囲繞板11bとを連結するもので、例えば400℃~1000℃程度の高温に耐える耐熱材料で構成された多層織物を用いるとよく、チャンバー1内の不活性ガスが外部に漏洩するのを防止できる程度の気密性を有している。
【0018】
上部耐熱蛇腹部12aと下部耐熱蛇腹部12bには、例えば外側層にメタ系アラミド繊維で構成される難燃性織物、内側層にアルミ箔とガラス繊維の複合材料で構成される不燃性織物を用いるとよい。メタ系アラミド繊維には、例えば帝人製のコーネックス(登録商標)やデュポン社製のノーメックス(登録商標)が用いられる。不燃性織物には、ジェンテックス社製のジンテックス(登録商標)を用いるとよい。ジンテックスはアルミ箔と基材繊維を含む多層構造であり、屈曲性、耐摩耗性に優れ、剥離がおこりにくく、高い赤外線の反射性能を維持する、高温遮熱材である。基材繊維には、アラミド繊維、デュポン社製のケブラー(登録商標)、ガラス繊維等が用いられる。外側層の難燃性織物は、厚さが例えば0.5~0.8mmである。内側層の不燃性織物は、厚さが例えば0.7~0.8mmである。二層合わせた厚みでも1~1.6mmなので、蛇腹の伸展や折り畳みが円滑に行える。
【0019】
下部不活性ガス噴出孔10bは、下部ヒータ7bと下押圧部材6の間に形成される隙間の金型受台5側に設けられたものである。上部不活性ガス噴出孔10aと下部不活性ガス噴出孔10bは、例えば
図1Cに示すように、環状体に設けられた開口部とする。上部不活性ガス噴出孔10aと下部不活性ガス噴出孔10bは、両方設けると、チャンバー内部の不活性ガス充填が迅速に行えるが、これに限定されるものではなく、片方だけ設けてもチャンバー内部の不活性ガス充填が可能となる。
【0020】
酸素濃度センサ15は、チャンバーが閉じた状態でのチャンバー内部の酸素濃度を測定するものである。好ましくは、酸素濃度センサ15が測定したチャンバー内部の酸素濃度が所定の基準値以下になってから、上押圧部材4と下押圧部材6によって被加工素材Wを挟圧する加工を開始するように構成されるとよい。
パッキン13は、チャンバーが閉じた状態で、上部囲繞板11aと下部囲繞板11bの接触面から不活性ガスが外部に漏洩するのを防止するものである。パッキン13の装着を確実にするために、上部囲繞板11aと下部囲繞板11bの接触面となる上部囲繞板11aと下部囲繞板11bの端部には其々フランジを設けるとよい。
【0021】
このように構成された装置の動作を次に説明する。
図2は、本発明の恒温鍛造方法の一実施例を示すフローチャートである。
まず、上部ヒータ7aによって上押圧部材4の下押圧部材6側の挟圧面を、被加工素材Wの加工温度に基づいて定められた所定温度に昇温する(S200)。同時に、下部ヒータ7bによって下押圧部材6の上押圧部材4側の挟圧面を前記所定温度に昇温する(S205)。この場合、チャンバー1は開いた状態でも、閉じた状態でもよい。閉じた状態とすると、上部ヒータ7aと下部ヒータ7bの熱が外部に逃げないので、早く被加工素材Wの加工温度に基づいて定められた所定温度に昇温できる。この所定温度は、例えば被加工素材Wの加工温度に対して、20℃から200℃低い温度に設定するのがよいが、これに限定されるものではない。
【0022】
次に、チャンバー1が開いた状態として、被加工素材Wを上押圧部材4と下押圧部材6の所定加工位置に載置する(S210)。チャンバー1が開いた状態は、上金型加熱炉1aと下金型加熱炉1bが外気に対して開いた状態である。開いた状態の上金型加熱炉1aでは、上部耐熱蛇腹部12aは折り畳まれた状態となっている。上部ヒータ7aと上部囲繞板11aは上方に移動した状態で保持される。可動金型押圧部2も上方に移動した状態で保持される。可動金型押圧部2と上押圧部材4は一体に固着されているが、上部ヒータ7aと上部囲繞板11aの移動量は、可動金型押圧部2と上押圧部材4の移動量に比較して大きくなっており、可動金型押圧部2の挟圧面が上部ヒータ7aと上部囲繞板11aのなす端面から僅かの距離露出している。
開いた状態の下金型加熱炉1bでは、下部耐熱蛇腹部12bは折り畳まれた状態となっている。下部ヒータ7bと下部囲繞板11bは下方に移動した状態で保持される。金型受台5も下方に移動した状態で保持される。金型受台5と下押圧部材4は一体に固着されているが、下部ヒータ7bと下部囲繞板11bの移動量は、金型受台5と下押圧部材4の移動量に比較して大きくなっており、金型受台5の挟圧面が下部ヒータ7bと下部囲繞板11bのなす端面から僅かの距離露出している。
【0023】
次に、チャンバー1を閉じた状態として、チャンバー1の内部に不活性ガスを供給する(S215)。チャンバー1が閉じた状態は、上金型加熱炉1aと下金型加熱炉1bを外気に対して閉じた状態で、不活性ガスが充填された状態を維持できる程度の気密性を有している。閉じた状態の上金型加熱炉1aでは、上部耐熱蛇腹部12aは伸展した状態となっている。上部ヒータ7aと上部囲繞板11aは、下金型加熱炉1b側に移動した状態で保持される。可動金型押圧部2は、チャンバー1が開いた状態と同じ位置でもよく、また金型受台5方向に移動した状態で保持されてもよい。上部ヒータ7aと上部囲繞板11aの移動量は、可動金型押圧部2と上押圧部材4の移動量に比較して大きくなっており、可動金型押圧部2の挟圧面が上部ヒータ7aと上部囲繞板11aのなす端面で外気から遮蔽されている。
閉じた状態の下金型加熱炉1bでは、下部耐熱蛇腹部12bは伸展した状態となっている。下部ヒータ7bと下部囲繞板11bは上金型加熱炉1a側に移動した状態で保持される。金型受台5は、チャンバー1が開いた状態と同じ位置でもよく、また可動金型押圧部2方向に移動した状態で保持されてもよい。下部ヒータ7bと下部囲繞板11bの移動量は、金型受台5と下押圧部材4の移動量に比較して大きくなっており、金型受台5の挟圧面が下部ヒータ7bと下部囲繞板11bのなす端面で外気から遮蔽されている。
【0024】
次に、酸素濃度センサ15を用いて、チャンバー1の内部の酸素濃度が所定値以下になったか判定する(S220)。チャンバー1の内部の酸素濃度が前記所定値を超えている場合はNOであり、不活性ガスの供給を継続する(S215)。チャンバー1の内部の酸素濃度が前記所定値以下になった場合はYESであり、上部ヒータ7a及び下部ヒータ7bに供給する電力を増加させ(S225)、被加工素材Wの温度が目標温度になったか判定する(S230)。被加工素材Wの温度が目標温度以下の場合はNOであり、被加工素材Wへの加熱を継続する。被加工素材Wの温度が目標温度に到達した場合はYESであり、被加工素材Wを上押圧部材4と下押圧部材6で挟圧して加工する(S235)。最後に、被加工素材Wの加工がされた後で、チャンバー1を開いた状態として、被加工素材Wを前記所定加工位置から取り出す(S240)ことを特徴とする。
【0025】
図1の実施例では、上部耐熱蛇腹部12a、可動金型押圧部2、上部囲繞板11aからなる上金型加熱炉1aが、下部耐熱蛇腹部12b、金型受台5、下部耐熱蛇腹部12bからなる下金型加熱炉1bが共に伸縮動作する場合を示しているが、上金型加熱炉1aのみが上下動をして、下金型加熱炉1bはチャンバーの開閉動作に付随しては上下動しない構成としても良い。
図3は、本発明の他の実施例を示す恒温鍛造装置の構成断面図で、(A)はチャンバーが閉じた状態、(B)はチャンバーが開いた状態を示している。なお、
図3において、前記
図1と同一作用をするものには、同一符号を付して、説明を省略する。
【0026】
図3の実施例においては、金型受台5、下押圧部材6については、
図1の実施例と同様である。下部ヒータ7bは、下押圧部材6の外周壁側に沿って設けられたもので、例えば電熱コイルが使用される。下部囲繞板11bは、下部ヒータ7bの外周壁側に配設されたもので、例えば400℃~1000℃程度の高温に耐える耐熱材料で構成される。下部耐熱蛇腹部12bは、設けられていない。
下部不活性ガス噴出孔10bは、下部ヒータ7bと下押圧部材6の間に形成される隙間の金型受台5側に設けられたものである。
【0027】
図において、チャンバー1は不活性ガスが入れられる開閉式の空間で、閉じた状態では上金型加熱炉1aと下金型加熱炉1bを含んで構成される。上金型加熱炉1aは、上部耐熱蛇腹部12a、可動金型押圧部2、上部囲繞板11a及び上部ヒータ7aを含んで構成される。下金型加熱炉1bは、金型受台5、下部囲繞板11b及び下部ヒータ7bを含んで構成される。
【0028】
このように構成された装置の動作を次に説明する。
図3の実施例においても、
図2に示すフローチャートに準じて動作する。なお、上金型加熱炉1aの動作は
図1の実施例と同様なので、説明を省略する。
まず、S200、S205に続いて、チャンバー1が開いた状態として、被加工素材Wを上押圧部材4と下押圧部材6の所定加工位置に載置する(S210)。チャンバーが開いた状態の下金型加熱炉1bでは、下部ヒータ7bと下部囲繞板11bは、金型受台5側に固着された状態で保持される。金型受台5の挟圧面は、下部ヒータ7bと下部囲繞板11bのなす端面から僅かの距離露出している。
【0029】
次に、チャンバー1を閉じた状態として、チャンバー1の内部に不活性ガスを供給する(S215)。チャンバー1が閉じた状態の下金型加熱炉1bでも、下部ヒータ7bと下部囲繞板11bは金型受台5側に固着された状態で保持される。金型受台5は、チャンバー1が開いた状態と同じ位置でもよく、また可動金型押圧部2方向に移動した状態で保持されてもよい。金型受台5の挟圧面は下部ヒータ7bと下部囲繞板11bのなす端面で外気から遮蔽されている。
続いての加工工程は、S220~S240と同様である。
図3の実施例によれば、下部耐熱蛇腹部12bを設ける必要がないので、装置構成が簡単になる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上詳述したように、本発明に係る恒温加工装置によれば、不活性ガス(Ar、N2)によって雰囲気制御できる金型加熱炉を作製し、金型酸化を抑制する加熱方法を開発したので、真空チャンバーを用いずに高温下でMo合金金型を使用した恒温鍛造が実施可能となり、作業能率が飛躍的に向上するという効果がある。
また、本発明に係る恒温加工装置によれば、雰囲気制御により酸素濃度が大きく低下した環境下での鍛造が可能となり、耐酸化性の悪いMo合金金型も高温下で長時間使用可能となる。
【符号の説明】
【0031】
1 チャンバー
1a 上金型加熱炉
1b 下金型加熱炉
2 ラムベッドプレート(可動金型押圧部、上部基盤)
4 上金型(上押圧部材)
5 ベッドプレート(金型受台、下部基盤)
6 下金型(下押圧部材)
7a、7b ヒータ(加熱コイル)
8 不活性ガス供給管
9 不活性ガス供給弁
10a、10b 不活性ガス噴出孔
11a、11b 囲繞板
12a、12b 耐熱蛇腹
13 パッキン
15 酸素センサ
W 被加工素材
M 加熱素材