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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136989
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】正極およびフッ化物イオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240927BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240927BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240927BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240927BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/58
H01M4/62 Z
H01M10/054
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048317
(22)【出願日】2023-03-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「電気自動車用革新型蓄電池開発 フッ化物電池の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和之
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK04
5H029AK11
5H029AL04
5H029AM11
5H029DJ09
5H029EJ07
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ18
5H029HJ19
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA10
5H050CA17
5H050CB04
5H050DA13
5H050EA15
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA17
5H050HA18
(57)【要約】
【課題】正極合材層の単位質量当たりのフッ化物イオン二次電池の放電容量を向上させることが可能な正極を提供する。
【解決手段】正極は、正極集電体上に、正極合材層が形成されている。正極合材層は、フッ素を含まない第1活物質と、フッ素を含まない第2活物質と、を含み、第2活物質に対する前記第1活物質のモル比が4以上35以下である。第1活物質は、第2活物質よりもフッ化電位が高い。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体上に、正極合材層が形成されており、
前記正極合材層は、フッ素を含まない第1活物質と、フッ素を含まない第2活物質と、を含み、前記第2活物質に対する前記第1活物質のモル比が4以上35以下であり、
前記第1活物質は、前記第2活物質よりもフッ化電位が高い、正極。
【請求項2】
前記第1活物質および前記第2活物質は、複合化されている、請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記正極合材層は、フッ素を含む第3活物質をさらに含み、
前記第3活物質は、前記第2活物質のフッ化物よりもフッ化物イオン伝導度が高い、請求項1または2に記載の正極。
【請求項4】
前記第1活物質は、銅であり、
前記第2活物質は、ビスマスであり、
前記第3活物質は、一般式
Bi1-x3-2x
(式中、xは、0.02以上0.12以下である。)
で表され、ヘキサゴナル構造を有する化合物である、請求項3に記載の正極。
【請求項5】
前記第1活物質は、一次粒子径が10nm以上500nm以下であり、
前記第2活物質は、一次粒子径が10nm以上500nm以下であり、
前記第3活物質は、一次粒子径が10nm以上200nm以下である、請求項3に記載の正極。
【請求項6】
前記正極合材層は、フッ素を含む固体電解質をさらに含む、請求項1または2に記載の正極。
【請求項7】
前記固体電解質は、セリウムおよびストロンチウムを含むフッ化金属である、請求項6に記載の正極。
【請求項8】
請求項1または2に記載の正極を備える、フッ化物イオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極およびフッ化物イオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの人々が手頃で信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献するフッ化物イオン二次電池の研究開発が実施されている。
【0003】
特許文献1には、Cu系活物質と、BiFとを含有する正極活物質層を備える、フッ化物イオン電池が記載されている。ここで、正極活物質層は、Cu系活物質およびBiを含有する前駆体層を形成した後、前駆体層にフッ化物イオンを導入して形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-178410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているフッ化物イオン電池は、正極活物質層の単位質量当たりのフッ化物イオン電池の放電容量が十分ではない。
【0006】
本発明は、正極合材層の単位質量当たりのフッ化物イオン二次電池の放電容量を向上させることが可能な正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)正極集電体上に、正極合材層が形成されており、前記正極合材層は、フッ素を含まない第1活物質と、フッ素を含まない第2活物質と、を含み、前記第2活物質に対する前記第1活物質のモル比が4以上35以下であり、前記第1活物質は、前記第2活物質よりもフッ化電位が高い、正極。
【0008】
(2)前記第1活物質および前記第2活物質は、複合化されている、(1)に記載の正極。
【0009】
(3)前記正極合材層は、フッ素を含む第3活物質をさらに含み、前記第3活物質は、前記第2活物質のフッ化物よりもフッ化物イオン伝導度が高い、(1)または(2)に記載の正極。
【0010】
(4)前記第1活物質は、銅であり、前記第2活物質は、ビスマスであり、前記第3活物質は、一般式
Bi1-x3-2x
(式中、xは、0.02以上0.12以下である。)
で表され、ヘキサゴナル構造を有する化合物である、(3)に記載の正極。
【0011】
(5)前記第1活物質は、一次粒子径が10nm以上500nm以下であり、前記第2活物質は、一次粒子径が10nm以上500nm以下であり、前記第3活物質は、一次粒子径が10nm以上200nm以下である、(3)または(4)に記載の正極。
【0012】
(6)前記正極合材層は、フッ素を含む固体電解質をさらに含む、(1)から(5)のいずれか一項に記載の正極。
【0013】
(7)前記固体電解質は、セリウムおよびストロンチウムを含む金属である、(6)に記載の正極。
【0014】
(8)(1)から(7)のいずれか一項に記載の正極を備える、フッ化物イオン二次電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、正極合材層の単位質量当たりのフッ化物イオン二次電池の放電容量を向上させることが可能な正極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】K0.06Bi0.942.88およびBiFのフッ化物イオン伝導度を示すグラフである。
図2】K0.06Bi0.942.88のTEM像および元素マッピングである。
図3】K0.06Bi0.942.88のSEM像である。
図4】実施例1の正極合材のSEM像および元素マッピングである。
図5】実施例1の正極合材のXRDスペクトルである。
図6】実施例3のセルの充放電曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
[正極]
本実施形態の正極は、正極集電体上に、正極合材層が形成されており、正極合材層は、フッ素を含まない第1活物質と、フッ素を含まない第2活物質と、を含む。ここで、第1活物質は、第2活物質よりもフッ化電位が高い。
【0019】
第2活物質に対する第1活物質のモル比は、4以上35以下であり、4以上20以下であることが好ましい。第2活物質に対する第1活物質のモル比が4以上35以下であるため、正極合材層の単位質量当たりのフッ化物イオン二次電池の放電容量が向上する。例えば、第1活物質および第2活物質が、それぞれCuおよびBiである場合に、Biに対するCuのモル比が4未満であると、正極合材層の単位質量当たりのフッ化物イオン二次電池のエネルギー密度が低下し、35を超えると、フッ化物イオン二次電池の充電時にBiFが生成してCuにイオンを供給する効率が低下する。
【0020】
第1活物質としては、第2活物質よりもフッ化電位が高い金属であれば、特に限定されないが、例えば、Cu、Co(III)、Moが挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、正極合材層の単位質量当たりのフッ化物イオン二次電池の放電容量の点で、Cuが好ましい。
【0021】
第1活物質のフッ化電位は、特に限定されないが、例えば、0.3V(vs.Pb/PbF)以上1.5V(vs.Pb/PbF)以下である。
【0022】
第1活物質の一次粒子径は、10nm以上500nm以下であることが好ましく、10nm以上200nm以下であることが好ましい。第1活物質の一次粒子径が10nm以上500nm以下であると、正極合材層の単位質量当たりのフッ化物イオン二次電池の放電容量が向上する。
【0023】
第2活物質としては、第1活物質よりもフッ化電位が低い金属であれば、特に限定されないが、例えば、W、V、Bi、Sb、Ni、Snが挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、正極合材層の単位質量当たりのフッ化物イオン二次電池の放電容量の点で、Biが好ましい。
【0024】
第2活物質のフッ化電位は、特に限定されないが、例えば、-0.2V(vs.Pb/PbF)以上0.5V(vs.Pb/PbF)以下である。
【0025】
第2活物質の一次粒子径は、10nm以上500nm以下であることが好ましく、10nm以上300nm以下であることが好ましい。第2活物質の一次粒子径が10nm以上500nm以下であると、正極合材層の単位質量当たりのフッ化物イオン二次電池の放電容量が向上する。
【0026】
第1活物質および第2活物質は、複合化されていることが好ましい。これにより、正極合材層の単位質量当たりのフッ化物イオン二次電池の放電容量が向上する。
【0027】
なお、第1活物質および第2活物質は、機械的な力により複合化することができる。また、第1活物質および第2活物質は、エアロゾルプロセスにより複合化することができる。例えば、第1活物質および第2活物質を溶融させた後、減圧下で噴霧する。
【0028】
正極合材層は、フッ素を含む第3活物質をさらに含むことが好ましい。このとき、第3活物質は、第2活物質のフッ化物よりもフッ化物イオン伝導度が高い。これにより、正極合材層の単位質量当たりのフッ化物イオン二次電池の放電容量が向上する。
【0029】
第3活物質としては、第2活物質のフッ化物よりもフッ化物イオン伝導度が高いフッ化金属であれば、特に限定されない。これらの中でも、正極合材層の単位質量当たりのフッ化物イオン二次電池の放電容量の点で、一般式
Bi1-x3-2x
(式中、xは、0.02以上0.12以下である。)
で表され、ヘキサゴナル構造を有する化合物が好ましい。
【0030】
第3活物質の一次粒子径は、10nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上100nm以下であることが好ましい。第3活物質の一次粒子径が10nm以上200nm以下であると、正極合材層の単位質量当たりのフッ化物イオン二次電池の放電容量が向上する。
【0031】
次に、第1活物質、第2活物質および第3活物質として、それぞれ、Cu、BiおよびK0.06Bi0.942.88を使用する場合のフッ化物イオン二次電池の充放電における正極の挙動について説明する。ここで、CuおよびBiのフッ化電位は、それぞれ0.65V(vs.Pb/PbF)および0.31V(vs.Pb/PbF)である。
【0032】
フッ化物イオン二次電池を充電する際に、まず、Cuよりもフッ化電位が低く、Cuと複合化されているBiがフッ化されてBiFが生成する。このとき、BiFよりもフッ化物イオン伝導度が高いK0.06Bi0.942.88図1参照)が存在しているため、Biがより有効に利用される。次に、Biよりもフッ化電位が高く、Biと複合化されていたCuがフッ化され、CuFが生成する。このとき、BiFと、BiFよりもフッ化物イオン伝導度が高いK0.06Bi0.942.88と、が存在しているため、Cuがより有効に利用される。
【0033】
一方、フッ化物イオン二次電池を放電する際に、まず、CuFが脱フッ化され、Cuが生成する。このとき、Cuと複合化されているBiFと、BiFよりもフッ化物イオン伝導度が高いK0.06Bi0.942.88と、が存在しているため、CuFがより有効に利用される。次に、BiFが脱フッ化され、Biが生成するとともに、K0.06Bi0.942.88が脱フッ化される。このとき、BiFよりもフッ化物イオン伝導度が高いK0.06Bi0.942.88が存在しているため、BiFがより有効に利用される。このため、正極合材層の単位質量当たりのフッ化物イオン二次電池の放電容量が向上する。
【0034】
正極合材層は、フッ素を含む固体電解質をさらに含むことが好ましい。これにより、フッ化物イオン二次電池の放電時に、第2活物質のフッ化物および第3活物質が脱フッ化される際に、フッ素を含む固体電解質が存在しているため、第2活物質のフッ化物および第3活物質が有効に利用される。このため、正極合材層の単位質量当たりのフッ化物イオン二次電池の放電容量が向上する。
【0035】
固体電解質としては、フッ化物イオン伝導性を有し、フッ化物イオン二次電池の放電時に脱フッ化しない金属フッ化物であれば、特に限定されないが、例えば、Ce0.975Sr0.0252.975、La0.93Ba0.072.93、Ca0.5Sr0.5、Sr0.70.32.3、Ba0.7Sb0.32.3、La0.9Sr0.12.9、Ba0.5Ca0.5が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0036】
正極合材層は、必要に応じて、導電助剤等をさらに含んでいてもよい。導電助剤としては、電子伝導性を有していれば、特に限定されないが、例えば、アセチレンブラックが挙げられる。
【0037】
正極集電体としては、電子伝導性を有していれば、特に限定されないが、例えば、金箔が挙げられる。
【0038】
[フッ化物イオン二次電池]
本実施形態のフッ化物イオン二次電池は、本実施形態の正極を備えるが、例えば、本実施形態の正極と負極との間に、固体電解質層が配置されている。
【0039】
負極は、負極集電体上に負極合材層が形成されている。このとき、負極合材層は、負極活物質を含み、必要に応じて、固体電解質、導電助剤等をさらに含んでいてもよい。
【0040】
負極集電体としては、電子伝導性を有していれば、特に限定されないが、例えば、アルミニウム箔が挙げられる。負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、PbSnFが挙げられる。導電助剤としては、電子伝導性を有していれば、特に限定されないが、例えば、アセチレンブラックが挙げられる。
【0041】
固体電解質層を構成する固体電解質としては、フッ化物イオン伝導性を有していれば、特に限定されないが、例えば、Ce0.95Sr0.052.85が挙げられる。
【0042】
本実施形態のフッ化物イオン二次電池は、例えば、正極集電体および正極合材と、固体電解質と、負極集電体および負極合材と、を順次積層した後、一体成形することにより得られる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で、上記の実施形態を適宜変更してもよい。
【実施例0044】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0045】
[K0.06Bi0.942.88の作製]
フッ化カリウム(高純度化学研究所製)およびフッ化ビスマス(高純度化学研究所製)を秤量した後、メノウ製の乳鉢および乳棒を用いて、約1時間予備混合して、原料混合粉末を得た。
【0046】
得られた原料混合粉末に対して、目開き500μmのステンレス鋼製のメッシュを用いて、分級処理を実施した。次に、メッシュを通過しなかった原料混合粉末を、メノウ製の乳鉢および乳棒を用いて、混合した後に分級処理を実施する操作を、全ての原料混合粉末がメッシュを通過するまで実施した。
【0047】
なお、原料の秤量、予備混合および分級処理は、フッ化物の吸湿を防止するため、パージ式(DBO型)のグローブボックス(美和製作所製)内で実施した。
【0048】
グローブボックスから、分級処理後の原料混合粉末が封入された密閉式パウダーホッパーを取り出し、高周波誘導熱プラズマナノ粒子合成装置TP-40020NPS(日本電子製)に接続した。次に、プラズマトーチにアルゴンガスを供給し、熱プラズマにより原料混合粉末を溶融させて原料溶融体とするとともに、減圧環境のチャンバー内に原料溶融体を噴霧した。チャンバー内に噴霧された原料溶融体は、冷却工程を経て、ナノ粒子化され、K0.06Bi0.942.88となった。続いて、排気フィルターでK0.06Bi0.942.88を捕集した後、排気フィルターの上流および下流をバルブで遮断してグローブボックス内へ搬送し、K0.06Bi0.942.88を回収した。ここで、K0.06Bi0.942.88の組成は、ICP発光分光分析法により分析した。
【0049】
図2に、K0.06Bi0.942.88のTEM像および元素マッピングを示す。ここで、TEM像および元素マッピングは、TEM-EELSにより分析した。
【0050】
図3に、K0.06Bi0.942.88のSEM像を示す。
【0051】
図3から、K0.06Bi0.942.88の一次粒子径が10nm以上100nm以下であることがわかる。
【0052】
[Ce0.92Sr0.082.92の作製]
フッ化セリウム(高純度化学研究所製)およびフッ化ストロンチウム(高純度化学研究所製)を秤量した後、メノウ製の乳鉢および乳棒を用いて、約1時間予備混合して、原料混合粉末を得た。
【0053】
得られた原料混合粉末に対して、目開き500μmのステンレス鋼製のメッシュを用いて、分級処理を実施した。次に、メッシュを通過しなかった原料混合粉末を、メノウ製の乳鉢および乳棒を用いて、混合した後に分級処理を実施する操作を、全ての原料混合粉末がメッシュを通過するまで実施した。
【0054】
なお、原料の秤量、予備混合および分級処理は、フッ化物の吸湿を防止するため、パージ式(DBO型)のグローブボックス(美和製作所製)内で実施した。
【0055】
グローブボックスから、分級処理後の原料混合粉末が封入された密閉式パウダーホッパーを取り出し、高周波誘導熱プラズマナノ粒子合成装置TP-40020NPS(日本電子製)に接続した。次に、プラズマトーチにアルゴンガスを供給し、熱プラズマにより原料混合粉末を溶融させて原料溶融体とするとともに、減圧環境のチャンバー内に原料溶融体を噴霧した。チャンバー内に噴霧された原料溶融体は、冷却工程を経て、ナノ粒子化され、Ce0.92Sr0.082.92となった。続いて、排気フィルターでCe0.92Sr0.082.92を捕集した後、排気フィルターの上流および下流をバルブで遮断してグローブボックス内へ搬送し、Ce0.92Sr0.082.92を回収した。ここで、Ce0.92Sr0.082.92の組成は、ICP発光分光分析法により分析した。
【0056】
[実施例1]
銅(高純度化学研究所製)、ビスマス(高純度化学研究所製)、K0.06Bi0.942.88およびアセチレンブラック(電気化学工業製)を、質量比が50.0:16.7:31.1:2.2となるように秤量した後、容量45mLの窒化ケイ素製のポットに入れた。次に、窒化ケイ素製の直径2mmのボールおよびシクロヘキサンをポットに入れて、原料の粉砕処理を実施した。このとき、200rpmで15分間ポットを回転させた後に、5分間回転を休止する操作を40サイクル実施した。次に、原料の粉砕処理物を乾燥させて、正極合材を得た。
【0057】
なお、原料の秤量および粉砕処理は、フッ化物の吸湿および銅の酸化を防止するため、パージ式(DBO型)のグローブボックス(美和製作所製)内で実施した。
【0058】
図4に、正極合材のSEM像および元素マッピングを示す。
【0059】
図4から、銅およびビスマスは、一次粒子径が10nm以上500nm以下であり、複合化されていることがわかる。
【0060】
図5に、正極合材のXRDスペクトルを示す。なお、図5には、Bi、K0.06Bi0.942.88、BiFおよびBiのXRDスペクトルも示す。また、XRDスペクトルを測定する際のX線エネルギーを25keV(λ=0.496Å)とした。
【0061】
図5から、正極合材は、BiFを含まず、ヘキサゴナル構造を有するK0.06Bi0.942.88を含むことがわかる。
【0062】
[実施例2]
銅(高純度化学研究所製)、ビスマス(高純度化学研究所製)、K0.06Bi0.942.88およびアセチレンブラック(電気化学工業製)を、質量比が53.2:17.8:26.8:2.2となるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、正極合材を得た。
【0063】
[実施例3]
銅(高純度化学研究所製)、ビスマス(高純度化学研究所製)、K0.06Bi0.942.88、Ce0.92Sr0.082.92およびアセチレンブラック(電気化学工業製)を、質量比が53.2:17.8:14.4:12.4:2.2となるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、正極合材を得た。
【0064】
[実施例4]
銅(高純度化学研究所製)、ビスマス(高純度化学研究所製)、K0.06Bi0.942.88およびアセチレンブラック(電気化学工業製)を、質量比が37.3:29.3:31.2:2.2となるように秤量した後、メノウ製の乳鉢および乳棒を用いて、約1時間予備混合して、原料混合粉末を得た。
【0065】
得られた原料混合粉末に対して、目開き500μmのステンレス鋼製のメッシュを用いて、分級処理を実施した。次に、メッシュを通過しなかった原料混合粉末を、メノウ製の乳鉢および乳棒を用いて、混合した後に分級処理を実施する操作を、全ての原料混合粉末がメッシュを通過するまで実施した。
【0066】
なお、原料の秤量、予備混合および分級処理は、フッ化物の吸湿および銅の酸化を防止するため、パージ式(DBO型)のグローブボックス(美和製作所製)内で実施した。
【0067】
グローブボックスから、分級処理後の原料混合粉末が封入された密閉式パウダーホッパーを取り出し、高周波誘導熱プラズマナノ粒子合成装置TP-40020NPS(日本電子製)に接続した。次に、プラズマトーチにアルゴンガスを供給し、熱プラズマにより原料混合粉末を溶融させて原料溶融体とするとともに、減圧環境のチャンバー内に原料溶融体を噴霧した。チャンバー内に噴霧された原料溶融体は、冷却工程を経て、ナノ粒子化され、複合化物(Cu-Bi)、K0.06Bi0.942.88およびアセチレンブラックを含む正極合材となった。続いて、排気フィルターで正極合材を捕集した後、排気フィルターの上流および下流をバルブで遮断してグローブボックス内へ搬送し、正極合材を回収した。
【0068】
[実施例5]
0.06Bi0.942.88の代わりに、Ce0.92Sr0.082.92を使用した以外は、実施例1と同様にして、正極合材を得た。
【0069】
[比較例1]
銅(高純度化学研究所製)の代わりに、ビスマス(高純度化学研究所製)を使用した以外は、実施例5と同様にして、正極合材を得た。
【0070】
[フッ化物イオン二次電池の作製]
実施例1~5および比較例1の正極合材を使用して、フッ化物イオン二次電池を作製した。
【0071】
負極活物質としての、PbSnFと、導電助剤としての、アセチレンブラック(電気化学工業製)を、質量比70:5で混合し、負極合材を得た。
【0072】
内径10mmのアルミナ管を使用して、セルを作製した。具体的には、まず、固体電解質として、Ce0.95Sr0.052.85150mgに740MPaの圧力を印加して、固体電解質層を形成した。次に、固体電解質層の一方の面に、正極合材10mgと、正極集電体としての金箔と、を配置し、固体電解質層の他方の面に、負極合材20mgと、負極集電体としての、アルミニウム箔を配置した後、185MPaの圧力で一軸プレスし、セルを得た。次に、約340MPaの拘束圧を印加した状態で、密閉したガラス容器にセルを封入した。
【0073】
[充放電容量]
ガラス容器内を真空ポンプにより減圧し、セル温度140℃で、セルの定電流充放電試験を実施した。具体的には、ポテンショ/ガルバノスタットSI1287/1255B(ソーラトロン製)を用いて、電流値を120μAとして、電圧が1.5V(vs.Pb/PbF)になるまで充電した後、電流値を40μAとして、再度電圧が1.5Vになるまで充電した。次に、電流値を120μAとして、電圧が-0.5Vになるまで放電した後、電流値を40μAとして、再度電圧が-0.5Vになるまで放電した。このとき、充放電時のセル温度を制御するために、小型環境試験器SU261(エスペック製)にセルを入れて定電流充放電試験を実施した。
【0074】
図6に、実施例3のセルの充放電曲線を示す。
【0075】
表1に、正極合材層の単位質量当たりのセルの放電容量の評価結果を示す。なお、表1において、ABは、アセチレンブラックを意味する。
【0076】
【表1】
【0077】
表1から、実施例1~5のセルは、正極合材層の単位質量当たりの放電容量が高いことがわかる。これに対して、比較例1のセルは、正極合材層が第1活物質を含まないため、正極合材層の単位質量当たりの放電容量が低い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6