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特開2024-136967浸水領域抽出装置、浸水領域抽出プログラム及び浸水領域抽出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136967
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】浸水領域抽出装置、浸水領域抽出プログラム及び浸水領域抽出方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20240927BHJP
   G01W 1/00 20060101ALI20240927BHJP
   G06T 7/11 20170101ALI20240927BHJP
【FI】
G06T7/00 640
G01W1/00 Z
G06T7/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048287
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】591102095
【氏名又は名称】三菱電機ソフトウエア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 健志
(72)【発明者】
【氏名】島田 拓弥
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA06
5L096CA02
5L096DA01
5L096EA06
5L096EA43
5L096FA32
5L096FA33
5L096FA35
5L096GA51
(57)【要約】
【課題】郊外部における浸水時の信号強度モデルを前提としつつ、植生の季節変化等による信号強度の減少に起因した、浸水領域の過剰抽出の改善を図る。
【解決手段】統計量計算部11は、浸水発生後の地域の画像である入力画像2のなかをウィンドウ51でスキャンすることで、ウィンドウ51の位置iごとに、ウィンドウ51に含まれる複数の画素の各画素の信号強度に基づく統計量である歪度を計算する。統計量計算部11は、位置iのウィンドウ51ごとに計算された歪度sに基づいて、二値の一方である浸水領域と,二値の他方である非浸水領域とが表された二値化画像を、歪度マップ11Aとして作成する。歪度マップ11Aを利用することにより、植生の季節変化等による信号強度の減少に起因した、浸水領域の過剰抽出を改善できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸水発生後の地域の画像のなかの複数の領域の領域ごとに、前記領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度に基づく統計量を計算し、前記領域ごとに計算された前記統計量に基づいて、二値の一方である浸水領域と二値の他方である非浸水領域とが表された二値化画像を作成する統計量計算部、
を備える浸水領域抽出装置。
【請求項2】
前記統計量計算部は、
前記統計量と比較するための閾値を保有していると共に、前記閾値を満足する前記統計量と、前記閾値を満足しない前記統計量とに分けることにより、前記二値化画像を作成する請求項1に記載の浸水領域抽出装置。
【請求項3】
前記浸水領域抽出装置は、さらに、
前記二値化画像にフィルター処理を施すことで、前記二値化画像における前記非浸水領域を拡張する領域拡張部、
を備える請求項1または請求項2に記載の浸水領域抽出装置。
【請求項4】
前記統計量計算部は、
前記統計量として、歪度と尖度との少なくともいずれかを計算し、計算された両方あるいは一方に基づいて、前記二値化画像を作成する請求項1または請求項2に記載の浸水領域抽出装置。
【請求項5】
前記浸水領域抽出装置は、さらに、
浸水発生前の地域の第1画像のなかの複数の領域の領域ごとに、前記領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度の第1確率分布を計算し、浸水発生後の地域の前記画像のなかの複数の領域の領域ごとに、前記領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度の第2確率分布を計算する確率分布計算部と、
前記第1確率分布と前記第2確率分布とを比較して確率分布比較結果を生成する確率分布比較部と、
前記二値化画像と、前記確率分布比較結果とに基づいて、浸水発生後の地域の前記画像における浸水領域を推定する浸水領域推定部と、
を備える請求項1または請求項2に記載の浸水領域抽出装置。
【請求項6】
前記浸水領域抽出装置は、さらに、
浸水発生前の地域の前記画像に撮影されている地域と浸水発生後の地域の前記画像に撮影されている地域との何れかを、地域における土地利用の状態が複数の種類に分類された土地利用分類データを用いて都市部と郊外部とに分離することにより、浸水発生後の地域の前記画像に撮影されている前記地域が都市部と郊外部との2領域に分離された2領域分離データを生成する領域分離部を備え、
前記浸水領域推定部は、
前記二値化画像と、前記確率分布比較結果と、前記2領域分離データとに基づいて、前記浸水領域を推定する請求項5に記載の浸水領域抽出装置。
【請求項7】
コンピュータに、
浸水発生後の地域の画像のなかの複数の領域の領域ごとに、前記領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度に基づく統計量を計算し、前記領域ごとに計算された前記統計量に基づいて、二値の一方である浸水領域と二値の他方である非浸水領域とが表された二値化画像を作成する統計量計算処理、
を実行させる浸水領域抽出プログラム。
【請求項8】
前記統計量計算処理は、
前記統計量と比較するための閾値を保有していると共に、前記閾値を満足する前記統計量と、前記閾値を満足しない前記統計量とに分けることにより、前記二値化画像を作成する請求項7に記載の浸水領域抽出プログラム。
【請求項9】
前記浸水領域抽出プログラムは、さらに、
前記二値化画像にフィルター処理を施すことで、前記二値化画像における前記非浸水領域を拡張する領域拡張処理、
を備える請求項7または請求項8に記載の浸水領域抽出プログラム。
【請求項10】
前記統計量計算処理は、
前記統計量として、歪度と尖度との少なくともいずれかを計算し、計算された両方あるいは一方に基づいて、前記二値化画像を作成する請求項7または請求項8に記載の浸水領域抽出プログラム。
【請求項11】
前記浸水領域抽出プログラムは、さらに、
浸水発生前の地域の第1画像のなかの複数の領域の領域ごとに、前記領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度の第1確率分布を計算し、浸水発生後の地域の前記画像のなかの複数の領域の領域ごとに、前記領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度の第2確率分布を計算する確率分布計算処理と、
前記第1確率分布と前記第2確率分布とを比較して確率分布比較結果を生成する確率分布比較処理と、
前記二値化画像と、前記確率分布比較結果とに基づいて、浸水発生後の地域の前記画像における浸水領域を推定する浸水領域推定処理と、
を備える請求項7または請求項8に記載の浸水領域抽出プログラム。
【請求項12】
前記浸水領域抽出プログラムは、さらに、
浸水発生前の地域の前記画像に撮影されている地域と浸水発生後の地域の前記画像に撮影されている地域との何れかを、地域における土地利用の状態が複数の種類に分類された土地利用分類データを用いて都市部と郊外部とに分離することにより、浸水発生後の地域の前記画像に撮影されている前記地域が都市部と郊外部との2領域に分離された2領域分離データを生成する分離処理を備え、
前記浸水領域推定処理は、
前記二値化画像と、前記確率分布比較結果と、前記2領域分離データとに基づいて、前記浸水領域を推定する請求項11に記載の浸水領域抽出プログラム。
【請求項13】
コンピュータが、
浸水発生後の地域の画像のなかの複数の領域の領域ごとに、前記領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度に基づく統計量を計算し、前記領域ごとに計算された前記統計量に基づいて、二値の一方である浸水領域と二値の他方である非浸水領域とが表された二値化画像を作成する、
浸水領域抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像から浸水領域を抽出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水害発生時において、広範囲にわたる浸水領域を把握する手法として、航空機や人工衛星で観測したリモートセンシングデータを利用した浸水域推定手法が提案されている(例えば非特許文献1)。
【0003】
非特許文献1では、水害前後に撮像された合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)画像を用いて、信号強度の確率分布の差分を検出することで浸水領域を推定している。
非特許文献1では、次の反射特性モデルを前提として信号強度の増減を基に、浸水領域を推定している。
<反射モデル>
(1)郊外部では、浸水により水没することにより発災後の信号強度は小さくなる。
(2)都市部では、浸水した水面と建物等の2回散乱が発生することにより、発災後の信号強度は大きくなる。
【0004】
上記のように浸水領域の推定では、信号強度の増減を基にしている。
この場合、浸水に起因した信号強度の増減だけでなく、
(a)植生の季節変化による信号強度の増減や、
(b)人口構造物の建設、取り壊しなどによる信号強度の増減、
のような変化も含まれる。
【0005】
浸水域推定手法において、推定システムが、上記の(a)(b)のような変化を浸水と捉えた場合は、浸水領域の過剰抽出に繋がるという課題がある。
【0006】
郊外の田畑では、同一時期に撮像された画像を利用しない限り、湛水や作付、植物の生育などにより植生の季節変化による信号強度の増減が発生する。特に、湛水した田んぼは、水害発生時と同様に水を張ることによる信号強度の減少が起こる。このため、浸水推定システムは、過剰に浸水領域を推定してしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Motofumi Arii and Takeshi Nishimura、“SENSITIVITY ANALYSIS OF L-BAND SAR TO INUNDATED AREA”、IGARASS、2016 IEEE International.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、郊外部における浸水時の信号強度モデルを前提としつつ、植生の季節変化等による信号強度の減少に起因した、浸水領域の過剰抽出の改善を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る浸水領域抽出装置は、
浸水発生後の地域の画像のなかの複数の領域の領域ごとに、前記領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度に基づく統計量を計算し、前記領域ごとに計算された前記統計量に基づいて、二値の一方である浸水領域と二値の他方である非浸水領域とが表された二値化画像を作成する統計量計算部、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る浸水領域抽出装置は、二値化画像を作成する統計量計算部を備えている。よって、二値化画像により、植生の季節変化等による信号強度の減少に起因した、浸水領域の過剰抽出を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1の図で、浸水領域抽出装置10のブロック構成を示す図。
図2】実施の形態1の図で、浸水領域抽出装置10の動作のフローチャート。
図3】実施の形態1の図で、統計マップの計算方法および統計量マップの例を示す図。
図4】実施の形態1の図で、浸水領域及び非浸水領域の歪度を示す図。
図5】実施の形態1の図で、歪度マップ11Aを示す図。
図6】実施の形態1の図で、モフォロジーフィルターの適用例と歪度マップ11Bを示す図。
図7】実施の形態1の図で、浸水領域抽出装置10Aのブロック図。
図8】実施の形態1の図で、浸水領域抽出装置10Aの動作のフローチャート。
図9】実施の形態1の図で、確率分布の計算処理を示す図。
図10】実施の形態1の図で、確率分布どうしの差分取得の例を示す図。
図11】実施の形態1の図で、土地被覆情報の例を示す図。
図12】実施の形態1の図で、浸水領域抽出装置のハードウェア構成の図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態の説明及び図面において、同じ要素及び対応する要素には同じ符号を付している。同じ符号が付された要素の説明は、適宜に省略又は簡略化する。以下の実施の形態では、「部」を、「回路」、「工程」、「手順」、「処理」又は「サーキットリー」に適宜読み替えてもよい。
【0013】
実施の形態1.
図1から図12を参照して実施の形態1の浸水領域抽出装置10,10Aを説明する。
【0014】
<浸水領域抽出装置10の概要>
浸水領域抽出装置10の特徴は、統計量を用いて浸水領域を抽出する点にある。浸水領域抽出装置10は、郊外部における浸水時の信号強度モデルについて以下の(1)-(4)の前提のもと、植生の季節変化等による信号強度の減少に起因した浸水領域の過剰抽出を改善する。
(1)郊外部において浸水した場合は、SARの信号強度は広範囲に渡り小さくなり、田畑の区画やあぜ道等からの信号は確認できなくなる。一方、郊外部において浸水していない場合は、田畑の区画やあぜ道等の縁からの散乱が発生するため、それらの箇所の信号強度は小さくならず、田畑の区画やあぜ道等からの信号は確認できる。
(2)植生の季節変化等による信号強度の減少がある領域であっても、田畑の区画やあぜ道等からの信号が確認できる場合は、その領域および近傍領域を、浸水領域から除外することで、浸水領域の過剰抽出を改善できる。
(3)田畑の区画やあぜ道等からの信号が確認できる領域と、確認できない領域の区別は、信号強度の統計量を基に判定する。
統計量1:信号強度の「歪度」(skewness)
統計量2:信号強度の「尖度」(kurtosis)
(4)田畑の区画やあぜ道等からの信号が確認できない領域の歪度や尖度に対して、信号が確認できる領域では、歪度や尖度は大きくなる。
【0015】
<入力画像1及び入力画像2>
以下の実施の形態1では、入力画像1は、時刻T1における水害発生前の画像である。入力画像2は、時刻T1の後の時刻T2における、水害発生後の画像である。入力画像1と入力画像2は同一の領域が存在する。
【0016】
***構成の説明***
図1は、浸水領域抽出装置10の基本構成を示す機能ブロック図である。浸水領域抽出装置10は、統計量計算部11及び領域拡張部12を備えている。
【0017】
図2は、浸水領域抽出装置10の動作を示すフローチャートである。図2を参照して浸水領域抽出装置10の主要動作を説明する。
図3は、統計量計算部11が入力画像2から作成した統計量マップを示す。
【0018】
<ステップS01>
ステップS01において、統計量計算部11は統計量計算処理を実行する。
統計量計算部11は、統計量計算部11は、入力画像2のなかの複数の領域の領域(ウィンドウ)ごとに、領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度に基づく統計量(歪度、尖度)を計算する。
統計量計算部11は、領域(ウィンドウ)ごとに計算された統計量に基づいて、二値の一方である浸水領域と二値の他方である非浸水領域とが表された二値化画像(歪度マップ11A)を作成する。
統計量計算部11は、統計量と比較するための閾値を保有しており、閾値を満足する統計量と、閾値を満足しない統計量とに分けることにより、二値化画像(歪度マップ11A)を作成する。
統計量計算部11は、統計量として、歪度と尖度との少なくともいずれかを計算し、計算された両方あるいは一方に基づいて、二値化画像(歪度マップ11A)を作成する。
以下に具体的に説明する。
【0019】
図3に示すように、統計量計算部11は、入力画像2から統計量を計算し、入力画像2についての統計量マップを作成する。以下の説明では、統計量は歪度を例とし、統計量マップ11Aは歪度マップ11Aとする。
【0020】
ステップS01の統計量計算処理では、統計量計算部11は、水害発生後の入力画像2を入力して、信号強度の歪度sを計算する。統計量計算部14は、歪度sの結果から、入力画像2についての歪度マップ11Aを作成する。図3を参照して統計量計算部11による、歪度マップ11Aの作成方法を説明する。統計量計算部11は、入力画像2のなかでウィンドウ51を決められた方向にずらしながら、ずらした位置iごとに、歪度sを計算する。ウィンドウ51の位置iにおける歪度sは式1で計算する。
=E[(x-μ)]/σ (式1)
xは、位置iにおけるウィンドウ51の内部の各画素の信号強度である。
μは、xの平均値である。
σは、xの標準偏差である。
E[t]は、数量tの期待値を表す。
統計量計算部11は、歪度si(i=1,2、・・・)と、保有している閾値Tとを比較し、閾値Tよりも大きい歪度siと、閾値T以下の歪度siとに二値化し、歪度マップ11Aを作成する。この二値化により歪度マップ11Aが作成される。歪度マップ11Aは入力画像2に対応しており、入力画像2の位置は歪度マップ11Aのいずれかの位置に対応している。
なお、歪度に限らず、式2に示す尖度kを用いてもよい。
ki=E[(x-μ)4]/σ4 (2)
また、歪度及び尖度以外のその他の統計量を使用することに制約はない。1つの統計量から一つの統計量マップを作成してもよいし、複数の統計量から一つの統計量マップを作成してもよい。
【0021】
統計量計算部11は、浸水領域を有効値とし、非浸水領域を無効値とする二値化画像を歪度Sから生成する。この二値化画像が歪度マップ11Aである。浸水領域を無効値、非浸水領域を有効値としてもよい。
図4は、浸水領域と非浸水領域が既知の浸水画像から、浸水領域と非浸水領域の歪度を計算した例を示す。横軸がサンプリング地点であり、縦軸が歪度である。図4では、ある郊外について、浸水領域と非浸水領域とで各10か所サンプリングし、歪度を計算した結果である。図4のように、歪度sが0.7程度で、浸水領域と非浸水領域を分離できる。
図5は、統計量計算部11が、ある郊外領域について歪度sを計算して作成した歪度マップ11Aを示す。
【0022】
図6は、領域拡張部12が図5の歪度マップ11Aにモフォロジー処理を施して生成し、歪度マップ11Bを作成した状態を示す。
【0023】
<ステップS02>
ステップS02において、領域拡張部12による非浸水領域拡張処理の動作を説明する。
領域拡張部12は、二値化画像(歪度マップ11A)にフィルター処理を施すことで、二値化画像における非浸水領域を拡張した歪度マップ11Bを作成する。以下に具体的に説明する。
非浸水領域の拡張処理では、領域拡張部15は、歪度マップ11Aを統計量計算部11から入力する。領域拡張部15は、非浸水領域(歪度s>0.7)を拡張する。領域拡張部15は、拡張処理に際して、例えば、オープニングやクロージングのモフォロジー処理を用いる。領域拡張部15の拡張処理によって、田畑の区画やあぜ道等の非浸水領域を圃場領域まで拡張し、近傍領域を一体に非浸水領域にできる。図6では、図5の歪度マップ11Aにモフォロジー処理を適用した歪度マップ11Bの例を示す。歪度マップ11Bは、歪度マップ11Aに、オープニングとクロージングとのモフォロジー処理を施している。点線のだ円で囲む範囲は、モフォロジー処理により、圃場領域における浸水領域の一部が非浸水領域に拡張されている。領域拡張部12は、歪度マップ11Bを郊外部の推定浸水域情報として出力する。領域拡張部12による拡張処理はオプションである。拡張処理は有った方が好ましいが必須ではない。
【0024】
<浸水領域抽出装置10の変形例>
図7は、浸水領域抽出装置10の変形例である浸水領域抽出装置10Aのブロック構成を示す。浸水領域抽出装置10Aは、統計量計算部11及び領域拡張部12に加え、確率分布計算部21、確率分布比較部22、領域分離部31、及び浸水領域推定部41を備えている。
図8は、浸水領域抽出装置10Aの動作を示すフローチャートである。図8を参照して浸水領域抽出装置10Aの動作を説明する。
【0025】
<ステップS11>
ステップS11において、確率分布計算部21は確率分布を計算する。
確率分布計算部21は、入力画像1のなかの複数の領域の領域(ウィンドウ)ごとに、領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度の第1確率分布を計算する。また確率分布計算部21は、入力画像2のなかの複数の領域の領域(ウィンドウ)ごとに、領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度の第2確率分布を計算する。確率分布比較部22は、第1確率分布と第2確率分布とを比較して確率分布比較結果を生成する。後述する浸水領域推定部41は、二値化画像(歪度マップ11Aあるいは歪度マップ11B)と、確率分布比較結果とに基づいて、入力画像2における浸水領域を推定する。
以下に具体的に説明する。
【0026】
図9は、ステップS11の確率分布計算処理を示す図である。確率分布計算部21は、SAR画像の入力画像1を入力し、ウィンドウ61の内部の画素の信号強度の分布を計算する。具体的にはウィンドウ61および後述のウィンドウ62の動きは、ウィンドウ51と同様であり、確率分布計算部21は、ウィンドウ61の位置iにおける信号強度の確率分布Piを、位置iごとに計算する。同様に、確率分布計算部21は、SAR画像である入力画像2を入力し、信号強度の確率分布Piをウィンドウ62の位置iごとに計算する。入力画像1と入力画像2は、相対的な位置合わせ、もしくは、地図上に投影されていることが望ましい。
【0027】
<ステップS12>
ステップS12の確率分布比較処理では、確率分布比較部22は、図9における確率分布1と確率分布2を比較する。確率分布1と確率分布2とは、同じ位置iである。確率分布比較部22は、比較の結果、確率分布における信号強度が一定以上(増加閾値以上)増加した位置iの領域を、強度増加信号領域と特定し、確率分布における信号強度が一定以上(減少閾値以上)減少した領域を、強度減少信号領域と特定する。確率分布1と確率分布との比較は、分布の最頻値の信号強度どうし、あるいは分布の平均の信号強度どうし、あるいは予め設定した確率に対応する信号強度どうしを比較することにより行う。
図10は、ヒストグラムの最頻値の信号強度X1とX2を比較して差分Δsを計算する例を示している。図10のような確率分布比較部22による比較により、強度増加信号領域及び強度減少信号領域を特定できる。
【0028】
<ステップS13>
ステップS13の都市郊外分離処理では、領域分離部31が領域を都市部と郊外部とに、分離する。
領域分離部31は、入力画像1に撮影されている地域と入力画像2に撮影されている地域との何れかを、地域における土地利用の状態が複数の種類に分類された土地利用分類データを用いて都市部と郊外部とに分離する。この分離により、領域分離部31は、入力画像2に撮影されている地域が都市部と郊外部との2領域に分離された2領域分離データを生成する。浸水領域推定部41は、この2領域分離データと、領域拡張部12の拡張した二値化画像(歪度マップ11B)と、確率分布比較部22の確率分布比較結果と、に基づいて、入力画像2における浸水領域を推定する。
以下に具体的に説明する。
【0029】
領域分離部31は、土地被覆情報と、ユーザが設定した設定情報を用いて、入力画像1あるいは入力画像2に対応する範囲を、都市領域と郊外領域との2つに分ける。土地被覆情報は、例えば、水域、都市、水田、畑、草地などに分類されている。
図11は、土地被覆情報の例を示す。図11は高解像度土地利用土地被覆図である(出典:https://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/jp/dataset/lulc_j.htm)。
浸水領域抽出装置10Aのユーザは、図11のような土地被覆情報のうち都市部に当てはまる分類を都市領域として領域分離部31に設定し、郊外部に当てはまる分類を郊外領域として領域分離部31に設定する。領域分離部31はユーザによる設定情報と、土地被覆情報とにより、入力画像1または入力画像2の範囲を都市部と郊外部とに分ける。
【0030】
<ステップS14及びステップS15>
ステップS14はステップS01に同じであり、ステップS15はステップS02に同じであるので説明は省略する。
【0031】
<ステップS16>
ステップS16の浸水有無判定処理では、浸水領域推定部41は、郊外領域と、強度減少信号領域と、歪度マップ11Aもしくは歪度マップ11Bとを用いて、浸水領域を推定する。郊外領域は領域分離部31によって郊外部と都市部に分離された情報における郊外部である。強度減少信号領域は、確率分布比較部22により特定された領域である。歪度マップ11Bは歪度マップ11Aを領域拡張部12によって拡張したマップである。浸水領域推定部41は、郊外領域に存在する強度減少信号領域のうち、歪度マップ11Bにおける浸水領域(黒色領域)のみを、最終的に、推定浸水域と特定する。
【0032】
浸水領域抽出装置10、10Aは、統計量計算部11及び領域拡張部12を備えている。よって、植生の季節変化等による信号強度の減少がある領域であっても、郊外部における浸水時の信号強度モデルに合致しない領域を除去し、浸水領域の過剰抽出を改善できる。
【0033】
また、浸水領域抽出装置10Aは、さらに、確率分布計算部21、確率分布比較部22、領域分離部31、浸水領域推定部41を備えている。よって、さらにきめ細かく、浸水領域を抽出できる。
【0034】
(ハードウェアの補足)
図12は、浸水領域抽出装置10Aのハードウェア構成を示す。図1の浸水領域抽出装置10のハードウェア構成も浸水領域抽出装置10Aと同様であるので、ハードウェア構成の説明は浸水領域抽出装置10Aを例として述べる。浸水領域抽出装置10Aはコンピュータである。浸水領域抽出装置10Aは、プロセッサ210を備える。浸水領域抽出装置10Aは、ハードウェアとして、プロセッサ210、主記憶装置220、補助記憶装置230、通信インタフェース240を備えている。プロセッサ210は、信号線270を介して、他のハードウェアと接続され、他のハードウェアを制御する。
【0035】
浸水領域抽出装置10Aは、機能要素として、統計量計算部11、領域拡張部12、確率分布計算部21,確率分布比較部22,領域分離部31及び浸水領域推定部41を備えている。これらの機能は、浸水領域抽出プログラム231により実現される。
【0036】
プロセッサ210は、浸水領域抽出プログラム231を実行する装置である。プロセッサ210が浸水領域抽出プログラム231を実行することで、統計量計算部11、領域拡張部12、確率分布計算部21,確率分布比較部22,領域分離部31及び浸水領域推定部41の機能が実現される。プロセッサ210は、演算処理を行うIC(Integrated Circuit)である。
【0037】
主記憶装置220の具体例は、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)である。主記憶装置220は、プロセッサ210の演算結果を保持する。
【0038】
補助記憶装置230は、データを不揮発的に保管する記憶装置である。補助記憶装置230の具体例は、HDD(Hard Disk Drive)である。補助記憶装置230は、可搬記録媒体であってもよい。補助記憶装置230は、浸水領域抽出プログラム231および各種データ232を記憶している。
【0039】
通信インタフェース240は、プロセッサ210が他の装置と通信するための通信ポートである。
【0040】
プロセッサ210は補助記憶装置230から浸水領域抽出プログラム231を主記憶装置220にロードする。プロセッサ210は、ロードされた浸水領域抽出プログラム231を主記憶装置220から読み込んで実行する。
【0041】
浸水領域抽出プログラム231は、統計量計算部11、領域拡張部12、確率分布計算部21,確率分布比較部22,領域分離部31及び浸水領域推定部41の「部」を「処理」、「手順」あるいは「工程」に読み替えた各処理、各手順あるいは各工程を、コンピュータに実行させるプログラムである。
【0042】
また、浸水領域抽出方法は、コンピュータである浸水領域抽出装置が浸水領域抽出プログラム231を実行することにより行われる方法である。浸水領域抽出プログラム231は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納されて提供されてもよいし、プログラムプロダクトとして提供されてもよい。
【0043】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
浸水発生後の地域の画像のなかの複数の領域の領域ごとに、前記領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度に基づく統計量を計算し、前記領域ごとに計算された前記統計量に基づいて、二値の一方である浸水領域と二値の他方である非浸水領域とが表された二値化画像を作成する統計量計算部、
を備える浸水領域抽出装置。
(付記2)
前記統計量計算部は、
前記統計量と比較するための閾値を保有していると共に、前記閾値を満足する前記統計量と、前記閾値を満足しない前記統計量とに分けることにより、前記二値化画像を作成する付記1に記載の浸水領域抽出装置。
(付記3)
前記浸水領域抽出装置は、さらに、
前記二値化画像にフィルター処理を施すことで、前記二値化画像における前記非浸水領域を拡張する領域拡張部、
を備える付記1または付記2に記載の浸水領域抽出装置。
(付記4)
前記統計量計算部は、
前記統計量として、歪度と尖度との少なくともいずれかを計算し、計算された両方あるいは一方に基づいて、前記二値化画像を作成する付記1から付記3のいずれか1項に記載の浸水領域抽出装置。
(付記5)
前記浸水領域抽出装置は、さらに、
浸水発生前の地域の第1画像のなかの複数の領域の領域ごとに、前記領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度の第1確率分布を計算し、浸水発生後の地域の前記画像のなかの複数の領域の領域ごとに、前記領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度の第2確率分布を計算する確率分布計算部と、
前記第1確率分布と前記第2確率分布とを比較して確率分布比較結果を生成する確率分布比較部と、
前記二値化画像と、前記確率分布比較結果とに基づいて、浸水発生後の地域の前記画像における浸水領域を推定する浸水領域推定部と、
を備える付記1から付記4のいずれか1項に記載の浸水領域抽出装置。
(付記6)
前記浸水領域抽出装置は、さらに、
浸水発生前の地域の前記画像に撮影されている地域と浸水発生後の地域の前記画像に撮影されている地域との何れかを、地域における土地利用の状態が複数の種類に分類された土地利用分類データを用いて都市部と郊外部とに分離することにより、浸水発生後の地域の前記画像に撮影されている前記地域が都市部と郊外部との2領域に分離された2領域分離データを生成する領域分離部を備え、
前記浸水領域推定部は、
前記二値化画像と、前記確率分布比較結果と、前記2領域分離データとに基づいて、前記浸水領域を推定する付記5に記載の浸水領域抽出装置。
(付記7)
コンピュータに、
浸水発生後の地域の画像のなかの複数の領域の領域ごとに、前記領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度に基づく統計量を計算し、前記領域ごとに計算された前記統計量に基づいて、二値の一方である浸水領域と二値の他方である非浸水領域とが表された二値化画像を作成する統計量計算処理、
を実行させる浸水領域抽出プログラム。
(付記8)
前記統計量計算処理は、
前記統計量と比較するための閾値を保有していると共に、前記閾値を満足する前記統計量と、前記閾値を満足しない前記統計量とに分けることにより、前記二値化画像を作成する付記7に記載の浸水領域抽出プログラム。
(付記9)
前記浸水領域抽出プログラムは、さらに、
前記二値化画像にフィルター処理を施すことで、前記二値化画像における前記非浸水領域を拡張する領域拡張処理、
を備える付記7または付記8に記載の浸水領域抽出プログラム。
(付記10)
前記統計量計算処理は、
前記統計量として、歪度と尖度との少なくともいずれかを計算し、計算された両方あるいは一方に基づいて、前記二値化画像を作成する付記7から付記9のいずれか1項に記載の浸水領域抽出プログラム。
(付記11)
前記浸水領域抽出プログラムは、さらに、
浸水発生前の地域の第1画像のなかの複数の領域の領域ごとに、前記領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度の第1確率分布を計算し、浸水発生後の地域の前記画像のなかの複数の領域の領域ごとに、前記領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度の第2確率分布を計算する確率分布計算処理と、
前記第1確率分布と前記第2確率分布とを比較して確率分布比較結果を生成する確率分布比較処理と、
前記二値化画像と、前記確率分布比較結果とに基づいて、浸水発生後の地域の前記画像における浸水領域を推定する浸水領域推定処理と、
を備える付記7から付記10のいずれか1項に記載の浸水領域抽出プログラム。
(付記12)
前記浸水領域抽出プログラムは、さらに、
浸水発生前の地域の前記画像に撮影されている地域と浸水発生後の地域の前記画像に撮影されている地域との何れかを、地域における土地利用の状態が複数の種類に分類された土地利用分類データを用いて都市部と郊外部とに分離することにより、浸水発生後の地域の前記画像に撮影されている前記地域が都市部と郊外部との2領域に分離された2領域分離データを生成する分離処理を備え、
前記浸水領域推定処理は、
前記二値化画像と、前記確率分布比較結果と、前記2領域分離データとに基づいて、前記浸水領域を推定する付記11に記載の浸水領域抽出プログラム。
(付記13)
コンピュータが、
浸水発生後の地域の画像のなかの複数の領域の領域ごとに、前記領域に含まれる複数の画素の各画素の信号強度に基づく統計量を計算し、前記領域ごとに計算された前記統計量に基づいて、二値の一方である浸水領域と二値の他方である非浸水領域とが表された二値化画像を作成する、
浸水領域抽出方法。
【0044】
以上、本開示の実施の形態について説明した。これらの実施の形態のうち、いくつかを組み合わせて実施してもよい。また、いずれか1つ又はいくつかを部分的に実施してもよい。なお、本開示は、以上の実施の形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0045】
10,10A 浸水領域抽出装置、11 統計量計算部、11A,11B 歪度マップ、12 領域拡張部、21 確率分布計算部、22 確率分布比較部、31 領域分離部、41 浸水領域推定部、51,52,53 ウィンドウ。
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図12