(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137027
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】留置装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/954 20130101AFI20240927BHJP
A61F 2/966 20130101ALI20240927BHJP
【FI】
A61F2/954
A61F2/966
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048377
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】石丸 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】向井 智和
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA53
4C267AA56
4C267BB03
4C267BB12
4C267BB17
4C267BB26
4C267BB31
4C267BB40
4C267CC08
4C267CC20
4C267CC22
4C267CC23
4C267CC24
(57)【要約】 (修正有)
【課題】筒状治療具を保持する軸状部材に高い接合強度で突起部を形成できる留置装置を提供する。
【解決手段】径方向に拡張可能な筒状治療具を生体管腔内に留置する留置装置は、筒状治療具を収容可能なシースと、筒状治療具を保持可能な保持領域を有し、シースの内側にて遠位側を軸方向に沿って進退可能に構成された長尺の軸状部材30と、保持領域で軸状部材から径方向外周側に突出するように形成され、保持領域に保持された筒状治療具に軸方向への推力を伝える突起部32と、を備える。突起部32は、軸状部材の外周の半周以上を覆うように配置され、軸状部材30に外付けされる突起部材34で形成される。突起部材34の外周で径方向に沿った第1方向に臨む面には、軸方向と交差方向に延びる凹部35を形成するプレス加工が施される。突起部材34は、軸状部材30の径方向内周側に凹部35が食い込んで軸状部材30と係合する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に拡張可能な筒状治療具を生体管腔内に留置する留置装置であって、
前記筒状治療具を収容可能なシースと、
前記筒状治療具を保持可能な保持領域を有し、前記シースの内側にて遠位側を軸方向に沿って進退可能に構成された長尺の軸状部材と、
前記保持領域で前記軸状部材から径方向外周側に突出するように形成され、前記保持領域に保持された前記筒状治療具に前記軸方向への推力を伝える突起部と、を備え、
前記突起部は、前記軸状部材の外周の半周以上を覆うように配置され、前記軸状部材に外付けされる突起部材で形成され、
前記突起部材の外周で径方向に沿った第1方向に臨む面には、前記軸方向と交差方向に延びる凹部を形成するプレス加工が施され、
前記突起部材は、前記軸状部材の径方向内周側に前記凹部が食い込んで前記軸状部材と係合する
留置装置。
【請求項2】
前記凹部は、前記突起部材の前記第1方向に臨む第1面と、前記第1面に対向する第2面にそれぞれ形成され、
前記第1面の前記凹部と前記第2面の前記凹部は、軸方向に交互に形成される
請求項1に記載の留置装置。
【請求項3】
前記突起部材の内周で前記軸方向および前記第1方向と直交する第2方向の部位には、前記軸状部材との間に前記凹部の位置を跨いで前記軸方向に延びる隙間が設けられており、
前記突起部材と前記軸状部材は、前記隙間を介して導入された接着剤で接着されている
請求項1に記載の留置装置。
【請求項4】
前記突起部材の内周で前記第1方向の部位には、前記凹部の位置を跨いで前記軸方向に延びる隙間が設けられていない
請求項3に記載の留置装置。
【請求項5】
前記第1方向での前記突起部材と前記軸状部材の部材間隔は、前記第2方向における前記隙間の幅よりも狭い
請求項3に記載の留置装置。
【請求項6】
前記突起部材は、前記隙間と連通する穴を外周面に有する
請求項3に記載の留置装置。
【請求項7】
前記筒状治療具は、近位側の本体部と、前記本体部の遠位側で分枝する第1分枝部および第2分枝部とを有し、
前記留置装置は、前記本体部および前記第1分枝部に挿通された第1の軸状部材と、前記本体部および前記第2分枝部に挿通された第2の軸状部材と、を備える
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の留置装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、径方向に拡張可能な筒状治療具を生体管腔内に留置する留置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食道、胃、小腸、大腸、胆管などの消化管や血管(以下、「生体管腔」と称する)に生じた狭窄部又は閉塞部に留置され、病変部位を拡径して生体管腔の開存状態を維持する筒状治療具(一般に「ステント」を呼ばれる)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般に、筒状治療具は、カテーテルなどの留置装置を用いて留置目標部位まで送達される。留置装置は、筒状治療具を径方向に収縮させた状態で患部に運び、患部にて筒状治療具を径方向に拡張させることで、筒状治療具を患部に留置させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の留置装置では、筒状治療具に軸方向への推力を伝えるために、収縮状態の筒状治療具を保持する軸状部材に突起部が設けられることもある。しかし、留置装置の構成部品のように体内に直接導入される部品は化学的に安定した極性の低い材料で形成されるため、一般的に部品同士の接合が困難である。しかも、上記の突起部は微細な部品であることから軸状部材との接合がより困難である。
【0006】
そこで、本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであって、筒状治療具を保持する軸状部材に高い接合強度で突起部を形成できる留置装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、径方向に拡張可能な筒状治療具を生体管腔内に留置する留置装置である。留置装置は、筒状治療具を収容可能なシースと、筒状治療具を保持可能な保持領域を有し、シースの内側にて遠位側を軸方向に沿って進退可能に構成された長尺の軸状部材と、保持領域で軸状部材から径方向外周側に突出するように形成され、保持領域に保持された筒状治療具に軸方向への推力を伝える突起部と、を備える。突起部は、軸状部材の外周の半周以上を覆うように配置され、軸状部材に外付けされる突起部材で形成される。突起部材の外周で径方向に沿った第1方向に臨む面には、軸方向と交差方向に延びる凹部を形成するプレス加工が施される。突起部材は、軸状部材の径方向内周側に凹部が食い込んで軸状部材と係合する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、筒状治療具を保持する軸状部材に高い接合強度で突起部を形成できる留置装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)は本実施形態のステントグラフトの構成例を示す図であり、(b)は
図1(a)のIb-Ib線断面図である。
【
図2】(a)は本実施形態のステントグラフトの留置状態を示す図であり、(b)は
図2(a)の肝門部を拡大して示す図である。
【
図3】(a)は本実施形態の留置装置の分解図であり、(b)は本実施形態の留置装置の組立状態を示す図であり、(c)はステントグラフト内にインナーチューブを挿入した状態を示す図である。
【
図6】(a)は
図5のVIa-VIa線断面図であり、(b)は
図5のVIb-VIb線断面図である。
【
図8】留置装置を用いてステントグラフトを留置する手順を示す図である。
【
図9】留置装置を用いてステントグラフトを留置する手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、実施形態に係る留置装置の構成例について説明する。なお、図面における各部の形状、寸法等は模式的に示したもので、実際の形状や寸法等を示すものではない。
【0011】
図面における各部の形状、寸法等は模式的に示したもので、実際の形状や寸法等を示すものではない。図面において、留置装置および筒状治療具の軸方向Axを必要に応じて矢印で示す。また、軸方向Axと略直交する方向を径方向と定義する。なお、必要に応じて、図面において留置装置および筒状治療具の一方側(先端側)を符号Fで示し、他方側(基端側)を符号Bで示す。
【0012】
まず、本実施形態のステントグラフト10の構成について説明する。
図1(a)は、本実施形態のステントグラフト10の構成例を示す図であり、
図1(b)は、
図1(a)のIb-Ib線断面図である。
図2(a)は、本実施形態のステントグラフト10の留置状態を示す図であり、
図2(b)は、
図2(a)の肝門部HPを拡大して示す図である。
【0013】
ステントグラフト10は、筒状治療具の一例であって、生体管腔内の狭窄部位や閉塞部位等の病変部位に後述の留置装置1を用いて留置され、これらの病変部位を拡張させるために適用される。
図2(a)、(b)に示すように、本実施形態のステントグラフト10は、胆管用のカバードステントであって、生体管腔の一例である肝門部に留置される。
【0014】
ステントグラフト10は、第1本体部11と、第1本体部11の一方側から分枝する第2本体部12a、12bとを有する。
図2(a)、(b)に示すように、第1本体部11は総肝管H1に留置され、第2本体部12a、12bは右肝管H2および左肝管H3にそれぞれ留置される。
【0015】
第1本体部11および第2本体部12a、12bはそれぞれ筒状に形成されている。第2本体部12a、12bは、第1本体部11よりも管径が細く、第1本体部11の一方側の端部から二股に分枝して連設されている。これにより、第1本体部11の一方側は各々の第2本体部12a、12bの他方側と連通し、第1本体部11および第2本体部12a、12bはY字状の胆汁の流路を内部に形成する。また、第2本体部12a、12bが分枝する股部の角度は、ステントグラフト10が留置される肝門部HPの形状に応じて決定される。
【0016】
また、
図3(c)に示すように、軸方向に沿って第2本体部12a、12bを揃えて並べたときに、第2本体部12a、12bは、第1本体部11の軸中心に対してそれぞれの軸中心がずれた状態で配置されている。これにより、第2本体部12a、12bが径方向に圧縮されやすくなり、後述する留置装置1のシース20にステントグラフト10を収納しやすくなる。なお、以下の説明では、第2本体部12a、12bに共通の事項を説明するときには、第2本体部12と総称することもある。
【0017】
第1本体部11および第2本体部12a、12bは、骨格部13と、骨格部13に固定された被膜部14とをそれぞれ有している。
【0018】
骨格部13は、拡張状態の形状が記憶されたいわゆる自己拡張型の構成であって、径方向内側に収縮した収縮状態から径方向外側に拡張する拡張状態へと拡縮可能である。したがって、留置状態のステントグラフト10は、骨格部13の自己拡張力により総肝管H1、右肝管H2及び左肝管H3の内面を押圧する。また、留置状態のステントグラフト10は、外側から加わる外力に応じて、第1本体部11および第2本体部12a、12bに配設された骨格部13がそれぞれ変形可能である。
【0019】
骨格部13は、一例として、金属素線からなる線材をフェンス状に編み込んだ筒状に構成されている。骨格部13の線材の材料としては、例えば、Ni-Ti合金、ステンレス鋼、チタン合金などに代表される公知の金属又は金属合金等が挙げられる。なお、骨格部13は、金属以外の材料(例えば、セラミックや樹脂等)で形成されていてもよい。
また、骨格部13の線材にはX線造影性を有する合金材料を用いてもよく、あるいはX線造影性を有する合金材料で形成されたマーカ片(不図示)を線材に適宜取り付けてもよい。これらの場合、ステントグラフト10の位置を体外から確認できるようになる。
【0020】
骨格部13を構成する材料としてNi-Ti合金を用いる場合、骨格部13を拡張状態の形状に整えた後、所定の熱処理を施すことにより、拡張状態の形状を骨格部13に記憶させることができる。
【0021】
なお、骨格部13の構成は、上記に限定されるものではない。例えば、ジグザグ状に折り曲げた金属細線をらせん状に巻回させて骨格部13を形成してもよい。または、骨格部13は、ジグザグに折り返された金属細線を環状に接続したリング状の骨格片を軸方向に間隔をおいて複数配列した構造であってもよい。また、上記の各種金属からなる薄肉円筒体をレーザーカットして骨格部13を形成してもよい。
【0022】
被膜部14は、上述の流路を形成する管状の可撓性の膜体であって、骨格部13の隙間部分を閉塞するように骨格部13に取り付けられている。被膜部14は、例えば、
図1(b)に示すように、骨格部13の外周面に取り付けられる。これにより、被膜部14は、病変部位の細胞組織が骨格部13内に浸潤する事象(イングロース)を抑制する。なお、被膜部14は、骨格部13の内周面に取り付けられていてもよく、骨格部13を挟み込むように骨格部13の外周面と内周面に取り付けられてもよい。
【0023】
被膜部14を形成する材料としては、例えば、シリコーン樹脂、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂等が挙げられる。
また、骨格部13に対する被膜部14の固定方法は、例えば、ディッピングによる被膜の形成が挙げられる。もっとも、被膜部14の固定方法は、糸による縫着、接着、溶着、テープ等による貼着等であってもよい。
【0024】
次に、本実施形態における留置装置の構成例について説明する。
図3(a)は、本実施形態の留置装置1の分解図であり、
図3(b)は、本実施形態の留置装置1の組立状態を示す図である。
図3(c)は、ステントグラフト10内にインナーチューブ30を挿入した状態を示す図である。
【0025】
図3(a)に示すように、留置装置1は、管状のシース20と、シース20の内側に配置される管状のインナーチューブ30と、を備えている。
【0026】
シース20は、収縮状態のステントグラフト10を内側に収容可能である。シース20は、シース本体部21と、シース本体部21の他方側の端部に設けられるハブ22とを有している。ハブ22は、インナーチューブ30に対してシース20を固定するためのナット(不図示)や、後述の拘束紐60への操作を行う操作部材(不図示)等を有している。
【0027】
シース本体部21は、可撓性を有する材料で形成された管体である。シース本体部21の材料としては、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、及びポリ塩化ビニル系樹脂等から選択された生体適合性を有する合成樹脂(エラストマー)、これら樹脂に他の材料が混合された樹脂コンパウンド、これらの合成樹脂による多層構造体、並びに、これら合成樹脂と金属線との複合体などが挙げられる。
【0028】
インナーチューブ30は、シース20よりも長尺かつ細径の軸状部材である。インナーチューブ30は、シース20の内側に配置され、シース20に対して先端側が軸方向Axに進退可能に構成されている。
【0029】
図3(c)に示すように、インナーチューブ30は、右肝管H2に留置される第2本体部12aと、左肝管H3に留置される第2本体部12bにそれぞれ挿通するためにシース20内に一対配置される。一対のインナーチューブ30の構成はいずれも同様であるため、以下の説明では、第2本体部12aに対応するインナーチューブ30について説明し、第2本体部12bに対応するインナーチューブ30の重複説明は省略する。
【0030】
インナーチューブ30は、軸方向Axの一方側から他方側に連通する穴を有する管状体である。インナーチューブ30の穴には、肝門部HPに配設される後述のガイドワイヤ33が挿通される。インナーチューブ30の材料としては、例えば、樹脂(プラスチック及びエラストマー等)並びに金属など、適度な硬度及び柔軟性を有する種々の材料が挙げられる。
【0031】
留置装置1の一方側において、インナーチューブ30の外周とシース本体部21の内周の間に形成される空間にステントグラフト10が収容される。
図3(c)に示すように、第2本体部12aに対応するインナーチューブ30は、ステントグラフト10の第1本体部11と第2本体部12aを挿通してシース20内に配設される。同様に、第2本体部12bに対応するインナーチューブ30は、ステントグラフト10の第1本体部11と第2本体部12bを挿通してシース20内に配設される。
【0032】
また、
図3(c)に示すように、インナーチューブ30の一方側には、先端チップ31とリブ32が取り付けられている。
【0033】
先端チップ31は、インナーチューブ30の一方側(先端側)に取り付けられる筒状部材である。先端チップ31は、留置装置1を体内に挿入してステントグラフト10を留置するときに、患者の生体組織にインナーチューブ30が接触することを抑制する機能を担う。また、先端チップ31の材料としては、樹脂(プラスチック及びエラストマー等)並びに金属など、適度な硬度及び柔軟性を有する種々の材料が挙げられる。
【0034】
先端チップ31の径はインナーチューブ30よりも大径であり、先端チップ31の一方側の形状は、一方側に向けて緩やかに先細となるテーパー形状をなしている。また、先端チップ31の中心には、ガイドワイヤ33を挿通させるための穴が軸方向に沿って形成されている。
【0035】
図4は、リブ32の拡大図である。
図5は、
図4のV-V線断面図である。
図6(a)は、
図5のVIa-VIa線断面図であり、
図6(b)は、
図5のVIb-VIb線断面図である。
図7は、リブ32の加工工程を示す図である。
【0036】
リブ32は、インナーチューブ30の一方側においてステントグラフト10が保持される保持領域に形成される突起体であり、先端チップ31から他方側に間隔をあけてインナーチューブ30に取り付けられている。
図3(c)では、ステントグラフト10の保持領域に2つのリブ32が配置される例を示すが、インナーチューブ30に設けられるリブ32の数は上記に限定されない。
【0037】
リブ32は、例えば、インナーチューブ30よりも大径の筒状部材34をインナーチューブ30に外付けして構成される。筒状部材34は、突起部材の一例であり、インナーチューブ30の外周を環状に覆う。これにより、リブ32は、インナーチューブ30から径方向外周側に環状に突出する突起部を構成し、シース20に対してインナーチューブ30を軸方向に進行させるときに、インナーチューブ30に保持されたステントグラフト10に軸方向への推力を伝える機能を担う。なお、リブ32の材料としては、例えば、樹脂(プラスチック及びエラストマー等)並びに金属など、適度な硬度及び柔軟性を有する種々の材料が挙げられる。
【0038】
また、リブ32の外周において、径方向に沿った第1方向D1(
図4中、上下方向)に臨む第1面34a(
図4中、上側)と、第1面34aに対向する第2面34b(
図4中、下側)には、それぞれプレス加工で凹部35が形成されている。凹部35は、軸方向に間隔をあけて第1面34aおよび第2面34bにそれぞれ複数形成されている。
【0039】
リブ32の各々の凹部35は、いずれも径方向の内側に向けてくぼんだ溝状をなしている。凹部35の深さは、後述のようにリブ32をインナーチューブ30に係合できれば、凹部35自体がインナーチューブ30の表面に至る深さまで達する必要はない。また、各々の凹部35は、軸方向Axおよび第1方向D1と直交する第2方向D2(
図4の紙面垂直方向)にそれぞれ平行に延びている。第1面34aと第2面34bにおいて凹部35の位置は軸方向にずれており、軸方向に沿って凹部35が交互に形成されている。
なお、第1面34aと第2面34bにおける全ての凹部35の位置が、軸方向にずれて交互に形成されている必要はなく、一部が対向配置されていてもよい。
【0040】
また、リブ32は、軸方向にリブ32を貫通する開口36を有し、開口36内にインナーチューブ30が挿通される。
図6(a)に示すように、リブ32の開口36の内周は、第1方向D1において各々の凹部35の位置が径方向内周側にくぼんでインナーチューブ30に食い込んでいる。これにより、各々の凹部35の位置にインナーチューブ30とリブ32の係合部37が形成されている。
【0041】
リブ32の係合部37はインナーチューブ30に食い込んで形成されるため、リブ32の各々の係合部37は軸方向の荷重に対して高い剛性を有する。また、リブ32の係合部37は、対向する第1面34aと第2面34bの両側でそれぞれ軸方向に複数配置されている。これにより、リブ32に軸方向の荷重がかかるときには、複数の係合部37に荷重が分散するため各係合部37に応力が集中しにくくなり、リブ32の接合強度をより向上させることができる。なお、第1面34aと第2面34bで係合部37の位置は軸方向に交互にずれていることで、リブ32全体として応力が集中する箇所が軸方向にばらつくようになり、リブ32がより破損しにくくなる。
【0042】
図6(a)に示すように、リブ32の内周で第1方向D1の部位では、リブ32とインナーチューブ30の隙間が係合部37によって軸方向に仕切られる。そのため、リブ32の内周で第1方向D1の部位では、凹部35の位置を跨いで軸方向に延びる隙間は設けられていない。なお、第1方向D1において、係合部37を除いてリブ32とインナーチューブ30の部材間隔はw1に形成される。
【0043】
一方、リブ32の内周で第2方向D2に臨む部位には、インナーチューブ30との間に軸方向と直交する断面形状が略三日月状をなす隙間40がそれぞれ両側に設けられる。隙間40は、
図6(b)に示すように、それぞれ凹部35の位置を跨いで軸方向に延びるように形成される。リブ32の第2方向D2に形成される隙間40は、リブ32をインナーチューブ30に接着するときに接着剤を軸方向に導く流路として機能する。なお、隙間40の第2方向D2の最大幅w2は、第1方向D1の部材間隔w1よりも広い(w2>w1)。
【0044】
リブ32は、プレス加工で形成された係合部37のみでインナーチューブ30に接合されていてもよく、係合部37を形成した上でリブ32とインナーチューブ30が接着されてもよい。係合部37による係合と接着を併用することで、インナーチューブ30に対するリブ32の接合強度をより向上させることができる。
【0045】
また、係合部37を形成したリブ32を接着する場合、係合部37の形成により接着面積が増加するとともに、係合部37に接着剤が浸透することで接着剤のアンカー効果が向上する。そのため、係合部37を形成しない場合と比べて、本実施形態のリブ32は接着による接合強度をより向上させることができる。
【0046】
上記のリブ32の接着には、生体適合性を有する接着剤を適用できる。一例として、熱可塑性樹脂系接着剤(ウレタン樹脂系、アクリル系、シアノアクリレート系)、エラストマー系接着剤(シリコーン樹脂系、変成シリコーン樹脂系、シリル化ウレタン樹脂系)、熱硬化性樹脂系接着剤(エポキシ樹脂系)などが挙げられる。
【0047】
次に、リブ32の加工工程について説明する。
まず、芯材43を挿入したインナーチューブ30に略円筒状の筒状部材34を被せた後(
図7(a))、凹部35のパターンに対応する一対の金型42で第1方向D1の両側から筒状部材34を挟み込むプレス加工(
図7(b))が行われる。これにより、リブ32の第1面34a、第2面34bにそれぞれ凹部35が形成される。
【0048】
上記のプレス加工により、金型42の凸部42aで押圧される筒状部材34には凹部35の形状が転写される。また、筒状部材34の内周側では、金型42の凸部42aで押圧された筒状部材34がインナーチューブ30の径方向内周側に食い込み、凹部35の位置にそれぞれインナーチューブ30とリブ32の係合部37が形成される。
【0049】
また、プレス加工により、第1方向D1から金型42で押圧された筒状部材34は、軸方向と直交する断面において第1方向D1に圧縮されるように変位する。これにより、リブ32の第1方向D1において、係合部以外でのリブ32とインナーチューブ30の間隔w1はプレス加工前よりも小さくなる。
【0050】
一方、筒状部材34は、軸方向と直交する断面において第2方向D2には広がり、筒状部材34の断面形状が楕円形に近づくように変位する。これにより、リブ32の第2方向D2において、リブ32とインナーチューブ30の間隔w2はプレス加工前よりも大きな寸法となる。
【0051】
また、リブの第2方向D2には、インナーチューブ30とリブ32が接触する部位は形成されていない。そのため、リブ32の内周で第2方向D2の部位には、インナーチューブ30との間に凹部35の位置を跨いで軸方向に延びる隙間40が確保される。
【0052】
なお、インナーチューブ30の内側には芯材43が挿入されるため、インナーチューブ30はプレス加工で潰れずに形状を保持できる。芯材43は、プレス加工によるリブ32とインナーチューブ30の係合後にインナーチューブ30から引き抜かれる。
【0053】
リブ32とインナーチューブ30を接着する場合、接着剤はリブ32の第2方向D2に設けられた隙間40を介してリブ32内に導入される。隙間40はリブ32の凹部35および係合部37を跨いで軸方向に延びているため、係合部37に遮られることなく接着剤をリブ32の軸方向に流すことが容易となる。
【0054】
また、軸方向と直交する断面において、第1方向D1でのリブ32とインナーチューブ30の間隔w1は、第2方向D2でのリブ32とインナーチューブ30の隙間40の幅w2よりも狭い。そのため、第2方向D2に設けられた隙間40を流れる接着剤の一部は分岐し、毛管現象により第1面34aまたは第2面34bに向けて周方向に浸透する。これにより、接着剤をリブ32の周方向にも充填することが容易となる。以上で、リブ32の加工工程の説明を終了する。
【0055】
ここで、ステントグラフト10をインナーチューブ30に取り付ける場合、第2本体部12aは、第2本体部12aの外周に巻回される拘束紐60(
図8(b)参照)で外側から拘束され、収縮した状態で内側のインナーチューブ30に保持される。
【0056】
拘束紐60は、インナーチューブ30と並列に軸方向に延在してシース20内に配設されている。拘束紐60の他方側は、シース20内を通ってハブ22の操作部材に接続されている。なお、拘束紐60の材料としては、例えば、ナイロン繊維やフッ素繊維などの縫合糸や樹脂製の紐状部材を適用できる
【0057】
また、拘束紐60は、他方側への牽引により第2本体部12aの拘束が解除されるように巻回されている。操作部材の操作によって拘束紐60が軸方向の他方側に牽引されると、拘束紐60は第2本体部12aの外周から脱落する。これにより、第2本体部12aの径方向への拡張の規制を解除することができる。
【0058】
次に、
図8、
図9を参照しつつ、留置装置1を用いてステントグラフト10を肝門部に留置する手順を説明する。
【0059】
まず、瘤の形成された病変部位50を通過するように、総肝管H1から分枝する右肝管H2および左肝管H3にそれぞれガイドワイヤ33が配置される。そして、収縮状態のステントグラフト10をシース20内に収容した留置装置1に対して、留置装置1の一方側の端部からガイドワイヤ33を留置装置1に挿通させる。その後、留置装置1を患者の体内に導入し、
図8(a)に示すように、収縮状態のステントグラフト10をシース20内に収容した留置装置1を総肝管H1の分枝する位置まで進行させる。
【0060】
次に、
図8(b)に示すように、総肝管H1の分枝する位置にシース20を留めたまま、収縮状態の第2本体部12a、12bを保持した一対のインナーチューブ30、30を右肝管H2および左肝管H3でそれぞれ一方側(先端側)に進行させる。このとき、インナーチューブ30、30の一方側への推力は、リブ32を介して第2本体部12に伝えられ、第2本体部12はインナーチューブ30、30の動きに同期して一方側に進行する。
【0061】
次に、各々のインナーチューブ30が所定位置まで進行すると、右肝管H2側および左肝管H3側でそれぞれ拘束紐60が牽引される。すると、拘束紐60の締結部が解放されることで第2本体部12の拘束が解除され、第2本体部12の径方向への拡張の規制が解除される。これにより、
図9(a)に示すように、右肝管H2側および左肝管H3側でそれぞれ第2本体部12a、12bが径方向外側に自己拡張する。
【0062】
その後、シース20を他方側に向けて引き抜くように移動させる。すると、
図9(b)に示すように、留置装置1のシース20からステントグラフト10の第1本体部11が放出される。ステントグラフト10の第1本体部11は、シース20から外部に放出されることで径方向外側に自己拡張する。これにより、肝門部HPにステントグラフト10が留置されて病変部位50が拡張される。なお、ステントグラフト10の留置が完了した後、留置装置1およびガイドワイヤ33を他方側に移動させることで、留置装置1およびガイドワイヤ33は体内から撤去される。
【0063】
以下、本実施形態の留置装置1の効果を述べる。
本実施形態の留置装置1は、径方向に拡張可能なステントグラフト10(筒状治療具)を肝門部HP(生体管腔)内に留置する。留置装置1は、ステントグラフト10を収容可能なシース20と、ステントグラフト10を保持可能な保持領域を有し、シース20の内側にて遠位側を軸方向に沿って進退可能に構成された長尺のインナーチューブ30(軸状部材)と、保持領域でインナーチューブ30から径方向外周側に突出するように形成され、保持領域に保持されたステントグラフト10に軸方向への推力を伝えるリブ32(突起部)と、を備える。リブ32は、インナーチューブ30の外周の半周以上を覆うように配置され、インナーチューブ30に外付けされる筒状部材34(突起部材)で形成される。筒状部材34の外周で径方向に沿った第1方向D1に臨む面には、軸方向と交差方向に延びる凹部35を形成するプレス加工が施される。筒状部材34は、インナーチューブ30の径方向内周側に凹部35が食い込んでインナーチューブ30と係合する。
本実施形態では、リブ32をインナーチューブ30に食い込ませて係合部37を形成することで、インナーチューブ30に対してリブ32を高い接合強度で固定できる。また、本実施形態では、化学薬品などを用いた表面処理や大型設備などを要さずに、極性の低い材料で形成された微細な部品であるリブ32を高い接合強度で固定できるので、留置装置1の一層の小型化と製造コストの抑制を図ることができる。
【0064】
また、本実施形態では、凹部35は、筒状部材34の第1方向D1に臨む第1面34aと、第1面34aに対向する第2面34bにそれぞれ形成され、第1面34aの凹部35と第2面34bの凹部35は、軸方向に交互に形成される。
本実施形態では、対向する第1面34aと第2面34bの両側に複数設けられる係合部37に軸方向の荷重が分散するため、各係合部37に応力が集中しにくくなり、リブ32の接合強度をより向上させることができる。また、第1面34aと第2面34bで係合部37の位置が軸方向に交互にずれていることで、リブ32全体として応力が集中する箇所が軸方向にばらつくようになり、リブ32がより破損しにくくなる。
【0065】
また、本実施形態では、筒状部材34の内周で軸方向および第1方向D1と直交する第2方向D2の部位には、インナーチューブ30との間に凹部35の位置を跨いで軸方向に延びる隙間40が設けられている。筒状部材34とインナーチューブ30は、隙間40を介して導入された接着剤で接着されている。
本実施形態では、係合部37の形成により接着面積が増加するとともに、係合部37に接着剤が浸透することで接着剤のアンカー効果が向上する。そのため、接着によるリブ32の接合強度をより向上させることができる。また、軸方向に延びる隙間40を介してリブ32に接着剤を導入することで、係合部37に遮られることなく接着剤をリブ32の内部に充填することが容易となる。
【0066】
また、本実施形態では、第1方向D1での筒状部材34とインナーチューブ30の部材間隔w1は、第2方向D2における隙間40の幅w2よりも狭い。
本実施形態では、第1方向D1側の部材間のクリアランスが狭くなることで、接着剤が毛管現象により隙間40から周方向に浸透しやすくなり、接着剤をリブ32の周方向にも充填することが容易となる。
【0067】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0068】
上記実施形態では、リブ32が円筒状の筒状部材34で形成される例を説明した。しかし、リブ32は、周方向の一部が切り欠かれた断面形状の部材を適用し、インナーチューブ30の外周の半周以上を覆うように構成されていてもよい。
【0069】
また、上記実施形態において、
図10に示すように、リブ32は外周面に隙間40と連通する穴41を有していてもよい。かかる構成によれば、接着剤を注入するときに穴41から空気を抜くことができ、また穴41からも接着剤を注入することができる。これにより、リブ32内への接着剤の充填が容易となるので、接着によるリブの接合強度をより向上することができる。
【0070】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0071】
なお、上記の実施形態の開示は以下の技術的思想を包含する。
(1)径方向に拡張可能な筒状治療具を生体管腔内に留置する留置装置であって、前記筒状治療具を収容可能なシースと、前記筒状治療具を保持可能な保持領域を有し、前記シースの内側にて遠位側を軸方向に沿って進退可能に構成された長尺の軸状部材と、前記保持領域で前記軸状部材から径方向外周側に突出するように形成され、前記保持領域に保持された前記筒状治療具に前記軸方向への推力を伝える突起部と、を備え、前記突起部は、前記軸状部材の外周の半周以上を覆うように配置され、前記軸状部材に外付けされる突起部材で形成され、前記突起部材の外周で径方向に沿った第1方向に臨む面には、前記軸方向と交差方向に延びる凹部を形成するプレス加工が施され、前記突起部材は、前記軸状部材の径方向内周側に前記凹部が食い込んで前記軸状部材と係合する留置装置。
(2)前記凹部は、前記突起部材の前記第1方向に臨む第1面と、前記第1面に対向する第2面にそれぞれ形成され、前記第1面の前記凹部と前記第2面の前記凹部は、軸方向に交互に形成される上記(1)に記載の留置装置。
(3)前記突起部材の内周で前記軸方向および前記第1方向と直交する第2方向の部位には、前記軸状部材との間に前記凹部の位置を跨いで前記軸方向に延びる隙間が設けられており、前記突起部材と前記軸状部材は、前記隙間を介して導入された接着剤で接着されている上記(1)または上記(2)に記載の留置装置。
(4)前記突起部材の内周で前記第1方向の部位には、前記凹部の位置を跨いで前記軸方向に延びる隙間が設けられていない上記(3)に記載の留置装置。
(5)前記第1方向での前記突起部材と前記軸状部材の部材間隔は、前記第2方向における前記隙間の幅よりも狭い上記(3)または上記(4)に記載の留置装置。
(6)前記突起部材は、前記隙間と連通する穴を外周面に有する上記(3)から上記(5)のいずれか一項に記載の留置装置。
(7)前記筒状治療具は、近位側の本体部と、前記本体部の遠位側で分枝する第1分枝部および第2分枝部とを有し、前記留置装置は、前記本体部および前記第1分枝部に挿通された第1の軸状部材と、前記本体部および前記第2分枝部に挿通された第2の軸状部材と、を備える上記(1)から上記(6)のいずれか一項に記載の留置装置。
【符号の説明】
【0072】
1…留置装置、10…ステントグラフト、11…第1本体部、12a,12b…第2本体部、13…骨格部、14…被膜部、20…シース、30…インナーチューブ、31…先端チップ、32…リブ、33…ガイドワイヤ、34…筒状部材、34a…第1面、34b…第2面、35…凹部、36…開口、37…係合部、40…隙間、41…穴、42…金型、43…芯材