(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136981
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】エンジンの始動制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/06 20060101AFI20240927BHJP
B60K 6/24 20071001ALI20240927BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20240927BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20240927BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20240927BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240927BHJP
B60W 20/40 20160101ALI20240927BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20240927BHJP
F16D 48/02 20060101ALI20240927BHJP
F16D 25/12 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F02D41/06 ZHV
B60K6/24
B60K6/48
B60K6/54
B60W10/02 900
B60W10/06 900
B60W20/40
B60L50/16
F16D48/02 640A
F16D25/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048308
(22)【出願日】2023-03-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)販売日:令和4年5月23日から現在まで (2)販売した場所:欧州(欧州においてマツダ車を取り扱う販売店)
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】山川 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】菅野 宏
(72)【発明者】
【氏名】谷村 兼次
(72)【発明者】
【氏名】小林 徹
(72)【発明者】
【氏名】松原 武史
(72)【発明者】
【氏名】志茂 大輔
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 正浩
【テーマコード(参考)】
3D202
3G301
3J057
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB05
3D202BB37
3D202BB64
3D202CC42
3D202DD16
3D202DD18
3D202DD20
3D202DD40
3D202EE01
3D202FF04
3D202FF13
3G301JA04
3G301KA01
3G301MA11
3G301MA24
3G301PA17Z
3G301PE01Z
3G301PF03Z
3J057GA01
3J057GB02
3J057GB04
3J057GB19
3J057GB22
3J057GE05
3J057GE07
3J057HH01
3J057JJ01
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BD17
5H125CA02
5H125DD05
5H125EE31
5H125EE42
(57)【要約】
【課題】トルクショックを抑制しつつエンジンを早期に始動させることのできるエンジンの始動制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンと、モータと、エンジンとモータとを断接可能に接続するクラッチと、モータの駆動中且つクラッチの切断中に所定のエンジン始動条件が成立するとクラッチの接続を開始する始動制御部とを設ける。クラッチの接続を開始してからエンジンの回転数が所定の判定回転数に到達するまでの始動期間において、当該始動期間の初期にのみ気筒に燃料が供給されて、始動期間の後期では気筒への燃料供給が停止されるように、燃料供給手段を制御する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンが往復動可能に収容された気筒と当該気筒に燃料を供給する燃料供給手段とを有するエンジンの始動を制御する装置であって、
モータと、
前記エンジンと前記モータとを断接可能に接続するクラッチと、
前記モータの駆動中且つ前記クラッチの切断中に所定のエンジン始動条件が成立すると前記クラッチの接続を開始する始動制御部とを備え、
前記クラッチの接続を開始してから前記エンジンの回転数が所定の判定回転数に到達するまでの始動期間において、前記始動制御部は、前記始動期間の初期にのみ前記気筒に燃料が供給されて、前記始動期間の後期では前記気筒への燃料供給が停止されるように、前記燃料供給手段を制御する、ことを特徴とするエンジンの始動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの始動制御装置において、
前記エンジンは複数の前記気筒を有し、
前記始動制御部は、前記始動期間中において、ピストンが吸気行程の後半または圧縮行程の前半の位置で停止している特定の気筒にのみ燃料が供給され、且つ、当該燃料供給が前記特定の気筒の最初の圧縮行程中に行われるように前記燃料供給手段を制御する、ことを特徴とするエンジンの始動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンの始動制御装置において、
前記エンジンは6つの前記気筒を有し、
前記特定の気筒は、前記始動期間中に2番目に圧縮上死点を迎える気筒である、ことを特徴とするエンジンの始動制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジンの始動制御装置において、
前記始動制御部は、前記特定の気筒のピストンの停止位置が所定の判定位置よりも進角側のときは、遅角側のときよりも、前記始動期間中に前記モータから前記エンジンに伝達されるトルクが大きくなるように前記クラッチを制御する、ことを特徴とするエンジンの始動制御装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のエンジンの始動制御装置において、
前記始動制御部は、前記エンジンと前記モータの合計出力の要求値が所定の値よりも高いときは、前記始動期間の初期および後期の双方で前記気筒に燃料が供給されるように、前記燃料供給手段を制御する、ことを特徴とするエンジンの始動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンの始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるように、エンジンとモータとを備え、これらエンジンとモータとがクラッチによって断接可能に接続された車両が知られている。また、このような車両では、モータの駆動中にクラッチを接続してモータのトルクをエンジンに伝達することでエンジンを始動させることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように駆動中のモータのトルクをエンジンに伝達することでエンジンを始動させる場合において、モータのトルクのみでエンジンを始動させるとエンジンの始動時間が長くなる。具体的に、この場合はクラッチを徐々に接続していくことになるため、モータからエンジンに伝達されるトルクの増加速度が小さく抑えられてエンジン回転数の上昇速度が低く抑えられる。これに対して、モータのトルクをエンジンに伝達しつつエンジンでの燃焼を開始すれば、エンジン回転数の上昇速度を高めることができる。しかしながら、単に、モータからエンジンへのトルク伝達とエンジンでの燃焼とを同時に行ったのでは、エンジンの回転数が過度に上昇してしまいトルクショックが生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、トルクショックを抑制しつつエンジンを早期に始動させることのできるエンジンの始動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ピストンが往復動可能に収容された気筒と当該気筒に燃料を供給する燃料供給手段とを有するエンジンの始動を制御する装置であって、モータと、前記エンジンと前記モータとを断接可能に接続するクラッチと、前記モータの駆動中且つ前記クラッチの切断中に所定のエンジン始動条件が成立すると前記クラッチの接続を開始する始動制御部とを備え、前記クラッチの接続を開始してから前記エンジンの回転数が所定の判定回転数に到達するまでの始動期間において、前記始動制御部は、前記始動期間の初期にのみ前記気筒に燃料が供給されて、前記始動期間の後期では前記気筒への燃料供給が停止されるように、前記燃料供給手段を制御する、ことを特徴とするエンジンの始動制御装置提供する。
【0007】
本発明のエンジンの始動制御装置では、モータの駆動中且つクラッチの切断中にエンジン始動条件が成立すると、クラッチの接続が開始される。そのため、モータのトルクをエンジンに伝達してエンジンの回転を開始させることができる。しかも、この装置では、クラッチの接続を開始してからエンジンの回転数が所定の判定回転数に到達するまでの始動期間において、その初期にのみ気筒内に燃料が供給され、その後期には気筒への燃料供給が停止される。そのため、始動期間の初期であってエンジン回転数がモータ回転数に対して十分に小さいときには、モータから伝達されるトルクと気筒で生成される燃焼エネルギーとによってエンジン回転数を早期に上昇させることができる。そして、始動期間の後期であって、エンジン回転数がモータ回転数に近づいたときには、エンジン回転数の上昇を抑制することができる。従って、エンジンの始動時間、つまり、クラッチの接続を開始してからエンジン回転数が判定回転数に到達するまでの時間を短く抑えつつ、エンジン回転数がモータ回転数を超えるのを抑制してトルクショックの発生を抑制できる。
【0008】
上記構成において、好ましくは、前記エンジンは複数の前記気筒を有し、前記始動制御部は、前記始動期間中において、ピストンが吸気行程の後半または圧縮行程の前半の位置で停止している特定の気筒にのみ燃料が供給され、且つ、当該燃料供給が前記特定の気筒の最初の圧縮行程中に行われるように前記燃料供給手段を制御する(請求項2)。
【0009】
この構成では、ピストンが吸気行程の後半または圧縮行程の前半で停止しており最初の圧縮行程で混合気が十分に圧縮されて燃焼しやすい気筒に燃料が供給されることから、始動期間の比較的早いタイミングでより確実に燃焼エネルギーを得ることができる。これより、始動期間の初期にエンジン回転数の上昇速度をより確実に高めることができる。
【0010】
上記構成において、好ましくは、前記エンジンは6つの前記気筒を有し、前記特定の気筒は、前記始動期間中に2番目に圧縮上死点を迎える気筒である(請求項3)。
【0011】
この構成によれば、1番目ではなく2番目に圧縮上死点を迎える気筒であって、圧縮時間が長く、これにより混合気がより燃焼しやすい気筒に燃料が供給されるため、当該気筒で確実に混合気を燃焼させることができる。
【0012】
上記構成において、好ましくは、前記始動制御部は、前記特定の気筒のピストンの停止位置が所定の判定位置よりも進角側のときは、遅角側のときよりも、前記始動期間中に前記モータから前記エンジンに伝達されるトルクが大きくなるように前記クラッチを制御する(請求項4)。
【0013】
この構成では、特定の気筒のピストンが圧縮上死点に到達するまでのクランク角であって当該気筒で燃焼エネルギーが生成されるまでのクランク期間が長いときは、モータからエンジンに伝達されるトルクが大きくされてエンジン回転数の上昇速度が高められる。そのため、燃焼エネルギーが得られるまでのクランク期間が長いときに、エンジンの回転数が判定回転数に到達するまでの時間つまりエンジンの始動時間が長くなるのを抑制できる。また、燃焼エネルギーが得られるまでのクランク期間が短いときには、モータからエンジンに伝達されるトルクを小さく抑えることができる。
【0014】
上記構成において、好ましくは、前記始動制御部は、前記エンジンと前記モータの合計出力の要求値が所定の値よりも高いときは、前記始動期間の初期および後期の双方で前記気筒に燃料が供給されるように、前記燃料供給手段を制御する(請求項5)。
【0015】
この構成では、エンジンとモータの合計出力の要求値が所定の値よりも高いとき、つまり、当該エンジンおよびモータが搭載される車両の加速時のように利用者がトルクショックを感じにくいときには、始動期間の初期および後期の双方で燃焼エネルギーによってエンジンの回転が促進される。そのため、トルクショックが利用者に与える影響を小さく抑えつつエンジンの始動時間を短くできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の始動制御装置によれば、トルクショックを抑制しつつエンジンを早期に始動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るエンジンの始動制御装置が適用された車両の概略的な構成を示すブロック図である。
【
図3】エンジンの制御系統を示すブロック図である。
【
図4】目標停止範囲に対応する停止時圧縮行程気筒、停止時圧縮移行気筒および停止時膨張行程気筒の各停止位置を示した図である。
【
図5】エンジン始動時の制御を示すフローチャートである。
【
図6】気筒の停止位置と目標クラッチトルクとの関係を示したグラフである。
【
図7】クランク角とクラッチトルクとの関係を示したグラフである。
【
図8】要求出力が判定出力よりも大きい場合におけるエンジン始動時の各パラメータの変化を模式的に示した図である。
【
図9】要求出力が判定出力以下の場合におけるエンジン始動時の各パラメータの変化を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の一形態について説明する。
【0019】
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係るエンジンの始動制御装置が適用されるエンジンEを搭載した車両100の概略構成図である。本実施形態では、車両100は、エンジンEとモータMとを車両100(車輪101)の駆動源として備えるハイブリッド車両である。モータMは、例えば三相交流同期型モータジェネレータである。なお、本発明の「始動制御装置」は、車両100のうち少なくとも、モータM、クラッチ102および後述するコントローラ200を含む装置である。
【0020】
図1に示すように、車両100は、車輪101、エンジンEおよびモータMに加えて、クラッチ102、モータMとの間で電力の授受を行うバッテリ103、モータMに連結された変速機104、車輪101に連結されたドライブシャフト106、デファレンシャルギア等を含み変速機104とドライブシャフト106とを連結する動力伝達装置105とを備える。
【0021】
クラッチ102は、エンジンEとモータMとを断接可能に接続する。詳細には、クラッチ102は、エンジンEの出力軸である後述するクランク軸7とモータMの回転軸(ロータ軸、不図示)とを断接可能に連結する。クラッチ102は、エンジンEとモータMとの状態を、これらの間でトルクが伝達される接続状態と、トルクが伝達されない遮断状態との間で切り替える。詳細には、クラッチ102が接続されると、エンジンEとモータMとの状態がこれらの間でトルクが伝達される接続状態となり、クラッチ102が切断(開放)されると、エンジンEとモータMの状態がこれらの間でトルクが伝達されない遮断状態となる。本実施形態では、クラッチ102は、油圧式であり、エンジンEと一体に回転するフライホイール(不図示)とモータMと一体に回転するクラッチディスク(不図示)と、これらを接離する方向に駆動する油圧ポンプ(不図示)とを備える。
【0022】
クラッチ102を介してのモータMとエンジンE(クランク軸)との間でのトルク伝達が可能であることから、モータMが駆動中である一方エンジンEが停止しており、且つ、クラッチ102が切断されている状態でクラッチ102の接続が開始されると、エンジンE(クランク軸)は回転を開始する。
【0023】
変速機104は、入力された回転を変速して出力する。例えば、変速機104としては、前進6速、後退1速の変速機が用いられる。変速機104の出力軸は、動力伝達装置105およびドライブシャフト106等を介して車輪101に接続されており、変速機104に入力された回転力は車輪101に伝達される。
【0024】
上記の構成に伴い、車両100は、モータMの駆動力のみによる走行するモータモードと、モータMとエンジンEの双方の駆動力により走行する併用モードと、エンジンEの駆動力のみにより走行するエンジンモードの3つのモードでの走行が可能である。具体的に、クラッチ102が切断された状態では、モータMの駆動力のみが車輪101に伝達される。一方、クラッチ102が接続された状態で、且つ、モータMが駆動力を発生しない場合(モータMへの電力供給が遮断される場合)には、エンジンEの駆動力のみが変速機104等を介して車輪101に付与される。また、クラッチ102が接続された状態で、且つ、モータMが駆動力を発生している場合は、エンジンEおよびモータMの出力が変速機104等を介して車輪101に付与される。また、本実施形態の車両100は減速回生が可能な車両であり、モータMは、車両100の減速時に車輪101から伝達される回転力によって発電するようになっている。なお、このとき、車輪101には、モータMが発電する電力に応じた制動力が作用する。
【0025】
(エンジン構成)
図2は、エンジンEの概略構成図である。エンジンEは、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40を備える。本実施形態のエンジンEは、4サイクルのディーゼルエンジンであり、軽油を主成分とする燃料の供給を受けて駆動する。
【0026】
エンジン本体1は、気筒2が形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3を覆うシリンダヘッド4とを有する。本実施形態のエンジンEは、直列6気筒エンジンであり、エンジン本体1(詳細にはシリンダブロック3)には、
図2の紙面と直交する方向に沿って一列に並ぶ6つの気筒2が形成されている。
【0027】
各気筒2にはそれぞれピストン5が往復摺動可能に収容されている。各気筒2内のピストン5の上方には燃焼室6が区画されている。各ピストン5はコネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されている。各ピストン5の往復運動に応じて、クランク軸7はその中心軸回りに回転する。シリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度つまりクランク角ひいてはエンジン回転数を検出するためのクランク角センサSN1が設けられている。
【0028】
シリンダヘッド4には、気筒2(燃焼室6)内に燃料を噴射するインジェクタ15が、各気筒2につき1つずつ取り付けられている。ピストン5は、供給された燃料と空気との混合気が燃焼室6で燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられることで往復運動する。インジェクタ15は、本発明の「燃料供給手段」に相当する。
【0029】
シリンダヘッド4には、各気筒2(燃焼室6)に吸気を導入するための吸気ポート9と、吸気ポート9を開閉する吸気弁11と、各気筒2(燃焼室6)で生成された排気ガスを導出するための排気ポート10と、排気ポート10を開閉する排気弁12とが、各気筒2に対応してそれぞれ設けられている。
【0030】
上記のようにエンジンEは4サイクルエンジンである。これより、各気筒2では、吸気行程→圧縮行程→膨張行程→排気行程がこの順で連続して実施される。また、エンジンEは直列6気筒エンジンである。これより、各気筒2に設けられたピストン5は120°CA(クランク角度で120度)の位相差をもって往復動するとともに、120°CA毎に6つの気筒2で順に燃焼が行われることになる。
【0031】
ここで、本明細書でいう吸気、圧縮、膨張、排気行程は、1燃焼サイクルつまりクランク軸7が2回転する期間(360°CA)をクランク角度で4等分した期間であってそれぞれ吸気、圧縮、膨張、排気が主として行われる期間のことを指す。具体的に、本明細書でいう吸気行程は、吸気弁11が実際に開弁を開始してから閉弁するまでの期間ではなく、ピストン5が排気上死点と吸気下死点との間に位置する期間を指す。また、圧縮行程は、ピストン5が吸気下死点と圧縮上死点との間に位置する期間を指す。また、膨張行程は、ピストン5が圧縮上死点と膨張下死点との間に位置する期間を指す。また、排気行程は、ピストン5が膨張下死点と排気上死点との間に位置する期間を指す。また、本明細書では、ピストン5が吸気下死点から吸気下死点前90°CAまでの範囲に位置する期間を吸気行程の後半といい、ピストン5が吸気下死点から吸気下死点後90°CAまでの範囲に位置する期間を圧縮行程の前半という。
【0032】
なお、圧縮上死点TDCとは、ピストン5の往復動範囲のうちの最も上側(シリンダヘッド4に近い側)となる位置であって、吸気弁11の閉弁後且つ排気弁12の開弁前にピストン5が到達する位置である。そして、膨張下死点、排気上死点、吸気下死点は、それぞれ、ピストン5が圧縮上死点TDCにある状態からクランク軸7が180°CA、360°CA、540°CA正回転したときのピストン5の位置である。
【0033】
各気筒2の吸気弁11はシリンダヘッド4に配設された吸気カム軸を含む吸気動弁機構13によって駆動される。同様に、各気筒2の排気弁12はシリンダヘッド4に配設された排気カム軸を含む排気動弁機構14によって駆動される。吸気動弁機構13には、クランク軸7の位相(回転位相)に対する吸気カム軸の位相を変更する吸気SVT13aが内蔵されている。吸気SVT13aは、吸気弁11のリフト量および開弁期間を一定に維持したまま吸気弁11の開弁時期および閉弁時期を同量ずつ変更する。また、排気動弁機構14にも、クランク軸7の位相(回転位相)に対する排気カム軸の位相を変更する排気SVT14aが内蔵されている。排気SVT14aは、排気弁12のリフト量および開弁期間を一定に維持したまま排気弁12の開弁時期および閉弁時期を同量ずつ変更する。シリンダヘッド4には、吸気カム軸の回転角度を検出するための吸気カム角センサSN2が取り付けられている。
【0034】
吸気通路30は、各気筒2の吸気ポート9と連通する状態でエンジン本体1に連結されている。吸気通路30には、その流路を開閉して、吸気通路30を通って気筒2(燃焼室6)に流入する吸気(空気)の量を調整可能なスロットル弁31が設けられている。
【0035】
排気通路40は、各気筒2の排気ポート10と連通する状態でエンジン本体1に連結されている。図示は省略するが、排気通路40には内側を通過する排気ガスを浄化するための浄化装置等が設けられている。
【0036】
(制御系統)
図3は、車両100の制御系統を示すブロック図である。
図3に示したコントローラ200は、車両100を統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
【0037】
コントローラ200には、上記のセンサSN1,SN2を含む車両100に搭載された各種センサからの検出信号が逐次入力される。また、車両100には、アクセルペダルの踏み込み量であるアクセル開度を検出するアクセル開度センサSN3が設けられており、アクセル開度センサSN3からの検出信号もコントローラ200に入力される。コントローラ200は、各センサSN1~SN3等から入力された情報に基づいて種々の判定や演算等を実施する。例えば、コントローラ200は、クランク角センサSN1の検出信号と吸気カム角センサSN2の検出信号とに基づいて、どの気筒が何行程にあるのかを判別する。また、コントローラ200は、アクセル開度センサSN3によって検出されたアクセル開度に基づいて車両100に要求される加速度である要求加速度を算出する。そして、コントローラ200は、演算の結果等に基づいて、吸気SVT13a、インジェクタ15、スロットル弁31等のエンジンEの各部にそれぞれ制御用の信号を出力するとともに、クラッチ102等の車両100の各部にも制御用の信号を出力する。例えば、コントローラ200は、各気筒2内にその圧縮行程中に燃料が噴射されるようにインジェクタ15を制御する。
【0038】
コントローラ200は、所定のプログラムが実施されることで、機能的に、停止制御部201と、始動制御部202とを具備するように動作する。
【0039】
(停止制御部)
停止制御部201は、エンジンEを停止する条件として予め設定されたエンジン停止条件が成立すると、次の制御を実施する。
【0040】
停止制御部201は、エンジン停止条件が成立すると、インジェクタ15から各気筒2への燃料噴射を停止する燃料カットを実施する。燃料カットの実施に伴ってエンジン回転数は低下していく。停止制御部201は、燃料カットの実施後、スロットル弁31を全閉に向けて閉弁させていく。また、停止制御部201は、吸気SVT13aを駆動して、吸気閉弁時期を、最も遅角側の時期(吸気閉弁時期がとり得る時期のうち最も遅角側の時期)にする。具体的に、停止制御部201は、スロットル弁31を全閉にした後、エンジン回転数が所定の回転数に低下するのを待って、吸気閉弁時期を最遅角時期に向けて遅角させていく。そして、停止制御部201は、エンジンEが停止するとクラッチ102を切断する。
【0041】
また、停止制御部201は、吸気閉弁時期の最遅角時期への遅角を開始した後、各気筒2のピストン5の位置を所定の目標停止範囲内にするためにスロットル弁31の開度を調整する。
【0042】
以下では、適宜、気筒2のピストン5の位置を気筒2の位置という。また、エンジンEの停止時、詳細には、エンジン回転数が0であってエンジンEが完全に停止しているときの行程が圧縮行程で、且つ、気筒2(ピストン5)の位置が圧縮行程の後半つまり圧縮上死点(TDC)から圧縮上死点前(BTDC)90°CAの範囲にある気筒を停止時圧縮行程気筒といい、燃焼順序が停止時圧縮行程気筒の1つ後の気筒を停止時圧縮移行気筒といい、燃焼順序が停止時圧縮行程気筒の1つ前の気筒を停止時膨張気筒という。
【0043】
上記の目標停止範囲は、停止時圧縮移行気筒の位置が吸気行程の後半あるいは圧縮行程の前半となる範囲に設定されている。本実施形態では、上記の目標停止範囲は
図4に示すように設定されている。
図4は、目標停止範囲に対応する停止時圧縮行程気筒、停止時圧縮移行気筒および停止時膨張行程気筒の各停止位置を示した図である。
図4では、円の最上点を上死点(TDC)、最下点を下死点(BDC)とし、時計回りに進むほどピストン5の位置が遅角側になるように各気筒2の位置(各気筒2のピストン5の位置)を示している。
図4に示すように、上記の目標停止範囲は、停止時圧縮行程気筒の位置でいうと、圧縮上死点前75°CA(
図4のP1の位置)から圧縮上死点前40°CA(
図4のP2の位置)の範囲A1に設定されている。これより、本実施形態では、停止制御部201は、停止時圧縮行程気筒の位置が圧縮上死点前75°CAから圧縮上死点前40°CAの範囲A1内の位置となり、停止時圧縮移行気筒の位置が吸気下死点前15°CA(
図4のP3の位置)から吸気下死点後20°CA(
図4のP4の位置)の範囲A2内の位置となり、停止時膨張行程気筒の位置が圧縮上死点後45°CA(
図4のP5の位置)から圧縮上死点後80°CA(
図4のP6の位置)の範囲A3内の位置となるように、スロットル弁31の開度を調整する。
【0044】
上記の制御により、エンジンEが始動されるときには、最初に、停止時圧縮行程気筒が圧縮上死点を迎える。つまり、停止時圧縮行程気筒のピストン5が最初に圧縮上死点を通過する。そして、その後、燃焼順に各気筒が圧縮上死点を迎える。以下では、適宜、エンジンEの始動時においてエンジンEの回転開始後に〇番目に圧縮上死点を迎える気筒を、〇圧縮目の気筒という。例えば、停止時圧縮行程気筒を1圧縮目の気筒といい、これの次に圧縮上死点を迎える停止時圧縮移行気筒を2圧縮目の気筒という。
【0045】
(始動制御部)
始動制御部202は、モータMが駆動中である一方エンジンEが停止しており、且つ、クラッチ102が切断されている状態で、予め設定されたエンジン始動条件が成立すると、エンジンEを始動させるための制御を実施する。以下では、モータMが駆動中である一方エンジンEが停止しており、且つ、クラッチ102が切断されている状態を、適宜、モータ単体駆動状態という。モータ単体駆動状態でエンジン始動条件が成立したときにコントローラ200(主として始動制御部202)により実施される制御の手順を
図5のフローチャートを用いて説明する。
【0046】
まず、始動制御部202は、モータ単体駆動状態でエンジン始動条件が成立したか否かを判定する(ステップS1)。この判定がNOであってモータ単体駆動状態ではない、あるいは、エンジン始動条件が成立していない場合は、始動制御部202は、以下の制御を実施することなく、ステップS1を繰り返す。
【0047】
一方、ステップS1の判定がYESであってモータ単体駆動状態でエンジン始動条件が成立した場合、始動制御部202は、車両100の駆動源であるエンジンEとモータMの合計出力に対する要求値である要求出力が所定の判定出力よりも大きいか否かを判定する(ステップS2)。ここで、要求出力が大きくなるのは車両100の加速時であって車両100に対する要求加速度が高いときである。これより、始動制御部202は、アクセル開度センサSN3により検出されたアクセル開度に基づいてステップS2の判定を行う。具体的に、始動制御部202は、アクセル開度が所定の値よりも大きい、または、アクセル開度の増加速度が所定の値よりも大きい場合に、要求出力が判定出力よりも大きいと判定する。なお、判定に用いる上記の各値は予め設定されて始動制御部202に記憶されている。
【0048】
ステップS2の判定がYESであって要求出力が判定出力よりも大きい場合、つまり、車両100に対する要求加速度が高い場合は、始動制御部202は、ステップS21~ステップS26を実施する。この制御については後述する。
【0049】
一方、ステップS2の判定がNOであって要求出力が判定出力以下である場合、つまり、車両100に対する要求加速度が低い場合は、始動制御部202は、ステップS3~ステップS11を実施する。
【0050】
まず、始動制御部202は、気筒2の停止位置が予め設定された判定位置よりも進角側であるか否かを判定する(ステップS3)。判定に用いられる気筒2の停止位置は、現在の、つまり、エンジンEが停止している状態での気筒2の位置である。判定位置は、予め設定されて記憶されている。
【0051】
具体的に、判定位置は、
図4に実線で示した位置であって、停止時圧縮移行気筒の位置(停止時圧縮移行気筒のピストン5の位置)が吸気下死点(BDC)となる位置である。本実施形態では、上記のように、停止制御部201によって、エンジンEの停止時に停止時圧縮移行気筒の位置は吸気下死点前15°CA(
図4のP3の位置)から吸気下死点後20°CA(
図4のP4の位置)の範囲A2内の位置に制御される。これより、ステップS3では、停止時圧縮移行気筒の位置が吸気下死点(BDC)から吸気下死点前15°CA(
図4のP3の位置)までの範囲にあるか否かが判定される。
【0052】
ステップS3の判定がNOであって気筒2の停止位置が判定位置であるまたは判定位置よりも遅角側の位置である場合、始動制御部202は、クラッチトルクの目標値である目標クラッチトルクを基本トルクに設定する(ステップS4)。
【0053】
クラッチトルクは、クラッチ102を介してモータMからエンジンEに伝達されるトルクである。モータ単体駆動状態でエンジン始動条件が成立すると、後述するステップS6にて始動制御部202はクラッチ102の接続を開始して、モータMからエンジンEへのトルク伝達をゼロから増大させていく。目標クラッチトルクはこのトルク増大制御の目標値であり、始動制御部202は、クラッチトルクが目標クラッチトルクまで増大するようにクラッチ102を制御する。詳細には、始動制御部202は、クラッチ102の油圧ポンプの吐出圧を制御する。上記の基本トルクは予め設定されて始動制御部202に記憶されている。基本トルクは、クラッチ102を完全締結させたとき、つまり、モータMとエンジンEとの間でトルクが100%伝達されるときに実現されるクラッチトルクよりも小さい値に設定されている。ステップS4の後はステップS6に進む。
【0054】
一方、ステップS4の判定がYESであって気筒2の停止位置が判定位置よりも進角側の位置である場合、始動制御部202は、目標クラッチトルクを基本トルクに対して増大させる(ステップS5)。つまり、始動制御部202は、目標クラッチトルクを基本トルクよりも大きい値に設定する。なお、このとき、始動制御部202は、基本トルクよりも大きく、且つ、クラッチ102を完全締結させたときに実現されるクラッチトルクよりも小さい値に、目標クラッチトルクを設定する。
【0055】
図6は、本実施形態における気筒2の停止位置と目標クラッチトルクとの関係を示したグラフである。本実施形態では、判定位置に対する気筒2の停止位置の進角量が大きくなるに従って目標クラッチトルクが段階的に大きくされる。具体的に、気筒2の停止位置が判定位置からこれよりも進角側の第1位置P11までの範囲内の位置である場合、目標クラッチトルクは基本トルクよりも大きい第1トルクCO-1に設定される。気筒2の停止位置が第1位置P11からこれよりも進角側の第2位置P12までの範囲内の位置である場合、目標クラッチトルクは第1トルクCO-1よりも大きい第2トルクCO-2に設定される。気筒2の停止位置が第2位置P12よりも進角側の位置である場合、つまり、第2位置P12から目標停止位置のうちの最も進角側の位置までの範囲内の位置である場合、目標クラッチトルクは第2トルクCO-2よりも大きい第3トルクCO-3に設定される。なお、判定位置に対する第1位置P11の進角量と、第1位置P11に対する第2位置P12の進角量と、第2位置に対する最進角位置の進角量とは同じ量(クランク角度)に設定されている。また、上記の第1位置P11、第2位置P12、最進角位置および各トルクCO-1、CO-2、CO-3の値はそれぞれ予め設定されて始動制御部202に記憶されている。
【0056】
図5に戻り、ステップS6において、始動制御部202は、クラッチ102の接続を開始する(ステップS6)。具体的に、始動制御部202は、クラッチ102の油圧ポンプの駆動を開始する。クラッチ102の接続が開始されると、エンジンEは回転し始める。
【0057】
ここで、始動制御部202は、クラッチトルクがステップS4またはステップS5で設定した目標クラッチトルクに到達するようにクラッチ102(油圧ポンプ)を制御する。具体的に、始動制御部202は、
図7に示すようにクラッチトルクを制御する。
図7は、クランク角に対するクラッチトルクの変化を模式的に示した図であり、ラインL0、L1、L2、L3は、それぞれ目標クラッチトルクが、基本クラッチトルクのとき、第1トルクCO-1のとき、第2トルクCO-2のとき、第3トルクCO-3のときの変化を示している。
図7に示すように、始動制御部202は、クラッチトルクが目標クラッチトルクに到達すると目標クラッチトルクが維持されるようにクラッチ102を制御する。また、目標クラッチトルクは気筒2の停止位置に応じて複数の値をとり得るが、
図7に示すように、始動制御部202は、目標クラッチトルクの値に関わらず、クラッチトルクの上昇速度が同じになるようにクラッチ102を制御する。
【0058】
図5に戻り、始動制御部202は、ステップS6の後、1圧縮目の気筒2への燃料噴射を禁止し(ステップS7)、その後、2圧縮目の気筒2への燃料噴射を実施する(ステップS8)。具体的に、始動制御部202は、1圧縮目の気筒である停止時圧縮行程気筒のインジェクタ15を駆動せず、停止時圧縮行程気筒に対するその圧縮行程中(停止時圧縮行程気筒のエンジンEの回転開始後における最初の圧縮行程中)に行う燃料噴射を禁止する。一方で、始動制御部202は、2圧縮目の気筒である停止時圧縮移行気筒のインジェクタ15を駆動して、インジェクタ15によって停止時圧縮移行気筒内にその圧縮行程中(停止時圧縮移行気筒のエンジンEの回転開始後の最初の圧縮行程中)に燃料を噴射させる。なお、上記の2圧縮目の気筒2つまり停止時圧縮移行気筒は、本発明の「特定の気筒」に相当する。
【0059】
ステップS8の後は、始動制御部202は、再びインジェクタ15による燃料噴射を禁止する(ステップS9)。つまり、始動制御部202は、3圧縮目の気筒2への燃料噴射を禁止する。
【0060】
次に、始動制御部202は、クランク角センサSN1により検出されたエンジン回転数が所定の判定回転数以上になったか否かを判定する。判定回転数は予め設定されて始動制御部202に記憶されている。
【0061】
ステップS10の判定がNOであってエンジン回転数が判定回転数未満である場合、始動制御部202は、ステップS9に戻り、インジェクタ15による燃料噴射を引き続き禁止する。つまり、始動制御部202は、3圧縮目の気筒の後に圧縮行程を迎える気筒2内への燃料噴射も禁止する。一方、ステップS10の判定がYESであってエンジン回転数が判定回転数以上になると、始動制御部202は、通常の制御を開始して(ステップS11)、エンジンEの始動のための制御を終了する。具体的に、始動制御部202は、全気筒2にそれぞれの圧縮行程中に燃料が噴射されるようにインジェクタ15を制御するとともに、その噴射量をアクセル開度等に基づいて変更する。すなわち、始動制御部202は、2圧縮目の気筒2への燃料噴射に伴ってエンジン回転数が判定回転数まで上昇するのを待って、全気筒2への燃料供給を再開する。
【0062】
このように、ステップS2の判定がNOであって要求出力が判定出力以下のときは、1圧縮目の気筒2への燃料噴射は行われず、2圧縮目の気筒2への燃料噴射が実施される。また、少なくとも3圧縮目の気筒2への燃料噴射が禁止される。
【0063】
なお、クラッチ102の接続が開始されてから(ステップS6が実施されてから)、エンジン回転数が判定回転数に到達するまで(ステップS10の判定がYESになるまで)の期間が、本発明の「始動期間」に相当する。また、2圧縮目の気筒の圧縮行程が本発明における「始動期間の初期」に相当し、始動期間のうち2圧縮目の気筒の圧縮行程以降の期間が「始動期間の後期」に相当する。
【0064】
ステップS2に戻り、ステップS2の判定がYESであって要求出力が判定出力よりも大きいときは、始動制御部202は、ステップS4と同様に、目標クラッチトルクを基本トルクに設定する(ステップS21)。また、始動制御部202は、ステップS6と同様にクラッチ102の接続を開始する(ステップS22)。これに伴い、エンジンEは回転を開始する。ここで、要求出力が判定出力よりも大きい場合も、要求出力が判定出力以下の場合と同様に、始動制御部202は、クラッチトルクがステップS21で設定した目標クラッチトルクに到達するようにクラッチ102(油圧ポンプ)を制御するとともに、クラッチトルクが目標クラッチトルクに到達するとこれが維持されるようにクラッチ102を制御する。また、本実施形態では、始動制御部202は、要求出力が判定出力よりも大きい場合も、要求出力が判定出力以下の場合と同じ速度でクラッチトルクが上昇するように、クラッチ102を制御する。
【0065】
次に、始動制御部202は、ステップS7と同様に1圧縮目の気筒2への燃料噴射を禁止するとともに(ステップS23)、ステップS8と同様に2圧縮目の気筒2への燃料噴射を実施する(ステップS24)。
【0066】
一方、要求出力が判定出力よりも大きいときは、要求出力が判定出力以下のときと異なり、始動制御部202は、2圧縮目の気筒2への燃料噴射を実施した後も、燃料噴射を継続する(ステップS25)。つまり、始動制御部202は、2圧縮目の気筒以降に圧縮行程を迎える各気筒2に対してインジェクタ15から燃料を噴射させる。また、始動制御部202は、エンジン回転数が判定回転数以上になったか否かを判定し(ステップS26)、エンジン回転数が判定回転数以上になってこの判定がYESになるまでインジェクタ15からの燃料噴射を継続する。
【0067】
エンジン回転数が判定回転数以上になった後は、要求出力が判定出力よりも大きいときも、要求出力が判定出力以下のときと同様に、始動制御部202は、ステップS11に進んで通常の制御を開始する。
【0068】
このように、ステップS2の判定がYESであって要求出力が判定出力よりも大きいときは、1圧縮目の気筒2への燃料噴射は行われない一方、2圧縮目以降の気筒2への燃料噴射が実施される。
【0069】
(作用等)
図8および
図9は、上記実施形態に係る車両100において、モータ単体駆動状態でエンジン始動条件が成立したときの各パラメータの変化を模式的に示した図である。
図8および
図9の横軸はクランク角である。
図8および
図9には、上から順に、エンジン始動条件の成否、クラッチトルク、燃料噴射量(インジェクタ15から噴射される燃料の量)、回転数のグラフを示している。回転数のグラフにおいて、実線はエンジン回転数(エンジンEの回転数)、破線はモータ回転数(モータMの回転数)である。
図8は、要求出力が判定出力よりも大きいときの図であり、
図9は、要求出力が判定出力以下のときの図である。なお、
図8および
図9には、通常制御が開始されると、気筒2に噴射される燃料の量が通常制御開始前よりも低減される例を示している。
【0070】
図8の例では、タイミングt1にてモータ単体駆動状態でエンジン始動条件が成立する。上記のように、モータ単体駆動状態でエンジン始動条件が成立するとクラッチ102の接続が開始される。これに伴い、タイミングt1にてクラッチトルクは増大し始める。そして、タイミングt1からしばらく後に、エンジン回転数が上昇し始め、モータMの回転数が低減し始める。
【0071】
上記のように、モータ単体駆動状態でエンジン始動条件が成立すると、2圧縮目の気筒内にインジェクタ15から燃料が噴射される。ここで、2圧縮目の気筒は停止時圧縮移行気筒であり、エンジンEの回転開始時の当該気筒のピストン5は吸気下死点付近に位置している。そのため、停止時圧縮移行気筒内の燃料と空気は、当該気筒のピストン5が圧縮上死点に到達する時点で十分に圧縮されている。これより、停止時圧縮移行気筒において燃料と空気の混合気は燃焼し、燃焼エネルギーを生成する。この燃焼エネルギーはエンジンEに回転力を付与する。従って、停止時圧縮移行気筒のピストン5が圧縮上死点を超えるタイミングt2付近から、エンジン回転数の上昇速度は大きくなる。また、エンジンEの回転が開始してから、2圧縮目の気筒である停止時圧縮移行気筒が圧縮上死点に到達するまでの時間は比較的短いので、エンジン回転数の上昇速度はエンジンEの回転開始後の比較的早い時期に(タイミングt2)大きくなる。
【0072】
ここで、要求出力が判定出力よりも大きいときは、3圧縮目の気筒、つまり、停止時吸気行程気筒にもインジェクタ15から燃料が噴射されて燃焼エネルギーが生成される。これより、要求出力が判定出力よりも大きいときは、エンジン回転数は高い速度で上昇し続け、判定回転数まで早期に上昇する。
図8の例では、タイミングt3にてエンジン回転数は判定回転数まで上昇する。
【0073】
このように、上記実施形態に係る車両100では、要求出力が判定出力よりも大きいときには、2圧縮目以降、継続して各気筒2に燃料が噴射されることで、エンジン回転数を早期に高めることができる。
図8の回転数のグラフにおいて、鎖線は、エンジン回転数が判定回転数に到達するまで燃料噴射を停止したときのエンジン回転数を表している。この鎖線との比較からも明らかなように、上記実施形態に係る車両100によれば、要求出力が判定出力よりも大きい場合において、2圧縮目以降、継続して各気筒2に燃料が噴射されることで、エンジン回転数が判定回転数に到達する時間つまりエンジンEの始動時間を大幅に短くできる。
【0074】
ただし、
図8に示すように、2圧縮目以降、継続して各気筒2に燃料噴射を行うという制御を実施すると、エンジン回転数がモータMの回転数を超えて大幅に上昇してしまう。
図8の例では、タイミングt3付近にて、エンジン回転数が、モータ回転数以上の回転数まで早い速度で上昇する。この結果、トルクショックが生じてしまう。つまり、エンジンEおよびモータMが大きく振動してしまい、車両100の乗員が衝撃を感じるおそれがある。
【0075】
しかしながら、上記の制御が実施されるのは、要求出力が判定出力よりも大きいときであって車両100に対する要求加速度が高いとき、つまり、車両100の加速中である。そのため、上記のトルクショックが乗員に与える影響は小さく抑えられる。
【0076】
一方、要求出力が判定出力以下のときであって車両100に対する要求加速度が低いとき、つまり、車両100の加速中ではないに仮に上記の制御を実施すると、トルクショックが乗員に与える影響は大きくなる。
【0077】
これに対して、上記実施形態に係る車両100では、要求出力が判定出力以下のときは、2圧縮目の気筒2への燃料噴射が実施される一方で、2圧縮目以降の気筒2への燃料噴射は、エンジン回転数が判定回転数以上になるまで禁止される。つまり、クラッチ102の接続が開始されてからエンジン回転数が判定回転数に到達するまでの始動期間の初期にのみ気筒2への燃料噴射が実施されて、始動期間の後期は気筒2への燃料噴射が停止される。従って、エンジン回転数を比較的早期に判定回転数まで高めつつ、トルクショックの発生を抑制できる。
【0078】
具体的に、
図9の回転数のグラフにおいて実線は3圧縮目の気筒2への燃料噴射を禁止したときのエンジン回転数を示し、鎖線は
図8において実線で示したエンジン回転数であって3圧縮目の気筒2に燃料噴射を実施したときのエンジン回転数を示している。この実線と鎖線との比較から明らかなように、要求出力が判定出力以下の場合においても、2圧縮目の気筒つまり停止時圧縮移行気筒に燃料が噴射されることで、当該気筒のピストン5が圧縮上死点を超えるタイミングt2付近からエンジン回転数の上昇速度は高くなる。しかし、要求出力が判定出力以下の場合では、3圧縮目の気筒つまり停止時吸気行程気筒に燃料噴射が行われないことで、エンジン回転数の上昇速度は一旦緩やかになる。つまり、タイミングt2以後において、エンジン回転数の上昇速度はいったん大きくなるものの、その後(
図9の例ではタイミングt11にて)緩やかになる。これより、要求出力が判定出力以下の場合は、エンジン回転数がモータMの回転数を大幅に超えることが回避され、上記のトルクショックの発生は抑制できる。なお、
図9の例では、4圧縮目の気筒が圧縮行程にあるタイミングでエンジン回転数は判定回転数以上となり、これに伴って4圧縮目の気筒2に対して燃料噴射が実施される。
【0079】
以上のように、上記実施形態に係るエンジンEの始動制御装置では、モータ単体駆動状態でエンジン始動条件が成立するとクラッチ102の接続が開始される。そして、要求出力が判定出力以下の場合には、クラッチ102の接続が開始されてからエンジン回転数が判定回転数に到達するまでの期間(始動期間)において、2圧縮目の気筒2にのみ燃料が噴射されて、3圧縮目以降の気筒への燃料噴射は停止される。
【0080】
これより、上記実施形態によれば、エンジン回転数がモータMの回転数に比して十分に小さいときには、モータMから伝達されるトルクと2圧縮目の気筒で生成される燃焼エネルギーとによってエンジンの回転数を早期に上昇させることができるとともに、エンジン回転数がある程度上昇してモータMの回転数に近づいたときには、エンジンの回転上昇を抑制してエンジン回転数がモータ回転数を超えるのを防止できる。そのため、エンジン回転数が判定回転数に到達するまでの時間であるエンジンの始動時間を短く抑えつつ、エンジン回転数がモータ回転数を超えることに伴って生じるトルクショックの発生を抑制できる。
【0081】
また、上記実施形態では、要求出力が判定出力以下の場合において、エンジンEが判定回転数に到達するまでの始動期間において、2圧縮目の気筒であって、エンジン停止時のピストン5の位置が吸気行程の後半または圧縮行程の前半の位置である気筒2にのみ燃料が噴射されるとともに、この2圧縮目の最初の圧縮行程中にのみ燃料噴射が実施される。そのため、燃料と空気の混合気を確実に燃焼させて燃焼エネルギーを得ることができるとともに、エンジンEの回転が開始してから比較的早いタイミングで燃焼エネルギーを得ることができる。従って、エンジン回転数がモータMの回転数に比して十分に小さいタイミングで確実にエンジン回転数の上昇速度を大きくできる。
【0082】
また、上記実施形態では、2圧縮目の気筒の停止位置を含む気筒2の停止位置が判定位置よりも進角側であるか否かが判定されて(ステップS3)、2圧縮目の気筒2の停止位置を含む気筒2の停止位置が判定位置よりも進角側のときは、2圧縮目の気筒2の停止位置を含む気筒2の停止位置が判定位置であるまたは判定位置よりも遅角側の位置である場合よりも、目標クラッチトルクが大きい値に設定されて、始動期間中にモータからエンジンに伝達されるトルクが大きくされる。つまり、2圧縮目の気筒2(ピストン5)が圧縮上死点に到達するまでのクランク角であって当該気筒2で燃焼エネルギーが生成されるまでのクランク期間が長いときは、モータMからエンジンEに伝達されるトルクによるエンジン回転数の上昇が促進される。
【0083】
これより、燃焼エネルギーが得られるまでの時間が長くなることに伴ってエンジン回転数が判定回転数に到達するまでの時間が長くなるのを抑制できる。つまり、エンジンの始動時間が長くなるのを抑制できる。また、2圧縮目の気筒2の停止位置を含む気筒2の停止位置が判定位置であるまたは判定位置よりも遅角側の位置であるとき、つまり、燃焼エネルギーが得られるまでのクランク期間が短いときには、目標クラッチトルクが小さい値に設定されることで、モータMからエンジンEに伝達されるトルクを小さく抑えることができる。
【0084】
また、上記実施形態では、車両100の加速に伴って要求出力が判定出力よりも大きく、乗員がトルクショックを感じにくいときは、3圧縮目以降も気筒2への燃料噴射が継続される。つまり、始動期間の初期および後期の双方で気筒2に燃料が供給される。そのため、エンジンEの始動時に生じるトルクショックが利用者に与える影響を小さく抑えつつエンジンの始動時間をより短くできる。
【0085】
(変形例)
上記実施形態では、要求出力が判定出力よりも大きいときは、始動期間の初期および後期の双方で気筒2に燃料が噴射される場合を説明したが、要求出力が判定出力よりも大きいときにも始動期間の後期において気筒2への燃料噴射を停止してもよい。
【0086】
上記実施形態では、要求出力が判定出力よりも大きいときも目標クラッチトルクが基本クラッチトルクに設定される場合を説明したが、要求出力が判定出力よりも大きいときは、小さいときよりも、目標エンジントルクを大きい値に設定してもよい。さらに、要求出力が判定出力よりも大きいときは、小さいときよりも、エンジントルクを目標エンジントルクまで増大させるときの増大速度を大きくしてもよい。
【0087】
上記実施形態では、気筒2の停止位置が判定位置よりも進角側の場合において、判定位置に対する気筒2の停止位置の進角量が大きくなるに従って目標クラッチトルクが段階的に大きくされる場合を説明したが、上記進角量と目標クラッチトルクとの関係はこれに限られない。例えば、上記進角量に関わらず目標クラッチトルクが一定のトルクに設定されてもよい。
【0088】
さらに、気筒2の停止位置が判定位置よりも進角側であるか否かに応じて目標クラッチトルクを変化させる構成は省略してもよい。つまり、目標クラッチトルクは気筒2の停止位置に関わらず一定の値に設定されてもよい。
【0089】
また、上記実施形態ではエンジンが直列6気筒エンジンの場合を説明したが、エンジンの気筒数や気筒の配列形式はこれに限られない。
【符号の説明】
【0090】
15 インジェクタ(燃料供給手段)
102 クラッチ
202 始動制御部
E エンジン
M モータ