(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137006
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】マイタケ由来のβ-グルカンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20240927BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240927BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240927BHJP
A61K 31/716 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08B37/00 C
A61P37/04
A61P35/00
A61K31/716
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048337
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】521471198
【氏名又は名称】株式会社将軍まいたけジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(72)【発明者】
【氏名】大平 喜信
【テーマコード(参考)】
4C086
4C090
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA04
4C086EA20
4C086NA14
4C086ZB09
4C086ZB26
4C090AA04
4C090BA21
4C090BB02
4C090BB12
4C090BB33
4C090BB52
4C090BC02
4C090CA09
4C090CA19
4C090DA23
(57)【要約】
【課題】本発明はマイタケ由来のβ-グルカンを高抽出率で得るものである。
【解決手段】マイタケの菌糸体または子実体を35℃~60℃の温度帯を除いて乾燥し得られた乾燥物を粉砕加水して加圧下80℃以上の温度で抽出処理し、得られた抽出画分にアルコールを添加して析出する沈殿物を水に溶解し、さらにアルコールを添加して析出する沈殿物を乾燥させるマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイタケの菌糸体または子実体を35℃~60℃の温度帯を除いて乾燥し得られた乾燥物を粉砕加水して加圧下80℃以上の温度で抽出処理し、得られた抽出画分にアルコールを添加して析出する沈殿物を水に溶解し、さらにアルコールを添加して析出する沈殿物を乾燥させることを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法。
【請求項2】
マイタケの菌糸体または子実体を35℃~60℃の温度帯を除いて乾燥し得られた乾燥物を粉砕加水して加圧下80℃以上の温度で抽出処理し、得られた抽出画分にアルコールを添加して放置することにより浮遊する物質を除去し、上清を除いて析出する沈殿物を水に溶解し、さらにアルコールを添加して析出する沈殿物を乾燥させることを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法。
【請求項3】
マイタケの菌糸体または子実体を35℃~60℃の温度帯を除いて乾燥し、得られた乾燥物を粉砕し、水に懸濁して加圧下80℃以上の温度で抽出処理し、得られた抽出画分にアルコールを20%~70%の最終容量濃度になるように添加して1℃~35℃の温度で放置することにより浮遊する物質を除去し、上清を除いて析出する沈殿物を水に溶解し、さらにアルコールを75%~85%の最終容量濃度になるように添加し1℃~25℃で放置して析出する沈殿物を乾燥させることを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法。
【請求項4】
マイタケの菌糸体または子実体を35℃~60℃の温度帯を除いて乾燥し、得られた乾燥物を粉砕し、水に懸濁して1~2気圧下80℃以上の温度で抽出処理し、得られた抽出画分にアルコールを20%~70%の最終容量濃度になるように添加して1℃~10℃の温度で放置することにより浮遊する物質を除去し、上清を除いて析出する沈殿物を水に溶解し、さらにアルコールを75%~85%の最終容量濃度になるように添加し25℃程度で放置して析出する沈殿物を乾燥させることを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法。
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載のマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法において、35℃~60℃の温度帯を除いたマイタケの菌糸体または子実体の乾燥は、真空凍結乾燥、30℃以下の低温乾燥、80℃以上の高温乾燥のいずれかであることを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法。
【請求項6】
請求項1~4いずれか1項に記載のマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法において、アルコールを添加して析出する沈殿物の乾燥は、凍結乾燥、0℃~100℃の減圧乾燥、80℃~200℃の熱風乾燥のいずれかであることを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法。
【請求項7】
請求項1~4いずれか1項に記載のマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法において、β-グルカンの抽出率が1%(重量)~1.1%(重量)であることを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法。
【請求項8】
請求項1~4いずれか1項に記載のマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法において、マイタケ(Grifola frondosa)、白マイタケ(Grifola albicans Imaz.)、チョレイマイタケ(Dendropolyporus umbellatus)にいずれかを採用することを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイタケの菌糸体または子実体から抽出した免疫賦活性および抗腫瘍活性を有するマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで免疫賦活性および抗腫瘍活性を有するマイタケ由来のβ-グルカン、詳細には、β-1,6グルカン、β-1,3グルカンが知れており(詳細には、β-1,3主鎖、β-1,6分岐および、β-1,6主鎖、β-1,3分岐のグルカンが報告されている。)、その製造方法として特許第2859843号が提案されている。
【0003】
また、他にβ-グルカンの抽出精製方法として以下が知られている。
The Chemical Structure of an Antitumor Polysaccharide in Fruit Bodies
of Grifola
frondosa(Maitake)Chem.Pharm.Bull.35(3)1162-1168(1987)
【0004】
ところで、マイタケには免疫を亢進させる高分子画分に、α-グルカンおよびβ-グルカンが存在する。
【0005】
高分子α-グルカンについては、抗インフルエンザ活性で評価して、その効果が認められている(マイタケα-グルカンのインフルエンザ治療効果:日本醸造協会誌 108(6),401-412,2013)。
【0006】
また、抗がん効果(薬理効果)は、「マウス腫瘍における抗腫瘍免疫応答の刺激による経口投与されたマイタケα-グルカンの抗腫瘍活性」(PLOS ONE Published:March 9,2017)に示されている。
【0007】
この高分子α-グルカンはマイタケに内在するアミラーゼ(内在酵素)によって分解され、主に二糖類であるマルトースに分解される。したがって、この高分子のα-グルカンは、マイタケの内在酵素による分解により、免疫活性は低下する。
【0008】
一方、高分子β-グルカンは従来から、強力な抗がん作用が知られている(「マイタケ由来のβ-グルカンによるマウスの宿主介在抗腫瘍活性の増強」(Potentiation of Host-Mediated Antitumor Activity in Mice by β-Glucan Obtained from Grifola frondosa(Maitake))。なお、その他の論文はメモリアルスローン-ケタリングのホームページ、Maitakeの項のReferencesに詳しい(https://www.mskcc.org/cancer-care/integrative-medicine/herbs/maitake)。
【0009】
したがって、高分子β-グルカンが同様に内在酵素(β-グルカナーゼ)により分解されると、効果を示す高分子β-グルカンの量が減じてしまい、抽出物の免疫増強作用が弱くなる。
【0010】
ところで、高分子β-グルカンは水に溶解しにくく、電子顕微鏡下に観察すると粒状になっていることが確認されている。また、分子量の小さい水溶性β-グルカンは免疫亢進作用が認められない(「粒子状および可溶性酵母由来β-グルカンによる先天的および適応的抗腫瘍免疫応答を調節する異なる経路」(Differential pathways regulating innate and adaptive antitumor immune responses by particulate and soluble yeast-derived β-glucans)。
【0011】
したがって、大きな分子量のβ-グルカン(粒状)が内在酵素により分解されて低分子(水溶性)になると免疫亢進作用はなくなる。もちろん、全部分解されればグルコースとなり、全く免疫を亢進しないのは明白である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者は、種々の実験により、上記特許第2859843号にかかる製造方法によれば、想定した免疫賦活性および抗腫瘍活性のないβ-グルカンが得られる場合があり、品質の安定性に欠けると言う問題点を確認した。
【0014】
これは、上記特許第2859843号にかかる製造方法は、マイタケが含有するβグルカン分解酵素β-1,6グルカナーゼ(以下、「β-1,6グルカン分解酵素」という。)の活性温度45℃~50℃、β-1,3グルカナーゼ(以下、「β-1,3グルカン分解酵素」という。)の活性温度45℃での処理を含み、β-1,6グルカン分解酵素、β-1,3グルカン分解酵素の活性コントロールをしていないからである。
【0015】
すなわち、この活性温度を避けないと、これらの酵素活性により短時間で高分子物質であるβ-グルカンが低分子化してしまう。具体的には、「β-1,6グルカン分解酵素」、「β-1,3グルカン分解酵素」の活性温度を避けずに乾燥及び抽出を行った場合、高分子物質であるβ-グルカンがこれらの酸素活性により、減少または消失することを実験により確認した。
【0016】
本発明は上記問題点を解決したマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0018】
マイタケの菌糸体または子実体を35℃~60℃の温度帯を除いて乾燥し得られた乾燥物を粉砕加水して加圧下80℃以上の温度で抽出処理し、得られた抽出画分にアルコールを添加して析出する沈殿物を水に溶解し、さらにアルコールを添加して析出する沈殿物を乾燥させることを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法に係るものである。
【0019】
また、マイタケの菌糸体または子実体を35℃~60℃の温度帯を除いて乾燥し得られた乾燥物を粉砕加水して加圧下80℃以上の温度で抽出処理し、得られた抽出画分にアルコールを添加して放置することにより浮遊する物質を除去し、上清を除いて析出する沈殿物を水に溶解し、さらにアルコールを添加して析出する沈殿物を乾燥させることを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法に係るものである。
【0020】
また、マイタケの菌糸体または子実体を35℃~60℃の温度帯を除いて乾燥し、得られた乾燥物を粉砕し、水に懸濁して加圧下80℃以上の温度で抽出処理し、得られた抽出画分にアルコールを20%~70%の最終容量濃度になるように添加して1℃~35℃の温度で放置することにより浮遊する物質を除去し、上清を除いて析出する沈殿物を水に溶解し、さらにアルコールを75%~85%の最終容量濃度になるように添加し1℃~25℃で放置して析出する沈殿物を乾燥させることを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法に係るものである。
【0021】
また、マイタケの菌糸体または子実体を35℃~60℃の温度帯を除いて乾燥し、得られた乾燥物を粉砕し、水に懸濁して1~2気圧下80℃以上の温度で抽出処理し、得られた抽出画分にアルコールを20%~70%の最終容量濃度になるように添加して1℃~10℃の温度で放置することにより浮遊する物質を除去し、上清を除いて析出する沈殿物を水に溶解し、さらにアルコールを75%~85%の最終容量濃度になるように添加し25℃程度で放置して析出する沈殿物を乾燥させることを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法に係るものである。
【0022】
また、請求項1~4いずれか1項に記載のマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法において、35℃~60℃の温度帯を除いたマイタケの菌糸体または子実体の乾燥は、真空凍結乾燥、30℃以下の低温乾燥、80℃以上の高温乾燥のいずれかであることを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法に係るものである。
【0023】
また、請求項1~4いずれか1項に記載のマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法において、アルコールを添加して析出する沈殿物の乾燥は、凍結乾燥、0℃~100℃の減圧乾燥、80℃~200℃の熱風乾燥のいずれかであることを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法に係るものである。
【0024】
また、請求項1~4いずれか1項に記載のマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法において、β-グルカンの抽出率が1%(重量)~1.1%(重量)であることを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法に係るものである。
【0025】
また、請求項1~4いずれか1項に記載のマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法において、マイタケ(Grifola frondosa)、白マイタケ(Grifola albicans Imaz.)、チョレイマイタケ(Dendropolyporus umbellatus)にいずれかを採用することを特徴とするマイタケ由来のβ-グルカンの製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明は上述のようにしたから、高い免疫賦活性および抗腫瘍活性を有するマイタケ由来のβ-グルカンを安定的に製造することができる方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】比較例の乾燥マイタケ粉末の水抽出画分に関するチャートである。
【
図2】実施例1の乾燥マイタケ粉末の水抽出画分に関するチャートである。
【
図3】実施例2の乾燥マイタケ粉末の水抽出画分に関するチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
マイタケの菌糸体または子実体を35℃~60℃の温度帯を除いて乾燥し、得られた乾燥物を粉砕し、水に懸濁して1気圧~2気圧下100℃以上の温度で抽出処理し、得られた抽出画分にアルコールを20%~70%の最終容量濃度になるように添加して1℃~10℃の温度で放置することにより浮遊する物質を除去し、上清を除いて析出する沈殿物を水に溶解し、さらにアルコールを75%~85%の最終容量濃度になるように添加し25℃程度で放置して析出する沈殿物を乾燥させてマイタケ由来のβ-グルカンを得る。
【0029】
使用するマイタケは、マイタケ(Grifola frondosa)、白マイタケ(Grifola albicans Imaz.)、チョレイマイタケ(Dendropolyporus umbellatus)いずれでも良い。
【0030】
生マイタケは呼吸しているため、発熱して劣化が進んでしま、また、経時的にタンパク質分解酵素が働くため、適期収穫と収穫後速やかに乾燥作業を進める事で有効成分が安定する。
【0031】
マイタケは90%(重量)が水分である。したがって、乾燥させると1/10の重量となるが、この乾燥処理の温度はβ-1,6グルカン分解酵素、β-1,3グルカン分解酵素の至適温度帯35℃~60℃を避けなければならない。
【0032】
以下はすべてβ-1,6グルカン分解酵素、β-1,3グルカン分解酵素の至適温度を避ける乾燥方法である。
【0033】
マイタケは真空凍結乾燥方法により、0℃以下の温度で乾燥させたものを使用すれば酵素活性は生じない。
【0034】
また、低温乾燥(乾燥室温度30℃以下)でもよく、その場合、湿度15%~50%の空気を吹き込む。これにより気化熱でマイタケは室温25℃位で乾燥するため、酵素活性は低い。
【0035】
また、高温乾燥させる場合は、前記至適温度を避け、80℃低湿度空気(15%~50%)下、短時間(3~6時間程度)で乾燥させれば酵素の至適温度を避けることができる。
【0036】
β-1,6グルカン分解酵素の至適温度は45℃~50℃であるから、処理は、至適温度付近の温度帯35℃~60℃を避ける。また、β-1,3グルカン分解酵素の至適温度は45℃であるから、処理は、45℃付近を避ける。すなわち、35℃以下または60℃以上で処理する。高分子β-グルカン(100万以上)が各分解酵素によって分解し、機能を有する高分子β-グルカンが減少または消失してしまうことを防ぐためである。したがって、上記β-グルカン分解酵素が働く至適温度帯35℃~60℃を避ける処理が必須となる。
【0037】
80℃以上の温度で抽出処理する際の加圧は、1気圧~2気圧で行う。2気圧の場合、水は121℃まで上昇するため、高分子グルカン類の抽出率が上昇するとともに、熱に強い芽胞菌なども死滅させることができる。なお、1気圧の場合は100℃以上の温度で抽出処理をする。100℃未満では抽出率が低下するからである。
【0038】
具体的には、抽出は抽出槽内の水を85℃以上まで加温してから上記マイタケ乾燥粉末を抽出槽(乾燥マイタケ重量の5倍から50倍の湯)中に投入することで酵素活性は抑えられる。抽出時の湯量は、マイタケ粉末の抽出は、5倍から50倍程度、望ましくは7倍から15倍が良い。
【0039】
抽出槽内の温度は、β-1,6グルカン分解酵素、β-1,3グルカン分解酵素の至適温度帯とならないように80℃を下回らないようにする。なお、80℃以上で投入することにより、β-1,6グルカン分解酵素、β-1,3グルカン分解酵素は失活する。
【0040】
抽出液に加える20%~70%容量濃度のエタノールは、浮遊物(免疫抑制物質を含む。)を除去するため、および低分子物質(単糖、オリゴ糖やアミノ酸、オリゴタンパクなど)の除去のためである。この処理は1℃~35℃で行うが、浮遊物が再び溶け込まないように1℃~10℃程度が望ましい。
【0041】
また、2回目のエタノールの添加は、75%~85%の容量濃度においては、主に高分子α-グルカンや核酸系物質は溶解しているため、これらを除くために行う。この処理は1℃~25℃程度で行う。
【0042】
高分子β-グルカンは沈殿するので、上清は遠心分離後に除き、沈殿物からβ-グルカンを得る。
【0043】
このようにして得たβ‐グルカンを乾燥する場合、200℃以上の熱風を噴霧して乾燥させると焦げるため、β-グルカンが変質して機能が低下する。能率は落ちるが、凍結乾燥、減圧乾燥(0℃~100℃程度)、あるいは80℃~200℃の熱風、望ましくは200℃程度(具体的な機器はスプレードライヤー)で乾燥させれば、β-グルカンの機能は低下しない。
【0044】
比較例は、β-1,6グルカン分解酵素、β-1,3グルカン分解酵素の至適温度帯を避けない処理をした場合(
図1参照)、実施例1、2はβ-1,6グルカン分解酵素、β-1,3グルカン分解酵素の至適温度帯を避けた処理をした場合である(
図2、
図3参照)。
【0045】
消失実験は、β-1,6グルカン分解酵素、β-1,3グルカン分解酵素の至適温度を避けないと12時間以内でβ-グルカンが減少または消失することを確認する実験である(
図4~
図8参照)。
【0046】
上清ではβ-グルカンが溶解しているためHPLCで測定できるが、最終的に得た画分は水に不溶のためHPLCでは測定できない。なお、最終的に得た画分は核磁気共鳴スペクトル測定でβ-グルカンと同定している。
【0047】
<比較例>
β-1,6グルカン分解酵素、β-1,3グルカン分解酵素の至適温度帯35℃~60℃を避けずに得たマイタケ粉末を使用する。すなわち、生マイタケを室温から徐々に温度を上げ85℃くらいにし、1日程度かけて乾燥させたマイタケ粉末からβ-グルカンを取得した。具体的には以下のとおり。
【0048】
(1)熱風乾燥マイタケ160gを室温の1.6Lの水に懸濁し、室温でオートクレー
ブに入れた後に昇温し、121℃、30分間加熱抽出を行った。
【0049】
(2)懸濁液を遠心分離し(7,500rpm、15分間)、上清を得た。この上清を
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、β-グルカンは保
持時間6分程度に出現するが、ピークは小さかった。即ち、分解されたことが分
かる(
図1参照)。
【0050】
詳細は以下のとおり。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)島津製作所製
HPLC本体:SCL-10A vp
カラムオーブン:CTO-10AS vp
UV:SPD-20A
示唆屈折率検出器:RID-10A
ポンプ:LC-20AT
デガッサー(溶媒に含まれる気体発生を防ぐ装置):DGU-20A3
HPLC分析条件:溶離液:0.1M NaN03(0.02% NaN3)水溶
液
分析カラム:SB-806M HQ(カラムオーブン温度:40.0℃)
流速:1,000ml/min
【0051】
上記示唆屈折計検出器は紫外線検出器の様に物質の紫外線吸収波長によるピーク
の増減が変化することがなく、また、ピークの大きさが物質の量を示すものであ
る。
【0052】
(3)上記上清を850mlまで濃縮し、同量のエタノールを撹拌しながら徐々に加え
、室温で静置した。
【0053】
(4)出現した浮遊物(フラクション)をデカンテーションで除き、500mlの遠沈
管2本に均等に分けて遠心分離し(10,000rpm、20分間)、沈殿物を
18.3g(湿重量)得た。
【0054】
(5)遠心後の上清はHPLCを測定した。
【0055】
(6)得られた上記沈殿物18.3gを366mlの水を加え、ホットスターラ(目盛
120℃)で溶解し、温度が室温に低下(約40℃)した後に92.5ml(最
終EtOH濃度20%)の水を加え、室温撹拌後に遠心分離した(10,000
rpm、20分間)。
【0056】
(7)遠心分離し上清を除去し、12.83g(湿重量)の沈殿物を得た。
【0057】
(8)上記(7)の沈殿物を121℃、10分間加熱し、溶解ならびにエタノールを減
圧化に留去し、冷却後、凍結乾燥した(収量0.77g、抽出率0.48%;β-
グルカン画分)。この画分は、核磁気共鳴スペクトルにより、β-グルカン画分
であることを確認した。
【0058】
<実施例1>
β-1,6グルカン分解酵素、β-1,3グルカン分解酵素の至適温度帯を避けるため、生マイタケを凍結乾燥した乾燥マイタケ粉末からβ-グルカンを取得した。具体的には以下のとおり。
【0059】
(1)81.3gの凍結乾燥舞茸を撹拌下に813mlの100℃のお湯に投入する。
【0060】
(2)80℃に予熱したオートクレーブで121℃、30分抽出する。この抽出方法に
より、β-1,6グルカン分解酵素、β-1,3グルカン分解酵素の内在酵素は失
活する。
【0061】
(3)室温冷却後に7,500rpmで15分間遠心分離した。
【0062】
(4)上清をグラスフィルターペーパー(GFP、φ60mm)でろ過し、HPLCで
測定したところ、β-グルカンは保持時間6分程度に出現するが、ピークの高さ
は比較例より高い(
図2参照)。
【0063】
(5)上清を650mlまで濃縮し、エタノールを975ml(最終エタノール濃度6
0%)加えて冷蔵庫(5℃)で、一晩静置したところ、浮遊物(フラクション)
は認められなかった。
【0064】
(6)得られた溶液(沈殿を含む)を10,000rpmで20分間遠心し、23.4g
(湿重量)を得た。
【0065】
(7)上記(6)の沈殿を水470ml加えて溶解しようとしたが、溶解しにくく、裏
ごしをかけ(更に90mlの水を追加⇒全量560ml)、更に超音波(室温、
>30分間)処理を行い溶解した。
【0066】
(8)上記(7)の溶液に、撹拌下、エタノールを140ml(最終濃度エタノール:
20%)加えて撹拌後、遠心分離(10,000rpm、20分間)し、沈殿8.
68g(湿重量)を得た。
【0067】
(9)上記(8)で得た8.68gの沈殿(湿重量)を水に懸濁し、121℃、10分
。更に超音波をかけたが溶解せず、80℃-90℃のホットスターラ上で撹拌し
たが溶けにくいので、更に200mlの湯を注加後に良く撹拌して熱時ろ過した
。
【0068】
(10)500mlのナスフラスコに入れて重量58.46gまで濃縮し、凍結乾燥後
に8.880mg(抽出率1.08%)の画分を得た。この画分は核磁気共鳴スペ
クトルによりβ-グルカン画分であることを確認した。
【0069】
<実施例2>
β-1,6グルカン分解酵素、β-1,3グルカン分解酵素の至適温度帯を避けるため、生マイタケを28℃~30℃で7時間低温乾燥した乾燥マイタケを粉砕したマイタケ粉末からβ-グルカンを取得した。具体的には以下のとおり。
【0070】
(1)低温乾燥したマイタケ粉末160gを、沸騰水を5Lのポリプロピレン(PP)
ビーカー中にメカニカル撹拌下に分散するようにゆっくり加え塊の無いように良
く撹拌した。
【0071】
(2)予め90℃に予熱したオートクレーブに5LのPPビーカーを入れ、121℃、
30分間抽出した。
【0072】
(3)遠心管に均等に入れ(500ml×4本)、室温で、7,000rpm、20分
間遠心分離し、上清を得た。この上清をHPLCで測定したところ、β-グルカ
ンは保持時間6分程度のピークであり、ピークの高さは実施例1と略同等である
(
図3参照)。
【0073】
(4)上記(3)で得られた上清1.23Lに撹拌下エタノール1.23Lを加え冷蔵庫
(5℃)に一晩静置したところ、浮遊物(フラクション)は出現せず、沈殿のみ
観察された。
【0074】
(5)得られた溶液(沈殿を含む)を室温で、7,000rpm、20分間遠心分離し
湿重量で32.4gの沈殿を得た。
【0075】
(6)上記(5)の沈殿30gを600mlの水に懸濁し、121℃で10分間加熱後
、100℃の湯浴で撹拌して溶解し室温に戻し、撹拌下にエタノールを加え(最
終エタノール濃度:20%)、析出した沈殿を室温で、10,000rpm、2
0分間遠心分離した。
【0076】
(7)上記(6)で得られた沈殿は、凍結乾燥し、1.62g(抽出率1.01%)の画
分を得た。この画分は核磁気共鳴スペクトルによりβ-グルカンであることを確
認した。
【0077】
以上からβ-1,6グルカン分解酵素、β-1,3グルカン分解酵素の至適温度帯を避けた処理をすることで高い免疫賦活性および抗腫瘍活性を呈する高分子β-グルカンが高抽出率で得られた。具体的には、実施例1は1.08%(重量)、実施例2は1.01%(重量)である(比較例の抽出率は0.48%(重量))。
【0078】
<消失実験>
凍結乾燥マイタケ粉末をβ-1,6グルカン分解酵素、β-1,3グルカン分解酵素の至適温度帯に属する50℃で保温した時に、β-グルカンおよびα-グルカンが酵素分解されるか否かを時間経過に従って確認した。具体的には以下のとおり。
【0079】
凍結乾燥粉末5.0gを100mlの蒸留水に溶解し、温度を50℃に設定して0分、0.5時間、1時間、6時間および12時間の時点でサンプリングしてHPLCを測定した。前記のとおり、β-グルカンは6分程度のピークである(
図4~
図8参照)。
【0080】
以上から、凍結乾燥粉末を蒸留水に懸濁し50℃で保温し、HPLCで測定するとα‐グルカンは短時間で減少することがわかる。しかしながら、β-グルカンはα-グルカンがほとんど消失する6時間でもピークとして存在する。ただし、12時間後のHPLCによる測定では明らかなピークとしてほとんど観測されない。