(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013696
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】脳動脈瘤の瘤ネック平面の生成方法とコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
A61B6/03 360G
A61B6/03 360J
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116004
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】599142578
【氏名又は名称】株式会社マックスネット
(74)【代理人】
【識別番号】100102923
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 雄二
(72)【発明者】
【氏名】米山 繁
(72)【発明者】
【氏名】肖 蘿莎
(72)【発明者】
【氏名】向井 一幸
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093AA26
4C093CA18
4C093CA23
4C093DA02
4C093FD09
4C093FF16
4C093FF22
4C093FF35
4C093FF43
4C093FG13
(57)【要約】
【課題】脳動脈瘤48のばらつきのない計測をする。
【解決手段】
MRI等による画像を処理して、仮想母血管66と仮想瘤円筒72を生成し、その交差面から瘤ネック平面76を得る。脳内の動脈瘤48と母血管50との境界面(瘤ネック平面)を正確に示すデータが容易に取得できる。動脈瘤のネック部の面積やフェレ径の計測や、流体計算のための客観的な指標を得ることができる。簡単な画一的な操作で瘤ネック平面を特定できるから、計測の安定性や再現性に優れている。同一人の患部の経時変化を高い精度で比較観察できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、以下のとおりの、動脈瘤の瘤ネック平面を検出する処理を実行させるコンピュータプログラム。
1.母血管上に形成された動脈瘤とその周辺の血管の境界表面を示す3次元画像をディスプレイに表示する。
2.母血管の動脈瘤が形成された箇所の両側の境界表面上に2箇所の指定点の入力を受け付けて、この指定点から最も近接している母血管の中心線上に、処理対象となる母血管の原中心線の端点を定める。
3.動脈瘤の境界表面上に動脈瘤の成長方向を示す標点の指定を受け付ける。
4.上記の端点間に母血管の原中心線と、この母血管の原中心線が動脈瘤の内部で動脈瘤の原中心線と交わる分岐点とを描画し、上記の標点と動脈瘤の原中心線と分岐点とを結ぶ仮想瘤中心線を描画する。
5.母血管の両端点間に描画された母血管の原中心線を、動脈瘤の影響を受けない、または瘤発生前の状態まで平坦化した仮想母血管中心線を描画する。
6.母血管の両端点における中心線に垂直な血管断面を示すデータを生成して、断面間を滑らかな管状の面で結んだ、上記の仮想母血管中心線を有する仮想母血管を示す画像データを生成する。
7.母血管の原中心線を順次平坦化する過程で上記の分岐点が移動するから、その経路に沿って動脈瘤の仮想瘤中心線を延長する。
8.動脈瘤の仮想瘤中心線を平坦化して、母血管の外径以下の径をもつ仮想瘤円筒を示すデータを生成する。
9.上記の仮想母血管と仮想瘤円筒とが交差した部分の、仮想母血管の一部を構成する画像の画像データから、瘤ネック平面を示すデータを生成する。
【請求項2】
コンピュータに以下の処理を実行させて、動脈瘤の瘤ネック平面を検出する方法。
1.母血管上に形成された動脈瘤とその周辺の血管の境界表面を示す3次元画像をディスプレイに表示する。
2.母血管の動脈瘤が形成された箇所の両側の境界表面上に2箇所の指定点の入力を受け付けて、この指定点から最も近接している母血管の中心線上に、処理対象となる母血管の原中心線の端点を定める。
3.動脈瘤の境界表面上に動脈瘤の成長方向を示す標点の指定を受け付ける。
4.上記の端点間に母血管の原中心線と、この母血管の原中心線が動脈瘤の内部で動脈瘤の原中心線と交わる分岐点とを描画し、上記の標点と動脈瘤の原中心線と分岐点とを結ぶ仮想瘤中心線を描画する。
5.母血管の両端点間に描画された母血管の原中心線を、動脈瘤の影響を受けない、または瘤発生前の状態まで平坦化した仮想母血管中心線を描画する。
6.母血管の両端点における中心線に垂直な血管断面を示すデータを生成して、断面間を滑らかな管状の面で結んだ、上記の仮想母血管中心線を有する仮想母血管を示す画像データを生成する。
7.母血管の原中心線を順次平坦化する過程で上記の分岐点が移動するから、その経路に沿って動脈瘤の仮想瘤中心線を延長する。
8.動脈瘤の仮想瘤中心線を平坦化して、母血管の外径以下の径をもつ仮想瘤円筒を示すデータを生成する。
9.上記の仮想母血管と仮想瘤円筒とが交差した部分の、仮想母血管の一部を構成する画像の画像データから、瘤ネック平面を示すデータを生成する。
10. 瘤ネック平面を示すデータを最適化するために、ディスプレイに表示した瘤ネック平面を仮想瘤中心線にそって移動させる。
【請求項3】
母血管の原中心線を平坦化する程度を示すパラメータと、動脈瘤の原中心線を平坦化する程度を示すパラメータと、生成された瘤ネック平面を動脈瘤の仮想瘤中心線に沿って移動させる移動量を示すパラメータとを設けて、動脈瘤とその周辺の血管の3次元画像データをディスプレイに表示させた状態で、これらのパラメータを増減制御するための操作画面をディスプレイに表示することを特徴とする請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項4】
母血管の原中心線を平坦化する程度を示すパラメータと、動脈瘤の原中心線を平坦化する程度を示すパラメータと、生成された瘤ネック平面を動脈瘤の仮想瘤中心線に沿って移動させる移動量を示すパラメータとを設けて、動脈瘤とその周辺の血管の3次元画像データをディスプレイに表示させた状態で、これらのパラメータを増減制御するための操作画面をディスプレイに表示することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ディスプレイに、対象画像データを表示して、過去の履歴として記憶部に記憶しておいた指定点A座標と、指定点B座標と、標点C座標と、上記の各パラメータとを自動的に入力してから、指定点A座標と、指定点B座標と、標点C座標の移動と、上記の各パラメータの変更を受け付ける処理を実行する機能をコンピュータに付与することを特徴とする請求項3に記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳動脈瘤とこれが形成された母血管との計測用の境界平面(瘤ネック平面)を示すデータを取得する方法とコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳動脈瘤は危険な血管異常である。この診断は専門的で容易でない。そこでCT検査(Computed Tomography)やMRI検査(Magnetic Resonance Imaging)等によって頭部を撮影した3次元画像データを自動的に解析して,動脈瘤を検出する技術が紹介されている(特許文献1)。また、動脈瘤の形状変化を観察する技術も紹介されている(特許文献2)。さらに、動脈瘤の形状を特定するために、動脈瘤が形成された各所の血管の中心線を求めて、血管の正確な3次元データを得る技術が紹介されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5496067号公報
【特許文献2】特許5242235号公報
【特許文献3】特許5890055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、血管の膨らみやくびれを検出したり、瘤形状を幾何学的に仮定したりして動脈瘤の領域を特定しているが、血管と動脈瘤の輪郭を示す画像が比較的滑らかでなければ的確な結果が得られ難く多様な形状の瘤に対し簡易で安定した計測は難しい。コンピュータによる自動処理の結果に医師の判断が大きく加わると、個人差があって診断の再現性にばらつきが生じる。従って、患部の現状の計測も状態変化も正確に把握することが難しくなる。また、第三者の患部との相対的な比較も容易でない。
【0005】
本発明は、脳動脈瘤とこれが形成された母血管(瘤生成に最も関係ある血管)との計測用の境界平面(瘤ネック平面)を示すデータを、比較的簡単で個人差が生じにくい再現性のある手法で生成するための方法と、データ取得演算処理を実行するコンピュータプログラムを提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下の構成はそれぞれ上記の課題を解決するための手段である。
【0007】
<構成1>
コンピュータに、以下のとおりの、動脈瘤の瘤ネック平面を検出する処理を実行させるコンピュータプログラム。
1.母血管上に形成された動脈瘤とその周辺の血管の境界表面を示す3次元画像をディスプレイに表示する。
2.母血管の動脈瘤が形成された箇所の両側の境界表面上に2箇所の指定点の入力を受け付けて、この指定点から最も近接している母血管の中心線上に、処理対象となる母血管の原中心線の端点を定める。
3.動脈瘤の境界表面上に動脈瘤の成長方向を示す標点の指定を受け付ける。
4.上記の端点間に母血管の原中心線と、この母血管の原中心線が動脈瘤の内部で動脈瘤の原中心線と交わる分岐点とを描画し、上記の標点と動脈瘤の原中心線と分岐点とを結ぶ仮想瘤中心線を描画する。
5.母血管の両端点間に描画された母血管の原中心線を、動脈瘤の影響を受けない、または瘤発生前の状態まで平坦化した仮想母血管中心線を描画する。
6.母血管の両端点における中心線に垂直な血管断面を示すデータを生成して、断面間を滑らかな管状の面で結んだ、上記の仮想母血管中心線を有する仮想母血管を示す画像データを生成する。
7.母血管の原中心線を順次平坦化する過程で上記の分岐点が移動するから、その経路に沿って動脈瘤の仮想瘤中心線を延長する。
8.動脈瘤の仮想瘤中心線を平坦化して、母血管の外径以下の径をもつ仮想瘤円筒を示すデータを生成する。
9.上記の仮想母血管と仮想瘤円筒とが交差した部分の、仮想母血管の一部を構成する画像の画像データから、瘤ネック平面を示すデータを生成する。
【0008】
<構成2>
コンピュータに以下の処理を実行させて、動脈瘤の瘤ネック平面を検出する方法。
1.母血管上に形成された動脈瘤とその周辺の血管の境界表面を示す3次元画像をディスプレイに表示する。
2.母血管の動脈瘤が形成された箇所の両側の境界表面上に2箇所の指定点の入力を受け付けて、この指定点から最も近接している母血管の中心線上に、処理対象となる母血管の原中心線の端点を定める。
3.動脈瘤の境界表面上に動脈瘤の成長方向を示す標点の指定を受け付ける。
4.上記の端点間に母血管の原中心線と、この母血管の原中心線が動脈瘤の内部で動脈瘤の原中心線と交わる分岐点とを描画し、上記の標点と動脈瘤の原中心線と分岐点とを結ぶ仮想瘤中心線を描画する。
5.母血管の両端点間に描画された母血管の原中心線を、動脈瘤の影響を受けない、または瘤発生前の状態まで平坦化した仮想母血管中心線を描画する。
6.母血管の両端点における中心線に垂直な血管断面を示すデータを生成して、断面間を滑らかな管状の面で結んだ、上記の仮想母血管中心線を有する仮想母血管を示す画像データを生成する。
7.母血管の原中心線を順次平坦化する過程で上記の分岐点が移動するから、その経路に沿って動脈瘤の仮想瘤中心線を延長する。
8.動脈瘤の仮想瘤中心線を平坦化して、母血管の外径以下の径をもつ仮想瘤円筒を示すデータを生成する。
9.上記の仮想母血管と仮想瘤円筒とが交差した部分の、仮想母血管の一部を構成する画像の画像データから、瘤ネック平面を示すデータを生成する。
10. 瘤ネック平面を示すデータを最適化するために、ディスプレイに表示した瘤ネック平面を動脈瘤の仮想瘤中心線に沿って移動させる。
【0009】
<構成3>
母血管の原中心線を平坦化する程度を示すパラメータと、動脈瘤の原中心線を平坦化する程度を示すパラメータと、生成された瘤ネック平面を動脈瘤の仮想瘤中心線に沿って移動させる移動量を示すパラメータとを設けて、動脈瘤とその周辺の血管の3次元画像データをディスプレイに表示させた状態で、これらのパラメータを増減制御するための操作画面をディスプレイに表示することを特徴とする構成1に記載のコンピュータプログラムまたは、構成2に記載の方法。
<構成4>
ディスプレイに、対象画像データを表示し過去の履歴として記憶部に記憶しておいた指定点A座標と、指定点B座標と、標点C座標と、上記の各パラメータとを自動的に入力してから、指定点A座標と、指定点B座標と、標点C座標の移動と、上記の各パラメータの変更を受け付ける処理を実行する機能をコンピュータに付与することを特徴とする構成3に記載のコンピュータプログラム。
【発明の効果】
【0010】
脳内の動脈瘤と母血管との計測用の境界平面(瘤ネック平面)を正確に示すデータが容易に取得できるから、その結果を利用して、境界平面上での瘤ネック平部の面積やフェレ径の計測や、流体計算のための客観的な指標を得ることができる。
さらに、簡単な画一的な操作で瘤ネック平面を特定できるから、計測の安定性や再現性に優れている。従って、同一人の患部の経時変化を高い精度で比較観察できる。また、別人のものであってもばらつきが少ないから、広くデータを収集して相対的な比較判定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のコンピュータプログラムの具体的な処理手順の説明図(その1)。
【
図2】本発明のコンピュータプログラムの具体的な処理手順の説明図(その2)。
【
図3】上記の処理を実行するためのコンピュータの機能ブロック図。
【
図4】瘤ネック平面を使用した動脈瘤の構造を示すデータの例。
【
図5】瘤ネック平面を検出する過程でディスプレイに表示された画面の一例。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によれば、医師がコンピュータのディスプレイに表示された画像を見ながら、次のような手順で、画像を操作して、瘤ネック平面を示すデータを得ることができる。以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【実施例0013】
図1と
図2を参照しながら、本発明によるコンピュータプログラムの具体的な処理手順を説明する。使用するコンピュータの構造については、
図3を適宜参照する。
図1と
図2の図面中には、S1~S9という表示をして、処理手順をステップごとに図解した。なお、これらの処理手順はその一例であって、矛盾が無い限り一部のステップの順序を前後させても構わない。
【0014】
(ステップS1)
母血管50上に形成された動脈瘤48とその周辺の血管の、境界表面を示す3次元画像をディスプレイに表示する。
【0015】
医療用のCT画像やMRI画像は、解像度が0.2mm程度のボクセル(3次元画像中の画素)の集合体である。脳動脈瘤48が形成された血管の外径は2~4mm程度である。以下の実施例では、こうした条件下で実行した結果を例示した。
【0016】
まず、処理対象を単純化するために、CTやMRIで撮影された3次元画像データ中の、母血管50及び動脈瘤48を表す部分のボクセルの画素値を(1)とし、それ以外の周辺部分のボクセルの画素値を(0)になるように2値化する。この処理には例えば、半値法や大津法等を利用する。
【0017】
この動脈瘤48と母血管50の2値化画像から、動脈瘤48と母血管50の外表面にあるボクセルのみを残した境界表面画像データを得る。この処理には例えば、MarchingCube法を利用する。でこうして、動脈瘤48と母血管50の輪郭を示す2値化画像以外の不要なデータを削除する。これらの準備処理をした後に、得られた2値化画像を、コンピュータのディスプレイに表示する。
【0018】
(ステップS2―4) 母血管50の動脈瘤48が形成された箇所の両側の境界表面上に2箇所の指定点A、Bの入力を受け付ける。コンピュータは、この指定点A、Bから最も近接している母血管の中心線上に、処理対象となる母血管の中心線の端点P1とP2を求める。
【0019】
ここで、コンピュータの構造を
図3を参照して説明する。この図面には、コンピュータに設けられたディスプレイ12とマウス14が図示されている。ディスプレイ12には画像表示部16と操作画面18とが表示されている。画像表示部16には上記の3次元画像20が表示される。操作画面18には後で説明するパラメータを操作するための操作ボタン22が表示される。上記のステップS1の処理は画像処理部32が自動的に実行する。
【0020】
図1において、(S1―S2)と示した画像中には指定点A,Bを図示した。これらの指定点A,Bは、動脈瘤48の周辺の複雑に分岐している血管のうちの、動脈瘤48を成長させている血管の上流部分と下流部分を特定するためのものであり、医師の判断で指定される。
【0021】
即ち、ディスプレイ12に表示された境界表面画像を医師が見て、マウス等のポインタを使用して指定する。コンピュータはこの指定を受け付ける。ここで、指定点A,Bから、処理対象となる母血管50の中心線の端点P1とP2を定める。端点P1とP2と母血管50とは、
図1中の(S4)と表示した図中に示した。
【0022】
例えば、DistanceMap方式の中心線生成によれば、この図のような母血管50の輪郭を示す2値化画像から、自動的に母血管50の原中心線60と動脈瘤48の原中心線62を得ることができる。この処理は、
図3に示したコンピュータの演算処理部25の軸心検出モジュール34と中心線生成モジュール36とが実行する。また、得られたデータは、
図3に示すように、コンピュータの記憶部24に、端点P1座標51と端点P2座標52として記憶される。
【0023】
(ステップS3) 動脈瘤48の境界表面上に、動脈瘤48の成長方向を示す標点Cの指定を受け付ける。
【0024】
動脈瘤48の形状の特徴から、動脈瘤48の成長方向を医師が判断をして指定する。
図1の(S3)と表示した図のように、3次元画像20を回転させて、動脈瘤48の向きを確かめてから、マウス14等のポインタで標点Cが指定される。指定されたデータは、
図3に示した標点C座標54として記憶される。
【0025】
(ステップS4-5) 上記の端点P1,P2間に、母血管50の原中心線60と、この原中心線60が動脈瘤48の内部で動脈瘤48の原中心線62と交わる分岐点Dとを生成して、画像表示部16に描画する。さらに、上記の標点Cと動脈瘤の原中心線と分岐点Dとを結ぶ仮想瘤中心線68を生成して画像表示部16に描画する。
【0026】
(S4)と表示した図の左右には、母血管50の断面と、指定点A,Bと、端点P1,P2の位置関係を示す図を配置した。これらの処理は
図3に示した中心線生成モジュール36と分岐点検出モジュール38が実行する。記憶部24には、分岐点D座標55が記憶される。
【0027】
(S4?5)と表示した図のように、母血管50の原中心線60は動脈瘤48の内部に引寄せられて、動脈瘤48の原中心線62や他の血管と分岐する。この分岐点Dと瘤の原中心線62と標点Cとを結べば、動脈瘤48の仮想瘤中心線68を生成することができる。
【0028】
(ステップS5) 上記のように、母血管50の両端点P1、P2間に、母血管50の原中心線60が生成されたが、この原中心線60を、動脈瘤48の影響を受けないまたは瘤発生前の状態まで平坦化した仮想母血管中心線64を生成して画像表示部16に描画する。
【0029】
(S4)と表示した図のように、母血管50の原中心線60は、動脈瘤48の形状の影響を受けて、動脈瘤48の内部の分岐点Dの場所まで引寄せられている。ここで、動脈瘤48の影響を受けないまたは瘤発生前の状態の母血管50の形状を復元する。そのために、母血管の原中心線60を平坦化して、仮想母血管中心線64を生成して表示する。
【0030】
母血管の原中心線60の平坦化は、
図3に示した平坦化モジュール40が実行する。例えば、母血管の原中心線60を多数のボクセル相互を結ぶ線分の集合とした場合に、隣接する線分の挟む角を何割か減少させる。これで、母血管の原中心線60の大きな曲りや捻れの要素を残したまま母血管の原中心線60の全体を平坦化できる。
【0031】
図3の操作画面18には3種類のパラメータをそれぞれ数値で指定できるように数値を表示するボックスとその数値をアップダウンさせるボタンとが表示されている。いずれも、マウス14やキーボードを操作して、その数値を増減調整できる。
【0032】
この平坦化の程度は、コンピュータの操作画面18の操作ボタン22を医師が操作して、増減変更できるようにしておく。平坦化の程度を目視で確認できるように、母血管の原中心線60とは別に仮想母血管中心線64も表示する。調整の結果は記憶部24に、母血管中心線平坦化パラメータ26として記憶される。このパラメータを記憶させておけば、医師が最適と判断をした仮想母血管中心線64をいつでも再度生成して描画できる。
【0033】
(ステップS6) 母血管50の両端点P1,P2における原中心線60に垂直な血管断面を示すデータを生成して、断面間を滑らかな管状の面で結ぶ。これで、仮想母血管中心線64を有する仮想母血管66を示す画像データを生成する。
【0034】
両端点P1,P2における血管断面は(S4)のところに示した。動脈瘤48や母血管50の断面は、周辺組織の影響で、一般に円形では無い。即ち、様々な形状をしている。その端点P1、P2での断面を仮想中心線64に沿ってSweepさせれば、
図2の(S6)で示したような仮想母血管66を生成することができる。この時、仮想母血管66の断面の単純化のために、その断面と等面積の円や楕円で近似することもできる。
【0035】
例えば、原画像のままの血管断面形状を採用する場合には、母血管50の捩率(ねじれ)を加味してSweepすればよい。これで、ねじれまで考慮して平坦化した仮想母血管中心線64を有する仮想母血管66を生成できる。その結果、動脈瘤48が無かったときの母血管50の状態に近い形状の仮想母血管66を生成できる。この処理は
図3の仮想母血管生成モジュール42が実行する。
【0036】
(ステップS7) 母血管50の原中心線60を順次平坦化する過程で上記の分岐点Dが移動するから、その移動経路に沿って動脈瘤48の原中心線62を延長する。(S7)の図では、延長部分を太線で示した。この延長部分はD点の移動位置を折線で近似するか、単純化し直線でも構わない。
【0037】
母血管中心線平坦化パラメータを調整して、母血管50の原中心線60を少しずつ平坦化する過程で、分岐点Dが当初あった位置から次第に動脈瘤48の外側に向かって移動していく。この動きを追って、動脈瘤48の仮想瘤中心線68を延長する。
【0038】
平坦化された後の母血管の原中心線60の、それまで分岐点D5があったはずの場所から動脈瘤48が分岐したものとみることができる。そこで、その場所と当初あった分岐点Dとを結び、仮想瘤中心線68を延長する。
【0039】
これで、動脈瘤48の成長方向を示した標点Cから、平坦化された仮想母血管中心線64に至る動脈瘤48の原中心線62が生成された。
【0040】
(ステップS8) 動脈瘤48の原中心線62を平坦化して、母血管50の外径以下の径をもつ仮想瘤円筒72を示すデータを生成する。
【0041】
通常、動脈瘤48の内部では、Blebや微小血管等により、動脈瘤48の原中心線62が複雑に屈曲する。そこで、母血管50と同様の手法で原中心線62を平坦化する。この平坦化の程度は、母血管50の場合と同様に、コンピュータの操作画面18上で医師が操作して増減する。その結果は動脈瘤中心線平坦化パラメータ28として、記憶部24に記憶させておく。
【0042】
(S8)に示したように、こうして得られた動脈瘤48の仮想瘤中心線68を有する仮想瘤円筒72を生成する。母血管50から分岐する血管だから、母血管50の外径以下であるのは当然であるが、計算の便宜上、ある程度の太さに設定する。以下の処理ができる程度ならばその外径は任意である。
【0043】
なお、経験的には、例えば、仮想母血管66から動脈瘤の原中心線62が分岐している部分の、仮想母血管66の断面積を求めて、これと等しい面積の円の直径の、1/4~1/2程度に選定をすると良い結果が得られる。これらの処理は
図3の平坦化モジュール40と仮想瘤円筒生成モジュール44が実行する。
【0044】
(ステップS9) 上記の仮想母血管66と仮想瘤円筒72とが交差した部分の、仮想母血管66の一部を構成する検出面74の画像データを取得する。それぞれ曲面上の位置座標を持つボクセルの集合である。それらの位置座標の3次元主成分分析で、第1,第2主成分軸のつくる平面から、瘤ネック平面76を示すデータを生成する。
図3のネック平面算出モジュール46がこの処理を実行する。
【0045】
仮想母血管66と、動脈瘤48が成長する方向に延びた仮想瘤円筒72との交差面は、母血管50と動脈瘤48の境界面のはずであるが、これを画像表示部16に表示された画像に重ね合わせて見ると微妙に傾きや位置がずれていることがある。そもそも母血管50も動脈瘤48も湾曲、捻れ、傾き等の複雑な形状をしているからである。そこで、その瘤ネック平面76の位置を示す画像を表示して、医師による位置調整を求める。
【0046】
(ステップS10) 瘤ネック平面76を示すデータを最適化するために、ディスプレイ12に表示した瘤ネック平面76を動脈瘤の原中心線62にそって移動させる。
【0047】
上記の処理の結果、記憶部24には、母血管中心線平坦化パラメータ26、動脈瘤中心線平坦化パラメータ28、ネック平面位置調整パラメータ30、指定点A座標56、端点P1座標51、指定点B座標57、端点P2座標52、標点C座標54および分岐点D座標55が記憶され、これらは該当する画像データと共に保存される。
【0048】
瘤ネック平面76の位置調整が終わると、その結果は、記憶部24に、ネック平面位置調整パラメータ30として記憶される。
図4は、こうして得られた瘤ネック平面76を利用して、動脈瘤の構造を示すデータを求める例を示した。動脈瘤48の瘤ネック平面76と交わる断面を求め、そのフェレ径を得ることができる。
【0049】
また、例として瘤ネック平面76から垂直に立てた線80により瘤高を得ることができる。さらに、その線80の半分の位置で半瘤高巾を得ることができる。瘤ネック平面76上の動脈瘤の体積や表面積を得ることができる。
【0050】
上記の処理では医師がA,B,C点を指定し、仮想母血管中心線64と仮想瘤中心線68の平坦化の程度を調整し、瘤ネック平面76の位置の微調整をする操作以外は、コンピュータにより自動的に処理が実行される。一度パラメータを設定しておけば、経過観察をするときのためにそれらを記憶させておいて利用出来る。それらの値をわずかに変更すれば新たな瘤ネック平面76が得られる。
【0051】
作業がパターン化されるから、例えば、同一の3次元画像を用いて、異なる医師や解析担当者が解析を行っても、結果のばらつきが生じ難い。ほぼ同様の結果が得られる。また、同一の患部の写真を継続的に観察したときに、解析条件のばらつきが無いので、正確に効率よく動脈瘤の変化を確認できる。
【0052】
最後に、
図5により、実際にこのコンピュータを使用してネック平面を生成する過程で、ディスプレイに表示された特徴的な画面の一例を紹介する。
【0053】
左側から右側に向かって2分岐している血管の細い方を母血管に設定し、端点P1,P2を定めている。当初に生成された母血管の原中心線60は大きく屈曲しているが、仮想瘤中心線68のように十分に平坦化されている。仮想母血管66と仮想瘤円筒72とは図のようなイメージで生成されて描画されている。これらの交点に瘤ネック平面76も合わせて表示されている。
上記のプログラムは、処理の過程で、その都度、指定点や標点やパラメータの入力を待って、演算処理を実行する。しかしながら、過去に処理をした画像データを取り出して、処理の過程や処理結果を再確認したいことがある。例えば、セカンドオピニオンを求めるような場合にも利用できる。
上記の処理を再現をする場合には、コンピュータは、履歴データ59に記憶しておいた対象画像データ58と、指定点A座標56と、指定点B座標57と、標点C座標54と、3種類のパラメータ26,28,30とを自動的に入力して、ネック平面を生成する処理を実行する。
例えば、処理の過程をステップバイステップで表示して、中途で指定点A,Bや標点Cの位置や各パラメータの値の変更を可能にするとよい。これによって、処理の過程を具体的に検証することが可能になる。
同じ患者の経過観察の場合には前回と今回の写真撮影条件が微妙に相違することがあるから、保存しておいた履歴データを自動的に入力した後で、指定点等の位置やパラメータを調整する必要が生じる。それでも、前回の処理と大きな相違が無いから調整は容易である。しかも相違点を確認しながら処理をすれば経過観察に有用な情報が得られる。