(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013697
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた放熱部材
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240125BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20240125BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/08
C08K3/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116005
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】大西 芳史
(72)【発明者】
【氏名】藤原 寛
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC031
4J002AC061
4J002BG011
4J002BG041
4J002DA027
4J002DA077
4J002DA087
4J002DA097
4J002DE077
4J002DE137
4J002DE147
4J002DF017
4J002DJ017
4J002DK007
4J002EH036
4J002EH046
4J002EH076
4J002EH156
4J002EP016
4J002EP026
4J002FD010
4J002FD017
4J002FD020
4J002FD030
4J002FD130
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD340
4J002GQ00
4J002GQ05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、ポンプアウトが発生せず、充分な熱対策が実現できる熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた放熱部材を提供する事を目的とする。
【解決手段】(A)成分:バインダーおよび(B)成分:熱伝導性充填材を含有し、(B)成分が平均粒径30μm未満の粒子であり、少なくともアルミニウム粒子および窒化アルミニウム粒子を含有し、熱伝導率が4W/m・K以上であり、(B)成分は、(B)成分の合計量100重量%に対して窒化アルミニウム粒子を10~40重量%含有することを特徴とする熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた放熱部材により達成できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:バインダーおよび(B)成分:熱伝導性充填材を含有し、(B)成分が平均粒径30μm未満の粒子であり、少なくともアルミニウム粒子および窒化アルミニウム粒子を含有し、熱伝導率が4W/m・K以上であり、
(B)成分は、(B)成分の合計量100重量%に対して窒化アルミニウム粒子を10~40重量%含有することを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
(B)成分の窒化アルミニウム粒子は平均粒径が5μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
(B)成分のアルミニウム粒子は平均粒径が1~3μmの粒子、および4~25μmの粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分の平均粒径1~3μmのアルミニウム粒子と平均粒径4~25μmのアルミニウム粒子の重量比が1/3~3/1であることを特徴とする請求項3に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
(A)成分が、相転移材を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物を含有する発熱体および/あるいは放熱体と一体化した放熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた放熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体モジュールは大量の熱を発生するため、放熱材料が広く使用されている。一方で更なる展開が見込まれている電気自動車や送電システムのインバータやコンバータ等で使用されるパワー半導体においては、半導体素子にシリコンが使用されているが、電力損失が大幅に低減できる、耐電圧が高い、及び高温駆動が可能な点でSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を使用する動きがあり、これらの材料に対応した放熱材料が求められる。
【0003】
その中でもTIM(熱界面材料)は、半導体モジュール全体の熱対策において重要な要素となっている。シートタイプのTIMは発熱部材や冷却部材の表面の凹凸に密着できずに接触熱抵抗が大きくなる問題がある。一方、ペーストタイプのTIMは薄く塗布ができ、表面の凹凸に追従できることにより接触熱抵抗が小さくなるが、発熱部材が加熱・冷却を繰り返すことで塗布したTIMが外部に漏出してしまう現象(本現象をポンプアウトと呼ぶ)が発生する課題がある。
【0004】
そのため、常温時に固体状であるため流動性が安定しており、モジュールの発熱による相変化で液状化して密着するシートタイプとペーストタイプの欠点を解消できる材料としてフェーズチェンジタイプが提案されているが、その主原料はシリコーン系であることが多く、分解生成物の低分子シロキサンがモジュール導電不良を引き起こすという問題がある(特許文献1)。
【0005】
また、窒化アルミニウム粒子とアルミニウム粒子を充填材として用いている例が報告されている(特許文献2~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6436035号公報
【特許文献2】特表2006-528434号公報
【特許文献3】特開2004-115596号公報
【特許文献4】特表2014-503680号公報
【特許文献5】WO2020/137970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、ポンプアウトが発生せず、充分な熱対策が実現できる熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた放熱部材を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ポンプアウトが発生せず、充分な熱対策が実現できる熱伝導性樹脂組成物を提供できることを見出し、本発明に至った。すなわち本発明は以下の構成をなす。
【0009】
1).(A)成分:バインダーおよび(B)成分:熱伝導性充填材を含有し、(B)成分が平均粒径30μm未満の粒子であり、少なくともアルミニウム粒子および窒化アルミニウム粒子を含有し、熱伝導率が4W/m・K以上であり、
(B)成分は、(B)成分の合計量100重量%に対して窒化アルミニウム粒子を10~40重量%含有することを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【0010】
2).(B)成分の窒化アルミニウム粒子は平均粒径が5μm以上であることを特徴とする1)に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0011】
3).(B)成分のアルミニウム粒子は平均粒径が1~3μmの粒子、および4~25μmの粒子を含有することを特徴とする1)または2)に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0012】
4).(B)成分の平均粒径1~3μmのアルミニウム粒子と平均粒径4~25μmのアルミニウム粒子の重量比が1/3~3/1であることを特徴とする3)に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0013】
5).(A)成分が、相転移材を含有することを特徴とする1)~4)のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0014】
6).1)~5)のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物を含有する発熱体および/あるいは放熱体と一体化した放熱部材。
【発明の効果】
【0015】
上記本発明に係る熱伝導性樹脂組成物は、ポンプアウトが生じにくい耐ポンプアウト性に優れ、高い熱伝導性を有するため、発熱体および/あるいは放熱体と一体化した放熱部材に好適な放熱用樹脂組成物として用いることができる。特に、SiCなどを使用した次世代半導体モジュールの有効な熱対策が実現できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について以下、説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の熱伝導性樹脂組成物は、(A)成分:バインダーおよび(B)成分:熱伝導性充填材を含有し、(B)成分が平均粒径30μm未満の粒子であり、少なくともアルミニウム粒子および窒化アルミニウム粒子を含有し、熱伝導率が4W/m・K以上であり、(B)成分は、(B)成分の合計量100重量%に対して窒化アルミニウム粒子を10~40重量%含有することを特徴とする。
以下各成分について説明する。
【0017】
(A)成分:バインダー
(A)成分は、相転移材を含むことが好ましい。
相転移材を選定することで、高温時に軟化して熱界面材料の役割を付与することが可能となる。前記相転移材の融点は特に限定されないが、40~100℃であり、40~80℃がより好ましく、45~65℃がさらに好ましい。40℃を下回ると組成物の取り扱いが困難になり、100℃を超えると組成物を熱界面材料として使用することが困難になる場合がある。
【0018】
相転移材は、官能基を有する炭素数1~100の脂肪族炭化水素化合物であることが好ましい。脂肪族炭化水素化合物は、飽和でも不飽和であってもよく、不飽和の場合、例えば不飽和結合(炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合)は、前記官能基と直接結合しない限り、脂肪族炭化水素化合物の任意の部位に結合又は置換していてもよい。また、脂肪族炭化水素化合物は、直鎖、分岐鎖、及び環状のいずれであってもよい。
【0019】
直鎖脂肪族炭化水素化合物としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、イコサン等の直鎖アルカン等が挙げられる。
【0020】
分岐鎖脂肪族炭化水素化合物としては、2,2-ジメチル-1,3-プロパン、2-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、4-メチルヘプタン、3-エチルヘキサン、2,2-ジメチルヘキサン、2,3-ジメチルヘキサン、2,4-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,3-ジメチルヘキサン、3,4-ジメチルヘキサン、2-メチル-3-エチルペンタン、3-メチル-3-エチルペンタン、2,3,3-トリメチルペンタン、2,3,4-トリメチルペンタン、2,3,3,3-テトラメチルブタン、2,2,5-トリメチルヘキサン等の分岐鎖アルカン等が挙げられる。
【0021】
環状脂肪族炭化水素化合物としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカン、シクロテトラデカン、シクロヘキサデカン、シクロヘプタデカン等;ノルボルナン、アダマンタン等のシクロアルカン等が挙げられる。
脂肪族炭化水素化合物の炭素数は、5~99であることが好ましく、10~98であることがより好ましく、12~97であることがさらに好ましく、22~96であることがさらにより好ましく、30~95であることが特に好ましい。
【0022】
官能基は、脂肪族炭化水素化合物に結合してもよく、脂肪族炭化水素化合物の一部で置換されていてもよく、水酸基、エステル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、アミド基、スルホニル基,イミノ基、エーテル基、カルバモイル基、シアノ基等であればよい。中でも、エステル基、アミノ基、カルボキシル基、アミド基が特に好ましく、エステル基、アミド基が最も好ましい。
【0023】
相転移材は、炭素数1~100の脂肪酸エステル又はアミドを含むことが特に好ましい。脂肪酸エステルは、例えば一価又は多価アルコールと脂肪酸との脱水縮合物であってもよく、上記脂肪族炭化水素化合物に1つ以上の水酸基が結合した化合物と脂肪酸との脱水縮合物であってもよい。
【0024】
脂肪酸エステルにおける脂肪酸は、飽和又は不飽和のいずれでもよい。
飽和脂肪酸としては、ブタン酸(酪酸)、ペンタン酸(吉草酸)、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸(エナント酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸(ベラルゴン酸)、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イコサン酸(アラキジン酸)、ヘニコシル酸、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラドコサン酸(リグノセリン酸)、ヘキサドコサン酸(セロチン酸)、オクタドコサン酸(モンタン酸)、メリシン酸等の炭素数4~30の飽和脂肪酸が挙げられる。
【0025】
不飽和脂肪酸としては、9-ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸)、cis-9-オクタデセン酸(オレイン酸)、11-オクタデセン酸(バクセン酸)、cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸(リノール酸)、9,12,15-オクタデカトリエン酸((9,12,15)-リノレン酸)、6,9,12-オクタデカトリエン酸((6,9,12)-リノレン酸)、9,11,13-オクタデカトリエン酸(エレオステアリン酸)、8,11-イコサジエン酸、5,8,11-イコサトリエン酸、5,8,11,14,-イコサテトラエン酸(アラキドン酸)、cis-15-テトラドコサン酸(ネルボン酸)等の炭素数4~30の不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0026】
これらの飽和又は不飽和の脂肪酸は、単独で又は複数を合わせて使用してもよい。
脂肪酸の炭素数は、好ましくは6~28、より好ましくは8~26、さらに好ましくは10~24、さらにより好ましくは12~22である。
【0027】
脂肪酸エステルは、モノエステル型脂肪酸エステル、ポリエステル型脂肪酸エステルのいずれであってもよい。モノエステル型脂肪酸エステルとしては、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸オクチル、ラウリン酸ラウリル、ベヘニン酸ベへニン、ミリスチン酸セチル等が挙げられる。
ポリエステル型脂肪酸エステルとしては、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0028】
中でも、脂肪酸エステルは、ポリエステル型脂肪酸エステルであることが好ましく、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルであることがより好ましく、ペンタエリスリトールに炭素数12~22の脂肪酸が脱水縮合したエステル化物であることがさらに好ましい。
脂肪酸アミドは、例えばアミン(例えばアンモニア、エチレンジアミン)と脂肪酸との脱水縮合物であればよい。
【0029】
脂肪酸アミドは、アミドが分子末端に存在するモノアミド、分子末端以外の部分がアミドに置換されたモノアミド又はジアミド、分子末端にメチロールアミドが結合したモノアミド等であればよい。脂肪酸アミドにおける脂肪酸は、飽和又は不飽和のいずれでもよく、脂肪酸エステルで説明した脂肪酸が挙げられる。
【0030】
モノアミドとしては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド;N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリル酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド等の置換不飽和脂肪酸アミド;メチロールステアリン酸アミド等のメチロールアミド;等が挙げられる。
【0031】
ジアミドとしては、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’-ジステアリルセバシン酸アミド等の飽和脂肪酸ビスアミド;エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジ゛オレイルアジピン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミド等の不飽和脂肪酸ビスアミド;等が挙げられる。
【0032】
中でも不飽和脂肪酸アミドが好ましく、不飽和脂肪酸モノアミドがより好ましく、オレイン酸アミドがさらに好ましい。
前記相転移材の種類としては、上記脂肪酸エステル、脂肪酸アミド以外に、パラフィンワックス等を挙げることができる。
【0033】
特に組成物に充分な耐熱性を付与できる点で、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドを少なくとも1種以上含有することが好ましい。
【0034】
相転移材は、熱伝導性樹脂組成物100重量%に対して、0.1~20重量%であることが相転移時の基材との密着性を向上させて熱伝導率を向上させることができるので好ましい。より好ましくは0.2~10重量%、さらに好ましくは0.5~5重量%含むことである。
【0035】
また(A)成分は、液状樹脂を含むことが好ましい。
液状樹脂を選定することで、無機充填剤を多量に含有させることが可能となる。前記液状樹脂の25℃における粘度は特に限定されないが、100Pa・s以下であり、90Pa・s以下がより好ましく、80Pa・s以下がさらに好ましい。100Pa・sを超えると組成物の各成分を均一に混錬することが困難になる場合がある。
【0036】
前記液状樹脂の種類としては、アクリル樹脂、ポリイソプレン、ポリブタジエン、脂肪酸エステル、多塩基酸エステル等を挙げることができる。
アクリル樹脂は、例えば両末端に反応性基を有するものであればよく、テレケリックポリアクリレート(カネカ製、SA100S、SA110S、SA120S、SA310S)等を用いてもよい。
【0037】
また別のアクリル樹脂は、例えば官能基を有さないアクリル樹脂であってもよく、東亞合成株式会社製のARUFON(登録商標)シリーズのアクリル樹脂(例えば、UP-1000、UP-1010、UP-1020、UP-1021、UP-1061、UP-1080、UP-1110、UP-1170、UP-1172、UP-1190、UP-1500)等を用いてもよい。
【0038】
脂肪酸エステルは、前記相転移材に挙げたもののうち、融点を満たさないものであってもよい。
【0039】
多塩基酸エステルは、1つ以上のカルボキシル基がエステル化された化合物であればよく、例えば置換されていてもよいグルタル酸エステル、置換されていてもよいピロメリット酸エステル、置換されていてもよいアジピン酸等を挙げることができる。置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基等の炭素数1~20の直鎖アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の分岐鎖アルキル基等が挙げられる。
【0040】
特に有機溶媒で溶解した際に適切な粘度を得られる点、及び容易に入手可能な点、印刷性の点で、少なくとも1種以上のアクリル樹脂を含有することが好ましい。液状樹脂は、熱伝導性樹脂組成物100重量%に対して、好ましくは0.5~40重量%、より好ましくは1~30重量%、さらに好ましくは5~20重量%含むことである。
【0041】
(B)成分:熱伝導性充填材
(B)成分は、熱伝導性充填材であり、少なくともアルミニウム粒子および窒化アルミニウム粒子を(B)成分の合計量100重量%に対して、10~40重量%含有する。熱伝導性充填材を含有することで、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率を向上することができる。アルミニウム粒子および窒化アルミニウム粒子の含有は、充填量を増やして熱伝導率を向上することができる傾向にあること、容易に入手可能な点で、好ましい。
【0042】
アルミニウム粒子および窒化アルミニウム粒子以外の熱伝導性充填材も熱伝導率が4W/m・K以上とできる範囲で使用することができる。アルミニウム粒子および窒化アルミニウム粒子以外の熱伝導性充填材の種類としては特に限定されないが、グラファイト、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド等の炭素化合物、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムおよび酸化亜鉛等の金属酸化物、窒化ホウ素、および窒化ケイ素等の金属窒化物、炭化ホウ素、炭化アルミニウムおよび炭化ケイ素等の金属炭化物、アクリロニトリル系ポリマー焼成物、フラン樹脂焼成物、クレゾール樹脂焼成物、ポリ塩化ビニル焼成物、砂糖の焼成物および木炭の焼成物等の有機性ポリマー焼成物、Znフェライトとの複合フェライト、Fe-Al-Si系三元合金、銅粒子、銀粒子、ニッケル粒子等の金属粒子、結晶性シリカ等を使用することができ、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。充填材の形状も特に限定されるものではなく、球状、板状(例えば鱗片状)、破砕状等を使用することができ、単独で又は2種以上組み合わせ使用することができる。球状の形状物は、熱伝導率、印刷性をバランスよく向上させることが可能である。他方、球状以外の形状物を用いると、熱伝導率をより一層高めることができる。
【0043】
また、熱伝導性充填材とバインダーとの分散性を向上させる目的で、予めシランカップリング剤、チタネートカップリング剤等の処理により熱伝導性充填材表面の修飾を施していても良い。
【0044】
(B)成分の配合量は、熱伝導性樹脂組成物100重量%に対して、75~95重量%とすることが好ましく、80~95重量%とすることがより好ましく、85~95重量%とすることがさらに好ましい。75重量%以上含有することでポンプアウト性向上および熱伝導率向上が見込める。
【0045】
(B)成分は、平均粒径30μm未満の粒子である。30μm未満の粒子を用いると、塗布厚みを薄くでき熱抵抗を低下させることができるので好ましい。本発明において、無機充填剤の平均粒径は、累積重量百分率の積算値50%の粒度、D50(メジアン径)として表す。
【0046】
(B)成分の窒化アルミニウム粒子は、(B)成分の合計量100重量%に対して、10~40重量%含有するが、10~35重量%含有することが好ましく、15~30重量%含有することがより好ましく、20~30重量%含有することがさらに好ましい。
【0047】
熱伝導率を向上することができる点で、(B)成分の窒化アルミニウム粒子は平均粒径が5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、塗布厚みを薄くでき熱抵抗を低下させることができる点で、30μm未満であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましい。
【0048】
(B)成分のアルミニウム粒子は平均粒径が1~3μmの粒子、および4~25μmの粒子を含有することが、熱伝導率を向上することができる点で好ましい。
【0049】
(B)成分の平均粒径1~3μmのアルミニウム粒子と平均粒径4~25μmのアルミニウム粒子の重量比は、1/3~3/1であることがポンプアウト性と熱伝導率を両立する上で好ましく、1/3~2/1であることがより好ましく、1/2~2/1であることがさらに好ましい。また、窒化アルミニウムの形状は、通常異形であるため、アルミニウム粒子の形状は、球形であることが、粘性制御の観点で好ましい。
【0050】
(C)その他成分
上記(A)~(B)成分のほかに、必要に応じて(A)成分以外の樹脂、熱老化防止剤、可塑剤、増量剤、チクソ性付与剤、接着性付与剤、脱水剤、カップリング剤、難燃剤、充填剤、溶剤等を添加することができる。
【0051】
本発明の熱伝導性樹脂組成物の各成分を均一に混錬させる方法は、特に限定されない。あらかじめ室温で成分を混錬させたのち常温で攪拌混錬することも、加熱ロール、ニーダー、押出機等により溶融混錬することもできる。混錬温度としては樹脂の熱老化が起こらない温度であれば特に限定されず、120℃以下であることが好ましい。
【0052】
本発明の熱伝導性樹脂組成物をスクリーン印刷する際の有機溶媒は、印刷したのち120℃以下での乾燥時に揮発するものであれば特に限定されず、ドデカン、テトラデカン等を使用することができる。有機溶媒量としてはスクリーン印刷した際にパターン間に滲みが起こらない量であれば特に限定されず、組成物100重量%に対して10重量%以下であることが好ましい。
【0053】
本発明の熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率(23℃)は、熱源からの熱を効率良く伝えるために4W/m・K以上である。本願発明における熱伝導率は、ホットディスク法熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製TPS2500S)により測定することができる。
【0054】
本願発明においては60℃で熱伝導性樹脂組成物の粘度を測定した場合の粘度を、60℃粘度と定義する。本願発明の60℃粘度は、500Pa・s以上であることがポンプアウトを低減できるので好ましい。より好ましくは550Pa・s以上、さらに好ましくは600Pa・s以上である。粘度は、例えば粘度計(東機産業株式会社製TVE-22H)により測定することができる。
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、熱により相転移、軟化して基材に密着し、熱抵抗が小さくなり、充分な熱対策を実現できる点で、特に半導体モジュールの放熱部材に好適である。
【実施例0055】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
<熱伝導率測定>
本実施例に示す熱伝導率は以下に示す分析装置および測定条件で測定した。
得られた組成物(試験片の大きさ10×10×6.5mm)を、ホットディスク法熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製TPS2500S)により23℃において熱伝導率を測定した。
【0056】
<60℃粘度測定>
本実施例に示す粘度は以下に示す分析装置および測定条件で測定した。
得られた組成物を、粘度計(東機産業株式会社製TVE-22H)内で60℃に加温した状態で粘度を測定した。具体的には、組成物を60℃に加温した状態でコーンロータ3°×R7.7、回転速度1rpmにおいてコーンロータを1分間回転させた後の値を読み取り60℃粘度を測定した。
【0057】
(実施例1)
(A)成分:バインダー
脂肪酸エステル(日油株式会社製ユニスター H-476D) 0.9重量部
アクリル樹脂(東亞合成株式会社製ARUFON UP-1172) 7.9重量部
(B)成分:熱伝導性充填材
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A02P 平均粒径2μm) 27.2重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A10P 平均粒径10μm) 12.2重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A20P 平均粒径20μm) 28.6重量部
窒化アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFZ-S20P 平均粒径20μm) 23.1重量部
上記成分を100℃にて加熱溶融させたのち混錬し、均一な組成物を得た。
【0058】
(実施例2)
(A)成分:バインダー
脂肪酸エステル(日油株式会社製ユニスター H-476D) 1.0重量部
アクリル樹脂(東亞合成株式会社製ARUFON UP-1172) 8.7重量部
(B)成分:熱伝導性充填材
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A02P 平均粒径2μm) 30.0重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A10P 平均粒径10μm) 13.5重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A20P 平均粒径20μm) 31.5重量部
窒化アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFZ-N10P 平均粒径10μm) 15.3重量部
上記成分を実施例1と同様の方法で組成物を作製した。
【0059】
(実施例3)
(A)成分:バインダー
脂肪酸エステル(日油株式会社製ユニスター H-476D) 1.0重量部
アクリル樹脂(東亞合成株式会社製ARUFON UP-1172) 8.2重量部
(B)成分:熱伝導性充填材
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A02P 平均粒径2μm) 28.4重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A10P 平均粒径10μm) 12.7重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A20P 平均粒径20μm) 29.8重量部
窒化アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFZ-N15P 平均粒径15μm) 20.0重量部
上記成分を実施例1と同様の方法で組成物を作製した。
【0060】
(比較例1)
(A)成分:バインダー
脂肪酸エステル(日油株式会社製ユニスター H-476D) 1.2重量部
アクリル樹脂(東亞合成株式会社製ARUFON UP-1172) 10.2重量部
(B)成分:熱伝導性充填材
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A02P 平均粒径2μm) 35.4重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A10P 平均粒径10μm) 15.9重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A20P 平均粒径20μm) 37.2重量部
上記成分を実施例1と同様の方法で組成物を作製した。
実施例1~3および比較例1で製造した組成物の各種特性を測定した。結果を表1に示す。なお、60℃粘度が500Pa・s以上である実施例1~3はポンプアウトも発生せず良好であったが、60℃粘度が500Pa・s未満である比較例1はポンプアウトが発生し不良であった。
【0061】