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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137018
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】スライド式切換弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 11/065 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F16K11/065 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048358
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠一
(72)【発明者】
【氏名】笠井 宣
(72)【発明者】
【氏名】横田 純一
(72)【発明者】
【氏名】菊池 賢仁
【テーマコード(参考)】
3H067
【Fターム(参考)】
3H067AA15
3H067CC02
3H067CC22
3H067DD02
3H067DD12
3H067DD32
3H067EA16
3H067EB26
3H067EB28
3H067EC13
3H067EC29
3H067FF11
3H067GG23
3H067GG24
(57)【要約】
【課題】本発明は、弁座部材の弁本体に対する固定強度を高め、かつ、弁座部材の変形や剥離を抑制することで、弁漏れ性能を向上させるスライド式切換弁を提供することを目的とする。
【解決手段】スライド式切換弁1は、弁本体10と弁座部材21と、弁体30と、駆動部40と、を備えている。弁座部材21は、弁体30が摺接する摺接面22と、摺接面22と反対側に凸の湾曲した湾曲面23を含む密接面aと、を有している。密接面aの表面積は、摺接面22の表面積よりも大きく、弁座部材21の密接面aが弁本体10の内周面に密接して設けられている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空筒状の弁本体と、前記弁本体に設けられる弁座部と、前記弁本体の内部にて軸線方向にスライド自在に設けられる弁体と、前記弁体をスライド駆動する駆動部と、を備えたスライド式切換弁であって、
前記弁座部は、前記弁本体を形成する樹脂にインサート成形によって一体化された金属製の弁座部材を有し、
前記弁座部材は、前記弁体が摺接する平面である摺接面と、前記摺接面と反対側に凸の湾曲した湾曲面を含む密接面と、前記摺接面から前記密接面に貫通する複数の弁ポートと、を有し、
前記密接面の表面積は、前記摺接面の表面積よりも大きく、
前記弁座部材の前記密接面が前記弁本体の内周面に密接して設けられていることを特徴とするスライド式切換弁。
【請求項2】
前記弁本体は、筒状の筒部と、前記駆動部のある側に開口する開口部と、前記駆動部のある側と反対側に設けられる底部と、前記開口部と前記底部との間にて前記筒部の内周面に立設した壁部と、を有し、
前記弁座部材は、前記摺接面および前記湾曲面の側端縁同士を接続する一対の側端面と、前記軸線方向の両端部を構成する一対の先端面と、を備え、
前記湾曲面と前記側端面とが、前記密接面を構成し、
一対の前記先端面のうち一方は前記底部に密接し、一対の前記先端面のうち他方は前記壁部に密接して設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項3】
前記開口部は円形の内周面を有し、前記内周面に嵌合するように前記駆動部が挿入されていることを特徴とする請求項2に記載のスライド式切換弁。
【請求項4】
前記弁本体は、前記底部から前記開口部に向かって突出する突出部を有し、
前記突出部は、前記弁座部材の前記摺接面に密接していることを特徴とする請求項2に記載のスライド式切換弁。
【請求項5】
前記弁ポートは、前記摺接面の反対側に開口する拡径部と、前記拡径部から内径側に向かう段部と、を有し、
前記拡径部の内周面は、前記密接面の一部を構成していることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項6】
前記弁座部材は、前記摺接面の反対側に前記摺接面と平行な平坦面を有し、
前記平坦面は、前記密接面の一部を構成していることを特徴とする請求項5に記載のスライド式切換弁。
【請求項7】
前記湾曲面、一対の前記側端面、一対の前記先端面の少なくとも一部には粗面が形成されていることを特徴とする請求項2に記載のスライド式切換弁。
【請求項8】
前記側端面は、前記湾曲面のある側が前記密接面の一部を構成し、前記摺接面のある側が前記弁本体と密接せずに露出部とされ、
前記弁本体は、前記弁体をスライド案内するガイド部を有し、前記ガイド部と前記露出部との間に空間が形成されていることを特徴とする請求項2に記載のスライド式切換弁。
【請求項9】
前記側端面には、前記湾曲面のある側にて前記軸線方向に交差する幅方向の外側に延びる段差面が設けられ、
前記段差面は、前記密接面の一部を構成していることを特徴とする請求項2に記載のスライド式切換弁。
【請求項10】
前記弁座部材は、磁性材料から形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項11】
前記弁本体は、冷媒配管が接続されるハウジングに間隙をあけて収容されており、
前記弁ポートと、前記冷媒配管と、は、前記弁本体と前記ハウジングの間隙を介して連通可能であることを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載のスライド式切換弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライド式切換弁に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクルなどにおいて冷媒の流路を切り換える切換弁として、筒状の弁本体と、弁本体内部にスライド自在に設けられた弁体と、弁本体に設けられる弁座部材と、弁体を軸線方向にスライド駆動する駆動部と、を備えたスライド式切換弁が知られている(例えば、特許文献1参照)。弁本体は、樹脂成形部品であり、弁座部材は、薄型金属板からなり、弁座部材が弁本体に接着またはインサート成形により固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-150818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のスライド式切換弁では、内外の圧力変動等によって樹脂製の弁本体が変形しやすい。このため、弁本体の変形に伴って薄型金属板からなる弁座部材が変形し、弁体と弁座部材との間のシール性が低下することで弁漏れが発生する可能性がある。一方、金属厚板からなる弁座部材をスライド式切換弁に用いた場合、弁本体が変形しやすいのに対し、弁座部材が変形し難いため、弁本体の変形に伴って弁座部材が弁本体から剥離する可能性がある。
【0005】
本発明は、弁座部材の弁本体に対する固定強度を高め、かつ、弁座部材の変形や剥離を抑制することで、弁漏れ性能を向上させるスライド式切換弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明のスライド式切換弁は、中空筒状の弁本体と、前記弁本体に設けられる弁座部と、前記弁本体の内部にて軸線方向にスライド自在に設けられる弁体と、前記弁体をスライド駆動する駆動部と、を備えたスライド式切換弁であって、前記弁座部は、前記弁本体を形成する樹脂にインサート成形によって一体化された金属製の弁座部材を有し、前記弁座部材は、前記弁体が摺接する平面である摺接面と、前記摺接面と反対側に凸の湾曲した湾曲面を含む密接面と、前記摺接面から前記密接面に貫通する複数の弁ポートと、を有し、前記密接面の表面積は、前記摺接面の表面積よりも大きく、前記弁座部材の前記密接面が前記弁本体の内周面に密接して設けられていることを特徴とする。
【0007】
このような本発明によれば、弁座部材は、摺接面の反対に凸の湾曲した湾曲面を含む密接面を有しているため、薄型金属板からなる弁座部材と比較して、弁座部材の肉厚を大きくし、その剛性を高めるができる。このため、内外の圧力差によって弁本体が変形したとしても、その変形に伴って弁座部材が変形することを抑制することができる。また、弁座部材は、湾曲面を含む密接面が弁本体における筒部の内周面に密接しているため、薄型金属板からなる弁座部材と比較して、密着面積が大きくなり、弁座部材の弁本体に対する固定強度を向上するとともに、弁座部材が弁本体から剥離することを抑制することができる。したがって、弁座部材の弁本体に対する固定強度を高め、かつ、弁座部材の変形や剥離を抑制することで、弁漏れ性能を向上させるスライド式切換弁を提供することができる。なお、弁座部材の湾曲面は、弁本体の内周面に沿って設けることができるため、スライド式切換弁全体の大きさを変えることなく、弁座部材の肉厚を大きくすることができ、スライド式切換弁の大型化を抑制することもできる。
【0008】
この際、前記弁本体は、筒状の筒部と、前記駆動部のある側に開口する開口部と、前記駆動部のある側と反対側に設けられる底部と、前記開口部と前記底部との間にて前記筒部の内周面に立設した壁部と、を有し、前記弁座部材は、前記摺接面および前記湾曲面の側端縁同士を接続する一対の側端面と、前記軸線方向の両端部を構成する一対の先端面と、を備え、前記湾曲面と前記側端面とが、前記密接面を構成し、一対の前記先端面のうち一方は前記底部に密接し、一対の前記先端面のうち他方は前記壁部に密接して設けられていることが好ましい。このような本発明によれば、弁座部材は、密接面が弁本体における筒部の内周面に密接し、一対の先端面のうち一方が筒部の底部に密接し、一対の先端面のうち他方が弁本体における壁部に密接している。これによれば、弁座部材の摺接面以外の部分を、弁本体側の構造に密接させることで弁座部材と弁本体との接触面積を、軸線方向および軸線方向に交差する幅方向で増大させ、弁本体に対する弁座部材の固定強度を向上することができる。このため、弁本体の変形に伴って弁座部材が弁本体から剥離することを抑制することができる。
【0009】
また、この際、前記開口部は円形の内周面を有し、前記内周面に嵌合するように前記駆動部が挿入されていることが好ましい。このような構成によれば、例えば、駆動部の外形が筒状に形成されている場合等に、駆動部を開口部に対して容易に嵌合させ、スライド式切換弁を組み立てることができる。
【0010】
前記弁本体は、前記底部から前記開口部に向かって突出する突出部を有し、前記突出部は、前記弁座部材の前記摺接面に密接していることが好ましい。このような構成によれば、摺接面に密接する突出部と、湾曲面に密接する筒部の内周面とで、弁座部材を挟むようにして固定することができるので、弁本体に対する弁座部材の固定強度をより一層向上することができる。
【0011】
また、前記弁ポートは、前記摺接面の反対側に開口する拡径部と、前記拡径部から内径側に向かう段部と、を有し、前記拡径部の内周面は、前記密接面の一部を構成していることが好ましい。このような構成によれば、弁座部材において、拡径部の内周面、湾曲面、側端面、および先端面の全てが弁本体の筒部に密接することになる。このため、弁座部材は、拡径部と先端面との間で軸線方向に延びる部分が、軸線方向に向かって変位し難くなり、これによって、同方向への弁座部材の固定強度をさらに向上させることができる。また、このような構成によれば、例えば、弁座部材のインサート成形時に、段部に円柱ピン状の金型を押し当てて弁ポートを閉塞した状態で樹脂を注入し、弁本体を成形することができる。このため、当該樹脂が、弁ポート内や摺接面側に侵入することを防止することができる。
【0012】
また、前記弁座部材は、前記摺接面の反対側に前記摺接面と平行な平坦面を有し、前記平坦面は、前記密接面の一部を構成していることが好ましい。このような構成によれば、摺接面の反対側に摺接面と平行な平坦面が形成されていることから、平坦面が形成されていない構成と比較して、弁座部材の湾曲面側を加工しやすくすることができる。具体的には、例えば、ドリル等の工具を湾曲面側に押し当てたとしても工具が滑り難く、湾曲面側から摺接面側への孔あけ作業を、容易に正確に行うことができる。したがって、弁座部材に、弁ポートを形成する際の加工性を向上させることができる。
【0013】
また、前記湾曲面、一対の前記側端面、一対の前記先端面の少なくとも一部には粗面が形成されていることが好ましい。このような構成によれば、粗面の凹凸によって樹脂と金属との接触面積が増大するので、いわゆるアンカー効果によって、弁本体に対する弁座部材の固定強度をさらに向上させることができる。
【0014】
また、前記側端面は、前記湾曲面のある側が前記密接面の一部を構成し、前記摺接面のある側が前記弁本体と密接せずに露出部とされ、前記弁本体は、前記弁体をスライド案内するガイド部を有し、前記ガイド部と前記露出部との間に空間が形成されていることが好ましい。このような構成によれば、弁体と弁座部材との摺動により、弁体が削れて異物が発生したとしても、当該異物をガイド部と露出部との間に逃がして収容することができる。このため、弁体が異物に乗り上げることで傾くなどして、意図せず弁漏れが生じることを抑制することができる。また、このような構成によれば、ガイド部と露出部との間の空間となる部分には、例えば、弁座部材のインサート成形時に金型の一部を配置することができる。すなわち、弁座部材を一対の側端面のそれぞれに当接する金型の一部で挟むようにしてガイドすることができるので、弁本体に対する弁座部材の位置決め精度を向上させることができる。
【0015】
また、前記側端面には、前記湾曲面のある側にて前記軸線方向に交差する幅方向の外側に延びる段差面が設けられ、前記段差面は、前記密接面の一部を構成していることが好ましい。このような構成によれば、弁座部材において、段差面および湾曲面が弁本体の筒部に密接または密接することになる。このため、弁座部材は、筒部によって摺接面から湾曲面に向かう板厚方向に挟まれ、同方向に向かってより変位し難くなり、同方向への弁座部材の固定強度をさらに向上させることができる。
【0016】
また、弁座部材は、磁性材料から形成されていることが好ましい。このような構成によれば、例えば、弁座部材のインサート成形時に、金型に磁石等を組み込むことで弁座部材を金型に容易に固定することができ、弁座部材の位置決め精度を容易に向上させることができる。
【0017】
また、前記弁本体は、冷媒配管が接続されるハウジングに間隙をあけて収容されており、前記弁ポートと、前記冷媒配管と、は、前記弁本体と前記ハウジングの間隙を介して連通可能であることが好ましい。このような構成によれば、弁本体を収容するハウジングによって弁本体の耐圧強度を向上させることができるので、弁本体を構成する樹脂自体を薄くすることができる。また、例えば、ハウジングを金属製とすることで、冷媒配管とハウジングとを、ろう付けや溶接等により容易に接続することができ、異種材料で構成された樹脂製の弁本体と、金属製の冷媒配管と、を接合する困難さを回避することができる。また、このような構成によれば、冷媒配管はハウジングに接続され、弁本体と直接接続されていないことから、ハウジングに対して容易に弁本体を着脱することができ、メンテナス性の向上等に資することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、弁座部材の弁本体に対する固定強度を高め、かつ、弁座部材の変形や剥離を抑制することで、弁漏れ性能を向上させるスライド式切換弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るスライド式切換弁を弁本体の軸線方向に沿って切断した断面図。
図2】弁本体および弁座部を弁本体の軸線方向に沿って切断した断面図。
図3図1におけるA-A線矢視面図。
図4】(A)は、弁座部材を斜め上から見た斜視図であり、(B)は、弁座部材の側面図であり、(C)は、弁座部材を斜め下から見た斜視図。
図5】第一変形例における弁本体および弁座部を弁本体の軸線直交方向に沿って切断した断面図。
図6図5の領域Aにおける拡大断面図。
図7】(A)および(B)は、第一変形例における弁本体および弁座部の製造方法を示す図。
図8】第一変形例における弁本体および弁座部の製造方法を示す図。
図9】第二変形例における弁本体および弁座部を弁本体の軸線直交方向に沿って切断した断面図。
図10図9の領域Bにおける拡大断面図。
図11】第二実施形態における弁本体および弁座部を弁本体の軸線方向に沿って切断した断面図。
図12図11の領域Cにおける拡大断面図。
図13】第二実施形態における弁座部の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図1~4に基づいて説明する。本実施形態に係るスライド式切換弁1は、冷凍サイクルなどにおいて圧縮機、室外熱交換器、室内熱交換器と、接続され、これらの機器に流れる冷媒の流路を切り換える切換弁である。スライド式切換弁1は、中空筒状の弁本体10と、弁本体10内に設けられる弁座部20と、弁本体10の内部にて軸線L方向にスライド自在に設けられる弁体30と、弁体30をスライド駆動する駆動部40と、弁本体10を収容するハウジング50と、を備えている。なお、本実施形態の説明では、弁本体10の軸線L方向において駆動部40のある側を軸線L方向一方側とし、一方側L1と記す。また、弁本体10の軸線L方向において一方側L1の反対側を他方側とし、他方側L2と記す。また、軸線Lに直交する方向であって後述する弁座部材21の短手方向に該当する方向を幅方向Yと記し、幅方向Yの一方側を左側Y1、幅方向Yの他方側を右側Y2、と記す。また、弁体30の深さ方向を上下方向Zと記し、上下方向Zの一方側を上側Z1、上下方向Zの他方側を下側Z2、と記す。
【0021】
図1に示すように、弁本体10は、円形の底壁11と、底壁11の周縁部から一方側L1に延びる筒状の側壁12(筒部)と、側壁12の一方側L1に形成された開口部12aと、側壁12の内部に設けられた弁室13と、を備え、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等を材料として樹脂成形により有底筒状に形成されている。底壁11には、弁室13の内外に連通するDポート14が形成されている。Dポート14は、軸線L方向に延びるD接続流路14d、後述するD連通路53、およびD継手管53dを介して圧縮機の吐出孔と連通している。図2に示すように、底壁11の弁室13側の壁面には、開口部12a側に向かって軸線L方向に突出する板状の突出部15が形成されている。突出部15は、図3に示すように、幅方向Yに間隔をあけて一対設けられ、下側Z2を向く面が、後述する弁座部材21の摺接面22にそれぞれ密接している。
【0022】
側壁12の一方側L1の端部には、円形の内周面を備えた開口部12aが設けられ、内部の弁室13に連通している。側壁12の壁面には、弁室13の内外に連通する複数の流路として、E接続流路16、S接続流路17、C接続流路18が、一方側L1からこの順に軸線L方向に沿って形成されている。E接続流路16は、後述するE切換ポート26とE連通路54、およびE継手管54eを介して、室内熱交換器(蒸発器または凝縮器)に連通している。S接続流路17は、後述するSポート27とS連通路55、およびS継手管55sを介して圧縮機の吸入孔と連通している。C接続流路18は、後述するC切換ポート28とC連通路56、およびC継手管56cを介して、室外熱交換器(凝縮器または蒸発器)と連通している。図2に示すように、側壁12の内周面において、下側Z2の内周面(E接続流路16、S接続流路17、C接続流路18が形成されている側の内周面)には、上側Z1に向かって突出する板状の壁部19が形成されている。壁部19は、開口部12aとE接続流路16との間に形成されている。すなわち、壁部19は、開口部12aと底壁11との間にて側壁12の内周面に立設している。壁部19の他方側L2を向く面は、後述する弁座部材21の一対の先端面25のうち、一方側L1を向く先端面25に密接している。
【0023】
図1に示すように、弁本体10の開口部12aにおける開口端縁には、接続部60が設けられている。接続部60は、弁本体10と後述するケース41aとを接続する金属製の部材である。接続部60は、略円筒状の下蓋61と、下蓋61に接続される略円筒状の上蓋62と、を備えている。下蓋61は、他方側L2の端縁が弁本体10に対して軸線L方向にインサート成形されている。上蓋62は、他方側L2の開口端縁が、径方向に拡径して形成されており、この他方側L2の開口端縁が、下蓋61の一方側L1の開口端縁と、溶接により固定されている。一方、上蓋62の一方側L1の開口端縁は、ケース41aの他方側L2の開口端縁に溶接により固定されている。
【0024】
このように形成された弁本体10および接続部60は、ハウジング50に収容されている。ハウジング50は、中心部に軸線Lと同軸でかつ弁本体10の外径よりも大きな内径を有する収容孔51を備えており、この収容孔51に対して、弁本体10および接続部60が、径方向に間隙を生じた状態で軸線L方向に挿入されている。なお、図1において、符号Gは、弁本体10の外周壁および収容孔51の内周壁のいずれかに、所定間隔で軸線L方向の複数の位置に形成された溝部であり、符号50aは、溝部Gに配置されたОリング等のシール部材である。また、符号50bは、上述した上蓋62に当接して弁本体10が一方側L1に移動するのを規制する止め輪である。
【0025】
ハウジング50の底壁には、上述のDポート14およびD接続流路14dに連通するD連通路53が形成されている。D連通路53には、D継手管53dが接続されている。ハウジング50の側壁には、上述のE接続流路16、S接続流路17、C接続流路18にそれぞれ連通する複数の連通路として、E連通路54、S連通路55、C連通路56が、一方側L1からこの順に軸線L方向に沿って形成されている。E連通路54には、E継手管54eが接続され、S連通路55には、S継手管55sが接続され、C連通路56には、C継手管56cが接続されている。これら、E継手管54e、S継手管55s、C継手管56cは、冷媒の流れる冷媒配管である。すなわち、ハウジング50には、冷媒配管が接続されている。
【0026】
弁座部20は、弁体30を着座させるとともに摺接させる部分であり、弁本体10の側壁12のうち、E接続流路16、S接続流路17、およびC接続流路18が形成された側壁に設置される弁座部材21を有して構成されている。この弁座部20は、例えば、磁性材料のような金属製の部材で形成され、インサート成形により弁本体10の側壁12(弁本体10を形成する樹脂)に固定され一体化されている。図4に示すように、弁座部材21は、弁体30が摺接する平面としての摺接面22と、摺接面22と反対側に凸の湾曲した湾曲面23と、摺接面22および湾曲面23の側端縁同士を接続する一対の側端面24と、軸線L方向の両端部を構成する一対の先端面25と、を備えている。
【0027】
摺接面22は、いわゆるシール面であり、軸線L方向および幅方向Yに延在している。湾曲面23は、下側Z2に凸となるように湾曲している。一対の側端面24は、上下方向Zに延びて摺接面22と湾曲面23とを接続している。図3に示すように、湾曲面23および一対の側端面24は、弁本体10の側壁12における内周面に密接している。すなわち、湾曲面23と側端面24とは、弁本体10の内周面に密接する密接面aを構成している。図3に示すように、密接面aの表面積は、摺接面22の表面積よりも大きくなっている。一対の先端面25は、一対の側端面24と同様に上下方向Zに延びて摺接面22と湾曲面23とを接続している。図2に示すように、一対の先端面25のうち、他方側L2に位置する先端面25(一方)は、弁本体10の底壁11に密接している。また、一対の先端面25のうち、一方側L1に位置する先端面25(他方)は、弁本体10の壁部19に密接している。湾曲面23、一対の側端面24、および一対の先端面25の少なくとも一部には、粗面が形成されている。粗面は、化学処理、レーザ照射、スパッタ等の技術を用いて形成されており、これによって、弁座部材21をインサート成形する際に、樹脂との接触面積が増大することとなる。
【0028】
弁座部材21の板面(弁座部20の板面)には、摺接面22から湾曲面23に貫通する複数の弁ポートが形成されている。複数の弁ポートは、E接続流路16に連通するE切換ポート26、S接続流路17に連通するSポート27、C接続流路18に連通するC切換ポート28、とで構成されている。図1に示すように、各弁ポート26、27、28は、上述した接続流路16、17、18および連通路54、55、56を介して、対応する冷媒配管54e、55s、56cに連通している。そして、この際、上述したように、ハウジング50の収容孔51の内径は、弁本体10の外径よりも大きいことから、弁本体10とハウジング50との間には、径方向の間隙が生じている。このため、各ポート26、27、28は、弁本体10とハウジング50の間隙を介して冷媒配管54e、55s、56cに連通可能となっている。具体的には、E切換ポート26は、E接続流路16とE連通路54との間の間隙を介してE継手管54eに連通している。Sポート27は、S接続流路17とS連通路55との間の間隙を介してS継手管55sに連通している。C切換ポート28は、C接続流路18とC連通路56との間の間隙を介してC継手管56cに連通している。
【0029】
弁体30は、主にポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂製であり、弁本体10の内部にて軸線L方向にスライド自在に設けられている。この弁体30は、上述のDポート14、E切換ポート26、Sポート27、およびC切換ポート28の連通状態を切り換えるように構成されており、本実施形態では、弁座部20の摺接面22に摺接する弁体本体31を備えて構成されている。この弁体本体31は、摺接面22に向かって開口する椀状に形成され、その内部は流体の流路となる椀状凹部32を構成している。弁体本体31の開口端縁は、摺接面22に摺接するシール部33となっており、その軸線L方向の寸法および幅寸法は、E切換ポート26、Sポート27、およびC切換ポート28のうち、隣り合う2つ分のポートを覆う大きさに設定されている。弁体本体31の一方側L1の端部には、一方側L1に突出し、上側Z1に開口するフック部34が形成されている。
【0030】
フック部34は、弁体30を駆動部40に接続するための部分であり、駆動部40の後述する雌ねじ部材44の2本の連結腕部48で挟まれた状態で、フック形状の部分に配置される固定ピン49と、連結腕部48およびフック部34を周方向に囲んで締め付ける不図示のクリップと、によって、駆動部40に固定されている。弁体本体31の他方側L2の端部には、下側に向かって軸線L方向に突出するストッパ35が形成されている。このストッパ35は、その突出端部が弁本体10の底壁11における弁室13側の面と当接することで弁体本体31の他方側L2への移動を規制している。弁体本体31の頂部(上側Z1の端部)の先端面と、弁本体10の内周面との間には、弁体30を弁座部20側に付勢する付勢部材36が設置されている。付勢部材36は、例えば、りん青銅等の金属製の材料を用いてプレス加工等により形成された板ばねである。この付勢部材36に付勢されることで、弁体本体31のシール部33が摺接面22に押し付けられ、弁漏れが抑制されている。
【0031】
駆動部40は、弁体30をスライド駆動する部分であり、ステッピングモータ41と、ステッピングモータ41の回転を直線運動に変換して弁体30に伝達する直動機構42と、を備えている。図1に示すように、ステッピングモータ41は、上蓋62の一方側L1の開口端縁に固定されて(弁本体10の軸線L方向一端側に配置されて)駆動部40内を密閉するケース41aと、ケース41aに内蔵される電磁ロータ41bと、電磁ロータ41bの外周をケース41aを挟んで周方向に囲む電磁コイル41cと、を備えている。ケース41aは、薄板状の金属材料を用いて有底筒状に形成されており、中心軸が軸線Lと同軸になるようにかつ、開口端縁が他方側L2を向くように配置され、その開口端縁が上蓋62の一方側L1の開口端縁に溶接により固定されている。
【0032】
直動機構42は、ケース41aの一方側L1の内部に配置される軸受部材42aと、上蓋62の内周壁に固定されるガイド部材42bと、電磁ロータ41bの中心に固定された駆動軸としての駆動軸43と、駆動軸43の外周面に形成された雄ねじ43aに螺合する雌ねじ44aを有する雌ねじ部材44と、を備えている。すなわち、直動機構42は、互いに螺合する雄ねじ43aおよび雌ねじ44aを有したねじ送り機構として構成されている。軸受部材42aは、駆動軸43を軸線L方向に回転可能に支持する部材であり、円板状に形成されている。この軸受部材42aは、中心軸が弁本体10の軸線Lと同軸になるようにケース41aに挿入されている。軸受部材42aにおいて駆動軸43の軸心位置である中心には、他方側L2に向かって開口する第一軸受孔42a1が形成されている。第一軸受孔42a1には、駆動軸43の一方側L1の端部が嵌挿されている。
【0033】
ガイド部材42bは、有底筒状に形成された本体45と、本体45の径方向外方に突出して、弁本体10の開口部12aに嵌合する蓋部46と、を備えている。本体45は、先端部が一方側L1に位置し、底部が他方側L2に位置するように上蓋62の内周壁に固定されている。この本体45は、中心軸が弁本体10の軸線Lと同軸となるように配置されており、この配置によって、上述のケース41a、軸受部材42a、およびガイド部材42bは、いずれも中心軸が弁本体10の軸線Lと同軸となるように配置されている。本体45の中心には、第一軸受孔42a1と軸線L方向に対向する第二軸受孔45aが形成されている。第二軸受孔45aには、駆動軸43の他方側L2の端部が嵌挿されている。
【0034】
本体45の底壁において第二軸受孔45aの周囲には、雌ねじ部材44の連結腕部48を軸線L方向に進退可能に挿通させる一対のガイド孔(不図示)が形成されている。このガイド孔は、雌ねじ部材44を、軸線Lまわりに回転不能かつ軸線L方向に進退ガイドする、軸線L方向に貫通した孔である。蓋部46は、上下方向Zに延びる側壁部46aを備えており、側壁部46aの外周面が弁本体10の開口部12aの内周面に嵌合している。すなわち、駆動部40は、弁本体10の内周面に嵌合するように弁本体10に挿入されている。駆動軸43は、電磁ロータ41bの中心部に固定され、軸線L方向に延び、電磁ロータ41bと一体に軸線Lまわりに回転するように構成されている。上述のとおり、駆動軸43の外周面には、雄ねじ43aが形成されている。また、駆動軸43の一方側L1の端部は、第一軸受孔42a1に嵌挿され、駆動軸43の他方側L2の端部は、第二軸受孔45aに嵌挿されており、これにより、駆動軸43は、軸線Lまわりに回転できるように軸支されている。
【0035】
雌ねじ部材44は、ガイド部材42b内に収容されてその外周壁がガイド部材42bの内周壁に摺接する円柱状の基端部47と、基端部47から他方側L2に延び、上述のガイド孔を通って弁室13内に延びる2本の連結腕部48と、を備えている。基端部47は、中心軸がガイド部材42bの中心軸と同軸になっている。基端部47の中心には、軸線Lに沿って雌ねじ44aが形成されている。雌ねじ44aは、雄ねじ43aに螺合し、駆動軸43の回転に伴って中心軸と同軸で軸線L方向に進退可能となっている。連結腕部48は、基端部47の周縁部の一部から上述したガイド孔を通ってそれぞれ弁室13まで延びている。各連結腕部48の先端部は、板面が互いに対向しており、その互いに板面が対向する先端部には、当該板面を共に板厚方向に貫く固定ピン49が固定されている。
【0036】
このような構成では、ステッピングモータ41の駆動により駆動軸43が軸線Lまわりに回転すると、その回転に伴って、雌ねじ部材44が軸線L方向に移動する。これにより、雌ねじ部材44の連結腕部48に固定された弁体30も、雌ねじ部材44の移動に伴って軸線L方向に移動する。そして、弁体30の弁体本体31によって、各ポート14、26、27、28の連通状態が切り換えられる。例えば、図1に示す状態では、弁体本体31の椀状凹部32によってE切換ポート26とSポート27とが連通し、弁体本体31の外部でDポート14とC切換ポート28とが連通している。ここからステッピングモータ41の駆動により弁体本体31が他方側L2に移動すると、弁体本体31の椀状凹部32によってC切換ポート28とSポート27とが連通し、弁体本体31の外部でDポート14とE切換ポート26と、が連通することとなる。
【0037】
以上、本実施形態によれば、弁座部材21は、摺接面22の反対に凸の湾曲した湾曲面23を含む密接面aを有しているため、薄型金属板からなる弁座部材21と比較して、その肉厚(上下方向Zの寸法)を大きくし、その剛性を高めるができる。このため、内外の圧力差によって弁本体10が変形したとしても、その変形に伴って弁座部材21が変形することを抑制することができる。また、弁座部材21は、湾曲面23を含む密接面aが弁本体10における側壁12(筒部)の内周面に密接しているため、薄型金属板からなる弁座部材21と比較して、密着面積が大きくなり、弁座部材21の弁本体10に対する固定強度を向上するとともに、弁座部材21が弁本体10から剥離することを抑制することができる。したがって、弁座部材21の弁本体10に対する固定強度を高め、かつ、弁座部材21の変形や剥離を抑制することで、弁漏れ性能を向上させるスライド式切換弁1を提供することができる。なお、弁座部材21の湾曲面23は、弁本体10の内周面に沿って設けることができるため、スライド式切換弁1全体の大きさを変えることなく、弁座部材21の肉厚を大きくすることができ、スライド式切換弁1の大型化を抑制することもできる。
【0038】
また、弁座部材21は、密接面aが弁本体10における側壁12の内周面に密接し、一対の先端面25のうち他方側L2に位置する先端面25(一方)が底壁11に密接し、一対の先端面25のうち一方側L1に位置する先端面25(他方)が弁本体10における壁部19に密接している。これによれば、弁座部材の摺接面22以外の部分を、弁本体10側の構造に密接させることで弁座部材21と弁本体10との接触面積を、軸線L方向および幅方向Yで増大させ、弁本体10に対する弁座部材21の固定強度を向上することができる。このため、弁本体10の変形に伴って弁座部材21が弁本体10から剥離することを抑制することができる。
【0039】
また、駆動部40は、弁本体10の内周面に嵌合するように弁本体10に挿入されている。このような構成によれば、例えば、駆動部40の外形が筒状に形成されている場合等に、駆動部40を開口部12aに対して容易に嵌合させ、スライド式切換弁1を組み立てることができる。
【0040】
また、弁本体10の底壁11の弁室13側の壁面には、開口部12a側に向かって軸線L方向に突出する板状の突出部15が形成され、突出部15の下側Z2を向く面が、弁座部材21の摺接面22に密接するようにされている。また、湾曲面23および一対の側端面24は、弁本体10の側壁12における内周面に密接するようにされている。このような構成によれば、摺接面22に密接する突出部15と、湾曲面23に密接する側壁12の内周面とで、弁座部材21を上下方向Zに挟むようにして固定することができるので、弁本体10に対する弁座部材21の固定強度をより一層向上することができる。
【0041】
また、湾曲面23、一対の側端面24、および一対の先端面25の少なくとも一部には、粗面が形成されているため、粗面の凹凸によって樹脂と金属との接触面積を増大させ、いわゆるアンカー効果によって弁本体10に対する弁座部材21の固定強度をさらに向上させることができる。
【0042】
また、弁座部材21は、例えば、磁性材料のような金属製の部材で形成することができるので、例えば、弁座部材21のインサート成形時に、金型に磁石等を組み込むことで弁座部材21を金型に容易に固定することができ、弁座部材21の位置決め精度を容易に向上させることができる。
【0043】
また、弁本体10および接続部60は、ハウジング50に収容されている。このような構成によれば、弁本体10を収容するハウジング50によって弁本体10の耐圧強度を向上させることができるので、弁本体10を構成する樹脂自体を薄くすることができる。また、例えば、ハウジング50を金属製とすることで、E継手管54e、S継手管55s、及びC継手管56c(それぞれ冷媒配管)とハウジング50とを、ろう付けや溶接等により容易に接続することができ、異種材料で構成された樹脂製の弁本体10と、金属製の冷媒配管と、を接合する困難さを回避することができる。また、このような構成によれば、冷媒配管はハウジング50に接続され、弁本体10と直接接続されていないことから、ハウジング50に対して容易に弁本体10を着脱することができ、メンテナス性の向上等に資することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0045】
図5は、第一変形例における弁本体10および弁座部20の軸線L直交方向の断面図である。図6は、図5の領域Aにおける拡大断面図である。第一変形例では、弁座部材21の幅方向Y両端部近傍の構成が、上述した実施形態と異なっている。具体的には、弁本体10の側壁12における内周面には、弁座部材21の各側端面24とそれぞれ幅方向Yに隙間をあけて対向する一対のガイド部12bが形成されている。ガイド部12bは、上述した弁体本体31の幅方向Y両端部に摺接可能な壁面で構成され、軸線L方向に延びており、上記摺接によって弁体本体31(弁体30)を軸線L方向にスライド案内している。図6に示すように、第一変形例では、弁座部材21の側端面24は、下側Z2(湾曲面23のある側)部分が、側壁12(弁本体10)の内周面に密接する密接部24a(密接面a)を構成し、上側Z1(摺接面22のある側)部分が、弁本体10と密接せずに露出部24bとされている。そして、図6に示すように、ガイド部12bと露出部24bとの間には、空間Sが形成されている。
【0046】
このような構成によれば、例えば、弁体本体31(弁体30)と弁座部材21との摺動により、弁体本体31が削れて異物が発生したとしても、当該異物をガイド部12bと露出部24bとの間に逃がして収容することができる。このため、弁体本体31が異物に乗り上げることで傾くなどして、意図せず弁漏れが生じることを抑制することができる。また、このような構成によれば、ガイド部12bと露出部24bとの空間Sとなる部分には、例えば、弁座部材21のインサート成形時に金型の一部を配置することができる。すなわち、弁座部材21を一対の側端面24のそれぞれに当接する金型で挟むようにしてガイドすることができるので、弁本体10に対する弁座部材21の位置決め精度を向上させることができる。この位置決め精度の向上について具体的に説明する。
【0047】
図7、8は、第一変形例における弁本体10および弁座部20の製造方法を示す図である。ここで、符号Mは、主に弁本体10の側壁12を形成するための金型センターピンである。金型センターピンMは、弁座部材21のインサート成形に際し、弁室13が形成される部分に配置される。この際、金型センターピンMに弁座部材21を固定することが必要になるが、金型センターピンMは、一方側L1を上向きにし、他方側L2を下向きにした状態で直立させて使用することが多いため、重力によって金型センターピンMから弁座部材21が脱落するなどして、弁座部材21を位置決めすることが難しい。そして、インサート成形の段階で弁座部材21の位置がずれる、脱落する等すると、スライド式切換弁1のバルブとしての性能が低下することに加え、弁座部材21の脱落によって金型センターピンMが破損するおそれもある。しかしながら、本構成では、金型センターピンMには、弁座部材21の側端面24に当接し、これを挟持する爪部M1が形成されている。
【0048】
このため、図7(B)、図8に示すように、金型センターピンMに弁座部材21をセットすると、図7(A)に示すように、弁座部材21が爪部M1によって、幅方向Y外方から内方に向かって挟持される。これにより、弁座部材21の脱落が防止されるとともに、弁座部材21の位置を安定して決めることができる。なお、この場合、金型センターピンMには、弁座部材21の摺接面22に当接する部分に、不図示のマグネット等を埋設してもよい。このようにすることにより、弁座部材21を磁性体で形成していた場合には、マグネットの磁力によって弁座部材21を金型センターピンMに固定することができるので、弁座部材21の位置決め精度をさらに向上させることができる。
【0049】
次にスライド式切換弁1の第二変形例について説明する。図9は、第二変形例における弁本体10および弁座部20の軸線L直交方向の断面図である。図10は、図9の領域Bにおける拡大断面図である。第二変形例では、弁座部材21に、幅方向Y外方に突出する段差面24cが形成されていている。段差面24cは、各側端面24における密接部24aの下端から幅方向Y外方に突出している。すなわち、側端面24には、湾曲面23のある側にて軸線L方向に交差する幅方向Yの外側に延びる段差面24cが設けられている。この段差面24cには、図10に示すように、ガイド部12bの下端から幅方向Y内方に突出する弁本体10の側壁12における突出部12cが密接している。すなわち、段差面24cには、弁本体10における側壁12が密接し、段差面24cは、密接面aの一部を構成している。このような構成によれば、弁座部材21において、段差面24cおよび湾曲面23が弁本体10の側壁12に密接することになる。このため、弁座部材21は、側壁12によって板厚方向に挟まれ、同方向に向かってより変位し難くなり、同方向への弁座部材21の固定強度をさらに向上させることができる。
【0050】
次にスライド式切換弁1の第二実施形態について説明する。図11は、第二実施形態における弁本体10および弁座部20の軸線L方向の断面図である。図12は、図11の領域Cにおける拡大断面図である。図13は、第二実施形態における弁座部20の斜視図である。第二実施形態では、各弁ポート26、27、28近傍の構造が上述した実施形態や変形例と異なっている。また、弁座部20の形状が、上述した実施形態や変形例と異なっている。具体的には、図11に示すように、E切換ポート26、Sポート27、およびC切換ポート28における下側Z2の周縁部には、E切換ポート26、Sポート27、およびC切換ポート28の内径寸法よりも大きな内径寸法を備え、下側Z2(摺接面22の反対側)に開口する拡径部29aと、拡径部29aから幅方向Y内方(内径側)に向かう段部29bが形成されている。
【0051】
図12に示すように、拡径部29aの内周面と、段部29bの一部には、E接続流路16、S接続流路17、またはC接続流路18の内壁面を構成する側壁12(弁本体10)の樹脂が密接している。すなわち、拡径部29aの内周面は、密接面aの一部を構成している。そして、図13に示すように、弁座部材21の湾曲面23の下側Z2の端部には、湾曲面23の凸を切り欠いた平坦面23aが形成されている。平坦面23aは、摺接面22と平行に設けられ、軸線L方向および幅方向Yに延在している。図示は省略するが、平坦面23aは、湾曲面23とともに弁本体10における側壁12の内周面に密接して設けられている。すなわち、平坦面23aは、密接面aの一部を構成している。
【0052】
このような構成によれば、弁座部材21において、拡径部29aの内周面、湾曲面23、側端面24、および先端面25の全てが弁本体10の側壁12に密接することになる。このため、弁座部材21は、拡径部29aと先端面25との間で軸線方向に延びる部分が、軸線L方向に向かって変位し難くなり、これによって、同方向への弁座部材21の固定強度をさらに向上させることができる。また、このような構成によれば、例えば、弁座部材21のインサート成形時に、段部29bに円柱ピン状の金型を押し当てて弁ポート26、27、28を閉塞した状態で樹脂を注入し、弁本体10を成形することができる。このため、当該樹脂が、弁ポート26、27、28内や摺接面22側に侵入することを防止することができる。
【0053】
なお、この場合、円柱ピン状の金型の外径寸法は、弁ポート26、27、28の内径寸法より大きく、拡径部29aの内径寸法よりも小さく設定するとよい。このように設定することで、弁座部材21のインサート成形時に、円柱ピン状の金型の位置が多少ずれたとしても、当該金型によって弁ポート26、27、28を塞ぎきれなくなることが防止される。また、当該金型が意図せず拡径部29aに当接してしまうことにより、E接続流路16、S接続流路17、またはC接続流路18の内壁形状が歪むことを防止することができる。
【0054】
また、摺接面22の反対側に摺接面22と平行な平坦面23aが形成されていることから、平坦面23aが形成されていない構成と比較して、弁座部材21の湾曲面23側を加工しやすくすることができる。具体的には、例えば、ドリル等の工具を湾曲面23側に押し当てたとしても工具が滑り難く、湾曲面23側から摺接面22側への孔あけ作業を、容易に正確に行うことができる。したがって、弁座部材21に、弁ポート26、27、28を形成する際の加工性を向上させることができる。
【0055】
なお、上述した一実施形態、第一変形例、第二変形例、および第二実施形態は、本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、これに限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、一実施形態、第一変形例、第二変形例、および第二実施形態をそれぞれ組み合わせてもよいし、これらの実施形態および変形例を全て組み合わせてもよい。具体的には、弁本体10が一実施形態の突出部15と、第一変形例のガイド部12bと、第二変形例の突出部12cと、を備えていてよい。また、弁座部20が、第一変形例の密接部24aおよび露出部24bと、第二変形例の段差面24cと、第二実施形態の拡径部29aおよび段部29bと、平坦面23aと、を備えていてよい。そして、このような弁本体10と弁座部20とを用いてスライド式切換弁1を構成してよい。また、これとは逆に、弁本体10から突出部15、ガイド部12b、および突出部12等を省略してもよいし、弁座部材21から密接部24a、露出部24b、段差面24c、拡径部29a、段部29b、および平坦面23a等を省略してもよい。
【符号の説明】
【0056】
a 密接面
L 軸線
1 スライド式切換弁
10 弁本体
11 底壁(底部)
12 側壁(筒部)
12a 開口部
19 壁部
20 弁座部
21 弁座部材
22 摺接面
23 湾曲面
24 側端面
25 先端面
26 E切換ポート(複数の弁ポート)
27 Sポート(複数の弁ポート)
28 C切換ポート(複数の弁ポート)
30 弁体
40 駆動部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13