(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136997
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】無線電力伝送装置
(51)【国際特許分類】
H02J 50/05 20160101AFI20240927BHJP
【FI】
H02J50/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048326
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】591113024
【氏名又は名称】株式会社近藤製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 昌也
(72)【発明者】
【氏名】川原 泰正
(72)【発明者】
【氏名】近藤 拓也
(57)【要約】
【課題】高い電力伝送効率と装置の小型化との両立を図ることができる、無線電力伝送装置を提供する。
【解決手段】無線電力伝送装置1は固定側ユニット2と回転側ユニット3とを有する。固定側ユニット2は固定側第1電極21と固定側第2電極22とを有する。回転側ユニット3は回転側第1電極31と回転側第2電極32とを有する。固定側第1電極21と回転側第1電極31とが互いの主面同士を対向させて、第1電極対11が形成されている。固定側第2電極22と回転側第2電極32とが互いの主面同士を対向させて、第2電極対12が形成されている。第1電極対11を構成する固定側第1電極21及び回転側第1電極31は、主面の法線方向が回転軸4に沿う状態にて、回転軸4の周りに周状に配置されている。第2電極対12を構成する固定側第2電極22及び回転側第2電極32は、主面が回転軸4に沿う状態にて、回転軸4の周りに周状に配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側ユニットと、該固定側ユニットに対して回転軸を中心に回転する回転側ユニットと、を有し、
上記固定側ユニットは、互いに電気的に絶縁された固定側第1電極と固定側第2電極とを有し、
上記回転側ユニットは、互いに電気的に絶縁された回転側第1電極と回転側第2電極とを有し、
上記固定側第1電極と上記回転側第1電極とが、互いの主面同士を対向させて配置されることにより電界結合されて、第1電極対が形成され、
上記固定側第2電極と上記回転側第2電極とが、互いの主面同士を対向させて配置されることにより電界結合されて、第2電極対が形成され、
上記第1電極対を構成する上記固定側第1電極及び上記回転側第1電極は、主面の法線方向が上記回転軸に沿う状態にて、上記回転軸の周りに周状に配置されており、
上記第2電極対を構成する上記固定側第2電極及び上記回転側第2電極は、主面が上記回転軸に沿う状態にて、上記回転軸の周りに周状に配置されている、無線電力伝送装置。
【請求項2】
上記第1電極対を構成する上記固定側第1電極及び上記回転側第1電極は、中空円盤形状を有し、上記第2電極対を構成する上記固定側第2電極及び上記回転側第2電極は、円筒形状を有する、請求項1に記載の無線電力伝送装置。
【請求項3】
上記第2電極対は、上記第1電極対の内周端と外周端との中央よりも、外周側に配置されている、請求項1又は2に記載の無線電力伝送装置。
【請求項4】
上記第2電極対は、上記第1電極対の外周端よりも外周側に配置されている、請求項3に記載の無線電力伝送装置。
【請求項5】
上記固定側ユニットは、流体を流通させる固定側流路を有し、上記回転側ユニットは、流体を流通させる回転側流路を有し、上記固定側流路と上記回転側流路とは、上記固定側ユニットと上記回転側ユニットとの間の形成された環状流路を介して、互いに連通している、請求項1又は2に記載の無線電力伝送装置。
【請求項6】
上記固定側ユニットは、ロボットアームのアーム本体に対して周方向に固定されており、上記回転側ユニットには、上記ロボットアームのチャック部が固定されており、上記回転側ユニットは、上記アーム本体に対して、上記チャック部と共に上記回転軸を中心に回転するよう構成されている、請求項1又は2に記載の無線電力伝送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線電力伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固定側ユニットと、該固定側ユニットに対して回転する回転側ユニットとを備えた機構において、固定側ユニットと回転側ユニットとの間で電力伝送を行う技術が提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、固定側ユニットに設けた電極と、回転側ユニットに設けた電極とを、電界結合させることで、固定側ユニットと回転側ユニットとの間の電力伝送を行う構成が提案されている。
【0003】
すなわち、上記の構成は、固定側ユニットに設けた2つの電極のそれぞれを、回転側ユニットに設けた2つの電極のそれぞれに対向させている。すなわち、互いに対向配置された電極からなる電極対が二対形成されている。これにより、非接触の無線にて、固定側ユニットと回転側ユニットとの間で、電力伝送を行うことができる。このような電界結合方式の無線電力伝送は、例えば電磁誘導方式の無線電力伝送等に比べて、装置の小型化、軽量化、簡素化の観点で、有利となりやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-107840号公報
【特許文献2】特開2015-186294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された構成も、特許文献2に開示された構成も、以下の観点において課題がある。
特許文献1に開示された電力伝送回転体のように、二対の電極を回転軸の軸方向に並べて配置すると、電界結合部の占有領域が軸方向に大きくなり、装置の大型化を招いてしまう。また、特許文献2に開示された無線電力伝送装置のように、二対の電極を回転軸の外側に、径方向に並べて配置すると、電界結合部の占有領域が径方向に大きくなり、装置の大型化を招いてしまう。
【0006】
いずれの場合においても、装置の大型化を抑制するために、電極面積を小さくすると、電力伝送効率が低下してしまう。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、高い電力伝送効率と装置の小型化との両立を図ることができる、無線電力伝送装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、固定側ユニットと、該固定側ユニットに対して回転軸を中心に回転する回転側ユニットと、を有し、
上記固定側ユニットは、互いに電気的に絶縁された固定側第1電極と固定側第2電極とを有し、
上記回転側ユニットは、互いに電気的に絶縁された回転側第1電極と回転側第2電極とを有し、
上記固定側第1電極と上記回転側第1電極とが、互いの主面同士を対向させて配置されることにより電界結合されて、第1電極対が形成され、
上記固定側第2電極と上記回転側第2電極とが、互いの主面同士を対向させて配置されることにより電界結合されて、第2電極対が形成され、
上記第1電極対を構成する上記固定側第1電極及び上記回転側第1電極は、主面の法線方向が上記回転軸に沿う状態にて、上記回転軸の周りに周状に配置されており、
上記第2電極対を構成する上記固定側第2電極及び上記回転側第2電極は、主面が上記回転軸に沿う状態にて、上記回転軸の周りに周状に配置されている、無線電力伝送装置にある。
【発明の効果】
【0009】
上記無線電力伝送装置は、上記第1電極対と上記第2電極対とが、上記の状態にて配置されている。それゆえ、各電極の面積を充分に確保しつつ、上記第1電極対及び上記第2電極対の占有領域を小さくしやすい。その結果、高い電力伝送効率と装置の小型化との両立を図ることができる。
【0010】
以上のごとく、上記態様によれば、高い電力伝送効率と装置の小型化との両立を図ることができる、無線電力伝送装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1における、無線電力伝送装置の断面説明図。
【
図3】実施形態1における、第1電極対及び第2電極対の斜視説明図。
【
図4】実施形態1における、ロボットアームの説明図。
【
図5】実施形態1における、アーム本体とチャック部との間に無線電力伝送装置を配設した状態の説明図。
【
図6】比較例1における、第1電極対及び第2電極対の斜視説明図。
【
図7】比較例1における、無線電力伝送装置の断面説明図。
【
図8】比較例1における、電界結合の状態を説明する説明図。
【
図9】実施形態1における、電界結合の状態を説明する説明図。
【
図10】比較例2における、無線電力伝送装置の断面説明図。
【
図11】実施形態2における、ロボットアームに組み込まれた無線電力伝送装置の断面説明図。
【
図12】実施形態2における、無線電力伝送装置を含む送電側と受電側との回路図。
【
図13】実験例1における、第1電極対及び第2電極対の各部の寸法を示す説明図。
【
図16】実験例2における、無線電力伝送装置を含む電力伝送回路の回路図。
【
図17】実験例2における、無線電力伝送装置の回路図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「主面の法線方向が上記回転軸に沿う状態」とは、主面の法線が回転軸と実質的に平行であることを意味する。例えば、主面の法線と回転軸との間の角度が、10°以下程度となる状態を意味する。また、「主面が上記回転軸に沿う状態」とは、主面が回転軸と実質的に平行であることを意味する。例えば、主面と回転軸との間の角度が、10°以下程度となる状態を意味する。
【0013】
なお、本明細書において、単に軸方向というときは、特に断らない限り、上記回転軸の軸方向をいうものとする。また、単に径方向というときは、特に断らない限り、上記軸方向に直交する方向をいうものとする。また、単に周方向というときは、特に断らない限り、上記軸方向を中心とする円周方向をいうものとする。
【0014】
上記無線電力伝送装置において、上記第1電極対を構成する上記固定側第1電極及び上記回転側第1電極は、中空円盤形状を有し、上記第2電極対を構成する上記固定側第2電極及び上記回転側第2電極は、円筒形状を有するものとすることができる。この場合には、電力伝送効率をより高くすることができる。
【0015】
また、上記第2電極対は、上記第1電極対の内周端と外周端との中央よりも、外周側に配置されているものとすることができる。この場合には、第2電極対を、回転軸から遠ざけることができる。これにより、固定側第2電極及び回転側第2電極の面積を大きくすることができ、電力伝送効率を高くしやすくなる。また、回転軸が金属からなる場合において、回転軸と第2電極対を構成する電極との間の静電容量を小さくすることができる。かかる観点からも、電力伝送効率を高くしやすくなる。
【0016】
また、上記第2電極対は、上記第1電極対の外周端よりも外周側に配置されている、ものとすることができる。この場合には、より一層、第2電極対を、回転軸から遠ざけることができ、電力伝送効率を高くしやすくなる。
【0017】
また、上記固定側ユニットは、流体を流通させる固定側流路を有し、上記回転側ユニットは、流体を流通させる回転側流路を有し、上記固定側流路と上記回転側流路とは、上記固定側ユニットと上記回転側ユニットとの間の形成された環状流路を介して、互いに連通しているものとすることができる。この場合には、固定側ユニットと回転側ユニットとの間で、流体を流通させつつ、固定側ユニットと回転側ユニットとの間の電力伝送を効率よく行うことができる。
【0018】
また、上記固定側ユニットは、ロボットアームのアーム本体に周方向に固定されており、上記回転側ユニットには、上記ロボットアームのチャック部が固定されており、上記回転側ユニットは、上記アーム本体に対して、上記チャック部と共に上記回転軸を中心に回転するよう構成されているものとすることができる。この場合には、ロボットアームの小型化を容易にすると共に、アーム本体とチャック部との間の電力伝送を効率的に行うことができる。なお、ロボットアームにおいては、その軸方向における大型化は、力学的モーメントの増大を招く。かかる観点において、ロボットアームにおいては、アーム本体の軸方向の小型化の要請がある。そこで、上述の第1電極対及び第2電極対の配置構成を採用することで、軸方向の体格を抑制することができる。
【0019】
(実施形態1)
無線電力伝送装置の実施形態につき、
図1~
図5を参照して説明する。
本形態の無線電力伝送装置1は、
図1、
図2に示すごとく、固定側ユニット2と、固定側ユニット2に対して回転軸4を中心に回転する回転側ユニット3と、を有する。固定側ユニット2は、互いに電気的に絶縁された固定側第1電極21と固定側第2電極22とを有する。
【0020】
回転側ユニット3は、互いに電気的に絶縁された回転側第1電極31と回転側第2電極32とを有する。固定側第1電極21と回転側第1電極31とが、互いの主面同士を対向させて配置されることにより電界結合されて、第1電極対11が形成されている。固定側第2電極22と回転側第2電極32とが、互いの主面同士を対向させて配置されることにより電界結合されて、第2電極対12が形成されている。
【0021】
図2、
図3に示すごとく、第1電極対11を構成する固定側第1電極21及び回転側第1電極31は、主面の法線方向が回転軸4に沿う状態にて、回転軸4の周りに周状に配置されている。第2電極対12を構成する固定側第2電極22及び回転側第2電極32は、主面が回転軸4に沿う状態にて、回転軸4の周りに周状に配置されている。
【0022】
図2、
図3に示すごとく、第1電極対11を構成する固定側第1電極21及び回転側第1電極31は、中空円盤形状を有する。第2電極対12を構成する固定側第2電極及22及び回転側第2電極32は、円筒形状を有する。
【0023】
固定側ユニット2は、固定側第1電極21及び固定側第2電極22を保持する樹脂製の固定側保持部材23を有する。回転側ユニット3は、回転側第1電極31及び回転側第2電極32を保持する樹脂製の回転側保持部材33を有する。固定側保持部材23及び回転側保持部材33は、例えば、1GHzにおける誘電正接が1%以下であるものとすることが好ましい。或いは、固定側保持部材23及び回転側保持部材33は、例えば、1GHzにおける誘電率が20以下であるものとすることが好ましい。誘電正接と誘電率との少なくとも一方が上記条件を満たすことで、無線電力伝送装置1の電力伝送効率の最大効率ηmaxを90%以上とすることができる。固定側保持部材23及び回転側保持部材33は、例えば、ウレタンアクリレート、テフロン(登録商標)、シリコン、アクリル等とすることができる。
【0024】
以下において、適宜、軸方向における固定側第1電極21に対する回転側第1電極31が配される側(すなわち、
図1における下側)を、先端側、その反対側を基端側として、説明する。
【0025】
図1、
図2に示すごとく、回転側保持部材33は、回転軸4に固定されている。回転軸4は、金属製である。回転側保持部材33は、略円柱形状を有する。固定側保持部材23は、回転側保持部材33を内側に収容する凹状部233を有する。凹状部233は、回転側保持部材33の基端側の底面331に軸方向に対向する対向面231と、回転側保持部材33の外周面332に径方向に対向する内周面232とを有する。
【0026】
固定側保持部材23の対向面231に、固定側第1電極21が形成されている。固定側保持部材23の内周面232に、固定側第2電極22が形成されている。回転側保持部材33の基端側の底面331に、回転側第1電極31が形成されている。回転側保持部材33の外周面332に、回転側第2電極32が形成されている。これらの電極は、例えば、金属メッキ、金属蒸着等にて、固定側保持部材23及び回転側保持部材33の各部に成膜されている。
【0027】
固定側保持部材23は、回転軸4を挿通する挿通孔234を有する。回転軸4は、挿通孔234に対して遊嵌されており、固定側保持部材23に対して、回転軸4が回転可能に配設されている。すなわち、回転軸4は、回転側ユニット3に固定され、固定側ユニット2に対して回転可能に配設されている。
【0028】
本形態の無線電力伝送装置1は、
図4に示すような、ロボットアーム100に設けてある。ロボットアーム100は、ロボット本体101と、アーム本体102と、チャック部103とを有する。本形態において、アーム本体102は、関節部を介して接続された複数の分割アーム部102a、102b、102cを有する。
【0029】
図4、
図5に示すごとく、無線電力伝送装置1の固定側ユニット2は、ロボットアーム100のアーム本体102(より具体的には、チャック部103に最も近い側の分割アーム部102aの本体)に固定されている。無線電力伝送装置1の回転側ユニット3には、ロボットアーム100のチャック部103が固定されている。回転側ユニット3は、アーム本体102(より具体的には、チャック部103に最も近い側の分割アーム部102aの本体)に対して、チャック部103と共に回転するよう構成されている。
【0030】
このように、ロボットアーム100のロータリージョイント部RJに本形態の無線電力伝送装置1を適用することができる。これにより、アーム本体102側からチャック部103側への電力伝送を行うことができる。すなわち、アーム本体102とチャック部103とは、互いに回転可能な状態にて接続されている。この互いに回転するアーム本体102とチャック部103とを、非接触の電極同士の間にて、無線電力伝送を行うことができる。
【0031】
また、本形態の無線電力伝送装置1は、電力のみならず、電気信号の伝送を行うこともできる。例えば、チャック部103に設けたセンサの信号を、無線電力伝送装置1を介して、アーム本体102側へ伝送するよう構成することもできる。具体的には、後述する実施形態において説明する。
【0032】
図1~
図3に示すごとく、本形態において、第2電極対12は、第1電極対11の内周端111と外周端112との中央よりも、外周側に配置されている。また、第2電極対12は、第1電極対11の外周端112よりも外周側に配置されている。また、軸方向からみたとき、第2電極対12の内周半径と、第1電極対11の外周半径との差は、第2電極対12の径方向幅以下とすることができる。
【0033】
また、第1電極対11は、
図1に示すように、径方向から見たとき、第2電極対12と重ならない位置に設けてある。さらに、径方向から見たときの、第1電極対11と第2電極対12との間の軸方向距離は、第1電極対11の軸方向幅よりも小さいものとすることができる。
【0034】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
上記無線電力伝送装置1は、第1電極対11と第2電極対12とが、上記の状態にて配置されている。それゆえ、各電極の面積を充分に確保しつつ、第1電極対11及び第2電極対12の占有領域を小さくしやすい。その結果、高い電力伝送効率と装置の小型化との両立を図ることができる。
【0035】
すなわち、例えば、
図6、
図7に示す比較例1のように、第1電極対91と第2電極対92とが、いずれも軸方向に対向面を向けた状態にて配置される無線電力伝送装置9においては、径方向における装置の大型化を招くこととなる。この径方向の大型化を抑制するためには、例えば、第1電極対91及び第2電極対92の外径を小さくすることが考えられる。しかしながら、比較例1において、第1電極対91及び第2電極対92の外径を小さくすると、第1電極対91及び第2電極対12におけるそれぞれの対向面積が小さくなる。その結果、第1電極対91及び第2電極対92における静電容量C1(
図8参照)が小さくなってしまい、電力伝送効率を高くすることが困難となる。
【0036】
また、比較例1において、径方向の大型化を抑制するために、第1電極対91と第2電極対92との間の間隔を狭くすることも考えられる。しかしながら、この場合は、第1電極対91を構成する電極と第2電極対92を構成する電極との間の静電容量C2(
図8参照)が大きくなってしまう。この場合、その結果、無線電力伝送装置9においては、電力伝送効率の向上が困難となる。
【0037】
これに対して、本形態の無線電力伝送装置1においては、上述のように、第1電極対11と第2電極対12とを配置することで、径方向の大型化を招くことなく、第1電極対11の対向面積及び第2電極対12の対向面積を大きくすることができる(
図1~
図3参照)。それゆえ、第1電極対11における静電容量C1及び第2電極対12における静電容量C1(
図9参照)を、大きくすることができる。
【0038】
また、第1電極対11を構成する電極と第2電極対12を構成する電極との間の距離を特に近づけることなく、第1電極対11の対向面積及び第2電極対12の対向面積を大きくすることもできる。これにより、第1電極対11を構成する電極と第2電極対12を構成する電極との間の静電容量C2を抑制しつつ、第1電極対91及び第2電極対92における静電容量C1を大きくすることができる。つまり、不要な電界結合(静電容量C2)を抑制しつつ、必要な電界結合(静電容量C1)を充分に大きくすることができる(
図9参照)。
【0039】
また、第2電極対12は、第1電極対11の内周端111と外周端112との中央よりも、外周側に配置されている。これにより、第2電極対12を、回転軸4から遠ざけることができる。これにより、固定側第2電極22及び回転側第2電極32の面積を大きくすることができ、電力伝送効率を高くしやすくなる。また、回転軸4と第2電極対12を構成する電極との間の静電容量C4(
図9参照)を、より小さくすることができる。かかる観点からも、電力伝送効率を高くしやすくなる。
【0040】
また、第2電極対12は、第1電極対11の外周端112よりも外周側に配置されている。これにより、より一層、第2電極対12を、回転軸4から遠ざけることができ、電力伝送効率を高くしやすくなる。
【0041】
また、第1電極対11の外周側及び第2電極対12の外周側には、金属筐体が配置されていない。それゆえ、第1電極対11及び第2電極対12に対する不要な電界結合を抑制することができる。その結果、電力伝送効率を高くしやすくなる。
【0042】
すなわち、
図7、
図8に示すように、第1電極対91及び第2電極対92の外周側に、金属筐体93が配置されていると、この金属筐体93と第2電極対92との間に、静電容量C3が生じる。その結果、電力伝送効率の低下を招くおそれがある。これに対して、本形態の無線電力伝送装置1のように、金属筐体を設けないことで、電力伝送効率を向上させることができる。
【0043】
また、例えば、
図10に示すごとく、第1電極対81と第2電極対82とを、回転軸4の軸方向に並べて配置する(この構成を比較例2という。)と、電界結合部の占有領域が軸方向に大きくなり、装置の大型化を招いてしまう。これに対して、本形態の無線電力伝送装置1(
図1~
図3参照)のような第1電極対11と第2電極対12との配置とすることで、軸方向の占有領域も抑制することができる。
【0044】
また、本形態の無線電力伝送装置1は、
図4、
図5に示すごとく、ロボットアーム100に適用されている。これにより、ロボットアーム100の小型化を容易にすると共に、アーム本体102とチャック部103との間の電力伝送を効率的に行うことができる。なお、一般に、ロボットアームにおいては、その軸方向の大型化は、力学的モーメントの増大を招く。かかる観点から、ロボットアームにおいては、アーム本体の軸方向の小型化の要請がある。そこで、上述の第1電極対11及び第2電極対12の配置構成を採用することで、軸方向の体格を抑制し、力学的モーメントを抑制することができる。
【0045】
以上のごとく、本形態によれば、高い電力伝送効率と装置の小型化との両立を図ることができる、無線電力伝送装置を提供することができる。
【0046】
(実施形態2)
本形態においては、
図11に示すごとく、ロボットアーム100のアーム本体102とチャック部103との接続部分に設けた無線電力伝送装置1の、より具体的な構成につき、説明する。
【0047】
無線電力伝送装置1の固定側ユニット2は、略円環形状に形成された固定側本体部20を有する。固定側本体部20は、軸方向の先端側における外周側に、切欠凹部201を、円環状に有する。この切欠凹部201において固定側保持部材23が固定側本体部20に固定されている。固定側保持部材23に固定側第1電極21及び固定側第2電極22が保持されている点は、実施形態1と同様である。
【0048】
無線電力伝送装置1の回転側ユニット3は、固定側本体部20に対して回転可能に設けられた回転側本体部30を有する。回転側本体部30は、回転軸4と、その軸方向の両端に設けられた基端側フランジ341及び先端側フランジ342とを有する。回転軸4と基端側フランジ341及び先端側フランジ342とは、互いに一体的に形成されている。回転軸4は、固定側ユニット2の内周側に配置され、基端側フランジ341は、固定側ユニット2の基端側に配置され、先端側フランジ342は、固定側ユニット2の先端側に配置されている。
【0049】
回転側本体部30の先端側フランジ342の基端側面に、回転側保持部材33が固定されている。回転側保持部材33に回転側第1電極31及び回転側第2電極32が保持されている点は、実施形態1と同様である。
【0050】
回転側ユニット3は、回転側本体部30の基端側フランジ341において、アーム本体102の回転部104に固定されている。回転部104は、アーム本体102の内側において、図示しないモータの駆動力によって、軸周りに回転するよう構成されている。回転側ユニット3における回転側本体部30の先端側フランジ342に、チャック部103が固定されている。
【0051】
固定側ユニット2は、流体を流通させる固定側流路52を有する。回転側ユニット3は、流体を流通させる回転側流路53を有する。固定側流路52と回転側流路53とは、環状流路51を介して、互いに連通している。環状流路51は、固定側ユニット2と回転側ユニット3との間の形成された流路である。本形態において、これらの流路には、圧縮空気が流通する。
【0052】
固定側流路52は、固定側本体部20に形成されている。固定側流路52は、固定側本体部20の外周面と内周面とに開口し、両者を繋ぐように固定側本体部20の内部に形成されている。固定側本体部20の内周面と、回転側本体部30の回転軸4の外周面との間に、環状流路51が形成されている。固定側流路52は、内周側の開口を介して、環状流路51に接続されている。
【0053】
回転側流路53は、回転側本体部30に形成されている。回転側流路53は、回転側本体部30における回転軸4の外周面と、先端側フランジ342の外周面とに開口し、両者を繋ぐように回転側本体部30の内部に形成されている。回転側流路53は、回転軸4の外周面の開口を介して、環状流路51に接続されている。
【0054】
環状流路51は、複数のパッキン511によって気密封止されている。すなわち、軸方向に隣り合うパッキン511の間に、それぞれ環状流路51が形成されている。
図11においては、パッキン511は、5個配置されているので、環状流路51は、4個形成されていることとなる。図示を省略するが、複数の環状流路51のそれぞれに、固定側流路52と回転側流路53とが接続される。
【0055】
固定側流路52には、アーム本体102側に配設された固定側流体配管54が接続されている。すなわち、固定側本体部20の外周面に開口した固定側流路52の開口端に、固定側流体配管54が接続されている。固定側流体配管54は、例えば、圧縮ポンプ等に接続され、圧縮空気を固定側流路52へ送ることができるよう構成されている。
【0056】
回転側流路53には、チャック部103に接続された回転側流体配管55が接続されている。すなわち、回転側本体部30の先端側フランジ342の外周面に開口した回転側流路53の開口端に、回転側流体配管55が接続されている。これにより、圧縮空気は、固定側流体配管54、固定側流路52、環状流路51、回転側流路53、回転側流体配管55を介して、チャック部103に供給される。チャック部103に供給された圧縮空気は、チャック部103の動力源として利用することができる。なお、固定側流体配管54及び回転側流体配管55としては、例えば、ゴム、樹脂等の可撓性を有するチューブを用いることができる。
【0057】
固定側ユニット2には、固定側電気配線64が接続されている。固定側電気配線64は、絶縁被膜を備えた状態で、アーム本体102側から伸びている。すなわち、固定側電気配線64は、アーム本体102に部分的に係止されつつ、アーム本体102に沿って配設されている。
【0058】
固定側電気配線64は、固定側ユニット2に内蔵された固定側制御基板62に電気的に接続されている。固定側制御基板62は、固定側保持部材23に設けられている。固定側制御基板62は、固定側保持部材23の内部に封止されている。固定側制御基板62は、固定側第1電極21及び固定側第2電極22に電気的に接続されている。
【0059】
回転側ユニット3には、回転側電気配線65が接続されている。回転側電気配線65は、絶縁被膜を備えている。回転側電気配線65の一端は、チャック部103に取り付けられたセンサ等に電気的に接続されている。回転側電気配線65の他端は、回転側ユニット3に内蔵された回転側制御基板63に電気的に接続されている。回転側制御基板63は、回転側保持部材33に設けられている。回転側制御基板63は、回転側保持部材33の内部に封止されている。回転側制御基板63は、回転側第1電極31及び回転側第2電極32に電気的に接続されている。
【0060】
なお、固定側制御基板62及び回転側制御基板63は、例えば、回転軸4を中心とした略中空円盤状に形成されたものとすることができる。
【0061】
また、アーム本体102からは、回り止めブラケット131が突出し、回り止めブラケット131に回り止めブロック132が取り付けてある。固定側ユニット2には、回り止めブロック132に係合する係合部が設けてある(図示略)。係合部は、回り止めブロック132に対して、周方向に係合している。これにより、固定側ユニット2が、アーム本体102に対して、周方向に回転することを防いでいる。すなわち、係合部と回り止めブロック132とによって、アーム本体102に対して、固定側ユニット2が固定されている。なお、係合部が、回り止めブロック132を、周方向の両側から挟持するように係合させたり、回り止めブロック132が係合部を、周方向の両側から挟持するように係合させたりすることができる。
【0062】
このように、固定側ユニット2は、ロボットアーム100のアーム本体102に対して周方向に固定されている。また、上述のように、回転側ユニット3には、ロボットアーム100のチャック部103が固定されている。これにより、回転側ユニット3は、アーム本体102に対して、チャック部103と共に回転軸4を中心に回転するよう構成されている。
【0063】
チャック部103には、オートスイッチ等のセンサが設けてある。無線電力伝送装置1を介してチャック部103側に伝送された電力は、これらのセンサの動作電力として、利用することができる。
【0064】
図12に、無線電力伝送装置1を介した、送電側と受電側との電気回路の一例を示す。
同図に示すように、送電側において、直流電源711から、高周波インバータ回路712及びCPU713のそれぞれに、電力を供給する。高周波インバータ回路172に供給された電力は、高周波電力として整合回路714を経由して、無線電力伝送装置1に投入される。
【0065】
無線電力伝送装置1において無線電力伝送することで、受電側の整合回路721に、高周波電力が投入される。高周波電力は、整合回路721、整流回路722、DCDCコンバータ回路723を経由することで、直流電力に変換され、負荷724に供給される。負荷724としては、例えば、オートスイッチ等のセンサとすることができる。
【0066】
また、受電側に設置したセンサ725等の電気信号を、受電側のCPU726においてシリアル信号に変換し、重畳回路727を介して、無線電力伝送装置1に重畳させる。無線電力伝送装置1に重畳させた信号は、送電側におけるフィルタ回路715(ハイパスフィルタ回路もしくはローパスフィルタ回路)を介して、CPU713へ送られる。CPU713において、パラレル信号に変換されて、インターフェース716に出力される。
【0067】
このようにして、本形態の無線電力伝送装置1を介して、送電側(アーム本体102側)と受電側(チャック部103側)との間で、電力の授受を行うと共に、信号の授受を行うことができる。なお、整合回路714等、送電側の回路は、上述の固定側制御基板62に形成されている。また、整合回路721等、受電側の回路は、上述の回転側制御基板63に形成されている。
【0068】
その他は、実施形態1と同様であり、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0069】
(実験例1)
本例は、
図14、
図15に示すごとく、実施形態1に示した無線電力伝送装置1による電力伝送効率の最大効率ηmaxを評価した例である。
【0070】
評価対象としたの無線電力伝送装置1の基本的な構造は、実施形態1に示した通りである。第1電極対11と第2電極対12の各部の具体的な寸法は、
図13に示す通りである。すなわち、固定側第1電極21及び回転側第1電極31の内直径が46mm、外直径が76.5mmである。固定側第2電極22の外直径が80.7mm、回転側第2電極32の外直径が78.7mmである。第1電極対11及び第2電極対12は、それぞれの電極間距離を1.0mmとしている。第2電極対12の軸方向の幅は、12.4mmである。
【0071】
また、第2電極対12の基端と、第1電極対11の先端との間の、軸方向距離は1.0mmである。また、固定側第1電極21、固定側第2電極22、回転側第1電極31、回転側第2電極32は、いずれも、厚みが0.1mmである。また、回転軸4と固定側第1電極21及び回転側第1電極31との径方向距離は、10.5mmである。この無線電力伝送装置1について、電力伝送効率の最大効率ηmaxを、解析及び実測した。
【0072】
解析装置としては、CST社製MicrowaveStudioを用いた。解析結果を、
図14に示す。同図からわかるように、最大効率ηmaxの解析値は、広い周波数域において略一定であり、13.56MHzにおいて、98.83%と高い解析結果が得られた。
【0073】
また、最大効率ηmaxの実測は、高周波信号の測定機器であるベクトルネットワークアナライザを用いて無線電力伝送装置1のインピーダンスを測定し、それをηmaxへと変換し測定した。測定結果を、
図15に示す。同図からわかるように、概ね5MHz以上の領域において、最大効率ηmaxは、略一定であり、13.56MHzにおいて、97.11%と高い値が得られた。
このように、実施形態1に示した無線電力伝送装置1によれば、高い電力伝送効率の最大効率ηmaxが得られることが確認された。
【0074】
(実験例2)
本例は、
図18、
図19に示すごとく、実施形態1に示した無線電力伝送装置1を用いた電力伝送回路による電力伝送効率ηを評価した例である。
【0075】
図16に示すごとく、無線電力伝送装置1は、送電側と受電側とに接続される整合回路714、721と共に、電力伝送回路を構成する。本例においては、整合回路714は複数のキャパシタと複数のインダクタとによって構成され、整合回路721は複数のインダクタによって構成されている。各整合回路714、721におけるキャパシタの容量及びインダクタのインダクタンスを調整することにより、送信側と受信側との間のインピーダンス整合が図られる。
【0076】
図17に示すごとく、無線電力伝送装置1に入射される高周波電力(入射波)は、インピーダンス整合が図られていないと、矢印S11に示すように、無線電力伝送装置1の電界結合部において反射されてしまう。一方、インピーダンス整合が図られると、入射波は、無線電力伝送装置1の電界結合部を透過して、受電側へと送られる。この透過する電力の割合が高いほど、電力伝送効率ηが高いこととなる。
【0077】
電力伝送回路による電力伝送効率ηにつき、実験例1と同様に、解析と実測との双方を行った。解析結果を
図18に示し、実測結果を
図19に示す。これらの図から分かるように、いずれの場合にも、所定の伝送周波数(13.56MHz)において、高い電力伝送効率を得ることができる。すなわち、解析値としては、伝送周波数13.56MHzにおいて、電力伝送効率ηが97.29%という高い値が得られた。また、実測値としても、伝送周波数13.56MHzにおいて、電力伝送効率ηが95.13%という高い値が得られた。
【0078】
なお、第1電極対を構成する固定側第1電極及び回転側第1電極を、中空円盤状でなく、例えば、周方向の一部が切り欠かれた略C字形状としたり、周方向に複数に分割された状態としたりして、周状に配置されているものとすることもできる。また、第2電極対を構成する固定側第2電極及び回転側第2電極は、も円筒形状ではなく、例えば、周方向の一部が切り欠かれた略C字形状としたり、周方向に複数に分割された状態としたりして、周状に配置されているものとすることもできる。
【0079】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 無線電力伝送装置
11 第1電極対
12 第2電極対
2 固定側ユニット
21 固定側第1電極
22 固定側第2電極
3 回転側ユニット
31 回転側第1電極
32 回転側第2電極
4 回転軸